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10 音 - 福岡市教育センター
平成17年度 研 究 紀 要 (第717号) G5-02 感受の深まりを実感できる鑑賞指導の工夫 「リズムに乗ったり,拍を取ったりして聴いている」「口ずさみながら 聴いている」「何度も聴いている」というような姿で,児童が感受の深ま りを実感できる鑑賞活動になるように,指導の改善に取り組んだ。 その結果,題材構成の工夫を行い,授業設計の工夫として,教材曲との 出会いを大切にした場の設定・身体表現や自分たちの演奏等による表現・ 曲想や音楽を特徴付けている要素を感じ取るような言葉掛けを行うことが 有効であると分かった。 福岡市教育センター 音楽科研究室 目 第Ⅰ章 次 研究の基本的な考え方 1 主題設定の理由‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音 1 2 主題についての基本的な考え方‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音 1 3 研究の目標‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音 2 4 研究の仮説‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音 2 5 研究の内容‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音 2 (1)感受の深まりを実感させるため,教材選択に視点をあてた題材構成 の工夫‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音 2 (2)児童に感受の深まりを実感させるための授業設計の工夫 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音 3 指導の実際とその考察‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音 5 (1)小学校第1学年「ようすをおもいうかべておどろう」‥‥‥‥‥‥音 5 第Ⅱ章 1 感受の深まりを実感できる鑑賞指導と実際 (2)小学校第6学年「日本の楽曲の音色を味わってきこう」‥‥‥‥‥音10 (3)小学校第6学年「曲想を感じ取ってきこう」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音15 第Ⅲ章 研究のまとめと今後の課題 1 研究のまとめ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音20 2 今後の課題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音20 引用・参考文献 であるということも再認識した。例えば小学校 第Ⅰ章 研究の基本的な考え方 学習指導要領(音楽)の第1学年及び第2学年 の内容を見ても,〔A 表現〕の「(1)音楽を聴い 1 主題設定の理由 て表現できるようにする」と,(2)の「ア 歌詞 音楽科においては,多様な音楽に主体的・創 の表す情景や気持ちを想像して表現すること」 造的にかかわり,音楽を愛好する心情を育てる を関連付けて指導すること,あるいは〔B 鑑賞〕 こと,音楽に対する感性を豊かにすること,音 の(1)の「ア楽曲の気分を感じ取って聴くこと」 楽活動の基礎的な能力を伸ばすことを実現する も合わせて学習内容に位置付けることが可能で ことによって,その総括として豊かな情操を養 ある。そこでは表現教材を鑑賞したり,表現教 うことが教科の目標として掲げられている。そ 材と関連した鑑賞教材をじっくりと聴き味わっ して各学校では,これらの目標の達成に向けて, たりする活動を効果的に取り入れることによっ 表現及び鑑賞の活動を通して,児童がより美し て音楽活動がより活発に行われるようになる。 い音楽を求め,高い美的感覚を養うような学習 本年度はこれらのことを踏まえ,研究主題を 指導を創意工夫して進めている。 「感受の深まりを実感できる鑑賞指導の工夫」と このような学習指導を展開するに当たっては, し,表現活動と合わせて重要な活動分野である まず表現や鑑賞の様々な活動を通して,児童が 鑑賞活動に焦点をあてた。ここでは,児童の発 活動そのものを楽しみ,音楽に感動できるよう 達段階や音楽経験を考慮しながら,まずは,感 な体験を積み重ね,音楽の多様な特性を想像豊 受を深める鑑賞指導の充実を図りたいと考えた。 かに感じ取れるようになることが大切である。 例えば,「曲の速さに気を付けながら,2拍子 つまり音楽を形作っている諸要素(構成要素・ の拍の流れにのってうまく行進することができ 表現要素)を知覚し,それらの働きによって生 た」「独唱,重唱,合唱等いろいろな演奏形態 まれる曲想の美しさ,豊かさを感得することは, を聴き比べてみて,それぞれの響きの美しさを 音楽のもつ価値を理解して深く味わうために必 感じ取ることができた」「なるほど,1曲目と 要な能力であると同時に,あらゆる音楽活動の 2曲目の曲の感じの違いは,調,旋律,強弱, 基盤となり得るものであると考えられるからで 速度の違いと関連があるんだ」等というような ある。 ことである。研究を進めるにあたっては,題材 さて本研究室では,近年,歌唱指導を中心と 構成の工夫(主教材となる楽曲の選択,教材解 して授業改善を図るための研究に取り組んでき 釈,副教材となる楽曲の選択),そして授業設 た。特に昨年度は,児童が自らの表現の高まり 計の工夫(場の設定,児童による評価活動,教 を実感できる歌唱指導の工夫について検討を行 師の言葉掛け)を視点とする手法を用いながら, い,その結果,児童の実態にあった教材選択, 指導の効果について検討をおこなった。 自分たちの表現の高まりを感じることができる 場の設定や評価活動,また実際の指導場面にお 2 主題についての基本的な考え方 ける専門的な指導の言葉掛け等を工夫すること 「感受の深まりを実感する」とは の有効性を明らかにした。しかしその一方で, 感受とは, 楽曲を聴き,リズムや楽器の音色等 児童が音楽を工夫して表現し,児童自身が表現 から「曲に合わせて踊りたいな」「オーケスト の高まりを実感するためには,音楽の構成や音 ラの演奏で迫力があるな」等と児童が感じ取る 楽を特徴付けている要素を鋭く聴き取ったり, ことである。 それらが醸し出す音楽のよさや美しさを感じ取 感受の深まりを実感するとは,児童が,楽曲 ったりする鑑賞の能力を身に付けることが必要 を構成する要素(図-1)に視点を当てて聴け 音-1 ているので,そのことに適した教材を選択す ることを中心に考えた。 ア 主教材となる楽曲の選択 題材のねらいを達成するための,主教材 となる楽曲の選択を行う。 選択の視点としては,主に旋律やリズム に特徴があり理解しやすいもの。また,変 図-1 化があり形式がはっきりしているもの。 楽曲を構成している要素 以上のような視点で,いくつかの楽曲に るようになることだと考える。つまり,「曲の ついて楽曲分析を行い,児童の実態と目指 速さが途中で変わっていくと,だんだんと気分も す姿の実現に適した楽曲を選択する。 盛り上がって楽しいな。」「この曲が力強く聴こえ るのは,後半部でたくさんの楽器によって演奏 資料-1 され,だんだん強くなっているからだ。」「そ 例)ピアノ五重奏曲「ます」第4楽章 れぞれの楽器の音色が重なり合って聴こえたり 曲想 交互に聴こえたりしているから美しく感じるん 鱒が,澄んだ小川を矢のように泳いでいた。 だな。」等のような姿ととらえた。 3 楽曲分析の例 それを釣り人が水を濁らせ釣り上げてしまう。 研究の目標 鑑賞指導において,児童が感受の深まりを実 形 態:ピアノ五重奏 感できるために,題材構成や授業設計の在り方 リズム:主として8分音符と付点8分音符 を明らかにする。 旋 律:主として山型進行 和 声:個々の弦楽器の音色や弦楽器が組み合わ 4 研究の仮説 されることによって生じる和声の響き 鑑賞指導において,児童の感受を深めるため 「第2,3変奏」では,主旋律を飾る対旋律 に有効な,楽曲の要素について十分な分析を行 「第4変奏」では,主旋律を追いかける対旋律 い,楽曲のもつ特徴的な要素に着目して,聴く 拍 場や,音楽の醸し出す雰囲気や気分等を味わっ 子:4分の2拍子 調 :ニ長調→ヘ長調→変ロ長調→ニ長調 て聴く活動を仕組めば,児童は感受の深まりを 強 さ:pp→p→f→ff→pp→p 実感することができるであろう。 速 さ:andantino→allegretto 5 研究の内容 イ (1) 感受の深まりを実感させるため,教材選 教材解釈 教材を選択した後,どの部分で感受の深 択に視点をあてた題材構成の工夫 題材構成を工夫する際には,児童の鑑賞活 まりを実感させることが期待できるのか, 動の実態を把握し,何を身に付けさせようと 題材のねらいや内容を身に付けさせるため するのかねらいを明確にして,題材を設定し, のポイントがどこにあるのか等,教材解釈 教材を選択しなければならない。本年度は特 (資料-2)を行う。 に児童に感受の深まりを実感させたいと考え 音-2 資料-2 感させる」ための支援が必要である。 楽曲の教材解釈 授業においては,次の3点から工夫を行う。 例)ピアノ五重奏曲「ます」第4楽章 楽曲の構成 曲想 奏法 主 清い川の流 レガート 題 れの中を鱒 が泳いでい る。 第 輝く水の中 ピッチカ 1 を鱒が躍る ート 変 奏 第 2 変 奏 第 3 変 奏 第 4 変 奏 ように泳い でいる。 釣り人が鱒 を釣ろうと 考えてい る。 糸を入れる が,人影が 映り鱒は釣 れない。 釣り人は人 影が映らな いように川 の水をかき まぜ 濁 す。 第 釣られた鱒 5 をみて嘆い 変 ている。 奏 コ 川の濁りが | 消え再び輝 ダ く川の中に 鱒が泳いで いる。 強さ 場の設定 鑑賞活動において,児童一人一人が聴く 美しい バイオリン pp 視点を明確にもって活動を繰り返すことが できるよう,また,その過程で自分の聴き p レガート pp レガート p るように,次のような場を設定する。 ニ 長 調 穏やかなビ オラと華や かなピアノ マルカー p ト ピアノ は,f ff ↓ pp 方が深まっていく喜びを味わうことができ 軽快な ピアノ p レガート スタッカ ート ア 調 音色 つかむ段階では,楽曲との出会いを大切 にし,楽曲について「詳しく知りたい」「も っと聴きたい」という動機付けとなるよう な楽器・写真・絵等を提示する。 深める段 階では,楽曲について詳しく知りたいとい チェロ, コントラバス の低音と華 やかなピアノ 激しい ピアノと チェロ, コントラバス う児童の願いを実現させるため,聴き比べ をしたり,何度も聴いたりする活動を通し ニ 長 調 ↓ ヘ 長 変 もの悲しい ロ チェロ 長 調 明るく響く ニ バイオリン 短 とチェロ 調 て,作曲者の思いや使われている楽器の特 徴だけでなく,曲を構成している要素(旋 律や構成等)について気付かせていくこと ができる。その際発達段階に応じて,楽曲 を楽器で演奏する等,児童自身が表現する 場を設定することにより,曲の要素を具体 的にとらえさせることもできると考える。 味わう段階では,聴く活動を生かしてつ くってきた自分達の表現を聴き合い,改め て聴き浸る場を設定する。低学年において は,自分達の身体表現の様子をVTRで振 り返る活動も聴き浸る場として有効である 本教材で期待できる学習内容 それぞれの変奏は,楽器の音色やその組み 合わせ,強さや奏法,速さの変化等によって 曲想を変化させていること。 と考える。また,児童自身の聴き方の変容 を学習プリントやVTR等で振り返る場を 設定することにより,感受の深まりを実感 させることができると考える。 ウ 副教材となる楽曲の選択 イ 児童による評価活動の工夫 主となる楽曲の分析を行った後,補充・ 感受を深めるために,話し合いによって 発展させるための楽曲を,必要に応じて副 友達の聴き方と自分の聴き方を比べたり, 教材として選択する。 低学年であれば実際に身体表現を見せ合っ て聴き方を比べたりする活動を仕組む。児 (2) 児童に感受の深まりを実感させるための 童は,互いの聴き方を交流する中で,友達 授業設計の工夫 の聴き方を確かめるために再び曲を聴いて 児童に感受の深まりを実感させるためには, 確かめる必要があることに気付く。「もっと 「感受を深める」ための支援と「深まりを実 聴きたい」という思いをもった児童は,視 音-3 点をもって繰り返し聴く。このように聴き 曲を構成している特徴的な要素をもとに, 方を比べる活動が,楽曲の様々な要素に気 曲想をとらえることができ感受を深めてい 付くことにつながり,互いの発言や表現が くことができると考える。ただし,低学年 曲の要素に合っているかどうかを評価し合 においては,速さや強さという言葉だけで うことにつながると考える。 なく,「ぞうさんは歩 いているのか な,走 また,感受の深まりを児童自身に実感さ っているのかな」「こねこは一匹かな,友 せるために,各段階毎に自分の聴き方の変 達がいっぱいいるのかな」等と,さらに具 容を振り返らせる活動を仕組む。その際, 体的な言葉掛けを行うことにより,児童は 評価カード(学習プリント)に具体的な観 楽曲の変化に気付き,感受を深めていくこ 点を挙げて数値として記入させ文章記述の とができると考える。 能力に左右されない評価を行う。ただし, また,低学年において身体表現をさせる 低学年においては評価カードだけでなく, 際に「みんなで楽しく踊ることができまし 活動の様子を記録したVTRによっても振 たね」「リズムにぴったり合っていました り返る活動を行っていく。児童は,何気な ね」等と児童の気分を盛り上げたり,拍を く聴いている最初の姿から,リズムにのっ 正しくとれたことを賞賛したりすることは, て聴いている姿や体を揺らしながら聴いて 次の活動への意欲につながり楽曲をよく聴 いる姿等,聴き浸っている姿に変容してい く習慣付けをするために効果があるものと く様子を確かめることができ,自己評価が 考える。 できるようになると考える。 ウ さらに,評価活動において児童の聴き方 教師の言葉掛け(教師の支援) の変容を児童自身に気付かせるため,最初 曲想を特徴付けている要素に気を付けて に楽曲を聴いた時の学習ノートや身体表現 聴かせるために,曲の中で聴かせたい部分 をしている様子を撮ったVTR等を見せて をしぼり,聴く視点を与えて聴かせる。そ 振り返りを促す。その際,教師の承認・賞 の 際に「 速 さに気を付けて聴いてみよう」 賛の言葉掛けにより児童の聴き方の変容を 「音が強くなっているところはどこでしょ 価値付けることが大変重要になってくると う」等と具体的な言葉掛けを行う。児童は, 考える。 音-4 ウ 第Ⅱ章 感受の深まりを実感できる鑑賞指導と (ア) 「おどるこねこ」の楽曲分析 曲想 実際 1 (1) 小学校第1学年 「ようすをおもいうか べておどろう」 児童の実態 本学級の児童は,2拍子や3拍子の曲を 聴いて,曲に合わせて歩いたり手拍子をし たりしながら,楽曲の気分を感じ取ってい る。このように,楽しく身体表現をするこ とができているが,リズムや音色の特徴を 感じながら聴くことができている児童は少 ない。さらに,楽曲を特徴づけているリズ ムや音色や速さの変化に気付き,身体表現 に生かすことには慣れていない。 イ バイオリンを猫の擬声に用いた,描写的な 3拍子のワルツ 形式: 序章-A-A’ -B-A-コーダ(複合三部形式) リズム: 序章:8分音符と4分音符による軽快なリズム A: 4分音符を中心としたゆったりとしたリズム B: 付点のリズムや3連符が加わった躍動的なリズム 旋律: 序章:6度の跳躍進行が繰り返され,最後の 1小節は下降型順次進行 A:なだらかな山型進行の中に,猫の声を表 現しているグリッサンドを含む。 和声:A: 猫の擬声を思わせるヴァイオリンが,主 旋律を追いかける形で中低音が1小節ごと ゆったりした動きで流れをつくる。 B: フルート・ピッコロ・オーボエの軽快な 旋律に,ウッドブロックやウィンドホイ ッスルが入り,華やかに盛り上げる。 コーダ:ユニゾンでクライマックスを迎える。 拍子: 4分の3拍子(コーダのみ8分の6拍子) 調 : ト長調 奏法: 序章:スタッカート A:レガート B:装飾音やスタッカートが交互 コーダ:主旋律はスタッカート。3拍子を刻 むヴァイオリンはピッチカート奏法 音色: 序章:主旋律はヴァイオリン,木管楽器 A: 主旋律はヴァイオリン,木管楽器。第3 フレーズのみ金管楽器も加わり盛り上がる。 A’: 主旋律はヴァイオリン,木管楽器,金管楽器 B: 主旋律はフルート,ピッコロ,オーボエ。加え て,ウッドブロック,ウィンドホイッスル。 コーダ:犬の鳴き声に始まり,猫の鳴き声で終わる。 強さ: 序章:mp A:mf A’:f B:mf コーダ:mf→cresc.→ff→cresc.→sfz 速さ:序章:andante A:tempo di valse(付点2分音符=60) A’: Piu mosso(付点2分音符=76) B:Piu mosso(付点2分音符=80) コーダ:Presto(付点4分音符=176) 指導の実際とその考察 ア 教材について 題材について 本題材は,楽曲の気分を感じ取って想像 豊かに聴いたり表現したりすることができ る児童をめざしている。具体的には,軽や かに踊っているこねこの様子を想像して, 4分の3拍子のワルツやヴァイオリン等の 音色や速さを手がかりに,曲想を感じ取り ながら楽しく身体表現することができる題 材である。 (イ) 「おどるこねこ」の教材解釈 楽 曲 の 構 成 曲想 拍子 速さ 音色 児童に身近な,「ねこ」 3拍子のワルツにのせたな 曲の変わり目を ヴァイオリンをねこの擬声に用いてい を描写した優雅で躍動 めらかな旋律が,こねこがお 速さの変化でとら る。また最後には犬の鳴き声が入り, 的な3拍子のワルツ。 どっている様子を表現している。 えることもできる。 物語の流れを具体的に描き出している。 (ウ) 本教材で期待できる学習内容 手がかり 楽曲 拍子 速さ 音色 エ 指 導 内 容 児童に身近な「ねこ」を題材としているので,簡単な物語を作り,曲に合わせてねこになりきり ながら身体表現をすることができる。 3拍子のワルツに合わせて自然に体を揺らしたり,なきまね(動き)をしたりして,曲の世界に浸 ることができる。 速さの変化が明らかなので,曲想の変化をとらえさせやすい。ねこになりきって身体表現をさせる 際,様子を思い浮かべさせやすい。 ヴァイオリンを主とした旋律や,フルート・ピッコロ・オーボエ等の旋律から場面を想像し,ねこ がどんなことをしているのか,どんな話をしているのかを考えさせながら,聴くことができる。 指導にあたって によって児童が豊かな発想で場面を想像し, 本題材の指導にあたっては,曲想の変化 曲に浸りきって身体表現ができるようにし 音-5 ていきたい。そのためにまず,つかむ段階 にもたせたい。 では楽曲との出会いを大切にし,最初に聴 最後に味わう段階では,一人一人が気持 いたときに「?」を出させる。例えば,「何 ちよく聴き浸ることができるように,学級 匹いるのかな?」「何をしているところな 全体での「おどるこねこ物語」をつくりあ のかな?」等である。そして,予想を立て げたい。深める段階で気付いた速さや音色 させたり短い話をつくらせたりしながら, 等の変化を身体表現に生かせるよう,場面 「もう一回聴きたい」「最初から聴きたい」 の大きな設定を話し合いの中でつくってい 「最後の方だけもう一度聴きたい」等と, く。このような活動を通して,一人一人が 曲に対する興味をもたせ,意欲付けをして 自信をもって楽しく身体表現ができると考 いきたい。 える。 次に深める段階では,楽曲を部分的に聴 オ かせ ,速さや音色等の変化に気付かせて身 指導目標 ○ 体表現させたい。その際,例えば,聴く視 をしようとする。 点となる「速さの変化」を,「こねこは何 (音楽に対する関心・意欲・態度) をし始めたのかな」等と児童が想像した物 ○ 語の中の具体的な言葉で気付かせていきた リズムや速さや音色の違いを感じなが ら,身体表現をすることができる。 い。また,一人一人の身体表現を交流して (音楽的な感受・表現の工夫) いく中で,「どこでそう感じたのかな」等 ○ と,聴いて確かめていく必要感を児童自身 カ こねこになりきって,楽しく身体表現 楽曲の気分を感じ取って,想像豊かに 聴くことができる。 (鑑賞の能力) 指導計画 段配 階時 学 習 活 動 と 内 容 ① 1「おどるこねこ」を聴いて自由に身体反応をする。 つ ・曲の感じを楽しむこと。 か ・こねこの様子を自由に想像すること。 む 2 どんな場面を表した曲なのかを思い浮かべ,想像したこと や疑問に思ったことを学習プリントに書く。 教 師 の 支 援 ○ 楽曲との出会いの場面で興味をもって聴 かせるために,事前に「どんな動物が出て くるでしょうか」と動物カードを使って問 いかけをする。 ○ 場面が次々と移り変わっていく様子も想 像して書けるようにするために,学習プリ ントには枠を複数用意しておく。 3 今後の学習計画について聞き,めあてについて話し合う。 こねこのおはなしをつくって,おんがくにあわせてたのしくおどろう。 ① 1 一人一人が思い浮かべたことを出し合い,どこでそう感じたのか ○ こねこになりきって場面を想像できるよ 深 本 を聴きながら確かめる。 う,教室に情景画を貼り,一人一人にねこ め時 の面を準備する。 る 2 場面の様子を思い浮かべながら,身体表現をする。 ○ 曲想の変化を感じ取らせるために,曲を 部分的に聴かせたり、口ずさませたりする。 3 1と2を繰り返し,「おどるこねこものがたり」をつくっ ○ 児童が曲をよく聴いて場面を想像するこ て いく。 とができるように,拍を正しくとらえてい る児童の反応を賞賛する。 ① 1 できあがった物語を思い浮かべ,身体表現をしながら曲全 ○ 曲の世界に入り込めるように,物語の簡 味 体を通して聴く。 単なあらすじを提示し,確認しておく。 わ ○ 児童の聴き方が深まっていることに気付 う 2 単元を振り返り感想を出し合う。 かせるため,第一時での身体反応の様子を ・お話を考えながら聴くことの楽しさ VTRで見せる。 キ 本時目標 ○ 思 い 浮 か べ た場 面 を 進 ん で 発 表 し ,楽しく身 体 表 現しようとする。 (音楽に対する関心・意欲・態度) ○ リズムや速さの違いをとらえることができる。 音-6 (音楽的な感受や表現の工夫) ク 指導の実際 学 習 活 動 と 内 容 1 前時で書いた自分 の学習プリントを見 ながら「おどるこね こ」を聴いて前時学 習を想起し,本時学 習のめあてについて 話し合う。 ・自分達が想像した こねこの様子を発表 し合うこと。 めあて こねこのおはな しをつくって,おん がくにあわせてたの しくおどろう。 2 「おどるこねこ」 の曲はいくつかの場 面に分かれているこ とを確かめる。 ・大きく2種類の曲 想があること。 ・A-B-Aと最初 の旋律が繰り返され ていること。 3 前時に学習プリン トに書いた「こねこ の様子」を出し合う。 ・ 曲のどの場面で そう感じたのか ・どうしてそう感じ たのか ○感受を深めるための支援 □感受の深まりを実感させるための支援 もっと聴きたいという思いをもた せるために ○前時の学習プリントを賞賛し, 自由にこねこの様子を想像しなが ら聴く楽しさを味わわせ,もっと 聴きたいという思いをもたせる。 「音楽を聴いて,こねこさん達の 様子をたくさん思い浮かべること ができていましたね」 「前の時間に思い浮かんだこねこ さん達の様子を,今日はあなた達 がこねこさんになっておどってみ ましょう」 「どんなこねこさんが出てくるか 楽しみですね」 聴き方を深めていくために ○曲の感じが変わったところで手 を挙げさせたり,旋律の違いを口 ずさませたりして,違いに気付く 楽しさを味わわせる。 「曲が変わったなあと思うところ で手を挙げてみてくださいね」 「よく聴いて曲の変わり目を見つ けていましたね」 (賞賛) ○自分が想像したこねこの様子を 出し合うことで,想像を広げてい くおもしろさを味わわせる。 「こねこさんがふえたなあと思う ところはどこですか?曲をかけま すからここだと思うところで手を 挙げてください」 「ひっかいてると思うところはど こですか?」 「どうしてねむっているみたいっ て思ったの?」 「タリラタリラタリラタリラタン のところが逃げているところ?」 感受を深めるための場の設定 前時までに一人一人の児童が思い描い ているこねこの様子を,導入段階でそれ ぞれ思い思いに身体表現させた。自分が 感じたことを友達にも伝え,友達が感じ たことを聞き,みんなで一緒踊りたいと いう思いをもたせることができた。 資料-3 感受を深めるための言葉掛け 一人一人が思い描いたこねこの様子 を発言させたり身体表現させたりして いく際に,曲の要素やその変化に着目 させていった。教師が「どうして眠っ ているようだなって思ったの?」「さ っきまで2人で踊っていたのに,どう してみんなで集まって踊ったの?」等と 言葉掛けをすることにより,「ゆらゆ らしてる感じだから」「ゆったりして る曲だから」「ここから音がにぎやか になったから」といった速さの変化 や 強弱の変化に気付かせることができ た。 資料-4 4 曲を聴いて確かめ る。 ・強弱の変化に気を 付けて聴くこと ・速さの変化に気を 付けて聴くこと □自分で確かめるだけでなく,互 いに「本当だ,2人で踊っている みたい」等と確かめ合わせること で,最初と比べ少しずつ聴き方が 深まっていることを実感させる。 「○○ちゃんが言ったように,曲 がゆっくりだからこねこさんが気 持ちよさそうに眠っている様子に ぴったりですね」 (承認) 音-7 思い思いに身体表現している児童 曲を聴いて確かめている児童 5 確かめた場面の様 子を思い浮かべて, 身体表現をしながら 聴く。 ・拍の流れにのって いるか ・音をよく聴いて踊 っているか 6 3と4と5を繰り 返し,「おどるこね こものがたり」をつ くっていき,「今日 の学習で」を書く。 曲の要素を聴き取らせていくために ○一人一人が思い浮かべたこねこ の様子を身体表現によって確かめ ていく上で,曲に合っているかど うかを互いに見合ったり,教師が 表現してみたりする。 「ほんとだね。ピュウっていう音 が何かを飛び越えているみたいで すね。よく聴いていましたね」 (承認) 「これは音楽に合っているかな?」 (実演) 「音楽に合わせて気持ちよさそうに 踊っているこねこさんを見つけまし た。○○さん達踊ってみてください」 「ぴったり合っていましたね」 (賞賛) 「曲がにぎやかになっているところ がみんなで踊っているみたいだから, みんなで集まって踊ろうという○○ 君の考えはどうですか?」 感受を深めるための評価活動 グループ別に身体表現の様子を見合っ て,どんな表現が拍の流れに合っている か,速さはどうか等,相互に評価し合 う活動を取り入れた。児童は曲をよく 気を付けて聴くことができるようになり, 合っている・合っていないという判断 ができるようになっ た。 資料-5 互いの表現を見合っている児童 次時 1 できあがった物語 を思い浮かべ,身体 表現をしながら曲全 体を通して聴く。 2 単元を振り返り感 想を出し合う。 ・お話を思い浮かべ ながら聴くことの楽 しさ 聴き方の変容を実感させるために □1年1組のおどるこねこものが たりができたことを児童と共に喜 び,児童の聴き方の変容を賞賛す ることによって,鑑賞の学習に対 する意欲を高める。 「最初にこの音楽を聴いた時の様 子です。どうですか?」 「今日のこねこものがたりの様子で す。最初と比べてどうですか?」 「みなさんが言ったように,最初に 聴いた時は,こねこさんの様子が なかなか思い浮かばなかった人も いたけれど,今日こねこものがた りが完成して,踊っているみんな を見ていたら,よく音楽を聴いて 気持ちよさそうに踊れるようにな ったなあと感心しました」(賞賛) 「音楽を聴いてお話をつくったりす る学習をまたしてみたいですか?」 「これからも音楽を聴く学習がた くさんあります。楽しみにしてお いてくださいね」 音-8 感受の深まりを実感させるための評価活動 単元の中の味わう段階で,みんなで つくったおどるこねこ物語が完成した ことを喜び,単元の最初に鑑賞した時の 身体表現の様子と,最後に鑑賞した様子 を記録したVTRを見せ,聴き方が深 まったことにより身体表現が変容して いることを賞賛した。その変容は児童 自身の鑑賞の力が伸びていることの表 れとして価値付けた。このような教師 の賞賛の言葉掛けにより,単元の振り 返りでは、児童が自分自身の聴き方の 変化に気付くことができた。 ケ 考察 物語がどんどんできていって楽しかった」 (ア) 題材構成の面から ① 「○○くんが,こねこが増えてるみたいっ 教材選択 て言って,みんなで踊ってみたら,ぴっ 本教材曲は,児童が3拍子のワルツに たりになった」等とあるように,曲を最 のせて気持ちよく身体表現することがで 初に聴いた時と比べ,聴き方の変容が見 きた。また,ねこの擬声を表すヴァイオ られた。 リンの響き等の音色や速さの変化から, ② ③ ② 児童が場面の様子を楽しんで想像するこ 身体表現をする様子をグループ毎で互 とができた。このように,本教材曲は本 いに見合い,拍の流れに合っているかど 学級の児童にとって大変親しみやすい曲 うかを確かめたり,曲に聴き浸って気持 であった。さらに,児童は本教材曲を好 ちよく踊っている児童を見つける活動を きになり,もっと聴きたいという思いを 取り入れたりした。このように,身体表 もった。したがって,本教材曲は感受を 現の様子を客観的に見合うことにより, 深めるために最適の楽曲だったといえる。 児童は,曲に合わせることや曲をよく聴 教材解釈 くことの楽しさを実感し,自分の聴き方 本教材曲は速さや音色の変化がとらえ として取り入れることができた。 やすくA-B-Aの曲の変わり目を聴き また,強さや速さ等の楽曲を構成して 取りやすいため,児童にとっては「こね いる要素について気付かせるにあたって このお話」の場面をとらえやすいもので も,児童から「強くなっているから」や あった。児童は,楽曲を聴き何度も身体 「速くなっているから」等の言葉が出て 表現を繰り返す中で,楽曲を構成してい きた際に,曲を聴いて確かめるという活 る要素の変化を感じることができ,身体 動を必ず設定することにより,児童は楽 表現をすることができた。 曲全体の雰囲気を感じる聴き方から,一 副教材の選択 つ一つの音に気を付けて聴く聴き方がで 単元の導入段階で「くまばちは飛ぶ」 きるようになっていった。 組曲「動物の謝肉祭」組曲「展覧会の絵」 ③ 教師の言葉掛けの工夫 等から何曲か動物あてクイズを行い,描 本学級の児童の鑑賞活動において,曲 写音楽に親しませた。この活動により, を聴いてどんな感じがしたかを言語で表 児童は曲を聴いていろいろな動物の様子 現させるよりも,実際に曲に合わせて身 を思い浮かべることに慣れ,聴く活動を 体表現をしてみる方が,より具体的で分 より楽しむことができるようになった。 かりやすく,豊かな活動ができると考え (イ) 授業設計の面から ① 児童の評価活動 た。したがって,身体表現をさせた後に 場の設定 「なぜそんなふうに踊ってみたの?」や 曲を聴いて様子を思い浮かべる場,そ 「踊りが曲にぴったり合った?」等と, れぞれが思い浮かべたことを交流し合う 常に身体表現と曲を結びつけて考え,身 場,そして交流したことをもとに身体表 体表現することによって,より豊かな鑑 現してみる場を設定することによって, 賞活動を目指していった。その結果,児 児童自身が,自分の曲に対する感じ方が 童は最初に曲を聴いた時に比べ,回を重 変わっていく様子を実感させることがで ねるごとによく気を付けて曲を聴くよう きた。児童の感想の中にも,「こねこの になった。 音-9 (2) 小学校第6学年 「日本の楽器の音色 きるということである。そのために,鑑賞曲 を味わってきこう」 ア として「春の海」を設定した。 児童の実態 ウ 本学級の児童は,これまでの鑑賞指導の 教材について (ア)「春の海」の楽曲分析 学習過程において,長調・短調の違いを聴 き比べることでその楽曲のもつ雰囲気を味 曲想 わったり,同じ楽曲でも指揮者によって表 波にたとえた琴の旋律が,鳥の声に表現 した尺八の音色と絡み合い,のどかな4拍 子のゆったりとした描写的な曲 現の仕方が変わることについて学んだりし てきた。 そのような学習過程の中で,児童は調性 形式:A - B - A(3部形式) リズム:A …16分音符中心のゆるかな琴のリズム に,装飾符がついた2分音符ののび やかな尺八のリズムが重なる B …8分音符と16分音符による軽快なリ ズム 旋律: A …琴の高音へむかう順次進行による緩 やかな旋律の響きに尺八の下降する 順次進行が対峙する旋律 B …琴の旋律が跳躍進行となり,尺八は それを受けた形の旋律となっている 和声: A …緩やかな波の動きを表した琴の動き に,鳥を思わせる尺八の対峙した形 B …琴がたとえた陽気な舟歌に,春霞の のどかさが折り交ぜられた形 拍子:4分の4拍子 調 :六上がり調子 奏法: A …レガート奏 B …スタッカート奏 音色: A, B を通して琴と尺八による二重奏 速さ: A … Lento B … Allegro によって曲の感じが変わることに気付いた り,指揮者の意図によって演奏の仕方が変 わることをつかんだりしながら,音楽を聴 くことに興味をもってきている。 しかし,これまでの鑑賞曲は,外国の音 楽を中心とした楽曲がほとんどで,日本古 来の楽器である琴や尺八などの音色や楽曲 に触れる学習の経験はほとんどない。 イ 題材について 本題材は,日本の音楽の特徴を感じ取り, 琴や尺八の音色を味わって聴くことを目標に している。具体的には,琴・尺八の特徴に触 れ,その音色を知って演奏を聴いたり,その 楽器によって表現される情景を想像したりし ながらその曲想を探ることで,楽曲の特徴を つかみながら,さらに味わって聴くことがで (イ)「春の海」の教材解釈 曲想 楽 曲 の 構 成 旋 律 春の海の様子を表 流れるような旋律の動 リズム 音 色 琴 に よ る 16分 音 符 の リ ズ 琴 に よ る 波 の 表 現 に よ り , 現した,ゆったり きから,おだやかな波の ムが,おだやかな波の様 日本の情緒的な雰囲気を醸 とした描写的な 4 様子を表現している。A 子を表現している。また し出している。また,尺八 拍子の曲。 では穏やかな様子,B で 尺 八 に よ る 2 分 音 符 と 16 の音色が、鳥が飛ぶような は二つの楽器の音が対照 分音符のリズムで,鳥が 様子や鳴き声のように響い 的に跳躍して絡み合って 優雅に飛んでいるような ている。 いる。 様子が想像できる。 (ウ) 本 教 材 で 期 待 で き る 学 習 内 容 手がかり 曲 想 指 導 内 容 「春の海」を題材としているので,児童のもつ海のイメージを思い浮か べやすい。また和楽器の音色によって,日本の伝統音楽に浸ることができ 音-10 る。 8 分 音 符 に 続 く 16分 音 符 の な め ら か な に リ ズ ム か ら , 穏 や か な 波 の 動 き を思い浮かべて聴くことができる。また,B でのリズムの変化は,場面の 変化をとらえやすい。 日本の伝統音楽を味わうにあたり,身近な琴や尺八の音色によって表現 された音色を聴くことで,音楽に浸ることができる。 リズム 音 エ 色 指導にあたって 感じたことを表現する活動をさせたい。 本教材の指導にあたっては,琴と尺八 最後に味わう段階では,「春の海」を聴 の二重奏による音の掛け合いの美しさや, いて想像した情景を思い浮かべながら鍵盤 和楽器の響きを味わって聴くことで,音楽 ハーモニカやリコーダーで音を表現する活 に聴き浸ることを目標としている。そのた 動を仕組む。このような活動を通して,自 めにまず,つかむ段階では,楽器との出会 分たちの演奏と聴き比べ,音色や旋律・リ いを大切にし,琴や尺八を実物や映像で見 ズムなど,曲想の要素に聴き浸りながら せることで興味を抱かせる。尺八において 「春の海」を鑑賞させたい。 は,実際に触れたり音を出したりする活動 オ を仕組む。 指導目標 ○ 次に深める段階では,「春の海」を聴き, 琴や尺八の音色に興味をもち,意欲的 に楽曲を鑑賞している。 琴や尺八の音色から,どんな情景が想像で (音楽に対する関心・意欲・態度) きるかをイメージさせたい。その手がかり ○ 楽曲を特徴付けている主な曲想を感じ となった楽器の音色や旋律・リズムなど, 取って鑑賞したり表現したりできる。 曲想の要素に着目しながら,何度も聴く活 (音楽的な感受・表現の工夫) 動を繰り返す。その活動において,「こん ○ 楽曲の曲想を感じて情景を想像し,音 なリズムだから緩やかな感じがするんだ」 色の美しさに浸りながら聴くことができ 「長く同じ音を伸ばしているからゆったり る。 (鑑賞の能力) した春の感じが表れているようだ」などと カ 指導計画 配 時 段階 学 習活動と内 容 つ かむ 1 1 「春の海」 を聴い て, 曲につ いて話 し合 う。 2 題名から, 曲のイ メー ジをも つ。 3 楽器の音色 や特徴 につ いて知 る。 4 自分なりの イメー ジを もって ,再び 「春の海」を 聴き, 感じ たこと ,思っ たことなどを 学習プ リン トに書 く。 5 めあてにつ いて話 し合 う。 教師の支援 ○ 題名は知らせずに,この曲を耳にしたことはないか,そ れはいつ か な ど の 問 い か け を す る 。 ○題名を知らせ,同時に情景写真を提示し,イメー ジ をも ち や す く す る 。 ○ 楽器を見せたり初めのフレーズを口づさませたりする。 ○どんな様子を表しているかなどの情景を含め,思 っ たことや感じたことを自由に書くように言葉かけ をす る 。 ○これまでの学習を振り返り,リズムや旋律・音色など 楽曲を特徴付けている。 琴や尺八の演 奏から曲の 特徴を つかみ,「春の海」の情景を想像しながら聴こ う。 深 める 1 1 めあてを確認し,曲の特徴 を表す要 素(曲想)に どんな もの があっ たか 確認する。 2 曲想に気を つけな がら 「春の 海」を 聴く。 ○楽器の音色や速さ,音の重なりなどについて想起させ るようにする。 ○曲を聴いて,気付いた特徴を学習プリントに書き込む ようにする。 音-11 3 気づいた要 素を出 し合 う。 ・琴の旋律が ゆるや か ・途中で速さ が変わ って いるよ うだ 4 Aの部 分とBの部 分それぞ れで, 思い 浮かぶ情景を 学習プ リン トに書 く。 5 出来上がっ た言葉 と情 景を見 ながら 曲を最 後ま で聴く 。 味わう 1 1 「春の海」 の特徴 的な 旋律の 部分を 自分たちで表 現して みる 。 2 表現して気 付いた こと や感想 を出し 合う。 ・「なだらか な旋律 だか ら,波 がおだ やかな感じ が伝わ って くるん だな」 ・「長く音を 伸ばす こと で,鳥 がゆっ く り飛んで いるよ うな 感じが するん だ な」 3 キ 「春の海」 を聞き ,琴 と尺八 が醸し 出す日本独特 の音楽 のよ さに聴 き浸 る。 ○特徴として出た部分を取り出して聴いたり,簡単に口 ずさんだりして捉えさせる。 ○速さが変わったと感じたところで挙手をさせるなどし ながら,速さが変わるところを何度か聴かせ,Aの部 分とBの部分を聴き分けるようにする。 ○旋律や音色・速さなどの要素から想像した情景を,グ ループで話し合うようにする。 ○情景画を提示し,曲に合った情景を思い浮かべやすく する。 ○鍵盤ハーモニカやリコーダーで演奏させる。 ○簡単な旋律を表現することで楽曲に親しみをもったり,よ り親しみを感じたりできるようにする。 ○他のグループの演奏を自分たちの演奏と聴き比べ,旋 律の動きが波の感じを表している様子や,リコーダー の長い音が鳥の様子を表しているような感じなどに気 付くようにする。 ○波の感じを出そうとなめらかに演奏しようとしたり, 鳥のゆったりした様子に聴こえるように音を十分に伸 ばそうとしたり,表現を工夫しているグループを賞賛 する。 ○自分たちの演奏を思い出しながら聴くように言葉掛け をする。 本時目標 ○「春の海」の情景を表している楽曲の特徴を探ろうと意欲的に鑑賞しようとしている。 (音楽に対する関心・意欲・態度) ○楽曲の旋律や速さの変化、音の重なりなどをとらえることができる。 (音楽的な感受や表現の工夫) ク 指導の実際 学習活動と内容 ○感受 を深め るための 支援 □感受 の深ま りを実感 させるた めの 支援 1 前時学習のプ 聴き方 を深め ていくた めに リントから,学 ○前時 学習で は,曲を 演奏する 習内容を想起し 楽器 につい て触れ, それが日 めあてをつかむ 本の 伝統的 な楽器で あること めあて を理 解して いる。琴 や尺八の 琴や尺八の演奏 音色 を聴き,既習学習にはない から曲の特徴を 楽器の 音色 か ら 楽 曲 の 特 徴 で つかみ,「春の海」 あ る 楽 器 に着目させ、その響き の情景を想像し を味わわせる。 ながら聴こう。 2 曲の特徴を表 ○既習 学習の 中で,楽 曲を特徴 す要素(曲想) づけ るもの である曲 想につい にはどんなもの て想 起させ ,その変 化や特徴 があるか確認す に着 目しな がら聴か せる。 る。 ・曲想の主な要 素には,楽器の 音色や速さ,旋 律などがあるこ と。 3 曲想に気をつ 曲の要素を聴き取らせていくために 音-12 感受を深めるための場の設定 曲想が曲の特徴を表す要素であることを想起さ せる。特に,児童が聴き取りやすい要素である 「速さ」「音色」「旋律」などを手がかりにして 「春の海」を聴かせた。鑑賞しながら取ったメモ や,鑑賞後の発表から「途中から速さが変わっ た」「琴が波を表しているように聴こえる」「尺 八は海を飛ぶ鳥のようだ」などの気付きが出た。 このことから児童が感受を深めることができたと 考えられる。 資料-6 琴の旋律の動き 感受の深まりを実感させるための言葉掛け 曲想の主な特徴をつかませ,その特徴に合う表 現の言葉を考えさせた。旋律では「なめらか」な 動きだから「波がおだやかな感じ」というイメー ジを出したり,「速さが変わった」から「情景に けながら曲を聴 ○曲想 につい ての主な 要素に気 をつ けて聴 かせる。 く。 「 指などでリ ズムを 取りなが ら聴 くと速 さが変わ るところ 何か変化があった」と感じとったり,「音が長く 伸びている」から「鳥がゆったり飛んでいる感 じ」 と想像したりと,曲の情景が曲想に結びつき ながらより具体的なものとなっていった 。 が分 かりや すいです ね。」 4 曲の特徴で気 付いたことを出 しあう。 ○リズ ムが変 わったと 感じたと ころ で挙手 をさせる などして 変化 を実感 させる。 「よ く聴い て速さが 変わると ころ に気付 けていま したね」 (賞賛) 資料-7 児童Aの学習プリント (楽器の音色と情景を結びつけている) 5 速さの変化で ○曲を聴いて,速さなどの特徴的 分かれる2つの な要素について気付いたことを 部分 話し合わせ、取り出して繰り返 ( A…ゆったり, し聴く活動を仕組むことで,違 B…少し速 い )の いや 変化を実感させる。 様子を分かりやす い言葉で表現しな □様子が伝わった特徴に合うよう がら情景を思い浮 かべ る。 な言葉を当てはめさせることで 情景を想像しやすくする。 「 波のよ うな旋律 がなめらか な感 じに聴 こえると どんな情 景が 浮かぶ でしょう 」 「波 がはねてい るようなリズム にな ってい るところ から、ど んな 様子が 想像でき ますか」 6 情景を表現し た学習プリント をもとに情景を 思い浮かべなが ら,曲を最後ま で聴く。 ケ 聴き方の変容を実感させるために □出来 上がっ た情景を 表す文章 や情 景画を ながめな がら鑑賞 し, 初めと 比べ聴き 方が深ま った ことを 実感させ る。 □学習 プリン トの感想 を発表さ せ, 友だち の発表と 自分の感 想を 比べ, 速さや旋 律などに 視点 を当て た聴き方 ができた こと を実感 したり, 自分では 気付 けなか った友だ ちの聴き 方の よさを 認めたり すること で自 分のよ さや相手 のよさに 気付 きなが ら聴き方 が変わっ てい ったこ とを実感 させる。 考察 た曲の要素を確かめたり(自己評価),友だちの 気付きを賞賛したり(相互評価)する活動を通し て,感受が深まったことを実感させることができ た。 資料-8 児童Bの学習プリント ると考えられることから,楽曲に親しみ (ア) 題材構成の面から ① 感受の深まりを実感せるための評価活動 学習プリントを通して,児童が自分で見つけ をもって聴くであろうと考え、本教材を 教材選択 選択した。その結果,児童は楽器の音色 本教材曲は,日本の音楽の特徴を感じ を聴き,和楽器のよさに触れたり,旋律 取り,琴や尺八の音色を味わって聴く, や速さの変化から情景を想像したりする という目標において,楽器の音色,速さ ことができた。 の変化や旋律など,特徴的な要素をとら えやすい。また,児童が,生活の中で耳 にしたことのある楽器の音色や旋律であ 音-13 このことからも,この題材構成は有効 であったと考えられる。 資料-9 ったりと飛ぶ鳥」などと言葉に表現して 児童Cの学習プリント いく活動を通して,楽曲の表す情景をよ り具体的につかませることができた。 味わう段階では,つかんだ主な曲想の 中で旋律やリズムを中心にをリコーダー や鍵盤ハーモニカなどで表現させた。そ (既習学習より音の高低を聴き取っている) の後再び,教材曲を鑑賞することで自分 ② 教材解釈 たちの演奏と比べながら一層曲想を感じ 本教材曲は,A-B-Aの特徴的な2部の形 ることができたり,別の楽器で演奏した 式となっており,速さの変化をとらえや 「春の海」を聴くことで,日本の楽器の すい。このことから,児童が情景の変化に 独特な音色に気付いたりすることができ 気付くことができた。また琴や尺八の音 た。 色と旋律を手がかりとして,主に琴の緩 ③ 児童の評価活動 やかな旋律の動きから波の様子を思い浮 児童の学習ノートから,初めは曲想の かべたり,尺八の音色やリズムから,鳥 要素について一つまたは全く気付くこと の鳴き声や動きなどを想像したりしなが ができなかった児童が,その要素を知っ らを聴くことができた。 て感じながら楽曲を聴くことができた様 副教材の選択 子がわかる。また、学習ノートに書き込 本楽曲は,琴と尺八による演奏だが, んだり,グループ内で話し合う中で友達 フルートとピアノによる演奏曲を副教材 の気付きを知ったりすることで、自分の として扱い,児童に聴かせた。その結果, 感受の深まりを感じさせることができた。 児童は,楽器によって曲の感じが変わる ③ 教師の言葉掛けの工夫 ことに気付いたり,楽曲にふさわしい音 楽曲を鑑賞する際,楽曲を構成する 色について考えたりすることができた。 要素に気付かせることが大切である。そ (ウ) 授業設計の面から ① ② のために,「速さに変化があるかどうか」 場の設定 「強くなっているところや弱くなってい つかむ段階では,曲名を知らせずに楽 るところがあるか」「演奏されている楽 曲を聴かせた。その時,児童は「笛の音 器の音はどんな音か」など,その曲想に が強く響いている」「琴と笛が交互に響 気付かせるための言葉掛けをしていった。 いている」などと,とらえることができ 一度で聴くことが困難な児童のために, た。次に曲名を知らせ,「春」と「海」 「初めはどんな楽器の音があるか気を付 のイメージを,旋律などの要素をもとに けて聴いてみよう」「次に強さに気を付 つかませようと考えた。 けて聴いてみよう」「今度は速さが変わ その結果,「琴の旋律が波を表してい るところがないか探してみよう」などと るようだ」などと情景を想像しながら聴 段階的に言葉掛けを行うことも効果的で くことができた。また,主な旋律をリコ ある。 ーダーで演奏したり口ずさんだりするこ とで、楽曲に親しむこともできた。 このような言葉掛けを通して,児童 は鑑賞の視点を明確にすることができ, 深める段階では,曲想からイメージを 曲想をとらえやすくなる。このこと感 受 「なめらかな海」「おだやかな海」「ゆ の深まりにつながっていくと考える。 音-14 (3) 小学校第6学年 「曲想を感じ取って (ア) 管弦楽組曲「惑星」の楽曲分析 曲の特徴 聴こう」 ア 児童の実態 ・大規模な管弦楽団と女性合唱によって 本学級の児童は,これまでの鑑賞の学 演奏されるもの ・組曲は,以下の7曲からできている。 習において,音楽に合わせて指揮をしな がら聴いたり,身体を動かしたりする活 1,火星-戦いをもたらすもの 2,金星-平穏をもたらすもの 動を行い,拍や速さや強さの変化を感じ 3,水星-翼のある使者 4,木星-喜びをもたらすもの 取ってきている。そして,旋律を覚え, 5,土星-老いをもたらすもの 6,天王星-魔術師 口ずさんだり,演奏したり歌ったりする 7,海王星-神秘家 惑星から第四曲「木星」 経験もしてきている。また,一つの楽曲 を違う指揮者による演奏で聴き比べ,指 曲想 四主題をもち,いたるところ喜びに満ちあふれ 揮者の意図で曲想が変わることを知り, 壮大な宇宙を速度や音色の変化から味わえる曲 鑑賞の楽しみを味わいはじめている。さ らに,曲の構成や楽器が重なり合う響き 形式 :スケルツォ=ロンド風楽章 の美しさを味わおうとしたり,教材曲全 イ 3部形式(A -B - A’) 体の雰囲気をととのえて,イメージを膨 第1舞曲は,ペンタトニック (5音音階)風 らませながら情景を想像して聴くことが 16音符3つからなる音形が2/4拍子 できるようになってきている。 3小節単位で8回くり返されるポリメートリック 題材について 斬新大1部 本題材は,曲想を感じ取って,想像豊 第2舞曲は,(第65小節以後)吹奏楽による かに聴いたり表現したりすることができ 行進曲風のもの る児童をめざしてしている。 第3舞曲は,(第108小節後)は3/4 特に,主な教材曲の「木星」をもとに, 拍子でに変わり,ホルン6本による華やかな 次々と変化する曲の気分を感じ取って, もので,それに続くモールス信号風の嬰ヘ 長 調 自由にイメージを膨らませながら意欲的 リズム :全 体 的 に 8 分 音 符 を 中 心 に し たリ ズ ム に聴くことのできる児童を育てたい。 旋律 具体的には,曲に親しませるために印 :第1フレ-ズ~第8フレ-ズ 前半山型順次進行 象的な旋律をとらえて口ずさみながら, 拍子 楽譜を見ながら聴く活動ができる題材で :4分の2拍子→4分の3拍子→ 4分の2拍子 →4分の3拍子→4分の2拍子 ある。更に鑑賞をより深いものにするた 調 :ハ長調 めに,感じ取った曲想を生かし,自分た 奏法 :オーケストラ ちで演奏等による表現ができる題材であ 強さ : る。 速さ :Allegro giocoso→Andante maestoso ウ 教材について f→p→f・ff →Maestoso ( イ ) 管弦楽組曲「木星」の教材解釈 楽 旋 第1主題 律 曲 想・強 曲 の 構 成 さ 速さ・拍子 ・速い弦の伴奏の上に,歓喜を予告するよ Allegro gioc うにホルンが快活な主題をたくましく奏す oso る。 4分の2拍子 第2主題 音-15 ・fffに盛り上げられ,小躍りするような 経過部を通る。 Allegro gioc oso 4分の2拍子 ・ ホルンが親しみのある民族舞曲風の主題 第3主題 を陽気に歌いはじめ,歓喜はいよいよ高ま って八分音符が笑いざわめくように続く。 4分の3拍子 ・ 宇宙の夜明けを捉えるかのように静まり 次第に速くな 終わる。 る ・民族風の主題が様々な楽器で演奏され,徐 toso 第4主題 andante maes 々に音の厚みを増す。 第1主題 ・壮大なフィナーレ lento maestr 第2主題 oso 第3主題 ロ長調 ↓ presto ハ長 調 fff のコー ダ ( ウ ) 本教材で期待できる学習内容 指 手がかり 導 内 容 楽 曲 宇宙 に興味を抱 く時期に,旋律や強さに視点をあて,情景を膨らませながら,宇 宙 を想像 し宇宙 に思いを はせることができる。 構 成 前半 ・後半 部分と中 間部分では,速さや強さの変化と強烈な強弱の違いがわかりや すく曲 想や表 現の違い をとらえることができる。 音 色 6本の ホルンが 手動的な役割を演じ,複数で演奏されるときの,響きの美しさを 感じる ことが できる。 エ 指導にあたって わわせていきたい。 本題材指導にあたっては,曲想を感じ取 味わう段階では,お互いの表現のよさ って想像豊かに聴くことができるようにし 「木星」を十分に聴くことで,その美しさ ていきたい。 を一人一人が味わい浸ることができると考 そのためにまず,つかむ段階では情景図 える。 をもとに話し合い,惑星や宇宙に対す オ るイメージを十分にもたせ,ダイジェスト ○ オーケストラの響きに興味をもち,進ん 版ではあるが,それぞれの曲の特徴を聴く で音楽を聴いたり演奏したりすることが ことで鑑賞への意欲付けをしていきたい。 できる。 指導目標 次に深める段階では,「惑星」の中で (音楽に対する関心・意欲・態度) も特に聴き覚えがあり,児童が意欲的に聴 ○ 楽曲の気分やイメージを生かし表現する き,表現しようとする「木星」を主たる教 材とする。特に曲に親しませるために, ことができる。 (音楽的な感受や表現の工夫) 「木星」の中間部を,自分たちのイメージ を大切にさせながら合奏や歌唱表現をさ ○ 旋律,強さや速さの変化に気が付け情景 を想像しながら聴くことができる。 せ,教材曲の持つ特徴やよさを体験的に味 音-16 (鑑賞の能力) カ 指 導 計 画 段 配 学 習 活 動 と 内 容 教 師 の 支 援 階 時 1 本時学習のめあてを歌詞や情景からつかむ。 (1) 情景図をもとに話し合う。 つ 1 か ○ 惑星 の情景 図を掲示し情景が想像できるよう に しておく。 (2) めあてを知る。 管弦 楽組曲「 惑星」 から壮大な宇宙を想像して聴こう。 む 2 管 弦楽組曲「 惑星」の全 曲を聴 く。 ○ 曲の情景を想像したことをグループや近くの (主旋律を 中心にした もの) 人と交流させる。 ・オーケストラの響きを味わいなが聴 く。 ○ 管弦楽組曲「惑星」の7曲を知る。 特徴をつかむために曲のCDに合わせて指揮 3 本時のまとめをし,次時学習の内容を話し合う。 をしたりやフレーズを口ずさんだりする。 ○ 強さや速さ,楽器の重なりに気を付けて聴く ように,言葉掛けをする。 ○ 学習プリントに想像した事を書かせる。 1 本 時のめ あて を話し 合う。 (1) 前時学 習を想 起す る。 ○ 前時の映像のパネルを見せ,想起させる。 (2) めあて を確認 する 。 2 深 情景 を想像 して聴いた り,表現の仕方を工夫しよう。 2 オーケストラの響きを味わいながら聴く。 め ・曲に 合わせ て指揮をす る。 る ・合奏譜を 見ながら聴 く。 ○ 自分が考えたことや思いを自由にノートに 書けるようにしておく。 3 曲想を味 わい ながら 聴く。 ○ 旋律が覚えて歌えるようにしておく。 1 本 時のめ あて を話し 合う。 3 (1) 前時学 習を想 起す る。 (2) めあて を確認 する 。 楽曲 の気 分やイ メージを生 かし,表情豊かに「木星」を演奏しよう。 2 グ ループ にな って話 し合い,イ メージを 表現するのにふさわしい楽器を選ばせる。 (1) 主旋律を 聴き,歌う 。 ○ グループとして,どんな曲想にしていくのか 方向付けをする。 ○ 楽器を選ばせるためのヒントとして,いろい (2) 伴奏に合 わせて奏唱 法を工夫する。 3 表 現した 音の 流れを ,楽譜やプリントに 書き込む。 ろな楽器の奏法や音出しの工夫の例などを示 しておく。 ○ 速さを感じるための観点を提示し意識付けさせる。 4 本 時のま とめ をし, 次時学習の 内容を話 し合う。 ○ 演奏の心地よさや楽しさを味わわせるため に,部分的に取り出して演奏させる。 ○演奏 を工夫 すること。 ○ 各グループの工夫を鑑賞する。 ○ 演奏している様子をVTRに撮影し,学習の 成果が分かるようにする。 1 本時学習のめあてを話し合う。 味 4 わ う 時 前時学習を想起し,めあてを知る。 ・演奏の工夫をしたこと。 曲 の内容に合 うよう にグループで演奏し,曲のよさを味わおう。 2 グ ループ ごと に,壮 大な宇宙の 演奏の仕 方を工夫 する。 ○ 気持ちを込めて演奏したいところを話し合わ せ,強さや速さの工夫をするように助言する。 (1) 表現の 工夫 をし, グループで演奏する。 (2) 自分達 の演 奏を相 互に聴き合う。 ○ 演奏を聴き合いながら,学習を進めるように 言葉掛けをする。 3 本 時のま とめ をする 。 ○ 演奏をし,よさを感じ合う。 (1) 組曲「木星」を自分たちの表現と聴き 比べ,楽曲の良さについて話し合う。 (2) 今日の学習を書く。 ○ 自分たちの演奏を思い出しながら聴くように 言葉掛けをする。 ○ 最後まで聴かせ演奏の余韻を味わわせ,大切 にする。 音-17 キ 本時目標 ことができる。曲想表現の工夫をする 様子を思い浮かべながら,前時の工 ことにより,楽しく意欲的に演奏し, 夫を生かして,各グループで演奏する。 ク 自分達の感受を深めることができる。 指導の実際 感受を深めるための場の設定 グループ学習で,自分たちの思いを出 学 習 活 動 と 内 容 ○感受を深めるための支援 □感受の深まりを実感させるための支援 1.本時学習のめあ ○ グループごとに,前時工夫 てをつかむ。 したことを確認しておくよう (1) 前 時 学 習 を 想 起 にする。 す る。 (2)め あ て を 確 認 す る。 曲の内容に合うようにグループで演奏し、曲のよさ を味わおう し合い,ひとつにまとめることができれ ば心を一つにして,自分たちの「木星」がで きると感じていた。そこで,楽曲「木星」を 表すためにはどのように表したいか,どのよ うに工夫をしたらよいかを学習ノートに書き 込ませた。次に,工夫することをグループ内 で確認するために拡大楽譜に書き込み,共通 表現として確認させた。速さや強弱等を色で 分けすることで要素を意識付けた。工夫の重 点に赤い印を付け,いつでも意識できるよう 2.グループで工夫 したことを発表す る。 ○ グループ毎に工夫 したところや一番 思いを伝えたいと ころを発表する。 ○各グループの工夫の共通点を確 認し,拡大楽譜に記入する。 に試みた。また,意識を高めた結果練習を重 ○友だちの演奏をよく聴き,音色 の響きに気を付けて演奏してい る子どもを賞賛する。 ○ 工夫して,強弱や速さ、言葉 に気を付けた演奏法などに気を 付けて歌っている子を賞賛する 資料-10 ・宇宙の壮大さや木 星の情景(喜びを もたらす者)を想 像しながら演奏す る。 ○各グループごとに工夫したいこ とや困っていることなどを聞い ていき,解決のためのアドバイ スを行うようにする。 感受の深まりを実感するための評価活動 3.グループごとに 発表する。 □各グループで演奏することによ り豊かな響きの演奏が表現でき たことを賞賛する。 ねるごとに感受が深まっていった。 確認用拡大楽譜 それぞれが工夫の観点に沿って練習した 曲を,グループごとに発表し,「木星」を 演奏し,振り返えることができ,自分の 「木星」を味うことができた。また,その 後に管弦楽組曲「木星」の鑑賞曲に戻り, 曲想に振り返らせると,始めに聴いたとき よりも「一緒に旋律を口ずさむことができ 4.本時のまとめを する。 (1) 組曲「木星」を 聴き自分たちの表 現と聴き比べ,楽 曲の良さについて 話し合う。 □ 強さや速さを中心に互いのよ さを評価させる。 た」「ゆっくりした気持ちで聴くことがで ○自分たちの演奏を思い出しなが ら聴くよう言葉掛けをする。 りが素晴らしい」「曲が好きになった」な きた」「指揮がしやすかった」「音の重な ど曲に親しむ姿が見られた。 資料-11 □曲を最後まで余韻をもって聴か せる。 (2) 今日の学習でを 書く。 音-18 児童の学習プリント ケ 考察 ② (ア) 教材構成の面から ① 感受を深めるために,学習プリントに 教材選択 楽曲の要素である強さや速さ等に着目し 本教材曲,管弦楽組曲「惑星」の第4曲 ながら書き込み,グループで話し合うこ 「木星」は,印象的な旋律と特に速さや とでお互いに評価し合い,さまざまな要 強さの変化を通して,曲想を感じること 素だけでなく情景を表すこともできた。 ができる曲である。 また,そのためには何度も曲を聴いて確 また,宇宙に憧れを抱いている本学級 かめる必要があることに気付き積極的に の児童にとって「惑星」や「木星」は曲 聴きながら,要素を中心に書き留めるこ 名そのものも興味深く,宇宙への思いを とができた。また,自分で演奏を繰り返 馳せながら意欲的に鑑賞し,その意欲が すことで主旋律を覚え,味わうことがで 継続する曲でもある。 きた。さらに,管弦楽による「木星」を さらに,大規模な管弦楽の編成による 聴き浸ることで自分の聴き方を振り返 演奏は楽器の音色の重なりや変化を十分 り,自分の聴き方の変容に気付き感受の に味わうことができる曲で児童はもっと 深まりを実感することができた。 聴きたいという思いをもち,感受を深め るために最適だったといえる。 ② 教師の言葉掛けの工夫 教材解釈 から情景を想像させるための言葉掛けを 本教材は,主旋律や速さの変化に着目 行った。 すると,中間部の曲想の変化が分かりや 深める段階では気付いたことや感想 すく,3部形式が捉えやすい曲であった。 を,旋律や強さ・速さなどの要素で整理 また,大規模な管弦楽の編成による演奏 するような言葉掛けを行い要素の変化を は,荘重な管弦楽の響きを充分に味わう 確かめるために,繰り返し曲を鑑賞し のに適した曲であり,存分に聴き浸るこ た。 さらに,グループで演奏を工夫し,グ 副教材の選択 ループごとに承認・賞賛を含んだ言葉掛 題材の導入段階で管弦楽組曲「惑 星」 けや強さや速さの工夫をするような言葉 の7曲を聴くことは,主旋律を中心に聴 掛けをした。 き比べができ,想像豊かで且つ意欲的に 味わう段階では,各グループの工夫し 鑑賞にかかわらせることに適していた。 た表現を思い出しながら「木星」の鑑賞 (イ) 授業設計の面から ① ③ つかむ段階では,惑星の写真や絵など とができた。 ③ 児童の評価活動 をするような言葉掛けをし,感受の深ま 場の設定 りを実感させる余韻のある活動にした。 曲を聴いて情景を想像する場,それぞ れが想像したことを要素をもとに交流し 合う場,交流したことを曲のある部分を 表現することにより体験する場を設定す ることによって,児童自身の聴き方,曲 に対する感じ方や思いが変わっていく様 子を自ら実感させることができた。 音-19 等で表現したり,各自口ずさませメロディー 第Ⅲ章 研究のまとめと今後の課題 に親しませたりして,教材曲 がどのように作ら れているか を 実 感させる。 1 研究のまとめ 味わう段階では,自分たちの表現をベース 本研究室では,本年度,「感受の深まりを実 にイメージを豊かにし,集中して十分に楽曲 感できる鑑賞指導」という主題のもと,教材選 を聴き,感受の深まりを実感させる。 択に視点をあてた題材構成や授業設計(場の設 課題を明確にした発問の工夫や承認や賞賛 定,児童による評価活動の工夫,教師の言葉掛 の言葉掛けを行うことにより,児童の意欲を け)の在り方を明らかにしていった。 喚起し,音楽の要素の特徴に気付かせ,音楽 その結果,下記のような支援が有効であるこ を聴こうとする態度を育てる。 とが分かった。 (1) 教材分析 2 鑑賞の指導を行うために扱う教材曲を十分 に分析することが必要である。 今後の課題 本年度は,小学校第1学年と第6学年の授業 実践を通じ,感受の深まりを実感させる鑑賞指 そのために,楽曲の「全体」や「部分」を, 導の研究を進めてきた。その結果指導が改善さ 教師自身が何度も聴き込み,楽譜の読み込み れ,鑑賞活動を通して「この曲が大好き」「も も通して,その曲の特徴やポイントをつかむ っと聴きたい」という,聴く事への関心・意欲 ことが大切である。 や集中して聴く力が児童に身に付いてきており, (2) 感受の深まりを実感させる授業設計 鑑賞指導においてはこのような工夫が大切であ つかむ段階で,教材曲との出会いを大切に ることが分かった。 するために,教材曲で使われている楽器や写 真・絵の提示,VTR視聴などをさせる。楽 今後下記の点についても,更に研究を深めて いきたい。 器についてはできるだけさわったり演奏した りさせ,親近感をもたせる。また,教材曲に 応じて楽曲の「部分」や「全体」を十分に聴 ・ 他の題材 における 鑑賞活動と表現の工夫 の在り方 ・ かせる。 鑑賞活動における言葉掛けの在り方と体 系化 深める段階では,曲の感じをつかませるた めに身体表現をしたり, 曲の部分を器楽演奏 音-20 ・ 鑑賞活動における評価 引用文献 1 武末 正史 「音楽科授業づくりの眼と技」 正史 「音楽科授業づくりの眼と技」 P40 (2005) 参考文献 1 武末 2 文部科学省 「初等教育資料 3 渡邊 「音楽鑑賞の指導法」 4 財団法人音楽鑑賞教育振興会「音楽鑑賞教育 5 島崎篤子・加藤富美子 学而 自費出版 9月号」 「日本の音楽 (2005) (2005) 音楽鑑賞教育振興会 ONKAN」 (2005) (2005) 世界の音楽」 音楽之友社 (2005) 6「学校音楽教育研究」9月号 日本学校音楽教育実践学会 (2005) 7「音楽教育実践ジャーナル」 日本音楽教育学会 (2005) 共同研究者 木 村 次 宏 (福岡教育大学教授) 折 口 惠 子 (主任指導主事) 有 馬 美 和 (舞松原小学校教諭) 肝 付 幸 枝 (博多小学校教諭) 近 音-21 藤 理 子 (宮竹小学校教諭)