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H24年度 講演録 02 - 公益財団法人大阪市博物館協会

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H24年度 講演録 02 - 公益財団法人大阪市博物館協会
大阪市立科学館
プラネタリウムリニューアルのポイント
大阪市立科学館
嘉数 次人
大阪市立科学館の嘉数と申します。よろしくお願いいたします。科学館では、展示
活動、プラネタリウム投影、イベント行事など色々な事業を行っておりますが、本日
ご紹介するのはプラネタリウムの話題です。当館では、昨年(2011 年)12 月 10 日に
プラネタリウムの機器リニューアルを行ないました。その際にどういった点を心掛け
たのかについて、プラネタリウムと科学教育の関係とあわせてご紹介します。
■大阪市立科学館のプラネタリウム
科学館の歴史は古く、前身は 1937(昭和 12)年に大阪の四ツ橋に開館しました大
阪市立電気科学館(図 1)にさかのぼることができます。電気科学館に導入されたプ
ラネタリウムはドイツ製のもので、東アジアでは初めて導入され、世界でも 25 台目
という当時の最先端の機械(図 2)でした。その後、平成元年に現在の中之島へ移動
し、大阪市立科学館(図 3)としてオープンしました。それに伴い、プラネタリウム
は、当時最新式(図 4)の機械に更新しました。さらに、平成 16 年にその機械の老
朽化に伴い、3 代目の機械(図 5)に置きかえて現在に至ります。
その間、プラネタリウムは進化し続けていますが、最大の変化は、平成 16 年の改
修時に、全天周映像システム(図 6)というものを導入したことです。その中で、昨
年リニューアルしたのは、全天周映像システムの一部(図 7)です。
(図 2)当時の最先端プラネタリウム投影機
(図 1)大阪市立電気科学館
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(図 3)大阪市立科学館
(図 4)大阪市立科学館プラネタリウム①
(図 5)大阪市立科学館プラネタリウム②
(図 6)全天周映像システム
(図 7)リニューアルした全天周映像システムとオーロラの映像
■プラネタリウムの機能と「全天周映像システム」
大きなドームのスクリーンに本物の星空のようなリアル感のある星を映し出すプラ
ネタリウムは、1920 年代に発明されてから、ずっと進化を続けています。電気科学館
でプラネタリウムを導入した 1937 年当時、その機能は大きく分けて 2 つありました。
1 つは星座や惑星の動き、月の満ち欠けなど、現在・過去・未来、いつの星空でも再
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現できる機能です。そしてもう 1 つが、北半球、南半球、北極、南極といった、地球
上のどの地点から見た星空でも正確に再現できる機能です。つまりこの 2 つの機能に
より、プラネタリウムは、
「時と場所を超える」演出が可能なシステムということがで
きます。
そして近年、プラネタリウムの機能が飛躍的に向上しました。それは、
「全天周映像
システム」という新たな投影装置が開発されたからです。
全天周映像システムは、コンピューターとプロジェクターを組み合わせた装置で、
コンピューターで作った画像を 6 台のプロジェクターでドームいっぱいに映像を映し
出すというものです(図 6、7)
。従来のプラネタリウムシステムは、地球上から見た
星空しか投影することができなかったのに対して、新システムはコンピューターが作
った画像なら何でも映すことができるわけです。そのため、広い宇宙空間のどの場所
から見た星空でも再現できますし、例えばオーロラやブラックホールの姿なども、臨
場感をもって映し出すことができ、演出の幅が格段に広がりました。当館でも、平成
16 年に新たに設置したプラネタリウム機器には、従来の星空投影装置に加えて、全天
周映像システムも導入しました。
■プラネタリウムを使う理由
では、なぜプラネタリウムに最新システムを導入する必要があるのでしょうか。そ
れは、科学館が、市民の方々への科学教育の普及を目指す教育施設だからです。
天文や宇宙のことを学習する際に、大きな制約がいくつかあります。1 つ目は、天
体は私たちの手に届かないことです。月の話をしたいからと言って、月を持ってきて
見るということはできませんし、月へ行くこともできません。2 つ目は、宇宙の時間
スケールは非常に長い点です。我々の宇宙は 137 億年前に生まれ、現在に至っていま
す。太陽も 50 億年前に生まれました。そのような長い歴史を一瞬で紹介することはで
きません。3 つ目は、星は夜にしか見ることができない点です。例えば、夜は学校の
授業も行っていませんので、学校では天体の観察はなかなかできません。
そんな時に役に立つのがプラネタリウムです。プラネタリウムですと、昼間でも電
気を落としてスイッチを入れれば、いつでも星空を再現できます。2 時間後の様子で
も、1 年後、10 年後の星空でも、ツマミを回せばすぐに再現できるのです。
さらに、全天周映像システムを使えば、例えば太陽系が生まれてから現在に至るま
での 50 億年間の変化というような、長い時間スケール、大きな空間スケールの画像を
見ることが可能です。しかも、プラネタリウムのスクリーンは大きいので、あたかも
現場にいるかのような臨場感があり、実感を持った理解が可能になります。
このように、市民の方々に、天文学や科学のことをより理解していただけるように
する上で、新しい機能を持ったプラネタリウムは非常に強力なツールです。そこで、
科学館が社会教育施設としての使命を果たすべく、新しい機能を持ったシステムの導
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入を行なっているのです。
■リニューアルの背景
ところで、科学館の全天周映像システムは、平成 16 年に最初に導入してから、今回
の改修を行なうまでに 7 年しか経っていません。7 年は短いと思われるかもしれませ
んが、これはコンピューターを使う上では仕方ないことと言えます。というのも、コ
ンピューターの世界では、7 年も使い続けますと電子部品が老朽化してトラブルが増
えてきます。さらに、コンピューターは製品サイクルが非常に早く、3 年経つと製造
中止となり、その後 8 年経つと部品交換のサポートも不可能になるのです。
当館では、
導入から 5 年経った頃から劣化に伴うコンピューターのトラブルが増え、
上映中止、料金払い戻しなど市民の方々にご迷惑をおかけする事態が増えてきました
ので、リニューアルをするに至ったのです。
今回の改修の費用は 5,500 万円で、全額が国からの補助金となっております。そし
て、コンピューターとプロジェクターを最新機種に置き換えましたので、現在ではト
ラブル発生もありません。しかも、投影できる画質が向上し、画素数が 1.7 倍、明る
さが 1.7 倍、コントラスト比が 16 倍になりました。おかげをもちまして、従来に増し
てキレイな映像をご覧いただけるようになりました。
■今後に向けて
さて、今後に向けての課題もあります。1 点目は機械の問題です。先ほど述べたよ
うに、電子機器の高性能化のスピードが速く、かつ製品寿命が短いことから、長期の
性能維持が困難です。その制約の中で、コストを軽減しながら長期にわたる部品の調
達、性能の維持を行なうように取り組んでいかないといけません。
2 点目はソフトの問題です。全天周映像システムを活用するには、映し出す画像、
つまり映像ソフトが必要です。しかも科学は進歩が早いですから、映す画像は新しい
情報に基づいたものでなければいけません。一方で、画像を作るには費用がかかるた
め、なるべく安く制作したり、無料で使える映像を集めたりする努力もしています。
3 点目は、運用するスタッフの課題があります。プラネタリウムを通じて、市民の
方々に宇宙や科学のことをより知っていただくには、われわれスタッフの資質向上が
欠かせません。そのため、日々の研鑽につとめています。
これらの課題を解決しながら、より広く科学、星空の魅力を伝えていけたらと思っ
ております。以上です。ありがとうございました。
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親密さを保った小規模イベントを大人数で
-インターネット配信技術を使った普及活動-
大阪市立自然史博物館
佐久間 大輔
自然史博物館の佐久間です。よろしくお願いいたします。今日のイベントもそうで
すが、平日のお昼のイベントで 100 人集めようというのは、かなり無理があります。
今日の話題は、博物館の内部関係者の人たちに非常に役立つだろうなと感じています
が、このシンポジウムを聞きたくても来られない全国の学芸員に、この話をどう伝え
たらいいのか、そういう方法はないのか。博物館がいろんなところで行う普及教育活
動で色々と伝えたい内容には、万人向けのテーマもあれば、万人向けではないけれど
も、少し興味のある人にはすごく面白いことがたくさんあります。そうしたものも、
博物館の魅力の 1 つだと思います。例えば、毎回、講演会という形でチラシを配るの
に、100 人単位のイベントだったら何千枚ものチラシを配るのもいいと思いますが、
定員 15 人のイベントにそういう訳にはいかないですよね。
美術館や科学館や私のような自然史系の人間もいますが、博物館には非常に多種多
様な専門家・学芸員がいて力を発揮し、いろんな切り口があることが大阪市の博物館
群の魅力であり、大阪市博物館協会が存在する価値だと思います。科学館も含めての
連携で価値をつくれる部分です。こちら(図 1)は、2006~2007 年のものになります
が、美術館の「根付(ねつけ)
」を、美術的文化的な価値だけではなく、例えば自然
史の化石をやっている人間が見るとどう思うの?など専攻の違う学芸員が見ると同
じものでも色々な考え方ができる、ということを実験的に試してみたサイトです。
(図 1)おおさか ふらっとミュージアム(2006~2007 年)
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今日は、
「うまいもんから考える自然の恵み」とい
う冊子(図 2)を配らせていただきました。これは文
部科学省の平成 23 年度「社会教育による地域の教育
力強化プロジェクト」の一環として作成したもので
す。これからその話をさせていただきますが、これも
そういった各博物館学芸員の持つ多様な話題を活か
そうという狙いで行った活動の 1 つでした。そもそ
も、生物多様性というのは、2010 年に名古屋で生物
多様性条約第 10 回締約国会議、通称 COP10 というも
のがありまして、私達が生物多様性により生み出され
る様々な恵み、自然の恵みといってもいいですが、そ
うしたことに大きく依存しているのだということを
もっとみなに伝えて行かなければならない、というこ
(図 2)冊子「うまいもん
から考える自然の
恵み」
とが大きな目標になりました。
私は自然史博物館の学芸員という立場から、大阪の街中で生物多様性のことを語る
イベントをやりたいとかねてより思い、企画しました。「生物多様性」と漢字が並ん
だところで何のことだ?と今ひとつ響いてこない。自然の恵みだとか自然の豊かさだ
とか、そういったものを考えるんだろうなぁということはわかっても、街中で実感す
ることはなかなか難しいんです。近畿地方には、2,000 メートルの山はありません。
海も瀬戸内だとか、いわゆる「里海」
(「人手が加わることにより生物生産性と生物多
様性が高くなった沿岸海域」とされ、人と自然の領域の中間点にあるエリア)のよう
な形です。結局のところ近畿地方の生物多様性にとって、大事な焦点となるのが農業
生態系です。田んぼに蛙がいるとかナマズが卵を産んだとか生き物の賑わいが見られ
ることは知られるようになって来ましたね。こうした農業生態系の重要性なら、農産
品から生産地の農業生態系に街なかからでも思いを馳せることができるのではない
か。美味しいお米を食べたら、このお米が作られた田んぼはどんな所だろう、そこに
はどんな生き物がいるんだろう、と。最近、トキやコウノトリがいる所が自然豊かな
田んぼ、と象徴のように言われコウノトリブランドのお米などもありますが、それと
同じことです。農産品というのは、スーパーでも買えるし、レストランでも食べられ
るし、居酒屋でもあるし、いろいろ実感の機会を作れるかなと思いました。
残念ながら、博物館では、農産品を調理してお出しすることができません。調理の
スタッフも食べる場を確保するのも難しい。それで、街中のカフェやレストランを会
場にしました。自然食系のお店も、大阪にもたくさんありますし。ただ、カフェでの
イベントとなると、そんなに人数がたくさん入れるカフェはありません。今日みなさ
ん 50 人ほどお集まりですが、この人数が入れるカフェってそうそうないですよね。
大きなスクリーンをつけて、講演をすることはまず無理です。サイエンスカフェとい
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うのが最近よくあります。科学の小難しい、構えて聞くと眠くなってしまう話でも、
喫茶店の雑談レベルの雰囲気なら、お互いに理解できるように対話ができる。そうい
った 10 人くらいのイベントは、質は高いかもしれないけれども量が稼げない。タウ
ンミーティングみたいな形で少人数の人とちゃんと対話をするということを何回も
何回も繰り返すことも大事ですが、残念ながら普及教育イベントでそれを行うこと
は、現状で言うと正直難しいです。自然史博物館でも、講堂を使って 100 人単位で集
まって、色々な話を聞いていただくイベントをよくやりますが、その人たちと対話を
することは難しいんです。今日も、みなさんと掛け合いながらの講演会というのは多
分できないと思います。だけど、10~20 人くらいまでだったら対話をしながら進め
ることができます。例えば、少人数の代表者で代理体験をしてもらうようなカフェイ
ベントで、多数の参加者はネットで閲覧するというようなやり方ではどうか、両方の
イイトコどりを出来ないかという発想です。
さらに、それを録画してアーカイブ化して、いつでもその映像が見られるようにす
れば、繰り返して使用することもできます。リアルタイムには参加できなくても、後
から気になった人が使用することもできます。こうしたことは最近 NHK ではオンデ
マンド配信を始めていましたが、古くは放送大学など e-learning の世界では昔からよ
くされていましたね。
では、NHK のような巨大な技術部隊を持たない博物館単独で、どうやってそれを
実現するのか。ここ数年、インターネットの技術が非常に便利になり、インターネッ
ト中継が劇的に簡単になりました。携帯電話で動画が撮れる機種はいくらでもありま
す。そこから動画サイト You Tube に投稿することも普通にできるようになっていま
す。
「Ustream」というサイトには、同時中継向けの配信ができる環境が用意されてい
ます。ごく普通のパソコンに無料ソフトを仕込んで、ビデオカメラをつないで撮れば、
それでインターネットへの動画配信ができてしまいます。もちろん、インターネット
につながることが必要です。実は、今、この場で試しで中継しています。どうやって
中継しているかと言うと、パソコンに内蔵されているカメラで映して、その映像をパ
ソコンの中で処理をして、携帯電話を使って流す、それだけです。今は、専属のカメ
ラマンを使っていませんから、ちゃんと鑑賞できる形の映像ではありませんが、とり
あえず流すだけなら、これでできてしまいます。後ろで今日の資料ということでビデ
オ撮りをしていますが、あのビデオを使って、ちゃんとつなげれば、もっときれいな
画像を流すことができます。これがあれば、10 人くらいで楽しげに談笑していると
ころをビデオ撮りして流すことで、同時に 100 人くらいで見ることもできます。後か
ら繰り返してみて、200 人、300 人が楽しむことができます。
これを別な言い方で言うと、すごくマニアックな話題で人が集まらないようなこと
も、人が集まらないからやる意味がないという時代ではなくなった、ということです。
人が集まらなくても、地域を超え、時間を超えて効率的に色んな人に流すことが可能
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になる。今、申し上げた通り、技術的には本当に簡単です。Mac でも Windows でも
パソコンが 1 台あって、1~2 回試してみれば大体できます。人手は、できればカメ
ラマンさんは別にいた方がいいとか、事前告知や、映像だけでは伝わらない実況中継
のために Twitter などの SNS を扱ってくれる人があるといいです。
昨年の 11 月に行ったカフェでのイベントでは、ソーシャルネットワーク大阪とい
う、大阪で Ustream 中継をよくやってくれている団体がありまして、そことタイアッ
プして、Ustream 中継に慣れたカメラマンが 1 人でビデオを構えてパソコンを持って
中継をしました。画面を撮りながら、私が話をして、参加者が食事をしている様子も
見えて、この会には実際に農家の人にも来てもらって、その田んぼで作っているお米
を食べたりもしましたが、対話をしている様子が見えます。それをアーカイブに残し
ています。少人数でやったイベントをインターネット中継を使って、みんなで楽しむ
という意味合いでもアーカイブは大きいんですけれども、それだけではなくて、繰り
返していろいろな形で使うことも考えました。例えば、このカフェイベントの内容を
小学校 5、6 年生が食育用に使えるようにと思ってお手元にある冊子を作りました。
冊子だけでも学校で食物から生物多様性について考えてみようというかたちで活用
できるのですが、もっと専門家の話を聞いてみようとなった時に、URL が冊子に書
いてありますので、学校でパソコンを使って、こういう講演を一部分だけでも聞いて
みることができます。
博物館の講演録として本を書くのは大変だけれども、こういう形でアーカイブに溜
めていくことも将来的には非常に大事だと思います。今は、何か分からないことがあ
ると、誰かに聞く、図書館へ行って調べる、博物館へ行って聞くこと以前に、パソコ
ンや携帯電話ですぐに検索をします。特に若い人たちがそうです。と言うことは、検
索して出てこないことは無視されてしまいがちです。ネットに無いと見逃される時
代、ネットに無い情報は価値がないと言われてしまう時代です。特にこれは、理科系
の研究業績などにはシビアなものがありまして、私達の論文は、インターネット上で
検索できるようにするということが非常に大事ですけれども、博物館には色々な楽し
いことがある、博物館にはたくさんのコンテンツがある、そもそも博物館に学芸員が
いるのか、そういうことをネット上で検索できるようにしないと厳しいです。2011
年 1 月号の「博物館研究」という雑誌の中に、「博物館とインターネット」という、
今さらながらの文章を書かせていただきましたが、博物館の学芸員が、インターネッ
トを通しても「顔が見える存在」となることが非常に大事なことだと思います。ホー
ムページを作ったり、情報発信というのはなかなか手間のかかる大変な作業ですよ
ね。我々は、なるべく博物館の新着情報に載せたものを二重三重にいろいろと伝える
ようにしています、例えば Twitter なんかもそうした媒体の 1 つです。とにかく多様
な情報を学芸員の存在というかたちで博物館が保持している、そのことをネット上に
載せ、流通させていく。
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今日のこのイベントも、博物館のイベントの様子を今日参加できない人のために、
なるべくメモという形で、たくさん Twitter に書き込んでいってみています。そうす
ると、東洋陶磁美術館の照明のこだわりがスゴイなと思っている人が見て、もっと他
の人達に転送してくれるんです。この場には 50 人ほどしかいませんが、実際に今日
の東洋陶磁の小林さんの照明のお話を目にしてくれる人というのは他に 100 人、200
人、1,000 人というかたちで存在している訳なんです。少人数の講演会も重要なコン
テンツとして社会的な意義をきちんと発揮させる、そういうためのシステムとして、
Ustream 配信だったり、Twitter による情報発信を活用していくということです。
ただし論文やしっかりした本と比べてこういうものは、移ろってしまうものです。
非常に難しいことではあるんですけれども、それでもリアルタイムの情報発信として
はすごく大事だと思います。さらにそれを補うようにアーカイブ化を進めていく。大
学などでも授業映像のオープンコースウェア化など色々な話があると思います。博物
館としてどう対応していくのか。
私は、こういう情報発信をインターネット上でやっていくということが、実際に博
物館に来て体験する、この場に来て話を聞くことの価値を減らしてしまうことでは決
してないと思います。
「面白そうだな」と感じた後に次に出てくる感想は、大抵の場
合、「行けばよかった」です。実際に次には来てもらえます。本物はもっと面白い、
ここを評価していかないといけません。知らなかったら、来館という行動につながら
ないんですね。だから私たちは、Ustream 配信もそうですし、情報をオープンにする
ということをしているつもりです。
今日の私の講演の資料もインターネット上にスライドシェアというサイトを使っ
て公開しています。自分のホームページを持つまでしなくても、ブラウザだけで簡単
に公開できるようになりました。メールアドレスで登録するだけで、無料です。こう
した配信が、無料で手間なくできるような環境になってきたので、小規模な研究施設
である博物館なんかでは非常に上手く使えば武器になります。今、示したほとんどの
配信システムのソフトやサイトは無料です。今回の取り組みのようにより効果的にす
るために人手を使えば人件費は少しかかりますが。今回の文部科学省の委嘱事業はこ
の他にプログラムをまとめて、学校へ配る冊子を作るためにお金がかかりましたが、
ハードウェアにすごくお金をかけている訳ではないので、面白いことをやるための工
夫というのは、これからまだまだできるのではないかと思います。以上です。どうも
ありがとうございました。
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なにわの歴史、まるごとポケットへ
―歴史と文化財見学ガイドの開発
大阪文化財研究所
清水和明
大阪文化財研究所の清水と申します。どうぞよろしくお願いいたします。これまでは
博物館・美術館の建物の中でのお話が中心でしたが、私は少し外へ出た話をさせて頂こ
うと思います。
私自身は大阪市内で遺跡の発掘調査をしておりますが、それはすべて「場所」の情報
が大切になります。もちろん博物館・美術館にも文化財はたくさんあるのですが、我々
にしてみると、それに加えてさらにある場所で見つかったものであるとか、この場所で
こそこういうものがあるとか、場所と結びついた情報が非常に大事になります。それを
いかにして紹介していくか、どうやって伝えて行くかという点について、昨今急速に普
及しておりますスマートフォンを使った事業を紹介させていただきたいと思います。こ
れは文化庁「平成 23 年度文化遺産を活かした観光振興・地域活性化事業」からの補助
金を使って作成しました。
大阪市内には歴史・美術・科学・自然に関する非常にたくさんの文化財があります。
それは、博物館の中にあるものもありますが、今申し上げたように現地性があって動か
せないというものも実はたくさんあるわけです。そういうものを紹介する見学ガイドを
作っていきたいというのがまずねらいの一つです。また最近は、個人や団体でインター
ネットなどのサイトを立ち上げ、文化財を対象にいろいろなことを調べたり見て回った
りすることを活動とされ、ボランティアガイドや生涯学習団体として真面目に取り組ん
でいる方々がたくさんおられます。二つ目のねらいとして、そのような方々の活動を紹
介する場を兼ね、その活動を活性化することができればと考え、このサイトを立ち上げ
ることになりました。
最初に、まずどのようにして見学ガイドを作っていくか検討を行いました。これまで
にもよくあったのが、印刷物や冊子、大きく広げると一枚の紙になり、地図の脇のほう
に文化財とか博物館・美術館とかの写真で紹介されているようなものです。そのほかに
は今申し上げたとおりインターネットのサイトがあります。ただ、改めてこの二つを考
えてみて、新たな見学ガイドに必要なこととして、情報の掲載容量があまり制限されな
いことであるとか、手に持って現地に行って見るという携行性、利便性、それから地図
との親和性があるということ、誰でも扱いやすく、直感的にすぐに触ることができると
いうこと、また新しい情報が出てきたら古い情報を直して追加でき、更新がしやすいと
いうことが挙げられました。多少無理をして判断しているところはありますが、それを
表に示してみますと(図 1)、やはり印刷物、パソコンそれぞれに一長一短のところが
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あり、そこでスマートフォンという新たなメディアが最適と考えられました。
印刷物
→誰でも使いやすいが掲載量が制限され、
地図・掲載情報の更新は困難。
パソコン
→Web なら掲載量の制限はなく、大画面で
使いやすいが携行性はない。
スマートフォン
→最もバランス良いが、画面小さく、新メディ
アのため慣れが必要。今後浸透するか。
(図 1)方法の検討
ただ、スマートフォンを持っている方は最近多くなってきたと思いますが、まだこれ
ですべてが完全にカバーできているというわけではありません。新しいメディアである
ため、使い勝手がよくわからないと敬遠する方もおられると思われ、そのため操作性と
いう面では、まだ今一つかなと思うところがあります。ですが、これからだんだん普及
していって普通に人々のポケットの中に入ってくるという風に考えますと、この表にあ
るような重要項目をかなりの範囲で網羅することのできる、バランスのとれたメディア
となるのではないかと思います。
このため、スマートフォンに特徴的な掲載量とか携行性、それから地図との親和性が
非常に高い GPS 機能といったものに着目し、これらの機能を活用した WEB サイトを作
っていくということが見学ガイドの製作にとって一番良いのではないかと考えました。
そして、どうせ作るのであればほとんど同じ手間でできてしまうのでパソコンで見るも
のも一緒に作ってしまおうということで、実際にはスマートフォンを中心としながらパ
ソコンのサイトも同時に製作しています。この見学ガイドの名前は「なにわまナビガイ
ド」とし、その頭文字をとってアドレスは http://www.nmguide.jp/としました。この会場
でもインターネットの 3G 通信が使えますので、スマートフォンをお持ちの方でしたら
見ることができます。
今現在では、158 件の見学ガイドの対象案件が登録されています。大阪全域をカバー
できればもちろん良いのですが、件数的にも非常に多くなることもあり、とりあえず上
町台地を選定しました。まず上町台地がどういうものかということもなかなかわからな
いと思いますので、最初に地理的、歴史的に環境を解説するページを作り、見学ガイド
を見てもらおうと考えました。
まず情報の提供元についてお話しします。先ほど自然史の佐久間さんが、いろいろな
分野の博物館、あるいは美術館の学芸員がいるので、それぞれが情報を提供すると結構
面白いことができるとおっしゃっていましたが、上町台地というひとつの地域を対象に
しても、例えば私は考古学ですし、他にも美術史系もあれば自然系、科学系のいろいろ
な専門分野があります。そして文化財も様々なカテゴリーがありますので、それぞれの
学芸員の方々、それから四天王寺や住吉大社のように、古くからその地域の中で歴史的
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な背景を長く持っておられる、周辺の寺社の方々にも協力を頂いて情報を集めました。
それぞれが不動産情報を持っているということが前提ですので、その中で、歴史・考古・
美術・自然・科学などのそれぞれの分野からスポットを集め、名称、時代、カテゴリー、
写真、解説等の用件を集めるということを行っています。カテゴリーは次の表のように
まとめまして(図 2)、これらによって検索ができるようにしました。
(図 2)掲載情報
情報提供
・博物館・美術館(※)
・四天王寺
・住吉大社
※情報提供等の協力
大阪歴史博物館
大阪市立自然史博物館
大阪市立美術館
大阪市立東洋陶磁美術館
大阪市立科学館
大阪城天守閣
大阪市天王寺動物園
大阪市立近代美術館建設準備室
大阪文化財研究所
スポット
カテゴリー
景観
建築物
美術工芸
芸能文芸
自然
科学
人物
信仰
考古学
できごと
生活
不動産情報
・歴史
・考古
・美術
・自然
・科学 など
時代
旧石器
縄文
弥生
古墳
飛鳥
奈良
平安
鎌倉
室町
豊臣
江戸
明治
大正
昭和
検索方法は「おすすめスポット」、「カテゴリー」、「時代」、そして任意の「キーワー
ド」で探すということもできるようにしています。また、このあたりにはどういうもの
があるのかということを地図を見ながら探すこともできるようにしていますので、自分
はこういうものが探したい、この辺に行きたいということがある程度はっきりしている
場合は、自分で「○○について調べよう」とか、「考古学について調べよう」とか、あ
るいは「奈良時代について調べよう」というように見当がつけられると思います。ある
いは全くそういうものがない状態で、
「どういう情報があるものかわからない」
「何をど
うやって探したら良いかわからない」という人もおられると思います。そこで、このガ
イドの使い方を示すことのできるモデルとなるようにとの意味も込めまして、文化財ス
ポットがたくさん集まっているおすすめのエリアをいくつか示して、大阪城とか、
なにわのみや
難波宮、四天王寺、住吉大社については地域を特に限って「おすすめコース&ゾーン」
として見られるようにしました。そのうちのひとつを今日は紹介したいと思います(図
3)。
実際の画面上ではアニメーションで動いて見えて、検索は下の「カテゴリーから選ぶ」
「時代から選ぶ」「キーワードで検索」などからできます。まず上の「おすすめのコー
ス&ゾーン」で見て頂くと、なにわまナビガイドにどのような使い勝手があるか、どの
ような情報が出てくるかということがわかりやすいと思います。
38
(図 3)
(図 4)
① 「なにわまナビガイド」トップ画面
http://www.nmguide.jp/
おすすめゾーン「難波宮跡と
その周辺」
②
「おすすめゾーン」検索例
A)リストと B)地図が表示
↓
A)リストから探す
下へスクロールしてリストを表示
例えばこの「おすすめのコース&ゾーン」の「難波宮跡とその周辺」というところを
タップしてみます。この博物館のすぐ南東側に難波宮跡公園がありますが、これは国の
史跡の「難波宮跡」という遺跡です。飛鳥時代から奈良時代にかけて宮殿があった、そ
の中枢部分がここに保存されているわけです。実際に公園に行くと、どういう遺跡なの
かという看板も立てられて紹介もされてはいるのですが、いまひとつ知名度が高くな
い。教科書なんかにもあまり大きく出てきません。大化改新の舞台となった非常に有名
な場所のはずなのですが、「大阪に宮殿あったっけ」と言われたり「なんばの宮」とか
呼ばれてしまい、せっかくの宮殿があまり知られていません。実際に公園の中を行くと、
北側と西側辺りに大きな看板が一か所ずつあるのですが、どういうものが見つかってい
るかという詳しい説明はその場へ行ってもよくわかりません。そこで「なにわまナビガ
イド」というツールを使えば、実際に現地を歩きながら詳しい説明を確認できるという
ことになるわけです。
まず「おすすめコース&ゾーン」で「難波宮跡とその周辺」を選択しますと、リスト
と地図が表記されて検索ができるようになっていて、公園の中に旗がたくさん立ってい
るのが見られます(図 4)。このひとつひとつが「スポット」ということになるのです
が、全部で 30 か所程度、番号で 30 くらいまでのリストが出ています(図 5)。次にリ
ストから下の方にスクロールしてみると、先ほどの番号に対応した一件一件の情報が示
されています。例えば「24.後期難波宮の大極殿跡」を選んでみますと、その場所がど
こかということと(図 6)
、あとは解説文とか写真というものが出てきます。
39
(図 5)
(図 6)
(図 7)
②「おすすめゾーン」検索例
リストから「24.後期難波宮
の大極殿跡」を選択
②「おすすめゾーン」検索例
「24.後期難波宮の大極殿
跡」表示
↓
下へスクロールして情報をみる
②「おすすめゾーン」検索例
「24.後期難波宮の大極殿跡」
表示
↓
下へスクロールして情報をみる
(図 8)
(図 9)
(図 10)
②「おすすめゾーン」検索例
「24.後期難波宮の大極殿跡」
表示
↓
現在地からのルートを表示する
②「おすすめゾーン」検索例
「24.後期難波宮の大極殿跡」
表示
↓
現在地からのルートを表示する
②「おすすめゾーン」検索例
地図とリストが表示
↓
B)地図から探す
・鍵アイコンをタップして地図
の鍵を解除
・「+」アイコンをタップして地
図を拡大
40
解説文は 150 字程度で、発掘調査をしていた当時の写真が掲載されています(図 7)
。
今は公園となって芝生できれいに整備されているのですが、この情報を読むことによっ
て、この場所にどのような遺跡があったかということと、それは奈良時代には天皇が儀
式のときに訪れていた非常に大事な建物だったのだということがわかるようになるわ
けです。また、公園の中を歩きながらスポットを探している場合でも、近くまで来てい
るのにここからどのように行けば良いかわからないというとき、スマートフォンの利点
により現在地がすぐにわかるようになっています。この「現在地からのルートを表示す
る」というボタンを押すだけであとはどのように歩いて行ったら良いかということがわ
かるようになるわけです(図 8、9)
。これは GPS 機能が内蔵されているということが前
提ですが、自分がどこにいて、あとはどのように歩いて行ったら良いかということを街
中でいつでも呼び出すことができるというのがやはりスマートフォンならではの便利
なところです。また、今度は地図から探してみます。先ほどたくさん旗が出ていた画面
ですが、この地図を拡大し中にどういうものがあるかというのを見ていくことができま
す。丸で囲んだところに鍵マークがついていますが、これを押すと画面自体を外れて地
図の中を拡大することができるようになっています(図 10)
。拡大縮小にはプラスマイ
ナスのボタンを使います。ある程度拡大して旗に触ってもらうと、タイトルが出て、ス
ポットの詳細表示を見ることができます(図 11)
。すると先ほどお見せした画面と一致
します。つまりこのガイドは、リストから見たり地図から探したりという、最終的にひ
とつのスポットについてのタイトルと写真や解説文をまとめた詳細画面にたどり着く
ための様々な方法が用意されているということです。
このようにして見てみますと、このスマートフォンサ
イトは、カテゴリーであるとか時代であるとか、自分が
上町台地の中を歩くときに今日はどういう目的で歩こ
うかということに即して検索することができ、今自分が
いる場所からどのように進んで行ったら良いか、そして
そこにあるものはどういうものなのか、その時代や歴史
的意義を調べることのできるシステムであると言えま
す。今日は考古学を一例に挙げましたけれども、今も見
ましたような「スポットの詳細画面」からは、自動的に
近隣半径 500m 以内にあるすべてのスポットがリスト表
示できます。そのようなものの中には、考古学とは全く
関係ない、科学とか自然であるとか様々な分野のカテゴ
リーに関わるスポットもあります。すると「今日はここ
とここを見学してみようか」と選んで出かけたときに、
現地でこのサイトを見て、自分の興味には関係ないけれ
ど近くには他にもこういうものがあるよというものを
自動的に表してくれる。そうすると、ついでだからそこ
41
(図 11)
②「おすすめゾーン」検索例
地図とリストが表示
↓
B)地図から探す
・「後期難波宮の大極殿跡」をタップ
も行ってみようかということができるわけで、それによって自分の興味がさらに広がっ
ていくという使い方もしてもらうことができます。
他に、市民団体の活動紹介ということで、上町台地とその周辺を活動の拠点にしてい
る市民団体の方たちを紹介しています。今現在は「すみよし歴史案内人の会」「てんの
うじ観光ボランティアガイド協議会」
「ドキドキ考古学」
「NPO OSAKA ゆめネット」
「猪
飼野探訪会」
「NPO 法人かなえ会」の 6 団体を紹介していますが、自分で HP を持って
おられる団体もあれば、ない団体もあります。そこでこのようなサイトで紹介すること
で、たとえば本格的にガイドさんに話を聞きながら歩いてみたいとかいうときに問い合
わせて頂くこともできますし、逆にこのような会の方たちがウォーキングを行うので一
般の方にぜひ参加してくださいと呼びかける告知の場所にも使って頂けます。こうした
情報交換ですとか一般の方への情報告知というものを通して、このような団体の活動の
活性化ということにつながっていけばと考えています。
そして、このようなサイトの情報というのは常に新しくしていかなければならない、
また追加していかなければならないということがあります。スマートフォンなどには、
よく「アプリ」と呼ばれる固定的なひとつの完成したアプリケーションを入れるという
方法がありますが、それはせずに、あくまで更新可能な HTML 式の WEB サイトの方式
で構築していくことにしています。また、ある程度一定した形で情報を提供しています
ので、コンテンツ管理システムを使って所定の内容を入力すればあとは自動的に画面が
できあがっていくようにサイトを構築しています。情報を更新するときに非常に便利で
す。それからパソコンでも見られるようにしていると言いましたけれども、「スマート
フォン用に」「パソコン用に」データを作成するということではなくて、特定のフォー
ムに入れさえすればあとは勝手にプログラムの方で、スマートフォン用、パソコン用の
サイトに仕上げてくれるクロス・デバイス・サイトにしております。このようにスマー
トフォンでつなぐかパソコンでつなぐかという違いによってどちらの見せ方にするか
というのをサイト側で自動的に振り分ける方式によって現在はすすめております。
最後に、今回の事業にあたっては資料のようになにわ活性化実行委員会を主体としま
したので構成団体として大阪市の博物館美術館の名前を挙げております(資料 1)。で
は時間になりましたのでこれで終わらせて頂きます。
【主体者】
なにわ活性化実行委員会
(構成団体:公益財団法人 大阪市博物館協会・大阪歴史博物館・大阪城天守閣・大阪市立美術館・大
阪市立東洋陶磁美術館・大阪市立自然史博物館・大阪市立科学館・大阪文化財研究所)
【情報提供団体】
住吉大社、和宗総本山 四天王寺、すみよし歴史案内人の会、てんのうじ観光ボランティアガイド協議
会、ドキドキ考古学、NPO OSAKA ゆめネット、猪飼野探訪会、NPO 法人 かなえ会、大阪歴史博物館、
大阪市立自然史博物館、大阪市立美術館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪市立科学館、大阪城天守
閣、大阪市天王寺動物園、大阪市立近代美術館建設準備室、大阪市博物館協会大阪文化財研究所
【制作資金】
文化庁「平成 23 年度文化遺産を活かした観光振興・地域活性化事業」の補助金
(資料 1)開発主体と外部資金獲得
42
大阪市立大学と大阪市博物館協会との
包括連携について
大阪市立大学
浅井英行
大阪市立大学の大学運営本部長をしております浅井と申します。最後のプログラムに
なりましたが最後までお付き合い頂きたいと存じます。お手元にレジュメを用意いたし
ましたので、それにしたがって進行したいと思います。
今日のテーマなのですが、大阪市立大学と大阪市博物館協会との包括連携につきまし
てお話をさせて頂きます。大学は大学なりにいろいろな内部の検討を経て、また博物館
協会も内部でいろいろな検討をされた上で今日があるのですが、市立大学はどのような
考え方で連携協定を結ぶに至ったのか、そのような内輪のお話をさせて頂くのが、今後
博物館協会が様々な団体と連携を結んで行かれる上でご参考となるのかなと思ったわ
けです。それから私自身、この 1 年間包括連携協定についてどのような仕事をさせて頂
いたのかということを報告させて頂く中で、今後大学として考えていかなければならな
いことが見つかったらいいなという思いでお話をさせて頂きます。
今から 1 年前、平成 23 年 3 月 25 日に市立大学と博物館協会は包括連携協定を締結し
ました。資料として包括連携協定書の案文を載せております(資料 1)。これは基本的
なものなのですが、その中の第 1 条のところにある「知的・人的資源の交流」や「歴史・
文化資源の活用」
、そして第 2 条の「学生支援に関すること」「社会貢献に関すること」
というのが両者の包括連携のひとつの大きなキーワードであったと思います。昨年の 3
月 25 日に協定は結ばれましたが、裏話をいたしますと、実はそのさらに半年前の平成
22 年 10 月に博物館協会の山本理事長と下野専務理事、高井課長がお越しになりました。
その席で包括連携協定を結ばないかというお話を頂きました。それから一週間ほどし
て、文学部の先生の方から博物館協会と包括連携を結ぶと非常にメリットがあるという
話になりました。そのとき私自身、当大学の教員と博物館の学芸員の方との間で相当な
ディスカッションがなされていることを感じました。それで大学の総務課に報告したの
ですが、そのときは実はあまり良い返事が返ってこなかったというのが正直なところで
した。
それでよく聞いてみますと、大阪市立大学は既にいくつかの団体と複数の包括連携協
定を結んでおり、あまり機能していないものがあるということでした。また、各学部ご
との包括連携ならば既にされているではないかという意見もありました。それを更に全
学に広げるとすると、連携について改めて本格的な検討が必要となるのではないかとい
うのが大学の総務課から聞いた話でした。
43
公立大学法人大阪市立大学と(財)大阪市博物館協会の包括連携に関する協定書
(目的)
第1条
この協定は、大阪市立大学と(財)大阪市博物館協会(以下「両者」という。
)
が、
(教育、研究、社会貢献の分野で)知的・人的資源の交流や歴史・文化資源の活用な
ど包括的連携事業を、相互に協力して実施することにより、活力ある地域社会の創造、
人材育成及び学術文化の向上発展に寄与することを目的とする。
(連携項目)
第2条
本協定による連携項目は次のとおりとする。
(1)共同の研究・調査に関すること
(2)学生支援に関すること
(3)社会貢献に関すること
(4)その他、両者が必要と認めること
(連絡調整窓口)
第3条
前条に定める項目を円滑かつ効果的に進めるために、両者に連絡調整の窓口を設
置する。
(経費)
第4条
第2条に定める項目の実施に要する経費は、原則として、両者の協議により決定
する。
(期間)
第5条
本協定期間は、1年間とする。ただし、期間満了の日の3ヶ月前までに、両者の
いずれからも協定の終了又は見直し等の申し出がない場合には、さらに1年間更新する
ものとし、以後も同様の取扱いとする。
(その他)
第6条
この協定書に定めるもののほか、連携項目の細目その他必要な事項については、
両者が別途協議して定めるものとする。
本協定締結の証として、本書を2通作成し、署名の上、各々一通を保有する。
平成23年3月25日
(資料 1)公立大学法人大阪市立大学と(財)大阪市博物館協会の包括連携に関する協定書
公立大学法人大阪市立大学
理事長 西澤 良記
44
財団法人大阪市博物館協会
会長 脇田 修
それでいくつか調べてみますと、市立大学が他大学を対象に連携しているものに、大
阪府立大学、関西大学、大阪市立大学とが包括連携をしているという例があります。こ
れは大阪近辺の大学として交流を深めていきましょうというもので、このような連携に
ついては年に 1 回共同してシンポジウムを開催しています。また三大学のトップが年に
1 回直に集まって、今後の大学連携について協議するということもしており、たとえば
入試の説明会を一緒に行うということなどもやっています。それ以外にも、同じ市立大
学同士の悩みを相談しようということで、横浜市立大学と名古屋市立大学とも三者で協
定を結んでいます。そして古くから言いますと、大阪市立大学、一橋大学、神戸大学は
「三商大」と言われていた時期があり、その三商大でも連携をして学生同士の討論会な
どをずっと続けてきたという例もあります。今ご紹介したものなどは機能しているもの
なのですが、一方あまり機能していないものも他にはあり、大阪市博物館協会と連携し
て今後何をするのかというのが議論になりました。
そこで、昨年に連携協定を結ぶまでは博物館協会とどのような取り組みをしていたの
かと言いますと、例えば大阪市立自然史博物館と大阪市立大学理学研究科とではセミの
研究が行われていました。これは、最近大阪ではクマゼミが多く発生しているが、昔は
ミンミンゼミやアブラゼミが中心で、それがヒートアイランド現象や温暖化の影響によ
って生態が変わってきたのではないかというものです。また大阪歴史博物館と大阪市立
大学の文学研究科都市文化センターでは、いわゆる大阪の都市研究についての基本的な
資料の整理をして行くために、
『明暦元年大坂三郷町絵図:大阪歴史博物館所蔵』や『四
天王寺境内絵図集』などの書籍を共同で編集・発行しています。それからこれは非常に
大事なことなのですが、市立大学には学芸員資格のための博物館学芸員課程に関する授
業科目があります。ここに博物館協会から講師を派遣して頂いており、そのお手伝いが
なければ博物館学芸員課程に関する授業が開けないということもありました。
しかし、そのようにお世話になっているなら新たに包括連携を結ばなくても良いので
はという意見も一方ではあり、大学の中でもう少しきちんと連携の意義を整理していか
なければならないということになりました。そこで出た議論が、平成 22 年は大阪市立
大学の創立 130 周年にあたる節目の年で、市民への社会貢献をいっそう進める姿勢を示
す必要があるというものでした。また市立大学の施設は、杉本町キャンパス、それから
医学部のある阿倍野キャンパス、そして大阪駅前ビルにある梅田サテライトに限られて
おりますが、博物館協会には大阪歴史博物館をはじめ多くの施設があり、連携によって
その相互利用ということが生まれれば、相当なメリットになるだろうという意見も出ま
した。それから後でもご紹介しますが、博物館協会の方から「キャンパスメンバーズ制
度」の提案がありました。これが実際我々に非常に大きなインパクトを与えました。要
は博物館協会と協定を結ぶことで、本学の学生や教員が常設展なら自由に見に行けると
いう制度です。私どもも市内にある大学として、大阪市が誇るいわゆる「お宝」を実際
に見る機会を学生たちにぜひ与えてあげたいということがありました。これが大学側で
45
は包括連携を結ばねばならないという大きなきっかけになりました。また、博物館協会
の方の本音はどうだったかといいますと、まず大学生を博物館に呼び込むことが非常に
重要であるいうことがありました。それから、学芸員の方々の協力を頂いている博物館
学芸員課程なのですが、これが博物館協会の方で非常に大きな負担になっているという
ことで、これ以上の協力をしていこうとするとやはり市大と特別な関係を結ばねばなら
ないのではないかという内部の声があったともおっしゃっていました。それから、大学
図書館などが持っている資料が約 250 万冊あるのですが、学芸員の方々の研究促進のた
めにそのような資料を自由に見られるようにしてほしいというお話がありました。また
本学の大阪駅前ビルの施設についても非常に魅力的だとおっしゃっていました。このよ
うな考えがお互いにあり、私どもと博物館協会の理事長、専務理事とで何度もお話させ
て頂きまして、お互いの信頼関係を保ちながら提携をすることができました。
そのようにして 3 月 25 日に包括連携協定を結ぶことになりました。当日はプレス発
表の準備をしておりましたが、3 月 11 日の震災の影響によって早々に行事を終え、両
者が今後一年、共同の成果を具体的にどのように出していくかということを話し合いま
した。
そこで一年間具体的に何を進めたかということを挙げますが、一番最初に包括連携を
記念したシンポジウムというのをしていただきました(「公立大学法人大阪市立大学・
財団法人大阪市博物館協会包括連携協定締結記念
国際博物館の日協賛シンポジウム
「知の融合」町人学者のまち大阪と博物館・大学」平成 23 年 5 月 15 日)
。これについ
ては冊子にしましたのでそれをご覧いただきたいのですが、脇田会長にも基調講演をし
て頂き、非常にまとまった良いシンポジウムでした。そして二番目に市立大学と博物館
協会の連携で市民大学講座というのを行いました(「公立大学法人大阪市立大学・財団
法人大阪市博物館協会包括連携協定締結記念 平成 23 年度第 40 回『市民大学講座』近
代大阪のひと・まち・くらし―大阪に再び天守閣が建った時代―」平成 23 年 10 月 7 日
~10 月 28 日)
。これは市立大学で 40 回目になる講座なのですが、これを博物館協会と
一緒に全 4 回、大阪駅前第 2 ビルで行いました。これについては、博物館協会は基本的
にいつも大阪歴史博物館の会場を使っておられるため、概ねこの会場に馴染んだ方が来
られるということで、一度場所を変えるというのも良いのではということがありまし
た。また「市民大学講座」についてはいつも本学の教員が行っていましたので、一度博
物館協会の学芸員の方々にして頂けたらどうかということで、テーマを「近代大阪のひ
と・まち・くらし―大阪に再び天守閣が建った時代―」とし、全 4 回のうち第 3 回、第
4 回について講座を行って頂きました。どちらも大変好評で、それまで少し下降気味だ
った参加者が 4 回のシリーズで一気に V 字回復した印象でした。私は全回は聞けなか
ったのですが、第 4 回の大阪歴史博物館・中野朋子さんの「《大大阪》モダンガールの
風俗考」を非常に面白く聞かせて頂きました。その頃 NHK 朝の連続テレビ小説「カー
ネーション」という人気ドラマもあり、非常にタイムリーだったかと思います。
46
さて、時間もなくなってきたので簡単に申し上げますが、お手元の資料 4 ページ目に
朝日新聞の 5 月 19 日の記事を載せております。ここで申し上げたいのは学生を博物館
にどう呼び込むかというお話なのですが、今の学生がどんな生活をしているのかは実の
ところなかなかわかりません。それでこの新聞記事にありますのは、要約しますと今の
大学生というのは結構つつましい生活をしているということです。また、大学では 4 年
に 1 度大阪市立大学生活実態調査委員会によって学生生活の実態調査をしているので
すが、そのデータもご覧ください(図 1)
。
無回答 0.1
無回答 0.1
入っている
12.4
入っていない
入っていない
47.7
33.5
入っている
52.2
入っている
66.4
(%)
(N=1,763)
入っていない
(%)
(%)
87.6
(N=461)
(N=1,298)
(図 1)クラブ・サークルへの加入状況
入っている
入っていない
無回答
52.2
47.7
0.1
全 体
(N=1,763)
200万円未満
(N=238)
40.3
200~400万円
未満(N=302)
59.7
47.4
400~600万円
未満(N=272)
0.0
52.6
0.0
48.2
51.8
0.0
600~800万円
未満(N=270)
54.4
45.6
0.0
800~1,000万円
未満(N=256)
55.1
44.9
0.0
1,000万円以上
(N=303)
57.8
0
20
42.2
40
60
80
0.0
100 (%)
(図 2)世帯の年間総所得額別 クラブ・サークルへの加入状況
まずは大学 3 年生、大学院 2 年生というのを対象にしたクラブ・サークルの活動状況
47
で、それを平均して全学生の状況を示しております。簡単に言いますと、「クラブ・サ
ークルに入っている」のは全学生で約 52%、そして親の世帯年収なのですが、ざっと
見ればわかりますように親の年収が高くなればなるほどクラブ・サークルに入っている
学生が多いということになります(図 2)。つまりこれはおそらくアルバイトをしてい
る学生の数に影響してくると思われます。
それからサークルの種類なのですが、体育会系が多く平均 58%(図 3)、サークルに
入った動機が「学生生活を有意義に過ごすため」
「興味があったので」
「友人がほしかっ
た」が上位をしめています(図 4)。そしてクラブ・サークル活動の学業への影響なの
ですが、41.4%が「時にはさまたげにはなることもある」と答えています。それから満
足度については非常に高い数字を示し、サークル活動を評価しているということがわか
っております(図 5)。
(図 3)
クラブ・
その他 1.1
無回答 0.7
サークルの
無回答 0.7
その他 0.9
その他 3.5
種類
文化系
文化系
文化系
21.2
21.3
19.3
体育系
体育系
音楽系
58.2
58.1
18.9
(%)
(N=920)
音楽系
体育系
18.9
57.9
(%)
(N=862)
音楽系
19.3
(%)
(N=57)
(図 4)
0
25
50
75
67.8
68.1
63.2
学生生活を有意義
に過ごすため
44.7
44.8
43.9
興味があったので
36.4
36.7
33.3
友人がほしかった
26.2
25.8
31.6
高校時代から
やっていた
人に誘われて
18.0
18.2
14.0
心身を鍛えたい
と思った
17.1
17.2
15.8
知識・技術を
身につけたかった
12.9
12.6
17.5
就職にプラスに
なると思った
4.8
5.0
1.8
その他
全学生
(N=920)
学部生
(N=862)
院生
(N=57)
0.2
0.1
1.8
48
(3LA%)
クラブ・
サークルに
入った動機
大いに不満 0.9
少し不満
どちらとも
いえない
大いに不満 0.9
少し不満
無回答 0.4
どちらとも
いえない
6.0
10.4
非常に満足
5.3
32.7
まあ満足
まあ満足
まあ満足
(%)
(%)
49.1
(N=920)
大いに不満
0.0
非常に満足
34.1
48.2
無回答 1.8
どちらとも
いえない
6.1
10.8
少し不満 3.5
無回答 0.3
非常に満足
35.1
54.4
(%)
(N=862)
(N=57)
(図 5)クラブ・サークルに対する満足度
それからゆくゆくは博物館などでも学生ボランティアが生まれることがあるかもし
れませんが、ボランティア活動の経験なども尋ねております(図 6)。全学生のボラン
ティア活動を「したことがあり今後も続ける」という人、「したことがないが今後やり
たい」という人の両方を合わせると 50%弱くらい、その間の 16.6%は「したことがあ
るが今後はしない」という人です。また「今後参加意向のあるボランティア活動」につ
いてもデータがあります(図 7)
。
無回答1.9
無回答1.4
したことはなく、
今後もやらない
したことがあり、
今後も続ける
23.7
32.0
25.9
したことがないが
、今後やりたい
したことがあるが、
今後はしない
16.6
(%)
(N=1,763)
無回答3.0
したことがあり、
今後も続ける
したことがあり、
したことはなく、 今後も続ける
今後もやらない
21.8
29.1
29.3
33.1
したことがあるが、
今後はしない
16.5
22.1
27.2
16.6
したことがないが したことがあるが、
(%)
今後はしない
したことがないが
、今後やりたい
、今後やりたい
(N=1,298)
(%)
(N=461)
したことはなく、
今後もやらない
(図 6)ボランティア活動への参加経験及び意向
49
60
40
20
0
42.2
38.5
0
20
19.7
19.1
20.9
36.3
53.7
52.4
58.8
自然保護や環境保護
などの運動的な活動
29.5
32.9
29.4
33.1
地域や施設の子ども
を対象とした保育や
遊びなどの活動
22.4
29.0
16.7
20.2
22.1
地域や施設の高齢者
や障がい児・者の
介護・介助など
31.4
23.9
8.9
8.8
9.0
募金や準備会などの
基盤的・事務的活動
9.6
9.9
9.0
点字・手話・朗読
・学習指導などの
技能的活動
14.6
13.1
17.9
その他
(MA%)
60
42.8
44.5
行事やイベント
手伝いなどの
一時的な活動
50.0
40
13.7
13.8
14.7
10.8
全学生
(N=456)
12.5
11.0
17.6
院生
(N=102)
学部生
(N=353)
3.9
3.7
4.9
(図 7)今後参加意向のあるボランティア活動
学生の実態というのはなかなかつかめないのですが、相当な数がアルバイトに行って
います。そしてサークル活動も相当な数で行われています。ちなみに昼ごはんに使う学
生の食事代は平均で行くと 340 円くらいです。先ほども申しましたように、今の学生は
相当お金に余裕がなく、そのためサークル活動をセーブしているという状況がわかりま
す。今後学生が博物館にどんどん行くようになり、ボランティア活動も含めその将来の
担い手になってもらいたいと思っておりますが、このように学生の経済状況やサークル
活動の現実を見てみると、博物館に全員ではなくても興味のある学生を呼び込むには一
定の思い切ったインセンティブというのが必要ではないかと思われます。今後博物館協
会の内部で検討なさるときは、そのようなことも考えて頂けたらなと考えました。それ
では本日はこれで終わりにさせて頂きます。ありがとうございました。
50
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