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2010年チリ地震による橋梁の被害調査報告

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2010年チリ地震による橋梁の被害調査報告
2010年チリ地震による橋梁の被害調査報告
川島
一彦1・運上
茂樹2・星隈
順一3・幸左
賢二4
1東京工業大学大学院理工学研究科土木工学専攻教授(〒152-8552
東京都目黒区大岡山2丁目12-1-M1-10)
E-mail: [email protected]
2国土交通省国土技術政策総合研究所地震災害研究官(〒305-0804 茨城県つくば市旭1)
E-mail: [email protected]
3(独)土木研究所構造物メンテナンス研究センター上席研究員(〒305-8516 茨城県つくば市南原1-6)
E-mail: [email protected]
4九州工業大学工学部建設社会工学科教授(〒804-8550 北九州市戸畑区仙水町1-1)
E-mail: [email protected]
2010年2月27日3時34分(現地時間),南米チリのコンセプションの北北東115kmのマウレ沖を震央とす
るモーメントマグニチュードMw8.8の大地震が発生した.この地震は,断層の長さが南北に450-500kmと
いう巨大地震であったことから,橋梁の被害も首都サンティアゴからコンセプションの南部地域に至るま
での広い範囲で生じた.著者らは,(社)土木学会調査団土木構造物グループとして,31箇所の46橋の被災
調査を行った.調査の結果,今回の地震による橋梁の被害の主な特徴としては,①端横桁や橋軸直角方向
への移動制限機構が省略された比較的新しいPC桁橋において上部構造の橋軸直角方向への移動に伴って
PC桁への損傷や落橋が生じたこと,②ゴム支承が桁や下部構造と結合されていない斜角の小さい橋におい
て,桁が鉛直軸周りに回転して落橋した橋があったこと,③地盤の液状化等の地盤変状も要因となって生
じたと思われる被害が見られたこと,等であることがわかった.
Key Words : 2010 Chile Earthquake,Damage Investigation,Bridges
1.
はじめに
2010年2月27日3時34分(現地時間),南米チリにおける第2の都市であるコンセプションの北北東115km
を震央(震源深さ35km)とするマグニチュード8.8の大地震が発生した.この地震は,その余震域・断層域
の長さが約700km,幅が約200kmという巨大地震であったことから,首都サンティアゴからコンセプション
の南部地域に至るまでの広い範囲で構造物,建物の被害や津波による被害が生じた.この地震により,日本
でも太平洋沿岸を中心として広く津波警報が発令され,特に東北地方沿岸では1993年北海道南西沖地震以来
17年ぶりに大津波警報が発令された.
チリは,環太平洋地震帯に位置する国であり,我が国と同様に地震の多い国である.1960年にはサンティ
アゴの南約800kmのバルデビアの西方の太平洋沖を震源とする観測史上最大のマグニチュード9.5の大地震が
発生している.その後も,チリでは,1985年のサンアントニオ沖の地震(マグニチュード7.8),1995年の
アントファガスタの地震(マグニチュード7.8)等,規模の大きい地震が生じている.
今回の地震によるチリにおける大きな地震災害を受け,(社)土木学会は,日本地震工学会,(社)地盤工学
会及び(社)日本建築学会と連携し,さらに(独)国際協力機構(JICA)の協力を得て,調査団の派遣を行っ
た.(社)土木学会調査団は,橋梁等を中心とした土木構造物グループと津波グループの2グループから構成
され,現地調査は,2010年3月28日から4月5日までの8日間実施した.
本報告は,(社)土木学会調査団のうち,著者らの土木構造物グループが現地にて調査を行った橋梁関係の
被害と,調査の際に聞き取りした情報等をとりまとめたものである.また,チリにおける橋梁の耐震設計基
準についても資料を得たので,その概要を示した.
なお,今回の調査は調査団が徒歩にてアクセスできる範囲からの被害調査であったこと,被害が広範囲に
生じており,そのため移動距離が長く調査時間が限られていたことから,橋梁に関する被害状況の全貌が網
羅できているわけではない.この点については,今後,さらに継続的に情報を入手してフォローしていく必
要がある.
2.
調査日程
(1)調査概要
表-2.1.1は,土木学会土木構造物(橋梁)グループの調査行程の概要を示したものである.土木構造物グ
ループは,平成22年3月27日(土)日本出発,4月7日(水)日本着の12日間の行程で派遣された.移動時間
を除く現地調査,関係機関訪問等は,3月28日午後~4月5日の9日間であった.首都のサンティアゴ市,コン
スチツーション市,コンセプション市等とともに,主として構造物被害が多く生じたチリを南北に縦断する
幹線道路である5号パンアメリカンハイウェイを中心に現地の被災調査を実施した.
また,チリ国の道路関係政府機関を訪問し,地震対策に関連する我が国の情報を提供するとともに,被害
情報等の収集を行った.主な訪問先は,公共事業省(MOP.CL)道路局(Direccion de Vialidad)であり,
Mario Fernandez道路局長を表敬訪問するとともに,道路局エンジニヤリング部・構造プロジェクト課
(Gustavo Silva氏,Claudio Rivera Osses氏,Mauricio Guzman氏他),公共事業民間委託コーディネート局・
橋梁担当部門(Alejandro Molina Aguirre氏他)を訪問し,被災情報の収集や技術情報に関する議論を行った.
図-2.1.1は,チリ国公共事業省の組織図を示したものであり,このうち道路局と民間委託コーディネート局
を訪問した.
現地調査に際しては,公共事業省道路局エンジニヤリング部から2名のエンジニア(Mauricio Guzman氏,
Sandra Acchurra氏)が同行し,現地で被災状況に関する合同調査を行った.調査終了後の4月5日午前には,
公共事業省道路局に対して土木構造物グループの調査結果の報告会および意見交換会を開催した.
なお,チリ国の公共事業省道路局へのコンタクトに際しては,土木学会古木守靖専務理事より,国際道路
連盟(IRF)の国際ビジネス開発部のGabriel Sanchez副代表に依頼いただき,公共事業省道路局の国際担当コ
ーディネーターのJose Miguel Ortega Julio氏を紹介いただいた.その後土木構造物グループの川島リーダーと
Ortega氏との調整により,公共事業省の道路局と民間委託局への訪問が実現するとともに,チリ大学
(Fernando Yanez技術研究所所長)も訪問することとなった.
土木構造物グループの通訳は,チリ国に30年在住の通訳古川一衛氏に依頼した.古川氏は,平成3年の
「チリ国全国橋梁補修整備計画事前調査」(団長:東京工業大学三木千寿教授)のプロジェクトの際に通訳
を担当されており,当時のプロジェクトを担当された(株)長大に勤めておられた安井淳治氏に紹介いただい
た.古川氏には,早朝から夜までの1日中にわたり,技術的な分野に限らず,効果的かつ広範囲の通訳をい
ただくとともに,上記の橋梁点検プロジェクトのチリ側の担当者であった道路局橋梁課のManuel Caracedo氏
も紹介いただいた.
また,4月4日夕方には,米国運輸省連邦道路庁(FHWA)から派遣されている調査チーム(リーダー:
Phil Yen博士)との情報交換会議を開催し,日本側調査団の調査結果の紹介と被害に関する議論を行った.
写真-2.1.1~3は,土木構造物グループの現地の調査の状況を示したものである.
日
表-2.1.1 土木学会土木構造物グループの調査行程・機関訪問等の概要
行
程
概
要
時
3月
27 日(土)
成田発
28 日(日)
午前:サンティアゴ着
午後:サンティアゴ市内の落橋現場の調査
29 日(月)
米国ダラス経由
午前:・JICA サンティアゴ事務所訪問
・日本大使館表敬訪問
午 後 : ・ 公 共 事 業 省 ( MOP.CL ) 道 路 局
(Direccion de Vialidad)訪問
・道路局長:Mario
問
Fernandez 氏表敬訪
・道路局エンジニヤリング部・構造プロジ
ェクト課訪問
Gustavo Silva 氏(課長)
Claudio Rivera Osses 氏(エンジニア)
Mauricio Guzman 氏(エンジニア)他
・道路局橋梁課 Manuel Caracedo 氏
落橋箇所等4箇所を調査
・合同調査団団長・幹事,グループリーダーが訪問
・土木学会古木守靖専務理事より紹介いただいた公共
事業省の国際担当 Jose Miguel Ortega 氏のアレンジに
よる
・局長に調査の目的説明,道路橋示方書,道路震災対
策便覧,兵庫県南部地震被害写真集を提供
・局長からは訪問の歓迎,被害の総括説明
・橋梁被害およびチリの技術部門における被害への対
応状況の概要説明
(参考:チリにおける「エンジニア」は,その分野の
高度な技術資格)
30 日(火)
31 日(水)
4月
1日(木)
午前:・公共事業省・公共事業民間委託コーデ
ィネート局・橋梁担当部門訪問 Alejandro Molina Aguirre 氏
午後:・チリ大学訪問,技術研究所訪問,施設
紹介 Fernando Yanez 所長
現地調査
サンティアゴ → タルカ(サンティアゴから
南約 250km)(5号パンアメリカンハイウェイ
の被害を中心に調査)
現地調査
タルカ → コンスチツーション(タルカから
西に約 100km) → コンセプション(タルカ
から南に約 250km)
・管理施設の被害概要紹介と復旧対応に関する説明
・チリでは,高速道路,一般道路,病院,空港,港,
刑務所などの一部を民間委託(PFI のような形式,
1995 年頃から)
・道路・橋梁で今回の地震で重大な被害が相対的に多
かったのは民間委託された施設との説明
・Jose Miguel Ortega 氏のアレンジによるチリ大学の訪
問
・MOP.CL から Muricio Guzman 氏と Sandra Achurra 氏
(2名ともエンジニア)が同行し,合同調査
・コンスチチューションにおいて被災により通行規制
をしている橋があり,その対応について日本側グル
ープの意見がほしいという依頼
・重量規制の強化や仮支持が望ましいことをコメント
・同行の Guzman 氏よりサンティアゴの MOP 本部に連
絡をとり,再度の詳細点検の実施,規制強化をする
対応
・その後タルカに戻り,5号パンアメリカンハイウェ
イを中心に大被害箇所の調査を継続
2日(金)
現地調査
コンセプション市内 → アラウコ(コンセプ
ションから南に約 100km)
・ビオビオ川周辺の橋梁の調査
・旧ビオビオ橋は,以前 JICA の橋梁点検プロジェクト
で撤去が望ましいと評価された橋(その後人道橋と
して活用),今回の地震で落橋.新橋の架替計画が
あり,ボーリング調査を実施中
・振動と地盤の変状による橋脚のせん断破壊,基礎の
変位,落橋被害あり
3日(土)
現地調査
コンセプション
500km)に戻る
・コンセプションの北側コエレムにおいてイタタ川を
渡る橋が通行規制中.対応方法で日本側グループの
意見を聞きたいという依頼あり
・重量規制(通行止め)の強化,仮支持が望ましいこ
とをコメント
・その後サンティアゴに移動
4日(日)
→
サンティアゴ(約
現地調査
サンティアゴ → サンアントニオ(サンティ
アゴから西に約 100km,西海岸)
夕方:米国運輸省 FHWA チームと情報交換会
議(リーダー:Phil
・サンアントニオにおいて大規模河川にかかる通行規
制中の損傷した橋を調査
・日本側の被災調査情報を提供
Yen 博士(UJNR 米
側部会委員,作業部会 G 交通システム部
会長),他5名)
5日(月)
午前:MOP.CL に調査結果の報告,意見交換会
を開催
午後:カトリカ大学で合同調査団のセミナー
(カトリカ大学,4学会,JICA の主催)
夜:日本へサンティアゴを出発
6日(火)
7日(水)
ダラス経由
成田着
・川島リーダーから全体説明,グループの他の3名か
ら調査コメント,日本での基準紹介,今回の被害が
多かった斜橋の解析例等を紹介.エンジニヤリング
部門の約 20 名が参加.意見交換を約3時間半実施
(先方からは日本の橋の構造の考え方に対する質問
が多数あり,対応)
・日本側,チリ側から地震動,地盤,橋梁,津波,各
分野の発表
・約 300 人の聴講者,報道関係者多数参加
写真-2.1.1 土木学会調査団構造物グループ4名と MOP エンジニア2名との共同現地調査(1)
写真-2.1.2 土木学会調査団構造物グルー
プ4名と MOP エンジニア
2名との共同現地調査(2)
写真-2.1.3 4 月 4 日米国運輸省 FHWA チーム
との合同会議(左上がリーダーの Phil Yen 博士)
大臣
公共事業民間委託
コーディネート局
道路局
(a)チリ国公共事業省(MOP.CL)組織図
エンジニヤリング部
橋梁課
(b) 道路局の組織図
図-2.1.1 チリ国公共事業省と道路局の組織図1)と土木構造物グループの訪問先
(2)調査橋梁
土木構造物グループは,主にサンティアゴからコンセプション間の合計31箇所の46橋の調査を実施した.
図-2.2.1は,調査橋梁リストとその位置を示したものである.サンティアゴ市内,5号パンアメリカンハ
イウェイ,コンスチチューション,サンアントニオ,コンセプション,アラウコに位置する被害橋である.
なお,橋梁の番号は,5章の節番号に一致させているため,当該橋梁の被害状況等を確認する際は同一番号
の節を参照いただきたい.
なお,公共事業省のHPにおいて,図-2.2.2および図-2.2.3に示すように道路の被災情報,通行規制情報が
公開されており,この情報に基づいて調査を進めた.ここで,通行規制の凡例であるが,青丸は落橋箇所,
赤丸は通行止め,黄色は注意走行となっている.
0
50
100
150
200(km)
サンティアゴ近郊
1.
2.
3.
4.
5.
バルパライソ
●
サンアントニオ
31.Lo Gallardo
サンティアゴ
●
サンアントニオ
●
●
震源域
ランカグア
パンアメリカンハイウェー(高速5号線)
6. Maipo
7. Hospital
8. Pedestrian bridge
9. Augostura
10. Graneros
11. Las Mercedes
12. Rio Claro
13. Cardenal Raúl Silva Henríquez
14. Longavi
15. Copihue
16. Parral
17. Perquilauquen
18. Chillan(Gerbar hinge)
●
クリコ
コンスティツーシオン●
●
タルカ
震央 M8.8
(マウレ沖)
コンセプシオン
●
アラウコ
●
アラウコ
24. Raqui I
25. Raqui II
26. Tubul
●
Miraflores
Lo Echeveres
Americo Vespusio
San Martin
Emanuel Antonio
チジャン
コンセプシオン北部
コンセプシオン
19.
20.
21.
22.
23.
Juan Pablo II
Llacolen
Bio Bio
La Mochita
Laraquete
図-2.2.1 調査橋梁リストとその位置
27.
28.
29.
30.
Santa Isabela
Las Ballenas
Puerto de Lirquen
Itata
図-2.2.2 チリ国公共事業省の HP で公開されていた通行規制情報(サンティアゴ周辺)1)
図-2.2.3 チリ国公共事業省の HP で公開されていた通行規制情報
(タルカ~コンセプション)1)
3.
2010年チリ地震の概要
(1)チリ共和国(Republic of Chile)の概要2)
チリ共和国は,地形的には,図-3.1.1に示すように,西側を太平洋,東側をアンデス山脈に挟まれ,南北
距離が4,000km超,東西距離は平均約175kmという南北に細長い国土を有している.面積は,日本の約2倍で,
国土の80%が山岳部とされている.人口約1700万人で,日本の約1/7である.首都は,丁度中央部に位置す
るサンティアゴ市である.サンティアゴ首都圏の人口は約600万人とされている.言語はスペイン語で,主
要産業は,鉱業,商業,農業,農産加工業である.
(2)地震の概要
2010年2月27日午前3時34分頃(現地夏時間),南米チリ共和国のマウレ沖を震央とするモーメントマグニ
チュード8.8(USGSおよび気象庁による)の巨大地震が発生した.マウレ沖の震源は,首都サンティアゴ市か
ら南西に約350km,コンセプション市から北に約100kmの位置である.
図-3.2.1は,USGSから発表されている余震の発生状況を示したものであるが,余震域・断層域は,長さ約
700km,幅約200kmと非常に広範囲に渡っている.東海・東南海・南海地震の連動発生時の断層長さが延長約
700kmに及ぶとされており,それと同様の規模となる.
チリ国内務省によれば,5月15日時点での死者は521人,行方不明者は56人と報告されている4) .
チリ国は,我が国と同じ環太平洋地震帯に位置し,過去に巨大地震が多数発生している.図-3.2.2 は,過去に
発生した地震とその断層位置の関係を示したものである.観測史上最大地震は,1960 年のチリ地震で,マ
グニチュード 9.5 である.当時,我が国でも本地震により発生した津波により甚大な被害を受けている.
図-3.2.1
図 3.1.1
チリ共和国3)
チリ地震の余震の発生状況3)
図-3.2.2 チリ地震の余震の発生状況5)
(3)チリ地震の余震の発生状況4)
チリ大学によって,全国 60 箇所で強震観測が実施されている6).図-3.3.1 は,観測された強震記録の最大
水平加速度を示したものである.断層に接する範囲では,0.2g~0.65g程度の最大加速度となっており,沿
岸の断層に近い側の方が全般的に大きい.なお,図中の1,2,3という数値は,チリの建築物の耐震基準
NCh433 における地震地域区分を示したものである.
同様に,図-3.3.2 は,サンティアゴ市内で観測された強震記録の最大水平加速度を示したものである.サ
ンティアゴ市は海岸からは 100km 程度離れているが,0.5gを超える大きい最大加速度も観測されている.
また,場所によって大きく相違しており,箇所別に地盤の影響を大きく受けたことが推測される.なお,道
路橋の落橋が3箇所で生じたが,こうした大被害と地震動の強さとの関係については,ローカルな地盤の影
響も想定されるが,明確には確認できていない.
図-3.3.3~図-3.3.5 は,代表的な観測記録として,サンティアゴ市内のチリ大学観測点,同じくサンティア
ゴ市内のマイプ観測点,サンティアゴから西方のビナデルマール観測点の3つを示したものである6).
時刻歴波形をみてみると,大規模地震の特徴である継続時間が相対的に長いことがわかる.また,加速度
応答スペクトルを見ていると,震源からの距離も遠いこともあり,平成7年の兵庫県南部地震の記録等と比
較すると低めであるが,特定の固有周期で,チリの耐震基準のスペクトルを超える強い地震動が観測されて
いる箇所もある.
ビナデルマール
0.33~0.35g
サンティアゴ
0.17~0.56g
★
コンセプション
0.65g
(東工大翠川教授による)
クリコ
0.47g
バルディビア
0.14g
図-3.3.1
観測された強震記録の最大水平加速度6)
サンティアゴ市内での
橋梁の落橋被害箇所
0.17g
0.56g
0.30g
0.24g
0.27g
図-3.3.2
サンチャゴ市内で観測された強震記録の最大水平加速度6)と橋梁の落橋以外箇所
(Google による地図上に加筆)
NS:0.165g
EW:0.163g
UD:0.138g
時間(秒)
(a)加速度時刻歴
チリ耐震基準NCh433
EW
NS
UD
固有周期(秒)(
図-3.3.3
(b)加速度応答スペクトル
強震記録の加速度波形データと加速度応答スペクトル(1)6)
(サンティアゴ市チリ大学観測点)
最大加速度(g)
NS:0.562g
EW:0.478g
UD:0.24g
時間( 秒)
http://www.terremotosuchile.cl/
(a)加速度時刻歴
チリ耐震基準NCh433
NS
EW
UD
http://www.terremotosuchile.cl
図-3.3.4
固有周期(秒)
(b)加速度応答スペクトル
強震記録の加速度波形データと加速度応答スペクトル(2)6)
(サンティアゴ市マイプ観測点)
最大加速度(g)
NS:0.351g
EW:0.338g
UD:0.261g
時間(秒) 秒)
http://www.terremotosuchile.cl/
(a)加速度時刻歴
ビナデルマール観測点
EW
NS
UD
http://www.terremotosuchile.cl/
図-3.3.5
固有周期(秒)
(b)加速度応答スペクトル
強震記録の加速度波形データと加速度応答スペクトル(3)6)
(ビナデルマール観測点)
4.
チリにおける橋梁の耐震設計法の概要
(1)概要
今回の地震による橋梁の被害を調査する上で,チリに
おける耐震設計基準を把握することが重要である.文献
調査によると,1970 年の”A Wold List of Seismic Regulations (1970)”には,チリにおける設計水平震度としては
0.04~0.15 程度の値が用いられているようである7).詳
細な耐震設計基準の変遷までは明確になっていないが,
現在,チリの道路橋の設計に対して適用されているのは,
図-4.1.1 に示す MANUAL DE CARRETERAS(英語では
MANUAL OF HIGHWAYS)の 2008 年 3 月版8)である.
このマニュアルは全部で 9 巻から構成されており,その
うち第 3 巻に設計手法に関する事項が示されている.橋
梁関係の設計については第 3 巻 10 章に,耐震設計につ
いては同章の第 4 節に規定がされているという構成であ
る.
本章では,MANUAL DE CARRETERAS の第 3 巻第 10
章第 4 節に規定されている橋梁の耐震設計に関する事項
について概説する.
(2)耐震設計で考慮する地盤面位置での水平加速度
橋梁の耐震設計にあたっては,50年間の超過確率が
10%(再現期間としてはおよそ475年)の地震動が考慮
されており,地盤面位置での水平加速度,水平震度とし
ては,表-4.2.1の値が用いられている.ここで,チリに
おけるゾーンの区分は地震リスクに応じて3つに設定さ
れており,図-4.2.1に示すように,プレート境界のある
海岸側に近いほど地震リスクを高く評価している.なお,
首都サンティアゴはゾーン2,コンセプションはゾーン
3となる.
表-4.2.1
ゾーンの区分
1
2
3
図-4.1.1 道路に関するチリの技術基準書8)
地盤面位置で考慮する水平加速度と水平震度
水平加速度 A0
0.2g
0.3g
0.4g
水平震度 A0’
0.2
0.3
0.4
(3)設計水平震度の評価手法
橋に作用させる設計水平震度は,表-4.2.1に示される地盤面位置での水平加速度に各種の補正係数を考慮
することにより算定されるが,その算出方法については橋の構造形式に応じて3通りの規定がなされている.
①単純な構造の橋
橋の径間数が1径間または2径間橋であり,かつ1つの径間長が70m未満の橋で,洗掘を考慮した設計上
の地盤面から上部構造までの高さが12m未満の橋については,設計水平震度は,地盤種別と重要度に応じて,
式(4.3.1)により算出される.
K h = K1 ⋅ S ⋅
A0
2g
≥ 0.10
(4.3.1)
ここで, K1 :橋の重要度補正係数で,重要度クラスⅠの橋は1.0,重要度クラスⅡの橋は0.8
S :地盤種別補正係数で,Ⅰ種で0.9,Ⅱ種で1.0,Ⅲ種で1.2,Ⅳ種で1.3
A0 :図-4.2.1のゾーン区分に応じて設定される表-4.2.1の水平加速度
式(4.3.1)によれば,地震時の挙動が単純な橋に対する設計水平震度は0.10~0.26の範囲となる.
図-4.2.1
チリにおける耐震設計に用いる地震リスクのゾーン区分(チリ中部の例)8)
②固有周期の影響を補正して設計水平震度を算出する橋
橋の1つの径間長が70m未満で,洗掘を考慮した設計上の地盤面から上部構造までの高さが25m未満の橋
で,①の条件に該当しない橋については,設計水平震度は,地盤種別と重要度に加え,固有周期の影響を考
慮して式(4.3.2)により算出される.
A0
g
K 1 ⋅ K 2 S ⋅ A0
K h = 1.5 ⋅ K 1 ⋅ S ⋅
Kh =
2
g Tn 3
Tn ≤ T1
T1 < Tn
(4.3.2-1)
(4.3.2-2)
ここで, K 1 :橋の重要度補正係数で,重要度クラスⅠの橋は 1.0,重要度クラスⅡの橋は 0.8
T1 , K 2 :地盤種別毎に定められる表-4.3.1に示す値
表-4.3.1
地盤種別毎に定められる値
地盤種別
T1
K2
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
0.2
0.3
0.7
1.10
0.513
0.627
1.182
1.598
S :地盤種別補正係数で,Ⅰ種で0.9,Ⅱ種で1.0,Ⅲ種で1.2,Ⅳ種で1.3
A0 :図-4.2.1のゾーン区分に応じて設定される表-4.2.1の水平加速度
Tn :橋の固有周期
式(4.3.2)により,ゾーン3の地域に立地する重要度
クラスⅠの橋に対する設計水平震度を求めると図4.3.1のようになる.これより,例えば地盤が軟弱なⅣ
種地盤で見てみると,周期が1秒付近までは設計水平
震度が0.78である.日本の道路橋の耐震設計で考慮し
ているレベル2地震動ほどの大きさではないものの,
チリにおいても比較的大きな設計水平震度を見込んで
いるといえる.
③高次モードの影響を考慮する橋
橋の1つの径間長が70m未満で,洗掘を考慮した設
計上の地盤面から上部構造までの高さが50m未満の橋
で,①又は②の条件に該当しない橋については,応答
スペクトル法により耐震解析を行うことが規定されて
おり,その際に考慮する設計地震動(加速度応答スペ
クトル)は,式(4.3.3)により与えられる.
図-4.3.1 固有周期特性を考慮した設計水平震度
(ゾーン3の重要度クラスⅠの橋)
S a (Tm ) = 1.5 ⋅ K 1 ⋅ S ⋅ A0
S a (Tm ) =
K 1 ⋅ K 2 S ⋅ A0
2
Tn 3
Tm ≤ T1
(4.3.3-1)
T1 < Tm
(4.3.3-2)
ここで, K 1 :橋の重要度補正係数で,重要度クラスⅠの橋は1.0,重要度クラスⅡの橋は0.8
T1 , K 2 :地盤種別毎に定められる表4.3.1に示す値
S :地盤種別補正係数で,Ⅰ種で0.9,Ⅱ種で1.0,Ⅲ種で1.2,Ⅳ種で1.3
A0 :図-4.2.1のゾーン区分に応じて設定される表-4.2.1の水平加速度
Tm :橋のm次の固有周期
(4)荷重低減係数
地震時に橋を構成する部材に塑性化が生じることを考慮した耐震設計においては,部材が弾性応答すると
みなして算出される地震力を,当該部材に許容できる塑性変形レベルに応じて低減させる.これは荷重ベー
ス設計と呼ばれ,橋脚の塑性変形性能を考慮した耐震設計ではよく使われる考え方である.チリの耐震設計
においてもこの考え方が適用されており,4.3に示した設計水平震度に基づいて算出される個々の部材に
作用する力を荷重低減係数Rで除して設計地震力を算出している.
このような荷重ベース設計で重要なのは,弾性応答するとみなして算出される地震力をどこまで低減させ
るかという点であり,すなわち各部材の設計に対応する荷重低減係数(Force Reduction Factor)の設定の考
え方である.表-4.4.1は,チリの道路橋の耐震設計における荷重低減係数を示したものである.基本的には
米国のAASHTOの基準と同じような考え方ではあるが,特徴的なのは,同一部材であっても橋軸方向と橋軸
直角方向で異なる荷重低減係数を設定していること,基礎に対しては塑性化を考慮しない設計の考え方にな
っていること,部材接合部に対しても荷重低減をさせずに力で抵抗できるようになっている.このような考
え方はキャパシティデザインの思想であり,比較的新しい耐震設計の考え方が取り入れられていると言える.
なお,4.3の②に該当する固有周期がT1以下の橋において,荷重低減係数が3の部材に対する耐震設計
では,設計地震力は式(4.3.2-1)を3で除した値となり,これは4.3の①に該当する地震時の挙動が非常に単
純な橋に対する設計地震力と等価となる.
表-4.4.1
部
材
荷重低減係数 R
橋軸方向に対する
橋軸直角方向に対
荷重低減係数
する荷重低減係数
鉛直部材
3
3
3
3
2
3
4
2
1
1
1
1
1
1
1
1
0.8
1
0.8
1
壁
基礎に支持された単柱
基礎に支持されたラーメン柱
傾斜柱
基礎(※)
直接基礎
斜杭基礎
組杭基礎
ケーソン基礎
接合部
伸縮継手
せん断キー
※基礎に対する地震力は,柱が塑性化する際に生じる時の最大の力として設計してよい.この
ようにして算出される地震力は,一般には,荷重低減係数 R を 1 として求めた地震力よりも
小さくなる.
(5)けたかかり長
今回のチリ地震による橋梁の被害には,後述するように,斜橋が回転して落橋したものや,液状化等の地
盤変動によって落橋したものが見られた.我が国では,新潟地震や兵庫県南部地震等の震災経験を踏まえ,
けたかかり長の規定が見直されてきた歴史があるが,そのような視点からも,チリの耐震設計基準において
けたかかり長の規定がどのようになっているかを把握しておくことは重要である.
チリの耐震設計基準では,けたかかり長の最小値規定は,橋の立地(地震危険度),重要度,基礎の洗掘
に対する危険度によって次の2通りの評価式が示されている.
・地震応答カテゴリーがaまたはbの橋
(
N = (203 + 1.67 ⋅ L + 6.66 ⋅ H ) ⋅ 1 + 0.000125 ⋅ α 2
・地震応答カテゴリーがcまたはdの橋
(
N = (305 + 2.5 ⋅ L + 10 ⋅ H ) ⋅ 1 + 0.000125 ⋅ α 2
ここで, N :けたかかり長の最小値 (mm)
L :橋軸方向の桁長 (m)
H :橋脚の高さ (m)
α
) [mm]
) [mm]
(4.5.1)
(4.5.2)
:斜角 (°) 直橋の場合は 0°
また,地震応答カテゴリーは橋の立地(地震危険度),重要度,基礎の洗掘に対する危険度によって表4.5.1のようにa~dまでの4段階で評価される.すなわち,地震応答カテゴリーdと評価されるほど,地震
による影響のリスクが高く評価されるようになっている.
式(4.5.1)や(4.5.2)の式形自体は,基本的に米国の2007年版AASHTOの規定と同じであり,AASHTOの考え
方を踏襲して策定されたものと想定される.ただし,地震応答カテゴリーという指標の中に洗掘の影響を取
り入れているのは特徴的である.チリでは,アンデス山脈から太平洋に向けての距離が短いという地形のた
め,急流な河川が多く,河川を渡河する橋においては,耐震対策とともに,基礎の洗掘対策が重要となって
いる.耐震設計における基礎の洗掘に対するリスクは3段階に評価されている.すなわち,再現期間25年の
洗掘に対する再現期間100年の洗掘の割合を求め,その値が0%の場合にはリスクのランクは“0”,0%より
も大きく75%以下の場合にはリスクのランクは“1”,75%よりも大きい場合にはリスクのランクは“2”
と評価される.
ここで,地震応答カテゴリーがdとなる支間長30m,橋脚高さ10mの直橋の場合でけたかかり長の最小値
を試算してみると,式(4.5.2)により480mmと計算される.一方,日本の道路橋示方書に基づいてけたかかり
長の最小値を計算すると850mmとなり,これはチリ基準の1.77倍に相当することになる.
表-4.5.1
ゾーン
区分
水平加速度
1
0.20g
2
0.30g
3
0.40g
A0
地震応答カテゴリーの設定
基礎の洗掘に対
するリスク
0
1
2
0
1
2
0
1
2
地震応答カテゴリー
重要度Ⅰ
重要度Ⅱ
a
b
b
b
c
d
c
d
d
a
a
b
a
b
c
b
c
d
(6)その他構造部位等の設計に関する事項
前節までに示した以外の事項として,耐震設計に係る規定として記述しておくべき事項を下記に示す.
・柱部材,柱接合部,直角方向のストッパー(切り株構造)等のコンクリート部材の設計に関しては,基
本的にAASHTOの基準に準拠することが規定されている.
・ゾーン3の地区においては,水平加速度とともに大きな鉛直加速度に対して十分な配慮をするために,
橋軸方向に配置される桁は横桁によって結合することが規定されている.
・桁と橋脚を結ぶ定着鉄筋はの設計では,桁の自重相当の荷重を除いた状態で鉛直震度 を上向きに作用
させる.また,直径22mm以上,グレード280~420の鋼材を用いる.
・直角方向への上部構造の過大な変位を抑えるために,切り株構造や突起構造によるストッパー機構が設
けられる.その場合,切り株や突起の高さは30cm以上とする.また,桁との間には5cmの遊間を確保する.
・隣接桁間の遊間は,設計で考慮している支承の変形が確保できるように次式により設計す
A0
+ S1 + S 2 [cm]
g
ここで, S j :隣接桁間の遊間 (cm)
S j ≥ 6.25 ⋅
(4.6.1)
S1 , S 2 :隣接桁を支持しているそれぞれの支承の地震応答変位 (cm)
・免震支承を装着した橋の設計は,1999 年に AASHTO から出されている”Guide Specifications for
Seismic Isolation Design”の基準に基づくことが規定されている.
5.
橋梁の現地被害調査結果
(1) 高速環状線Americo Vespucio/Av. Mira Flores立体交差橋
本橋は,サンティアゴ市内の高速環状線Americo Vespusioを形成する道路の一部であり,空港に近い北西
部のRenca地域においてMira Flores通りを立体交差する橋梁である.同じ構造を有するそれぞれ3車線の上
り下り線2橋が並列して建設されていた.建設年次の情報はないが,比較的新しい構造と推測される.
調査時には,すでに上部構造は撤去されており,橋台と橋脚のみが残された状態となっていた.現地で確
認できた情報並びにチリ公共事業省(MOP)道路局(Direccion de Vialidad)によると,本橋は,床版部は
連続構造となっている3径間単純PCI桁橋である.現地計測によると,支間長は,22.5m+28m+22.5mであ
る.上部構造は,PCI5主桁からなり,桁端部に端横桁がない構造である.斜角は,現地計測によると約77度
であった.橋脚は,直径約90cmの円形断面鉄筋コンクリート(RC)柱5本をキャップビームでつないだRCマ
ルチカラム(多柱式)構造である.橋台は,RC逆T式である.支承としては,PCI桁下にゴムパッド支承を有し,
各PCI桁の横にはこれを固定するための鋼製ブラケットが設定されていた.基礎については確認できなかった
が,チリ基準によると,フーチングを有する直接基礎,あるいは,フーチングを有する杭基礎が標準となっ
ている.橋台部における桁かかり長は,現地計測によると約50cmであった.立体交差の橋梁部までのアプロー
チ部は,垂直擁壁を有する補強土壁構造の盛土となっている.
地震により,床版で連続化されている3径間の橋桁全体が橋軸直角方向に回転し,橋台位置の両桁端部で
落下あるいは一部の主桁が落下した.端支間部の落下によって,中間部の連続床版の損傷も生じた.支承部に
ついては,PCI桁を固定する鋼製ブラケットは,落下した回転変位側では喪失し,回転変位と反対側は残置
のままとなっていた.このことからも,橋桁が一方向に大きく回転して落下したことが裏付けられる.
PCI桁を固定する鋼製ブラケットは,アンカーボルトによってキャップビームに固定されていたが,ボル
トの変形,あるいは橋脚キャップビーム部のボルト固定部のコンクリートの損傷によって破壊している.本
ブラケットの機能については明確ではないが,地震の水平抵抗や鉛直力を想定したものではないとされてお
り,桁の浮き上がりを防止するためのものらしい.
RC橋脚については,基部周辺で水平ひびわれが数本確認されたが,曲げ変形を生じているものの損傷自体
は顕著なものとはなっていない.また橋脚天橋では,斜角を有する構造のため,ブラケットの固定アンカー
ボルトの縁端距離が相対的に小さくなっており,縁端部のコンクリートの欠け落ちが顕著に確認された.
橋台については,躯体壁については特に損傷は確認されなかった.側部に主桁の直角方向変位に抵抗する
コンクリート壁が存在したが,これは橋桁の回転変位,落下によって回転方向の壁のみが破壊されていた.
なお,アプローチ部の盛土構造については,路面は確認できていないが,側面部の擁壁については顕著な
被害は確認されなかった.
写真-5.1.1
Mira Flores 立体交差橋の落橋
写真-5.1.2
橋脚基部の水平ひびわれ
写真-5.1.3
写真-5.1.5
橋脚天橋のブラケットの破壊に
よるコンクリートの欠け落ち
写真-5.1.4
橋台部における桁の回転の痕跡と
落下に伴うコンクリートの欠け落ち
橋台部における桁の回転の痕跡と
落下に伴うコンクリートの欠け落ち
(2) Av. Americo Vespucio / Av. Lo Echeveres立体交差橋
本橋は,環状線Av. Americo VespucioがAv. Lo Echeveresとの交差部を跨ぐ高架橋(写真-5.2.1)であり,
サンティアゴ国際空港の東約3kmに位置する.橋梁形式は,図-5.2.1(a)に示すように,上下線分離の3径間
単純プレテンPC桁橋で,床版は連続構造となっている.現地で計測したところ,橋長はおよそ87m,支間割
はおよそ26.5m+34m+26.5m,1つの橋台幅はおよそ13mであった.本橋は,目視でおよそ60~70度程度
の斜角を有している.橋脚は5柱式ラーメン橋脚形式であり,柱は直径約1mの円柱,柱間隔は約3mである.
支承はゴムパッドが使用されていた.
現地調査に行った日においては,環状線内回り側の上部構造は既に撤去されていた状態であったが,外回
り側の上部構造は桁端部を支保工により支持することにより応急復旧した状態で供用されていた.地震後の
写真情報(写真-5.2.2)と現地の状況から,内回り側の桁は,図-5.2.1(b)に示すように,両橋台側の2径間は
落下,中央の1径間は片方の桁端が橋脚にのった状態で他端が落下していたものと考えられる.
本橋においては,5つのPC桁の全ての桁端部に,写真-5.2.3に示すような鋼製のブラケットが取り付け
られており,それらは橋脚のはり部にアンカーボルト2本で固定されていた.このブラケットは,橋軸や橋
軸直角方向の移動制限装置ではなく,桁の浮き上がりを防止するためのものらしい.応急復旧によって供用
していた外回り側のブラケットを調査すると,写真-5.2.4に示すように,桁が鈍角側から鋭角側の方向に移
動するとともに,ブラケットが大きく抜けだし,曲がっている状態となっていた.特に,鋭角外側の桁に設
置されたブラケットのアンカーボルトは,その定着部位となっているラーメン橋脚はり端部のコンクリート
において剥落が生じていた.
また,橋台も,写真-5.2.5に示すように,鈍角側のウィングに損傷が生じていないのに対して,鋭角側の
ウィングが損傷していた.ただし,橋台のパラペット側については桁との衝突痕はなかった.桁の落下には
までは至らなかった外回り側の橋台の損傷状況を見ると,写真-5.2.6~2.8からもわかるように,桁が鈍角側
の方に移動し,ウィングの部分と衝突している状況であることが確認された.一方,橋脚の柱部には,写真
-5.2.9のように,両車線側ともに損傷は生じてなく,周辺地盤の変状もなかった.
このような外回り側の橋の被害状況と地震後の写真情報から推測すると,落橋した内回り側の橋は,地震
によっては桁が斜角鋭角側の方に移動し,鋼製のブラケットに水平力が作用した結果,その取り付け用のア
ンカーボルトが抜けだして曲がり,水平力に対して抵抗できないまま桁がけたかかり長から外れ,桁が鉛直
軸周りに回転するようにして落下したのではないかと考えられる.また,ブラケットのアンカーボルトは橋
軸方向に並んで2本設置されている構造であったため,橋軸直角方向に対する水平抵抗力は小さく,結果と
して橋脚に伝達される地震力は小さかったものと想定される.
なお,本橋については,落下した内回り線については桁を撤去し,また,落下しなかった外回り線につい
ては,写真-5.2.6や写真-5.2.10に示すように,桁支点部を支保工により応急支持した状態で,桁下の交差点機
能を確保している状態であった.
写真-5.2.1 Lo Echeveres 立体交差橋の全景
(手前が落橋した内回り線,奥が外回り線)
写真-5.2.2
地震後の落橋状況(Web より)
Av. Americo Vespusio
約13m
外回り線
A v.
r
eve
Ech
Lo
es
内回り線
Av. Americo Vespusio
約26.5m
目視で
60~70°
程度
約34m
約26.5m
(a)構造の概要
(b)想定される内回り線側の落橋状況
図-5.2.1 Lo Echeveres 交差橋の構造と落橋状況
写真-5.2.3 鋼製ブラケットの状況(内回り)
写真-5.2.4 鋼製ブラケットの損傷(外回り)
写真-5.2.5 内回り線の橋台の損傷
(写真右の鋭角側のウィングが損傷)
写真-5.2.7
外回り線の橋台の鈍角側桁の移動
写真-5.2.9
損傷が生じていない橋脚
写真-5.2.6 外回り線の橋台の状況
(写真手前が鈍角側,奥が鋭角側)
写真-5.2.8
写真-5.2.10
外回り線の橋台の鋭角側の損傷
桁支点部の応急支持と
交差点機能の確保
(3) Av.Americo Vespucio/Pan American Highway 5号線立体交差橋
当該橋梁は,写真-5.3.1及び5.3.2に示すように,No.2の落橋した橋梁の近くの5号線とサンティアゴ外周
道路(AmericoVespucio) の交差するインターチェンジの橋梁である.写真-5.3.3に示す北行き橋梁は,5.2
のAv. Americo Vespucio / Av. Lo Echeveres 交差橋と同種の橋梁であり,いずれの桁も橋軸直角方向に移動
し,桁端部に設置されている多くの鋼製ブラケットに衝突した痕跡が見られた.特に橋台部の桁などにおい
ては,直角方向の移動が40cmにもおよび,鋼製ブラケットが大きく変形したものや脱落したものも見られ
た.そのため,現地においては横梁部に反力を支えるためのコンクリートブロックを設置しジャッキにより,
桁移動を元の位置にもどす作業が実施されていた.
写真-5.3.4の左側に示す南行き橋梁は同種の桁であるが,桁横梁部と橋脚梁部を結ぶアンカーによる移動
制限装置および端部のコンクリートブロックが桁の変位を拘束しており,桁移動は見られなかった.しかし
ながら,上部構造の慣性力によりラーメン橋脚上部には,3δy程度の変形に相当するコンクリートひび割れ
が発生していた.桁の変位制限機構のない写真右側の桁は,地震力により桁移動が発生し,鋼製ブラケット
が破損したり,あるいは落下したりしているものも見られた.これに対して,十分な桁変位拘束を有する写
真-5.3.4左側の桁は,作用地震力によりモーメントが大きくなり橋脚上部の塑性ヒンジ発生部においてひび
割れが発生している.
桁はゴム支承を介して橋脚上に設置されているが,ゴム支承は桁および橋脚には固定されてなく,桁が移
動しようとしたときの拘束力は,ゴム支承と桁とのすべり摩擦係数のみである.そのため,すべり摩擦力を
超えた外力が発生すると桁が移動を開始する.写真-5.3.5及び5.3.6に示す鋼製ブラケットは,現地での聞き
取り調査によると,地震による水平抵抗力を期待して設置されているものではなく,桁の浮き上がりを防止
するためのものらしいが,この鋼製ブラケットが桁の衝突に対して十分な水平抵抗を有してはいなかったと
言える.
写真-5.3.1 インターチェンジの状況
(出典:Google Earth)
写真-5.3.3 北行き高架部端部損傷状況
写真-5.3.5
落下していた鋼製ブラケット
写真-5.3.2
衛生写真によるインターチェンジの状況
(出典:Google Earth)
写真-5.3.4 北行き高架部端部損傷状況
写真-5.3.6
鋼製ブラケットの損傷
(4) Av. Americo Vespusio/San Martin立体交差橋
本橋は,Miraflores橋とLo Echveres橋の中間に位置する橋であり,これらとほぼ同じ構造を有するが落橋
は免れたことから調査したものである.上下線が分離された3径間単純プレテンT桁橋である.写真-5.4.1に
示すように,5本のT桁を並べた構造で,横桁は設けられていない.橋脚横ばり(キャップビーム)の詳細
を示すと写真-5.4.2の通りであり,このクローズアップが写真-5.4.3である.T桁の両側には移動制限装置の
ような鋼製ブラケットが1装置に付き片側2本のアンカーボルトで取り付けられているが,このアンカーボル
トの定着部から橋脚横ばりのコンクリートが剥落している.この移動制限装置のような鋼製ブラケットの設
置目的や機能はよくわからないが,チリ公共事業省からの説明や形状から見ると,橋軸や橋軸直角方向の移
動制限装置ではなく,桁の浮き上がりを防止するためのものらしい.
写真-5.4.4は橋台側面に使用されていたテールアルメである。地盤が20cm程度沈下した痕跡が認められた
が,テールアルメは全く被害を受けていなかった.
写真-5.4.1
Av. Americo Vespusio/San Martin
立体交差橋
写真-5.4.3
桁支持部の損傷(2)
写真-5.4.2
写真-5.4.4
桁支持部の損傷(1)
無被害であった橋台のテールアルメ
(5) Av. Manuel Antonio Matta/Linea de Ferroccarril鉄道立体交差橋
本橋は,Miraflores橋とLo Echveres橋の中間に位置する橋であり,これらとほぼ同じ構造を有するが落橋
は免れたことから,調査したものである.上下線が分離された3径間単純プレテンT桁橋である.写真-5.4.1
に示すように,5本のT桁を並べた構造で,横桁は設けられていない.橋脚横ばり(キャップビーム)の詳
細を示すと写真-5.4.2の通りであり,このクローズアップが写真-5.4.3である.T桁の両側には移動制限装置
のような鋼製ブラケットが1装置に付き片側2本のアンカーボルトで取り付けられているが,このアンカーボ
ルトの定着部から橋脚横ばりのコンクリートが剥落している.この移動制限装置のような鋼製ブラケットの
設置目的や機能はよくわからないが,チリ公共事業省からの説明や形状から見ると,橋軸や橋軸直角方向の
移動制限装置ではなく,桁の浮き上がりを防止するためのものらしい.
写真-5.4.4は橋台側面に使用されていたテールアルメである.地盤が20cm程度沈下した痕跡が認められた
が,テールアルメは全く被害を受けていなかった.
写真-5.5.1
Antonio Matta 跨線橋の落橋
写真-5.5.3
橋台部側壁の破壊状況
写真-5.5.5
橋脚基部の変形の痕跡
写真-5.5.2 上部構造の変位方向と橋台部の側壁の破壊
写真-5.5.4
橋脚天端の損傷と横構の座沓変形
(6) Maipo橋(旧橋,Pan American Highway5号線)
本橋は,サンティアゴから南へ約 50km に位置し,Pan American Highway 5 号線が Maipo 川を横断する橋
(写真-5.6.1 及び 5.6.2)であり,新橋と並行して架けられている.今回調査を行った旧橋は,現在は一般の
交通には供されていなく,新橋の方のみで供用されている状態であった.ただし,新橋においては洗掘が生
じており,その対策としての写真-5.6.3 に示すような基礎の補強工事が今回の地震前から行われており,こ
れに伴って,旧橋は工事用車両に限って使用されている状態であった.このことからも,本橋は非常に洗掘
の影響を受けた状態であったことも想定される.
旧橋の橋梁形式は4径間連続 RC 橋1連と3径間連続 RC 橋3連から構成される 13 径間の橋であり,両端
は橋台となっている.1960 年代に完成した橋であり,設計水平震度としては 0.1~0.15 が考慮されている.
連続桁の桁端部はローラー支承となっており,その他の中間支点部は上下部構造が一体となっているが,一
体部の構造条件の詳細は確認できていない.
今回の地震により,図-5.6.1 に示すように,旧橋の北側4径間の橋における北から2つ目の橋脚上の支点
部において写真-5.6.4 のような損傷が生じた.損傷して鉄筋が露出していたが,写真-5.6.5 のように,上部構
造から下部構造に向けて斜めに丸鋼が配筋されており,ここの配筋状況から推察すると,メナーゼヒンジの
ようなピン構造であったとも考えられる.また,この橋脚以外の支点部では,このような大きな損傷にまで
至った箇所はなく,例えば,写真-5.6.6 に示すようなひびわれが生じた程度の損傷に留まっている.一方,
北側の橋台のローラー支承付近を調べたところ,接合部付近の部位が過去にモルタルで補修されたような形
跡はあったものの,今回の地震によってローラー支承が移動した形跡は見られなかった(写真-5.6.7).こ
のように,本橋において大きな損傷が確認できたのは北から2つ目の支点部だけであったが,この支点に地
震力が集中した理由については,本橋の構造条件,地盤条件等を調査しないとよくわからない.
なお,今回被災が生じた旧橋と平行して架けられている新橋は,写真-5.6.8 に示すように横桁のある PC
桁であった.調査した範囲では,支点部付近に写真-5.6.9 に示すようなかぶりコンクリートが剥離している
箇所があったが,全体としては大きな被災はなく,交通も通常通りに供している状態であった.また,旧橋
と新橋の道路橋にほぼ併走する形で,さらに鉄道橋も架けられていた.この鉄道橋は,写真-5.6.10 に示す
ような 11 径間単純鋼トラス橋であるが,地震による特段の損傷はなく,鉄道車両は徐行しながら橋を走行
していた.
写真-5.6.1
Maipo 川橋(左が旧橋、右が新橋)
写真-5.6.2 Maipo 川旧橋の全景
(写真右から2番目の橋脚支点部に損傷)
北側
南側
M
M
接合部におけるコンクリートの剥落
図-5.6.1
損傷が生じた Maipo 川旧橋の北側4径間の橋
写真-5.6.3
写真-5.6.5
写真-5.6.7
新橋で実施されていた基礎の補強
接合部に斜めに配筋された丸鋼
橋台上のローラー支承(移動痕跡なし)
写真-5.6.4
写真-5.6.6
上下部接合部付近に生じた損傷
他の橋脚支点部での損傷状況
写真-5.6.8
新橋の PC 桁と下部構造
写真-5.6.9
支点部付近でのかぶりコンクリート剥離
写真-5.6.10
平行する鉄道橋(徐行走行)
(7) Hospital橋(Pan American Highway5号線)
本橋は,図-5.7.1に示すように,ランカグア市から約43km付近の5号パンアメリカンハイウェイ線上の跨線
橋である.このうち,今回の地震により5号線本線の北行き車線の橋に落橋に至る被害が生じた.橋台に残
された痕跡の状況等から,斜角は約45度,3主桁の2径間単純プレテンPC桁であったと考えられる.また,
支承が橋台に固定されていた痕跡はなく,桁はゴム支承の上に設置されただけの構造であり,床版と下部構
造が鉛直方向に配置された鉄筋によって固定されていた構造であったと考えられる.この鉄筋は地震による
桁の浮き上がり防止機能を果たすための部材とのことであり,橋軸直角方向の移動に抵抗するための鉄筋で
はない.一方,落橋しなかった南行き側はほぼ直橋であり,横桁を有する4主桁のPC桁の構造形式である.
構造形式の違いと地震による挙動の違いを比較する上では重要な被災事例である.
写真-5.7.1~5.7.3に北行き車線側の落橋状況を示す.解体されたPC桁より断面形状を推定すると,高さ
2m,フランジ幅15cm,ウエブ幅80cm,ウエブ高さ20cm程度であった.また,橋台部の橋軸方向への橋座長さ
は120cmであった.したがって,土圧の水平成分の作用方向に対しては約85cmとなり,遊間を考慮すると,
実際のけたかかり長はこれよりもさらに短かったものと推測される.また,中間橋脚は3本の円形橋脚から
なるラーメン構造となっている.橋脚直径は約120cmであり,また梁幅は約160cm確保されている.橋台へ
の大きな衝突痕や橋脚へのひび割れ跡は認められなかったが,写真-5.7.4に示すように,橋台には各3カ所桁
が落下した際に付いたと思われる痕跡があった.また,写真-5.7.5及び5.7.6はそれぞれ北側橋台及び南側橋
台の橋座付近の状態を示したものであ
West side-wall at
るが,桁の鋭角側に向かって移動して
East side-wall at
north abutment
north abutment
いる痕跡が残されていること,さらに
without damage
failed
は,両橋台とも鋭角側のカーテンウォ
North abutment
ールが破壊しているのに対して,鈍角 North abutment
側のカーテンウォールには損傷が生じ
North span
ていないことから,地震による振動で
North span
桁の両端部が鉛直軸周りに回転しなが
Center pier
ら鋭角側へ移動し,そしてカーテンウ Local road
North-bound
Center pier
ォールと衝突してカーテンウォールを
South-bound
bridge
破壊させ、桁が橋座から逸脱して落橋
bridge
Center Pier
Railways
に至ったのではないかと考えられる.
一方,落橋しなかった南行き車線の
South span
橋は,図-5.7.7に示すようにほぼ直橋で
あり,また,4主桁構造で剛な横桁を
South span
East side-wall at
有しているとともに,橋脚天端の梁の
south abutment
先端には突起上のせん断キーが設けら
without damage
れていた.このような構造形式であっ
South abutment
たことから,北行き車線側の桁のよう
North
South abutment
West side-wall at
な桁の移動や回転は生じず,被害が抑
south abutment
East
えられたのではないかと考えられる.
failed
Approaching embankment
なお,本橋の近傍の道路盛土では崩
壊が生じている箇所があった.
図-5.7.1 Hosipital 橋の構造概要
写真-5.7.1 北行き橋梁の落橋状況
(提供:チリ公共事業省)
写真-5.7.2 北行き橋梁落橋状況
(提供:チリ公共事業省)
損傷したウィング
桁落下時に付いた痕跡
写真-5.7.3 北行き橋梁の落橋状況
(提供:チリ公共事業省)
写真-5.7.4
写真-5.7.7
図-5.7.5 北側橋台の橋座部
図-5.7.6 南側橋台の橋座部
桁落下の痕跡(北側橋台)
南行き車線側の橋の構造
(8) 横断歩道橋(Pan American Highway5 号線)
Pan American Highway 5 号線にはプレキャスト桁を用いた多数の同形式の横断歩道橋があったが,いくつ
かが被災したり倒壊したりしている.
写真-5.8.1 は倒壊しなかったが,どのようなメカニズムで倒壊したかを示す好例である.写真-5.8.2 は落下
した桁を支持していた支承まわりである.橋脚上端にペデスタルを設け,その上にネオプレンゴムパッドを
置いて PC 桁を支持していた.しかし,橋脚がフレキシブルでさらに基礎自身にも大きく変位した痕跡があ
ることから,こうした大きい変位に耐えられず落橋したことを示している.なお,桁と橋脚上端は固定され
ていない.
写真-5.8.3 はアプローチ部の桁の移動である.桁の右側に 2 カ所穴があるが,ここが本来橋脚上端にある
べき位置であり,約 2m ほど桁がずり下がる形で下方に移動したことを示している.また,橋軸直角方向の
移動制限装置が損傷している.写真-5.8.4 は写真-5.8.3 に示した桁を下側から撮ったものである.橋脚上端に
鉄筋が見えるが,これらが桁の穴に取り付けられ,桁の落下防止機能を果たしていたと考えられる.結局,
桁と橋脚間の固定が弱く,このために被害を受けている.
写真-5.8.1
写真-5.8.3
5 号線に架かる横断歩道橋の被害
移動した桁と橋軸直角方向の移
動制限装置の被害
写真-5.8.2
落下した桁の支持部
写真-5.8.4 桁移動制限用の鉄筋が取り付けられて
いた穴(写真-5.8.3 と反対側から撮影)
(9) Paso Inferior Angostura 跨道橋(Pan American Highway5 号線)
本橋は,サンティアゴからその南部のランカグア市の間に位置し,5 号パンアメリカンハイウェイを立体
交差する跨道橋である.建設年次の情報はないが,比較的新しい構造と推測される.
本橋は,写真-5.9.1 に示すように,2車線と歩道を有する2径間単純 PCI 桁橋である.床版は,中間橋脚
部で連続構造となっている.PCI4 主桁を有し,桁端部の端横桁は省略されており,横桁位置において垂直
方向を固定する鋼棒が設けられていた.斜角は現地では計測していないが,写真判読では約 50 度である.
橋脚は,円形断面柱4本を有するマルチカラム構造である.橋台は RC 逆 T 式,基礎については未確認であ
る.支承部には,PCI 桁下にゴムパッド支承が設けられている.アプローチ部は,盛土構造となっている.
地震により,桁端部と橋台との接触による駆け落ち,橋脚キャップビームの支承部の欠け落ちが確認され
たが,甚大な影響はなく,特に通行規制は実施されていなかった(写真-5.9.2 及び 5.9.3).
写真-5.9.1
Angostura オーバーブリッジの全景
写真-5.9.2
写真-5.9.3
橋台部のコンクリートの欠け落ち
橋脚天端のコンクリートの欠け落ち
RC 橋脚については,ひびわれ等の顕著な損傷が確認できなかった.橋台については,躯体壁については
特に損傷は確認されなかった.
アプローチ部の盛土構造についても,顕著な変状は確認されなかった.
(10) Graneros 跨道橋(Pan American Highway5 号線)
本橋は,サンティアゴ市内の南に位置し,Pan American Highway 5 号線の上をオーバーパスするための2
径間単純 PC 桁橋(写真-5.10.1)である.橋長は約 52m,1支間は約 26m であり,両端は橋台、中央分離帯
に2柱式のラーメン橋脚がある.本橋は斜橋ではあるが,写真-5.10.2 に示すように,斜角はさほど小さくな
く,目視で 70°~80°程度である。本橋は,チリにおいて 1990 年代半ばから民間委託により採用されてき
た形式の橋である.写真-5.10.3~5.10.5 は,それぞれ東側橋台,中間橋脚,西側橋台位置における桁の状況
を示したものであるが,横桁を省略したプレテン桁が使用されるとともに,桁はネオプレーンゴムの上に置
いただけの構造であり,橋軸直角方向への移動を制限する構造となっていない.床版と下部構造は合計で 4
本の鉄筋によって鉛直方向に固定されているが,これは地震によるアップリフトに抵抗するために設置され
たものとのことであり,橋軸直角方向の移動に抵抗するための鉄筋ではない.
写真-5.10.3~5.10.5 からわかるように,地震により,東側橋台位置で桁が南側へおよそ 1m,西側橋台位置
で桁が北側へおよそ 1m それぞれ移動した.これらの移動は,いずれも上部構造の鈍角側から鋭角側への方
向である.そして,鋭角側の桁端部は,写真-5.10.6 のように橋台のウィングに衝突し,ウィングを損傷させ
ている。写真-5.10.7 及び 5.10.8 は,この桁端部付近を両サイドから撮影したものであるが,支承であるネオ
プレーンゴムが桁といっしょに引きずられるように移動している状況がわかる.もともとの支承位置から,
本橋において確保されていたけたかかり長を計測してみるとおよそ 50cm であり,これは日本の道路橋にお
ける最小けたかかり長の約 6 割である.
また,本橋の橋台取り付け部は,写真-5.10.9 に示すように背面土が沈下していた。さらに,上部構造端部
と橋台パラペットの間には,写真-5.10.10~5.10.11 に示すように衝突した痕跡が確認された.このような状
況から,本橋では橋台が桁を押した可能性も考えられる.
なお,本橋自体は交通量も非常に少なく,通行止めの措置がとられていたが,交差道路が Pan American
Highway 5 号線という重要な路線であることから,余震によって桁がさらに直角方向へ移動し橋台から逸脱
して落下するのを防止するために,応急復旧として,写真-5.10.12 のような移動制限構造が取り付けられて
いた.
写真-5.10.1
Graneros オーバーパス橋の全景
写真-5.10.2 路面から見た桁の移動状況
(桁が写真左側の鋭角側へ移動している)
写真-5.10.3
東側の橋台位置での桁の移動
写真-5.10.4
中間橋脚位置での桁の状況
写真-5.10.6
桁との衝突による橋台ウィングの損傷
写真-5.10.5
西側の橋台位置での桁の移動
写真-5.10.7
ネオプレーンゴムとともに移動した桁
写真-5.10.9
写真-5.10.11
橋台背面土の沈下
橋台パラペットに残った衝突痕
写真-5.10.8
元々の支承位置と桁の移動
写真-5.10.10 上部構造端部と
橋台パラペットとの衝突
写真-5.10.12
応急復旧用に設置された移動制限構造
(11) Las Mercedes 跨道橋(Pan American Highway5 号線)
本橋は,ランカグア市付近にある Pan American Highway5 号上の跨道橋である.調査時点では北行き車線
に支保工を設置し,応急措置がなされていた.図-5.11.1 ならびに写真-5.11.1~5.11.2 に損傷の状況を示す.
本橋は,床版のみが連結された支間 26m の2径間単純PC桁橋であり,PC桁は横桁を有しない3主桁
プレテン構造となっている.本橋はほぼ直橋であるが,中間橋脚を中心にして鉛直直軸軸まわりに回転が生
じていることが大きな特徴である.すなわち,西側橋台では桁は 140cm 南側に移動することによって,桁と
橋台には両端部でそれぞれ 60, 30cm の遊間が発生している.これに対して東側端台では桁は 100cm 北側に
移動することによって,桁と橋台には両端部でそれぞれ 0cm, 20cm の遊間が発生している.一方,背面の橋
台では,舗装面の損傷はほとんど確認できなかった.このことから,橋台には桁の衝突跡が見られるものの,
桁の橋台への衝突力は非常に小さかったと推定される.写真-5.11.3 に示すように,ゴム支承は橋台の上に載
せただけの形状となっており,変位制限装置に相当するものは設置されていない.また,写真-5.11.4 に示す
ように,移動したPC桁には橋台部に大きくめり込んでいるものも見られた.
本橋では,移動制限装置がないことから,地震力がゴム支承と桁のすべり摩擦力を超えたために桁が移動
を開始したと考えられるが,橋台には桁の衝突によると思われる軽微なひび割れが発生していた一方で,橋
台背面の損傷はほとんど認められなかったことから,桁は橋軸方向にも移動し,橋台に衝突して橋軸直角方
向に大きく移動したと想定される.また,桁はゴム支承を介さずに直接橋台部にめり込んでいたことから,
桁移動に伴い,ゴム支承がはがれたと推定される.すなわち,桁とゴム支承は分離して移動したことが考え
られる.
このように,横桁のない新しいタイプのPC構造については,その地震時挙動について不明な点もあるが,
横桁がないために橋梁の全体剛性が不足することから,桁の移動が大きくなった可能性も考えられる.
衝突の痕跡はあるが,
背面土の盛り上がりなし
140cm
移動
30cm
遊間
26m
60cm
遊間
26m
10cm移動
0cm
遊間
20cm遊間
100cm移動
衝突の痕跡はあるが,
背面土の盛り上がりなし
図-5.11.1
写真-5.11.2
橋梁損傷状況
西側橋台部拡大写真
写真-5.11.1
西側橋台部損傷状況
写真-5.11.3
西側桁損傷状況
写真-5.11.4
西側桁損傷状況
写真-5.11.5
東側桁損傷状況
(12) Claro 橋(Pan American Highway5 号線)
写真-5.12.1 に示すように,上下線が分離された Pan American Highway 5 号線及びこれに併走する鉄道がク
ラロ川を渡河する地点に3橋の橋が架かっている.このうち,Pan American Highway 5 号線の旧クラロ橋は
1870 年に架設されたといわれる橋で,当年で 140 歳になる.優美なれんが造アーチ構造であることから,長
くチリのランドマークとしてチリ国民から愛されてきた.ヘンリーフォードによるフォードモーター社の設
立が 1903 年であるから,旧クラロ橋はモータリゼーションを迎える前の馬車の時代に建設された橋である.
写真-5.12.2 に示すように,旧クラロ橋は外観からは石造アーチを組,その上にれんがを置いた構造のよう
に見えるが,実際には,写真-5.12.3 に示すように石造のように見えるアーチ下部や橋脚の四隅の白い部分は
デコレーションで,無補強れんが造である.馬車の時代に建設され,設計荷重が現在ほど大きくなかったた
めと考えられる.写真-5.12.4 は落橋部を示したものである.手前の橋脚の中間高さに大きなクラックがある
が,このクローズアップが写真-5.12.5 及び写真-5.12.6 である.無補強であるため,いったんこのような被害
が生じると,容易にさらに大きな被害に発展しやすい.倒壊した橋脚ではこうした損傷がもっと大規模に発
生し,橋脚の応答変位が生じた結果,アーチ部が崩壊したと考えられる.
写真-5.12.7 は崩壊したアーチ部の断面を示したものである.外周部にはきちんとれんがが組まれているが,
内部は雑然とれんがや石が入れられた構造である.優美な景観とは裏腹に決してよい造りとは言えない.ま
た,アーチクラウン部の高さも 3m 程度でしかない.写真-5.12.8 は落下したれんがのブロックであるが,手
でこすっただけでも容易に赤土が削れ落ちる.長期間の使用により,相当れんがは劣化していたのではない
かと考えられる.
結局,以上のような点を総合すると,旧クラロ橋は自動車出現前の小さい設計荷重に基づいて建設された
橋で,現在のような重交通によくぞ耐えてきたと考えられる.落橋したとむち打つよりも,過酷な条件でよ
くぞ長年チリのためにがんばってくれたと感謝すべき橋であると考えられる.
写真-5.12.9 及び写真-5.12.10 は新クラロ橋である.RC アーチ構造で,地震によりほとんど被害を受けてい
ない.写真-5.12.11 に示すように,プレテン桁には端部横桁が設けられている.唯一,写真-5.12.12 に示すよ
うに,橋軸直角方向の移動制限装置が被災していた.
なお,写真-5.12.13 は併走する鉄道用アーチ橋である.これも相当長い歴史を有する橋である.ただし,
時間の関係で,近寄って調査することはできなかった.
写真-5.12.1
写真-5.12.2
クラロ川を渡河する 3 本の橋梁(AP による)
崩壊した旧クラロ橋
写真-5.12.4
橋脚
写真-5.12.3
石造アーチのように見えるが
無補強れんが造
写真-5.12.5
橋脚部の損傷(1)
写真-5.12.6
写真-5.12.8
橋脚の損傷(2)
簡単に手で削れるれんが
写真-5.12.11
写真-5.12.10
アーチ部
写真-5.12.7
アーチ内部
写真-5.12.9
新クラロ橋
ほとんど被害を受けなかった桁及び橋脚
写真-5.12.12
橋軸直角方向移動制限装置の被害
写真-5.12.13
鉄道橋用アーチ橋
(13) Cardenal Raúl Silva Henríquez 橋
本橋は,コンスチツーションにおいて,Maule 川の河口を横断する位置を渡河する橋である(写真5.13.1).本橋については,MOP から図面情報が提供されており,2000 年に設計されている比較的新しい構
造である.なお,この地域は津波の影響を大きく受け,多数の死者が出ているが(写真-5.13.2),本橋につ
いては,橋脚高さが高く,橋桁については津波の影響を受けていない.
本橋は,写真-5.13.2 に示すように,合計 22 径間を有する 11 径間連続鋼 I 桁橋 2 連からなる.橋長は,
41.4773m@22=912.5m である.直橋である.上部構造は,2車線と両側に歩道を有する鋼 I3 主桁から構成
される.橋脚は,円形断面柱2本あるいは3本からなる RC マルチカラム構造と,円形断面柱3本を有する
鋼製マルチカラム構造からなる.両端の橋台は,RC 逆 T 式である.基礎としては,橋台は直接基礎,橋脚
は一方の橋台近傍の2橋脚分が直接基礎を有し,その他はパイルベント方式である.支承条件としては,両
端の橋台部で2連をそれぞれ一点で固定する方式で,橋脚部では鋼 I 桁下にゴムパッド支承を有し,橋軸直
角方向には鋼製サイドブロックで固定されている.
地震により,上部構造については,両端橋台の固定支承周辺の鋼 I 桁下フランジの圧縮による座沓変形,
下フランジからウェブにつながる破断や座沓変形が生じていた(写真-5.13-4~5).特に下フランジからウ
ェブにつながる破断,亀裂は,完全な破断につながる可能性のある重大な損傷であった.大型車の通行規制
が実施されていたが,通行のたびに主桁の上下変位も確認されており,損傷の進展が想定されたため,仮支
持等の対策が必要とされた.橋軸方向については,橋台での一点固定方式のため,上部構造の全慣性力がほ
ぼ橋台部に集中し,これによって,橋台部の主桁に座沓,破断が生じたものと推定された.また,支承部周
辺の対傾構では座沓変形が確認された.地震力が集中しやすい支承部も他の断面と同一の対傾構の断面とな
っていた(写真-5.13.6).
支承部については,橋脚部においてサイドブ
ロックの破断,変形,これに伴う数 10cm 程度の
上部構造の横ずれの残留変位が確認された(写
真-5.13.6).
橋脚については,水平ひびわれがわずかに確
認された程度であった.橋台についても,躯体
壁については,特に損傷は確認されなかった.
ジョイント部では,変位にともなうジョイン
トの損傷,遊間,高欄の損傷が確認された(写
真-5.13.7).
写真-5.13.1
Cardenal Raúl Silva Henríquez 橋の全景
写真-5.13.2
津波の影響を受けたコンスチツーション
周辺写真
写真-5.13.4
写真-5.13.3
橋台部の主桁の座沓変形
写真-5.13.5
写真-5.13.6
Cardenal Raúl Silva Henríquez 橋の主桁構造
と橋脚構造
橋台部の主桁下フランジとウェブの破断
橋桁の横ずれと対傾構の座沓変形
写真-5.13.7
橋台部のジョイント部の損傷
(14) Longavi 鉄道橋
本橋は,タルカから南へ約 70km に位置する Rio Longavi 川に架かる鉄道橋であり,Pan American Highway
5 号線の道路橋とほぼ並行して架けられている(写真-5.14.1).構造は,4径間連続鋼桁橋(南側)と4径
間単純トラス橋(北側)から構成されている.南側の4径間連続橋の下部構造は,写真-5.14.2 のような石積
み式橋脚となっている.また,北側の4径間単純トラス橋の下部構造は,写真-5.14.3 に示すように2柱式橋
脚であり,洗掘対策のために,橋脚は鋼管により防護されている.
地震により,北側の4径間単純トラス橋の上部構造が,写真-5.14.4~5.14.7 のように,支承の破壊を伴っ
て橋軸直角方向に最大でおよそ 1.7m 移動した.これにより桁が橋脚天端から逸脱したが,橋脚が横桁を支
持するような形となったことで落橋にまでは至っていない状態であった.支承は鋼製の固定支承とローラー
支承で構成されていたが,桁との取り付けプレートとの接合部,あるいはピンの箇所において損傷し,これ
によって上下部構造が分離に至っていることがわかる.
写真-5.14.8 は,本鉄道橋にほぼ並行する形で架けられている Pan American Highway 5 号線である.ここに
は道路橋として 3 橋の橋があるが,うち 1 橋は既に一部が撤去されている旧橋(写真-5.14.9)であり,使用
されていない.残り 2 橋が上下線分離の構造として供用中の橋(写真-5.14.10)であるが,南行き車線の橋
は PC 桁と 3 柱式ラーメン橋脚,北行き車線の橋は鋼桁と洗屈対策として基礎の補強がなされている壁式橋
脚という構成であり,地震時の挙動を比較する上では興味深い.まず,旧橋であるが,今回の地震により,
写真-5.14.10~5.14.11 に示すように,橋脚の基部のハンチ付け根部において,軸方向鉄筋がはらみ出し,内
部のコンクリートにまで損傷が至っている被害が生じていた.この橋の設計時期はわからないが,かなり古
い時代に設計された橋と考えられる.上部構造は横桁もある構造であるが,橋脚断面は比較的小さく,橋脚
に作用した慣性力によって損傷が生じたものと考えられる.南行き車線の PC 桁は,写真-5.14.13 に示す横
桁のない構造であり,支承部に橋軸直角方向への移動制限のための切りかけ等もない.橋脚天端のはり両端
部は,桁の橋軸直角方向への移動を制限するせん断キーのような形状をした構造となっているが,厚さが非
常に薄い.このような構造のために,桁が橋軸直角方向に移動しやすく,橋脚はり先端のせん断キーのよう
な薄壁に桁がぶつかったことにより,写真-5.14.14 のような損傷が生じたと考えられる.一方,北行き車線
の橋については,基礎が洗屈対策のために補強されていたが,写真-5.14.15 に示す隣接桁間の衝突痕があっ
た以外は,今回の調査では特段の損傷は確認されなかった.
写真-5.14.1
Rio Longavi 鉄道橋の全景
写真-5.14.2
南側 4 径間橋部の石積み式橋脚
写真-5.14.3 北側4径間トラス橋部の2柱式橋脚
写真-5.14.5
写真-5.14.7
支承の破壊と桁の直角方向への移動
桁の橋軸直角方向への移動と軌道の変形
写真-5.14.4 支承の破壊と桁の直角方向への移動
(移動量は最大でおよそ 1.7m)
写真-5.14.6
隣接橋脚支点部での桁の移動
写真-5.14.8 併走する 5 号線の道路橋
(手前は一部撤去された旧橋、奥が供用中の新橋)
写真-5.14.9
Rio Longavi 道路橋の旧橋
写真-5.14.10 供用中の Rio Longavi 道路橋(上下線分離)
(手前が南行き車線、奥が北行き車線)
写真-5.14.11
旧橋のラーメン橋脚に生じた被害
写真-5.14.12 旧橋のラーメン橋脚に生じた被害
写真-5.14.13
南行き車線の横桁のない PC 桁橋
写真-5.14.14 桁の橋軸直角方向への移動と
橋脚はり先端部に生じたクラック
写真-5.14.15
隣接桁間での衝突痕
(15) Copihue 跨線橋(Pan American Highway5 号線)
本橋は,パラル市付近に立地する Pan American Highway5 号線北行きの橋梁で,スパン約 30m,斜角約 45
度の単線鉄道を跨ぐ単純桁の跨線橋である.今回の地震により,本橋が鉄道線上に落橋した.図-5.15.1 なら
びに写真-5.15.1 からわかるように,単線の鉄道がほぼ 45°の斜角で横切っており,それに平行な角度で橋
台が設置されている.
地震により,写真-5.15.2~5.15.3 に示すように,両橋台には端部付近に衝突により発生したと思われるひ
び割れが発生しており,写真-5.15.4 に示すように,橋台背面舗装の西側端部には軽微ではあるが桁衝突によ
り生じたと考えられる同様なひび割れが発生している.また,写真-5.15.4 によると桁設置位置と思われる箇
所にゴム支承が一部存置された状態となっており,そのすぐ近傍の橋台部には落橋により生じたと考えられ
るコンクリートの剥離跡が認められた.なお,剥離跡が3箇所であることから,上部構造は単純3主PC桁
であったと想定される.また,現地で計測すると,橋軸方向への橋座長さは 1m 程度であった.したがって,
土圧の水平成分の作用方向に対しては約 70cm となり,遊間を考慮すると,実際のけたかかり長はこれより
もさらに短かったものと推測される(写真-5.15.5).
調査時点では,桁はすでに撤去されており,構造諸元は不明であるが,斜角が約 45 度と小さいため,桁
の回転による損傷が発生しやすい構造であったと考えられる.また,落橋に伴って橋台に生じたコンクリー
ト剥離位置および衝突による橋台背面の損傷状況から,桁は橋台に衝突したものの,桁衝突は小規模で,直
角方向への桁移動も小さかっとのではないかと想定される.
なお,本橋梁位置における地盤には流動化等の特段の変状は認められなかったが,本橋の近傍の道路盛土
では崩壊が生じている箇所があった.
桁衝突
の痕跡
45°
30m
12m
桁衝突
の痕跡
図-5.15.1
Copihue 跨線橋の構造概要
写真-5.15.2
写真 5.15.1
Copihue 跨線橋
橋台パラペット部に生じた衝突痕
写真-5.15.3
橋台パラペット部に生じた衝突痕
写真-5.15.4
北側橋台損傷状況
写真-5.15.5
橋台の橋座部
(16) Parral 跨道橋(Pan American Highway5 号線)
本橋は,Pan American Highway 5 号線をオーバーパスする橋で,写真-5.16.1 及び写真-5.16.2 に示すように,
桁仮受けされていたことから調査した橋である.斜角はほぼ 90 度の直橋であった.
調査したところ,写真-5.16.3 に示すように,プレキャストT桁に水平ひび割れが入り,写真-5.16.4 に示す
ように,ウェブと上フランジ間や下フランジ側面に損傷が生じている.恐らく,橋軸直角方向の地震力が桁
に作用したことにより,ウェブにせん断ひび割れが生じ,ウェブと上フランジ間や下フランジ側面にも損傷
が生じたと考えられる.T桁が崩壊し始める状況を示す例と考えられる.
写真-5.16.5 に示すように,取り付け盛り土は大きく沈下していた.盛土の滑り,沈下によると考えられる.
周辺はブドウ畑で,地下水位が高かった.
写真-5.16.1
写真-5.16.3
Parral 橋
プレキャスト T 桁に生じたせん断ひび割れ
写真-5.16.2
写真-5.16.4
仮支持された桁
プレキャストT桁のウェブと
上フランジ間に生じた損傷
写真-5.16.5
取り付け道路の沈下
写真-5.16.6
地下水位の高い周辺地盤
(17) Perquilauquen 橋(Pan American Highway5 号線)
本橋は,5号パンアメリカンハイウェイにおいて,タルカの南方のパラルとサンカルロスの間のパークイ
ラウクエンに位置する橋である.建設年代の相違のためか,写真-5.17.1 に示すように,上下線で構造が相違
し,上部構造は,旧橋が2箱桁,新橋が PC4主桁である.いずれも直橋である.橋脚は,旧橋が RC 壁構
造,新橋は円形断面柱3本を有する RC マルチカラム構造である.基礎についての情報はない.支承部とし
ては,旧橋は,ゴムパッド支承と下部構造の橋軸直角端に桁を拘束するせん断キーを有する.新橋は,PC
桁下にゴムパッド支承が設置され,遊間を空けて橋軸直角方向に壁構造を有する.
写真-5.17.1 Perquilauquen 橋の全景と落橋
写真-5.17.3 新橋部に用いられていた積層ゴム支承
写真-5.17.2 新橋の桁の移動とカーテンウォールの破壊
写真-5.17.4 旧橋の端部のせん断キーの損傷
地震により,新橋においては,上部構造の橋軸直角方向の残留変位,橋脚天橋に取り付けられたカーテン
ウォールの破壊,落下,ゴムパッド支承のはずれと落下が確認された(写真-5.17.2 及び 5.17.3).PC 桁は
ゴムパッド支承で支持され,橋軸直角方向を拘束する構造にはなっていなかったため,地震により桁に変位
が生じ,カーテンウォールとの接触によりこれを破壊したものと推定される.
旧橋では,桁に顕著な残留変位は生じていないが,下部構造天端のせん断キーが大きくひびわれ損傷を受
けているのが確認された(写真-5.17.4).
なお,橋脚については,特にひびわれ等の損傷は特に確認されなかった.
(18) Chillan 近郊のゲルバー橋(Pan American Highway5 号線)
本橋は,チジャン近郊の河川を渡河する Pan American Highway 5 号線の道路橋であり(写真-5.18.1),北
行き車線は6径間コンクリートゲルバー橋(ゲルバー桁は2カ所)で下部構造は4柱式ラーメン橋脚,南行
き車線は4径間単純 PC 桁橋(写真-5.18.2)で下部構造は3柱式ラーメン橋脚となっている.ここで,写真5.18.2 からもわかるように,PC 桁橋の方は直橋となっているのに対して,ゲルバー橋は斜橋となっている.
地震により,北行き車線の6径間コンクリートゲルバー橋において,1箇所のゲルバー桁が写真-5.18.3 の
ように落下した.調査時点においては,写真-5.18.4 のようにゲルバー桁部分は既に撤去されていたが,ゲル
バーヒンジに生じた損傷状況は写真-5.18.5 のとおりである.これより,ゲルバーヒンジに生じている損傷は,
ゲルバー桁の鈍角側のヒンジの方が鋭角側よりも顕著であることがわかる.これは橋に生じた振動によって
ゲルバー桁が鈍角側から鋭角側へと回転しようとし,これにより鈍角側のゲルバー桁はゲルバーヒンジと衝
突をするためと考えられる.ここで,写真-5.18.5(a)からわかるが,南側ゲルバーヒンジの中央部には,鋼製
のブラケットのような部材が取り付いている.これは地震直後の写真-5.18.3 にも写っており,地震前から設
置されていたものと考えられるが,地震による落橋防止を目的としたものかどうかはわからない.ちなみに,
写真-5.18.5(b)に示した北側ゲルバーヒンジにはそのような部材があった痕跡は確認できなかった.なお,本
ゲルバー橋にはもう1箇所ゲルバー桁が設置されていたが,写真-5.18.6 のように特段の損傷は確認されなか
った.
一方,橋脚の損傷は,落下しなかったゲルバー桁の方を支持している橋脚に生じた.写真-5.18.7 はこの橋
脚の損傷状況を示したものである.この橋脚では,橋軸直角方向の繰返し地震力により橋脚に損傷が生じて
いるが,鉄筋の配筋に関するディテールは写真-5.18.8 のとおりであった.古い時代の設計の橋と推測され,
帯鉄筋間隔は 200mm ではあったが,端部フックの定着等,拘束効果という観点からは,比較的良好な配筋
がなされている.
なお,南行き車線は横桁のない PC 桁橋であった.桁が橋軸直角方向に移動することにより,橋脚はり端
部のカーテンウォールに桁が衝突し,その付け根部にせん断クラックが生じていた.橋脚には損傷は生じて
いない.
写真-5.18.1
チジャン近郊の高速 5 号線の橋
写真-5.18.2
PC 桁橋(左)とゲルバー橋(右)
写真-5.18.3
落下したゲルバー橋のゲルバー桁
(Web サイトより引用)
(a)南側ゲルバーヒンジ
写真-5.18.5
写真-5.18.6
写真-5.18.4
ゲルバー桁撤去後の状況
(b)北側ゲルバーヒンジ
斜角のあるゲルバーヒンジの損傷
落下しなかったゲルバー桁とヒンジ部
写真-5.18.7
RC ラーメン橋脚の損傷
(a)橋軸直角方向の繰返し地震力による損傷
(c) 帯鉄筋間隔は 200mm で配筋
写真-5.18.8
写真-5.18.9
(b)軸方向鉄筋は 100mm 間隔で配筋
(d)帯鉄筋の端部フックが内部コンクリートに定着
RC 橋脚における鉄筋配筋詳細
橋脚はり端部のカーテンウォール付け根部の損傷(南行き車線)
(19) Juan Pablo Ⅱ橋
Juan PabloⅡ橋は,1974 年に完成した Biobio 川を横切る長さ 2310m の橋梁である.完成当時はチリでもっ
とも長い橋梁であったとのことであり,聖 John PabloⅡ世が 1974 年にこの地を訪問したことに因んで名付け
られたようである.上部構造は1径間長が 33m,幅員 21.9m の 70 連の単純桁からなる.下部構造はすべて
RCラーメン橋脚形式である.幅員 21.9m には4車線および2つの歩道が含まれている.
写真-5.19.1 に Biobio 河を横切る JuanPabloⅡbridge(中央部),Llacolen 橋(右側部)を示す.河川幅の割には河
川水深は浅く,土砂の堆積が多く見られ,中州を形成している.写真-5.19.2 ならびに図-5.19.1 に示す右岸の
コンセプション市側は,橋梁とインターチェンジから構成されている.図-5.19.1 の右岸側護岸模式図に示す
ように,護岸橋脚およびその奥の陸側橋脚の合計 3 箇所の橋脚がせん断破壊を生じている.写真-5.19.3 及び
5.19.4 に損傷状況を示す.建設開始が 1971 年,完成が 1974 年であることから,コンクリートのせん断耐力
の評価が十分でなかった時期の構造物であると考えられる.大断面の橋脚に関わらず帯鉄筋は D25 鉄筋が
30cm ピッチと極めて貧弱であることが,橋脚にせん断損傷が発生した一因として考えられる.また,護岸
橋脚には傾きも認められた.
護岸およびインターチェンジ付近の地盤には液状化の痕跡が見られるとともに,インターチェンジ付近の
路面には 50cm 程度の不陸を生じ大きく波打っていた.この原因としては,橋脚のせん断破壊および基礎の
沈下が考えられる.
今回の調査では右岸側(コンセプション市側)からの調査しか実施できなかったが,文献によると河川中
央付近の橋脚においても沈下が生じている.この文献によると,写真-5.19.5 及び 5.19.6 に示すように,沈下
の原因としては,地震力によりラーメン橋脚を通じて基礎に大きな圧縮力が作用したためではないかと推定
されている.
なお,チリ公共事業省の担当者の説明によると,Bio bio 川は横断する交通が非常に多く,Juan Pablo Ⅱ橋の
閉鎖,Llacolen 橋アプローチ桁の落橋により,慢性的な渋滞に拍車がかかり,すみやかな対応が必要とのこと
であった.そこで,本橋に対して応急復旧による早期の交通解放を検討しているとのことであった.
写真-5.19.1 Jaun Paul Ⅱ橋衛星写真
(出典:Google Earth)
写真-5.19.2 北側橋台付近
(出典:Google Earth)
30m
21.9m
床版の沈下
橋脚せん断
損傷
橋脚せん断
破壊
橋脚せん断
破壊
護岸
VioVio河
写真-5.19.3
護岸橋脚のせん断損傷
図-5.19.1
右岸側護岸概略図
写真-5.19.4
護岸背面橋脚のせん断損傷
写真-5.19.5
河川内の橋脚の沈下
写真-5.20.8,
5.20.19の橋脚
ビオビオ川
写真-5.19.6
河川橋脚の沈下模式図9)
写真-5.20.15,
5.20.16の橋脚
落橋した
アプローチ桁
写真-5.20.3 (写真-5.20.5)
の橋脚
Llacolen橋
図-5.20.1
※橋脚配置は一部のみを記載している
Llacolen 橋アプローチ構造の概要
(20) Llacolen 橋
Juan Pablo II 橋と並び,コンセプション市中央部でビオビオ川下流部を横架する主要幹線である.右岸側
(コンセプション市側)では,図-5.20.1 のように,本線の他,オンランプ橋,オフランプ橋が合流する構造
となっており,幅広の橋梁である.写真-5.20.1 に示すように,本線のアプローチ桁 1 連が落橋した.写真5.20.2 は本線のアプローチ橋群,写真-5.20.3 は Llacolen 橋がビオビオ橋を横架する最初の橋桁及びこれを支
持する 10 本の橋脚である.写真-5.20.4 は落橋した本線のアプローチ桁を中央に,その手前がオフランプ橋,
向こう側がオンランプ曲線橋である.
写真-5.20.5 は落橋したアプローチ桁である.直橋である.すでに応急用ベーリー橋が架設されており,車
両走行が確保されている.写真-5.20.6 は落下した桁を支持していた Llacolen 橋本体の端部橋脚横桁(キャッ
プビーム),写真-5.20.7 は支承支持部のクローズアップである.橋軸直角方向にも桁移動の痕跡は認められ
るが,主として,橋軸方向のかけ落ちにより落橋したことがわかる.写真-5.20.8 は,落橋した桁を支持して
いたキャップビームの下側に生じた損傷である.この損傷メカニズムはよくわからない.
写真-5.20.9 は落下した側の桁端である.T 桁ではウェブ側面の鉄筋やコンクリートが剥ぎ取られるように
破壊している.ウェブの厚さは 18~20cm 程度である.PC ケーブルは直径約 5mm の鋼材を 7 本束ねて 1 本
とし,これを T 桁下フランジには最下段とその上に各 12 本,さらにその上と上段にそれぞれ 10 本,12 本,
計 48 本が配置されている.
落橋した桁では床版自体や床版と T 桁の接合部がいろいろな形態で破壊している.写真-5.20.10 は床版中
央部に生じた破壊であり,写真-5.20.11 はこのクローズアップである.写真-5.20.10 では,橋脚上端の横ばり
(キャップビーム)によりネオプレーンゴムで桁が支持され,キャップビームの桁支持部ではコンクリート
がかけ落ち,桁と橋脚間に相対変位が生じていることがわかる.また,床版下面に固定ブロックを設けて,
こことキャップビーム間を 2 本の鉄筋で固定している.これは地震による桁の浮き上がり防止機能を果たす
ための部材と言われ,その詳細はよくわからないが,この部材の変形から,桁はキャップビームに対して橋
軸直角方向にはほとんど残留移動していないことがわかる.今回調査した橋では,多くが橋軸直角方向に残
留移動していたが,この橋は直橋であることもあり,珍しく橋軸直角方向への残留移動は生じていない.一
方,写真-5.20.12 は T 桁と床版接合部付近で生じた破壊である.橋軸直角方向に配置された床版の鉄筋が抜
け出しているのがわかる.ひょっとすると,T 桁上で橋軸直角方向の鉄筋が重ねられていた可能性がある.
また,写真-5.20.13 は T 桁,及び,床版と T 桁間に生じた破壊である.T 桁のウェブも湾曲しているのがわ
かる.
写真-5.20.14 は写真-5.20.9 に示した Llacolen 橋本体を支持する最初の橋脚である.アプローチ桁はこの橋
脚からかけ落ちて落橋したものである.橋脚にはコンクリートのうち継ぎ目付近に大きな曲げクラックが生
じていた.
一方,写真-5.20.15 は落橋したアプローチ桁を支持していたもう一方の橋脚である.橋脚下端では写真5.20.16 に示すように周辺地盤が約 60cm 陥没し,水平方向にも約 40cm の隙間が橋脚との間に生じていた.
地盤が軟弱で,橋脚・基礎系が大きく変位したことを示している.こうした点から考えると,橋脚・基礎系
に大きな応答変位が生じた結果,反対側で桁のかけ落ちを招いたのではないかと考えられる.
写真-5.20.17 は,落橋したアプローチ桁の箇所において設置されていた応急ベーリー橋である.
写真-5.20.18 はオンランプの 3 径間連続 PC ボックス曲線橋である.写真-5.20.19 に示すように,この曲線
橋は Llacolen 橋本体を支持する最初の橋脚(すなわち,本線のアプローチ桁が落下した側の橋脚)から約
30cm 移動し,落橋寸前となったことから,調査時点でもまだ交通止めとなっていた.なお,写真-5.20.20 に
示すように,桁は曲線橋の外向きに相当する橋軸直角方向にも大きく移動し,桁移動制限装置と衝突しこれ
を破壊したことがわかる.曲線橋の内側では負反力が生じるため,桁が橋脚から浮き上がらないように,ボ
ックス桁の端部ダイアフラムを外側に張り出し,ここと橋脚上端間を鉄筋で結んであったが,この部分が写
真-5.20.21 に示すように被災した.桁の浮き上がりが生じたためと考えられる.曲率半径の短い曲線橋では
このような被害が生じやすいことに注意しておく必要がある.
一方,左岸側(San Pedoro 側)では,本線 4 車線だけであるため,右岸側(コンセプション側)に比較す
ると桁幅は狭い.写真-5.20.22 に示すように T 桁の損傷が見られた.液状化が随所に見られたが,特に橋に
対する影響は生じていない.
写真-5.20.1 Llacolen 橋アプローチ桁の落橋
(APによる)
写真-5.20.3
Llacolen 橋を支持する橋脚群
写真-5.20.2
本線のアプローチ橋
写真-5.20.4 落橋したアプローチ桁(手前はオフ
ランプ橋、向こう側にオンランプ橋(曲線橋、写真5.20.15 参照)が見える)
写真-5.20.5
落橋したアプローチ桁と応急
ベーリー橋
(ベーリー橋に関しては写真-5.20.14 参照)
写真-5.20.6
写真-5.20.8
写真-5.20.7
桁支持部のクローズアップ
落下した側の橋脚キャップビーム
落橋した桁を支持していた橋脚キャッ
プビームの下側に生じた損傷
写真-5.20.9 落橋したアプローチ桁の端部
(手前の橋脚の損傷の詳細は写真 5-20-14 参照)
写真-5.20.10
写真-5.20.11
床版の破壊(落橋したアプローチ桁)
落橋したアプローチ桁
に生じた床版の破壊
写真-5.20.12 T桁と床版間の破壊
(落橋したアプローチ桁)
写真-5.20.13 T桁と床版間の破壊
(落橋したアプローチ桁)
写真-5.20.14
橋脚の損傷(写真 5-20-9 参照)
写真-5.20.15
落橋したアプローチ桁を支持してい
た橋脚
写真-5.20.16 橋脚基部と地盤間に生じた水平に約
40cm、深さ約 60cm の空隙
(落橋したアプローチ桁を支持していた橋脚、
写真-5.20.15 参照)
写真-5.20.17
応急ベーリー橋
写真-5.20.18
写真-5.20.20
オンランプ曲線橋
橋軸直角方向への桁移動の痕跡
写真-5.20.22
San Pedoro 側の桁の被害
写真-5.20.19
落橋寸前のオンランプ曲線橋支持部
写真-5.20.21
側の桁と橋脚の固定部に生じた損傷
写真-5.20.23
液状化の痕跡
(21) Biobio Viejo 橋
本橋は,コンセプションにおいて,Biobio 川の河口を横断する位置を渡河する橋である(写真-5.21.1).
1930 年代に建設されており,1960 年のチリ地震で一部落橋が生じ,補修が実施されている.1990 年代に実
施された JICA による調査により,著しい老朽化と架け替えの必要性の指摘がなされた橋であった.MOP か
ら 1960 年のチリ地震による被災の補修時の図面情報の提供を受けたが,腐食等の老朽化がかなり激しく進
展している.
本橋は,合計 98 径間を有する単純鋼 I 桁橋であり,橋長は 1646m である.直橋である.上部構造は,2
車線を有する鋼 I4 主桁から構成される.橋脚は RC 壁式構造で,基礎は杭基礎とパイルベント構造から構成
される.支承部は線支承である.
地震により,98 径間と多径間橋全体の大きく3区間で下部構造の破壊,倒壊が生じ,これによって上部
構造が落下した(写真-5.21.2).その他,橋脚の傾斜,ひびわれ損傷等が確認されている(写真-5.21.3).
上部構造が橋脚と一緒に傾斜した箇所では落橋が生じていないようであるが,支承部で相対変位が生じた箇
所では,桁が隣接する桁を押し出すような形で落下している箇所も確認された.詳細な検討が必要であるが,
落橋には,地震動と地盤の変状に伴う基礎及び下部構造の移動と損傷が要因として考えられる.
アプローチ部についても,土構造部に顕著な変状が確認された(写真-5.21.4).
なお,本橋の橋台近傍では,写真-5.21.5 に示すようにボーリング調査が実施されていた.詳細は,今後検
討が必要とされるが,ボーリングデータからは,比較的粒度の揃った砂層が確認されており,液状化の影響
の可能性が確認された(写真-5.21.6).
写真-5.21.1
写真-5.21.3
旧 Biobio 橋の全景と落橋
橋脚の傾斜
写真-5.21.2
写真-5.21.4
旧 Biobio 橋の落橋
橋台背面部の地盤の変状(沈下、流動変位等)
写真-5.21.5
近傍地盤で実施されていたボーリング調査 写真-5.21.6
ボーリング調査によるサンプリング試料
(22) La Mochita 橋
本橋は,コンセプションの Biobio 川沿いの道路に架かる4径間単純 PC 桁橋(写真-5.22.1)で,横桁が取
り付けられている構造であった.また,下部構造は2柱式ラーメン橋脚である.本橋は図-5.22.1 に示すよう
に,Biobio 川から貯水施設への水路を跨ぐ橋となっており,橋への取り付け道路は写真-5.22.2 のように崩れ
ている状態であった.
地震により,本橋は写真-5.22.3 に示すように,南側橋台位置において桁が貯水池側の方向に約 85cm 移動
するとともに,桁との衝突により,橋台沓座側端部の切り欠きが損傷する被害が生じた.北側の橋台におい
ても,写真-5.26.4 に示すように,貯水池側の方向に桁が移動していた.本橋の橋脚付近の地盤では,写真5.22.5 及び図-5.22.1 のように地盤に多数のクラックが生じており,また噴砂も生じていることから,液状化
によって地盤が貯水池側に向かって移動し,橋脚の基礎が地盤の動きに追随して移動した可能性は考えられ
る.
一方,中間橋脚のはり両端のカーテンウォールには,桁との衝突により写真-5.22.6 のような損傷が生じた.
ただし,カーテンウォールの損傷は両側ともに生じていることから,桁が振動した可能性もあり,地盤の流
動化との因果関係については,橋脚や橋台の移動量を計測する等,詳細に調査する必要がある.
写真-5.22.1
La Mochita 橋の全景
写真-5.22.2
取り付け道路の被災状況
貯水池施設
貯水池
下部構造の移動
南側
北側
地盤のクラック
Rio Biobio
図-5.22.1
La Mochita 橋の概要と想定される地盤の変状に伴う下部構造の移動
(a)舗装面位置
写真-5.22.3
写真-5.22.4
(b)桁下位置
橋台(南側)における桁の橋軸直角方向への移動
橋台(北側)における桁の移動
写真-5.22.6
写真-5.22.5
中間橋脚付近の地盤のクラック
橋脚はり端部のカーテンウォールの損傷
(23) Laraquete 橋(人道橋)
本橋は,コンセプションからアラウコに向かう途中の Laraquete 地区にあった人道橋である.この人道橋
は河口からはわずか数百メートルの距離に位置している.写真-5.23.1 に示すように,上流側から人道橋,地
方道,鉄道橋の順に並んでおり,鉄道橋のすぐ下流が河口となっている.人道橋は図-5.23.1 に示すように,
長さ 25m,幅員 2.5mの単純桁2連の橋梁である.地元住民の話しでは,地震により中央部の橋脚が 1m沈
下したとのことである.写真-5.23.2~5.23.5 に人道橋の損傷状況を示すが,中央部で橋脚沈下が発生してい
るものの,両端の端台部では損傷は見られない.これに対して写真-5.23.3 に示すように桁には 10cm 程度の
横方向の移動が認められる.橋脚沈下の原因としては,現地では液状化などの痕跡は見いだせなかったが,
地盤の沈下にともなう橋脚の沈下の可能性が考えられる.
地元住民の話しでは,この人道橋には橋台付近まで津波が押し寄せてきたが,この津波によって人道橋に
は特に被害は発生しなかったとのことである.事実,橋台や中間橋脚のある桁間には大量の藻の残塊があり,
住民の証言とも一致する.しかしながら,桁を覆うような水位にはならなかったため,桁移動などは発生し
なかったと考えられる.また,地元住民の話しでは下流側の地方道や鉄道橋にも津波に伴う損傷は発生して
いないとのことである.
25mm
25mm
河川
写真-5.23.1
Laraquete 人道橋(出典:Google Earth)
写真-5.23.2
写真-5.23.4
橋梁沈下状況
人道橋橋台付近の状況
図-5.23.1
1m沈下
橋梁沈下状況
写真-5.23.3
写真-5.23.5
人道橋断面状況
中間橋脚上の桁間の状況
(24) Raqui I 橋
本橋は,コンセプション南方のアラウコからチュブルの間にある橋梁で,写真-5.24.1 に示すように 2 径間
鋼版桁形式単純橋である.写真-5.24.2 に示すように,支承部では下フランジの下に鋼板を敷いただけの単純
な構造である.地震により桁が橋台側に押し込まれ(あるいは,橋台が前傾した可能性もある),橋台パラ
ペット基部が損傷した.
写真-5.24.1
Raqui I 号橋
写真-5.24.2
支承部
(25) Raqui II 橋
本橋は,コンセプション南方のアラウコからチュブルの間にある橋梁である(写真-5.25.1).Raqui I 号
橋,同 II 号橋と Tubul 橋の3橋は,ちょうど入り江のようなところを渡る道路にあるため,周辺は湿地帯の
ようになっており,地盤が軟弱な状態であることが推測された.建設年次の情報はないが,比較的古い構造
と推測される.
本橋は,2車線を有する4径間単純鋼 I 桁橋である.直橋である.上部構造は,RC 床版と鋼 I3 主桁から
構成される.桁端部には RC 製の端横桁が設置されていたが,これは後で設置されたように推測された.橋
脚は RC 壁式構造で,橋台は RC 逆 T 式である.基礎についての情報はない.支承部としては,鋼 I 桁下に
ゴムパッド支承を有し,端横桁と下部構造は2本の垂直方向の鉄筋で連結されていた.
地震により,4径間のうち,両端の桁を除く,中間の2つの上部構造が落下した.上部構造は,直角方向
に約 70cm 変位するとともに,橋軸方向にも大きく変位し,中間橋脚部で上部構造が落下した部分では,橋
台側の上部構造が隣接する桁を押し出すように,落下していることが確認された(写真-5.25.2,5.25.3,
5.25.4).端横桁と下部構造を結ぶ鋼材は,大きく変形していた.
RC 橋脚については,上部構造の変位,落下に伴う天端の欠け落ち等以外では,躯体のひびわれ等の顕著
な損傷は確認できなかった.橋台については,上部構造が RC パラペットにもぐり込むように,パラペット
躯体部が損傷していた(写真-5.25.5).
なお,アプローチ部の盛土構造は,舗装が大きく崩れる顕著な変状が確認された(写真-5.25.6).
写真-5.25.1
Raqui II 橋の落橋
写真-5.25.2
上部構造の橋軸直角方向への残留変位
写真-5.25.3
写真-5.25.5
上部構造の橋軸直角方向への残
留変位
主桁の橋台パラペットへの潜り込みに
よる損傷
写真-5.25.4
上部構造の橋軸方向への残留変位
写真-5.25.6
橋台背面土の崩壊状況
(26) Tubul 橋
本橋は,コンセプションから海岸沿いにおよそ 70km 南下したアラウコ地区に立地する8径間単純鋼桁橋
で,下部構造は壁式橋脚である.本橋は,交通量は少ない橋とのことであったが,1997 年に完成した新し
い橋である.
地震により,本橋は写真-5.26.1 及び 5.26.2 に示すように全径間の桁が落橋する被害が生じた.また,この
橋に取り付く道路も,写真-5.26.3 のように大きく損壊している.本橋の調査は一方の対岸からのみ行ったが,
写真-5.26.4~5.26.6 に示すように,橋台背面土も大きく沈下していること,橋台部の橋軸方向への橋座長さ
を現地で計測すると 38cm であったこと,さ
らに,写真-5.26.7 のように,橋脚が大きく傾
斜していることを鑑みると,地盤条件が非常
に軟弱であるか,あるいは液状化が生じたこ
とによって,基礎の支持力が不足し,橋脚が
沈下,傾斜したこと,さらには,そのような
下部構造の変位に対して,けたかかり長が十
分でないために,単純桁が下部構造頂部から
逸脱して落下したのでないかと考えられる.
また,一部の橋脚には写真-5.26.8 のような
損傷が生じていることも確認したが,もっと
も対岸側の橋脚であったため,詳細は近傍目
視では確認できていない.
写真-5.26.1
Tubul 橋の全景と落橋の状況
写真-5.26.2
写真-5.26.4
写真-5.26.6
対岸側の落橋の状況(拡大)
橋座長さが 38cm であった橋台
橋座に残された
ネオプレーンゴム
写真-5.26.7
写真-5.26.3
Tubul 橋への取り付け道路の損傷
写真-5.26.5 橋台背面土が大きく沈下
大きく傾斜した橋脚
写真-5.26.8
橋脚に生じた損傷
(27) Santa Isabela Shopping Center アプローチ橋
本橋は,タルカワノからコンセプションに向かう主要道路のサンタ・イザベラスーパー前に設置されたア
プローチ橋であり,図-5.27.1 に示すように,スーパーに乗り入れるために高架構造となっている.写真5.27.1~5.27.5 に高架橋の構造を示す.
施工は地元住民の説明によるとスーパー自身が実施しているとのことである.下部構造はラーメン構造と
なっており,上部構造は横桁を有する3主桁の単純PC桁のようである.中央部のPC桁部が支保工で支え
られており,補修中のように見受けられた.一方,下部構造,上部構造の損傷状況を調査したが,ラーメン
橋脚基部にわずかな損傷が見受けられる程度であった.地元住民の説明によると,地震による被害を受けた
橋梁ではないとのことであり,ベント設置の理由は不明であるが,改築工事中であった可能性が高い.
スーパー入口
橋台
橋台
:仮設のベント
図-5.27.1
高架橋模式図
写真-5.27.2
写真-5.27.4
高架橋中央部
高架橋中央部の仮設ベント
橋台
写真-5.27.1
スーパー前高架橋西側
写真-5.27.3
写真-5.27.5
高架橋中央部
高架橋スーパー入口部
(28) Las Ballenas 橋
本橋は,写真 5.28.1 に示すように 4 径間単純の PCT 桁橋で
ある.平面寸法 600mm×600mm,高さ 150mm の積層ゴム支
承で支持されていた.このクラスの積層ゴム支承では,鋼板
厚さは 2mm で,ゴム 1 層の厚さは 12~16mm 程度と言われ
る.
地震により,桁には特に損傷は生じていないが,桁が橋台
側に移動し(あるいは,橋台が前傾した可能性もある),写
真-5.28.2 に示すように橋台側に残留変形した支承や,写真5.28.3 に示すようにゴム層内で破断した支承が見られた.写
真-5.28.3 の例では,残留変位は約 110mm であり,支承全高
の 70%に相当する残留ひずみが生じたことになる.
写真-5.28.2
橋台側の桁移動と積層ゴム支承
写真-5.28.1
Las Ballenas 橋の残留変位
写真-5.28.3 破断した積層ゴム支承
(29) Puerto de Lirquen 高架橋
本橋は,コンセプション北部のペンコとトメを結ぶイタタ自動車道 150 号がリルクエンを通る位置に建設
された橋梁である(写真-5.29.1 および 5.29.2).建設年次の情報ないが,建設されてまだ新しい橋である.
本橋は,2車線を有する6径間単純 PCI 桁橋であり,直橋である.上部構造は,RC 床版と PCI3 主桁から
構成される.桁端部には写真-5.29.3 に示すように,RC 製の端横桁が設置されており,端横桁と下部構造は,
隣接する主桁間で 2 本ずつの垂直方向鉄筋で連結されている.橋脚は,高さ 30m規模の高橋脚構造を有す
る RC 柱式であり,橋台は RC 逆 T 式である.基礎については,情報はないが,チリ基準によるとフーチン
グを有する直接基礎,あるいは,フーチングを有する杭基礎が標準となっている.支承部は,PCI 桁下にゴ
ムパッド支承を有し,主桁は橋軸直角方向に変位を拘束するように下部構造天端を切り欠いて設置されてい
る.
地震により,基本的には顕著な影響を受けていない.橋軸直角方向に変位を拘束するように下部構造天端
を切り欠いて形成されているシェアキーと主桁の接触により,上部構造横桁あるいは下部構造天端のかぶり
コンクリートが剝離して落下している箇所が3箇所確認された程度である(写真-5.29.4 及び 5.29.5).
本橋は,地理的にも相応の地震動が生じたと想定されるが,他の被災橋との比較という観点から,チリ基
準で設計された比較的新しい橋において損傷がほとんど生じなかったという点で特徴的と言えよう.
写真-5.29.1
Puerto de Lirquen 高架橋全景
写真-5.29.2
高橋脚構造
写真-5.29.3
写真-5.29.4
端横桁と上下部構造を連結する鉄筋
橋脚天端における主桁固定位置の
かぶりコンクリートの剥離
写真-5.29.5
橋台部の主桁端部の横桁のかぶり
コンクリートの剥離
(30) Itata 橋
本橋は,コンセプションの北部 Coelemu 近郊の Itata 川に架かる3径間単純鋼桁橋(写真-5.30.1)と20径
間単純鋼桁橋(写真-5.30.2)から構成されており,両者間は共用橋台でつながっている.上部構造の鋼桁が
2主桁であるという点が特徴的である.下部構造は壁式橋脚である.写真-5.30.3 に示すように,フーチング
下面の地盤が流出している状態の下部構造も見られ,洗掘の影響のある橋であることがわかる.
地震により,20径間側の橋脚において,写真-5.30.4 に示すように,橋脚頂部の橋座面の張り出し付け根
部でせん断損傷が生じており,張り出し部のコンクリート塊が落下寸前の状態となっていた.橋脚は壁式橋
脚であるが,2本の主桁は壁式断面からわずかに張り出した部位で支持されている構造である.このような
構造の場合,上部構造慣性力が張り出し部を介して下部構造に伝達されるため,その付け根部には地震力が
集中しやすくなると考えられる.写真-5.30.4 から推察するに,付け根部に配筋されていた鉄筋は細いようで
あり,耐力が十分でなかった可能性もある.また,本橋は2主桁の単純橋でもあることから,桁を支持して
いる張り出し部のコンクリートが落下すると,桁の落下にもつながりかねないため,鉛直支持を補完するた
めの応急措置が必要と考えられる.なお,写真-5.30.5 のように,このような損傷が,連単する他の橋脚でも
同様に生じていた.
写真-5.30.1
Itata 橋(3径間部)
写真-5.30.2
Itata 橋(20径間部)
写真-5.30.3
洗掘された基礎
写真-5.30.5
張り出し付け根部の損傷状況
写真-5.30.4
橋脚橋座部に生じた損傷
写真-5.30.6 橋台パラペットとの衝突による損傷
また,本橋では,写真-5.30.6 に示すような橋台と桁が衝突したことによると思われる損傷や伸縮措置の損
傷が生じていた.
なお,本橋では,橋を通行する車両の流入規制が行われていた.
(31) Lo Gallardo 橋
本橋は,サンアントニオ市内の Maipo 川にかかる長さ 900m にも及ぶ橋梁である.写真-5.31.1 及び 5.31.2
に示すとおり,壁式橋脚に4主桁の PC 桁が設置されており,径間数は 27 程度,スパン長は約 30m,幅員は
約 10m である.
今回の地震により,ほとんどの桁が橋軸直角方向および橋軸方向に移動することにより,写真 5.31.3 に示
すとおり橋脚梁端部のコンクリートブロックにせん断損傷が生じたりしているが,ひび割れ角度によっては
極端に縁端距離不足になる.被災の原因としては,端部のコンクリートブロックが十分な厚さや耐力を有し
ないこと,および,十分なせん断鉄筋が配置されていないためにひび割れが生じやすく破壊に至りやすかっ
たと考えられる.また,写真-5.31.4 に示すとおり,桁の橋軸方向の移動により縁端距離がほとんどなくなり
落橋寸前のものが多数見受けられた.この原因としては,桁縁端距離が 50cm 程度と十分な長さが確保され
ていないこと,および橋軸方向の桁移動に対して変位制限装置もないことによると考えられる.
現地においては,これらの損傷状況に対応するために,写真-5.31.5 及び 5.31.6 に示すように,落橋寸前の
桁に対して鋼管のベントで支える工法が採用されていた.地震後わずか1ヶ月たらずで応急対策が実施され,
規制しながらも車両を通行させる努力が講じられていた.路面には桁の移動により橋軸方向に 5cm 程度の遊
間が,また 10cm 程度の横方向の桁移動がそれぞれ発生していた.このため,路面にはカラーコーンを設置
し,車両の通行量および速度の規制が実施されていた.また,写真-5.31.5 に示すように,当該桁に対しては
1径間分を跨ぐベーリー橋を設置し,当該桁に活荷重がかからないように工夫されていた.
なお,本橋の横には旧橋(cortade)が架けられていたが,1985 年のバルパライソ地震により落橋し,一部
はそのままの状態で存置されていた.この旧橋はゲンバー橋であり,ゲルバー桁の部分が落下している状態
が確認された.
写真-5.31.1
写真-5.31.3
橋梁側面写真
写真-5.31.2
橋梁端部梁損傷状況
写真-5.31.4
写真-5.31.6
写真-5.31.5
PC桁の形状
ベーリ-橋設置状況
桁移動に伴う損傷
ベント設置状況
6. 被害の特徴
(1)概要
今回の調査では,事前情報とチリ公共事業所省からの聞き取り調査に基づき,31 カ所の橋梁の被災調査
を行った.このうち落橋が生じた橋は 12 橋であるが,5.8 に示した歩道橋の 1 橋を除いた 11 の道路橋に対
して,これらの橋の構造特性等をまとめると表-6.1.1 のとおりである.
これより,落橋した上部構造は全て単純桁であるが,PC単純桁でかつ横桁のない橋梁において落橋が生
じていることがわる.また,落橋した橋の特性としては,斜角のある斜橋や液状化等によって周辺地盤に変
状が確認された橋梁であるという特性も見られる.
そこで,本章では,横桁のないPC桁の被害,斜橋の被害,周辺地盤の変状に伴う被害の3つの分類に区分
して被害の特徴を整理する.
表-6.1.1
No.*
橋梁名
落橋した道路橋の構造特性等
落橋した上部構造
の形式
直橋/斜橋
の区別
周辺の地盤
変状の有無
**
Av. Americo Vespucio/Av. Mira Flores 立体 PC単純桁(横桁なし)
斜橋
交差橋
Av. Americo Vespucio / Av. Lo Echeveres 立 PC単純桁(横桁なし)
斜橋
2
体交差橋
Av. Manuel Antonio Matta / Linea de 鋼単純桁
斜橋
5
Ferroccarril 鉄道立体交差橋
Hospital 橋
PC単純桁(横桁不明***)
斜橋
7
Claro 橋
れんが造アーチ
直橋
12
Copihue 跨線橋
PC単純桁(横桁不明***)
斜橋
15
Chillan 近郊のゲルバー橋
ゲルバー桁
斜橋
18
Llacolen 橋
PC単純桁(横桁なし)
直橋
20
Biobio
Viejo
橋
鋼単純桁
直橋
21
Raqui II 橋
鋼単純桁
直橋
25
Tubul 橋
鋼単純桁
直橋
26
*橋梁ナンバーは 5 章の節番号に対応
**液状化等の原因によって橋梁周辺の地盤に変状が生じているのを確認した箇所について「あり」と記載
***調査時点において上部構造が撤去されていたため横桁の有無については未確認
1
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
あり
あり
あり
あり
(2)横桁が省略されたPC桁橋の被害の特徴
チリでは支間 30m 程度の一般橋ではプレテンPC桁による形式が主流となってきており,高速道路や高
速道路を跨ぐ跨道橋,地方道に広く採用されている.注視すべき点は,これらのプレテンPC桁橋では,1990
年代の半ば頃から,横桁や桁の移動制限のための機構が省略された形式が出現してき,今回の地震では,写
真-6.2.1 に例示するように,このような構造特性をもった橋に大きな被害が生じたという点である.このこ
とが,比較的最近建設された新しい橋に被害が集注するという結果をもたらした.
図-6.2.1 は,チリにおけるプレテンPC桁の構造について, 1990 年代半ばを境にどのように変わったのか
を模式的に示したものである.プレテンションPC桁を横に並べて,その上に床版を設置した構造は日本で
も小規模橋梁によく採用される形式であるが,大きく違うのはPC桁間を横方向につなぐ横桁が設けられて
いない点である.これは建設の容易さとコスト縮減をねらったものであるが,このような構造は耐震性に大
きな問題をもたらす.すなわち,横桁がない場合,特に橋軸直角方向に対して上部構造としての一体性に欠
け,特定の桁に地震力が集中しやすく,逐次破壊的に桁が破損し,上部構造全体の崩壊に至ることが懸念さ
れる.
もともとチリでは横桁を設ける構造が主流であったが,道路建設・維持の民間委託が進む中で,耐震対策
の経験が少ないスペインの橋梁技術がチリに導入され,技術提案として出された横桁を省くPC上部構造が
建設されるようになったとのことである.さらに,図-6.2.1 に示したように,もともとチリの基準では,橋
脚上端に橋軸直角方向への桁移制限用の切り株(いわゆるせん断キー)が設けられていたが,これも民間委
託された道路橋では採用されなくなってしまったようである.
最もわかりやすい事例が,5.7 の節で示した Hospital 橋である.写真-6.2.2 に示すように,本橋は上下線分離
で,一方は従来のチリ基準,もう一方はスペインの技術によって建設された構造であった.さらに,チリ基準
の橋は直橋,スペイン技術の橋は斜角の小さい斜橋という構造でもあった.今回の地震により,スペインの
技術によって築造された橋は崩壊した一方で,チリ基準による橋はほとんど無被害であり,崩壊した橋の構
造が非常に耐震性に劣った構造であったことを明確に示した事例と言える.
なお,図-6.2.2 は,サンティアゴ市内の高速道路のPC桁において見られた橋座部での鋼製ブラケットの
損傷を示したものである.この鋼製ブラケットは,水平方向の移動制限としての機能を期待して取り付けられ
たものではなく,桁の浮き上がり防止対策のためとのことらしく,詳細は明確でないが,これもスペインの
技術提案として採用されたものとのことであった.今回の地震によってほとんどのこの鋼製ブラケットにお
いて,桁が衝突することによって折損したり,ピアキャップとの定着部で破壊したりする被害があった点も
特徴のひとつである.ただ,この鋼製ブラケット自体の剛性,強度,さらにはピアキャップへの定着方法等
は明らかに十分とは言えず,横桁の省略の問題点と併せて,耐震性確保の観点からは着目すべき点であると
考えられる.
写真-6.2.1
横桁が省略されたPC単純桁橋の被害例
横桁(端横桁、中間横桁)
プレテン桁
橋脚/橋台上横はり
ネオプレーンゴム
移動制限ストッパー
(せん断キー)
橋脚
(a)1990 年代半ば以前の標準形式
横桁を省略した形式
横桁と桁の移動制限機構を省略した形式
(b)1990 年代半ば以降に、民間委託によりスペインの影響を受けて建設されてきた標準形式
図-6.2.1
写真-6.2.2
チリにおけるプレテンPC単純桁構造の特徴
並列して立地していたチリ基準で設計されたPC桁橋と横桁が省略されたPC桁橋
図-6.2.2
桁の浮き上がり防止対策として設置された鋼製ブラケットとその損傷
(3)斜橋の被害の特徴
斜橋の被害は,既に国内外における既往の地震によっても生じている.我が国では,1995 年兵庫県南部
地震により斜角をもった跨線橋が回転して下部構造から逸脱し,上部構造が線路上に落下するという被害が
生じている10).表-6.1.1 に示したように,今回のチリ地震においても,調査できた落橋した道路橋 11 橋(歩
道橋の落橋は除く)のうち 6 橋が斜橋であり,斜橋に被害が集中していると言える.
図-6.3.1 に模式的に示すように,斜橋は振動して橋台や隣接桁間で衝突すると,鈍角端から鋭角端に向かう方
向に回転しやすい特性をもっている11).チリでは支承(多くはネオプレーンゴム支承)によって桁と下部
構造間が固定されておらず,自由に滑る構造となっている.さらに,前節で概説したように,1990 年代半
ば以降建設された橋では橋軸直角方向の桁移動制限機構がないものが多いため,写真-6.3.1 のように桁が回
転しやすい構造条件となっている.また,けたかかり長も短いことも相まって,写真-6.3.2 の橋ように,桁
が橋脚や橋台の支持部から外れて落下したと推定される.また,写真-6.2.2 に示した Hospital 橋や写真-6.3.3
に示す Copihue 跨線橋の例は,直橋と斜橋の耐震性を比較する上でわかりやすい事例といえよう.
図-6.3.1
斜橋が回転して落橋するメカニズム
写真-6.3.2
写真-6.3.1 地震による斜橋の回転
(Los Niches 橋)
Manuel Antonio Matta 鉄道立体交差橋(斜橋)の落橋
(鋭角端側へ桁が移動して落橋している)
写真-6.3.3
Copihue 跨線橋における斜橋部の落橋
(4)地盤変状の影響を受けた橋の被害の特徴
今回調査を行うことができたコンセプション地区の Biobio 川に架かる橋梁等(前章の 5.19~5.22)やアラ
ウコ地区の橋梁(前章の 5.24~5.26)においては,橋の周辺の地盤や取り付け道路の盛土において沈下等の
被害が生じていた。これらの橋においても,前章の当該橋の節において記述しているとおり,橋脚や橋台の
沈下や傾斜,移動等が生じ,これが橋の損傷や落橋につながった可能性がある.
今回の調査では,正確な測量や地盤調査を行っていないため,液状化による地盤変状がどの程度橋に影響
を及ぼしたかについては定量的な評価ができないが,今回の地震による被害の特徴の一つといえる.
写真-6.4.1
下部構造の沈下によって生じた桁の波打ち
(Juan PabloⅡ橋)
写真-6.4.2 下部構造の傾斜によって生じた
桁の落橋(Tubul 橋)
(a)橋脚付近に生じた地盤のクラック
(b)舗装面位置に生じた直角方向への移動
写真-6.4.3 下部構造の側方移動によって生じたと推定される損傷(La Mochita 橋)
7.チリ公共事事業省との打ち合わせ
(1)現地調査前の聞き取りによる情報収集
本調査では,現地での実際の調査に先立ち,チリ公共事業省(Ministerio de Obras Publicas, MOP)の技術
者から聞き取りによる調査を行った.打合せは,MOP の国際担当である Mr. Jose Miguel Ortega Julio 氏のア
レンジにより,道路局長,ならびに,道路局エンジニアリング部門構造プロジェクトチーム及び公共事業民
間委託コーディネート部門の担当技術者らと打合せを行い,チリ地震による橋梁の被災とその特徴について
情報収集を行った.
本節では,打合せにより得られた情報の概要を示すこととする.
1)道路局長 Mr. Mario Fernandez 氏
・今回の地震は M8.8 という非常に大きなマグニチュードの地震であり,津波による被害が大きかった.被
災はチリの中部,南部が中心であるが,地震の規模に照らして,橋の被害は限定的だったという認識.
・地震の影響を受けた 5 つの州には 4,700 の橋があるが,被災したのは 200 橋程度であり,割合としては 5%
以下.
・落橋した橋の類型としては,①主桁の横移動により桁固定金具が損傷し落橋したもの,②地盤の液状化に
より落橋したもの,の2つに分類される.①については,サイドストッパーの強度,定着方向が十分では
なかったと考えている.コンセプションにはRio Biobioに架かる2km橋が2つあるが,そのうちの1橋
(旧橋)が②により落橋した.地震前から耐震上の問題があるとの認識から人道橋として使っていたもの
だが,今後土質試験を実施した上で,復旧をするのかどうかを判断する.新橋の方は,そのアクセス道路
の部分で被害はあるが,通行は可能な状態.日交通量が8万台の重要な橋であり,アクセス道路の早急な
復旧が必要.
2)道路局エンジニアリング部門 Mr. Claudio Rivera Osses 氏
・今回の地震では、落橋すると思っていた橋が落橋したが,被害の生じなかった橋が非常に多いという認識
であり,何故被害が生じなかったのかという観点からの分析が必要と認識.
・プレテンPC桁の橋座にある固定金具の構造については,新しい技術として民間からの提案で採用された
構造であったが,耐震上は十分な構造ではなかったと認識.また,古い橋に比べると,PC桁の採用によ
り上部構造重量が重かったのも要因ではないかと認識.
・ただし,古い橋については被害が生じていないことを見てほしい.Nipas の Confluencial に架かる古い橋
(1904 年に完成した RC 構造)は耐震基準がない頃に建造されたものであるが,被害が生じてなく,落橋
しなかった理由を説明する方が難しい.
・チリでは産官共同で基準を策定している.
3)道路局エンジニアリング部門構造プロジェクトチーム Mr. Mauricio Guzman 氏 他
(a) 被害の概要
・橋の被害は,チリ第5州から第9州で生じたが,M8.8 の大地震にも関わらず橋の被害は少なかった.現
在までに,国内の幹線道路は点検を終えているが,橋へのアクセス道路で被災が生じているものもある.
・PC桁の横移動により落橋した橋は,もともと民間からの提案により採用されたものであるが,基本的に
チリの橋は AASHTO に準拠して設計されており,その橋については基本的に被害は生じていない.
(b) PC桁横移動による落橋した橋の構造と被害
・今回の地震で落橋したサンティアゴの橋は,コスト縮減の観点から,工場で製作されたプレテンション桁
を使用し,さらに端横桁や中間横桁を設けない上部構造形式となっており,スペインの技術者から提案が
あったものであり,チリでは 1995 年頃から採用されている橋がある.今回の地震で落橋したのは,端横
桁のないタイプの橋であり,けたの横方向への移動に対する落下防止という観点では,端横桁を設けると
いうのが重要だと認識している.
・桁端部の下フランジ部や,当該桁端を支持する橋脚のはり部分に損傷が生じているが,これらは,地震に
よって桁が浮き上がり,その後はりに着地する際の衝撃力によって生じたものと推測している.
・Zone2 に該当するサンティアゴでは端横桁のない同種の橋があり,落橋はしていないものの橋座部の鋼製
ブラケットに損傷がでている橋がある.ただし,地震リスクの高い Zone3 の海岸地区ではこのタイプの橋
は採用していない.落橋したのは3径間の橋であったが,両端橋台の1径間単純橋の場合には,このタイ
プの構造を採用した橋でも被害は生じていない.
・橋脚には被害は生じていない.
写真-7.1.1 道路局エンジニアリング
部門構造プロジェクトチームとの打合せ
写真-7.1.2
公共事業民間委託コーディネート部門
との打合せ
(c) 端横桁のないPC桁橋の復旧方針
・MOP では,上部構造をもとの位置に戻し,橋台のせん断キー,主桁のひびわれ,伸縮装置を修復するこ
とにより復旧が可能と判断.
・PC桁橋座部の鋼製ブラケットの強度,アンカーボルトの定着のしかた,作用する地震力の計算方法等に
ついては見直しが必要.
・端横桁を取り付けるとともに,横移動を制限するストッパーのシステムを構築するとともに,ストッパー
となる部位には緩衝ゴムを設置する考えを検討している.
(d) PC桁横移動により落橋した橋の要因に関する MOP の見解
・地震により上部構造に横移動が生じるとともに,桁の跳ね上がりも生じ,はりの上に戻る際に桁に衝撃的
な力が作用した.
・上部構造の横移動に対して,PC桁橋座部の鋼製ブラケットは移動制限の機能を果たすに必要な強度,定
着が十分でなかった.
・端横桁がない構造であったことも落橋を防げなかった要因となった.
・斜角のある橋において,支承部の損傷が大きかった.
・下部構造には被害が生じなかった.
(e) MOP としての今後の課題と論点
・構造物を補強することによって周期を短くする考え方と,フレキシブルな構造とし周期を長くする考え方
は,どちらがよいか.
・落橋防止の観点からは,上下部一体の構造形式の方が望ましいか.
・基礎の洗掘の問題があるような場合でも,連続けたを採用してよいか.
・チリの地震リスクは3段階に区分しているが,サンティアゴはもっと細分化した方がよいか.
4) 公共事業民間委託コーディネート部門 Mr. Alejandro Molina Aguirre 氏 他
(a) 地震による橋の被害の概要
・現在,橋の事業管理について民間企業との間で 25~26 の契約が結ばれている.
・民家委託されている橋,道路の被害数は以下のとおり
橋
16 橋(2.5%)
高架の橋
11 橋(1.8%)
アンダーパス 22 橋(4.7%)
歩道橋
52 橋(11.8%)
道路
100km(2.9%)
(b) サンティアゴ都市高速 Costenra Norrte
・橋軸直角方向への桁の横ずれ,伸縮装置の開きが生じた.
・地震発生が午前3時頃であり,交通量が少なかった.(橋の落下による死者はいないとのこと)
・2径間単純橋で,床版は連続構造となっている.支点部には,地震時にけたが浮き上がるのを防止のため
の鋼棒が取り付けられているが,この鋼棒は横ずれ防止用ではない.
・歩道橋は,単純支持されているものが落下した.
・横桁のないプレテンPC桁において,桁の直角方向への移動に伴って,外側のプレテン桁の支点に近い位
置で損傷が生じている.
・マイポ川と橋の立地との関係に注目している.川に近いほど被害がなく,遠いほど被害が生じている傾向
がある.地質との関係があるのではないかと考えている.
(c) ランカグア(サンティアゴとタルカの間)
・横桁のないPC桁が横ずれをし,下部構造端部から脱落し落橋した.この構造はスペインのからの提案で
採用されたもので,当時は,工期短縮が図れる技術として活用された.ただし、1995 年まではチリでも
横桁を取り付けていた.(桁はスペインの ALCHISA 社製)
・今後,横ずれを元の位置に戻し,横桁を取り付ける補強を行う考えである.
(d) クラロ橋(れんが造アーチ橋)の落橋
・1870 年に建設されたモニュメント的な橋.15 年前の前回の大きな地震でも被害がなく,幹線道路の橋と
して長く使われてきた橋である.
・本橋については,残念ではあるが,復旧はせず取り壊しとする考え.
(e) コンセプション地区
・5 号線では古い橋の被害はなく,新しい橋で損傷しているのが多い.比較検討するよい素材である.
・Biobio 川には,河口から順に,J.PauloII 橋(1970 年代に建設),LLacolen 橋(新橋),チャカモコ橋(旧
橋)が架かっているが,地震により,旧橋のチャカモコ橋が落橋,J.PauloII 橋において一部区間において
橋の沈下が生じた.
・旧橋のすぐ下流側に新しい橋を急速施工で建設したいと考えており,そのための技術が必要.J.PauloII 橋
は,沈下した原因を調査している.いずれにせよ,地盤の詳細な調査を実施する.
・新橋では被害がないが,取り付け部の道路において陥没が発生している.交通量の多い重要な道路である
ことから,早期復旧を図る必要がある.
(2) 調査結果報告会
現地調査の行程を全て終えた後,調査の結果を MOP に報告するとともに,日本での耐震設計技術の紹介
と意見交換の場を持つことを目的として,4 月 5 日午前 9 時~12 時までの時間を使って調査結果報告会を開
催した(写真-7.2.1).この報告会には,MOP から技術者ら 20 名程度が出席した(写真-7.2.2).
報告会では,まず調査団の川島リーダーが調査結果全般について説明を行った.その中で,端横桁のない
PC桁橋や斜橋の被災メカニズム等について概説するとともに,Puerto de Lirquen 高架橋のように,チリ基
準に基づいて設計された端横桁と変位制限機構のある橋については被害がほとんどなかったことも報告した.
続いて,運上団員が橋梁の被災と交通規制の考え方,震後緊急点検について意見を発表した.また,星隈団
員はチリ地震の被害を踏まえ,日本の道路橋の地震被害の変遷と耐震設計の考え方について説明し,幸左団
員は,チリ地震で被災が多かった斜橋についてその挙動を地震応答解析により分析した事例を紹介した.
MOP の参加者からは,日本の耐震設計技術に関する質問が多く出された.関心の高かった質問項目とし
ては,目標性能の設定,支承部の設計の考え方(水平地震力と鉛直地震力の評価),橋軸直角方向への変位
制限構造の具体,液状化の判定方法と橋の耐震設計への反映方法,耐震構造上望ましい橋梁の構造形式選定
の考え方,軟弱地盤における橋の急速施工技術等,多岐に渡った.これに対して,各団員から,ホワイトボ
ードに図示をしながら日本の耐震設計での考え方とその根拠や,これまでの日本での震災経験を踏まえたコ
メントを述べた(写真-7.2.2~7.2.5).
写真-7.2.1
公共事業省における調査結果報告会
写真-7.2.2
報告会に参加した MOP の技術者ら
写真-7.2.4
8.
日本の耐震設計技術の紹介
写真-7.2.3
写真-7.2.5
日本の耐震設計技術の紹介
斜橋の地震応答解析に関する研究の紹介
まとめ
本報では,2010 年チリ地震における橋梁関係の被害の現地調査結果について,調査の際に聞き取りある
いは入手した資料による情報と併せて示した.調査は,2010 年 3 月 28 日午後~4 月 5 日の 9 日間にわたっ
て,主にサンティアゴからコンセプション間の合計 31 箇所における 46 橋の橋を対象として実施するととも
に,公共事業省等の関係機関との打合せや意見交換の機会も設けた.これらの調査活動の結果をまとめると,
以下のとおりである.
1)今回の地震により観測された強震記録の最大水平加速度は,断層に接する範囲においては 0.2g~0.65g 程
度となっており,沿岸の断層に近い側の方が全般的に大きかった.サンティアゴ市は海岸からは 100km
程度離れているが,0.5gを超える大きい最大加速度も観測されており,箇所別に地盤の影響を大きく受
けたことが推測される.ただし,サンティアゴ市内では,道路橋の落橋が 3 箇所で生じたが,こうした橋
の被害と地震動の強さとの関係については,ローカルな地盤の影響も想定されるため,明確には確認でき
ていない.
2)現在のチリの道路橋の耐震設計では荷重ベース設計法が導入されており,構造部材の非線形特性を考慮し
た体系となっており,設計水平震度としては最大で 0.78 が考慮されている.設計体系に加え,最小けた
かかり長の算出の考え方等についても,基本的には米国の AASHTO の規定が準用されている.最小けた
かかり長は,支間長 30m,橋脚高さ 10m の直橋を例にとると,日本の基準の方が 1.77 倍長く必要となる.
ただし,チリにおける最小けたかかり長の評価においては,洗掘の影響を考慮している点が特徴的である.
3)道路の民間委託が進む中で,1990 年代半ば以降に,スペインの技術提案を受けて,建設コストの低減と建
設期間の短縮を目的として採用された横桁や移動制限機構を設けないプレテンPC桁橋において被害が集
中した.横桁がない場合,特に橋軸直角方向に対して上部構造としての一体性に欠け,特定の桁に地震力
が集中しやすく,逐次破壊的に桁に破損が生じたものと想定される.
4)現地調査を行うことができた落橋した道路橋 11 橋(歩道橋の落橋は除く)のうち 6 橋が斜橋であり,斜
橋に被害が集中していると言える.斜橋は振動して橋台や隣接桁間で衝突すると,鈍角端から鋭角端に向
かう方向に回転しやすい特性があり,落橋防止の観点からは,回転を抑えるための適切な変位制限構造や
十分なけたかかり長を確保しておくことが重要である.
5)上部構造は,ネオプレーンゴムの支承の上に置くだけであり,桁と支承,あるいは支承と下部構造が一体
化されていない.この場合,橋脚に伝わる地震力は小さくなるが,地震により桁のずれが生じやすく,け
たかかり長が十分でないと落橋のリスクが高くなる.上記3)及び4)の現象については,支承が桁や下
部構造と固定されていなく,桁が橋座上を動きやすい構造であったことも一因になった可能性がある.
6)道路事業の民間委託に伴うスペインの橋梁技術が導入される前の時期にチリの基準に従って設計された橋
の被害は,ゲルバー橋や非常に古いれんが造の橋で落橋は生じたものの,それ以外は比較的限定的であっ
た.特に,同一箇所にある上下部分離の橋において,一方はチリ基準で設計された直橋,もう一方はスペ
インの技術によって設計された斜橋という事例があり,今回の地震により,スペインの技術によって設計
された橋の側だけが崩壊し,チリ基準により設計された橋はほとんど無被害であった点は注視すべきであ
る.結果的に,被害は,横桁や移動制限機構を省略した斜橋に被害が集中した.
7)コンセプションやアラウコ周辺では,地盤の液状化が生じている箇所が多く見られ,橋梁に対しても,橋
脚や橋台の沈下や傾斜,移動等が生じた.さらに,構造的にけたかかり長が十分でない(例えば Tubul 橋
の橋台では橋座長さで 38cm しか確保されていない)ことも相まって,橋の落橋につながった可能性があ
る.
8)現地調査の全行程を終了後,調査の結果を MOP に報告するとともに,日本での耐震設計技術の紹介と意
見交換の場を持った.その中で,落橋した橋の被災メカニズムや,チリ基準に基づいて設計された橋の状
況との対比等について概説するとともに,橋梁の被災と交通規制の考え方,我が国における震後緊急点検,
耐震診断技術,道路橋の地震被害の変遷と耐震設計の考え方,斜橋の地震時挙動の解析例等,今後チリに
おける橋梁の耐震性向上のために役に立つと考えられる技術を紹介した.
なお,今回の調査は徒歩にてアクセスできる範囲からの被害調査であり,また,調査時間が限られていた
ことから,橋梁に関する被害状況の全貌が把握,解明できたわけではないが,さらなる被災原因の検討のた
めには,チリにおける橋の耐震設計基準の変遷の調査とともに,被災橋に関する詳細なデータと分析が必要
と考えられる.地震により被災し通行規制がかけられている橋梁の中には,交通量の多い重要な橋梁もあり,
MOP では早急な復旧対策を検討していくとのことである.今後の復旧対策技術も含め,今後 MOP と必要な
情報交換を継続していきたい.
謝
辞
今回の 2010 年チリ地震合同調査団土木構造物グループの調査は,(社)土木学会が日本地震工学会,(社)地
盤工学会及び(社)日本建築学会と連携し,さらに(独)国際協力機構(JICA)の協力を得て4学会チリ地震
合同調査団として行ったものである.土木構造物グループの調査の実施にあたっては,出発前の事前の情報
収集,調査計画の策定,現地における調査の実施等にあたって,多数の関係機関の方々の協力を得た.特に,
Fernandez, M.道路局長,Ortega, J.M.氏,Carracedo, M.氏,Guzman, M. 氏,Achurra, S.氏,Concha, A.氏,
Valdebenito, R.氏,Gustavo S.氏,Claudio R. O.氏,Alejandro M. A.氏(以上,チリ公共事業省),古木守靖博
士((社)土木学会),Gabriel S.氏(IRF),石井弓夫博士(㈱建設技術研究所),Nguyen, S.H.氏(㈱建設技
術研究所),安井淳治氏(㈱長大),矢部正明博士(㈱長大),H.S. Lew 博士(NIST),Celebi, M.博士
(USGS),Saragoni, G.R.教授(チリ大学),Alvarado, R.V.教授(カトリカ大学),Fishinger, M.教授(Univ.
Lubujana),Muller, J.博士(㈱オリエンタルコンサルタンツ),Omer, A.教授(東海大学),小長井一男教
授(東京大学),古川一衛氏(現地通訳)には,多大なご尽力とご協力を賜った.ここに記して厚くお礼申
し上げる次第である.
参考文献
1) チリ国公共事業省 HP:http://www.mop.cl/
2) 外務省 HP:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/chile/index.html
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/kuni/08_databook/pdfs/06-17.pdf
3) USGS HP:http://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eqinthenews/2010/us2010tfan/
4) チリ国内務省 HP:http://www.interior.cl/
5) 東京大学地震研究所大木助教による:http://outreach.eri.u-tokyo.ac.jp/2010/02/201002_chile/
6) チリ大学 HP:http://www.terremotosuchile.cl/
7) T. Iwasaki, J. Penzien, R. Clough: Literature Survey, Seismic Effects on Highway Bridges, Earthquake Engineering
Research Center, University of California Berkeley
8) MANUAL DE CARRETERAS, Volumen N3, Instrucciones y Criterios de Diseno: Gobierno De Chile, Ministerio
De Obras Publicas, Direccion De Vialidad, Marzo 2008
9) Joanthan Bray, David Frost, Christian Ledezma and Terry Eldridge, Geotechnical Aspects of the M=8.8 February 27,
2010 Chile Earthquake
10) 平成 7 年(1995 年)兵庫県南部地震災害調査報告、土木研究所報告第 196 号、平成 8 年 3 月
11) 川島一彦, 渡邊学歩: 斜橋における落橋防止構造の有効性に関する研究、土木学会論文集, No.675/I-55,
pp141-159, 2001 年 4 月
RECONNAISSANCE REPORT ON BRIDGE DAMAGES DUE TO 2010 CHILE
EARTHQUAKE
Kazuhiko KAWASHIMA, Shigeki UNJOH, Jun-ichi HOSHIKUMA and Kenji KOSA
Chile earthquake occurred off coast of the Maule Region of Chile along the boundary between Nazca
and South American tectonic plates at 3:34 (local time) on February 27, 2010. The moment magnitude
Mw was 8.8. Aftershock region extended about 700 km and 200 km in NS and EW directions, respectively. The earthquake resulted in significant damage in wide area from Valparaiso to Arauco. Authors were
dispatched to Chile as the reconnaissance team of JSCE, to investigate the damages to bridges.
This paper reports damages in bridges during the 2010 Chile earthquake based on site investigations.
Damage features of bridges including the effect of in-plane rotation of bridges, insufficient seat length,
absence of anchor between superstructure and substructures at bearings and lack of bearing capacity of
foundations are presented. Design practice of bridges in Chile is also introduced.
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