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放射性有害廃棄物のリサイクル及び安定固化 に関する技術開発

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放射性有害廃棄物のリサイクル及び安定固化 に関する技術開発
革新的実用原子力技術開発費補助事業
平成16年度成果報告書概要版
Innovative and Viable Nuclear Energy Technology (IVNET)
Development Project
放射性有害廃棄物のリサイクル及び安定固化
に関する技術開発
平成17年5月
石川島播磨重工業株式会社
国立大学法人東北大学
核燃料サイクル開発機構
本報告書は、石川島播磨重工業株式会社、国立大学法人東北大学、
核燃料サイクル開発機構が連携して経済産業省からの補助金を受け
て実施した技術開発の成果報告書であり、限られた関係者にのみ配
布するものです。
この資料の供覧、複製、転写、引用等については、石川島播磨重
工業株式会社にお問合せください。
放射性有害廃棄物のリサイクル及び安定固化に関する技術開発
(平成 16 年度)
Development of recycle and solidification technology for radioactive and hazardous wastes
石川島播磨重工業株式会社
荒井和浩、牧田隆、鬼木俊郎
東北大学
杤山
修、佐藤修彰、小澤孝彦、大西貴士
三村
均、池田真吾
核燃料サイクル開発機構
武田誠一郎、宮本泰明、佐々木紀樹
要旨
「 放 射 性 有 害 廃 棄 物 の リ サ イ ク ル 及 び 安 定 固 化 に 関 す る 技 術 開 発 」 の 研 究 を 平 成 16 年
度 よ り 開 始 し た 。 本 報 告 で は 平 成 16 年 度 に 得 た 成 果 に つ い て 報 告 す る 。
キーワード:有害廃棄物、鉛、リサイクル、除染、固化
1. 目 的
放射性廃棄物においては、公衆被曝の問題に力点が置かれてきたことから、化学毒性に
ついて議論されることは少なかった。しかし、化学的毒性は放射能と異なり永久に無くな
る こ と が な い た め 、長 期 的 に は 放 射 線 に よ る 毒 性 よ り も 化 学 的 毒 性 の 方 が 重 要 に な る 。本 技
術 開 発 に て 着 目 し た 鉛 は 、原 子 力 分 野 で 板 状 や 布 状 の 遮 蔽 材 や 鉛 入 り グ ロ ー ブ 等 と し て 多
用 さ れ て お り 、今 後 、施 設 老 朽 に 伴 う 解 体 や 廃 棄 物 の 処 分 方 策 の 検 討 が 進 む に つ れ て 、鉛 を
中心とした有害廃棄物の処理処分方策が必要である。一般産業廃棄物では、この鉛の溶出
対 策 と し て 多 く の 場 合 、硫 黄 を 含 む キ レ ー ト 剤 を 用 い て 硫 化 物 と し て 安 定 化 す る こ と が 行
わ れ て い る が 、こ の 方 法 は 、土 壌 汚 染 で 想 定 さ れ る よ う な 数 百 ∼ 数 千 ppm 程 度 の 汚 染 に 対 し
ては有効であっても原子力で想定されるような金属や高濃度に鉛が含まれる廃棄物には適
用できない。さらに、鉛は両性金属としての性質もあり、低レベル放射性廃棄物の処分で
想 定 さ れ る よ う な セ メ ン ト 固 化 体 に し た 場 合 、溶 出 量 が 増 え る こ と が 明 ら か に な っ て い る 。
以 上 の こ と か ら 、本 開 発 は 、鉛 系 廃 棄 物 の 除 染 技 術 な ら び に 安 定 固 化 技 術 の 開 発 を 行 う こ と
により、鉛のリサイクル及び高濃度の鉛廃棄物発生量の低減及び安定化を実現し、環境負
荷の低減に寄与することを目的とする。
2. 技 術 開 発 成 果
本 FS の 主 な 実 施 項 目 は 、 金 属 鉛 の 溶 融 除 染 技 術 を 用 い た 高 度 な 放 射 性 元 素 の 除 染 技 術
の開発、溶融除染後のスラグならびに焼却灰等の鉛汚染廃棄物を想定した酸化鉛の安定固
化技術の開発である。
i
(1)高 度 除 染 技 術 の 開 発
ス ラ グ 剤 と し て メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ ム 、三 酸 化 二 ホ ウ 素 お よ び メ タ ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ
ム を 用 い て 試 験 を 行 っ た 結 果 、メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ ム な ら び に メ タ ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ ム
を 用 い て 溶 融 除 染 す る こ と に よ っ て 、 Co-60 お よ び Cs-137 に 対 し 、 1 回 の 溶 融 除 染
処 理 で ク リ ア ラ ン ス レ ベ ル ま で 除 染 で き 、80wt%以 上 の 金 属 鉛 を 回 収 で き る こ と を 確
認した。
(2)高 度 安 定 固 化 技 術 の 開 発
酸 化 鉛 を 用 い て 、鉱 物 固 化 、セ ラ ミ ッ ク ス 固 化 お よ び 溶 融 固 化 の 3 通 り の 固 化 技 術
の 性 能 の 確 認 を 行 っ た 。 鉱 物 固 化 で は 、酸 化 鉛 が 鉱 物 化 し て い る こ と が X 線 回 折 の 結
果 か ら 明 ら か に な っ た が 、浸 出 率 が 高 く 、鉛 の 安 定 固 化 と し て は 適 当 で な い こ と が 分
か っ た 。 セ ラ ミ ッ ク ス 固 化 は 、リ ン 酸 水 素 マ グ ネ シ ウ ム お よ び リ ン 酸 カ リ ウ ム マ グ ネ
シ ウ ム 固 化 体 が 目 標 の 0.3mg/l を 下 回 る た め 、有 望 な 固 化 体 に な り 得 る 可 能 性 が あ る
こ と が 分 か っ た 。 溶 融 固 化 体 は 、 三 酸 化 二 ホ ウ 素 を 添 加 剤 と し た 場 合 、溶 融 物 は ガ ラ
ス 質 と な っ た が 、廃 棄 物 の 性 状 に よ っ て は 鉛 の 浸 出 率 が 下 が ら な い 場 合 が あ る こ と が
分 か っ た 。 一 方 、 リ ン 酸 二 水 素 ナ ト リ ウ ム を 添 加 剤 と し た 場 合 、リ ン 酸 鉛 系 の 結 晶 等
が 含 ま れ る 溶 融 固 化 体 と な っ た が 、鉛 の 浸 出 率 は 全 体 的 に 低 く な り 、安 定 固 化 体 の 候
補になる可能性があることを確認した。
ii
Development of recycle and solidification technology for radioactive
and hazardous wastes
Ishikawajima-Harima Heavy Industries Co., Ltd.
Kazuhiro Arai, Takashi Makita,
Toshiro Oniki
Tohoku University
Osamu Tochiyama, Nobuaki Sato, Takahiko Ozawa,
Takashi Ohnishi, Hitoshi Mimura, Shingo Ikeda
Japan Nuclear Cycle Development Institute
Seiichiro Takeda, Yasuaki Miyamoto,
Toshiki Sasaki
Keywords : Toxic Waste, Lead, Recycle, Decontamination, Solidification
Purpose
Toxicity of radioactive wastes have not been discussed because radioactive wastes
hazardous have been considered only for exposing to radiation. Although, radioactivity
decrease by radioactive nuclide life time, but toxicity of heavy metals do not decreased
forever. Accordingly, it is more important toxicity of radiation than chemical toxicity of
heavy metals.
This study aim at lead that is very familiar under nuclear industries, is used shield
block. Radioactive wastes that include lead will be generated by pull down radioactive
material treatment facility and nuclear power plants. It is very important to study
decontamination and stabilization technology for radioactive wastes that include lead.
In industrial wastes that are not radioactive wastes, lead contaminated wastes are
taken measure. Typical measure is pretreatment that use chelating agent included
sulfur, however, this type agents are only effective with reducing lead effluent from
low lead concentrated wastes such as lead contaminated soil. It is necessary for the
lead contaminated wastes from nuclear industries to develop new decontamination and
solidification technology.
Results
1. Decontamination
Melt refining decontamination technology was experimented by using sodium
metasilicate, diboron trioxide and sodium metaborate as slag. Radioactive tracer
spiked lead metal was decontaminated and reduce to clearance level at one melt
refining treatment with sodium metasilicate or sodium metaborate as slag, and 80
iii
weight percent lead was recovered.
2. Solidification
Three solidification technology mineralization, ceramics and vitrification were
experimented. Mineralization was not suitable for lead contaminated waste
solidification because effluent of lead from mineralizated lead contaminated wastes
were high.
Magnesium
phosphate
ceramics
such
as
magnesium
hydrogen
phosphate,
magnesium potassium phosphate were achieved effluent ratio (0.3mg/l). Phosphate
ceramics have possibility solidification material for lead contaminated wastes.
Vitrification was examined on the condition diboron trioxide or sodium dihydrogen
phosphate were added to surrogate wastes. Diboron trioxide addition case, all test
samples changed to glass material, but effluent rate were not reduce under 0.3mg/l.
On the other hand, sodium dihydrogen phosphate addition case, all samples have
ceramic material , but effluent rate of most of samples were reduce under 0.3mg/l.
iv
目次
1.は じ め に ······························································································
1
1.1
背 景 ·······························································································
1
1.2
目 的 ·······························································································
1
1.3
開 発 目 標 ··························································································
1
技 術 開 発 計 画 ······················································································
1
技 術 開 発 計 画 ····················································································
1
2.1.1
高 度 除 染 技 術 の 開 発 ·········································································
1
2.1.2
高 度 安 定 固 化 技 術 の 開 発 ···································································
2
2.2
技 術 開 発 実 施 体 制 ··············································································
2
2.3
開 発 期 間 ··························································································
2
成 果 の 概 要 ························································································
3
3.1
実 施 計 画 と 進 捗 状 況 ···········································································
3
3.2
技 術 成 果 ··························································································
3
3.3
外 部 発 表 ··························································································
4
3.4
特 許 ·······························································································
4
実 施 内 容 及 び 成 果 ················································································
5
高 度 除 染 技 術 の 開 発 ···········································································
5
4.1.1
溶 融 除 染 条 件 の 検 討 ·········································································
5
4.1.2
RI ト レ ー サ 試 験 ··············································································
8
4.1.3
ま と め ·························································································
14
高 度 安 定 固 化 技 術 の 開 発 ·····································································
15
4.2.1
固 化 技 術 の 調 査 ··············································································
15
4.2.2
高 度 安 定 固 化 試 験 ···········································································
16
4.2.3
ま と め ·························································································
24
ま と め ·····························································································
27
5.1
今 後 の 計 画 ······················································································
27
5.2
得 ら れ た 成 果 に 対 す る 自 己 評 価 ····························································
28
参 考 文 献 ································································································
29
2.
2.1
3.
4.
4.1
4.2
5.
v
1.
はじめに
1.1
背景
放射性廃棄物のうち有害物質(鉛、水銀、カドミウム、砒素、六価クロム
等)を含
む廃棄物(以下、放射性有害廃棄物と言う)の毒性は、放射線による被曝と有害物質の
毒性の双方を考慮する必要がある。
従 来 、放 射 性 廃 棄 物 に お い て は 、公 衆 被 曝 の 問 題 に 力 点 が 置 か れ て き た こ と か ら 、化 学
毒性について議論されることは少なかった。しかし、鉛は遮蔽材等、原子力産業にとっ
て 重 要 な 役 割 を 担 っ て お り 、今 後 の 鉛 を 含 む 放 射 性 廃 棄 物 の 発 生 を 考 慮 す る と 、ク リ ア ラ
ンスレベルの制定を念頭にした鉛の高度な除染技術の開発ならびに鉛で汚染された放射
性 廃 棄 物 の 安 定 固 化 技 術 の 開 発 を 行 い 、鉛 の 処 理 処 分 方 策 を 提 示 す る こ と は 、原 子 力 産 業
全体の発展にとって重要であると考える。
1.2
目的
本技術開発は、金属鉛の溶融除染技術ならびに酸化鉛の鉱物固化、セラミックス固化
および溶融固化による安定固化技術の開発を行い、放射能汚染された鉛のリサイクル及
び鉛含有廃棄物の安定固化技術の方向性を示すことを目的とする。
1.3
開発目標
(1)高 度 除 染 技 術 の 開 発
γ線核種に汚染された金属鉛をクリアランスレベルまで除染できる溶融除染の
処理条件を明らかにすることを目標とする。
(2)高 度 安 定 固 化 技 術 の 開 発
焼却灰などに含まれる鉛の代表的な化学形である酸化鉛について、高含有率で安
定固化できる固化方法及び固化条件を明らかにすることを目標とする。
2.
技術開発計画
2.1
技術開発計画
技 術 開 発 ス ケ ジ ュ ー ル を 表 2.1-1 に 示 す 。 ま た 、 各 開 発 内 容 を 下 記 に 示 す 。
2.1.1
高度除染技術の開発
(1)溶 融 除 染 条 件 の 検 討
溶 融 除 染 は 、ス ラ グ 剤 組 成 、 溶 融 温 度 、 処 理 時 間 が 試 験 パ ラ メ ー タ と な る た め 、 こ
れらの試験パラメータを検討するための予備試験をコールド試験で実施する。
(2)RI ト レ ー サ 試 験
RI ト レ ー サ と し て 、 代 表 的 な 汚 染 核 種 で あ る Co-60、 Cs-137 を 用 い て 試 験 を 実 施
1
する。溶融温度、スラグ剤組成、優先酸化処理の有無などの試験パラメータは、上記
の溶融除染条件の検討結果に基づき設定する。
2.1.2
高度安定固化技術の開発
(1)固 化 技 術 の 調 査
鉛含有廃棄物の固化技術の開発事例を調査し、安定固化試験に反映する。
(2)安 定 固 化 試 験
固化技術の調査結果ならびに高度除染技術の試験結果に基づいて、固化組成を検討、
作製、浸出試験を行い、各固化体の鉛の溶出量を評価し、鉛の安定固化方法として有
望な固化体組成を求める。
表 2.1-1
開発項目
技術開発スケジュール
12 月
1月
2月
3月
4月
5月
1.高 度 除 染 技 術 の 開 発
(1)溶 融 除 染 条 件 の 検 討
①スラグ剤組成の検討
②溶融予備試験
③鉛の酸化速度評価
(2)RI ト レ ー サ 試 験
①除染効果の評価
②金属鉛回収率の評価
2.高 度 安 定 固 化 技 術 の 開 発
(1)固 化 技 術 の 調 査
(2)安 定 固 化 試 験
①固化体作製方法の検討
②鉛浸出率の評価
2.2
技術開発実施体制
本 技 術 開 発 は 、廃 棄 物 の 処 理 及 び 固 化 技 術 の 実 績 が あ る 石 川 島 播 磨 重 工 業 株 式 会 社 、国
立大学法人東北大学及び核燃料サイクル開発機構が連携して実施した。
2.3
開発期間
平 成 16 年 12 月 10 日 ∼ 平 成 17 年 5 月 31 日
2
3.
成果の概要
3.1
実施計画と進捗状況
表 2.1-1 の 技 術 開 発 ス ケ ジ ュ ー ル に 示 す 実 施 計 画 内 容 は 、全 て 予 定 通 り 終 了 し た 。
3.2
技術成果
(1)高 度 除 染 技 術 の 開 発
①二酸化ケイ素は融点が高く、酸化鉛の割合が多くならないと融点が下がらないた
め、鉛ガラスのスラグ相が形成されにくい
② メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ ム は 750℃ の 溶 融 温 度 で も ス ラ グ 相 を 形 成 し 、 酸 化 鉛 の 含 有
量が多くなると金属鉛相との分離性も向上する
③三酸化二ホウ素およびホウ酸ナトリウム塩は融点が低く、ガラス質のスラグ相を
形成し、酸化鉛の含有量が多くなると金属相との分離性が向上する。また、この
スラグ相は希硝酸で容易に溶解することができる
④優先酸化処理時間と鉛の酸化量は、正比例関係になる
⑤金属鉛の回収率は、三酸化二ホウ素、メタホウ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリ
ウムの順に多く、融点が低いスラグ剤ほど金属鉛の回収率が大きくなる
⑥ 優 先 酸 化 処 理 に よ り 除 染 性 能 が 向 上 し な い 理 由 と し て 、 Co-60 及 び Cs-137 の RI
トレーサが添加時で酸化物または塩の状態であったことや大量に存在する鉛が優
先的に酸化されてたことが考えられる
⑦ メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ ム と メ タ ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ ム は 、 1 回 の 溶 融 除 染 に よ り Co-60
と Cs-137 の 双 方 で ク リ ア ラ ン ス レ ベ ル を 達 成 し た
⑧三酸化二ホウ素は、他のスラグ剤に比べて除染効果が低く、金属鉛中に残存した
Co-60 は 三 酸 化 二 ホ ウ 素 が 関 与 す る 形 で 存 在 し て い た こ と が 明 ら か に な っ た
(2)高 度 安 定 固 化 技 術 の 開 発
a.鉱 物 固 化
① 酸 化 鉛 と A 型 ゼ オ ラ イ ト の 鉱 物 固 化 体 は 、800℃ 以 上 の 熱 処 理 で 酸 化 鉛 が ガ ラ ス な
どの非結晶質に変化する
② 酸 化 鉛 と フ ラ イ ア ッ シ ュ の 鉱 物 固 化 体 は 、1000℃ 以 上 の 熱 処 理 で 鉛 ア ル ミ ノ ケ イ
酸塩が生成する
③ 高 温 で 処 理 す る ほ ど 浸 出 率 が 小 さ く な る が 、 1000℃ の 高 温 処 理 で も 目 標 と す る 管
理 型 産 廃 処 分 場 の 鉛 の 浸 出 率 基 準 値 で あ る 0.3mg/l を 下 回 る 可 能 性 は 少 な く 、鉱 物
固化による酸化鉛の安定固化は困難である
b.セ ラ ミ ッ ク ス 固 化
① リ ン 酸 水 素 ジ ル コ ニ ウ ム 固 化 体 以 外 の セ ラ ミ ッ ク ス 固 化 体 は 、浸 出 液 に 関 係 無 く 、
3
ほ ぼ 目 標 の 0.3mg/l 以 下 を 下 ま わ っ た
②フライアッシュと酸化鉛の混合物をリン酸水素マグネシウムで固化したセラミッ
ク ス 固 化 体 で は 、リ ン 酸 水 素 マ グ ネ シ ウ ム の ピ ー ク は 確 認 さ れ な か っ た
③酸化鉛をリン酸カリウムマグネシウムで固化したセラミックス固化体では、リン
酸カリウムマグネシウム、酸化鉛の他、リン酸鉛やリン酸カリウム鉛のX線回折
ピークが確認された
④酸化鉛をリン酸水素マグネシウムで固化したセラミックス固化体では、リン酸水
素鉛、酸化鉛、リン酸水素カリウムのX線回折ピークが確認された
⑤酸化鉛をリン酸水素ジルコニウムで固化したセラミックス固化体では、X線回折
ピ ー ク と し て 、リ ン 酸 水 素 鉛 と リ ン 酸 水 素 ジ ル コ ニ ウ ム が 確 認 さ れ 、酸 化 鉛 の ピ ー
クは確認されなかった
c.溶 融 固 化
① 純 水 を 浸 出 液 と し て 用 い た 場 合 、一 部 を 除 き 、鉛 の 浸 出 率 が 目 標 の 0.3mg/l 以 下 を
下まわった
②添加剤に三酸化二ホウ素を用いた溶融固化体は、全ての固化体でX線回折ピーク
が確認されず、ガラス質になっていることが分かった
③A型ゼオライトをベースとした溶融固化体は、A型ゼオライトの配合を少なく、
リン酸二水素ナトリウムを多くした場合、リン酸ナトリウム鉛のピークのみが観
察され、A型ゼオライトの配合を増やし、リン酸二水素二ナトリウムの配合を減
らした場合、溶融混合しなかったA型ゼオライトの熱変質物であるネフェリンの
のピークが観察された
④フライアッシュをベースとした溶融固化体では、同定不能な多くのX線回折ピー
クが確認された
3.3
外部発表
下記の 2 件の発表登録した。
① 日 本 原 子 力 学 会 2005 年 秋 の 大 会 「 放 射 性 有 害 廃 棄 物 の リ サ イ ク ル 及 び 安 定 固 化
に 関 す る 技 術 開 発 (Ⅰ )− ス ラ グ 剤 を 用 い る 鉛 の 溶 融 除 染 に 関 す る 研 究 − 」
② 日 本 原 子 力 学 会 2005 年 秋 の 大 会 「 放 射 性 有 害 廃 棄 物 の リ サ イ ク ル 及 び 安 定 固 化
に 関 す る 技 術 開 発 (Ⅱ )− 酸 化 鉛 の 安 定 固 化 技 術 の 開 発 − 」
3.4
特許
特に無し
4
4.
実施内容及び成果
4.1
高度除染技術の開発
4.1.1
溶融除染条件の検討
溶融除染の除染効率には、スラグ組成、溶融温度、酸化還元条件およびスラグへの酸
化鉛の溶解性が影響する。また、運転性では、スラグ相と金属鉛相の分離性などが影響
することから、酸化鉛と親和性のあると考えられるスラグ剤について、溶融予備試験を
行い、溶融除染条件と溶融除染後の金属鉛相とスラグ相の状態および分離性からスラグ
剤と溶融除染条件を選定した。
(1)ス ラ グ 剤 の 検 討
スラグ剤は、下記に示す性質を有する物を選択し、溶融予備試験に供した。
① 鉛 が 酸 化 さ れ た 際 に 生 じ る 酸 化 鉛 (PbO)と 親 和 性 が あ る ス ラ グ 剤
② 代 表 的 な 放 射 能 汚 染 核 種 で あ る コ バ ル ト (Co)-60 は 、鉛 と 合 金 を 作 る た め 、コ バ ル
トを鉛から酸化物生成自由エネルギーの差を利用して選択的に除去できる可能性
がある酸化性のスラグ剤
a.水 酸 化 ナ ト リ ウ ム (NaOH)− 硝 酸 ナ ト リ ウ ム (NaNO 3 )の 混 合 塩
一 般 産 業 で 実 用 化 さ れ 、 金 属 鉛 か ら 砒 素 (As)や ア ン チ モ ン (Sb)な ど を 酸 化 し て 除
去 す る Harris 法 で 用 い ら れ る 溶 融 塩 。 硝 酸 ナ ト リ ウ ム の 酸 化 力 に よ る コ バ ル ト の
優先酸化が期待できるため選定した。
b.二 酸 化 ケ イ 素 ( SiO 2 )
鉛 は 鉛 ガ ラ ス を 作 る こ と が 知 ら れ て お り 、酸 化 鉛 と 反 応 し 、 SiO 2 が 30wt%ま で の
含 有 率 で 1000℃ 以 下 の 低 融 点 の 鉛 ガ ラ ス ( PbO-SiO 2 ) を 形 成 す る 。
c.メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ ム ( Na 2 SiO 3 )
二 酸 化 ケ イ 素 と 同 様 に 鉛 ガ ラ ス ( NaO-PbO-SiO 2 ) を 形 成 す る こ と が 期 待 で き 、
PbO-SiO 2 と 同 様 な 低 融 点 の ガ ラ ス を 形 成 す る こ と が 予 測 さ れ る た め 選 定 し た 。
d.三 酸 化 ニ ホ ウ 素 ( B 2 O 3 )
三 酸 化 二 ホ ウ 素 は 、融 点 が 577℃ と 低 く 、酸 化 鉛 と 反 応 し て 800℃ 以 下 の 低 融 点 化
合物を形成する。また、酸化コバルト及び酸化セシウムとも化合物を形成すること
が知られており選定した。
e.ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ ム 塩 ( NaOH― B 2 O 3 )
ホウ酸ナトリウム塩は、ホウ素を含むアルカリ塩であり、様々な元素との化合物
5
形 成 能 力 は 三 酸 化 ニ ホ ウ 素 と 同 様 で あ る こ と が 推 測 さ れ る 。融 点 は 、 三 酸 化 二 ホ ウ
素 よ り も 高 く な る が 、水 に 溶 け 易 い な ど 溶 融 後 の ス ラ グ 除 去 も 容 易 に で き る こ と が
期待でき選定した。
(2)優 先 酸 化 処 理
鉛 は 、 非 常 に 酸 化 さ れ に く い 金 属 で あ る 。 主 な 汚 染 放 射 性 核 種 と 考 え ら れ る Co-60
や Cs-137 も 含 め 、 多 く の 元 素 が 鉛 よ り も 酸 化 さ れ 易 い た め 、 鉛 の 一 部 も 含 め て 酸 化
処理することにより、鉛よりも酸化され易い元素群を優先的に酸化できると考えられ
る 。こ の よ う な 優 先 酸 化 処 理 技 術 は 、一 般 の 鉛 製 錬 に お い て も Zn,Fe,Sn,As,Sb
などの不純物除去に用いられており
2) 、 放 射 性 廃 棄 物 の 分 野 で も ウ ラ ン 系 低 レ ベ ル 廃
棄物の溶融除染技術として研究されている
3) 。 こ の 優 先 酸 化 処 理 に よ っ て 、 汚 染 核 種
(元 素 )を 効 率 よ く 分 離 、 ス ラ グ 相 に 移 行 す る こ と が で き れ ば 、 多 く の 金 属 鉛 を 回 収 し
ながら高度な除染ができると考えられるため、優先酸化処理の効果の有無を確認した。
(3)溶 融 予 備 試 験
RI ト レ ー サ 試 験 の 試 験 条 件( ス ラ グ 剤 、溶 融 温 度 、処 理 時 間 )を 決 定 す る た め 、溶
融予備試験を実施し、試験条件の検討を行った。
a.試 験 パ ラ メ ー タ
溶融温度、スラグ剤組成および溶融時の空気の吹き込みによる優先酸化処理の有
無を試験パラメータとした。
b.試 験 方 法
高 純 度 ア ル ミ ナ ル ツ ボ に 金 属 鉛 50g、ス ラ グ 形 成 剤 5g を 添 加 し 、電 気 炉 に て 所 定
の温度で所定の時間溶融処理を行った。また、優先酸化処理を行う場合は、空気を
用 い て 金 属 鉛 相 を バ ブ リ ン グ し た 。 試 験 終 了 後 、ス ラ グ 相 お よ び 金 属 鉛 相 の 状 態 お
よび相分離性の観察、金属鉛の重量を測定した。
c.試 験 結 果
ス ラ グ 剤 無 し の 条 件 で は 、 溶 融 温 度 400℃ の 条 件 で 、 ほ と ん ど 酸 化 さ れ な い こ と
が 分 か っ た 。750℃ の 条 件 で は 、表 面 の 酸 化 は 進 む が 、酸 化 鉛 相 が 溶 融 し て い な い た
め か 、金 属 鉛 相 と の 相 分 離 性 は 良 く な い 。酸 化 鉛 の 融 点( 886℃ )以 上 と な る 1000℃
の 溶 融 処 理 で は 、他 の 条 件 に 比 べ て 酸 化 鉛 と 金 属 鉛 の 分 離 性 は 良 く な る が 、 鉛 お よ
び酸化鉛の蒸気圧も高くなるためかアルミナルツボ内面での酸化鉛の付着が多く
見 ら れ 、ス ラ グ 剤 に よ る 鉛 お よ び 酸 化 鉛 の 揮 発 を 抑 制 す る 必 要 で あ る こ と が 分 か っ
6
た。
水酸化ナトリウム−硝酸ナトリウムの混合塩を用いた試験では、硝酸ナトリウム
の 混 合 割 合 を 変 え る こ と で 、 ス ラ グ の 酸 化 力 を 変 化 さ せ た 試 験 を 実 施 し た 。試 験 の
結 果 、水 酸 化 ナ ト リ ウ ム の み を ス ラ グ 剤 と し て 使 用 し た 場 合 、同 一 溶 融 温 度 で ス ラ
グ 剤 無 し の 結 果 と 異 な り 、金 属 鉛 相 の 表 面 は 滑 ら か と な っ て い た 。硝 酸 ナ ト リ ウ ム
を 加 え た ス ラ グ 剤 で は 、そ の 割 合 が 10wt%と 少 な く て も 金 属 鉛 の 酸 化 が 急 激 に 進 み 、
そ の 酸 化 量 は 空 気 に よ る 酸 化 に 比 べ て も 非 常 に 大 き く な っ て い た 。金 属 鉛 相 と の 相
分 離 性 も 悪 く 、そ の 状 態 か ら ス ラ グ が 溶 融 状 態 に な っ て い な か っ た こ と が 推 察 さ れ
た。
二 酸 化 ケ イ 素 を ス ラ グ 剤 と し て 用 い た 試 験 は 、溶 融 温 度 750℃ と 1000℃ の 2 条 件
に つ い て 実 施 し た 。本 試 験 の 結 果 か ら 、 期 待 し た 鉛 ガ ラ ス が ほ と ん ど 形 成 さ れ て い
な い こ と が 分 か っ た 。こ の 原 因 と し て 、二 酸 化 ケ イ 素 の 融 点 が 1723℃ と 高 く 、酸 化
鉛 の 割 合 が 多 く な ら な い と 融 点 が 下 が ら な い た め 、空 気 に よ る 鉛 の 酸 化 量 で は 十 分
な低融点の鉛ガラスのスラグ相が形成されなかったものと考えられる。
メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ ム を ス ラ グ 剤 と し て 用 い た 試 験 で は 、750℃ の 溶 融 温 度 で も ス
ラ グ 相 を 形 成 す る こ と が 確 認 さ れ た 。ス ラ グ は ガ ラ ス 質 で あ り 、鉛 の 酸 化 量 が 多 く
な る と 濃 い 黄 色 と な っ た 。 鉛 の 酸 化 量 が 少 な い 場 合 は 、金 属 鉛 と ス ラ グ 相 と の 相 分
離 性 は 悪 く 、鉛 を あ る 程 度 酸 化 さ せ て ス ラ グ 中 に 溶 解 さ せ た 方 が ス ラ グ 相 の 分 離 性
が向上した。
三 酸 化 二 ホ ウ 素 を ス ラ グ 剤 と し て 用 い た 試 験 で は 、溶 融 温 度 750℃ と 1000℃ の 双
方 の 条 件 で ガ ラ ス 質 の ス ラ グ が 形 成 さ れ て い た 。 鉛 の 酸 化 量 が 少 な い 条 件 で は 、乳
白 色 を 呈 し て い る が 、酸 化 鉛 の 量 が 増 え る と 透 明 な ガ ラ ス 質 と な っ た 。三 酸 化 二 ホ
ウ 素 は 、 乳 白 色 を 呈 し て い る 場 合 は 、非 常 に 硬 く 分 離 が 困 難 で あ っ た が 、 透 明 な 場
合 は 、 表 層 部 を 残 し て 容 易 に 分 離 し た 。 ま た 、 こ れ ら の ス ラ グ は 、希 硝 酸 に 容 易 に
溶解されることも確認した。
ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ ム 塩 を ス ラ グ 剤 と し て 用 い た 試 験 は 、本 試 験 の 配 合 の 範 囲 内 で は 、
い ず れ も ガ ラ ス 質 の ス ラ グ と な り 、 ナ ト リ ウ ム 含 有 率 が 低 い 場 合 は 、三 酸 化 二 ホ ウ
素 と 同 様 に 透 明 な ス ラ グ と な り 、金 属 鉛 の 表 面 に ス ラ グ が 残 る 傾 向 を 示 し た 。一 方 、
ナトリウム濃度を高くすると黄色を呈し、スラグの相分離性が良くなった。また、
こ れ ら の ス ラ グ は 、三 酸 化 二 ホ ウ 素 の ス ラ グ と 同 様 に 希 硝 酸 溶 液 で 容 易 に 溶 か せ る
ことも確認した。
優 先 酸 化 処 理 時 間 と 鉛 の 酸 化 量 は 、 ほ ぼ 比 例 関 係 に あ り 、 空 気 供 給 量 20ml/min、
2 時 間 の 処 理 で 35wt%以 上 の 鉛 が 酸 化 さ れ る こ と が 分 か っ た 。鉛 の リ サ イ ク ル の 観
点 か ら は 、 酸 化 量 が あ ま り 多 く な る こ と は 好 ま し く な い た め 、優 先 酸 化 処 理 を 実 施
す る 場 合 は 、2 時 間 以 内 の 処 理 が 好 ま し い と 考 え た 。
7
以上のスラグ剤別の試験結果および優先酸化処理と鉛の酸化量の試験結果から、
メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ ム 、三 酸 化 二 ホ ウ 素 お よ び ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ ム 塩 の 3 種 類 が ス ラ
グ 剤 が 候 補 に な る こ と が 分 か っ た 。ま た 、溶 融 温 度 は 、750℃ な ど 比 較 的 低 温 で は 、
金 属 鉛 と の 分 離 性 が 悪 く な る 傾 向 が あ り 、ま た 、 ス ラ グ 自 身 が 溶 融 し な い こ と も あ
る た め 、 1000℃ 以 上 で 溶 融 す る こ と が 好 ま し い と 考 え る 。 一 方 、 優 先 酸 化 処 理 は 、
20ml/min の 空 気 吹 き 込 み 量 で も 金 属 鉛 が 十 分 に 酸 化 さ れ 、 そ の 酸 化 量 は 溶 融 時 間
に 比 例 す る こ と が 分 か っ た 。 よ っ て 、 RI ト レ ー サ 試 験 で は 、下 記 の 条 件 内 で 試 験 を
実施することが好ましいことが分かった。
①スラグ剤:メタケイ酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、三酸化二ホウ素、
② 溶 融 温 度 : 1000℃ 以 上
③ 溶 融 処 理 時 間 : 0.5 時 間 以 上 2 時 間 以 下
4.1.2
RI ト レ ー サ 試 験
(1)RI ト レ ー サ
金属鉛は、遮蔽材として利用される場合が多く、原子力発電所内等の高線量区域に
お け る 汚 染 を 考 慮 し た 場 合 、代 表 的 な 汚 染 放 射 性 核 種 と し て 、Co-60 お よ び Cs-137 を
RI ト レ ー サ と し て 用 い た 。 RI ト レ ー サ の 添 加 量 は 、Co-60、 Cs-137 の 双 方 と も に
11000cpm/g-Pb と し た 。
(2)試 験 パ ラ メ ー タ
試 験 パ ラ メ ー タ を 表 4.1.2-1 に 示 す 。
表 4.1.2-1
RI ト レ ー サ
① Co-60
② Cs-137
RI ト レ ー サ 試 験 の 試 験 パ ラ メ ー タ
スラグ剤
溶融温度
①メタケイ酸ナトリウム
②メタホウ酸ナトリウム
③三酸化二ホウ素
1100℃
処理時間
優先酸化
2 時間
① 20ml/min(空 気 )
② 10ml/min(空 気 )
③なし
④ 20ml/min(窒 素 )
(3)試 験 方 法
高 純 度 ア ル ミ ナ ル ツ ボ に 金 属 鉛 、ス ラ グ 剤 を 添 加 し 、電 気 炉 に て 2 時 間 、溶 融 除 染
処 理 を 行 っ た 。 RI ト レ ー サ は 、 薄 板 状 の 金 属 鉛 の 上 に RI ト レ ー サ 溶 液 を 滴 下 、 乾 固
した。優先酸化処理を行う場合は、空気を金属鉛相に直接吹き込みバブリングした。
試 験 終 了 後 、 金 属 鉛 と ス ラ グ を 分 離 し 、金 属 鉛 に 少 量 付 着 す る ス ラ グ は 1mol/l の 硝 酸
で洗浄除去した。酸洗浄後、金属鉛を純水で洗浄、金属鉛の一部を切断して採取し、
測 定 試 料 と し た 。 放 射 能 量 の 測 定 は 、 NaI シ ン チ レ ー シ ョ ン カ ウ ン タ ー を 用 い て 実 施
した。
8
(4)試 験 結 果
a.鉛 の 回 収 率
1)優 先 酸 化 に よ る 影 響
試 験 の 結 果 、 鉛 の 回 収 率 は 、 ① 優 先 酸 化 な し 、 ② 10ml/min( 空 気 ) 、 ③
20ml/min(窒 素 )、 ④ 20ml/min(空 気 )の 順 番 に 多 く な る こ と が 分 か っ た 。 こ の 結
果から多くの空気を用いるほど金属鉛が酸化され、スラグに取り込まれること
で金属鉛の回収率が少なくなる傾向を示した。また、窒素を用いてバブリング
し た 方 が 、空 気 量 を 減 ら し て 優 先 酸 化 処 理 し た よ り も 金 属 鉛 の 回 収 量 が 少 な く
なっていることから、溶融鉛面の露出または鉛蒸気の追い出し効果が金属鉛の
回収量に影響している可能性があることが分かった。
2)ス ラ グ 剤 組 成 に よ る 影 響
スラグ剤組成別の金属鉛の回収率は、三酸化二ホウ素、メタホウ酸ナトリウ
ム、メタケイ酸ナトリウムの順に多く、優先酸化処理を実施しない場合の回収
率 は 、そ れ ぞ れ 98wt%、90wt%、80wt%の 回 収 率 と な っ た 。金 属 鉛 の 回 収 率 は 、
スラグ剤の融点を比較すると、融点が低いスラグ剤ほど鉛の回収率が大きく
な っ て お り 、ス ラ グ 剤 が 溶 融 す る ま で の 鉛 の 酸 化 量 が 鉛 の 回 収 率 に 大 き く 影 響
していることが推測された。
b.溶 融 除 染 の 効 果
溶融除染の効果として下記のことが明らかになった。
1)優 先 酸 化 処 理 の 効 果
表 4.1.2-2 に 示 す 試 験 結 果 で は 、除 染 後 の 回 収 鉛 中 の 放 射 能 濃 度 は 優 先 酸 化 処
理を行わない方が低くなる場合もあり、優先酸化処理による除染性能の向上は
確 認 さ れ な か っ た 。 こ の 理 由 と し て 、 Co-60 及 び Cs-137 の RI ト レ ー サ が 添 加
時で酸化物または塩の状態であったことや大量に存在する鉛が優先的に酸化さ
れ て し ま っ た こ と が 考 え ら れ る 。こ の こ と か ら 金 属 鉛 の 表 面 に 廃 液 な ど が 付 着 、
乾 燥 し た よ う な 汚 染 源 の 場 合 、優 先 酸 化 処 理 を 行 わ な く て も 除 染 で き る 可 能 性
が あ る と 考 え る 。し か し 、汚 染 源 が 配 管 切 断 時 の 金 属 粉 末 で あ っ た り 、対 象 金 属
鉛に多くの有機物が付着していることによって溶融時に還元溶融状態になるな
ど 、汚 染 源 が 金 属 又 は 金 属 状 態 に な る よ う な 場 合 は 、汚 染 源 の 元 素 と 鉛 が 合 金 等
を 作 る 可 能 性 が あ る た め 、優 先 酸 化 処 理 の 採 用 の 有 無 に つ い て は 、非 対 象 廃 棄 物
の状態によって決定する必要があると考える。
2)ス ラ グ 剤 組 成 の 効 果
メタケイ酸ナトリウムとメタホウ酸ナトリウムをスラグ剤として用いた溶融
除 染 試 験 で は 、RI ト レ ー サ の 種 類 に 関 わ ら ず 高 い 除 染 性 能 を 示 し た 。ま た 、除 染
9
係 数 (DF: Decontamination Factor)お よ び ス ラ グ と の 分 配 比 の 評 価 に お い て も
明確な差は確認されなかった。
三 酸 化 二 ホ ウ 素 は 、Co-60 と Cs-137 の 双 方 で 他 の ス ラ グ 剤 に 比 べ て 除 染 効 果
が 低 く な っ た 。特 に Co-60 は 、他 の ス ラ グ 剤 に 比 べ て 除 染 係 数 で 1/200∼ 1/1600、
分 配 比 で 1/200∼ 1/2000 と な り 、明 ら か に 除 染 効 果 が 悪 く な っ た 。こ の 結 果 は 、
表 4.1.2-4 に 示 す よ う に 同 一 条 件 で 2 度 の 除 染 試 験 を 行 っ た 結 果 、2 回 の 試 験 結
果 に お い て DF 及 び 分 配 比 が ほ ぼ 同 等 な 値 を 示 し て い る こ と か ら 、三 酸 化 二 ホ ウ
素 が Co-60 と 金 属 鉛 相 を 結 び つ け る 役 割 を し て い る こ と が 推 測 さ れ た 。 一 方 、
Cs-137 は 、 他 の ス ラ グ に 対 し て DF で 1/2∼ 1/4 程 度 で あ っ た が 、分 配 比 は 同 等
の 値 を 示 し て い る こ と か ら 、三 酸 化 二 ホ ウ 素 に よ る 各 元 素 の 挙 動 は 物 理 的 な も
のではなく、化学的な挙動に基づいたものであることが推測される。この確認
と し て 、三 酸 化 二 ホ ウ 素 で 溶 融 除 染 後 に 回 収 し た 金 属 鉛 を メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ
ム ま た は メ タ ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ ム で 再 除 染 す る 試 験 を 行 っ た 結 果( 表 4.1.2-5 参 照 )、
い ず れ の ス ラ グ 剤 で も 金 属 鉛 中 に 残 存 し て い た Co-60 を 十 分 に 除 染 で き る こ と
を確認した。このことから、三酸化二ホウ素で除染した際に金属鉛中に残存し
た Co-60 は 、 三 酸 化 二 ホ ウ 素 が 関 与 す る 形 で 金 属 鉛 中 に 存 在 し て い た こ と が 明
らかとなり、三酸化二ホウ素はスラグ剤として適さないことが分かった。
3)繰 り 返 し 除 染 の 効 果
Co-60 お よ び Cs-137 は 、メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ ム と メ タ ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ ム の 双
方 の ス ラ グ 剤 を 用 い た 場 合 、1 回 の 溶 融 除 染 処 理 で DF= 600~5000 程 度 の 除 染 効
率 が 得 ら れ た 。 表 4.1.2-3 に 示 す よ う に 再 溶 融 除 染 試 験 を 実 施 し た 場 合 、1 回 目
の 除 染 に 比 べ て 、そ の 効 果 は 非 常 に 小 さ く な り 、DF で 2 程 度 、分 配 係 数 は 1~400
程 度 と な っ た 。回 収 金 属 鉛 中 の 放 射 能 濃 度 は 、三 酸 化 二 ホ ウ 素 の 結 果 を 除 き 、図
4.1.2-1 お よ び 図 4.1.2-2 に 示 す よ う に 、 Co-60 が 1 回 の 除 染 で 0.1∼ 0.93Bq/g、
2 回 目 で 0.11Bq/g∼ 0.16Bq/g、Cs-137 が 1 回 目 で 0.28Bq/g∼ 0.56Bq/g、2 回 目
で 0.02Bq/g∼ 0.29Bq/g と な り 、ク リ ア ラ ン ス レ ベ ル の 目 標 値
4) で あ る
Co-60 の
0.4Bq/g と Cs-137 の 1Bq/g と 比 較 し た 場 合 、Co-60 お よ び Cs-137 は 共 に 、メ タ
ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ ム と メ タ ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ ム を ス ラ グ 材 と し て 用 い た 場 合 、1 回 目
の溶融除染で目標値のクリアランスレベルを達成しており、溶融除染の有効性
が確認された。
除 染 時 に お け る 各 ト レ ー サ の 挙 動 は 、化 学 的 な 挙 動 の 指 標 と な る 分 配 係 数 が 2
回 目 の 除 染 結 果 の 方 が 1 回 目 の 除 染 結 果 を 大 き く 下 回 っ て お り 、各 ト レ ー サ の 化
学的挙動が 1 回目と 2 回目では異なっていることを示している。このような挙
動 を 示 し た 原 因 と し て は 、最 終 的 な 回 収 金 属 鉛 中 の 各 ト レ ー サ の 放 射 能 濃 度 は 、
Cs-137 の 一 部 の デ ー タ を 除 き 元 素 毎 に ほ ぼ 同 じ 値 を 示 し て い た こ と か ら 推 測 す
10
ると、ある一定濃度のトレーサが金属鉛中に物理的ではなく、化学的な挙動に
基づいて残存しており、これらの化学的な結合はスラグ剤との結合に比べて強
いことが推測される。
RI ト レ ー サ 中 の 元 素 濃 度 が 非 常 に 低 い こ と に よ る 化 学 挙 動 の 不 安 定 性 つ い て 、
安 定 同 位 体 元 素 の 担 体 添 加 効 果 の 有 無 を 確 認 し た 。表 4.1.2-3 に 示 す 試 験 結 果 を
比 較 す る と 、Co-60 は 明 確 に 担 体 の 添 加 の 効 果 に よ っ て ス ラ グ 剤 に 関 わ ら ず 分 配
比 が 大 き く な っ て い る の に 対 し 、Cs-137 は 担 体 添 加 の 効 果 は 確 認 さ れ な か っ た 。
こ の こ と か ら Co-60 は 担 体 の 添 加 に よ っ て 、除 染 を 効 果 的 に 行 う こ と が で き る 可
能 性 が あ る が 、 Cs-137 は 効 果 を 期 待 す る こ と は で き な い と 考 え ら れ る 。
100000
Na2SiO3
B2O3
NaBO2
放射能濃度[Bq/g]
10000
1000
100
10
1
0.1
クリアランスレベル:0.4Bq/g
0.01
未処理
1回目
2回目
除染回数
図 4.1.2-1
鉛 中 の 放 射 能 濃 度 と 除 染 回 数 の 関 係 (Co-60)
11
100000
Na2SiO3
B2O3
NaBO2
放射能濃度[Bq/g]
10000
1000
100
10
1
0.1
クリアランスレベル:1Bq/g
0.01
未処理
1回目
2回目
除染回数
図 4.1.2-2
鉛 中 の 放 射 能 濃 度 と 除 染 回 数 の 関 係 (Cs-137)
表 4.1.2-2
RI
トレーサ
スラグ剤
組成
RI ト レ ー サ 試 験 の 結 果
鉛回
空気
収率
供給量
[ ml/min] [ wt%]
回収鉛中
放 射 能 濃 度 *3
[ Bq/g]
DF *1
分 配 比 *2
20
71.1
0.24
2780
4730
10
84.6
0.93
600
2000
なし
86.3
0.21
2570
7820
20(N 2 )
81.7
0.26
2260
7430
NaBO 2
なし
91.9
0.10
4940
20590
B2O3
なし
98.2
170
3
11
20
73.2
0.56
2330
4270
10
83.9
0.47
2490
6300
なし
87.3
0.28
3790
2660
20(N 2 )
83.4
0.28
4210
12450
NaBO 2
なし
91.7
0.44
2360
7950
B2O3
なし
98.1
0.95
1050
8410
Na 2 SiO 3
Co-60
Na 2 SiO 3
Cs-137
*1: DF= ( 添 加 し た ト レ ー サ の 放 射 能 量 ) / ( 回 収 鉛 中 放 射 能 量 )
*2: 分 配 比 = ( 回 収 ス ラ グ 中 放 射 能 濃 度 [ cpm/g]) / ( 回 収 鉛 中 放 射 能 濃 度 [ cpm/g])
12
表 4.1.2-3
RI
トレーサ
スラグ剤
組成
Na 2 SiO 3
Co-60
NaBO 2
Na 2 SiO 3
Cs-137
NaBO 2
担体
添加
再溶融除染試験結果
空気
被除染鉛中
鉛回
回収鉛中
供給量
放射能濃度
収率
放 射 能 濃 度 *3
[ ml/min] [ Bq/g] [ wt%]
[ Bq/g]
DF *1
分 配 比 *2
なし
0.24
81.6
0.16
2
2
あり
0.21
80.9
0.13
2
156
なし
0.10
91.6
0.14
1
47
0.93
90.4
0.11
9
264
なし
0.56
81.6
0.02
27
402
あり
0.47
81.5
0.29
2
6
なし
0.28
90.4
0.28
1
3
あり
0.44
91.1
0.24
2
1
あり
なし
*1: DF= ( 添 加 し た ト レ ー サ の 放 射 能 量 ) / ( 回 収 鉛 中 放 射 能 量 )
*2: 分 配 比 = ( 回 収 ス ラ グ 中 放 射 能 濃 度 [ cpm/g]) / ( 回 収 鉛 中 放 射 能 濃 度 [ cpm/g])
表 4.1.2-4
スラグ剤
RI
トレーサ
組成
Co-60
B2O3
三酸化二ホウ素を用いた溶融除染試験結果
空気
鉛回
供給量
収率
[ ml/min] [ wt%]
なし
回収鉛中
放射能濃度
[ Bq/g]
DF *1
分 配 比 *2
98.2
170
3
11
98.4
143
3
12
*1: DF= ( 添 加 し た ト レ ー サ の 放 射 能 量 ) / ( 回 収 鉛 中 放 射 能 量 )
*2: 分 配 比 = ( 回 収 ス ラ グ 中 放 射 能 濃 度 [ cpm/g]) / ( 回 収 鉛 中 放 射 能 濃 度 [ cpm/g])
表 4.1.2-5
RI
トレーサ
スラグ剤
組成
三酸化二ホウ素溶融除染後鉛の再溶融除染試験結果
担体
被除染鉛中
鉛回
回収鉛中
空気
放射能濃度
収率
放 射 能 濃 度 *3
供給量
[ Bq/g]
[ ml/min] [ Bq/g] [ wt%]
Na 2 SiO 3
Co-60
なし
NaBO 2
なし
DF *1 分 配 比 *2
170
71.1
0.15
1542
3237
143
71.7
0.19
1022
2123
170
43.0
0.17
2319
915
143
53.6
0.28
957
600
*1: DF= ( 添 加 し た ト レ ー サ の 放 射 能 量 ) / ( 回 収 鉛 中 放 射 能 量 )
*2: 分 配 比 = ( 回 収 ス ラ グ 中 放 射 能 濃 度 [ cpm/g]) / ( 回 収 鉛 中 放 射 能 濃 度 [ cpm/g])
13
4.1.3
まとめ
(1)試 験 結 果 の ま と め
a.溶 融 除 染 条 件 の 検 討
本検討の結果、明らかになったことを下記に示す。
① ス ラ グ 剤 が 無 い 条 件 で 熱 処 理 し た 場 合 、鉛 は 750℃ で 表 面 の 酸 化 は 進 む が 、酸 化
鉛 の 融 点 以 下 で あ る た め 、金 属 鉛 相 と の 相 分 離 性 は 良 く な い 。1000℃ の 処 理 で
は 、他 の 条 件 に 比 べ て 酸 化 鉛 と 金 属 鉛 の 分 離 性 は 良 く な る が 、鉛 お よ び 酸 化 鉛 の
蒸気圧も高くなるため、スラグ剤による鉛および酸化鉛の抑制が必要である
②水酸化ナトリウム−硝酸ナトリウムの混合塩は、酸化力が非常に強いスラグ剤
であり、酸化鉛の生成量が多すぎるため、除染後の金属鉛の回収の観点からは
有効ではない
③二酸化ケイ素は融点が高く、酸化鉛の割合が多くならないと低融点の鉛ガラス
が形成されないため、スラグ形成剤としては不適当であるが、メタケイ酸ナト
リ ウ ム は 、 750℃ の 溶 融 温 度 で も ス ラ グ 相 を 形 成 し 、 酸 化 鉛 の 含 有 量 が 増 え る
とスラグ相の分離性も向上するため、スラグ剤として有望である
④ 三 酸 化 二 ホ ウ 素 お よ び ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ ム 塩 は 、ガ ラ ス 質 の ス ラ グ 相 を 形 成 し 、酸
化鉛の含有量が多くなると金属相との分離性が向上した。また、これらのスラ
グ は 、希 硝 酸 で 容 易 に 溶 解 で き る た め 、 ス ラ グ 剤 と し て 有 望 で あ る
⑤ 優 先 酸 化 処 理 時 間 と 鉛 の 酸 化 量 は 、ほ ぼ 比 例 関 係 に あ り 、空 気 供 給 量 20ml/min、
2 時 間 の 処 理 で 35wt%以 上 の 鉛 が 酸 化 さ れ る こ と が 分 か っ た 。 よ っ て 、 金 属 鉛
の回収率を向上させる観点からは 2 時間以内の処理が好ましい
b.RI ト レ ー サ 試 験
本試験の結果、明らかになったことを下記に示す。
① 鉛 の 回 収 率 は 、優 先 酸 化 な し 、10ml/min(空 気 )、20ml/min(窒 素 )、20ml/min(空
気 )の 順 番 に 多 く な る
② ス ラ グ 剤 組 成 別 の 金 属 鉛 の 回 収 率 は 、三 酸 化 二 ホ ウ 素 、メ タ ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ ム 、
メタケイ酸ナトリウムの順に高く、融点が低いスラグ剤ほど金属鉛の回収率が
高い
③優先酸化処理による除染性能の向上は確認されなかった。この理由として、
Co-60 及 び Cs-137 の RI ト レ ー サ が 添 加 時 で 酸 化 物 ま た は 塩 の 状 態 で あ っ た こ
とや大量に存在する鉛が優先的に酸化された可能性がが考えられた
④ メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ ム お よ び メ タ ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ ム は 、RI ト レ ー サ の 種 類 に 関
わらず 1 回の溶融除染でクリアランスレベルを達成しており、スラグ剤として
適している
14
⑤ 三 酸 化 二 ホ ウ 素 は 除 染 効 果 が 低 く 、 Co-60 の 一 部 は 三 酸 化 二 ホ ウ 素 が 関 与 す る
形で金属鉛中に残存するため、スラグ剤として適さない
⑥ 安 定 同 位 体 元 素 を 用 い た 担 体 効 果 の 有 無 を 確 認 し た 結 果 、 Co-60 は 担 体 効 果 が
確 認 さ れ た の に 対 し 、Cs-137 は 確 認 さ れ な か っ た
(2)今 後 の 課 題
本試験の結果から、今後の課題として下記ことが上げられる。
①金属鉛の高い回収率と高い除染効率を両立させるため、本試験で有望とされた
メタケイ酸ナトリウムおよびメタホウ酸ナトリウム以外の低融点スラグ剤を再
調査する必要がある。
② 放 射 性 廃 棄 物 の 発 生 状 態 お よ び 処 理 条 件 を 考 慮 し 、汚 染 放 射 性 核 種 が 還 元 さ れ 、
合金として金属鉛中に取り込まれている場合を想定したホット試験の実施が必
要である
③溶融除染条件の最適化を行い、二次廃棄物発生量の評価および処分固化体の作
製までのシナリオを作成する必要がある
4.2
高度安定固化技術の開発
4.2.1
固化技術の調査
(1)非 原 子 力 分 野 に お け る 鉛 含 有 廃 棄 物 の 安 定 化 処 理
5)
非原子力分野において高濃度の鉛汚染が問題となっている廃棄物には、焼却灰、焼
却 飛 灰 、 溶 融 飛 灰 が あ る 。 鉛 汚 染 濃 度 は 、 焼 却 灰 と 焼 却 飛 灰 が 数 百 ~数 千 mg/kg、 溶
融 飛 灰 で 数 千 ∼ 数 万 mg/kg で あ る と 言 わ れ て い る 。従 っ て 、高 濃 度 と 言 わ れ る 溶 融 飛
灰 で も 数 wt%の 鉛 濃 度 で あ る 。 こ の 溶 融 飛 灰 の 安 定 化 法 方 と し て は 、平 成 4 年 7 月 3
日 付 厚 生 省 告 示 第 194 号 に よ り 、① セ メ ン ト 固 化 、② 薬 剤 処 理 、③ 酸 抽 出 処 理 の 3 方
式が選定されている。セメント固化は、飛灰の飛散防止の面で非常に有効であるが、
鉛が両性金属であることから強アルカリ性環境になるセメント固化のみでは鉛を固
定 化 で き な い た め 、通 常 、キ レ ー ト 剤 を 用 い た 薬 剤 処 理 と 併 用 さ れ る 。し か し 、キ レ ー
ト剤としては、硫黄化合物であるジチオカルバミン酸を官能基として持つ有機系液体
キレートを用いているため、有機物およびキレート剤の持込が厳しく制限されている
放射性廃棄物処分場向けの適用は困難である。酸抽出処理は、飛灰中の重金属を酸溶
液で溶解し、溶解液に回収した重金属を硫化物や炭酸塩等の低浸出性の鉱物にするこ
とで溶出率を低減する方法である。この方法は、鉛の化学形を確実に決定できるとい
う観点で非常に優れているが、全量試料を酸溶解処理する必要があるため、設備が大
きくなると共に、放射性廃棄物を溶解するため、二次廃棄物となる廃液の発生が問題
になる。
15
以上のことから、非原子力分野で用いられている鉛の安定処理技術を、そのまま放
射性廃棄物中の鉛の安定化に適用することは、困難であることが分かった。
(2)原 子 力 分 野 お け る 鉛 含 有 廃 棄 物 の 安 定 化 処 理
8)-14)
米国では、焼却灰、塩類及びセメント系放射性廃棄物中の重金属安定固化処理方法
として、リン酸セラミックスの研究が行われている。リン酸セラミックスの種類は数
種 類 あ り 、 代 表 的 な も の と し て は 、 リ ン 酸 マ グ ネ シ ウ ム カ リ ウ ム (MgKPO 4 )や リ ン 酸
水素ジルコニウムが知られている。リン酸セラミックスは、速硬化性であり、セメン
トよりも緻密で高強度な固化体が得られることで知られており、セメント補修剤等と
して一般でも使われており、室温で作成できるなど多くのメリットがある。例えば、
MgKPO 4 の 場 合 、酸 化 マ グ ネ シ ウ ム (MgO)と リ ン 酸 2 水 素 カ リ ウ ム (KH 2 PO 4 )を 反 応 さ
せ る こ と で 作 製 す る こ と が で き る 。 た だ し 、 固 化 に 必 要 な 時 間 は 、 MgKPO 4 の 場 合 、
1 時 間 程 度 と 短 時 間 で あ る が 、リ ン 酸 水 素 ジ ル コ ニ ウ ム で は 21 日 程 度 か か る な ど 大 き
な 差 が あ る 。廃 棄 物 の 充 填 率 は 、MgKPO 4 で 最 大 70wt%程 度 、リ ン 酸 ジ ル コ ニ ウ ム で
最 大 30wt%と 言 わ れ て い る 。た だ し 、こ れ ら の 研 究 に 用 い ら れ た 鉛 の 含 有 率 は 、焼 却
灰 と 同 様 に 数 百 ~数 千 mg/kg で あ る た め 、 高 濃 度 の 鉛 に 対 し て ど の 程 度 の 効 果 が 得 ら
れるかは不明であり、また、固化体の作製方法も不明な点が多い。リン酸セラミック
スで鉛の浸出率を抑えることができるのは、それぞれのセラミックスが緻密で溶解度
が低いことや、セラミックス自体が中性又は弱酸性塩であることならびに鉛が低浸出
のリン酸塩になるためと考えられ、リン酸鉛の形成を促すことで高濃度の鉛汚染廃棄
物にも対応できる可能性がある。
4.2.2
高度安定固化試験
本 試 験 で は 、管 理 型 処 分 場 に 埋 設 す る 際 の 鉛 の 浸 出 基 準 0.3mg/l を 下 回 る 低 浸 出 性 の
固化体を作製することを目的とし、①鉱物固化、②セラミックス固化、③溶融固化の 3
種 類 の 固 化 方 法 を 検 討 し た 。 固 化 方 法 は 、そ れ ぞ れ の 他 方 法 等 に 特 徴 が あ る た め 、各 試 験
毎に試験パラメータを設定した。下記に各試験の試験パラメータを示す。
(1)試 験 パ ラ メ ー タ
固 化 技 術 毎 に 固 化 剤 、添 加 剤 、熱 処 理 条 件 お よ び 処 理 時 間 を 試 験 パ ラ メ ー タ と し た 。
鉛 の 化 学 形 態 は 、焼 却 灰 や ス ラ グ 中 の 鉛 を 想 定 し た こ と か ら 酸 化 鉛 と し た 。
a.鉱 物 固 化
鉱 物 固 化 は 、ゼ オ ラ イ ト 系 鉱 物 中 へ の 固 定 化 を 検 討 す る 目 的 か ら 、固 化 剤 と し て
は、代表的なゼオライト鉱物であるA型ゼオライトを選定した。また、焼却灰を
模擬する目的ならびにゼオライトの原料となり得るものとしてフライアッシュも
16
固 化 剤 と し て 検 討 し た 。固 化 時 の 添 加 剤 と し て は 、ゼ オ ラ イ ト の 原 料 と な る ア ル ミ
ノ ケ イ 酸 塩 お よ び メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ ム を 選 択 し た 。熱 処 理 温 度 は 、鉛 と 鉱 物 物 質
と の 反 応 に よ る 固 化 体 性 能 へ の 影 響 を 確 認 す る た め 、ゼ オ ラ イ ト の 構 造 変 化 が 生
じ る と 言 わ れ て い る 1000℃ ま で の 間 で 3 点 を 選 定 し た 。
b.セ ラ ミ ッ ク ス 固 化
セ ラ ミ ッ ク ス 固 化 は 、リ ン 酸 セ ラ ミ ッ ク ス 中 で の 固 定 化 を 検 討 す る 目 的 か ら 、固
化剤としては、文献調査の結果かから有望と考えられたリン酸マグネシウムカリ
ウム、リン酸水素マグネシウムおよびリン酸ジルコニウムを選定した。また、焼
却灰を模擬する目的からフライアッシュの添加の有無の影響も検討した。選定し
た リ ン 酸 セ ラ ミ ッ ク ス は 、室 温 で 固 化 す る と さ れ て い る が 、固 化 に 必 要 な 養 生 時 間
も 明 確 で な い こ と か ら 、セ メ ン ト 固 化 で の 評 価 方 法 を 参 考 に 、養 生 期 間 を 7 日 、14
日 お よ び 28 日 の 3 通 り に つ い て 評 価 し た 。
c.溶 融 固 化
溶 融 固 化 は 、酸 化 鉛 を ガ ラ ス 骨 格 中 に 閉 じ 込 め る こ と を 目 的 と し て い る 。固 化 剤
としては、鉱物固化との比較を目的にA型ゼオライトとフライアッシュを選定し
た 。固 化 時 の 添 加 剤 と し て は 、A 型 ゼ オ ラ イ ト や フ ラ イ ア ッ シ ュ な ど の ケ イ 酸 塩 鉱
物とガラス物質を作り、高レベル放射性廃液のガラス固化技術ならびにリン酸塩
セラミックスとの比較の観点から、ホウケイ酸ガラスの原料となる三酸化二ホウ
素およびリン酸セラミックスの原料であるリン酸二水素ナトリウムを選定した。
熱 処 理 温 度 は 、鉱 物 固 化 と の 比 較 か ら 1000℃ と し た 。
表 4.2.2-1
固化方法
固化剤
添加剤
鉛の形態
熱処理
処理時間
鉱物固化
①A 型ゼオライト
②フライアッシュ*
①アルミン酸ナトリウム
②メタケイ酸ナトリウム
酸化鉛
600℃ 、 800℃ 、 1000℃
5 時間
安定固化試験パラメータ
セラミックス固化
①リン酸マグネシウムカリウム
②リン酸水素マグネシウム
②リン酸ジルコニウム
フライアッシュ*
酸化鉛
室温
7 日 、 14 日 、 28 日 (養 生 処 理 )
*焼 却 灰 及 び ス ラ グ の 模 擬 と し て 使 用
17
溶融固化
①A 型ゼオライト
②フライアッシュ*
①三酸化二ホウ素
②リン酸二水素ナトリウム
酸化鉛
1000℃
1 時間
(2)試 験 方 法
a.鉱 物 固 化
固化剤、添加剤および酸化鉛を所定量計り取り、乳鉢で粉砕混合した。混合し
た試料を圧縮装置を用いてペレット化し、電気炉にて空気雰囲気中で 5 時間熱処
理を行った。作製した鉱物固化体は、破砕後、浸出試験を行ない、浸出液中の鉛
濃度を測定した。
b.セ ラ ミ ッ ク ス 固 化
1)リ ン 酸 マ グ ネ シ ウ ム カ リ ウ ム
リ ン 酸 二 水 素 カ リ ウ ム 、酸 化 マ グ ネ シ ウ ム 、添 加 剤 お よ び 酸 化 鉛 を 所 定 量 計 り
取 り 、こ れ に 水 を 添 加 し て 混 合 後 、容 器 に 入 れ 、室 温 で 養 生 処 理 し た 。養 生 処 理
後、試料を破砕、浸出試験にて鉛の浸出量を測定した。
2)リ ン 酸 水 素 マ グ ネ シ ウ ム
酸 化 マ グ ネ シ ウ ム 、添 加 剤 お よ び 酸 化 鉛 を 所 定 量 計 り 取 り 、こ れ に リ ン 酸 を 添
加 し て 混 合 後 、容 器 に 入 れ 、室 温 で 養 生 処 理 し た 。養 生 処 理 後 、試 料 を 破 砕 、浸
出試験にて鉛の浸出量を測定した。
3)リ ン 酸 水 素 ジ ル コ ニ ウ ム
水 酸 化 ジ ル コ ニ ウ ム 、添 加 剤 お よ び 酸 化 鉛 を 所 定 量 計 り 取 り 、こ れ に リ ン 酸 を
添加して混合後、容器に入れ、室温で養生処理した。養生処理後、試料を破砕、
浸出試験にて鉛の浸出量を測定した。
c.溶 融 固 化
溶 融 固 化 は 、酸 化 鉛 、固 化 剤 、添 加 剤 を 混 合 後 、ア ル ミ ナ ル ツ ボ に 入 れ 、 電 気 炉
に て 1000℃ で 1 時 間 溶 融 処 理 を 行 っ た 。 冷 却 後 、試 料 を 破 砕 、 浸 出 試 験 を 行 な い
鉛の浸出量を測定した。
(3)浸 出 試 験 方 法
浸 出 試 験 は 、環 境 省 告 示 第 13 号 お よ び 環 境 省 告 示 第 46 号 に 準 拠 し 、下 記 の 手 順 で
実施した。
・ 固 化 試 料 を 粉 砕 し 、 0.5∼ 2mm に 調 整 。
・ 試 料 を 10wt%/vol%と な る よ う に 浸 出 液 と 混 合 。 浸 出 液 は 、純 水 お よ び 水 酸 化 カ ル
シ ウ ム (Ca(OH) 2 )の 飽 和 水 (セ メ ン ト 平 衡 水 の 模 擬 )を 用 い た 。
・ 常 温 、 常 圧 下 で 1 時 間 振 と う し 、 上 澄 み 液 を 0.45μ m メ ン ブ レ ン フ ィ ル タ ー で ろ
過後、原子吸光分析にて浸出液中の鉛濃度を測定。
18
(4)試 験 結 果
a.鉱 物 固 化
鉱 物 固 化 体 の 浸 出 試 験 結 果 を 表 4.2.2-2 に 示 す 。
表 4.2.2-2 の 結 果 か ら 、 純 水 を 浸 出 液 と し て 用 い た 場 合 、鉱 物 固 化 処 理 温 度 が 高
い ほ ど 浸 出 試 験 後 の 浸 出 液 の pH が 低 く な る こ と が 分 か っ た 。ま た 、水 酸 化 カ ル シ
ウ ム の 飽 和 溶 液 を 浸 出 液 と し て 用 い た 試 験 結 果 で は 、浸 出 試 験 後 の pH は 全 て の 試
験 で ほ と ん ど 変 化 し な か っ た が 、鉱 物 固 化 処 理 温 度 の 上 昇 に 伴 っ て 浸 出 液 中 の 鉛
の 濃 度 が 小 さ く な っ て い る こ と が 分 か っ た 。鉛 の 浸 出 量 は pH が 9.5∼ 11 程 度 の 間
で最も小さくなり、酸性側とアルカリ性側の両方で溶解度が上がる両性金属であ
ることが知られている。このことを考慮すると、鉱物固化処理温度の上昇に伴っ
て固化剤や添加剤が酸化鉛と反応し、低浸出性の鉱物に転換が進んでいることが
推測される。その他、固化剤としてフライアッシュを用いた方がA型ゼオライト
を用いた場合より、また、添加剤を添加しない方が添加した場合よりも鉛の浸出
量 が 低 下 す る 傾 向 を 示 し た 。こ の よ う な 結 果 を 生 じ た 理 由 と し て 、フ ラ イ ア ッ シ ュ
の 方 が A 型 ゼ オ ラ イ ト よ り も ケ イ 素 の 割 合 が 量 が 多 く 、 1000℃ の 処 理 温 度 下 で こ
れらのケイ酸塩鉱物と酸化鉛が反応して、鉛ガラス等の低浸出性の鉱物を生じる
ことにより、固化剤としてフライアッシュを用いた方がA型ゼオライトを用いた
場合よりも鉛の浸出量が少なくなったものと推測される。
A型ゼオライトと酸化鉛を混合して作製した鉱物固化体①のX線回折測定から
は 、 600℃ 処 理 固 化 体 で 酸 化 鉛 と 考 え ら れ る ピ ー ク は 観 察 さ れ る も の の 、 800℃ 以
上 の 処 理 固 化 体 で は 酸 化 鉛 の ピ ー ク は 消 失 し た 。 ま た 、 600℃ 処 理 で は 、A 型 ゼ オ
ラ イ ト の ピ ー ク に 大 き な 変 化 は 観 察 さ れ な か っ た が 、800℃ 以 上 で は A 型 ゼ オ ラ イ
ト (Na 12 Al 12 Si 12 O 48 ・ 27H 2 O) の 熱 変 質 物 で あ る ネ フ ェ リ ン ( 霞 石 : Nepheline :
NaAlSiO 4 )が 観 察 さ れ 、A 型 ゼ オ ラ イ ト が 変 質 し て い る こ と が 分 か っ た 。
フライアッシュと酸化鉛を混合して作製した鉱物固化体②のX線回折測定から、
酸 化 鉛 と 考 え ら れ る ピ ー ク は 600℃ 処 理 固 化 体 で は 観 察 さ れ る が 、800℃ 以 上 の 処
理 固 化 体 で は 酸 化 鉛 の ピ ー ク は 消 失 し た 。 ま た 、 1000℃ 処 理 で 鉛 ア ル ミ ノ ケ イ 酸
塩 (PbAl 2 Si 2 O 8 )と 考 え ら れ る X 線 回 折 ピ ー ク が 観 察 さ れ た 。 こ の こ と か ら フ ラ イ
ア ッ シ ュ も A 型 ゼ オ ラ イ ト と 同 様 に 800℃ 以 上 の 処 理 温 度 で 酸 化 鉛 と の 反 応 が 進
むと考えられる。
A型ゼオライトと酸化鉛の他に添加剤としてアルミン酸ナトリウムおよびメタ
ケイ酸ナトリウムを添加して作製した鉱物固化体③のX線回折測定結果は、A型
ゼオライトのみの場合と大きく異なっており、ネフェリンと考えられるピークが
600℃ 処 理 固 化 体 で も 観 察 さ れ 、酸 化 鉛 の ピ ー ク も 処 理 温 度 の 上 昇 と 共 に 減 少 す る
が 、 1000℃ 処 理 固 化 体 で も 観 察 さ れ た 。 一 方 、 い ず れ の 原 料 成 分 と も 一 致 し な い
19
ア ル ミ ノ ケ イ 酸 塩 と 考 え ら れ る 多 数 の 未 同 定 ピ ー ク が 600 ℃ か ら 確 認 さ れ 、
1000℃ 処 理 ま で ほ ぼ 同 じ X 線 回 折 パ タ ー ン を 示 し た 。こ の 固 化 体 は 1000℃ 処 理 の
場合、他の処理固化体と比べると鉛の浸出率が高く、X線回折データでも酸化鉛
の ピ ー ク が 確 認 さ れ る こ と か ら 、酸 化 鉛 と の 反 応 が 進 ん で い な い こ と が 分 か っ た 。
このことから添加剤として用いたアルミン酸ナトリウムおよびメタケイ酸ナトリ
ウムは、鉛とA型ゼオライトの反応を阻害し、また、鉱物化にも寄与していない
ことが推測された。
フライアッシュと酸化鉛の他に添加剤としてアルミン酸ナトリウムおよびメタ
ケイ酸ナトリウムを添加して作製した鉱物固化体④のX線回折測定結果では、フ
ラ イ ア ッ シ ュ の み の 場 合 と 大 き く 異 な っ て お り 、ネ フ ェ リ ン の ピ ー ク が 800℃ 以 上
の 処 理 で 観 察 さ れ た 。ま た 、1000℃ 処 理 で も 鉛 ア ル ミ ノ ケ イ 酸 塩 と 考 え ら れ る ピ ー
クは観察されなかった。このことから、添加剤としてアルミン酸ナトリウムおよ
びメタケイ酸ナトリウムを加えると、生成する鉱物も大きく変わることが分かっ
た。先のA型ゼオライトの結果も考えるとアルミン酸ナトリウムおよびメタケイ
酸 ナ ト リ ウ ム を 添 加 す る こ と は 好 ま し く な い こ と が わ か っ た 。な お 、酸 化 鉛 の ピ ー
ク が 観 察 さ れ な い こ と お よ び 浸 出 率 が 1000℃ 処 理 で 低 く な っ て い る こ と か ら 、 酸
化鉛は、ガラス系の鉱物に転換していることが予測された。
以 上 の 結 果 か ら 、鉱 物 固 化 体 は 、高 温 で 処 理 す る ほ ど 浸 出 率 が 小 さ く な り 1000℃
の 高 温 で は 、 1mg/l を 下 回 る 結 果 も あ る が 、目 標 と す る 0.3mg/l を 下 回 る 可 能 性 は
見出せなかった。
表 4.2.2-2
試験
No
鉱物固化体の浸出試験結果
酸化鉛
濃度
[wt%]
配合
鉱物①
AZ:PbO
(4:1)
20
鉱物②
FA:PbO
(4:1)
20
鉱物③
AZ:AN:MK:PbO
(2:1:1:1)
20
鉱物④
FA:AN:MK:PbO
(2:1:1:1)
20
AZ:A 型 ゼ オ ラ イ ト
処理
温度
[℃ ]
600
800
1000
600
800
1000
600
800
1000
600
800
1000
FA:フ ラ イ ア ッ シ ュ
MK:メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ ム
20
浸出試験結果
純水
Ca(OH) 2 飽 和 水
浸出液 鉛濃度 浸出液 鉛濃度
の pH
の pH
[mg/l]
[mg/l]
11.3
3
12.4
547
8.0
0.8
12.5
141
<1
5.7
12.5
2
11.7
42
12.5
864
11.7
3
12.6
24
<1
8.5
12.5
1
12.7
535
12.8
675
12.7
241
12.7
613
<1
11.7
12.5
30
12.3
1
12.4
379
10.7
8
12.5
107
<1
<1
5.8
12.5
AN:ア ル ミ ン 酸 ナ ト リ ウ ム
b.セ ラ ミ ッ ク ス 固 化
セ ラ ミ ッ ク ス 固 化 体 の 浸 出 試 験 結 果 を 表 4.2.2-3 に 示 す 。
純 水 を 浸 出 液 と し て 用 い た 場 合 、セ ラ ミ ッ ク ス ⑤ の リ ン 酸 水 素 ジ ル コ ニ ウ ム 以
外 の 固 化 体 は 、全 て 目 標 の 0.3mg/l 以 下 を し た ま わ っ た 。ま た 、水 酸 化 カ ル シ ウ ム
の飽和水溶液による浸出試験でもリン酸水素ジルコニウムのセラミックス⑤とセ
ラミックス①を除き目標浸出率を下回った。この理由としてリン酸セラミックス
自体の溶解度が低いことならびにリン酸セラミックス固化体の浸出液性がセメン
ト固化体のような高アルカリ性で無く中性から弱酸性を示すためと考えられる。
同じ固化剤で比較した場合、例えば、セラミックス①とセラミックス③ではセ
ラ ミ ッ ク ス ① の 方 が 浸 出 液 の pH が 高 く な る 傾 向 が あ る 。こ の 傾 向 は セ ラ ミ ッ ク ス
②とセラミックス④でも同様となっている。この理由として、フライアッシュを
加 え た 固 化 体 は 、フ ラ イ ア ッ シ ュ で 35wt%、酸 化 鉛 を 含 め る て 52wt%の 廃 棄 物 を
固化していることになり、リン酸カリウムマグネシウムおよびリン酸水素マグネ
シウムの固化能力を越えてたため、リン酸カリウムマグネシウムおよびリン酸水
素マグネシウムの形成が十分でなかったことが考えられる。また、セラミックス
①とセラミックス②とでは、飽和水酸化カルシウム溶液での鉛の浸出結果に大き
な 差 が 生 じ た が 、こ の 差 は 浸 出 液 の pH に よ っ て 決 定 付 け ら れ て い る と 考 え ら れ る 。
以上の結果から、今後、廃棄物充填率や固化剤割合を含めた固化方法をパラメー
タとした試験を実施し、これらの固化剤の能力を評価する必要があると考える。
フライアッシュと酸化鉛の混合物をリン酸カリウムマグネシウムで固化したセ
ラミックス固化体①のX線回折測定結果では、リン酸カリウムマグネシウムの
ピークは養生 7 日目から確認されており、また、酸化鉛およびフライアッシュの
ピ ー ク が 全 て の 条 件 で 確 認 さ れ る こ と が 分 か り 、酸 化 鉛 お よ び フ ラ イ ア ッ シ ュ は 、
化学変化していない可能性があることがことが分かった。また、養生期間による
変化も確認されなかった。
フライアッシュと酸化鉛の混合物をリン酸水素マグネシウムで固化したセラ
ミックス固化体②のX線回折測定結果から、リン酸水素マグネシウムのピークは
確認することはできなかった。また、リン酸カリウムマグネシウムと同様に酸化
鉛 と フ ラ イ ア ッ シ ュ の ピ ー ク が 確 認 さ れ 、養 生 期 間 に よ る 変 化 は 見 ら れ な か っ た 。
酸化鉛をリン酸カリウムマグネシウムで固化したセラミックス固化体③のX線
回折測定で確認されたピークは、リン酸カリウムマグネシウム、酸化鉛の他、リ
ン 酸 鉛 (Pb 9 (PO 4 ) 6 )や リ ン 酸 カ リ ウ ム 鉛 (KPb 4 (PO 4 ) 3 )と 思 わ れ る も の で あ っ た 。 こ
のことからフライアッシュが混合されているセラミックス①固化体とは異なり、
鉛のリン酸塩が形成されている可能性があることが分かった。養生期間による変
21
化が確認されなかったのは他の固化体と同様であった。
酸化鉛をリン酸水素マグネシウムで固化したセラミックス固化体④のX線回折
測 定 で 確 認 さ れ た ピ ー ク は 、 リ ン 酸 水 素 鉛 (PbHPO 4 )、 酸 化 鉛 、 リ ン 酸 水 素 マ グ ネ
シウムであった。このデータからマグネシウムの代わりに鉛が反応することがあ
ることが分かった。
酸化鉛をリン酸水素ジルコニウムで固化したセラミックス固化体のX線回折測
定 で 確 認 さ れ た ピ ー ク は 、 リ ン 酸 水 素 鉛 (PbHPO 4 ) と リ ン 酸 水 素 ジ ル コ ニ ウ ム
(Zr(HPO 4 ) 2 )で あ っ た 。 ま た 、 こ の 固 化 体 で は 、 酸 化 鉛 の ピ ー ク は 確 認 さ れ な か っ
た。
表 4.2.2-3
セラミックス固化体の浸出試験結果
試 験 No
配合
酸化鉛
濃度
[wt%]
セラミックス①
FA:MKP:PbO:水
(8:5:4:6)
17.4
セラミックス②
FA:MHP:PbO:水
(8:5:4:6)
17.4
セラミックス③
MKP:PbO:水
(5:2:3)
20
セラミックス④
MHP:PbO:水
(5:2:3)
20
セラミックス⑤
ZP:PbO:水
(4:1:1)
処理
時間
[日 ]
7
14
28
7
14
28
7
14
28
7
14
28
7
14
28
16.7
浸出試験結果
純水
Ca(OH) 2 飽 和 水
浸出液 鉛濃度 浸出液 鉛濃度
の pH
の pH
[mg/l]
[mg/l]
<1
<1
9.8
12.0
9.9
0.1
12.2
0.4
9.6
0.1
12.1
3.3
<1
<1
6.7
8.4
< 0.1
< 0.1
6.7
8.1
6.6
0.1
8.7
0.1
<1
<1
7.8
11.4
< 0.1
< 0.1
8.1
10.6
7.8
0.1
10.7
0.1
<
1
<
1
4.5
5.4
< 0.1
4.4
0.1
4.7
4.5
0.1
4.9
0.1
1.8
9
2.3
2
2.6
10.8
2.5
1.6
1.9
4.6
2.3
1.3
AZ:A 型 ゼ オ ラ イ ト , FA:フ ラ イ ア ッ シ ュ
MKP:MgKPO 4 , MHP:MgHPO 4 , ZP:Zr(HPO 4 ) 2
c.溶 融 固 化
溶 融 固 化 体 の 浸 出 試 験 結 果 を 表 4.2.2-4 に 示 す 。
純 水 を 浸 出 液 と し て 用 い た 場 合 、溶 融 ⑤ を 除 き 、 他 の 溶 融 固 化 体 は 全 て 目 標 の
0.3mg/l 以 下 と な っ た 。水 酸 化 カ ル シ ウ ム の 飽 和 水 溶 液 に よ る 浸 出 試 験 で は 、フ ラ
イアッシュと三酸化二ホウ素を用いた溶融固化体(溶融③、溶融④)で浸出液中
の鉛濃度が高くなった。一方、リン酸二水素ナトリウムを用いた溶融固化体の場
合 は 、溶 融 ⑥ の A 型 ゼ オ ラ イ ト と の 溶 融 固 化 体 で 高 い 鉛 濃 度 を 示 し た が 、他 の 固 化
22
体では目標値を下回った。
添加剤として三酸化二ホウ素を用いた溶融固化体のX線回折測定結果からは、
全ての溶融固化体でX線回折ピークが確認されず、ガラス質になっていることが
分 か っ た 。一 方 、リ ン 酸 二 水 素 ナ ト リ ウ ム を 用 い た 溶 融 固 化 体 で は 、酸 化 鉛 の ピ ー
クは確認されなかったが、全ての固化体でX線回折ピークのパターンが異なって
いた。
A 型 ゼ オ ラ イ ト を ベ ー ス と し た 溶 融 固 化 体 は 、A 型 ゼ オ ラ イ ト の 配 合 を 少 な く 、
リン酸二水素ナトリウムを多くした溶融⑤の溶融固化体の場合、リン酸ナトリウ
ム 鉛 (NaPbPO 4 )の ピ ー ク の み が 観 察 さ れ た 。 一 方 、 A 型 ゼ オ ラ イ ト の 配 合 を 増 や
し、リン酸二水素二ナトリウムの配合を減らした溶融⑥の溶融固化体の場合、リ
ン 酸 ナ ト リ ウ ム 鉛 以 外 に 鉱 物 固 化 で も 確 認 さ れ た ネ フ ェ リ ン (NaAlSiO 4 )の ピ ー ク
が観察された。このネフェリンは、溶融混合しなかったA型ゼオライトが熱変質
してできたものと考えられる。この理由として、鉱物固化で見られたようにアル
ミ ナ ケ イ 酸 塩 と 酸 化 鉛 は 、 1000℃ で は 鉛 ガ ラ ス を 作 っ て い る と 考 え ら れ 、 配 合 比
の変化のみでネフェリンが溶融物から再析出するとは考えにく、恐らく、リン酸
二 水 素 ナ ト リ ウ ム が 非 常 に 低 融 点 (mp: 60℃ )で あ る た め 、 先 に こ の リ ン 酸 二 水 素
ナトリウムが酸化鉛と反応し、その後にA型ゼオライトが熱変質したネフェリン
と反応したため、本試験の溶融条件である 1 時間でネフェリンが溶けきらなかっ
たか、またはネフェリンが溶融しない組成条件であったものと考えられる。
フライアッシュをベースとした溶融固化体については、いくつかのピークが確
認されたがA型ゼオライトをベースにした固化体やフライアッシュのピークとも
異なり、同定には至らなかった。
表 4.2.2-4
溶融固化体の浸出試験結果
試験
No
配合
酸化鉛
濃度
[wt%]
溶融①
溶融②
溶融③
溶融④
溶融⑤
溶融⑥
溶融⑦
溶融⑧
AZ:B 2 O 3 :PbO(2:2:1)
AZ:B 2 O 3 :PbO(3:1:1)
FA:B 2 O 3 :PbO(2:2:1)
FA:B 2 O 3 :PbO(3:1:1)
AZ:NHP:PbO(2:2:1)
AZ:NHP:+PbO(3:1:1)
FA:NHP:PbO(2:2:1)
FA:NHP:PbO(3:1:1)
20
20
20
20
20
20
20
20
浸出試験結果
純水
Ca(OH) 2 飽 和 水
浸出液 鉛濃度 浸出液 鉛濃度
の pH
の pH
[mg/l]
[mg/l]
8.47
0.1
12.75
0.4
< 0.1
7.67
12.78
0.3
< 0.1
7.86
12.76
15.5
9.58
0.2
12.78
2.9
8.73
0.4
12.77
0.1
6.68
0.1
12.54
2.4
7.58
0.1
12.78
0.2
< 0.1
7.64
12.75
0.3
AZ: A 型 ゼ オ ラ イ ト , FA: フ ラ イ ア ッ シ ュ , NHP: NaH 2 PO 4
23
4.2.3
まとめ
(1)試 験 結 果 の ま と め
a.鉱 物 固 化
① 純 水 で 浸 出 試 験 を 実 施 し た 場 合 、浸 出 試 験 後 の 浸 出 液 の pH は 処 理 温 度 が 高 い ほ
ど 低 く な っ た 。ま た 、水 酸 化 カ ル シ ウ ム の 飽 和 溶 液 を 浸 出 液 と し て 用 い た 試 験 結
果 で は 、浸 出 試 験 後 の pH は 全 て の 試 験 で ほ と ん ど 変 化 し な か っ た が 、処 理 温 度 の
上 昇 に 伴 っ て 鉛 の 浸 出 量 が 少 な く な っ た 。 こ の 理 由 と し て 、1000℃ の 処 理 温 度 下
で ケ イ 酸 塩 鉱 物 と 酸 化 鉛 が 反 応 し 、鉛 ガ ラ ス 等 の 鉱 物 を 生 じ た こ と が 考 え ら れ る 。
② 酸 化 鉛 と A 型 ゼ オ ラ イ ト の 固 化 体 は 、600℃ 処 理 で は 、酸 化 鉛 及 び A 型 ゼ オ ラ イ ト
の ピ ー ク に 変 化 は 観 察 さ れ な か っ た が 、800℃ 以 上 で は 酸 化 鉛 の ピ ー ク が 消 失 し 、
A 型 ゼ オ ラ イ ト の 熱 変 質 物 で あ る ネ フ ェ リ ン が 観 察 さ れ た 。鉛 を 含 む 鉱 物 と 考 え
ら れ る 新 た な ピ ー ク が 観 察 さ れ な い こ と か ら 、鉛 は 、ガ ラ ス な ど の 非 結 晶 質 の 形
態で存在していることが考えられる。
③ 酸 化 鉛 と フ ラ イ ア ッ シ ュ の 固 化 体 は 、 600℃ 処 理 で は フ ラ イ ア ッ シ ュ の ピ ー ク は
観 察 さ れ る が 、 800℃ 以 上 の 処 理 固 化 体 で は 酸 化 鉛 の ピ ー ク が 消 失 し 、 1000℃ 処
理 で 鉛 ア ル ミ ノ ケ イ 酸 塩 と 考 え ら れ る X 線 回 折 ピ ー ク が 観 察 さ れ た 。よ っ て 、フ
ラ イ ア ッ シ ュ は 800℃ 以 上 の 処 理 温 度 で 酸 化 鉛 と の 反 応 が 進 む と 考 え ら れ る 。
④A型ゼオライトと酸化鉛の他に添加剤としてアルミン酸ナトリウムおよびメタケ
イ 酸 ナ ト リ ウ ム を 添 加 し て 作 製 し た 固 化 体 の 場 合 、X 線 回 折 パ タ ー ン が A 型 ゼ オ
ライト単独の場合と大きく異なっており、ネフェリンと考えられるピークが
600℃ 処 理 固 化 体 で も 観 察 さ れ た 。 ま た 、 酸 化 鉛 の ピ ー ク は 処 理 温 度 の 上 昇 と 共
に 減 少 す る が 1000℃ 処 理 固 化 体 で も 観 察 さ れ た 。 一 方 、 い ず れ の 原 料 成 分 と も
一 致 し な い ア ル ミ ノ ケ イ 酸 塩 と 考 え ら れ る 多 数 の 未 同 定 ピ ー ク が 600℃ か ら 確 認
さ れ 、1000℃ 処 理 ま で ほ ぼ 同 じ X 線 回 折 パ タ ー ン を 示 し た 。こ の こ と か ら 添 加 剤
と し て 用 い た ア ル ミ ン 酸 ナ ト リ ウ ム お よ び メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ ム は 、鉛 と の 反 応
を阻害していることが分かった。
⑤フライアッシュと酸化鉛の他に添加剤としてアルミン酸ナトリウムおよびメタケ
イ 酸 ナ ト リ ウ ム を 添 加 し て 作 製 し た 固 化 体 の X 線 回 折 デ ー タ を 示 す 。こ の 固 化 体
の X 線 回 折 デ ー タ は 、フ ラ イ ア ッ シ ュ の み の 場 合 と 大 き く 異 な っ て お り 、ネ フ ェ
リ ン の ピ ー ク が 800℃ 以 上 の 処 理 で 観 察 さ れ た 。ま た 、1000℃ 処 理 で も 鉛 ア ル ミ
ノ ケ イ 酸 塩 と 考 え ら れ る ピ ー ク は 観 察 さ れ な か っ た 。こ の こ と か ら 、添 加 剤 と し
て ア ル ミ ン 酸 ナ ト リ ウ ム お よ び メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ ム を 加 え る と 、生 成 す る 鉱 物
も大きく変わることが分かった。
⑥各鉱物固化体のX線回折データの比較を示すると、フライアッシュのみを除き、
他の 3 ケースの主なX線回折ピークはネフェリンのピークであった。
24
Na 2 O-Al 2 O 3 -SiO 2 の 状 態 図 か ら は 、ア ル ミ ン 酸 ナ ト リ ウ ム と メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ
ム か ら ネ フ ェ リ ン が 容 易 に 作 ら れ 、 一 部 は 、 800℃ 以 下 の 融 点 を 持 っ て い る こ と
が 明 ら か に な り 、 800℃ の 処 理 温 度 以 上 で ネ フ ェ リ ン が 観 察 さ れ る こ と と 一 致 し
た。しかし、ネフェリンの存在と鉛の浸出率の間に相関性は無いため、鉛は、ネ
フ ェ リ ン に 取 り 込 ま れ て い る の で は な く 、フ ラ イ ア ッ シ ュ の み の 試 験 結 果 か ら 推
測 さ れ る よ う に 鉛 ガ ラ ス 系 の 鉱 物 と し て 安 定 化 さ れ て い る と 考 え ら れ る 。こ の 観
点 か ら 、鉛 の 安 定 化 と し て は 低 融 点 で 鉛 ガ ラ ス を 形 成 す る よ う な 固 化 材 料 で 固 化
処理することが好ましいと考える。
⑦ 浸 出 率 は 、高 温 で 処 理 す る ほ ど 浸 出 率 が 小 さ く な り 1000℃ の 高 温 で は 、 1mg/l を
下 回 る 結 果 も あ る が 、目 標 と す る 0.3mg/l を 下 回 る 可 能 性 は 見 出 せ な か っ た 。
b.セ ラ ミ ッ ク ス 固 化
① 純 水 を 浸 出 液 と し て 用 い た 場 合 、セ ラ ミ ッ ク ス ⑤ の リ ン 酸 ジ ル コ ニ ウ ム 以 外 の 固
化 体 は 、 全 て 目 標 の 0.3mg/l 以 下 を し た ま わ っ た 。 ま た 、 水 酸 化 カ ル シ ウ ム の 飽
和水溶液による浸出試験でもリン酸水素ジルコニウムのセラミックス⑤とセラ
ミックス①を除き目標浸出率を下回った。
②フライアッシュを加えた固化体と加えない固化体では、加えない方の固化体が浸
出 率 が 低 く な る 傾 向 を 示 し た 。こ の 理 由 と し て 、フ ラ イ ア ッ シ ュ で 35wt%、酸 化
鉛 を 含 め る て 52wt%の 廃 棄 物 を 固 化 し て い る こ と に な り 、リ ン 酸 カ リ ウ ム マ グ ネ
シ ウ ム お よ び リ ン 酸 水 素 マ グ ネ シ ウ ム の 固 化 能 力 を 越 え て い る か ま た は 、リ ン 酸
カリウムマグネシウムおよびリン酸水素マグネシウムの形成が十分できなかっ
たことが考えられる。
③フライアッシュと酸化鉛の混合物をリン酸水素マグネシウムで固化した固化体の
X 線 回 折 デ ー タ で は 、リ ン 酸 水 素 マ グ ネ シ ウ ム の ピ ー ク は 確 認 さ れ ず 、酸 化 鉛 と
フライアッシュのピークのみ確認された。
④酸化鉛をリン酸カリウムマグネシウムで固化した固化体では、リン酸カリウムマ
グ ネ シ ウ ム 、酸 化 鉛 の 他 、リ ン 酸 鉛 や リ ン 酸 カ リ ウ ム 鉛 と 考 え ら れ る ピ ー ク が 確
認 さ れ た 。こ の こ と か ら フ ラ イ ア ッ シ ュ が 混 合 さ れ て い る 固 化 体 と は 異 な り 、鉛
のリン酸塩が形成されている可能性があることが分かった。
⑤ 酸 化 鉛 を リ ン 酸 水 素 マ グ ネ シ ウ ム で 固 化 し た 固 化 体 で は 、リ ン 酸 水 素 鉛 、酸 化 鉛 、
リ ン 酸 水 素 カ リ ウ ム の X 線 回 折 ピ ー ク が 確 認 さ れ た 。こ の こ と か ら マ グ ネ シ ウ ム
の代わりに鉛が反応することがあることが分かった。
⑥ 酸 化 鉛 を リ ン 酸 水 素 ジ ル コ ニ ウ ム で 固 化 し た 固 化 体 で は 、X 線 回 折 ピ ー ク と し て 、
リ ン 酸 水 素 鉛 と リ ン 酸 水 素 ジ ル コ ニ ウ ム が 確 認 さ れ 、酸 化 鉛 の ピ ー ク は 確 認 さ れ
なかった。
25
⑦全てのリン酸セラミックスのX線回折データの比較すると、フライアッシュを加
え た 固 化 体 は 、酸 化 鉛 と フ ラ イ ア ッ シ ュ で 観 察 さ れ る ピ ー ク の み が 観 察 さ れ た が 、
フ ラ イ ア ッ シ ュ を 加 え な か っ た 固 化 体 で は 、固 化 体 と し て 生 成 す べ き 鉱 物 の 他 に
鉛 の リ ン 酸 塩 類 の ピ ー ク が 確 認 さ れ た 。こ の こ と は 、多 量 の 廃 棄 物 を 固 化 し た 場
合 、固 化 剤 が 全 体 に 染 み 込 む た め 、明 確 な 結 晶 構 造 が で き な か っ た こ と が 推 測 さ
れた。また、酸化鉛のみを固化した場合、固化剤成分が反応する際に、酸化鉛の
一部が反応したことが考えられた。
c.溶 融 固 化
① 純 水 を 浸 出 液 と し て 用 い た 場 合 、溶 融 ⑤ を 除 き 、 他 の 溶 融 固 化 体 は 全 て 目 標 の
0.3mg/l 以 下 を し た ま わ っ た 。 水 酸 化 カ ル シ ウ ム の 飽 和 水 溶 液 に よ る 浸 出 試 験 で
は 、フ ラ イ ア ッ シ ュ と 三 酸 化 二 ホ ウ 素 を 用 い た 溶 融 固 化 体( 溶 融 ③ 、溶 融 ④ )は 、
浸 出 し た 鉛 濃 度 が 高 く な っ た が 、リ ン 酸 二 水 素 ナ ト リ ウ ム を 用 い た 溶 融 固 化 体 の
場 合 は 、 溶 融 ⑥ の A 型 ゼ オ ラ イ ト と の 溶 融 固 化 体 で 高 い 鉛 濃 度 を 示 し た が 、他 の
固化体では目標値を下回った。
②添加剤に三酸化二ホウ素を用いた溶融固化体は、全ての固化体でX線回折ピーク
が 確 認 さ れ ず 、ガ ラ ス 質 に な っ て い る こ と が 分 か っ た 。一 方 、 リ ン 酸 二 水 素 ナ ト
リ ウ ム を 用 い た 溶 融 固 化 体 で は 、全 て の 固 化 体 で ピ ー ク の パ タ ー ン が 異 な っ て お
り、酸化鉛のピークも確認されなかった。
③A型ゼオライトをベースとした溶融固化体は、A型ゼオライトの配合を少なく、
リ ン 酸 二 水 素 ナ ト リ ウ ム を 多 く し た 場 合 、リ ン 酸 ナ ト リ ウ ム 鉛 の ピ ー ク の み が 観
察 さ れ た 。一 方 、 A 型 ゼ オ ラ イ ト の 配 合 を 増 や し 、 リ ン 酸 二 水 素 二 ナ ト リ ウ ム の
配 合 を 減 ら し た 場 合 、ネ フ ェ リ ン の ピ ー ク が 観 察 さ れ た 。 こ の ネ フ ェ リ ン は 、溶
融混合しなかったA型ゼオライトが熱変質してできたものと考えられた。
④フライアッシュをベースとした溶融固化体では、いくつかのX線回折ピークが確
認 さ れ た が 、A 型 ゼ オ ラ イ ト を ベ ー ス に し た 固 化 体 や フ ラ イ ア ッ シ ュ の ピ ー ク と
も異なり、同定することはできなかった。
(2)今 後 の 課 題
a.セ ラ ミ ッ ク ス 固 化
①セラミックス固化体の有望な固化剤として、本研究からリン酸マグネシウムカリ
ウ ム お よ び リ ン 酸 水 素 マ グ ネ シ ウ ム が 上 げ ら れ た 。ま た 、本 研 究 で は 確 認 を 行 っ
て い な い リ ン 酸 ナ ト リ ウ ム 塩 類 や リ ン 酸 ア ン モ ニ ウ ム 塩 類 な ら び に 、こ れ ら の リ
ン 酸 塩 の 複 合 塩 な ど も 有 望 で あ る 可 能 性 が あ る 。固 化 剤 の 配 合 比 は 、セ ラ ミ ッ ク
ス 固 化 体 の 性 能 に 大 き く 影 響 す る こ と か ら 、固 化 剤 の 配 合 割 合 に よ る 影 響 及 び リ
26
ン酸水素ナトリウムやこれらのリン酸塩の複合塩について調査する必要がある。
②フライアッシュを加えた固化体では、浸出率が増える傾向にあり、各固化体の廃
棄物充填能力を確認する必要がある。
③セラミックス固化体を実用化するためには、始結時間および一軸圧縮強度等の条
件 に つ い て も 満 足 す る 必 要 が あ る た め 、こ れ ら の 固 化 プ ロ セ ス 上 必 要 な 性 能 の 評
価も浸出率と平行して実施する必要がある。
④本固化体は、放射性廃棄物の固化の役割もあるため、鉛の浸出率の他に放射性核
種の浸出率も評価しておく必要がある。
b.溶 融 固 化
①添加剤に三酸化二ホウ素を用いた溶融固化体は、フライアッシュの有無によって
浸 出 率 が 大 き く 変 化 し た が 、リ ン 酸 塩 を 添 加 し た 場 合 は 三 酸 化 二 ホ ウ 素 に 比 べ て
比 較 的 安 定 し た こ と か ら 、リ ン 酸 塩 の 添 加 量 や 模 擬 廃 棄 物 の 充 填 量 を 変 え た 試 験
を行い、浸出性能への影響を評価する必要がある。
② リ ン 酸 塩 を 添 加 す る 方 法 で は 、廃 棄 物 性 状 の 変 化 に よ っ て 、溶 融 固 化 体 の 性 能 が 大
き く 変 化 す る 可 能 性 が あ る た め 、リ ン 酸 を 含 む ガ ラ ス マ ト リ ッ ク ス の 検 討 を 行 い 、
廃棄物形状に左右されにくい固化体の開発も実施する必要がある。
③ 溶 融 固 化 体 は 、鉛 の 蒸 気 圧 を 考 え る と 1000℃ 以 下 で 溶 融 固 化 体 に す る 必 要 が あ る 。
本 研 究 で は 、添 加 剤 の 効 果 に よ っ て ガ ラ ス 化 す る 方 法 を 検 討 し た が 、低 融 点 ガ ラ
ス を 用 い て 固 化 す る こ と も 考 え ら れ る た め 、有 望 と 考 え ら れ る 低 融 点 ガ ラ ス の 調
査 を 行 い 、浸 出 率 塔 の 性 能 を 評 価 し て い く 必 要 が あ る と 考 え る 。
5.
まとめ
5.1
今後の計画
(1)高 度 除 染 技 術 の 開 発
①二次廃棄物発生量の低減ならびに再利用できる金属鉛量を増やすため、スラグ剤
添加量、溶融処理温度、溶融処理時間の最適化を計りたい。
②除染する金属鉛量と除染性能との関係を明らかにし、除染装置の概念設計を行い
たい。
③実汚染金属鉛の処理試験を行い、本開発技術の実証を行いたい。
④ 本 溶 融 除 染 技 術 を 他 の 金 属 (炭 素 鋼 、 ス テ ン レ ス 鋼 、 銅 )の 除 染 技 術 の 確 立 に つ な
げて行きたい。
(2)高 度 安 定 固 化 技 術 の 開 発
①溶融除染したスラグの安定固化試験を行い、除染によって回収された放射性元素
の 浸 出 挙 動 を 評 価 し 、鉛 及 び 放 射 性 元 素 の 双 方 を 両 立 で き る 安 定 固 化 技 術 の コ ン
27
セプトを確立したい。
② 鉛 以 外 の 重 金 属 と し て 、 原 子 力 産 業 で 利 用 さ れ て い る カ ド ミ ニ ウ ム (Cd)及 び 水 銀
(Hg)の 安 定 固 化 技 術 に つ な げ て い き た い 。
5.2
得られた成果に対する自己評価
(1)高 度 除 染 技 術 の 開 発
1 回の溶融除染でクリアランスレベルまで除染することができるスラグ剤として、
メ タ ケ イ 酸 ナ ト リ ウ ム と メ タ ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ ム を 選 定 す る こ と が で き た 。本 技 術 開 発
により、金属鉛の除染技術として、溶融除染技術の有効性を示すことができ、今後、
クリアランスレベルの制定と共に金属鉛の除染ならびにリサイクルの方策を示すこ
とができたと考える。
(2)高 度 安 定 固 化 技 術 の 開 発
従 来 、 セ メ ン ト 固 化 で は 、浸 出 率 の 観 点 か ら 固 化 で き な か っ た 鉛 含 有 廃 棄 物 の 廃 棄
体として、リン酸セラミックスを用いたセラミックス固化体ならびに溶融固化体が、
廃 棄 体 と し て 有 望 で あ る こ と を 示 す こ と が で き た 。 特 に セ ラ ミ ッ ク ス 固 化 体 は 、セ メ
ン ト と 同 様 な 取 り 扱 い が で き る こ と か ら 、新 た な 廃 棄 体 化 技 術 の 可 能 性 も 示 せ た と 考
える。
以上
28
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