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「博士学位請求論文」審査報告書

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「博士学位請求論文」審査報告書
2015 年 1 月 30 日
「博士学位請求論文」審査報告書
審査委員(主査)
(副査)
(副査)
農学部
専任教授
氏名
長嶋
農学部
専任准教授
氏名
大鐘
論文提出者
2
論文題名
氏名
中野
渡邊
印
潤
研究・知財戦略機構
氏名
1
比呂志
將人
印
特任講師
印
和明
(邦文題)ブタにおける発生工学的キメリズムに関する研究
(欧文訳)Studies on developmental chimerism in the pig
3
論文の構成
本論文は 6 章によって構成される。
第1章
緒論
第2章
共通の材料と方法
第3章
内部細胞塊と単為発生胚の凝集によるキメラブタの作出
第4章
後代作出が不可能な遺伝子改変ブタへのキメラ技術の応用による有性生殖能の
回復
第5章
人工ヌクレアーゼを用いたゲノム編集による免疫不全ブタの作出とキメラ技術
を利用した免疫不全ブタの胸腺と免疫細胞の救済
第6章
4
総括
論文の概要
第 1 章は緒言であり、先端的な移植・再生医療として、幹細胞・前駆細胞の移植によ
る障害組織や臓器の機能回復、さらに異種動物の臓器を移植する異種移植などの研究が
進められている現状を背景として、これらの臨床応用を実現するためには、大型実験動
物であるブタを用いた前臨床的研究、いわゆるトランスレーショナル・リサーチが必須
1
であるという本研究の立脚点を述べている。著者らはブタにおける体細胞クローニング
や遺伝子改変、ならびにキメリズムの誘導と解析を基盤として、下記の 3 つを研究の柱
として推進した。(1) キメラ胚の形成機構の解析とこれを応用した多能性幹細胞の多分
化能の検証システムの構築、(2) キメラ技術を応用した高付加価値遺伝子改変ブタの救
済、(3) ゲノム編集技術による遺伝子ノックアウトブタの作出・解析と致死性形質を持
つブタのキメラ技術による救済である。(1) は幹細胞研究へのブタのキメリズムの応用
に関する研究、(2) は異種移植研究用遺伝子改変ブタの作出を、キメリズムを用いて促
進する研究、(3) は希少・難治性疾患モデルブタの開発と利用にはキメリズムの活用が
鍵となることを示した研究、と位置づけることができる。
第 2 章では、本研究に用いたブタ卵の体外成熟培養、体細胞核移植、胚培養、胚移植
等の方法論について詳述しており、ブタ発生工学技術の最先端の状況を明示する内容と
なっている。
第 3 章では、ブタ多能性幹細胞の多分化能の検証法の構築について述べている。人工
多能性幹細胞 (Induced pluripotent stem cells: iPS 細胞)は、いわゆる万能細胞とし
て期待されている。 しかし、真の多能性、すなわちキメラ形成能を持ったブタ iPS 細胞
の樹立報告は極めて限定的である。これに対して本研究では、ブタの多能性幹細胞のキ
メラ形成能を検証するために、ブタ単為発生胚を用いる簡便な凝集法が有効であること
を明らかとしている。本研究では多能性幹細胞としてブタ胚盤胞の内部細胞塊を用い、
それらと桑実期あるいは、4-8 細胞期のブタ単為発生胚との凝集によって、高効率にキメ
ラ胚盤胞さらにはキメラ胎仔が得られることを必要・十分な実験によって明確に示して
いる。
第 4 章では、生理機能異常を有し、かつ体細胞クローニングでは新生仔致死に至る遺
伝子改変ブタに対してキメリズムによる救済を適用することにより、正常な発育能・生
殖 能 を 有 す る ク ロ ー ン 個 体 が 作 出 で き る こ と を 述 べ て い る 。 α
1,3-galactosyltransferase 遺伝子のノックアウトに加え、human decay-accelerating
factor および N-acetylglucosaminyltransferase Ⅲ遺伝子を共発現するブタのクローン
胚と、健常個体由来の胚細胞とを用いて、前章で述べた凝集法により、キメラ個体を作
出している。このキメラ個体は正常な発育・繁殖能を有し、自然交配により健常な次世
代個体を作出した。以上から、遺伝子改変ブタの機能異常は、そのクローン胚を健常ク
ローン胚とのキメラ状態にすることによって、次世代の個体では正常化し得ることを、
膨大な実験データに基づいて証明している。
第 5 章は、ゲノム編集による免疫不全ブタの作出に関する内容である。 ブタ
Interleukin-2 receptor gamma 遺伝子 (IL2RG)のエキソン 1 をターゲットとする Zinc
Finger Nuclease の mRNA を雄のブタ胎仔線維芽細胞に導入し、遺伝子ノックアウト細胞
を樹立した。その細胞を体細胞クローニングに供して、IL2RG 遺伝子ノックアウトブタを
作出したところ、胸腺の形成不全、T 細胞および NK 細胞が欠損という重症複合免疫不全
2
症に典型的な表現型が確認された。
さらに、この IL2RG 遺伝子ノックアウトブタのクローン胚を、健常ブタ由来のクロー
ン胚とキメラ状態に誘導して正常なキメラ個体を作出した。これによって、IL2RG 遺伝子
ノックアウトという形質を、その個体の構成細胞(生殖細胞を含む)の約半数に有しな
がら、個体としては正常に生存・発育が可能な状態への誘導が可能なことを、第4章と
同様に膨大な実験によって証明している。重症複合免疫不全症は、X−関連遺伝子である
IL2RG の変異によって雄個体に生じる疾患であるので、この遺伝形質を有する雄個体を維
持することは通常は非常に困難である。本論文の内容は、キメリズムの利用によって、
致死性ともなり得る遺伝形質を有しながら健常に生存する個体の作出が可能なことを示
した、画期的なものと評価できる。
第 6 章では本研究を総括し、キメリズムを遺伝子改変動物等の作出や増殖・維持に応
用することについての展望や課題を述べている。
5
論文の特質
本論文は、ブタの初期発生ならびに個体発生過程におけるキメリズムの人為的な誘導
法を詳細に検討し、最終的には多能性幹細胞の検証にも利用し得る方法の確立に至って
いる。キメリズムの利用によって、致死性形質を持った細胞と健常細胞とによってモザ
イク状に構成される個体を誘導した場合、個体機能を正常化し得るという知見は、正常
機能を喪失した遺伝子改変個体の救済にも利用可能で有り、今後の動物遺伝子工学や生
殖工学の中で重要な意義を持つ。これらについて、ブタという大型動物を用いて独創性
の高い成果を挙げた点が、本論文の際だった特質である。
6
論文の評価
本論文を構成する各章の内、第 3 章と第 5 章の一部の内容は、既に学術誌等に掲載さ
れている。さらに、第 4 章の内容も投稿段階にあり、全体として非常に完成度の高い論
文であると評価される。論文内容の新規性、独創性と合わせて、博士の学位を授与する
に十分な業績と評価できる。
7
論文の判定
本学位請求論文は、農学研究科において必要な研究指導を受けたうえ提出されたもの
であり、本学学位規程の手続きに従い、審査委員全員による所定の審査及び最終試験に
合格したので、博士(農学)の学位を授与するに値するものと判定する。
以
3
上
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