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平成 23 年度 円借款案件形成等調査 ベトナム・船舶航行

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平成 23 年度 円借款案件形成等調査 ベトナム・船舶航行
平成 23 年度
円借款案件形成等調査
ベトナム・船舶航行監視・安全管理能力強化網整備事業調査報告書
平成 24 年2月
経
済
産
業
委託先:
日本無線株式会社
豊田通商株式会社
省
まえがき
本報告書は、経済産業省から日本無線株式会社および豊田通商株式会社が平成 23 年度の事業と
して受託した「円借款案件形成等調査」の成果を取りまとめたものです。
本調査「ベトナム・船舶航行監視・安全管理能力強化網整備事業調査」は、ベトナムの主要港
湾および主要航路において、港湾開発に伴う交通量の増大に対応した船舶安全航行の確保等が喫
緊の課題となっており、この固有の問題を解決するために、VTS/AIS 等の航行監視システムを整備
するプロジェクトの実現可能性を調査したものです。
本報告が上記プロジェクト実現の一助となり、加えて我が国関係者の方々のご参考になること
を希望します。
平成 24 年2月
日本無線株式会社
豊田通商株式会社
図
プロジェクト位置
200km
出典:Google Map をもとに調査団にて作成
略 語 表
No.
1
2
3
4
略語
ADB
AIS
ASEAN
B/C
5 BOT
6 BTO
7 CDM
8 CIF
9 CPI
10 DWT
英語
Asian Development Bank
Automatic Identification System
Association of Southeast Asian Nations
Benefit Cost Ratio
Build-operate-transfer
Build-transfer-operate
Clean Development Mechanism
Cost, Insurance and Freight
Consumer's Price Index
Deadweight Tons(tonnage)
Electronic Chart Display and Information
11 ECDIS
System
Environmental Impact Assessment
12 EIA
Economical Internal Rate of Return
13 EIRR
Emmision Trading Scheme
14 ETS
Financial Internal rate of return
15 FIRR
Gross domestic product
16 GDP
Government Finance Statistics
17 GFS
Geographic Information System
18 GIS
Gross tonnage weight
19 GTW
Global Maritime Distress and Safety System
20 GMDSS
International Maritime Organization
21 IMO
Japan international cooperation Agency
22 JICA
Maritime Administration
23 MA
Ministry of Agriculture and Rural
24 MARD
Development
Ministory of Transport
25 MOT
Ministry of Natural Resource and Environment
26 MONRE
Ministry of Planning and Investment
27 MPI
New Energy and Industrial Technology
28 NEDO
Development Organization
Naurtical Mile
29 NM
Net Present Value
30 NPV
Official development assistance
31 ODA
Project Management Unit
32 PMU
Public Private Partnership
33 PPP
ParticularlySensitiveSea Area
34 PSSA
Rescue Co-ordination Center
35 RCC
Search and Rescue
36 SAR
Standard Conversion Factor
37 SCF
Strategic Environmental Assessment
38 SEA
The international Convention for the Safety
39 SOLAS
of Life
Searh & Rescue
40 S&R
Vietnam National Shipping Lines
41 VINALINE
42 Vinamarine Vietnam National Maritime Bureau
43 VINASARCOM National Committee for Search and Rescue
Vietnam Ship Communication and Electronic
44 VISHIPPEL
Company
Vietnam Inland Waterway Administration
45 VIWA
Vietnam Maritime Search and Rescue Co46 VMRCC
ordination Center
Vietnam Maritime Safety Agency
47 VMS
Vietnam Maritime Safety Inspectorate
48 VMSI
Viet Nam Don
49 VND
Vietnam Post and Telecommunication Group
50 VNPT
Vietnam Seaports Associatio
51 VPA
Virtual Private Network
52 VPN
Vessel Traffic Management System
53 VTS
World Trade Organization
54 WTO
日本語
アジア開発銀行
船舶自動識別装置
東南アジア諸国連合
便益コスト比
民間事業者が施設等を建設し、維持・管理及び運営
し、事業終了後に公共施設等の管理者等に施設所有権
を移転する事業方式
民間事業者が施設等を建設し、施設完成直後に公共施
設等の管理者等に所有権を移転し、民間事業者が維
持・管理及び運営を行う事業方式
クリーン開発メカニズム
運賃・保険料込み条件
消費者物価指数
重量トン(t)
電子海図表示システム
環境影響評価
経済的内部収益率
排出量取引
財務的内部収益率
国内総生産
政府財政統計
地理情報システム
総トン数
海上における遭難及び安全に関する世界的な制度
国際海事機関
独立行政法人国際協力機構
港湾局
ベトナム農業地方開発省
ベトナム運輸省
ベトナム天然資源環境省
ベトナム計画投資省
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
海里(単位:1NM=1,852m)
正味現在価値
政府開発援助
プロジェクト管理組織
官民連携
特別敏感海域
救難コーディネーションセンター
海上捜索救助に関する条約
標準変換係数
戦略的環境評価
海上における人命の安全のための条約
救難及び救助
ベトナム国立海運会社
ベトナム海運総局
ベトナム国家捜索救助委員会
ベトナム船舶通信及び電子会社
ベトナム内陸水路管理局
ベトナム海上捜索及び救難コーディネーションセン
ター
ベトナム海上保安庁
ベトナム海上保安検査官
ベトナムドン(通貨)
ベトナム郵政通信総公社
ベトナム港湾協会
バーチャル(仮想)プライベートネットワーク
船舶航行監視システム
世界貿易機関
目次
要約
1.プロジェクトの背景・必要性等
S-1
2.プロジェクトの内容決定に関する基本方針
S-2
3.プロジェクトの概要
S-3
4.実施スケジュール
S-10
5.円借款要請・実施に関するフィージビリティ
S-11
6.我が国企業の技術面等での優位性
S-12
7.案件実現までの具体的スケジュール及び実現を阻むリスク
S-13
8.調査対象国内での事業実施地点が分かる地図
S-14
第1章
相手国、セクター等の概要
1.相手国の経済・財政事情
1-1
2.プロジェクトの対象セクターの概要
1-8
3.対象地域の状況
1-10
第2章
調査方法
1.調査内容
2-1
2.調査方法・体制
2-2
3.調査スケジュール
2-3
第3章
プロジェクトの内容及び技術的側面の検討
1.プロジェクトの背景・必要性等
3-1
2.プロジェクトの内容等決定に必要な各種検討
3-22
3.プロジェクトの計画概要
3-38
第4章
環境社会側面の検討
1.環境社会面における現状分析
4-1
2.プロジェクトの実施に伴う環境改善効果
4-2
3.プロジェクトの実施に伴う環境社会面への影響
4-4
4.相手国の環境社会配慮関連法規の概要
4-10
5.プロジェクトの実現のために当該国
(実施機関その他関係機関)が成すべき事項
4-12
第5章
財務的・経済的実行可能性
1. 事業費の積算
5-1
2. 予備的な財務・経済分析の結果概要
5-3
第6章
プロジェクトの実施スケジュール
1.プロジェクトのフェーズ区分
6-1
2.実施スケジュールの課題
6-1
第7章
相手国側実施機関の実施能力
1.相手国実施機関の概要
7-1
2.相手国におけるプロジェクト実施のための組織体制
7-3
3.相手国実施機関の能力評価と(不十分な場合は)対応策
7-5
第8章
我が国企業の技術面等での優位性
1.対象プロジェクト(設備・商品・サービス別)における
日本企業の国際競争力と受注の可能性
8-1
2.日本から調達が見込まれる主な資器材の内容及び金額
8-3
3.我が国企業の受注を促進するために必要な施策
8-5
第9章
プロジェクトの資金調達の見通し
1.相手国政府・機関の資金調達に関する考え方
9-1
2.資金調達に伴う関連機関の動向
9-1
3.提案プロジェクトに関する資金調達の見通し
及び円借款要請の現状・可能性
第10章
9-2
円借款要請に向けたアクションプランと課題
1.円借款要請に向けた取り組み状況
10-1
2.今後の円借款要請・供与に向けて必要となる措置
10-4
3.円借款要請に向けた具体的なアクショプランと課題
10-5
0
要
約
0
1.プロジェクトの背景・必要性等
ベトナム社会主義共和国(以下、「ベトナム」)は、国際海事機関(International Maritime
Organization:IMO) が 求 め る 海 上 に お け る 人 命 の 安 全 の た め の 条 約 (The international
Convention for the Safety of Life at Sea :SOLAS)および海上捜索救助に関する条約(Search and
Rescue:SAR)を履行するため、2000 年3月から 2007 年1月にかけて、わが国円借款により主要港
および主要河川に遭難・安全通信のための沿岸無線通信システム (Global Maritime Distress and
Safety System :GMDSS)を整備してきたところである。この整備プロジェクトに対して、2008 年
に行われたベトナム・日本合同プロジェクト評価では、当該事業は高い評価を得たものの、船舶
航 行 監 視 シ ス テ ム ( Vessel Traffic System : VTS ) や 船 舶 自 動 識 別 シ ス テ ム ( Automatic
Identification System:AIS)等、前述国際条約規定遵守のための更なる能力強化が提言された。
一方、ベトナムでは、経済成長率が前年比6~9%高成長を続け、近年の WTO 加盟による経済のグ
ローバル化がより一層の国内外貨物量を増加させている。また、南北約 3,200km におよぶ海岸線、
総延長 19 万 8,000km に達する河川を保有することから各地に港湾が分散し、貿易においても海上
輸送によるものが 80%以上を占め、南北間の国内貨物も大きく海運に依存している。したがって、
今後、想定される主要港湾の貨物取扱量の増大に対応するためには、多くの課題がある。すなわ
ち、①ベトナム近海および主要河川における船舶の安全航行の確保、②港湾施設の効率的な運営
等、海運能力の向上、③海難事故等による海洋汚染対策の強化、④海上輸送に伴う環境への影響
対策、 等である。このような課題に直面することは必至であり、この対策は、ベトナム政府にと
って喫緊のものとなっている。これに対処するため、2009 年7月 22 日、ベトナム政府は、海上
交通の安全・効率の向上などを目的とし、2010 年から 12 年にかけ輻輳港湾および主要河川の航
行監視システム等を整備することを最重要項目として正式に決定した。
本調査ではこれらの経過を踏まえ、ベトナム現地において、港湾の運用管理および港湾整備計
画等に関する情報収集およびヒアリング等の調査を実施する。また、次の観点から検討を行い、
船舶航行監視のためのシステム整備計画および運用保守計画を立案するものとする。
1) 船舶航行の安全確保
2) 港湾管理運用の効率向上
3) 港湾周辺の海洋環境保全対策
4) 船舶航行時の CO2 排出削減規制
5) 国内における港湾管理体制の一元化
S-1
2.プロジェクトの内容決定に関する基本方針
2.1 本プロジェクトの基本方針
1) 港湾整備計画に基づき、主要港および主要航路の監視を行うための VTS 等の設備を各港湾局
に導入する。
2) VTS および AIS により、航行する船舶の動静を監視するとともに、船舶に関する情報を収集
する。
3) 狭隘航路や輻輳海域を持つ港湾では、航行の安全確保および港湾運用の効率向上のため、海
洋環境 GIS を導入し、船舶にこれらの情報を提供する。
2.2 課題と解決策
ベトナムのおける港湾の多くは、河川流域に位置しているため、船体の傾斜が浅くなり、干潮・
満潮の影響を大きく受ける。その為、現在、大型船舶については、バージ船を使用し、貨物の搭
載、積み下ろしを実施している。この問題は、非効率な海上輸送に起因するものであり、予ねて
より指摘されている点でもある。港湾が河川に沿って位置しているため、港湾の敷地が制限され、
また、大規模な荷役施設や保管倉庫の建設にも制約が加わることから、生産コストの割に、海上
輸送コストが上昇し、港湾施設が本来、持つべきコスト競争力が低減される結果となる。
当面の海上輸送能力の強化策として、大型船舶の停泊が可能な、特に、国際ゲートウェイ港とし
ての大水深港の開発を検討している。このような、ベトナム港湾の特異性が、長期的な国家港湾
開発プロジェクトを立案する上での足かせとなっているが、マスタープランでは、国際ゲートウ
ェイ港および地方のハブ港湾の機能を明確に規定し、開発の優先順位付けを行いながら、全ての
港湾の種類、カテゴリーを網羅した包括的な港湾計画の策定をおこなっている。港湾の開発プロ
ジェクトは、2009年 7 月に、交通運輸省を通じ、ベトナム海運総から首相府へ提出され、承
認されている。本プロジェクトは、2020年、2030年までに必要な港湾・インフラ設備を
整備するために実施することが計画されている。
これらの解決策としては、次のような基本技術(VTS/AIS/海洋環境 GIS)の統合的整備が考え
られ、その機能概要を以下にまとめる。
a. VTS は、レーダ装置、AIS 基地局、カメラ装置、データベース、多重伝送装置、VHF 無線機、
気象センサーシステムにより構成され、レーダ映像に船舶追尾情報、海図等を重畳表示でき、
港湾や航路の海域状況を画面上で一元管理することにより、船舶の航行安全、港設備の効率
運用に有効な情報を提供するものである。また、港湾内の作業船の運行状況の把握、バース
使用状況、船舶の詳細情報等のデータベースと統合して、港湾管理に必要な情報を各管理者
に提供することも可能である。
b. AIS は、船舶の位置情報や針路、船速などの航行情報、船名や積荷などの情報を無線で定期
的に放送するとともに、船から放送されたこれらの船舶情報を常時受信し、表示するシステ
ムである。AIS は 2000 年の SOLAS 条約の改正に伴い、船舶に対して、順次、搭載が義務化
されているものであり、それに対応した陸上側設備の整備が急がれている。
S-2
c. 環境 GIS の概要および機能
環境 GIS(Geographic Information System)は、VTS/AIS や気象支援サイトなどから必要に
応じて各種情報を収集し、データベース化して、表示・提供を行うものである。
2.3 効果
これらの VTS/AIS および環境 GIS の整備により、船舶および港湾に関する情報が迅速に収集・
提供され、これにより海運の分野に留まらず、広く、次のような効果が期待できる。
1)VTS、AIS および環境 GIS は、航行船舶の安全確保、港湾や狭隘水路の輻輳解消に有効に機
能することから、海運能力が強化され、ベトナムへの投資環境整備および輸出能力強化に貢
献する。
2) 既設 GMDSS 設備と統合することにより、船舶遭難時の主要航路の安全確保をより迅速に図る
ことが可能となる。
3) 船舶のエネルギー効率管理を実施することで、ベトナムの船舶 CO2 排出管理と削減管理を提
供し、環境面においても大きな経済効果を生み出すことができる。
4) さらに、本事業により、ベトナム国内の港湾および航路上の船舶舶行に関する情報について
一元的に管理することで、航行管理の体制の強化を図ることができる。
5) ベトナムは、南部経済回廊(タイ、カンボジア、ベトナム)、東西経済回廊(タイ、ラオス、
ミャンマー、ベトナム)における国境を越えた陸上輸送網の出入口でもあり、周辺国の農業・
工業製品のリードタイムの短縮・輸送の多頻度化が期待され、周辺 ASEAN 諸国全体の経済成
長を促す波及効果が大きい。
6) ベトナムでは、今後 10 年間で輸出量を4倍以上拡大させる計画があり、ベトナムの輸出産
業が活性化することで、わが国との輸出入貿易も増加することが期待され、両国経済の成長
が促進される。
3.プロジェクトの概要
3.1 プロジェクトの基本的な考え
1)フェーズⅠとして、ホンガイ(Hon Gai)、ハイフォン(Hai Phong)、ダナン(Da Nang)、ブ
ンタウ(Vung Tau)、ホーチミン(Ho Chi Minh)の港湾管理設備および Vinamarine におけ
る各港湾船舶航行データ管理設備の整備事業を 2013 年に開始し、2015 年までに対象5港に
おいて VTS/AIS 等の設備を導入する。
2)フェーズⅡとしては、ギソン(Nghi Son)をはじめとする、11 港およびハノイでの港湾船
舶航行データ管理設備追加する。2017 年に開始し、2020 年までに対象 11 港において VTS/ AIS
等の設備を導入する。
3.2 プロジェクトの構成
1)レーダサイトの建設
全 15 レーダサイトを、それぞれの主要港の VTS/AIS を構成するシステムを設置する。
そして、無線送受信局をそれぞれのレーダサイトに設置する。
S-3
2)VTS/AIS ネットワークの構築
VTS および AIS から送られてくる船舶情報、航路情報、港湾情報を港湾局にて集約し、隣接
港湾局、Vinamarine 本部とネットワーク回線で結ぶ。港湾局で集めた航行監視情報は、
Vinamarine 支部および隣接港湾局間との情報共有、および Vinamarine 本部のデータセンタ
ーへの情報伝送を行う。
3) データセンターへの海洋環境 GIS の設置
狭窄且つ輻輳港湾での問題解決の為、海洋環境 GIS をデータセンターに設置し、省エネ航海
や港での待ち時間の短縮を図る。
3.3 事業総額
本事業は、2015 年および 2020 年までの2期に分けられ、フェーズ I およびフェーズⅡ合計の
プロジェクト総事業費は次のようになる。
番号
1
2
3
4
5
6
表-1 プロジェクト総事業費
項目
外貨(千円)
内貨(千 VND)
船舶航行管理システム
11,205,900
建設工事費
VND 293,714,359
据付調整、検査、竣工処理
1,670,784
訓練および保守支援
154,417
計(1-4)
13,031,101 VND 293,714,359
コンサルタント料
757,724
VND 14,685,718
計(1-5)
13,788,825 VND 308,400,077
予備費 (計(1-5)の5%)
689,441
VND 15,420,004
総計(1-6)
14,478,266 VND 323,820,081
事業費総計(日本円換算)
14,478,266
1,221,963
(外貨内貨総計(千円)
15,700,228 )
事業費総計(ドル換算)
$185,619
$15,666
(外貨内貨総計(千ドル)
$201,285 )
出典:調査団作成
交換レート
US$1=\ 78.0、 \1=265 VND 、2011 年 11 月現在
なお、設備投資額の算出に当たっては、設備費は CIF 価格を、現地建設工事費は、ベトナ
ム国内で近年に実施した類似プロジェクトの調達価格を消費者物価指数で補正、コンサルティ
ング価格などは稼動量を想定し、それぞれ算出している。
3.4 予備的な財務・経済分析の結果概要
3.4.1 予備的な財務分析
収入面では、本事業の実施により港湾利用者から新たな料金は徴収できない。VTS/AIS の機能は、
港湾航路管理者にとって効率的な港湾・航路の利用および安全確保が主目的である。通常、港湾・
航路利用者は、港湾利用税や入港税等で、すでにその利用料金を支払っている。ホーチミン(カ
ットライコンテナターミナル)を例に取り、代表的な利用料金を表-2に示す。
S-4
表-2 ホーチミン港カットライコンテナターミナル利用料金の構成例1
番号
項 目
単 価
備考
1
埠頭利用料金(Dockage)
US$0.0031/時間/GT
支払先:港湾局
2
トン税(Tonnage)
US$0.032/GT×2(往復)
支払先:港湾局
3
ライト利用料金
US$0.1/GT×2(往復)
支払先:港湾局
(Navigation Due)
4
パイロット料金(Pilotage) US$0.0015/GT×距離×2(往復) 支払先:パイロット会社
5
タグボート利用費
US$800/10,000GT
目安
(Tag Boat Fee)
支払先:タグボート会社
出典:調査団作成
注:表中1~3は全国一律、4、5は港湾により多少の変化はある。
近隣諸国との料金競争も激しく、本事業実施に伴う利用料金値上げは難しいと考える。本事業
施設の保守運用経費は2期に分割され、保守経費も、フェーズⅠ完了後および事業全体で保守運
用体制が異なる。従い、保守運用経費の算出にあたっては、現在の Vinamarine の予算規模および
要員数を参考に、要員あたりの保守運用経費を次のように設定する。
表-3 要員あたりの年間保守運用経費(2011 年 11 月価格)
項 目
単価(VND)
単価(ドル)
備考
賃金
70,000,000
3,387
電気料金
30,000,000
1,451
通信費
1,500,000
73
燃料費
14,000,000
677
6,000,000
その他経費
290
出典:調査団作成
交換レート US$1=\ 78.0、 \1=265 VND 、2011 年 11 月現在
表-4 1地点あたりの IP ネットワーク使用料(2011 年 11 月価格)
項 目
単価(VND)
単価(ドル)
備考
年間 IP ネットワーク利用料
12,000,000
581
IP ネットワーク加入料
1,000,000
48 加入時のみ
出典:ベトナム郵政総合通信公社(Vietnam Posts and Telecommunications:VNPT)広帯域サービス料金表
その他、本事業にかかる財務分析を実施するに当たり、次の条件を想定した。
a.
評価対象期間:設備類の耐用年数を考慮し、フェーズⅠ及びフェーズⅡの建設工事期間
を含め 2013 年から 2032 年までの 20 年間を評価対象期間とする。
b. 交換レート:1円=265 ベトナムドン(VND)、1ドル=78 円(2011 年 11 月)とする。
c. インフレーション:収入、支出双方に平等に影響を及ぼす。2003 年~2010 年までの8年
間の消費者物価指数(CPI)の平均値とし、前年比年平均 9.26%の上昇率を見込む。
d.
外貨と VND の交換レート:ベトナム当局の通貨政策から、2003 年~2010 年までの8年間の
VND のドルに対する通貨下落割合の平均が年間 3.06%となっており、今後もこの割合で下
落すると見込む2。他方、ドル日本円の交換レートは一定と仮定する。
e.
投資金額:建設工事期間中の資金需要は、過去の事業実施経験から 3 年間の建設期間とし、
1年目 30%、2年目 40%、最終年 30%の支出が発生すると仮定する。また、投資金額のうち
1
2
2011 年 10 月現在、在ベトナム船会社へのインタビューによる
出典:ベトナム統計総局の諸データから算出
S-5
外貨による支出額は、日本円からドルに換算し、前述 e.で述べている交換レートの変動
を考慮してその当該年のドル VND 換算レートを用い、VND に換算した額を用いる。また、
設備類は沿岸に設置されることから塩害を考慮し、主要機器は 10 年ごとに整備取替えが
行われるものと仮定する。
f.
収入:運輸省からの建設工事費用及び保守運用経費に相当する補助金があると想定し、
これを収入とみなす。
g.
ディスカウント・レート
現在価値および収入/経費差額を算出するためのディスカウントレートは、ベトナム国内
法定預金金利 15%とする。
前述の条件で、内部収益率(FIRR)、現在価値(NPV)、費用便益比(B/C)を算出すると、FIRR=0%、
NPV=0、B/C=1 となる。これは、運輸省からの補助金を収入として計上するために発生してい
る。なお、感度分析の結果は次のとおりである。
表-5 感度分析結果
ケース
備考
財務的内部収益率
FIRR
現在価値
NPV
費用便益比
B/C
基本ケース
0%
0
1
設備投資が 10%増加
0%
0
1
補助金が 10%増加と
想定
マイナス
-4,573 億 VDN
0.9
補助金が 10%減少と
想定
収入が 10%低下
出典:調査団作成
3.4.2 予備的な経済分析
便益は、貨物保険の差額により考察する。日本興和損害保険株式会社では、外航貨物の荷主が
船齢の高い船舶を利用する場合、割増保険料を課している。ベトナムにおいても、港湾の安全が
確保される場合は同等程度の便益が期待できるとベトナム船主協会が述べていることから、この
低減額を経済分析の便益計算として、この傭船価格の差に着目する。ただし、内航貨物は本便益
計算には算入しない。
1) 便益計算
ベトナムでの便益額の算出根拠は次のとおりである。
表-6 ベトナムの外航貨物傭船市場の価格差に基づく便益額の算出
項 目
内 容
備考
外航貨物1トンあたりの平均価格
US$ 2,527/トン
2000-09 年の平均
貨物輸送量に占める外航貨物の割合
7%
船齢による割増率
0.1%
船齢 10~15 年の割増率
貨物1トンあたりの便益額
US$0.18
出典:調査団作成
S-6
本事業が実施されるフェーズⅠ及びフェーズⅡで対象となる港湾の船舶寄航数、取扱貨物量、
コンテナ量は次のとおりである。
表-7 事業対象裨益船数・貨物数・コンテナ数の予測
2015 年
2020 年
2025 年
2030 年
フェーズⅠ対象港
寄航船隻数
貨物取扱量
コンテナ取扱数
フェーズⅡ対象港
寄航船隻数
貨物取扱量
コンテナ取扱数
出典:調査団作成
(隻)
(トン)
(TEU)
46,566
166,771
14,512,943
2032 年
117,316
317,069
900,140
1,379,753
297,759
531,970
950,950
1,199,856
40,574,108 113,563,698 318,210,472 480,660,010
(隻)
(トン)
(TEU)
21,408
46,331
1,491,340
33,499
76,379
3,857,606
54,169
126,481
10,043,775
66,166
154,952
14,753,495
なお、これらの予測は次の手順により求めた。
a.
2011 年から 2032 年までの伸び率の算出
貨物は陸上・海上物流網の発達度合いにより代替ルートを採用することが可能であるため、
ベトナムを北部、中部、南部に分け、これらの地域ごとで 2005 年から 2010 年の船舶寄港数、
貨物取扱数、コンテナ取扱数の推移3を把握し、それぞれの前年比伸び率の平均を求め、この
平均伸び率を事業対象港湾に適用した。
b.
各港湾の寄港船数、伸び率の算出
各港の所在地に基づき、前述 a.で求めた各地域の伸び率を元に、各港湾のそれぞれの取扱量
などを推定した。
便益計算に当たっては、わが国損保会社の価格を基本としており、国際的と理解できることか
ら、後述する標準変換係数(Standard Conversion Factor)による修正は行わない。また、ベトナ
ム国内の物価上昇率は考慮しない。
2) 費用計算
予備的な財務分析で記載している設備投資及び保守運転経費が費用項目となる。この場合、国
内価格と国際価格との差は後述する標準変換係数(Standard Conversion Factor)により、修正
する。
a. 標準変換係数(SCF:Standard Conversion Factor)
国内外の価格のゆがみを補正する係数である。本報告書では、次表のとおり統計が確定して
いる 2007 年~2009 年の輸出入額及び関税から算出する。
3
出典:ベトナム港湾協会統計資料
S-7
表-8 ベトナムの輸出入額及び輸入関税額
2007 年
2008 年
2009 年
輸出額(百万ドル)*
48,561.4
62,685.1
57,096.3
輸出額(百万ドル)*
62,764.7
80,713.8
69,948.8
輸入関税収入(百万ドル)**
3,439.9
5,582.0
4,511.9
輸出関税収入(百万ドル)**
0.0
0.0
0.0
出典 *:ベトナム統計総局、 **:WB Official exchange rate (LCU per US$, period average)
計算方法は次のとおり。
SCF= 2007~09 輸出入総計/(2007~09 輸出入総計+関税収入総計) = 0.966
収入、設備投資額及び保守運用経費のうちの国内調達額に、本係数を乗ずることで、国際価
格を得る。
b.
交換レート
予備的な財務分析の項で採用した1円=265VDN、1ドル=78 円(2011 年 11 月)とする。
c.
インフレーション
便益、費用双方に平等に影響を及ぼすため、通常除外して評価するが、本調査では、経済成
長の発展が著しく、従業員の賃金なども実質的に上昇することが考えられるため、予備的な
財務分析で採用した 2003 年~2010 年までの8年間の消費者物価指数の平均値とし、評価期
間中、毎年前年比 9.26%の上昇率を見込む。
d.
外貨とベトナムドン(VND)の交換レート
ベトナム当局の通貨政策から、2003 年~2010 年までの8年間の対ドル交換レートのベトナム
ドンのドルに対する通貨下落割合の平均が年間 3.06%となっており、今後もこの割合で下落
すると見込む4。他方、ドル-日本円の交換レートは一定と仮定する。
e
投資金額
建設工事期間中の資金需要は、過去の事業実施経験からら 3 年間の建設期間とし、1年目 30%、
2年目 40%、最終年 30%の支出が発生すると仮定する。また、投資金額のうち外貨による支出
額は、日本円からドルに換算し、前述 d.で述べている交換レートの変動を考慮してその当該
年のドル・VND 換算レートを用い、VND に換算した額を用いる。
3)センシティビティ
基本ケースに加え、便益が 10%減少、設備投資が 10%上昇した場合の、予備的な経済的内部収
益率(Economical Internal Rate of Return: EIRR)をそれぞれ算出する。
4
出典:ベトナム統計総局の諸データから算出
S-8
1)及び 2)で述べた条件で得られた内部収益率(EIRR)、現在価値(NPV)および費用便益比
(B/C)の計算結果は次のとおりである。
表-9
予備的な経済分析結果
経済的内部収益率
現在価値
費用便益比
EIRR(%)
NPV(億 VND)
B/C
基本ケース
39%
138,786
6.22
便益が 10%減少
37%
115,727
5.44
設備投資が 10%増加
37%
129,228
5.51
ケース
出典:調査団作成
本便益計算では、外航貨物のみに着目しているにもかかわらず、予備的な経済分析の結果、
いずれのケースもベトナムでの事業実施の目安とされる 15%5を超えることから、本事業は経済
的にフィージブルであると結論付けられる。
3.5. 環境社会面への検討
3.5.1 環境社会面への影響
本事業では、主に既存港湾施設または港湾用通信施設を利用するが、一部の主要港湾周辺で、
200~300 ㎡の敷地整備、および機械棟(床面積 100 ㎡)と鉄塔(地上高 30m)の建設が必要である。
これらの建設工事に伴う周辺環境に与える影響はほとんどなく、カテゴリーC(軽微な影響を与
える可能性がある事業)に分類される。なお、具体的には Vinamarine が準備すべき内容を JICA
「環境社会配慮ガイドライン」を利用し、ANNEX-5に添付するものとした。
3.5.2 ベトナム国の法規および本プロジェクトへの適用
ベトナム政府は 2005 年環境保護法の全面的な改定を行い、戦略的環境評価(Strategic
Environmental Assessment: SEA)を導入した。特に、2006 年の環境保護法の実施細則および指針
に関する政令」では、「すべての国家的プロジェクトは、戦略的環境評価(SEA)を実施する必要が
ある」と規定され、
「フィージビリティスタディ時に環境影響評価報告書が添付されなければなら
ない」とある。
今後、プロジェクトの実行段階に先立ち、フィージビリティスタディの一環として、環境影響
評価(Environmental Impact Assessment: EIA)が実施される必要がある。改定環境法および関
連政令では環境影響評価は、下記に対して実施されなければならないと規定されている。
1)重要な国家プロジェクト
2) 自然保護区、国立公園、歴史-文化遺跡区、自然遺産、登録済み名勝地の土地の一部を使用
する場合、あるいは悪影響を及ぼすプロジェクト
5
市中銀行の預金金利は 2011 年 11 月現在で 15%である。
S-9
3) 水源や流域、沿岸部、生態系保護区域に悪影響を与える危険性のあるプロジェクト
4) 経済区、工業団地、ハイテク団地、輸出加工区、家内工業村のインフラ建設プロジェクト
5) 都市区、集中型住宅区の新たな建設プロジェクト
6) 大規模な地下水や自然資源開拓を使用するプロジェクト
7) 環境に対して悪影響を与える危険性の大きいその他のプロジェクト
4.実施スケジュール
本事業の趣旨は、VTS/AIS/環境 GIS を利用した狭隘航路・港湾利用船舶の安全航行能力強化で
あることから、これらの設備により一体的に運用・保守されることが望ましい。しかしながら、
各港湾の船舶航行トラフィック動向や河川港での狭隘水路における利用状況、および港湾整備の
進捗状況を考慮し、2015 年および 2020 年までに各々完了すべき事業の2期に分けて実施する。
フェーズⅠの整備対象港湾は、物流貨物の増加により輻輳が見られる北部のホンガイ(Hon Gai)、
ハイフォン(Hai Phong)、南部のブンタウ(Vung Tau)、ホーチミン(Ho Chi Minh) そして 2015 年
の ASEAN 統合によりタイ東部やラオス南部の物流拠点としても機能することが期待されている中
部のダナンの計5港である。これら5港湾は、マスタープラン上でも、
「国際ゲートウェイ港」ま
たは「各地域における周辺港に対するハブ港」と規定されている。
フェーズⅡは、地域の物流拠点として機能している港湾のほか、後背地で大規模工業団地や巨
大発電プラントの建設が実施されているギソン(Nghi Son)、ゲアン(Nghe An)、ブンアン(Vung
Ang)、ズゥンクアット(Dung Quat)、クイニョン(Quy Nhon)、バンフォン(Van Phong)、ニャチ
ャン(Nha Trang)、ビンタン(Vinh Tan)、クガ(Ke Ga)、ドンナイ(Dong Nai)、カントー(Can
Tho)の 11 港が対象となる。
なお、フェーズⅠ完了後、港湾を利用する船舶の安全確保および港湾の管理運用強化のための
体制整備などが必要と考えられる。これを考慮し、体制整備等の期間を1年程度見込み、その後、
フェーズⅡで整備対象とする港湾へシステムの整備・展開を行うこととする。
この内容を踏まえた、標準的な実施スケジュールを付表-1に示す。
S-10
5.円借款要請・実施に関するフィージビリティ
5.1 資金調達の実現可能性
ベトナム経済は、2008 年の世界経済危機時の一時を除き、2000 年以降7%を越える経済成長を
達成してきている。そして、ベトナム社会経済発展 2011 年-2015 年の5ヵ年計画においても、
引き続き経済構造の改革、国家経済の競争力の向上、世界経済の統合加速を持続することにより、
2020 年まで平均7~8%の経済成長を安定的に継続しようとしている。しかし、積極的な景気活
性化政策の反面、ベトナム国家財政状況は 2005 年以降を見ても一貫して歳入不足に陥っており、
整備が必要とされる経済インフラ等への投資は、国内外からの借款などを受け入れてきており、
今後もこの傾向は続くものと推測される。
ベトナム運輸省では、経済開発のボトルネックとなっている陸上および海上交通網の整備に勢
力を注いでおり、2020 年までの港湾整備のための投資は 360~440 兆 VND(ベトナムドン)6、主要
港湾の安全確保のためのナビゲーションシステムや航路標識の整備には約 8 兆 6,000 億 VND(円換
算約 320 億円)7がそれぞれ必要と試算しており、今回の整備対象とする VTS/AIS 等も、この中に
含まれるものである。また、この資金源として、Vinamarine、運輸省計画投資局および計画投資
省日本デスクは、日本の ODA 資金の活用を期待しているところである
5.2 相手側機関の実施能力
Vinamarine は、船舶航行の安全性確保および海難事故への迅速な対応を図るため、日本の円借
款により「沿岸無線整備事業(1997 年~2007 年)」を実施し、沿岸無線通信システム(GMDSS)を
導入している。さらに、2005 年3月に、ベトナムにおける船舶航行監視システム導入に向けた現
地調査をおこない、当該事業について技術的・費用的側面から実現可能性を独自に検討した。前
述の「沿岸無線整備事業」では、ベトナム・日本合同評価チームが実施した円借款事後評価にお
いて、
「当該事業は実施機関の能力および維持管理体制ともに問題なく、高い持続性が見込まれる」
との非常に高い評価が得られており、Vinamarine の案件実施能力を裏付ける結果となっている。
また、当該沿岸無線事業のフェーズⅠ、フェーズⅡでの経験を通じ、日本の円借款のスキームに
も精通していることから、新規プロジェクトの円滑な実施が期待できる。
また、Vinamarine には、2011 年9月より、JICA 専門家(1名)が派遣されており、同専門家
からの港湾の運営・維持管理に関する技術協力や、船舶航行監視システムの構築や遭難救難シス
テムの策定のための専門的な助言を通じ、案件の実施を側面から支援する体制が整っている。
本事業で整備される船舶航行監視システムの運営・維持管理は、Vinamarine 傘下の各港湾局が
担当することになるが、既に VHF 等の通信手段による航路監視を 24 時間体制で実施していること
から、当該システムの導入に際しても、その維持管理能力には特段の問題はない。
6
7
ANNEX-1「2030 年を考慮した 2020 年までの港湾システム整備マスタープラン」参照
ANNEX-1「海上船舶航行安全確保体制・システム構築の承認」承認番号:Ref. 1166/QĐ-TTg を参照
S-11
5.3 今後必要な施策
本プロジェクトにて整備する船舶航行監視システムの運用者は、Vinamarine 傘下の各港湾局と
なるが、当該プロジェクトでは、港湾局間の連携強化も目指すことから、港湾局ごとに個別のプ
ロジェクト実行組織を立ち上げるのではなく、Vinamarine の中に、全体プロジェクトを統合管理
する PMU(Project Management Unit)を組織する必要がある。また、ODA 資金を活用し当該事業を
実行するためには、首相府決定 131/2006/ND-CP, Decree on Issuance of Regulation on Management
and Utilization of Official Development Assistance に従い、下記手続きにより PMU を設立し
なければならない。
1)計画投資省が当該 PMU の組織図、機能、役割に関する通達を発行
2) 当該事業に関する書類を計画投資省および運輸省が承認後、案件実行機関が当該 PMU の設立
決定書発行
3) Vinamarine は、ベトナム関連法に従いプロジェクト管理を担当するコンサルタントを雇用
6.我が国企業の技術面等での優位性
本事業では、ベトナムにおける統合 VTS の導入を特徴のひとつとしている。港湾毎の VTS 整備
は重要であり、VTS にて収集した情報は、
「隣接港湾での情報共有」
「船舶運航業務への活用」
「航
路設備監視」
「輻輳海域対策」
「航路改良分析」
「海難事故分析」
「海洋汚染分析」
「CO2 排出規制対
策」などに有効活用できる。本事業では、複数の VTS を統合し、必要な機関への情報共有や情報
配信を構築するものとする。隣接港湾局および各関連機関への情報配信は Web によるものとし、
多種多様にわたる情報も、十分整理された表示形態として構築する必要がある。
このため、本事業では、統合 VTS として情報共有を行うものとし、「地理情報システム
(Geographic Information System:GIS)」を採用して、情報ごとのレイヤ構造や情報利用者によ
る容易な情報選択を重視し、拡張性のあるシステム構築を図る。このような統合 VTS では、従来
の VTS 技術に加えて GIS を中核とした情報技術が必須である。
海上または海洋分野では、電子海図表示システム(Electronic Chart Display and Information
System: ECDIS)で、海図上への航路標識設備表示や自船/他船表示などが既に導入され、安全安
心のための操船支援装置として活用されている。
本事業で整備される VTS においても、これまでは単独システムでの例が多く、専用システムと
しての構築が一般的である。一方、GIS は、情報種別ごとのレイヤ(層)構造を構築でき、ユー
ザによる要求に基づき容易に他情報との比較や分析ができ、多種多様の情報を扱うシステムでは
大きな効果を発揮するものである。
また、このような海洋海上 GIS は、船舶の動静把握に留まらず、海洋汚染の把握、分析、対処
などへの応用も期待され、日本においては海洋海上システムへの GIS レイヤ構造を活用した「海
洋版 GIS」の研究が大学などで実施されている。平成 22 年度には東京海洋大学にて、世界に先駆
けた「先端ナビゲートシステム」が作り上げられ、運航管理や船舶動静分析、最適航路研究など
に使用されている。
また、IMO(国際海事機関)における船舶の CO2 排出規制では、環境コンテンツを日本の国土交
通省海事局が世界へ強く提唱しており、世界からは「海洋環境を牽引する国」として認められて
S-12
いる。平成 23 年 7 月には IMO における船舶の CO2 排出規制も可決され、海運業者における CO2 排
出規制管理が求められてくることになる。この CO2 排出規制に対応した船舶運航管理としては、
海洋 GIS が有効とされており、大学・研究機関レベルから、運航管理センターなどの実用的な利
用段階へ広がりつつある。
運航管理としては、船舶の位置表示としての GIS 活用があるが、本格的「海洋 GIS」の構築と
しての実例は乏しく、日本国内でも民間海運会社により「海洋 GIS」を導入する他、NEDO(独立
行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)においても、運航実態調査で、
「海洋 GIS」に
よりエネルギー関連の調査を実施している。
このように、海洋における多層レイヤ構造における「海洋 GIS」技術は、現在、日本国内国外
で注目されてきている。本事業においても、VTS の統合システム、日本がリードしている「海洋
GIS」技術、更に、従来から技術力の高いレーダや情報通信技術等、総合的な技術力により、船舶
航行監視のシステムを目指すものである。これらの技術および日本国内での産学官連携プロジェ
クトによるコンテンツの開発等の強みを発揮することで、日本企業における受注の可能性はかな
り大きいと判断される。
7.案件実現までの具体的スケジュール及び実現を阻むリスク
本案件実現に向けて必要と考えられる措置は、第一に、円借款の要請に向けて、ベトナム政府
側の関連機関への働きかけである。すなわち、ベトナム国側による円借款要請に必要な手続きと
して、本調査結果を踏まえ、当該事業の本格実施の可否について、ベトナム側政府にてフィージ
ビリティスタディ(事前事業調査)を実施する。調査報告書が計画投資省に提出され、ロングリ
ストにリストアップされなければならない。その後、Vinamarine は計画投資省との協議を持ち、
円借款要請の手続きを行なう。本調査でのヒアリングにおいても、Vinamarine をはじめとして、
運輸省投資計画局、計画投資省らベトナム国政府は、本調査について承認・支援を表明しており、
ベトナム政府によるフィージビリティスタディの実施、円借款要請手続きが速やかに推進される
ことが期待される。
また、次のフィージビリティスタディ段階では、本プロジェクトの環境評価の EIA 報告書を作
成して、ベトナム運輸省経由天然資源環境省に対し、環境許可等発行の申請を速やかに実施する
ことが望まれる。さらに、迅速にプロジェクト実施に向けて取り組むために、Vinamarine 内に全
体プロジェクトを統合管理する PMU(Project Management Unit)が早急に組織されるよう働きかけ
る必要がある。
S-13
8.調査対象国内での事業実施地点が分かる地図
図-1 に、本プロジェクトの整備対象とする港湾を示す。
図-1 本プロジェクトでの整備対象港湾位置図
200km
出典:Google Map を基に調査団にて作成
S-14
付表-1
財政年
項目
2011
2012
2012
暦年
月
累計 月
1 2 3 4
-3 -2 -1 1
5
2
6
3
7
4
2013
2013
8
5
実施スケジュール
2014
2014
2015
2015
2016
2016
2017
2017
2018
2018
2019
2019
2020
9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3
6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96
カウンターパート への
最終報告書提出
ベト ナム政府内での
フィージビリティの検討
ベト ナム政府内環境
評価アセスメント
ベト ナム政府の日本
政府へのO DA要請
実施に対する日本・
ベト ナム間の検討
交換文書( E/ N) 借款
契約( L/A)
コンサルタント の選定
フェーズⅠ
設計・ 調達仕様書
準備( B/ D、D/ D)
調達仕様書承認
施工業者選定の入
札準備
入札
入札書類評価
施工契約
機器製造
鉄塔建物準備
・ 機器据付
竣工
訓練
管理運用保守体制・
効果の検証
フェーズⅡ
設計・ 調達仕様書
準備( B/ D、D/ D)
調達仕様書承認
施工業者選定の入
札準備
入札
入札書類評価
施工契約
機器製造
鉄塔建物準備
・ 機器据付
竣工
訓練
出典:調査団作成
S-15
第1章
相手国、セクター等の概要
1.相手国の経済・財政事情
1.1
ベトナムの経済・財政事情
ベトナム社会主義共和国(以下、
「ベトナム」)は面積 331,689k ㎡(日本の 0.88 倍)の国土を有
1
し 、東南アジアのインドシナ半島東部に位置する。北は中国、西はラオス、カンボジアと国境を接
し、東は 2,260k ㎡の長い海岸線が南シナ海に面している。国土は南北 1,650 ㎞、東西 600 ㎞(狭い
ところでは 50 ㎞程度)と南北に長く、首都ハノイ(Hanoi)は北部、最大の商業都市ホーチミン(Ho Chi
Minh)は南部に位置する。
人口は 2010 年には、8,693 万人、過去 10 年間の人口増加率は平均年 1.2%である。86%がキン族
であり、他に 53 の少数民族に分かれる。言語はベトナム語であるが一部英語も通用する。
気候は、南北に国土が長いことから地域間で違いが大きく、ホーチミンでは年間を通して最高気
温 30℃程度、最低気温は 23℃程度、ハノイでは温帯に属しており最高気温 24℃程度と時期によっ
て平均気温も大きく異なる。
表 1-1 実質 GDP 成長率の動向
(単位:%)
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
農林水産業
4.6
3.0
4.2
3.6
4.4
4.0
3.7
3.8
4.7
1.8
2.8
鉱工業・建設業
10.1 10.4
9.5 10.5 10.2 10.7 10.4 10.2
6.0
5.5
7.7
サービス業
5.3
6.1
6.5
6.5
7.3
8.5
8.3
8.9
7.4
6.6
7.5
実質 GDP 成長率
6.8
6.9
7.1
7.3
7.8
8.4
8.2
8.5
6.3
5.3
6.8
注:農林水産業は農業、林業、水産業を、鉱工業・建設業は鉱業、製造業、電気・水、建設を、サ
ービス業は販売、ホテル・レストラン、観光・運輸・郵便を含む。出典:「ベトナム経済概況」(在
ベトナム日本大使館:ベトナム統計総局資料)
ベトナム経済は、2000 年から 2010 年までの平均実質 GDP 成長率は 7.3%の高成長を達成、世界経
済危機時の 2008 年で 6.3%、2009 年 5.3%、と大幅な落ち込みは見せず、2010 年には 6.8%を達成し、
ほぼ 2008 年以前の水準に回復している。一人あたり名目 GDP については、2008 年に 1,000 ドルを
越え、2009 年は 1,064 ドルであり,2010 年は 1,168 ドル(暫定値)となった。
消費者物価は、2007 年度までは前年比3~8%の上昇率となっていたものの、2008 年には 23.2%
増(対前年比)と高騰、2009 年国際物価の下落等により 6.7%増に留まったものの、2010 年は 9.2%増
となり、政府は 2011 年の経済運営においてインフレ抑制、マクロ経済安定、社会保障の強化を最重
要課題とし、消費者物価指数(Consumer Price Index:CPI)上昇率を7%以下に抑えることを目標と
しているが、ベトナム・ドン安、食糧・資源の国際価格の上昇から、目標遵守は厳しい状況にある。
表 1-2 消費者物価の推移
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
対前年費(%)
100 -0.3
4.1
3.3
7.8
8.5
7.5
8.3 23.2
6.7
9.2
2000 年基準値
100 99.7 103.8 207.2 115.6 125.4 134.8 146.0 179.8 191.8 209.5
注:2000 年の物価を 100 とした。出典:ジェトロ・ウェブサイト「国・地域別情報」(J-FILE)
ベトナムはその経済規模に比べて貿易の割合が大きく、2007 年に WTO に正式加盟を果たした後の
1
ジェトロ・ウェブサイト「国・地域別情報」(J-FILE)
1- 1
2008 年における貿易総額の対 GDP 比は 171%となっている。2009 年には一時貿易額が落ち込んだも
のの、世界経済の回復と共に 2010 年の貿易額は輸出 716 億ドル(対前年比 25.5%増)、輸入 840 億
ドル(同 20.1%増)となっている。ベトナムの主要輸出品目は縫製品や履物などの労働集約型の軽
工業品や原油、水産物などの一次産品である。主要輸入品目は機械設備・同部品及び原材料といっ
た資本財であり、輸入額の9割を占め、輸入額が輸出額を上回る貿易赤字の構造が長年続いている。
投資面では、2000 年以降、次第に活発化の兆しが見られ、民間部門及び外資部門による投資が増
加傾向にある。外資企業の輸出に占める割合は6割といわれ2、ベトナムへの外資企業からの直接投
資は、2008 年の大型プロジェクトへの投資を除いても安定的に増加する傾向にある。
表 1-3 ベトナムへの海外からの直接投資動向(新規・追加:認可ベース)(単位:10 億ドル)
2001 2002 2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
追加
0.6
1.1
1.1
2.1
2.1
2.9
2.6
3.7
5.1
1.4
新規
2.6
1.8
2
2.5
4.7
9.1
18.7
60.3
16.3
17.2
実行額
2.5
2.6
2.7
2.9
3.3
4.1
8
11.5
10
11
出典:「ベトナム経済概況」(在ベトナム日本大使館:ベトナム統計総局資料)
ベトナムの国家予算の歳入の多くは税収に依っており、中でも法人税と付加価値税の割合が高い。
歳出は社会開発投資に最も多くの予算が使われており、2009 年は景気刺激策のための財政支出によ
り、対 GDP 比 4.6%から同 6.9%と一時的に悪化したが、2010 年は税収の増加のため、同 5.8%に縮小
した。
表 1-4 ベトナム国家財政状況
(単位:10 億 VND)
2009 年
2010 年
2011 年
2006 年
2007 年
2008 年
第 2 次推計 第 1 次推計
予算
GDP
973,791 1,143,715 1,477,717 1,679,200 1,951,174 2,275,000
歳入総額
289,170
336,273
434,761
442,340
528,110
595,000
税収等
263,864
299,096
392,463
398,177
486,736
559,402
投資収入
17,409
31,165
32,885
37,643
35,864
30,598
グラント
7,897
6,012
9,413
6,520
5,500
5000
前年度繰越
61,673
94,784
113,768
26,455
1,000
10,000
歳出総額
346,017
425,133
549,784
544,575
588,210
676,360
投資開発
88,341
104,302
119,462
179,961
150,000
152,000
経常支出
180,069
232,010
292,374
347,381
428,210
505,960
予備費
18,400
次期繰越支出
77,608
88,821
137,948
17,233
10,000
元本償還
39,649
44,473
40,930
40,120
53,990
49,240
財政収支(GFS 基準)
-8,964
-20,094
-26,746
-75,780
-59,110
-71,360
対 GDP 比
-0.92%
-1.76%
-1.81%
-4.51%
-3.03%
-3.14%
財政収支(越基準)
-48,613
-64,567
-67,676 -115,900 -113,100 -120,600
対 GDP 比
-4.99%
-5.65%
-4.58%
-6.90%
-5.80%
-5.30%
資金調達
8,964
20,094
26,746
75,780
59,110
71,360
国内(ネット)
3160
13,315
11,710
58,518
39,060
55,050
国外(ネット)
5804
6,779
15,037
17,262
20,050
16,310
出典:「ベトナム経済概況」(在ベトナム日本大使館:ベトナム財務省資料)
2
三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング「WTO 加盟後のベトナム経済」 調査レポート 07/71(2008)
1- 2
国際収支では、貿易赤字を、外国直接投資、ODA、在外ベトナム人からの送金によって釣合いを
取っている。対外債務は、2010 年6月末時点でのベトナムの公的債務残高が 290 億ドル(うち、政
府債務 251 億ドル、政府保証債務 39 億ドル)となり、2009 年末の対外債務は対 GDP 比で 29.3%とな
った。
表 1-5 ベトナム国際収支
(単位:100 万ドル、*:2010、2011 年は予測値)
年
2006
2007
2008
2009
2010*
2011*
経常収支
-164
-6,953 -10,787
-6,274
-9,405
-9,470
貿易収支
-2,776
-10,438 -12,782
-8,306 -10,596
-10,422
サービス収支
-8
-755
-915
-1,388
-1,649
-1,633
投資収支
-1,429
-2,190 -4,401
-3,028
-3,859
-4,755
経常移転収支
4,049
6,430
7,311
6,448
6,698
7,340
資本収支
3,088
17,730
12,341
11,869
12,113
13,312
海外直接投資(ネット)
2,315
6,516
9,279
6,900
7,565
7,928
中長期借入
1,025
2,348
992
5,146
2,541
3,176
短期投資
1,313
6,243
-578
128
1,568
1,627
現金・預金
-1,565
2,623
2,648
-305
439
581
誤差・脱漏
1,398
-565
-1,081 -13,351
-1,500
0
外貨準備高増減
4,322
10,199
473
-7,756
1,208
3,842
外貨準備高(金除く)
13,384
23,479
23,890
16,447
15,356
19,197
出典:「ベトナム経済概況」(在ベトナム日本大使館)
表 1-6 対外債務対 GDP 比
2005 年
2006 年
2007 年
2008 年
対外債務残高
32.2
31.4
32.5
29.8
対外公的債務残高
27.8
26.7
28.2
25.1
出典:「ベトナム経済概況」(在ベトナム日本大使館:ベトナム財務省資料)
(単位:%)
2009 年
39
29.3
表 1-7 政府債務及び政府保証付き対外債務残高
(単位:百万ドル)
2006 年
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年 6 月末現在
政府対外債務
14,610
17,271
18,916
23,943
25,097
政府保証付対外債務
1,031
1,982
2,900
3,986
3,905
対外公的債務
15,641
19,253
21,817
27,929
29,002
出典:「ベトナム経済概況」(在ベトナム日本大使館:ベトナム財務省資料)
1- 3
1.2 ベトナムの各地域の経済産業特性
ベトナム国土は前述のとおり南北に 1,650km と長く、気象条件や地形などの変化に富み、その産
業状況も地域により異なっている。ベトナム統計総局の地域区分に従い、一次産業産出高、工業出
荷額、及び海外資本投資額の各地域の構成比を表 1-8 に示す。
表 1-8 ベトナムの地域別経済特徴
基礎指標
面積
(k ㎡)
人口
一次産業
コメ
生産量
木材
生産量
漁獲量
2010 年度
工業出荷
額
2005-2010
年累積外国
資本投資額
百万 USD
k㎡
千人
千t
千 m3
t 10 億ドン
33,105.1 86,927.7 39,988.9 4,042.6 5,127,576
808,745*
147,196
各地域の構成比(注:各地域を構成する省は図 1-1 に示す)
紅河デルタ地域
6.4%
22.7%
17.0%
4.6%
11.8%
27.6%
15.7%
北部山岳地域
28.8%
12.8%
7.7%
32.9%
1.5%
3.4%
1.2%
中部地域
29.0%
21.8%
15.4%
30.6%
21.7%
10.7%
35.9%
中部高原地域
16.5%
6.0%
2.6%
10.3%
0.5%
0.9%
0.4%
南東部地域
7.1%
16.8%
3.3%
6.5%
7.3%
43.2%
40.9%
メコンデルタ地域
12.2%
19.9%
53.9%
15.1%
57.2%
9.9%
5.5%
出典:ベトナム統計総局データに基づき調査団作成 注:* 1994 年 VND 基準値による出荷額
単位
合計
ホーチミンが含まれる南東部地域は工業出荷額が大きく、また海外からの直接投資においても、
最も盛んな地域である。ハノイ、ハイフォン (Hai Phong)が含まれる紅河デルタ地域では、工業出
荷額が南東部地域に次ぐ大きさであり、また直接投資も盛んである。中部地域は、タンホア省から
ビンテュアン省まで含み、中部地域の海岸に面した州を指し、中部のダナン(Da Nang)が中心都市
となる。工業出荷額や海外からの直接投資は各省に分散している。メコンデルタは、コメ生産地で
あり、また養殖漁業を含む漁業の中心地でもある。中部高原及び北部山岳地域は、林業主体とする
一次産業が盛んである。
なお、各地域を構成する省を図 1-1 に示す。
1- 4
図 1-1 ベトナム統計総局分類による各地域の省構成
出典:Vinamarine のインタビューより調査団作成
1- 5
1.3 ベトナム社会経済発展 2011 年-2015 年の5カ年計画3
ベトナム政府は、2011 年の経済成長目標を7~7.5%に設定しており、「社会経済開発戦略
(2011-2020)」では、今後 10 年間で7~8%の経済成長を維持し、2020 年には一人当たりの GDP が
3,000 ドルとなることを目標としている4。その一方で、経済成長の根幹を支える電力や交通道路網、
物流網等のインフラ整備が遅れ、顕著になりつつある。
2010 年6月9日~10 日に開催されたベトナム支援国会議で、ベトナム政府の投資計画省はベト
ナム社会経済発展 2011 年~2015 年の5ヵ年計画の原案を発表しており、この原案では、「5ヵ年
の社会経済発展の最大目標は、経済構造の改革、国家経済の競争力の向上、世界経済の統合加速を
持続することによる高い経済成長率を安定的に継続する」としている。この5ヵ年の課題としては、
以下が規定されている。
・公平な競争環境の整備、行政体制改革を強化し、社会主義志向の市場経済体制を成立すること。
・高質労働力の育成、国家教育体制の改善を行うこと。
・大都市を中心に近代的なインフラシステムを構築すること。
具体的には、2011 年~2015 年の GDP の年平均成長率 7.5%~8%、2015 年の一人当たりの GDP
2,000~2,100 ドル程度(2010 年の 1.7 倍)を目指し、更には、工業及び建設業の振興、労働生産性
向上、GDP あたりのエネルギー消費の削減、輸出の強化と輸入超過の削減、2015 年の国家予算の歳
出超過の GDP 比 4.5%までの圧縮、人口増加率の抑制(1%程度) 、そして 2015 年の人口は 9,200 万
人以下とすること等を目標としている。また、平均寿命年齢については、2015 年時点で 74 歳程度
を目標値として設定し、労働力に関しては、訓練を受けた労働人口割合を 2015 年時点で 55%に上げ
ること、貧困世帯率については、現在の約 10%を毎年2%減少することを、それぞれ目指している。
各産業・各分野の発展方針を見てみると、工業分野では5ヵ年の工業・建設業の成長率を、
年平均 7.5~8.5%(工業だけの生産高の増加率は年平均で 12.5~13.5%)
、2015 年までの工業・建設
業の GDP 比は 40~41%を占めることを目標とし、次のような整備や促進を行うこととしている。
・社会経済発展のためのエネルギー需要を満足するエネルギー産業の開発
・コンピュター・電気部品・機械の生産、ソフトウエア等の加工生産、ハイテクコンテンツ
かつ大きな付加価値を持つ製品の生産
・裾野産業振興の支援政策
・国際的な経済連携の促進を通じた技術移転
農業分野では、同期間中に農林水産業の生産高を年平均で 2.7~3.7%上昇させ、2015 年の農民の
所得が 2010 年の 1.8~2倍の増加に達することを、目指すとしている。
3
4
ベトナム社会経済発展 2011 年-2015 年の5ヵ年計画 ベトナム政府投資計画省編、財団法人 日本・ベトナム友好
協会
出典:ベトナムの経済・経済協力_ベトナム経済概況、在ベトナム日本大使館ホームページ参照
1- 6
サービス分野では、(a)電気通信・情報技術、
(b)教育訓練サービス、
(c)商業サービス、
(d)金融サービス、
(e)輸送サービス、
(f)観光サービスの分野を優先し、2011 年~2015 年の5
年間に、サービス業の成長率は年平均で8~9%に、GDP に占めるサービス業の割合は 2015 年まで
に 40~41%に、それぞれ達することを目指すこととしている。
貿易では、高付加価値製品、加工生産品の輸出を促進することで輸出の拡大をはかる一方、原材
料の輸出割合を抑制させることで輸入超過を抑制している。また、輸出額の成長率を、年平均で 12
~12.5%、輸入額の成長率を年平均で約 10.5%をそれぞれ目指すとし、2020 年時点で貿易収支の均衡
化を計画している。
企業経営の分野では、国営部門の主導的な役割を維持するものの所有形態の多様化を重視し、株式
会社の形態を採用する企業などの発展過程を促進し、民間中小企業の発展も支援することとしてい
る。
人材開発、技術研究開発分野では、ホアラック(Hoa Lac)ハイテク工業団地、ホーチミンハイ
テクパーク、ソフトウエアパークなどの施設を稼動させ、技術革新と経済競争力向上のために技術
研究開発を強化すると同時に、各産業への技術導入を促進し、2015 年には職業訓練の受講比率を労
働人口は全労働人口の 55%まで高めること、都市部失業率を4%以下に低減させることを目標とする。
投資方針としては、2011 年~2015 年の投資規模を 5,000 億ドルと見積もり、3500 億ドルは政
府の国内資金を当てることとし、投資分野は交通運送 20%、工業 10%、農林水産業4%、都市開発5%、
給水排水2%、教育訓練1%、その他 58%を予定している。
5年間の消費総額は GDP の 68~69%で、貯蓄総額は GDP の 40~41%%程度、国内貯金対平均 GDP は
31~32%になる。経常収支は 307 億ドルの赤字が予測できる。逆に、資本収支は 690 億ドルの黒字、
国際収支全体の5年間の総額は 256 億ドルの黒字と見られる。5年間の、全社会の発展のための投
資金額は 6,500 兆 VND に達し、そのうち7割は国内、3割は海外からの資金を見込んでいる。ただ
し、これまでベトナム政府は、空港・港湾・電力・道路等のインフラ整備資金の調達手段として、
日本の円借款を含む各国政府からの ODA、国際機関からの資金援助が重要な役割を果たしてきた。
ベトナム政府は、すでに 2007 年建設運営譲渡方式(BOT 方式)
、建設譲渡運営方式(BTO 方式)、
および建設譲渡方式(BT 方式)形態による投資活動について規定した Decree 78/2007/ND-CP を発
行5しており、国内外の民間資金をインフラ整備に法的枠組みは準備しており、今後これらの民間企
業の動向がベトナムの高成長率を維持する重要なファクターとなりつつある。
5
官民パートナーシップ事業発掘形成調査支援事業(ベトナム社会主義共和国)調査報告書 平成 20 年 3 月
社団法人 海外コンサルティング企業協会、株式会社 パシフィックコンサルタンツインターナショナル
1- 7
2.プロジェクトの対象セクターの概要6
2.1 海事関連行政機関
ベトナム運輸省(Ministry
of
Transport:MOT)は、ベトナム国内の陸上交通(道路、鉄道)、
内陸水運、海上交通など運輸全般を管理する行政機関である。主な機能には、 運輸交通全般の開発
に関する国家マスタープラン作成と提言、国家マスタープランに基づく地方政府や関連省庁への指
導、運輸管理に関する法令、規制、政策などの策定・発効・監督、運輸全般に関わる各種国家基準、
技術標準の作成とライセンスの発行、開発・建設プロジェクトの認可等が含まれる。
海 事 関 連 行 政 を 担 当 す る 外 庁 に ベ ト ナ ム 海 運 総 局 ( Vietnam National Maritime Bureau:
Vinamarine)及びベトナム内陸水運総局(Vietnam Inland Waterway Administration:VIWA)があ
る。Vinamarine は、船舶管理、港湾管理、海運サービス、船員教育などの業務を管理し、その傘下
には多くの外部特殊法人や国有企業を抱えている。
2.2 海運の概況
現在、ベトナムには 100 社を超える海運企業があり、船隊を構成する船舶の大半は小型の老朽船
であり、各海運企業は主として内航市場に集中しており、ベトナム籍船による輸出入貨物の積取比
率は価額ベースで 15%程度に過ぎない、といわれている7。
ベトナムの商船隊は、Lloyd's Register によると 2008 年現在 1,312 隻(総t数で約 300 万 DWT)
となっており、オイルタンカーや鉱石運搬船等を含む貨物船は 1,124 隻(総t数で約 280 万 DWT)、
船齢は平均 14 年となっている。ただし、ベトナム国内で登録されている 2,000DWT 以上の大型船は
7隻(総t数で 6 万 7,000 DWT)となっており、ほtどが小型船で河川・沿岸海運に利用されてい
る。
2.3
海運の重要性と海運戦略
ベトナムにおける海運は、メコン川、紅河、サイゴン川などの河川・運河を利用する内陸水運と
沿海・外洋航路を利用する海上交通とに分かれる。
内陸水運は、メコンデルタ地域及び紅河デルタ地域でよく発達しており、ベトナム国内の河川長
4 万 1,900km のうち 6,231km が水運に利用されている。ただし、航行可能船舶はメコンデルタでは
100GTW、紅河デルタでは、100~400GTW 程度の船舶しか航行できず、安全航行のための設備整備及
び河川港浚渫など維持管理に課題を有しているといわれている。
一方、図 1-3 に示したように、貨物輸送トラフィックはベトナム経済の発展と共に増加しており、
海上トラフィックでは年平均 28%で伸びてきており、2010 年でベトナムにおける全貨物輸送トラフ
ィックのほぼ 67%を占める。
6
7
VIETNAM: TRANSPORT SECTOR BRIEF, Alberto Nogales -*East Asia and Pacific Region Transport Sector Unit,
Version: June 1, 2004
Vinaline へのインタビュー
1- 8
図 1-2 輸送手段別旅客輸送量(単位:百万人・km)
出典:ベトナム統計総局データに基づき調査団作成
図 1-3 輸送手段別貨物輸送量(単位:百万t・km)
出典:ベトナム統計総局データに基づき調査団作成
ベトナム港湾協会によると、貨物、特にコンテナ輸送の伸び率は、2001 年から 2008 年の間に前
年比 20%以上で伸びているが、貨物はハイフォン、クアンニン(Quang Ninh)、ホーチミンのエリア
に集中している。これらの港湾は河川域にあり、喫水が浅く潮の干満の影響を大きく受けるため、
大型船は貨物を積み下ろしの際にはバージ船を利用することになる。他方、港湾の敷地が限られて
1- 9
いることや、倉庫群の開発やクレーン施設などの制約があることから、西ヨーロッパや北米の市場
への輸出品の場合、20%が輸送コストに割かれると、いわれている。
MOT が作成した「海運戦略 2020」によると、ベトナムによる外洋貨物取扱量は、2015 年には約1
億t、2020 年には 2.1~2.6 億t、そして 2030 年には 2020 年の 1.5~2倍の貨物取扱量が期待でき、
旅客輸送では、2015 年には 500 万人、2020 年で 900~1,000 万人、2030 年にはその 1.5 倍の旅客輸
送が期待できるとしている。船腹量では、現在 600~650 万 DWT の船腹保有量であるが、2015 年に
は 850~950 万 DWT、2020 年には 1,150~1,350DWT と予測されている。また、造船分野では、2020
年までに 30 万 DWT の船舶(用途は、貨物、旅客船舶、タンカー、海難救助船など)の製造能力を備
えること、としている。従い、当面の海上運輸能力強化策として、国際ゲートウェイ港、コンテナ
船の横付けが可能な水深の深い港湾の開発に焦点を当てるとしている。
3.対象地域の状況
3.1 各地域の貨物輸送量
図 1-3 に示したとおり、道路運輸もベトナム経済の発展と共にその輸送トラフィックは増加して
きており、南北間で食料品、農産物、日用品が輸送され、加えて中国南部から輸入される貨物も大
量に南部へと運ばれている。
図 1-4 に、海岸線を保有する各省を中心に貨物発生量を示す。
図 1-4 各省または地域の貨物発生量
出典:ベトナム統計総局
1-10
2009 年の貨物発生量はハノイ及びホーチミンが多く、ゲアン省(Nghe An)、ドンナイ(Dong Nai)
省、ハイフォンが続く。2004 年から 2009 年の全国の貨物発生量の年平均増加率が 14.1%という数字
に見られるように、活発な産業開発が進められている。特に、紅河デルタ地域では、ハノイ-ハイフ
ォン間に位置するハイズオン(Hai Duong)省、中部重要経済地域に指定されているクアンナム(Qang
Nam)省、クアンガイ(Quang Ngai)省、及び南東地域のビンズオン(Binh Duong)省では本格的な
工業団地が稼動し、また、ニントォアン(Ninh Thuan)省では、大型電力プロジェクトが実施され
ている。これらの省では、過去5年間の貨物出荷量が高い伸びを示している。その他の地域・省で
も貨物量は増加しているものの、輸送網が比較的充実している地域での貨物の増加が著しいことが
わかる。
図 1-5 主要道路網及び主要港湾施設
ニャチャン
出典:ベトナム運輸省資料に基づき調査団作成
1-11
図 1-5 に、これらの貨物を一時処理する陸上輸送網を示す。前述の地域的な貨物発生量及びその
増加率をみると、比較的輸送手段が整った地域で高い増加率を示す傾向にある。
図 1-6 に主要港の荷揚量を示す。ハイフォン港の荷揚量が最も多く、次いでホーチミン港、
ク
アンニン港、クイニョン(Qui Nhon)港、ダナン港となっている。ここで注目されるのは、ホーチ
ミンの貨物発生量が全国規模で見ても大きな割合を占めているにもかかわらず、ホーチミン港の荷
揚量が 2003 年以降停滞しており、航路上の貨物輸送量・港湾施設の取扱量に限界があると考えられ
る。
図 1-6 主要港の貨物荷揚量(単位:千t)
出典:ベトナム統計総局データに基づき調査団作成
1-12
以上の状況から、Vinamarine は港湾能力強化のために次のような整備を実施している。
No.
1
2
3
4
5
6
7
表 1-9 各地域の港湾整備プロジェクト
港湾名
開発内容
開発年
カイラン(Cai Lan)港: 既存カイラン港の開発・埠頭増設
2010~12 年
クアンニー(Quang
Ninh)省
ハイフォン港
総面積: 47.5ha、入港可能船舶: 20,000DWT (全埠頭)、
フェーズⅡ
取扱貨物量: 400 万 t/年、埠頭全長: 785m
:ディンブー(Dinh Vu) 第 3,4, 5, 6 埠頭を新設
港第2期
*第 3 期で第 7 埠頭 (全長 195m)建設を実施予定。
2011~13 年
*現在の貨物取扱量は 100 万 t/年
ハイフォン
水深: 14m、入港可能船舶: 50,000DWT(満載)、100,000DWT(空 2012~20 年
国際ゲートウェイ港: 載)、取扱貨物量: 35~50 mil. t/年、11 埠頭(コンテナ (2014 年に第 1 埠
ラックウェン(Lach
4、バルク用 2、ジェネラルカーゴ用 5)建設
頭完工予定)
Huyen)港
【フェーズ A】港湾基本インフラ整備 (防波堤、防砂堤の建
設、航路、道路、コンテナヤードの地盤整備等)
【フェーズ B 第 1 期】現港航路西側港湾用地整備、埠頭
(750m、10 万 DWT 船舶 2 隻同時着岸)及びロジスティックシ
ステム、No.1,2 埠頭の岸壁・ターミナル建設
【フェーズ B 第 2 期】航路の東側(Cat Ba 島)へ航路拡張
【フェーズ B 第 3 期】航路拡張
ギソン(Nghi Son)港: 総面積: 922ha (地上 438ha、海上 484ha)、埠頭:30 基、取扱 2009 年一部運営開
始
タンホア(Thanh Hoa) 貨物量: 1,000 万 t/年
省
【複合港】総面積:12ha、埠頭:3基、埠頭全長: 555m、水深:
8.5m、対応可能船舶: 30,000DWT、倉庫: 2,880 ㎡、コンテ
ナターミナル: 10,000 ㎡
【石油化学製油所製品輸出港】総面積: 33ha、埠頭:6基、
対応可能船舶: 30,000DWT
【専用港及び複合港】総面積: 71ha、埠頭: 8基、埠頭全長:
2,000m、対応可能船舶: 30,000DWT
【火力発電所専用港】総面積: 16ha、埠頭: 5基、埠頭全長:
560m、対応可能船舶: 30,000DWT
【複合港及びコンテナターミナル】総面積: 93ha、埠頭: 6
基、埠頭全長: 1,500m、対応可能船舶:50,000DWT
【ガソリン、石油、LPG 輸出入港】総面積: 48ha、埠頭: 2
基、対応可能船舶: 50,000DWT
ズゥンクアット(Dung 【第 1 期】埠頭全長: 145m、水深:9.5m、航路幅 85m、貨物受 第1期 2006~08 年
Quat)
入能力: 150~200 万 t/年 (稼働中)、入港可能船舶:
港:クァンガイ(Quang 30,000DWT ゼネコン: Gemadept Corp.
Ngai)省
【第2期】投資額: 171 bil. VND、総面積: 11.6ha、入港可 第 2 期:未決
能船舶: 30,000~50,000DWT
SP-PSA 国際港
総面積: 54ha、埠頭: 4基、埠頭全長: 1,200m
:バリア-ブンタウ(Ba 【第 1 期】2009 年6月稼働開始、総面積: 27ha、入港可能船 第 1 期
Ria-Vung Tau)省
舶: 80,000DWT、コンテナ受入能力: 110 万 TEU/年、水深: 2008 年~09 年
14.5m、コンテナ埠頭2基 (600m)
第2期
*2010 年2月に過去最大の大型船が寄港 (109,000DWT、
8,272TEU、長さ 352m)
2009 年~12 年
【第2期】総面積: 27ha、埠頭2基 (600m)、コンテナ受入 (予定)
能力: 200 万 TEU/年
2008 年 10 月~12 年
カイメップチーバイ 【コンテナターミナル】水深: 14m、入港可能船舶:
(Cai Mep-Thi Vai) 80,000DWT、取扱貨物量: 70 万 TEU/年 (24 時間)
国際港
【総合ターミナル】水深: 12m、入港可能船舶: 50,000DWT、
:バリア-ブンタウ省 取扱貨物量: 160~200 万 t/年
【コンテナターミナル】水深: 14m、入港可能船舶:
80,000DWT、取扱貨物量: 70 万 TEU/年 (24 時間)
【総合ターミナル】水深: 12m、入港可能船舶: 50,000DWT、
取扱貨物量: 160~200 万 t/年
1-13
8
9
10
11
12
13
14
【第1パッケージ】Cai Mep 国際コンテナターミナル建設
埠頭:2基、埠頭全長:300m、浚渫:9万㎥、埋立:320 万㎡、
ヤード舗装:34 万㎡、アクセス道路:8km
【第2パッケージ】Thi Vai 総合ターミナル建設
埠頭:2基、埠頭全長:330m、浚渫:9万㎥、埋立:210 万㎡、
ヤード舗装:25 万㎡、アクセス道路:200m
【第3パッケージ】航路浚渫、ブイ設置
浚渫: 900 万㎥、航路ブイ: 43 基(航路全長 37.2km)
【第4パッケージ】荷役機械の調達
コンテナターミナル: コンテナクレーン4基、RTGs15 基、総
合ターミナル: 岸壁クレーン2基、ジブクレーン2基
【第5パッケージ】アクセス道路・橋梁建設(全長 8.3km)
【第6パッケージ】技術コンサルタントサービス
【関連工事】連絡道路 全長: 21.3km、幅員: 50m、設計速度: 工期 2009~15 年
70km/h
カットライ(Cat Lai) 【第7埠頭】総面積: 80 万㎡ (コンテナヤード 568,500 ㎡、 2007~09 年
港新港
倉庫 17,400 ㎡含む)、Cat Lai 港埠頭全長: 216m、第7埠
(ホーチミン)
頭全長: 36m、水深: 12m、入港可能船舶: 30,000DWT、取扱
貨物量: 35 万 TEU/年
Ben Nghe 港
(ホーチミン市)
第3期拡張プロジェクト
総面積: 32 万㎡ (うち、第3期予定分は9万㎡)、埠頭: 4
基、受入可能船舶: 36,000DWT
【第1期】埠頭 50%建設、
第1期 2006~10 年
【第2期】埠頭 50%建設、倉庫エリア建設
第2期 2011~12 年
【第1埠頭】全長 88m、水深 7.5m、入港可能船舶 5,000DWT
【第2埠頭】全長 265m、水深 9.5m、入港可能船舶: 20,000DWT
【第3埠頭】
全長 175m、水深 11.5m、入港可能船舶: 36,000DWT
【第4埠頭】
全長: 288m、
水深: 13m、入港可能船舶: 36,000DWT
バンフォン(Van
総面積:756 万㎡、大型埠頭:36 基、小型埠頭:6 基、埠頭全
Phong)国際中継港
長:11,880~12,590 ㎡ 009~20 年 4期分け
:クアンホア(Khanh 【第1期】総面積: 52 万㎡、埠頭: 2基、埠頭全長: 600~ 第1期 2009~10 年
Hoa)省
800m、入港可能船舶: 6,000~9,000TEU、アクセス道路、倉
庫・工場建設、インフラ整備
【第2期】総面積: 118~125 万㎡、埠頭:4基、積替え船舶 第2期 2010~15 年
用埠頭: 5基、埠頭全長: 1,680~2,260m、入港可能船舶:
9,000TEU、貨物取扱量: 105~210 万 TEU
【第3期】総面積: 405 万㎡、埠頭: 8基、積替え船舶用埠 第3期 2015~20 年
頭: 8基、埠頭全長: 4,450~5,710m、入港可能船
第4期 2020 年~
舶:12,000TEU、貨物取扱量: 400~450 万 TEU/年
合計:総面積: 405 万㎡、埠頭: 25 基、積替え船舶用埠頭: 12
基、埠頭全長: 4,450~5,710m、入港可能船舶:15,000TEU、
貨物取扱量: 1,450~1,700 万 TEU/年
クイニョン(Quy Nhon) 総面積: 45,000 ㎡ (拡張)、航路全長: 6.3km、航路幅:110m、
港:ビンドゥ(Binh
コンテナヤード: 8万㎡、浚渫工事 (水深 11m)、
Dinh)省
【第1期】貨物受入能力: 500 万 t/年
第1期 2008~10 年
第2期 2010~20 年
【第2期】入港可能船舶: 50,000DWT
ダナン(Da Nang)港 アップグレード
Son Tra 港新設 (第1期)
2009~13 年
Tien Sa 港拡張工事 (第2期)
2012~15 年
ブンアン(Vung Ang) 第2埠頭(完成): 水深 13m、埠頭全長: 260m、貨物ヤード: 2010 年運用開始
港:ハティン(Ha Tinh) 17,800 ㎡、倉庫: 10,000 ㎡
省
第3埠頭プロジェクト受入可能船舶: 45,000DWT 、取扱貨物 第3埠頭:未定
量: 86 万 t/年
ソンヅォン・フォルモ 総面積: 1,800ha、埠頭: 35 基 (3期)、入港可能船舶: 30,000 2011~14 年
サ(Son Duong
~300,000DWT、取扱貨物量: 3,000 万 t/年
(一部運用開始)
Formosa)港
*Formosa 鉄鋼開発プロジェクト内に含まれる。
:ハティン省
1-14
15
マイソイ(My Thuy) 総面積: 913 万㎡水深: 13m、 入港可能船舶: 40,000DWT
港:クァントリ(Quang 【第1期】開発面積 238 万㎡、防砂堤全長: 1,626m、 浚渫: 第1期 2011~15 年
Tri)省
110 万㎡、総合埠頭全長: 650m、 ロジスティックセンター: (予定)
53 万㎡、商業サービスエリア: 75 万㎡、火力発電所の一部
【第2期】総合港湾、ロジスティックセンター、石油港、火
力発電センター
16 ホンホイ(Nhon Hoi) 総面積: 120 万㎡
第1期 2010~12 年
第2期 2013~20 年
総合港
【第1期】開発面積 20 万㎡、埠頭:1基、入港可能船
:ビンディン(Binh
舶:30,000DWT、貨物取扱量:150 万 t/年 (コンテナ貨物 60%、 第3期 2021~25 年
Dinh)省
その他 40%のケース)、90 万 t/年 (一般貨物 100%のケース)
【第 2 期】埠頭: 3 基
【第 3 期】埠頭: 6 基
17 ブンロー(Vung Ro) 【第 1 期】埠頭全長: 160m、入港可能船舶: 1,500DWT (3隻 第1期 2010~12 年
港:プーエン(Phu Yen) 同時可)、貨物取扱量: 25 万 t/年
省
【第 2 期】埠頭を 50m 拡張、入港可能船舶: 5,000DWT、貨物 第2期 2012~15 年
取扱量: 100 万 t/年
(予定)
出典:インフラマップ JETRO_ハノイ 2011.03
3.2
2011 年-2015 年のベトナム港湾開発5ヵ年計画
ベトナムが 2010 年の工業国への脱皮を図るために、第 11 回全国代表大会で決定された 2011 年
-2015 年社会経済開発5カ年計画において、運輸セクターの役割が輸送システム及び主要都市の都
市インフラ整備に注力することが明確に定義されている。これによると、2011 年-2015 年の運輸セ
クターの役割は、貨物輸送能力強化のため、国際及び地域港湾施設の能力強化、南北間を結ぶ交通
システムの開発、都市交通システムの開発が挙げられている8。
前述のとおり、各地域の海運システムのみならず運輸システム全般にかかる能力強化・増大が求
められていることから、Vinamarine は他の運輸ネットワークの整備と調和の取れた港湾システム開
発計画を運輸省経由で首相府に提出し、当該開発計画は 2009 年 7 に月承認されている9。当該開発
計画は、今後必要となる港湾インフラ及び港湾施設の整備計画を示したもので、2030 年までを見据
え、2020 年までの整備目標を具体的に定めたものである。
以下に、開発計画の概略を示す。
(1)港湾施設の現状10
2008 年現在のベトナムの港は次のとおりである。
・大規模港(グレード-1)17 港、中規模港(グレード-2)23 港、小規模港(グレード-3)9港で
ある
・総延長 40,000m(1999 年の2倍)の約 350 バースが存在する
・国管理港湾へのアクセス水路は 35、そのほか専用港には 12 水路がある
・貨物取扱高は約2億 t(1999 年の 2.7 倍)であり、そのうちコンテナ取扱高は約 500 万
TEU(1999 年の 5.3 倍)である
・年平均伸び率は 13%である
8
9
10
ディンラサング交通大臣(党中央委員会メンバー)談話報道より、2011 年 8 月 28 日
首相府決定 5213/TTr- BGTVT 30/7/2009
調査結果と数値が一致しないものの、ここではベトナム政府から公表されているマスタープラン要約で使用され
ている数値をそのまま利用する。
1-15
ベトナム運輸省の指導の下、Vinamarine で 1999 年に作成されたベトナム港湾システム開発計
画(Masterplan)は、スコープ(開発地域、開発スケジュール、開発対象)及び海運輸送網計画の
特徴が見直され、首相府において決定された。以下に、概要をまとめる。
(2)背景
・海運戦略 2020 の制定(MOT が作成した、ベトナムにおける海運政策のヴィジョン)
・WTO 加盟による、ベトナム経済、とりわけ海運セクターにおける、世界市場への統合
・上記加盟前後の、ベトナム海運法(Law No. 40/2005/QH - 11)及び他の関連政令の施行
・2020 年を見据えた社会経済開発計画の改定に伴う、各セクターの役割の改定
・海運全般を含めた港湾システムは、経済開発エリアやインダストリアルパーク、沿岸都市部
の開発など産業開発、社会経済開発を促進すべき基本インフラであり、その重要性が増加し
ていること
・港湾システムは 自国の経済社会発展のため、貨物取扱・保管・積替の要求を満たすだけで
なく、国際経済統合の牽引役としても、その重要性が増加していること
(3)当面の課題
・統一性の欠如
・地域的なそして実行プロセスの包括性の欠如
・低品質と時代遅れの技術
(4)開発の概観
①近代化において包括的な開発
②海運と陸運の同期の取れた開発
③積替港、国際ゲートウェイ港、ハブ港、その他の港の能力強化、開発のプライオリティに沿
った投資(投資は調和を取り、効果的な運用・保守も具備しなければならない)
④大型船舶の港湾へのアクセス性確保
⑤港湾保有設備(リソース)の機動性の最大化
⑥港湾開発と環境との調和
(5)開発目的
さらに、この港湾開発政策では、次の5つの目標が示されている。
①世界市場で求められている、入出港船舶の貨物積載量(Cargo Volume)及び船舶サイズ(Cargo
Size)に対する要求を満足させること
②ベトナム国内で予測される貨物量は次のとおり、
2015 年:5~6億t/年
2020 年:9~11 億t/年
2030 年:16~21 億t/年
1-16
③これに対応した主要港湾の整備水準は次のとおり
開発対象港
バンフォン
ハイフォン、
ブンタウ、
中部経済開発地域
大規模港
大規模観光センター
表 1-10 主要港湾施設整備目標
対象港の機能
整備水準
コンテナ船国際積換港 コンテナ船容量 9,000~15,000TEU
国際ゲートウェイ港
船舶容量 80,000 ~ 100,000 DWT
コンテナ船容量 4,000 ~ 8,000
TEU
ハブ港
タンカー 300,000~400,000 DWT
鉱石運搬船 100,000~300,000 DWT
旅客専用バース
総t数 100,000 GRT
出典:ベトナム運輸省「港湾システム開発計画」に基づき調査団作成
④海運及び陸運を結合する物流センターの開発
⑤既存港湾設備の質的改善に必要な新技術の導入
(6)マスタープラン
・マスタープランには、各港湾の機能別区分が以下のように示されている。
‐ 国内一般港
国際積替港:ゲートウェイ港:バンフォン (クアンホア), ハイフォン、 ブンタウ
地域ハブ港:ホンガイ(Hon Gai) - クアンニン(Quang Ninh)、ギソン(Nghi Son)
-タンホア(Thanh Hoa)、ギアン(Nghe An)、ソンヅァン(Son Duong)、
ブンアン(Vung Ang)-ハティン(Ha Tinh)、ズゥンクアット(Dung
Quat)-クァンガイ(Quang Ngai)、クイニョン(Quy Nhon)- ビ
ンディン(Binh Dinh)、ニャチャン(Nha Trang)、バゴイ(Ba Ngoi)
- クァンホア(Khanh Hoa)、ホーチミン、ドンナイ(Dong Nai)及
びカントー(Can Tho)
‐ 地方港
‐ 専用港
・管理海域別区分
表 1-11 管理海域別港湾グループの区分
管理範囲、港湾
クアンニン~ニンビン(Ninh Binh)までの北部港湾群
タンホア~ハティンまでの中北部港湾群
クァンビン~クァンガイまでの中部中央港湾群
ビンディン~ ビンツァン(Binh Thuan)までの中南部港湾群
コンダオ(Con Dao)、ソイラップ(Soai Rap)川沿いの港湾群、
及びティエンギアン(Tien Giang)
グループ 6
プークオ(Phu Quoc)及び東南部島嶼群
出典:ベトナム運輸省「港湾システム開発計画」に基づき調査団作成
管理グループ
グループ 1
グループ 2
グループ 3
グループ 4
グループ 5
1-17
・アクセス水路の改良計画
重要水路は次のとおりである。
- ハイフォン 港アクセス水路
- ブンタウ(Vung Tau)港への及びチーバイ(Thi Vai)川アクセス水路
- ソイラップ(Soai Rap)川沿いのホーチミン港に至るアクセス水路
- カントー(Can Tho)港へのアクセス水路、等
・投資額及び資金ソース
・2020 年までの総投資額:360~440 兆 VND (170~210 億ドル)
・2030 年までの総投資額:810~990 兆 VND (390~480 億ドル)
・国家予算の支出割合:12% ~ 15% その他は民間企業等資金を活用
整備計画の詳細については「ANNEX-1 2030 年を考慮した 2020 年までの港湾システム整備マスタ
ープラン」を参照されたい。
1-18
第2章 調査方法
1.調査内容
航行監視システム導入の重要性を認識している Vinamarine(ベトナム海運総局)は、2009 年の
政府決定(No.1041/2009/QD-TTg)にあたり、北部カムファ、ハイフォン、カイラン、中部ダナンの
各港について VTS 導入に関わる技術調査を 2005 年に実施している。従い、本調査は、これらの予
備調査内容を踏襲しつつ、わが国海運・港湾関係機関に納入実績のある、VTS/AIS 及び環境 GIS
を基本にし、次の項目を中心に調査を実施する。
1.ベトナム経済動向及び運輸海運港湾制度政策の動向
(文献調査及び関係機関へのインタビューによる)
2.関係機関の現状施設・設備、航路・港湾維持管理運用の現状分析
(関係機関及び利用者へのインタビューによる情報収集を経て)
3.既存 GMDSS 保守運用状況の確認及び Vinamarine 予備調査内容の精査
(同上)
4.各主要な港湾での貨物量、船舶通行量の将来予測と課題の抽出
5.VTS、AIS 及び海洋環境 GIS の設備計画、保守運用計画
(カウンターパート機関との協議を踏まえつつ)
6.プロジェクト実施計画及び関連組織の実施能力の分析
(カウンターパート機関との協議を踏まえつつ)
7.財務経済分析(FIRR 及び EIRR の算出)及びフィージビリティの確認
8.環境・社会配慮分析(プロジェクト候補地の周辺環境の調査)
9.海洋事故及び海洋汚染調査(文献及び関係機関へのインタビュー)
10.不審船に関する現状調査
2-1
2.調査方法・体制
本調査の実施体制を図 2-1 に示す。
各メンバーの調査団における本調査における役割も図中に明記し、日本国内およびベトナム現
地における調査を担当した。
図 2-1 調査実施体制
出典:調査団作成
2-2
3.調査スケジュール
本調査の実施スケジュールの概略を表 2-1 に示す。
表 2-1 調査スケジュール
活動項目
2011 年
7月
8月
9月
2012 年
10 月
11 月
12 月
1月
2月
(国内作業)
①第一回国内作業
調査方法検討・現地調査準備
xx xxxxxxxx
x
②第二回国内検討作業
▲
国内関係機関への報告
xx
船舶航行量予測
実施工程・設備計画立案
xxxxxxx
保守運用方法検討
xxxxxxx
関連組織の実施能力の分析
xxxxxxx
xxx
報告書作成
xxxxxxxx xxxxx
報告書案(和・英)提出
▲
②第三回国内作業
xxx
報告書修正
最終報告書提出
▲
(現地作業)
①第一回現地調査
xxx
調査スコープ打合
xx
北部主要沿岸地域サーベイ
xxxx
xxxx
中部主要沿岸地域サーベイ
xxxx
南部主要沿岸地域サーベイ
xxxx
事業スコープ打合せ
xxxx
②第二回現地調査
xxxx
事業スコープ・報告書協議・合意
出典:調査団作成
2-3
xxx▲
本調査の主な訪問日程および調査訪問先を表 2-2 に示す。
表 2-2 訪問日程および調査訪問先
日付
訪問地
ハノイ
訪問先
1
2011 年9月 23 日
2
2011 年 10 月 27 日
ハイフォン
ベトナム船舶通信電子会社
3
2011 年 11 月2日
ハイフォン
ハイフォン港湾局
4
2011 年 11 月2日
ハイフォン
北部ベトナム海上保安会社
5
2011 年 11 月3日
ハイフォン
ベトナム国営船舶会社ハイフォン支社
6
2011 年 11 月3日
ハイフォン
Vinamarine ハイフォン支部
7
2011 年 11 月 14 日
ハノイ
ベトナム海上捜索及び救難コーディネーションセンター
8
2011 年 11 月 15 日
ハノイ
ハノイ国営船舶会社
9
2011 年 11 月 22 日
ホーチミン特別区
Vinamarine ホーチミン支部
10 2011 年 11 月 23 日
ホーチミン特別区
サイゴン新港会社
11 2011 年 11 月 23 日
ホーチミン特別区
サイゴン港会社
12 2011 年 11 月 24 日
ホーチミン特別区
ホーチミン港湾局
13 2011 年 11 月 25 日
ブンタウ
ブンタウ港湾局
14 2011 年 11 月 25 日
ブンタウ
南部ベトナム海上保安会社
15 2011 年 11 月 28 日
ダナン
ダナン港湾局
16 2011 年 11 月 28 日
ハノイ
天然資源環境省
17 2011 年 12 月1日
ハノイ
農業地方開発省水産庁
18 2011 年 12 月 8 日
ハノイ
Vinamarine
19 2012 年 1 月 10 日
ハノイ
Vinamarine
Vinamarine
出典:調査団作成
2-4
第3章 プロジェクトの内容及び技術的側面の検討
1.プロジェクトの背景・必要性等
ベトナムは、IMO が求める SOLAS 条約及び SAR 条約を履行するため、2000 年3月から 2007 年1
月にかけて、わが国円借款により主要港及び主要河川に遭難・安全通信システム (Global
Maritime Distress and Safety System: GMDSS)を整備してきたところである。この整備プロジ
ェクトに対して、2008 年に行われた、ベトナム・日本合同プロジェクト評価では、当該事業は高
い評価を得たものの、船舶自動識別システム(AIS)や船舶航行監視システム(VTS)等、前述国際
条約規定遵守の為の更なる能力強化が提言された。
一方、ベトナム経済は、1986 年 12 月のドイモイ政策採用以降一時期を除き、経済成長率で前
年比6~9%と高成長を続け、近年の WTO 加盟による経済のグローバル化がより一層の国内外貨
物量を増加させている。
また、ベトナムは、南北約 3,200km におよぶ海岸線、総延長 19 万 8 千 km に達する河川を保有
することから各地に港湾が分散し、貿易においても海上輸送によるものが 80%以上を占め、南北
間の国内貨物も大きく海運に依存している。
したがって、今後、想定される主要港湾の貨物取扱量の増大によって、下記のような課題に直
面することは必至であり、この対策は、ベトナム政府にとって喫緊のものとなっている。
・ベトナム近海及び主要河川における船舶の安全航行の確保
・港湾施設の効率的な運営等、海運能力の向上
・海難事故等による海洋汚染対策の強化
・増大する海上交通輸送による CO2 排出量の削減
このような状況に対処するため、2009 年7月 22 日、ベトナム政府は、海上交通の安全・効率
の向上等を目的とし、2010 年から 12 年にかけ輻輳港湾及び主要河川の航行監視システム等を整
備することを最重要項目として正式に決定した(首相府決定 No.1041/2009/QD-TTg)。
これらの経過を踏まえ、ベトナム現地において、港湾の運用管理及び港湾整備計画等に関する情
報収集及びヒアリング等の調査を実施した。また、次の観点から検討を行い、船舶航行監視のた
めのシステム整備計画及び運用保守計画を立案した。
1)船舶航行の安全確保
2)港湾管理運用の効率向上
3)港湾周辺の海洋環境保全対策
4)船舶航行時の CO2 排出削減規制
5)国内における港湾管理体制の一元化
本調査での業務の流れの概略を図 3.1-1 に示す。本章では、図中の項目1から4、9及び 10 に
ついて検討する。上記の5つの観点は、いずれも相互に関連しており、トレードオフの関係にあ
るものもある。したがって、全体を通した総合的な評価を行い、整備計画の立案を行った。
3-1
図 3.1-1 調査業務の概略の流れ
出典:調査団作成
また、本調査で対象とする航行監視システムは、前述のように国際海事機関が求める SOLAS 条
約及び SAR 条約において機能等が規定されているものであり、また、同様な機能を他の代替手段
では実現することができないものであり、VTS、AIS に代わる代替手段は存在しない。したがって、
設備計画にあたっては、代替手段の検討は行わない。
1.1 ベトナムにおける海運及び港湾政策の動向
ベトナムの港湾は、多くが河川域にあり、喫水が浅く、潮の干満の影響を大きく受けるため、
大型船は貨物を積み下ろしのためにはしけ(バージ船)を利用しているのが現状である。これは
海上輸送としては非常に効率がよくないことが以前から指摘されている。また、河川沿いにある
ことから、港湾の敷地が限られており、大規模なクレーン施設や倉庫群の導入には制約がある。
これらのことから、製造としては安価に抑えられても、高い輸送コストが加わり、本来、この地
域で持っている価格競争力が低減され、今後、先進国の工場誘致等を進めるためにも、当面の海
上運輸能力強化策として、また、国際ゲートウェイ港を重点として、大型船舶の横付けが可能な、
水深の深い港湾の開発を重点的に進める必要がある。
また、ベトナムの港湾の特殊性として、単なる係留設備からバース・ターミナル等の多様な港
湾までの多様な規模のものが、1つの「Cang」と呼ばれ、さらに、その管理が細かく分かれてい
ることにある。これらは、大きく分けると、国営港湾、地方港湾、専用港湾の3つに分類される。
国営港湾は、Vinamarine 及び VINALINE により、管理運営されている。地方港湾は、地方の組織
である省または人民委員会(その下の人民公社)により管理されている。そのほか、石油・石炭
等を扱う専用港湾があり、工業省の下部組織により管理されている。国全体の長期的な港湾整備
計画を立案する上で、このような港湾の特殊性は障害となっており、マスタープランにおいても、
国際ゲートウェイ港、地域のハブとなる港湾等、それぞれの港湾の位置づけを明確にして、整備
3-2
のプライオリティをつける等、これらの港湾を包括した政策的な取り組みを始めようとしている。
港湾に関する開発計画は、Vinamarine として運輸省経由で首相府に提出され、2009 年7月に
承認された。これによって、今後、必要となる港湾インフラ及び港湾施設については、2020
年までに整備を進めるものとしている。
具体的な港湾開発の方向としては、下記の6項目があげられている。
・近代化において包括的な開発
・海運と陸運の同期の取れた開発
・積替港、国際ゲートウェイ港、ハブ港、その他の港の能力強化、開発のプライオリティ
に沿った投資(投資は調和を取り、効果的な運用・保守も具備しなければならない)
・大型船舶の港湾へのアクセス性確保
・港湾保有設備(リソース)の機動性の最大化
・港湾開発と環境との調和
さらに、この港湾開発政策では、次の 5 つの目標が示されている。
1) 世界市場で求められている、入出港船舶の貨物積載量(Cargo Volume)及び船舶サイズ(Cargo
Size)に対する要求を満足させること
2) ベトナム国内で予測される貨物量は次のとおり、
2015 年:5~6億トン/年
2020 年:9~11 億トン/年
2030 年:16~21 億トン/年
3) これに対応した主要港湾の整備水準は、表 3.1-1 のとおり示されている。
表 3.1-1 主要港湾施設整備目標
開発対象港
対象港の機能
整備水準(積載量)
バンフォン
コンテナ船国際積換港
コンテナ船
ハイフォン、
国際ゲートウェイ港
船舶
ブンタウ
コンテナ船
9,000 ~ 15,000TEU
80,000 ~ 100,000 DWT
4,000 ~
8,000 TEU
中部経済開発地域
大規模港
ハブ港
タンカー
300,000 ~ 400,000 DWT
鉱石運搬船 100,000 ~ 300,000 DWT
大規模観光センター
旅客専用バース
総トン数
出典:MOT「港湾システム開発計画」に基づき調査団作成
4) 海運及び陸運を結合する物流センターの開発
5) 既存港湾設備の質的改善に必要な新技術の導入
3-3
100,000 GRT
本調査に基づき整備する事業は、上記の目標のうち、「④海運及び陸運を結合する物流センター
の開発」及び「⑤既存港湾設備の質的改善に必要な新技術の導入」に関連するものである。
また、マスタープランでは、各港湾が次のように機能別に区分されている。
A. 国内一般港
1)国際積替・ゲートウェイ港:
バンフォン(クアンホア)、 ハイフォン、 ブンタウ
2)地域ハブ港:
ホンガイ(Hon Gai)-クアンニン(Quang Ninh)、
ギソン(Nghi S n)-タンフォア(Thanh Hoa)、ゲアン(Nghe An)、
ソンヅァン(Son Duong)、
ブンアン(Vung Ang)- ハティン(Ha Tinh)、
ズゥンクアット(Dung Quat)-クァンガイ(Quang Ngai)、
クイニョン(Quy Nhon)– ビンディン(Binh Dinh)、 ニャチャン(Nha Trang)、
バゴイ(Ba Ngoi )- クァンフォア(Khanh Hoa)、 ホーチミン(Ho Chi Minh)、
ドンナイ(Dong Nai )、 カントー(Can Tho)
B. 地方港
C. 専用港
また、アクセス水路の改良計画として、以下の重要水路が示されている。
・ハイフォン港アクセス水路
・ブンタウ港への及びチーバイ(Thi Vai)川へのアクセス水路
・ソイラップ(Soai Rap)川沿いのホーチミン港に至るアクセス水路
・カントー港へのアクセス水路、等
ただし、これらの開発計画を進めるにあたり、下記の項目が当面の課題としてあげられている。
1) 統一性の欠如
2) 地域的な実行プロセスの包括性の欠如
3) 低品質と時代遅れの技術
マスタープランでは、これらの港湾整備に必要な投資額及び資金源として、次のように考え
られている。
・2020 年までの総投資額:360~440 兆 VND (170~210 億ドル)
・2030 年までの総投資額:810~990 兆 VND (390~480 億ドル)
・国家予算の支出割合:12~15% その他は民間企業等資金を活用
3-4
1.2 プロジェクトの対象セクターの概要
1.2.1 海事関連行政機関
(1)ベトナム運輸省(Ministry of Transport:MOT)
第 1 章で述べたように、ベトナムにおいては、国内の航空・陸上交通とともに内陸及び海
洋における水上交通に対する運輸行政は、運輸省(Ministry of Transport:MOT)にて行わ
れている。ここでは、首相決定に従った運輸交通に関わる開発の国家マスタープラン作成や
提言、マスタープランに基づいた地方政府への指導、運輸関連法令・規制・政策等の策定・
発効・監督、運輸全般に関わる各種国家基準・技術標準の作成とライセンスの発行、開発・
建設プロジェクトの認可等が行われる。ベトナムの運輸省の組織は図 3.1-2 に示す通りであ
る。
図 3.1-2 ベトナム運輸省
組織図
出典:ベトナム運輸省ホームページに基づき調査団にて作成
3-5
ベトナム近海及び主要河川での船舶航行については、運輸省の外庁である、Vinamarine の管轄
となる。
(2)ベトナム海運総局(Vietnam National Maritime Bureau:Vinamarine)
Vinamarine は、1992 年に設立された組織で、ベトナムの海事を司る国家機関である。全て
の国営の海運組織(中央当局及び地方当局の両方に属す)や、非国営の海事関連企業、組織及
び個人(ベトナムの領土で活動する外国組織や個人も含まれる)を含め、全国の海運部門を管
轄する。
船舶管理、港湾管理、海運サービス、船員教育等の業務を管理し、その傘下に、多くの海
事関連の特殊法人や国有企業を抱えている。
Vinamarine の役割は下記のとおり。
・外国籍船及びボートのベトナム領海許可の発行
・航行用に開放された港の発表
・海事サービスの管理
・探索救難活動の実施
・港湾状況管理手続きの実行
・海事安全問題への対応
・海運活動における違法行為の調査、解決
Vinamarine の組織図を図 3.1-3 に示す。
本プロジェクトの整備を進めるにあたって、下記に示す機関が Vinamarine 内で関連する主
要部署と考えられる。
・各港湾局
・計画・財務部
(海上交通政策全般の計画投資)
・海上安全保安部 (海上交通全般の安全・保全施策立案)
・国際協力部 (海上交通全般の国際協力窓口)
・海事支部(ベトナム北部、中部及び南部の海事行政を担当する支局)
・ベトナム海上捜索・救難コーディネーションセンター (救難活動で関連機関と調整を行う)
3-6
図 3.1-3
Vinamarine 組織図
出典:Vinamarine ホームページにより調査団にて作成
3-7
次に、Vinamarine の管轄下にある主要な部署・部局及び Vinamarine 外部の関連する機関につ
いて、以下に概略の業務内容等をまとめる。
(3)港湾局(Maritime Administration:MA)
ベトナム国内 25 箇所に港湾局があり、各地域の海域での海事管理を行っている。港湾局は
ベトナムの海事規約第 58 条に「港湾水域と地域の航海可能な海域において海事管理業務を行
う専門の政府機関を港湾局と呼ぶ」と明記されている通り、国家の海事管理機関の一部であ
る。
海の安全管理のための点検や海運に派生する死傷者及び事故を調査する際には、港湾局は
Vinamarine から援助やアドバイスを求めることになっている。これは、港湾局が特に船を拘
留する場合等に慎重な行動を取るためである。また、各地域の港湾は、下記の6グループに
分けて管理する方針が港湾整備マスタープランで示されている。
表 3.1-2 港湾管理海域別港湾グループの区分
管理グループ
管理範囲、港湾
グループ 1
クアンニン~ニンビン(Ninh Binh)までの北部港湾群
グループ 2
タンホア~ハティンまでの中北部港湾群
グループ 3
クァンビン~クァンガイまでの中部中央港湾群
グループ 4
ビンディン~ ビンツァン(Binh Thuan)までの中南部港湾群
グループ 5
コンダオ(Con Dao)、ソイラップ(Soai Rap)川沿いの港湾群、
及びティエンギアン(Tien Giang)
グループ 6
プークオ(Phu Quoc)及び東南部島嶼群
出典:ベトナム MOT「港湾システム開発計画」に基づき調査団作成
(4)ベトナム海上保安庁(Vietnam Maritime Safety Agency:VMS)
1975 年に設立され、ベトナムにおける海上保安を司る。1995 年の機構改革により、従来か
らのナビゲーションサービスのみならず、捜索や救出、船の安全、海事環境と水路の保護等
の新たなサービスに関しても責任を有することとなった。また同庁は、国内の灯台及び灯標
システムの整備点検を行う。
航路標識や水路に関わる管理業務(水路の測量・浚渫等を含む)は、これまで Vinamarine
の内部部局である VMS で担当していたが、2010 年に北部海上保安会社と南部海上保安会社の
2つの民間会社に組織変更された。本調査では、これらの会社についてもヒアリングを実施
した。
(5)ベトナム海上保安検査官(Vietnam Maritime Safety Inspectorate:VMSI)
1992 年 12 月 28 日付の首相決定書(Decision No.204/TTg)に基づき設立された。この決
定書により VMSI には以下の権限が付与される。
・ベトナムで活動するベトナム籍船及び外国籍船に効力のある全ての海事規約と国際協定の
遵守を監視する。
・外航船、その積荷及び機器、港湾設備、海上航海やその他の関連の装置を点検する。
・港湾当局に事故の原因を調査するよう命令する。
3-8
・海の安全と環境保護のために、Vinamarine に施策を提案する。
・港湾局の活動、水先案内、及び捜索救難における安全基準の遵守を監視する。
・海の安全と環境保護に関する知識の普及を促進する。
(6)ベトナム海上捜索及び救難コーディネーションセンター(Vietnam Maritime Search and
Rescue Co-ordination Center:VMRCC)
Vinamarine の管轄下にある 1996 年に設立された組織で、ベトナム海事産業に属する部隊
や部署に対し、海における捜索及び救援活動を直接命令するほか、捜索救援活動において、
国内外の各関係機関との調整・支援を行っている。
(7)ベトナム船舶通信電子会社(Vietnam Ship Communication and Electronic Company:
VISHIPPEL)
現在は民営化されているが、以前は Vinamarine の管轄下にあった。2期にわたる GMDSS の
整備に伴い、5つの沿岸放送局と2つの国営放送局を含む通信システムの運用、維持を担っ
ている。これら7つの放送局は1日 24 時間、捜索や救出、医療扶助、海の天気予報、商用サ
ービスに備えて待機している。本調査では、現状の業務等についてヒアリングするとともに
報告会の場等で、事業内容を説明し、意見聴取を行った。
(8)ベトナム内陸水路管理総局(Vietnam Inland Waterway Administration:VIWA)
河川や湖、運河、島嶼との間を結ぶ水路(これらを含め、内陸水路とする)がベトナム全
土に多数、存在する。この水路での水運、及びこの水路に付随する比較的小規模な河川港の
管轄は、同じ運輸省の外庁である、ベトナム内陸水路管理総局で行われている。
その他、海上活動に関しては、漁船等の管理も関係するが、農業地方開発省(Ministry of
Agriculture and Rural Development :MARD)の管轄下にある。
また、港湾を管理する公社や民間業者の加盟する組織としてベトナム港湾協会があり、毎年一
度の総会では、各港湾の貨物取扱量や港湾政策動向の報告が行われている。
1.2.2 プロジェクトの対象サービスの定義
本プロジェクトで整備する船舶航行監視システムは、VTS、AIS を基本的な構成要素とするが、
これらは、下記の項目を対象サービスとして想定し、必要な管理者及び利用者に対してサービス
を行うものとする。
航行安全に関する各種情報を提供する航行支援システムとして、AIS は、SOLAS 条約の改正を経
て 2002 年7月1日から段階的に船舶への導入が図られ、各国において AIS 陸上局の整備や AIS ネ
ットワークの構築が進められつつある。このような AIS を活用することによって可能となるサー
ビスとしては、これまで下記ような項目があげられている。
3-9
(1)VTS によるサービス
VTSによって可能となるサービス(業務)は、IMO 総会決議A.857(20)で規定されるとおり、
船舶航行管理業務に関するものであり、この中で「ガイドライン」として示されている。
VTS 業務は;
a. 情報提供業務
b. 航行支援業務
c. 通航編成業務
に分けられ、これらは、航行の安全と効率を図り、海上における人命の安全を確保するため
のものである。さらに、海洋環境上、貴重な保護区等や隣接沿岸域・作業現場・沖合施設等に
対して、船舶航行により重大な影響が生じる可能性がある水域を保護することも目的として示
されている。
以下、これらの3つのサービスについて概略を示す。
a. 情報提供業務:一定の時刻に一定の間隔で、または、VTS運用者側で、随時必要と考えら
れた時、あるいは、船舶からの要求によって、担当する水域に対して広く放送の形で情報
提供する。
b. 航行支援業務: 困難な航行状況または気象状況にある時に、特に重要であり、通常、船舶
から要求があった時に、またはVTS運用者側で随時必要と考えられた時に、実施する。
c. 通航編成業務:港湾管理者等が、入出港船舶または水路を航行する船舶について、運航管
理や船舶の動静の計画を把握し、輻輳状態と危険な状況とを予防する。特に、航行が輻輳
している時間帯、または、危険物等、特殊な輸送が行われ、他の船舶の流れに影響を及ぼ
す可能性がある時等に、重要な業務となる。
(2)AIS のサービス
AIS で可能となるサービスには、次のものがある。
a. VTS の運用における AIS の活用:例えば、AIS 非搭載船に関する情報、あるいは VTS での
み捕捉できた船舶に関する情報を、AIS 経由で提供する。
b. GNSS 補正値情報の提供
c. 強制船位通報制度における自動通報
d. 捜索救助活動:海・空合同捜索救助活動での活用。遭難船の位置が周囲の船の AIS に表示
されることで捜索救助活動を容易にする。
e. 航路標識:灯浮標に AIS を装備し、位置、灯質、海・潮流、気象、視界に関する情報を提
供する。
f. 港湾管理での利用:船舶の動静情報を入手することにより、精度の高い入出港管理を行う
ことができる。港湾施設の管理や国際的な海運情報に関するシステムにも活用することが
できる。
3-10
また、提供される情報としては、今後、整備段階で具体的に検討されるものとするが、次
のような情報が考えられる。
a) 事故情報
b) 船舶気象通報
c) 走錨、荷崩れ注意報
d) 海上風警報等
e) 灯台、灯浮標等の異常
f) 工事、作業情報
g) 船舶交通の制限情報
h) 航路障害物情報
i) 避難勧告情報
j) 津波警報・注意報
k) 乗揚防止情報
l) 走錨情報
m) 衝突防止情報
n) 海難現場情報
o) AIS適正運用指導
AIS は、航行安全確保の判断の助けとして活用することができるが、船舶に関する情報の
収集手段の一つでしかなく、VTS の支援にはなるが、これを代替するものではない。
したがって、両者は補完的に使われるものと考えられる。特に、港湾管理においては、VTS
及び AIS を総合的な情報システムとすることにより、精度の高い入出港・貨物積み下ろし等
のスケジュールを立てることでき、これに基づいて各種港湾施設利用や港湾関連サービス提
供の管理を適切に行うことができる。このように、VTS/AIS による情報は、船舶航行の安全
確保する上で必要なものであり、さらに総合的な港湾管理システムとして活用されることに
より、港湾の効率的な運用を図ることができるものである。
1.2.3 受益者層の定義
本プロジェクトで整備する船舶航行監視システムは、上記サービスによる受益者を次のように
想定する。
港湾管理者、航路管理者、航行船舶、海上保安機関、輸送業者、船主、荷主等。
1.2.4 代替手段の不在の宣言
国際海事機関が求める SOLAS 条約(海上における人命の安全のための条約)及び SAR 条約(海
上捜索救助に関する条約)においては、GMDSS、VTS、AIS 等が規定されており、これに代わる代
替手段は存在しない。したがって、国際基準に準拠した港湾整備を行うためには、既設 GMDSS を
含め VTS、AIS を整備する必要がある。
3-11
1.3 関係機関の現状及び課題について
これまでに述べた海上船舶航行に関わる部署において、航行の安全、港湾の管理運用の効率
及び海洋環境の観点から、現地での収集したデータ等に基づき、どのような状況にあるかを以下
にまとめた。
(1)船舶航行の安全
Vinamarine のうち海難救助を担当する部署である「ハイフォン救難調整センター(Vietnam
Maritime Search and Rescue Co-ordinate Center:VMRCC)」に対して、ヒアリング調査を行
い、救難活動及び海難事故件数に関する資料を収集した。これらのデータを ANNEX-6に添付
する。
ここでは、ベトナム沿岸での海難事故の過去5年間(2006 年から 2010 年まで)の統計デ
ータを表 3.1-3 に示す。この表の下欄に、東南アジア海事専門家会議資料(1996 年から 2000
年の海難事故件数)を比較のため、付加した。これらの事故件数の5年間平均を左欄に示し、
10 年間の変化を示す。
その結果として、1996 年から 2000 年までの海難事故としては 101 件だったものが、2006
年から 2010 年では、約 1.4 倍の 143 件の事故が発生している。これらは、いずれも GMDSS の
整備後であり、救難体制及びそれに伴う海難事故の統計データも十分揃うようになった時点
のものであり、さらに軽微なものを除いた重大事故に限定しているので、同一条件での比較
である。
したがって、この発生事故件数は、海上輸送及び水産業等の経済活動の発展とも関係して、
増加傾向にあり、今後の計画されている港湾整備によって、航行する船舶の隻数・頻度がさ
らに増すにつれ、海上交通の危険度も増大するものと思われる。このような点から、船舶航
行の危険性を軽減し安全を確保する設備の導入は、喫緊の課題である。
3-12
表 3.1-3
ベトナム領海・ベトナム国籍船が関与した海難事故統計
1996-2000 年
2006-2010 年
1996 年
115 件
2006 年
113 件
1997 年
87 件
2007 年
173 件
1998 年
68 件
2008 年
128 件
1999 年
117 件
2009 年
128 件
2000 年
120 件
2010 年
171 件
1996-2000 年間の
平均事故数
101 件
2006-2010 年間の
平均事故数
143 件
出典:1996-2000 年データ:東南アジア海事専門家会議資料及び VMRCC にて
入手した資料に基づき調査団作成
VMRCC として、2010 年に救難信号を受信し、実際に海難事故として出動した件数及び対象
船種を、VMRCC の管轄区分(北部・中部・南部)毎に図 3.1-4 に示す。
図 3.1-4 出動した件数比率と対象船種
出典:VMRCC データに基づき調査団作成
3-13
これによれば、各 VMRCC で担当した海難事故件数を地域的に見れば、南部が 50%近くを占
め、北部、中部が 25%程度である。このうち、南部では漁船の事故が多く、北部では貨物船
の事故が多くを占めている。
また、ベトナムの沿岸(50NM 以内)に限定し、2010 年に救難信号を受信した件数を、地域
毎、対象船種毎に分けて、その比率を図 3.1-5 に示す。海難事故の発生場所は、沿岸の海域
に限定しても、一括して受信している全国 RCC を別にすれば、3 地域の比率は図 3.1-4 と同
様の傾向にあり、いずれの地域でも貨物船からの海難信号が相当数あることを示す。
図 3.1-5 沿岸 50NM 以内での地域別・対象船種別の海難信号受信件数
出典:VMRCC データに基づき調査団作成
一方、船舶の航行安全確保の対象としては、海難事故への対応もあるが、航路上または沿
岸域での海賊行為も航行上の課題とされている。このような課題に対応するには、別途、整
備対象とする海域の範囲の拡大や取り締まり等の監視強化等が必要である。ここでは、現状
を示すものとして、参考までに過去5年間のベトナムを含む ASEAN 海域において発生した海
賊行為の件数を示す。
3-14
表 3.1-4 最近5年間のアセアン海域における海賊行為発生(未遂を含む)件数の推移
(単位:件)
海 域
インドネシア
マラッカ海峡
マレーシア
フィリピン
シンガポール海峡
タイ
南シナ海
ベトナム
2006
2007
2008
2009
2010
43
7
9
6
3
2
3
5
78
28
2
10
7
6
合計
50
11
10
6
5
1
1
3
87
11
64
15
2
16
1
9
1
13
9
66
40
2
18
5
3
2
31
12
113
ベトナム海域の比率(%)
3.4
6.4
17.2
13.6
10.6
出典:国際海事局(IMB)海賊通報センター(Piracy Reporting Centre: PRC)による
「海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する2010年・年次報告書」をもとに調査
団にて作成
発生件数でみた場合、ベトナム海域において、この数年は約10件の海賊行為の発生が続き、
アセアン各国との比較でも、海域全体のうち10%台がこの海域で発生しており、別途、監視
や取締り等の対策が必要とされるものである。
(2)港湾の効率性向上
本章の 1.1 に述べたように、ベトナムの港湾は河川域にあることから、喫水が浅く、潮の
干満の影響を大きく受ける。これは、大型船も積み下ろしのためにはしけを利用する場合も
あるが、それ以外には水深の深くなる満潮を待って、より上流部までさかのぼり、積み下ろ
しをするという現状もある。したがって、港湾の運用としては、港湾側の受け入れ体制の未
整備ほかにも、このような自然条件によって航行が制限されていることもある。このため、
船舶は沖待ちを余儀なくされ、満潮を待って、一斉に遡上することもあり、船舶の寄港隻数
であらわれる統計数字以上に、実際の港湾内航路の混み具合は高くなっている可能性がある。
さらに、夜間の大潮等の満潮時にも、港湾内及び河川沿いを航行する、このような船舶の
動向を監視する必要もあることが、本調査のヒアリングにおいて港湾局から出されている。
また、今後、整備される大規模港湾にしても、浚渫によって造成される港であり、港湾へ
の出入港にあたって、船舶は、浚渫された水路を厳密にたどることが要求される。
港湾活動の効率化のためには、このような進入ルート上の船舶に対して、的確等バイスを
行い、安全を確保するとともに、迅速に積み下ろしできるようにする必要がある。
浚渫港であるため、通常の港湾以上に、気象や海洋水象等の状況を監視し、これらの変化
等に対して配慮することが必要である。特に北部の港湾においては、季節的に発生する霧等
により見通しが制約され、衝突事故危険性が増加するとされている。
(出典:ハロン湾におけ
る海上安全管理に関するセミナー会議資料、2005 年)
このような気象及び海象の現象は、局所的かつ時間でも大きく変動するものであり、港湾
によっては、今後の整備の一環として、これらの観測データも迅速に入手することが望まれ
る。
3-15
(3)海洋環境保護・保全・規制等の現状
ベトナムにおいては、海洋での環境保護等を目的とした規制区域が多数指定されている。
これらは、ユネスコ関連の条約、ラムサール条約、IMO 関連の MARPOL 条約等に基づくもので
あり、一部、批准していないものがあるものの、これらの環境を考慮した国際的な保全・規
制の動きはさらに高まると考えられる。
ANNEX-5-2 にベトナムで指定されている規制区域全体のリストを示す。ここでは海洋環境
に関して指定された規制区域を種別毎に表 3.1-5 にまとめる。
特に、近年、沿岸諸国で「特別敏感海域(Particularly SensitiveSea Area:PSSA)」検討
の動きもあり、このような海域を抱える国では、海洋環境保護のため、船舶航行等に対して、
航行規制及び船舶の動静の常時把握による予防的措置が求められている。
表 3.1-5 海洋環境に関して指定された規制区域
種
別
世界遺産(National Heritage)
箇所数
地
域
1
ハロン湾
カンジオマングローブ、カトバ島、キエンジャン
生物圏保護区
6
海岸線、クラオチャン、カンマオ海岸線、西部ゲ
(Bio sphere Reserve)
アン
世界湾景観(World Beautiful Bay)
3
ハロン、ランコ、ニャチャン
カットバ、コンダオ、バイトゥロン、プゥコシ、
国立公園(National Park)
7
シュアンサイ、ヌイチュアムイコウマウ
自然保護区
4
ティエンハイ、ホンムン、クオラオチャン、ラン
トラオ
ダオトラン、コト、カットバ、バチロンビ、ホン
メ、コンコ、ハイバンドントラ、クラオチャン、
海洋保護区(MarineProtect Area)
16
リソン、ホンムン、ホンカウ、プクィ、ニチャ、
コンダオ、ナムイェト、プクォシ
出典:ベトナム科学技術アカデミー35 周年記念会議講演内容から調査団作成
また、北部の港湾においては、世界遺産であるハロン湾をかかえた位置関係にあり、港湾
整備後の船舶航行の監視も、この環境保全面からみても重要とされる。
現在、
「New 7 Wonders」の候補としても注目され、船舶の事故等による油流出が発生した
場合は、周辺環境に甚大な影響を与えるとともに、ベトナムにおける重要な観光資源への旅
行客の減少にもつながり経済的なマイナス要因にもなりうる。特にハロン湾では、河川水路
は内陸水路管理総局(VIWA)の管理となり、河川の標識規則に従っている。
海上航路は Vinamarine の管理で、海上の標識規則に従うことになり、これらの規則が異な
ることも指摘されている。
(出典:ハロン湾における海上安全管理に関するセミナー会議資料、
2005 年)
さらに、カットバー(Cat Bar)諸島についてもジオパーク(GeoPark)や世界遺産への制定
の動きがあり、この周辺のハイフォン港については、一層、海洋環境に配慮し、航行の安全
等を確保する必要がある。
3-16
ベトナムの海難事故では油流出を伴うことが多く、また原油を生産していることから油流
出事故への関心が高く、ベトナムは、タイ・カンボジアとの協力体制を確立している。国内
には、ハイフォン、ダナン及びブンタウの3カ所に油流出事故対応センターがある。これら
の施設では、人材・資機材を配置し、さらに、油を取り扱う港にはセンターの出先機関が置
かれている。現在、同センターのうちハイフォンとダナンは国防省直轄で、ブンタウは石油
会社が管理しているが、将来は全てのセンターを VINASARCOM が管理することになる。以下、
平成 15 年の「東南アジア海事専門家会議調査報告」に基づいて、これらの状況をまとめる。
ベトナムの領海で発生した、あるいはベトナム国籍船が関与した海洋汚染を次表 3.1-6 に
示す。
表 3.1-6 ベトナム領海・ベトナム国籍船が関与した海洋汚染
日付
位置
流出油
流出量(トン)
1989 年 8月 10 日
クイニョン
燃料油
200
1992 年 11 月 26 日
バクホー
原油
700
1993 年 9月 20 日
ブンタウ
燃料及びディーゼル油
200
1994 年 5月 8日
サイゴン
燃料油
130
1994 年 10 月 3日
カットライ
ディーゼル油
1,850
1996 年 1月 27 日
カットライ
ディーゼル油
72
1998 年 8月 16 日
ニャーベ
ディーゼル油
180
2001 年
ガンライ
燃料油
900
出典:平成 15 年東南アジア海事専門家会議調査報告
この 10 年(1989 から 1998 年)で、数百トン程度の流出が6回、千トンを超える流出が1
回発生しており、今後、船舶の大型化、危険物運搬船の増加に伴い、座礁や衝突事故等の可
能性が高まり、発生時の迅速な対応とともに、常にこれらの船舶の動向の確保や危険物搭載
等の船舶情報の把握が、必要とされている。
(4)CO2 削減対策と船舶航行管理
国際海運の世界的な動向として、国際海事機関(IMO)で採択された条約の中で船舶に関す
る CO2 排出規制の導入について改正があり、これに基づいて CO2 排出量の抑制対策が、2013
年1月から義務付けされるものである。以下に、この概要をまとめる。(出典:平成 23 年7
月 19 日国土交通省プレスリリース記事「第 62 回海洋環境保護委員会 (MEPC62)において
採択された条約改定内容」)。
・CO2 排出規制の導入改正の背景:
今回の改正の背景として、次の2つがあげられている。
①国際的枠組みの確立:
国境を越えて活動する国際海運は、国毎の排出量割り当ての仕組みに馴染まないため、
京都議定書の対象外となっている。このため、同議定書第2条第2項では、IMO におい
3-17
て、CO2 排出量の抑制対策を検討することとされている。国際海運から排出される CO2 は、
2007 年で約 8.7 億トン(世界全体の排出量の約 3%。ドイツ一国分に相当)だが、発展
途上国等の海上貿易量の増加に伴い、将来的に大幅に増加していくことが予想されてお
り、CO2 排出抑制の国際的枠組みの確立が急務となっている。
②日本主導による条約案づくり:
世界有数の海運・造船国として日本は、2008 年以降、多数の提案文書を提出する等、IMO
における国際海運からの CO2 排出抑制対策の審議を主導してきており、今回の改正案も、
日本提案がベースとなって作成された。
・条約改正の骨子:
今回の改正の骨子としては、以下の2つの対策が、2013 年1月から義務付けられること
である。
①2013 年以降に建造される船舶に対する船舶の CO2 排出指標「エネルギー効率設計指
標」:EEDI の導入と、これに基づく CO2 排出規制の実施
②省エネ運航計画(「船舶エネルギー効率管理計画」:SEEMP)の作成の義務付け
・条約の効果:
この条約の効果としては、
「期待される CO2 排出量削減効果」が挙げられ、これは、
「2013
年以降、新たに建造される船舶は、船舶の種類毎に設定された CO2 排出基準を満たすこと
が要求され、当該基準は、段階的に強化されるため、将来的に、船舶は燃費性能の優れた
ものに順次入れ替わることとなる」とされている。また、
「現在運航中の船舶も、省エネ運
航計画の作成が義務付けられ、運航効率の向上等に取組むことになる」ことも効果として
あげられ、
「こうした対策により、何らの対策も講じない場合に比べて 2030 年には約 20%、
2050 年には約 35%の CO2 排出量削減が期待される」と、日本における「条約改定内容のプ
レスリリース」で述べられている。
・今後の対策:
IMO では、今回の規制を上回る船舶のエネルギー効率改善をさらに促進するため、燃料
油課金制度や排出量取引(ETS)等の経済的な枠組みの審議を行っている。さらに、燃料油
課金制度をベースとして、船舶の効率改善に一層のインセンティブを与える制度(規制値
から更に CO2 排出の少ない船舶には燃料油課金を減免する制度)等が提案されている。
これらの動向等も考慮し、環境面でも寄与できるよう、迅速な入出港手続きや最適航路選
択等への活用も考慮し、航路・海洋情報の提供等も本プロジェクトの中で整備することも考
えられる。したがって、船舶航行監視・安全管理能力の強化を図るとともに、環境面におけ
る取り組みも重視し、このような観点での検討も含んだ提案を行うものとする。
3-18
(5)ベトナムにおける港湾管理のあり方
本プロジェクトの施設整備により、港湾局を主体とした、船舶及び港湾に関する情報提供
及び情報交換が、港湾局間及び港湾管理者、関係機関等と、常時行うことが可能となる。こ
れによって、これまで進められてきた港湾整備自体が、Vinamarine を軸とした、港湾の管理
運用面への寄与をできる体制が実現される。これにより、国策としての港湾整備に対する一
元的な取り組みをサポートするものとあり、この意義も大きいと考えられる。
これらの5つ観点は、これまで個別の港湾整備が進められてきており、現状の運用にとっては
まだそれほど大きく取り上げられていないが、今後、進められる港湾整備により、入出港隻数の
増加、航路上のトラフィックの増大とともに、ますます顕在化してくるものと考えられる。
したがって、船舶航行を監視し、安全の確保を図るとともに、これらの観点から見て、今後、
海運の進展等に伴って顕在化する事態を想定し、マイナス面の影響を緩和できるような対策等も
含め、本システムの整備の中で把握しておくことが重要である。したがって、本調査検討では、
ベトナム国で進められる港湾整備の各段階に同期して、「安全監視のための港湾計画」を提案し、
その導入により、ページ 12-18 から述べた上記の5つの観点から課題として考えられる事項の解
決も図られるものとする。
1.4
既設 GMDSS の設備状況と運用
GMDSS の目的は、海難事故発生の場合に最小限の時間で陸上の救助調整センター(Rescue
Coordinate Centers:RCC)や遭難船舶付近の船舶が捜索救助作業できるように、RCC や船舶が遭
難警報を迅速に受信できることである。このシステムは、遭難、緊急、安全通信のほか、海上安
全情報(航行警報、気象警報等)も提供できる。すなわち、すべての船舶が航行中、船舶自身の
安全と同一海域の他船の安全のために、必要な通信を確保するものである。
ベトナムにおける沿岸無線局の概略は、国内海運の果たす役割は年々増大し、港湾に寄港する
船舶数の大幅な増加が予想され、海上交通の安全確保を早急に行う必要があった、ということで
ある。一方、IMO(国際海事機関)によって提唱された GMDSS は、ベトナムにおいてもこれに対応
すべく沿岸無線設備、衛星通信設備の構築が策定され、ベトナム政府が円借款により建設した。
さらに、新しいシステムを整備、運用するにあたり、人材育成として、運用・保守の方法と捜索
救助体制の見直しも含め指導がなされてきた。しかし、十分な無線設備を装備せずに沖合まで出
る漁船や、人為的な操作ミス等による遭難情報の誤発射に関する問題意識の欠如、捜索救助体制
の未整備状況等、多くの課題を残している。
以下、「GMDSS 合同評価報告書」のうち「概要・機器構成」の部分を要約すると;
(1)既存システム(GMDSS)のシステム構成
1) 1級局(NAVTEX13、MF、HF、VHF)
:1局(ホーチミン)
2) 2級局(MF、HF、VHF): 2局( ブンタウ、ニャチャン)
3) 3級局(MF、HF、VHF): 3局( キエンザン、カントー、クイニョン)
4) 4級局(無人局)(VHF):12局(バクリュウ、カムラン、コンダオ、ズゥンクアット、
3-19
ハティエン、リーソン、ナムカン、ファンティエット、
フークオック、フークイ、クアンガイ、トチュー)
局変更により、最終的には、フークイはファンランに変
更、クアンガイはフーイエンに変更となっている
5) LUT14/MCC15:ハイフォン
上記構成での略号は、それぞれLUT(地上受信局)、MCC(業務管理センター)、NAVTEX(航行
警報テレックス)、MF(中波)、HF(短波)、VHF(超短波)の各通信施設を示す。
(2)既存システム(GMDSS)のカバーする海域と導入効果
既存GMDSSでカバーする海域は、以下の3つに大きく区分される。
A1 海域:デジタル選択呼出し(Ch.70/156.525 MHz)の警報を継続して利用が可能な1局以上
のVHF沿岸無線局の通信区域である。通常は、海岸局から20~30 NM(37~56km)までの範囲と
なる。
A2 海域:デジタル選択呼出し(2187.5 kHz)の警報を継続して利用が可能な1局以上のMF沿
岸無線の通信区域である(A1海域を除く)。計画立案においては沿岸から100NM(190 km)以内
のA1指定海域を除く範囲とされるが、実際は沿岸から約400 NM(740 km)の範囲まで通信が可
能である。
A3海域:警報を継続して利用が可能なインマルサット静止衛星の通信区域である(A1海域及
びA2 海域を除く)。北緯76 度から南緯76 度までのA1、A2 指定海域を除く範囲である。
前述の設備導入により、概ね計画通りの効果が得られたとされ、この詳細については導入後に
実施された「合同評価報告書」で以下のように報告されている。
1)国際条約への対応
本事業のアウトプットとして、①ベトナム南部におけるGMDSS 用無線局の設置、②地上受信
局(LUT)及び業務管理センター(MCC)の設置、を達成したことにより、ベトナムはSOLAS条約
の規定及びSAR 条約の規則を遵守することが可能となった。また、
(北部)沿岸無線整備事業(フ
ェーズI)のアウトプットとしては、③ベトナム北部におけるGMDSS 用無線局の設置、④衛星通
信施設の設置があった。
2)通信エリアの拡大
ベトナム北部を対象にしたフェーズIに加えて本事業が完成したことにより、A117、A218、A319
の全海域において無線通信及び衛星通信が利用できるようになった。事業完成後、本事業施設
の運用を担当するベトナム船舶通信公社(VISHIPEL)では、外洋(ほぼすべての海域)の大型
船舶ならびに沿岸(気象条件により沿岸100 ㎞から200㎞程度)の小型船舶(漁船)と通信が可
能となった。
3-20
3)通信量の増加
事業完成後、ベトナム沿岸無線通信システムを利用した通信回数は年々増加している。
VISHIPEL が提供する航行警報、捜索救難情報、気象予報、天気予報等の情報の量は2003 年か
ら2007 年の間でほぼ倍増した。
この調査では、①本事業により国内外からの投資にとって良好な環境が整備され、また海運事
業の有効活用にもつながった、②漁船も今までよりも遠方に出て操業できるようになり、市場や
有望な漁場に関する情報が入手しやすくなった、③沿岸無線通信能力が向上し、船舶・漁船の安
全保安状況が改善したことは、海運・漁業の発展に寄与した等の意見が抽出された。本事業は、
漁業振興に対してかなりの貢献をしていると思われる。さらに、沿岸通信システムの整備は、船
と陸(家族や事業所等)の通信にも多く活用されている、との報告がある。
このような海上交通の安全性向上に関する設備が導入されたものの、関係者からはいくつかの
課題・問題点が指摘されている。具体的には、
(a)漁船の通信能力不足(必要な通信設備を装備
していない漁船が多い)
、
(b)船舶の種類の違いを超えた通信プロトコルの統一が困難なこと、
(c)
VMRCC の救助設備、人材能力の限界、(d)既存の捜索救難システムの調整能力の限界等である。
上記(a)と(b)はベトナムだけでなく、先進国にとっても非常に難しい課題である。一方、
組織や制度的能力に関係する(c)と(d)に関しては、GMDSS を最大限に活用するためにも、ベ
トナムにおいてさらなる強化が求められるとの指摘がなされた。さらに、GMDSSの運用関係者から
は、「VMRCCの予算不足が有能な救助隊員の不足や救助船、救助ヘリコプター等の救助設備機器の
不足につながっている」との指摘もあり、さらに「現行の捜索救難調整システム(体制)は、運
用面で調整手続きが複雑なことに加え、関連省庁間での調整の具体的な規則や運用指針が整備さ
れておらず、このシステムは有効かつ効率的に機能していない」との報告がなされている。
捜索救難に関するベトナムの組織・制度的能力不足等の課題については、JICA(当時はJBIC)
が2004 年、「捜索救難活動を通じた海上保安に関する組織改善に関する調査(戦略的組織改革モ
デル委託調査)」を実施し、その提言に基づいてVinamarine が捜索救難に関する組織・制度的能
力の強化をめざす行動計画を策定し、現状では、当時と比べて体制等が整備された状態と考えら
れるが、教育訓練施設等の不足もあり、これらを担当するVMRCCでのヒアリング調査では、教育訓
練施設の整備に対する要望も出された。
3-21
2.プロジェクトの内容等決定に必要な各種検討
2.1 需要予測等港湾選定の要素
本プロジェクトでは、整備対象とする港湾群の選定に続いて、港湾毎の主要水路や停泊地に基
づく、必要な施設配置・システムの規模等を、検討する必要がある。本プロジェクトの整備内容
を決定する要素としては、次の項目を指標とした。
(1) 対象港湾の選定と取扱貨物量の将来予測
ベトナム運輸省の指導の下、Vinamarine で 1999 年に作成されたベトナム港湾システム開発
計画(Master plan)は、スコープ(開発地域、開発スケジュール、開発対象)及び海運輸送網計画
の特徴付け、
整備年度等ついてその後も見直しが続けられ、
最新のマスタープランとしては 2009
年に首相府において決定されたものである。対象港湾の選定にあたっては、このマスタープラ
ンにある港湾を候補として、グループ毎の貨物取扱量(2015 年、2020 年及び 2030 年)の想定
値をひとつの指標とした。
(2)対象港湾のマスタープランにおける位置付け
ベトナムにおける港湾は、マスタープランにおいてその重要性が位置付けられ、
「国全体や地
域間の経済発展に寄与する大規模港湾」として「クラス I」、「地域の経済発展に寄与する中規
模港湾」として「クラス II」、
「特殊な用途等、企業活動のための小規模港湾」である「クラス
III」に分類されており、この分類要素も考慮するものとした。なお、このような位置付けを明
記したマスタープランにより、ベトナム全土に散在している 300 近くの「Cang またば Ben」と
称する、係留設備・バース・ターミナル等を含む「港」は、合計 40 の「港湾群」に属するもの
とされ、ベトナムにおける港湾の概念も国際標準に近づきつつある、とされている。また、こ
の重要度や規模で分類されたことで港湾の階層構造が明確化され、今後の港湾の整備戦略及び
投資戦略を策定する基礎的条件の一つになる、とされている。
(3)港湾整備自体のプライオリティ(年次計画)
マスタープランでは、新設港湾の建設及び既設港湾の改修もあげられ、この整備時期も計画
として示されている。航行監視設備も、このような港湾整備が完了し運用を開始する年度と同
期して構築し引き渡されるよう、整備時期を決める必要がある。このような港湾自体の整備プ
ライオリティも、対象港湾の選定にあたって考慮するものとした。
(4)港湾の用途
港湾整備マスタープランでは、クラス分けで「特殊用途港湾(Port of Special use)」に
分類された港湾がいくつかあり、これらは、原油、石炭の他、開発された工業地域での製品
積み出し等で、産業活動の重要な要素となる港湾である。この項目の有無も、対象港湾を選
定する際の指標とした。
特に、ベトナム沿岸においては、火力発電所の整備計画が立案されており、今後、建設が
3-22
進められるものと考えられる。発電用の石炭等は、ベトナム北部から主に海上経由で輸送さ
れ、そのための専用の港湾や係留施設も整備される。したがって、これらの輸送に携わり、
定期的に寄港する船舶も動向監視が重要とされるものであり、これらの港湾を含む地域も整
備対象になりうる。
表 3.2-1、表 3.2-2 に、ペトロベトナム社で建設が予定されている発電所及び関連する港
湾の計画を示す。
表 3.2-1 建設が予定されている発電所の計画
No.
プロジェクト名
所有者
1
タイビン2号石炭火力発電プラント
PVN/PVPower
2
ブンアン1号石炭火力発電プラント
PVN
3 クアントラック1号石炭火力発電プラント
PVN
4
ロンプー1号石炭火力発電プラント
PVN
5
ソンハウ号石炭火力発電プラント
PVN
6
ダクドリン石炭火力発電プラント
PVN/Dakdrinh
場所
タイビン省
ハーティン省
クァンビン省
ソックトラン省
ハウザン省
コンタム省
注)PVN:国営ペトロベトナム、PVPower:ペトロベトナム電力会社、Dakdrinh:
ダクドリン水力発
出典:ペトロベトナム社 プロジェクト概要「WARMLY WELCOME TO PETROVIETNAM」
出典:ペトロベトナム社会社概要
表 3.2-2 建設が予定されている関連港湾の計画
No.
プロジェクト名
所有者
場所
1
プックアン港
PVN/PhuAnJSC
ドンナイ省
2
ギソン港
PVN/PTSC
タンホア省
3
ホンラ港
PVN/PTSC
クァンビン省
4
PVトランス国際港
PVN/PVTrans
クアンガイ省
5
ペトロベトナム運輸会社
PVN
ホーチミン市
出典:ペトロベトナム社 プロジェクト概要「WARMLY WELCOME TO PETROVIETNAM」
注)PVN/PhuAnJSC:ペトロベトナム/プアン地域会社、PTSC:石油技術サービ
出典:ペトロベトナム社会社概要
(5) 航行安全設備の整備
2011 年に首相決定された「詳細マスタープラン」では、VTS 等の船舶航行安全を図るための
設備とともに、水路の浚渫も計画にあげられている。この深水港化の計画の有無も対象港湾を
決める要素とした。
(6)港湾の周辺の自然環境条件
船舶航行監視のための施設を整備すべき対象として港湾を選定するにあたっては、海洋環境
保全の面も考慮した。すなわち、周辺地域の海洋環境に重大な影響を及ぼす船舶事故等の発生
を未然に防止する等、必要な手段を講じることがこれらの地域では望ましいと考えられる。港
湾群の周辺に、このような海洋環境の保全地域があるかどうか、港湾選定の要素とした。
3-23
図 3.2-1 に、整備対象とする港湾選定の流れを示す。
図 3.2-1 プロジェクト対象港湾選定の流れ
出典:調査団作成
2.2 プロジェクトの内容を検討・決定する際に必要な問題点の把握・分析
2.2.1 プロジェクト内容の検討手順とその結果
前節に示した考慮すべき検討要素及び検討手順にしたがって、ベトナム全土の港湾を整理した
結果を ANNEX-2 に示す。上記の図 3.2-1 には、この表の一例を示している。表には、296 の港に
対する主要な検討要素から見た結果が、それぞれの欄に示されている。
ここでは、港湾整備マスタープランに沿って、2015 年まで、及び 2020 年までに整備対象とす
る港湾群を、下記の点を考慮して選定を行った。この結果を表 3.2-3 に示す。
a) 安全監視の観点から
b) 港湾効率の観点から
c) 海洋環境保全の観点から
d) 航行情報一元管理の観点から
e) 港湾の整備年度との同期の観点から
3-24
表 3.2-3 整備年度毎の対象港湾群選定結果
出典:調査団作成
3-25
以下に、整備対象港湾選定の経過をまとめる。
(1)原則として、港湾整備マスタープランで、ITGP(国際積替・ゲートウェイ港)及び RHP
(地域ハブ港)として位置づけられた港湾は、すべて整備対象とする。
(2)それ以外の特殊用途港湾で、優先度の高いものも含めるものとする。
(3)ベトナム全土の 296 の港湾を、40 の港湾群として捉え、各群単位で整備するものとす
る。
(4)ANNEX-2の表では、港湾(ターミナル・係留設備を含む)単位での位置付け(グレ
ード、用途)等が示されている。ここでは、本プロジェクトのために、各港湾群に含まれる
港湾を集約して総合的に評価できるよう、最終的に「港湾群としての重要度」がわかるよう
にまとめた。(表 3.2-3 参照)
(5)詳細マスタープランで示された VTS 及び AIS の整備対象港湾についても、表 3.2-4 の
中に欄を設け重点的に整備する港湾として考慮した。ただし、本プロジェクトでは、最終的
には広域監視を目的とするため、この詳細マスタープランであがっている港湾名以外も含め
て、導入を検討した。
(6)港湾の整備年度と同期するように、2015 年及び 2020 年の2期に分けて、それぞれ港
湾を選定した。但し、現段階での港湾整備の進捗状況(バンフォン等)、後背地域の発展性
(ダナン等)、燃料の海上輸送を伴う火力発電所の建設計画等も、フェーズ分けの際に考慮
するものとした。
また、これらの表では示されていないが、下記の5つの観点からみた地域条件等も選定のポイントとし
た。
a) 船舶航行の安全監視の観点
港湾整備マスタープランにある、各港湾グループの想定貨物取扱量を、表 3.2-4 に示す。これによ
れば、2020 年段階でも、ブンタウ・ホーチミンを含むグループ5で大きな伸びが期待されており、ハ
イフォン等を含むグループ1でも、2015 年から 2020 年にかけて2倍近い貨物を取り扱うと想定されて
いる。
船舶航行の安全監視の観点から見れば、大型船舶による貨物取り扱いを可能とする大水深港湾のタ
ーミナル施設等で積み下ろしが行われるため、必ずしも入出港隻数の増加や港湾内航路の輻輳に結び
つくものではない。ただし、積み替え港等の場合、より多数の中小型船舶の入出港を伴うことになる。
また、地理的条件によっては、水路上及び停泊地周辺を含め、多数の観光船、漁船が行きかう港湾も
ある。このような貨物取扱量の増大傾向を見れば、安全面から各地域での航行船舶監視の重要性が高
まると考えられる。
b)港湾運用の効率の観点から
また、このような状況に対応するため港湾の荷揚げ設備等の近代化も進められる。一方、航路上の
船舶等を効率よくバースへ導くような船舶関連情報の収集及び提供への要望も、港湾関係者から求め
られる。
3-26
表 3.2-4 港湾グループ毎の想定貨物取扱量
グループ
Group-1
Group-1
Group-2
Group-2
Group-3
Group-3
Group-4
Group-4
Group-5
Group-5
Group-6
Group-6
最小
最大
最小
最大
最小
最大
最小
最大
最小
最大
最小
最大
想定貨物取扱量
2015年 2020年 2030年
112
146
320
125
176
320
68
129
263
91
186
263
41
82
154
47
104
154
64.5
144
285
94.5
198
285
169
235
393
200
317
681
56
132
216
70
152
305
出典:調査団作成
(単位:億トン)
c) 海洋環境保全の観点から
ハロン湾及びカットバー諸島は、環境保全の点からも最大限の注意を払う必要があるほか、大型船
舶や、小型漁船の往来もあり、船舶航行の監視が重要な地域である。この点からも、早期(2015 年)
に導入することが望まれる。
d) 航行情報一元管理の観点から
地域によっては、隣接する港湾局の間で、相互に情報の交換を必要とする。このため、地域間の情
報交換が可能となるように整備対象港湾の選定においても考慮するものとした。
e) 港湾の整備年度との同期の観点から
新設港湾またはターミナルの開設に合わせ、港湾設備の運用開始時期に余裕を持って安全管理面の
設備も導入できるように実際の整備スケジュールでは、港湾設備との同期を取るものとする。現時点
での港湾整備計画自体の進捗状況も考慮するものとした。
2.2.2 検討上の課題等の整理
(1)船舶航行監視の動向
これまでの調査で述べてきたように、①船舶航行の監視によりその動静を把握する手段②航行する船舶
に関する必要な情報を収集・提供する手段③各種海洋情報を利用する手段は、航行安全確保、港湾管理業
務の効率向上及び海洋環境の保全対応にとって、非常に有益なものである。2030 年に向けて、2015 年段階
及び 2020 年段階で掲げられた貨物取扱量目標を達成するために、港湾関連の整備を進めているベトナムに
おいては、この港湾整備と同期して、このような手段の整備の実施が必要とされている。これらの手段の
概略については、国際的な条約等で規定されている。主な規定等として国土交通省海事局ホームページに
3-27
あげられている中から、本事業に関連するものを、以下に要約する。
(2)船舶航行監視に関する国際的な条約・規定等
船舶の航行の安全及びトン数の測度に関するものとしては
1)海上人命安全条約(SOLAS 条約)
:船舶の堪航性(航海に堪えること)及び旅客や船員の安全を確
保するために必要な船舶の構造、救命設備や航海道具等の技術基準について、国際的に統一され
た基準を定めるとともに、主管庁または認定された団体による定期的な検査の実施、証書の発給、
寄港国による監督(ポートステートコントロール)等の規定を定めたものである。
2)海上衝突予防条約(COLREG 条約):航行中の船舶の衝突事故を防止するため、国際的に統一され
た航法及び信号の方法を定めたもの。
船舶に起因する汚染の防止に関するものとしては
3)海洋汚染防止条約(MARPOL73/78 条約)
:船舶の航行に起因する環境汚染(油、有害液体物質、危
険物、汚水、廃棄物及び排ガス)を防止するため、構造設備等に関する基準を定めたもの。SOLAS
条約と同様、主管庁又は認定された団体による定期的な検査の実施、証書の発給、寄港国による
監督(ポートステートコントロール)等の規定が定められている。
4)バラスト水管理条約(BWM 条約)(未発効):船舶のバラスト水(空荷で航行する際、”おもし”
として積載する海水)の移動に伴う海洋環境への影響を防止するため、バラスト水の適切な措置
について定めたもの。
海難発生時の措置、捜索救助に関するものとしては
5)海難捜索救助条約(SAR 条約)
:各国が自国の沿岸域において適切な海難捜索救助業務を行う体制
を確立するとともに、関係国との協力により、全世界的に統一された捜索救助体制の構築を目指
すもの。
等がある。
従来から、VTS の導入にあたって準拠するものとしては、国際海事機関(IMO)の決議である「IMO
Resolution A.857(20) 」があり、広く認識されている。また、国際航路標識協会(International
Association of Marine Aids to Navigation and Lighthouse Authorities :IALA)によっても各種マ
ニュアルが発行されている。最近の動向を反映する文書としては、「内陸水路における VTS に対するガ
イドライン及び基準(GUIDELINES AND CRITERIA FOR VESSEL TRAFFIC SERVICES ON INLAND WATERWAYS)
Resolution No. 58」が内陸河川等を対象にまとめられており、輻輳水域を対象とする場合、参考にな
る。今回対象とする港湾の多くは、河川沿いにある港湾であるため、沿岸における航路上の船舶よりも、
さらにきめ細かい船舶の動静監視が必要である。上記の「ガイドライン及び基準」によれば、VTS は特
に下記の11項目を含む地域に適していると記述されており、本調査で整備対象とした港湾の多くは、
これらの複数の項目に該当し、VTS 導入の必要性は高い。
・ 高い航行密度
・ 危険物を輸送する航行
3-28
・ 交差する、かつ、複雑な航行パターン
・ 水路測量、水文観測、気象での、困難な要因
・ 移動する砂洲や他の地域的な危険要素
・ 環境面での考慮すべき点
・ 他の海上活動からの、船舶航行への妨害
・ 一定期間内に発生したその地域での事故件数
・ 隣接する水路での、既存のまたは計画された VTS 業務及び隣接する国の間での協力の必要性
できるならば隣接する国の間での協力の必要性
・ 狭隘水路、港湾の構成、橋梁、水門、曲がり角、及び船舶の進行が制限されている地域
・ 既存のまたは予見できる、航行パターンの変化
2.3 技術的手法の検討
2.3.1 技術提案
(1)VTS/AIS 及び環境 GIS の整備と GMDSS との統合
船舶航行監視システム(VTS)、船舶自動識別システム(AIS)、地理情報システム(GIS)を導入すること
で、主要航路全体の統合監視を行いつつ、港湾海運の安全性・信頼性・効率性の向上を図ることは、ベト
ナムのさらなる経済発展につながる。
ベトナムにおいて、国際海事機関が求める SOLAS 条約(海上における人命の安全のための条約)及び SAR
条約(海上捜索救助に関する条約)の規定を履行するにあたり、既設設備は GMDSS のみである。したがい、
海難事故や海洋汚染対策の即時対応のためのさらなる強化が必要とされ、VTS、AIS 等のシステムの導入、
及び GMDSS との連携・統合は必要である。
(2)既存 GMDSS の現状と新たなシステムとの統合
ベトナムにおける海岸線は南北約 3200km にも達し、国内運輸・国際貿易における海運の果たす役割は非
常に大きい。このため、船舶の安全で効率的運航の確保は重要な課題となっている。GMDSS の設備は、前述
に示した通り、北部・中部・南部のベトナム沿岸全体に 24 か所整備されている。これによって、船舶の遭
難時にはその遭難信号を受信し捜索救助機関や付近航行船舶に対して迅速かつ正確に救助要請を行うこと
ができる、全世界的な遭難・安全通信体制が、確立されている。
しかし、近年の経済発展を反映し、旅客貨物輸送量において内外の海上船舶交通量は増加の一途であり、
海難事故・海洋汚染に関しては増える傾向にある。その要因としては、海運・漁業産業の発展と量的な拡
大がみられること等が考えられる。このことから、今後、港湾拡張整備計画に伴い大型船舶の交通量が増
加すれば、輻輳港湾において大きなアクシデントが発生する可能性が極めて高くなる、と考えられる。さ
らに、混雑する海上交通の状況下では、早急な事故対応が望まれるため、緊急時の連絡体制見直し等も考
慮しなくてはならない。
また、既存の GMDSS によって、ベトナム沿岸全域では遭難信号等の情報を陸上で受信できる状況にある
が、現時点では、船舶の動向について迅速的確に把握するための船舶航行監視システム(VTS/AIS)等の整
備は十分ではなく、これらのシステムと既存 GMDSS との統合も、今後、求められると思われる。
3-29
現状では、船舶でのアクシデント発生時等に、GMDSS によりベトナム海上捜索及び救難調整センターへ遭
難通報が行われるが、これは事後の通報(遭難船舶の位置情報と遭難の種別)が主となっている。また、
港湾局においても、海難事故や海洋汚染を未然に防ぐことが求められており、さらに、主要航路の安全を
確保する観点から、VTS/AIS 設備と統合し、船舶航行の総合的な監視体制を確立する必要がある。
具体的には、既存 GMDSS の持つ「船舶-沿岸送無線局間での緊急遭難信号の通信機能」を、新たに VTS、
AIS、GIS と統合する。これによって、VTS 等を導入したコマンドコントロールセンターにおいて、船舶の
動向を示す監視画面の地図上に遭難位置を示すことができ、ベトナム沿岸・船舶航行の遭難情報に対して、
より迅速に対応することができる。また、周辺海域航行中の船舶への確実な情報周知も容易にできるよう
になる。これにより、主要航路における安全確保、事故海域の航行回避及び事故の拡大や海上汚染にも、
早期対応が可能となる。
(3)代替手段の不在の宣言
国際海事機関が求める SOLAS 条約(海上における人命の安全のための条約)及び SAR 条約(海上捜索救
助に関する条約)においては、GMDSS、VTS、AIS 等が規定されており、これに代わる代替手段は存在しない。
したがって、国際基準に準拠した港湾整備を行うためには、既設 GMDSS を含め VTS、AIS を整備する必要が
ある。
2.3.2 システム概要
(1)VTS の概要及び機能
VTS とは、レーダ装置、AIS 基地局、カメラ装置、データベース、多重伝送装置、VHF 無線機、気象セン
サーシステムにより構成される。レーダで得られた映像を処理し、レーダ映像に船舶追尾情報、海図(ENC
チャート)等を重畳表示する。本システムは、レーダと AIS 基地局を主なセンサーとして港湾・航路海域
状況を捉えカメラ装置等の情報を統合処理し、レーダ画面上で一元管理をおこない船舶の航行安全、港湾
設備の効率運用に有効な情報を提供する。また、港湾内の作業船(タグボート、パイロットボート等)湾
の運行状況の把握、バース使用状況、船舶の詳細情報等を登録可能なデータベースとも統合処理し、港湾
管理に必要な情報も管理者に提供する。
(2) AIS の概要及び機能
AIS とは、船舶の位置情報や針路、船速等の航海情報、船名や積荷等の情報を VHF 帯で定期的に放送する
とともに、他船から放送されたこれらの船舶情報を常時受信し、表示するシステムである。
AIS は 2000 年の SOLAS 条約(海上人命安全条約)の改正に伴い、全ての客船と、国際航海に従事する 300 ト
ン以上の船舶及び国際航海に従事しない 500 トン以上の船舶に対して、2002 年 7 月 1 日以降の新造船では
その時点から搭載義務が生じる。また、現在船では 2002 年7月1日から 2008 年7月 1 日までの間に順次
搭載が義務化されている。
(3) 海洋環境 GIS の概要及び機能
海洋環境 GIS とは、陸上レーダ局、陸上 AIS 局、船舶・気象支援サイト等から必要に応じて収集した各
種情報をデータベース化し、複数のモニターやパソコンに情報表示・提供を行うものである。
3-30
海洋環境 GIS の主な機能として、以下のような項目が上げられる。
1)特徴
・管理対象船の動静把握
・最適精密航行支援
・荷役管理支援
・船員管理支援
・保守障害管理
2)取扱情報
・レーダ
・AIS
・船舶カメラ
・気象海象(気象協会)
・船舶情報(機器、荷役、配船、バース予定等)
3)効果
・効率良い船舶運航計画
・燃費削減航行
・保守故障の迅速対応
4)対象顧客
・船舶会社
・運航管理会社
2.3.3
VTS/AIS と環境 GIS との統合によるサービスについて
(1) 当該システムの適用範囲
現地調査において、カウンターパートである Vinamarine 及び関係機関と打合せを行い、ヒアリングし
た結果、ベトナムにおける港湾整備計画の基本概念は、a)入出港における複雑な航路の見直し及び航路
回避、2)輻輳海域の減少を目的としている。
このため、ベトナム政府は港湾拡張整備計画としてマスタープランを発表しており、今回の調査はこれ
に準拠した船舶航行監視・安全管理能力網整備のシステム検討を行う。
ベトナムでの対象となる港湾は、当初、北部におけるカムファ港・ハイフォン港・カイラン港・ホンガ
イ港、中部におけるダナン港、南部におけるドンナイ港、ブンタウ港、ホーチミン港の主要 8 港として
いたが、Vinamarine と協議し、以下のようなベトナム海事開発プランに準拠するものとし、前節での検
討により選定した。
3-31
・ベトナムにおける港湾開発整備は、マスタープラン(Ref.2190/QD-TTg)と詳細マスタープラン
(Ref.1166/QD-TTg)が規定されている。マスタープランでは開発港湾の選定、詳細マスタープランの中
では海事開発プランを定義している。
・また、ベトナムにおける海事開発プランは、次の4つの分野にて計画を進めることとしている。
-
船舶会社
船舶会社の組織化に関する計画を定義しており、既に政府の承認を得ている。
-
港湾整備
マスタープラン(Ref.2190/QD-TTg)にて、ベトナム沿岸を 40 港湾群と6グループに分割し、ポ
ートタイプを定義している。(実際の港湾を構成するポート数とターミナルを合計すると 296 港)
-
造船産業
造船産業に関する計画を定義しているが、現時点で政府は未承認である。
-
海運サービスの効率化
物流関連施設に関する計画を定義している部分と港湾運用設備に関して計画を定義している部分
に分かれており、既に政府の承認を得ている。
詳細マスタープラン(Ref.1166/QD-TTg)では、港湾運用設備としてベトナム海運標識システムを重視し
ており、RACON、AIS、DGPS、VTS、ENC 等の設備導入計画を具体的に明示している。これらの「マスタープ
ラン(Ref.2190/QD-TTg)
」と「詳細マスタープラン(Ref.1166/QD-TTg)
」に準じて、各観点から必要性及
び優先度等を判断して、調査対象港を選定した結果、2015 年までの整備港を5港湾群、2020 年までの整備
港を 11 港湾群とした。
ただし、ベトナムにおける港湾の管理については、日本や他国でのものとは大きく異なっており、1港
湾には複数の港やバースを含み、運営も複数(政府、民間)に渡っている。本業務では、このベトナム特
有の港湾構成を考慮し、対象整備港を「港湾群」として扱うこととした。よって、整備対象範囲は、非常
に広い地域をカバーする場合もある。
以下、これらについて、港湾の状況及びヒアリング時の特記事項等をまとめる。
1) 2015 年までに整備予定の港湾群とその状況
・ホンガイ港(Hon Gai)
-
40 港湾群代表のうちのひとつ、ベトナム北部のグループ1に属する。
クアンニー(Quang Ninh)港湾局の担当には、計画として次の 6 港湾が含まれている。
Ben tong hop container Cai Lan、Xi mang Thang Long、Nhiet dien Thang Long,
Xi mang Ha Long、Dau B12 and Khach Hon Gai
-
このグループの1つであるカイラン(Cai Lan)港は、ハイフォン港を補完する国際商業港とするた
めに建設された、北部で最初の深水港である。
-
現在、船舶航行が多いため、従来のカイランルートの見直し整備を行っている。
3-32
・ハイフォン港(Hai Phong)
-
40 港湾群代表のうちのひとつ、ベトナム北部のグループ1に属する。
Hai Phong は、3つの港湾局:ハイフォン(Hai Phong)、Thai Binh、Nam Dinh に管轄に分割され
る。ハイフォン港湾局の担当には、計画として 18 港のうち、次の 13 港湾が含まれている。
Hoang Dieu (Hai Phong)、Vat Cach、Cua Cam、Chua Ve、Doan Xa、Transvina、Green
port、 Nam Hai (Le Chan)、Tong hop、container Dinh Vu、chuyen dung、hang long、roi
Dinh Vu、Xang dau Yen Hung、Tong hop Yen Hung (Dam Nha Mac) and Khu ben
Lach Huyen
-
ベトナム北部最大の商業港であるハイフォン港は、船舶交通量も非常に多い。
-
従来の Hai Phong 航路を廃止し、新たにハンナム(Han Nam)航路の整備を行う。
-
航路の変更により、河川港入口における浅水深を回避し貨物量の増加を見込む。
-
日本の ODA により、新規航路上の河川入口にラクフェン(Lach Huyen)国際港を建設着工している。
-
河川入口にて大型船を取扱い、中型船にて河川上流の各港へ引き込む物流航路の確立を目指してい
る。この地域の港湾整備計画は非常に重要視されている。
・ダナン港(Cang Da Nang)
-
40 港湾群代表のうちのひとつ、ベトナム中部のグループ3に属する。
ダナン港湾局の担当には、計画として次の8港湾が含まれている。
Tien Sa、tong hop Son Tra、xang dau Son Tra、khi hoa long、dam、song Han、tong hop
Lien Chieu、xang dau PTSC、Petec、Lien Chieu、xi mang Hai Van
-
ダナン(Danang)港は、19 世紀末から 20 世紀初頭にかけて商業港としての基礎が築かれたベトナ
ム中部最大の国際貿易港である。
-
東西経済回廊の東の起点となる DaNang MA は、貨物取扱量も多く VTS 設備の導入が期待されている。
VTS 設備が整えば、港湾は活性化し、東西経済回廊の物流も増大するものと思われる。
-
ダナンは台風の避難港でもあり、台風接近時は避難のためゲアンやカンナム等から船舶が入港する。
2009 年の台風接近時には 100 隻以上の船舶が集まり 20 件の事故が発生している。このため、通常
の入出港管理に加えて、悪天候時の事故回避を目的とした VTS 設備の導入を望んでいる。
・ ブンタウ港(Vung Tau: Ba Ria - Vung Tau)
-
40 港湾群代表のうちのひとつ、ベトナム南部のグループ5に属する。
ブンタウ港湾局の担当には、計画として 51 港のうち、次の 49 港湾が含まれている。
Ben
tram nghien xi mang Cam Pha、Ben
Ben
Sai Gon - thep Viet、Ben tong hop Hong Quang、Ben quoc te Sao Bien、Ben 、Nha
may dong tau Vinalines、Ben
Ben
My Xuan A、Ben tram nghien xi mang My Xuan、
tong hop container My Xuan、Ben tong hop quoc te My Xuan、
nha may dien Phu My、Ben nha may nghien xi mang Thi Vai (Holcim)、Ben quoc te
Sai Gon - Viet Nam (SITV)、Ben quoc te The Vai、Ben
Phu My - Ba Ra Serece、Ben PTSC
Phu My、Ben nha may thep Phu My、Ben quoc te Cai Mep - Thi Vai (ben tong hop Thi Vai)、
Ben
quoc te SP-PSA、Ben Posco、Ben
tong hop Ban Thach、Ben Nha may dong tau Ba Son、
Ben
Interflour、Ben container Tan Cang - Cai Mep、Ben quoc te Hoa Sen – Gemadept、
3-33
Ben
cang LPG - Cai Mep、Ben
hop Cai Mep、Ben
xang dau Petec Cai Mep、Ben xang dau Cai Mep、Ben
quoc te Cai Mep (CMIT)、Ben quoc te Cai Mep Thi Vai (phan cang container
quoc te Cai Mep)、Ben container quoc te SP-SSA、Ben
Ben
tong
Gemalink container Terminal、
tong hop va container Cai Mep H、Ben cang Cai Mep Ha ha luu、Ben
mai (phan cang Cat Lo)、Ben dau K2、Ben
cang Thuong
tong hop KCN Dong Xuyen、Ben Vina Offshore、
Ben
xi nghiep xang dau Thang Loi、Ben
nha may dong va SC tau co khi HH Sai Gon、
Ben
Vietso Petro、Ben dich vu dau khi PTSC、Ben
Ben
container Vung Tau、Ben
can cu dich vu Sao Mai - Ben Dinh、
tiem nang (keo dai khu ben Sao Mai - Ben Dinh)、Ben tau
khach va to hop dich vu du lich、Ben
nha may dong tau Long Son、Ben to hop loc hoa
dau Long Son、Ben tong hop Long Son
ブンタウ港は河川入口に位置する港湾であり、河川上流のホーチミン港やドンナイ港へ続く主要
航路の玄関港である。このためブンタウ、ドンナイ、ホーチミンの3港湾群は密接な関係にあり、
ブンタウ港への航路監視設備の導入は、これらの港湾の間での広域連携として重要視されている。
-
ブンタウは、1 日に 100 隻以上の入港がある。このような条件などから VTS 設備の重要性として、
以下の7つ要因が挙げられる。
・全国の約 60%の入出港数の多さがあること
・取扱貨物量が多いこと
・ブンタウ付近は湾曲した河川航路であること
・漁船や小型船(カヌー)が航路上に多いこと
・貨物の中継載せ替え港であること
・大きな港湾に関しては、VTS 設備を導入する国際ルールがあること
・事故が非常に多いこと
日本の ODA で整備しているカイメップ・チーバイ港は、ブンタウ MA の管轄でもあり、この
地域の整備計画は非常に重要視されている
・ホーチミン港(Cang TP.Ho Chi Minh)
-
40 港湾群代表のうちのひとつ、ベトナム南部のグループ5に属する
ホーチミン港湾局の担当には、次の 51 港湾が含まれている。
Ben
Tan cang、Ben
Ben Nghe、Ben
Ben
nha may dong tau Ba Son cu、Ben
Cong ty lien doanh phat trien tiep van so 1 (VICT)、Ben ELF gas Sai Gon、
Bien Dong、Ben nha may tau bien Sai Gon、Ben
hop quoc te ITC Phu Huu、Ben
Ben
Sai Gon、Ben Tan Thuan Dong、Ben
Phu Huu、Ben Petec、Ben
rau qua、Ben Bong Sen、Ben
tram nghien xi mang phia Nam (cty Xi mang Ha Tien I)、
Tan cang Cat Lai、Ben Sai Gon Shipyard、Ben Sai Gon
Petro、Ben xi mang Sao Mai (Holcim Viet Nam)、Ben KCN Cat Lai、Ben
Ben
tong
tau khach Phu Thuan 、
dau thuc vat Navioil、Ben nha may dong tau Shipmarine、Ben nha may dong tau An
Phu、Ben tong hop Nha Be、Ben
tong kho xang dau Nha Be、Ben
3-34
Petechim、Ben
VK 102、
Ben
xang dau cong ty Lam Tai Chinh、Ben xang dau hang khong、Ben ben cang tong hop
cong ty CP kim khi Tp.HCM、Ben tram nghien xi mang Cotec、Ben
Long、Ben tram nghien xi mang Fico、Ben
tram nghien xi mang Chinfon、Ben Tan cang
Tan Hiep Phuoc、Ben nha may dien Hiep Phuoc、Ben
tâm Sai Gon (SPCT)、Ben Calofic、Ben
Ha Long、Ben
Taong hop、Ben
tram nghien xi mang Thang
xi mang Nghi Son、Ben container trung
xi nghiep bot giat Tico、Ben tram nghien xi mang
Sai Gon - Hiep Phuoc、Ben
dich vu hau can cang Sai Gon
- Hiep Phuoc、Ben ha luu Hiep Phuoc、Ben tiem nang ha luu rach Chim Tren (tinh Long
An)、Ben dau khi VinaBenny、Ben quoc te Long An、Ben
Ben
xang dau Hiep Phuoc (tinh Tien Giang)、Ben tong hop、 chuyen dung khac (tinh Tien
Giang)、Ben tong hop nang luong Tien Giang、Ben
Ben
tiem nang thuong luu Rach Cat、
ben cang tiem nang (tinh Tien Giang)、
song Vam Co
-
現在の主要航路は屈曲の多いサイゴン(Sai Gon)川航路
-
2020 年までには、直線的なソイラップ(Soi Rap)川航路を大規模浚渫工事にて構築予定。
-
現在、ホーチミン(河川上流に位置する)に集中している海運関連施設をカイメップ・チーバイ
地域へ移動する計画があり、ソイラップ航路構築時にはソイラップ地域へも移動予定である。
-
船舶の取扱いを河川入口に集中させ、貨物の物流は陸上搬路を計画している。
-
ホーチミン市への入出港船舶は旅客船に限定し、安全安心を確保した集客向上に努める。
-
ベトナム内航運搬としてカイメップ地域における荷物積替えを試験運用中である。
2) 2020 年までに整備予定の港湾群
・ギソン港(Nghi Son : Thanh Hoa )
・ゲアン港(Nghe An)
・ブンアン港(Son Duong、Vung Ang)
・ズゥンクアット港(Dung Quat)
・クイニョン港(Quy Nhon)
・バンフォン港(Van Phong : Khanh Hoa )
・ニャチャン港(Nha Trang、Cam Ranh :Khanh Hoa )
・ビンタン港(chuyen dung Nha may nhiet dien Vinh Tan)
・ケガ港(Ke Ga)
・ダンナイ港(Dong Nai)
・カントー港(Can Tho)
以上の概略をまとめて、2015 年及び 2020 年に整備予定の港湾群を表 3.2-5 及び表 3.2-6 に示す。
3-35
表 3.2-5
No
港湾名称
2015 年整備計画予定の港湾群
グループ属性
管轄港湾局
1
ホンガイ港
グループ1:北部
クアンニン
2
ハイフォン港
グループ1:北部
ハイフォン
3
ダナン港
グループ3:中部
ダナン
4
ブンタウ港
グループ5:南部
ブンタウ
5
ホーチミン港
グループ5:南部
ホーチミン
出典:調査団作成
表 3.2-6
No
港湾名称
2020 年整備計画予定の港湾群
グループ属性
管轄港湾局
1
ギソン港
グループ2:中部
ギソン
2
ゲアン港
グループ2:中部
ゲアン
3
ブンアン港
グループ2:中部
ハティン
4
ズゥンクアット港
グループ3:中部
クアンガイ
5
クイニョン港
グループ4:中部
クイニョン
6
バンフォン港
グループ4:中部
ニャチャン
7
ニャチャン港
グループ4:中部
ニャチャン
8
ビンタン港
グループ4:中部
ビントゥアン
9
ケガ港
グループ4:中部
ビントゥアン
10
ダンナイ港
グループ5:南部
ダンナイ
11
カントー港
グループ6:南部
カントー
出典:調査団作成
現在、港の情報は、管轄する港湾局で収集した後、南北2カ所の Vinamarine 支部でテキストレベルの情
報としてデータ集約を行っている。また、南北の支部で収集したデータは、Vinamarine 本部においてもデ
ータ集約を行っている。
これらのことより、港湾局―Vinamarine 本部という情報の流れを基本として港湾の管理運用体制が形成
されており、本検討においても、情報ネットワークは、このような運用の流れにそった階層を考慮して構
築されるものと考える。
3-36
(2)期待される効果
VTS/AIS 及び環境 GIS の整備により、これらの情報が統合的に提供され、海運の分野に留まらず、広く、
次のような効果が期待できる。
1) 船舶航行監視システム、船舶自動識別システム及び海洋環境 GIS は、航行船舶の安全確保、港湾や
狭隘水路の輻輳解消に有効に機能することから、海運能力が強化され、ベトナムへの投資環境整備
及び輸出能力強化に貢献する。
2) 既設 GMDSS 設備と統合することにより、海難事故時に、周辺海域及び主要航路における安全性をよ
り迅速に確保できる。
3) 船舶のエネルギー効率管理を実施することで、ベトナムの船舶 CO2 排出管理と削減管理に関する情
報を提供でき、環境面においても大きな経済効果を生み出すことができる。
4) ベトナムは、南部経済回廊(タイ、カンボジア、ベトナム)・東西経済回廊(タイ、ラオス、ミャ
ンマー、ベトナム)における国境を越えた陸上輸送網の出入口でもあり、周辺国の農業・工業製品
のリードタイムの短縮、輸送の多頻度化が期待され、周辺 ASEAN 諸国全体の経済成長を促す波及効
果が大きい。
5) ベトナムでは、今後 10 年間で輸出量を4倍以上へ拡大させる計画があり、ベトナムの輸出産業が
活性化することで、わが国との輸出入貿易も増加することが期待され、両国経済の成長を促進する。
3-37
3. プロジェクトの計画概要
3.1 プロジェクトの内容決定の基本方針
本プロジェクトの基本方針を以下のように定義する。
a. マスタープランにより、2015 年までに主要港及び主要航路の監視を行うための VTS 設備を各 MA に導
入するものとする。
b. 航行船舶の動静監視用のレーダサイト、航行船舶との通信を可能とする無線通信送受信所の他、港
湾管理者が他の航行船舶の属性などを識別する船舶自動識システム(AIS) で構成する。
c. 環境 GIS をデータセンターに導入することで、航行船舶に航行情報等を共有し、港湾内や狭隘輻輳
海域での安全・効率を一層高めるものとする。
本事業では、ベトナム国内の港湾及び航路での船舶航行に関する情報について、一元的に管理すること
で、航行管理の体制を強化するとともに、航行の安全及び効率の一層の向上実現を図るため、次のような
構成とする。
(1)レーダサイトの建設
フェーズⅠにおいては、主要港に合計 15 箇所のレーダサイトを設置し、AIS と無線送受信機を併
設する。
(2)VTS 及び AIS ネットワークを構築
VTS 及び AIS から送られてくる船舶情報、航路情報、港湾情報を MA にて集約し、隣接 MA、Vinamarine
本部とネットワーク回線で結ぶ。
(3)環境 GIS をデータセンター内に設置
主要港では、環境 GIS をデータセンター内に設置し、環境面から省エネ航行、沖待ち時間の削減
を支援する。
3.1.1 航行監視システムの整備計画
(1)IMO の勧告の規定履行
国際海事機関が求める IMO 決議 A.857(20)のガイドラインによると、VTS(船舶交通サービス)
の目的に関しては、次の3項目について定義している。
- 航行の安全と効率
- 海上における生命の安全
- 海上及び隣接陸上区域、作業場所、海上の諸設備などの環境状況を改善
3-38
今回の調査では、これらの目的に沿って航行監視システムの整備計画を検討した。
(2)ベトナム国 MOT 及び Vinamarine の整備拡充計画
ベトナムにおける港湾整備計画として、マスタープランが策定されている。前節では、代表的な
40 港湾グループ及びターミナル等の港湾設備全体 296 港について記述した。2015 年及び 2020 年ま
での段階整備計画に準拠して、本プロジェクトの整備計画を検討した。これらの計画対象港湾を、
以下にまとめて示す。
表 3.3-1 フェーズⅠでの対象港湾
出典:調査団作成
表 3.3-2 フェーズⅡでの対象港湾
3-39
出典:調査団作成
(3)Vinamarine のマスタープランにおける拡充すべき機能
拡張すべき機能では、2.3 項にて記述した GMDSS 設備との統合がある。既設 GMDSS のデータの流れ
は、受信した船舶遭難信号を VMRCC(3つの支部、ハイフォン、ダナン、ホーチミン)と VMRCC 本部、
Vinamarine 本部へ伝送している。情報回線は、ネットワーク網として確立されているので、VTS を
設置する各 MA は、Vinamarine 本部から船舶遭難情報を受けることになる。
3.2 概念設計及び適用設備の仕様
3.2.1 機能を満足する VTS/AIS 及び環境 GIS のシステム構成
a.
2015 年度までの整備計画
・フェーズⅠにおけるシステムイメージ図を図 3.3-1 に示す。
・表 3.3-1 におけるフェーズⅠにおいて、監視区域をカバーするための VTS/AIS システムを導入する。
また、対象 MA においてはコントロール監視システムを導入する。
・対象港湾で集めた航行監視情報は、Vinamarine 支部及び隣接港湾局(Maritime Administrator:MA)間で
情報共有し、また、Vinamarine 本部のデータセンターへ情報伝送を行う。
・Distress 情報は、VMRCC 本部から Vinamarine 本部へ通知され、さらに、Vinamarine 本部から各 MA へ
伝送を行う。
・グループ1において、ハイフォン MA と隣接 MA であるクアンニン MA との間には、世界遺産であるハロ
ン湾も含んでいるため、海洋汚染・事故防止にかかわるデータ情報の交換を行なえるものとする。
・グループ5において、ホーチミン MA に導入されている既設 VTS は、新規 VTS に統合される。
また、同じ主要航路を監視し密接な関係にあることから、ドンナイ MA、ホーチミン MA、ブンタウ MA
の各 MA 間での情報交換は直接行えるものとする。
3-40
3-41
図 3.3-1 フェーズⅠにおけるシステムイメージ図
出典:調査団作成
3-42
b.
2020 年度までの整備計画
・フェーズⅡにおけるシステムイメージ図 3.3-2 に示す
・表 3.3-2 におけるフェーズⅡにおいて、監視区域をカバーするための VTS/AIS システムを導入する。
また、対象 MA においてはコントロール監視システムを導入する
・グループ6においては、同じ主要航路を監視し密接な関係にあることから、ミトーMA、カントー MA、
ドンタップ MA、アンジャン MA の各 MA 間での情報交換を直接行えるものとする
3-43
図 3.3-2 フェーズⅡにおけるシステムイメージ図
出典:調査団作成
3-44
c.
データセンター構築に関する検討
各 MA よりの VTS 情報は、Vinamarine 本部に情報集約される。データセンター構築する手段として、
図 3.3-3~図 3.3-5 示すように 3 つのケースが考えられる。
c-1 データセンター構想ケース A
以下に、データセンター構想ケース A 案を示す。
図 3.3-3 データセンター構想(ケース A)
出典:調査団作成
・Vinamarine 本部には、データセンター設備を設置しない
・Vinamarine 支部に、データセンター設備を設置する
・Vinamarine 支部間で、データセンター設備の冗長構成を図る
・Vinamarine 支部内では、データセンターの 2 重化が必要となる
・Vinamarine 本部から行う情報提供サービスは、Vinamarine 支部データセンターよりデータ送受信す
る必要があるため、ネットワークトラフィックが増えるデメリットがある。
・後述するケース B、C と比べ、シンプルかつローコストであるが、本部に情報集約していないのがデ
メリットである。
・Vinamarine 支部において、運用・保守要員の確保が必要となる
3-45
c-2
データセンター構想ケース B
以下にデータセンター構想ケース B 案を示す。
図 3.3-4 データセンター構想(ケース B)
出典:調査団作成
・Vinamarine 本部にデータセンターを設置する
・Vinamarine 支部にもデータセンターを設置する
・Vinamarine 本部と、Vinamarine 支部のデータセンター設備間で冗長構成を図る
・船舶情報サービスは、Vinamarine 本部に集約されるので理想的な構成となる
・Vinamarine 支部において、運用・保守要員の確保が必要となる
3-46
c-3 データセンター構想ケース C
以下にデータセンター構想ケース C 案を示す。
図 3.3-5 データセンター構想(ケース C)
出典:調査団作成
・Vinamarine 本部にデータセンターを設置する
・Vinamarine 支部にはデータセンターを設置しない
・Vinamarine 本部と各グループにおける代表 MA に、データセンターを構築する
・Vinamarine 本部と、各グループ代表港湾データセンター設備間で冗長構成を図る
・船舶情報サービスは、Vinamarine 本部に集約されるので、理想的な構成となる
・ケース C では、VTS Center 設備も設置するため、VTS Center の保守メンテナンス要員がデータセン
ター設備の運用保守をかねることが可能である(よって、新たな運用保守要員を必要としない)
3-47
以下に、各 MA グループの船舶情報量を同じと仮定し、設置するデータベース(DB)の規模に応じて、大
規模 DB を6、中規模 DB を3、小規模 DB を1とした係数を用いた相対的コスト比較を示す。なお、運用保
守員の必要性の有無も合わせて記載する。
表 3.3-3 データセンターの相対的なコスト比較
構成
DB 構成/設置場所
ケース A
中規模 DB サーバ:支部
4(2x2)
ケース B
大規模 DB サーバ:本部
1
中規模 DB サーバ:支部
2
大規模 DB サーバ:本部
1
小規模 DB サーバ:MA
3
ケース C
必要台数
係数
導入比率
運用保守員
評価
12(3×4)
4
新規採用
○
12(6+3×2)
4
9(6+1×3)
3
出典:調査団作成
3-48
本部は増員
新規採用
本部は増員
VTS と兼任
○
◎
d.
データセンター構築に関する、関係機関へのヒアリング結果
d-1
ハイフォン MA
以下に、ハイフォン MA からのヒアリング事項と、MA の写真を写真 3.3-1 に示す。
・ハイフォン MA のスタッフは、全員で 65 名
・VHF 通信業務として、10 名が 24 時間交代で勤務している
・VMRCC からの遭難信号は、IP データ、FAX、メール、VHF 等の手段を使って送られる
・救難エリアは、VMRCC とで担当エリアが異なる
・隣接 MA であるクアンニンは世界遺産でもあるハロン湾も担当しているので船舶航行監視情報を MA
同士共有したい
・VTS/AIS 設備の整備のほか、監視設備として CCTV 設備の導入希望もあった
(これは、河川港という立地条件から夜間満潮時に船舶航行数が多いためである)
・ハイフォン MA は、現在改装を行っている
(同じ、敷地内に7階建てビルを建築することが決まっており、VTS コントロール
センター、データセンター等を併設できるフロアも用意する予定である)
写真 3.3-1 ハイフォン MA:全景 / 出典:調査団撮影
3-49
d-2 ビナマリンハイフォン北部支局
以下に、ビナマリンハイフォン北部支局からのヒアリング事項と、支部の写真を
写真 3.3-2 に示す。
・ビナマリンハイフォン北部支局のスタッフは、全員で 17 名
・主な役割は、北部運輸行政管理として海上船舶の申請(船籍、ビザ、所有権)をはじめ、
ベトナム信用金庫(金融ローン)、船舶価値証明、クルーの資格の発行など行っている
・船舶の登録件数は、年間 300 隻程度であり、ほとんどベトナム国籍である
・同事務所の業務は、海上船の業務に関わるものであり、河川航行船の業務は、別セクションが担当
している
・同事務所とハイフォン MA 間の情報交換量は、今後、港湾整備の進捗に伴い、増加するものと思われ
る
・船主やクルーに対し、事故情報等を提供するために同事務所においても VTS 情報を閲覧したいとい
う要望があった
・その他、遭難時の原因分析も閲覧したいと要望があった
写真 3.3-2 ビナマリンハイフォン北部支局:全景 / 出典:調査団撮影
3-50
d-3
ダナン MA
以下に、ダナン MA からのヒアリング事項と、MA の写真を写真 3.3-3 に示す。
・当局のスタッフは全員で 32 名
内 7 名で 24 時間体制の通信業務を行っている
・現在の主な設備は、VHF コントローラのみである
・船舶の入出港数は、2008 年~2009 年間は統計的に増加したが、2010 年は減少した
(これは船舶
の大型化によるものであり、総トン数は上昇している)
・隣接する MA との情報交換は必要との要望があった
・同 MA は、船の修理設備が充実しているため、フエ・カンナムからの修理依頼も多く寄せられている
(現在の連絡手段は、主に FAX・TEL・メールである)
・同 MA も河川港であり、夜間満潮時の船舶入出港数は多い(そのため、CCTV 設備の設置希望があった)
・同 MA の重要とされる監視対象地域はティエンサ港である
(ティエンサ港は、日本の資金援助による整備港で、ニューターミナル建設(増設)のフィージビ
リティスタディ(JICA)が 1 年前に終わったばかりである)
・河川港である ソントゥ港、ナイヘン港は、来年ハイソン港へ移転される計画がある(また、ソンハ
ン港は、5 年後に移転予定)
・ダナンビーチ側の沖合にフォーミーケーがあり、ペトロベトナム(Petoro Vietnam)のタンカーの停
泊地となっているが、ビーチの観光業支援のため、将来はこの港も移設される計画である
・東西経済回廊の東の起点となるダナン MA は、貨物取扱量も多く VTS 導入の強い希望があった(VTS
設備の整備により港湾は活性化し、東西経済回廊の物流も増大するものと思われる)
・同 MA は、台風の避難港でもある(2009 年の場合、台風接近時に避難してきた 100 隻以上の船舶が
20 件の事故を発生させているが、これら事故を回避するためには、VTS 設備が必要である)
・同 MA に管轄される幾つかの港は、川崎港と友好港となっており、両港の交流も盛んである
・現在、VMRCC の遭難捜査活動地域については、同局の要請によって捜査活動を行っている
3-51
写真 3.3-3 ダナン MA:全景 / 出典:調査団撮影
3-52
d-4
ホーチミン MA
以下に、ホーチミン MA からのヒアリング事項と、MA の写真を写真 3.3-4 に示す。
・既設 VTS 設備は、現在改修中であり、2012 年 1 月 25 日から運用開始予定である
運用形態は、3 交代制の 24 時間勤務となる
・既設 VTS 設備は、船舶のアンカーポジション監視が主目的とされている
・既設 VTS 設備のオペレーション業務は 24 名で行っている
(1グループ 3 名の 4 つのグループを形成し、2つのセンターに勤務している)
・ホーチミン MA、ドンナイ MA、ブンタウ MA は主要航路監視のための情報連携(共有)が必要であり、
MA 同士の情報交換を行いたいとの要望があった
・サイラップ航路は、ホーチミン MA が管理を行う
・湾曲部分や狭域での小型船舶(AIS 非搭載船)との接触事故も多発しているため、小型船舶の監視を
非常に重要視している
・サイゴン港付近、湾曲部分、狭い場所等では CCTV 設備の導入を希望している
・サイゴン港付近、湾曲部分、サイラップルート河口等には VTS 設備の導入を希望している
・夜間航行に関しては、同 MA に入港前の事前連絡を受けることになっている
・内航船の動向把握のために、中部地域の MA との情報交換も必要と考える
・収集した船舶の事故情報は、周辺船舶への通知及び、Web での情報公開も行っている
・海軍艦船の入港の際は、Vinamarine へ電話連絡している
・既設 VTS 設備のオペレータ訓練は、1 グループ3名とし、うち 1 名はスーパバイザーとして経験者を
充てている
(スーパバイザーはシンガポールで訓練を積み、他のオペレータは 1 年間海上教育を行なっている)
・今後 VTS 設備が増えた場合は、オペレータを増員することも考えている
3-53
写真 3.3-4 ホーチミン MA:全景 / 出典:調査団撮影
3-54
d-5
ブンタウ MA
以下に、ブンタウ MA からのヒアリング事項と、MA の写真を写真 3.3-5 に示す。
・ ブンタウ MA のスタッフは全員で 70 名であり、VHF コントロール要員は 13 名である
・VHF のオペレーション業務は2名における3交代制 24 時間勤務となる
・当 MA は、1 日に 100 隻以上の入出港船舶がある
・当 MA の海難レスキューは大きな事故のみ取り扱う
・VTS 設備の重要性としては以下の7つ要因が挙げられる
- 全国の約 60%の入手港数の多さがあること
- 取扱貨物量が多いこと
- ブンタウ付近は湾曲した河川航路であること
- 漁船や小型船(カヌー)が航路上に多いこと
- 貨物の中継載せ替え港であること
- 大きな港湾に関しては、VTS 設備を導入する国際ルールがあること
- 事故が非常に多いこと
・ホーチミン MA、ドンナイ MA は、船舶情報を午後 14 時 30 分までに、当 MA に FAX で連絡してくる
・カイメップ・チーバイは、当 MA の管轄である
・ホーチミン MA の VTS 設備の情報は、同じ航路上にあるため情報共有したい
・北部地域 MA、中部地域 MA における VTS 情報は必要としない
・事故における監視記録を残すため、CCTV 設備の導入を要望している
写真 3.3-5 ブンタウ MA:全景 / 出典:調査団撮影
3-55
d-6 南部ベトナム海上保安会社 (Vietnam Maritime Safety Agency in South:VMS-South)
以下に、南部ベトナム海上保安会社からのヒアリング事項と、全景写真を写真 3.3-6 に示す。
・同社のスタッフは全員で 200 名である
・4 隻の船と高速艇 17 隻を所有している
・同社の管轄区域はベトナム中部下部から南部、島々などである
(管理している航路は 17 チャンネル)
・航路の整備と航路設備(灯台、ブイ、ビーコン)の維持・管理も行っている
・同社の業務として漁船への警告や、水先案内人のサービス、海上での捜索救助も行っている
・各 MA に事故情報を連絡する(遭難救助する機関は政府が指示する)
・航路上で工事がある場合は、警告と案内を行う
・灯台、ブイ、ビーコン設備は、モニタリングシステムを完備している
・設備監視のために(灯台、ビーコン等)AIS Base Station を設置している
(将来は、2、3 カ所を増設予定である)
・電子海図の作成と、ルート計画を実行している
・Vinamarine から要請により、遭難救助の訓練やルート以外の事故対応を行う
写真 3.3-6 南部ベトナム海上保安会社全景 / 出典:調査団撮影
3-56
d-7 サイゴン港会社
以下に、サイゴン港会社からのヒアリング事項と、ターミナルの写真を写真 3.3-7 に示す。
・サイゴン港会社は、165 年の歴史を持つ会社である
・4つのターミナルエリア(ニャロン、カンホイ、タントン1、タントン2)を所有する
・ニャロン、カンホイは、現在 1 つになっており、長さ 1733m、3 万トンの船舶が入港可能である
・タントン1は、長さ 709m で 3 万 5,000 トンまで入港可能である(現在 4 万 5,000 トンの船舶が入港
できるような拡張を計画している)
・タントン2は、長さ 222m、2万トンの船舶が入港可能
・ニャロンとカンホイは、サイラップ航路のヒエップ(HIEP)港へ移る計画がある
(ヒエップ付近には工業団地建設予定)
・タントン1、2は、環境重要視のため観光用として残る
・各 MA に VTS 設備が導入された場合、情報共有を行いたい
・環境汚染の可能性や衛生面の確認のため、船舶の積荷情報が必要である
写真 3.3-7 サイゴン港会社:ターミナル全景 / 出典:調査団撮影
3-57
e.
データセンター形態検討結果
“表 3.3-3 データセンターの相対的なコスト比較”及び、関係機関とのヒアリング結果におい
て、データセンター構想はケース C で行うこととする。
また、データセンター設備設置場所を、現在 Vinamarine 本部としているが、将来には本データ
センターが独立した機関となる可能性もある。
(過去には、SAR や海岸局(Coast Radio Station)等
独立した機関になったケースも存在する。)
3-58
f.
海上ルート視察(ホーチミン港からブンタウ港まで)
高速水上艇にて、ホーチミン港からブンタウ港までの、視察について以下に記す。
事前に実施したホーチミン MA のヒアリング結果について、目視確認を行った。
ホーチミン港よりブンタウ港までは航路総距離約 78km であり、高速水上艇での所要時間は約 90 分であっ
た。航路図を図 3.3-7 に示す。
A:サイゴン旅客ターミナル(ホーチミン)
・サイゴンポート上流にある旅客ターミナルより乗船
写真 3.3-8 高速水上艇 / 出典:調査団撮影
3-59
B:係留状況
・サイゴンポート周辺には係留エリアが川沿いに配置されている。
・川幅 400m 程度をさらに狭くしている。
写真 3.3-9 係留エリアを望む / 出典:調査団撮影
C:合流変針ポイント
・本流(川幅約 1.5km)との合流ポイントでは、停船-後退により変針。
・周囲船舶を注視しつつ、大幅な船首回頭が必要。
・この合流ポイントでは事故が多発し、輻輳地帯でもある。
D:北ルート変針ポイント
・小型船用の北側ルートに入る。
・川幅は 600m とかなり狭くなる為、停船-後退により変針。
・川幅はどんどん狭くなっていく。
E:狭域ポイント
・北側ルートで最も川幅(約 150m)が狭い地域となる。
・ここより川岸は林地帯となり、90 度の変針が必要な場所もある。
・ホーチミンにおける既設 VTS のレーダ不感帯がある。
・接触事故多発地帯。
3-60
図 3.3-6 北側ルートの狭域地帯
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
F:南ルートとの合流ポイント
・大型船用南側ルートとの合流の為、周囲注視が必要。
・今回乗船した高速海上艇では、この地点にて一時停船していた。
G:南ルート
・大型船は南側ルートの航路が設定されている。
・川幅は約 500m 前後が続くが、約 300 度の回頭箇所があり難所とされている。
H:高速操船エリア
・川口部に入ると高速水上艇は高速操船となる。
・比較的安心な操船エリアである。
I:漁船停泊エリア
・ブンタウ港周辺には漁船が集結している。
・入港に際しては周囲の注視が必要である。
3-61
写真 3.3-10 ブンタウ港周辺を望む / 出典:調査団撮影
ホーチミン港-ブンタウ港は生活航路でもあり、乗船者数も多い。
この間を陸路で移動するのは非効率的であり、短時間で移動できる重要な交通手段ではあるが、航路は
安全とは言えない。
ホーチミンエリアでは、貨物船と旅客船、さらに漁船などの往来が激しく、ホーチミン MA もこのルート
に関しては監視を強化している。
従い、シームレスなレーダ監視網の構築、ホーチミン MA とブンタウ MA 間の情報共有等、広域に渡る管
理の重要性と VTS 統合管理システムの必要性が感じられた。
3-62
図 3.3-7 ホーチミン-ブンタウ航路図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3-63
3.3
提案プロジェクトの内容:サイトおよび事業費の検討結果
プロジェクト整備対象の港湾地域に関して、レーダサイト等の設置について机上検討を
行った。主要設備の概略配置およびシステム構成図を以降に示す。
但し、机上における検討であるため、実際の設置においては、設置場所の使用条件や電
源設備などを加味した詳細設計にて、最終決定する必要がある。
a.
レーダサイトの設置指針
レーダサイトの設置場所の検討においては、各対象船舶の大きさに対するレーダ探知距
離を考慮する必要がある。レーダの探知距離は、船舶の大きさにより異なってくる。(小
型船を対象にするほど探知範囲は狭くなる)
また、レーダ波は障害物に対して回り込みによる到達は期待できず、見通しでの検知と
なる。送信機出力を 25kw、アンテナ長を 18ft、アンテナ設置高を海抜 50m とすると、対象
船舶(トン)における探知距離(NM)は概ね下記に示すものとなる。
10
トン(FRP 船)
:
7 NM
10 トン
:
10 NM
100 トン
: 17 NM
100 トン
:
23 NM
ベトナムにおける港湾の運用は、屈曲した河川に設置された河川港とする場合が多く、
浅水深における小型船舶の航行が主である。従い、10 トンクラスの船舶検知を重視し、レ
ーダ探知距離(7 NM ~10 NM)を可能とする設置位置を選定した。また、河川港における
レーダの検知範囲は、河川形状に合わせた直線解析にて見通し範囲を決定した。ホーチミ
ン MA の既設 VTS レーダ設備は、山頂に設置され、広範囲をカバーするものであり、大型船
を探知対象船としている。従い、本検討においては既設設備における不感地帯ならびに、
船舶事故(接触)頻度の高い河川エリアをカバーすることとし、既設設備との連携を図る
ものとした。
b. AIS サイトの設置指針
AIS は VHF 波による伝搬であり、電波の回り込み効果がある。
本調査では、一般的な VHF 波到達範囲は 40 NM であること、また、レーダサイトの施設流
用(アンテナ設置高は海抜 50m)を考慮し、レーダサイトを選定した。また、AIS 設置につ
いては、隣接する MA 管理局区域の AIS 情報が受信可能な場所とした。
c.
自営回線での伝送路指針
3- 64
VTS/AIS サイトと MA 管理局間における情報伝送路は、安定性を重視した自営回線での構
築を基本指針としている。マイクロ波における伝送を採用し MA への確実な情報伝達を保証
することとしている。MA で収集した情報の共有については、国内におけるインターネット
回線を利用し、VPN の採用により秘匿性を確保することとした。
d.
港湾開口部での設置指針
港湾開口部における VTS/AIS の設置場所の選定では、沖待ちエリアや入出港航路の監視
を重視することとした。また、港湾開口部に VTS/AIS 設備を設置することにより、ベトナ
ム沿岸における航行船舶の監視も実現し、将来、すべての港湾群に VTS 設備が設置された
場合のシームレスな監視構築を目指す事とした。
3- 65
3.3.1
整備の概要
2015 年及び、2020 年迄に本プロジェクトにより、船舶関連情報の収集および、提供が
可能となる範囲をそれぞれ以下の図に示す。
また、レーダサイト等の施設配置の検討結果、及びこれに基づく概略機器構成を地域毎
に示す。
図 3.3-8 2015 年までの整備対象範囲
200km
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3- 66
図 3.3-9 2020 年までの整備対象範囲
200km
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3- 67
3.3.2 ホンガイ地域
ホンガイ地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-10 に示す。対象港を紫の四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA を橙色
の丸で示す。
図 3.3-10 ホンガイ地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3-
67
図 3.3-11 ホンガイ地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
68
3.3.3 ハイフォン地域
ハイフォン地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-12 に示す。対象港を紫の四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA を橙
色の丸で示す。
図 3.3-12 ハイフォン地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3-
69
図 3.3-13 ハイフォン地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
70
3.3.4 ダナン地域
ダナン地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-14 に示す。対象港を紫の四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA を橙色の
丸で示す。
図 3.3-14 ダナン地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3-
71
図 3.3-15 ダナン地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
72
3.3.5 ブンタウ地域
ブンタウ地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-16 に示す。対象港を紫の四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA を橙色
の丸で示す。
図 3.3-16 ブンタウ地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3-
73
図 3.3-17 ブンタウ地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
74
3.3.6
ホーチミン地域
ホーチミン地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-18 に示す。対象港を
紫の四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA を橙色の丸で示す。
図 3.3-18 ホーチミン地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3- 75
図 3.3-19 ホーチミン地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
76
3.3.7 ギソン地域
ギソン地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-20 に示す。対象港を紫の
四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA を橙色の丸で示す。
図 3.3-20 ギソン地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3- 77
図 3.3-21 ギソン地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
78
3.3.8 ゲアン地域
ゲアン地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-22 に示す。対象港を紫の
四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA を橙色の丸で示す。
図 3.3-22 ゲアン地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3- 79
図 3.3-23 ゲアン地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
80
3.3.9 ソドン・ブンアン地域
ソドン・ブンアン地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-24 に示す。対象港を紫の四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA
を橙色の丸で示す。
図 3.3-24 ソドン・ブンアン地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3-
81
図 3.3-25 ソドン・ブンアン地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
82
3.3.10
ズゥンクアット地域
ズゥンクワット地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-26 に示す。対象港を紫の四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA
を橙色の丸で示す。
図 3.3-26 ズゥンクアット地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3-
83
図 3.3-27 ズゥンクアット地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
84
3.3.11
クイニョン地域
クイニョン地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-28 に示す。対象港を
紫の四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA を橙色の丸で示す。
図 3.3-28 クイニョン地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3- 85
図 3.3-29 クイニョン地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
86
3.3.12
バンフォン地域
バンフォン地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-30 に示す。対象港を
紫の四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA を橙色の丸で示す。
図 3.3-30 バンフォン地域:レーダサイト等配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3- 87
図 3.3-31 バンフォン地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
88
3.3.13
ニャチャン・カムラン地域
ニャチャン・カムラン地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-32 に示す。
対象港を紫の四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA を橙色の丸で示す。
図 3.3-32 ニャチャン・カムラン地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3- 89
図 3.3-33 ニャチャン・カムラン地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
90
3.3.14
ビンタン地域
ビンタン地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-34 に示す。対象港を紫の四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA を橙色の丸で示
す。
図 3.3-34 ビンタン地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3-
91
図 3.3-35 ビンタン地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
92
3.3.15
クガ地域
クガ地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-36 に示す。対象港を紫の四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA を橙色の丸
で示す。
図 3.3-36 クガ地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3-
93
図 3.3-37 クガ地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
94
3.3.16
ドンナイ地域
ドンナイ地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-38 に示す。対象港を紫
の四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA を橙色の丸で示す。
図 3.3-38 ドンナイ地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3- 95
図 3.3-39 ドンナイ地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
96
3.3.17
カントー地域
カントー地域におけるレーダサイト等の施設配置を図 3.3-40 に示す。対象港を紫
の四角で、レーダサイトを赤、センターとなる MA を橙色の丸で示す。
図 3.3-40 カントー地域:レーダサイト等の配置計画図
出典:GoogleMap を基に調査団にて作成
3- 97
図 3.3-41 カントー地域:システム構成図
出典:調査団作成
3-
98
3.4 サイト別設備
以下に、整備対象となる各 MA 地域の設備イメージを参考として示す。
(1)VTS/AIS サイトおよび中継局
VTS/AIS サイトの設備イメージ図を図 3.3—42 示す。
図 3.3-42 VTS/AIS サイトイメージ図
出典:調査団作成
レーダ等設置のため地上高 30m程度の鉄塔を立てる場合、必要な敷地面積としては、
200 ㎡、機器収納のための局舎スペースとして約 50 ㎡程度を確保するものとする。
3- 99
(2)センター設備
センター設備の配置イメージを図 3.3—43 に示す。
図 3.3-43 センター設備イメージ図
出典:調査団作成
VTS/AIS のオペレーションコンソールおよび通信装置等を収納する機器室等のため、ス
ペースとして約 100 ㎡程度を確保するものとする。
また、フェーズごとに必要な設備の数量を表 3.3-4 および表 3.3-5 に示す。
3- 100
表 3.3-4 港湾地域別サイト毎設備数量表(フェーズⅠ)
VTS/AIS サイト及
地域
び中継局
データセンター
設備
ホンガイ港
Hon Gai
2
-
ハイフォン港
Hai Phong
5
1
ダナン港
Da Nang
1
1
ブンタウ港
Vung Tau
4
-
ホーチミン港
TP.Ho Chi Minh
3
1
Vinamarine 本局
Vinamarine headquarters
1
出典:調査団作成
表 3.3-5 港湾地域別サイト毎設備数量表(フェーズⅡ)
VTS/AIS サイト及
地域
び中継局
データセンター
設備
ギソン港
Nghi Son
4
-
ゲアン港
Nghe An
3
-
ブンアン港
Vung Ang
4
1
ズゥンクアット港
Dung Quat
3
-
クイニョン港
Quy Nhon
2
-
バンフォン港
Van Phong
3
-
ニャチャン港
Nha Trang
3
1
ビンタン港
Vinh Tan
1
-
クガ港
Ke Ga
3
-
ドンナイ港
Dong Nai
4
-
カントー港
Can Tho
4
1
Vinamarine 本局
Vinamarine headquarters
出典:調査団作成
3- 101
1
3.5 事業費総計
本プロジェクトの整備事業費総括表を表 3.3-6 および表 3.3-7 に示す。
フェーズⅠでの概算事業費は、48 億 6,200 万円(円換算現地通貨分3億 8,700 万円)
およびフェーズⅡでの概算事業費は、108 億 3,700 万円(円換算現地通貨8億 3,500 万
円)となる。
表 3.3-6 フェーズⅠ 整備事業費 総括表
No.
1
名称
(1,000 円)
(1,000 VND)
1.1
ホンガイ港
Hon gai
\481,500
1.2
ハイフォン港
Hai Phong
\990,500
1.3
ダナン港
Da Nang
\418,500
1.4
ブンタウ港
Vung Tau
\810,500
1.5
ホーチミン港
TP.Ho Chi Minh
\704,500
1.6
Vinamarine 本局
Vinamarine headquarters
\139,400
計
\3,544,900
2
建設工事費
3
据付調整、検査、竣工処理
4
訓練及び保守支援
92,914,271
合
\460,700
\54,000
計
(1-4)
コンサル費用
合 計
6
現地通貨
船舶航行管理システム
小
5
外貨
(1-5)
予備費 ( 合計 (1-5)の 5% )
総計
事業費総計 (円換算 単位:千円)
\4,059,600
92,914,271
\202,980
4,645,713
\4,262,580
97,559,984
\213,129
4,877,999
\4,475,709
102,437,984
\4,475,709
\386,558
\4,862,267
事業費総計 (ドル換算 単位:千ドル)
US$57,381
US$4,956
US$62,337
出典:調査団作成
US$ = ¥78
3- 102
¥1= 265VND
表 3.3-7 フェーズⅡ 整備事業費 総括表
No
地域
1
(\1,000 )
(1,000 VND)
1.1
ギソン港
Nghi Son
\830,500
1.2
ゲアン港
Nghe An
\667,500
1.3
ブンアン港
Vung Ang
\910,500
1.4
ズゥンクアット港
Dung Quat
\534,500
1.5
クイニョン港
Quy Nhon
\481,500
1.6
バンフォン港
Van Phong
\790,500
1.7
ニャチャン港
Nha Trang
\507,500
1.8
ビンタン港
Vinh Tan
\467,500
1.9
クガ港
Ke Ga
\750,500
1.10
ドンナイ港
Dong Nai
\767,500
1.11
カントー港
Can Tho
\867,500
1.12
Vinamarine 本局
Vinamarine headquarters
\85,500
2
建設工事費
3
据付調整、検査、竣工処理
4
訓練及び保守支援
\7,661,000
200,800,088
\1,210,084
\100,417
Total (1-4)
コンサル費用 (5%)
Total (1-5)
6
現地通貨
船舶航行管理システム
合計
5
外貨
予備費 (5% of Total (1-5)
総計
事業費総計 (円換算 単位:千円)
\8,971,501
200,800,088
\554,744
10,040,004
\9,526,245
210,840,092
\476,312
10,542,004
\10,002,557
221,382,097
\10,002,557
\835,404
\10,837,961
事業費総計 (ドル換算 単位:千ドル)
US$128,238
US$10,710
US$138,948
出典:調査団作成
US$ = ¥78
3- 103
¥1 = 265VND
3.6 提案技術(システムを採用するにあたっての課題およびその解決策)
レーダステーションと MA がデータ通信を行うためには、マイクロ回線等で回線構築を行
う。但し、マイクロ回線の場合、無線 LAN などの ISM バンド周波数帯とは異なり、利用た
めには、周波数認可を受ける必要がある。マイクロ回線の周波数認可が下りない場合は、
代替え回線構築として、光ファイバー回線の利用を考慮する必要がある。
このため、使用するマイクロ回線の周波数の認可については、システム導入時期に合わ
せて早期申請を行う必要がある。
3.6.1
VTS/AIS 及び環境 GIS の整備拡充計画における蓋然性
VTS(船舶航行システム)は、IMO 決議 A.857(20)のガイドラインで、主要機能が定義
されている。また、AIS においても IEC にて仕様が国際的に定義されており、日本で納入実
績のあるシステムは仕様に準拠している。このため、国外における導入に関しても、国際
ルールに従った設備構築であるため、問題点は存在しない。
VTS や AIS など海洋情報に関しては、必ず「海図」と「位置」により表示される。陸上に
おける位置情報は、カーナビや地図サイトに代表されるように GIS を採用しており、ユー
ザへの利用浸透も深いものとなっている。
従来の VTS/AIS による安全安心を目的とした港湾管理の整備拡充計画は、ベトナム政府
承認のマスタープランに記載されているとおりで、統括組織を Vinamarine と記載されてい
る。
また、ベトナム国内の多くの機関は、港湾管理設備として導入する VTS/AIS の各種情報
の共有を要望している。
・船舶交通量や交通流情報における航路設計業務機関への支援
・船舶動静情報における救難救助業務機関への支援
・海上施設情報(航路標識など)における海上施設管理業務機関への支援
・船舶動静と気象海象情報における世界遺産保護業務機関への支援
・船舶動静と気象海象情報における海運運航管理業務機関への支援
・海難事故情報における船舶登録管理業務機関への支援
上記支援システムを構築する Vinamarine のセンター設備は、ベトナム国内のネットワー
ク整備拡充においても有効であり、政府方針に沿うものと判断できる。また、Vinamarine
は、これらの情報を民間企業へ配信する新たなサービス業務の確立も視野に入れている。
3- 104
3.6.2
運用保守体制の提案
本プロジェクトで整備する施設は、下記のように要員を想定する。
1)VTS/AIS サイトおよび中継局は、原則として無人で運用する。
2)VTS/AIS は、各地域についてオペレータ2名、監督者1名を4交代勤務で運用す
るものとし、管理者1名を置く。13 名構成で、フェーズⅠは、5地域、計 65 名、
フェーズⅡは、11 地域、計 143 名となる。
3)データセンター設備は、フェーズⅠで Vinamarine 内に4交代のスタッフ2名お
よび管理者2名の計 10 名を置くものとする。フェーズⅡでの増員は生じないも
のとする。
ただし、港湾の規模等により、若干の要員の多寡が生じるが、詳細検討の段階で定める
ものとする。今回、調査を行った MA では、24 時間対応のオペレータが 10 名程度勤務して
おり、これは各 MA の要員の約5~8%程度である。VTS/AIS 整備時には、これらの要員に対
して教育訓練を実施し、現在の MA の中で運用保守要員を割り当てるものとする。
表 3.3-8 要員計画(フェーズⅠ)
地域
VTS/AIS
データセンター設備
65 名
-
ホンガイ・ハイフォン・ダナン・
ブンタウ・ホーチミン
Vinamarine 本局
合計
-
10 名
65 名
10 名
出典:調査団作成
表 3.3-9 要員計画(フェーズⅡ)
地域
VTS/AIS
データセンター設備
ギソン・ゲアン・
ブンアン・ズゥンクアット・クイニョ
ン・バンフォン・ニャチャン・ビンタン・
143 名
-
-
-
クガ・ドンナイ・カントー
Vinamarine 本局
合計
フェーズⅠおよびⅡ
総計
143 名
-
208 名
10 名
出典:調査団作成
3- 105
これら施設の保守は、運用者(ユーザ)によるセルフメンテナンス及び、保守要員によ
るもの、の2種類がある。セルフメンテナンスは、運用者での日常点検および現地技術者
にて対応可能である。 一方、レーダ設備等、専門技術を必要とする機器については、運用
に支障が無い様、現地においても基本的な保守体制を確立しておく必要がある。
3.6.3
訓練計画
MA 等で、VTS/AIS 設備を長期的に運用及び、保守していくためには、高度な技術を持っ
た技術者の配置を行うべきであり、技術者養成を含めた訓練制度を確立する必要がある。
整備計画では、設備の導入にあわせて、技術者の養成、関係職員の研修、教育訓練、保守
メンテナンス部品の調達管理等の管理体制を確立し、詳細スケジュールが策定されるもの
とする。
日本においては、港湾監視設備の先進事例が多数あり、VTS/AIS 設備の運用及び、保守に
関わる人材も多く、技術研修を実施するには適した環境にある。よって、対象となる MA の
技術者に対し、スーパバイザー育成を目的とした教育訓練を日本で実施し、運用及び保守
に対応できる要員の育成計画を立案するものとする。
3- 106
第4章
環境社会的側面の検討
1.環境社会面における現状分析
ベトナムの主要港は、中部を除きメコンデルタ、紅河デルタ内の河川沿い又は河口に発達し、
大型船舶航行が限られバージ船などによる積み替え輸送が行われている。また、港湾へのアクセ
スのための水路などが非常に狭く、航行する船舶相互間の衝突、浅瀬乗りあげなど、わが国の港
湾に比べても海難事故が発生しやすい環境条件にある。このような海難事故は、海洋環境にも影
響を及ぼす。表4-1に最近ベトナムの領海で発生した、あるいはベトナム国籍船が関与した海
洋汚染を示す。
表4-1 ベトナム領海・ベトナム国籍船が関与した海洋汚染
日付
位置
流出油
石油の量(トン)
1989 年 8 月 10 日
クイニョン
燃料油
200
1992 年 11 月 26 日
バクホー
原油
700
1993 年 9 月 20 日
ブンタウ
燃料およびディーゼル油
200
1994 年 5 月 8 日
サイゴン
燃料油
130
1994 年 10 月 3 日
カットライ
ディーゼル油
1,850
1996 年 1 月 27 日
カットライ
ディーゼル油
72
1998 年 8 月 16 日
ニャーベ
ディーゼル油
180
2001 年
ガンライ
燃料油
900
出典:東南アジア海事専門家会議資料
表4-2にベトナムでの海難事故の発生状況を示す。
表4-2 ベトナム領海・ベトナム国籍船が関与した海難事故統計
年
2006
2007
2008
2009
寄航商船数(隻)
21,987
26,830
29,715
15,652
登録漁船数
21,232
21,552
22,729
24,990
遭難救援依頼数
197
244
236
222
遭難件数
13
17
13
42
救助船隻数
20
38
29
38
寄航商船当たりの遭難件数
0.06%
0.06%
0.04%
0.27%
2010
38,097
25,346
249
128
40
0.34%
出典:ベトナム統計局資料及びベトナム海難救助調整センター情報等に基づき調査団にて作成
また、図4-1では、主要港湾への商船寄港数及び主要港湾に登録された漁船数を棒グラフに、
表4-2で示した遭難件数、救助船隻数、遭難救助依頼数を折れ線グラフで、それぞれ示した。
この図から、近年、寄港船隻数の増加に伴い、遭難件数が急増していることがわかる。
4-1
図4-1 商船寄港隻数・漁船数と海難事故の推移
45,000
寄港隻数/漁船数
件数/隻数/依頼数 300
40,000
250
35,000
30,000
200
25,000
150
20,000
100
15,000
寄航商船数(隻)
登録漁船数
遭難件数
救助船隻数
遭難救援依頼数
10,000
50
5,000
0
0
2006
2007
2008
2009
2010
出典:ベトナム統計局資料及びベトナム海難救助調整センター情報等に基づき調査団作成
2020 年あるいは 2030 に向けて取扱貨物量の大幅な増大が想定されており、本事業が実施され
ない場合、今後も海難事故件数は増加し、ベトナム沿岸の海洋環境への影響が懸念される。
2.プロジェクトの実施に伴う環境改善効果
本事業で設置する VTS は、AIS 基地局とレーダを主なセンサとして、管理対象海域の船舶航行
情報等を統合処理しレーダ画面上で一元管理をおこない、船舶の航行安全、港設備の効率運用に
有効な情報を船舶、港湾管理者、航路管理者に提供するものである。また、港湾内の作業船(タ
グボート、パイロットボート等)の運行状況の把握、バース使用状況、船舶の詳細情報等を登録
可能なデータベースとも統合処理され、港湾管理に必要な情報も管理者に提供する機能を有する。
さらに、GIS を搭載することで、地図上に管理対象水域・水路の地理情報、他船舶の航行情報を
展開することも可能となる。つまり、VTS/AIS の機能は、港湾管理者にとって効率的な港湾施設
の利用、航路管理者にとって航路の安全確保、船舶にとっては航行中の船舶相互、浅瀬乗り上げ
等事故防止、および計画的な運行管理の最適航行による燃料消費削減にある。
本プロジェクトで期待される効果は、主に次の4点である。
1)港湾の貨物取扱処理能力の強化
2)寄航予定港混雑状況および航路条件を加味した船舶の最適航行による燃料消費削減
3)狭隘航路・港湾、近海における船舶事故の削減
4)さらに、波及効果として、監視区域内での不審船の早期発見なども期待でき、このよう
な観点から海洋での不法投棄などの抑止効果
港湾施設の貨物取扱能力の強化は、複数の要素から構成される。ハード面では、港湾施設(船
舶停泊埠頭の水深、埠頭までの水路要件、埠頭数・面積、クレーン台数、倉庫群、アクセス道路
4-2
等)、ソフト面では、円滑な貨物の積み上げ積み下ろし処理としての輸出入・税関・検疫等各種
手続や、入港に際した水先案内人制度の簡素化が挙げられる。
これらの要素のそれぞれが、見込まれる入港船舶隻数および取扱貨物量を満たす場合に、遅滞
のない物流拠点として機能することになる。本事業で導入される VTS/AIS システムがこの能力強
化という観点から貢献する要素は、埠頭までのアクセス水路および利用埠頭の効率的な利用への
貢献であり、船舶の埠頭・水路利用待ち時間の短縮につながるものである。ただし、この貢献の
程度は、港湾の状況(港湾埠頭数、アクセス水路距離、貨物量)で大きく異なるため、一律に待
ち時間短縮効果を算出することは困難である。また、寄港船舶数の集中度でもその効果も大きく
異なるため、ここでは待ち時間の短縮効果による船舶の燃料消費量等、本事業の効率面および環
境面への定量的な効果分析は行わない。
一方、VTS/AIS システムに GIS 航行支援アプリケーションを搭載し、航路気象・海流および寄
港地混雑情報を付加するとともに、船舶側ではこれに対応した端末を搭載することで、航行船舶
の最適航路・スケジュール・設定、さらに寄港地での沖待ち日数の削減が可能となる。東京海洋
大学等の報告によれば、わが国近海で行った実証実験では、同装置を利用し最適航路をとる場合、
航行船舶の燃料消費が平均5%削減できるとの実験結果を得ている。船舶側での端末装備が準備
されれば、航行船舶の CO2 排出量は5%程度削減できることになる。ただし、最適航路の選定は
船主に依存し、かつ本事業の提供範囲は船舶側の端末設備を含まず、環境に与える影響は現段階
では考慮できない。つまり、本事業の実施によりベトナムに寄港する船舶に対し、航行船舶燃料
削減機会を与えるものの、実際に CO2 削減には結びつかず、クリーン開発メカニズム(Clean
Development Mechanism:CDM)の適用可能性はない。
一方、日本の海難事故(要海難救助発生)件数は、その 95%が沿岸から 40km 圏内で発生して
おり1、これは、航行船舶密度の高い海域ほど事故の発生確率が高いことを示している。また、貨
物・タンカー・旅客船事故率に注目すると、わが国では航路安全確保施設・システムが完備して
いることから、2000 年以降で漁船やプレジャーボートなどを含む港湾入出港数の概ね 0.05%程度
2
で推移している。
ベトナム港湾協会(Vietnam Port Association)の港湾統計の入出港船舶数に、この 0.05%を
適用すると、事故発生件数は、年間 20 件程度となり、2009 年以降事故発生件数が急増している。
つまり、ベトナムでの海難事故発生件数は、海洋航路識別等の設備の完備とともに、年間 20 件
程度にまでの抑制が期待できる。
また、海洋環境保全の面では、本システムの導入により船舶航行状況の正確な把握、不審船の
監視能力は強化されるものの、船舶からの不法投棄や海難事故などによる海洋汚染の件数の削減
には直接的には結びつかないと思われる。ただし、Vinamarine 及び港湾関係者は、船舶航行管理・
監視能力強化により航行船舶の不法投棄等に対する抑止力、海難事故の早期発見、事故発生後の
迅速な措置等、迅速な遭難救難活動や海洋汚染拡大防止措置をとることが可能となる。
1
わが国海上保安庁 2010 年度統計資料によると、要海難救助発生件数は、漁船一般船舶合計で 1,875 件、内 83%
が沿岸から3海里(約 5.6km)以内で発生しており、沿岸から 20 海里(約 37km)以内は 95%となっている。また総
トン数5トン未満が 70%、500 トン未満で 94%(漁船だけの場合 100%)と、小型船舶に海難事故が多い。
4-3
3.プロジェクトの実施に伴う環境社会面への影響
3.1 本調査で次の段階で必要となる環境社会配慮項目
本事業実施に伴う周辺環境に与える影響はほとんどなく、JICA「環境社会配慮ガイドライン」
では、カテゴリーCに分類される。
なお、本事業実施に必要なチェック項目と本調査時点におけるその結果を次の項目1から 10
に示す。
項目 1:プロジェクトサイトの所在地
本調査において選定した本事業のために新たに局舎が必要となる地域は、主要港湾である
ホンガイ(Hon Gai)、ハイフォン(Hai Phong)、ギソン(Nghi Shon)、ゲアン(Nghe An)、ソン
ドン(Son Duong)-ブンアン(Vung Ang)、ダナン(Da Nang)、ズゥンクワット(Dung Quat)、ク
イニョン(Quy Nhon)、バンフォン(Van Phong)、ニャチャン(Nha Trang)-カムラン(Cam Ranh)、
ビンタン(Vinh Tan)、ケガ(Ke Ga)、ブンタウ(Vung Tau)、ドンナイ(Dong Nai)、ホーチミ
ン (Ho Chi Minh)、カントー(Can Tho)の各港の周辺に合計 49 箇所のレーダサイト(住所は
ANNEX-5 を参照)
項目 2.プロジェクトの規模・内容(概略開発面積、施設面積、生産量、発電量等)
2-1 プロジェクトの規模・内容
・ ベトナム主要港湾周辺 49 箇所にレーダサイトの建設(レーダサイト1箇所当たり 200
~300 ㎡の敷地整備、機械棟(床面積 100 ㎡)および鉄塔(地上高 30m)を建設)
・ Vinamarine 及び傘下の港湾管理局の事務所、港湾施設内に VTS 及び AIS システムを設
置
・ 狭隘航路や港湾輻輳対策が課題となる港湾を対象に、Vinamarine 及び傘下の港湾管理
局の事務所、港湾施設内に海洋環境 GIS を装備したナビゲーションシステムを設置
2-2 プロジェクトの必要性・上位計画
・ 首相府決定 No.: 2190/QD-TTg December 24th, 2009 (沿岸港湾システム開発計画)
DECISION ON: Approval on Planning for the development of Vietnam’s Seaport up
to 2020, orientating up to 2030
・ 首相府決定 Ref. 1166/QĐ-TTg July 14, 2011(船舶安全航行システム開発計画)
DECISION On approval to Project for development of maritime safety in Vietnam
up to 2020, orientation up to 2030
2-3 代替案
・ 次項②「提案したプロジェクトと他の選択肢」に記載
2-4 ステークホルダー協議の実施
・ ベトナム船主組合及び港湾関係者に実施、航行船舶の安全性の確保、遭難救助体制の
強化の観点から導入の必要性を確認
4-4
・ レーダサイト建設予定地は、用地確保の難易度、建設時の物理的な条件(商用電力確
保等)により変更する可能性が高いため、用地確保時に実施が必要である。
項目 3.事業実施に伴う現地住民からの苦情の想定
ホーチミン港湾当局が独自に試験的に導入されたことがある(自然災害により現在稼動
していない)が、現地住民より強い苦情等はない。
項目 4.環境アセスメント(EIA、IEE 等)の必要性
ベトナム国内法(2005 年改定環境保護法及び政令 No.140/2006/ND-C)により実施が必
要である。
項目 5.環境アセスメント以外の環境や社会面に関する許認可:不要
項目 6.事業対象地区及び周辺域の自然・社会環境
懸念される自然遺産、歴史文化遺産、動植物保護区域、少数民族居住地域等は存在し
ない。
項目 7.本事業による地域住民の生活環境への影響、森林破壊の可能性
大規模非自発的住民移転、大規模地下水揚水、大規模埋立、土地造成、開墾 、大規
模森林伐採 は発生しない。
項目 8.本事業の環境社会に対する望ましくない影響
影響を及ぼす可能性はない。
項目 9.現時点での事業の特定程度
本報告書により事業内容が特定されている。
項目 10.情報公開と現地ステークホルダーとの協議
ベトナム国内法(2005 年改定環境保護法及び政令 No.140/2006/ND-C)に基づき、現
地ステークホルダーとの協議も実施される。
なお、以上のチェック項目から、JICA の環境社会配慮ガイドラインで示されているチェックリ
スト一覧表を参考として、次段の調査で必要となる環境社会配慮チェックリスト一覧表(案)
を表4-3に示す。
4-5
表4-3
分
類
環境項目
チェックリスト一覧表(案)
Yes: Y
No: N
主なチェック事項
(a) 環境アセスメント報告書(EIA レポート)等は作成済みか。
1
許
認
可
・
説
明
2
汚
染
対
策
(1)EIA および (b) EIA レポート等は当該国政府により承認されているか。
環境許認可 (c) EIA レポート等の承認は付帯条件を伴うか。付帯条件がある場合は、その条件は満たされるか。
(d) 上記以外に、必要な場合には現地の所管官庁からの環境に関する許認可は取得済みか。
(2)現地ステー (a) プロジェクトの内容および影響について、情報公開を含めて現地ステークホルダーに適切な説明
クホルダー
を行い、理解を得ているか。
への説明
(b) 住民等からのコメントを、プロジェクト内容に反映させたか。
(3)代替案の検 (a) プロジェクト計画の複数の代替案は(検討の際、環境・社会に係る項目も含めて)検討されてい
討
るか。
(a) 対象となるインフラ施設及び付帯設備等から排出される大気汚染物質(硫黄酸化物(SOx)、窒素
酸化物(NOx)、媒じん等)は当該国の排出基準、環境基準等と整合するか。大気質に対する対策は
とられるか。
(1)大気質
(b) 宿泊施設等での電源・熱源は排出係数(二酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物等)が小さい燃料
を採用しているか。
(a) インフラ施設及び付帯設備等からの排水または浸出水は当該国の排出基準、環境基準等と整合す
(2)水質
るか。
(3)廃棄物
(a) インフラ施設及び付帯設備からの廃棄物は当該国の規定に従って適切に処理・処分されるか。
(a) インフラ施設及び付帯設備からの排水、浸出水等により、土壌・地下水を汚染しない対策がなさ
(4)土壌汚染
れるか。
3
(1)保護区
自
然
環
(2)生態系
境
(3)水象
N
次段階で作成される FS 調査と同時
に EIA 報告書が作成される
EIA 報告書で評価される
N
承認時、付帯条件を確認する
N
他に必要な許認可はない
N
EIA 報告書作成時実施される
N
Y
同上
環境への影響を最小限にとどめる
手段を選択している
N
設備等から放出される大気汚染物
質はない
N
宿泊施設は計画されていない
N
設備等からの排出水はない
N
設備等からの排出廃棄物はない
N
設備等からの排出水はない
N
N
N
工事時、必要な騒音・振動対策が採
られる。
地下水は利用しない
悪臭源はない
N
事業地域に当該保護区はない
N
事業地域に当該地域はない
N
事業地域に当該生息地はない
(c) 生態系への重大な影響が懸念される場合、生態系への影響を減らす対策はなされるか。
N
生態系に重大な影響は及ぼさない
(d) プロジェクトによる水利用(地表水、地下水)が、河川等の水域環境に影響を及ぼすか。水生生
物等への影響を減らす対策はなされるか。
(a) プロジェクトによる水系の変化に伴い、地表水・地下水の流れに悪影響を及ぼすか。
N
事業で水は利用しない
N
事業で水は利用しない
(5)騒音・振動 (a) 騒音、振動は当該国の基準等と整合するか。
(6)地盤沈下
(7)悪臭
具体的な環境社会配慮
(Yes/No の理由・根拠、緩和策等)
Y
(a) 大量の地下水汲み上げを行う場合、地盤沈下が生じる恐れがあるか。
(a) 悪臭源はあるか。悪臭防止の対策はとられるか。
(a) サイトは当該国の法律・国際条約等に定められた保護区内に立地するか。プロジェクトが保護区
に影響を与えるか。
(a) サイトは原生林、熱帯の自然林、生態学的に重要な生息地(珊瑚礁、マングローブ湿地、干潟等)
を含むか。
(b) サイトは当該国の法律・国際条約等で保護が必要とされる貴重種の生息地を含むか。
4-6
分
類
環境項目
Yes: Y
No: N
主なチェック事項
N
事業で用いる土地は居住地域から
離れた地区に 200~300 ㎡である
N
事業による住民移転はない
N
同上
N
同上
(d) 補償金の支払いは移転前に行われるか。
N
同上
(e) 補償方針は文書で策定されているか。
(f) 移転住民のうち特に女性、子供、老人、貧困層、少数民族・先住民族等の社会的弱者に適切な配慮がな
された計画か。
(g) 移転住民について移転前の合意は得られるか。
(h) 住民移転を適切に実施するための体制は整えられるか。十分な実施能力と予算措置が講じられる
か。
(i) 移転による影響のモニタリングが計画されるか。
N
同上
N
同上
N
同上
N
同上
N
同上
(j) 苦情処理の仕組みが構築されているか。
N
同上
N
地域住民に生活の変化はない
N
計画地域に該当施設は存在しない
N
計画地域で景観への影響はない
N
同上
N
地域住民の生活様式は変化しない
(b) 少数民族、先住民族の土地及び資源に関する諸権利は尊重されるか。
N
(a) プロジェクトにおいて遵守すべき当該国の労働環境に関する法律が守られるか。
Y
同上
通常の事務所ビルと同じ基準で建
設される
(b) 労働災害防止に係る安全設備の設置、有害物質の管理等、プロジェクト関係者へのハード面での
安全配慮が措置されるか。
Y
同上
(c) 安全衛生計画の策定や作業員等に対する安全教育(交通安全や公衆衛生を含む)の実施等、プロ
ジェクト関係者へのソフト面での対応が計画・実施されるか。
Y
同上
(4)地形・地質 (a) プロジェクトにより、サイト及び周辺の地形・地質構造が大規模に改変されるか。
4
(a) プロジェクトの実施に伴い非自発的住民移転は生じるか。生じる場合は、移転による影響を最小
限とする努力がなされるか。
(b) 移転する住民に対し、移転前に補償・生活再建対策に関する適切な説明が行われるか。
(c) 住民移転のための調査がなされ、再取得価格による補償、移転後の生活基盤の回復を含む移転計
画が立てられるか。
社
会
環
境
(1)住民移転
(a) プロジェクトによる住民の生活への悪影響が生じるか。必要な場合は影響を緩和する配慮が行わ
(2)生活・生計
れるか。
(a) プロジェクトにより、考古学的、歴史的、文化的、宗教的に貴重な遺産、史跡等を損なう恐れは
(3)文化遺産
あるか。また、当該国の国内法上定められた措置が考慮されるか。
(a) 特に配慮すべき景観が存在する場合、それに対し悪影響を及ぼすか。影響がある場合には必要な
対策はとられるか。
(4)景 観
(b) 大規模な宿泊施設や建築物の高層化によって景観が損なわれる恐れがあるか。
(5)少数民族、
先住民族
(6)労働環境
具体的な環境社会配慮
(Yes/No の理由・根拠、緩和策等)
(a) 少数民族、先住民族の文化、生活様式への影響を軽減する配慮がなされているか。
4-7
分
類
主なチェック事項
Yes: Y
No: N
(d) プロジェクトに関係する警備要員が、プロジェクト関係者・地域住民の安全を侵害することのな
いよう、適切な措置が講じられるか。
Y
環境項目
出典:調査団にて作成
4-8
具体的な環境社会配慮
(Yes/No の理由・根拠、緩和策等)
同上
3.2 提案したプロジェクトと他の選択肢
ベトナム政府は、近海・港湾海運の安全性・信頼性・効率性等の向上を目的とし、2009 年7
月 22 日、2010 年~12 年にかけ輻輳港湾および主要河川の航行監視システムを整備することを最
重要項目として正式に決定た。具体的には外国船が出入りする港湾に VTS/AIS システムを設置す
る こ と で あ る 。 こ れ は 「 海 上 に お け る 人 命 の 安 全 の た め の 国 際 条 約 ( The International
Convention for the Safety of Life at Sea:SOLAS 条約)」加盟国に対して、外国船舶が寄航す
る主要港湾には VTS/AIS システムの設置を義務づけるものであり、VTS/AIS システムに代わる選
択肢はない。
この政府決定に基づき Vinamarine は、日本の円借款による外国船が出入りする主要港である
ホンガイ、ハイフォン、ギソン、ゲアン、ソドン-ブンアン、ダナン、ズゥンクアット、クイニ
ョン、バンフォン、ニャチャン-カムラン、ビンタン、ケガ、ブンタウ、ドンナイ、ホーチミン、
カントーや主要河川(メコン川)等への船舶航行監視システムや船舶自動識別システムの構築を、
計画している。
具体的な本事業の概要は、次のとおりである。
・レーダサイトの建設
VTS および AIS を可能とするため、ベトナム国主要 18 港に合計 49 箇所のレーダサイトを設
置し、無線送受信所を併設する。
・ VTS および AIS の構築
VTS および AIS の情報を収集し、航行監視を行うためのセンターを主要港湾局に設置する。
・ 海洋環境 GIS を装備した航行監視システムの設置
カムファ、ハイフォン、カイラ、ホンガイ、ダナン、ドンナイ、ブンタウ、ホーチミンの主
要港及びメコン川では狭隘航路や港湾輻輳の克服が課題となっていることから、海洋環境
GIS を装備した航行監視システムを上記センターに設置する。
本事業では、極力既存港湾施設または港湾用通信施設を利用することとしているが、環境への
影響が懸念される項目として、49 箇所のレーダサイトで 200~300 ㎡の敷地整備、機械棟(床面積
100 ㎡)および鉄塔(地上高 30m)の建設が必要であり、これらのレーダサイトの敷地造成時、近隣
への騒音や土砂の流出が懸念される。
VTS/AIS システム採用は国際条約で規定されているため、他の選択の余地はないものの、レー
ダサイトの集約設置による環境負荷軽減が考えられる。つまり、レーダサイトを港湾近隣山上に
設置し、海上監視エリアを広く設定することで、合計 18 箇所まで削減可能である。しかし、18
広域監視エリアの設定では、各港湾の入出航水路や停泊海域全体全般を十分に管理することはで
きず、地形条件により監視不可能エリアが発生する。また、レーダサイトは、山上に設置するこ
とになり、新たに 200~300 ㎡の山頂整地、建設保守用専用道路の取り付けにより、逆に環境負
荷への影響が増大する。その検討結果を表4-4に示す。
4-9
レーダサイト数
49 サイト
18 サイト
表4-4 代替案の比較表
監視エリアへの影響
周辺環境への影響
完全監視
建設時敷地近隣への騒音
一部監視不可のエリア発生
山上整地及び保守用道路建設
による影響大
判定
○
×
出典:調査団にて作成
3.3 ステークホルダーからの直接情報収集の結果
本事業のステークホルダーとしては、海上海運管理者、港湾管理者、港湾利用者、海難救助機
関及び本事業の施設近隣の地域住民等が考えられる。港湾利用者であるベトナム船主組合、港湾
関係者、海難救助機関は、航行船舶の安全性の確保、遭難救助体制の強化の観点から導入の必要
性を確認している。他方、本事業で新規に設置が予定されるレーダサイト近隣の地域住民からは
実施していない。これは、サイトあたりの建設規模が小さく、レーダサイト建設予定地が用地確
保の難易度、建設時の物理的な条件(商用電力確保等)により現時点での候補地から他の場所へ
変更させることも可能なためである。
4.相手国の環境社会配慮関連法規の概要
ベトナム政府は、2005 年に環境保護法の全面的な改定を行い、戦略的環境評価(Strategic
Environmental Assessment : SEA)を導入した。環境法の改定および関連規則の制定スケジュー
ルは、次のとおりである。
1998 年 環境保護法制定
2005 年 環境保護法改定(以下「改定環境保護法」という)
2006 年 環境保護法の実施細則および指針に関する政令」(DecreeNo.80/2006/ND-CP)
-
すべての国家的プロジェクトは、戦略的環境評価(SEA)を実施する必要がある
-
FS時に環境影響評価報告書が添付されなければならない
戦略的環境評価(SEA)は、次のような戦略・計画策定にあたり、必要とされる。
1) 国家レベルの経済社会開発戦略、マスタープラン、個別開発計画
2) 全国規模における産業分野、領域の開発戦略、マスタープラン、個別開発計画
3) 省、中央直轄市の経済社会開発戦略、マスタープラン、個別開発計画
4) 重点経済地域開発計画
5) 複数の省をまたがる河川流域の総合計画
この SEA は計画立案と同時に実施されなければならず、その SEA 報告書に盛り込む内容は、
1)
環境に関連する事業目標、規模、特徴の概要
4-10
2)
事業に関連する自然的、社会経済的、環境的条件の包括的記述
3)
事業実施時に発生の可能性のある、環境に対する悪影響の予測
4)
評価する数値・資料データ・方法の提供もとの付記
5)
事業実施過程における環境問題解決の総体的方向性、措置の提示
である。
SEA 審査のため、天然資源環境省 (Ministry of Natural Resources and Environment:MONRE)
または省をまたがらない案件では地方各省の人民委員会が審査委員会を設置し、専門家の意見と
同時に対象地域の住民および人民委員会からのコメントをもとに評価が行われ、問題がなければ
承認されることになる。
ベトナム・船舶航行監視・安全管理能力強化網整備事業は、現在その必要性、システム開発内
容(工程)およびフィジビリティを検討しており、この一環として戦略的環境評価も実施される。
本事業は、ベトナムの主要港湾・航路を対象とした VTS/AIS およびその構成要素であるレーダ網
の敷設で構成される。Vinamarine では、本事業にかかる沿岸港湾システムにかかるマスタープラ
ン(Planning for the development of Vietnam’s Seaport up to 2020, orientating up to 2030
No.: 2190/QD-TTg December 24th, 2009)および船舶航行安全システム開発計画(Project for
development of maritime safety in Vietnam up to 2020, orientation up to 2030 Ref.
1166/QĐ-TTg July 14, 2011)について首相決定がなされており、この時点で戦略的環境評価も
実施されている。
今後、プロジェクトの実行段階に先立ち、フィージビリティスタディの一環として、環境影響
評価(Environmental Impact Assessment: EIA)が実施される必要がある。改定環境法および関
連政令では、環境影響評価は、
1)重要な国家プロジェクト
2)自然保護区、国立公園、歴史-文化遺跡区、自然遺産、登録済み名勝地の土地の一部を使用
する場合、あるいは悪影響を及ぼすプロジェクト
3)水源や流域、沿岸部、生態系保護区域に悪影響を与える危険性のあるプロジェクト
4)経済区、工業団地、ハイテク団地、輸出化鉱区、家内工業村のインフラ建設プロジェクト
5)都市区、集中型住宅区の新たな建設プロジェクト
6)大規模な地下水や自然資源開拓、使用するプロジェクト
7)環境に対して悪影響を与える危険性の大きいその他のプロジェクト
に対して、実施されなければならないと規定されている。
本事業は、河川流域、沿岸地域でのレーダサイトの設置が計画されており、これは、2006 年
8月策定された「環境保護法の実施細則及び指針に対する政令(Decree No. 80/2006/ND-CP)」
の EIA 報告書の提出・承認対象事業に該当する。
報告書の作成時期は、フィージビリティスタディ実施時期にあわせて実施されることが規定さ
れており、Vinamarine が上位機関である運輸省に向けて作成するフィージビリティスタディ報告
書と同時期に作成する必要がある。
4-11
報告書に盛り込む内容は、改正環境保護法第 20 条によると、
1)事業の詳細な説明
2)事業実施地・隣接地の環境の現状と環境の影響の受けやすさ(Sensitivity)と環境容量の評価
3)環境影響、影響を受ける環境構成要素と社会経済要素の評価、事故等のリスク
4)緩和措置や、環境事故の防止、対処措置
5)事業の建設・運用過程における環境保護措置の公約
6)環境管理・監査計画
7)環境保護の予算
8)事業実施地のコミューンや住民共同体代表の意見、反対意見
9)評価の数値、データ等の出典
と規定されている。
Vinamarine は、当該調査報告書をもとにフィージビリティスタディ報告書作成時と同時に EIA
報告書を作成し、MONRE に申請することとしている。なお、MONRE によると、通常 EIA 審査は3
ヶ月程度で完了し、事業実施が環境に影響を与えなければ、開発許可を発給すると回答している。
5.プロジェクトの実現のために当該国(実施機関その他関係
機関)が成すべき事項
MONRE にたいする訪問の結果、当該事業は MONRE により EIA 評価審査対象事業になると回答し
ており、事業実施主体である Vinamarine は、本調査報告書に基づきフィージビリティスタディ
報告書を作成し、上位機関である運輸省に事業計画を提出する計画である。Vinamarine は同時に
前節4.に述べた改正環境保護法第 20 条に規定されている記載内容を満足する EIA 報告書を作成
し、フィージビリティスタディ報告書に添えてこの EIA 報告書も運輸省に提出する必要がある。
また、運輸省は Vinamarine が作成した EIA 報告書をすみやかに MONRE に提出し、事業認可を
受ける必要がある。
4-12
第5章
財務的・経済的実行可能性
1.事業費の積算
第3章で記述しているように、本船舶航行安全監理本事業を 2015 年及び 2020 年までに完了す
べき事業の2期に分けて提案している。
フェーズⅠの整備対象港湾はホンガイ、ハイフォン、ダナン、ブンタウ、ホーチミン港湾管理
設備及びハノイにおける各港湾船舶航行データ管理設備となる。建設開始年月を 2013 年5月、竣
工年月を 2016 年3月と計画する。この事業費は次のとおりである。
表 5-1 フェーズⅠ プロジェクトコスト
番号
項目
外貨(千円)
内貨(千 VDN)
備考
1
船舶航行管理システム
1.01 ホンガイ港
481,500
1.02 ハイフォン港
990,500
1.03 ダナン港
418,500
1.04 ブンタウ港
810,500
1.05 ホーチミン港
704,500
1.06 Vinamarine 本部
139,400
小 計
3,544,900
2
建設工事費
2.01 ホンガイ港
12,620,446
2.02 ハイフォン港
25,961,687
2.03 ダナン港
10,969,173
2.04 ブンタウ港
21,243,763
2.05 ホーチミン港
18,465,430
2.06 Vinamarine 本部
3,653,770
小 計
3,544,900
92,914,271
3
据付調整、検査、竣工処理
460,700
4
訓練及び保守支援
54,000
合 計(1-4)
4,059,600
92,914,271
5
コンサルタント料
202,980
4,645,713
合 計(1-5)
4,262,580
97,559,984
6
予備費 (合計(1-5)の 5%)
213,129
4,877,999
総計(1-6)
4,475,709
102,437,984
総計(単位:千円)
4,475,709
\386,558
( 事業費総計(単位:千円)
4,862,267
)
総計(単位:千ドル)
$57,381
$4,956
( 事業費総計(単位:千ドル)
$62,337
)
出典:調査団作成
交換レート US$1=\78.0、 \1=265VND
フェーズⅡの整備対象港湾は、ゲソンをはじめとする、11 港及びハノイでの港湾船舶航行デー
タ管理設備追加肯定であり、建設開始年月 2017 年7月、竣工年月を 2019 年 12 月と想定し、この
事業費は次のとおりとなる。
5-1
番号
1
1.01
1.02
1.03
1.04
1.05
1.06
1.07
1.08
1.09
1.10
1.11
1.12
2
2.01
2.02
2.03
2.04
2.05
2.06
2.07
2.08
2.09
2.10
2.11
2.12
3
4
5
6
(
表 5-2 フェーズⅡ プロジェクトコスト
項目
外貨(千円)
内貨(千 VDN)
船舶航行管理システム
ギソン港
830,500
ゲアン港
667,500
ソドン-ブンアン港
910,500
ズゥンクアット港
534,500
クイニョン港
481,500
バンフォン港
790,500
ニャチャン-カムラン港
507,500
ビンタン港
467,500
ケガ港
750,500
ドンナイ港
767,500
カントー港
867,500
Vinamarine 本部
85,500
合計
7,661,000
建設工事費
ギソン港
21,767,977
ゲアン港
17,495,635
ソドン-ブンアン港
23,864,832
ズゥンクアット港
14,009,613
クイニョン港
12,620,447
バンポン港
20,719,550
ニャチャン-カムラン港
13,301,925
ビンタン港
12,253,497
ケガ港
19,671,122
ドンナイ港
20,116,704
カントー港
22,737,773
Vinamarine 本部
2,241,014
合計
7,661,000
200,800,088
据付調整、検査、竣工処理
1,210,084
訓練及び保守支援
100,417
計(1-4)
8,971,501
200,800,088
コンサルタント料
554,744
10,542,004
計(1-5)
9,526,245
210,840,092
予備費 (計(1-6)の 5%)
476,312
10,542,004
総計(1-6)
10,002,557
221,382,097
総計(日本円換算)
10,002,557
835,404
外貨内貨総計(千円)
10,837,961
)
総計(ドル換算)
( 外貨内貨総計(千ドル)
$128,238
$138,948
出典:調査団作成
交換レート
5-2
備考
$10,710
)
US$1=\ 78.0、 \1=265 VND
フェーズ I 及びフェーズⅡの合計のプロジェクト総額は次のようになる。
番号
1
2
3
4
5
6
表 5-3 プロジェクト総額コスト
項目
外貨(千円)
内貨(千 VDN)
船舶航行管理システム
11,205,900
建設工事費
293,714,359
据付調整、検査、竣工処理
1,670,784
訓練及び保守支援
154,417
計(1-4)
13,031,101
293,714,359
コンサルタント料
757,724
14,685,718
計(1-5)
13,788,825
308,400,077
予備費 (計(1-6)の 5%)
689,441
15,420,003
総計(1-6)
14,478,266
323,820,081
事業費総計(日本円換算)
14,478,266
\1,221,963
(外貨内貨総計(千円)
15,700,228
$15,666
事業費総計(ドル換算)
$185,619
(外貨内貨総計(千ドル)
備考
$201,285
出典:調査団作成
交換レート
US$1=\ 78.0、 \1=265 VND
なお、設備投資額の算出に当たっては、設備費は CIF 価格を、現地建設工事費は、ベトナム国
内で近年に実施した類似プロジェクトの調達価格を消費者物価指数で補正、コンサルティング価
格などは稼動量を想定し算出している。
2.予備的な財務・経済分析の結果概要
2.1 予備的な財務分析
VTS/AIS の機能は、港湾航路管理者にとって効率的な港湾・航路の利用及び安全確保が主目的
である。通常、港湾・航路利用者は港湾利用税や入港税等で、すでにその利用料金を支払ってい
ることになる。ホーチミン(カットライコンテナターミナル)を例に取ると、その代表的な利用
料金は、次のようになっている。
表 5-4 ホーチミン港カットライコンテナターミナル利用料金の構成例1
番号
項目
単価
備考
1
埠頭利用料金(Dockage)
US$0.0031/時間/GT
支払先:港湾局
2
トン税(Tonnage)
US$0.032/GT×2(往復)
支払先:港湾局
3
ライト利用料金
US$0.1/GT×2(往復)
支払先:港湾局
(Navigation Due)
4
パイロット料金
US$0.0015/GT×距離×2(往
支払先:パイロット会社
(Pilotage)
復)
5
タグボート利用費
US$800/10,000GT
目安
(Tag Boat Fee)
支払先:タグボート会社
出典:調査団作成
注: 表中1~3は全国一律、4、5は港湾により多少、異なる。
1
2011 年 10 月現在、在ベトナム船会社へのインタビューによる
5-3
たとえば、10,00TEU(10,000GT)クラスのコンテナ船のホーチミン港カットライ入出港にかか
る費用は、おおむね US$6,300 ドルとなる2。
このように、本事業で装備される施設は、港湾施設利用等費用としてそのほかで徴収されてい
ることになり、近隣諸国との料金競争も激しいこともあることから、Vinamarine が本事業実施に
伴い利用料金を値上げすることは難しいと考えられる。
本事業開始後上位機関である運輸省は、各船舶が支払う港湾施設利用等料金を再配分し、
Vinamarine に補助金として割り当てる計画であり、これを本事業の収入とみなすことになる。
本事業で装備される施設の保守運用経費は、類似業務を実施しているベトナム船舶通信会社
(Vietnam Maritime Ship Communication and Electronic Company: VISHIPEL)の保守運用経費
を参考に、要員あたりの保守運用経費を次のように設定する。
表 5-5 従業員あたり・月ごとの保守運用経費(2011 年 11 月価格)
項目
単価(VND)
単価(ドル)
備考
賃金
70,000,000
3,387
電気料金
30,000,000
1,451
通信費
1,500,000
73
燃料費
14,000,000
677
その他経費
6,000,000
290
出典:調査団作成
交換レート US$1=\ 78.0、 \1=265 VND 、2011 年 11 月現在
また、レーダーサイトからの船舶航行モニター信号はいったん主要港湾に集約され、この主要
港湾と Vinamarine とは広帯域公衆通信回線(IP ネットワーク)で結ばれるが、この間の回線加
入料及び利用料を次のように設定する。
表 5-6 1地点あたりの IP ネットワーク使用料(2011 年 11 月価格)
項目
単価(VND)
単価(ドル)
備考
年間 IP ネットワーク利用料
12,,000,000
581
IP ネットワーク加入料
1,000,000
48 加入時のみ
出典:ベトナム郵政総合通信公社(Vietnam Posts and Telecommunications:VNPT)
広帯域サービス料金表
その他、本事業にかかる財務分析を実施するにあたり、次の条件を想定した。
a.
評価対象期間
設備類の耐用年数を考慮し、第一期及び第二期の建設工事期間を含め 2013 年から 2032 年
までの 20 年間を評価対象期間とする。
b.
交換レート
1円=265VND、1ドル=78 円(2011 年 11 月)とする。
c.
インフレーション
収入、支出双方に平等に影響を及ぼす。2003 年~2010 年までの8年間の消費者物価指数
2
2011 年 10 月現在、在ベトナム船会社へのインタビューによる
5-4
(CPI)の平均値とし、前年比年平均 9.26%の上昇率を見込む。
d.
外貨と VND の交換レート
ベトナム当局の通貨政策から、2003 年~2010 年までの8年間の VND の米ドルに対する通貨
下落割合の平均が年間 3.06%となっており、今後もこの割合で下落すると見込む3。他方、
ドル日本円の交換レートは一定と仮定する。
e.
投資金額
建設工事期間中の資金需要は、過去の事業実施経験から 3 年間の建設期間とし、1年目 30%、
2年目 40%、最終年 30%の支出が発生すると仮定する。また、投資金額のうち外貨による支
出額は、日本円からドルに換算し、前述 e.で述べている交換レートの変動を考慮してその
当該年のドル VND 換算レートを用い、VND に換算した額を用いる。
また、設備類は沿岸に設置されることから塩害を考慮し、主要機器は 10 年ごとに整備取替
えが行われるものと仮定する。
f. 収入
運輸省からの建設工事費用及び保守運用経費に相当する補助金があると想定し、これを収
入とみなす。
g.
ディスカウント・レート
現在価値及び収入/経費差額を算出するためのディスカウントレートは、ベトナム国内法定
預金金利 15%とする。
前述の条件で、財務的内部収益率(Financial Rate of Return:FIRR)、現在価値(Net Present
Value:NPV)、費用便益比(Benefit Cost Ratio:B/C)を算出すると、表5-7のように基本ケ
ースとしては、FIRR=0%、NPV=0、B/C=1 となる。これは、運輸省からの補助金を収入として計上
するためであり、感度分析の結果は次のとおりにまとめられる。詳細は表5-8に示す。
ケース
基本ケース
設備投資が 10%増加
収入が 10%低下
表 5-7 感度分析結果
財務的内部収益率
現在価値
費用便益比
FIRR
NPV
B/C
0%
0
1
0%
0
1
マイナス
-4,573 億 VDN
出典:調査団作成
3
出典:ベトナム統計総局の諸データから算出
5-5
0.9
備考
補助金が 10%増加と
想定
補助金が 10%減少と
想定
表 5-8 予備的な財務分析結果(基本ケース)
年
プロジェクト経過年(年)
CPI(2011 年=100)
VND・ドル交換レート(VND/US$)
収入(百万 VND)
第一期設備投資額
外貨工程額(千円)
外貨工程額(千ドル)
第二期設備投資額
外貨工程額(千円)
外貨工程額(千ドル)
IP ネットワーク加入数
加入料金(百万 VND)
投資スケジュール
第一期外貨工程額(百万 VND)
第一期内貨工程額(百万 VND)
第二期外貨工程額(百万 VND)
第二期内貨工程額(百万 VND)
設備投資総額(百万 VND)
保守運用経費
プロジェクト必要要員数
IP ネットワーク利用数
支出額
賃金(百万 VND)
電気代(百万 VND)
一般通信費(百万 VND)
燃料費(百万 VND)
その他(百万 VND)
IP 利用料金(百万 VND)
保守運用経費総額(百万 VND)
支出総額(百万 VND)
収支差額(百万 VND)
財務的内部収益率(%)
現在価値(百万 VND)
便益/コスト比
出典:調査団作成
2011
2012
109.26
103.09
2013
1
119.38
106.28
2014
2
130.43
109.56
2015
3
142.51
112.94
2016
4
155.71
116.43
2017
5
170.12
120.03
2018
6
185.88
123.74
2019
7
203.09
127.57
2020
8
221.90
131.51
2021
9
242.44
135.57
2032
20
642.22
189.47
100.00
100
0
0
952,375
618,114
480,404
14,320
1,162,856
1,603,268
1,252,706
59,253
64,740
171,493
4,862,267
62,337
10,837,961
138,948
0
0
0
7
10
915,689
36,686
564,669
53,445
436,598
43,805
11
22
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
952,375
618,114
480,404
0
1,034,222
112,988
1,147,210
1,421,573
164,600
1,586,174
1,099,125
134,904
1,234,029
0
0
0
0
0
0
75
7
75
7
75
7
75
7
218
18
218
18
218
18
0
0
0
0
0
0
0
952,375
0
0
0
0
0
0
0
0
618,114
0
0
0
0
0
0
0
0
480,404
0
8,175
3,503
175
1,635
701
131
14,320
14,320
0
8,932
3,828
191
1,786
766
143
15,646
1,162,856
0
9,759
4,182
209
1,952
836
156
17,094
1,603,268
0
10,662
4,570
228
2,132
914
171
18,677
1,252,706
0
33,861
14,512
726
6,772
2,902
479
59,253
59,253
0
36,997
15,856
793
7,399
3,171
524
64,740
64,740
0
98,003
42,001
2,100
19,601
8,400
1,387
171,493
171,493
0
0%
0
1
交換レート(2011 年 11 月現在)
5-6
1ドル=78.00 円、1円=265.00 VND
2.2 予備的な経済分析
(1)経済的内部収益率(Economical Internal Rate of Return: EIRR)の算出方法
便益は貨物保険の差額により考察する。日本興和損害保険株式会社では外航貨物の荷主が船齢
の高い船舶を利用する場合、割増保険料を課している。ベトナム船主協会によると、ベトナムに
おいても、港湾の安全が確保される場合同等程度の便益が期待できると述べていることから、こ
の低減額を経済分析の便益計算として、この傭船価格の差に着目する。ただし内航貨物は、本便
益計算には算入しない。
1)便益計算
ベトナムでの便益額の算出根拠は次のとおりである。
表 5-9 ベトナムの外航貨物傭船市場の価格差と平均港湾利用日数
項目
数値
備考
外航貨物1トンあたりの平均価格
US$ 2,527/トン
2000-09 年の平均
貨物輸送量に占める外航貨物の割合
7%
船齢による割増率
0.1%
船齢 10~15 年の割増率
貨物1トンあたりの便益額
US$0.18
出典:調査団作成
本事業が実施されるフェーズⅠ及びフェーズⅡで対象となる港湾の船舶寄航数、取り扱い貨物
量、コンテナ量は次のとおりである。
表 5-10 事業対象裨益船数・貨物数・コンテナ数の予測
2015 年
2020 年
2025 年
2030 年
フェーズⅠ対象港
寄航船隻数
貨物取扱量
コンテナ取扱数
フェーズⅡ対象港
寄航船隻数
貨物取扱量
コンテナ取扱数
(隻)
(トン)
(TEU)
46,566
166,771
14,512,943
(隻)
(トン)
(TEU)
2032 年
117,316
317,069
900,140
1,379,753
297,759
531,970
950,950
1,199,856
40,574,108 113,563,698 318,210,472 480,660,010
21,408
46,331
1,491,340
33,499
76,379
3,857,606
54,169
126,481
10,043,775
66,166
154,952
14,753,495
出典:調査団作成
なお、これらの予測は次の手順により求めた。
a.
2011 年から 2032 年までの伸び率の算出
貨物は陸上・海上物流網の発達度合いにより代替ルートを採用することが可能であるため、
ベトナムを北部、中部、南部に分け、これらの地域ごとで 2005 年から 2010 年の船舶寄港
数、貨物取扱数、コンテナ取扱数の推移4を、それぞれの地域について毎年の前年比伸び率
の平均を求め、この伸び率を事業対象港湾に適用した。
4
出典:ベトナム港湾協会統計資料
5-7
b.
各港湾の寄航船数、伸び率の算出
各港の所在地に基づき、前述 a.で求めた各地域の伸び率を、各港湾のそれぞれ取扱量など
を推定した。
なお、便益計算に当たっては、わが国損保会社の価格を基本としており、国際的と理解できる
ことから、後述する標準変換係数(Standard Conversion Factor: SCF)による修正は行わない。ま
た、ベトナム国内の物価上昇率は考慮しない。
2)費用計算
予備的な財務分析で記載している設備投資及び保守運転経費が費用項目となる。この場合、国
内価格と国際価格との差は後述する標準変換係数により、修正する。
a. 標準変換係数
国内外の価格のゆがみを補正する係数である。本報告書では、次表のとおり統計が確定し
ている 2007 年~2009 年の輸出入額及び関税から算出する。
表 5-11 ベトナムの輸出入額及び輸入関税額
2007 年
2008 年
2009 年
輸出額(百万ドル)*
48,561.4
62,685.1
57,096.3
輸出額(百万ドル)*
62,764.7
80,713.8
69,948.8
輸入関税収入(百万ドル)**
3,439.9
5,582.0
4,511.9
輸出関税収入(百万ドル)**
0.0
0.0
0.0
出典 *:ベトナム統計総局、 ** :WB Official exchange rate (LCU per US$, period average)
計算方法は次のとおり。
SCF= 2007~09 輸出入総計/(2007~09 輸出入総計+関税収入総計) = 0.966
収入、設備投資額及び保守運用経費のうちの国内調達額に、本係数を乗ずることで、国際
価格を得る。
b.
交換レート
予備的な財務分析の項で採用している1ドル=78 円、1円=265VND(2011 年 11 月)とす
る。
c.
インフレーション
便益、費用双方に平等に影響を及ぼすため、通常除外して評価するが、本調査では、経済
成長の発展が著しく、従業員の賃金なども実質的に上昇することが考えられるため、予備
的な財務分析で採用した 2003 年~2010 年までの8年間の消費者物価指数の平均値とし、
評価期間中、毎年前年比 9.26%の上昇率を見込む。
5-8
d.
外貨とベトナムドンの交換レート
ベトナム当局の通貨政策から、2003 年~2010 年までの8年間の対ドル交換レートのベトナ
ムドンのドルに対する通貨下落割合の平均が年間 3.06%となっており、今後もこの割合で
下落すると見込む5。他方、ドル-日本円の交換レートは一定と仮定する。
e.
投資金額
建設工事期間中の資金需要は、過去の事業実施経験からら 3 年間の建設期間とし、1年目
30%、2年目 40%、最終年 30%の支出が発生すると仮定する。また、投資金額のうち外貨に
よる支出額は、日本円からドルに換算し、前述 d.で述べている交換レートの変動を考慮し
てその当該年のドル VND 換算レートを用い、VND に換算した額を用いる。
3)センシティビティ
基本ケースに加え、便益が 10%減少、設備投資が 10%上昇した場合の経済的な内部収益率を
算出する。
上記の条件で得られた予備的な経済的内部収益率(EIRR)、現在価値(NPV)、費用便益比(B/C)
の計算結果は次のとおりである。
表 5-12 予備的な経済分析結果
経済的内部収益率
現在価値
費用便益比
EIRR
NPV(億 VND)
B/C
基本ケース
39%
138,786
6.22
便益が 10%減少
37%
115,727
5.44
設備投資が 10%増加
37%
129,228
5.51
ケース
出典:調査団作成
これらの詳細を表5-13 に示す。
本便益計算では、外航貨物のみに着目しているにもかかわらず、予備的な経済分析の結果、い
ずれのケースもベトナムでの事業実施の目安とされる 15%6を超えることから、本事業は経済的に
フィージブルであると結論付けられる。
5
6
出典:ベトナム統計総局の諸データから算出、
中央銀行の市中銀行への貸出金利は 2011 年 11 月現在、15%である。
5-9
年
消費者物価指数(CPI)(2011 年=100)
VND のドルに対する交換レート(VND/US$)
標準変換係数(SCF)
便益
第一期工程の裨益対象貨物量合計(千トン)
貨物(千トン)
コンテナ量(千 TEU)
コンテナ積載貨物 (千トン)
第二期工程の裨益対象貨物量合計(千トン)
貨物(千トン)
コンテナ量(千 TEU)
コンテナ積載貨物 (千トン)
貨物トン当たりの便益 (VND/トン)
便益総額(百万 VND)
費用
設備投資額
外貨分(百万 VND)
内貨分(SCF 変換前、百万 VND)
SCF で変換後の内貨分(百万 VND)
保守運用経費
内貨分(SCF 変換前、百万 VND)
SCF で変換後の内貨分(百万 VND)
支出合計(百万 VND)
収支差額(百万 VND
内部収益率(EIRR)(%)
現在価値(NPV)(百万 VND)
便益費用比(B/C)
出典:調査団作成
表 5-13a 予備的な経済分析結果詳細
2013
2014
2015
2016
119.38
130.43
142.51
155.71
106.28
109.56
112.94
116.43
0.966
0.966
0.966
0.966
(基本ケース)
2017
2018
170.12
185.88
120.03
123.74
0.966
0.966
2019
203.09
127.57
0.966
2020
221.90
131.51
0.966
2030
537.98
178.28
0.966
2032
642.22
189.47
0.966
3,183,056
951
318,210
3,182,105
100,564
126
10,044
100,438
6,531
21,443,987
4,807,800
1,200
480,660
4,806,600
147,690
155
14,753
147,535
6,940
34,393,179
178,431
187
17,824
178,243
219,134
210
21,892
218,923
269,136
236
26,890
268,900
330,566
265
33,030
330,301
3,893
4,013
4,137
4,265
761,011
4,397
963,489
4,533
1,219,906
4,673
1,544,647
406,039
298
40,574
405,741
14,960
46
1,491
14,913
4,817
2,028,000
915,689
36,686
35,430
564,669
53,445
51,615
436,598
43,805
42,305
0
0
0
1,034,222
112,988
109,119
1,421,573
164,600
158,965
1,099,125
134,904
130,285
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
951,119
-951,119
39%
13,878,635
6.22
0
0
616,284
-616,284
0
0
478,904
-478,904
0
0
0
761,011
0
0
1,143,342
-179,853
14,320
13,829
1,594,368
-374,461
15,646
15,110
1,244,520
300,127
17,094
16,509
16,509
2,011,491
120,337
116,217
116,217
21,327,770
143,656
138,737
138,737
34,254,442
交換レート(2011 年 11 月現在)
5-10
1ドル=78.00 円、1円=265.00 VND
年
消費者物価指数(CPI)(2011 年=100)
VND のドルに対する交換レート(VND/US$)
標準変換係数(SCF)
便益
第一期工程の裨益対象貨物量合計(千トン)
貨物(千トン)
コンテナ量(千 TEU)
コンテナ積載貨物 (千トン)
第二期工程の裨益対象貨物量合計(千トン)
貨物(千トン)
コンテナ量(千 TEU)
コンテナ積載貨物 (千トン)
貨物トン当たりの便益 (VND/トン)
便益総額(百万 VND)
費用
設備投資額
外貨分(百万 VND)
内貨分(SCF 変換前、百万 VND)
SCF で変換後の内貨分(百万 VND)
保守運用経費
内貨分(SCF 変換前、百万 VND)
SCF で変換後の内貨分(百万 VND)
支出合計(百万 VND)
収支差額(百万 VND
内部収益率(EIRR)(%)
現在価値(NPV)(百万 VND)
便益費用比(B/C)
出典:調査団作成
表 5-13b 予備的な経済分析結果詳細<続>(10%の便益減少)
2013
2014
2015
2016
2017
2018
119.38
130.43
142.51
155.71
170.12
185.88
106.28
109.56
112.94
116.43
120.03
123.74
0.966
0.966
0.966
0.966
0.966
0.966
2019
203.09
127.57
0.966
2020
221.90
131.51
0.966
2030
537.98
178.28
0.966
2032
642.22
189.47
0.966
3,183,056
951
318,210
3,182,105
100,564
126
10,044
100,438
5,878
18,708,519
4,807,800
1,200
480,660
4,806,600
147,690
155
14,753
147,535
6,246
30,031,335
178,431
187
17,824
178,243
219,134
210
21,892
218,923
269,136
236
26,890
268,900
330,566
265
33,030
330,301
3,504
3,612
3,723
3,839
684,910
3,957
867,140
4,079
1,097,916
4,205
1,390,182
406,039
298
40,574
405,741
14,960
46
1,491
14,913
4,335
1,760,343
915,689
36,686
35,430
564,669
53,445
51,615
436,598
43,805
42,305
0
0
0
1,034,222
112,988
109,119
1,421,573
164,600
158,965
1,099,125
134,904
130,285
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
951,119
-951,119
37%
11,572,672
5.44
0
0
616,284
-616,284
0
0
478,904
-478,904
0
0
0
684,910
0
0
1,143,342
-276,202
14,320
13,829
1,594,368
-496,452
15,646
15,110
1,244,520
145,662
17,094
16,509
16,509
1,743,834
120,337
116,217
116,217
18,592,301
143,656
138,737
138,737
29,892,597
交換レート(2011 年 11 月現在)
5-11
1ドル=78.00 円、1円=265.00 VND
年
消費者物価指数(CPI)(2011 年=100)
VND のドルに対する交換レート(VND/US$)
標準変換係数(SCF)
便益
第一期工程の裨益対象貨物量合計(千トン)
貨物(千トン)
コンテナ量(千 TEU)
コンテナ積載貨物 (千トン)
第二期工程の裨益対象貨物量合計(千トン)
貨物(千トン)
コンテナ量(千 TEU)
コンテナ積載貨物 (千トン)
貨物トン当たりの便益 (VND/トン)
便益総額(百万 VND)
費用
設備投資額
外貨分(百万 VND)
内貨分(SCF 変換前、百万 VND)
SCF で変換後の内貨分(百万 VND)
保守運用経費
内貨分(SCF 変換前、百万 VND)
SCF で変換後の内貨分(百万 VND)
支出合計(百万 VND)
収支差額(百万 VND
内部収益率(EIRR)(%)
現在価値(NPV)(百万 VND)
便益費用比(B/C)
出典:調査団作成
表 5-13c 予備的な経済分析結果詳細<続>(10%の設備投資が増加)
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
119.38
130.43
142.51
155.71
170.12
185.88
203.09
106.28
109.56
112.94
116.43
120.03
123.74
127.57
0.966
0.966
0.966
0.966
0.966
0.966
0.966
178,431
187
17,824
178,243
219,134
210
21,892
218,923
269,136
236
26,890
268,900
330,566
265
33,030
330,301
2020
221.90
131.51
0.966
2030
537.98
178.28
0.966
2032
642.22
189.47
0.966
3,183,056
951
318,210
3,182,105
100,564
126
10,044
100,438
6,531
20,787,243
4,807,800
1,200
480,660
4,806,600
147,690
155
14,753
147,535
6,940
33,368,150
3,893
4,013
4,137
4,265
761,011
4,397
963,489
4,533
1,219,906
4,673
1,544,647
406,039
298
40,574
405,741
14,960
46
1,491
14,913
4,817
1,955,937
1,007,257
40,355
38,973
621,136
58,789
56,776
480,258
48,186
46,536
0
0
0
1,137,645
124,286
120,031
1,563,731
181,060
174,862
1,209,037
148,395
143,314
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,046,231
-1,046,231
37%
4,923,417
5.51
0
0
677,913
-677,913
0
0
526,794
-526,794
0
0
0
761,011
0
0
1,257,676
-294,187
14319.5232
13,829
1,752,421
-532,515
15645.511
15,110
1,367,461
177,186
17094.285
16,509
16,509
1,939,428
120337.335
116,217
116,217
20,671,025
143655.674
138,737
138,737
33,229,412
交換レート(2011 年 11 月現在) 1ドル=78.00 円、1円=265.00 VND
5-12
第6章 プロジェクトの実施スケジュール
1.プロジェクトのフェーズ区分
本事業の趣旨は、VTS/AIS/環境 GIS を利用した狭隘航路・港湾利用船舶の安全航行能力強化で
あることから、これらの設備による一体的な運用・保守がなされることが望ましい。しかしなが
ら、各港湾の船舶航行トラフィック動向や河川港での狭隘水路における利用状況、および港湾整
備の進捗状況を考慮し、第3章で記述しているように、2015 年および 2020 年までに完了すべき
事業の2期に分けて実施する。
フェーズⅠの整備対象港湾は、物流貨物の増加により輻輳が見られる北部のホンガイ(Hon Gai)、
ハイフォン(Hai Phong)、南部のブンタウ(Vung Tau)、ホーチミン(Ho Chi Minh)、そして 2015
年の ASEAN 統合によりタイ東部やラオス南部の物流拠点としても機能することが期待されている
中部のダナン(Da Nang)
、の計5港である。これら5港湾は、マスタープラン上でも、
「国際ゲー
トウェイ港」または「各地域における周辺港に対するハブ港」と規定されている。
フェーズⅡは、地域の物流拠点として機能している後湾の他、後背地で大規模工業団地や巨大
発電プラントの建設が実施されているギソン(Nghi Son)、ゲアン(Nghe An)、ブンアン(Vung Ang)、
ズゥンクアット(Dung Quat)、クイニョン(Quy Nhon)、バンフォン(Van Phong)、ニャチャン(Nha
Trang)、ビンタン(Vinh Tan)、クガ(Ke Ga)、ドンナイ(Dong Nai)、カントー(Can Tho)の
11 港が対象となる。
フェーズⅠ完了後、港湾を利用する船舶の安全確保および港湾の管理運用強化のための体制整
備などが必要と考えられる。これを考慮し、この体制整備等の期間を1年程度見込み、その後、
フェーズⅡで整備対象とする港湾へシステムの整備・展開をおこなうこととする。
この内容を踏まえた、標準的な実施スケジュールを表 6-1 に示す。
2. 実施スケジュールの課題
実施スケジュールの課題としては、北部のホンガイ、ハイフォンおよび南部のブンタウ、ホー
チミンの各港での本プロジェクトの配備を、別途進行している各港湾の整備事業と同期して行う
ことが望ましく、この点から特に、早期の着工が望まれる。このため、ベトナム運輸省内で行わ
れる本事業実施内容の検証評価と並行して、本プロジェクトに関する環境評価手続きを進める必
要がある。
この環境評価手続きは、本プロジェクト事業実施主体と考えられる Vinamarine が天然資源環
境省に対し、同省発行 Decree 28(2011 年4月)および Circular 26(2011 年7月 18 日)に基づき、
申請することになる。審査期間は標準で 60 日以内となっているが、申請書作成および審査までの
期間にかなり時間を要する。このことから、本プロジェクトが速やかに次のフィージビリティス
タディ段階に移行するために、上記の事業実施内容の検証評価と同時期に、環境評価手続きを並
行して進める必要がある。
6-1
表 6-1 実施スケジュール
財政年
2011
2012
2012
暦年
項目
月
累計 月
1 2 3 4
-3 -2 -1 1
5
2
6
3
7
4
2013
2013
8
5
2014
2014
2015
2015
2016
2016
2017
2017
2018
2018
2019
2019
2020
9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3
6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96
カウンターパートへの
最終報告書提出
ベト ナム政府内での
フィージビリティの検討
ベトナム政府内環境
評価アセスメント
ベト ナム政府の日本
政府へのODA要請
実施に対する日本・
ベトナム間の検討
交換文書(E/ N)借款
契約(L/ A)
ちょう
コンサルタントの選定
フェーズⅠ
設計・ 調達仕様書
準備(B/ D、D/ D)
調達仕様書承認
施工業者選定の入
札準備
入札
入札書類評価
施工契約
機器製造
鉄塔建物準備
・ 機器据付
竣工
訓練
管理運用保守体制・
効果の検証
フェーズⅡ
設計・ 調達仕様書
準備(B/ D、D/ D)
調達仕様書承認
施工業者選定の入
札準備
入札
入札書類評価
施工契約
機器製造
鉄塔建物準備
・ 機器据付
竣工
訓練
出典:調査団作成
6-2
第7章
相手国側実施機関の実施能力
1. 相手国実施機関の概要
ベトナム運輸省(Ministry of Transportation:MOT)は、ベトナム国内の陸上交通(道
路、鉄道)、内陸水運、海上交通など運輸全般を管理する行政機関であり、主な機能には、
運輸交通全般の開発に関する国家マスタープラン作成と提言、国家マスタープランに基づ
く地方政府や関連省庁への指導、運輸管理に関する法令、規制、政策などの策定・発効・
監督、運輸全般に関わる各種国家基準、技術標準の作成とライセンスの発行、開発・建設
プロジェクトの認可等が含まれる。
こ の 運 輸 省 の 下 で 海 事 関 連 行 政 を 担 当 す る 機 関 が 、 ベ ト ナ ム 海 運 総 局 ( Vietnam
National Maritime Bureau:Vinamarine)である。1992 年に設立され、船舶管理、港湾管
理、海運サービス、船員教育などの業務を管理し、その傘下には多くの外部特殊法人や国
有企業を抱えている。以前は、外航・内航全てに責任を持ち、組織も傘下企業を含めて3
万人余りを擁していたが、その商業活動の大部分は、海運業及び港湾経営を担当する国営
海運会社(VINALINE)と国営造船会社(VINASHIN)とに移管され、Vinamarine は行政機能
に特化する組織となった。従い、Vinamarine の民営化への動きはない。Vinamarine の組
織図を図 7-1 に示す。
以下、Vinamarine について、プロジェクト実施の観点から組織構成、役割等の概略を
述べる。Vinamarine は、海事を司る国家機関として、全国の海運部門を管轄し、下記の役
割を担当している。
・外国籍船及びボートのベトナム領海許可の発行
・航行用に開放された港の発表
・海事サービスの管理
・探索救難活動の実施
・港湾状況管理手続きの実行
・海事安全問題への対応
・海運活動における違法行為の調査、解決
7-1
図 7-1 Vinamarine 組織図
出典:Vinamarine ホームページに基づき、調査団にて作成
7-2
2.
相手国におけるプロジェクト実施のための組織体制
2.1 港湾の管理
Vinamarine の下部組織として、「港湾水域と地域の航海可能な海域において海事管理業
務を行う専門の政府機関」である港湾局(Maritime Administration)が管轄区域ごとに 25
箇所配置されている。
港湾局はベトナムの海事規約第 58 条に「港湾水域と地域の航海可能な海域において海事
管理業務を行う専門の政府機関を港湾局と呼ぶ」と明記されている通り、国家の海事管理
機関の一部である。海の安全管理のための点検や海運に派生する死傷者及び事故を調査す
る際には、港湾局は Vinamarine から援助やアドバイスを求めることになっている。これは、
港湾局が特に船を拘留する場合等に慎重な行動を取るためである。
本プロジェクトにて導入される船舶航行監視システムの運用については、Vinamarine の
下部組織である各港湾局が担当することとなる。上記のように海事管理業務については、
政府機関として行われており、現時点では、当該港湾局の民営化や提案システムの運用を
外部機関に委託する計画はない。
2.2 船舶航行監視のオペレーション
ベトナム北部最大の港湾都市であるハイフォン港を例にして、船舶航行監視に関するオ
ペレーションの概略を説明する。ハイフォン港を管轄するハイフォン港湾局では、局長以
下2名の副局長を含む、総勢 82 人の職員が、ハイフォン港湾海域における港湾管理業務を
行っている。組織図を図 7-2 に示す。
図 7-2 ハイフォン港湾局組織図
局長
副局長
港湾管理部
保安・調査部
副局長
経理部
法務部
法務部
出典:ハイフォン港湾局受領資料に基き、調査団作成
7-3
総務・人事部
カットハイ支局
ハイフォン港湾局は、局長直轄の法務部、経理部に加え、2名の副局長が統括する港湾
管理部、安全調査部、人事部、カットハイ(Cat Hai)支局の、合計6部署にて組織・構成
されている。同港湾局の主な機能・役割には、①ベトナム国における港湾開発のためのマ
スタープラン作成に関する助言・提言、②海運企業に対する行政管理・監督指導、③船舶
の安全確保のための航路管理および航海支援設備の整備・導入、④ハイフォン港湾局に入
出港する船舶の管理、⑤港湾サービスの提供及び港湾使用料の徴収、⑥海運管理に関する
法令・規制の発動、⑦関係機関からの要請による船舶の拿捕、等が含まれる。
また、同港湾局は、ハイフォン港湾内において海難事故が発生した際に、迅速なる海難
事故捜査救助(SAR)活動を実施するため、24 時間のオペレーション体制にて対応している。
同港湾局は、管轄海域内において船舶やベトナム船舶通信公社(VISHIPEL)が保有する沿
岸無線局から遭難警報や緊急警報を受信すると、当該船舶の位置や状況を確認するととも
に、必要な情報をベトナム海難救助調整センター(VMRCC)へ連絡し、同センターと連携し
ながら救難活動を実施している。本プロジェクトにて導入が見込まれる船舶航行監視シス
テムは、港湾内における船舶の動向をリアルタイムで把握できるため、同システムで収集
した情報を VMRCC と共有することにより、海難事故への迅速な対応が可能となる。
2.3 プロジェクト実行のための組織
本プロジェクトにて導入が見込まれる船舶航行監視システムの実際の運用者は、
Vinamarine 傘下の各港湾局となるが、当該プロジェクトでは、各港湾局との連携強化を目
的とした統合システムの導入を目指すことから、港湾局毎に個別のプロジェクト実行組織
を 立 ち 上 げ る の で は な く 、 Vinamarine の 中 に 、 全 体 プ ロ ジ ェ ク ト を 統 合 管 理 す る
PMU(Project Management Unit)を組織する必要がある。
また、ODA 資金を活用し当該事業を実行するためには、首相府決定 131/2006/ND-CP,
Decree on Issuance of Regulation on Management and Utilization of Official Development
Assistance に従い、下記手続きにより PMU を設立しなければならない。
1)計画投資省が当該 PMU の組織図、機能、役割に関する通達を発行
2)当該事業に関する書類へ計画投資省及び運輸省が承認後、案件実行機関が当該
PMU の設立決定書発行
3)案件実施機関は、ベトナム関連法に従い、プロジェクト管理を担当するコンサル
タントを雇用
7-4
3. 相手国実施機関の能力評価と(不十分な場合は)対応策
3.1 運営・維持管理体制
Vinamarine は、船舶航行の安全確保および海難事故への迅速な対応を図るため、日本
の円借款により「沿岸無線整備事業(1997 年~2007 年)」を実施し、沿岸無線通信システ
ム(GMDSS)を導入している。さらに、急増する海上輸送量に伴い、ベトナムの主要港湾に
おける貨物取扱量が増大し、また、港湾施設をより安全かつ、効率的に運用することが喫
緊の課題となったため、Vinamarine は、2005 年3月に、ベトナムにおける船舶航行監視シ
ステム導入に向けた現地調査を行い、当該事業について技術的・費用的側面から実現可能
性を独自に検討した。また、ホーチミン・ブンタウ港は、VTS を 2008 年8月に導入したも
のの、設置後の風水害により大規模な破損が発生し、現在は全く稼動していない状態であ
る。この修復対応のため、Vinamarine 傘下のベトナム船舶通信公社(VISIPEL)をコンサル
タントに起用して、システム復旧に向けた基本設計作業を実施している。
一方、前述の「沿岸無線整備事業」では、ベトナム・日本合同評価チーム(Vinamarine
と JICA による)が実施した円借款事後評価において、「当該事業は実施機関の能力および
維持管理体制ともに問題なく、高い持続性が見込まれる」との非常に高い評価が得られて
おり、Vinamarine の案件実施能力を裏付ける結果となっている。また、当該沿岸無線事業
のフェーズ I、フェーズ II での経験を通じ、日本の円借款のスキームにも精通しているこ
とから新規プロジェクトの円滑な実施が期待できる。
また、Vinamarine には、2011 年9月より、JICA 専門家(1名)が派遣されており、同
専門家からの港湾の運営・維持管理に関する技術協力や、船舶航行監視システムの構築や
遭難救難システムの策定のための、専門的な助言を通じ、案件の実施を側面から支援する
体制が整っている。
本事業で導入される船舶航行監視システムの運営・維持管理は、Vinamarine 傘下の各
港湾局が担当することになるが、前述のハイフォン港湾局のカットハイ支局では、既に
VHF 等の通信手段により、ハナム(Ha Nam)航路の監視を 24 時間体制で実施していること
から、当該システムの導入に際しても、その維持管理能力には特段の問題はない。
3.2 運営・維持管理における財務状況
本事業にて導入を目指す船舶航行監視システム等の運営・維持管理予算については、各
港湾局が毎年の必要経費を Vinamarine へ申請することにより、提供される。各港湾局は、
船社等の港湾利用者に港湾サービスを提供することにより港湾使用料を徴収でき、公益事
業体としての役割を果たしている。それぞれが保有する設備の運営・維持管理予算は、
Vinamarine が負担している。例えば、ハイフォン港湾局の保有設備の運営・維持管理の年
7-5
間予算として、2010 年には 60 億 VND(ベトナムドン:円換算で約 2,260 万円相当)がハイフ
ォン港湾局に配分されている。
ハイフォン港湾局からのヒアリング結果によれば、Vinamarine からの予算で、すべての
運営・維持管理業務が可能な状態であるとのことである。
3.3 ベトナム国実施機関への支援策
プロジェクト効果の発現を促進し、長期間にわたり本事業の持続性を保つためには、技
術移転および維持管理の研修を組み合わせることが極めて重要になる。本事業で導入が予
定される船舶航行監視システム等の機能性・安定性を維持するうえで、当該システムの維
持管理マニュアルの整備や、日常および定期的な保守点検等の維持管理の実施が不可欠と
なる。新しいシステムの運営・維持管理に対応するため、港湾局職員への実施訓練(On the
Job Training:OJT)を通じた技術移転の他、各港湾局職員の職務規定や職責に応じた階層
別研修、実施機関幹部の日本への派遣研修を通じ、当該システムの維持管理に関する知
識・経験を蓄積することが必要である。
7-6
第8章
我が国企業の技術面等での優位性
1.対象プロジェクト(設備・商品・サービス別)に
おける日本企業の国際競争力と受注の可能性
1.1 本プロジェクトの特徴
本プロジェクトでは、ベトナムにおける統合 VTS の導入を特徴のひとつとしている。
「港湾の活性化」「安全安心の確保」として、港湾毎の単独 VTS 整備は重要であるが、
VTS にて収集した情報は、「隣接港湾での情報共有」「船舶運航業務への活用」「航路設備
監視」「輻輳海域対策」「航路改良分析」「海難事故分析」「海洋汚染分析」「CO2 排出規
制対策」等に有効活用できる。
本プロジェクトでは、複数の単独 VTS を統合ネットワーク化し、必要な機関への情報共
有や情報配信を構築することとしている。
必要機関への情報配信の形態としては、専用端末や専用ソフトウェアを必要としない Web
によるものとしている。また、取り扱う情報や情報利用者における必要な情報も多種多様
にわたるため、情報ごとに整理された表示形態を構築する必要がある。
この点を考慮し、本プロジェクトの統合 VTS では、情報共有に関して「地理情報システ
ム(Geographic Information System:GIS)」を採用し、情報種類毎のレイヤ構造や情報
利用者による容易な情報選択を重視し、拡張性のあるシステムの構築を図るものとした。
このように統合 VTS では、従来の VTS 技術に加えて、GIS を中核とした情報技術が必須と
なる。
1.2 地理情報システム(GIS)の動向
GIS は、陸上分野では、カーナビゲーションシステムや Web 地図サイトにおける経路案内、
防災システムにおけるハザードマップ等にみられるように、提供情報を位置情報により地
図上にプロットするシステムとして広範囲に普及している技術である。GIS は、位置情報と
して各種情報を重畳表示することにより、ユーザの視認性向上を図り、情報把握に高い効
果を発揮できるものとされている。
一方、海上海洋分野では、電子海図表示システム(Electronic Chart Display and
Information System:ECDIS)において、海図上への航路標識設備の表示や自船/他船表示
等で既に導入されており、安全安心のための操船支援装置として活用されている。
VTS システムにおいても、GIS は海図上に港湾情報等を表示するのに使用される技術であ
るが、独立したシステムとして導入されることが多く、専用システムとして構築されるの
が一般的である。
GIS の最も大きな特徴は、情報種別毎のレイヤ(層)構造を構築できることであり、それ
により、ユーザの要求に応じて他情報との比較や分析を容易に行うことができ、多くの情
8-1
報を扱うシステムでは絶大な効果を発揮できる。また、環境面においても、このような海
洋分野における GIS は、船舶の動静把握に留まらず、海洋汚染の把握、分析、対処等へも
応用できるものである。
レイヤ構造における情報コンテンツの構築により、各種用途に柔軟に拡張できる特徴も
持つため、GIS 分野では、基礎のレイヤ重畳技術からユーザ要求に応えるコンテンツ技術ま
での重要性が求められており、各機関における研究が進んでいる。
1.3 日本企業の国際競争力
現在、日本においては海洋・海上システムへの GIS レイヤ構造を活用した「海洋 GIS」の
研究が大学等で実施されており、平成 22 年度には東京海洋大学にて、世界に先駆けた「先
端ナビゲートシステム」を作り上げられ、運航管理や船舶動静分析、最適航路研究などに
使用されている。
国際海事機関(International Maritime Organization:IMO)における船舶の CO2 排出
規制は、日本の国土交通省海事局が世界へ CO2 排出規制を強く提唱しており、日本は世界
から「海洋環境を牽引する国」として認められている。平成 23 年7月には IMO における船
舶の CO2 排出規制も可決され、今後、海運業者における CO2 排出規制管理が求められるこ
とになる。この IMO の CO2 排出規制では、船舶運航管理には多種情報を取り扱う海洋版 GIS
の導入が有効なシステムとされており、大学などの研究機関だけではなく、海洋海上セン
ターや運航管理センターなどへ広がるものである。
運航管理としては、欧州で良くみられる船舶の位置表示としての GIS 活用があるが、レ
イヤ構造における本格的「海洋 GIS」の構築としての実例は乏しい。日本国内では、一部民
間海運会社が高度運航管理を目指したシステム作りとして「海洋 GIS」が導入されている。
また、先ごろ「インドネシア国におけるセメント輸送船運航効率化支援プロジェクトの
案件発掘調査」として、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(New Energy
and Industrial Technology Development Organization:NEDO)がインドネシアのセメン
ト船運送事業者「PT INDOBARUNA BULK TRANSPORT」の協力を得て運航実態調査を実施する
ことを発表しており、ここでも日本の技術である「海洋 GIS」による運航計画支援システム
の改善可能な省エネルギー量を調査することとされている。
このように、海洋における多層レイヤ構造における「海洋 GIS」技術は、現在、日本国内
国外で注目されてきている。なお、本プロジェクトにおいて採用する GIS は、平成 22 年度
に東京海洋大学にて、世界に先駆けた導入された技術を実用化するものである。
本プロジェクトにおいても、このような日本がリードしている「海洋 GIS」技術を VTS の
統合システムに投入し、さらに日本で保有する先進的なレーダ技術や ICT 技術とともに総
合技術力が必要なシステム作りを目指すものとする。
また、他国企業における海洋関連の GIS については、実用レベルでの実績として、顕著
な動きはなく、上記の東京海洋大学の実例のみである。
8-2
1.4 受注の可能性
上項に示した内容と、日本国内における産学官連携プロジェクトによるコンテンツの開
発状況を考慮すると、日本における受注の可能性はかなり大きいと判断できる。
2.日本から調達が見込まれる主な資機材の内容及び金額
本整備事業は、2015 年および 2020 年までの2期に分けて、それぞれ完了すべき事業とし
て実施する。このうち、日本から調達が見込まれる資機材についての事業費を、表 8-1お
よび表 8-2 に示す。
表 8-1
フェーズⅠでの日本からの調達品総額
No.
1
項
目
外貨
航行監視設備
1.1 ホンガイ港
481,500
1.2 ハイフォン港
990,500
1.3 ダナン港
418,500
1.4 ブンタウ港
810,500
1.5 ホーチミン港
704,500
1.6 Vinamarine 本局
139,400
小
2
据付調整、検査、竣工処理
3
訓練及び保守支援
計
3,544,900
460,700
54,000
合計 (1-3)
4
コンサル費用 (5%)
4,059,600
202,980
合計 (1-4)
5
(単位:¥1,000)
予備費 (合計 (1-4)の 5%)
4,262,580
213,129
総計 (1-5)
4,475,709
総計 (ドル換算 単位:$1,000)
US$57,381
出典:調査団作成
交換レート:US$ =\78
8-3
表 8-2 フェーズⅡでの日本からの調達品総額
No
1
項目
外貨
設備
1.1 ギソン港
830,500
1.2 ゲアン港
667,500
1.3 ブンアン港
910,500
1.4 ズゥンクアット港
534,500
1.5 クイニョン港
481,500
1.6 バンフォン港
790,500
1.7 ニャチャン港
507,500
1.8 ビンタン港
467,500
1.9 クガ港
750,500
1.10 ドンナイ港
767,500
1.11 カントー港
867,500
1.12 Vinamarine 本局
85,500
小
2
据付調整、検査、竣工処理
3
訓練及び保守支援
計
7,661,000
1,210,084
100,417
合計 (1-3)
4
コンサル費用 (5%)
8,971,501
554,744
合計 (1-4)
5
(単位:¥1,000)
予備費 (合計 (1-4)の 5%)
9,526,245
476,312
総計 (1-5)
10,002,557
総計(ドル換算 単位:$1,000)
US$128,238
出典:調査団作成
交換レート: US$ =\78
8-4
3.我が国企業の受注を促進するために必要な施策
本プロジェクトにおいては、我が国企業の受注を促進するための必要な施策として
は、次の3つの分野で、それぞれの施策を推進することが望まれる。
3.1 日本が先行する環境技術の提供・推進
① 本事業にて導入が予定されてしている船舶運行監視システムには、環境 GIS が統合
されている。これに重点を置き、ベトナム政府に対して、海運業者における CO2 排
出規制管理や海洋汚染の把握、分析に貢献する情報を提供する。
② 日本における産官学連携プロジェクトから生まれた日本独自の技術を提供する。
日本の国土交通省が強く提唱し、東京海洋大学が、運行管理や船舶動静分析、最適
航路研究のために開発した技術が本事業で構築されるシステムに含まれているこ
とを説明する。
③ IMO が提唱する船舶の CO2 排出規制に準拠した技術であることを強調し、これに関す
る情報を提供する。
3.2
技術移転・維持管理の技術支援の提案
① 本事業で導入が予定される船舶航行監視システムの機能性・安定性を維持するうえ
で、当該システムの維持管理マニュアルの整備や日常および定期的な維持管理を実
施する。
② 高度な技術且つ新しいシステムの運営・維持管理に対応するため、JICA 専門家(短
期及び長期)の派遣や港湾局職員への実施訓練(On the Job Training : OJT)を通
じた技術移転の他、各港湾局職員の職務規定や職責に応じた階層別研修、実施機関
幹部の日本への派遣研修を実施する。
3.3
日本政府の金融支援
プロジェクト本体では日本の円借款を利用し、また完工後のオペレーションについ
ても JICA など日本政府の技術支援を行う。
8-5
第9章
プロジェクトの資金調達の見通し
1. 相手国政府・機関の資金調達に関する考え方
第一章でも述べているように、ベトナム経済は、2008 年の世界経済危機時の一時を除き、2000
年以降7%を越える経済成長を達成してきている。そして、ベトナム社会経済発展 2011 年-2015
年の5ヵ年計画においても、引き続き経済構造の改革、国家経済の競争力の向上、世界経済の統
合加速を持続することにより、2020 年まで平均7~8%の経済成長を安定的に継続しようとして
いる。しかし、積極的な景気活性化政策の反面、ベトナム国家財政状況は 2005 年以降を見ても一
貫して歳入不足に陥っており、整備が必要とされる経済インフラ等への投資は、国内外からの借
款などを受け入れてきており、今後もこの傾向は続くものと推測される。
ベトナム運輸省では、経済開発のボトルネックとなっている陸上及び海上交通網の整備に勢力
を注いでおり、2020 年までの港湾整備のための投資は 360~440 兆 VND(ベトナムドン)1、主要港
湾の安全確保のためのナビゲーションシステムや航路標識の整備には約 8 兆 6,000 億 VND(円換算
約 320 億円)2がそれぞれ必要と試算しており、今回の整備対象とする VTS/AIS 等も、この中に含
まれるものである。また、この資金源として、Vinamarine、運輸省計画投資局及び計画投資省日
本デスクは、日本の ODA 資金の活用を期待しているところである。
2. 資金調達に伴う関連機関の動向
本プロジェクトの資金調達について、他国又は他機関からの資金供与の可能性及び民間資金の
活用可能性等に関しては、以下のようにまとめられる。
本プロジェクトの実施にあたり、これまで、実施機関である Vinamarine に対し、日本国以外の
他国ドナーによる資金援助や当該プロジェクトの提案はなされていない。
また、ベトナム国内における民間企業及び民間セクターによる当該プロジェクトへの参入や投
資計画も予定されていない。
一方で、本プロジェクトにて導入される船舶航行監視システムの運用については、Vinamarine
の下部組織である各港湾局が担当することとなるが、現時点において、当該港湾局の民営化や提
案システムの運用を外部機関に委託する計画はない。
1
2
ANNEX-1「2030 年を考慮した 2020 年までの港湾システム整備マスタープラン」参照
ANNEX-1「海上船舶航行安全確保体制・システム構築の承認」承認番号:Ref. 1166/QĐ-TTg を
参照
9-1
3.提案プロジェクトに関する資金調達の見通し及び円借款要
請の現状・可能性
本プロジェクトについて、実施決定権限を有する政府上層部局及び円借款要請の決定権を持つ
政府上層部局としては、前述のように運輸省計画投資局及び計画投資省である。本調査の中で、
これらの部局に対して案件の説明を行い、その結果、案件実施・円借款要請の可能性については、
下記のような確認が得られた。
わが国の円借款による国際空港拡張事業、国際港湾整備、南北高速道路建設等、巨大プロジェ
クトの実施及び計画を進めているものの、本事業はこれらに比べ規模が小さい。
また、主要港湾及び航路上での船舶航行の安全能力の強化、港湾の管理運用の効率向上につな
がるという観点から、上位機関である運輸省は、早期に円借款案件として要請し、実施したいと
考えている。
9-2
第10章
円借款要請に向けたアクションプランと課題
1.円借款要請に向けた取り組み状況
1.1 円借款要請及び実施に係る関係機関
ベトナム国船舶航行監視・安全管理能力強化網整備事業は、Vinamarine が実施主体で
あり、実施にあたっては、運輸省計画投資局の承認を経て、計画投資省から円借款事業と
として、日本側へ要請するプロセスを経て進められる。
図 10-1 円借款要請の流れ(関連部局のみ記載)
Vinamarine
運輸省
投資計画省
計画投資局
(対外関係局日本部)
出典:調査団作成
運輸省は、国内の航空・陸上交通とともに内陸及び海上における水上交通にかかる運輸
行政を担当している。具体的には、首相決定に従った運輸交通にかかわる開発の国家マス
タープランの作成、マスタープランに基づいた地方政府への指導、運輸関連法令・規制・
政策等の策定・発効・監督、運輸全般に関わる各種国家基準・技術標準の作成とライセン
ス発行、開発・建設プロジェクトの認可等を担当する。
Vinamarine は、国営・非国営開示関連企業、組織、個人を管轄する。船舶管理、港湾
管理、海難救助を含む海運サービス、船員教育等の業務を管理し、その参加に海事関連の
特殊法人や国営企業を抱えている。
図 10-2 ベトナム運輸省の組織図(関連部局のみ記載)
運輸省
(政策立案管理部局)
計画投資局
(総合開発計画の策定、実行管理、整備計画策)
Vinamarine
(海運開発計画の策定、海運事業管理等)
(管理サービス提供組織)
出典:調査団作成
10-1
計画投資省は、経済開発にかかる国家マスタープランの作成、マスタープランに基づい
た地方政府への指導、運輸関連法令・規制・政策等の策定・発効・監督等を行い、各省庁
間の調整とともに、海外との援助窓口機能も有する。なお、日本の ODA 事業は、海外経済
関係局(Foreign Economic Relation Division)日本部が取り扱う。
1.2 相手国の関係官庁・実施機関の取り組み
本調査の現地報告会では、Vinamaraine 会長より、本調査報告書に基づき、Vinamarine
として運輸省に対して、本プロジェクトに関する独自のフィージビリティ調査報告書及び
環境評価書を作成し、2012 年2月もしくは3月に運輸省計画等支局に提出するという予定
が表明されている。また、運輸省投資計画局サイドでは、Vinamarine からの要請を受けて、
この案件に対する運輸省内での実施合意を取り付けた後、速やかに日本の円借款事業とし
て投資計画省に要請したい旨、確認されている。
1.3 日本側の取り組み状況
日本の在ベトナム関係公館は、2009 年以降ベトナム国内で海難事故が増加しつつあり、
今後のベトナム近海・港湾内での海難事故の減少にも貢献すること、及び日本の協力によ
る大型国際港湾整備が進められていることを踏まえ、本事業は、ベトナム国内の狭隘航路
や輻輳港湾での安全確保や効率的な港湾施設利用に貢献するという観点から、本事業実施
の必要性は理解されている。
1.4 政府間・国際共同体との取り組み状況
『ベトナム国・船舶航行監視・安全管理能力強化網整備事業』の取り組みについては、
本調査の結果に基づき、Vinamaraine、運輸省計画投資局及び計画投資省等の関係省庁に
対し、円借款要請を依頼することにしており、これまでのベトナムに対するわが国の援
助の経過を踏まえて、これに沿った取り組みを行うものとする。
(1)日本国政府は、1992 年からベトナムへの援助を本格的に再開。2 カ国間供与におい
て、日本は 1995 年以降現在までベトナムのトップドナーとなっている。
(2)新聞報道によれば、ベトナム政府は昨年の共同声明に基づき、70 項目に及ぶ円借款
希望リストを日本政府に提示。 ベトナムのグエン・タン・ズン首相は 2011 年 10
月中旬にベトナムを訪問した鳩山元首相に対し、7 事業の円借款案件の履行を求め
10-2
ており、円借款希望リストなどの情報交換を更に活発化し、日本政府がベトナムを
戦略的パートナーとして円借款供与を推進させる意向。
(3)2011 年 10 月 31 日、日本の野田首相とベトナムのズン首相は、重要分野における協
力の強化・深化させるべく、戦略的パートナーとして日越共同声明を締結。
海洋安全・保障の観点から、南シナ海の平和と安定は国際社会の共通利益であり、
航行の自由、円滑な商業活動並びに国連海洋法条約及び紛争の平和的解決を含む確
立された国際法規の遵守が両国及び周辺地域全体の利益にかなうものであり、これ
らの共通利益が南シナ海においても確保、遵守されるべきである、との認識を両首
脳は確認している。また、同共同声明と併せ、6案件、約 926 億円の円借款供与の
取り組み方針を正式表明。
(4)2011 年 11 月の ASEAN 首脳会議にて、日本と ASEAN は、ASEAN 統合を支援し、地域
の開発格差を是正すべく密接に取り組むことを確認している。日本政府は ASEAN 連
結性マスタープランの実施を支援し、地域における連結性の拡大によって、東南ア
ジアの地域の中心としての ASEAN の地位が強化されるものと確認。
この「連結性マスタープラン」中の優先案件の 1 つに「ASEAN Ro Ro 船ネットワー
クの構築」に係る支援も掲げられており、これに関連した「戦略的海運インフラ整
備」にかかわる調査が実施された結果、
「優先整備港」として 10 港が挙げられ、ベ
トナムにおいてはカイメップチーバイ港とハイフォン港が選定されている。
本調査では、これらの港湾をフェーズⅠでの整備対象としており、上記の「戦略
的海運インフラ」の動きと連携し、今後の Ro Ro 船ネットワーク構築と同期して、
早急に進める必要がある。今後、日本と ASEAN との戦略的パートナーシップの強化
によって、経済的な相互依存及び共栄の可能性が増大されると期待されており、海
洋はアジア太平洋地域を連結する公共財であるとの認識がなされ、紛争の平和的解
決、航行の自由、国際法の遵守といった海洋保障に関する基本的なルールが重要で
あることが確認されている。海洋安全保障・海洋環境保全・救難救助等において、
東南アジア地域の陸上・海上物流網の要衝であるベトナムは、ASEAN 諸国の一員と
して当該船舶航行監視システムの整備を実施し、ASEAN 地域における公共財である
周辺海域及び海洋の安全確保は不可欠とされる。
また、上記 ASEAN 首脳会議と平行して開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)
関連外相会議では、日本の松本外相(当時)により、域内の海上物流の連携を強め
る「海洋 ASEAN 経済回廊」構想が表明された。日本政府は、これまで ASEAN に対し
て、インドシナ半島の陸上物流を支援しており、今後は、海も含めた全域を囲む「回
廊」整備に力を入れ、海上物流網の整備や効率化へ協力することが公約された。具
体的には、域内で総額2兆円規模のインフラ整備への支援が行われ、
「Asia Cargo
Highway」構想もその一環である。ここでは「通関手続きの円滑化」など、財務省・
アジア開発銀行(Asian Development Bank:ADB)等との連携で進められる動きがあ
10-3
り、その中で、ベトナムは南部経済回廊(タイ、カンボジア、ベトナム)
、東西経
済回廊(タイ、ラオス、ミャンマー、ベトナム)における国境を越えた陸上輸送網
の要衝であるため、周辺国の農業・工業製品のリードタイムの短縮・輸送の多頻度
化が期待され、
周辺 ASEAN 諸国全体の経済成長・活性化を促す拠点と目されている。
本調査に基づくシステム整備は、このような経済回廊が有効に機能するためにも
必須のものであり、これらのプロジェクトと連携して、迅速に推進されるべきもの
と考えられる。
2.今後の円借款要請・供与に向けて必要となる措置
2.1
事業実施、提案技術の採用、円借款要請の実現に関して前提条件となる相手国の法
的・財務的制約等の有無
提案技術は、
すでに国際海事機関で加盟国に対し導入が勧告されている技術であり、
またベトナム国内でも一時試行的に運用されていることから、ベトナム国内法の制約
は受けない。また、前出「港湾システム等整備計画(首相府決定 No.1041/2009/QD-TTg)
」
において、すでに本事業実施のための支出が見込まれることが承認されており、財務
的制約はないながらも当該調査結果を踏まえ、当該事業の本格実施の可否について、
ベトナム側政府にてフィージビリティスタディを実施。調査報告書が投資計画省に提
出され、ロングリストにリストアップされなければならない。Vinamaraine は、運輸
省計画投資局、投資計画省との協議を持ち、円借款要請の手続きを行う。
現在、ベトナムでは全般的なインフラ整備が急がれており、他国借款等を利用せざ
るを得ず、同国財政の面でも楽観視出来ない状況である。かつ、インフラ整備におい
ては、ベトナム運輸省案件として、港湾の開発事業、高速道路を含めた道路整備並び
に鉄道網の整備が最優先事業として計画されており、他省庁の計画においては電力事
業の整備等が最優先事業として挙げられている。当該案件のような、社会的に必要不
可欠な事業であっても、他事業との差別化を図り、国家計画としての優先順位を上げ
るためには、当方調査を基にした Vinamaraine としてフィージビリティスタディの実
施結果を踏まえ、最優先の国家的事業計画として推し進める必要がある。
また、2012 年1月、実施国側との最終報告会において、Vinamaraine より、2012 年
3 月にロングリストに記載させるべく、運輸省計画投資局への要請を上申するよう対
応していく旨、表明があった。
10-4
2.2 日本側の必要な措置
相手国側の円借款要請・供与に向けて、日本側の必要となる措置は、現段階では見
当たらない。ただし、ASEAN 全体の海上保安能力強化という観点では、他の ASEAN 諸
国も含めた本システムの ASEAN における一体活用方法について論議の場を設け、相手
国側の保守運用体制構築に対する支援が望まれるところである。
2.3 追加的な詳細分析の要否
本調査は、国際的な設計方法・手順に基づき設計しており、実施にあたっては、可
能な限り既存施設を利用すること、また新設局舎予定地については、周辺環境に影響
を与えないよう、現地の規制状況等を含め、総合的に考慮した最適地を選定すること
としている。したがって、より柔軟な配置計画に対処できることから、追加的な調査
分析の必要性はない。
3.円借款要請に向けた具体的なアクショプランと課題
今後、本案件に対する円借款の要請及び供与に向けて、日本側で必要と考えられる措
置としては、ベトナム政府側の関連機関へ以下の働きかけが必要である。
・ 本件の実施機関である Vinamarine
・ 実施機関の調達業務を管轄する運輸省計画投資局
・ 政府計画を作成する計画投資省への案件説明及び今後の連携
3.1
ベトナムにおける本件に関連した、これまでの動向
これまでの本件に関連した、これまでの動向をまとめると以下のようになる。
2008 年:
我が国の円借款により主要5港及び沿岸24 ヶ所に GMDSS 海岸局を整備(2007/1 月完
工)。2008 年に行われたベトナム・日本合同プロジェクト評価において、当該事業
は高評価を得たものの、同評価は、IMO の SOLAS/SAR 条約規定の遵守のため、AIS
や VTS の更なる能力強化を提言。
2009 年 7 月:
ベトナム政府(ベトナム首相府決定 No. 1041/2009/QD-TTg)は、近海・港湾海運
の安全性・信頼性・効率性等の向上を目的として、2010 年~2015 年にかけた港湾及
び主要河川の航行監視システムの整備を最重要項目として正式に発表。
2011 年 3 月:
Vinamarine は、在ベトナム日本大使館及び JICA に対し、VTS や AIS の整備等につ
いて、我が国 ODA の適用の可能性を打診。
10-5
2011 年 8 月:
我が国経済産業省が公募した円借款案件形成調査において、弊グループ提案の『ベ
トナム・船舶航行監視・安全管理能力強化網整備事業調査』が採択、8 月に契約締
結し、9 月より調査開始。
(2012 年 2 月末 調査完了)
また、本年について、今後考えられるスケジュールとしては、次のとおりである。
2013 ~2020 年:
本プロジェクトは、港湾利用船舶の安全航行能力強化を目的としていることから、
一体的な運用・保守されることが望ましい。しかしながら、各港湾や河川港におけ
るトラフィック動向、水路の利用状況、港湾整備状況並びにベトナム政府及び実施
機関側による予算措置(第一期:48 億 6,000 万円、第二期 108 億 3,000 万円)に
鑑み、第一期事業は、2015 年までに物流貨物の増加に伴う輻輳が見られるホンガイ、
ハイフォン、ブンタウ、ホーチミン、2015 年 ASEAN 統合によりタイ東部やラオス南
部の物流拠点としても機能が期待されるダナンの 5 港を対象とし、第二期事業は、
2020 年迄に地域の物流拠点として機能している港湾のほか、後背地で大規模工業団
地や巨大発電プラントの建設が実施されているギソン、ゲアン、ブンアン、ズゥン
クアット、クイニョン、バンフォン、ニャチャン、ビンタン、クガ、ドンナイ、カ
ントーを対象とし、本プロジェクトを完了すべく案件実施を目指す。
3.2 円借款要請への課題
相手国側の Vinamarine 及び運輸省計画投資局、本案件の重要性・必要性については
理解を得ている。しかしながら、計画投資省は、事業実施優先順位が重要であるとのコ
メントが発せられている。
ベトナム経済は過去10 年間に平均7.3%の経済成長を遂げており、
今後2020 年まで約7%
の経済成長を見込んでいる。一方で、経済成長を支える電力、交通道路網や物流等のイ
ンフラ整備が遅れており、インフラ分野での整備が急がれている。斯様な分野への強化・
支援が必要な現状において、本邦独自保有技術をアピールし、Vinamarine は、日本政府
への要請を取り付けるべく当該案件の実施優先度を高めるべきと考える。
当該調査においても、実施国側の Vinamarine、運輸省投資計画局並びに投資計画省か
らは、総じて当該案件が円借款取組み実施に関して高い優先度を得ることが重要である
旨の助言があった。
実際には、本プロジェクトにて整備される船舶航行監視システムの運用者は
Vinamarine 傘下の各港湾局となるが、当該プロジェクトでは港湾局間の連携強化が必須
であり、運輸省 Vinamarine による全体プロジェクトを統合管理する PMU (Project
Management Unit) の設立・組織がなされるよう働きかける必要がある。
10-6
また、技術者養成制度の確立、継続的な職員の研修、保守メンテナンス部品の調達管理
が可能な組織・体制を整備することが必要であり、円借款採択には不可欠である。
10-7
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