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フランスの直面する財政問題

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フランスの直面する財政問題
みずほインサイト
米 州
欧
2012
2012
年年
106月月185 日
フランスの直面する財政問題
市場調査部シニアエコノミスト
問われるフランスの「勝ち組」としての地位
03-3591-1265
中村正嗣
[email protected]
○ オランド新政権の2013年予算案は、EUの定めた財政赤字削減目標を達成するために富裕層・大企
業への増税、歳出カットを盛り込み、「戦後最大規模」と言われる緊縮型になった。
○ 景気見通しの甘さが指摘されることに加えて、増税策の一部に対して反発があがっている。企業の
負担増大によりフランスの競争力が一段と悪化しかねないことも懸念されている。
○ フランスが「勝ち組」として高い信用力を維持するため、オランド政権には財政政策の適切な舵取
りと共に、欧州債務問題への政策対応の実現に向けたイニシアチブを発揮することが求められる。
1.「戦後最大規模」の緊縮措置を盛り込んだオランド新政権の 2013 年予算案
今年 5 月の大統領選挙により誕生したオランド新大統領は、当選後初のEU首脳会議(6/28・29)に
おいて総額 1,200 億ユーロ(EUの名目GDP比 1%相当)の経済対策の合意を主導する等、指導力を
発揮してきた。国内では 7 月に 2012 年修正予算案を発表し徐々に独自色を打ち出してきた。今回、オ
ランド新政権下で初の予算案(9/28)が発表され、新政権の政策方針が示された。
予算案にはオランド大統領が重要課題として掲げてきた雇用対策等が盛り込まれたが、予算案の特
徴はむしろ財政赤字削減にある。
「2013 年の財政赤字(名目GDP比)を 3%に削減」というEUの定め
た目標を遵守しなければならないためだ。2013 年予算案には 300 億ユーロ相当の赤字削減策が盛り込
まれ、これは戦後最大規模の緊縮措置と言われ
図表 1
ている。また、向こう 5 年間の中期予算計画で
は、オランド大統領が公約で掲げていた通り、
フランスの中期予算計画
前年比、%
名目GDP比、%
政府見通し
5.0
2017 年までに財政赤字をほぼゼロとする見通
1.0
4.0
0.0
しが示された(図表 1)。とは言え、景気見通し
3.0
▲ 1.0
が甘過ぎるとの批判の声があがっており、既に
2.0
▲ 2.0
財政目標の実現可能性が疑問視されている。
1.0
▲ 3.0
0.0
▲ 4.0
▲ 1.0
▲ 5.0
▲ 2.0
▲ 6.0
(1)緊縮措置の内容
フランスは 2013 年の財政赤字(名目GDP
▲ 3.0
比)を 3.0%と 2012 年(同 4.5%の見込み)から
▲ 4.0
99
1.5%Pt 圧縮するため、300 億ユーロ規模の赤
03
(注)2012年以降はフランス政府見通し
(資料)AMECO、フランス経済財務省
1
▲ 7.0
財政収支(右)
実質GDP成長率
▲ 8.0
07
11
15
字削減策を実施する。フランス景気の低迷が続く中、大規模な緊縮措置が打ち出された背景には南欧
の国債不安がフランスに波及することへの強い危機意識があり、それはエロー首相の発言からもうか
がわれる。予算案発表に際してエロー首相は、目標(財政赤字の同 3%への削減)の達成ができなけれ
ば、スペインやイタリアのように国債利回りの急上昇に見舞われるとの警戒感を表明した。
300 億ユーロの緊縮措置の内、44 億ユーロは 7 月に発表された 2012 年修正予算案による効果とされ
ている。残る 256 億ユーロの内訳は、富裕層・大企業を中心とした増税による 156 億ユーロ、歳出カ
ットによる 100 億ユーロとなっている(図表 2)。それらの多くは大統領選挙で掲げられた公約(「60 の
約束」)に沿った政策である。今回の予算案について、政府は富裕層や大企業を中心とした負担増加で
あり、中小企業には大きな影響が及ばないことや増税となる世帯が 1 割程度に留まることを説明した。
a.家計・企業向け増税
家計向け増税措置については、
「100 万ユーロ超の高額所得層に対する 75%の所得税」などが話題と
なったが、対象となる層が極めて限られていることから歳入増加への寄与は小さい。金額が大きい措
置は利子・配当所得、キャピタルゲインの税率引き上げや富裕税の見直し(実質増税)である。
企業向けをみると、緊縮措置の規模としては優遇税制や税控除の廃止・縮小が大きく、政府はそう
した優遇税制の利用度合いの大きい大企業を中心とした負担増加になると見込んでいる。
上記以外では、住宅政策関連の税制変
図表 2
フランスの財政赤字削減策(2013 年予算案)
更や環境税による歳入増加が見込まれ
ている。住宅政策に関しては、住宅供給
の増加や投資促進のためのインセンテ
単位 :10億ユーロ
歳入措置合計
家計向け増税策
(「家計向け課税の累進性の改善」)
利子・配当所 得の税率引き上 げ
ィブ税制などの支援策が含まれており、
ネットベースでは財政への寄与はわず
キャピタルゲ イン税の引き上 げ
富裕税見直し
かに留まる。
高額所得層(100万ユーロ超)への一時 的な税率引き上 げ(→75%)
15万ユーロ超 の所得に対する 新税の導入(税率45%)
低所得層支援 のための税率見 直し
その他歳入増 加措置
b.歳出カット
歳出カットの内訳をみると、各省庁の
歳費削減(公務員削減・賃上げ凍結等)の
企業向け税制変更
(「投資促進のための法人税率のリバランス」)
支払い金利の 税控除縮小
ほか、軍事関連予算の縮小やプロジェク
株式売却によ る譲渡益への税 率引き上げ
繰越欠損金の 税控除縮小
ト投資の見直しなどが盛り込まれた。年
大企業の法人 税率引き上げ
保険会社への 課税率引き上げ
金支払い・利払い費を除く歳出を 2012
年比横ばいとし、インフレの影響を除い
その他
住宅市場関連 税制(投 資促進による減 税と歳入措置)
た実質ベースでは 2012 年比▲1.4%とす
る計画である。
環境関連税
その他政策(税逃れ対 策による徴税強 化等)
歳出カット合計
予算案には新政権が重要課題として
掲げている雇用対策も打ち出された。特
4.7
2.0
1.0
1.0
0.2
0.3
-0.3
0.5
8.8
4.0
2.0
1.0
1.0
0.8
2.1
0.3
0.2
1.6
10.0
軍事関連予算圧縮
2.8
2.2
公共投資削減(1.2bn)、ほか
5.0
各省庁の経常歳出カット(賃上げ凍結等)
(2)予算案に盛り込まれた雇用対策
15.6
緊縮措置累計
(資 料)フランス経済財務省
2
25.6
に若年層の雇用問題に焦点を当て、教職員や治安関連(警察官等)の採用増加により 2013 年に公的部門
で約 1 万人の新規雇用を創出する。しかし、同時に歳出カットの一環として各省庁の人員削減(新規採
用の抑制により実施)も行われる。このため、公的部門の雇用は約 5 千人の増加が見込まれているに過
ぎない。また、10 万人の雇用創出に向けて求職支援を行うジョブセンターの積極活用といった政策が
盛り込まれたが、短期的な効果は未知数である。
2.2013 年予算案に対して噴出する批判
(1)楽観的過ぎる景気見通し
今回の予算案はフランスの景気低迷が続く中、戦後最大規模と言われる緊縮型となったために大き
な論議を巻き起こしている。景気見通しが甘いために財政目標を達成できない恐れがあり、例えば、
Les Echos 紙は景気と財政が共に悪化する「スパイラルの恐怖」と評している。
政府は大規模な緊縮措置を実施することで景気循環要因を除いた構造的財政収支(名目GDP比)が
2012 年(見込み値)の▲3.6%から 2013 年には▲1.6%に改善すると見込んでいる(図表 3)。つまり、差
額であるGDP比 2%相当(約 400 億ユーロ規模)の景気下押し圧力が生じ、2011 年、12 年よりも景気
への影響度は大きいことになる。にもかかわらず、成長率見通しの修正幅が小さく、2013 年の成長率
は+0.8%(7 月の 2012 年修正予算発表時点では+1.2%)と 2012 年(政府見込みでは+0.3%)から回復
するとの見通しが示された。個人消費(今年と同程度の伸び)や設備投資(持ち直し)等内需の回復や外
需による景気押し上げが想定されている。一方、IMF世界経済見通しによれば(2012 年 10 月)によ
れば、フランスの成長率は 2012 年が+0.1%、2013 年が+0.4%との予測となっているが、ここには
今回の予算案が十分に織り込まれていないようである。
足元、フランス景気の下振れ懸念が高まっており、2013 年に向けた景気回復を展望しづらい。4~6
月期まで 3 四半期連続でほぼゼロ成長に留まっていることに加えて、企業マインドの急激な冷え込み
がみられ、フランスは景気後退に転じている可能性が高い。9 月の製造業PMIが 42.7(前月比▲
図表 3
構造的財政収支
(GDP比)
政府予測
0.0
図表 4
(%Pt)
2.5
66
54
1.5
50
前年差(右)
1.0
46
▲ 4.0
悪
化
42
→
0.5
▲ 5.0
改
善
業
況
58
▲ 1.0
▲ 3.0
(Pt)
62
2.0
▲ 2.0
フランスの企業業況(PMI)
←
(%)
1.0
フランスの構造的財政収支見通し
38
0.0
▲ 6.0
2011
2012
2013
2014
2015
2016
34
2017
08/9
(注)構造的財政収支は景気循環要因を控除した財政収支。
フランス政府試算。
(資料)フランス経済財務省
09/9
製造業PMI
(資料)Markit
3
10/9
11/9
サービス業
12/9
3.3Pt)、同サービス業PMIが 45.0(前月比▲4.2Pt)と大きく悪化し、フランスがマイナス成長に陥
っていた 2009 年初以来の水準となった(前頁図表 4)。景気低迷の理由として、まず、フランスの景気
けん引役である個人消費の低迷が続いていることを挙げられる。2011 年末で新車購入支援策が打ち切
りとなったことで自動車販売に反動減が生じていることも大きく影響しているが、緊縮措置や雇用情
勢の悪化が個人消費への下押し圧力を高めている。次に、主要輸出先である近隣諸国の景気低迷が続
いていることに加えて、中国など新興国景気も減速していることがフランスの輸出にも影響を及ぼし
つつある。さらに、欧州債務危機の深刻化によって企業・家計行動が一段と慎重化し、消費・投資の
冷え込みにつながっているとみられる。これらを踏まえると、予算案の織り込む内需回復や外需の力
強い伸びが実現する蓋然性には疑問を持たざるを得ない。
(2)フランス企業の競争力の更なる悪化懸念
緊縮措置による短期的な景気への影響のみならず、今回の予算案では企業の負担増加によって競争
力が一段と悪化し、中長期的な成長にも悪影響を及ぼしかねないとの批判も聞かれる。まず、キャピ
タルゲインや企業の株式譲渡益への大幅な増税措置が槍玉に挙がっている。こうした金融収益への課
税強化は、中小企業の経営者や起業家の所得を圧迫し、それが中小企業の経営にも悪影響を及ぼすこ
とで雇用情勢の更なる悪化を引き起こすとの懸念が浮上している。加えて、株式譲渡益等への大幅な
増税によりプライベート・エクイティ・ファンド等の資金がフランス国外に流出し、ベンチャー企業
の資金繰りに悪影響を及ぼすリスクが指摘されている。また、そうしたベンチャー・ファイナンスを
取り巻く環境の悪化が起業意欲の後退につながり、フランスの中長期的な成長力に悪影響を及ぼすこ
とを警戒する向きもある。
もう一つの批判が、企業の競争力強化のための労働市場改革に手がつけられていないことである。
オランド政権は企業の競争力強化につながる雇用制度改革を模索している。しかし、雇用条件の悪化
を警戒する労働組合の強い反発があるために大きな進展は見られず、今回の予算案にも具体策を盛り
図表 5
ユーロ圏各国製造業の単位労働コスト
図表 6
2000年=100
190
2000年=100
150
フランス
ドイツ
イタリア
スペイン
北部諸国
140
130
170
150
120
130
ユーロ圏各国の実質輸出
フランス
ドイツ
イタリア
スペイン
北部諸国
ギリシャ
110
110
100
90
90
80
70
98
00
02
04
06
08
10
12
98
(注)製造業単位労働コスト=雇用者報酬/実質総付加価値。北部諸国はオラ
ンダ、ベルギー、オーストリア、フィンランド。2012年は1~6月期実績。
(資料)Eurostat
00
02
04
06
08
(注)北部諸国はオランダ、ベルギー、オーストリア、フィンランド。
2012年は1~6月期実績を年換算。
(資料)Eurostat
4
10
12
込めなかった。年末までに提示されると言われている改革案の行方が注目されている。
フランスの競争力強化への取り組みは中期的な観点で極めて重要だ。ユーロ導入以降、製造業の競
争力がドイツと比較して大きく劣後するようになったためである。製造業の単位労働コスト(ULC)
をみると、2000 年と比較してドイツでは約 3%低下した一方、フランスでは約 10%上昇と、両国間の
格差は拡大した(前頁図表 5)。近年の推移をみると、スペインのULC低下が目立つ一方、フランス
では上昇傾向が続いている。コスト競争力の差が輸出動向にも影響しているとみられ、2000 年時点と
比較した足元までの各国実質輸出は、ドイツが約 2 倍に拡大した一方、フランスは約 1.2 倍に留まっ
ている(前頁図表 6)。これはユーロ圏の中でギリシャ、イタリアに次ぐ低さである。
ドイツとフランスでは輸出先や輸出品目に違いがあるとは言え、フランス製造業の競争力低下が両
国の輸出パフォーマンスの格差につながった一因であることは間違いないだろう。例えば、今夏、フ
ランス大手自動車メーカーが国内工場の閉鎖を発表し、同業他社も国内の事業縮小を検討していると
伝えられている。これらは欧州の自動車販売の不振という事業環境の悪化だけではなく、フランス国
内の高コスト体質による採算性の低さも原因と言われている。フランス企業の競争力強化を促す政策
がなければ、産業空洞化に拍車がかかり、中長期的な成長率低下につながる恐れがある。
3.フランスの「勝ち組」維持のために求められる政策対応
国債市場を見ると、今のところ、フランスは「勝ち組」と見なされている。つまり、国債利回りが
一時、7%に達したイタリア・スペインとは異なり、フランス国債利回りは歴史的な低水準で推移して
おり、フランス財政は利払い費低下という恩恵を享受している(図表 7)。
フランスが「勝ち組」と見なされている背景には、第一に、スペインやギリシャを巡る問題の長期
化を受けて、国債市場において低格付国から高格付国への「質への逃避」が加速していることがある。
辛うじて投資適格(BBB-、Baa3以上)を維持しているイタリア、スペインと異なり、フランス
は主要格付機関から高い格付を得ているため、リスク回避姿勢を強める投資家にとっては安全な投資
図表 7
ユーロ圏主要国の 10 年物国債利回り
図表 8
2012年10月17日時点
ドイツ
フランス
イタリア
スペイン
(%)
8.0
7.0
ユーロ圏各国の格付
M o o dy' s
S& P
フィッ チ
Aaa *
AAA
AAA
Aaa
AAA *
AAA
オランダ
Aaa *
AAA *
AAA
ルクセンブルク
Aaa *
AAA *
AAA
ドイツ
フィンランド
6.0
5.0
4.0
オーストリア
Aaa *
AA+ *
AAA
3.0
フランス
Aaa *
AA+ *
AAA *
2.0
ベルギー
Aa3 *
AA *
AA *
1.0
イタリア
Baa2 *
BBB+ *
A- *
スペイン
Baa3 *
BBB- *
BBB *
0.0
11/3
11/6
11/9
11/12
12/3
12/6
(注)すべて外貨建長期債格付。*印付与はネガティブウォッチ
(資料)Bloomberg
12/9
(資料)Bloomberg
5
先と言える(前頁図表 8)。第二に、オランド政権が当初の公約通り、「2013 年の財政赤字(名目GDP
比)を 3%に削減」という目標を遵守するための緊縮措置を打ち出したことへの安心感があると考えら
れる。また、大統領選においてサルコジ・オランド両陣営とも、一貫して 2013 年に財政赤字(名目G
DP比)を 3%以内に抑えるという主張であったことから、政権交代があったものの、大幅な緊縮措置
を盛り込んだ 2013 年予算案は国債投資家にとって「織り込み済み」だったのかもしれない。
では、今後もフランスは「勝ち組」であり続けられるのだろうか、
「勝ち組」としての地位は安定的
と言えるのだろうか。それは、
「質への逃避」と「フランス財政への信認」という二つの観点からどの
ような対応・選択肢が採られるかに大きく依存すると考えられる。
最初に、それぞれの視点で考えてみたい。まず、
「質への逃避」が生じていることに対しては、フラ
ンス自身の政策対応よりも、ユーロ圏全体としての危機対応策が重要となろう。特に、市場の注目を
集めているスペイン支援問題に関して、ユーロ圏が過度に厳しい条件を課せば、スペイン国内で反発
や社会不安が広がり、市場参加者は支援プログラムが機能しないとの不信感を抱くかもしれない。ス
ペイン問題が混迷を深め、イタリア等、南欧国債相場の急落につながれば、
「質への逃避」が加速する
かもしれないが、景気・財政見通しが甘いフランスが「次の問題国」として投機的な動きに狙い打ち
される可能性もある。他方、スペイン支援が進展すれば、ユーロ圏の政策対応への信認が回復し、同
時にECBによる国債購入策も発動される公算であることから、投機的な動きは抑制されると見込ま
れる。その際には「質への逃避」の巻き戻しによりフランス国債利回りは上昇するかもしれないが、
金融不安の後退により景気回復を期待できることから、大きな影響が及ぶことはないだろう。
また、
「財政健全化路線に対する市場の信認を維持する」という点に着目すれば、景気よりも財政再
建路線を優先する必要があろう。この点では、予算案の一部政策について見直し議論が出ていること
が懸念要因と言える。キャピタルゲイン等への課税強化に対して中小企業の経営者層から強い反発が
あがったことを受けて、モスコビシ経済財務相は増税案の一部を見直す可能性を示唆した(10/4)。思
図表 9
背景
欧州債務問題の深刻化
による「質への逃避」
フランス国債の信認を巡る想定フローチャート
課題
シナリオ
① ユーロ圏全体としての
危機対応(スペインへの
速やかな支援)
A ①、②共に遂行
①は遂行、
B ②は各国協調の下、
短期目標を緩和
フランス国債
利回りの歴史的
な低水準
(=高い信用力
①は遂行、
C ②は後退(ドイツ等の
同意が無い場合)
D
フランス政府の財政再建
の取り組みへの信認
② フランス政府が財政
再建路線を堅持
①は遅延(状況悪化)、
②は遂行
E ①、②共に失敗
(注)みずほ総合研究所作成
6
予想される帰結__
金
融
不
安
の
後
退
払金
拭融
さ不
れ安
ずが
当面は「 勝ち組」 として安泰
(但し、 景気下振れリ スクが
残存)
「 勝ち組」 として安泰
不安定な「勝ち組」
(金融不安の再燃リスク・フラ
ンスへの波及懸念)
不安定な「勝ち組」
(景気と財政のスパイラル的な
悪化懸念)
「 勝ち組」 から転落
(国債利回り急騰、 格下げ)
い起こされるのは 2011 年夏場のイタリア国債利回りの急騰である。この背景には、ベルルスコーニ政
権(当時)の政局不安と経済財政運営方針の迷走があった。
次に、現実的には上述した二つが複合的に影響するため、両者を一体的に捉え、今後のシナリオを
考えてみたい(前頁図表 9 に示した 5 つのシナリオ)。まず、
「質への逃避」を引き起こしているスペイ
ン支援問題とフランスの財政再建路線の二つとも不首尾となればフランスの「勝ち組」転落のリスク
が高まることは言うまでもない(シナリオE)。また、どちらか一方のみでもフランスの「勝ち組」維
持のためには十分とは言えない。例えば、フランスが追加措置を打ち出して市場の信認維持に注力し
ても、スペイン問題が混迷を深めれば、景気下振れや社会不安増大のリスクを抱えるため、
「勝ち組」
としての地位は不安定化するだろう(シナリオD)。或いは、スペイン問題への効果的な政策対応が進
展しても、ユーロ圏各国との協調を欠く形でフランスが財政再建路線を緩めれば、域内の意見対立が
注目されると共にフランス財政への信認問題が浮上する恐れがある。金融不安再燃の火種を抱え、フ
ランスに財政懸念が波及するリスクを軽視できない(シナリオC)。
フランスは「勝ち組」維持のためにシナリオAを目指しているように思われる。スペイン支援に向
けた準備は水面下で整いつつあるとの報道が聞かれ、フランスも財政再建路線を堅持することで市場
の信認維持に努めている。但し、金融不安が後退してもフランスの景気下振れリスクが残存すること
が先行きの懸念材料である。そこで、最も望ましいと考えられるのがシナリオBである。図表 1・3 で
示した通り、オランド政権の予算計画では 2013 年の赤字削減規模が突出している。中期的な財政再建
路線を堅持しつつ、短期的な景気への悪影響を抑制するために緊縮規模を平準化したほうが財政再建
策への信認を高めることができるのではないか。ラガルドIMF専務理事が提言した「成長を損なう
ことなく中期的に債務を削減する確固として現実的なプラン」(IMF年次総会演説、10/12)はフラン
スにも当てはまることと言える。無論、ユーロ圏各国との協調が必須であり、オランド政権には、ユ
ーロ圏全体としての景気と財政のバランスに関する議論を主導していくことが期待される。
フランスは国内貯蓄で財政赤字を賄うことがで
きない経常赤字国であるという弱みも抱えている
(図表 10)。ユーロ導入以降、フランスの経常赤字は
ほぼ一貫して拡大傾向にあり、足元ではユーロ導入
図表 10
(名目GDP比、%)
9.0
6.0
3.0
以降最大の水準に膨らんでいる。ユーロ圏各国は通
0.0
貨・金融政策の裁量を持たないため、2010 年半ば以
▲ 3.0
降のスペイン、イタリアのように突然の国債相場急
▲ 6.0
落は起こり得るリスクと言える。特に、経常赤字国
が要注意と考えられる。そうしたリスクを顕在化さ
せないため、オランド政権には信認維持のための適
切な経済財政運営と、ユーロ圏全体としての早期の
政策実現に向けた積極的な働きかけが求められる。
ユーロ圏各国の経常収支
▲ 9.0
▲ 12.0
▲ 15.0
04/3
06/3
08/3
フランス (▲ 2.6%)
イタリア (▲ 1.9%)
ポルトガル (▲ 1.6%)
10/3
12/3
ドイツ (6.3%)
スペイン (▲ 2.9%)
アイルランド (3.3%)
(注)凡例のカッコ内は直近値。イタリア、スペイン、アイルランドは
後方4期平均値をプロット。
(資料)各国統計局、各国中央銀行
●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに
基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
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