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米国資産運用業界におけるアウトソーシング・ビジネス
神山
要
哲也
約
1. 米国資産運用業界では、アウトソーシングの活用が広がっていると言われてい
る。その背景として、1990 年代に見られた投信残高の増大や、近年の IT バブル
崩壊を主因とする運用会社の収益性の低下などが挙げられる。
2. 伝統的なサービス・プロバイダーであるトランスファー・エージェントやカス
トディアンは、それぞれ中核ビジネスであるトランスファー・エージェント業
務、カストディに加えて、ファンド計理やファンド・アドミニストレーション
といった付加価値サービスを提供するようになった。
3. また、運用会社が他の運用会社にアウトソーシング・サービスを提供している
事例もあり、各社ともユニークなビジネス・モデルを採用している。
4. 我が国の資産運用業界は、運用会社が外部のサービス・プロバイダーを活用
し、インハウスで行う機能を自由に取捨選択できる状況にはない。米国資産運
用業界におけるアウトソーシングの事例は、今後、我が国資産運用業界にとっ
て参考になるものと思われる。
ントやカストディアンなどのサービス・プロ
I.現状と背景
バイダーおよび運用会社へのインタビューを
行ったが、その結果、運用会社が業務をアウ
米国の資産運用業界では、以前から業務の
トソースする目的として、コア・ビジネスへ
アウトソーシングが行われていたが、IT バ
の集中、オペレーション・コストの削減、固
ブル崩壊後、その動きがますます強まってい
定費の変動費化などが挙げられた。一方、ア
ると言われている。セレント・コミュニケー
ウトソースする際の課題としては、責任の所
ションズ社が 2002 年に米国運用会社 30 社に
在を明確にすること、アウトソースした業務
対して行ったアンケート調査によると、
に対するコントロールの確保、サービス・プ
80 % の 運 用 会 社 が フ ァ ン ド 計 理 、 フ ァ ン
ロバイダーによる業務執行能力の見極めなど
ド・アドミニストレーション、トランスファ
が挙げられた。
ー・エージェント、カストディなど、いわゆ
米国の資産運用業界では、カストディとト
るバックオフィス業務の一部をアウトソース
ランスファー・エージェント業務は、従来よ
しており、さらに、40%が新規ないし追加
り外部の機関が利用されてきた。カストディ
のアウトソーシングを予定しているという結
については、1940 年投資会社法において、
果であった。
一定の要件を満たした場合は自らカストディ
筆者は、米国でトランスファー・エージェ
を行うことも認められているが(セルフ・カ
1
資本市場クォータリー 2004 Summer
ストディ)、ほとんどの運用会社は外部のカ
やインフラでは対処しきれない事象に直面し
ストディアンを利用してきた。また、トラン
た。同時に、IT バブル崩壊後の収益性の低
スファー・エージェントについては、外部の
下により、コア・ビジネスを強化する一方、
トランスファー・エージェントを利用するこ
オペレーション・コストを削減する必要に迫
とが法的に義務付けられているわけではない
られた。これらの環境変化により、運用会社
が、中小の運用会社を中心に外部のトランス
にとって、カストディやトランスファー・エ
ファー・エージェントが利用されてきた。
ージェント業務という伝統的なアウトソーシ
カストディアンやトランスファー・エージ
ェントは、それぞれカストディ、トランスフ
ングの分野以外でも外部の資源を活用するニ
ーズが増加してきたのである(図表 1)。
以下では、米国資産運用業界におけるアウ
ァー・エージェント業務を中核ビジネスとし
ながら、次第にファンド計理をはじめとして、
トソーシングの実態について、現地インタビ
コンプライアンスやファンド・アドミニスト
ューを踏まえて概観する。
レーションなど、周辺業務を付加価値サービ
スとして提供するようになった。特に、カス
II.米国資産運用業界におけるアウトソー
トディアンについては、1980 年代以降、カ
シング・サービス・プロバイダー
ストディから得られる手数料が大幅に低下し、
カストディ以外の収入源を求めることが課題
となっていた。
運用会社がアウトソーシングを考える場合、
主 に 二 つ の 選 択 肢 が あ る 。 一 つ は ASP
一方、運用会社側でも、1990 年代におけ
(Application Service Provider)と呼ばれるも
る投信残高の急激な増大、ヘッジファンドや
ので、アウトソーシング先となるサービス・
1
SMA など複雑な商品の普及、サーベンス・
プロバイダーが運用会社に IT ソリューショ
オクスレー法や投信不正取引を受けての
ンを提供する、というものである。例えば、
SEC の新規制への対応など、従来の業務量
オーダー・マネジメント・システム、ファン
図表 1 アウトソーシングが拡大した背景
1990
2000
トランスファー・エージェントが
周辺サービスに進出
ニ
ニーズの
多様化
SMA、ヘッジファンド
等の出現
ITバブル
IT
の崩壊
収益性の低下
90年代における
残高の増大
(出所)野村資本市場研究所
2
新しいオペレーション
・オペレーション・コストの削減
業務量の増大、専門特化
・コアビジネスの強化
アウ
ウト
トソ
ソ
ーシ
シン
ン
グ・
・
ビジ
ジネ
ネス
ス
の拡
拡大
大
ア
ー
グ
ビ
の
カストディアンが手数料の低減
に伴い周辺サービスに進出
米国資産運用業界におけるアウトソーシング・ビジネス
ド計理システム、ホームページ管理などがあ
のサービスである。もう一つは、フル・サー
る。ASP の利用は、我が国資産運用業界で
ビスと呼ばれるもので、運用会社がトランス
も見られる慣行であり、アウトソーシングの
ファー・エージェント機能をオペレーション
最も簡便な形態と位置付けられる。
ごとアウトソースする。先の分類で言えば、
も う 一 つ は BSP ( Business Service
BSP 型のサービスである。
Provider)とよばれるもので、サービス・プ
トランスファー・エージェントの手数料体
ロバイダーが自社の人員・システムを用いて
系については、トランスファー・エージェン
運用会社の業務の一部を代行する、というも
トへのインタビューや ICI の資料等によると、
のである。ファンド計理、カストディ、トラ
一般的に口座数ベースで計算され、年間、一
ンスファー・エージェントなど、バックオフ
口座あたり、フル・サービスで 18∼22 ドル、
ィス部門の機能で主に用いられているとされ
リモート・サービスで 3∼7 ドルと言われて
る。BSP は、ASP より一段階踏み込んだか
いる。
たちのアウトソーシングと言うことができ、
トランスファー・エージェント業務を行う
一般に「アウトソーシング」という言葉から
主要な会社としては、PFPC、ボストン・フ
イメージされやすいものであろう。
ァイナンシャル・データ・サービシズ
米国において運用会社向けにアウトソーシ
(BFDS)、DST などが挙げられる。
ング・サービスを提供する業者は、限られた
PFPC は、PNC 銀行率いる PNC ファイナ
機能のみを提供するニッチな業者やシステム
ンシャル・サービシズ・グループに属してい
会社を含めると様々であるが、以下では、
る。2002 年末時点で、フル・サービスのト
<1>トランスファー・エージェント、<2>カ
ランスファー・エージェントとして 1,932 万
ストディアン、<3>運用会社に分類し、それ
口座にサービスを提供しており、最大手であ
ぞれの特徴や最近の動向を概観した上で、実
る。また、リモート・サービスのトランスフ
際の事例を、インタビューを行った業者を中
ァー・エージェントとしては、2,393 万口座
心に紹介する。
にシステムを提供しており、DST に次いで
業界二位となっている(図表 2)。さらに、
1.トランスファー・エージェント
同社は積極的な買収戦略により業務の拡大を
トランスファー・エージェントとは、投資
図ってきており、1999 年のインベスター・
家の口座開設処理、コールセンター業務、出
サービシズ・グループの買収により、従来は
入金処理、名義人書換え、配当金およびキャ
規模の小さかったファンド計理でもステー
ピタル・ゲインの支払い、各種報告書の作
ト・ストリートに次いで業界二位となった。
成・送付などを行う業者であり、米国資産運
PFPC は、トランスファー・エージェント
用業界のバックオフィスを担う黒子とも言え
とファンド計理を中核ビジネスとしつつ、そ
る。
の周辺業務にも手を広げており、カストディ、
トランスファー・エージェントが運用会社
セキュリティーズ・レンディング、ファン
に提供するサービスの形態は二通りある。一
ド・アドミニストレーション、税務サービス、
つはリモート・サービスと呼ばれるもので、
コンプライアンス・モニタリング、ディスト
運用会社はトランスファー・エージェントの
リビューション・サポートなども提供してい
オペレーションをインハウスで行いつつ、外
る。ちなみに、ディストリビューション・サ
部のトランスファー・エージェント・システ
ポートとは、マーケティング資料の作成や販
ムを使用する。先の分類で言えば、ASP 型
売戦略の支援など、ファンドの販売に係るサ
3
資本市場クォータリー 2004 Summer
ポートであり、投資家と接点を持つ業務であ
ージェントを中核ビジネスとしつつ、その周
る。同社へのインタビューによると、PFPC
辺業務にもサービスの範囲を広げており、コ
は集合投資スキームに関わる全ての機能を提
ールセンターや報告書の作成・送付といった
供することを標榜しており、上記ディストリ
伝統的なトランスファー・エージェント業務
ビューション・サポートなどバックオフィス
から、ディストリビューション・サポートや、
以外の機能も提供することによって、中小運
投資家による集団訴訟に係る事務管理を行う
用会社により魅力的なサービスを提供するこ
クラスアクション・サポートまで提供してい
とができる、とのことであった。
る。
BFDS は、DST とステート・ストリートが
それぞれ 50%ずつ出資するジョイント・ベ
2.カストディアン
ン チ ャ ーであ り 、 1973 年 に 設 立され た。
カストディアンは、投信の保有証券を保管し、
2002 年末時点において、フル・サービスの
保有証券に係るキャッシュフローの管理等を
トランスファー・エージェントとして 1,910
行う。運用会社向けにサービスを提供する主
万口座にサービスを提供しており、PFPC に
要なカストディアンとしては、バンク・オ
次いで二位となっている(図表 2)。DST が
ブ・ニューヨーク、ステート・ストリート、
リモート・サービスの最大手としてトランス
JP モルガン・チェース、インベスターズ・
ファー・エージェント・システムを提供して
バンク・アンド・トラスト(IBT)などがあ
いるのに対し、BFDS は DST のシステムを
る。これらの特徴としては、何れもカストデ
用いて主にフル・サービスのトランスファ
ィを中核ビジネスとしながら、ファンド計理、
ー・エージェント機能を提供している。
ファンド・アドミニストレーション、法務・
BFDS も PFPC 同様、トランスファー・エ
コンプライアンス、コーポレート・アクショ
図表 2 トランスファー・エージェント/ファンド計理ランキング
ファンド計理
トランスファー・エージェント(フル・サービス)
サービス・プロバイダー
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
PFPC
BFDS
DST
U.S.バンコープ・ファンド・サービシズ
BISYS
UMBインベストメント・サービシズ
フォーラム・ファイナンシャル
JPモルガン・チェース
インテグレイテッド・ファンド・サービシズ
ユニファイド・ファンド・サービシズ
アルティマス・ファンド・ソリューションズ
インベスターズ・バンク・アンド・トラスト
口座数
(千口座)
19,325
19,100
3,200
1,573
1,100
189
106
87
80
66
26
24
トランスファー・エージェント(リモート・サービス)
サービス・プロバイダー
1
2
3
4
DST
PFPC
サンガード
JPモルガン・チェース
口座数
(千口座)
76,800
23,933
7,743
14
サービス・プロバイダー
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
ステート・ストリート
PFPC
バンク・オブ・ニューヨーク
BISYS
インベスターズ・バンク・アンド・トラスト
SEIインベストメンツ
JPモルガン・インベスター・サービシズ
フォーラム・ファイナンシャル
ステート・ストリートPAS
U.S.バンコープ・ファンド・サービシズ
ノーザン・トラスト
ブラウン・ブラザーズ・ハリマン
UMBインベストメント・サービシズ
ALPSミューチュアル・ファンズ・サービシズ
ジャクソン・ナショナル・ライフ
インテグレイテッド・ファンド・サービシズ
アルティマス・ファンド・ソリューションズ
ユニファイド・ファンド・サービシズ
インキャップ・サービシズ
ミューチュアル・ファンド・サービス
(注)2002 年 12 月末時点、影付きは本文中に紹介されているもの
(出所)Thomson, “The 2003 Mutual Fund Services Guide”より野村資本市場研究所作成
4
資産残高
(億ドル)
21,223
3,797
3,154
2,268
1,926
1,701
1,284
977
840
804
450
254
84
70
56
36
18
9
5
4
米国資産運用業界におけるアウトソーシング・ビジネス
図表 3 カストディアン・ランキング
受託総資産残高
投信受託資産残高
資産残高
(億ドル)
カストディ・プロバイダー
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
バンク・オブ・ニューヨーク
JPモルガン・チェース・バンク
ステート・ストリート
シティバンク
メロン
ノーザン・トラスト
U.S.バンク
ブラウン・ブラザーズ・ハリマン
インベスターズ・バンク・アンド・トラスト
ウェルズ・ファーゴ
PFPCトラスト/PNCファイナンシャル
ワコビア・バンク
68,000
63,130
61,707
51,000
28,000
15,036
8,490
8,000
7,850
5,470
4,794
4,397
カストディ・プロバイダー
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
ステート・ストリート
JPモルガン・チェース・バンク
バンク・オブ・ニューヨーク
ブラウン・ブラザーズ・ハリマン
PFPCトラスト/PNCファイナンシャル
メロン
ワコビア・バンク
インベスターズ・バンク・アンド・トラスト
U.S.バンク
ウェルズ・ファーゴ
ノーザン・トラスト
UMBバンク
資産残高
(億ドル)
25,486
12,319
11,468
5,667
3,325
3,311
2,181
1,986
1,200
850
563
549
(注)2002 年 12 月末時点、ここでいう投信は 1940 年投資会社法に基づき登録されているもの
(出所)Thomson, “The 2003 Mutual Fund Services Guide”より野村資本市場研究所作成
図表 4 運用会社によるカストディアンの評価(上位 5 社)
2003年
サービス・プロバイダー
ステート・ストリート
バンク・オブ・ニューヨーク
インベスターズ・バンク・アンド・トラスト
BISYS
USバンコープ
点数
6.32
6.27
6.15
6.13
5.76
2004年
サービス・プロバイダー
BISYS
メロン
インベスターズ・バンク・アンド・トラスト
シティグループ
ブラウン・ブラザーズ・ハリマン
点数
6.45
6.04
6.00
5.90
5.76
(注)2003 年は 151 社、2004 年は 245 社の運用会社を対象にアンケートを実施、点数は加重平均
(出所)Global Custodian Summer 2004, “2004 Mutual Fund Administration Survey”より野村資本市場研究所作成
ンなど、カストディアンとして保管する証券
よびファンド計理であり、トランスファー・
に係る付加的なサービスを運用会社に提供し
エージェント・サービスも提供している。グ
ていることが挙げられる。
ローバル・カストディアン誌によると、IBT
2
IBT は、運用会社イートン・バンス の子
がカストディを提供している顧客の 99%以
会社であったが、1995 年にスピン・オフし、
上が同社をファンド計理でも採用しており、
親会社としてインベスターズ・ファイナンシ
約 2/3 がカストディ、ファンド計理に加えて
ャル・サービシズを設立し、株式を
トランスファー・エージェントでも採用して
NASDAQ に上場した。同社の投信の受託資
いる。2002 年末時点において、ファンド計
産残高は 1,986 億ドルと、米国で 8 位となっ
理では資産ベースで 5 位、トランスファー・
ている(図表 3)。 また、グローバル・カ
エージェント(フル・サービス)では口座数
ストディアン誌が毎年行っているファンド・
ベースで 12 位となっている(前出図表 2)。
3
アドミニストレーション・サーベイ では、
また、付加価値提供のための追加的サービス
2003 年、2004 年と 2 年連続 3 位となってい
として、ファンド・アドミニストレーション、
る(図表 4)。
パフォーマンス・トラッキング、コーポレー
IBT は、運用会社を主要なターゲットとし
ト・アクション等も提供している。IBT への
たビジネスを展開しており、顧客と競合する
インタビューによると、その中でもファン
運用部門を持たないことをセールス・ポイン
ド・アドミニストレーションが重要なサービ
トにしている。中核サービスはカストディお
スと位置付けられており、カストディを提供
5
資本市場クォータリー 2004 Summer
している顧客の約 50%に同サービスを提供
供するための経営資源を手に入れたことにな
しているという。具体的な中身としては、レ
る。なお、このディールでは、売却された部
ポーティングおよびコンプライアンス、財務
門に所属する 350 名の従業員は、従来通りニ
報告、税務処理、法務の 4 つが挙げられた。
ュージャージー州プリンストンにある MLIM
運用会社によるアウトソーシングの活用と
の施設で働き、従来と同じシステムを使用し
いうと、中小運用会社が自社に足りない機能
続けた。つまり、従業員にとっては、職場も
を補完する目的で利用するものと考えられが
システムも変わらず、変わったのは雇用主の
ちだが、近年では大手運用会社によるカスト
み、というものであった。
ディアンへの大型アウトソーシングの案件が
バークレイズ・グローバル・インベスター
ズ(BGI)の例では、2001 年に、BGI が自社
目立ってきている。
メリルリンチ・インベストメント・マネー
のアセット・アドミニストレーション部門を
ジャーズ(MLIM)の例では、2001 年に自社
IBT に売却した。同部門は、カストディ、フ
のファンド計理部門の人員 350 名と彼らが使
ァンド計理、ファンド・アドミニストレーシ
用するシステムをステート・ストリートに売
ョン機能を担っていたが、その人員・システ
却し、以後、MLIM がステート・ストリート
ムが IBT に売却されたのである。この買収
に手数料を支払うことによって、ファンド計
によって、IBT はファンド 700 本、純資産価
理のサービスを受けることにした。このよう
額にして 4,700 億ドルを新たにサービス対象
に、自社のある業務部門を売却した上で、ア
資産に加えることになった。そのうち、
ウトソース先として利用する手法はリフト・
1,000 億ドルは BGI が外部カストディアンを
アウトと呼ばれる。MLIM によれば、自社の
利用していたため IBT のカストディ資産と
コア・ビジネスでないと判断した業務をアウ
はならなかったが、3,700 億ドルは BGI がセ
トソースすることにより、コア・ビジネスで
ルフ・カストディで保管していたものであり、
ある運用業務に経営資源を集中させることが
このディールによって IBT のカストディ資
でき、また、従来固定費で賄っていた部分を
産となった。これにより、IBT のカストディ
変動費化することができるとのことであった。
資産は 7,870 億ドルとなり、大手カストディ
一方、ステート・ストリートからすれば、他
アンの仲間入りを果たすこととなった。人員
の運用会社向けにファンド計理サービスを提
面では、従来カリフォルニア州内に分散して
図表 5 カストディアンへの大型アウトソーシングの事例
運用会社
1999年 JPモルガン・インベストメント・
マネジメント (JPMIM)
カストディアン
バンク・オブ・ニューヨーク
(BoNY)
1999年 バークレイズ・グローバル・
インベスターズ
インベスターズ・バンク・
アンド・トラスト
2000年 ピムコ
ステート・ストリート
2001年 TCW
メロン・ファイナンシャル
2001年 メリルリンチ・インベストメント・
マネージャーズ
ステート・ストリート
(出所)野村資本市場研究所
6
内容
BoNYが、顧客向けレポーティン
グ、ファンド計理、マスター・レコー
ドキーピングをJPMIMに提供
BGIのファンド・アドミニストレーショ
ン部門の人員275人とシステムを
IBTに売却
ピムコのトレード・オーダー・プロセ
シング、システム開発を含めた
バックオフィスの人員300人とシス
テムをステート・ストリートに売却
TCWのバックオフィスの人員120人
とシステムを メロン・ファイナン
シャルに売却
(2000年中葉から、メロンはTCWの
マネジド・アカウントのアドミニスト
レーションを行っていた)
MLIMのファンド計理部門の人員
350人とシステムをステート・スト
リートに売却
リフト・アウト:
ディール成立後は、カスト
ディアンが購入した人員と
システムを使って運用会社
にサービスを提供する
米国資産運用業界におけるアウトソーシング・ビジネス
いた 275 名を、その半分が勤務していたサク
レポートを提供している。2004 年 3 月末時
ラメントの施設に集約した。なお、275 名の
点で、対象資産は 2.5 兆ドルとなっている。
うち、125 名がファンド計理担当、100 名が
BRS のトレーディング・システムは、STP
オペレーション担当、40 名がテクノロジー
化されたトレーディング・システムであり、
担当、10 名がサポート・スタッフであった。
発注前に注文が法令や社内ルールの規定に抵
上記 MLIM や BGI 以外にも、大手運用会
触するものでないことを確認するプリトレー
社によるカストディアンへの大型アウトソー
ド・コンプライアンス機能も付いている。
シング案件としては、JP モルガン・インベ
BRS は、保険会社、年金基金、モーゲージ
ストメント・マネジメントによるバンク・オ
銀行、運用会社など 52 の顧客にサービスを
ブ・ニューヨークへのアウトソーシング、ピ
提供している。なお、ブラックロックは、
ムコによるステート・ストリートへのアウト
BRS が運用会社の顧客を持つことについて、
ソーシングなどがある(図表 5)。
例えば債券ファンドの運用会社のように、ブ
ラックロックと完全に競合する運用会社には
サービスを提供しないと述べていた。
3.運用会社
米国では、運用会社が他の運用会社向けに
MLIM は、子会社としてプリンストン・ア
アウトソーシング・サービスを提供している
ドミニズトレーターズ(PA)を有しており、
事例もある。主要なアウトソーシング・サー
そこで他の運用会社に対してアウトソーシン
ビス・プロバイダーではないが、各社ともユ
グ・サービスを提供している。PA は 1988 年
ニークなビジネス・モデルに基づき、サービ
に設立され、社外のクローズドエンド・ファ
スを提供している。
ンドにアドミニストレーション・サービスを
サービス・プロバイダーとしての運用会社
提供している。顧客数は 12∼13 社ほどであ
の強みは、運用業務に関する経験や知識の蓄
り、原則として積極的なマーケティングは行
積があることである。一方、弱みは、運用会
わない。グループ証券会社のメリルリンチ・
社として競合関係にあることである。後者に
ピアス・フェナー・アンド・スミス
ついて、インタビューを行ったブラックロッ
(MLPFS)がクローズドエンド・ファンド
ク、MLIM、SEI の三社は、何れも運用部門
を引受けると、それに対して PA のサービス
との間のチャイニーズ・ウォールを厳格に定
を紹介する。提供するサービスの内容は顧客
めることで対処していると応えていた。
によって異なり、例えば、ある小規模運用会
4
ブラックロック は、ブラックロック・ソ
社の顧客には、基準価額の提供(実際の算出
リューションズ(BRS)という部門で、アウ
作業はカストディアンが行う)、タックス・
トソーシング・サービスを提供している。
リターンの計算、ファンド予算、ファンド取
BRS は、2004 年 3 月末時点で 270 名に達す
締役への給料支払い事務、シェアホルダー・
るプロフェッショナルの人員を擁し、うち約
サービスといった、アドミニストレーション
70 名がシステム開発担当者である。BRS は
機能全般を提供している。一方、ある大手運
ASP として、リスク・マネジメント、トレ
用会社顧客には、一部の機能の提供にとどめ
ーディング・オペレーション等のサービスを
ているという。MLIM へのインタビューによ
提供している。リスク・マネジメント・サー
ると、PA は特殊な存在であり、他にあると
ビスは、パスワードで保護された WEB サイ
したら、メリルリンチのように、多くの顧客
ト経由で、顧客が保有する個別証券、あるい
と多岐にわたる関係を有しているような大手
はポートフォリオ・レベルのリスクに関する
証券グループだろう、とのことであった(図
7
資本市場クォータリー 2004 Summer
図表 6 プリンストン・アドミニストレーターズのビジネス・モデル
基準価額
MLPFS
MLIM
PA
顧客紹介
商品販売
ステート
ストリート
最終投資家
メリルリンチ
PAが提供するサービス
・基準価額
・タックスリターンの計算
・ファンド予算
・ファンド取締役への給料支払事務
・シェアホルダーサービス 等
クローズドエンド・ファンドの引受け
グループ外運用会社
(出所)MLIM インタビューより野村資本市場研究所作成
ると、6.4 億ドルのうち、ASP が 30%、BSP
表 6)。
SEI インベストメンツは、1968 年設立に設
が 21%、マネージャー・オブ・マネージャ
立された会社であり、現在は NASDAQ に上
ーズを中心とするウェルス・マネジメント・
場している。2004 年 5 月現在で従業員は約
ソリューションが 49%を占める。SEI へのイ
1,800 名いる。
ンタビューによると、同社のアウトソーシン
SEI のビジネスは、マネージャー・オブ・
グ・サービスは従来 ASP が中心だったが、
マネージャーズとアウトソーシングに大別で
2004 年 5 月現在、テクノロジー・プロバイ
きる。同社は元々システム会社であったが、
ダーからサービス・プロバイダーへの移行期
銀行トラスト部門や運用会社にアウトソーシ
にあり、2005 年以降は BSP の売上が ASP の
ング・サービスを提供していく中で運用に関
売上を上回る予定だという。
する経験や知識が蓄積され、自らマネージャ
アウトソーシング・ビジネスでは、プライ
ー・オブ・マネージャーズとして運用業務に
ベート・バンク、銀行トラスト部門、運用会
5
進出したのである 。
社を顧客として、ミドルオフィス、バックオ
SEI のマネージャー・オブ・マネージャー
フィス機能を提供している。運用会社向けの
ズ戦略は、運用パフォーマンスの大半はアセ
アウトソーシングは、2004 年 5 月時点で、
ット・アロケーションに起因するとの考え方
ファンド数 700 本、2,580 億ドルの資産を対
に基づいている。SEI 自身はアセット・アロ
象としており、370 名の専任スタッフを擁し
ケーションのみを行い、個別銘柄の選定は外
ている。主にファンド計理およびファンド・
部の運用会社に委託しているわけだが、外部
アドミニストレーションを提供している。フ
の運用会社の行う全ての個別銘柄売買を常時
ァンド計理については、2002 年 12 月末時点
モニタリングしている。ICI のデータによる
で 1,701 億ドルを対象としており、米国で 6
と、2004 年 3 月末現在で投信の残高は 884
位となっている(前出図表 2)。
億ドル、米国 27 位となっている。リテール
向けの直販は行っておらず、ファイナンシャ
ル・アドバイザーを経由して最終投資家にフ
ァンドを販売している。
2003 年における SEI の売上を機能別に見
8
米国資産運用業界におけるアウトソーシング・ビジネス
図表 7
アウトソーシング部門
(ファンド数700本、資産2,580億ドル)
サービス提供
最終投資家
運用部門 資産残高:884億ドル
マネージャー・オブ・マネージャーズ
仲介業者
モニタリング
(個別銘柄選定まで含む)
商品提供
運用会社
サブアドバイザー
SEI のビジネス・モデル
9ファンド計理
9ファンド・アドミニストレーション
モニタリング
・ポートフォリオ・コンプライアンス
(業務の執行状況についてリ
・財務会計レポーティング
アルタイムで報告を受ける)
・リーガル・サポート
・ディストリビューション/マーケティング・サポート
・パフォーマンス・レポーティング
・ファンド予算
機関投資家
運用会社
(ファンド数425本、資産1,701億ドル)
・カストディアン、トランスファー・エージェント、運用
会社からデータを集め、基準価額を算出
(注)運用部門の資産残高は 2004 年 3 月末時点。
アウトソーシング部門には、他にもプライベート・バンクや銀行トラスト部門向けのものもあるが、
ここでは運用会社向けのサービスのみ記載した。
(出所)SEI インタビュー、各種資料より野村資本市場研究所作成
SEI では、顧客がアウトソースした業務を
モニタリングできるよう、「サービス・モニ
と、総合的運用インフラ提供会社としての側
面を有している(図表 7)。
ター」という WEB ベースのツールを提供し
ている。「サービス・モニター」では、まず、
III.我が国への示唆
キー・パフォーマンス・インディケーター
(KPI)を定める。KPI とは、アウトソース
以上見てきたように、米国資産運用業界に
された業務を個別要素ごとにブレイクダウン
おいては、運用会社に様々な機能を提供する
して管理するための目標を設定する仕組みで
サービス・プロバイダーが充実しており、運
ある。例えば、「○○のトレーディングの執
用会社としては、どの機能を内部の資源で賄
行をフェイルしない」という KPI を設定し
うか、どの機能について外部の資源を活用す
た場合、当該証券の取引執行状況が顧客にリ
るかを自由に取捨選択できる環境が整ってい
アルタイムで報告され、実際にフェイルがあ
る。
った場合には、その原因についても報告され
翻って我が国資産運用業界を見ると、いわ
る。各 KPI の達成度については、円グラフ
ゆる独立系の運用会社は少なく、投信・投資
上にパーセントで表示され、その詳細につい
顧問業が証券会社や生命保険会社などのグル
ては該当箇所をクリックするとポップアップ
ープ戦略の一環として位置付けられてきた沿
画面で表示される。また、この「サービス・
革があり、ほとんどの機能がグループの内部
モニター」は、顧客の幹部社員の携帯端末に
で賄われてきた。そのため、米国に見られる
送ることもできる。
ような、運用会社が外部のサービス・プロバ
このように、SEI は、マネージャー・オ
イダーを活用し、インハウスで行う機能を自
ブ・マネージャーズとしての運用会社の側面
由に取捨選択できる環境が整っているとは言
9
資本市場クォータリー 2004 Summer
い難い。今後、我が国の資産運用業界におい
て、このような環境を整備していく際に、米
国資産運用業界におけるアウトソーシングの
事例は参考になるものと思われる。
1
セパレートリー・マネジド・アカウント。富裕層
を主な対象とした一任勘定。
2
ニューヨーク証券取引所に上場しており、2004 年
3 月末時点で投信の残高は約 300 億ドル。富裕層を
主なターゲットとし、地方債ファンド等の運用に
強みを持つ。
3
ファンド計理、レポーティング、トランスファ
ー・エージェント、ポートフォリオ・サービス、
クライアント・サービスの 5 項目について、運用会
社を対象にアンケート調査をしたもの。2003 年度
は 151 社、2004 年度は 245 社の運用会社にアンケ
ートを行った。
4
ニューヨーク証券取引所に上場しており、上記
PFPC と同じ PNC ファイナンシャル・サービシ
ズ・グループに属している。
5
SEI をシステム会社ないし伝統的なアウトソーシ
ング業者と見る向きもあるが、本稿では SEI を運
用会社と扱うことにする。
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