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第 7 回 債務不履行[3]

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第 7 回 債務不履行[3]
2013 年度民法第 3 部講義レジュメ(米村)
2013 年 10 月 28 日
第 7 回 債務不履行[3]
3
債務不履行による損害賠償(続き)
【事例 7-1】A は、B から業務用コンピュータ 100 台を購入する旨の契約を締結した。ところが、B が運送会社 C に運送
を委託したところ、C の過誤により集配施設内で荷崩れが発生したため、損傷により正常に動作しない状態となった
ままコンピュータが A に引き渡された。A に営業損失が生じたとすると、A は B に損害賠償を請求しうるか。
【事例 7-2】D は E 所有の建物を E から賃借し、さらに E の承諾を得てこれを F に転貸した。ところが、F の火の不始末
によりこの建物は全焼した。E は D に損害賠償を請求しうるか。
【事例 7-3】G 会社に従業員として勤務する H は、G 会社の業務命令により毎月 120 時間以上の時間外労働を余儀なくさ
れていたところ、ある日突如心筋梗塞を起こし、死亡した。
【事例 7-4】J 高校が体育祭を開催したところ、当日の午後に突如雷鳴がとどろき近づいてくる気配があったが、J 高校
の大会責任者の判断でそのまま競技が継続されたところ落雷が発生し、グラウンド内にいた生徒 2 名が死亡した。
【事例 7-5】証券会社 K は、顧客 L に対してリスク性の高い金融商品αを販売したところ、その際に、金融商品の価格
下落リスクにつき十分な説明を行わなかった。金融商品αは、L の購入後価格が暴落し、L の損失は 1 億円に達した。
[D] 債務不履行の特殊類型
(1) 履行補助者責任
a) 概説
債務者が債務の履行に際して他者を利用した場合に、不履行の責任をいかなる範囲で認めるべきかに関する問題。
複数の見解が乱立し、かなり錯綜した議論状況にある。
b) 伝統的通説
債務者の有責性の問題として捉える。有責性は「故意・過失または信義則上それと同視すべき事由」とされ、履行補
助者の過失が「信義則上それと同視すべき事由」にあたるか否かが過失責任主義との関係から議論されていた。
[1]「真の意味の履行補助者」
(債務者が手足として使用する者)の場合
履行補助者の過失は当然に債務者の過失と同視され、債務者は賠償責任を負う。
[2]「履行代行者」
(債務者に代わって履行をすべて引き受ける者)の場合
①履行代行者を使うことが禁止されている契約の場合には、債務者は常に責任を負う。
②履行代行者の使用が明文の規定で許されている場合には、選任・監督の過失がない限り債務者は責任を負わない。
③いずれでもない場合は、①と同様とする。
→[1][2]の分類基準の不明確性や、②の責任範囲の狭さなどが批判された。
c) 落合・平井説
有責性の問題としてではなく、
「他人の行為による債務不履行責任」として使用者責任(715 条)との対比で考える。
・被用者的補助者 被用者にあたる履行補助者の帰責事由ある行為につき債務者は責任を負う。
・独立的補助者 被用者的補助者と同じく、帰責事由ある行為により不履行が発生すれば、債務者は責任を負う。
→両者の類型で責任範囲は同じだが、独立的補助者に関する部分で使用者責任より責任が広くなる。
d) 近時の有力説(潮見・森田宏樹)
契約目的との関係で問題を把握する。契約上、補助者の使用による不履行がいずれの負担によるものとされていたか、
債務者が自らの負担で補助者を使用する意思を有していたかにより、責任負担の有無を決する。
e) 判例
大判昭和 4 年 3 月 30 日民集 8 巻 363 頁(船舶転貸借における難破)<73>
最判昭和 30 年 4 月 19 日民集 9 巻 5 号 556 頁(建物賃借人の妻による失火)
最判平成 7 年 6 月 9 日民集 49 巻 6 号 1449 頁(担当医の医療過誤による医療機関の責任)
(2) 安全配慮義務
a) 概説
一定の法律関係(労働関係など)にある場合、当事者の一方が他方の生命・健康に対する危険防止措置を行う義務。
契約から発生する債務のうち、本来的給付義務以外の信義則上の義務(付随義務)として理解されている。
b) 判例
最判昭和 50 年 2 月 25 日民集 29 巻 2 号 143 頁<74>で明確に判示された。
その後も公務員関係・労働関係を中心に肯定例が存在する(最判昭和 59 年 4 月 10 日民集 38 巻 6 号 557 頁<76>、最判
平成 3 年 4 月 11 日判時 1391 号 3 頁など)が、他の契約類型にはあまり広がっていない。
自動車運転者の通常の注意義務は安全配慮義務に含まれない。
(最判昭和 58 年 5 月 27 日民集 37 巻 4 号 477 頁<75>)
c) 学説
学説は、一定の場面で安全配慮義務に相当する義務が課されるべきことについては一致するが、法律構成と具体的要
件・効果につきさまざまな見解が提示されている。一応、以下のような整理が可能。
(i)本来的給付義務としての「安全配慮義務」
入院を伴う診療契約、介護契約、保育委託契約などの場合。直接の履行請求・義務違反時の解除が可能。
(ii)付随義務としての「安全配慮義務」
雇用契約、請負契約、就学契約、旅客運送契約などの場合。義務違反に対する損害賠償のみが可能。
(3) その他の類型
・契約締結過程での責任
契約が不成立または無効となる場合:契約交渉の不当破棄事例など
契約が有効に成立したことが問題となる場合:不実表示、説明義務違反など
・説明義務・情報提供義務違反の責任
契約締結過程での説明義務・情報提供義務が問題となる事例が多い。裁判例多数。
不動産・投資商品などの販売(札幌地判昭和 63 年 6 月 28 日判時 1294 号 110 頁<各論 7>など)
フランチャイズ契約(京都地判平成 3 年 10 月 1 日判時 1413 号 102 頁<各論 9>など)
情報提供義務は、場面により異なる内容を有すると考えられる。
①相手方の「自己決定」を保護するための情報提供義務
②当事者間の関係性(専門家/信認関係ほか)に基づく情報提供義務
*医療における説明義務
【判例】最判平成 12 年 2 月 29 日民集 54 巻 2 号 582 頁〔
「エホバの証人」信者に対する無輸血手術〕
最判平成 13 年 11 月 27 日民集 55 巻 6 号 1154 頁〔他の医療機関で実施されている乳房温存療法〕
最判平成 14 年 9 月 24 日判時 1803 号 28 頁〔末期癌患者の家族に対する説明義務〕
※次回の予習範囲
第 23 回 債権譲渡・債務引受[1]:内田貴『民法Ⅲ』201~203、209~214、223~241 ページ
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