Comments
Description
Transcript
第8回 ジョンソン・エンド・ジョンソンコンシューマーカンパニーの
第8回 ジョンソン・エンド・ジョンソン コンシューマーカンパニーの人事改革(2) ‥‥‥ 一致団結のキーパーソン ‥‥‥ 日系企業を経て,1985年にジョンソン・エンド・ジョンソン社 に入社。関係会社において法務,総務,人事のポジションを経 て,2003年にコンシューマーカンパニーの人事総務責任者に就 任,現在に至る。 を創設した背景には,トップのビ ジョンやメッセージを全社員が正 しく理解し,実践することに当時 とても苦労していたことがありま す。そこを改善するにはマネジメ ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 コンシューマーカンパニー人事総務部 バイスプレジデント 平野 学 氏 ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 ●日本本社所在地:東京都千代田区西神田3丁目5番2号 千代田ファーストビル西館 ●売上高:約650億ドル(2011年全世界実績)/日本実績については未公表 ●従業員数:全世界約114,000名/日本におけるグループカンパニー約4,300名/コンシュー マーカンパニー240名(2011年12月現在) ●事業概要:ジョンソン・エンド・ジョンソンは,世界60ヵ国に250以上のグループ企業を 有する「世界最大のトータルヘルスケアカンパニー」として,消費者向け製品,医家向け 製品である医療機器・診断薬,医薬品の分野で数万アイテムに上る製品を世界中で提供し ている。コンシューマーカンパニーでは,救急絆創膏「バンドエイド」などのウーンドケ ア製品,低刺激のスキンケア製品( 「ジョンソン」ベビー製品, 「ニュートロジーナ」など) , 口内衛生環境をサポートするオーラルケア製品(薬用マウスウォッシュ「リステリン」, 「リーチ」歯ブラシ),禁煙補助剤「ニコレット」他一般医薬品など,高い専門性と技術力 を備えた製品の販売を展開している。 ントと現場の間を繋ぐマネジャー クラスの間できちんとした議論を 行い,納得感を醸成し,現場に落 とし込んでもらう必要があると考 えていました。また,シニアマネ ジャー以上の社員が,経営課題に ついてマネジメントの指示に従う だけでなく,自分のこととしてと らえ,自分は何をすべきかを考え る機会をもつことにより,将来の 「一致団結」をテーマに先進的 な取り組みを行っている企業・プ ロジェクト事例を紹介する本連 キャリアに向けてのトレーニング 経営管理と人材育成を 会議を通じて強化 とする目的も念頭に入れていま す。当社では常に新しいやり方を 載。前回に引き続き,ジョンソ ―最初に会議体の話です。どこ 目指す文化を創る仕掛けを考えて ン・エンド・ジョンソン社(以下, の会社でもビジョン・方針浸透や いるのです。 J&J)のコンシューマービジネス コミュニケーションを活性化する 具体的には,年間のシーズンに 部門,人事総務部バイスプレジデ 目的で会議をもちますが,拘束時 応じた議題(目標の進捗と今後ど ントである平野学氏との対談形式 間が長い割には議論が散漫,結論 のような展開をするかを報告・議 で,組織力を高めるための会議体 も出ずといった状態で,効果性に 論)や,会社の新しい動きについ 設計,職務や経験の幅を広げる仕 乏しいことに直面します。 て各部門での取り組みを議論する 掛け,コンピテンシーによる営業 平野:我々がシニアマネジャー以 など,テーマを組み合わせていま 行動マネジメント等の具体的なコ 上の社員を招集し,経営課題を四 すが,まず社長から終了した四半 ツをご紹介する。 半期に 1 度のペースで議論する 期についてマネジメントの総括を LT会議(Leadership Team会議) 行い,その後その日のテーマにつ 68 人事マネジメント 2012.7 www.busi-pub.com いて分科会で 1 時間ディスカッシ きもコメントしやすいのです。こ のことで,マネジャーではないが ョンし,最後に全体会議に戻って れは日本人同士だけで成り立つ 部下を管理し,マネジャーの疑似 再発表,議論を行うとともに,社 “あうんの呼吸”や曖昧な表現が 体験・練習の位置づけとしていま 長からの講評を受ける流れとなり 通用しない米国本社やAsia す。手当もつきますが金銭的なイ ます。テーマによっては丸 1 日を Pacificとの会議やコミュニケー ンセンティブ以上に役割付与によ かけますが,議論すべき内容も非 ション経験から学んだことかな, る責任感や主体性の向上が行動の 常に多く,メンバーはその準備や とも思いました。会議の生産性や 原動力です。 対応に真剣に取り組まざるをえま 実効性に悩んでいる企業ではぜひ せん。情報共有以上に互いに切磋 実践してもらいたい工夫です。 琢磨するオーナーシップの醸成に も繋がっています。 3 ∼ 4 年目に なってようやく運営も定着し,経 トレーナーとは新人社員の集合 研修後の教育担当者のことで,選 任基準があります。 6 ∼12月の半 新たな役割を与えて 責任感と成長機会を創出 年間の役割ですが,人材育成に直 接関わることで,新人の成長支援 営管理の場としてだけでなく部門 ―前回の議論で非常に興味深か とともに彼ら自身の成長課題や気 長クラスのレベルアップ,人材育 った点は,外資系であっても職務 付きを得る場となっています。 成にも手応えを感じています。ま 主義にとらわれず,柔軟に役割や コミュニケーターとは就活イベ たこの場で事業計画だけでなく, 担当を設定して,積極的に仕事の ントでプレゼンテーションをした 組織・人事的なことも積極的に議 幅を広げるよう促していたことで り,採用面接でグループディスカ 題に挙げています。例えばクレド す。 ッションのファシリテーションを ーサーベイ(従業員のエンゲージ 平野:スリムな組織で最大限の成 行ったり, ある程度選考が進むと, メント調査)の結果から,全社共 果を出そうと考えたら,それしか 1 人ひとりの採用候補者のフォロ 通の課題を討議するとともに,部 ないという事情もあります(笑)。 ー役もします。コミュニケーター 門単位の課題抽出や解決策の策定 もう 1 つの背景は職位のシンプル は去年から始めたところで,非常 をしたり,人事から新しい管理職 化に伴うモチベーション問題のジ によい手応えです。日常の仕事と 任用のあり方や人事制度の見直し レンマ解消です。J&Jの全体方針 兼務であり,土日に学生から相談 等を提言したりする場にもなって により職位の数を絞り込み,シン を受けて時間をとられるようなこ います。 プルにしています。しかし,そう ともあるので,最初は否定的,消 ―このような会議体を形骸化さ なると次のランクに昇進するのに 極的なスタンスの社員も見受けら せないコツはトップのコミットメ 時間がかかり,モチベーション維 れました。しかし,学生に対して ントとよく言われますが,我々が 持が難しいという状況に陥るわけ 自らの言葉で会社を語る経験を通 オブザーブした際にもう 1 つの成 です。そこで工夫したのがリーダ して,ロイヤリティ(帰属意識) 功要因を見つけました。それはフ ー,トレーナー,コミュニケータ の向上に繋がっているのだと思い ァクト(事実)とロジック(論理) ーという役割を作り,そこで成長 ます。結果として「来年もやりた で議論しようという姿勢です。会 体験やモチベーション向上を図っ い」という声も挙がってきていま 議資料も数字をベースに結果や見 てもらうことでした。 す。また,例年より採用活動全体 通しを語り,それを起点に議論が リーダーとは,大手ドラッグス なされるので他部門の人であって トア等の大きなセールスアカウン あります。 も理解しやすく,また反論や気付 トを担当するチームのリーダー役 ―今のお話は多くの企業で採用 の精度が上がってきている実感も 2012.7 人事マネジメント www.busi-pub.com 69 しているリクルーター制度やメン ら,営業スタイル変革のためにこ り,さらには継続性を担保するた ター/OJTリーダーといった制度 れまでとは違う要素を明確にして めに「チャレンジ&レビュー」と と仕組み自体はそれほど相違がな いました。 いう従来から弊社の制度で定着し い印象です。うまく機能できてい 平野:その通りで,前回ご説明し ている目標設定や評価のレビュー るポイントは何でしょうか? たように,ビジネス環境の変化と プロセスに組み込むことにしまし 平野:“将来の経営リーダーにな 競争は激しく,これからの営業は た(図表)。具体的には上司と部 ってほしいと期待している人材が 重要な得意先小売店に当社の製品 下でそれぞれのコンピテンシー項 必ず経験すべき成長機会である” だけを売るのではなく,カテゴリ 目をアセスメントし,特に認知ギ というメッセージを会社が打ち出 ーグロースコンサルタントとして ャップが大きいところを中心に話 していることでしょうか。我が社 提案していくことが求められま し合うよう促しています。正直な にもサクセッションプランがあ す。営業社員は皆そのコンセプト ところ,試行錯誤を繰り返し,ち り,ディレクターやグループマネ は分かるけど,具体的にどうした ゃんとしたレビュープロセスがで ジャーのポジションを担える人材 らいいかはよく分からない。従っ きつつあるのはつい最近ですが, プールとして,Ready Now(12ヵ て,あるべき営業プロセスや行動 継続性と徹底が成功の鍵なのでこ 月以内),Ready Later( 1 ∼ 3 年) , をもう少し具体的に明示する必要 れからも注力していきます。 Ready Future( 3 ∼ 5 年)という がありました。 ― ご指摘の通り,運用面の継 また,このようなコンピテンシ 続・徹底が 1 つの成功の鍵です ます。そこにたどり着くまでに, ーは作りっぱなしだと,現場で十 が,さらに,企画・設計面の工夫 あるいはマネジャーに昇格するた 分に使われないまま風化しがちだ もポイントになると思います。新 めの必要プロセスとして,[コミ ということを過去の経験から学ん しい営業スタイルにフィットした ュニケーター]→[トレーナー] でいました。 それを避けるために, ものを作るにはコンピテンシーモ →[リーダー]という経験が必要 分かりやすいハンドブックを作 デリングの伝統的なアプローチか 区分で人材を特定して管理してい だと理解されるようになると, “人事から頼まれためんどうな仕 事”というネガティブな受け止め 方ではなく,“自分のための能力 開発プラン”というポジティブな 意欲に変わるのだと思います。 営業スキルコンピテンシーの 活用・展開・実践 ―我々がご支援させていただい たことの 1 つに営業スキルコンピ テンシーの開発・導入がありま す。とはいえ,貴社ではすでにコ ンピテンシーは数多くお持ちで, それらとの整合性を持たせなが 70 人事マネジメント 2012.7 www.busi-pub.com 図表 営業スキルコンピテンシーを活用したアセスメントとフィードバックサイクル ら脱却して企画・設計することが 大きな行動変革が求められるとき IT,M&A等の進展,決算早期化 必要だと考えました。モデリング にその指標として脚光を浴びま などが進み,人事部門と現場との は一般的にはハイパフォーマーへ す。その意味では1990年代から 認知ギャップは広がる一方ではな のインタビューがベースです。イ 2000年代にかけての成果主義人 かろうか? 人事部が本当に企業 ンタビュー手法では時にあまりに 事ブームのときと同様に最近では 経営やビジネスサイドに貢献する も高い理想や行動例が表出し,欲 営業改革・業務プロセス改革の場 ためにはまずは彼らが結果を求め 張りすぎて,スーパーマンのよう 面で再び注目が集まっています。 ているタイムラインを肌感覚で知 な行動がコンピテンシーとして記 他社の皆さんにも企画・設計・運 る必要がある。 述され,理想的,網羅的すぎて使 用面でぜひ参考にしていただけれ えないということが現場で多々起 ばと思います。 版(開発途上版)をリリースし, こります。この対応策で我々は 平野:J&Jは元来,イノベーティ そこでユーザーのフィードバック 「カードソート」という技法を使 ブな企業精神ですので,人事部門 による改善要望の吸い上げや機能 いました。定評のあるコンピテン も常に新しいことをどこよりも早 不具合を見つけ,走りながら完成 シーディクショナリーの項目をカ く取り入れて,マネジメントやビ 版に近づけるやり方が一般的だ。 ードにして, 「特に重要」 「あるこ ジネスサイドの期待に応えたいと 人事部門はとかく完璧主義で制度 とが望ましい」「いらない」と 3 思います。 構築・見直しに検討・調整・合意 分の 1 ずつの強制分布でハイパフ ォーマーに振り分けてもらうので す。この技法のメリットは,どう しても譲れない重要点がクリアに ソフトウエア開発の世界ではβ 形成に長い時間を費やすが,外部 ― まとめ ― 走りながら考える スピード感のある人事へ 環境は刻一刻と変わっていること にもう少し敏感になる必要があ る。J&Jコンシューマーカンパニ なることで,期待される行動の項 少し本題からそれるが,これま ーの人事がここ数年やってきた施 目数とレベル感をコントロールで で我々のクライアントはほぼすべ 策は,ある意味,完璧でなくても きるメリットがあります。 て人事部であった。ところが最近 構想,骨子だけのβ版レベルで社 もう 1 つ直面したのは新しい営 は様変わりし,営業部門・企画・ 員にリリースし,マネジメントや 業行動を作るので,現在のハイパ 開発部門の皆さんと直接働く機会 現場社員のフィードバックを経 フォーマーの行動分析だけでは不 が増えている。人事部の動きを待 て,段階的な改善を行っている。 十分だという問題です。この対応 っていられないので,人事が主管 β版では当然完成度が低いので, 策ではやはり原点に立ち返って, すべきこと(例:組織設計,配置 社員から手厳しいコメントや反応 新しい戦略,それを実現する営業 転換,ワークスタイル,営業イン をもらうこともあるだろう。しか プロセスという上位概念を整理 センティブ,研修・教育制度等) し逃げずにそれに立ち向かい,い し,新プロセスを可視化し,それ を部門レベルで率先して,自分た ち早く対応するほうが結果として に合ったコンピテンシー項目を当 ちでビジネスニーズに合うものに スピード感が上がり,ビジネスニ てはめていくというアプローチで 変えてしまおう,という感じだ。 ーズに合った人事に変貌できるの す。今の状態を是とできないわけ 人事とビジネスサイドの一番の ではないだろうか。多くの日系企 ですからそのようなことも大事で 違いは周囲を取り巻く環境変化の 業人事でも走りながら人事改革を すね。 スピード感覚と売上/利益の計数 進める姿を期待したい。 コンピテンシーというのは何か 感覚だ。最近ではグローバル化, 2012.7 人事マネジメント www.busi-pub.com 71