...

燃料電池自動車に関する調査報告書04

by user

on
Category: Documents
16

views

Report

Comments

Transcript

燃料電池自動車に関する調査報告書04
IX.三菱重工業株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 19 年 9 月 11 日(火)13:30 ∼ 15:30
場
三菱重工業株式会社
所
応対者
技術本部
広島研究所
広島研究所
兼
広島製作所
機械プラント技術部
広島研究所
材料・製造技術研究室
新製品開発グループ
1.PEFC 関連技術の取り組み概要
① 現在の主要な取り組みとしては,灯油燃料の業務用 10kW 級 PEFC コージェネレー
ションシステムを新日本石油と共同で開発している。2005 年の 6 月から開始した広
島のダイヤモンドホテルでの実証試験は今年 6 月で終了した。また,同時期に開始し
た東京大崎のコンビニでの排熱を吸収式冷凍機に用いる実証試験も同じく終了の予
定である。去年からは,3 年間の予定での公共温水プール施設での実証試験を開始し
た。更に,今年 10 月からは,福岡水素エネルギー戦略会議の一環として,九州大学
伊都キャンパスに設置し,実証試験を開始する予定である。
② 水素ステーションなどに設置することを想定した水素燃料の 10kW 級 PEFC システ
ムの開発も実施している。
③ 1kW 級の家庭用 PEFC システムについては,NEF の大規模実証事業には参画して
いない。改質器における停止時の排ガスパージによる耐久性や,改質器用材料の評価
など要素技術や運用面等 1kW 級で行えるものについては,引き続き検討しているが,
現状では業務用に特化している。
④ 集合住宅向けの集中改質・水素供給システムについては,広島の地域新生コンソー
シアム研究として技術 FS および要素試験を行った。その次のステップとして,昨年
度,NEDO プロジェクトにより集合住宅を対象としたフィージビリティスタディを
実施した。エネルギー総合工学研究所が受託し,外注先として当社が「FC 技術の概
念設計」を実施した。今年,エネルギー総合工学研究所が報告書が提出される予定で
ある。
⑤ 水素膜分離型改質器(メンブレンリフォーマ)については,継続的に東京ガスと共
同で開発を進めている。
⑥ 無人潜水艇「うらしま」用の PEFC 開発については 2005 年に連続潜水航行 317km
で世界記録を達成している。
⑦ 燃料については,現在,灯油燃料での技術開発を進めているが,脱硫器と改質触媒
を変えれば LPG 燃料でも運転可能と考えている。
⑧ 水電解の水素製造装置に関しては,NEDO プロジェクトとして開発を行っている。
⑨ 現状の PEFC の開発状況としては,新たな開発を積極的に進めるのではなく,まず
は信頼性・低コスト化を重点的に進めている状況である。
−341−
2.PEFC システムの研究・開発状況について
(1) 実証試験の状況
① 今年 6 月に終了した広島のダイヤモンドホテルでの灯油用 PEFC システムの実証試験
では,1 万時間以上の運転を達成した。業務用で商用ホテルでの 1 万時間達成は初め
てである。ほとんど 24 時間の定格運転であり,排熱も 90%以上利用していた。CO2
排出削減率(平均)も 30%と非常に高かった。厨房やシャワー,お風呂用として既設
のホテルの貯湯タンクに補給するという形を取っていた。
② 大崎のコンビニでの実証試験では,排熱の有効利用方策の検証を行った。排熱は吸収
式冷凍機と組み合わせて店舗の冷房用に利用し,その有効性を確認した。
③ 去年から開始した公共温水プール施設での実証試験については,全 3 年間の予定であ
り,あと 2 年間は継続して実証する計画である。電力需要も十分であり,ほとんど定
格で運転している。広島と大崎の FC システムは同じものだが,この FC は若干改良
を加えており,発電効率 36%LHV 以上を達成している。
④ 今年 10 月からは,福岡水素エネルギー戦略会議におけるプロジェクトの一環として,
FC システムを九州大学伊都キャンパスに設置し,1 年間の予定で実証試験を開始す
る。このシステムでは,DSS の負荷追従運転を行い,商品化をイメージして,かなり
の低コスト化,シンプル化を図っている。灯油燃料であり,直流変換器と補機の動力
を経て,8∼8.5kW となる。
⑤ 実証試験におけるトラブルについては,とくに改質器や FC といったメインの機器で
のトラブルは殆ど無かったが,補機系統(ポンプやブロアー)に関しては,何度かは
メンテナンスを行っている。また,広島のホテルの隣のガソリンスタンドで,毎早朝
ガソリンをスタンドに補給するときに,気化したガソリンを吸い込んでしまい,電池
電圧が低下してしまうという事が何度かあった。これには,空気の吸い込み口に有機
物を除去する仕組みを取り付けるなどして対応を行った。
−342−
(2) 業務用 PEFC システムの製品化に向けて
① 当面は,灯油または純水素を燃料とした業務用の 8∼9kW クラス PEFC システムを
主体とした製品化を目指している。
② 最新の DSS 運転を想定した九州大学に導入するシステムは,この分野での総合機と
して商品化をイメージしたものである。信頼性と低コスト化をさらに推進する必要が
ある。最終的には,当社の改質器における排ガスパージ技術を活かしつつ,DSS 運転
を基本としてシステムの製品化を目指している。
③ コスト目標としては,10kW 級で 200 万円程度の購入価格を目指す必要があると考え
ている。
④ 当面,製品化を目指す燃料電池については,運転温度は,80℃未満で,60℃以上のお
湯が供給できる程度を想定している。高温での運転は,用途が多少広がったり貯湯槽
がコンパクトになったり,CO 被毒にも強いといったメリットはあるが,現状の膜で
は膜自体の耐久性が落ちる。とくに,90℃以上になると,スタック用部材の材質の問
題,発停での伸び縮みの問題なども起こるため,現状では高温運転化は新たな課題が
出てくると考えている。
⑤ 燃料となる灯油については,都市ガスと違って全国どこでも供給できるという強みが
ある。灯油の品質に関しては想定以上の高濃度の硫黄分によって改質器(触媒)が劣
化するのを防ぐため,新日本石油との共同開発の中で,硫黄濃度を定めて,供給を受
けている状況である。石油メーカとうまく連携しながら展開していきたいと考えてい
る。
⑥ 製品化の時期については,家庭用の大規模実証終了後に,業務用 FC への補助金が出
るようであれば,数年後に 10 台程度ならば実現可能と考えられる。しかし,数百台,
数千台というオーダーでは現状見通しがついていない。
−343−
(3) 耐久性向上・コスト削減に向けて
① 全般的にシステムとしては,ほぼ最終的なものとなった。現状の最大の課題はコスト
削減と耐久性向上の両立である。いかにシステムを簡略化しつつコストを削減し,耐
久性および信頼性を伸ばすかが課題である。
② どのメーカでも同様と思われるが,個々の性能を伸ばすために,再度要素技術の開発
に立ち返っている。NEDO の支援を有効に使いながら,触媒の低コスト化や電池の耐
久性向上などに注力し,またシステムにそれを適用していくという流れである。
③ 耐久性としては,個々の部品に 10 年の耐久性を目指すのか,例えば 5 年ごとの交換
を前提として安価のものにするのか,10 年間のトータルで安いものを目指している。
④ 当社では,NEDO の支援を受け,DSS 運転時の高分子膜の劣化対策として,MEA に
ラジカル捕捉層を導入する研究開発を進めている。平成 17 年度からの 3 年間のプロ
ジェクトあり,今年が最終年度である。
⑤ これまではこのプロジェクトの中で,劣化加速試験により MEA の 2 万∼4 万時間の
耐久性が見通せた。今年度は,最終的な最適化構造で実運転による検証試験を行って
いる。ラジカル捕捉層は,多く導入すると活性が落ちることもあるため,バランスを
考慮して耐久性と活性を両立させていく。
⑥ このラジカル捕捉層は,白金の溶出を抑えるものではない。DSS 運転すると,電圧の
高い OCV 状態になりやすく,膜を劣化させる要因の反応が起きやすい。また,発停
を繰り返すと高分子膜が乾燥状態になりがちなので,そういった意味での劣化の抑制
対策と考えている。
⑦ 同じ 10 年の耐久といっても,高温になる改質器については,DSS 運転よりも連続運
転の方が有利である。改質器の触媒は連続運転であればおそらく問題ない。燃料電地
に関しては,どちらのケースでも信頼性がまだ十分ではない。
⑧ 電極触媒に関しては,コストより耐久性が重点課題である。電解質膜については劣化
のメカニズムの解明が進んできたが,触媒に関しては,まだ不明なことが多い。耐久
性とコストについては,10 年,15 年を通してどうすれば安くできるか,まだそこま
での評価ができていない。白金量を半分にしたら安くできるが,数年後に取り替える
必要があるのでは意味がない。高くても回収可能で次に使えれば問題ない。それは,
セパレータなどでも同様である。
⑨ 電解質膜の白金バンドは,定格連続運転でも生じる現象である。
(4) MEA の生産技術開発について
① NEDO の支援を受けて,長寿命 MEA の生産技術開発の研究プロジェクトを行った。
期間は,平成 17 年度からの 2 年間で,昨年度で終了している。
② MEA において固体高分子膜の両サイドに電解質層と一体となった触媒層がある。そ
の外側に基材とも呼ばれる拡散層がある。少なくとも触媒層と高分子膜,三層界面の
所はくっつけるために,熱を加える事は絶対必要となる。
③ その際,触媒層を先に膜につける方法と,基材に触媒層をつけてからプレスする方法
の両方ある。触媒層をどうやって基材や高分子膜に均一に塗るかが量産化のポイント
となる。また,プレスをバッチ方式でやるか連続的行うかもポイントとなる。
−344−
(5) その他
① 金属セパレータについては,安価で金属の腐食等の問題がなければ当然使いやすい
し,選択肢の一つとして考えられる。ただし,現状では入手できていない。炭化水素
系の電解質膜についても選択肢として考えられるが,現状のシステムを仕上ることが
最優先事項であると考えている。
② 定置用 PEFC の開発状況を海外と比較すると,とくに家庭用は日本が一番力を入れ
ていると思われる。米国では,非常用電源がメインであり,それも水素燃料が主体で
ある。だが,最近になって改質形が少しずつ導入されつつあると感じている。
3.集合住宅向け集中改質・水素供給システムについて
① 過去に広島の地域新生コンソーシアム研究として検討を行っており,その次のステッ
プとして,昨年度,NEDO のプロジェクトとして同様のフィージビリティスタディを
実施した。エネルギー総合工学研究所が受託し,当社は外注先として「FC 技術の概
念設計」を実施した。今年,エネルギー総合工学研究所から報告書が出される予定で
ある。
② 平均的な戸数の集合住宅を対象とした。集中改質して改質ガスまたはそれを精製した
純水素を各世帯に供給するシステムである。その際の FC コストと集中改質装置のコ
スト,配管コスト等を試算した。
4.水素製造装置について
① NEDO プロジェクトの「定置用燃料電池改質系触媒の基礎要素技術開発」プロジェク
トに参画している。期間は平成 17 年度からの 3 年間で,今年度は最終年度である。
② 当社では,様々な燃料を改質する触媒の開発にかなり以前から取り組んでいる。ま
た,化学プラント用の触媒を扱っているので,触媒を含めた改質の技術は当社の得意
分野の1つである。
③ メンブレンリフォーマ(水素膜分離型改質器)は,東京ガスと継続的に共同で開発
を進めている。また,平成 17 年度に 3 年間の予定で始まった NEDO の高効率水素
製造メンブレン技術の開発プロジェクトに参画している。
④ メンブレンリフォーマは低温で改質ができ,高効率が期待できるなど,様々なメリッ
トがあるが,課題は信頼性向上とコスト削減である。
⑤ パラジウム系の分離膜をいかに薄く,信頼性高く製造するかが課題である。新たな
分離膜材料の開発も進められているが,分離膜としてはパラジウムを基本とすること
は変わらないと思われる。当社の主な役割としては,安く,かつ信頼性高く生産する
プラントを仕上げていくことである。
−345−
5.国プロへの参画状況と他社との協力関係等について
① 国プロでは,PEFC 関連は,去年から継続している「DSS 対応長寿命電池技術の研
究開発」「定置用燃料電池の改質系触媒の基礎要素技術開発」がある。また「高効率
水素メンブレンの開発」がある。これらは今年度で終了する。「長寿命膜・電極接合
体の生産技術開発」は昨年度終了している。先進技術研究センターでは「白金代替触
媒材料の開発にむけた大規模量子化学計算による触媒構造・電子状態解析」を東京大
学物性研究所と一緒にやっていたが,これも終了している。
② 新日本石油との定置用 FC の協力関係は以前からプレスで公表している。メンブレン
リフォーマに関しては,東京ガスと協力関係にある。
③ 業務用燃料電池の競争相手としては,海外では,ハイドロジェニックスやプラグパ
ワーなどである。
④ ただし,本当の意味での一番の競争相手はエンジン発電機である。騒音や効率面で
の優位性はあるが,現状ではエンジンはとにかく価格が安い。SOFC に関しては,
PEFC と特性が異なり,棲み分けができると考えている。
6.国・メーカに対する要望
① 家庭用の 1kW 級 PEFC だけではなく,業務用燃料電池に対しても補助金を出しても
らうように要望したい。
② 集合住宅用の,水素や改質ガスの供給配管や水素の製造部分に関する規制緩和の要
望はこれからと思われる。そういったところの規制緩和も検討して欲しい。
③ 自動車メーカが実用化の目標時期を後ろにずらしたので,材料メーカの意欲が弱く
なったと感じている。新規開発という意味では,自動車メーカにも引っ張っていって
もらいたい。
以上
−346−
X.旭化成ケミカルズ株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 19 年 8 月 8 日(水)15:00∼17:00
場
旭化成ケミカルズ株式会社
所
応対者
川崎製造所
製品開発研究所
製品開発研究所
PEM グループ
1.FC 関連技術・製品の位置づけ,開発内容,開発状況等について
① 2003 年 10 月 1 日に,事業会社・持株会社制へ移行し,「旭化成ケミカルズ」が発足
した。その後,2007 年 4 月 1 日に,生活消費材,食品用・ 産業用フィルム等生活製
品関連を扱う「旭化成ライフ&リビング」と統合して,現在の会社組織となった。
② 旭化成グループにはグループ全体(持株会社)の特定分野研究所があり,各事業会社
にも事業部に属した技術開発部門とコーポレート研究部門がそれぞれある。当製品開
発研究所は,旭化成ケミカルズに属する研究所で,旭化成ケミカルズのコーポレート
研究を行う部門と位置づけられる。
③ 燃料電池に関する研究は,2004 年までは旭化成グループ全体としてのコーポレート
研究で,時限プロジェクトであった。その後,定置用 FC がビジネスに近づいてきた
こともあり,旭化成ケミカルズのコーポレート研究として継続している。
④ 定置用膜,自動車用電解質膜ともに共通する技術は多いが,時限プロジェクトでは,
自動車用膜を意識した研究開発を行っていた。現在は,定置用 PEFC 開発が活発化し
たので,定置用も含めて全体として研究を進めることとなった。事業を見据えながら
研究開発を進めるというスタンスに移ったということである。
⑤ 燃料電池用電解質は,旭化成ケミカルズの最重点分野の一つである。
⑥ 開発・製品化に取り組んでいるのは電解質膜と電解質溶液である。顧客に提供してい
る製品は,基本的に標準化しているが,顧客の要望に合わせた改良や外形寸法等の調
整は実施している。
⑦ 約 2∼3 年くらいのスパンで改良新製品の開発をしているが,顧客の製品の切替など,
タイミングを合わせてグレードや製品の切り替えを行っている。
⑧ 現在は事業化に至らずとも,製品(サンプル)の供給を実施しており,顧客の急な注
文に対しても対応できる様,提供している。工場エリア内で研究を行っているため,
ベンチ的な設備は整っており,1,2 年前からある程度の数量を各社に提供している
状況にある。品質管理や出荷管理なども行っており,事業を行っているという見方も
できる状況にあるが,旭化成の商品としての正式登録はまだ行っていない。
−347−
2.PEFC 用固体高分子膜や MEA 等の研究・開発状況について
2−1 当社の電解質膜の特長
① 当社の電解質膜の特長としては以下の点が挙げられる。
・ ポリマー構造に由来するスルホン酸基濃度が高いこと(低 EW)。
・ 分子補強しているため,非補強膜より力学的強度,寸法/化学的安定性がよく,さ
らに外部支持体補強膜ではないので,低コスト化,薄膜化ポテンシャル,高出力
化ポテンシャルを有している。
・ 当社は化学系メーカとして,プラスチックに関する研究部隊を有し,力学的な補
強や安定剤に関する研究,各種加工技術,それらを導入するプロセス技術に関す
る多くの蓄積がある。そうした蓄積から化学的安定性に関しても優れた特性を達
成している。
② 分子補強は,多孔質膜のような外部支持体を用いず,分子レベルの制御で膜を補強す
る方法である。この方法は外部支持体を用いる方法に比べてコストアップ要因が少な
いと考えている。
③ 現在は,基本特性である,高出力,高耐久性に加えて,薄膜化できること,コストポ
テンシャルを有することを基本路線として,グレード開発を行っている。
④ 従来から進めてきた高温耐久性の向上に関しては,継続して研究開発を行っており,
現在の製品の中に活かされている。100℃や 120℃での運転温度の評価も行っている
が,加湿器を考慮に入れると現状では 90℃程度での運転が限界と考えている。
2−2 NEDO プロジェクトにおける研究・開発状況
① NEDO プロジェクトにおいて自動車用と定置用の膜のそれぞれで委託研究を受けて
おり,用途を分けて開発を行っているのも当社の特徴の一つである。以下は自動車用
の膜に関する「新規高温高耐久膜の研究開発」の概要である。
② 現在,研究開発している膜は,ヒドロキシラジカル耐性を有する材料との複合膜(新
規高温耐久性複合膜)である(図 X-1)。最長のもので,100℃,湿度 50%で 3,000
時間程度の耐久実績を有している(図 X-2)。オンオフのある条件での試験で,OCV
にもさらされており,かなり厳しい条件での評価だと考えている。
③ 従来の膜のオンオフ試験をしていると,膜中に空洞がある断面が切り出せるときがあ
る(図 X-3)。図 X-3 を見ると,この空洞のカソード側の壁に白金の粒子が無数にあ
るのがわかる。やはり白金バンドが原因となり,この周辺でラジカルができているの
ではないかと推測している。そう考えないとこの膜の空洞の説明が不可能である。
④ 対応として,更なる特殊材料を導入したラジカル耐性を有する複合膜を検討してい
る。さらに,逆に白金を不活性化するような特殊材料や,安定化処方を導入するなど
視点を変えた研究も行う必要があると思っている。
−348−
図 X-1 開発している新規高温耐久性複合膜の特性
図 X-2 長期耐久試験の結果
−349−
図 X-3 膜劣化のメカニズム
2−3 高温低加湿運転について
① 自動車用 FC の目標の一つである 120℃での運転については,耐久性とともに,伝導
性を出すためにはある程度の湿度が必要となる点が課題である。仮に運転温度 100℃
で考えると相対湿度 50%のとき露点は 80℃になる。120℃では露点は 100℃になる。
120℃,湿度 20%での運転で,0.1s/cm2 以上の伝導度が出るような膜ができれば,
120℃運転の可能性があるが,今の時点ではそういう膜はまだない。
② 現状での運転温度は 90℃程度が限界だと思う。120℃で運転しても湿度 50%であれ
ば,100℃で加湿することになり,どのような加湿器を搭載するかが問題となる。そ
のため,現時点で 120℃での耐久性を評価してもあまり意味がないと考えている。
2−4 耐久性について
① 耐久性については,自動車用 FC の 5,000 時間の見込みはあると思う。ただし,80℃
なのか,100℃なのか,最終的に何℃で運転するのかによって異なってくる。
② 自動車用 FC の膜として,起動停止や OCV に対する耐久性に関しては,ある程度満
足できるレベルになりつつあると考えている。
③ むしろ,定置用 FC の 6 万∼10 万時間の耐久性の実証の方が大きな課題である。さら
に定置用 FC も商品性を上げるためにお湯を高い温度で取りたい要望があり,高温化
へ向かっている。また,コスト低下のために加湿器をなくしたいという考えもあり,
自動車用 FC 同様,高温低加湿化へ向かっていくことになると考えられる。
−350−
2−5 炭化水素系膜とフッ素系膜の比較について
① フッ素系電解質膜の特長は,フッ素の電気陰性度が高く,電子吸引性を有するため,
スルホン酸の乖離度が高いことである(=イオン伝導性が良い)。一般にイオン伝導
度を上げるためには,スルホン酸基を多くするか,スルホン酸がプロトンを放出しや
すくするかである。炭化水素系電解質にすると,伝導度が落ちていくことになり,こ
れが炭化水素系膜の大きな欠点であると考えられる。炭化水素系電解質膜では,一般
に高湿度のときのイオン伝導度がフッ素系と同等かそれ以上と言われているが,低加
湿では該フッ素系膜以上に厳しく性能が出ない。
② 炭化水素電解質系で酸の乖離度を変えられるようなものができれば有効であろうが,
これは極めて困難であると考える。ただし,炭化水素系電解質膜は,設計の自由度が
大きく,細工をする余地はまだあると考えられ,脅威ではある。また,フッ素より炭
化水素系材料を扱った研究をしている人や有機化学の学者は非常に多く,大学でもど
こでも実験できるという強みもある。
③ 炭化水素系電解質膜はコスト面で有利とは言えないと考えている。現在,一定の性能
以上を発揮する炭化水素系電解質膜として発表されているポリマー構造コンセプト
では,炭化水素系膜では最適構造設計が複雑であり,製造プロセスも複雑で副生成物
も多く,安価になるとは考えにくい。
④ 今のフッ素系膜は,ある程度工業化されていて,商用化されているもの(食塩電解用
膜)もあるが,量としては中途半端な量(今のエンプラよりも少ない量)である。そ
の中でコストが表に出ているので一般に高いと考えられると思われる。
⑤ 燃料電池用材料として用いられるレベルにある化学耐性を持つ炭化水素系材料,例え
ばスーパーエンプラ(ポリエーテルエーテルケトンなど)やポリイミドと比較して
フッ素系材料が特にコスト的に不利であるとは考えていない。
⑥ コストは最終的に大量生産に向いたプロセスかどうかによる。以上の観点から,現時
点では炭化水素系膜に対するコスト的な脅威は感じていない。
⑦ PTFE は確かに割高だが,それは製造コストが高いのではなく,シリコンと同様にそ
れだけの付加価値があるから高く売れるということである。PTFE の原料となる TFE
(テトラフルオロエチレン)は移送しにくい物質のため,それだけの価値があるが,
他の企業が製造し始めて,量が増えて,価格競争になればどうなるかは分からない。
⑧ 炭化水素系と一言で言っても,脂肪族が含まれる炭化水素と全芳香族系の炭化水素が
ある。業界としては,きちんと分けて扱って欲しい。全芳香族のポリマーとしては,
ポリエーテルエーテルケトンとポリエーテルサルフォン,カプトンなどがあり,これ
らスーパーエンプラとフッ素系樹脂とを比較する必要がある。コストについては,こ
れらのスーパーエンプラにスルホン酸をつけないといけないので,現状よりはさらに
高くなると考えられる。
⑨ 炭化水素系膜の利点の一つに,HF が発生しないといった特性がある。また,最終的
にリサイクルとなると,フッ素系膜も炭化水素系膜も燃やすことになる。その際,フッ
素系の場合は,フッ素をスクラバ(排ガス洗浄装置)で回収するという工程を挟んで,
蛍石にして再利用する必要があることである。ただし,今は炭化水素系膜もバインダ
や電極のところはフッ素系電解質を使っているので,フッ素系膜と同じ処理工程にな
る。そういう意味では,膜,バインダなどすべてを炭化水素系で仕上げないとリサイ
クル面でのメリットはない。
−351−
2−6 大量生産時のコストについて
① デュポンの言っている年間 200 万 m2 の生産量で 30 ドル/m2 はコストとしては成り立
つかもしれないが,販売価格としては成立しないかもしれない。3,000 円/m2 にする
には,生産量がもう一桁上がらないと厳しいだろう。
② FCV が 1,000 万台,2,000 万台売れる時代なら,膜の生産量は億 m2 台に達している
と考えられ,そのときには,自動車メーカのいう 1,000 円/m2 台は考えられない数字
ではない。しかし,FCCJ の目標にある 1,000 万 m2 で 1,000 円/m2 は困難な目標であ
ると思う。
③ 現在のスーパーエンプラフィルムの市場サイズと価格,さらに FC 用にはさらにスル
ホン化することを考えると,炭化水素系膜でも 1,000 万 m2 で 1,000 円/m2 は困難と
思われる。
2−7 家庭用 PEFC,FCV の実用化について
① 家庭用 PEFC の大規模実証は,素材メーカにとっては,事業化のトレーニングをして
いるという位置づけである。決まった注文に対して,安定な品質のものを提供してい
くというメーカとしての製造技術のトレーニングになっている。
② 家庭用 PEFC は,コストダウンが難しいなど課題はあるが,それなりに事業として成
り立ちそうな状況になってきている。しかし,FCV についてはまだ試作車段階であ
り,コストダウンよりも,性能向上に注力している感があり,本格普及はもう少し先
になるように感じている。素材メーカとしては,FCV は大きな膜需要が期待される
が,この状況では,大規模な研究開発の継続や新たな設備投資にも踏み出し難い。
③ 自動車メーカなどと個別に話をすると,具体的な目標性能などの話はしてくれる。た
だし,それらの目標に対してすべてを同時期に解決していくには,多大な投資が必要
なため,時間軸をきちんと捉えながら開発をする必要を感じている。ここが研究開発
の舵取りの重要な点だと考えている。
3.他社との協力関係
① 国プロは,自動車用膜の開発として,固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発,
要素技術開発の『新規高温高耐久膜の研究開発』の委託を受けている。また,定置用
膜の開発として,固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発,要素技術開発の『定
置用燃料電池システムの低コスト化・高性能化のための電池スタック主要部材に関す
る基盤研究開発』を 8 社で委託を受けており,電解質膜・溶液の高信頼化に関する研
究開発を行っている。いずれも平成 17 年度から 5 ヵ年の計画である。
② 顧客としてのポテンシャルがあるユーザに対しては,国内外分け隔てなく付き合って
いる。
③ FC は,一社だけでできるものではない。現在の同業他社は,同じ領域の仲間だとい
う気持ちで,できる範囲でオープンにしている。
−352−
4.国・行政機関等に対する要望について
① 自動車用 FC の基盤研究のような形で,引き続き研究資金を提供してもらえると研究
担当者として社内的にもありがたい。
② 自動車用 FC も定置用 FC のロバストプロジェクトのように,各社が敷居を低くして
臨む必要もあるのではないかと感じている。このままでは当初の見込みよりも実用化
に時間がかかりすぎるので,熱が冷めてしまい,材料メーカなどの研究開発がトーン
ダウンする恐れもある。
③ 国としての研究開発の枠組があると社内的にも説明しやすい。しかし,現在は,ばら
ばらで,国の方向性がよく見えないと思われる。水素インフラを作ることもそうだが,
折角の日本先進性の芽を潰さない為にも,国にしっかり主導してもらいたい。
以上
−353−
−354−
XI.キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク殿
訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 19 年 11 月 28 日(水)13:30 ∼ 15:30
場
キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク 本社
所
応対者
新規事業部
1.事業概要
1−1 会社概要
① 当社は,米国キャボット・コーポレーション 100%出資の子会社である。
② 米国キャボット社は設立されて 120 年を超える企業である。現在主力事業の一つであ
るカーボンブラックを基盤として成長した企業で,現時点で,25 カ国に会社があり,
生産拠点は 40 カ国にある。従業員は全世界で 5,000 人弱である。
③ キャボット社の売上額は 2006 年が約 25 億ドル,2007 年は約 27 億ドルである。全
世界に展開しており,今後の新規事業については,日本を中心としたアジアが重要だ
と認識している。
④ キャボット社は,カーボンをはじめ,シリカ,タンタル等の微粒子製造技術が強みの
一つとなっている。その強みを活かした既存事業でグローバルマーケットリーダーを
とりつつ,新規事業へ投資し,極力早く新規事業を立ち上げる方針で取り組んでいる。
1−2 キャボット社の事業内容(図 XI-1)
① 当社は,カーボンブラックのグローバル No.1 サプライヤーである。カーボンブラッ
クの用途は,タイヤやホース,ベルトなどの補強材に使われるもの,インクやペイン
トなど着色・耐久性の向上に使われるもの,ケーブルやキャリアテープなどに導電性
を付与するものなどがある。用途によってグレードが分かれており,タイヤ用はラバー
ブラック,インク,ケーブル用はスペシャリティブラックである。
② Fumed Metal Oxides のシリカはグローバル No.1 で,シリコンウェハーの研磨用ス
ラリーや,液体の粘度調整に使われる。
③ Supermetals は,キャパシタなどに使われるタンタルをメインとし,グローバル No.1
である。
④ Inkjet Colorants は卓上インクジェットプリンターのインク用色材である。当社では
微粒子の製造技術に加え,当社固有技術である粒子表面の化学処理を用いて,最適な
分散体を開発している。
−355−
図 XI-1 事業内訳
2.カーボンについて
① 当社は 100 年を超える歴史の中で,数 1000 種類のカーボンを製造している。通常カー
ボンは,一次粒子一つ一つがぶどうの房のように繋がっており,主にその粒子径とつ
ながりの長さの2軸の制御により,性能をコントロールすることが可能となる。当社
では,さらに表面に特定の官能基を導入する当社固有の表面処理技術を組み合わせた
3 軸での開発・製造を行っている。
② カーボンは主に原油から石油製品を製造する過程で得られる石油ピッチや石炭系の
コールタールなどを高温の反応炉で燃やすことによって製造される。カーボンの構造
や性能は,その熱処理の方法や時間によってコントロールすることができる。
③ 基本的に,資源的には原油や石炭がなくならない限りは大丈夫であると考えられる。
−356−
3.燃料電池関連技術・製品の位置付け,開発内容,開発状況等について
3−1 キャボット社における燃料電池関連技術の開発体制・開発経緯について
① ニューメキシコ州の州都アルバカーキにある Superior Micro Powders 事業本部で燃
料電池関連技術の研究開発等を行っている。ここには,R&D の実験室・試作棟のみ
ならず,プラントもあり,最終的な生産ラインも含めた研究開発を行っている。
② 本事業本部の事業は燃料電池のほかにプリンタブルエレクトロニクス,セキュリティ
などナノレベルでの粒子のコントロールやストラクチャーの製造,表面処理などに特
化した技術開発を行っている。
③ 当社における燃料電池技術開発の経緯としては,1990 年代後半に二人の大学教授が
立ち上げた技術ベンチャーの Superior Micro Powders という会社と共同開発を行っ
ていた。このベンチャー会社では,触媒製法自体を含めて燃料電池の素材を開発テー
マとしており,2000 年以降,MEA や電極の構造,印刷法の開発を行っており,DOE
のプログラムにも参画していた。
④ 2003 年,当社は買収によって Superior Micro Powders を 1 事業部門として取り込み,
事業本部とした。その後,触媒等の製造ラインへの投資を行い,将来の供給に備える
ラインを作り上げた。2004 年にこの生産ラインが完成, 2005 年に品確も終了し,担
持量 20∼60%の触媒を,
DYNALYST(ダイナリスト)
という商標で上市した。
⑤ 現時点では,PEFC 用の触媒と DMFC 用の触媒をターゲットに開発を進めている。
⑥ 当社は バルカン というグレードの導電性カーボンを販売しているが,当事業本部
では,触媒を高分散させた高性能担持触媒を提供することがビジネスモデルになって
いる。
⑦ 現在,研究,開発,製造はすべてアメリカで行われている。日本のメーカーからの要
求には,日本とアメリカの研究所で連携して対応している。
3−2 燃料電池事業の方針
① 事業方針としては, PEFC 用,DMFC 用の電極触媒の開発に主眼を置いており,例
えば合金触媒や表面処理をしたカーボン担体といった新しいタイプの触媒,酸化腐食
を防ぐ新規開発カーボンを用いた触媒などの開発を積極的に進めている。
② 触媒性能の評価技術として,CCM(Catalyst Coated Membrane)や MEA の開発に
取り組み,最適なインキ技術や印刷技術の検討も行っている。
③ 当社のコア技術はナノレベルも含めた微粒子を製造する技術であり,カーボン担体に
プラチナやルテニウムなどを担持した担持触媒をパウダーで提供することを主軸と
している。
④ 既存のグレードのカーボンだけでなく,燃料電池用電極触媒専用のカーボンを開発す
ることによって,担持触媒の性能を上げていくことも目標としている。
−357−
4.具体的な研究・開発内容について
4−1 開発課題について
① 高性能,低コストで耐久性の高い触媒が求められていることを十分に意識し,この 3
つのバランスに留意して開発を進めている。
② PEFC 用触媒の将来要求としては,質量比活性度を 10 倍とし,直近の課題として白
金溶出の防止,耐腐食カーボン担体の開発,次世代として白金フリーを目指して取り
組んでいる。DMFC 用の触媒に関しても同様のテーマを持って進めている。
4−2 評価方法と担持触媒の製造について
① 基本的なアプローチとして,白金ならびに合金系担持触媒の試作サンプルを相当数作
り,ある活性レベルを超えたものについて,焦点を当てて分析を行っている。
② 2004 年の例では,1 度に 0.25g,1 日に 24 個の担持触媒サンプル,1月に換算すると
500 弱のサンプルを作成している。MEA を作成して評価を行い,性能の高いものを
見出して,それにフォーカスして分析を行っている。
③ 図 XI-2 はサンプル評価から量産ラインに至る工程である。ラボ用新触媒合成ライン
で触媒を作り,評価用としてこれをカソード電極にした MEA を製造し,MEA 試験
によるスクリーニングを行い,性能の良いものについて物性などを測定する。
④ 実際には,PC への条件入力から,作成した触媒のサイズや表面積等のデータの取得
までを一連のラインで行っている。なお,量産時には,入力データをそのまま利用可
能であり,効率的に量産過程へ移行でき,コスト面でも有利である。
⑤ 図 XI-3 は当社固有のカーボン担体特性制御技術を示している。通常はカーボン粒子
の大きさとストラクチャー構造の 2 軸をコントロールし,その性能を制御する。3 軸
目として,当社が独自特許を有する表面処理技術であり,カーボン表面に特定の官能
基をつけて親水性や疎水性などの特性を変えることができる。この技術を強みにして
燃料電池用電極触媒に応用している。
⑥ 図 XI-4 は,当社固有の担持触媒の製造方法を示している。白金や白金合金などの錯
体,カーボンの分散体を一旦液滴にし,高熱処理することによって,液滴から溶媒を
短時間で揮発させ,カーボンに白金など特定の触媒がついたパウダーとする。この製
法をスプレーコンバージョンと呼んでいる。温度と時間をパラメータにして構造を変
えつつ,短時間で担持触媒を作ることができる。
⑦ この製法では,個々のカーボン粒子が繋がり合ったパウダー粒子が球状になるのが特
徴である(図 XI-5)。
⑧ 図 XI-6 は,当社の電極触媒,カーボン担体,MEA 構造の特長を整理したものである。
具体的には,多孔度を調整したカーボンや,表面修飾したカーボンなどを担体に使用
できる。また,スプレーコンバージョン製法により,一般的な担持触媒の製造方法と
比較して,シンプルな工程で担持触媒の製造可能である点が特長である。
−358−
図 XI-2 サンプルの評価工程
図 XI-3 キャボット社のカーボン担体特性制御技術
−359−
図 XI-4 スプレーコンバージョンプロセス
図 XI-5 スプレーコンバージョンによる電極触媒の階層構造
−360−
図 XI-6 キャボット社の電極触媒,カーボン担体,MEA 構造の特長
4−3 キャボット社における新高機能触媒開発
(1) 高活性白金合金カーボン担持触媒(3 元系)
① PEFC では,4 倍から 10 倍の質量比活性度を目標にしており,当社は 2 元系・3 元系
触媒を開発評価している。
② その結果,図 XI-7 のように 2 倍程度,質量比活性度が高いサンプルをいくつか見出
している。茶線が通常の白金担持カーボンで,青線が白金,コバルト,銅の合金を担
持したカーボンである。
−361−
図 XI-7 白金合金担持触媒の性能
(2) 高耐腐食性カーボン担体の開発
① カーボン腐食は,高温度下での運転開始/停止のサイクルによって促進され,主に以
下の 3 つの問題を生じさせる。
・ カーボン/触媒の活性界面が壊れることにより白金が溶出すること(図 XI-8 左)
・ カーボン表面の酸化(親水化)が進み,カソード側のフラッディングが発生する
こと(図 XI-8 右)
・ カーボンが酸化して痩せていき,カーボン間でのチャネルが壊れること(図 XI-9)
当社ではカーボンの腐食に対し,CRC(Corrosion Resistant Carbon)という耐腐食
カーボンを開発している。図 XI-10 の New Cabot Carbon が CRC であるが,105 時
間負荷を与えたもの(茶線)の方が,負荷を与えていないもの(ピンク線)よりも性
能が上がっている状態になっている。通常のものは,15 時間程度たつと電流密度が取
れなくなるが,CRC では 105 時間経過しても性能を保持している。
② CRC はグラッシーカーボンとは別のものである。グラッシーカーボンでは,耐久性は
高いが,エッジ部分が減ることによって,触媒担持できる表面積が減り,性能が低下
するという問題がある。
③ 図 XI-11 は標準カーボンを使った場合と MCB(Modified カーボン担体・当社固有表
面処理品),HSAC(CRC グレードとは異なるカーボン担体),CRC を担体として
用いたものの性能の違いを,条件を変えて比較したものである。例えば,MCB を用
いると,低加湿の条件では性能が高く,CRC は耐腐食に非常に強いことが分かる。今
後は,これらの結果を踏まえ,どのような組み合わせで使っていくかがポイントにな
ると考えている。
−362−
図 XI-8 カーボン腐食起因による長期性能低下の背景(1)
図 XI-9 カーボン腐食起因による長期性能低下の背景(2)
図 XI-10 CRC による性能向上
−363−
図 XI-11 カーボン担体による触媒性能の違い
5.他団体との協力関係
① NEDO プロジェクトには現時点では参画していない。また,DOE のプロジェクトに
は現在参加していない。
② 日本では大学よりも民間企業に評価いただいているが,民間企業とは NDA を結んで
いるので公表できる協力関係はない。米国には研究所があるため,米国では大学を含
めた様々な機関と関係を密にして取り組んでいる。
③ 競合企業は基本的には PEFC,DMFC 電極の触媒メーカである。
6.国への要望
燃料電池産業自体が立ち上がっていくために,一般消費者の認知度が上がることが重
要だと考えている。単純に補助だけではないかもしれないが,機運を高めるような対策
を講じてもらいたい。そうすることによってより良い影響(状況)が生まれるのではな
いかと考えている。
以上
−364−
XII.住友金属工業株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 19 年 9 月 6 日(木)9:30∼11:30
場
住友金属工業
所
応対者
総合技術研究所
総合技術研究所
1.燃料電池関連技術・製品の位置付け,開発内容,開発状況全般について
① 社内における PFFC 用金属セパレータの研究開発の位置付けは,開発着手以来 9 年間
にわたり全く変わっておらず,継続して強力に推進している。
② 2004 年度で一旦 NEDO プロジェクトが終了したが,その後 2005 年度から 5 年間の
委託研究プロジェクトを新たに受託し,引き続き金属セパレータの研究開発を行って
いる。今年度 2007 年度は中間評価年度である。
③ 2004 年度に終了した NEDO プロジェクトで開発した材料と,今回の NEDO プロジェ
クトで開発している材料では,表層の状態は変わっていないが,材料の性質は大きく
変わり,特に加工性が格段に良くなっている。
④ 当面は前回開発した材料と今回の開発材の二本立てで進めるが,どちらかというと新
しい材料に振っていくことになるだろう。特に加工性が求められる場合は今回の開発
材を適用していく考えである。
⑤ 当社は素材メーカであって,基本的に素材を提供することをビジネスとして想定して
いる。セパレータとして提供するかどうかは未定であるが,将来にわたってスタック
を作って販売していくことは想定していない。
⑥ PEFC 用セパレータの研究開発に関しては,社内でも十分な理解があり,当社自体の
事業も好調であるため,良い環境の下で研究開発が進められている。また,セパレー
タ開発のおかげで,家電メーカや自動車メーカとの間との関係が深くなったとの社内
評価もされている。
−365−
2.NEDO プロジェクトにおける研究開発について
2−1 PEFC セパレータ用ステンレス箔材料生産技術の確立
① 2004 年に終了した NEDO プロジェクトで開発した材料(04 提案材)と今回の NEDO
プロジェクトで開発した新規材料の性質を比較すると,薄板の伸びが 31∼32%から
46∼47%になり,SUS316L の規格(伸び 40%以上)を満足するところまで加工性が
改善した。そのためには,材料の製造条件,製造工程,素材など改良できるものはす
べて改良を行った。結果として,NEDO プロジェクトの目標である 45%以上を現時
点で達成することができた。
② 新規提案材適用金属セパレータの燃料電池内の金属溶出イオン量も,相対的に低減さ
せることが可能となった。
2−2 プレス成形セパレータ低コスト量産方法
① 加工性のよい新規提案材を用いることによって,より流路溝深さが深い,流路接触面
積の大きい金属セパレータの成形が可能となった。図ⅩⅡ-1 はレーザで測った形状を
模式図にしたものである。04 提案材と新規提案材を比較すると,抜き角度(θ°)
が非常小さくなり,溝の側面部分が立ってきている。図中の a と b はそれぞれ MEA
とセパレータとの接触面積に相当するが,a+b を大きくして接触面積を大きくするこ
とが可能となった。また a と b の比率も自由に変えられるため,トータルとして,金
属同士の面積を減らして MEA のコンタクト面積を増やすことも可能となる。このよ
うな加工により小型化を含めた性能の改善が期待できる。プレス方法や金型は一切変
えていない。あくまでも素材特性の改良による成果である。
② プレス後は,鋼中の導電性金属析出物を露出させて表面接触抵抗を改善するための艶
消し処理のために酸で洗うが,特段の処理は行っていない。
③ 今年 NEDO プロジェクトの中で,11 月に 5 万枚,来年には 10 万枚プレスする予定
である。トータルで 15 万枚プレスすることになる。現在のプレス能力は 60 枚/分で
あり,15 万枚の生産は約 42 時間の連続操業に相当する。1 日 8 時間操業で計算する
と連続 5 日操業に相当する。NEDO の委託事業の中で,1 シフト/日,5 日間連続/週
でプレスできることを確認しようと考えている。FCV1 台あたりおよそ1,000 枚のセ
パレータが必要だとすると,15 万枚は FCV150 台分強に相当する。
④ NEDO 受託の中で,当社が試作している定置型燃料電池を想定の最新セパレータ(流
路部面積 100cm2)の重さは,1 枚約 15g である。
⑤ 15 万枚の製造後,金型の再研削手入れをすれば,金型自体は 7∼10 回は問題なく使
えると考えられる。そうすると1つの金型で 100 万枚∼150 万枚が耐久寿命として設
定できる。これは,ステンレスの金型としては許容できる耐久寿命と判断している。
⑥ スタックへの積層化については,当社の方式では,まず常温で接着性のある FC に無
害な樹脂を用いて 2 枚のセパレータを仮止め状態でバイポーラ化する。この樹脂はあ
るメーカと共同で開発した。これは運転して温度が高くなるときちんと接着するよう
になる。さらに,バイポーラプレートとガスケット一体型 MEA を交互に積層してモ
ジュール化し,これをスタックに積層するという手順をとる。
⑦ NEDO の委託研究の中で金属セパレータの製造技術はほぼ確立できたと考えている。
大きなトラブルもなく,歩留まりも落ちていない。まだ後 2 年間あるので更なる改善
を図っていく予定である。
−366−
図 XII-1 試作プレス成形セパレータの計上実測結果
2−3 ステンレス箔プレス成形セパレータ燃料電池の耐久性の確認
① 図ⅩⅡ-2 に新規提案材セパレータ適用 20W 級(流路部面積 70cm2)単セル燃料電池
での 9,300 時間を越える耐久性評価結果の一例を示す。評価は 0.5A/cm2 定電流条件
で行っている。
② 現在 5 セルのスタックで,1,000 時間,10 セルのスタックでの 1,000 時間運転も終了
した。さらに 20 セル,30 セルと増やしていき,1kW での運転試験を行うことを NEDO
の受託の中で進めていく予定である。
③ NEDO の評価の中ではジャパンゴアテックス社製の MEA を用いている。
図 XII-2 10,000 時間の耐久性の確認結果
−367−
3.その他の開発に向けた取り組み等について
3−1 素材・製造工程について
① 素材としては更に薄くしていくことも可能である。薄い箔を作るときでも導電性金属
介在物は破砕されるので問題ない。ただし,板厚を薄くするとプレス成形後のハンド
リング性が悪くなるので,客先量産ラインでの対策が必要である。軽量化への取り組
みの中で顧客に求められれば素材供給は可能である。
② セパレータの製造にはプレス機自体も非常に重要である。社内に金型製造部門もある
が,素材メーカという立場を踏まえ,敢えて企業を育てるためにプレス加工は外注し
ている。現在 60 枚/分でプレスしているが,そのレベルの技術力を有するメーカはそ
れほど多くはないと考えている。
③ 素材の大量生産に関しては,当社の場合は 80t 溶解が 3 ヶ月に 1 回程度は必要であり,
これが大量生産と言える下限量である。歩留まりを考えると,60t 強/3 ヶ月 使える計
算になる。1 ヶ月当りの FCV 用金属セパレータの生産量で考えると,約 20 万枚強/
月に相当し,FCV では 200 台分強/月に相当する。増産要求には対応する。
④ プレス速度は,現状の方式では 100 枚/分程度の速度にはなると思う。送りの速度が
律速になる。また,自動車用となると大きく重くなるので,送り機構の再考が課題だ
と考えている。
3−2 コスト見通しについて
① 素材コストとプレス費用,洗浄費用などバイポーラ化するまでのコストを考えると,
1 枚 100 円(バイポーラで 200 円)は困難である。1 枚 200 円も微妙なところである。
ただし,市場が育たないことには意味がないので,歩み寄るところはあるかもしれな
い。バイポーラコストに占める素材費は大きくはないと考えている。加工コストが大
きく,コスト削減には内製化が重要と考えている。
② 金メッキをする金属セパレータでは,どうみてもコストが倍以上になると考えられ
る。また,Nuvera が提案しているような発泡金属でセパレータを作ると発泡金属シー
トのみでも 1 枚数千円になると思われる。
③ メタルセパレータの開発・製造は小規模メーカには向いていない。一気通貫で内製化
できる大手で初めて製造コストでメリットが出てきて,量産効果が生まれると考えて
いる。
3−3 金属セパレータの性能評価について
① カーボンセパレータで動く燃料電池が当社の金属セパレータでは動かないというこ
とが起こると困るため,入手できる膜については,フッ素系膜,炭化水素系を問わず
入手可能な限り評価を行っている。当社は,自前で白金触媒を合成して MEA や膜を
作って試験をする技術も有している。
② こうした評価の結果,やはり膜とセパレータに相性があることが分っている。予想通
り,金属イオンに弱い膜では十分な性能が発揮できない傾向がある。また,白金ルテ
ニウム触媒で担持の仕方が悪い場合も同様である。
−368−
3−4 金属セパレータのメリット
① 薄くして軽量化を求めていくと,金属セパレータの方が魅力あると考えられる。特に
自動車用は軽量・コンパクト化が重要なため,金属しかないと思っている。
② 今後の話であるが,定置用メーカが金属セパレータを使う理由としては,コストダウ
ンと軽量化,セルの大型化が挙げられる。最近は定置用でも面積を大きくしたいとい
う要望が出ている。これは,MEA が高価なため,積層数を減らして低コスト化を図
るためと思われる。
③ LCA でみると,カーボンセパレータは製造時の投入エネルギーが多く,金属セパレー
タの方が少ないという NEDO の報告(平成 16∼平成 17 年度「燃料電池自動車の普
及に関連する技術に対するライフサイクル環境影響評価等に関する調査」)がある。
その報告では,金属セパレータはリサイクルもできるのでトータルを考えても安いと
いう結論であった。当社のセパレータもリサイクルが可能である。
④ 現状の自動車用,定置用の FC をまかなう程度の小ロット多品種生産では,コスト的
にカーボンセパレータの方が有利な領域があると思われる。しかし,枚数が多くなれ
ばなる程,金属セパレータが有利になると判断している。
3−5 今後の課題について
① 現状でも十分ではあるが,一番の課題は更なる導電性の向上である。これは溶出金属
イオン量低減問題とともに,永遠のテーマと考えている。他社で金属セパレータを開
発しているところは金メッキを用いているところが多い。チャンピオンデータを狙っ
ているような客先では,金メッキ並みの接触抵抗が欲しいとの要望もある。
② ただし,金メッキを含めたコストを容認するのであれば,当社の開発した素材で金メッ
キをしても問題ない。少なくとも無垢の素材できちんとした性能を発揮しているので,
一定性能は保証できる。
③ 金属イオンの溶出に関しては改善を図っている。ただし,最近の MEA 高耐久化の方
向は,対金属汚染の耐久性向上と同じベクトル上にあり,格段に良くなってきている。
また,フェントン耐性が問題となるのは,加速環境においてであり,実態としてはあ
まり問題ではないと感じている。
−369−
3−6 今後の販売戦略について
① 当社としては,ニーズがあれば素材,セパレータとも広く提供していきたい考えであ
る。製造設備が足りないのであれば,増強することも考えている。ただし,不特定ユー
ザに,店売り一般材のように提供することは将来ともに考えてはいない。
② 国内大手自動車メーカA社との紳士協定があるうちは,他の自動車メーカに提供でき
ないが,定置用メーカ等には提供していきたいと考えている。サンプルを評価しても
らっているメーカが何社かある。海外のメーカからも問い合わせは来るが,これらは
すべて断っている。
③ この素材の基本特許は当社が持っているが,この素材を使った応用特許に関しては既
述の国内大手自動車メーカA社がいくつか持っている。そのため,他社への提供では
状況によっては協議が必要な場面もあり得ると考えている。
④ 現在競合となるようなメーカは存在しないと思っている。基本的に無垢の素材のまま
で当社以外のもので使えるものはない。また,SUS316L と似た素材なので,価格競
争力は非常に高いと考えている。素材とパフォーマンス,価格を含めて競争できる素
材は今のところない。
⑤ ただし,安価で特殊な表面処理した金属セパレータとは競争になる領域はあるかもし
れない。しかし,本当の意味での量産期には,当社は無垢素材であり圧倒的に有利だ
と思っている。
4.他社との競合・協力関係について
国プロに関しては,前述の 5 年間の NEDO プロジェクト「固体高分子形燃料電池ス
テンレス箔セパレータ量産化技術開発」のみで,現在は 3 年目である。
5.国,メーカ等に対する要望について
① 国にはよく支援してもらっており,感謝している。国による発表の機会も利用させて
もらっている。これがなかったら,外へ向けた情報発信ができなかっただろう。
② 素材メーカという当社の立場からは,多くの FC メーカにこの素材を使っていただき
たいと思っている。そして FC メーカに対しては,素材で競争するのではなく,この
素材の使い方で競争してもらいたいと考えている。
以上
−370−
XIII.日清紡績株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 19 年 10 月 15 日(月)13:30 ∼ 15:30
場
日清紡績株式会社 本社
所
応対者
燃料電池事業部
1.PEFC 関連の取り組み概要
① 愛知県岡崎市の美合工場の生産ラインで,主に定置用 PEFC のカーボン樹脂コンポ
ジットセパレータの生産を数十万枚/年の規模で行っている。定置用のみでも事業化レ
ベルに近付きつつある。
② 自動車用 PEFC のセパレータについても研究開発を進めている。
③ カーボンセパレータへの研究開発資源の投入は継続して進めている。
2.カーボン樹脂コンポジットセパレータについて
(1) 生産状況・価格見通し
① 美合工場の稼働率としては,昨年度まではおおむね順調に一定の稼働率で生産を続け
てきたが,NEF の大規模実証事業の期間が 1 年間延期された影響もあって,現状では,
稼働率がやや落ちている状況にある。
② 生産方法は,カーボンにコンパウンドを混ぜて通常のプレス成形で行っている。1 分
で 1 枚以上の生産は,簡単ではないが,やれそうだという感触を持っている。
③ 価格見通しとしては,原材料となるコンパウンドの投入を自動化するなどにより,1
枚 200 円(バイポーラではこの 2 倍)は可能と考えている。しかし,現状では,大きさ,
形状,溝の深さ,流路パターン等の異なったセパレータを何種類も作製しているので,そ
れらセパレータ仕様の標準化等により,種類の削減・集約をしていく必要がある。
−371−
(2) 技術課題・開発状況
① 薄さに関しては,0.15mm を達成,ほぼ技術的な限界に達し,これ以上の薄さは必要
ないというところまできている。今後の課題は信頼性の向上である。
② 信頼性に関しては,今後さらに工程能力を上げ,2 桁のオーダで不良率を下げていく
必要があるが,その達成の見通しはある。現状では全数を検査して不良品をチェック
している状況にあり,最終的には全数検査が必要のない段階にまでもっていきたい。
③ 耐久性に関しては,数万時間の運転実績もあり,また現状では MEA が先に劣化して
いる状況にあり,問題ないと考えている。炭化水素系,フッ素系といった膜のタイプ
との相性についても,本質的には同様と考えている。
④ 1枚のセパレータを金属製セパレータと同様の波状形状にしたコンポジットセパ
レータの開発を NEDO と共同研究を行っている。これは自動車用途を目指したもの
である。NEDO の支援には,本当に感謝している。定置用では耐久性とコストが優先
され,現状ではほとんど採用されていない。波状形状の場合は,作りにくい部分があ
るため,信頼性向上とコスト削減のハードルが高い。最終的に厚さ 0.2mm のものが
製造可能と考えている。
(3) 取引先・競合企業・市場動向
① セパレータの供給先は,8∼10 社程度であり,売上的に国内が 8 割,海外が 2 割といっ
た状況である。
② 現状では,収益を上げるところまできていないが,事業化のレベルに近づきつつある。
2010 年度くらいまでを目途に回収できればと期待している。現状,定置用 PEFC を
中心としたセパレータの供給だけでも回収は可能と考えている。わが国において,当
社と同様のカーボン樹脂コンポジット製セパレータを生産している企業としては,サ
ンプル品を提供できる企業はあっても,数十万枚のオーダで生産が可能な企業は当社
以外にはほとんど無い状況と考えている。
③ 自動車メーカでは,金属製セパレータを志向しているところが多いと理解している。
カーボン製が金属製と比較してもろい性質があることから,品質保証がしにくく,自
動車メーカはカーボン製を嫌う傾向にある。ただし,こうした自動車メーカもカーボ
ン製の可能性を完全に捨て去ったわけではなく,並行して研究を進めていると考えて
いる。
④ 当面,定置用が先行することから,ガス会社と石油会社の動向が当社の事業を大きく
左右すると考えている。
−372−
(4) LCA について
① カーボンセパレータの原料となる黒鉛には人造黒鉛と天然黒鉛がある。人造黒鉛で
は,原材料を高温で焼成する工程が入るため,LCA 的にみてエネルギー消費量が大き
くなり金属製セパレータに比べて不利となる可能性がある。ただし,カーボン樹脂コ
ンポジット製セパレータはリサイクルが可能であり,それを加味すれば不利とならな
くなる可能性がある。100%のリサイクルは不可能であるが,樹脂部分を焼いて一旦
黒鉛原料に戻し,再利用することが考えられる。
② 薄さを追求すると天然黒鉛の利用は難しくなるが,家庭用などでそれ程性能にこだわ
る必要が無ければ,コスト的にも有利な天然黒鉛を用いることできる。この場合にも,
LCA 的に不利にならないと考えている。
3.その他
NEDO の支援を受け,ハイブリッド車用のエネルギーバッファとして用いられる電気二
重層キャパシタの事業化に向けた取り組みを行っている。自動車メーカや部品メーカとも
4,5 種類の製品の共同開発を行っている。順調に進んでいる。
4.国プロへの参画状況
① NEDO の「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発」の中の「実用化技術開発」
プロジェクトにおいて,平成 17 年度より「高強度な波板形状セパレータの研究開発」
を実施している。
② 昨年度までの 2 年間,JST のプロジェクトとして「ハンドリング性に優れた燃料電池
セパレータの研究開発」に参画していた。
③ 昨年度から 5 年間の予定で,NEDO の「電気二重層キャパシタに関する研究開発」プ
ロジェクトを実施している。5 年間で 10 億円の規模である。
5.国への要望
① 従来から強度などの測定方法の統一化を図って欲しいと願っている。しかし,各社,
根本的な考え方が異なり,統一化することは極めて困難とは思っている。
② 米国の ZEV 規制が電動車両の普及に大きな役割があったことを踏まえると,わが国
でもそうした規制的な施策の導入を検討しても良いのではと考えている。例えば,コ
ンビニが災害時において救援拠点として期待できることなどを考えると,コンビニに
FC 等の分散電源の導入を義務付けるなどの施策があっても良いのではないか。
以上
−373−
−374−
XIV.大阪ガス株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
場 所
応対者
平成 19 年 9 月 6 日(木)14:00 ∼ 16:15
大阪ガス株式会社 本社
エンジニアリング部 ECO エネルギーチーム
家庭用コージェネレーションプロジェクト部
エネルギー技術研究所 SOFC コストダウンプロジェクト
1.大阪ガスにおける燃料電池関連の取り組み概要
① 当社における燃料電池,水素に関する主要な取り組みとしては,PEFC および SOFC
を用いた家庭用コージェネレーションシステムの開発と,水素社会を見据えて,天然
ガスから純水素を製造するコンパクトな水素製造装置の開発・販売を行っている。
② 今年度から JHFC2 で開設する大阪水素ステーションの実証試験に参画している。
③ 当社内部での燃料電池全体への取り組みは活発化している。中でも SOFC が実証段階
に近づき,その開発が活発化している。PEFC は 2009 年度の商品化に向け,大規模
実証を通じ,システムの信頼性評価を進めている状況である。家庭用では,とくに電
力会社のオール電化に対抗する手段として燃料電池システムに大きな期待をしてお
り,積極的に取り組んでいる。
2.家庭用 PEFC コージェネレーションシステムの研究・開発状況について
(1) 家庭用 PEFC コージェネレーションシステムの開発状況
① 家庭用のコージェネレーションシステムを中心に開発を進めている。出力は,共同開
発しているメーカによって 750W(三洋電機製)と 700W(東芝燃料電池システム製
がある。
② 表ⅩⅣ-1 に商品機の目標仕様を示す。発電効率については商品化目標をすでにほぼ達
成しており,現在はコストダウンが主要な開発課題となっている。
③ 当社では,現在,三洋電機(750W)と東芝燃料電池システム(700W)とコストダウ
ンに向けた共同開発を行っている。
④ 当社のシステムは,できるだけ連続運転を行う点が他社のものと異なっている。ただ
し,当社のシステムでも熱が余る夏場は 1 日 1 回起動停止する仕様となっており,そ
れほど大きく仕様が異なっているわけではない。
⑤ 当社においては,セル自体の研究開発は行っておらず,当初からユーザとしての評価
を中心に行ってきた。独自開発は,小型改質器,排熱回収システムである。
⑥ 小型改質器は,リン酸形 FC 用改質器の触媒を開発していたことや,当初小型改質器
を持っているメーカが少なかったという経緯から独自開発に着手した。また,排熱回
収システムは 2003 年 3 月に販売を開始したエコウィル用に開発を行っていた。
⑦ メーカと共同で開発したコストダウン試作機の運転試験を行い,2009 年度の商品化
に向けた信頼性の検証を行っている。
−375−
表 XIV-1 商品機目標機仕様
定格発電容量 700∼750W 1kW
T/D (W) 250 / 500 /700、750 300 / 500 / 750 / 1000
発電効率* >30% >34% >35% >30% >33% >34% >35%
排熱回収効率* >26% >38% >44% >26% >38% >42% >45%
貯湯温度 60℃ 以上
系統連系 逆潮なし系統連系
運転形態 連続運転(夏季S/S運転あり) 耐用年数 10年
* 効率は LHVベースnet値、排熱回収効率は本体出口基準、排熱温度は貯湯タンク温度
(2) セル劣化研究について
① NEDO のセルの劣化研究プロジェクトに参画している。目的は,セルの劣化メカニズ
ムの解明と,加速寿命評価試験方法の確立である。3 年間のプロジェクトであり,今
年度が最終年となっている。
② このプロジェクト等により,この 2∼3 年の間にかなりの技術的な進歩があった。最近
では MEA の品質が改善され,劣化モードも絞られ,耐久性の目途が立ってきた。当
初アノード触媒の脱合金化で弱かった部分もかなり改善され,フラッディングの原因
も明らかとなり,ある程度対策が取れるようになってきた。
③ 当社では,単セル試験装置を 30 台程度持っており,定置用 PEFC の耐久性評価を行っ
ていた。単セルでは 5 万時間程度の評価データも出てきており,4 万時間程度ならそ
ろそろ見込めるというところまできたと考えている。
(3) 小型改質装置について
① 独自開発の小型改質器については,500W,750W,1kW 級を開発しており,国内外
で累積約 800 台を出荷した。(図ⅩⅣ-1)
② 当社改質器の特長は,触媒の交換が 9 万時間必要ないことや,LPG にも適用できるこ
とが挙げられる。すでに 36,000 時間の連続運転試験,及び 3,000 回の起動停止試験で
問題がないことも確認している。
③ 燃料としては,LPG と都市ガスを想定している。水蒸気の量等を調節すれば他燃料で
も使える可能性もあるが,一般の灯油などは脱硫が難しく,現時点では考えていない。
④ 9 万時間の触媒の耐久性については,ガス燃料の含む硫黄量によっても違ってくるの
で,標準的なガス組成であればという説明をしている。標準的な仕様,例えば硫黄分
の MAX 値など明示して,理解してもらっている。
−376−
図 XIV-1 大阪ガス式小型 PEFC 用改質装置
(4) 排熱回収システムについて
① エコウィル(ガスエンジンシステム)の排熱回収システムを燃料電池用に改造し,開
発を行っており,エコウィルと同じメーカと共同開発を進めている(図ⅩⅣ-2)。
② 現在は, 200L 貯湯槽を入れている。4 人の家庭では,150∼200L の貯湯容量が省エ
ネ性が最も高いと考えている。
③ 過去何週分かのデータに基づく学習制御により,その日の運転状況と貯湯状況をみて,
そのときどう運転すべきかをその都度判断するようなシステムとなっている。
図 XIV-2 大阪ガスでの排熱回収システム開発
−377−
(5) 大規模実証事業について
① NEF の大規模実証事業へ参画し,平成 17 年度に 63 台, 18 年度に 80 台, 19 年度
に 81 台(2 月までの予定台数)を設置している。参画の目的は以下のとおりである。
・システム簡素化等コストダウンと信頼性両立を短期間で検証
・多様な運転実績の蓄積
・発売に向けた課題の抽出
・メーカにおける製造技術の蓄積
② 設置場所は,当社の管内がほとんどであるが,今年度は他のガス会社からの依頼があっ
たため,3 台を他のガス会社の管内に設置する予定である。
③ 実証運転の結果,当社では連続運転を基本にしているため,700W∼750W の出力でも
充分省エネ性は確保できるという感触を得ている。
④ 2005 年 9 月頃から三洋電機,東芝燃料電池システムとコストダウンの共同開発を行っ
ている。三洋電機製,東芝燃料電池システム製とも問題なく運転を継続している。毎
年,コストダウンのためにシステム設計を変更しているため,新しいバージョンの導
入初期にはトラブルが出やすい。これらの不具合を改善しながら,信頼性の向上に取
り組んでいる。
⑤ 設置場所の環境(塩害等)による影響は,いまのところ問題はない。
(6) 今後課題・販売予定
① 国の大規模実証事業が 1 年伸びたため,大規模実証をもう 1 年行い,2009 年度から
販売していきたいと考えている(図ⅩⅣ-3)。
② セルの耐久性については,現状でも 5 万時間の運転を達成した MEA もあり,目途が
立ってきている。現状は,耐久性を確認している段階であり,このまま動いていくと
予想している。後はコストダウンが最大の課題である。
③ コストダウンに関しては,補機プロジェクトの成果により,補機の価格がかつての数
分の 1 というところまで来た。ただこれだけでは,販売価格 50 万円を見通せないた
め,セルの枚数を減らしたり,さらに安い部品の開発などが必要である。
④ 2009 年度からの補助金制度についても,FCCJ 等の団体を通して METI に要請して
いきたいと考えている。
−378−
図 XIV-3 大阪ガスの PEFC 開発経緯と今後の予定
(7) エコウィルについて
① エコウィルは当社が開発し,販売を進めてきた。2003 年 3 月の販売開始以来,昨年末
で約 46,000 台が出荷され,そのうち,当社からは 30,000 台を販売している。
② 継続的にホンダ技研はガスエンジン(163cc の 4 サイクル単気筒 OHV)の改良を行っ
ており,現状の発電効率が 22.5%(LHV)である。
3.家庭用 SOFC コージェネレーションシステムの研究・開発状況について
(1) SOFC の特徴と SOFC コージェネレーションシステムの位置づけ
① SOFC(固体酸化物形燃料電池)は,700∼1000℃という高い作動温度のため内部改
質が可能であり,45%(LHV)を超える高い発電効率が得られることが特長である。
② 当社では,エコウィルと,PEFC 並びに SOFC による家庭用コージェネシステムの開
発を行っている。それぞれ発電効率と排熱回収効率の比率が異なっており,顧客に
よってそれぞれに適したシステムがあると考えている。(図ⅩⅣ-4)
③ エコウィルは,比較的電力よりも熱利用が多い家庭に適しており,SOFC は,電力需
要が大きくて熱需要が小さい家庭に適している。PEFC はその中間の特性となる。そ
のため,SOFC は都市型の小規模住宅や集合住宅への展開が可能と考えている。
−379−
図 XIV-4
SOFC コージェネレーションシステムの特長
(2) SOFC システムの開発・運転試験状況
① 京セラと共同開発している SOFC は,円筒平板型と呼ばれるセルを用いており,円筒
平板の形状によって熱による膨張によるセルの反りなどを吸収し,比較的強靭で発電
効率も高いという特長がある。
② 実験住宅 NEXT21 で 2005∼2006 年にかけて,1kW 級 SOFC コージェネレーション
システムの実証実験を行った。その結果,定格運転のイメージの強い SOFC において
負荷追従性が優れていること示し,関係者を驚かせた。
−380−
(3) 700W 世界最小 SOFC システムの開発について
① 従来の 1kW をさらに小型化し,小規模住宅や集合住宅をターゲットにした世界最小
の 700W SOFC コージェネレーションシステムを開発している。発電ユニットは当社
と京セラとの共同開発であり,貯湯ユニットは当社と長府製作所の共同開発である。
② 2006 年度の発電ユニットは 950mm×540mm×350mm であり,比較的小さな住宅で
も設置可能なように仕上がっている。また,定格発電効率は 45%,定格排熱回収効率
は 30%(LHV),定格排熱回収温度 75℃であり,重量も 91.5kg と 100kg を下回り,
2 人の人間で設置が可能となって設置費用の面からも魅力的なものになっている。
③ 貯湯ユニットの貯湯タンク容量は,PEFC システムに比べて小さな 70L となっている。
④ SOFC は基本的に連続運転を行う。運転制御については複雑な学習制御運転をしなく
ても,発電効率が高いため省エネが確保できるだろうと考えている。
⑤ 2006 年 3 月より,当社社員の家に設置し,フィールド試験を行っている。その結果,
現在までに運転時間は約 4 千時間に達し,異常停止もなかった。
⑥ 今年度から始まった NEDO プロジェクトである「固体酸化物形燃料電池実証研究」
に参画する。NEF が受託者として実証研究を行い,当社は設置・運転試験者として
SOFC システムを NEF から借りて,試験データを収集するという立場で参加するこ
ととなる。システムは,京セラが NEF にリースで提供する形となる。
⑦ この実証研究では全国で 29 サイトが設置され,そのうち 20 サイトを大阪ガスが設置
する。当社以外の SOFC システムの多くも京セラの SOFC システムとなっている。
⑧ この実証研究では,システムを 6 ヶ月以上運転し,定められたデータを収集して NEF
に提供することとなっている。
(4) 今後の開発課題
① 後の開発課題としては,耐久性・信頼性の確立,コストダウンが挙げられる。PEFC
が現状で実証段階にあるとすれば,現状の SOFC は実証初期段階であると考えられ
る。今後,基本設計を確立するための技術課題抽出のため,NEDO の実証研究を活用
していくこととなる。
② コストダウンについては,よりシンプルなシステムが可能になることから,将来的な
低コストポテンシャルを有するものとして期待している。
(5) その他
① 国の燃料電池施策に使われている予算のうち SOFC の占める割合は非常に小さい。
また,基礎研究に関する分野も PEFC に比べると劣っているので,もう少し基礎研
究の充実化を図っていただきたい。
② SOFC の耐久性の実証という意味では,海外に比べて実績が少ないかも知れないが,
当社が京セラと共同開発している本コージェネレーションシステムは,世界のトッ
プを走っていると考えている。
−381−
4.水素ステーションについて
(1) 水素ステーションに対する取り組み状況
① ガス会社の取り組みとして,水素社会に向け,当面は必要なところに必要な水素を
供給するという考え方で,既存の天然ガスインフラを活用し,オンサイトで水素を製
造し供給するための検討を中心に進めている(図ⅩⅣ-5)。工業用の水素供給に関し
ては,すでに事業化しており,さらに水素ステーションや純水素を用いた定置用燃料
電池などへの新たな需要を想定して実証を進めている。
② 同時に,天然ガスのみならず廃棄物等からのバイオガス(メタン発酵ガス)からの
水素製造でも同様の技術が使えるため,こうした展開も想定して実証を進めている。
③ このような取り組みにおける鍵となる技術は,天然ガスから水素を製造する技術で
あり,コンパクトで街中にも設置できるような水素製造装置 HYSERVE シリーズを
開発し,販売を行っている。
④ 先月,JHFC フェーズ 2 で当社が参画する大阪水素ステーションがオープンした。
JHFC のフェーズ 1 では直接参加していなかったが,愛知万博の東邦ガスのステー
ションに当社の水素製造装置(HYSEVE100)が用いられていた。
⑤ 当社の酉島水素ステーションは WE-NET によって建設された日本初の水素ステー
ションである。WE-NET 終了後もおおさか FCV 推進会議の枠組みの中で,大阪府
がリースする FCV にも水素を供給した実績がある(充填回数のべ 202 回,充填量
2,245Nm3)。これまでは国のプロジェクトで色々な実験を行ってきたが,現在は大
阪ガス保有の実験設備として活用している。
図 XIV-5 水素ネットワーク社会に関する検討
−382−
(2) 水素製造装置について
① コンセプトは街中にも設置できるという,パッケージタイプのコンパクト水素製造
装置である。当社が改質炉や PSA 精製において培ってきた技術や,オフガスを有効
利用する技術,開発してきた触媒技術を組み込んで,HYSERVE シリーズの開発を
進めてきた。
② すでに工業用の水素供給については事業化しており, 11 台の販売実績がある。主に
熱処理やガラス製造用の用途で用いられている。
③ こうした工業用の用途には,30Nm3/h タイプと 100Nm3/h タイプの 2 機種でほとん
ど対応可能であるが,将来の本格的な水素ステーションや大口の工業顧客もにらん
で, 300Nm3/h タイプを今年度中に開発する予定である。
④ 大阪水素ステーションに設置したのは 30Nm3/h タイプ の HYSERVE30 である。水
素ステーション用の水素製造装置としては,工業用とは負荷変動等使われ方が異なる
部分があるので,耐久性についてまだ課題が残されていると考えている。さらに,コ
ストダウンやさらなる効率向上も課題である。
(3) 大阪水素ステーションについて
① JHFC 大阪水素ステーション(大阪市中央区大手前 3-1-7)は,HYSEVE30 を設置
し,40MPa に対応した水素ステーションである(図ⅩⅣ-6)。車には 35MPa で充
填し,カート等(吸蔵合金を使っているタイプ,カートリッジ式)には, 0.7MPa
という低圧で水素を充填する。また,定置用燃料電池(10kW 級)に燃料(純水素)
を供給する予定である。定置用の燃料電池はエンジニアリング振興協会が公募により
決定する予定となっている。このように,多目的の水素利用に対応したステーション
となっている。
② また,わが国で初めて商業地域に設置した都市型の水素ステーションとして位置づ
けられる。規制緩和によって蓄ガス量が従来の 10 倍の 700Nm3 まで置けるようにな
り,実用的な水素ステーションの第 1 号でもある。現在,650Nm3 貯められる容器を
置いているので,乗用車であれば 4 台連続で充填可能となっている。
③ 街中にあるため,安全面には特に注意を払っており,侵入センサーを設置し,入退
出の管理を厳密に行う。また,運用状況についても遠隔監視の標準装備をしており,
事務所からでもどのような負荷で充填していてどうなっているか等のデータを全て
見ることが可能である。また,緊急時には携帯メールおよび電話で当社担当者に連絡
が入るという体制になっている。(図ⅩⅣ-8)
④ 基本的に常駐者が 1 人で,水素製造および充填をおこなっているが,必要に応じて
当社メンバーがサポートする体制をとっている。
⑤ 基本的には平日はオープンしている。一般にもオープンになっている。
−383−
図 XIV-6 JHFC 大阪水素ステーションの実施内容
図 XIV-7 JHFC 大阪水素ステーションの機器構成
−384−
図 XIV-8 JHFC 大阪水素ステーションの安全管理
(4) その他の水素関連プロジェクト
① NEXT21 で,集合住宅用 PEFC コージェネレーションシステムの実証試験を行って
いる。天然ガスを集中改質して水素を各世帯に供給し,純水素タイプの家庭用 PEFC
システムを各世帯に設置する。500W×8 台,700W×3 台を導入している。これは,
国土交通省(500W)と産総研(700W)のプロジェクトとして実施している。
② ゴミ等から出るバイオガスから水素を製造するという環境省プロジェクトに昨年か
ら参画している。将来的な水素の利用としては,工場用もあるが,車も視野に入れた
形になっている。(図ⅩⅣ-9)
図 XIV-9 バイオマスからの水素製造プロジェクト
−385−
5.国・行政機関に対する要望
① SOFC に関する国の取り組みは海外に比べて遅れていると感じるため,SOFC の研
究開発への支援・予算を増やしてもらえればと考えている。また,基礎研究に関する
分野の充実も PEFC に比べると劣っているので,もう少し国の施策も SOFC に向け
て欲しいと考えている。
② 水素ステーションの規制緩和をもう一歩進めて欲しい。貯蔵量や距離について緩和
してもらえば,もっと都心部に建設できるようになる。
③ また,建設費用補助についても,今の段階ではまだ早いとは思うが,CNG スタンド
のように建設費を補助するような補助のあり方の検討を行って欲しい。
④ 予算を効率的に配分できるように,グランドデザインを明確にして欲しい。それに
基づいて資金を必要な所にきちんと配分するのが本来あるべき姿と思われ,民間企業
もそれに基づいて必要な投資の判断を行っていけるようになると思う。
以上
−386−
XV.株式会社ジャパンエナジー殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 19 年 9 月 21 日(金)10:00 ∼ 12:00
場
株式会社ジャパンエナジー 本社
所
応対者
事業開発部
1.事業概要
(1) 事業概要
① 当社は,新日鉱グループの中核企業である。新日鉱グループは,持ち株会社の新日
鉱ホールディングス,およびコア事業会社である当社ならびに銅を主体とした金属事
業を行っている日鉱金属を中心とした企業グループである。
② 当社の事業内容としては,石油資源開発,石油精製,石油製品販売をはじめ,LP ガ
ス,潤滑油,石油化学まで,幅広い分野を川上から川下までグループとしてトータル
に展開している。メインは石油精製と石油製品の販売である。石油化学では,石油精
製から得られる芳香族系石油化学製品,ノルマルパラフィンを中心とした石油化学製
品などの生産・販売を行っている。
③ 創業は 1905 年(日本鉱業),2003 年に金属事業(日鉱金属)と分離して当社は設
立された。1992 年に石油製品販売会社であった共同石油と合併し,1993 年にジャパ
ンエナジーに改称した経緯がある。このときから JOMO ブランドがスタートした。
④ 資本金は 480 億円,従業員数約 2700 人,わが国における石油製品の販売シェアは
10%強程度である。JOMO サービスステーション(SS)は,日本全体約 45,000 箇
所のうち,3,700 箇所程度であり,全国に展開している。
⑤ LPG の卸売は国内で7%のシェアを占め,石油精製からが 4 割弱,中東等からの輸
入が 6 割強である。LPG は特約店に卸し,特約店を通じて一般家庭に販売している。
⑥ 現在,石油価格の高騰や石油需要の落ち込みに対応した中長期的な取り組みの一つ
として,石油のノーブルユースを目指し,約 700 億円を投資し,鹿島製油所におい
てアジアで堅調なパラキシレン等アロマ系製品の製造装置の建設を行う,石油化学製
品増産プロジェクトを推進している。
⑦ 2006 年 6 月,新日本石油(株)との間で,広範囲な分野(上流,精製,物流,燃料
電池,技術開発)における業務提携を行うことで合意した。
(2) 水素・燃料電池に関する取り組み概要
① NEF の定置用燃料電池大規模実証事業に平成 17 年度の開始当初から参画し,現在も
引き続き,積極的に参画している。
② 当年(2007 年)7 月 9 日より,JHFC プロジェクトの一環として,大陽日酸㈱とバブ
コック日立㈱と共同で,当社船橋油槽所において,移動式水素ステーションの運用を
開始した。
−387−
2.バイオガソリンに関する取り組みについて
① バイオ燃料への取り組みについては,石油連盟を中心に石油元売各社と共同でバイオ
エタノールから合成される ETBE を 7%混入したバイオガソリンを,今年は石油会社
全体で関東圏を中心に 50 箇所の SS で試験販売を開始した。来年度には 100 箇所,再
来年には 1,000 箇所の SS に拡張していく構想である。
② ETBE は,バイオマス燃料供給有限責任事業組合がフランスの国営企業から調達し,
新日石の根岸製油所でブレンドして,各社の SS に輸送している。
③ 2010 年には,業界目標として,バイオ由来燃料を 21 万 kl(石油換算)調達・販売す
るのが目標である。
④ エタノールをガソリンに直接混入する方式は,混合燃料に水が混ざると水がエタノー
ルを吸収して相分離が生じ,ガソリンの品質を保証するのが難しいこと。また,エタ
ノールの混入によって蒸気圧が上がるため,蒸気圧を落としたガソリンを製造する必
要があり,これには現状流通しているガソリンとは別の物流系統が必要となること。
さらにエタノールはゴムなどを膨潤させるため,それに対する設備が必要となること
等から多くの費用が必要となる。一方,ETBE は既存の流通設備が使用可能なため,
業界としては,ETBE 方式を推進している。
⑤ ETBE は,現在,発がん性等に関する問題を検証中である。来年度にその結果が出る
予定であり,その成り行きに注目している。現在の実証事業では,地下水への混入な
どが生じないように監視を行いながら実施しているところである。
−388−
3.定置用 FC システムに関する取り組み
(1) 定置用 PEFC システム
① 定置用 PEFC に関する取り組みとしては,平成 15 年度の NEF の定置用燃料電池実
証研究に参加し,秋田県男鹿市に場所を提供し,丸紅を通じてプラグパワー製の 5kW
システムを NEF が調達し,実証試験を行ったのが最初である。その後,平成 16 年度
に自社事業として 2 箇所において東芝製 FC システムの実証試験を実施した。いずれ
も燃料は LPG である。
② こうして設置からメンテナンスまでのノウハウを習得しながら,平成 17 年度より
NEF の定置用燃料電池大規模実証事業に参画した。平成 17 年度に 30 台,平成 18 年
度に 40 台,平成 19 年度には 34 台を計画している。今年度までで累計 100 台を超え
る水準となる。燃料は全て LPG である。昨年度までの実証機は,全て東芝燃料電池
システム製であり,今年度については,昨年度から新日石と業務提携を行ったことに
より,34 台中,16 台については,新日石が三洋電機と共同開発した LPG 用システム
を導入する。残りの 18 台は東芝燃料電池システム製の LPG 用システムである。
③ トラブルへの対応としては,当社独自の遠隔監視システムを用いている。運転状況の
モニタリングシステムによる運転データの常時チェックと,コールセンター機能によ
り 24 時間体制で顧客からのクレームを受け付けている。クレームがあった場合には
必要に応じて FC メーカや貯湯槽メーカに連絡して対応する等の体制をとっている。
④ 新日石の FC システムでは,新日石の体制を使わせていただく予定である。
⑤ 価格目標としては,来年度に 1 台 120 万円としているが,見通しとしては,現状が
400∼500 万円であり,2008 年度において 200 万円を切ることを期待している。
⑥ 大規模実証が終了する 2009 年度以降は,太陽光発電と似た補助金事業の創設を要望
したいと考えている。出来るだけ早い段階でシステム価格を 50∼60 万円にしなけれ
ば,他の高効率機器との競争に勝てないと考えている。
⑦ 設置費用も,当面はエコウィル並みの 30 万円以下を目標にしている。大規模実証初
年度には 170kg あったシステム重量も現在は 100kg 強であり,来年度には 100kg を
下回ることを期待している。重量を含めハンドリング性を高め,さらに基礎工事を速
く安くできるようにするなど,設置コストの削減を進めている。
(2) 灯油改質システムの開発について
① 当社独自の研究開発として灯油の脱硫・改質システムの開発を行っている。当面は固
体酸化物形燃料電池(SOFC)への適用を念頭に置き,開発を進めている。
② 現在は,1kW 級で SOFC システムを開発中であるが,10kW 級の業務用も視野に入
れている。例えば,初期導入としてコンビニなどでの業務用の経験を積むことが有効
であると考えている。
③ SOFC システムの発電効率としては,灯油用のためガスよりも不利な点もあるが,改
質器の効率を含め 40%(HHV)以上を目標としている。
−389−
4.自動車用水素供給ステーションに関する取り組み状況
(1) JHFC 船橋ステーションについて
① JHFC1 のときから当社として参入の希望を持っていたが,これまではその機会が無
かった。平成 18 年 3 月に秦野の出光のステーションが NEDO による水素安全利用等
基盤技術開発で千葉県市原市に移り,ここから横浜を繋ぐ湾岸部にステーションが欲
しいということ,また青梅の移動式ステーションを稼働率向上が期待できる場所に移
動したいということで,(財)エンジニアリング振興協会から相談があった。そこで,
当社の船橋油槽所をベース基地として提案し,そこに移設設置することとなった。
② 昨年末から何回かテスト運用を行い,正式に官庁申請の手続きが終了したのが 6 月末
であり,7 月 9 日に大陽日酸㈱とバブコック日立㈱と共同で,当社船橋油槽所におい
て,移動式水素ステーションの運用を開始することとなった。
③ 青梅ステーションでは改質器で水素を製造していたが,ここでは 20MPa の水素ボン
ベをおいて,車上コンプレッサにより蓄ガス器に補充していくという体制で運用して
いる。水素は市販のカードルから供給している。(図 XV-1)
④ 大陽日酸とバブコック日立との役割分担については,イベントでの運用とハードのメ
ンテナンスは大陽日酸の役割であり,船橋での運用と日常管理は当社の役割である。
バブコック日立には,過去の運用経験を活かして全体プロジェクトに対するサポート
をお願いしている。
⑤ 水素の充填量としては,イベントでの供給量が多いと想定している。当面は東京モー
ターショーの試乗会での水素供給が大きな量となる。運営方針として,おおむね年間
の半分はイベントでの利用,半分は船橋での運用ができればと考えている。
図 XV-1 JHFC 船橋水素ステーションの構成と仕様
−390−
(2) 将来の水素供給システムの提案
① 現在,有機ハイドライドを用いた水素ステーションの検討を進めている。図 XV-2 に
示すようにトルエンに水素を付加したメチルシクロヘキサンを水素ステーションに運
び,水素ステーションでは,メチルシクロヘキサンから水素を分離する。脱水素され
たトルエンを水添プラントに戻すという循環系を構築できないかと検討している。
② メチルシクロヘキサンから水素を分離する反応は,既存の改質器に比べて穏やかな条
件であり,コスト的に水素の中距離輸送エリアにおいて競争力があると考えている。
水素製造プラントから短距離内では高圧水素タンクでの輸送方式,遠距離ではオンサ
イト改質での水素製造方式など,色々な技術が用いられても良いと考えている。
③ メチルシクロヘキサンにはとくに毒性は無い。トルエンはシンナー中毒の問題があり
管理が必要であるが,発がん性も無く,元々ガソリン中に 30%程度含まれており,ガ
ソリンと取扱はそれ程変わらないという利点がある。また,従来のローリーやタンク
等今の石油用のシステムがそのまま使えるという利点もある。
④ 水素の吸蔵媒体としての NEDO の目標値が 5.5∼6 wt%に対してメチルシクロヘキサ
ン中の水素は理論値で 6.17 wt%である。ただしメチルシクロヘキサンからトルエン
の転化率が 100%ではなく,また発生した水素の 100%を 99.99%の純度で回収できな
いため,現在,4.5∼5 wt%を目標においている。
⑤ 最大の課題はステーション側で脱水素させるために必要な熱源である。反応がシンプ
ルなだけにトルエンと水素しか発生せず,外部から熱源を導入する必要がある。効率
を考慮すると,他のコジェネとの組み合わせやその他高効率な熱源の導入が必要とな
る。コスト的には反応温度が 300℃台でありそれ程高温用材料は必要ないが,トルエ
ンとメチルシクロヘキサン用の 2 つのタンクが必要となることが高コスト要因とな
る。
⑥ 現在,研究所において要素技術の検討を進め,実証試験については,可能なタイミン
グで本システムの水素ステーションの建設を提案したいと考えている。
(3) 膜型反応分離器を用いた水素製造について
① 水素社会への過渡期においては,オンサイトでの化石燃料を用いた水素製造方式が有
効であると考えているが,通常の SS の規模を考えると,改質装置の小型化が課題と
なる。この解決策と効率面での優位性から膜型反応分離器が有効と考え,(財)石油
産業活性化センター(PEC)のプロジェクトにおいて,灯油を想定した技術開発を進
めている。
② 膜型反応分離器はコンパクト性とエネルギー効率面で有望であるものの,水素分離膜
の信頼性に課題がある。さらにメタン燃料に比べ,カーボンが析出して金属膜では金
属にカーボンが進入して劣化するという問題があり,こうした課題に取組んでいる状
況にある。
−391−
図 XV-2 有機ハイドライドを用いた水素供給システムの提案
(4) 水素価格の見通しについて
① エネルギー総合工学研究所のレポートを参考に水素価格の見通しを検討した結果,製
油所からの水素を高圧ガスで運ぶ場合でも有機ハイドライドで運び脱水素する場合で
も,またオンサイトの灯油改質の場合でも,商業的なレベルのときに 60∼70 円/Nm3
という範囲に入り,競争力はあると考えている。
② ただし,国の目標水準である 40∼50 円/Nm3 については,かなり厳しいレベルで,
今後相当なコストダウンが必要と考えている。
(5) JHFC プロジェクトへの要望事項
① 現状の政府のロードマップにおける車の導入台数が実態と離れており,インフラの整
備方針が不明確になってきている。FCCJ のステアリングコミッティの下で,インフ
ラと自動車メーカ 11 社で一緒にシナリオの検討を行っているところであるが,車の
導入目標を置いてもらわないとインフラの準備が行いにくいと考えている。
② 現状の 12 箇所の水素ステーション数に対して,車両が 60 台というのは,ステーショ
ンを運営する立場にとって非常に厳しい状況である。是非とも,走行車両台数を増や
してもらいたいと考えている。
③ 昨今,ZEV や plug-in HEV が注目されており,燃料電池車の位置づけを明確にして,
さらに PR などをしていく必要があると感じている。
−392−
5.国プロへの参画状況
① JHFC 以外に,(財)石油産業活性化センター(PEC)の将来型燃料高度利用研究開
発事業において,平成 17 年度から平成 19 年度までの期間で,SOFC 向けの灯油改質
技術の開発を行っている。同様に,水素ステーション用水素分離膜を用いた分離反応
改質システム,有機ハイドライドを用いた水素供給システムの開発の 3 つのテーマで
参画している。
② 将来型燃料高度利用研究開発事業は PEC が石油精製備蓄課から直接委託されている
事業である。
③ NEF の定置用燃料電池の大規模実証事業に参画している。
6.他社との協力関係
① 2006 年 6 月,国際的な競争力の強化を図り,かつ相互の発展を期するため,新日石
との間で,広範囲な分野(上流,精製,物流,燃料電池,技術開発)における業務提
携を行うことで合意し,各分野で具体的な取り組みを開始している。家庭用燃料電池
の分野でも,前述のとおり,協力しつつ大規模実証に参画している。
② 東芝 FC システム㈱とも FC システムの提供を受けるなど,協力関係にある。
③ SOFC の灯油改質技術の開発においても,FC スタックメーカやシステムメーカと協
力して進めている。
④ 水素分離膜を用いた反応改質システム開発についても,複数のメーカと協力して進め
ている。
7.国への要望
① 規制緩和については,石油業界全体で協議して要望しているところである。第1段
の規制緩和については,実施され,ガソリンスタンドと水素ステーションの併設が可
能となった。
② 他社が併設ステーションを建設したが,まだまだスペースが大きい。街中の SS に併
設するためには,安全確認をした上で,更なる規制緩和が必要と考えている。これは,
業界全体の意見であると考えている。
以上
−393−
−394−
XVI.パナソニック EV エナジー株式会社殿
訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 19 年 8 月 29 日(水)13:30∼15:00
場
パナソニック EV エナジー株式会社(湖西市境宿)
所
応対者
第 1 技術部
1.会社概要について
① 当社は 1996 年に自動車用ニッケル水素電池の開発,製造販売事業を行う会社として
スタートした。
② 現時点での資本金は 30 億円で,資本比率はトヨタ自動車が 60%,松下電器産業が
46%,松下電池工業が 4%である。従業員数は約 1,300 人(2007 年 3 月現在)で,
ここ数年は指数関数的に増えている。2006 年度の総売上は 642 億円,2007 年度の計
画は 885 億円である。
③ 現在の事業内容は,HEV 用ニッケル水素電池とリチウムイオン電池の開発・製造・
販売である。定款上は BEV 用ニッケル水素電池も入っているが,現時点では補給用
に極めて少ない量の生産を行っているに過ぎない。
④ また,HEV 用の ECU 等バッテリマネジメントユニットの開発体制も整えている。
⑤ 現在までは,ニッケル水素電池は本社(境宿)で生産,供給していたが,2007 年 3
月,近隣に大森工場を建設し,ニッケル水素電池の生産を開始している。全世界に向
けた生産をここ日本で行っている。今後の生産増強に向けては大森工場を拡張し,対
応していく予定である。現状では,海外展開の計画はない。
−395−
2.二次電池の開発体制,開発項目・開発内容について
2−1 二次電池の開発の概要
① 1996 年に EV 用ニッケル水素電池の開発で事業をスタートした。
② 1997 年 1 月に EV 用ニッケル水素電池 EV-95(95Ah)の開発・量産を開始し,同年
10 月にコミューターEV 用ニッケル水素電池 EV-28(28Ah)を開発した。
③ 1997 年 12 月,プリウス用の円筒形ニッケル水素電池を開発し,量産を開始した。そ
れ以降ホンダのハイブリッド車にも一部搭載されている。(図ⅩⅥ-1)
④ 2000 年 5 月に角形電池にシフトし,HEV 用樹脂ケース角形ニッケル水素電池(角形
第 1 世代)を開発した。
⑤ 次いで,2003 年 7 月に,プリウスのフルモデルチェンジに合わせ,改良型樹脂ケー
ス角形ニッケル水素電池(角形第 2 世代)を開発した。
⑥ 2005 年 2 月には,ハリアーハイブリッドが発売されるタイミングでそれに搭載する
金属ケース角形ニッケル水素電池(角形第 2.5 世代)を開発した。
⑦ ニッケル水素電池については独自に開発しているが,リチウムイオン電池について
は,親会社の開発に参画している。
HEV 用 Ni-MH 電地(モジュール)
図 XVI-1 HEV 用ニッケル水素電池の製品
2−2 BEV 用二次電池の開発・生産について
① BEV 用ニッケル水素電池については,2003 年くらいまでは生産量が伸びていたが,
それ以降は補給用の極めて少ない生産量である。
② これまで国内外のメーカに BEV 用ニッケル水素電池を提供した。米国の ZEV 規制へ
の対応の変化等で,各社の EV 開発は縮小され,各社とも生産をやめていると認識し
ている。現在は,製造ラインも補給用電池の体制しか残していない。
−396−
2−3 HEV 用二次電池の生産・供給について
① HEV 用ニッケル水素電池は 1997 年から 10 年くらいで,累積 100 万台分生産した(図
ⅩⅥ-2)。2007 年度は年産約 50 万台の計画である。
② HEV 用ニッケル水素電池の現状の生産能力約 50 万台/年に対して,市場から要求さ
れている 100 万台/年の生産規模に対しては,今後これまで電池業界が経験したこと
のない程の投資が必要となる。様々なリスクが考えられ,年産 100 万台というのは 1
電池メーカにとって非常に厳しい挑戦である。
③ 電池コントロールユニットの設計,製造も当社は行っている。モジュールでの供給要
望はあるが,性能や品質を保証できないため,断っている。
図 XVI-2 HEV 用ニッケル水素電池の生産台数
−397−
2−4 これまでの HEV 用二次電池の製品開発の経緯
① 2000 年に開発した第 1 世代では 6 セルで出力が 600∼800W,2003 年に開発した第
2 世代では 1000W と 3 割程度出力を向上させた(図ⅩⅥ-3)。第 2.5 世代(金属ケー
ス)では 6 セルモジュールでは第 2 世代と同出力であるが,SUV 等のパワー重視の
車両にも対応できるように冷却性能を向上させ,さらに小型化を図っている。
② 搭載性については,初期の丸型から角形第 1 世代で 13%程度体積を減らすことができ
ている。また,角形第 2 世代では丸型に比べて 33%,角形 2.5 世代(金属ケース)で
は同 43%体積を減らしている(図ⅩⅥ-4)。
③ このように電池出力を向上させ,搭載数を減らすことによって,小型化,低コスト化
を図ってきたというのがこれまでの開発の流れである。しかし,現状では電圧を維持
するため,単純に電池搭載数を少なくできない状況になってきている。
④ 上記の現状に加え,6 セルモジュールだけでは車種によっては搭載できない場合が生
じたため,金属ケースセルの開発に移ったという経緯である。
⑤ 第 2.5 世代(金属ケース)では,樹脂ケースにおいて強度確保のために必要だったデッ
ドスペースなどを排除することができ,高さを 19%削減した。また,単セル構造のた
め,搭載する車両によって,モジュールのセル数や拘束の仕方などを変えることがで
き,樹脂ケースの電池よりもフレキシビリティが高いという特長がある。
⑥ このように,第 2.5 世代(金属ケース)では,金属利用のため,重量当たりのエネル
ギー密度や出力密度はやや落ちて価格的にも高くなったが,SUV 等の新型車両にも
対応できるように冷却性能を向上させ,小型化やフレキシビリティ向上によって搭載
性を向上させた。
⑦ 構造としては,第 1 世代では樹脂一体型で両端に端子を出した構造であったが,第 2
世代では出力向上のため,セル間の溶接点数を増やすこと,また、抵抗低減のために
厚型の集電体を使う構造に変更した。また電池材料としては,正極/負極材料をより出
力を出すための材料に変え,さらに信頼性向上のため,新しいセパレータを用い,寿
命性能を確保した。
⑧ HEV 用二次電池への基本的な要求としては,小型軽量化,低コスト化,耐振動,全
世界の気温への対応がある。とにかく搭載してもらうために,この順序で対応してき
た。しかし,ここ数年は,特にコストダウンへの要求が強くなっている。
⑨ 当社では,初期において円筒形電池を採用したが,その後角形に移行した。両者には
それぞれメリットデメリットがある。円筒形電池は,電池そのものの強度は高いが,
繋ぐところが弱くなることが欠点となる。一方角形電池は,高出力設計が可能なこと,
積層しているため均一な電池特性を出しやすいこと,薄い角形にしているため冷却が
均一に行えるという特長がある。一方で,膨張などの問題もあるが,当社では拘束バ
ンドを用いる構造とし,強度を確保している。
−398−
図 XVI-3 出力密度の比較
図 XVI-4 体積比較
−399−
2−5 HEV 用二次電池の耐久性保証について
① 使用温度範囲はマイナス 30℃∼50℃くらいである。
② 電池の保証期間については,原則として車両と同等保証となっている。ただし,これ
は,車メーカが市場で保証しているものであって,当社と自動車メーカとの間には
メーカによって様々な保証の取り決めのケースがある。当社はパックで供給している
ため,電池パックが保証の単位となっている。
③ 電池は化学反応がベースとなっており,ある一定の環境の下で一定の使い方をしても
らえれば車両の保証と同等の保証も可能であるが,実際には使い方により,その通り
のコントロールができるとは限らない。そのため,どんな使い方をしても車両と同等
の保証ができるとは言えない。
④ 電池 ECU では,電池の電圧や電流,温度などを見て,SOC やパワーリミットなどを
算出し,車両側へ送信している。また,電池に異常があった場合のダイアグ情報とと
もに,使うのを止めて欲しいといった電池診断情報を送っている。
2−6 ニッケル水素電池の今後の開発の方向性について
① 現在の開発の主眼は,低コスト化と信頼性向上である。ここ数年は大きな設計変更は
していないが,市場情報などから信頼性の確保のための検討は継続して行っている。
今後の新しい電池開発のために,どのようにして信頼性を上げていけばよいか,どの
ように検証を行っていったらよいかなどにここ 1∼2 年注力している。50 万台/年,100
万台/年というように生産が大規模になると,信頼性が経営に与えるインパクトが大き
くなるため,特に信頼性に主眼をおいた検証に注力している。
② コストダウンについては,量産だけではある程度の限界がある。初期のある程度まで
は下がると思われるが,そこから先は,VE(Value Engineering)など意識を持った
生産体制や設計の見直し,物流などすべてを加味して最適化していかないと下がって
いかない。今後そうした取り組みを行っていく予定である。
③ ニッケル水素電池でも,コストや信頼性に対する優先順位を下げれば出力密度を上げ
ることは可能であるが,大量生産して安定した信頼性を確保するとなると容易ではな
い。しかし,ニッケル水素電池は市場での実績も出てきているので,もう少し出力を
上げて体格を小さくすることが可能であれば,自動車メーカに喜んでもらえるかもし
れない。
④ FCV 用二次電池としては,現状の HEV 用二次電池で対応可能だと思われる。
−400−
2−7 リチウムイオン電池に対する対応について
① リチウムイオン電池は,エネルギー密度や出力密度が高くできるなど,様々なメリッ
トがあり,車両にとってもメリットが大きいと考えられるが,最近の民生用の市場で
の各種トラブルが示すように,安全性や信頼性の向上が課題であり,自動車に適用す
るのはまだまだ時間がかかると思われる。
② 現在のニッケル水素電池の工場をリチウムイオン電池製造に切り替えるのは,工場の
設備などがまったく異なるため,非常に難しい。ただ,実際には一気にリチウムイオ
ン電池に切り替わることはないと考えられ,また,敷地も確保しているため対応可能
だと考えている。
③ リチウムイオン電池に代替するには大きく 2 つの問題があり,慎重に検討しなくては
ならないと考えている。一つは,安全性の問題への対応であり,もう一つは,それ程
深刻でなくても何らかの不具合が起こった場合のリスクである。生産台数が増えてい
く中で,経営的にも慎重に進めないといけないと考えている。いずれにしてもトラブ
ルを回避しつつ確実に市場を伸ばしていくことが重要であると考えている。
④ プラグイン HEV 用二次電池については,必要な電池性能として EV 的な使い方が増
えると想定されるが,現状では使われ方が良くわからないため,どの程度の容量や信
頼性を確保したらよいのか,そのためにどういうところに注力すればよいのかなどま
だ掴みきれていない。リチウムイオン電池での可能性もあると思われるが,必要とさ
れる時期までにどこまで信頼性が確保できるかに依存すると考えている。
⑤ 当社の強みは,HEV について最初から現在までさまざまな使われ方のデータを持っ
ていることであり,ニッケル水素電池からリチウムイオン電池に変わったとしても,
HEV 用二次電池の使われ方としてのデータは有効に使える。
⑥ オリビン酸鉄を使ったリチウムイオン電池については,より安全と言われているが,
自動車に適用するにはまだまだ時間がかかると思われる。
⑦ あるメーカから良いリチウムイオン電池ができたと発表されたとしても,車両搭載で
の保証となるとそう簡単ではないと考えられる。そこから大量生産して本当に安定的
に信頼性の高い製品を供給していくということは,そう簡単にできるものではなく,
まだまだ時間を要すると考えている。
−401−
2−8 「次世代自動車用電池の将来に向けた提言」(図ⅩⅥ-5,表ⅩⅥ-1)について
(1) 自動車用リチウムイオン電池の目標について
① 図ⅩⅥ-5 の改良型電池(2010 年目標)については,HEV 用を想定すれば,ほぼ妥当
な目標であると考えられる。
② 先進型電池での性能 1.5 倍でコスト 1/7 という目標は,自動車メーカからみるとコ
ストは受け入れられても,性能面ではプラグイン HEV 用を想定すると,同一体積で
3 倍の容量が要望だと思う。
③ 革新フェーズの容量 7 倍でコスト 1/40 という電池はイメージできないくらい,極め
て高い目標である。
④ コストについては,HEV 用はパワー密度が要求されるため,W 当たりでみる見方も
あるかもしれないが,実際には,パワー密度を上げるためにはある程度の容量が必要
であること,HEV 用であっても電動機器(電動エアコンやステアリングなど)のた
めに容量がある程度必要であることから,円/W,円/Wh の両方でみていく方が良い
と思われる。
図 XVI-5 Li-ion 電池の目標性能および目標コスト
出典:新世代自動車の基礎となる次世代電池技術に関する研究会,「次世代自動車用電池の将来に向け
た提言」,2006 年 8 月
(2) HEV 用電池の目標について
① HEV 用改良フェーズの目標値である電池パック 10 万円/kWh という目標について
は,パックではなく,リチウムイオン電池単独で 10 万円/kWh であればありがたいと
いう目標値である。ただし,自動車メーカとしては,電池パックで 10 万円/kWh より
低価格を希望すると想定される。
② HEV 用先進フェーズの目標値である電池パック 3 万円/kWh についても,かなり厳し
い目標である。体積エネルギー密度に関しては,前述のとおり HEV 用としては,目
標値の 3 倍程度が車両から要求されるかもしれない。プラグイン HEV での電池の使
い方を十分に把握できていないが,このような目標を達成しながら,15 年以上のカ
レンダー寿命の達成は非常にハードルが高い目標と思われる。
−402−
表 XVI-1 次世代自動車用電池の性能目標値(HEV 用リチウムイオン電池)
現状
改良フェーズ
先進フェーズ
高性能
プラグイン HV 用
用途
HV 用 Li-ion
ハイブリッド用
燃料電池自動車用
目標年次
−
2010 年
2015 年
重量エネルギー密度
Wh/kg
90
120
120
単セル 重量出力密度
W/kg
2,300
2,500
2,500
レベル 体積エネルギー密度
Wh/L
180
180
240
体積出力密度
W/L
4,600
5,000
5,000
重量エネルギー密度
Wh/kg
70
70
100
重量出力密度
W/kg
1,800
2,000
2,000
体積エネルギー密度
Wh/L
84
84
120
パック
体積出力密度
W/L
2,200
2,400
2,400
レベル
充放電効率
%
95%
95%以上
95%以上
カレンダー寿命
年
∼10 年
10 年以上
15 年以上
電池価格
万円/kWh
20
10
3
注)新世代自動車の基礎となる次世代電池技術に関する研究会,「次世代自動車用電池の将来に向けた提
言」,2006 年 8 月を基に作成
2−9 その他
① 最近のニッケルの価格高騰は中国での需要増や投機的な動きに関連したものであっ
たと考えられるが,ニッケル水素電池にはそういったニッケル価格の変動によるコス
トアップのリスクはある。
② 今後 HEV のウエイトが高くなるとニッケル等の資源が足りなくなる可能性もある
が,ニッケルはリサイクルも可能であり,資源量的には対応可能と考えられる。
③ 民生用二次電池では,海外メーカがシェアを伸ばしているが,HEV 用二次電池とし
ては,現時点ではまだ脅威にはなっていない。
④ 国プロには参画していない。
3.国・行政機関に対する要望について
リチウムイオン電池の事故が発生し,民生用については電池工業会が規格などの検討を
行っているが,自動車用についてもレギュレーションにおいて海外に負けないように,日
本がリーダシップを発揮してやってもらいたい。今後電池は省エネや環境問題など様々な
ところでキーになってくると思われるので,政府や国家機関にうまくマネージメントして
もらいたい。
以上
−403−
−404−
XVII.大阪水素ステーション/関西空港水素ステーション
見学会報告
訪問日時
場
所
平成 19 年 10 月 12 日(金)10:30∼16:30
大阪水素ステーション
関西空港水素ステーション
1.大阪における実証事業「水素エネルギー社会実証事業」について
おおさか FCV 推進会議では,在阪の産官学がもつ水素・燃料電池技術開発の先進的な
取り組みを活かし,水素・燃料電池の早期実用化・普及に貢献するため,JHFC プロジェ
クトの大阪展開についての事業提案を行ってきた。これを受けて,平成 18 年度より「燃
料電池システム等実証研究」の一環として大阪地区で水素エネルギー社会実証事業が展
開されることとなった。
本事業は,水素エネルギー社会の構築に向けて,多角的な水素供給システムの検証と
ともに,新たな水素・燃料電池応用機器・システムへの水素供給,ならびにこれら機器・
システムの市場化の目処をつけることを目的としている。また,多様な水素利用機器が
事業活動や生活環境に活用される水素エネルギー社会の構築に向けて,「環境」・「福
祉」・「災害」対策をキーワードに社会実験を行い,利用・消費者の視点に立った技術
開発データを得るとともに,技術開発の人材育成ならびにニーズ拡大のための普及啓発
を行うことを目的としている。
具体的には,燃料電池自動車,燃料電池コジェネレーションシステムに加え,新たな
水素利用機器として可能性のある小型移動体(車いす,自転車等)などの燃料電池技術
の利用について,利用者の視点に立った実証を行う。また,水素利用機器普及黎明期で
の水素供給のビジネスモデルとして,液化水素を供給形態とした水素配給システムとと
もに,既存グリット(ガス,電力)を利用したオンサイト水素製造の実証を行うことと
している。
水素エネルギー社会実証事業のイメージを図ⅩⅦ-1 に示す。本事業では,大阪水素ス
テーションおよび関西空港水素ステーションを拠点として,FCV および FC 電動車い
す・カート,FC アシスト自転車などの小型移動体の運用実証を行う。また,移動式水
素ステーションによる水素巡回配給を行い,2 つの拠点の間に設置するアクセスポイン
トを拠点として,大阪障害者商業能力開発校などにおける FC 電動車いす・カートにお
ける FC 技術福祉事業運用実証に取り組む計画となっている。
事業の推進体制は図ⅩⅦ-2 のとおりである。
−405−
図 XVII-1 大阪における実証事業「水素エネルギー社会実証事業」のイメージ
図 XVII-2 事業推進体制
−406−
2.事業内容
2−1 大阪水素ステーション
(1) ステーション概要
大阪水素ステーションの概観を図ⅩⅦ-3 に,機器構成の概要を図ⅩⅦ-4,表ⅩⅦ-1 に
示す。
本ステーションは,2007 年 8 月 23 日に運用を開始した日本で初めて商業地域に建設
された天然ガス改質形の水素ステーションである。敷地面積は建物も含めて約 1,100m2
である。大阪ガスが開発・製造した 30Nm3/h の水素製造能力を有する天然ガス改質装置
HYSERVE-30,加治テック社製の 4 段式レシプロ圧縮機が設置されており,貯蔵圧力は
40MPa で約 650Nm3 の水素を貯蔵する能力を有している。水素充填能力は,乗用車連
続 4 台分である。水素製造については,都市ガスが中圧 B(0.15MPa)で供給されおり,
その都市ガスを 0.8MPa に圧縮して HYSERVE-30 に送り,水素に改質する。その後,
圧縮機により 40MPa まで圧縮され,蓄ガス器に貯蔵される仕組みとなっている。なお,
本ステーションのディスペンサーには,法規上は不要であるが,吸引式の水素検知器が
設置されているということであった。
図 XVII-3 大阪水素ステーションの外観(左:ガレージ,右:水素供給設備)
図 XVII-4 大阪水素ステーションの機器構成
−407−
表 XVII-1 大阪水素ステーションの概要
原料
水素製造方式
水素製造能力
圧縮設備
地区ガス設備
充填能力
特徴
所在地
都市ガス
水蒸気改質
30Nm3/h(2.7kg/h)
4 段式レシプロ圧縮機
水素貯蔵能力:約 650Nm3,貯蔵圧力:40MPa
35MPa,乗用車連続 4 台充填
・ 水素ステーションの多目的利用を実証
・ 都市ガスインフラを利用した天然ガス改質形水素ステーション
・ 日本で初めて商業地域に設置された定置式水素ステーションに
より,水素エネルギーの認知度を向上
大阪市中央区大手前 3-1-7
(2) ステーション運用
現在,水素は大阪府がリースを受けているトヨタ FCHV および栗本鐵工所が開発した
FC 電動車いす・カートへ供給している。8 月 25 日に開所してから 9 月末までの水素充
填実績は,車両 29 台で 114kg である。今後,トヨタ FCHV1 台が追加される見込みで
あるとのことであった。今後,約 4 年間の運用を通じて,各種データの収集を行う予定
であるという。(図ⅩⅦ-5)
運用に当たっては,常駐者は 1 名で,夜間は営業しておらず,改質装置などはホット
スタンバイ状態で待機させているとのことであった。
図 XVII-5 水素ステーションの運用イメージ
−408−
(3) 実証走行
実証走行としては,大阪府がリースを受けているトヨタ FCHV および栗本鐵工所が開
発した FC 電動車いす・カートによる実証走行が行われている。トヨタ FCHV は大阪府
の公用車として利用されており,FC 電動車いすは大阪水素ステーションから大阪駅を,
FC カートには大阪水素ステーションから大阪城公園を経由する所要時間約 5 時間の周
回コースが設定されており,実証走行が行われている。
2−2 関西空港水素ステーション
(1) ステーションの概要
関西空港水素ステーションの外観等を図ⅩⅦ-6 に示す。関西空港水素ステーションは
2007 年 5 月 7 日に運用が開始された。現在関西空港水素ステーションの敷地面積は約
460m2 で,用途地域は準工業地域である。通常敷地面積が 800∼1000m2 程度であるこ
とを考えると,非常に小さなスペースに建設されている。これは,本水素ステーション
は,蓄圧器とディスペンサーのみからなる簡易型のサテライト水素ステーションで,水
素はハイドロエッジで製造され,岩谷産業と関西電力が共同で開発した液体水素型移動
式水素ステーション(3 章参照)で供給される仕組みとなっているためである。自動車
の台数が少ない初期段階に適した規模の小さなシンプルな設備となっており,現状では
39.5MPa で 297Nm3(107L カードル×7 本)の水素貯蔵能力を有し,乗用車なら 2 台
分の水素を貯蔵している。蓄圧容器が高価なため,需要が少ない現状では液体水素で移
送するのを前提に検討を行った結果,この仕組みを採用したということである。
本ステーションにおいては,配管の取り回しに工夫を施し,流量計などを分離して別
所に設置することにより,ディスペンサーの小型化を図っているのが特長である。また,
ディスペンサーについてもどちら側からでも供給できる構造としていることも特長の一
つであるとのことであった。
なお,現状の本ステーションは,第 2 種製造設備に当たるため,保安距離など届出の
みで建設が可能である。需要が増加した場合に備えて,液体水素タンクや昇圧ポンプ等
を追加設置する敷地を確保しており,拡張することが可能となっている。その際には第
1 種製造設備に該当することになるが,障壁の設置や保安距離の確保などすべて事前に
対応しているとのことであった。
本水素ステーションの建設費用としては,設備だけで 4000 万円程度で,ディスペン
サーや蓄圧器が 3000 万円程度,その他エアーポンプなどが 1000 万円程度であるという
ことであった。
なお,開所から半年程度であるが,すでに塩害によりディスペンサーなどの一部にさ
びが発生している状況であった。
−409−
図 XVII-6 関西空港水素ステーションの外観
(左:全景,右:ディスペンサー(手前)と移動式水素ステーション(後))
(2) ステーション運用
ステーションの運用については,基本的には週 1 回木曜日の営業ということであるが,
予約に応じて他の曜日でも営業することがあるとのことであった。また,車両に水素を
充填するのは基本的に特定の人間としており,運転者がそのまま充填することは,保安
管理上行っていないとのことであった。なお,営業していないときは機械警備としてい
るが,基本的に,徒歩で来ることができる場所ではないので保安上の心配は少ないとい
うことであった。
また,本ステーションは関西空港の見学コースの一つになっており,一回数名程度の
見学者があり,海外からは韓国の都市ガス会社の訪問があったということであった。
(3) 実証走行
車両については,岩谷産業㈱がリースを受けているマツダ RX-8 があり,現状は主に
関西国際空港㈱が連絡用やパトロール用として使用している。滑走路での走行も問題な
く行えるとのことであった。他には大阪府庁がリースを受けているトヨタ FCHV の利用
がある。さらに追加で導入される予定となっているトヨタ FCHV1 台も本水素ステー
ションを利用する計画であるとのことであった。
また,現在,FC アシスト付き自転車の開発が行われており,実証走行時には,同自
転車に採用される水素タンク用に,水素ボンベストッカーを設置する予定となっている。
−410−
2−3 移動式水素ステーション
本移動式水素ステーション(図ⅩⅦ-7)は,岩谷産業と関西電力の共同開発品で,液
体水素貯蔵の水素ステーションをトラクタ 1 台で運ぶ形態である。ハイドロエッジで製
造された液体水素を搭載し,関西空港水素ステーションのようなサテライト水素ステー
ションの蓄圧器への供給だけでなく,自動車への直接供給も可能な仕組みとなっている。
元々岩谷産業と関西電力は,ハイドロエッジの立ち上げなど液体水素の利用技術評価を
共同で行っており,移動式水素ステーションの運用,エネルギー効率等の評価なども共
同で取り組んでいる。
本車両には発電機等も搭載されており,青梅水素ステーションの場合は水素供給には
ユーティリティー車を含め 3 台必要であったが,それを 1 台でできる仕組みとなってい
るとのことであった。ボイルオフガスについては,大型の容器であれば1%/day 程度で
あるが,移動用水素ステーションの液体水素タンクは容器が小さいため 2∼3%/day 程度
であるとのことであった。
なお,移動式水素ステーションの製造費用は車両を含めて約 1 億円である。
図 XVII-7 液体水素型移動式水素ステーション
−411−
−412−
XVIII.FC EXPO 2008 ∼第 5 回 国際 水素・燃料電池展∼
1. 概要
日 時
2008 年 2 月 27 日(水)∼29 日(金)
場 所
東京ビッグサイト 西展示棟
併催企画
FC EXPO 専門技術セミナー
大学・国公立研究所による研究成果発表フォーラム
主 催
共 催
リードエグジビションジャパン株式会社
水素エネルギー協会(HESS)
燃料電池開発情報センター(FCDIC)
FC EXPO 専門技術セミナーのプログラムは以下の通りである。
2/27
9:30-12:10
2/28
13:30-15:30
9:30-12:10
12:30-13:30
14:50-17:30
2/29
9:30-12:30
14:50-17:30
FC-1:燃料電池市場の立ち上がりの契機は何か ∼燃料電池の用途別に
検証する∼
FC-5:固体高分子形燃料電池の要素技術開発の最前線
FC-9:日米欧の水素ステーションの最新状況
基調講演:各国燃料電池政策のトップが語る今後の展望と戦略
FC2:ここまで来た家庭用燃料電池 ∼商用化へ向けた開発と取組状況∼
FC6:次世代自動車技術開発の最前線
FC10:商品化に向けたモバイル機器用燃料電池の最新技術動向
特別講演:燃料電池自動車のための水素貯蔵
FC3:SOFC の実用化を支える要素技術開発
FC7:燃料電池自動車実用化の最前線 ∼水素経済社会へのキーテクノロ
ジー∼
FC11:ポータブル電源としての燃料電池への期待とその開発状況
特別招待講演(経済産業省主催)
FC4:将来へ向けた大規模 SOFC 発電設備の開発動向
FC8:実用化・商品化を目指した燃料電池開発の取組み
FC12:水素貯蔵技術の最新開発動向 ∼水素時代実現を目指して∼
−413−
また,リードエグジビションジャパン株式会社発表による参加者(速報)は以下の通り
である。
2. 展示会会場風景
JHFC ブースには,Daimler F-Cell,ホンダ FCX,トヨタ FCHV(航続距離 500km 超
モデル)の展示が行われていた。その他の車両についてはパネル展示が行われていた。
図 XVIII-1 JHFC ブース(左から Daimler F-Cell,ホンダ FCX,トヨタ FCHV)
英国パビリオン内の Intelligent Energy 社のブースでは,スズキの FC バイク;クロ
スケージ(35MPa 圧縮水素,リチウムイオン電池)と,プジョー車両に搭載予定の自動
車用燃料電池スタック(直接水素,出力 75kW,外気温-20℃∼+37℃)の展示が行われ
ていた。
−414−
図 XVIII-2 英国 Intelligent Energy ブース(スズキクロスゲージ,自動車用 FC スタック)
また,ヤマハブースでは FC Dill(図ⅩⅧ-3)が,岩谷産業ブースでは水素吸蔵合金容
器用急速水素充填装置(図ⅩⅧ-4)が展示されていた。
図 XVIII-3 ヤマハブース FC-Dill
図 XVIII-4 岩谷産業ブース
水素吸蔵合金容器用急速水素充填装置
−415−
3. 発表内容
3−1 基調講演:各国燃料電池政策のトップが語る今後の展望と戦略
(1) 広がる代替エネルギー
∼これからのエネルギーにおける水素の役割∼
発表者:United States Department of Energy(DOE), Energy Efficiency and Renewable
Energy, Chief Operating Officer,
Paul Dickerson
基調講演の最初として,米国 DOE におけるこれからのエネルギー戦略における水素
の役割について EERE の Paul Dickerson 氏から講演があった。講演では,2030 年まで
の全世界の一次エネルギー別エネルギー需要の見通しや,CO2 排出量の見通し,米国に
おける石油の海外依存度などが示され,米国における EERE が実施している水素・燃料
電池に関する取り組みについての紹介が行われた。
その概要は以下のとおりである。
現在,米国における水素・燃料電池に関する取組の政策的裏付けとして,以下のイニ
シアティブがある。
① 水素・燃料電池イニシアティブ(2003 年 1 月)
② 先進エネルギーイニシアティブ(2006 年 2 月)
③ ハワイクリーンエネルギーイニシアティブ(2008 年 1 月)
・ハワイにおけるエネルギー供給量を,再生可能エネルギーの使用やエネルギー効率
の改善によって 2030 までに少なくとも現状の 70%とするための道筋をつける
・ハワイの石油消費量と GHG 排出量を削減する
・前例のないスケールでの再生可能エネルギー利用に関する信頼性の実証 等
これらを受けた EERE のプログラムは,実証試験,応用研究開発,基礎研究を分野に
わたって計画されており,相互に連携させながら進められている。
燃料電池に関する研究開発では,電解質膜,触媒および触媒担体,水輸送,構造解析
などの分野において進められており,第一に自動車用 FC に関する研究開発,第二に定
置用やその他自動車以外の分野における FC の研究開発がターゲットとなっている。
自動車用 FC の分野では,コスト目標を 2010 年までに$45/kW(大量生産時,以下
同様),2015 年までに$30/kW と置いており,2002 年には$275/kW であったものが
現状で$94/kW と,全体の 3/4 程度の道のりまで来ている。また,スタックの耐久性
に関しては,2015 年の 5000 時間の目標に対して,2006 年現在で 2000 時間程度に達し
ている。
FCV の商用化に向けては,クライスラー社が約 100 台 FCV を導入し,GM では 2011
年までに 100 台を商用化し,ホンダは 2008 年にリースを開始,2018 年に商用化を予定
している。また,大手エネルギー会社は,こうした FCV を支えるため,水素ステーショ
−416−
ンの建設を進めていく予定である。
(2) 燃料電池に関する取組の現状と今後の戦略
発表者:経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部
新エネルギー対策課 燃料電池推進室長
遠藤 健太郎
経済産業省の遠藤燃料電池推進室長から,わが国における燃料電池に関する取り組み
の現状と今後の戦略についての講演があった。とくに定置用燃料電池の市場導入に向け
た取り組みと,燃料電池車(FCV)の開発・実証と水素インフラに整備に関する取り組
み状況,ならびにブレークスルーを目指した技術開発とそのための環境整備についての
取り組みについての紹介があった。
その概要は,以下のとおりである。
日本では,世界初の取り組みとして,2008 年度まで 1kW 級家庭用 PEFC システムの
大規模実証事業を継続して実施している。1 台 50 万円の目標に向けて,これまで周辺機
器のコスト削減プロジェクトなどの取り組みを行ってきた。2006 年度末で合計 1,257
サイト,2007 年度末では 2,187 サイトとなり,2008 年にはこれに 1000∼1300 サイト
上乗せすることが計画されている。2009 年度からは商業化フェーズとして,国としてど
のような支援ができるのかを検討しているところである。こうした実証試験によって,
世帯の平均で火力発電電力を用いた場合と比較して1次エネルギー削減率は 14%,CO2
排出量は 27%削減できることが分かった。また,2007 年度からは SOFC に関する実証
研究がスタートしている。
2007 年 5 月に公表された「次世代自動車用燃料イニシアティブ」における,①バッテ
リー,②水素・燃料電池,③クリーンディーゼル,④バイオ燃料,⑤IT の活用という 5
つの戦略の中に,水素・燃料電池は位置づけられている。
また,安部元首相が提唱した「クールアース 50」を目指した新たな技術革新のロード
マップである「Cool Earth-エネルギー革新技術計画」を 2008 年 3 月の公表に向けて作
成中である。この中でも燃料電池車は重点的に取り組むべきエネルギー革新技術として
位置づけられている。
現在 JHFC プロジェクトにおいて FCV の実証試験を実施中であり,今までの取り組
みの中で,FCV の WtW の総合効率を算出し,その結果,FCV は現行車に対して大き
な効率改善のポテンシャルを有することが明らかとなった。
平成 20 年度の燃料電池関連予算のポイントとしては,FC に関する基礎研究プロジェ
クトである FC-Cubic,HYDROGENIUS,HYDROSTAR に関する予算措置が挙げられ
る。規制の見直しに関しては, 2005 年 3 月末までに初期段階での水素・FCV に関する
規制の見直しが終了している。
−417−
(3) ヨーロッパおよびドイツにおける燃料電池開発計画
発表者:NOW National Organization Hydrogen and Fuel Cells Technologies,
Managing Director,
Klaus Bonhoff
欧州やドイツにおける燃料電池開発計画について NOW National Organization
Hydrogen and Fuel Cells Technologies の Klaus Bonhoff 氏より,主に欧州における The
European Joint Technology Initiative(JTI)やドイツにおける the German National
Innovation Programme(NIP)についての講演があった。
その概要は以下のとおりである。
現状における水素・燃料電池の技術水準に関しては,成功裏に実証プロジェクトが進
行しており,いくつかのシステムは商業化間近に至っている。ほとんどのアプリケーショ
ンにおいて,今後コストの削減に向けた研究開発が必要とされている。実証試験では,
技術有効性の検証と商業化に向けた市場の準備が必要とされている。産業界,政府,研
究機関は協力して水素・燃料電池技術の成功に向けて取り組んでいかなければならない。
フランクフルトにおける Zero Regio プロジェクトでは,副生水素を用いた水素ステー
ションを 2006 年から稼働している。35MPa,70MPa の圧縮水素および液体水素を供給
する。ステーションにはイオン液体を用いた新しいタイプのコンプレッサが設置されて
いる。
カーメーカの取り組みとして,まず GM の最新 FCV であるシボレーEquinox は,最
高速度が 160km/h,4.5kg の水素を搭載し,航続距離は 320km である。一方,Daimler
では,2010 年には第二世代の FCV を発表する予定であり,2013 年には第 3+4 世代の
FCV が予定されている。このモデルはコストを削減して市場への初期導入型の FCV と
なる予定である。さらに 2020 年には第 5 世代の FCV を投入する予定であり,これは大
量生産製品となる予定である。
こうした取 り組みをサ ポートする 政府の取り 組みとして ,The European Joint
Technology Initiative(JTI)や the German National Innovation Programme(NIP)
が水素・燃料電池の市場化の準備のために創設された。これらは,資金調達プログラム
である。
現在の JTI は,2005 年から 2008 年までで終了し,新たな JTI プログラムが 2008 年
より開始される。2008-2013 の期間で全予算は 4 億 5 千ユーロである。このプロジェク
トは,① 水素車両・インフラ技術開発,② 持続可能な水素の供給,③ 定置用および発
電用 FC 技術開発,④ 初期市場化のための FC 技術開発,の 4 分野に区分される。
ドイツ政府は,水素・燃料電池の市場化に向けた研究開発に 2007∼2016 年の間に 5
億ユーロを追加的に投入する。この NIP プログラムは,インフラを含む水素利用輸送部
門,家庭用・定置用,産業用コジェネレーション,特殊用途をカバーする。
−418−
3−2 特別講演:燃料電池自動車のための水素貯蔵 ∼課題と開発動向∼
発表者:Los Alamos National Laboratory, Institute for Hydrogen and Fuel Cell Research,
Alternative Energy and Infrastructure, Program Director, William Tumas
省エネ・大容量の車両への水素貯蔵と高耐久・安価な燃料電池の実現が FCV の実用化
拡大の鍵となる。米エネルギー省(DOE)化学的水素貯蔵センターを中心にさまざまな
開発の最新状況についての講演があった。概要は以下のとおりである。
DOE の水素貯蔵プロジェクトの目標値は,重量%だけではなくて,扱いやすさや安全
性,環境性などいろいろな項目に渡っている。このプログラムもの FY09 予算は,$59M
となっており,年々増加している。このプログラムでは,3 つの主要カテゴリーで研究
が進んでいる。
9
Reversible metal hydrides(再生可能な金属ハイドライド)
9
Adsorbent materials(吸着材料)
9
Chemical hydrogen storage(ケミカルハイドライド)
DOE の化学的水素貯蔵センターでは,国内外の研究機関,大学と共に,車載用ケミ
カル水素貯蔵システムについて,材料や触媒,新コンセプトの開発,技術解析を用い
たコンセプトおよびシステム評価,寿命の延長と水素 1kg 貯蔵のデモンストレートと
いったことを行っている。
3−3 FC7:燃料電池自動車実用化の最前線 ∼水素経済社会へのキーテクノロジー∼
(1) Honda における燃料電池自動車開発の取り組み
発表者:(株)本田技術研究所 四輪開発センター 第一技術開発室
第 2 ブロック シニアマネージャー
新村 光一
HONDA における燃料電池車(FCV)開発の取り組みに関する講演として,HONDA
は FC が次世代の究極のパワープラントであるという認識の下で,天然ガスを燃料に家
庭における電力と給湯,FCV への水素供給を行うトリジェネシステムであるホームエネ
ルギーステーション(HES)関する研究開発と,FCV に関する研究開発の取組状況につ
いての発表があった。とくに FCV の開発状況に関する概要は以下のとおりである。
FCV の商品化に向けた課題は,①車両出力密度の改善,②燃費/航続距離の改善,③
コスト削減と④耐久性向上であり,現状ではコスト削減と耐久性の向上に課題は絞られ
てきた。
現在までの取り組みによって,車両出力密度は大幅に改善されてきており,とくに発
−419−
進加速性能は従来ガソリン車を上回っている。しかし,加速性能全てにおいてガソリン
車を凌駕するにはさらなる出力アップと軽量化が必要である。
燃費/航続距離の改善については,車両効率(燃費),車重,水素搭載量のそれぞれ
の改善を図り,航続距離を拡大することができた。
コストの低減については,高価格材料(膜,電極,セパレータ等)の普及材料への転
換と大量生産化,専用部品(タンク,水素供給系・高圧電装等)の簡素化と既存部品へ
の転換,MEA やスタックの生産を連続生産/自動化すること,および歩留まりの向上
を図っていく。
耐久信頼性に関しては,サイクル耐久性,起動停止劣化に取り組む必要がある。さら
に,高温・低温サイクル耐性も重要である。
いずれも車両モード台上置換を図り,開発スピードと向上させることが重要な課題で
ある。電気化学的な反応は,停止時において劣化が促進されるなど,エンジン等の機械
部品の劣化とは全く違う様相を示し,従来の自動車メーカとしての経験が役立たない世
界である。
最新の HONDA の FCV である FCV コンセプトでは,2005 年モデル FCX に比べて
パッケージング(V FLOW FC プラットフォーム)と燃料電池スタックシステムを進化
させている。
HONDA 最新の FC スタックは,シール一体金属プレスセパレータとアロマティック
電解質膜といった新しい材料の採用に加えて,構造の改良を図り性能の向上を図ってい
る。具体的には,縦にガスを流す構造とし,セパレータの溝の深さを 17%削減すること
ができた。さらにガスの流路を波型にして,それにクロスするような横方向の冷却水流
路を採用して性能の向上を図った。その結果,従来比で容積出力密度を 50%,重量出力
密度を 67%向上することができた。
−420−
(2) トヨタの燃料電池自動車開発に向けた挑戦
発表者:トヨタ自動車(株) FC 開発本部 FC 技術部 部長
河合 大洋
トヨタの燃料電池自動車開発に向けた挑戦と題する講演においては,将来の全世界に
おける石油の需給見通し,CO2 排出量の見通しが示され,将来の自動車エネルギー源と
して電気,水素の活用が期待されるというトヨタの考え方が示された。そうした中でト
ヨタは,あらゆる可能性のある技術に取り組み,適時,適所,適車という考え方で市場
にその技術を投入するという。さらに,その中でハイブリッドは全てのパワーとレーン
に適用可能な基盤技術であるという考え方が示された。
以下,トヨタにおける燃料電池車に関する取り組みについての講演概要について以下
に示す。
トヨタ FCHV は,日米限定リース販売は合計 39 台であり,試験車を含めると 62 台
の車両が世界の実路を走行中である。
燃料電池車の重要課題は,スタック耐久性,小型・高性能化,低・高温作動,コスト,
航続距離である。このうち低温対応については,トヨタを含め各社ともマイナス 30 度
∼25 度程度の低温始動走行性能が大幅に向上したと発表している。トヨタでは氷点下発
電セル内部の可視化に取組んでいる。(セル内の水の凍結の瞬間の動画が紹介された)
航続距離に関しては,最新の FCHV において,使用可能水素量を約 1.9 倍(70MPa
高圧タンク採用),燃費効率を約 25%改善し,実用航続距離で 500km,10・15 モード
で 780km,LA#4 モードで 740km を達成した。燃費効率改善には補機損失の低減とブ
レーキ回生量の増大を図った。また FC システムの最大効率は,2005 モデルの 55%か
ら 64%に向上している。
現状の水素タンクの容量は,従来車の 2 倍以上であり,水素タンクシステムの小型・
計量・低コスト化に向け,更なる基礎研究が重要となる。
FC スタックの耐久性は着実に向上しつつあるが,更なる改良を継続する必要がある。
とくに市場の実使用条件における触媒電極劣化の抑制が必要である。FC スタックでは,
電極触媒に係る①貴金属量削減(Pt 量 1/10 以下),②高性能化(高電圧,高出力密度),
③耐久劣化抑制(15 年 20 万 km 以上)のトリレンマの解決が最大の課題である。
FC コストに関しては,設計,材料,生産技術革新で 1/10,量産効果で 1/10 のコスト
削減が必要である。まずは,設計,材料の改良や生産技術革新で 1/10 のコスト低減を目
指していく。
水素インフラに関しては,技術の評価が不足しており,敵地,適時,適技術という選
択ができる状況ではない。国やエネルギーメーカの更なる取り組みに期待している。
トヨタでは,FCHV バスの実証試験も継続的に実施しており,普及初期の水素インフ
ラ整備に FC バスの役割は大きいと考えている。
−421−
燃料電池車普及に向けては,2015 年からが普及初期段階,少量生産時期を経て,2030
年頃には大量生産フェーズになると想定される。これから 2030 年までの取り組みが大
切であり,FCV/インフラメーカ,エネルギーメーカ,政府の協力が今後,ますます重要
となる。
(3) 日産における燃料電池車の開発
発表者:日産自動車(株) 技術開発本部 FCV 開発部 部長
萩原 太郎
日産グリーンプログラム 2010(NG2010)についての紹介のあと,現在の日産におけ
る FCV に関する取り組みについての発表があった。その概要は以下のとおりである。
NG2010 では,大気中の CO2 濃度レベルを安定化させるために,全世界での 2050 年
における新車の CO2 排出量を 2000 年比で 70%削減させることが必要と試算され,日
産における目標としてこれを設定している。そのためには,内燃機関の進化とともに電
動車両の投入,普及と再生可能エネルギーの活用が不可欠である。
最新の日産の FCV モデルは,最高速度 150km で,航続距離は 35MPa で 370km,
70MPa で 500km に達している。この車両は 2007 年 2 月よりハイヤーとして運用を開
始するなどの実証走行や,その他各種のイベントなどに積極的に参加している。
FCV の現状の課題は,耐久信頼性の向上とコストの低減である。日産を含む自動車
メーカが協力し合い,FCCJ の場において FC の耐久性評価のための標準的な劣化モー
ドを作成した。是非活用して欲しい。
例えば,起動停止劣化抑制に向けては,高電位下でも腐食しにくい触媒担体材料の開
発と,運転パターンの操作による高電位の抑制という対応で検討を行っている。負荷サ
イクル劣化の抑制に向けては,膜・触媒材料の高耐久化といった方針で検討を行ってい
る。
今後の展望としては,耐久性を含めた技術的課題については,2010 年頃までに目処を
立て,コストについては 2015 年までにどこまで下げられるかがポイントになると考え
ている。
最近の研究開発環境として,FC-Cubic のような公的な基礎研究機関が設立されたこ
とや FCCJ において,自動車メーカ間でも比較的オープンに議論ができるようになって
きたこと,さらに NEDO プロジェクトにおけるテーマの選定などに対して意見が言え
るような環境になってきたことなど,研究開発がやりやすい環境になってきていること
は研究者として喜ばしいことであり,関係者の皆様に感謝している。
−422−
3−4 特別招待講演
(1) 自動車用燃料電池基盤技術の研究開発
発表者:日産自動車(株) 総合研究所 燃料電池研究所 主管研究員 篠原 和彦
低コスト,高性能,高耐久を実現するには,燃料電池内部で起こる現象を理解するた
めの解析技術についても開発の必要性が高い。これに必要となる基盤技術の現状と課題
についての紹介があった。その概要は以下のとおりである。
FCV の開発は着実に向上してきている。NEDO の燃料電池技術開発ロードマップに
沿って FCV を発展させていくためには,機能・性能用件を満たす FC スタックの研究開
発,FCV 導入に向けた低コスト化の技術開発,評価手法開発が必要である。
小型高出力化のための課題としては,高温・低加湿での運転が課題となる。
また,耐久性に関しては,自動車運転モードにおける膜や触媒の劣化原因として,起
動停止によるものが大きい事が分かっている。劣化のメカニズムに対する検証は進んで
きており,色々な対応策が検討可能となってきている。今後はシステムに負担をかけな
い材料の開発が必要である。
低コスト化への課題だが,FC スタックコストの最も大きな構成因子はプラチナであ
る。プラチナの使用量は大幅に低減されてきているが,価格の上昇がこれを上回ってい
る。プラチナ,合金及び新規触媒表面での吸着現象と酸素還元反応を理解した新たな触
媒創造に繋げていくことが望まれている。
今後,低コスト化や実用性の確保に向け,現象の理解がますます重要となるだろう。
そして,そのための解析技術の向上が重要になる。
(2) PEFC 用フッ素系高分子電解質を用いた膜・電極接合体の開発最前線
発表者:旭硝子(株) 新事業推進センター 統括主幹 中川 秀樹
フッ素系高分子電解質膜の劣化機構を中心に動作条件による MEA の発電特性や電極
耐久性についての説明と,最新 MEA の耐久特性についての紹介があった。
電解質膜への要求特性として様々あるが,まずは科学的・電気化学定期安定性が求め
られる。パーフルオロ系膜は,他の膜(炭化水素系や部分フッ素系)に比べて化学的に
安定であるが,低加湿運転では劣化が起こる。
新たな劣化加速評価法(過酸化水素ガス曝露法)による結果を解析したところ,今ま
で考えられていた不安点末端からの Unzipping Reactions だけではなく,ある条件によ
り主鎖が切断され,その末端が更に不安定になって Unzipping Reactions を引き起こす
という,2 つのモードで劣化が進行していたということがわかった。また,電極・触媒
−423−
の劣化については,触媒から溶出したプラチナと膜の劣化には相関がないと推定できる
ような結果が得られた。
最新の MEA では,かなりの耐久性が得られてきたが,実用化に向けて,高温かつ低
加湿・無加湿でも高性能な MEA の開発,高ロバスト性および高信頼性 MEA の開発,
低コスト化量産技術の確立,ポリマーおよび膜リサイクル技術の確立が今後の課題であ
る。
(3) PEFC における水移動の解析
発表者:University of Texas at Austin, Mechanical Engineering,
Assistant Professor,
Jeremy P. Meyers
本講演では,PEFC における水の状態に関する解析と飽和状態や部分的含水状態など
触媒中の水挙動に関する総合的なレベルを決定づける移動メカニズムについての紹介と,
触媒層およびガス拡散層の設計についての講演があった。
FC 性能を解析するツールとして,モデル化がとても有効であり,その技術は進んで
きている。PEFC における水の状態に関する解析と飽和状態や部分的含水状態など,触
媒中の水の挙動に関する移動メカニズムもモデルによって説明ができるようになってき
ている。
3−5 PEFC 解析技術の最前線
(独)産業技術総合研究所 固体高分子形燃料電池先端基盤研究センター
研究センター長
長谷川 弘
PEFC に関する評価・解析技術の最新動向をレビューと, FC-Cubic の研究成果,た
とえば電解質ポリマーの高次構造の解析技術,電極触媒反応の分光学的追跡技術などに
関する紹介があった。
FC-Cubic は FC に関して,サイエンスの基本に戻った研究開発を行っている。主な業
務は経済産業省からの委託事業「燃料電池先端科学研究委託事業」であり,実施期間は
2005 年 4 月 1 日から 2010 年 3 月末までであり,産業界や大学と密接な連携を展開して
いる。
電解質膜については,膜中の水がどういった状態にあるのか,電解質はどのような高
次構造になっていて,プロトンやガスはその構造のどこを透過するのかといった疑問を,
新たな解析技術を開発して解き明かそうとしている。プロトンパスとガスの透過パスは
別々に制御可能であるという結果が得られたのが,最近の大きな結果である。
また,電極触媒に関しても,分光学的追跡技術などを用いて解析を行っている。
−424−
Fly UP