3 思考活動を保障するユニバーサルデザインの授業づくりの実際

３
思考活動を保障するユニバーサルデザインの授業づくりの実際
「守れ！さぬきのお米
- 消費 者の 求めるお米 とは -」 (第５ 学年)
（１）育 成し たい「思考 力」と思考 に必要な要素
【 単 元 で 育成 し た い 「 思 考 力 」】
時空間，立場の広がりの中で，稲作に関する自然環境とそこに携わる人々の営みを相互に関
係 づけ ，我が国 の農業の意 味や 価値を捉え る力
思考 活動
知
識
稲作や流通に必要なもの(気温，日照時間，雪解け水，流域面積，品種，農事暦，流通経路，
カントリーエレベーター等）を知っている。
我が国の稲作は，長年，気候や地形をうまく利用し，努力や工夫を積み重ね，国民の食料
確保という重要な役割を担ってきた。このことを捉えさせるためには，上記「思考力」の関
係づける力が必要である。過去へと時間的視野を広げたり，他地域へと空間的視野を広げた
りして，稲作に向かない地形や気候と，品種や農業施設を改良した人々の営みを関係づける
ことで，稲作が食料を確保するうえで重要な役割を果たしてきたことを捉えることができる
のである 。
この「思考力」を育成するためには，上記「知識」が必要である。ここで言う知識とは，
例えばカントリーエレベーターであれば，単に収穫した米を保管する施設というものではな
く，そ の地域で育 てら れたお米が 品質に関係 なく，一 緒に保管さ れる 施設と いう ものである。
このような知識によって，空間的視野を広げ，地域全体が協力体制を構築しなければならな
いことが 捉え られるので ある。
（２）本実践におけるユニバーサルデザインの授業づくりと詳細
授 業づ くり
＜ 「知識」 への 働きか け＞
○
想 定されたつ まずき
・
子 ど も た ち は ， 香 川 県 より 庄 内 平野 で 稲 作が 盛 んな 理
由 は ， 気 候 条 件 で 比 較 す ると 豊 富 な水 に あ ると 考 えて い
文 字 情 報 だ け で は ， 量 感 や 仕 組 た 。 そ れ は ， 山 形 県 と 香 川県 の 年 間降 水 量 や月 別 の降 水
み等が理解できない。
・
実 践の詳細
量 を数 値 及び グ ラフ で 表す と 明 ら かで あ る。しかし ，11
数 字 を 読 む だ け に 満 足 し ， 量 感 月 ～ ３ 月 を 隠 し て ， 稲 作 が行 わ れ てい る 時 期に 絞 って 再
が 捉 え に く く ， 具 体 的 に 想 起 す る 度 提 示 す る と ， 子 ど も か ら「 あ ま り香 川 県 と変 わ らな い
ことが難しい。
○
働きか け
・
な ， 本 当 は 水 は 関 係 な い の で は 。」 と い う 気 付 き が 表 出
さ れ た 。 そ こ で ， 主 に 雪 の降 る 月 の降 水 量 を色 分 けし て
降 水 量 の グ ラ フ を 雪 が 降 る 時 期 示 し ， そ れ を グ ラ フ 上 で 稲作 が 行 われ る 時 期に 移 動さ せ
と 雨 が 降 る 時 期 に 色 分 け し ， 山 に た 。 そ の グ ラ フ と 雪 の 写 真を 示 す こと で ， 山に 雪 とし て
積 も る 雪 の 写 真 と 並 べ て 提 示 し た 。 た め ら れ た 水 が ， 暖 か くな る と とけ て(雪 ど け 水)，豊 富
（主：イメージ化）
な水 とし て稲作に 使われるこ とが 理解 できた。
事 前 に 実 施 し た 「 思 考 力」 テ ス トの 結 果 によ る 「思 考
力」高位群，低位群の 抽出 児の反 応は以下 の通りで ある 。
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高 １ 児 ： 米 づ く り を 行 う 時 期 に 絞る と 山 形 県 の 降 水 量 は
香 川 県 と よ く 似 て い た けど ， や っ ぱ り 多 か っ た
な。
【雪山の写真】
高 ２児：雪ど け水が大量に 川に流れ込 んでいるな 。
低 １ 児 ：（ 棒 グ ラ フ を 見 て ） す ご い 。 こ ん な に た く さ ん
の水 が川に流れ込 んでいるの だな。
【雪の降る月を色分け】
・
教室の縦を最上川としたときの
低 ２ 児 ：（ 雪 山 の 写 真 を 見 て ） こ の 雪 が と け て ， 水 に な
って いるんだ。
土器川 の長さをテープで示す。（ 補
：イメージ化）
米 づ く り に 必 要 な 水 が 豊富 に あ ると い う こと を 十分 に
捉 え ら れ な い 子 ど も に は ，降 水 量 や雪 ど け 水と 併 せて 川
の 長 さ や 流 域 面 積 も 示 し た。 数 値 やグ ラ フ だけ で は十 分
量 感 が 捉 え に く い 子 ど も のた め に ，教 室 全 体を 使 って 川
の 長 さ や 流 域 面 積 を 表 し た。 最 上 川の 長 さ を教 室 の前 後
とし て， テープで 示し，流域 面積 を教 室全体と した。
比 較 対 象 と し て ， 香 川 県の 土 器 川を 左 記 のボ ー ドで 提
【簡略化した流域面積】
示 し た 。 ボ ー ド を 流 域 面 積と し ， 川の 長 さ をボ ー ド上 の
最 上 川 の 流 域 面 積 を 教 室 の 面 積 青 い 線 で 提 示 し た 。 そ う する こ と で， 最 上 川と 土 器川 の
・
と し ， 土 器 川 の 流 域 面 積 を 長 方 形 差 を 感 じ る こ と が で き ， 最上 川 に は， 稲 作 に必 要 な豊 富
のボードで示す。
＜ 学習問題 の設 定＞
な水 が流 れている という知識 がよ り強 化された 。
子 ど も た ち は ， 最 上 川 には ， 降 水量 に 雪 どけ 水 を加 え
た豊 富な 水が流れ ているとい うこ とを 理解した 。その後，
川 か ら 少 し ず つ 水 田 の 写 真を 離 し てい き ， 視覚 的 に遠 く
離 れ た 場 面 を 設 定 し た 。 そう す る こと で ， 子ど も たち は
最 上 川 か ら 広 い 庄 内 平 野 の隅 々 ま で水 が 運 ばれ て いる の
【最上川と水田を離して提示】
＜ 「知識」 への 働きか け＞
○
想 定されたつ まずき
だろ うか ，という 課題をもつ こと がで きた。
子 ど も た ち は ， 資 料 か ら用 水 路 や排 水 路 ，取 水 口や ポ
ン プ 場 を 見 つ け た 。 し か し， そ れ らの 施 設 が， 最 上川 か
文 字 や 写 真 だ け で は ， ど こ で 何 ら 水 田 の 間 の ど こ に あ り ，ど の よ うな 働 き があ る のか ，
・
をするものか理解できない。
○
働きか け
・
明 確 に 説 明 す る こ と は で きな か っ た。 そ こ で， 最 上川 か
ら 水 田 ま で の 間 に ， 調 べ た施 設 の 写真 や 絵 を位 置 づけ ，
水 の 流 れ 図 の 中 に そ れ ぞ れ の 施 水の 流れ を分かり やすく提示 した 。
設の写真を位置づけ，施設の働き
ポ ン プ は 川 の 近 く に あ り， 機 械 の強 い 力 で水 を 送る 。
が 分 か る よ う に し た 。 ま た ， 川 か 用 水 路 は 川 と 田 の 間 に あ り， 地 下 にあ る 水 を送 る 用水 路
ら 取 り 込 ま れ ， 水 田 ま で 運 ば れ る と 排 水 路 に 分 か れ て い る 。田 ん ぼ には 給 水 栓が あ りバ ル
水の流 れを図式化した。（主：過程 ブ を 開 け ば 水 が 出 る 。 こ のよ う に それ ら の 施設 が 川と 水
の明確化）
田 の 間 の ど こ に あ り ， 何 をす る も のか 理 解 する こ とが で
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き た 。 ま た 「 ポ ン プ を コ ンピ ュ ー タで 管 理 して い る人 が
い る 」 と い う 発 言 か ら ，た だ ， ポン プが 30か所 以 上あ る
だ け で な く ， そ れ ら の 施 設は ， 管 理し た り 守っ た りし て
【最上川から水田までの水の流れ図】
＜ 個々の考 えを 表出す る場＞
いる 人が いなけれ ばならない こと も理 解できた 。
子 ど も た ち は ， 香 川 県 では 自 然 の傾 斜 を 利用 し て， 水
山 形 県 と 香 川 県 の 川 か ら 水 田 へ の 水 が 大 き な た め 池 か ら 順 々 に小 さ な ため 池 に 流れ ， そこ か
の 運 ば れ 方 の 違 い を 対 比 的 に 見 せ る こ ら 用 水 路 を 通 っ て 各 水 田 に送 ら れ てい る こ とを 知 識と し
と で ， そ れ ぞ れ の 土 地 利 用 の 様 子 や 人 て も っ て い た 。 そ の 知 識 と， ポ ン プを 使 っ て田 に 水を 送
々の営みに気付かせた。
っ て い る 庄 内 平 野 と を 比 べな が ら ，ポ ン プ が必 要 な理 由
を考 えた 。その時 の子どもの 反応 は以 下の通り である。
Ｔ：庄内平野では，どうしてポンプがいるのかな。
C1：香川より広く，遠くまで水を送らないといけないからだ。
C2：香川は傾斜があったけれど庄内平野は平らだから。
C3：香川の土器川ぐらいだったら，水の量も多くないけど，
最上川だと，ポンプで調整しないと用水路があふれてし
【山形県と香川県の稲作を比較】
まうから。
C4：豊富な水があっても平らな土地に水を送るのは大変だな。
こ の よ う に 複 数 の 地 域 を比 べ て 考え る こ とで ， 香川 県
の 人 々 が 少 な い 水 を 無 駄 なく 水 田 に運 ん で いる こ とや 山
形 県 の 人 々 が 豊 富 な 水 を 平坦 な 土 地の 隅 々 まで 行 き渡 ら
せ て い る こ と に 気 付 い た 。そ し て ，農 家 の 人々 が 困難 を
克 服 し な が ら ， 私 た ち の 食を 支 え てい る こ とを 表 出し ，
伝え 合う ことがで きた。
（３）成果と課題
①
量的な検 証
本 実 践 の 前 後 で テ ス ト (10点満 点 )を 行 い ， ｢思考 力 ｣の 伸 び を 検 証 し た 。 そ の 結 果 ， 平 均 値 で
1.5点 の 向 上 が 見 ら れ た 。 こ の 差 に つ い て t検 定 を 行 っ た と こ ろ ，〔 t(38)=7.45,p<.10〕 で ， 有
意傾向が見られた 。 こ の こ と か ら ， 本 実践を通して｢思考力｣の 向上が図られたと言える。
②
考察
本 実 践 を 通 し て 「 思 考 力 」 の向 上 が 図 ら れ た の は ， グ ラ フ や 写 真 ・ 図 等 の 資 料 を つ な い だ り
加 工 し た り し て 示 し た イ メ ー ジ 化 や 提示 す る 位 置 を 工 夫 し た 過 程 の 明 確 化 の 働 き か け に よ り ，
十分に知 識が獲得 され，思 考活 動を保障 できた から だと 考え る。
し か し ， 学 び 合 い の 場 面 で の手 だ て は 不 十 分 で ， 教 師 主 導 で 子 ど も 一 人 一 人 の 考 え を 関 わ ら
せ る 場 が 十 分 確 保 さ れ て い な か っ た 。そ こ で ， 今 後 は ペ ア や グ ル ー プ 等 で ， 子 ど も ど う し が 考
えを深めていけるようにしていきたい。また，働きかけによって得られた知識を整理するワー
クシート 等を用意 し，学び 合い を活性化 させて いき たい と考 える。
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