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全ページ分 2824KB - Waseda University Library,Waseda University
No. 79
2010. 10. 21
『明月記』断簡(本文8p 参照)
『ローマ聖歌手写譜』(本文5p参照)
《目 次》
図書館学習支援活動の取り組みについて ∼2010年度前期を終えて∼・・・2
多田 智子(図書館事務副部長兼利用者支援課長)
〈事例報告〉
久保尾 俊郎(特別資料室)
〈研修報告〉
図書館による学習支援の活用:教員のFD推進にも ・・・3
嶋
磯淳の旧蔵書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
尚子(文学学術院教授)
〈資料紹介①〉
2010年度新規導入データベース紹介 ・・・・・・・・・・・・・・4
今村 昭一(図書館調査役)
〈資料紹介②〉
ローマ聖歌手写譜 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
ティムソン ジョウナス(資料管理課)
その時、書庫が動いた?! ―10年目を迎えた自動書庫― ・・・・8
岡田 広之(資料管理課)
Columbia University Libraries での研修を終えて ・・・・・12
重嶋 まみ(利用者支援課)
図書館へのオンライン申請フォームが新しくなりました ・・・14
渡邊 幸弘(所沢図書館担当課長)
最近の大口寄贈図書報告(2007.3−2010.8)・・・・・・15
資料管理課
図書館だより ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
図書館学習支援活動の取り組みについて
∼2010年度前期を終えて∼
多 田 智 子(図書館事務副部長兼利用者支援課長)
現在図書館は各学術院や学内諸機関と協力しなが
支援として、今後ますます増加することが予想される。
(個別授業・ゼミ支援受講延べ学生数:約600名)
ら、学部導入教育を中心とした学習支援活動を推進し
ています。図書館の行う学習支援は授業支援をはじめ
多様な形式で展開されていますが、2010年度前期が終
◆『わせだライフABC』コンテンツ作成協力
了した今、今年度の特徴的な活動を報告いたします。
昨年度の実験授業を引き継ぐものとしてオープン教育
センターが設置した新入生向け『わせだライフABC』コン
◆大規模授業支援 授業内容の見直しと体制強化
テンツへの作成・出演協力を行った。図書館コンテンツ
今年度も政治経済学部「総合基礎演習α」、文化構
は第3回に設置されている。教場授業として図書館情報
想学部・文学部「基礎演習」への大規模授業支援を行
リテラシーを学ぶ機会のない学生には、
どこからでもアク
った。授業支援に向けては学術院と早期から詳細な打
セスできる便利なコンテンツであるが、残念ながら現実に
ち合わせを重ね、授業内容は図書館の魅力を最大限
は更なる受講促進が望まれる状況であるとも聞いてい
伝えられるものとすることに重点をおいた。文化構想学
る。
部・文学部授業においては、図書館紹介動画の採用を
なお、
このコンテンツはオープン教育センターによる説
決定し、
コンテンツの作成(戸山図書館)
を行った。また
明部分の英語化が行われ、図書館側ではスライドの差し
授業支援サポート体制の強化(中央図書館ツアーや端
替え等、再編集にも協力した。今秋のG30をはじめとす
末実習サポート担当者の増員)
をはかり、情報検索講習
る外国人新入生・留学生たちにも有効に活用してほし
の授業回はすべて端末ルーム開催としたことなどを含
いものである。
め、
より学生に近いところで細やかな授業展開を行なえ
ることを目ざし、多くの改善に取り組んだ。結果学生・教
◆新任教員セミナー
員からも満足度の高い感想・評価を得ることができ、学
学部新入生への導入教育だけでなく、大学に新たに
術院の期待する授業支援に応えることができたものと考
着任される教員を対象としたFD推進センター主催『新任
える。
教員セミナー』が4月当初に開催された折には、図書館
また基幹理工学部の新規設置科目「コンピューティン
もスペースをいただき紹介ブースを出展した。特に学外
グと表現」においても図書館サービスと特に電子情報資
から着任された教員の方には、早稲田大学における充
源の提供の仕組みやその利用について担当教員との
実した電子情報資源とその利用についていち早く紹介
打ち合わせのもと、
シラバスに沿った授業展開を行うこと
することができた。
ができた。
(参加者数:約140名)
(大規模授業受講延べ学生数:約3,700名)
以上ごく一部ですが今年度前期の特徴的な取り組
◆個別授業・ゼミ支援申込の増加
みを報告しました。前期の活動は全62件、
ガイダンス参加
国際教養学部の「First Year Seminar」クラスや教育
者なども含めた全受講者数は約12,500人に上りました。
学部の新任教員が受け持つ授業クラス、商学部教員が
この件数増加の度合いは半期ですでに前年の1.6倍を
担当するオープン教育科目クラス、大学院経済学研究
超えています。これらの学習支援活動はほぼすべて図
科合同授業など、図書館や図書館情報資源を利用した
書館員が担当し、新入生を中心に図書館の魅力を直接
学習推進のために図書館員による授業支援を直接依
伝え、図書館情報リテラシーの充実も一定程度図れたも
頼されるケースが多くなった。これらは図書館の学習支
のと考えます。後期に向けては授業支援はもとより私た
援活動が広く教員間に認識されてきたことの表れであろ
ち図書館員自身の力量アップやweb情報の充実を通し
う。個別授業・ゼミ支援は、いわばオーダーメイドな授業
て、更なる学習支援活動を進めていく予定です。
−2−
〈事例報告〉
図書館による学習支援の活用:教員のFD推進にも
嶋
いうまでもなく、図書館は大学の知の象徴であ
尚 子(文学学術院教授)
みせる図書館等の情報検索システムは、宝の持ち
り、宝箱である。早稲田大学へ入学した学生たち
腐れになりかねない(いやすでになっている)。実
には、まず本学図書館の類まれな豊かさに触れて
は、21世紀に入る前後から、私には、ほかの研究
もらいたい。そうした願いをかなえるために、戸
者や教員がインターネットスキルをどのように習
山図書館を中心とした図書館による文化構想学
得しているのかという疑問と、自分が取り残され
部・文学部学生への学習支援は非常に有効である。
ているという不安とがつきまとっている。非常に
文化構想学部・文学部では2007年度新学部設置
効率的な情報検索サイトやエンジンがあることに
当初から、図書館の全面的協力をえて、1年生の
は気づいているのだが、実際にどう使えばよいの
必修基礎演習クラスでの学習支援を実施している。
かを積極的に学ぶ機会は逸してきた。大げさでは
2010年度には、図書館の豊かさを実感し、「使わな
なく、これはかなり深刻な問題となっていた。
い手はない」と思わせるための基礎的なAコースか
もはや、おそるおそる試みる程度ではとても使
ら、文献情報検索のスキルの初歩を身につける検
いこなすまでには達しないことは、明白であった。
索演習のCコースまで3コースを設け、4分の3
そこで、2007年から指導クラスの3年生、4年生、
以上のクラスが受講している。詳細は、
「ふみくら」
大学院生を巻き込んで、専門である社会学に関す
78号で戸山図書館担当課長から報告されていると
る情報検索の講習企画を戸山図書館にお願いし、
おりである。
毎年1回これまでに4回実施していただいた。
お蔭様で3年生と4年生には、情報収集スキル
Aコースでの中央図書館ツアーは、ガイド役の図
書館職員の方々がいかに図書館を愛しているか、
が身につき始めている。卒業論文でも参考引用文
大切にしているかに触れる機会である。これまで
献は、単行本に集中するのではなく、ようやく
3名の方のガイドを受けたが、三人三様の味があ
CiNiiなどを利用して学術論文を中心とするものへ
って、実に楽しい。そしてその想いは学生たちに
と変わりつつある。また、検索結果をRefWorksを
も十分に伝わっている。またツアーでは、特別資
用いて管理する習慣も身につきつつある。かつ剽
料室、貴重書庫、AVルーム(豊富なAV資料とAV
窃等に関するマナー、倫理の理解へとつながって
ブースはたいへん魅力的だ)、雑誌バックナンバー
いると確信している。残るは文献を読みこなすス
書庫、展示室など、図書館の施設として新入生の
キルを専門演習で学ぶことであり、これは私の課
頭にはなかったようなものも紹介してくれる。
題である。
BコースとCコースは、PCを使っての情報検索で
そして肝心の私であるが、ご想像のとおり、毎
あるが、こちらは実のところなかなか難しい。1
年、学生のヨコでこっそりと誰よりも真剣に受講
年生の場合には、ITスキルと関心に個人差が大き
している。情報検索サイトが毎年豊富になってい
いこと、また情報検索の必要に迫られていないこ
くなかで、なんとか最低限のスキルの維持を果た
となどが主因で、貴重な説明が素通りしてしまう
しているのである。一番の効果は私自身だろう。
という懸念がある。この種の講習はタイミングが
「学生のため」を大義名分にしつつ、FDの一環と
非常に重要であるが、他方では、早い時期にその
して、私のような(?)教員の方々にはぜひとも
一端を知っておくことの効果も重視すべきである。
お奨めしたい。
この点は担当教員の判断にゆだねられている。
さて、必要に迫られた場合であるが、私のよう
に、ITスキルに長けておらず、また関心自体もそ
れほどが高くない研究者にとって、急速な進歩を
−3−
〈資料紹介①〉
2010年度新規導入データベース紹介
今 村 昭 一(図書館調査役)
2010年度より全学で利用可能になったデータベースの
6.The Statesman’s Yearbook Online
一部を簡単にご紹介します。
同名の年鑑のオンライン版です。歴史、統計、政治、経
済、文化等、各国の概況を調べることができます。
1.Bibliography of British and Irish History
(BBIH)
7.World Higher Education Database Online
英国王立歴史学会編になる英国およびアイルランド史
に関する文献情報です。
“International Handbook of Universities”のオンラ
イン版。180カ国以上の高等教育機関に関する情報を
掲載しています。
2.聞 蔵Ⅱビジュアル プレミアムバリューパック
朝日新聞のデータベース聞蔵Ⅱビジュアルに「明治・
8.ProQuest Dissertations & Theses Full Text
大正紙面データベース」
「昭和(戦前)紙面データベース」
「人物データベース」
「朝日新聞歴史写真アーカイブ」が
追加されました。
主に北米の大学院からの受理済み学位論文(修士・博
士論文)データベース。1997年以降、著者の許諾のあるも
のについては全文を収録しています。
これまで抄録まで利
用できていたものをフルテキストにバージョンアップしました。
3.Factiva.com
世界各国の新聞、業界紙、雑誌などのニュースから、
9.Blackwell Reference Online
企業情報、
マーケット情報など多岐に渡るビジネス情報。
オンライン版レファレンスワークス382タイ
トル。人文社会
ニュース映像、写真、
ポッドキャストなどのコンテンツを幅広
科学およびSTMの分野に広くまたがる主題を取り上げ
く利用できます。
ています。
4.NewspaperDirect
10.Cambridge Companions Online
世界各国の新聞の全紙面イメージ情報を提供するもの
Cambridge University Pressが出版するブックシリー
です。最新60日間まで利用できます(一部の新聞を除く)。
ズCambridge Companionsのオンライン版。
5.British Newspapers 1600-1900
11.Cambridge Histories Online
英国で17世紀から19世紀にかけて発行された新聞約
同じくCambridge University Pressの歴史学のレファ
1,300紙のデータベース。British Library所蔵のBurney
レンスシリーズCambridge Historiesのオンライン版です。
Collectionを基に作製されたものです。
12.Koreanstudies Information Services(KISS)
韓国学術雑誌データベースです。韓国の学会および
研究所が発行する学術雑誌1,300誌以上を収録してい
ます。
13.DBpia
同じく韓国の学会誌のデータベースです。上記の
KISSと併せて導入したことで韓国の学術雑誌の充実
画面例:BRITISH NEWSPAPERS 1600-1900
化をはかることができました。
−4−
〈資料紹介②〉
ローマ聖歌手写譜
テ ィ ム ソ ン ジ ョ ウ ナ ス(資料管理課)
早稲田大学図書館は昨夏、本学名誉教授である
唱法に基づいて五線譜へ移譜したものを掲載する。
○
森田貞雄先生より、北欧関係の研究書を含む、多
今回ご寄贈いただいたローマ聖歌の手写譜は、
数の洋書、貴重資料をご寄贈いただいた。今回は
それらのうちの一つである、ローマ聖歌の写本零
58×42cmのヴェラム(羊・犢皮紙)を使用したも
葉について紹介する。
のであり、表裏合わせて4ページ分にわたってい
る。音符の形状、歌詞の筆跡、花文字や周辺の装
○
ローマ聖歌とは、一般的にグレゴリオ聖歌とい
飾などから推察して、およそ15世紀中期から16世
う名前で知られているもので、ローマ・カトリッ
紀前期にかけて、イタリア北部、現在のオースト
ク教会において用いられる典礼音楽であり、ラテ
リア地方、あるいは南ドイツで書かれたものと思
ン語で歌われ、教会旋法によって律せられた単旋
われる。なお、ここに掲載されている聖歌に、
律音楽である。
IntroitやGrの文字が確認できることから、これは
ローマ聖歌はネウマ譜と呼ばれる記譜法によっ
て書かれている。ネウマ譜といっても、9世紀あた
ミサのための聖歌ということが分かる(次項を参
照)。
○
りに使用されていたネウマ譜は、左から右へ、曲
線と直線のみで音の流れを単純に記したものであ
さて、零葉の見方であるが、譜面の中に
ったが、その後、基準となる音程の位置を一本の
‘Introit.’、‘Gr.’、‘V.’、‘Ps.’と(赤)色で記さ
線で表すようになり、それが発展した結果、およ
れているのは、それぞれ入祭唱(イントロイトゥ
そ13世紀あたりから、今回の譜面のように、4線に
スIntroitus)、昇階唱(グラドゥアーレGraduale)、
四角と菱形の音符を使用した記譜法になった。ま
聖句(ヴェルススVersus)、詩篇(プサルムス
た、13世紀以後この記譜法は、ヨーロッパ各地共
Psalmus)を意味する。また、零葉の左端にあるロ
通の譜面となった。なお、譜面のところどころに
ーマ数字は、フォリオ番号である。一般的にフォ
見られる、
の記号は、音部記号であり、そ
リオ番号は、レクト(表)に付されることが多い
れぞれ、C(ハ)とF(ヘ)の音を表している。つ
が、ヴェルソ(裏)に付される場合も決してない
まり、第3線の上にCの記号がある場合、これは
わけではない。フォリオ42のヴェルソと43のレク
曲中の基準となる音程(C音)を第3線に設定す
トが見開きになっているところから、この零葉は
る、ということを意味している。この記譜法では、
羊皮紙6枚で一つのファシクルを構成した冊子の4
音の高さ(音高)は明確に示されているが、音符
番目のファシクルの一番内側の零葉であるものと
の長さ(音価)が不明確であるため、現在いくつ
推察される。
や
かのリズム理論が考えられている。それらは、音
零葉を見る限りでは、入祭唱は一つ、昇階唱は
符によって音価に違いがあるという考え方と、す
二つ確認できる。なお、入祭唱は、ミサの導入で
べての音符が等しい音価であるという考え方に大
歌われるもの、昇階唱は、福音書の朗読に先立っ
別される。後者の歌い方の代表的なものがソレム
て歌われるものである。
○
唱法と呼ばれる、19∼20世紀にかけて、フランス
のソレムにある聖ペトルス修道院で研究され、体
ここで各曲の詳細を見ていきたい。まず、それ
系化されたリズム理論である。なお、このソレム
ぞれの曲をIndex of Gregorian Chantなどのカタロ
唱法は、現在、絶対的な規範ではなくなってきて
グを活用して、他の資料や校訂譜などと照合する
いるが、今回においては、資料の紹介ということ
と、これらの聖歌は殉教者ミサのための曲である
もあり、あくまで参考として、ネウマ譜をソレム
ことが分かる。なお、判明している限りでは、入
−5−
○
祭唱‘Gloria et honore’は、聖バシリデス(6月12
今回の新収資料については、まだまだ説明すべ
日)、聖ゴルゴニウス(9月9日)のミサ、昇階唱
‘Beatus vir’は、聖ヴァレンティヌス(2月14日)、
きことはあるのだが、紙面の制約もあり、大まか
聖マタイ(9月14日)のミサにおいて使用される
ではあるが、ここで一旦終えることとする。ミサ
曲である。
の式次第を踏まえての具体的な解説などを行うに
入祭唱は、交唱(アンティフォナAntiphona)、
詩篇唱、頌栄唱(ドクソロジアDoxologia)、交唱
は至らなかったが、今後、機会を見つけて追って
紹介していきたい。
の形式をとる。入祭唱‘Gloria et honore’(表紙写
なお、音楽も政治や文学、宗教などと同様に歴
真左、譜例①)においては、歌詞のmanuum
史を映し出す鏡であるので、今回の零葉のご寄贈
tuarumという部分までが交唱、Domine Dominus
をきっかけに、本学での音楽学に対する熱がさら
からuniversa terraまでが詩篇唱となる。ちなみに、
に高まることを期待したい。
この入祭唱においては、第一旋法が使用されてお
り、また、交唱部分の歌詞は詩篇第8篇の第6節、
(歌詞意訳)
詩篇唱の部分は詩篇第8篇の第1節からとられて
(Justus non conturba)bitur quia dominus firmat
いる。なお、詩篇唱が終わった後に、Gloriaとのみ
manuum eius tota die miseretur et comodat et
書かれた部分があるが、これは頌栄唱の歌いだし
semen eius in benedictione erit in eternum
の部分である。この頌栄唱には幾通りかの旋律が
conservabitur. (Ps) Noli emulari in malignaitibus
あるが、唱者は、この譜面に書かれている歌いだ
neque zelaveris facientes iniquitatem.
しの部分を見て、どの旋律の頌栄唱を歌うのかを
正しい人は、迷うことはないであろう。なぜな
判別する。なお、この譜面に記されている頌栄唱
ら、主がその者の手を取っていて下さるからであ
は掲載した譜例(省略された部分は復元して角カ
る。毎日憐んで、貸し与える者は、その子孫が祝
ッコ内に示した)を参照されたい。
福され、永遠に神の守護のうちにあるであろう。
さ て 、 そ う す る と 、 こ の 入 祭 唱 ‘Gloria et
honore’に先立つ聖歌の最後(フォリオ42裏の最上
(Ps)悪事でもって人と競ってはならない。また、
不正を図る者を嫉んではならない。
部)にも頌栄唱があることから、この聖歌も入祭
Gloria et honore coronasti eum et constitiusti eum
唱であることがわかる。この歌詞は交唱の部分は
super opera manuum tuarum. (Ps) Domine
ローマ詩篇(通常ヴルガタ聖書に収録されている
Dominus noster quam admirabile est nomen tuum
のは、ガリア詩篇)の詩篇第36篇の第24、26、28
in universa terra.
節からとられていることがわかり、Justus non
栄光と誉れのうちに、(人に)冠を戴かせ、(人
conturbabitur...(④, 譜例④)という歌詞で始まる
を)あなたの御手によって創られたものの上に置
入祭唱であることがわかる。また、この曲も第一
いた。(Ps)主よ、私達の主よ。あなたの御名は、
旋法が使用されており、詩篇唱における歌詞は、
全ての地において賞賛に値します。
詩篇第37章の第1節からとられている。なお、こ
Beatus vir qui timet dominum in mandatis eius
の曲は聖ヘルメス(8月28日)のミサのためのも
cupit nimis. (V) Potens in terra erit semen eius
のである。
generatio rectorum benedicetur.
主の戒めにおいて主を畏れ、主を深く愛する者
続いて昇階唱に移るが、昇階唱は応唱という、
独唱者と合唱の交互で歌う形式をとる。昇階唱
は幸い。(V)彼らの子孫は、地において力を持ち、
‘Beatus vir’(表紙写真右、譜例②)は第五旋法が
正しい者達の世代となるであろう。
使用されており、歌詞は詩篇第111篇の第1∼2節
か ら と ら れ て い る 。 な お 、 昇 階 唱 ‘Gloria et
honore’(③, 譜例③)も第五旋法が使用されてお
り、歌詞は、入祭唱‘Gloria et honore’に同じく、
詩篇第8篇の第6節からとられている。
−6−
〈表紙画像次頁〉
③
譜例①
④
譜例②
譜例④
譜例③
−7−
その時、書庫が動いた?!
―10年目を迎えた自動書庫―
岡 田 広 之(資料管理課)
サービス開始10年目を迎えた「自動書庫」
いるのか」、「トラブルへの対処」、「他大学の状況
中央図書館内に設置されているWINE検索用パ
ソコンで外国語図書を検索されたことのある方な
はどうなのか」に絞って現在の状況を記してみま
す。
らば恐らくどなたでも、「配架場所」に「中央/1F
自動書庫」という表示があり、その横に「取出し」
貸出までの所要時間
というボタンがあるのをご覧になったことがある
地下3階にある自動書庫には、コンテナと呼ばれ
かと思います。この表示はWINE検索の結果見つ
る幅27cm×長さ75cm×高さ16cmの箱21,840個に、
かった図書が、中央図書館地下3階にある自動書庫
図書が順不同で収められています。前述の「取出
に収蔵されていることを意味しており、利用者の
し」ボタンを利用者の方がクリックしますと、シ
方は「取出し」ボタンをクリックするだけで簡単
ステムが図書に貼付されているBook IDで請求のあ
に、該当図書を図書館1階にある研究書庫カウンタ
った図書を瞬時に探し出し、当該図書が収められ
ーで受け取ることができます(実際の収蔵場所は
ているコンテナのIDを突き止めてそのコンテナご
地下3階ですが、受取り場所が1階であることから
と研究書庫の裏手にある図書の取出し口まで自動
「配架場所」は「中央/1F」となっています)。こ
的に運び出す、という仕組みになっています。「取
のサービスは当初「早稲田大学統合マルチアーカ
出し」ボタンのクリックから研究書庫に図書が届
イビングサービス」(Integrated Multi-Archiving
くまでの時間は平均3分から5分程度。まれに「取
Service : IMAS)の一翼を担う「フィジカル・アー
出し」請求が集中してなかなか図書が出てこない
カイブ」として構想され、およそ2年の準備期間を
こともありますが、「取り出すまでに時間がかかり
経て2001年4月から開始されたもので、今年でちょ
すぎる」というクレームはほとんど聞きません。
うど10年目を迎えました。
図書が開架書庫に配架されている場合でも、
(注)
自動書庫の収蔵可能冊数は約50万冊と想定され
WINEで必要な図書を検索したのち、広い書庫の
ていますが、2010年3月末現在の収蔵冊数は
中で所在を探し出し、時には踏み台を使って上層
280,413冊。10年の歳月を経て、想定冊数の半分を
にある図書を取り出して貸出カウンターまで行く
越えたことになります。主たる収蔵対象である外
…という過程にかかる時間と比べてみると3∼5分
国語図書のほかにマイクロフィルムやSPレコード
はむしろ早く、高齢者の方などには身体的にも楽
等も収蔵され、次第に狭隘化してきた図書館の書
ではないかと思われます。
庫スペースを有効に利用するうえで欠かせない存
在となっています。年間の取出し冊数は6,700∼
書庫スペースの有効活用
10,000冊。うち2,700冊∼3,600冊が館外貸出されて
図書館の開架書庫は、誰もがよく知っているよ
います。サービス開始直後は図書のブラウジング
うに、一定の規則に従って図書が分類され、図書
ができないことからサービス低下に繋がるのでは、
の分類をもとにした請求記号というものがそれぞ
という懸念も一部にありましたがそのようなこと
れの図書に与えられて、請求記号順に図書が並べ
も大きな問題とはならず、自動書庫サービスは利
られています。これがときに、書庫管理担当者の
用者の方々に着実に定着してきたように思われま
大きな悩みの種になることがあるのです。図書館
す。その中から生まれてきたいくつかの問題のう
では日々、新たな図書を受け入れて書架に配架し
ち、「自動書庫収蔵資料の貸出までの所要時間はど
てゆくわけですが、新たな受入れ図書の置き場所
うなのか」、「自動書庫はスペースの節約になって
を確保するためにそれぞれの分類のあとに一定の
−8−
スペースを空けておかなければなりません。しか
早稲田から筆者を含む2名が参加しましたが、その
も、新たに配架される図書の厚さや分類ごとの分
際報告された実例をご紹介します。
量は全く予測がつかないので、ある分類の図書を
ひとつは、「自動書庫への非製本雑誌の収蔵」で
収めるスペースがなくなって前後の書架にある図
す。早稲田大学では、利用度が相対的に少ない外
書を移動しなければならなくなったりします。一
国語図書とマイクロフィルム等を自動書庫への収
方自動書庫は、利用者の方が直接書庫に入ってブ
蔵対象としてきましたが、ある医科大学図書館で
ラウジングをしたりすることがないので図書の並
は雑誌を製本せず、そのまま自動書庫に収蔵して
び順はどうでもよく、空いているコンテナに適当
いました。その理由は、雑誌を製本すると重たく
に入れておけばよい、という発想で作られていま
なるし、厚みが増すので余分なスペースを取って
す。利用者の方が直接図書を手に取って見られな
しまう。また、雑誌の場合多くの利用者が必要と
い弱みはあるものの、どんなに図書が増えていっ
するのは一部の論文だけなので利用上は製本の意
ても端から図書を機械的に詰めてゆくことができ、
味がない。さらに、開架書庫に置いておいたので
書庫スペースの有効活用のため自動書庫は大きく
はある雑誌がどのくらい利用されているのか機械
貢献していることは確かです。
的に統計を取ることができないが、自動書庫に収
めれば出納の記録をシステムが取ってくれるので
唯一の悩みの種はトラブルの多さ
便利、という報告もありました。まさに目からウ
このように自動書庫はいくつかのメリットを図
書館にもたらしていますが、唯一の悩みの種は、
ロコの発想で、同じシステムを利用していても全
然違う使い方もあるものだと感心しました。
もうひとつは、「自動書庫内の不明本発生」で、
システムのトラブルが多いことです。システム稼
働直後からそうした問題はあったのですが、稼働
複数の大学図書館から報告されていました。利用
後10年を経た現在でも状況はさほど変わっておら
者の方がある図書の閲覧を終えて自動書庫にその
ず、月に1∼2度は必ずといっていいほどシステム
図書を戻す際、図書館の係員がBook IDをスキャナ
停止が発生しています。プログラム上の簡単なエ
で読み取り、システムに図書が戻ったことを伝え
ラーの場合は設計業者がリモートコントロールに
たうえでコンテナに収める、というのが正規のや
よって修正することもありますが、多くの場合設
り方ですが、係員の過失によってまれに、Book ID
計業者が来館し、時には深夜までかかって問題箇
が読み取られないまま図書がコンテナに収められ
所の修復を行なうといったことも少なくありませ
てしまうことがありえます。そうするとシステム
ん。設計業者はトラブルを未然に防ぐために年に
がその図書は戻っていないと認識しているにも拘
一度メンテナンスを行なってはおりますが、それ
わらず図書が自動書庫内に収まってしまい、なお
でもトラブルはあとを絶たない状況です。システ
かつシステム上の記録が残らないので、どのコン
ムが停止しますと自動書庫に収められた図書が全
テナにその図書が入ってしまったのか全く分から
く利用できないので利用者の方々にこの上ないご
なくなり行方不明となってしまいます。これは他
迷惑ご心配をおかけすることとなり、図書館とし
人事ではありません。すでに書庫に入っている28
ても大変苦慮しているところですが、今のところ
万冊の中から行方不明図書を探しだすことは広大
トラブルを100%なくす術はなく、トラブルが発生
な砂漠の中で1円玉を探すようなもので、かなりの
した際にいかに修復を早くするかに腐心している
労力を要します。図書を利用者の方が手に取って
のが実情です。
見られない分、データは常に完璧でなければなり
ません。こういった事故が起こらないよう、今後
他大学での実例
とも心して業務にあたってゆきたいと思います。
同じ自動書庫のシステムを他大学図書館ではど
のように利用しているのかは、興味深いところで
(注)IMASの導入については2000年度早稲田大学図書館年報に詳細
す。昨年、首都圏で自動書庫を利用している図書
館の代表が一堂に会して「ユーザー会」が開かれ
−9−
な報告があります。
磯淳の旧蔵書
久 保 尾 俊 郎(特別資料室)
明治九年十月、福岡県秋月で起こった明治政府へ
かにしたい気持ちになった。今日『新編蔵書印譜』のよ
の不平分子の反乱に、主謀者の一人として参加した元
うな著名な蔵書家の蔵書印を載せた印譜に、
「秋月春
秋月藩士磯淳(1827−1876)は、戦いに利あらず江川
風樓磯氏印」の磯淳の印を見出すことができる。春風樓
谷において自決した。磯はその際、妻に宛てた遺書の
は磯の斎号であったのであろうが、師藤森天山の号春
最後に、家の宝物として「古写本玉篇」
「皇侃写本」の
雨樓にちなんだものと思われる。
二点の蔵書を挙げた
(『西南記伝』)。その前者が、現在
早稲田大学図書館の貴重書庫に収蔵されている国宝
『玉篇』巻第九、一巻である。磯の無念の死後『玉篇』
は、家族から磯の師藤森天山の同門である川田甕江に
保管を依託され、川田の娘婿早稲田大学元教授杉山
令吉の仲介で、明治三十九年、宮内大臣で蔵書家であ
った田中光顕に渡った。それが大正三年十一月に、田
中伯から早稲田大学図書館に寄贈されたのである。こ
の磯淳が所蔵した『玉篇』が早稲田大学図書館に帰し
た経緯については、受贈の時の図書館長市島謙吉が
日記や随筆に詳しく記している
(『雙魚堂日載』
「早稲
田大学の二大奇書」)。
初唐時代の写本である『玉篇』は、中国本土では早
く散逸し、館蔵に帰したのは巻第九の断簡で、
わが国に
『玉篇』巻第九
将来されたものの一部である。治安元年の識語を持つ
磯淳の旧蔵書は、地元にのこされたものでは、秋月郷
紙背文書から、
平安京の寺院に蔵されていたと考えられ、
江戸末期には京都の書肆銭屋惣四郎のもとにあった。
土資料館の平陽文庫中に、
『諸葛孔明伝注』
、
『宋名臣
文化三年六月、伊沢蘭軒がこれを目にしている
(『長崎
言行録』
『孔子家語』
、
『近思録』
、
『薜文清公従政名言』
、
、
紀行』)。その『玉篇』を、明治維新後の元年から三年に
『靖献遺言』など十一部がある、
という報告がある
(岡村
かけて京都に出ていた磯淳のもとに、
「ある一僧」が携帯
繁「筑前秋月藩の漢学と教育」)。ただしこれには「浦泉
してきたのを購い、磯はその死まで八年ほど
『玉篇』を所
磯」の印が押されているらしく、
これらが磯淳旧蔵書なの
蔵していたことになる。
か明らかではない。
磯淳は文政十年秋月生れ、初名は信蔵。江戸に出
「秋月春風樓磯氏印」の印を持つ磯淳の旧蔵書の
て大橋訥庵、藤森天山の門に学び、業なって秋月に帰
多くは、今日、伊勢の神宮文庫と九州大学附属図書館
って藩校稽古館の教授となった。維新後、徴されて京
の文庫群の中に見出すことができる。
神宮文庫の分は、元秋月藩士で磯の居宅のあった秋
都に出て大学校の助教となった。帰郷後は出仕せず、
明治四年から九年にかけて家塾春風樓を開いて、秋月
月鷹匠町生れの江藤正澄(1836−1911)の手に渡った
の乱に参加するまで旧藩の子弟の教育にあたっていた
ものである。江藤は磯より九歳若く、弘化三年、十一歳
で稽古館に入門して四書五経をならったが、磯はその素
(『西南記伝』
)。
読の師であった。江藤は勤皇の志士として維新前後の
〇
筆者は、磯淳が死に際して挙げたもう一点の書物「皇
動乱に関与し、明治初年京都で磯に会い、磯の説愉で
侃写本」の行方を調べているうちに、他の磯旧蔵書がい
帰郷している。江藤は明治十年十一月、福岡簀子町に
くつかの図書館に現存することを知り、
その所在を明ら
居をかまえ、東京・京都・大阪三都の間に集めた蔵書
−10−
経
』、
『七経孟子考文補遺』、
『春秋公羊註疏』、
『春
秋穀梁註疏』
、
『東莢呂先生左氏博議』
、
『王耕野先生讀
書管見』
(写本)、
『経傳釈詞』、
『周官精義』など二十八
部。
平戸藩儒学者楠本碩水(1832−1916)の碩水文庫中
に、
『周禮』、
『公羊禮説・公羊問答』、
『融堂書解』の三部。
楠 本 碩 水 の 縁 戚 にあたる平 戸 藩 士 近 藤 畏 斎
(1832−1916)の近藤文庫中に、
『太極図説講義』
(写
本)
、
『讀小學記』
(写本)
、
『社倉私議』の三部。
八女酒井田の漢学者樋口真幸(1835−1898)の樋
口文庫中に、
『皇清経解』一部がある。
これらの人々は磯淳と年齢が十歳は違わない、壮年
期に幕末維新の激動期を生きた磯の故郷から遠くない
地の人々である。このうち楠本碩水は京都に磯と同時
期に出て、二人は交流しており
(『碩水先生日記』)、最
東洋文庫蔵『論語集解』
も多く磯の旧蔵書を持つ宗盛年は、明治三十五年の私
一万五千巻を資本として古本屋を営んだ。秋月で磯が
立福岡図書館の設立に、江藤正澄とともに協力参加し
自決した翌年のことである
(「江藤正澄略伝」
「江藤正澄
た人物である
(筑紫豊「私立福岡図書館々史」)。
他に筆者が今までに知ることが出来た磯旧蔵本に、東
略伝草稿」
)。
江藤正澄が磯淳の旧蔵書を手に入れた事情はわか
洋文庫蔵『論語集解』
、筑波大学中央図書館林泰輔旧
らないが、江藤は明治二十九年十二月に、伊勢徴古館
蔵
『天文版論語』
、
宮内庁書陵部蔵
『慶長版論語集解』
、
へ生涯の収集品の大部分を奉納した。その図書の多く
弘文荘古版本目録『正平版論語』各一部がある。
〇
が現在の神宮文庫に移管され、中に江藤正澄の所蔵を
示す「江藤文庫」の印、磯の所蔵を示す「秋月春風樓
以上挙げてきた書物だけでは磯淳旧蔵書の全貌が見
磯氏印」の印をもった本が含まれているのである。現在
えたとはいえないが、磯淳の蔵書は、藩校稽古館教授で
筆者が知りえたのは、
『翻刻論語』、
『周易』
(室町期写
あり私塾春風樓の主であった人物にふさわしく、経書を
本)、
『論語集解』
(室町期写本)、
『論語義疏』
(室町期
中心にした唐本が多かった。中には古写本、古版本の稀
写本)
、
『爾雅』
(南北朝期刊本)の五部である。
しかし神
書にあたる本も含まれている。そして、
いくらかでも旧蔵書
宮文庫の漢籍を詳細に調査された長沢規矩也氏は、江
の所在があきらかになり、
しっかりと保管されていることを
藤文庫中に「秋月春風樓磯氏印」の朱文長方印のある
確認できることは、死を迎えるに際して、家の宝として『玉
本が「往々ある」と記している
(『神宮文庫漢籍善本解
篇』
という書物を挙げるほどの愛書家であった磯淳の、無
題』)。また江藤は、明治三十五年三月に、太宰府神社
念の思いの一端を晴らすことになると思われる。
にも収集品を献納しており、江藤正澄識語本などにまじ
って金沢文庫旧蔵『孟子』一部の磯旧蔵本がある
(『太
≪参考文献≫
筑紫豊『江藤正澄の面影』
、秋月郷土資料館、昭和44年。
宰府天満宮蔵書目録』)。
山根泰志「忘れられた文庫たち−中央図書館所蔵幕末明治期漢学者旧蔵
〇
書群−」
(「九州大学附属図書館研究開発室年報2008/2009」
、2009年、所
以上のほかに、九州大学附属図書館の磯と同時期を
収)。
生きた学者・武士達の旧蔵書中にも、多数の「秋月春風
樓磯氏印」が押印された図書があることが、2009年3月に
公開された
「九州大学所蔵コレクション目録データベース」
「九州大学蔵書印データベース」などによって知られる。
すなわち、福岡藩修猷館教授宗盛年(1824−1904、号
逍遥)の逍遥文庫中に、
『 尚書日記』、
『 太玄経』、
『易
−11−
〈研修報告〉
Columbia University Libraries での研修を終えて
重 嶋 ま み(利用者支援課)
研修の概要と課題
アンに求める風潮もあった。
北米のライブラリアンもまた、
2010年1月5日∼3月30日の約3ヶ月間、人事課の研
変化のときを迎えているようであった。
修制度を利用して北米の大学図書館に滞在し、日本
の大学図書館の「お手本」でありつづけるその姿を見、
初年度教育・新入生支援
聞き、体験した。1、2月は主にNew York州のColumbia
近年、早稲田大学でも全学的に取り組みを強化して
University Libraries(以下、
コロンビア大図書館)に
おり、北米では以前から盛んに行われている新入生を
て業務の細かなやり方、取り組みの背後に存在するニ
中心としたリテラシー活動についても、
そこに込められ
ーズやポリシーを学んだ。3月はアイビー・リーグを中心
た思いに触れることができた。
とした6つの大学図書館を訪問するとともに、北米大学
コロンビア大学では、学部の新入生を対象に“The
図書館のライブラリアンのための会議にも参加すること
Core Curriculum”を実施しており、
その運営を図書館
ができ、多様な取り組みや大学図書館全体が抱える問
が 一 手 に 引き受 け て いる 。Reading, Thinking,
題について理解し、肌で感じることができた。
Discussingの3つに重点を置いたこのプログラムを通
して、新入生は大学生として必要な学習・研究能力を
スタッフの専門性
身につける。
2ヶ月間滞在したコロンビア大図書館では、
そこで働
受講生は、自分の専門や所属学部が何であるかは
くライブラリアンの専門性の高さと多様さに驚かされ
関係なく、全員が同じ図書を読むところからこのプログ
た。プロフェッショナル・ライブラリアンと呼ばれるスタッ
ラムをスタートさせる。
「世界各地から集まった約1000人
フは、採用の時点ですでに博士号を取得しているほど
の新入生が同じ図書を読み、共通の話題を持つこと
の専門知識を持っていながら、
さらに、大学の授業を履
で、
コミュニティーを形成する助けになりたい」
と話して
修できる制度を活用したり、
オンラインのトレーニングプ
くれた学部生支援専門のライブラリアンの、学生に寄り
ログラムを受講したりと、恒常的にスキルアップを図る
添うような姿勢が非常に印象的であった。
姿が見られた。彼らの高い能力は、特別な研修制度に
よって築かれているのではなく、日々の自己研鑽の積
み重ねによるものであるという事実を知ることができ
た。
これほどまでにスキルアップを必要とする理由の1つ
に、日本とは大きく異なる人事制度がある。昇進を望む
者は、自分の業績(査読つき学術雑誌への論文掲載、
大規模な会議の主催実績、図書館内ワーキンググルー
プでの活躍等)
を昇進の審査を行う委員会に提出し、
認められた者だけが昇進を許されるという仕組みであ
る。プロフェッショナル・ライブラリアンであっても、
この審
コロンビア大メインキャンパスの中央で24時間開館し
寮生たちの「勉強部屋」の役目も果たすButler Library
査なくして給与が増えないという厳しい仕組みが、図
書館員の日々の努力を後押ししている一面がある。
しかし、
近年の図書館を取り巻く環境の変化に伴い、
顔の見えるサービス
限定された分野の専門的知識や能力よりも、分野横断
図書館員は何をしているのか、
と常に問われる日本
的な浅くとも広い知識やコンピュータスキルをライブラリ
と異なり、北米のライブラリアンは「透明性」の意識を非
−12−
常に強く持っていると感じた。多くの図書館では、
ライ
という機能を図書館から排除してしまおうという耳を疑
ブラリアンの名前、連絡先、専門の学問領域等の情報
うような計画をいくつも耳にした。予算の大幅カットは
をweb上で公表しており、顔写真まで掲載している場
当たり前、
その高い専門性が図書館を支えてきたはず
合すらある。書架が並ぶ利用者スペースにライブラリア
のライブラリアンがある日突然大量にクビになるという
ンのオフィスが設置されており、
オフィスアワーに個別相
現実がそこに存在していた。常に北米大学図書館の
談ができるように整備されていることも珍しくない。所
後姿を追ってきた日本の大学図書館も追随していくの
属学生の少ない大学院の図書室のライブラリアンの中
だろうかと不安にならざるを得なかった。
には、学生全員の研究テーマを把握し、
「役に立ちそう
しかし、予算が少ない状況下にあっても、
ライブラリア
な資料を見つけては連絡しているんだ」と教えてくれ
ンの創意工夫でお金をかけずに新規サービスを開始
た人もいた。
したり、
システム開発に学生の手を借りて費用を抑えた
これほどまでの情報公開、1対1のサポート体制に初
りする姿も多く見ることができた。あるライブラリアンの
めは抵抗を感じた。
しかし、学生や教員が自分と専門
「経済不況を一過性のものと考えず、
これからもずっと
の近いライブラリアンに個別にサポートを求め、
それに
続くものだと考えるべき」という発言は、経済状況の深
応え、パートナーとして確固たる関係性を築いている様
刻さとともに、苦しい状況にあっても高いサービスを目
子を見聞きし、帰国する頃にはその環境をうらやましく
指す方向へ 考えをシフトさせているライブラリアンの強
思うまでになった。
さも感じさせるものであった。
大学の価値を左右する図書館
3月に訪れたマサチューセッツ工科大学
(以下、
MIT)
では図書館を一般開放しており、高額なデータベース
や電子ジャーナルの使用を広く一般に認めている環
境に驚かされた。
「MITの周りにはIT関係の中小企業
が多く存在していて、高額な電子資料を利用するため
MITの図書館を訪れる人々との間につながりが生まれ
ている。図書館の開放は運営上難しい面もあるが、や
めてしまえば彼らは他の場所へ行ってしまうであろう」
というライブラリアンの言葉が印象的であった。
コロンビア大図書館では、卒業しても使える電子資
Harvard Law School Library
料の情報をまとめ、積極的に提供している。大学を卒
業し、社会に出て、
はじめて大学の学びの環境がいか
3ヶ月の間、本当に多くの出会いがあり、毎日が発見
に恵まれたものであったかに気がつく卒業生は早稲田
と驚きと感動に満ちていた。私たちの「お手本」北米の
でも多いが、気がついたときには使うことができないと
大学図書館の実際を学び、
それを支える人々の声を具
いうジレンマがある。この大学を卒業して良かった、
こ
に聞くことができたのは何ものにもかえがたい貴重な
の大学があって良かった、
と思わせる力が、図書館や
経験となった。理想を掲げ、自らの能力向上に努め、広
図書館サービスにはあるのだということを実感すること
い視野で考えながらも足元から取り組み、挑戦するライ
ができたのは、非常に意義深いことであった。
ブラリアンの姿や彼らの一言一言がどれも強く印象に
残っている。言い訳からではなく可能性から考え始め
経済不況下での図書館
るその姿に感化され、自分自身から変えていきたいと
「経済不況をどう乗り越えるか」
という課題は日本の
思う。
みならず、北米の大学図書館でも議論の的となってお
り、世界中に名前が知られている有名大学ですら急激
な環境の変化に苦悩していた。以前は図書館の中心
的役割であったはずの「コレクション構築」
「資料保存」
−13−
図書館へのオンライン申請フォームが新しくなりました
渡 邊 幸 弘(所沢図書館担当課長)
6月1日より、図書館に対するさまざまな申し込みをオ
ンラインでできる申請フォームが装いを新たにしました
ので、
ご紹介いたします。
これまで各種の申し込みに際しては、
カウンターで直
接申し込むか、
「Waseda-netポータル」の「申請フォー
ム入力」から受け取り箇所や申請内容によって20近く
ある申請フォームから必要なものを選んで申し込む必
要がありました。今回の変更では、①ILL(相互協力)に
よる現物貸借・複写物取り寄せ、②紹介状、③オンラ
インレファレンス、④購入希望、⑤整理中図書利用希
図1:Waseda-netポータルのシステムサービスメニュー画面
望を「1つ の 入り口」から操作できるように変更し、
「Waseda-netポータル」へログイン後に、
「システムサー
ビス」の直下に「図書館申請フォーム」を置き、ひと目
でわかるように改めました。
開発にあたっては、当初本年4月のサービス開始を
念頭に仕様検討からプロトタイプ作成等進みましたが、
複雑な判断基準を要するものもあったために、6月から
のサービス開始となりました。
新申請フォームの利用方法については、以下のよう
になります。
まず、
「図書館申請フォーム」を選択すると
(図1)、
ご
自身の基本情報が表示されます(図2)。この画面で
「依頼内容(必須)
」のプルダウンメニューからご希望の
図2:図書館オンライン申請フォームの基本情報入力画面
申請内容を選択すると、
それぞれのフォームに必要な
事項が表示される仕組みになっています。申請に際し
ては、ひとつひとつアンケートのように確認しながら進
みますので、間違った申請を防ぐことができます。
また、以前の申請フォームには、問い合わせを行う場
合の窓口となるフォームがなかったために、同じ申請フ
ォームを使用して図書館に対する質問をされる利用者
の方もおりました。新フォームでは、
これらの不便を解
消するために、
「問い合わせ」用のフォームを用意し、申
し込み後に内容に関する問い合わせを行いたい場合
に、申し込み時に送信される受付番号を入力して問い
合わせ事項を入力すれば、申請フォーム別に担当者に
問い合わせができるようになりました。
Waseda-netポータルへは図書館のHPからもアクセ
スできます。ぜひ新しい申請フォームをご利用ください。
−14−
例:ILL申し込みの入力画面
最近の大口寄贈図書報告(2007.3−2010.8)
資料管理課
2007年以降に受贈したものから主なものを報告します。ご寄贈者各位ならびにご仲介の先生方に改めて厚
く御礼申し上げます。
受贈
寄贈者(仲介者)※敬省略
収集者(敬省略・故人を含む)
資料内容・数量
1
2007年4月
北垣由民子
島田孝一(6代総長)
運輸・交通(和書) 12箱
2
2007年5月
徳永隆
徳永康元(東京外国語大学名誉教授)
ハンガリー文学(洋書・和書) 33箱
3
2007年5月
西本真一
西本真一(理工学部教授)
エジプト学・考古学(洋書) 71箱
4
2007年8月
内田幸子(政経・吉野孝教授)
内田満(名誉教授)
政治学(和書) 161箱
5
2007年9月
中村英郎
中村宗雄(名誉教授)、中村英郎(名誉教授) 民事訴訟法(洋書・和書) 約5,000冊
6
2008年9月
大野千枝子
大野恥堂(江戸後期の儒者)
7
2008年9月
増田美智子(堺屋太一、奥島孝康14代総長) 増田清(校友)
政治・文学(和書) 86箱
8
2008年10月
岡田ムツミ
(商・八巻和彦教授)
岡田実(校友)
ドイツ文学(洋書) 85箱
9
2008年10月
窪田たみ子(文・小林茂教授)
窪田般弥(名誉教授)
フランス文学(洋書・和書) 37箱
10
2008年11月
小林和子
小林堅太郎(名誉教授)
英語・英文学(洋書) 208箱
11
2009年2-9月 大西旦・澤隆明(法・奥山康治教授)
大西旦(文学部講師)
・澤隆明(文学部講師) 日本オーウェル協会/スペイン内戦関係(洋書・和書) 32箱
12
2009年6月
吉田照江
工藤邦彦(校友)
和書 89箱
13
2009年5月
Albin Eser(法・田口守一教授)
Albin Eser(名誉教授)
ドイツ刑法(洋書) 608冊
14
2009年5月
中野幸一
中野幸一(名誉教授)
源氏物語・中古文学関係資料(貴重書) 約1,400点
15
2009年7月
Harald Kleinschmidt(政経・縣公一郎教授) Harald Kleinschmidt(筑波大学教授)
英国史(洋書) 95箱
16
2009年7月
森田貞雄(理・山田泰完教授)
森田貞雄(名誉教授)
北欧諸国の言語学・地誌(洋書) 848冊(貴重書)
17
2009年8月
野崎利子(山梨大学・皆川卓教授)
野崎直治(文学部教授)
ドイツ中世史(洋書・和書) 76箱
18
2009年12月
谷脇登喜子(教育・中嶋隆教授、宮脇真彦教授) 谷脇理史(文学部教授)
和古書(貴重書) 165箱
19
2010年2月
日本聖公会
島村教次(文学部教授)
ドイツ文学(洋書・和書) 60箱
20
2010年2月
家島彦一
家島彦一(教育学部教授)
ペルシア語・アラビア語図書 23箱
21
2010年2月
鈴木康(文・丹尾安典教授)
濱谷勝也(文学部教授)
西洋美術史(洋書・和書) 89箱
22
2010年2月
毛里和子
毛里和子(名誉教授)
中国文学(中国語) 96箱
23
2010年5月
島岡正(文・瀬戸直彦教授、法・塚原史教授) 島岡茂(名誉教授)
24
2010年6月
佐佐木美穂子
佐佐木忠慧(校友・宮城学院女子大学教授) 古筆切・古典籍 約150点
25
2010年8月
井桁貞義
井桁貞義(文化構想学部教授)
漢籍・拓本 61箱
フランス文学・フランス語学(洋書・和書) 70箱
ロシア語図書 156箱
(文責:宇田川和男)
−15−
2009∼2010年度 図書館日誌(中央図書館)
(報告)
2009年度(1月から)
図書館長交代
1. 29
電子媒体検討委員会(第3回)
2.
4
図書館協議員会(第4回)
2.
4
図書館学習支援連携委員会(第5回)
2. 12
入試期間につき開館時間短縮(2.22まで)
2. 15
早稲田大学図書館・関西大学図書館の相互
利用に関する覚書実施
3.
5
3. 25
2006年9月より4年にわたり図書館長を務めた加藤哲
夫教授(法学学術院)が退任し、飯島昇藏教授(政
治経済学術院)が9月21日より図書館長に就任いた
しました。また、副館長の宗像和重教授(政治経済
学術院)も和田敦彦教授(教育・総合科学学術院)
に交代となりましたのでお知らせいたします。
春城市島謙吉像除幕式
前
卒業式につき図書館を開放
館長
2010年度(8月まで)
4.
1
入学式につき図書館を開放
4.
6
国立台湾大学図書館長来訪
5. 12
新
飯島 昇藏
加藤 哲夫
(法学学術院)
(政治経済学術院)
宗像 和重
副館長 (政治経済学術院)
(教育・総合科学学術院)
中島 達夫
副館長 (理工学術院)
(再任)
和田 敦彦
中島 達夫
キングサウド大学(サウジアラビア)図書
館学科教授来訪
5. 13
ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)
(お知らせ)
図書館長来訪
5. 24
Lolowah Alfaisal王女およびEffat University
(サウジアラビア)学長一行来訪
10月より、専任教員の方向けに「どこでも貸出」サ
ービスを開始いたします。例えば、中央図書館の本
をお近くの教員図書室に取り寄せたり、戸山図書館
の本を中央図書館に取り寄せて借り出すことが可能
となります。ご依頼はWaseda-net portalよりお申し
込みください。
6. 18
台湾国立中山大学副学長一行来訪
6. 21
インディアナ大学(米国)図書館員来訪
6. 25
図書館協議員会(第1回)
7. 20
夏季長期貸出開始(9.3まで)
7. 23
図書館学習支援連携委員会(第6回)
7. 26
西早稲田中学校職業体験(7.28まで)
7. 29
電子媒体検討委員会(第1回)
8.
6
福島県立橘高等学校図書委員会一行来訪
8.
3
夏季休業期間につき開館時間短縮(9.20ま
で)
8.
6
オープンキャンパスにつき図書館を開放
(8.8まで)
8. 23
梨花女子大学校(韓国)一行来訪
早稲田大学図書館報 ふみくら No. 79
〔表紙写真〕
『ローマ聖歌手写譜』
15世紀後半∼16世紀前半
[GREGORIAN CHANT].
[Mid-15th century and early 16th century]
[4]p. of manuscript music : vellum ; 42 cm.
貴重書 F765 00139
2010 年 10月 21 日発行 3,000 部
発 行 人/飯島昇藏
編 集/荘司雅之・小井戸みつる・白濱めぐみ・鈴木努
発 行/早稲田大学図書館 〒 169-8050
東京都新宿区西早稲田1−6−1 103−5286−1652
ISSN 0289-8926
−16−
Fly UP