Comments
Description
Transcript
研究の最近の進歩
羅 トリチウムの生物影響研究の最近の進歩 一政祐輔 (茨城大学理学部) (1990年11月16日受理) Topics in the Studies of Biological Effe¢ts of Tritium Yusuke I¢himasa (Re¢eived November16,1990) Abstraet Recent加p蓋cs in the fo闘owing studies of bio最{顧㎝且effects of tritium are reviewed: 1)tritium level in the environment,2)mechanism of bio監ogieal¢onversion①f environmenta董 moiecular tritium,3)tritium conもent of Ja畔mese㎞ies aud∫bods,4)uOtake and metabolism of mdeeular tritium董n mammals,5)abso叩tion rate of triti&ted waもer量n mammals,6)met識bolism of organical璽y bound tritium in anima旦s,7)enhan¢e“excretion of tritium from㎞dy,8)RBE of tritium. KeywordS l tritium,molecular tritium,tritiated water,OBT,metabolism,biological conversion, intestinal microbes,soil bacteria,RBE, 1.はじめに トリチウム生物影響研究は文部省の科学研究費「核融合特別研究」によるプロジェクト研究で組織的に推 進きれ,多くの新知見を得て,.体系的に進展し,今後研究が飛躍的に発展しうる基礎を確立した。トリチウ ムの環境・生物影響研究の最近の進歩をまとめたものとして,文部省科学研究費補助金研究成果報告書(昭 和62年度)「トリチウム資料集・1988」1)およぴ「核融合研究者のためのトリチウム安全取扱の目安一 1990」2)(平成元年度)がある.従って,最新の研究の概要はこれらの資料集と目安に記載されているこ とになる.本稿ではそれに記載されていることを含めていくつかの研究を紹介することとした. 2.生物学的課題としてのトりチウムの環境での変換 トリチウムの環境動態研究についての総説には,原子力学会による「トリチウム」研究専門委報告書般ト リチウムその性質と挙動”3),「トリチウムの環境における挙動と人体への線量評価」4),およぴ「環境ト 勘6%妙び、So伽62,乃α名罐ぎ砺舵z3め,〃i蜘310. 461 核融合研究 第64巻第6号 1990年12月 リチウム研究の最近の動向」5》がある.そのほかに,核融合研究には「ト1)チウムの環境動態」6),保健物 理学会誌では「環境中におけるトリチウムガスのトリチウム水への転換」7)などがある. また,セミナーやワークショップのプロシーディングがあり,例えばNCRP reportNα62:Tr三tiumin the environment8),日米の核融合共同プログラムのワークジョップ:Tritium radiobiology and health physics9−11),放医研セミナー:環境と人体におけるトリチウム研究の諸問題12),Estratto da:European seminar on the risks from tritium exposure13),ECの放射線防護プログラムと熱核融合プログラムの ワークショップ:Environmental andhuman risks of triti㎜114)などがそれである, これらの総説等の多くで今後の研究課題として指摘されていたものがあり,その中で最近明らかにされた 生物学的研究課題について以下に述べる。 2−1環境のトリチウムレベルと化学形 Mbmoshimaら15)’16)は日本における,雨水,河川水,湖水,沿岸海水のトリチウム濃度を測定した.そ の結果,濃度は湖水,河川水,雨水,沿岸海水の順に低下すること,また湖水のトリチウム濃度は小さな湖「 よりも大きな湖で一般に高く,小さな湖の水の濃度は雨水に近いこと,沿岸海水のトリチウム濃度には地域 差がみられないことを明らかにした・ 1981年から1989年の間測定された福岡における雨水中のトリチウム濃度は見かけ上8.4年の半減期で徐 々1に減少した.雨水のトリチウム濃度は変化しやすく,その時の気象に主に影響されるように思われる.即 ち・中国からの偏西風が吹く時に高くなり・風が南東の太平洋かう吹くときにより低くなること・また 緯度も日本の雨水のトリチウム濃度を決定するファクターであると考えられている玉7㌧、 上記の研究ではトリチウムの化学形は大まかにトリチウム水として取り扱われている,一般に考えられて いる線量評価には充分なデータである.しかし厳密に考えるならば,よほどの極限的環境でない限り,これ らの河川水,湖水,沿岸海水中に生物が生息し,生物から微量のトリチウム化した排泄物やトリチウム化し た死骸あるいはその分解物が含まれていることは十分考えられる.アオコが大量発生した湖水においては有 機化したトリチウムの濃度は相当な濃度に達するかもしれない. 大気中のトリチウムの化学形には水蒸気,水素ガス,炭化水素があることが知られている,1984年から 1988年の月平均濃度は水素ガスが一番高く,次いで水蒸気,炭化水素の順であった.また水蒸気中のトリチ ウム濃度は大気中り湿度と強い相関があり,夏に高く,冬に低い.一方,水素ガスと炭化水素中のトリチウ ム濃度は季節変化がみられない.大気中の水蒸気,水素ガス,炭化水素中のトリチウムの比活性は各々約10, 106,104TUであり,水素ガス中の比活性が最も高い18)。 .トリチウム水,トリチウムガス,炭化水素(メタンなど)の化学形の変換に関して生物の役割を1978年の IAEA報告19)で議論している.環境生物によるトリチウムの化学形変換の寄与に関する研究は解明すべき 課題の一つであろう,特にトリチウム化合物中でもメタンの環境中動態と生物変換に関しては今後の発展が 期待される. 462 トリチウムの生物影響研究の最近の進歩 解説 一 政 松葉のトリチウム濃度は組織自由水として1・7Bq/2,組織結合型として2・4Bq/2であり9これらほ日 本の地表水の濃度とほぼ一致している。しかしながら,組織中の自由水と組織結合型のトリチウム濃度の比 は1より大きい20).組織結合型の』トリチウムは,言い替えれば有機化合物に結合しているトリチウム(Or一 幽nically Bound Triti㎜,OBT)のことである,松葉の組織結合型トリチウムはおそらく根から吸い上 げたトリチウム水から代謝的に生合成されたものであろう。また環境(大気)にはトリチウムガスも存在す るが,2−2・一3に述べるように,松葉自身が大気中のトリチウムガスをトリチウム水に酸化する量はきわめ て少ない。いまのところ,なぜ松葉のOBTが組織自由水のトリチウム濃度より高いのかに関しては明らか になっていない。 2−2大気中のトリチウムガスの生物交換 最近4−5年の問にトリチウムガスの環境生物による交換の実体が急速に明らかになってきた.この研究 は,トリチウムガスの環境での変換の主体は土壌の微生物で,圧倒的に高いトリチウムガス酸化活性を持つ 土壌細菌によることを指摘した. 2−2−1土壌のトリチウムガス酸化 環境中でトリチウムガス(元素状トリチウム)は酸化されてトリチウム水になる.この化学形変換の機構 としては,酸素による酸化反応,水との同位体交換反応,T2の崩壊により生成するTHe+,光化学反応,生 物による転換反応等があるが,このうち最も変換率の高いのは生物による変換反応であることが知られてい る9’7).なかでも土壌によるものが圧倒的に高い.その特徴は表層土壌で酸化活性が最も高くさらに深くな るにっれ著しく低下すること,土壌の温度や含水量などにより大きな影響を受けることである21−24).土壌に よる酸化反応は,至適温度や阻害剤に対する反応性,165℃,1時問の高圧減菌処理で失活すること等から 生物1こよる反応(酵素反応)であることが明らかにされた.わが国の土壌についてトリチウムガス酸化活性 を検討した24)(表1).茨城県の山林土壌,水田土壌,宮崎県の畑土壌であるが,いずれも地表下0−5㎝ 表1.各種土壌のトリチウムガス酸化活性 No. 土壌 深さ pH 含水量 有機物量 (cm) (乾物量当りの%) (乾物量当りの%) 12.2±2.3 HT酸化速度(mln幽1) 好気条件 嫌気条件(N2) 0.196±0.002 1.山林土壌 0−5 4.6 32.3±α3 5−10 10−15 4.6 2ア.6土0.1 9.8±0.6 0.045二±:0.002 4.6 28.0±0.4 9.9±1.1 0.024±0.000 2.水田土壌 0−5 4.7 43。8±0.1 10.0±2.0 0.038±0.002 0.029±0。002 5−10 4,7 47.5±0.3 12.8±0.1 0置020±0.000 0彫020±0.000 3. 畑 土 壌 0−5 5.0 33.2±1.0 8.8±1.1 15−10 10−15 4.9 36.5±0.6 7.6±0.2 0.058±0.005 0.017±0.001 0.012±0,001 4.9 3フ.9±0.5 8.フ±0.4 0.011±0.001、 0.010±α001 0.034±0.001 の表層土壌が最も活性が高く,窒素ガスで嫌気条件にした場合より好気条件の方が活性は高かった.また酸 化活性と温度との関係を調べたところ,畑や水田の土壌の至適温度は40℃付近に分布し,0℃または75℃で 463 核融合研究 第64巻第6号 1990年12月 も30℃のときの活性の約半分の活性を示した.含水章の季節変動をも考慮に加えると,冬や夏の温度条件で も土壌によるトリチウムガス酸化は大差なく起こると考えてよい.これらの土壌の含水量と活性の関係にっ いては,含水量10−25%(土壌乾燥重量当たり)の時に最も活性が高く,乾燥状態や湿潤状態ではその 1/3−1/5に低下するので,環境中のトリチウムガスの線量評価には土壌含水量を因子として考慮する必要 があることがわかる. なお土壌による環境トリチウムガスの酸化は一次反応であるので,表1に示したように酸化活性として酸 化の速度定数が用いられるほか,単位時間当たり単位重量の試料によるトリチウムガスの酸化率で表すこと もある.また沈着速度(m/s)がよく用いられるが,これは土壌や植物等の表面積当たりのトリチウムガ スの取り込まれた量を空気中トリチウムガス濃度x反応時間(秒)で割ると得られる移行率であって,実際 には試料の表面積の正確な測定が困難な場合がしばしばあり,測定値の比較や評価の際この点を考慮に入れ る必要がある. 2−2−2土壌におけるトリチウムガス酸化の実体一微生物の検索 土壌のトリチウムガス酸化能は酸化活性に至適温度があること,高圧蒸気滅菌や乾熱滅菌などの滅菌処理 で全く失われること等から,土壌微生物に由来するものと考えられてきたが,実際にその実体であるような 微生物が土壌から分離同定されてはいなかった.この酸化反応の触媒となる酵素はヒドロゲナーゼと考えら れ,ヒドロゲナーゼはこれまである種の細菌や藻類に存在することが知られているが25》,酵母のような真核 微生物や動物や植物細胞ではその存在は報告されていない.また,この酵素をもつ微生物の多くは嫌気条件 下で水素ガスを発生し,この酵素を持つある種の好気または嫌気性微生物は水素ガスを消費(すなわち酸化) するというようにヒドロゲナーゼは生理学的には水素ガスの発生か消費かのどちらか一方の機能を持つと考 えられている。ConradとSeiler26)は既知の水素細菌であるイ41加」忽6解sε%加のh薦,勘名8‘060婿 46πぎヶ夢‘σ織Xσ撹hoδπ砿召グα泌oケのh廊πs は!・ずれも大気中濃度の水素ガスを酸化出来ないことを見 いだし,土壌による水素ガス酸化に関わるのは,これまで知られていない別種の細菌である可能性は否定で きないが,生きている細菌の酵素によるのでなく細菌由来の酵素が土壌に結合したいわゆる土壌酵素に主と してよっているかも知れないと報告している.しかし最近,著者らは山林や畑,水田などの土壌からトリチ ウムガスを酸化する能力を持つ土壌菌の分離に成功し同定を行った結果,それらの大部分は好気性の放線菌 のSケ勿如卿脚εs属の菌であることを明らかにしている.それらの菌を高圧蒸気滅菌した元の土壌に戻して 27℃で1−2週間置くと生菌数の増加と土壌のトリチウムガス酸化活性の回復が見られること,これらの菌 のトリチウムガス酸化活性の酵素学的性質(酵素活性一温度曲線や活性に及ぼす水素ガス添加の影響)は土 壌のそれと良く似ていることから,これらの土壌菌が土壌のトリチウムガス酸化能の実体,少なくともその 一部,であると結論される2η. これまで調査された土壌で酸化活性を持たないと報告された例は見あたらない.実際海岸の砂浜の砂でさ え測ってみるとかなりの酸化活性を持っている.このことは土壌のトリチウムガス(水素ガス)酸化能の実 464 解 説 トリチウムの生物影響研究の最近の進歩 一 政 体は普遍的な存在であることを示唆している、 2−2−3植物によるトリチウムガスの酸化一試験管内実験 環境中にトリチウムガスが放出されたとき,トリチウムは土壌のほか植物の葉などにも検出される.葉に 固定されたこのトリチウムは植物の葉自体がトリチウムガスを酸化したことを表しているわけではない,各 種の植物の葉についてトリチウムガス酸化活性を直接測ってみると土壌に比べて大変低いことが知られてい る28−30》。 茨城県の海岸松林から採集された松葉,樹皮,リターや松林表層土壌など各種の試料のトリチウムガス酸 化活性を調べたところ,松葉自体の酸化活性は土壌の約酉万分の一に過ぎず,リターや特に樹皮には高い活 性が見られた.草本の芝,自クローバー,どくだみの葉では松葉よりは若干高いが土壌に比べるときわめて 低い活性しかなかった(図1).図1 にこれらの酸化活性を30℃,1時間の 土壌の活性を1.0とした時の相対値で 樫糞αGOOO3 示した.さらに樹皮のトリチウムガス 酸化活性は付着する地衣類によること, 樹皮上の地衣が土壌の約十分の一もの 灘を持つこと,樹皮上あるし、は地表 ㊨ に生息する苔類もまた極めて高い酸化 Fノの ’!ソ趨_ 活性を持つことが発見きれた(表2)31》・ クロ贈パー軌00005 土壌1.0 .ンパ砿0003 また地衣や葛植物の葉によるトリ 図1.土壌と植物のトリチウムガス酸化活性の蹴 チウムガスの酸化はいずれも光の有無 によらないことも明らかにされた(表2,表3)鋤.このことは,トリチウム水蒸気の場合植物の葉による 取り込みは光の有無で異なり,暗条件より明条件の方が数倍多いこと32曹34),またトリチウム水はトリチウム 表3.シバ,クローバー,ドクダミによる トリチウムガスの酸化 表2,樹皮に付く地衣や苔によるトリチウムガスの酸化 光条件 トリチウムガスの酸化 (%/20分) 松樹皮一地衣(黒緑色の不完全菌) 松樹皮一地衣(灰色の不完全菌) ポプラ樹皮一地衣(ウメノキゴケ) ポプラ樹皮の苔(サヤゴケ) 明 0、192±0、028 暗 0.143±0.034 明 0●051±0り014 暗 0.044±0。008 明 3.51 ±0.098 暗 3辱56 ±0.26 明 9.64 ±1.40 暗 7。86 ±1巳28 光条件 トリチウムガスの酸化 (%/20分) シバ クローバー ドクダミ 試料生重量,300mg;明,4900±400ルクス;暗,褐色ガラスによる遮光. 明 0.0028±0.0015 暗 0.0032±0.0022 明 0.0005±0.0003 暗 0.0003±0.0001 明 0.0021±0.0008 暗 0.0039±0.0049 試料生重量,300mg;明,4900±400ルクス; 暗,褐色ガラスによる遮光. ガスと比べるとずっと取り込まれ易い劉ことと考え合わせると,植物におけるトリチウムガスの酸化の機 465 核融合研究 第64巻第6号 1990年12月 構はトリチウム水取り込みの機構と異なっていることを示している. 2−2−4植物のトリチウムガス曝露実験による植物中トリチウムの由来の検討35) 黒松や棒の盆栽をトリチウムガス曝露装置内(図2)のメタボリックケージ内に入れ,一定濃度のトリチ ウムガスを2時間流して曝露したのち盆栽を取り出し,その葉,枝,幹,根,土壌に分布したトリチウムの 翻▼●欄ψ卵● い, hロ甲晒, G恥鴨bo麗 齢醜●rい Fl◎膨 マ 樂 α __ ▽●po ⑦助罵一還ノ 糊日 ② 圃^, Tr脆唇u購 m◎髄随or I”o, k 酬o。り鵬、 糊圃題 G85爾帆●rII, A己r{8》 Pu爾P .60℃酬顯剛br 曹60℃ 』、・6◎聞C麟.5.5・9・ 551㎏一 C粛電叩 蜘》・5 Cddtr叩 ㌦糊 0, 5《,’16 1”D . o・511電・『 曾 餉ot8b◎1に 日竿 c89● 鰯o凋開■いr 目鵠 O .,篇:.瀞・“穂_1蟹1職・㈹凹 隔田 髄奪●r −60℃ .60℃ F㎜ 一50℃ 13, Cd■電門甲 ωd電r叩 Cdd竃rap 5亀咄 IV瞳, IVD ⊂IV, 5罷1切g●1 図2.トリチウムガス曝露装置. 濃度と量を調べ,また盆栽の松や樫の根をよく洗って滅菌蒸留水を満たしたフラスコに挿しフラスコの口を 封じて木の地上部分のみをトリチウムガスに曝した場合の植物の各部分のトリチウム濃度と比較した,その 結果,トリチウムの分布は土壌に最も多く次いで根であり,地上部の幹,枝,葉には松では全酸化トリチウ ムの0.3%が分布した.土壌と根のトリチウム濃度はやや根の方が高かった.また滅菌水に指した松の葉の トリチウム濃度は非常に低く鉢植えの盆栽松の葉の1/55であった.これらの実験から,トリチウムガスは表 層土壌と根で酸化されてトリチウム水となり,根を介して葉に到り,ごく一部は土壌表面より蒸散し葉から 吸収されると考えられる。盆栽の松の実験での松葉の沈着速度は5.8×10噛8(m/s)で,土壌では1.6×10“3 (m/s)であった.これは1987年のカナダにおけるトリチウムガス野外放出実験でSpencerら36》が鉢植えの トウヒ等で出している値と比べるとほぼ同じである, 土壌に比べるす芝など植物の根や葉の酸化活性は低いので,土壌表面を芝で覆うと環境中でのトリチウム ガス酸化を低滅できる.樫の盆栽での実験例では樫の根元の土壌表面に芝を植えることによって全体として のトリチウムガスの酸化を芝を植えない場合の約6分の1にする事ができた. 2−2−5トリチウムガス酸化活性の高い植物一モニタりングに使える植物の探索 ウメノキゴケは海岸の松の樹皮などによく見られる葉状地衣であるが,2−2−3で述べたように土壌より 1466 解説 トリチウムの生物影響研究の最近の進歩 一 政 は低いものの植物の仲間では桁違いに高い酸化活性があるととが見いだされた.例えば松の樹皮から採った ウメノキゴケでは松葉の1000倍以上の活性があった。樹木に着生する植物には地衣ばかりでなく苔もあるが, ポプラの樹皮から採ったサヤゴケは同じ木に着生しているウメノキゴケに劣らぬ高い酸化活性があり,梅の 木から採集したネジグチゴケ,地面に生えるゼニゴケや」スギゴケもトリチウムガス酸化活性は同様に高い ことが明らかになった(表4)鋤.地衣や苔の酸化活性はこれらの植物を滅菌蒸留水で丁寧に充分洗った後 でも殆ど変わらずに検出された.地衣は菌類と藻類の共 表4.コケやキノコによるトリチウムガスの酸化 生体であるので,地衣の高いトリチウムガス酸化活性は トリチウムガスの酸化 (%/20分) 共生する藻類のヒドロゲナーゼによる可能性が考えられ コスギゴケ(洗浄) 0.75 ±0.028 る,一方,組織培養により無菌化したゼニゴケの継代培 セニゴケく洗浄) 1・18±α23 エノキダケ(子実体の上部) 0.0042±0.0016 養細胞にはトリチウムガス酸化活性が見られないこと, エノキダケ(子実体の下部) ・α0022±③0006 シイタケ(子実体の上部) 0.0059±0.0018 同じく組織培養のよもぎやたばこの根と葉も活性が全く シイタケ(子実体の下部〉 似0149±0・0073 ネジグチゴケ(梅の木より) 6.35 ±0,87 無いこと37)などから,苔や植物の根の酸化活性は植物自 ネジグチゴケ(同上,洗浄) a10±0,50 試料生重量,300mg. 体のものではなく,共生あるいは寄生,付着する特定の 微生物による可能性が強く示唆されたが,今後遺伝子レベルの解析が必要である. 最近茨城県大洗町や愛知県土岐市の調査地点でいくつかのイネ科の草本の葉に地衣や苔類には比べものに ならないものの,草本や木本のなかでは際だって高いトリチウムガス酸化活性を持つものがあることが判うて きた38),植物の分布は地域的であり,このような特異的な植物は地衣や苔類と並んでモニタリングに使える 可能性があることから,どこにどのくらい分布するか,きらにもっと活性の高い植物はないかについて,広 範囲に調査をする必要がある. 松の葉は環境指標植物としてそのトリチウム濃度が各方面で測定されている鋤.トリチウムガス取扱施設 からの放出事故などの際,トリチウムを含むパフの通過場所や広がりを推定して被曝線量の評価を行うため のモニタリング植物として,あらかじめ施設の周辺地域に分布する地衣や苔,酸化活性の高い特異的植物に っいてそのトリチウム濃度を松葉とともに定期的に測定しておけば,事故時に直ちに対応できよう.また取 扱施設からのトリチウムガス異常放出が生じた場合,環境中でその酸化を減らすことが出来れば被曝線量を 有意に低減化し得る.そのための対策としては,酸化活性の高い土壌表層はなるべく露出せずあらかじめ芝 生で覆うこと,また,散水して土壌表面を水で覆うと土壌の酸化活性は著しく低 するので,事故後施設周 辺などで高い濃度のトリチウムガスが地表近く分布する可能性のあるときは出来れば直ちに充分な散水をす ることがあげられる.F 2−2−6 トリチウムガスの野外放出実験 カナダのチョークリバーでは1986年8月に6.85×10uBq(18.5Ci)のトリチウムガスの野外放出実 験が行われた40).フランスでは1986年10月に2.6×1014Bqのトリチウムガスの放出実験が行われ,この 時エゾマッ(spruce)の枝の有機物に他の植物に比べて高い割合でトリチウムがみられた41》.1987年6月 467 核融合研究 第64巻第6号 1990年12月 に再びカナダのチョークリバーで3.54×10邑2Bq(95.7ci)のトリチウムガスの野外放出実験が行われ た42》’43)。Nogutiら43)によると松葉の自由水中のトリチウムの沈着速度は2.4×10−4m/sであった.1 2−3日本人の食晶および人体のトリチウム 外国では既に食品,人体のトリチウム濃度を測定した報告はこれまでもあった.これに日本でのデータが 加えられた. 2−3−1日本の食品中のトりチウム濃度 秋田市での食品中のトリチウム濃度は,組織自由水トリチウム濃度は米では2.5Bq/1,豆類1.6Bq/1, 果実類1.O Bq/1,魚介類0.49Bq/1,肉類1.3Bq/1,卵1.7Bq/1,および牛乳乳製品類2.O Bqバで あり,また有機結合型トリチウムの濃度は米では1.8Bq/1,豆類3.2Bq/1,果実類1.8Bq/1,魚介類 1.O Bq/1,肉類1.8Bq/1,卵2.1Bq/1,およぴ牛乳乳製品類2.1Bq/1であり油脂類では2.6Bq/1 であった44)・45). 2−3−2日本人のトリチウム濃度 日本人(京都市)の組織に含まれる自由水のトリチウム濃度は,脳では2.6Bq/1,肺では3.3Bq/1, 肝臓では3.3Bq/1,腎臓では6.1Bq/l,筋肉では2.6Bq/1,脾臓では3.8Bq/1であった。ちなみに, 水道水では2.60±1.05Bq/1,雨水では2.88±1.75Bq/1であった46㌧日本人(秋田市)でのデータで は脳,肝臓,肺の自由水のトリチウムは何れも同じで1.6Bq/1であり,組織結合型のトリチウムはそれぞ れ1.6,1.9そして1.8Bq/1であった47), 2−3−3日本人のトリチウムによる年間被曝線量 毎日食べる食品のトリチウム濃度のデータ,厚生省保健医療局(昭和57年)の日本人の食品群別摂取量の データ,およびICRPによる標準人の体内での代謝水のデータをもとにして算定すると,日本標準人の食品 からの一日のトリチウム摂取量は4.35Bqであり,さらに空気中水蒸気と飲料水からの摂取を加算す ると総トリチウム摂取量は6.23Bqであった.従って標準日本人の男性の年間のトリチウム摂取量は1588 ∼2274Bqとなる.この数字を使って年間被曝線量当量を求めると0.OGOO33∼0.000048mSv/年が求めら れた.これは一般公衆の線量限度1mSvの0.0033∼0.0048%に過ぎないことが指摘された48≧ 3.トリチウムの体内動態 トリチウムに関した代謝的データはトリチウムガス,トリチウム水およびトリチウム有機化合物の3つ のクラスに分けて考えられる.なかでも最近,トリチウムガスの代謝に関する研究に進展がみられた. 3−1トリチウムガスの代謝 トリチウムガスを含む雰囲気に動物が置かれたとき,ガスは吸気と共に肺に吸い込まれ,肺胞を介して拡 散によって血液中にとけ込み,全身に分布する,このトリチウムガスを含んだ血液が腸に達したとき腸内微 生物の作用によってトリチウム水に変換され,このトリチウム水がまた体内に隈なく分布してゆき,一部分 468 解説 トリチウムの生物影響研究の最近の進歩’ 一 政 は物質代謝によって有機分子中へ取り込まれて有機結合型トリチウムとして体内各組織の構成成分に分布す ると考えられている. トリチウムガスの代謝研究を論ずるとき,まずHnson とLa㎎bamの研究が引用される,この論文は, 1957年にJoumal of Applied Physiologyの10巻49》に掲載された,その後1980年にHealth Physics 38巻50》に再収録され,国内での購読者も多いこともあって利用しやすくなった。Health Physics版では 図表が読み易くなっている・この論文で彼らは,トリチウムガスはトリチウム水に較べてラットでは1500 倍取り込まれにくいことを明らかにした.このトリチウムガスとトリチウム水の体内への取り込みに関した 研究がトリチウムの放射線防護の重要な基礎データになっている.Ichimasaら51)はこの研究を追試し,ト リチウムガスのトリチウム水へのラット体内での酸化率はPinsonとLa㎎hamが報告している値の約3分の 1の値であるとの結論を得た.このことはラットではトリチウムガスはトリチウム水に較べて約4000倍も 体内に取り込まれ難いことを示している. またPi益sonとLangham49)はヒトでも同様な実験をして,ヒトの場合ではトリチウムガスはトリチウム水 より15000倍取り込まれにくいことを報告した,しかし,ラットとヒトでは何故トリチウムガスの酸化率に おいて1500倍と15000倍と一桁も差が生ずるのだろうか.トリチウムガスの代謝研究が実験動物でしか行う ことが出来ない状況では,この1桁の酸化率の差はヒトと実験動物の何の差をあらわしているのか,今後早 急に解明されねばならない課題のひとつである・ 3−1−1トリチウムガスのラット体内取り込み 著者ら52)はPinsonとLangham49)の実験装置とほぼ同じ考え方でトリチウガス代謝研究用のガス曝露装 置を作成し,この装置を用いてラットによるトリチウムガスの体内でのトリチウム水への酸化率を測定した. その結果,トリチウムガスのトリチウム水への酸化率はPinsonとLanghamの結果にほぼ近い値を得ること が出来た.しかし,繰り返し実験をしている間にこの装置ではトリチウムガスを曝露してラットの体内で酸 化きれたトリチウム水が呼気としてケージ内に吐き出される時,このトリチウム水の除去が充分に行えず, ラットによって再ぴ吸気と共に体内に取り込まれていることが明らかになった.このことは,体内取り込み 率がけた違いに大きいトリチウム水のわずかな混入でもトリチウムガスの酸化率の測定にきわめて大きな影 響を与えるため,この様な装置を使った実験ではトリチウムガスの酸化率は実際よりも高く評価されている ことになることを意味する. そこで著者ら5nはトリチウムガスに含まれているトリチウム水を除去することは勿論のこと,ラットが呼 気で吐き出したトリチウム水を再ぴ吸い込まないようにする目的で図2に示した装置を作成した,この装置 がこれまでの装置と基本的に異なっている点は2つある.1つは1度ラットに曝露したトリチウムガスを再 利用しない点である.2つめは実験に用いるトリチウムガスからトリチウム水を徹低的に除去するように工 夫した点である.そのため装置の中でトリチウムガスは図2に示したようにトリチウムガス供給系の400リ ットルのバルーンに詰められ,トリチウムガスの濃度を測定するにはトリチウム水除去系の一60℃コールド 469 核融合研究・第64巻第6号 1990年12月 トラップ,シリカゲルおよびモレキュラシーブのカラム,さらに一60℃のコールドトラップでトリチウム水 を除去した後にトリチウムモニター(1)で測定し,その後再びコールドトラップ,モレキュラシーブ,シリ カゲル,コールドトラップと順次通すことにより,トリチウム水の除去を繰り返し行った後のトリチウムガ スを含む空気を,ラットを入れてセットしたメタボリックケージに導くようにした.その結果,ケージに導 入されたトリチウムガスを含む空気に混入しているトリチウム水の量は非常に少量になり,トリチウムモニ ター(1)のトリチウムガス濃度値に対するラットに吸入直前の一60℃コールドトラップにトラップされたト リチウム水の濃度の割合で表わすと,0.00022∼0.0000022%であった.従ってこのトリチウム水の含量か ら明らかに,この装置は動物によるトリチウムガスの酸化率を測定する実験には,持ち込まれたトリチウム 水を無視しえる充分な装置であると結論された. 図3はトリチウムガスを含む空気にラットを曝露させたときの血液中およぴ尿中のトリチウム濃度の経時 変化を表したものである.ラットに 曝露させたトリチウムガス濃度はml 当たり63から814Bqである・曝露 開始から15分内外は血液およぴ尿中 7.0 oζ 6.0 一〇瞼Blood 王 く》Urin● ●ζA コ.旨 ℃¢5.O 器1』 共にトリチウムは検出されず,30分 −ξ β84.・ から180分までの間では血液中のト 燭◎一 リチウム濃度は尿中のそれよりも僅 琶㌣ かに高かった.この図から血液中の トリチウム濃度を求めると15.2Bq/g 602。0 ……F ⊇乙 ’竃 1.0 卜 血液/hr per Bqトリチウム/m1空 気であった,著者ら吻が雰囲気循環 式代謝ケージを用いてトリチウムガ スの酸化率を測定したとき,m1空気 蚕 C l 憎q3.0 ≧・σ 3ロ I o ● 11 0 0 30 60 90 120 150 180 璽oha轟ati㎝time〔min》 図3、トリチウムガスに曝露中のラットの血液と尿中のトリチウム濃度 ● 血液中トリチウム濃度;O 尿中トリチウム濃度. 当たりに1Bqのトリチウムガスを含んだ空気を吸入したところ,1時間当たり1g血液当たり32.O Bqの トリチウム濃度であった。一方,P圭nsonとLa㎎ham49)の場合では,血液中にみられたトリチウム量はm1 の空気当たり1Bqのトリチウムガスを吸入したときラットの血液には1g当たり1時間当たり43.5Bqで あったので,著者ら5ηの図2に示した装置を使って求めたトリチウムガスの酸化率の値を比較すると,ラッ ト体内でのトリチウムガスの酸化率はPinson とLanghamの発表した値の約3分の1であることが明らか になった。なお第3図のデータを得るのに使われたラットはウィスター系であったので,他の系統のラット でも同様な結果が得られるかどうかをSprague−Dawley(SD)系のラットを用いて調べたところ,体内で のトリチウムガスの酸化率には全く差異が見られなかった.また,二系統問で体内組織間のトリチウム分布 にほとんど差異は認められなかった.本実験では短時間ではあるが乾燥空気を用いている.この点について 470 解 説 トリチウムの生物影響研究の最近の進赤 一 政 も検討したが,ラットのトリチウムガスの酸化率は雰囲気の湿度にようて左右されなかった.また,水素ガ スを1%まで添加してトリチウムガスの比放射能を低下させてラットによるトリチウムガスの酸化の程度を 調べたが水素ガスの添加効果は認められなかった. き一1−2トりチウムガスのラット体内での酸化 トリチウムガスは微生物のヒドロゲナーゼ活性の測定法の改良に取り入れられて,水素の同位体効果に懸 念を持ちながら,検出感度が高いことを生かして,それ以前にはヒドロゲナーゼ活性を認められていなかっ た微生物,Sケ召2)∫oco60㍑sカε‘α1な,P70彪鋸s”%lgα■ゑs,Esohε万6h毎colガ,A20如δα砿εア”伽ε1α箆ゴガづ にもその存在が確認された53),その後,Smithら54》はシロネズミの大腸,胸腺,小腸,腎臓,筋,心臓, 肺,脳,肝,胃,皮膚,脂肪のリン酸バッファーのホモジェネートを作り,各々の組織磨砕液でのトリチウ ムガスの酸化活性を測定した.その結果,腸の内容物を含んだままで磨砕した大腸が最も活性が高く,他の 組織では著しく低いか,あるいは殆ど活性が認められなかった.また,腸内バクテリァとして腸内容物から 分離したE ooli,P,耀⑫07乞Sを培養して,その菌体懸濁液でトリチウムガスの酸化活性を確認して,動 物体内では主として腸内細菌によって酸化されるのであろうと結論している.Smithらが用いたE.oolガ やP.η観gα7ね菌は,当時としては代表的な腸内菌と考えられていた.しかし,今日では嫌気性菌の培養技 術の進歩により腸内は嫌気的であって百種以上からなるバクテリアが糞便1g当たり千億個も含まれている こと,しかもその内の圧倒的に多数のバクテリァは酸素のあるところでは生育できない嫌気性菌であり,酸 素があってもなくても生育できるE.ooだ,P。槻㎏αプ応菌は非常に少なく,ラットの場合ではこれらの菌 の属する菌群は嫌気性菌の1万分の1以下の菌数でしか存在していないことが明らかにされている55).実際 に著者らはトリチウムガスの酸化について調べたところ,好気条件よりも嫌気条件下で著しくトリチウムガ スが酸化きれることを明らかにした.さらにトリチウムガスの酸化能をもつ腸内菌として代表的な腸内細 菌群であるβα6陀プo∫485属のB o∂α伽ε,B.耀勉初」60」‘z,Eαsα6hα7梶舛記欝などの嫌気性菌を分離同 定した.これらの結果から動物体内でトリチウムガスの酸化に関与しているのは腸内のおもに嫌気性細菌で あろうと結論するに至った56》. トリチウムガスの腸内での酸化は腸内の嫌気性菌によることが明らかになったので,これらの嫌気性菌の 生育を抑制する抗生物質や抗菌剤の投与がラット体内でのトリチウムガスの酸化を抑制するかどうかを検討 したところ,ノルフロキサシンやクリンダマィシンは顕著にトリチウムガスの酸化を抑制することが明らか になった57).抗生物質や抗菌剤の投与がラット体内でのトリチウムガスの酸化を抑制しえたことは,とりも なおさず腸内細菌がトリチウムガスの酸化に関与していることを追試し得たことにもなる.これらの研究は トリチウムガスによる汚染除去作業の際に作業者に対する防護の観点から抗生物質や抗菌剤が使用され得る 可能性を示唆するものであるが,何れにしてもこれらの薬剤の使用には医師の指示が必要であり,その利用 法は今後の研究課題である・ 471 核融合研究 第64巻第6号 1990年12月 3−1−3トりチウムガスの人体への取り込み トリチウムガスの人体への取り込み実験はPinsonとLa㎎ham49)がボランティアによって行った.空気1 ml当たり4.07kBq∼333kBq(0.11から9μCi)のトリチウムガスを含む空気を密閉型の呼吸補助器を 用いて2時間吸入させた。空気1ml当たり333kBq(9μC i)のトリチウムガスを吸入した時,尿中のト リチウム濃度はほぼ直線的に増加して60分経過後には1m1当たり289kBq(7.8μC三)に達した.こ の値をもとにして計算すると,1mlの空気にトリチウムガスを37kBq(1μCi)含んだ空気を吸入した 場合,1時間当たりの尿中のトリチウム濃度は1m1当たり32.1Bq(0.000867μCi)になる.一方,ト リチウム水蒸気吸入の場合では尿中トリチウム濃度がこの濃度に達するに要するトリチウム水蒸気濃度はト リチウムガスの1万5千分の1でよいことが明らかにされている. 既に,ラットの嫌気性腸内菌がトリチウムガスを酸化してトリチウム水にすることを述べたが56),タィワ ンザル,シロテナガザル,テナガザルおよび男子大学生の糞便にもトリチウムガスをトリチウム水に酸化す る強い酵素活性が認められた.さらにヒト糞便からもトリチウムガスを酸化する能力のある各種の腸内嫌気 性菌を分離し,Bα0彪〆加4召S戸㎎ガ1丞,E%δα6彪7i%勉α67{吻0勿郷,E%6α0如7伽勉04yηゴ70毎召S,Fル 30δα0彪7伽勉∂α7勉彫,F鋸SO∂α0彪万%勉勉0漉泥〆%翅,%ガllO耀IZα1)α7∂%彪と同定する事が出来た56).従 って,ヒトの場合でもラットと同様に体内に取り込まれたトリチウムガスの酸化には腸内嫌気性細菌による ところが多いのではないかと考えられる. 3−1−4トリチウムガスの皮膚を介しての体内取り込み トリチウムガスのヒト皮膚の透過性は外科的に除去した皮膚を用いた場合では72±16×10贈6(μCi/ ㎝2/min/μCiHT/㎝3)である58). Eakinsら59)によれば,24㎝2の皮膚を9.62MBq/㎝2(260μCi/㎝2)のトリチウムガスに10分問曝 露させたとき尿中にトリチウムが全く検出できなかった. 間接的な研究として,金属片にトリチウムガスを噴射して表面を汚染させ,その表面にヒトの前臆部皮膚 を押し当ててトリチウムの体内への移行を調べた4人の男性ボランティアによる実験がある59)。すなわち, ボランティアの被検者は実験に先立ち1時間前に前謄部の内側を前もって洗った.一方,9×2㎝,表面積 は38㎝2の真鍮と軟鉄の2種類の金属をトリチウムガ貞で汚染させて表面のトリチウム濃度を44μCi/㎝2 とした。この金属片にボランティアが同じ圧力で接触出来るように台バネ秤の上皿にネジで固定し,この上 に前搏内側を3から4ポンドになるように10分間押し当てて曝露した.被検者の尿のサンプリングはサンプ リング毎に残尿がないように努力し,曝露前と曝露後に頻繁になった.尿のトリチウム濃度は曝露して24時 間後に最大に達した.24時間後での体内へのトリチウムの移行量は摂触させたトリチウムの約0.28∼0,75 %と算定された。1週間以降は指数関数的に減少しその生物学的半減期は13から16日であった。この半減 期はトリチウム水の場合に比べるとやや長くなっている.このとき,尿のトリチウムの化学形はトリチウム 水と組織結合型であって,トリチウムガスは存在しなかった,と報告されている.彼らはトリチウム水でま 472 一 政 トリチウムの生物影響研究の最近の進歩 解 説 た次の実験をした.真鍮を炉紙で覆い,これに250μCiのトリチウム水を含む水0。5mlを吸収させて,こ の真鍮紙の小片を前臆部内側に10分間当てた時,尿中トリチウムの生物学的半減期は9.5日であった.この 半減期はヒトの尿中トリチウムの生物学的半減期が7.5日から11.5日49)’60−63)のあたりに分布することから よく一致した値であると考えてよい.トリチウムガスで汚染した金属表面と皮膚の接触によるトリチクムの 体内への移行は皮膚を構成する有機成分のWUzbachラベリング,不飽和化合物へのトリチウムの付加反応, 有機成分の水素との交換反応等によって構成されていると考えられている.トリチウムガスの皮膚を介した 取り込み機構はその実体がよく解ってない,なお,高濃度のトリチウムガスでの皮膚からのトリチウムの吸 収に関した研究は他にない. 3−2 トリチウム水の代謝 トリチウムガスとトリチウム水の体内取り込みを比較する際にはトリチウム水は水蒸気として投与するこ とになる.従ってPinson とLa㎎ham49)の追試の一環として,トリチウム水蒸気のラット体内取り込み実 験が行われた駒.また最近のトリチウム水の代謝研究では体内のトリチウムの生物学的半減期を決定する 要因の解明が進められた鋤.この研究ではトリチウムの生物学的半減期には個体によるばらつきがあること を示唆し,実際にラットの尿中トリチウムと,トリチウム取扱従事者63)の尿中トリチウムで確認された. 3−2−1トリチウム水蒸気の体内取り込み トリチウムガスとトリチウム水の体内取り込みを比較するために,トリチウム水蒸気をラットに曝露する 装置を製作した(図4)64》。PinsonとLangham49)がトリチウム水を飽和水蒸気としてラットに吸入させ たのと異なって,トリチウム水を前もってシリカゲルに吸収させておき,このシリカゲルを一定温度に保温し 齢献obo8iG Gag● 蓼離齢 ”8ter ba㎞ 8 騨・ 、、_鰻 謙瑠押㎞難 ・60qC co‘d Orγ5i航qge‘ 電raρ 聡丁O Pa悶ffiの 暗q魑jd壷 →oUl眺 ●d9● 3:!3 Uri“e 會 Gollector 3轄 8讐∫3 F●c31 Go袖㏄艦or ・600C coldヒmρ Drγ5龍ic■gd 図4.トリチウム水蒸気曝露装置. 473 核融合研究 第64巻第6号 1990年12月 ながらトリチウム水蒸気として再放出させて,一定のトリチウム濃度と湿度を含んだ空気にしてラットを長 時間曝露させた.図5は23℃で空気1ml当たり10.1pCiのトリチウム水蒸気に曝露させたときのラッ・ト尿中 のトリチウム濃度の変化を示したものであ X103 る.△印はPinsonとLangham49)のデータ 80 からの計算値であるが,図からも明らかな ように両者のトリチウム水蒸気の吸引率は 自70 ε 完全に一致した・従って,3−1−1のトリ ε チウムガスの取り込み率のデータとから, ≧ り60 ε50 4 ノ ●= ム ! コ ラットでは少なく見積ってもトリチウムガ スのラット体内への取り込み率はトリチウ ! ! C鞠0 , , む ノ ノ ;30 ノ ●署 ! り ム水蒸気の取り込みと比べて約4000分の1 ノ 0 20 凶 ノ ε であることが解った. 3−2−2ボランティアによるトリチウム 水の経自摂取 9’ コ じ 10 ’ζ 0 6 ト = ㌧ 0 5 .9 駕 尊 』 ⊆ .9 3往 さ 2お < ノ ’ ト 0 0 PinsonとLangham49》は自ら被検者とな 20 鴨0 60 80 100 120 1町0 160 Exposure time{hr⊃ 図5. トリチウム水蒸気(10、1pCi/ml空気,23℃)に曝露 中のラットの尿中トリチウム濃度 ● 尿中トリチウム濃度,トリチウム水の吸収率1 △『Pinsonらのデータから計算したトリチウム水 って,トリチウム水を飲んで人体トリチウ ムの動態を調べた.彼らは,室温25℃の部 の吸収率. 屋で37℃に暖めたトリチウム水,各々200 100ml(1.64mCi, 6.07×106Bq), 1000ml(1.64mCi, m1(2.92mCi,1.08×107Bq), 6.07×106Bq)を飲んで体内動態を調べた。詳細な記載はトリチウム資料集・198866)を見て戴きたいが, 1957年の本研究以後この研究に並ぶものはない。 3−2−3ボランティアによるトリチウム水蒸気の肺からの吸収49) 人体をトリチウム水蒸気に4∼5分曝露すると,トリチウムは肺を経由して静脈血に取り込まれ血中トリ チウム濃度は急激に増加し,5∼15分で最大に達する.その後12分の半減期で指数関数的に減少して,90分 後にはほぼプラトーに達する.同時に尿中トリチウム濃度を測定して静脈血のそれと比較すると,尿分泌速 度が1m1/分では静脈血中のトリチウム活性よりゆっくりと増加して,曝露25∼40分後に最大に達する. 吸入したトリチウム水蒸気の体内への吸収率は98.7∼99.1%,平均98.7%であった。 3−2−4トリチウム水蒸気及びトリチウム水の皮膚からの吸収 PinsonとLangham49)は腕の肱から指先までをトリチウム水蒸気またはトリチウム水を入れたシリ.ンダー に入れて,皮膚からのトリチウムの吸収を調べた。トリチウムの飽和水蒸気の実験ではその温度は24±2℃ である。使用したトリチウム水には78μCi/mg(2.9×105Bq/mg),1.2∼1。5μCi/mg(4。44× 103∼5.55×103Bq/mg)の比放射能のトリチウム水を用いた.曝露後15∼60分間の吸収率は0。010∼ 474 解 説 トリチウムの生物影響研究の最近の進歩一 一 政 0.048mg/㎝2/minであった.曝露された部位から尿中へのトリチウムの移行は,1皮膚温度によって大きく 左右される. Osbome67)は16人のボランティアで皮膚からのトリチウム水蒸気の体内への取り込み量を測定し,雰囲 気の相対湿度(12∼43%),温度(80∼8g tF)によっては取り込み量に変化はみられないと述べて いる.DeLongら58)はトリチウム水の吸収率を30℃の条件下で調べ,上腕皮膚からの吸収率は0.086∼ 0.0017mg/㎝2/min,腹部では0.0104mg/㎝2/min,全身では0.0178mg/㎝2/minであることを明らか にしている. 3−2−5トリチウムの重度汚染例 平嶋68)はトリチウムによる人体の重度の汚染・障害例をレビューしているが,Seelentag69)の例では多 量のトリチウムによる被曝が死因と考えられ,その病態は造血系による汎血球減少症であり,臨床的には再 生不良性貧血と述べている. 3−3 トリチウム有機化合物の体内への取り込み トリチウムの代謝研究の成果から,体内に取り込まれる化学形が有機物の場合では水に比べて線量が高く なるという報告が蓄積してきている70疇73). 3−3−1妊娠母体から胎児へのトリチウムの移行 妊娠ラットとマウスにトリチウム水またはトリチウムで標識された一つのモデル食品としてチミジンを妊 娠期問に注射投与または飲料水で投与した場合,チミジンはトリチウム水の数倍から数十倍の高い割合で胎児 の有機結合型のトリチウムに取り込まれ,胎児期の内部被曝線量は母体が摂取する飲食物中の食品の化学形 に依存することが明らかになった74・粉. 3−3−2母乳を介してのトリチウムの移行 ミルクは重要な食品であると同時に,ヒトヘの放射性核種の運搬物としても特別の意味をもっている。乳 牛がトリチウム化された干草で飼育されたとき,飲んだ有機結合型トリチウムの1,6%が乳汁として分泌さ れ,その約半分の0,84%はミルクの水分として存在し,残りの0.74%はミルク中の有機成分となった. 0.74%の内訳は脂肪分が0.53%,カゼィンが約0.18%,そしてラクトースが僅かに0.04%であった,搾乳 中の乳牛を1mCiのトリチウム化された干草で飼育した時には,1mCiのトリチウム水を与えたときより, 乳脂肪には約20倍高いトリチウムが,そしてカゼィンには約17倍高いトリチウムが取り込まれたが,ラクト ースのトリチウムレベルには差が見られなかった.それに対して,ミルク水分のトリチウムはトリチウム化 された干草を食べた区ではトリチウム水を飲んだ牛の約52%と半減した.トリチウム化された干草を食べ させた後,生成されたミルクのトリチウム水は代謝水に由来すると考えられている.これらのデータは乳脂 肪の水素の2.4%は自由水の水素に,残り97。6%は組織結合型トリチウムに由来すること,乳カゼインの水 素の3・2%は自由水の水素に・残り96・8%は鶴結合型に由来するFと・ラマト旧ス,ではそれぞれ謝% と60.6%であることを示唆した76). 475 核融合研究 第64巻第6号 1990年12月 3−3−3トリチウム標識化合物からの取り込み 多くのトリチウム標識化合物がトレーサー研究で多方面にわたって使用されているので,ここでは放射線 防護の観点から取り扱われたものについて2∼3述べたい77》’78㌧ 食物として体内に取り込まれた蛋自質は消化管内で酵素によって主としてアミノ酸あるいは短いペプチド にまで分解されて消化管から吸収される.アミノ酸は20種類があり,ヒトの場合には栄養学的に不可欠な8 種を必須アミノ酸とよんでいる.BalonovとZhesko79)はトリチウム標識した6種のアミノ酸およぴトリチ ウム水をラットの腹腔内に投与し,24時間後に各種臓器中の有機結合型トリチウムを測定した.トリチウム ーアミノ酸投与の場合いずれもその結合型トリチウム濃度はトリチウム水の場合に比べて高かった。使用し たトリチウム標識アミノ酸の半減期は臓器によって差異がみられたが,アミノ酸の種類の違いによる差は殆 どみられなかった.さらにトリチウムーロィシンの光学異性体の組織有機成分への取り込み率を比較し,L 型はD型に比べ有機結合型トリチウム濃度が約2倍高いこと,またDL型は両者の中間の濃度値であること を明らかにした。 Takeda80)は,トリチウム水とトリチウムーロィシンをラットヘ投与し,120日間経時的に各種臓器中の 全トリチウムと結合型トリチウムを測定した。その結果トリチウムーロィシンはトリチウム水に比べ約3 倍高い線量を示した.有機結合型トリチウムの被曝線量への寄与率は60∼80%であった。 トリチウム標識炭水化物の生体成分への取り込み及び線量評価に関する研究には,Balonovら8PとTakeda 80)のがある.これらのデータは,トリチウム水投与の場合と比較してトリチウムーグルコース投与の場合で は組織結合型のトリチウム濃度が高くなることを明らかにした,トリチウム水とトリチウムーグルコースと を比較すると組織結合型トリチウムからの線量には差異が見られるが,総線量で比較した場合には差異がな いことを明らかにした. 3−4 トりチウム水の実効半減期 3−4−1日本人の例 トリチウムの個人モニタリングのデータの中で,汚染を繰り返してない38人の作業者の尿中のトリチウム の生物学的半減期を分析した結果,その半減期は短いもので5日,長いもので17日であり,平均値は9.5± 2.8日であった.ICRPでは平均値を10日とし,ばらつきの巾を4日から18日にしているので,日本人の o データもよく一致していると言える.データがあまり多くないこともあって,トリチウムの生物学的半減期 の年齢や季節による変動は観察されなかった63》. 3−4−2 1CRPの実効線量測定に用いられる実効半減期 上野82)はトリチウムの実効半減期(T)の10日という値は,標準人の体重70kg,水成分を体重の60%,1日 当たりの水摂取量を1kgとして計算された値であると解説している。 70000×0.60 . T=0.693× =9,7=.10日 3000 476 解 説 トリチウムの生物影響研究の最近の進歩 一 政 またこの式で計算すると日本人成人男子に対して9.97日,女子に対して6.93日となり,平均8.45日とな る. 3−5 トリチウムに汚染した人体の除染 3−5−1体内汚染の場合 トリチウムに汚染した人体からトリチウムの排出を促進することは被曝線量を軽減するのに有効な手段で ある,PinsonとLa㎎ham49)はボランティアに水を大量に摂取させて尿中のトリチウ本の生物学的半減期がコント ロール区に比べて短縮することを報告した。NCRP Report黙6583)では果汁,紅茶,コーヒー,ビー ルを1日当たり3000∼4000m1飲むことを指示し,経口的に摂取できない場合には静脈注射で5%グルコー スやリンゲル液を1日当たり3000m1迄,投与することを指示している.Takadaら84)はトリチウムを摂取 した作業者に水を多量に飲ませて体内トリチウムの排泄促進を試みた.、しかしながら,被検者を管理下に置 けなかった為にその効果を確認することが出来なかった, 3−5−2体外汚染の場合 Eakinsら59)はボランティアにトリチウムで汚染した真鍮のシリンダーを10分間握らせて掌を汚染させた 後30分してから,掌を液体セッケンと水を豊富に使って洗い,これを次の3時間,30分毎に繰り返した.こ の除染によって尿中のトリチウム量は除染しない場合の約4分の1に低下した・ Osborn67)はボランティアの実験によって,作業着の着用により0.17mCi(6.29×105Bq)のトリチ ウム水蒸気の阻止効果を上げた, 3−5−3体内汚染したトりチウムの排泄促進法の開発 著者ら52)はトリチウム水の急性摂取で汚染したラットに0.15%サッカリン水やビールを飲ませる4とに より多量の水分を摂取させた,その結果,排尿が増大し,尿のトリチウムの生物学的半減期が短縮し,同時 に体組織の総トリチウム濃度は低下したが,組織結合型トリチウムの顕著な減少は見られなかった. 利尿剤(acetazolamide−Na,furosemide,hydrochlorothiazide,triateren,conrenoate potasim1) は種類によってその作用に特徴があるが,いずれの場合にも尿の排出量の増大がみられた際には,トリチウ ムの体外への排出が促進し,合せて体組織のトリチウム濃度が低下した。利尿剤とあわせてリンゲルやグル コースの点滴はトリチウムの体内除染に効果的であった85》. さらにトリチウム水の連続摂取状態にあっても0.15%のサッカリン水を多量に飲ませて尿量を増加させ ると,尿,血液,及ぴ組織中のトリチウム濃度を低いレベルに抑えることができる52㌧また,マウスにト リチウム水を6ケ月間自由に飲ませた後にサッカリン水で水を多く飲ませると,尿中のトリチウムの生物学 的半減期をコントロール区に比べて短縮させることができた86㌧ ラットが脂肪欠乏飼料で飼育された場合にはトリチウム水からのトリチウムの脂肪組織への取り込みが増 加した65》.このことは栄養条件によってトリチウム水からのトリチウムが代謝的に有機物質に取り込まれる 際に組織間でトリチウムの分布に偏りが生じ,被曝線量の高い部分が生ずることを意味する・従ってトリチ 477 核融合研究 第64巻第6号 1990年12月 ウムの体内分布の偏りを避けるには栄養的にパランスのとれた食物を摂取するのが望ましいと言えよう. 甲状腺ホルモン,チロキシンの投与により尿中のトリチウムの生物学的半減期を対象区の1/2に短縮し, 組織中のトリチウム濃度を1/5に,組織結合型のトリチウムでは約1/2に減少し,顕著なトリチウムの排出 効果がみられることが見い出された65)・ 3・一5−4傷口からのトリチウムの汚染 トリチウムの汚染速度は傷の種類で異なり,切傷が一番早く,ついで擦傷,火傷,塩酸一化学薬品による 損傷の順であった87), 4『.トリチウムβ線のRBE(生物効果比) トリチウムのRBEについては「核融合研究者の為のトリチウム安全取扱の目安一1990」の「ヒトのトリ チウム摂取による障害」88)の章に充分にまとめられているので詳細はそれを参照されたい。 トリチウムのβ線のRBE(生物効果比)を分子のレベル,培養細胞のレベル,および個体のレベルで調 べた最近の結果は以下のようにまとめられる. 1)DNAの切断修復でのRBEは0.6から1・0附近の値であった・ 2)ヒトの身体的障害に関連するリンパ球,造血幹細胞,甲状腺細胞などでのR BEは1。8から3。7であ り,皮膚では1.4,ヒト精子では1から1.9であった・ 3)ヒトの個体モデルとしての動物細胞による発ガンのRBEは1から1。3であり,突然変異については 0.7から2.6となり,胎仔期の奇形発生については1.8から2、6であった。 3)動物個体での発ガンのRBEは1から1.5であった. 従って現状ではRBEは1とするより,安全サィドで考えて3とするのも良いと思う。納得のいく値が研 究の中から生まれることを期待する。 5.あとがき トリチウムの環境・生物影響研究は文部省の科学研究費補助金のお陰で軌道に乗ってきたように思う.こ れまでに得られた多くの成果を基礎にして今後一段と研究が進むことと思われる,「トリチウムの生物影響 研究の最近の進歩」と大きな題でありながら,実際はテーマをしぽってトピックスをいくつかあげたに過ぎ ない。幸いにして,文部省科学研究費補助金研究成栗報告書の「生物を含む環境トリチウムの変動解析(平 成元年度)高島班」,「トリチウムβ線のRBEとその線量率依存性(平成元年度)澤田班」および「トリ チウムの体内代謝とその影響効果(昭和62年度)一政班」があるので,これらに併せて「トリチウム資料集 ・1988(昭和63年)」を参照して頂きたい・ なお,本稿の執筆を促していただき御教示頂いた東北大学工学部の戸田三朗先生に厚くお礼を申し上げま す. 478 I ;i ' h t) 7 a)f#_ *."c '; Ti -_7 (1) 15+"'i i:a)i -*, 1 1) U { fi62LF'-' '**= :i',1; 2) }} h 7t - il ) * ,1; 3) H i '.-f-jJ 4) '7','-'F A {= f=1・ f; r h l) : il 'j*L'it ' E l 41 e': i7 ' 7 J ' ' :fjJ ; '-・ t C t "*7t;1J f - -'*f*'; t r h l) ** n)J*1, rf - ( ' ( t' _*. .*lj**i ' - t *.j -- f (i J " ・(7) ,,. a) h l) t -=F ・ 1988J (1988) . 7 A' :=/1:' *= " h ') h 7A * (1)' k Jka) fi< ' - 1990J (1990) f.i b. (1972). ti 24 (1982) 57. *' / - 31 (1989) 791. LI : u4;i Cf) "j-'"--'- 5) #-.h 6) _lr_IE{,-・-・・-' 7) fCJ , Q : : fc 54 (1985) 498. 1T-_*T' : 4 ; 20 (1985) 49. 8) NCRP Pub. 62 : Tritium in the envirom'rent. (National Council on Radiation Protection and Measurements, Washington, D.C. . 1979) p. 69. 9 ) Proceedings of Japan-US Workshop P-133 on Tritiu,n Radiobiolog_v a,id Health Ph_vsics (Ed. H . Matsudaira et al. NIRS-M-41 1982) . 10) Proceedings of the workshop on tritium radiobiolog_v and health physics (Ed. H. Matsudaira et al. NIRS-M-52 1985) . 11) Proceedings of the Third Japan-US Workshop P-133 on Tritium Radiobiology and Health Physics (Ed. S. Okada, Institute of Plasma Physics, Nagoya Univ. Nagoya. IPPJ=REV-3 1989) . 12) t * ) 4 ec 5s ) h ,) 7 ' e .*7 (7) ." -・ f (NlRS-M-42 1981) (tf (l * t * ' : f- ") - 1983). 13) Estratto da (1984) : European Seminor on the Risks from Tritium Exposure. 14) Environmental and Human Risks of Tritium (1986) : Radiat. Prot. Dosim. 16. 15) N. Momoshima, Y. Nakanura. T. Kaji, and Y. Takashima : Radiochem. Radioanal. Letters 58 (1983) I . 16) N. Momoshima : M. Inoue, Y. Nakamura, T. Kaji and Y. Takashima: J. Radioanal. Nucl. Chem, Letters 104 (1986) 141. 17) N. Momoshima, T. Okai, T. Kaji and Y. Takashima (1989) : (to be submitted to Radiochem. Acta. ) 18) T. Okai and Y. Takashima (1990) : (to be submitted to Apple, Radiat: Isot. ) 19) C.E. Jr. Murphy and M.M. Pendergast : IAEA-SM-232/ 3 (1978). 20) Y . Takashima : in Proceedings International School of Plasma Ph_vsics- Tritium and Ads.,a,tced Fuels in Fusion Reactors, Varenna, Italy (1989) p. 41. 21) R.D. Fallon : Appl. Environ. Microbiol. 44 (1982) 171. 22) H. Forstel : Radiat. Prot. Dosim, 16 (1986) 75. 23) C. Bunnenberg, J. Feinhals and B. Wiener : Radiat. Prot. Dosim. 16 (1986) 83. 24) M. Ichimasa, Y. Ichimasa. Y. Azuma. M. Komuro. K. Fujita, and Y. Akita : J. Radiat. Res. 29 (1988) 144. 25) M. W. W. Adams. L. E. Mortenson, and J. Chen : Biochim. Biophys. Acta 594 (1981 ) 105. 26) R. Conrad and W. Seiler : FEMS Microbiology Letters 61 (1979) 43. 27) - ; i i , - h , fA l - : h l) , (1)1i' t ".t t; ft,h : : ; (B D63 ) 27. 28) Y. Belot : Radiat. Prot. Dosim. 16 (1986) 101. 29) F.S. Spencer and T.G. Dunstall : Radiat. Prot. Dosim. 16 (1986) 89. 30) C.E. Jr. Murphy : in Proceedings ofthe ThirdJapan-USWorkshop P-133 on Tritium Radiobiolog_v a,id Health Ph_vsics (Ed. S. Okada. Institute of Plasma Physics, Nagoya Univ. Nagoya. IPPJ-REV-3 1989) 64. 31) 32) 33) 34) M. Ichimasa, Y. Ichimasa, Y. Yagi. R. Ko, M. Suzuki, and Y. Akita : J. Radiat. Res. 30 (1989) 323. J.R. Kline and M.L. Stewart : Health Phys. 26 (1974) 567, J.A. Garland and L.C. Cox : Water Air Soil Pollut, 14 (1980) 103. Ph. Couchat. M. Puard and G. Lasceve : Health Phys. 45 (1983) 757. 35) M. Ichimasa, Y. Ichimasa and Y. Akita : J. Radiat. Res. 30 (1989) 330. 36) F.S. Spencer. G.L. Ogram and R.M. Brown : Fusion Technol. 44 (1988) 1176. 37) -J 38) - Ci[ J-f', wrUj' :,i ,. ?j(, --B C i-r, -n 33l )k ( /i (_ s: : 39) it=_11 D : h ') C 1i , 1';,*'}{i f; 7 A ?" , f [iJ =- : ri) ; ( t ,',e. . '- :. t tH if, f LU, 1 -, ' ' *f-'..'/*" -- ' f A / f 32 l) /*, : (rl e (/ i i_' j i t/ l' *i( (1989) pl40 []4 tfX f, ,';.' ' . (1990) p. 243. '* * i ・ 1988 (1988) 457. 40) R.M. Brown, G.L. Ogram, and F.S. Spencer : Health Phys. 58(1990) 171. 41 ) CFFTP-G-88043 : The French Experiment on Environmental Tritium Behavior October 15, 1986 (1988) . 42) CFFTP-G-88027 : The Canadian HT Dispersion Experiment at Chalk Riber-june , 1987 : summary report (1988). 479 I * i; * 64 i 6 " 1990 Pl2 43) H. Noguchi, T. Matsui and M. Murata : Fusion Technol. 14 (1988) 1187, 44) S. Hisamatsu, Y. Takizawa, M. Ito, K. Ueno, T. Katsumata and M. Sakanoue : Health Phys. 57 (1989) 559. 45) S. Hisamatsu, Y. Takizawa, T. Katsumata, M. Ito, K, Ueno and M* Sakanoue : Health Phys. 57 (1989) 565. 46) Y, Ujeno, T. Aoki, K. Yamamoto and N. Kurihara : in Proceedings ofthe ThirdJapan-USWorkshop P-133 on Tritium Radiobiology and Health Physics (Ed. S. Okada, Institute of Plasma Physics, Nagoya Univ. Nagoya, IPPJ-REV-3 1989) 84. 47) S. Hisamatsu. Y . Takizawa. T. Abe, M. Ito. K, Ueno. T. Katsumata and M . Sakanoue : in Proceedings ofthe ThirdJapan-USWorkshop P-133 on Tritium Radiobiology and Health Physics (Ed. S. Okada, Institute of Plasma Physics, Nagoya Univ. Nagoya, IPPJ-REV-3 1989) 88. 48) ]EEI : IJ : pL ': c - : P ) tLP ! t = ' : 5 c; b rt :i 5ft (7) a) h l) A t f :(7) -1990J (1990) 87. 49) 50) 51) 52) E.A. Pinson and W.H. Langham : J. Appl. Physiol. 10 (1957) 108. E.A. Pinson and W.H. Langham : Health Physc. 38 (1980) 1087. Y. Ichimasa, M. Ichimasa, T. Shiba, M. Oda and Y. Akita : Radiat. Prot. Dosim. 16 (1986) 127. Y . Ichimasa and Y . Akita : in Proceedings of the Workshop on Tritium Radiobiology and Health Physics (Ed. H. Matsudaira et al. : NIRS-M-52' 1985) 5 . 53) G.N. Smith and R.O. Marshall : Arch. Biochem. Biopys. 39 (1952) 395. 54) G,N. Smith, R.J. Emerson, L.A. Temple and T.W. Galbraith : Arch. Biochem. Biopys. 46 (1953) 22. 55) T. Mitsuoka and C. Kaneuchi (1977) : Am. J. Clin. Nutr. 30 (1977) 799. 56) M. Ichimasa, Y. Ichimasa, N. Hashimoto, M. Oda and A. Akita : in Proceedings of the Third Japan-US Workshop P-133 on Tritium Radiobiology and Health Physics (Ed. S. Okada, Institute of Plasma Physics, Nagoya Univ. Nagoya, IPPJ-REV-3 1989) 107. 57) Y. Ichimasa, H. Shiba, M. Ichimasa, M. Chikuuchi and Y. Akita : in Proceedings of the Third Japan-US Workshop P-133 on Tritium Radiobiology and Health Physics (Ed. S. Okada, Institute of Plasma Physics, Nagoya Univ. Nagoya, IPPJ-REV-3 1989) 112. 58) C.W. DeLong, R.C. Thompson and H.A. Kornberg : Am. J. Roentg 71 (1954) 1083. 59) J.D. Eakins, W.P. Hutchinson, and A.E. Lally : Health Phys. 28 (1975) 213. 60) C.R. Richmond, W.H. Langham and T.T. Trujillo : J. Cell Comp. Physiol 59 (1962) 45. 61) J.M. Foy and H. Schnieden : Physiol. 154 (1960) 169. 62) S.H. Sadarangani, S.G. Sahasrabudhe and S.D. Soman : in Tritium (Ed. A.A. Moghissi and M.W. Garter) Messenger Graphics. Las Vegas, NV. (1973) . 63) J. Akaishi : in Proceedings of the Japan- US Workshop P-133 on Tritium Radiobiology and Health Physics (Ed. H. Matsudaira et al. NIRS-M-41 1982) 285. 64) Y. Ichimasa. K. Tanabe, M. Ichimasa, and Y. Akita : J. Radiat. Res. , 27 (1986) 267. 65) - i j: : B 162 66) - : B 162 5C ' = * '; e5t 13 ' * 5fc UA b 5fi: i : 1 ( I* 5,t: r h T) ; r h '; 7 A =4 ' 1988J (1988) 366. A 4 ' 1988J (1988) 339 67) R.V. Osborne : Health Phys. 12 (1966) 1527. 68) F * B D62 s = " : 5r b e 't ! ; 1 . r h t) iF A =4 ・ 1988J (1988) 344. 69) W. Seelentag : Two Cases of Tritium Fatality, in Tritium (Ed, by A.A. Moghissi, and M. W. Carter) , Messenger Graplics, Las Vegas, NM. , (1973) 267. 70) f'l ¥ z 71) 72) i : : f f= : 26 (1983) 66. : A, i i A : { ; a 20 (1985) 167. H : i : { 4 : 23 (1988) 331. 73) K. Komatsu and Y. Okumura : Health Phys. 58 (1990) 625. 74) M. Saito, C. Streffer and M: Molls : Radiat. Res. 95 (1983) 273. 75) M. Saito and M.R. Isida : Radiat. Prot. Dosim. 16 (1986) 131. 76) J. van den Hoek and G. Gerber : EUR 9065 (1984) 225. 77) i{1 78) trll ? - : B : B77 n62 p 162 Pi C "I; F C, =47 , .. : =+,・・ ' .. i _ i U/ . f 5tt:fJ : -・1 = 'i= r h l) iS /*, lz 5fuh : 'r! .- 79) M. I. Balonov and T.V. Zhesko : Gigienai Sanitariya 8 (1983) 76. 80) H. Takeda : J. Radiat. Res. 23 (1982) 345. 480 r h i) 7 A 7 A '-= # ・ 1988J (1988) 373. t =+ ・1988J (1988) 375. 解 説 トリチウムの生物影響研究の最近の進歩 一 政 81)M.1.Bak》nov,1.A.LikhtarevandY.1.MoskalevlHealthPhys.47(1984)761. 82〉 上野陽里:昭和62年度文部省科学研究費補助金研究成果報告書:「トリチ・ウム資料集・1988」(1988)353. 83) NCRP Report No.65(1980). 84) K.Takada,H.Fukuda,T,Hattori and J.Akaishl二Health Phys,41(1981〉825. 85)Y.Ichimasa,M.Abe,Y.Fukusima,M,Kitamura,M.ChikuchiandY.Akita(1989b):inP70‘624i㎎sげ孟hθ Th’〆4頂卿κ・OS吻地shρρP・1330κ丁万枷規R4φ06如1og伽ゴ磁41!h P勿就s(Ed.S.Okada,Institute of Plasma Physics,Nagoya Univ.Nagoya,IPPJ−REV−31989)118. 86)A.L.Carsten,R.D.Benz,S.L.Commer蚕ord,W』Hughes,Y.Ichimasa,T.Ikushima,andH。Tezuka:in P〆of884初g36ゾ伽吻沈shρρoπTプ痂鋸別ぬ漉o扉010gy伽4飽読h Phッsゴ63(Ed.B.Matsudaira召!α乙 NIRS−M−521985)258. 87) 澤田昭三二昭和62年度文部省科学研究費補助金研究成果報告書「トリチウム資料集・1988」(1988)363. 88)澤田昭三,岡田重文:平成元年度文部省科学研究費補助金「核融合研究者の為のトリチウム安全取扱の目安一1990」 (1990) 135. 481 2.イオンの構造とプラズマ分光 香川貴司 (奈良女子大学理学部) 佐藤国憲 (核融合科学研究所) (1990年7月23日受理) Struet皿e of lons and Plasma Spectroseopy * Takashi Kagawa and Kuninori Sato (ReceivedJuly23,1990) Abstraet Recent theoretical and experimental investigat董ons on the strueture for mu且t董charged ions in connect葺on with the p葺asma speetroscopy are reviewed. It is emphasized that the rdativistic and quantum eleetr①dynamical〔QED)effects as wdl as the electron¢orrelation effeets on their energy levels and transition gro㎞billties must pro碑rly taken into aeeount when analyzing spectra observed. Keywords: atomic physics,plasma spectroscopy,energy structure, 1.序 論 の電荷分布およぴ励起状態のpopulationの違いが プラズマから放出される輻射は,プラズマを構成 スペクトルに反映されることにある,プラズマの診 している元素に依存するばかりではなく,イオンま 断にとっては,必要なイオンの構造,光学的遷移確 たは電子の密度ならぴに温度の違いによりその放出 率,イオンと電子またはイオン同士の散乱による種 のメカニズムが異なる.しかし,大部分の興味ある 々の断面積(第3およぴ4章参照)等の原子データが必 プラズマは,イオン密度が固体密度に比べて十分小 要になり,精密に得られる孤立系の理論値ならびに さく,輻射を放出するイオン(原子)のエネルギー 実験値のデータ・ベースが作成され,より良いもの 準位,遷移確率はなお孤立系のものと同じと考えて へと改良されてきている監). よい.プラズマからのスペクトルの特徴は,イオン ここでは,最初に,原子物理学で発展してきた原 〈配z〆πVVひ〃20イs Uカizノεzsi砂,〈1とzπz630 *」悔だo㌶α1ノお♂尭z〆6ノ∼》〆Fz6sづo%S‘勿多zo6,ハ勉goッごz・46401. 482