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論文 - 関東学生マーケティング大会2015
シェアする時代のマーケティング ~大学生親子の親子共有消費を解き明かす~ ①―――序論 1.研究動機 2.消費の現状 ⑴ シェア型消費の拡大 ⑵ 絆消費・思いやり消費の活発化 ⑶ インビジブル・ファミリーの増加 ⑷ 親子関係の長期化 ⑸ 現状分析まとめ 3.研究目的 ②―――本論 1.先行研究レビュー ⑴ 親子関係に関する研究 ⑵ 動機に関する研究 ⑶ 親子共有消費の定義 2.仮説提唱 3.仮説検証 ⑴ 調査方法と調査内容 ⑵ 分析手順 ⑶ 分析結果 ⑷ 検証結果考察 4.新規提案 ③―――結論 ④―――今後の展望 ⑤―――謝辞 ⑥―――参考文献 補禄―――アンケート調査票 上田 成剛 小野瀬 弘道 田村 舞香 桧垣 千尋 我妻 謙伍 高崎経済大学 佐々木研究室 製品開発班 ①―――序論 1.研究動機 「忘らむて野行き山行き我れ来れど我が父母 は忘れせのかも」 今から 1200 年前に防人として九州に派遣され る若者が親への感謝を歌った和歌である。古来よ り日本人は親への感謝の気持ちを様々な場面で 表現してきた。2013 年の関東学生マーケティン グ大会の共通テーマは「学生視点のマーケティング」 である。この学生視点という点を我々大学生が 日々感じている思いこそが「学生視点」であると 考えた。大学生となり班員の多くが一人暮らしを する事で初めて抱いた親への感謝の念。アルバイ トを経験してお金を稼ぐ大変さを知って感じた 親への尊敬。そういった想いを活かしてマーケテ ィング戦略を練り、そのマーケティング戦略を通 して親と子の架け橋となることは出来ないかと いう想いから研究を始めた。 我々は、日本の親子の関係性の現状分析を通し て親と子が過ごす時間の長期化や、親と子の関係 性がよりフラットな関係になっていること、さら には親と子の間で多くの金額が動いていること を知った。我々はそこに焦点を当てることで新た なビジネスを生み出し、市場を開拓出来る可能性 を見出した。さらに今後の親と子の架け橋となる ため、親子が共に過ごす時間の中で生まれる消費 が行われる動機とその因果関係を解明すること が必要だと考えた。 2.消費の現状 はじめに親と子の消費を研究していくうえで、 日本の消費が現在どの様な状態にあるのか現状 を把握する必要がある。私達は消費の現状分析を 通して消費にコミュニケーションを求める社会 背景の存在に気づいた。近年拡大している消費で あるシェア型消費に着目し、その消費を分析して いくこととした。 ⑴シェア型消費の拡大 我々は消費の現状について三浦(2012)の「第 四の消費」をもとにみていく。 「第四の消費」とは、消費を 4 つに分けたうちの 4 番目で、2013 年現在、この第四の消費の段階に あると位置づけられている。本研究では一番関係 している第四の消費のみを取り上げて現状分析 する。 (第一の消費から第三の消費に関しては表 1 を参 照) そもそも第四の消費とはどういった消費なの か。三浦(2012)は「ひとことで言えば『物を買え ば幸せになれる』時代の終わりといえる。その『終わ り』とは 1990 年代末期から現れ始めた。そして、物で はない何かによって幸せになれるのかを多くの人々が 問う時代が始まった。それが第四の消費社会である」 と述べている。物ではない何かの 1 つとしてまず あげられるのがつながりである。それはコミュニ ケーション、コミュニティと言ってもよい。人と のコミュニケーションが促進される、コミュニテ ィが生まれる、その様な消費をしたいという心理 が拡大してきた。他者とのコミュニケーション、 コミュニティが出来るなら、それでよいと考える のが現代の消費者である。つまり現代の消費者に とっては、ブランド品や高級車を買うと幸せにな るといった価値観はもう通用しないのである。情 報化による幸福感だけではなく、単に物を消費す る、サービスを消費して満足するかどうかではな く、消費を通じて人とつながりあえるか、何かを することで人と知り合えるか、交流できるか、と いうソーシャルな部分に、つまり社会志向に価値 が置かれている。 ここで言う社会志向の社会(society)の語源は ラテン語(socius)で、socius とはつながりや仲 間を意味するという。他者、あるいは社会に対し てつながりを求め貢献していく中で、個人間のつ ながりが自然と生まれてくる社会を指している。 また、社会志向ではシェア志向も強まる。インタ ーネットを通じて情報自体のシェアが簡単にな り、インターネットによって物のシェアも簡単に なるからである。インターネットの普及が情報化、 シェア志向を後押ししていると考えられる。また、 誰もがいつでもどこでも通信できるようになっ た事で、それまでは見ず知らずだった赤の他人と も簡単に友達になれるようになったことが、人と コミュニケーションしたい、共感したいという若 者のニーズを満たすようになった。シェア志向の 価値観は、他者との違いを求めるものではなく、 むしろ他者とのつながりを求めるものである。人 との共通性を見つけて、その共通性を元に新たな つながりをつくろうとする。新たなつながりをつ くることで新しい価値が創造される。コミュニケ ーション、コミュニティの価値が創造される。つ まり現代の消費はシェア型の消費へと進んでい るといえる。 シェア型の消費とは、消費者が消費する対象を 「仕分け」し、本当に必要な物は購入し、私有す るがあまり必要のないものは共有や共同利用で 済ましたり、レンタルや中古品を買って済ました りし、そのことを積極的に楽しむという消費行動 である。企業の側からすると消費者がシェアを消 費すると売れる商品の量が減り、経済が停滞する 懸念もあるが、消費者側からすればシェア型の消 費では普段私有で買うものより品質、機能がよく、 高額な物を買って使うことができるというメリ ットもある。シェアすることで重要なのは、共有 や共同利用が一種の手段でしかなく、真の目的は むしろコミュニケーションにあり、そこから自然 に育まれるコミュニティであることである。シェ アを行う事で人とのコミュニケーション、つなが りを求めているといえる。今は徐々にシェアの時 代になってきた。自分が何を持つかよりも、自分 たちが何を一緒に持つか、使うか、みんなで何を するか、何に共感するかが重視される時代になっ たのである。これらを三浦(2012)は「つながり」、 「シェア」と相通ずる言葉で「共費」と名付けた。 以上が三浦(2012)の第四の消費をもとに出し た消費の現状である。我々は三浦(2012)の言葉 から共費を共有消費であると解釈し、研究を進め ていくこととした。 ■表―――1 第一の消費から第四の消費の推移 (出所:『第四の消費』 三浦[2012]を元に作 成) 2013 年 11 月現在、企業が実際に行っているシ ェア商品やコンセプト例を 2 つ提示する。 ・株式会社日本マクドナルドの「シェアポテト」 と「シェアナゲット」 マクドナルドでは、 「マックフライポテト」と「チ キンマックナゲット」の 2 つの商品を販売している。 「マックフライポテト」のシェアサイズのコンセプ トは、 「家族と、友だちと、恋人と、みんなで食べれば、 みんなでお得。楽しく分け合って、おいしい時間をシ ェアしよう。 」である。シェアナゲット 15 ピース は本来 5 ピースの「チキンマックナゲット」をシェ ア用に増量したものである。こちらのコンセプト は、 「家族や友だち同士でのお食事やお出かけの際に、 ワイワイ楽しく分け合ってシェアしよう。」で、どち らも身近な人、マクドナルドを訪れる人とのシェ アを目的とし、期間限定で販売をしている。 ・株式会社江崎グリコの商品コンセプト「レッ ツシェアポッキー」 「レッツシェアポッキー」とは、江崎グリコがポッ キーの広告に使用している商品コンセプトであ る。キーワードにグローバルなアイデンティティ である「シェア・ハピネス」がある。その国や地域 の文化、生活習慣に合わせて様々な展開が行われ ている。世界各地で楽しさやおいしさを分け与え るためのキャンペーンを実施し、世界中でパッケ ージを統一することで、シェアすることを促して いる。 この様に単に個人で所有する必要性のない耐 久消費財をシェア=共有して済ますという消費 に留まらず、商品をシェアして自分ではない誰か と共有するという付加価値を与えるという概念 が生まれつつある。 三浦(2012)は、以上のような共有消費は 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災を機に強ま ったと述べている。 (2)絆消費や思いやり消費の活発化 まず、震災前の家族に対する意識をみる。文部 省統計数理研究所により 5 年ごとに行われてい る国民性調査の最新結果である 2008 年の結果に よると、 「あなたにとって一番大切なものはなんです か。」という問いに対して、46%の人が「家族」と 回答した。30 年前にはこうした考えをもつ人は 23%の半数であったことからも、震災以前から 人々の関心が家族へと向いていたことが分かる。 では、東日本大震災により、この意識はどのよ うに変化したのか。震災後、 「絆消費」や「思いや り消費」という言葉をよく耳にするようになった。 「絆消費」とは、家族や親しい人とのつながりを 大事にする為に行われる、消費行動の 1 つである。 絆消費の代表する財としては、クリスマスケーキ やおせち料理、親族等に配るお歳暮などがあげら れる。絆消費は絆、すなわちつながりがないと起 こらないといわれるが、実際のところ現在のつな がりはどういったものなのか。以下は、つながり に関する資料である。 表 2 を見ると、自分が属する人間関係や団体を 大切に感じるかどうかについて、震災前と震災後 に分けて質問を行った。その結果、血縁関係や、 友人、どの人間関係、団体においても震災前より もさらに大切に思う人が増えた。血縁関係や友人 はもともとの値が高かったものの、さらに震災を へて増えた結果となった。また、震災前後におけ る地域のつながりや地元自治体など、社会的なつ ながりについて震災前より大切に感じるように なったとの回答が多い。 ■表―――2 合計金額にして平均 162 万 7 千円にのぼっており。 全体として親子間でのプレゼントや高額消費の ための資金援助はきわめて活発におこなわれて、 金額的にも多くの額にのぼる事が確認された。 ■表―――4 子供から親への支出合計 勤労者短観 第 22 回 勤労者の仕事と暮らしに 関するアンケート調査 (出所:株式会社リサーチ・アンド・ディベロ プメント調査より作成[2012]) (出所:公益財団法人 連合総研合生活開発研究 所[2011]) 次いで表 3 を見てみる。震災をきっかけに「大 切にしようと思った」相手は、親が 54%と最多であ った。以降、配偶者、子供、兄弟姉妹と続き、家 族との絆を再認識する結果となった。震災が「家 族との絆」をより強くした事が、 数値にも表れた。 時代の変化と共に、震災以前から家族が 1 番大切 だと考えていた人が多かったが、震災によりその 意識が再確認され、つながりも求めるようになっ たと言える。 続いて、現在の親子間での消費の現状をみる。 表 3 は、2012 年 3 月に 18 歳~74 歳の首都圏に住 む一般生活者を対象に調査したもので、 「子供から 親へ」 「親から子へ」双方向でプレゼントや高額消 費のための資金援助など、いわゆる「思いやり消 費」が活発に行われている実態が明らかとなった。 ■表―――3 震災後、これまで以上に大切に思った人間関係 ■表―――5 親から子供への支出合計 (出所:株式会社リサーチ・アンド・ディベロプ メント調査より作成[2012]) 以上のことから、人々は震災をきっかけに他 者とのつながりを求めるようになり、中でも自分 にとって身近な存在である、家族や親戚とのつな がりを大切にしていることが分かった。また、そ の意識が消費の形にも現れ、特に親子間での「思 いやり消費」が活発であることが分かった。 ⑶インビジブル・ファミリーの増加 (出所:株式会社リサーチ・アンド・ディベロプ メント[2012]) この 3 年以内に親のために何らかの支出をお こなった人は、親を持つ人全体の 48%で、3 年間 での合計金額は平均 34 万 6 千円であった。また 独立した子供のいる人のうち 3 年以内に子供や 孫のために何らかの支出をした人はおよそ 7 割、 家族や親子で過ごす時間は今後どのように変 化していくだろうか。まず、家族形態の変化から、 家族同士がつながる時間と消費が今後どのよう になっていくかをみる。 消費の移り変わりとと もに家族形態は変化し、現在は核家族が一般的で、 単身世帯も増加している。また、この状況を袖 川・花島・森住(2005)は近居家族のモデルとし て提唱している。さらに袖川(2009)は、今後兄 弟や親族が 1 つの地域に近居する「群居家族」へ と変化していくだろうと述べている。これは、同 居はしないものの親子、家族、親族が近居するこ とで、経済的、精神的に支えあう場面が増えてい く事を指摘している。また、この現状を、川津 (2008)は「インビジブル・ファミリー(見えない家族)」 と名付けている。 インビジブル・ファミリーの増加によって、親 世帯と子世帯との間で、共有・共用化の傾向が強 まるため、親子間の消費に関しても変化が生じる。 その後の研究により、インビジブル・ファミリー の消費は、 「支援消費」1「派生消費」2「共有消費」と 3つのタイプに類型化できる事が分かっている。 以上のような消費のタイプはいずれも新しい市 場を生む可能性を秘めており、企業が取り組む価 値のあるテーマであると説明されている。 我々はこの 3 つの消費の中から共有消費に着 目し研究を進めていくこととした。この共有消費 が「第 4 の消費」をもとに述べた、現在の消費の 形であり、今後消費する機会が最も増えることの 期待出来る消費の形であるからである。 親世帯・子世帯間における「共有消費」とは、 親世帯と子世帯で商品やサービスを共有し、一緒 に使うために、両世帯が連携する消費である。企 業の側からみた共有消費の特徴は、目の前の顧客 以外にも商品を使う人が存在するという点であ る。対象となりやすいのは、住宅などの時間共有 の基盤となる商品や、自動車などの使う場面や頻 度がある程度限られ、かつ高額で高品質に対する ニーズがより高い商品である。以上は耐久消費財 である、 「集食」と呼ばれる複数世帯で食卓を囲む 事や、外食、旅行、レジャーなども、コトや時間 を「共有する」という意味で共有消費に分類でき る表 6。 ■表―――6 インビジブル・ファミリーの消費事例 と子供の人口は 8700 万人にのぼる。30 代以上の 子供は更にこれから増加し、2030 年には人口の 4 割を占める。反対に成人していない子供は縮小し ていくと分析している表7。 二つ目は子供の高齢化である。少子化と高齢化 の進行で子供の平均年齢が上昇し、子供の平均年 齢は 5 年に 1 歳のペースで上昇していく。1990 年代には 20 歳台だった子供の平均年齢は 2000 年代に 30 歳台の大台を超え、2010 年には 32.8 歳、さらに 2030 年には 36.7 歳にまで上昇してい くと予測されている(表 8)。 三つ目は親子の関係が 60 年に伸びるというも のである。これは生まれてから親を看取るまでの 期間である、親子共存年数もまた子供の高齢化と、 平均余命の上昇により長期化し、60 年に至る。 人生の 3 分の 2 以上を子供として過ごす時代にな ったと分析している。つまり、親子の関係という ものはこれから長期化していき、それに伴い親子 で行う消費というものも今後伸びていくことが 予想される。 (表 9) 長期化する親子時間により、年齢の上下関係か ら親と子が解放され、反発しあう対象から、お互 いに年を重ねてきた大人としての関係へと変化 し、親子一緒の消費が活性化するとも述べられて いる。つまり、親子がそれぞれを大人として認め 合うフラットな関係が生まれ、前の世代を否定す る傾向が弱まり、社会全体の価値観の変化が穏や かに進む。親子消費は、子供中心の消費から、豊 かな鑑識眼を持った二人の大人の消費へと親子 の消費は移り変わっていくと考えられているの である。 ■表―――7 日本の総人口に対する成人親子の割合の推移 (出所: 川津のり[2009]『「インビジブル・ファ ミリー」から生まれる新しい消費とターゲット像 ~企業のマーケティング戦略への影響~』 より 作成) ⑷親子関係の長期化 次に、親子関係の変化について述べる。少子高 齢化と人口減少により日本の親子の関係はどの 国も経験したことがない段階に突入している。そ れは、人口に占める子供の割合が多数を占め、子 供である時間が長期化していくことにより親子 の関係が長期化するというものである。博報堂生 活研究所はこの事象を 2013 年生活動力提言テー マと捉え「総子化~そうしか」と命名して詳しく分 析している。同研究所はこの総子化は、3つの実 態があると分析している。一つ目は子供の増加、 表 7 を見ると、特に成人していながら親が存命で ある成人子供の増加である。成人子供だけで総人 口の約半数を占め、成人していない子供を含める (出所:博報堂生活研究所[2013]) ■表―――8 日本の子供の平均年齢の推移 (出所:博報堂生活研究所[2013]) ■表―――9 親と子の共存年数推移 行研究から本研究で扱う親子の研究対象を定め る。次節では、親子共有消費の動機を解明する意 義を述べ、動機の分類を行う。そして、一先ず親 子共有消費の定義を定め、プレアンケート調査の 結果から、より明確な親子共有消費の定義を定め、 動機の抽出を行う。 ⑴親子関係に関する研究 (出所:博報堂生活研究所[2013]) ⑸現状分析まとめ 以上、三浦(2012)の「第4の消費」をもとに現 在の消費は共有消費の時代であることが分かっ た。また、三浦が同じく「第4の消費」の中で触 れている共有消費は、共費という行為の中につな がりを求める傾向から、他者との関係性が生じる ことにより生まれる新しい消費の形である。さら には、震災を機に人々に「絆消費」という消費が 増えているという背景があり、中でも親子間の絆 が再認識されていること、さらに親子関係の長期 化や群居家族傾向により、親子で過ごす時間も長 期化していくことなどが分かった。また、親子間 での「思いやり消費」としても多くの消費が実際に なされているため、親子における消費は活発であ ると言える。 3.研究目的 共有消費は、最近行われ始め、そして今後も続 いていくと考えられている消費であるが、人々が どのようなプロセスで共有消費に至るのかは共 有相手が知人、友達、親子、どの関係性において も解明されておらず、共有消費の体系化は進めら れていない。 そこで、我々は共有消費のプロセス解明の一歩、 また共有消費における研究の一助として、共有消 費がどのような動機によってなされているのか、 また、その動機と共有消費にどのような関係があ るのかを解明することが必要であると考えた。本 研究では、共有消費の中でも他者との関係におい て「私達の誰もが生まれながらにしてもち、日本 では特に意味をもつ人間関係」 (高橋 [2007])で ある親子関係により研究を進めていく。この親子 関係は、我々にとって最も密な関係であると共に 身近な存在であり、今後も関係が長く続いていく 関係である。親子が共に過ごす時間の中で生まれ る消費の中で新たなビジネスを生み出し、さらに 今後の親と子の架け橋となるために、親子におけ る共有消費(以下、親子共有消費)の動機とその因 果関係を解明することが本研究の目的である。 ②―――本論 1. 先行研究レビュー 本章では親子共有消費の動機と、因果関係の解 明に向けての研究を進めるにあたり参考にした 先行研究を概観する。まず、親子関係に関する先 親子とは、多くの人々にとって、人生の中で最 も長期的に継続する人間関係の 1 つである。(保 田[2003])長期間のうちに親の人生も子の人生も 進行してゆくため、その関係の性質は何度も大き く変化する。そのため、親子関係は継続した 1 つの関係であるにもかかわらず、いくつかの段階 によって全く異なった研究対象として取り扱わ れてきた。そのため、本研究でも研究対象とする 親子の時期を定める必要がある。以下、本研究の ターゲットである親子について詳しく設定する。 まず、親子関係は大きく分類して、前期、中期、 後期の3つの時期が存在している。親が子を養育 する時期の親子関係は前期の親子関係と呼ばれ る。また、成人した子が年老いた親を扶養する時 期の親子関係は、後期親子関係である。中期親子 関係は、子どもは成人して子育てが終了している が、親もまだ元気で扶養の必要がない時期の親子 関係をさす。これまで家族社会学のおける親子に 関しては、前期もしくは後期についての研究が進 められてきた。しかし、近年では中期親子関係と いう用語が日本の家族社会学界で頻繁に用いら れるようになっている。このことには、現状分析 で述べた「総子化」が関係している。高齢化によ り親子関係が長期化し、かつては無視できるほど 短かった中期親子関係が、1 つの大きな段階とし て認められるほどの長さになったのである。柏木 (2003)は前期と後期の中間に位置する中期親子 関係の注目した研究は極めて乏しいと述べてい る。 なお、船越(2011)は青年期後期から成人期前 期の親子関係研究の動向について、生涯発達心理 学の分野からも成人期前期の研究の欠乏と青年 期後期から前成人期間の縦断研究が極端に少な い事、生涯発達の概念が提唱されているのも拘わ らず、成人期以降の研究の絶対数が少ないこと、 成人期の育成や親性に関する研究は多い反面、心 性に焦点を当てた研究が少ないことを指摘して いる。 続いて、落合ら(1995)は、親子関係の変化の 中で、子供の成長過程における心理的離脱過程の 分析を行っている。この研究の中で、落合らは、 大学生における親子関係の存在を指摘している。 表 10 からも分かるとおり大学生になると、中・ 高校生で多くみられた関係は減少している。その 代わり、 「子が親から信頼・承認されている親子関係」 がよくみられるようになっていることが分かっ ている。このことは、子どもを一人前になったと 認め、子どもを信頼する親子関係が多くなる事を 示唆している。この結果を、柏木(2012)は大学 生が「経済的にはまだ一人前ではなくても精神的には 親と対等である」と解釈している。既存研究より、 我々が研究において対象にする親子は、中期親子 の中でも特に研究の乏しい成人前期である 19 歳 ~24 歳の子供とした。そして、成人前期の約半 数が大学生であるため、本研究の対象は大学生に 絞る事にした。また、本研究では親は子供の親と 定義する。 また、米村(2008)は「ポスト青年期の親子関係 意識:『良好さ』と『自立』の関係」という調査の中 で、20 代の子供とその親との親子関係はとても 良好であるとしている。実際に行われたアンケー ト調査でも「20 代の子供とその親との親子関係はと ても良好である」と答えた親子は約 9 割にのぼった。 この理由を米村は、20 代の子供は大学進学や就 職により親との離居していることや、同居してい る 20 代でも、帰宅時間や夕食をともにする頻度 から日常的なコミュニケーションは必ずしも密 ではないことが推測され、親子が適切な距離をと る事で親子関係が良好になったと述べている。以 上のことから、本研究で対象とする大学生の親子 の関係も良好であると言える。 ■表―――10 親子関係のあり方の変化からみた心理的離脱 への過程 (出所:親子関係の変化からみた心理的離乳へ の過程の変化)3 ⑶動機に関する研究 続いて、親子共有消費の動機の解明に当たって、 動機をもとに整理する。まず、動機の概念につい ての先行研究をレビューする。平久保(2005)は、 人間の取る行動には必ず動機が存在し、動機が分 かれば行動を予測できると述べ、行動を予測する 上で動機の解明の必要性を指摘している。また、 消費者行動論4の視点からも、購買行動は動機が なければ起きないと述べている。青木・新倉・佐々 木・松下(2012)らも、 「消費者ニーズを明らかにし、 製品やサービスの購買動機を把握する事は、マーケテ ィングを進めるうえでの大前提であり、消費者行動分 析の最も基本的な課題だと言える。」と述べ、消費者 像を明確にするためにも動機の必要性を指摘し ている。さらに、田中(2008)は、 「動機とニーズ とは文献でほぼ同じような意味で用いられる傾向があ り、どちらも消費行動の目的となる。しかし、ニーズ はさまざまある動機の 1 つの要素であり、ニーズだけ では行動は起きないが、行動が起こるときにはニーズ に誘因(欲求の対象)が加わり、ニーズと誘因の 2 つが 作用して動機を形成する事になる」と述べ、ニーズ が行動に繋がるのではなく、動機が行動に結びつ いていることを指摘している。 以上から、人間の行動を解明するためには、動 機を明らかにする必要性があることが分かった。 本研究の目的である親子共有消費のプロセス解 明の一助として、研究の末端ではあるが行動に結 びついている動機に注目することが必要である と考えた。 ■表―――11 動機の分類 (出所:田中洋 『マーケティングのキーコンセプト #35 消費者動機』を基に筆者ら作成) 次に、動機の種類を見る。田中(2008)は、さま ざまな研究者により出されている動機の分類を 統合している。まず動機を一次動機と二次動機の 二つに分類している。前者は喉の乾きや食欲、性 欲、睡眠、苦痛回避などの生命維持のために必要 不可欠の欲求である。後者は達成・親和・権力・ 依存・承認・支配・顕示などの後天的に学習され た欲求である。 さらに二次動機を、個人的動機と社会的動機の 二つに分類する。個人的動機とは、自分の満足を 得るための動機一般のことを指し、社会的動機と は、他者や社会との関わりで満足を得たいという 動機の事を指す。また、McClleland(1953)による 人間の基本的な動機として達成動機、権力動機、 親和動機の三つの分類と、その他の文献から独自 性要求と、自己尊厳の概念を取り入れて、個人的 動機と社会的動機を分類している。達成動機とは 「成果が評価されることで感じられる感情を経験した いというニーズ」 (McClleland[1953])であり、この 達成動機は、さらに社会的志向達成動機と個人志 向達成動機の二種類に分類する事ができる。 前 者は親や親友・家族のように、自分にとって重要 な他者の期待にこたえようとする事が、後者では 自分自身の目標のために努力する事が目指され る(Arnould, Price, & Zinkhan[2002])。権力動機 とは他者や世界に影響を与えたいとする欲求で ある (Winter[1973])。この権力動機が強い人ほ ど自己主張が強い傾向がある。親和動機とは人と 一緒にいたい、仲良くしたいというニーズの事で ある(McClelland[1987])。独自性要求とは、自分 が他人と異なっていると知覚したいという動機 である(Snyder & Fromkin[1980])。また、自己尊 厳動機とは、自分自身についてより肯定的な見方 を維持したいというニーズを意味している。 以上に挙げた欧米諸概念の動機とは別に、日本 人の動機の特徴における研究もある。東(1994)は 日本人の動機の特徴として、 「他者の期待に応える」 という動機づけを指摘している。真島 (1995)は、 そのような動機づけを「他者志向的動機」と呼んで いる。真島(1995)は、 「人の動機には『親を喜ばせ たい』 『期待に応えたい』といった他者との一体感の中 での意向や気持ちを汲み取った『他者志向的動機』の あり方を考慮しないと説明できないものがある」と述 べている。さらに、東によるとこの動機が共通し ている点は、 「まわりの人々、特に強い相互依存関で 結ばれた親、妻子その他身近な人々」の期待が意欲を 生み出すとして、相互依存関係の存在を指摘して いるため、 「他者」との関係は単なる親密な関係で はなく、むしろ互恵的な関係である事ができると する。以上が、動機に関する欧米の諸概念と日本 人の特徴を指摘した先行研究である。 先行研究より、動機は行動と結びつき、様々な 種類が挙げられた。しかし、本研究における親子 共有消費の動機を先行研究より断定することは できなかった。 次に、共有消費における動機を三浦(2012)の 「第四の消費」をもとにまとめる。表 12 はその動 機をまとめたものである。 しかし、三浦(2012)が述べた共有消費の動機 の分類からも、親子共有消費の動機を定めること はできなかった。そこで、一先ず親子共有消費の 定義を定める。親子共有消費とは、 「親子が相手 と共に過ごす目的で消費を行うこと」と定める。 定義は定めたものの、より明確な親子共有消費 の定義を定めるため、プレアンケートを行った。 ■表―――12 共有消費の定義 (出所: 『第四の消費』 三浦[2012]を元に作成) プレアンケートの結果、以下のような回答が得 られた。 (一部抜粋) ・娘とご飯を食べに行った。 ・父とお酒を飲んだ。 ・母と一緒にディズニーランドに行った。 ・父と一緒に釣りに出かけた。 ・母とパンケーキを食べに行った。 ・息子と山登りをした。 以上の回答を踏まえ我々は、親子共有消費には 食事やお酒を楽しむために行う消費と、レジャー や観光など娯楽を目的に行う消費が存在すると いう知見を得た。本研究の目的は、親子共有消費 の動機とその因果関係の解明であるため、我々は 動機に着目する。そのため、親子共有消費の分類 についてはプレアンケート結果より、食事共有消 費と娯楽共有消費に分類できると定義する。 (表 13)また、この共有消費のかたちは、川津(2008) が定義した、共有消費が行われる財の 3 つの中の 1 つであり、最も親子でのコミュニケーションが 行われることが想定される、コトや時間を「共有 する」消費である。 以上より、本研究における親子共有消費の定義 は「親子で共に財やサービスの消費を行う事」と する。また、その定義に伴う具合的な定義を以下 に示す。 ・親子共有消費を行っている時に親と子は時間 と場所を共有している。 ・消費で発生する金額は親と子が両方支払いを しても、どちらかが支払をしてもよい。 ・親子 2 人だけで行う消費であるため、家族全 員、両親、兄弟との共有消費は含まれない。 ・プレゼントの様な一方的に購買し、お互いに 使用することのない消費は含まない。 ■表―――13 ⑷親子共有消費の定義 我々は仮説を導出するにあたって、親子共有消 費の経験がある大学生とその親を対象にプレア ンケートを行った。プレアンケートの目的は 2 つあり、プレアンケートによって、親子共有消費 の具体的な定義づけと、本アンケートのための質 問項目抽出を行った。プレアンケートは 2 問の自 由記述形式の質問項目で構成されている。 第 1 問目は、親子共有消費の定義づけを行い、 具体例を抽出するための質問である。具体的には、 「あなたが経験した親子共有消費とは何ですか」とい う質問に、自分の経験を踏まえて自由に回答して もらう。 プレアンケート第 2 問目は、親子共有消費の動 機に関する本アンケートの質問項目を抽出する ための質問である。具体的には、 「あなたはなぜ 親子共有消費をしますか。 」という質問に自由に 回答してもらう。 プレアンケートの結果、以下のような回答が得 られた。 (一部抜粋) ・単純に子供といる時間を楽しみたい。 ・金銭的な面を考えて、子どもに援助をしてあげ たい。 ・子供との思い出をたくさん作りたい。 ・友達と行って良かったお店に母親も連れて行っ てあげたい ・久しぶりに会う子供とじっくり話したい。 ・親に日頃の感謝の気持ちを伝えたい。 ・親と同じものが好きだから一緒に楽しみたい。 ・親と一緒に行けば親が支払ってくれる。 ・親となら遠慮せず、何でも話せる。 第 2 問の回答結果をまとめると、親側では子供 へ金銭的な援助の意図や、子供といる時間を楽し みたいという動機から共有消費を行う回答が多 く得られた。また子供側では日頃の感謝の気持ち を伝えたいという意図や、親と一緒だとお金を払 ってもらえるという理由から共有消費を行う回 答が多く得られた。以上のことより、親と子供で は共有消費への動機に違いがある事が予想され る。また、友達と行って良かったお店に母親も連 れて行きたいという回答は、母親と友達感覚で交 流がある娘ならではのものであり、息子からの動 機では見られないと予想される回答である。また 既存研究から得られたように、子ども側にも親子 共有消費を行う際の動機において、娘と息子で違 いがあると予想できる。加えて既存研究から、親 子で居住のスタイル(別居・同居)によっても動 機に差異が生じるのではないかと我々は予想し た。 以上の見解を基に、本アンケートの共有消費動 機に関する質問項目を作成した。 2.仮説提唱 本研究では、親と子の動機と親子での共有消費 の因果関係に着目して研究を進めていく。ここま で述べてきた現状分析、先行研究レビュー、プレ アンケートから以下の仮説を提唱する。 仮説 1:親子共有消費を行う動機には、いくつか のタイプがある。 仮説 2:動機は親子での食事共有消費に正の影響 を与える。 仮説 3:動機は親子での娯楽共有消費に正の影響 を与える。 仮説 4:セグメントごと(親、子供、娘、息子、 同居親子、別居親子)に動機から食事共有への影 響の仕方に違いがある。 仮説 5:セグメントごと(親、子供、娘、息子、 同居親子、別居親子)に動機から娯楽共有への影 響の仕方に違いがある。 3.仮説検証 (1)調査方法と調査内容 仮説を実証するために、アンケートによる本調 査を実施した。以下はアンケート調査の概要であ る。 アンケートは二部構成になっている。第一部は、 動機を解明するための設問である。質問項目は、 記述式プレアンケート結果を基に作成した。具体 的には、どのような意識を持つときに親と、また は子供と共有消費をしたくなるかを調査した。第 二部は、今後の親子共有消費意図を問う設問であ る。評価は、第一部第二部共に「当てはまる・や や当てはまる・どちらでもない・あまり当てはま らない・当てはまらない」の 5 件法により回答を 求めた。 親と子供に共有消費について問う質問を回答し てもらうにあたって、親は両親ではなく、共有消 費に関してより関わりのある父親または母親の どちらか一方を想定して子に回答を依頼し、子ど もが想定した方の親へもアンケートを依頼した。 プレアンケートより抽出した項目を親と子で裏 返して問うことによって、質問内容については同 じ項目を使用した。また、親子でアンケートをと るさいにそれぞれにバイアスがかかることを避 けるため、子ども側の調査はアンケート用紙配布、 親側へは web アンケートで行った。なお、回答は 無記名方式とした。補禄として巻末にアンケート 表が添付してあるので参照していただきたい。 4.分析 ⑴ 分析手順 本研究の手順は以下の通りである。 手順 1:因子分析・信頼性分析 本研究では共分散構造分析を採用したため、準 備段階として、アンケート結果を用いて動機に関 する 30 項目の因子分析を行い、因子を抽出する。 具体的には、第一部のアンケート 30 項目を因子 分析にかける。因子抽出においては最尤法、回転 はプロマックス回転を用いた。また、得られた因 子の信頼性分析を行うために、クロンバックのα 係数を算出する。加えて、プレアンケートによっ て我々が規定した共有消費の種類においても信 頼性分析を行うために、クロンバックのα係数を 算出する。 手順 2:共分散構造分析(SEM:Structural Equation Modeling) 仮説 2、3 を検証するため、親子が共有消費を 行う動機と、共有消費の種類の因果関係を検証す る。その後、仮説 3、4 の検証のため、親、子供、 息子、娘、同居親子、別居親子の各セグメントを それぞれ比較する。その為に、多母集団同時分析 を用いる。 なお、手順 1、2 は全て、株式会社 IBM の統計 パッケージ「IBM SPSS Statistics 22」を使用する。 ただし手順 2 については、共分散構造分析を行う ため、 併せて、 株式会社 IBM の統計パッケージ「IBM SPSS Amos 22」も使用する。 ⑵因子分析による動機の類型化 動機に関する 30 項目を因子分析するにあたり、 まず、回答の平均値、標準偏差を算出した。本ア ンケートの回答は、各項目 1 点から 5 点の得点範 囲をとっている事により天井効果の基準を 5、床 効果の基準を 1 として、検証を行った。その結果、 本研究では床効果の見られた項目はなかったが、 天井効果は 8 項目で見られた。具体的には質問項 目として「相手とコミュニケーションをとりたい」 「相 手と楽しい時間を過ごしたい」「相手と仲が良い」「相 手と今の関係を維持したい」 「親孝行をして欲しい・親 孝行をしたい」「 (親としての・子供としての)役割を 果たしたい」 「相手に喜んでもらいたい」「 (子供とな ら・親となら)遠慮せずにいられる」が挙げられる。 この 8 項目の内容を考慮した結果、本研究では回 答の平均値が高い質問項目を含めて動機を抽出 するよりも、その裏に隠れた動機に着目する方が 研究の意義があるとし、先の 8 項目を除外して研 究を進める。 次に、親子共有消費を行う際の動機を解明する ために、残りの 22 項目について探索的因子分析 を行った。分析には最尤法、回転はプロマックス 回転を採用した。因子数は、カイザー基準に基づ いて固有値が 1 以上である 4 因子を抽出した。回 転後の最終的な因子パターンと因子間相関を以 下に示す。なお、回転前の 4 因子での全分散を説 明する割合は 60.037%であった。 (図 15) ■表―――14 ■表―――15 因子分析の結果(最尤法、プロマックス回転) ■表―――16 因子分析結果(最尤法、プロマックス回転) 第一因子は、 「相手に認めて欲しい」 「相手の機嫌を取 りたい」 「自分が贅沢をしたい」 「子供に尊敬されたい・ 親を尊敬している」 「相手に贅沢をさせたい」 「相手に お金を払ってもらいたい」 「自分がお金を払ってあげた い」という項目の負荷量が高く、親と子の上下関 係が表れる項目が多いため、 「垂直型親子因子」と 命名した。第二因子は、 「相手と思い出を作りたい」 「相手と一緒にいたい」 「相手と今より仲良くなりたい」 という 3 つの項目が高い負荷量のため、 「思い出因 子」と命名した。第三因子は、 「近況報告をしたい」 「相手に相談したいことがある」という項目が高い 負荷量のため、 「相談報告因子」と命名した。第四 因子は、 「自分の知らない物や場所を知りたい」 「相手の知らない物や場所を教えてあげたい」と いう項目が高い負荷量のため、 「情報共有因子」 と命名した。 (図 17) ■表―――17 性が高いとした。 「垂直型親子因子」のクロンバ ックのα係数が 0.751、 「思い出因子」が 0.708、 「相談報告因子」が 0.753、 「情報共有因子」が 0.733 となった。ここで、第二因子である「思い 出因子」においては、項目を削除するとα係数が 0.749 となり、0.708 より高くなるため、 「今より 仲良くなりたい」の項目を削除して研究を進めて いく。よって、第二因子のα係数は 0.749 とし、 全ての尺度において十分な数値が得られたため、 尺度の内的整合性が高いと判断した。 (図 18)以 上の分析結果より、計 4 つの因子が抽出され、 各々の信頼性も高いことが検証された。よって、 「仮説 1:親子共有消費を行う動機には、いくつ かのタイプがある。 」は支持された。 仮説1 親子共有消費を行う動機に は、いくつかのタイプがある ■表―――18 支持 各因子の尺度の信頼性分析 ・垂直型親子因子 ・思い出因子 因子分析結果(最尤法、プロマックス回転) ・相談報告因子 ・情報共有因子 続けて、抽出された 4 つの因子に対して、それ ぞれ尺度の信頼性分析を行う。 ここでは、クロンバックのα係数を求める方法で 分析を行い、基準としては 0.7 以上であれば整合 ⑶親子共有消費の分類における信頼性分析 プレアンケートを基に我々は親子共有消費を「食 事共有消費」と「娯楽共有消費」に分けられると した。それについてプレアンケートを基に質問項 目を作成し、本アンケートの結果を用いて 2 つの 共有消費の信頼性分析を行う。ここでもクロンバ ックのα係数を求める方法で分析を行い、基準と しては 0.7 以上であれば整合性が高いとした。 「食事共有消費」のクロンバックのα係数が 0.710、 「娯楽共有消費」が 0.821 と全ての尺度に おいて十分な数値が得られたため、尺度の内的整 合性が高いと判断した。 (図 19)以上の分析結果 より、親子共有消費は食事共有消費と娯楽共有消 費に分けられ、各々の信頼性も高いことが検証さ れた。 ■表―――19 各因子の尺度の信頼性分析 ・食事共有消費 ・娯楽共有消費 ⑷仮説モデルの検証 因子分析と信頼性分析から親子共有消費に関 する動機の抽出に成功した。次に仮説モデルの検 証を行う。 「垂直型親子因子」 、 「思い出因子」 、 「相談報告因 子」 、 「情報共有因子」、 「食事共有消費」 、 「娯楽共 ■表―――20 仮説モデル 有消費」を規定する観測変数を図 のように指定 し、モデルの妥当性を検証した。 (表 20) その結果、共分散構造分析におけるパス係数の 推定にはパス係数の推定には最尤法が用いられ たが、解自体が不適解となった。 モデルの適合度に関してみてみると、GFI が 0.833、AGFI が 0.787、RMSEA が 0.91 とモデルと データの当てはまりが低いと考えられる。そこで 我々は検証モデルの修正を行った。推定値より有 意でなかった「認めてほしい因子」から「食事共 有消費」 、 「相談報告因子」から「娯楽共有消費」 へのパスを除外した。また消費を行う動機として、 思い出を作りたいという気持ちと、知らないもの を知りたい・教えたいという気持ちに相関関係が 想定されるので、 「思い出因子」と「情報共有因 子」との間に相関を仮定した。加えて修正指標を もとに「相談報告因子」と「相談報告因子」との 間にも相関も仮定した。最後に質問項目の内容か ら誤差変数の共分散を設定した。我々は親子共有 消費において、親子での財の共有を定義している ため、問 5-23「自分が贅沢をしたい」と問 5- 24「子供・親に贅沢させたい」という内容からそ れぞれの潜在変数に相関があると想定できる。同 様に質問項目の内容と修正指標をもとに、問 5- 23 と問 5-21、問 5-18 と問 5-17、問 5-2 と 問 5-8 の潜在変数間に相関を仮定した。質問項 目の内容に関しては補録のアンケートを参照さ れたい。なお、修正前と修正後で検証モデルの潜 在変数と観測変数に関して変更点はない。 以上の修正をふまえて、再度モデルの検証を行っ た結果、共分散構造分析におけるパス係数の推定 法には最尤法が用いられ、反復 37 回において最 適化計算は正常に終了した。 (表 21) ■表―――21 修正後モデル モデルの全体的な評価に関しては、χ2 検定量が 2906.710、χ2 検定の自由度(DF)が 1239 とな り、χ/DF が 2.346 と 5.00 より低い値を得るこ とができた。またモデルの説明力を示す適合度指 標(GFI)は 0.860、モデルの説明力と安全性を 示す自由度調整適合度指標(AGFI)は 0.817 とな り、一般的に望ましいとされる 0.9 以上に届かな いながらも近似する結果を得た。さらに、0.05 未満の場合モデルの当てはまりが良いとされる 平均二乗平方根は(RMSEA)は 0.028 となったこ とから、モデルとデータの適合度は高いと解釈で きる。 以上の値を修正前モデルの適合値と比較する と、 修正前の GFI、AGFI 値がそれぞれ 0.833、 0.787 だったのに対し、 修正後の GFI、AGFI 値は 0.860、 0.817 となり、RMSEA 値も 00.91 から 0.028 へと 適合度の比較的高い数値になった。つまり、修正 後のモデルの方が、モデルとデータが適合した、 良いモデルと言える。 ■表―――22 部分的な評価に関しては、 「思い出因子」から 「食事共有消費」 、 「娯楽共有消費」へのパスが有 意水準 0.1%で支持された。また「情報共有因子」 から「食事共有因子」 、 「娯楽共有消費」へのパス、 「垂直型親子因子」から「娯楽共有消費因子」へ のパスは有意水準1%で支持された。残りの「相 談報告因子」から「食事共有消費」へのパスも 5% 水準で支持された。 パス係数は「思い出因子」、 「相談報告因子」と いう動機から「食事共有消費」は正の値をとるの に対して、 「情報共有因子」は負の値をとる。ま た「思い出因子」という動機から「娯楽共有消費」 への係数は正の値をとるのに対して、 「情報共有 因子」 、 「垂直型親子因子」へのパス係数は負の値 をとる。以上より、動機から「食事共有消費」へ 正の影響が一部見られ、動機から「娯楽共有消費」 へも正の影響が一部見られたと言える。 よって仮説2の「動機は親子での食事共有消費 に正の影響を与える」 、仮説 3 の「動機は親子で の娯楽共有消費に正の影響を与える」という仮説 は一部支持された。 次にこのモデルを検証モデルとし、共分散構造 分析の多母集団同時分析を用いて分析を行う。母 集団ごとのモデルの分析結果を示し、それぞれの セグメントごとの、親子共有消費における動機か ら「食事共有消費」、 「娯楽共有消費」への影響の 違いを見ていく。 親子共有消費における、親の動機から「食事共 有消費」 、 「娯楽共有消費」への影響は表のとおり である。 (表 23)パスは「思い出因子」から「食 事共有消費」 ・ 「娯楽共有消費」が 0.1%水準で有 ■表―――23 「親」セグメントの分析結果 ■表―――24 「子供」セグメントの分析結果 意であり、パス係数は 1.55、1.25 と高い値をと っている。また「情報共有因子」から「食事共有 消費」 、 「情報共有因子」から「娯楽共有因子」は 1%水準で有意であった。パス係数は-0.96、-0.58 と負の値をとっていることが分かる。 「相談報告 因子」から「食事共有消費」 、 「垂直型親子因子」 から「娯楽共有因子」のパスは有意ではなかった。 「思い出因子」と「情報共有因子」との間の共分 散は 0.1%水準で有意であり相関係数は 0.81 と高 い値が見られた。 「相談報告因子」と「情報共有 因子」との分散は有意にならなかった。 ■表―――25 「娘」セグメントの分析結果 親子共有消費における子供の動機から「食事共 有消費」 、 「娯楽共有消費」への影響は表のとおり である。 (表 24)パスは「思い出因子」から「食 事共有消費」 、 「娯楽共有消費」が有意水準 0.1% で支持され、パス係数は 1.29、1.09 と高い値だ ったが、親と比較するとやや低いことが分かる。 そのほかの「相談報告因子」から「食事共有消費」、 「情報共有因子」から「食事共有消費」 、 「情報共 有因子」から「娯楽共有消費」 、 「垂直型親子因子」 から「娯楽共有消費」へのパスは有意ではなかっ た。また「相談報告因子」と「情報共有因子」と の共分散は 0.1%水準で有意であり、相関係数は 0.136 とほぼ相関が見られなかった。 「思い出因 子」と「情報共有因子」との共分散は 1%水準で 有意であり、相関係数は 0.800 と高い値をとった。 ■表―――26 「息子」セグメントの分析結果 親子共有消費における娘の動機から「食事共有 消費」 、 「娯楽共有消費」への影響は表のとおりで ある。 (表 25)パスは「思い出因子」から「食事 共有消費」 、 「娯楽共有消費」が 1%水準で有意で あり、パス係数は 1.18、1.56 と「思い出因子」 から「娯楽共有消費」への値の方が高かった。そ のほかの「相談報告因子」から「食事共有消費」、 「情報共有因子」から「娯楽共有消費」 、 「垂直型 親子因子」から「娯楽共有消費」へのパスは有意 ではなかった。また「情報共有因子」と「思い出 因子」との間での共分散は 0.1%水準で有意であ り相関係数は 0.843 と高い値をとった。 「情報共 有因子」と「相談報告因子」との共分散は有意で はなかった。 親子共有消費における息子の動機から「食事共 有消費」 、 「娯楽共有消費」への影響は表のとおり である。 (表 26)パスは「思い出因子」から「娯 楽共有消費」が 1%水準で有意であり、パス係数 は 0.66 と比較的高い値をとった。そのほかの「思 い出因子」 、 「相談報告因子」、 「情報共有因子」か ら「食事共有消費」へのパスと、 「情報共有因子」、 ■表―――27 「同居親子」セグメントの分析結果 「垂直型親子因子」から「娯楽共有消費」へのパ スは有意ではなかった。また「情報共有因子」と 「思い出因子」との共分散は 0.1%で有意であり 相関係数は 0.888 と高い値をとった。 「情報共有 因子」と「相談報告因子」との共分散は有意でな かった。 親子共有消費における同居している親子の動機 から「食事共有消費」、 「娯楽共有消費」への影響 は表のとおりである(表 27) 。パスは「思い出因 子」から「食事共有消費」 、 「娯楽共有消費」が 0.1%水準で有意でありパス係数は 1.195、1.467 と「思い出因子」から「娯楽共有消費」が高い値 をとった。 「垂直型親子因子」から「娯楽共有消 費」へのパスは 1%水準で有意になりパス係数は ■表―――28 「別居親子」セグメントの分析結果 -1.96 と負の値をとった。そのほか「相談報告因 子」と「情報共有因子」からの「食事共有消費」 へのパスと、 「情報共有因子」から「娯楽共有消 費」へのパスは有意ではなかった。 また「情報共有因子」と「思い出因子」との共 分散は 0.1%水準で有意になり相関係数は 0.857 と高い値をとった。 「情報共有因子」と「相談報 告因子」との共分散は有意でなかった。 親子共有消費における別居している親子の、動 機から「食事共有消費」、 「娯楽共有消費」への影 響は表のとおりである(表 28) 。パスは「思い出 因子」から「食事共有消費」、 「娯楽共有消費」が 0.1%水準で有意になり、パス係数は 1.396、 1.030 と高い値をとった。また「相談報告因子」 から「食事共有消費」へのパスは 1%水準で有意 であり、パス係数は 0.225 と低い値をとった。 「情 報共有因子」から「食事共有消費」、 「娯楽共有消費」 へのパスは 5%水準で有意で、パス係数は-0.670、 -0.308 と負の値をとった。 「垂直型親子因子」から 「娯楽共有消費」へのパスは有意ではなかった。 また「情報共有因子」と「思い出因子」との共分 散は 0.1%水準で有意であり、相関係数は 0.732 と高い値をとった。さらに「情報共有因子」と「思 い出因子」との共分散は 5%水準で有意であり、相 関係数は 0.136 とほぼ相関関係は見られなかっ た。 以上から、親、子供、娘、息子、同居している 親子、別居している親子の各セグメントで、動機 から「食事共有消費」、 「娯楽共有消費」への影響 に差があったことが分かる。よって、仮説 4 の「セ グメントごと(親、子供、娘、息子、同居親子、 別居親子)に動機から食事共有への影響の仕方に 違いがある」 、仮説 5 の「セグメントごと(親、 子供、娘、息子、同居親子、別居親子)に動機か ら娯楽共有への影響の仕方に違いがある」は支持 された。 ■表―――29 「親」の動機と消費の因果関係略図 ■表―――33 「同居親子」の動機と消費の因果関係略図 ■表―――30 「子供」の動機と消費の因果関係略図 ■表―――31 ■表―――34 「娘」の動機と消費の因果関係略図 「別居親子」の動機と消費の因果関係略図 ■表―――32 「息子」の動機と消費の因果関係略図 ⑸検証結果考察 多母集団同時分析の結果を分かりやすく見る ため、先ほどの図から潜在変数間の因果関係と相 関関係のみを記した。 まず全てのセグメントで共通して見られるの が、 「思い出因子」から「娯楽共有消費」にパスがか かっていることである。パス係数も息子の 0.66 を除くと、どれも高い値をとっていることが分か る。このことから、現在の親子共有消費の動機は 親子で思い出を作りたいという動機から起こっ ていると分かる。しかしこれはあくまで分析の段 階で述べたように、天井効果によって回答結果に 偏りが出てしまった「親と仲がいいから親子共有 消費を行う」といった、親子間での仲の良さを示 唆するような質問項目を削除した結果である。 逆に「垂直型親子因子」から「食事共有消費」 、 「娯楽共有消費」へは同居している親子以外で因 果関係は見られない。「垂直型親子因子」は、構 成している質問項目から分かるように、尊敬や認 めるなど従来の垂直の親子関係を示唆するよう 内容である。そういった動機と各消費との因果関 係がみられないこと、また「思い出因子」と各消 費への因果関係が強いことから、我々が本研究で 扱った親子共有消費とは、友達感覚で付き合える ような水平関係の親子間で行われるものだと考 察した。 次にセグメントごとにその特徴を見ていく。 「親」の親子共有消費における動機と消費の因果 関係は、 「思い出因子」から「食事共有消費」 、 「娯 楽共有消費」に強いパスがかかっていることが分 かる(表 29) 。特に「食事共有消費」にたいする 1.55 という値は、全てのセグメントのなかでも 一番高い値であることから、親は子供と思い出を 作るために子供と外食などの食事共有をしたい と考えていることが考察される。また、「情報共 有因子」から「食事共有消費」、「娯楽共有消費」 へのパスが負の値をとっていることが分かる。こ れは我々が検証前に想定した、親子間(特に母娘) で食事や娯楽での情報を共有するのではないか というものに反する。大学生の親子共有消費にお ける親側の動機について慎重に考察をした結果、 年を重ね、様々な経験がある親は、子供から情報 を得ることによる食事共有消費よりも自分の経 験を重要視するのではないかという知見に至っ た。また知らないものを教えてあげたいという動 機は、子供との食事共有ではなく、夫婦間やママ 友間での消費と因果関係があるのではないかと 考えた。 「子供」の親子共有消費における動機と消費との 因果関係は、親同様に「思い出因子」から「食事 共有消費」 、 「娯楽共有消費」に強いパスがかかっ ているが、親に比べると低いことが分かる。母、 父、娘、息子、全ての親子で見たとき、子ども側 の親子共有消費の動機が親より少し低いことが 分かった。 (表 30) 「娘」の親子共有消費における動機と消費の因果 関係は、先の 2 つ同様に「思い出因子」から「食 事共有消費」 、 「娯楽共有消費」に強いパスがかか っていることが分かる。更に特筆すべきところは、 「思い出因子」から「娯楽共有消費」へのパスが 「食事共有消費」よりも強い点である。娘は親と の共有消費を行う場合、親と一緒に食事をとるよ り、どこかに出かけた方が思い出に残ると考えて いるのではないかと考察できる。 (表 31) 「息子」の親子共有消費における動機と消費との 因果関係は、すべてのセグメントの中で唯一、 「思 い出因子」から「娯楽共有消費」へのパスしか存 在しない。更にパス係数も 0.66 という値をとる ことから動機と消費の因果関係が弱いというこ とが分かる。今回アンケート調査を行った対象が 学生なので、男子学生は親との共有消費よりも友 人間での共有消費が行われているだろうと予測 した。 (表 32) 「同居親子」の親子共有消費における動機と消費 の因果関係もやはり「思い出因子」から「食事共 有消費」から「娯楽消費」へ強いパスがかかって いることが分かる。また先にも述べたように、 「垂 直親子因子」から「娯楽共有消費」へのパス係数 が負の値をとっているが、値が小さいことから因 果関係は弱いと言える。また、別居親子と比較し て「思い出因子」から「娯楽共有消費」へのパス が強いことが分かる。別居している親子に比べて、 同居している親子は時間や空間を共有しやすく、 共に食事などをする機会が多い。そのため親子で 食事をすることは比較的日常化していることが 予想される。よって親子での共有消費を行うなら ば、同居している親子は非日常的な体験ができる 娯楽共有消費を行いたいと思うのではないかと 考察した。 (表 33) 「別居親子」の親子共有消費における動機と消費 の因果関係も上記のような基本的な特徴が見ら れた。同居親子と比較してみてみると、先ほどと は逆に「思い出因子」から「食事共有消費」への パスが強いことが分かる。 (表 34)これは普段会 う機会が少ない親子は、親子共有消費を行う際、 食事やカフェに行くなどの日常的な行為を、親と 共にしたいと考えているのではないかと考察し た。 5.新規提案 本章ではこれまでの分析結果をもとに親子で の共有消費をマーケティング手段として活用す る新規提案を述べる。 我々の研究における新規提案を行うにあたり具 体的事例を必要とする。検証にあたっては具体的 なサービスを定めずに行ってきたが。新規提案に おいては共有消費に結びつきのある産業や業種 において関係性が強く表れたサービスにおいて の新規提案を行う事とする。 (1)娯楽共有に関する親子共有消費 まず親子共有消費と娯楽共有に関わる分析から 導かれた知見を以下にまとめ、マーケティング案 を述べる。 ・親子では「一緒に思い出を作りたい」という動 機が娯楽消費に強く結びついていた。 ・親子では娯楽消費から「テーマパークに行く」 という行動に強く結びついていた。 そこで私達は既存のテーマパークを運営してい る企業に対するマーケティング提案を行う。 遊園地・レジャーランド市場の現状分析 近年のレジャー施設企業の業績は、東京ディズニ ーリゾートを運営するオリエンタルランドの独 り勝ち状態となっており市場全体は飽和状態で ある。 業界動向 SEARCH.COM はレジャー施設業界の現 状について「国内のレジャー施設需要は少子高齢 化などを背景に頭打ち傾向に。さらに近年の消費 者のレジャー需要が多様化し、従来型のテーマパ ーク運営が厳しいものとなっており、多様化する 消費者のニーズをいかにとらえるか。今まで以上 に明確なコンセプトと独自性が求められている」 と分析している。 ■表――― レジャー施設の市場規模推移 ■表――― 提案 1 親子で一日を振り返る事が出来る電子 パンフレット 思い出づくり研究所が 2010 年に行った『思い 出と写真に関する調査』によると「思い出をどの ような形で残しているか?」という問いに対して、 写真(プリント)25.6%、写真(データ保存)19.8%、 アルバム・フォトブック 13.7%のという結果から、 性別・年代に関係なく、思い出を残す形体として、 写真が最も多いという傾向がわかった。 また、忘れていた過去の出来事や記憶が甦るき っかけとして最も影響力があるものは? という 問いには写真が 47.5%で最も多く、次いで音楽が 18.0%、場所・風景が 12.8%。 映像が 6.2%に留 まり、写真と比較すると約 1/7 となり、思い出 を可視化できるものとしては、写真が最も有効的 という事が分かる。 そこで、我々は親子が思い出を作るときに行く テーマパーク「デジタルフォトマップ」を提案す る。これは、テーマパーク内のマップを電子タブ レット化したものに、位置情報機能によりテーマ パーク内で撮影した写真を、撮影場所と共に残す 事が可能なものである。(図) また、これは以前 親子で訪れた時に撮影した写真を読み込む事も 可能である。このマップと共に、母娘がテーマパ ークを巡れば、懐かしい思い出ととともに会話が 弾み、さらに新しい思い出を作る事ができるので ある。そして、これは旅行が終わったあとにも親 子に楽しみを与えてくれる。それは、テーマパー ク内のマップと共に写真を見返すことにより記 憶を甦らせるきっかけを与えてくれるのである。 そして、企業側のメリットとしては親子がこのマ ップを見返したときに、最新情報や親子におすす めの情報を提供する事で再来場を促す広告とし ての機能を果たす事が可能である。 ■表――― (2)母娘の情報共有カフェ 「思い出因子」と「情報共有因子」に相関関係が あり、食事共有消費の中でも「お茶をしたい」に 強い結びつきが見られた。 そこで、我々は母親の情報共有カフェ、 「M&D(Mother&Daughter) Shear cafe」を新事業 として提案する。このカフェは、企業運営のアン テナショップ型のものであり、 「M&D Shear cafe」 では母娘で気軽にお茶を楽しみながら、企業が提 供している娘世代で流行っている商品、母世代で 流行っている商品、また、企業側の勧めている新 製品を試すこと、購買することが可能である。図 がコンセプト案の例である。 企業側のメリットとしては、母娘に対して大きな 広告効果が見込め、効果的に新商品情報を発信す ることが可能である。また、世代の異なる母娘の 情報と商品の共有を自然と発生させることもで きる。また、アンテナショップであることを生か し他店舗に先掛けて発売するなどし、売上の推移 を調査することも可能である。また、開発段階の 商品を異なる世代である母娘に試してもらい商 品に対する感想や意見を貰うことでより生活者 目線の商品開発が可能となるのである。 母娘のメリットとしては、カフェで楽しい時間を 過ごしながら、商品を試すことで情報を共有する ことが可能である。そして、日常に新しい発見を 生むことができるのである。 ③―――結論 本研究では、現状分析を通してコミュニケーシ ョンを消費に求める社会背景として、近年拡大し ている共有消費に着目し研究を進めてきた。共有 消費は他者ありきの消費であるが、共有相手がど の関係性(親子、友人、他人など)においても、 それに至るまでのプロセスは解明されていない。 そこで我々はその研究の一助として、最も関係性 が密であり、今後共に過ごす時間も長期化してい く親子に着目した。そして、親子共有消費がどの ような動機によってなされているのか、またその 動機と共有消費の関係を解明する事を本研究の 目的とした。 共有消費の動機について既存の研究が少なか ったため、プレアンケートによる動機の抽出を行 った結果、いくつかの動機を抽出することができ た。そして、本アンケート結果よりそれらの動機 と共有消費との因果関係について分析した。 分析の結果、親、子供、娘、息子、同居している 親子、別居している親子それぞれで動機と共有消 費の因果関係に差があるという知見を得た。また、 現在親子で行われている共有消費は多々あるが、 本研究では一貫して、親、子供どちらも一緒に思 い出を作りたいという動機から共有消費が行わ れている事が解明された。 親子が思い出を作るという特別な行為のために 共有消費を行うという事は、共有消費という行為 が日常行為だけではなく、非日常的なところにも 求められていることが分かった。 また本研究では 88.9%の親子がお互いに親子 共有消費をしたいと考えており、これから親子で 過ごす時間が長期化していく社会において、親子 が消費の面でお互いに関わり合う機会が多々あ る事が予測される。そういったことを考慮すると これからも親子共有消費は今後増えていく可能 性が考えられる。 ④―――今後の展望 以上のように、本研究では大学生の親子共有消 費の動機を「娘と息子」 「同居と別居」という様 に子をいくつかのパターンで分ける事で詳しく 解明した。その結果隠れた動機を解明する事がで き、大変有意義な研究であったと言える。しかし ながら、本研究では完全に親子の共有消費を解明 したとは言い難く、課題も残った。 まず、今回の大学生の親子共有消費の解明では商 品やサービスを親子で使用する時に時間と空間 を共有する事を定義として定め検証していった。 しかし同じ場所に居ることが無くても共有消費 を行う場合も十分に考えられ、この消費がどの様 な動機で行われているのかを解明する事は出来 なかった。 また、我々は本研究でプレ調査をもとに大学生 の親子共有消費における動機を抽出し、研究を進 めていった。しかし、我々がプレ調査では発見出 来なかった多くの動機が依然として存在してい るのではないかと考えられる。それらの動機を把 握することでより新しい提案をすることが出来 るだろう。 加えて今回は研究対象が大学生に限られてい たが親子関係がライフステージによって変化す る事が先行研究で指摘されており、大学生に限ら ずそれぞれのライフステージによって研究して いく必要がある。 この様に今回の研究では、多くの課題が残され た。しかし、本研究により大学生の親子共有消費 と娯楽共有と食事共有に関係性を示す事が出来 た。また、その行動が思い出を作りたいという動 機から行われているという隠れた動機を発見す る事が出来た。それらの知見を踏まえてレジャー 施設業界におけるマーケティング戦略を提案で きたことはとても有意義であったといえるだろ う。 ⑤―――謝辞 最後に本研究を行うにあたり、文章表現をして 下さった経済学部教授高松正毅様、構成指導に留 まらず研究の方向性についても助言を下さった 同准教授名和賢見様、統計分析に助言を下さった 同准教授佐藤敏久様に心から感謝の意を示した い。そして適切なアドバイスを下さった佐々木茂 研究室の OB・OG の皆様、優しく時には厳しくア ドバイスを下さった先輩方、アンケート配布に協 力してくれた後輩の皆、お互い違う大会への出場 となったものの多くの意見を交換し合う事で切 磋琢磨し合った 23 期の皆にもこの場を借りて感 謝の意を表したい。 そして何より我々の論文活動において厳しくも 温かくご指導して下さいました佐々木茂先生に 心より感謝申し上げたい。最後にこの論文を完成 させるにあたって協力して下さったすべての 方々に多大なる感謝の辞を述べたい。 ⑥―――参考文献 ・三浦展[2012]『第 4 の消費』朝日新書 ・日本マクドナルド株式会社公式ホームページ http://www.mcdonalds.co.jp/campaign/share/( 閲覧日:2013 年 10 月 29 日) ・株式会社江崎グリコ公式ホームページ http://www.ezaki-glico.com/release/news_let ter/20121217/index.html(閲覧日:2013 年 10 月 29 日) ・公益財団法人 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