Comments
Description
Transcript
PDFファイル
14 C 測定法による藍染色布の鑑別 14 Discrimination between Natural and Synthetic Indigo-Dyed Fabrics by C Analysis 國藤勝士・岡本恭平*・前田進悟* Katsushi KUNITOU, Kyouhei OKAMOTO * and Shingo MAEDA * キーワード KEY WORDS 14 合成インジゴ/天然藍/鑑別/放射性同位体/ C 測定法 14 Synthetic indigo / Natural indigo / Discrimination / Radioisotope / C Analysis 1 はじめに 現在、繊維製品の染色には一般的に石油を原 料とする合成染料が使用されている。これは合 成染料が繊維への染着や色相の調整が容易とな るように設計されており、大量かつ安価で安定 した製品の製造が可能なためである。一方、生 物由来の色素(天然染料)による染色品は、近年 の消費者の天然物志向や草木染め製品の有する 独特な色調や風合いを求める傾向の高まりから 一般的な染色品とは異なる付加価値が生じてい る1)。特に藍染めは、染料であるインジゴの大 量合成法が確立された現在でも天然由来品を求 める志向が顕著となっている。 しかしながら、天然由来の天然藍も石油由来 の合成インジゴも染料は同じ構造であるため、 現状では天然染料染色であることを証明する手 法が確立されておらず、合成インジゴ染色品を 天然藍染め品と偽って販売している例も少なく ないと言われている。したがって、天然藍染め の信頼性と付加価値の確保のため、製品の天然 染料染色鑑別法の確立が急務となっている。 物質の天然由来度(生物由来度)を調べるため 12 14 には、通常の炭素( C)に対する放射性炭素( C) 14 12 の同位体比( C/ C)を分析する手法(ASTM 規 14 2) 格) がある。 C は放射性崩壊により約 5730 年の半減期で減少する一方、宇宙線の影響によ って主に大気中で生成して地表に供給され続け ているため、自然環境中の炭素には 14C が一定 14 割合で存在している。生物中の C 同位体比は 光合成や食物連鎖などに伴い、現代の環境中の 標準的炭素(現代炭素)に近い値となる。ところ が、石油は大気と隔絶された地中に非常に長期 間存在していたため、放射性崩壊により石油中 炭素の 14C 同位体比はほぼ 0 となっている。こ のため、現代炭素の 14C 同位体比に対する試料 14 の C 同位体比(percent Modern Carbon:pMC) を 測定した場合、現代の生物由来物の pMC は 100 に近い値を示し、石油由来物の pMC は 0 に近 い値を示す。したがって、製品から染料を分離 14 ・抽出し、染料中の C 濃度を測定すれば、天 然染料による染色品か否かの鑑別が可能となる と期待される。 14 本研究では C 測定法を用いて天然藍染布と 合成インジゴ染色布の鑑別可能性について検討 を行った。 2 実験方法 2.1 染料および染色布 合成インジゴはダイスター(株)製の合成イン ジゴを使用し、天然藍は徳島で製造されたすく もを使用した。またこれらのインジゴ染料を豊 和(株) において綿添付白布に染色し、染色布 として使用した。 2.2 実験方法 天然藍すくもおよび染色布について、図1に 従って抽出し、得られた抽出物を測定用試料と した。測定用試料は赤外分光分析により、主成 分がインジゴであることを確認し、(株)加速器 14 分析研究所において C 濃度測定を行った。 *豊和株式会社 図1 ― 37 ― 染料成分の抽出方法 3 結果と考察 表1に 合成インジゴおよび天然藍すくも抽出 14 成分の分析結果を示す。Δ C は国立標準技術 研究所(NIST)から提供されたシュウ酸を現 代炭素の標準試料として使用し、この標準試料 14 12 と試料との同位体比( C/ C)のずれを千分偏差 (‰)として表したものである。Δ 14C はマイナ 14 スの数値が大きいほど C 濃度が少ないことを 示す。検討の結果、染料を直接抽出した場合、 合成インジゴ中の 14C 濃度が非常に少ないのに 14 対し、天然藍すくも抽出物では C 濃度が現代 炭素と同程度存在することが確認された。pMC は天然藍すくも抽出物で約 99%、合成インジ ゴで 3%以下となることがわかった。合成イン ジゴにおいて若干の現代炭素が認められたが、 これは空気中のホコリ等が混入したためと推察 される。天然藍すくも抽出物は天然由来であ り、合成インジゴは天然由来でないことが明確 に表れており、14C 測定法により染料単体では 合成インジゴと天然藍染料の天然由来鑑別が可 能と考えられる。 表1 物の pMC と近い数値を得た。合成インジゴ染 色布抽出物における pMC の高値は布帛由来の 物質によるものと推察される。 14 C 測定法による天然藍染め製品の鑑別手法 の確立には、鑑別精度を高めるため、抽出物の 精製により染料成分のみを測定する必要がある 考えられる。 表2 合成インジゴ染色布および天然藍すくも染 色布抽出成分の分析結果 染色布 14 Δ C(‰) pMC(%) 合成インジゴ - 6 2 0 . 2 3 ± 37.98 ± 0.16 天然藍すくも 1.60 97.57 ± 0.30 -24.28 ± 3.02 合成インジゴおよび天然藍すくも抽出成分 の分析結果 試料 14 Δ C(‰) pMC(%) 合成インジゴ -973.27 ± 2.67 ± 0.04 天然藍すくも 0.43 99.03 ± 0.30 -9.72 ± 3.02 図2 染色布については天然藍染色布抽出物の pMC は 97 %以上となり、抽出成分は天然由来 であることが示された。一方、合成インジゴ染 色布抽出物の pMC は約 38 %となり、抽出成 分に多量の天然由来物質が存在することが確認 された(表2)。この天然由来物質を特定するた め、綿添付白布のみで図1と同様な抽出操作を 行ったところ、綿添付白布から一定量の抽出成 分が存在することがわかった。綿布から抽出さ れた成分の赤外分光スペクトルを図2に示す。 赤外分光スペクトルの解析から抽出成分は高級 アルコールに近い構造が推測された。綿添付白 布から抽出された成分がすべて高級アルコール と仮定し、合成インジゴ染色布および綿添付白 布の抽出量からインジゴ、高級アルコール量の 炭素量を算出したところ、高級アルコールの炭 素割合は約 33%と、合成インジゴ染色布抽出 綿添付白布から抽出された成分の赤外 分光スペクトル 4 まとめ C 濃度測定により天然藍染めの鑑別可能性 について検討した。その結果、pMC は天然藍 染料および天然藍染色布ではほぼ 100%と な り、また合成インジゴ染料および合成インジゴ 染色布は低値を示すことが確認された。したが って、本実験条件では天然藍染め、合成インジ ゴ染めの鑑別は可能であることが示された。し かしながら、実際の鑑別では染料以外の不純物 を考慮する必要がある。今後はジーンズ等の製 品鑑別に向け、染料成分の精製について検討す る。 参考文献 1)今井健 他:京都市産業技術研究所繊維技術 センター研究業務報告書, 111 (2004) 2)ASTM D6866 ― 38 ― 14