...

無線LANとモバイルIP電話で ホテルサービスの品質を向上

by user

on
Category: Documents
15

views

Report

Comments

Transcript

無線LANとモバイルIP電話で ホテルサービスの品質を向上
環 境
無線LANとモバイルIP電話で
ホテルサービスの品質を向上
野村総合研究所(NRI)とインテル社は、現在、大阪市南港コスモスクエア地区に無線LANソ
リューションの導入支援を行う「DigitalCity OSAKAプロジェクト」を展開している。本稿では、
このプロジェクトの一環として同地区のHYATT Regency OSAKA(以下、HRO)が導入した、
音声・データ統合環境ソリューションについて紹介する。
注目される現場業務のIT化ソリューション
さが増すなか、大阪中心部から距離があると
長引く経済不況から、ようやく回復の兆し
いう不利な立地条件のもとで、多様化する顧
がみえはじめてきたことにともない、戦略的
客ニーズに対応したサービスのさらなる向上
かつ重点的にIT投資を行う企業も増えつつ
を目指していた。
ある。このようななか、企業ITソリューシ
本プロジェクトの目的は次の 3 点である。
ョンは新たなステージへと進もうとしてい
①「いつでも・どこでもコミュニケーショ
る。そのキーワードは「現場業務のIT化」
である。とくに、顧客サービスを行う現場業
務は、事業の売上に直接影響することから、
現場でのサービスを充実化するITソリュー
ションの活用策が注目を集めている。今回の
ン」環境の実現
②「いつでも・どこでも情報共有」環境の
実現
③「顧客向け高速ブロードバンド接続」環
境の提供
HROのプロジェクトもそうした流れにある
現場業務のIT化という観点からは、①は
もので、世界的にも先進的なケースとして注
従業員間コミュニケーションの円滑化、②は
目すべきものと言える。
業務関連情報の共有化を意味している。
プロジェクトの目的とソリューション概要
HROがITを業務における戦略ツールとし
て活用し、上記の 3 点を実現する究極の目的
HROは、世界39カ国で209のホテルを運営
は、VIP顧客や常連顧客に対して、顧客一人
するHYATT International Corporationによ
ひとりの好みをとらえたきめ細かなサービス
る、アーバンリゾートホテルの大阪拠点で、
を提供し、新規顧客に対しては、また来たい
地上28階建ての館内に約500の客室と19の宴
と思ってもらえるよう、迅速かつ質の高いサ
会場を備え、周辺には関西空港、ユニバーサ
ービスを提供することにより、集客力を増大
ルスタジオジャパン、インテックス大阪(コ
させることである。
ンベンションセンター)など多様な施設が集
まっている。
6
HROは、年々ホテルビジネス市場の厳し
音声・データ統合環境を実現するソリュー
ションにはいくつかの選択肢がある。本事例
2005年9月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2005 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
野村総合研究所
コンサルティング事業本部
事業戦略コンサルティング部
主任コンサルタント
高橋 主(たかはしつかさ)
専門はIT関連業界などにおける新規事業開拓、
事業拡大に関する戦略立案および実行支援
では、実用性、技術的将来性、コスト(導入
う回答が得られた。従業員にとっての導入効
コストおよび運用コスト)などから、最終的
果をまとめると以下のようになる。
に無線LAN(IEEE 802.11b/g)と、無線
①業務効率化・生産性向上により、顧客と
の接点や時間を創出できる。
LAN環境でモバイルIP電話が利用できる
Mobile IP-Centrex(フュージョン・コミュ
②全館どこでも情報閲覧が可能なので「誰
ニケーションズ社)の組み合わせによるシス
でもコンシェルジュ」が実現できる。
テム構成とした(表 1 および次ページの図 1
③全館どこでも情報共有が可能なので、顧
参照)。これにより、HRO内施設のいたると
客一人ひとりの嗜好に合わせたワンツー
ころで、無線LANによるブロードバンド接
ワンのサービスが実現できる。
続と音声通話を同時に利用することが可能と
④業務環境が向上することで、従業員のモ
なった。
チベーションが向上する。
また、顧客への提供価値の創出により、ホ
ソリューション導入の効果
テル経営への貢献が期待できる。
実際に業務で利用している従業員にインタ
ビューすると、「多くの業務で効率の向上や
(1)顧客との接点・時間の創出
生産性改善が期待できる」「お客様が求める
導入前、従業員間のコミュニケーション手
新たなホテルの提供価値が実現される」とい
段は固定電話とページャー(いわゆるポケベ
表1 音声・データ統合環境構築ソリューションの比較評価
Option 1
有線LAN+VDSL
ワイヤレスデータ
×
通信
(ワイヤレスは不可)
Option 2
Option 3
Option 4
PHS(簡易携帯電話) WLAN+SIPサーバー WLAN+Mobile IP-Centrex
×/△
(低速通信のみ)
○
○
(ワイヤレス高速接続可) (ワイヤレス高速接続可)
ワイヤレス音声
×
○
通信(内線・外線)(既存の固定電話使用)(既存の構内交換機使用)
△
○
(運用は通信キャリア)
音声・データ統合
×
×
△
○
×
(ワイヤレスは不可)
×
○
○
コミュニケーション
バリエーション
×
メール、IM
×
音声、(SMS)
○
音声、メール、IMほか
○
音声、メール、IMほか
端末バリエーション
×
モバイル/デスクトップPC
×
原則PHS
音声機能バリエーション
○
○
○(不要な機能が多い)
△(装備段階)
トータルコスト
×
×
×
△(Option 2の半分以下)
総合評価
×
×
×∼△
◎
顧客とのデータ
通信共有利用
○
○
モバイルPC、(PDA)
モバイルPC、PDA
モバイルIP電話
モバイルIP電話/WIFI FOMA
2005年9月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2005 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
7
環 境
図1 HROのシステム環境イメージ
PoEスイッチ
WLAN
アクセスポイント
(館内149箇所)
データ
Centrino
PC
L3スイッチ
WLAN(IEEE 802.11b/g)
データ・音声 音声・データ
PDA
モバイル
IP電話
公衆回線網
データ
光サービス
WLAN
コントローラー
ルーター
VoIP
ゲートウェイ
ファイア
ウォール
ファイア
ウォール
今回整備された環境
公衆回線網
ルーター
構内交換機
アナログ
電話機
HYATT Enterprise System
Fusion
IP電話網
WLAN
プリンター
地域IP網
Mobile
IP Centrex
Center
JENS
Fiber Connection
Service
HYATT Global
Network
インターネット
既存の環境
ル)のみであった。実際に、現場業務にあた
たとえば、お客様を部屋まで案内するベル
る従業員からは「非常に便利」「導入してよ
マンなど移動の多い業務でも、お客様から問
かった」と評価する声が多く聞かれている。
い合わせを受けると、その場でPDA端末か
コミュニケーション業務の効率化により新
ら無線でWebサイトにアクセスしてすぐに
たに創出される時間は全体で4,800時間と推
答えることができる。お客様の問い合わせに
計される。HROでは、これをお客様への対
迅速に対応することは当たり前のことだが、
面サービスの充実に活用しようとしている。
基本的なことができていない場合、お客様を
失うリスクは大きい。
(2)
「誰でもコンシェルジュ」の実現
HROでは、今回整備した音声・データ統
合環境を活用して、「顧客満足度の向上」に
8
(3)ワンツーワンサービスの実現
コミュニケーション業務の効率化により創
向けたさまざまな取り組みが行われている。
出された時間をお客様との会話に利用すれ
そのひとつが、お客様の問い合わせに対して
ば、それはお客様一人ひとりの趣味・嗜好な
正確かつ迅速に情報提供する、いわば「誰で
どさまざまな情報を収集できる貴重な時間と
もコンシェルジュ」の実現である。
なる。そこで聞き出した情報を、接した従業
2005年9月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2005 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
員がその場で入力し、その情報を他の従業員
無を事前に確認するケースが非常に増えてお
が共有することにより、きめ細かなサービス
り、ノートPCを持参するホテル利用者(宿
を即時に提供することができるようになる。
泊者や会議室などの利用者)は確実に増加し
たとえば、お客様が普段どんな枕を使ってい
ている。宿泊者向けに貸し出しをしている無
るかを聞いたとき、すぐさま記録されている
線LAN対応のノートPCや無線LANカード
顧客情報を確認し、場合によっては同じ材質
も、常時利用されている状況が続いていると
の枕を手配することなどが実現できるように
いう。
なる。それは結果として、顧客のリピーター
化に通じることが見込まれる。
また、企業が会議やセミナーでホテルを利
用する際に、会議室や客室での高速インター
ネット接続環境を必須とする案件が増加して
(4)従業員のモチベーションの向上
いる。このような利用は売上単価も高いこと
一般に、業務環境の改善は従業員に「やる
から、本ソリューションの導入が経営に貢献
気」を起こさせ、モチベーションを向上させ
することも明らかである。さらに、地震など
ていく傾向がある。さらに、それが顧客サー
の災害時に、ホテルの施設を臨時のオフィス
ビスの質の向上となって現れ、顧客満足度の
として提供するような、これまでにないサー
向上へと発展していく。それによって顧客か
ビスも現実のものになりつつある。
ら評価されることで、さらに従業員のやる気
が喚起される。このような、従業員の満足度
と顧客満足度のスパイラルアップは、サービ
ス業務にとって理想的な環境であろう。
新しいサービス提供価値の創出
他業種でも期待される導入効果
無線LANとIP-Centrexによる音声・デー
タ統合環境というソリューションは、今後さ
らに広く導入されていくものと考えられる。
ホテル業のみならず、一般のサービス業、医
利便性の高いワイヤレスインターネット接
療機関など、広く顧客サービス業務を主とす
続環境へのニーズは、IT関連や外資系企業、
る業種全般に共通して有効なソリューション
そして海外出張のビジネスパーソンを中心
だからである。
に、最近急速に高まっている。海外先進国の
一方で、バッテリー問題のように急ぎ解決
ビジネスシーンでは無線LANは広く活用さ
すべき課題もあるが、無線LANによる音
れており、HROも同様の環境を求められる
声・データ統合環境は次世代のIT基盤であ
ようになっている。
り、今後ますます活用事例が増えていくもの
HROによれば、予約の際に無線LANの有
と思われる。
■
2005年9月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2005 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
9
Fly UP