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C 測定法による藍染色布の鑑別
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Discrimination between Natural and Synthetic Indigo-Dyed Fabrics by C Analysis
國藤勝士・岡本恭平*・前田進悟*
Katsushi KUNITOU, Kyouhei OKAMOTO * and Shingo MAEDA *
キーワード
KEY WORDS
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合成インジゴ/天然藍/鑑別/放射性同位体/ C 測定法
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Synthetic indigo / Natural indigo / Discrimination / Radioisotope / C Analysis
1 はじめに
現在、繊維製品の染色には一般的に石油を原
料とする合成染料が使用されている。これは合
成染料が繊維への染着や色相の調整が容易とな
るように設計されており、大量かつ安価で安定
した製品の製造が可能なためである。一方、生
物由来の色素(天然染料)による染色品は、近年
の消費者の天然物志向や草木染め製品の有する
独特な色調や風合いを求める傾向の高まりから
一般的な染色品とは異なる付加価値が生じてい
る1)。特に藍染めは、染料であるインジゴの大
量合成法が確立された現在でも天然由来品を求
める志向が顕著となっている。
しかしながら、天然由来の天然藍も石油由来
の合成インジゴも染料は同じ構造であるため、
現状では天然染料染色であることを証明する手
法が確立されておらず、合成インジゴ染色品を
天然藍染め品と偽って販売している例も少なく
ないと言われている。したがって、天然藍染め
の信頼性と付加価値の確保のため、製品の天然
染料染色鑑別法の確立が急務となっている。
物質の天然由来度(生物由来度)を調べるため
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には、通常の炭素( C)に対する放射性炭素( C)
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の同位体比( C/ C)を分析する手法(ASTM 規
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2)
格) がある。 C は放射性崩壊により約 5730
年の半減期で減少する一方、宇宙線の影響によ
って主に大気中で生成して地表に供給され続け
ているため、自然環境中の炭素には 14C が一定
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割合で存在している。生物中の C 同位体比は
光合成や食物連鎖などに伴い、現代の環境中の
標準的炭素(現代炭素)に近い値となる。ところ
が、石油は大気と隔絶された地中に非常に長期
間存在していたため、放射性崩壊により石油中
炭素の 14C 同位体比はほぼ 0 となっている。こ
のため、現代炭素の 14C 同位体比に対する試料
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の C 同位体比(percent Modern Carbon:pMC) を
測定した場合、現代の生物由来物の pMC は 100
に近い値を示し、石油由来物の pMC は 0 に近
い値を示す。したがって、製品から染料を分離
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・抽出し、染料中の C 濃度を測定すれば、天
然染料による染色品か否かの鑑別が可能となる
と期待される。
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本研究では C 測定法を用いて天然藍染布と
合成インジゴ染色布の鑑別可能性について検討
を行った。
2 実験方法
2.1 染料および染色布
合成インジゴはダイスター(株)製の合成イン
ジゴを使用し、天然藍は徳島で製造されたすく
もを使用した。またこれらのインジゴ染料を豊
和(株) において綿添付白布に染色し、染色布
として使用した。
2.2 実験方法
天然藍すくもおよび染色布について、図1に
従って抽出し、得られた抽出物を測定用試料と
した。測定用試料は赤外分光分析により、主成
分がインジゴであることを確認し、(株)加速器
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分析研究所において C 濃度測定を行った。
*豊和株式会社
図1
― 37 ―
染料成分の抽出方法
3 結果と考察
表1に 合成インジゴおよび天然藍すくも抽出
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成分の分析結果を示す。Δ C は国立標準技術
研究所(NIST)から提供されたシュウ酸を現
代炭素の標準試料として使用し、この標準試料
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と試料との同位体比( C/ C)のずれを千分偏差
(‰)として表したものである。Δ 14C はマイナ
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スの数値が大きいほど C 濃度が少ないことを
示す。検討の結果、染料を直接抽出した場合、
合成インジゴ中の 14C 濃度が非常に少ないのに
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対し、天然藍すくも抽出物では C 濃度が現代
炭素と同程度存在することが確認された。pMC
は天然藍すくも抽出物で約 99%、合成インジ
ゴで 3%以下となることがわかった。合成イン
ジゴにおいて若干の現代炭素が認められたが、
これは空気中のホコリ等が混入したためと推察
される。天然藍すくも抽出物は天然由来であ
り、合成インジゴは天然由来でないことが明確
に表れており、14C 測定法により染料単体では
合成インジゴと天然藍染料の天然由来鑑別が可
能と考えられる。
表1
物の pMC と近い数値を得た。合成インジゴ染
色布抽出物における pMC の高値は布帛由来の
物質によるものと推察される。
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C 測定法による天然藍染め製品の鑑別手法
の確立には、鑑別精度を高めるため、抽出物の
精製により染料成分のみを測定する必要がある
考えられる。
表2
合成インジゴ染色布および天然藍すくも染
色布抽出成分の分析結果
染色布
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Δ C(‰)
pMC(%)
合成インジゴ
- 6 2 0 . 2 3 ± 37.98 ± 0.16
天然藍すくも
1.60
97.57 ± 0.30
-24.28 ±
3.02
合成インジゴおよび天然藍すくも抽出成分
の分析結果
試料
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Δ C(‰)
pMC(%)
合成インジゴ
-973.27 ±
2.67 ± 0.04
天然藍すくも
0.43
99.03 ± 0.30
-9.72 ±
3.02
図2
染色布については天然藍染色布抽出物の
pMC は 97 %以上となり、抽出成分は天然由来
であることが示された。一方、合成インジゴ染
色布抽出物の pMC は約 38 %となり、抽出成
分に多量の天然由来物質が存在することが確認
された(表2)。この天然由来物質を特定するた
め、綿添付白布のみで図1と同様な抽出操作を
行ったところ、綿添付白布から一定量の抽出成
分が存在することがわかった。綿布から抽出さ
れた成分の赤外分光スペクトルを図2に示す。
赤外分光スペクトルの解析から抽出成分は高級
アルコールに近い構造が推測された。綿添付白
布から抽出された成分がすべて高級アルコール
と仮定し、合成インジゴ染色布および綿添付白
布の抽出量からインジゴ、高級アルコール量の
炭素量を算出したところ、高級アルコールの炭
素割合は約 33%と、合成インジゴ染色布抽出
綿添付白布から抽出された成分の赤外
分光スペクトル
4 まとめ
C 濃度測定により天然藍染めの鑑別可能性
について検討した。その結果、pMC は天然藍
染料および天然藍染色布ではほぼ 100%と な
り、また合成インジゴ染料および合成インジゴ
染色布は低値を示すことが確認された。したが
って、本実験条件では天然藍染め、合成インジ
ゴ染めの鑑別は可能であることが示された。し
かしながら、実際の鑑別では染料以外の不純物
を考慮する必要がある。今後はジーンズ等の製
品鑑別に向け、染料成分の精製について検討す
る。
参考文献
1)今井健 他:京都市産業技術研究所繊維技術
センター研究業務報告書, 111 (2004)
2)ASTM D6866
― 38 ―
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