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森 人 ミステリウム 森 人 ミステリウム
で体感した。刺す様な哀しみがあるのに後ろ髪を引かれる。どこか不安でも安心する。私はこの地の森や民家、神社仏閣 を見学している時、ある種の気配、雰囲気が常に付き纏い、その厳重な監視下に置かれた。この気配がなかなか取れない。 少年時代へとトーンを落とされた私は、その頃に想像力を掻き立てた根源的な何かへの親しみと畏れを感じた。それは懐 かしさを通り越し、古からの圧力に思えた。圧力に抵抗する気力の無い私はただ歩き回り過去の遠い記憶を揺り動かされた。 このように反応する他はなかったように思える。心をどこかの時間軸に移行させてしまうアフォーダンスのスイッチが至 る所に存在し足の踏み場がないのだ。この土地は訪れる者を過去に引きずり込むプロセスが草木のように自然発生してい る。私もそのスイッチに触れてしまい、どこかで見た事があるような無いような懐かしい“モノ”を幻視し始めた。それ は誰もが持っている共通感覚“元型”(古代型)であると画家の感性で思い始めた。 15 年前、不可視の“モノ”を描き始めた私はその雰囲気や気配を風景画で表現し、やがて精霊や妖怪、神として形を描き“記 号”として変化していった。しかし私は会津盆地で記号を失い原点回帰をしてしまった。精霊や神などのイメージを形成 する以前の太古型の表現をせざるを得ない。そうでなければ嘘になってしまう飾り無しの基底がこの地にたくさん存在す るからだ。嘘をついて華やかに描き鑑賞者の目を楽しませるのも芸術ではあるが、この地での作品は正直に描いた。作品 の面白みよりも幽かな気配に目を向けた。 ある。エゴ・我・人間性などの曇りを取ってしまったら物事は全て中立になってしまい意味は存在しなくなる。そのため 意味は自分で設定していると気付く。それでも真実を見ようと制作してきたため、中立の意味の無い無音の世界に足が向 いている。その半透明な世界で私は、ある幽かな揺らぎを感じ嬉しく思った。それは外界の何かと対応する人間内部の生 きようとする本能。人間の心身に自動的に働く根本的な力。何か巨大な法則に寄り添う自然な反応だと思う。私は一瞬で も確かにその場所に存在し目を凝らした。そこに元型を創り出す人間の本能の一部を見た気がする。 ● 夥しい古へのアフォーダンス・スイッチ集合地帯、会津盆地で 1 人の見知らぬ者が森のはこ舟に何を積み込んだのか否か。 それは貴方自身が感じて決めて下さい。貴方が貴方の世界の主人公なのですから。私は脇役としてスイッチだけ用意させ て頂きました。この様な機会を与えて下さり有難うございます。 埼玉県生まれ。日本画家。 東北芸術工科大学博士課程修了。山形を拠点に 一貫して妖怪や精霊、神仏などの絵画を制作。 東京都(ミヅマ・アクション)/「妖怪実体化」、 東京都(日本橋高島屋美術画廊X) 「−妖怪奇譚−」、新潟県他(新潟県立万代島美 術館、他巡回)/「ジパング展 沸騰する 日本の現代アート」、東京都(東京都美術館「第 二回 ArtistGroup−風−」、 香 港(HKCEC)/「ア ー ト バ ー ゼ ル 香 港」 「Impacts! 勢み」JAPAN ART FESTIVAL ( ゼーン・ベネット・コンテンポラリーアート / アメリカ )。など 2 [主催]福島県|森のはこ舟アートプロジェクト実行委員会 [協催]東京都|東京文化発信プロジェクト室 (公益財団法人東京都歴史文化財団) [協賛 ]日本たばこ産業株式会社 このプロジェクトは、森林環境税を活用しています。森 林をみんなで守り育てましょう。 会場:大和川酒蔵北方風土館(喜多方市) 【昭和蔵・天空回廊・大正ロマン室】 会期:2014.12/15(月) 〜12/28(日) 9:00〜16:30 富 之 金 子 お問合せ 森のはこ舟アートプロジェクト・喜多方ワーキンググループ (まちづくりセンター内) TEL:0241-22-1026 FAX:0241-22-5546 E-mail [email protected] 受付時間8:00〜17:00 土日祝日休業 (12/29〜1/4休業) 担当:佐川・猪俣 金子富之 日本画家 会 場:大和川酒蔵北方風土館 (昭和蔵・天空回廊・大正ロマン室) 〒996−0861 福島県喜多方市字寺町 4761 会 期:2014.12/15(月)〜12/28(日) 9:00〜16:30 イベント 会 場・大正ロマン室 対 談:12/23(火) 15 時〜17 時 30 分 小金沢智(美術評論家) × 金子富之(日本画家) 森への質問:12/23(火) (参加者全員で森に 何かを聞いてみます。 )16 時 ぐらいから 全会期:ドローイングメッセージ自由 参加(天空回廊) ︵現代絵画表現から元型への回帰︶ 人は自分のフィルターを通じて何かを見る。そのフィルターを透明にしたらクリアーに見えると言うが違和感が私には 森のはこ舟アートプロジェクト2014 私にとって会津盆地には一度も訪れた事もないのに慕わしい“場”が多く点在する。少年時代この土地の感覚はどこか 森 と人 のミステリウム 今展に向けて (現代絵画表現から元型(古代型)への回帰) —現代絵画表現から元型(太古型)への回帰— 一、記号としての絵画 古人が造った図像に現代的なアレンジをして再構築し た絵画。イメージを扱うためデフォルメやコラージュ、 画面の質感の追求も行う。 古来より人々は、森や自然、または生活空間に人間 以外の何者かの存在を感じ取り想像力を掻き立てた。不可視の妖怪や精霊、神々などに姿形を与え、解りやすくし自 然や他者を理解し調和を計ってきた。表現された型は その意味合い上“記号”の特性が強い。しかし古人は記号(主に精霊や神々の絵画や彫刻のイメージ)の源泉となる“何か” を感じていたはずである。それは人間の深層意識にあ る共通したイメージである元型(太古型)であると画家の感覚で思う。そのイメージの記号としての絵画(一)から 自然対象物を目視して描く絵画(二)そしてより感覚 的な元型の絵画表現(三)へ絵画の意識を遡ってみたい。 怖威金剛(ふいこんごう) 森の一生の移り変わりとも通じる、創造、維持、 破壊の思想を持つヒンドゥー教。その破壊を司 るシヴァの暗黒面を恐れた仏教徒が自らの内部 に取り込んだ姿がヴァジュラバイラバ(怖威金 剛)である。別名ヤマーンタカとも言われ、死 の神ですら殺す力を持つとされる。日本では大 威徳明王がこれにあたり文殊菩薩の化身とされ ている。観想により羯摩最勝王三摩地を極めし 者は生ける怖威金剛として衆生の救済にあたる という。 なわめ筋(なわめすじ) なわめ筋とは霊的なものが通る道とされる。 「宮の正面、お寺の後ろ、雄端、谷尻、なわめ筋」 という言い回しがあり、この筋の上に家を建て ることは禁忌とされる。霊道は人間の生活空間 の至る所にあり、異界の住人のネットワークと して機能して人間社会を裏側からインスピレー ションという形で影響を与えているのかも知れ ない。 二、雰囲気としての絵画 対象物を見て描き写実的でありながら雰囲気を漂わせる絵画。画面上で対象物を強調したり省いたりするが、 不可視の存在よりも目に見えるものがメインとなる。 森守るもの(もり まもる もの) 巨木。その覆いかぶさって来る様な迫力、風 に吹かれ枝が連動して揺れている時のダイナニ ズムに精霊を見る。海外にはナースログという 言葉がある。森を看護しているのは樹木達であ り、大きく成長するのも朽ち果てるのも一つの 無駄なく生態系の維持に繋がっている。 巨大な看護婦たちによって森は何千年も生き 続ける力を持つのである。 天手力男神(あまのたぢじからおのかみ) ※表紙 2014/200×300 ㎝ 岩絵具、アクリル、透明水彩、箔、薄美濃紙 怖畏金剛(ふいこんごう)2014/227×640 ㎝ 岩絵具、アクリル、透明水彩、箔、ペン、和紙、吉祥麻紙 なわめ筋(なわめすじ)1999/91.0×72.7㎝/岩絵具、雲肌麻紙 森守るもの(もりまもるもの)2014/21.0×29.7㎝ 墨、胡粉、ペン、複写機、カメラ、奉書紙 樹霊と月(じゅれいとつき)2014/21.0×29.0 ㎝ ※裏表紙 墨、胡粉、ペン、複写機、カメラ、奉書紙 三、元型としての絵画 感覚、感性を重視し不可視のモノを捉える。精霊や神々にリアリティを 与えるため背景を現実感のあるものとする。元型の表現は非日常の描写部 分だけである。深層からの意識がポイントとなる。