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農業用水の取水パターンに基づく 小水力発電量と発電単価
H25.10.3 2013グリーンテクノバンク・シンポジウム 農業用水の取水パターンに基づく 小水力発電量と発電単価 (独)土木研究所 寒地土木研究所 寒地農業基盤研究グループ 水利基盤チーム 大久保 天 本講演内容 1.北海道における小水力発電の発電原価の概算 1.北海道における小水力発電の発電原価の概算 道内の複数の農業用ダム、開水路の落差工とパイプラインの調圧施設 複数箇所を対象に、小水力発電の発電原価を概算して、その傾向や特徴 を示す。 発電原価 の概算 ・発電利用可能水量を農業用水に限定 ・有効落差を単純化した条件で設定 ・建設単価を既存発電施設のデータから推定 2.具体的な農業用ダムを対象とした発電原価の試算 比較的優位な発電原価を示す農業用ダムをモデル事例として、基本設 計レベルの発電原価を算出して経済性を評価する。 基本設計レベルの 発電原価の算出 ・発電利用可能水量や有効落差を実際のダム管理データ に基づいて想定 ・建設費をメーカーへの聞き取りにより策定 以上1.2.の発電原価の算出には、ハイドロバレー計画ガイドブック (経済産業省資源エネルギー庁、H17年)を参考とした。 試算対象施設 試算対象施設 農業用ダム 水田主体 10 ダム 畑かん主体 13 ダム 開水路 (落差工) 落差工 A地区幹線用水路内 地区幹線用水路内 落差工:4箇所 落差工: 箇所 B地区幹線用水路内 地区幹線用水路内 落差工:14箇所 落差工: 箇所 パイプライン (調圧施設) 調圧施設 1地区幹線水路内 地区幹線水路内 :14箇所 箇所 発電出力の算出方法 発電出力Pおよび年間発電量Eを次式より算出する。 P( (kW) ) = 9.8× ×η× ×Q( (m3/s) )×H( (m) ) E( (kWh/年) = P( (kW) )×24( (h) )×365日 日×(設備利用率) 年間の発電時間(h) 年間の発電時間( ) P:発電出力(kW) η:効率 Q:流量(m3/s) H:有効落差(m) E:年間発電量(kWh/年) 農業用水による発電利用可能水量 利用流量 流量Q (m3 /s) 取水量 1月 3月 5月 7月 9月 11月 北海道の水田地帯における農業用水の流量パターンの一例 設備利用率 = (実際の年間発電量) 約30% (水車の定格発電による年間発電量) 道外の既開発の施設における設備利用率の平均:約55% (全国土地改良事業団体連合会HPより) 発電原価の算出方法 10,000 建設単価(円/kWh) 建設単価(円/kWh) 1,000 100 y = 331.73x-0.086 1,000 100 y = 2684.3x-0.557 10 1 10 10 100 発電出力(kW) 1000 1 10 100 1000 発電出力(kW) 農業用ダムを利用した既存発電施設 用水路の落差を利用した既存発電施 おける発電出力と建設単価の関係 設おける発電出力と建設単価の関係 発電原価 = (建設単価)× 設備利用率)× (建設単価)×(1/設備利用率) 設備利用率)×(年経費率) 試算結果 年間発電量 年間発電量MWh/年 2,500 最大出力:1,667 kW 2,000 1,500 最大出力: 322 kW 1,000 500 最大出力:33 kW 0 農業用ダム (23ダム) 開水路(落差工) パイプライン (調圧施設) A地区4箇所 B地区14箇所 (1地区 14箇所) 発電原価(円/kWh) 試算結果 発電出力と発電原価の関係 農業用ダム 開水路 パイプライン 500 1,000 発電出力(kW) 150 120 90 60 30 0 0 100 200kW未満 200kW以上1,000kW未満 30.45 円/kWh 35.7 円/kWh 1,500 2,000 1,000kW以上30,000kW未満 25.2 円/kWh 試算結果 有効落差と発電原価の関係 農業用ダム 開水路 パイプライン 発電原価(円/kWh) 150 120 90 60 30 0 0 10 20 有効落差(m) 30 40 本講演内容 1.北海道における小水力発電の発電原価の概算 1.北海道における小水力発電の発電原価の概算 道内の複数の農業用ダム、開水路の落差工とパイプラインの調圧施設 複数箇所を対象に、小水力発電の発電原価を概算して、その特徴や傾向 を示す。 発電原価 の概算 ・発電利用可能水量を農業用水に限定 ・有効落差を単純化した条件で設定 ・建設単価を既存発電施設のデータから推定 2.具体的な農業用ダムを対象とした発電原価の試算 比較的優位な発電原価を示す農業用ダムをモデル事例として、基本設 計レベルの発電原価を算出して経済性を評価する。 基本設計レベルの 発電原価の算出 ・発電利用可能水量や有効落差を実際のダム管理データ に基づいて想定 ・建設費をメーカーへの聞き取りにより策定 以上1.2.の発電原価の算出には、ハイドロバレー計画ガイドブック (経済産業省資源エネルギー庁、H17年)を参考とした。 発電原価試算の対象施設 北海道内の畑地かんがい用ダム ・通年貯留 ・最大取水量 3.282 m3/s 試算対象とする発電利用可能水量 ・農業用取水放流量 ・河川維持放流量 通年発電を行う場合を想定して試算 発電利用可能水量の推定 発電利用可能水量の推定 過去数年のダム管理データから発電利用可能水量を推定 1.0 0.844m3/s 3 利用可能水量(m 水量(m3/s) /s) 0.9 0.755m3/s 0.8 維持放流量 0.7 0.477m3/s 0.521m3/s 0.6 0.5 0.440m3/s 0.4 農業用 取水放流量 0.3 0.2 維持放流量 0.117m3/s 0.117m3/s 0.1 維持放流量 0.0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 年間の発電利用可能水量の推移 有効落差の設定 ダム貯水位の最低有効落差を試算に用いた。 通年貯留のダムであり、年間を通して有効落差の変動 が小さい。 70 60 62m 61m 59m 55 61m 60m 61m 60m 50 H18 H19 H20 H21 有効落差 H=59~62m H22 12/1 11/1 10/1 9/1 8/1 7/1 6/1 5/1 4/1 3/1 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 2/1 45 1/1 有効落差 (m) 65 H23 適正な水車の選定 *ハイドロバレー計画ガイドブック 水車選定図 : 経済産業省資源エネルギー庁、(財)新エネルギー財団 水車の発電可能範囲の制約 水車の発電可能範囲の制約 1.0 0.9 100% 0.844m3/s クロスフロー水車の発 電可能範囲の下限は、 定格流量の15%である。 利用可能水量(m 水量(m3/s) 3/s) 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 農業用 取水放流量 0.3 0.2 14% 維持放流量 0.117m3/s 0.1 0.0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 かんがい期の最大水量を定格流量100%とすると、非かんがい期の最小流量は 定格流量の14%となる。クロスフロー水車1台による全水量の利用はできない。 小水力発電の検討において、かんがい期と非かんがい期 の発電利用水量の差が大きいことに留意する必要がある。 発電可能な方法の検討 1.0 → case 1 0.844 m3/s 利用可能水量(m3/s) ◆クロスフロー水車2台 用いて通年発電を行う 場合 0.8 利用水量 0.6 0.4 大流量水車 0.177 m3/s 0.2 小流量水車 0.0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1.0 → case 2 利用可能水量(m3/s) 0.844 m3/s ◆クロスフロー水車1台 用いて、通年発電を行う 場合 0.8 利用水量 0.521 m3/s 0.6 0.4 0.177 m3/s 0.2 0.0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 発電可能な方法の検討 ◆クロスフロー水車1台 用いて、かんがい期の農 業用水のみを利用して発 電を行う場合 → case 3 利用可能位水量(m3/s) 1.0 0.738 m3/s 0.8 利用水量 0.6 0.4 0.2 0.0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1.0 0.844 m3/s 利用可能水量(m3/s) ◆クロスフロー水車1台 用いて、かんがい期の 農業用水および秋季の 維持流量を利用して発 電を行う場合 利用水量 0.8 0.521 m3/s 0.6 0.4 0.2 → case 4 0.0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 発電原価の算出の流れ 1.建設費の策定 機械設備費、電気工事費、土木工事費等: メーカー聞き取り 2.年間経費の算出 ・耐用年数 22年 ・補助なし ・「ハイドロバレー計画ガイドブック」に従い年間経費(減価償却費、 金利、固定資産税、人件費、修繕費、その他経費、一般管理費)を算出 3.発電原価の算出 (発電原価 円/kWh) = (年間経費 円/年) / (年間発電量 円/kWh) 発電原価の試算結果 35 発電原価 円/kWh 買取価格: 30.45円 円/kWh (200kW以上1,000kW未満) 30 25 20 15 10 5 0 case 1 case 2 case 3 case 4 水車2台 通年発電 水車1台 通年発電 水車1台 かんがい期 のみ発電 水車1台 かんがい期+ 秋期の発電 おわりに 北海道における多くの農業水利施設は、かんがい期のみの使用となること から、設備利用率が低い条件において小水力発電を検討しなければならな い。しかし、その中でも比較的条件のよい施設もみられる。 経済的に成立する小水力発電の実績を積み上げて、小水力発電が有す る環境性や経済効果など利点をアピールして、今後の普及につなげていくこ とが重要である。 しかし、技術的かつ経済的な可能性が確保できても、系統連系する電力 系統の発電電力の受入容量不足で、計画が進められないという事態が現 実に起こっている。 その原因は、太陽光発電などの逆潮流電力の急増に対応した系統側の 設備増強が追従していないためと考えられる。こうした電力系統全体の課題 を踏まえて、今後地域の中でも小水力発電を含む再生可能エネルギーの新 たな利用方法を模索していく必要がある。