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SE36マラリアワクチンの臨床開発

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SE36マラリアワクチンの臨床開発
SE36マラリアワクチンの臨床開発
大阪大学の堀井と申します。よろしくお願
いいたします。
大阪大学 微生物病研究所
ほり
教授
堀
い
井
とし
俊
ひろ
宏
『スライド1をご覧下さい。』
私からは、新興再興感染症の中でも、再興
感染症と呼ばれておりますマラリアという
感染症についてお話します。
ここに書いてございますように浸淫地域、つまり流行地域の居住者総数というのは全人口
の4割つまり現在ですと、24億人が流行地域に居住し、年間の患者総数は3億人から5億人、
年間の死亡者総数は270万人といわれています。1日に7,000人ずつマラリアで死亡している
ということです。
この写真は、ウガンダの奥地で私が撮ってきた写真ですが、被害に遭うのはこういった5
歳以下の子供たちです。
ここは、現地のマラリアクリニックですが、1日に50人から100人のお母さんがマラリア
で昏睡状態に陥った子供を連れてこられて、ここで投薬し治療するという場所です。
基本的に、マラリアによるほとんどの犠牲者はサブサハラ、つまりサハラ以南のアフリカ
地域で起きており、なかなか世間の注目に触れることが少ないですが、現在、結核、エイズ
に次いで3番目の重要な熱帯病であるということです。
『スライド2をご覧下さい。』
マラリアというのを概説いたします。マラリアは寄生虫病であり、マラリア原虫と言う単
細胞の真核生物が病原体です。その病原体は感染すると肝細胞を経て、赤血球中に入ります。
図中のこれらの細胞です。
この中の指輪に似た形状をもつ細胞をリング(輪状体)と呼びますが、これが赤血球中の
ヘモグロビンなどを消化して、次のステージ(形状)に成長してまいります。
スライド1
マラリア
浸淫地域の居住者総数 22億人
22億人
年間の患者総数
3億人
年間の死亡者
270万人
270万人
-198-
スライド2
熱帯熱マラリア原虫の生活環とワクチン候補抗原
赤血球期ワクチン
SERA AMA-1 GLURP
MSP-1 MSP-2 MSP-3
伝播阻止ワクチン
Pfs25 Pfs28 Pfs230
Trophzoite
♂
Ring
♀
gamete
gametocyte
Zygote
Erythrocytic stage
Schizont
Liver stage
Ookinete
Sporooite
Merozoite
肝細胞期ワクチン
CSP TRAP LSA-1
スポロゾイトワクチン
CSP
スライド3
『スライド3をご覧下さい。』
ギムザ染色という方法により染色されています。最終的にメロゾイトという形状になっ
て、次の世代に移っていきます。
このように、赤血球をどんどん食い荒らすことによって、発熱や皮腫などマラリア特有
の症状を起こして、最終的には、脳性マラリアという重症化マラリアを併発して死に至り
ます。
-199-
ちなみに、我々日本人がアフリカで感染すると、どれぐらいの死亡率が出るかというと、
約8割は死ぬだろうといわれています。ただし、通常は抗マラリア薬の服用で助かるわけで
す。
スライド2で、「熱帯熱マラリア原虫の生活環とワクチン候補抗原」という図を示しました
けれども、中央縦線の左側は媒介昆虫であるハマダラカの中腸内或いは唾液腺における生活
環で、ハマダラカがヒトを刺咬するときに、その唾液とともにマラリア原虫のスポロゾイト
が体内に注入され、それが一旦、肝細胞に入り増殖した後、先程顕微鏡写真をお見せしまし
たけれども、赤血球期と呼ばれているステージで増殖が繰り返されます。このうちの一部が
成熟し、生殖母体という形になって、刺咬の際再び蚊の体内に入ってここでDNA組換えを
起こします。DNA組換えがマラリア原虫の非常に多様な抗原性を作り出していて、恐らく
現地においてマラリア原虫どの1匹を取っても抗原性は微妙に全て異なっていると思われま
す。このような現象がいわゆる、流行地域の人々が自然に防御免疫をなかなか獲得できない
ということと非常に密接につながっていると考えられています。
しかしながら、やはり免疫療法というのは最善の方法であろうという予想のもとに、例え
ば、赤血球期ワクチンですと赤血球期での増殖を抑制する、伝播阻止だと蚊による刺咬を止
める、スポロゾイトワクチンだと進入してきたスポロゾイトを攻撃する、肝細胞期ワクチン
だと感染肝細胞を攻撃する。このようなストラテジー(戦略)があって、全世界で努力して
いるわけです。臨床試験が行われたワクチンもいくつかありますが、なかなか満足できる成
績というのは得られていない状況です。
我々がここ15年ほど研究しておりますのはこの赤血球期ワクチンです。マラリアによる被
害を防ぐには赤血球期での発症を予防すればいいわけですから、ここの部分での増殖を8割
ぐらい抑制したいと考えました。そうすると全く発症しないままで済むだろう、という発症
予防ワクチンの開発を狙っております。
ちなみにマラリア原虫の場合、生ワクチンという概念は恐らく存在しません。一つは培
養に非常にコストがかかるということと、現地の疫学調査から一度感染しても、再び感
染を繰り返します。それは抗原性が変わるからです。そういう状況で、生ワクチンで一度
ぐらい軽く感染を経験したからといって、防げるものではないということは容易に想像でき
ます。
そこで、サブユニットワクチンに狙いをつけ、何か重要な抗原を見つけ出して、それで感
染防御能が付与できないかという考えたわけです。現在私共が研究を行っているのは、
Serine Repeat Antigen (SERA)と呼ばれている蛋白質です。
『スライド4をご覧下さい。』
これは感染赤血球の電子顕微鏡写真です。熱帯熱マラリア原虫のメロゾイトがたくさん見
えているのがお分かりになると思います。金コロイドを用いた免疫電顕という手法でSER
A蛋白質の存在が黒く小さな点状に示されています。SERA蛋白質は寄生胞と呼ばれるメ
ロゾイトの外側にある袋の中に存在する蛋白質であるということです。これがギムザ染色し
ますとこのように見られます。(スライド左下)
-200-
スライド4
電子顕微鏡による
熱帯熱マラリア原虫感染赤血球における
SERA (serine repeat antigen) の局在
RBC membrane
Merozoite
SERA
スライド5
4
Trophozite
Ring
Erythrocytic stage
Schizont
SE47'-specific IgG
Merozoite
Protease motif
Serine repeat
S
H N
SERA protomer
(989 a.a.)
I
P47
P50
III II
P6 P18
Processed fragments
S-S
P65
『スライド5をご覧下さい。』
そこで、この蛋白質の概要を申し上げます。熱帯熱マラリア原虫の赤血球期における生活
環は、リングからシゾントに成長し、メロゾイトを放出して次の新しい赤血球に感染するこ
とを繰り返します。我々のSERA蛋白質promoterは約1,000アミノ酸残基があり、N末端
側にセリン残基が30から40回繰り返しています。この特長からSerine Repeat Antigenと呼
-201-
んでいるわけですが、図中、黄色で示しました蛋白質分子がシゾントステージで大量に合成
されます。
シゾントの中ではSERA分子は元の状態ですが、赤血球膜が開裂する直前にプロテアー
ゼの働きによって、N末端のP47、S-S結合したC末端のP18、中央部分のP50に3分割
されます。P47、P18、P50の数字は分子量を表します。中央のP50は細胞に接着すること
なく細胞外に放出されますが、N末端側P47とC末端側P18はメロゾイト表面に付着したま
まです。これに対する抗体があると、図中のようにメロゾイトを凝集して再感染を防ぐであ
ろうという予測です。
『スライド6をご覧下さい。』
先程のP47に特異的な抗体を用いて蛍光染色(FITC)しますと、開裂直後のメロゾイ
トの表面がすべて染まりますけれども、P50抗体ですと全く染まりません。ただし、両者と
もシゾントはよく染めます。どういうことかと言いますと、このP50分子は赤血球開裂時外
に放出されるからワクチン候補としてはほとんど効かない。それに対して、P47はメロゾイ
ト表面にとどまるためワクチン候補となるだろうということです。
『スライド7をご覧下さい。』
このP47をもとにして、我々は組換え蛋白質でありますSE47‘というものと、後半で述べ
ますけれども、SE36という改良型の蛋白質を作りました。この組換え蛋白質でマウスを免疫
スライド6
P47 と P18 はメロゾイト表面に結合している。
(A) Western Blotting
(B) IFA
anti- 47 anti- 50 anti-18
kD Mr T/S
M T/S M T/S
DAPI
anti- 47
M
FITC
M
200-
S
11697-
SERA
66-
P66(P25n+
P25c+ P18)
45-
Anti-47
M
31P25n / P25c
21-
P18
14Reducing
S
Anti-50
Non-reducing
T, trophozoite
S, schizont
M, merozoite
Mr, molecular weight marker
M
-202-
スライド7
23
セリンレピート (35)
191-225
S
H N
989
プロセッシング前
III II
I
プロセッシング後
P47
P50
17
P6
P18
382
SE47’ protein
SE47’
組換えタンパク質
SE36 protein
SE36
△193-225
して誘導される抗体がワクチンとして効いたとか効かないとかという実験をしましても、そ
れが本当にヒトに対するワクチンとして有効であるかどうかはなかなかわかりません。そこ
で、我々は発想を換え、この蛋白質が実際に現地で防御的な機能を果たしているのだろうか、
どうだろうかということの疫学調査を行いました。
『スライド8をご覧下さい。』
アフリカ大陸のほぼ中央部にウガンダという国があります。これはヴィクトリア湖の少し
北、赤道直下の国です。首都はカンパラです。一番初めにお見せしたクリニックの写真は、
このアトピ・パリシュという場所で撮ってきたものですが、この場所で疫学調査を行いまし
た。
『スライド9をご覧下さい。』
アトピ・パリシュの中にアパッチという地域があります。このあたりは、非常に湖沼が発
達しており、もうハマダラカだらけといっていいような棲息地域で、非常に高いマラリア流
行度を示します。
ちなみに、このアパッチ地区の小学生の血液10人分を採血すると、8人は原虫を持ってい
るという状況です。
-203-
スライド8
Atopi Parish
Kampala
Uganda
Lake Victoria
スライド9
Apac
Kampala
Entebbe
-204-
スライド10
流行地住民の血中 抗-SERA IgG
抗体価と マラリア症状および原虫率の相関
Anti-SERA IgG and Fever
Anti-SE50A
4
Anti-SE47' IgG3 ELISA OD
Anti-E50A IgG1 ELISA OD
2.0
3
2
1
0
Anti-SE47’
Parasitemia (1000/μl blood)
Anti-SE47’
Anti-SERA IgG and blood parasitemia
1.5
1.0
0.5
14
14
12
12
10
10
8
8
6
6
4
4
2
2
0
0
0
0
No Fever Fever
< 37.5 ℃ > 37.5 ℃
No Fever
< 37.5 ℃
Anti-SE50A
Fever
> 37.5 ℃
1
2
3
4
anti-SE47' IgG3
(OD at 405 nm)
0
1
2
3
4
anti-SE50A IgG1
(OD at 405 nm)
『スライド10をご覧下さい。』
以前のデータですが、この地域で子供たちから血液を採取しまして、次のような疫学調査
を行いました。子供たちの血清を採血時の症状によって2群に分けます。赤色で示しました
のはマラリアで発熱している子、黄色は発熱していない子供です。その子供たちの血清のS
E47’に対する抗体価を見ますと、発熱していない子どもの中には、高い抗体価を示す子供
たちがいるけれども、マラリアで感染している子供は抗体価を示さない。一方、コントロー
ルとして用いたP50による抗体価の平均値を取りますと両者に優位な相関関係はありませ
ん。従って、このSE47’に対する抗体を持っていると発熱しないという可能性が強く示唆
されます。
次は、抗体を持っている子供はマラリア原虫を持っているかどうかということを別の40例
の血清で調べます。まず血液を採取して、その血液中の原虫率を縦軸に取ります。同時に、
その血清成分の中にあるSE47’に対する抗体価を調べます。そうしますと、血中にたくさ
んマラリア原虫を持っている子供は、ほとんどが低い抗体価であるのに対して、抗体価の高
い子で、この点線で示しますWHOの危険原虫率を突破する子供はおりません。コントロー
ルのSE50に対しては相関関係を示しませんでした。
-205-
スライド11
ウガンダ人血清
マラリア原虫培養液
24時間後の原虫増殖の測定
Parasite Growth inhibition (%)
ウガンダ人血清による培養マラリア原虫の増殖阻害
75
本試験で使用した3種の
熱帯熱マラリア原虫株
50
Hondurasー1
FCR3
K1
25
0
102
103
104
105
IgG3 ELISA titer against SE47’
『スライド11をご覧下さい。』
それではというので、今度は、ウガンダから成人40人の血清を送ってもらい、我々微生物
病研究所の中で、その各血清のSE47’に対する抗体価を測定すると同時に、同じ血清をマ
ラリア原虫の培養液に添加いたしました。24時間後にこのウガンダ人血清がマラリア原虫の
増殖に与える影響を縦軸にプロットいたします。そうしますと、送られてきた血清とその血
清が示す原虫増殖阻害は正に相関が見られます。
赤色、黄色、緑色で示したのは実験に用いたマラリア原虫の株で、それぞれHonduras I、
FCR3、K1という非常に特徴の異なった株ですが、同様に相関しております。
『スライド12をご覧下さい。』
次に、SE47’はワクチンとして有望そうだということで臨床開発をしようとしたのです
が、実際にはSE47’は非常に疎水的な蛋白質で、精製が非常に大変だということで一計を
案じました。SERAというのは、何度も申し上げますがSerine Repeat Antigenです。Poly
Serine領域を外せば疎水性が減るだろうという予測をもとに、SE36という改良型の組換え
蛋白質を準備いたしました。
この両者の蛋白質を用いまして、先程お見せいたしました血清による原虫阻害というもの
が実際に抗SERA抗体によって起こっているかどうかを直接示したいというので図のよ
うな実験を行いました。
-206-
スライド12
SE47ドメイン から SE36へ
-SERAマラリアワクチンの臨床開発をめざして17
SE47’ protein
382
SE47’
精製過程に改良を加えた SE36 蛋白質は、 SE47’蛋
白質に比べて低い濃度でウガンダ人血清のマラリ
ア原虫増殖阻害活性を中和することができる。
△193-225
50
(%)
高 SERA 抗体価
ウガンダ人血清
SE36
40
原虫の増殖阻害
SE36 protein
30
精製組換えSE36 蛋白質
2 時間の抗原・抗体反応
抗SE36抗体を中和した
ウガンダ人血清
SE50A
SE47’
20
SE36
10
0
0
マラリア原虫培養液
10
20
30
40
中和反応に用いた蛋白質濃度 (µg/ml)
40時間後の原虫増殖の測定
まず、抗SERA抗体価の高いウガンダ人血清と精製した組換え蛋白質SE47’或いはS
E36を混合して2時間反応させまして、血清内の特異的抗体を中和いたします。中和した後
に、これをマラリア原虫の培養液に入れて40時間後の原虫増殖を測定します。
こういう中和実験を行いますと、対照として用いましたSE50ですと、いくら反応させても原
虫の増殖阻害は変化いたしません。SE47’ですと10μg/mlから40μg/mlの蛋白質濃度に
よって、こういう減少曲線を描きます。つまり、この蛋白質と血清を前もって反応させてお
くだけで、この血清はマラリア原虫にとっては、全く平気(無害)なものになったということ
を示します。
一方、SE36のほうはより効果が高くて、かなり低濃度でもすべてを中和したということ
から、SE36でいきましょうということになりました。
『スライド13をご覧下さい。』
ちなみに、そんなにいい抗原分子だったらどうして人間は、それをすぐに免疫獲得して、
元気にならないのだという質問があるかと思います。これは、ソロモン諸島で0歳児から40
歳以上の人たちを年齢ごとに1、2、3、4、5、6群に分けて抗体価の陽転率を測定しま
-207-
スライド13
Proportion of high responders (%)
ソロモン諸島住民の
SERA N-末端ドメインに対する抗体陽転率
100
SE36 (+)
MSP-11-6 (+)
80
60
40
20
0
~10 11~15
(n=12) (n=25)
16~20
(n=19)
21~30
(n=20)
31~40 41~
(n=13) (n=26)
Age Groups (yr.)
した。ソロモン諸島も極めて高いマラリア流行地域です。
MSP-1というのは、アメリカ合衆国及び、オーストラリアで開発が進められているマ
ラリアワクチンの主たるコンポーネントですが、このMSP-1に対しては、10歳以下でも
80%が抗体陽転しているということを示します。全年齢層にわたって非常に高い抗体陽転率が見
られます。
それに対して、SE36というのは、40歳を超えても40%程度しか陽転しません。これはS
ERA蛋白質、SE36であってもSE47’でも同じ結果です。10歳以下だと10%以下です。
このあたりが非常に致死率の高い年齢層ですが、つまり抗体陽転しないということ自体が、
SERAの防御は与えるらしいけれども、どうもこれが陽転しないから自然界では、利用さ
れていないものであるということが想像できます。
『スライド14をご覧下さい。』
全世界的に進んでいるゲノムプロジェクトの一つとしてマラリア原虫染色体DNAの前
塩基配列が決定されました。1998年にまず、scienceにChromosome2のシーケンスが発表さ
れたときに、実は、SERAというのは単体の遺伝子ではなくて、1番から8番まであるよ
うな非常なクラスターを形成している遺伝子ファミリーであるということがわかり、我々は
驚きました。我々の研究しているSERAというのは、実はSERA5であったということ
もわかりました。
『スライド15をご覧下さい。』
個々のSERA遺伝子の発現が問題だろうということで、遺伝子発現解析を行いましたら
-208-
スライド14
SERA genes on Chromosome 2 ofP. falciparum
GLARP
MSA2
KAHRP
Ag513
K3A
Ch. 2 (1 Mb)
SERA 5
1
2
3
4
A
A
A
A
R
R
R
R
SE
SE
SE
SE
6
7
8
A
A
A
R
R
R
SE
SE
SE
Pf Ch. 2 sequence (Gardner MJ, et al., Science, 1998, 282, 1126-1132)
スライド15
100
75
50
25
0
SE
R
A
1
SE
R
A
2
SE
R
A
3
SE
R
A
4
SE
R
A
5
SE
R
A
6
SE
R
A
7
SE
R
A
8
SE
R
A
9
M
SP
-1
Relative copy number of mRNA (%)
Relative expressions of SERA family and MSP-1 genes
K1
FCR 3
-209-
Honduras 1
スライド16
Co-expression of SERA proteins
DAPI
anti-SE5N
anti-SE3N
merge
DAPI
anti-SE5N
anti-SE4N
merge
DAPI
anti-SE5N
anti-SE6N
merge
SERA 5というのは、もう膨大な量の発現をしているということがこのとき初めて分か
りました。先程述べましたMSP-1の5倍ぐらい発現しています。
『スライド16をご覧下さい。』
SERA 3、SERA 4、SERA 5、SERA 6が遺伝子として発現しているとい
うことが分かりまして、これが細胞ごとに発現しているか、全細胞で発現していのるかを調
べました。もし細胞毎に発現するSERA遺伝子が異なれば、ワクチン開発にとって致命的
です。抗体をそれぞれ作って、上段では3番と5番の二重染色で両者発現していることがわ
かります。中段では5番と4番の二重染色で両者が発現している。下段では5番と6番の両
者が発現している。特に下段ではたくさんの原虫を撮影しました。全細胞で全遺伝子が発現
していることが分かりました。
『スライド17をご覧下さい。』
それではSERA 3、SERA 4、SERA 5、SERA 6、MSP-1で横軸に抗
体価を取って抗体陽転について調べます。そうしますと、驚くべきことに発現量がSERA
5の10分の1であるSERA3ですら、抗体陰性の人が非常に少ないのです。SERA 4
になるとゼロです。SERA 6で1人、MSP-1で2人、ところが、SERA 5は50%
が抗体陰性です。何故こうなるかはまだ我々にもメカニズムは分かりません。しかし、非常
に面白い原虫の生き残り戦略だと思っております。
-210-
スライド17
60
60
B
(N.S.)
60
50
50
50
40
40
40
30
30
30
20
20
20
10
10
10
<1 0 2 1 0 2
1 03
104
1 05
< 10 2 10 2
E LI SA t iter aga inst S E3 N
Parasite gr ow th i nhibition (%)
SERA 5
SERA 4
(N.S.)
60
D
(N.S.)
60
50
50
40
40
30
30
20
20
10
10
<1 0 2 1 0 2
1 03
104
ELI SA t it er a ga in st S E6N
SERA 6
103
10 4
1 05
E
103
10 4
(r=0.785, p<0.0001)
1 03
F
105
ELI SA t iter aga in st M SP -1 19
1 05
(N.S.)
105
10 4
1 03
10 2
< 1 02
<1 0 2 1 0 2
10 3
スライド18
アラムをアジュバントとする SE36蛋白質の免疫原性
ーチンパンジーにおける免疫試験ー
Mizuo 11 years old ♂
104
1 05
E LISA titer aga inst M SP -1 19
MSP-1
-211-
104
E LI SA t iter again st S E47'
(r=0.329, p=0.038)
< 10 2 10 2
C
<1 0 2 1 0 2
105
ELI SA t iter aga in st S E4 N
E LI SA t iter aga inst S E4 7'
Pa ras it e gro wt h inhib it io n ( %)
SERA 3
A
『スライド18をご覧下さい。』
ではそんなに免疫原性が低いのだったら、今度は逆に、ヒトでもワクチンになるかどうか
分からないのではないかという疑問が生じます。そこで、我々はSE36蛋白質免疫原性につ
いてヒトと極めて近いチンパンジーを用いて調べました。
『スライド19をご覧下さい。』
3頭を免疫しました。1頭目は450μg、2頭目は50μg、3頭目が10μg。アジュバントは、
ヒトで使用許可されている水酸化アルミニウムです。
3頭につきそれぞれ3回皮下接種いたしました。450μgと50μgの個体は、2回の免疫で
最高値まで上がってきました。10μgは、3回目の接種で最高値まで上がっています。
これを2年にわたってフォローアップしました。1年後にまず、1,000倍をきったのは、一
番低かった10μgのチンパンジーです。これに対して、10μgの追加免疫をかけるともういき
なり最高値まで上がりましたし、2年後に450μgのものがちょっと低下したので、追加免疫
をかけるとこちらも即座に上がってきました。SE36組換え蛋白質による人工的な免疫は十
分な免疫記憶を与えるものであるということがお分かりになると思います。
スライド19
SE36 はチンパンジーにおいて高い免疫原性を示した。
Subcutaneous injection
Boosting
Boosting
Boosting
10 5
105
(IgG)
Titer of Anti-SE36 (IgG
1)
10 4
104
10 33
10
100 2
10 2
10
10 1
10
10
101
0
8
16
24
32
40
48
56
64
72
80
88
96
104
112
120
128
(Week)
239(450ug)
254(50ug)
272(10ug)
Change of titers of anti-SE36 antibodies in 3 chimpanzees post vaccination
-212-
スライド20
Production of malaria vaccine SE36 under
GMP environments for clinical trials
GMP production facilities for SE36 located in the Kanonji institute of
The Research Foundation for Microbial Diseases of Osaka University
(BIKEN)
スライド21
GMP生産したSE36マラリアワクチン治験製剤
一本のバイアルには、一回のワクチン接種に
用いる水酸化アルミニウム(1 mg)に吸着さ
せたSE36蛋白質(100μg)が、凍結乾燥した
状態で封入されている。
『スライド20をご覧下さい。』
次にSE36蛋白質を、Good Manufacturing Practice (GMP)に基づき、財団法人阪大微
生物病研究会の観音寺研究所で生産して頂きました。
『スライド21をご覧下さい。』
これが第1回目に作られた治験製剤で、1本のバイアルには、1回のワクチン接種に用い
る水酸化アルミニウムに吸着させたSE36蛋白質が凍結乾燥した状態で封入されています。
今後はこれを前臨床試験GLP、臨床試験GCPへと進めていかなければなりませんが、コ
スト面の問題もあり、本当にこれが効くかどうか、もう一度確認しようということで、リス
ザルという感染動物モデルを用いてワクチン試験をしました。
-213-
スライド22
BK-SE36治験製剤によるリスザルを用いたワクチン試験
-6
-5
-4
-3
-2
ワクチン接種
-1
0
1
2
3
4
(週)
攻撃感染
R57 (V)
R59 (V)
R61 (V)
R58 (C)
R60 (C)
R62 (C)
(%)
原虫感染後の血中原虫率の推移
20
リスザル血中の原虫率
感染時におけるELISA 抗体価
R60
R62
R61
R57
R59
15
10
(C)
<100
(C)
<100
(V) x 6,400
(V) x 51,200
(V) x 51,200
5
0
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26
感染後の経過 (日)
『スライド22をご覧下さい。』
リスザルはペットとして大変たくさん輸入されている500gぐらいの新世界サルです。こ
れがたまたまヒトのマラリア原虫に感受性があるのです。
ちなみに、マラリア原虫というのは非常にヒト特異的で、チンパンジーにすら感染は成立
しません。リスザルの脾臓を摘出することによって、感受性を高めました。ワクチン群3頭
とコントロール群3頭に分けまして、先程の治験製剤凍結乾燥標品50μgを2回接種いたし
ます。コントロールは生理食塩水です。
免疫しましたけれども1頭だけ、抗体価上昇が悪いというので3回免疫をしております。
その後、ゼロ週で攻撃感染をさせて、このリスザルの血中の原虫感染率を測定します。コン
トロールのうちの1頭は、事故によりここで死亡してしまいましたので、2頭をフォローアッ
プしますと、感染後の経過0、1、2、3、4日、3日の時点でこのように、マラリア原虫
特有の脈動を打つような末梢血の原虫が観測されます。全赤血球の、10%から20%まで感染
します。それに対してワクチン群は特に、緑色の線と青色の線で示しますが、51,200までE
LISA抗体価が上がったものは3%程度以下に抑えられていました。
ELISA抗体価が6,400のものは、ちょうどその中間値に出てくるという形で防御効果
がありそうだということです。
もう一つご覧になって頂きたい点は、感染後3日目ですでに差が出ている。本実験では大
量の感染血をこのリスザルに静脈注射で感染を成立させています。従いまして、生産された
抗体によってこれは、原虫率が抑制されているであろうと予想させます。
ちなみに赤血球はHLA1がございませんから細胞性免疫は働きません。すべて抗体によ
-214-
スライド23
3
免疫
2.5
感染
( )
2
1.5
1
0.5
0
-5
-3
-2
-1
(%)
ELISA OD at 1/12800
dilution
ワクチン接種後の原虫感染によるブースター効果
R60
R62
R61
R57
R59
(C)
<100
(C)
<100
(V) x 6,400
(V) x 51,200
(V) x 51,200
Parasitemia
End point titer at challenge
0
+1
+2
+3
0
+1
+2
+3
+4
Weeks
20
15
10
5
0
Weeks
るものである、或いは補体経路によるものであると考えております。
『スライド23をご覧下さい。』
もう一つ面白いデータがあります。先程のリスザルによる感染実験です。各個体の免疫上
昇を調べていきます。そうしますと、よく抗体価が上がった緑色の線と青色の線の個体は、
図で示すように上がっていて、赤枠で囲んだ時点で感染させます。黄色い線の個体は、実に
上がりが悪かったのですが、同じように感染させます。そうすると、抗体価が感染の2週後
に顕著に上がっているのがご覧になれるかと思います。これは、感染した原虫によって生産
されたSERA蛋白質による追加免疫効果と考える以外に考えようがありません。黄色の個
体も数倍上がりました。
従って、SE36蛋白質で一度免疫すると、自然感染によっても、このような追加免疫効果
が期待できます。アフリカ地域においては、1回或いは2回接種すれば、あとは自然の感染
で免疫が維持される可能性を示唆します。
一方、これだけ原虫がたくさん血中に放出されているにもかかわらず、コントロールのリ
スザルは1頭もく免疫反応が出ない。これは、ヒトにおいて抗体陽転率が低いということと
よく一致します。また、7年前に同様の実験を8頭で行ったことがありますけれども、対照
群では抗体陽転が起こらないということは、前回も今回も一致した観察です。
『スライド24をご覧下さい。』
-215-
スライド24
毒性試験及び安全性薬理試験
試験名
動物
群
投与経路
投与量
異常毒性*
否定試験
モル
モット
雄各 3匹 /群
腹腔内
5.0m L
ラット
雌雄各 5匹 /群
皮下
単回投与
毒性試験
×3
イヌ
反復投与
毒性試験
ラット
遺伝毒性
試験
細菌
雄 2頭 /群
×3
雌雄各 10匹 /群
×2
マウスリンパ腫細胞株
皮下
観察項目
一般状態 体重 剖検
0.7mL/kg (10倍 )** 一般状態、体重、剖
7mL/kg (100倍 ) ** 検、必要に応じて病
理組織学的検査
0.7mL/kg (10倍 )
7mL/kg (100倍 )
結果
一過性の体重減少及びアルミ沈降製剤
特有の白色固形物の付着が確認された
以外に異常は認められなかった。
投与局所に異物性肉芽腫が生じるが、
全身性の毒性徴候は認められなかった。
0.7mL/kgでは全身性の毒性徴候は認め
られなかった。7mL/kgでは一過性の浅
速呼吸、脈拍数増加及び流涎が観察され
た。
0.7mL/kg( 10倍) 一般状態、体重、摂
餌量、眼科的検査、
尿検査、血液学的検
査、血液性化学的検
査、器官重量、剖検、
病理組織学的検査
in vitro 1300μL/plate~ 復帰突然変異試験
20μL/plate, 6用量 (Ames試験)
投与局所に異物性肉芽腫が生じるが、
明らかな全身性の毒性は認められなか
った。
in vitro 100μL/mL~2倍
マウスリンパ腫細胞株において遺伝子
皮下
段階希釈, 6用量
遺伝子突然変異試験
細菌における変異原性は認められな
かった。
(マウスリンフォーマ試験) 突然変異は誘起しなかった。
投与 2、 7日後
病理組織学的検査
局所刺激
性試験
ウサギ
雄 6羽 /群
×5
筋肉内 1.0mL/site
安全性薬
理試験
ラット
雄 6匹 /群× 2
皮下
0.7mL/kg( 10倍) 腎機能に対する作用
0.7 mL/kgでラットに単回皮下投与した
とき、腎機能への影響はなかった。
ラット
雄 8匹 /群× 2
皮下
0.7mL/kg( 10倍) 呼吸器系に対する作
用
0.7 mL/kgでラットに単回皮下投与した
とき、呼吸器系への影響はなかった。
*:生物学的製剤基準, 非GLP試験
生理食塩液より強く、0.425w/v%酢酸溶
液より弱いグレード2に分類された。
**:想定される臨床投与量の10あるいは100倍
これは前臨床試験(GLP)の詳細です。説明は省略させて頂きますが、重大な副作用は
認められませんでした。ついで臨床開発を行うというわけで、GCPに進みます。これは我々
だけの手には余りますので、微生物病研究所と財団法人阪大微生物病研究会、それからWH
O− TDR(世界保健機関 熱帯病研究特別計画)、それと図中書き忘れましたが、WHO−
IVR(ワクチン開発機構)とのコラボレーションで行いました。
『スライド25、26をご覧下さい。
』
第Ⅰ相臨床試験を平成17年1月から開始しましたけれども、被検者総数は20例2群で計40
例。1群当たり15例のワクチン群と5例の生理食塩水(対照薬)群を設定しました。投与方
法はBK− SE36(治験製剤名)又は生理食塩水を0.5ml及び1.0mlを3回皮下投与。0.5ml、
1.0mlいたします。投与期間はそれぞれ約3週間隔で3回投与します。
評価項目は、主要評価項目が有害事象の発現頻度と程度、副次的評価項目がSE36抗原に対
する抗体価の推移ということで、これを模式化しますと0週、3週、6週、9週に分けて0、
3、6で1回、2回、3回打って、このポイントでそれぞれ抗体価を取ります。これを50μ
g/doseと100μg/doseの2群で行いました。
-216-
スライド25
SE36第Ⅰ相臨床試験
各投与量群 20例
被検者数
被験薬:15例
対照薬: 5例
(2群 計40例)
(BK-SE36)
(生理食塩液)
投与方法
BK-SE36または生理食塩液0.5mL、及び、1.0mLを
3回皮下投与
投与期間
各投与の間隔: 21日間±1日間
主要評価項目;有害事象の発現頻度と程度
評価項目
副次的評価項目;SE36抗原に対する抗体価の推移
スライド26
第Ⅰ相試験投与スケジュール
BK-SE36;15例、 プラセボ(生理食塩液);5例
0W
3W
6W
1 回目
2 回目
3 回目
9W
0.5mL投与
(50μg/dose)
1.0mL投与
(100μg/dose
)
抗体価測定
50μg/doseというは、先程申し上げましたチンパンジー実験における経験から50μg/dose
はまず避けられない、必須のポイントだろうということで設定いたしました。
『スライド27をご覧下さい。』
実は現在、最終評定がようやく終わったところで、まだ細かいデータについてはお話する
ことができませんが、有害事象の発現頻度と程度というのは、治験者総数グループ1(50μ
g/dose)が15。グループ2(100μg/dose)が1名脱落して14。これは水酸化アルミが入っ
ておりますのでそこに局所的な硬結、或いは腫脹というものが観察されました。これはGLP
-217-
スライド27
SE36第I相臨床試験で観察された有害事象の発現頻度と程度
Group 1 (50μg) Group 2 (100μg)
治験者数
15
14
硬結
13
13
腫脹
2
0
その他の重要症例
0
0
スライド28
第1グループ (50μg)
第1回接種後
第2グループ (100μg)
第2回接種後 第3回接種後 第1回接種後
第2回接種後 第3回接種後
1300
1300
1200
1200
1100
1100
1000
1000
900
900
800
800
700
700
600
600
500
500
400
400
300
300
200
200
100
100
0
0
-218-
でも明らかに出現するだろうということが分かっていた項目です。その他の重要症例につい
てはございませんでした。
『スライド28をご覧下さい。』
抗体価ですが、50μgグループと100μgグループで明らかな違いがありました。1回接種
後の3週間目ですとほとんど陰性です。50μgグループの2回、3回ですと、平均値として図
のように上がってきます。抗体価が上がっていない5例は生理食塩水を投与した対照群(プ
ラセボ群)です。
それに対して100μgグループですと、2回目、3回目とも、5μgグループの5倍ぐらい
の抗体価が出てきました。ただし、接種を3回する必要はないだろうということが分かります。
そうしますと、100μg2回で、次の臨床試験を行うべきであろうということを示すデータ
です。
『スライド29をご覧下さい。』
SE36の全体の開発計画ですが、現在ほぼ終了しているのが生産国である日本における第
Ⅰ相臨床試験、PhaseⅠaと呼ばれる段階です。
スライド29
SE36ワクチン臨床開発の全体計画
用法・用
量
有効性の
評価項目
実施年/予
定
プラセボ対照
単盲検試験
2用量
3回皮下
投与
抗体価の推移
(副次的評価)
2005
成人男性
(抗体陽性者)
プラセボ対照
単盲検試験
1用量
2回投与
抗体価の推移
(副次的評価)
2006
6-8歳の小児
プラセボ対照
用量設定試験
1用量
2回投与
マラリア発症率*、
原虫保有率
Ht値の推移
抗体価の推移
2007-2008
番
号
臨床試験
の相
実施国
目的
1
第1相試験
日本
安全性の確
認
成人男性
2
第1相試験
ウガンダ
安全性の確
認
3
第Ⅱ/Ⅲ相
試験
ウガンダ
インドネ
シア等
臨床的有効
性、安全性
の確認
4
第Ⅲ相試験
流行国
臨床的有効
性、安全性
の確認
5
第Ⅲ相試験
日本
有効性
(代替)
安全性の確
認
対象者
試験デザイン
5歳以下の小児
未定
未定
マラリア発症率*、
原虫保有率
Ht値の推移
抗体価の推移
2009
健康成人
未定
未定
抗体陽転率
抗体価の推移
2010
*マラリア発症率:WHOの基準に従い、マラリア発症を測定する。**原虫率:感染赤血球数/全赤血球数
-219-
スライド30
ワクチンの接種対象者と期待される予防効果について
易
1. 高度流行地域に居住する5歳以下の児童を対象として、死
亡率を低下させる。 (WHOは30 % 以上の効果を期待)
2. 高度流行地域に居住する全住民を対象として発症率を低下
させる。
3. 流行地域に赴く短期の旅行者を対象として、死亡率および
発症率を低下させる。
難
4. 流行地域に赴く長期の滞在者を対象として、死亡率および
発症率を低下させる。
次に流行地域ウガンダでのPhaseⅠbを来年予定しておりますけれども、現在大統領選挙
によるちょっとした不安要因がございます。しかし、そこも落ち着けば実施できると思い
ます。
第Ⅱ相、第Ⅲ相試験を6ないし8歳の幼児で行い、第Ⅲ相試験は5歳以下の小児で行う予
定です。
また、日本においても第Ⅲ相臨床試験をしてトラベラーズワクチンができないかというよ
うに考えております。
『スライド30をご覧下さい。』
ワクチンの接種対象者と期待される予防効果ですが、今、WHOが強く求めていますのは、
高度流行地域に居住する5歳以下の児童の死亡率を低下させるということです。現在、高度
流行地域では、3人に1人はマラリアで死亡しています。この被害を30%以上低減するとい
うのがWHOの当面の目標です。この点、流行地域の子供ですからある程度人工的に助ける
ことができると思います。一番難しいのは、例えば日本人が流行地域に長期滞在をして、そ
のときに死亡率も発症率も低下させるというような完璧なワクチンです。これは非常に難し
いかと思います。図中の項目2と3はその中間ぐらいに位置するものですが、ワクチンとい
うものは、特に寄生虫ワクチンというものは、その用途用途によって、全く考え方を変えな
いといけないというふうに思います。
『スライド31をご覧下さい。』
本日発表しましたデータは、次の方々との共同研究により得られたものです。GMP条件
によるSE36の生産では、財団法人阪大微生物病研究会観音寺研究所の白井さん、谷下さん、
-220-
スライド31
SE36マラリアワクチン開発 研究組織
GMP条件によるSE36の生産
(財)阪大微生物病研究会
観音寺研究所
白井 宏樹、 谷下 修
石川 豊数
免疫電顕によるSERAの局在
愛媛大学・医学部
鳥居 本美
チンパンジー免疫実験
三和化学研熊本霊長類パーク
田上 哲也
森
裕介
早坂 郁夫
SERA遺伝子多型解析
大分大学
総合科学研究支援センター
川本 文彦
リスザルによるワクチン試験
東京大学大学院
農学生命科学研究科
松本 芳嗣、 新垣 奈々
実験室中央研究所
伊藤
守、 谷岡 功邦
抗体によるエフェクター機構
パスツール研究所
Pierre Druilhe
GLP試験 委託業者
(株)富士バイオメディックス
流行地域における疫学調査
Molecular Biotech Laboratory
ウガンダ
名古屋市立大学大学院医学系研究科・宿主寄生体関係学講座
Solomon Institute of
ソロモン諸島
Medical Training and Research
Thomas G. Egwang
太田 伸生、羽藤真理子
Judson L. Leafasia
大阪大学・微生物病研究所・分子原虫学分野
Jie Li 、 青木 彩佳、 板垣佐和子、 佐藤
杉山 智彦、 Xin-Li Pang、 森松 克実、
三田村俊秀、 堀井 俊宏
暖、 有末 伸子、 梁 恵賢、 鈴江 一友、
森川 智博、 丹羽 淳子、
田井久美子、
石川さん。チンパンジー免疫実験は、三和化学研究所熊本霊長類パークの田上さん。それか
らリスザルによるワクチン試験では、東大農学生命研究科の松本先生、新垣さん。それから
免疫電顕は、愛媛大学の鳥居先生。本日は示しませんでしたが、大分大の川本先生が流行地
域で採取したマラリア原虫のSERA遺伝子を100例ほど全シーケンスされていまして、
我々のワクチン候補部分に関して言えば、非常に多型性が低いというデータを得ておりま
す。
それから、前臨床試験(GLP)は(株)富士バイオメディックスの委託で行いました。
流行地域における疫学調査は、ウガンダMed Biotech Laboratories (MBL)のトーマス・
エグウォング博士。ソロモンのデータは、名古屋市立大学の太田先生と羽藤先生、それから
ソロモン諸島の共同研究者です。それから私ども微研分子原虫学分野のスタッフを最後に示
しました。
どうも有難うございました。
(コーディネーター:山西氏)
それでは、最後は、阪大微生物病研究会の石川先生にワクチンの現状とこれから使用され
るであろうワクチンについてお話頂きます。
-221-
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