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外債投資ウィークリー - 三菱東京UFJ銀行

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外債投資ウィークリー - 三菱東京UFJ銀行
外債投資ウィークリー
No.125
リサーチ部
中沢 剛
シニア債券ストラテジスト
[email protected]
植野 大作
シニア為替・債券ストラテジスト
2012年10月26日
<見通し特集号>
米国:企業活動停滞で 13 年 1Q まで景気踊り場、金利上昇余地も限定的
「財政の崖」をめぐる不透明感が企業活動を抑制し13年1Qまで景気は踊り場局面が続
き、金利上昇余地も限定的とみる。新大統領の下、崖解消で議会が合意した後、内需
主導の景気拡大へ向けた動きが始まると予想する。
(井上)
[email protected]
井上 健太
債券ストラテジスト
[email protected]
ユーロ圏:債務危機の不安を抱えながら対策の効果が徐々に浸透
ECBの国債購入計画など債務危機対策が進展し、景気は来年から回復へ。スペイン
は年内にも支援申請か。ただ、世界経済の減速もあって足元でもまだ景気には弱さが
残っており、今後も下振れリスクは根強く残りそう。
(中沢)
<トピックス>
14 年後半に始まる金利水準正常化の第一歩は流動性吸収措置
FRBは14年後半から流動性吸収措置を実施、15年1Qから利上げ開始と予想。事前に
十分予告した上で実行に移すため、混乱は回避されよう。
(井上)
11 月のドル円相場:米大統領選挙の結果次第で振られ易い展開へ
10 月のドル円相場は、①米国景気回復期待、②日本企業の海外進出、③日銀追加緩
和期待の「3 点セット」で円安気味の展開。11 月のドル円相場は、米国の経済指標と大
統領選挙の結果を睨んで上下ともに振れ易い展開か。
(植野)
米国金融市場動向
大統領選挙を控え来週の債券市場は方向感なしと予想
(井上)
ユーロ圏金融市場動向
不透明感が残ることでドイツ金利の上昇は一服
(中沢)
英国金融市場動向
BOEによる11月の追加緩和はほぼ消滅
経済指標予測
見通しマトリックス
(中沢)
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。本
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を兼任しております:安藤建設、ディップ、カゴメ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、アコム、三菱UFJリース、三菱倉庫。
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三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券株式会社 リサーチ部
(商号)
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(加入協会) 日本証券業協会・一般社団法人金融先物取引業協会・一般社団法人日本投資顧問業協会・一般社団法人第二種金融商品
取引業協会
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た、米国においては、Mitsubishi UFJ Securities (USA),Inc.が配布致します。
外債投資ウィークリー 2012 年 10 月 26 日
2
2012 年 10 月 26 日
米国経済・金融見通し
企業活動停滞で 13 年 1Q まで景気踊り場、金利上昇余地も限定的
債券ストラテジスト 井上 健太
米国の景気は昨年末から今年春にかけて若干上向いたものの再び減速し、2012年
12年内は低成長も、13年
後半から景気拡大基調が
2Qの実質GDP成長率(前期比年率)は+1.3%まで落ち込んだ。9月に入ってマインド系
明確になるとの見通しを
の指標が改善し消費や住宅関連は持ち直したものの、設備投資は7-8月の落ち込みを
維持
取り戻せずマイナスに寄与し、3Qは+1.2%成長にとどまるとみる。4Qに入っても景況感
は改善せず、+1.6%の低成長を予想する(表1)。ただし、後述するとおり、米国景気の基
調は決して悪くはない。雇用環境がさえない中、株高、住宅価格の下げ止まりを受けて、
最大の需要項目である個人消費は前期比年率+2%程度の伸びを維持している。他方、
目下、最大の景気下押し要因は「財政の崖」だ。解消される可能性が高い崖と判断でき
るものの、その回避へ向けた道筋が見えないことが足元の企業マインドを悪化させ、設
備投資や雇用の先送りにつながっている。また、家計は(可能性は小さいと思うも)仮に
来年減税が失効し所得が減少するかもしれないと考えれば、現時点で予備的に貯蓄を
増やし消費を手控えようと考えやすい。不透明感が長く続くこと自体が米国景気の下振
れ要因であり、11月6日の大統領選挙で次期大統領が決まっても解消しない可能性が高
い。これが、当方が2013年1Qまで米国景気の踊り場が続くと予想する主因である。
表1:米国経済・金融見通し
予想
実質GDP(前期比年率)
個人消費(PCE)
設備投資
民間住宅投資
政府支出
民間在庫投資*
純輸出*
PCEコア価格指数(前年比)
生産者物価(前年比)
消費者物価(前年比)
消費者物価コア(前年比)
FFレート(誘導目標)
2年国債利回り
5年国債利回り
10年国債利回り
30年国債利回り
2011年
7-9
10-12
+1.3
+4.1
1-3
+2.0
4-6
+1.3
7-9
+1.2
10-12
+1.6
1-3
+2.0
4-6
+2.7
7-9
+3.0
10-12
+2.9
2014年
1-3
+2.8
2012年
2013年
2011 年
+1.7
+19.0
+1.4
▲2.9
▲1.0
+0.1
+2.0
+9.5
+12.0
▲2.2
+2.3
▲0.6
+2.4
+7.5
+20.6
▲3.0
▲0.4
+0.1
+1.5
+3.6
+8.4
▲0.7
▲0.5
+0.2
+2.3
▲4.1
+14.0
+0.4
▲0.1
▲0.4
+1.9
+2.7
+14.2
+0.9
▲0.1
▲0.4
+2.6
+4.8
+10.2
▲1.0
▲0.0
▲0.4
+2.9
+6.5
+12.1
+0.9
▲0.0
▲0.5
+2.9
+6.4
+12.3
+1.8
+0.1
▲0.6
+3.1
+7.6
+11.0
+1.2
+0.0
▲0.6
+3.0
+7.6
+10.0
+0.5
+0.1
▲0.6
+1.6
+7.1
+3.8
+1.9
+1.7
+5.4
+3.3
+2.2
+1.9
+3.4
+2.8
+2.2
+1.8
+1.1
+1.9
+2.3
+1.7
+1.5
+1.7
+2.0
+1.7
+1.2
+1.4
+1.8
+1.6
+1.2
+1.2
+1.7
+1.6
+1.7
+1.5
+1.4
+1.6
+1.9
+1.6
+1.5
+1.7
+1.8
+2.3
+1.7
+1.7
+1.8
+2.3
+1.7
+1.8
+2.0
+2.5
+8.6
▲1.4
▲3.1
▲0.2
+0.1
+1.4
+0.0
+3.2
+1.7
0.25
0.24
0.95
1.92
2.91
0.25
0.24
0.83
1.88
2.89
0.25
0.33
1.04
2.21
3.34
0.25
0.30
0.72
1.64
2.75
0.25
0.23
0.63
1.63
2.82
0-0.25
0.40
0.80
1.90
3.00
0-0.25
0.50
0.80
2.00
3.10
0-0.25
0.60
1.10
2.30
3.40
0-0.25
0.80
1.30
2.50
3.60
0-0.25
0.70
1.30
2.40
3.60
0-0.25
0.90
1.40
2.60
3.70
0.25
0.20
0.80
1.90
2.90
2012 年
(予想)
+2.2
+1.7
+1.9
+7.6
+12.3
▲1.6
+0.1
▲0.0
2013 年
(予想)
+2.2
+2.7
+2.5
+4.5
+12.3
+0.4
▲0.1
▲0.4
[単位:%]
2014 年
(予想)
+2.9
+3.0
+3.1
+7.4
+9.7
+1.1
+0.1
▲0.6
+1.8
+1.8
+2.0
+2.1
+1.6
+1.7
+1.7
+1.6
+1.7
+1.7
+2.1
+1.7
0-0.25
0.40
0.80
1.90
3.00
0-0.25
0.70
1.30
2.40
3.60
0-0.25
1.30
1.80
2.90
4.00
注: 年間成長率は上段が年間対比、下段が第4四半期対比。実質GDPの需要項目は前期比年率、年間対比、*は成長率寄与度。金利は期末値。予想は弊社
出所:米商務省統計等より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成(最終変更日:10月26日)
直近までに利用可能なGDPの基礎統計の結果を反映し、2012年3Qの成長率を下方
修正した(10/26時点+1.2%←10/19時点+1.4%←10/12時点+1.9%)。他方、多くの統
計は当方の今年4Qとそれ以降の見通しをサポートするものであり、3Q以外の成長率・
金利見通しに変更はない。当方では、大統領選挙結果がどうであれ、「財政の崖」は
2013年1Qに解消へ向かうと予想する。解消方法には不透明感が残るも、最終的には
次期大統領が提示する予算教書に沿った内容に落ち着くだろう。「財政の崖」回避は
一種の財政政策と同様の効果が期待でき、景気回復期待を醸成するきっかけとなる。
崖解消の目処がつくと同時に、企業マインドが徐々に上向き、不透明感から先送りされ
3
2012 年 10 月 26 日
ていた設備投資や雇用が増加するだろう。そして、13年後半には前期比年率+3%程度
の経済成長を達成し、回復基調が明確になると予想する。そして14年は個人消費と設
備投資が景気回復の原動力となり、内需主導の本格的な景気拡大が始まるとみる。当
方では、13年の実質GDP成長率が2.2%、14年は+2.9%と予想する。また、景気拡大期
待が高まると同時に長期金利も緩やかに上昇し、2013年末が2.4%、2014年末に2.9%
を見込む。
個人消費は堅調を維持、
雇用・所得環境が芳しくない中、個人消費は底堅さを維持している。9月の小売売上
米国景気の底堅さの主因
高は前月比1.1%上昇し、市場予想(+0.8%、Bloombergによる、以下同じ)を上回った。
8月分も上方修正(+1.2%←+0.9%)されており、7-9月期の伸びは前期比年率+5.5%、
4-6月期の同▲1.0%からプラスに転じた。7-9月期のCPIで実質化すると同2%強の伸
びとなり、GDP統計でも個人消費は2Qから反発が予想される。また、9月は幅広い項目
で売り上げが伸び、自動車を除いても前月比+1.1%と好調だった。電化製品の販売が
好調なのは、iPhone5の効果があるのかもしれない。当方では、同期の個人消費(実質)
につき従来見通しの前期比年率+2.2%から、+2.3%に上方修正した。
個人消費の先行きを占う上で注目すべきは消費者マインドだ。10月のミシガン大消
費者信頼感指数(10月・速報値)が83.1と07年9月以来の高水準に上昇した(図1)。市
場予想(78.0)は前月(87.3)からの低下を見込んでいた。これまで、期待指数を中心に
改善の動きがみられたが、10月は現況、期待ともに上昇した。株価が高止まりしている
ことが、両指数の上昇に寄与した可能性が高い。株高に加えて、住宅価格が下げ止ま
り、住宅市場の改善基調が続いていることも注目だ。9月の住宅着工統計は87.2万件に
大幅上昇し(←8月:75.8万件)、08年7月以来の高水準となった(図2)。市場予想は
77.0万件を見込んでいたためポジティブサプライズ。先行指標とされる建設許可件数も
89.4万件に上昇し、市場予想の81.0万件を大きく上回った。株高、住宅部門の改善が、
今後も資産効果を通じて家計の支出余力を拡大し、消費を下支えするとみる。当方の
見立ては、(後述するように)企業活動が低調でも、底堅い個人消費が米国景気腰折れ
回避の主因というものだ。足元の動きは当方の従来からの見通しを裏付けるものであり、
2012年4Qとそれ以降の個人消費見通しに変更はない。
図1:消費者マインド指数の推移
図2:住宅着工と建設許可件数の推移
(百万件)
(1985=100)
135
総合指数
125
住宅着工許可件数
2.3
現況指数
115
1.8
105
95
住宅着工件数
85
1.3
75
65
0.8
55
期待指数
45
90
92
94
96
98
00
02
04
06
08
10
0.3
12
00
注:期待指数は、6ヶ月先の経済についての消費者のマインドを表わす
出所:ミシガン大学資料より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
出所:米商務省『Housing starts』より三菱UFJモルガン・スタンレー証券
4
11
12
13
2012 年 10 月 26 日
景況感改善も企業の生産
問題の企業部門にも、9月分の統計から幾つかの好材料を見つけることができる。ま
活動、採用の活発化には
ず、9月のISM製造業景況指数が4カ月ぶりに拡大縮小の分岐点である50を上回り51.5
至らず
に上昇、市場予想(49.7)も上回った(図3)。内訳をみると、新規受注DIが8月の47.1か
ら9月に52.3へ上昇。雇用DIも8月の51.6から9月に54.7へ増加した。米地区連銀が公
表する9月の製造業景況指数では生産や新規受注が悪化していたことから、ISMの改
善に意外感はあるものの、企業景況感の悪化に歯止めがかかったことは好材料だ。ま
た、9月の雇用統計では、失業率が09年1月以来の7%台となる7.8%に低下(←8月:
8.1%)、市場予想は8月の8.1%から8.2%へ上昇を見込んでいた。8月とは違い、今回9
月は労働参加率(9月:63.6%←8月:63.5%)の低下によるものではない“良い”失業率
の低下だった。パートタイム雇用の増加が主因であり、手放しに楽観できる内容ではな
いが、雇用が改善の兆しを見せたことに違いはない。
ただし、改善の動きが実際の経済活動には結びついていないようだ。9月の鉱工業
生産指数は前月比+0.4%増加し、市場予想(+0.2%)を上回った(図4)。幅広い業種で
生産が伸びたものの、8月の大幅減(同▲1.4%)からの反動増という側面が強い。7-9
月期を4-6月期対比でみると前期比年率▲0.4%にとどまり、企業活動は依然として低
調だ。特に自動車・同部品の生産が2ヶ月連続で前月から低下(9月:▲2.5%←8月:▲
5.1%)した。また、設備稼働率は78.3%と8月の78.0%から反発も、7月の79.2%を大き
く下回っている。そして、9月の製造業受注は前月比+9.9%増も8月の大幅減を取り戻
すには至らず、7-9月期は前期比年率で▲5.1%だった。GDP統計で設備投資の基礎
統計となる非国防資本財出荷(除く航空機)は前月比▲0.3%で3ヶ月連続の減少、7-9
月期では前期比年率▲4.9%となり、3QのGDPにおける設備投資はマイナス寄与とな
ったようだ。また、設備投資の先行指標となる非国防資本財受注(除く航空機)は前月
比横ばいも、7-9月期は前期比年率▲23.5%の大幅減だった。企業活動、特に設備投
資の弱さは当面続くだろう。
図3:ISM景気総合指数の推移
図4:設備稼働率と生産指数
(前期比年率、%)
70
65
(%)
90
15
非製造業
稼働率
(右メモリ)
10
85
60
55
50
45
製造業
5
80
0
75
-5
70
40
-10
35
鉱工業生産
(左メモリ)
-15
30
65
60
80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12
95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
出所:FRB『Industrial Production』より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
出所:米サプライ管理協会資料より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
これまでに発表された統計は、「財政の崖」や世界経済の減速懸念から、設備投資
やプロパーでの採用を手控える企業の姿を示唆しており、当方が従来の見通しの中で
想定した内容だ。実際、先行きについて企業マインド指標からも冴えない様子がうかが
える。例えば、10月のNY連銀景況指数は▲6.2(←9月:▲10.4)となり、3ヶ月連続で同
5
2012 年 10 月 26 日
地区製造業の拡大縮小の分岐点であるゼロを下回った。前月からマイナス幅縮小も、
内訳をみると出荷、雇用DIがマイナス(縮小)に転じており、総じて弱め。また、6ヵ月後
期待指数も19.4に低下(←9月:27.2)しており、企業活動は当面、低調な推移を続けよ
う。他方、10月のフィラデルフィア連銀景況指数は+5.7と6ヶ月ぶりに景況感の拡大縮小
の分岐点であるゼロを上回った。ただし、内訳をみると新規受注が前月の+1.0から▲
0.6へ低下、雇用も前月の▲7.3から▲10.7へ低下している。また、6ヶ月先の期待指数
は+21.6となり、9月の+41.2からプラス幅を大きく縮小した。新規受注、出荷、雇用等、主
要項目が低下しており、ヘッドラインとは異なり、総じて弱めの内容だ。また、在庫統計
からは企業が意図せざる在庫の積みあがりを受けて生産調整を実施している姿が読み
取れる。したがって、今年4Qとそれ以降については、企業活動、設備投資、在庫投資
の従来見通しに変更はない。
大統領選挙は両候補の支
「財政の崖」解消へ向けた今後の展開を大きく左右する米大統領選挙が11月6日に
持率がほぼ拮抗する展開
迫っている。選挙結果を占う上で注目されたオバマ、ロムニー両大統領候補による第1
回テレビ討論会が、10月2日に開催された。世論調査で劣勢が伝えられていたロムニー
前マサチューセッツ州知事が高所得者優遇・低中所得者切捨てというイメージ払拭に
努め、減税、政府支出削減を通じた小さな政府、市場における競争を重視する姿勢を
明確に訴えた。第1回の討論はロムニー候補の巻き返しに貢献し、同候補は大統領選
挙の勝敗を左右すると言われるいくつかの州(スウィング・ステート)で一気にオバマ候
補との差を縮めることに成功した。しかし、16日に行われた第2回討論会では、前回の
反省を生かし、オバマ候補がアグレッシブに討論に挑み、失った支持の一部を取り返し
た。そして第3回目の討論会が22日、スウィング・ステートのひとつで最大の選挙人が割
り当てられているフロリダ州、ボカラトンで行われた。主要なテーマだった外交政策につ
いて、両候補の主張に大きな差異はない。第3回討論前に実施されたNBCニュースとウ
ォール・ストリート・ジャーナルによる最新の調査では、オバマ候補とロムニー候補の支
持率がともに47%で並んでいた。最後の第3回討論が両者の支持率に顕著な差をもた
らすとは思えず、ほぼ互角のまま投票へと向かうことになりそうだ。全3回行われた討論
会を振り返ると、第1回討論におけるロムニー候補のパフォーマンスが両候補の支持率
を拮抗させることに成功し、ゲームチェンジャーの役割を果たしたと言えるだろう。
オバマ候補勝利も議会の
当方では、オバマ候補再選を経済見通し作成におけるメインシナリオとして維持して
ねじれは解消せず、崖回
いる。ただし、この勝利がすぐに懸案である「財政の崖」解消につながる可能性は低い。
避ヘ向けた議論は難航が
オバマ候補が勝利した場合でも、下院は共和党が過半数を維持する公算が極めて高く、
予想される
議会のねじれは解消しないためだ。ただし、民主・共和両党は「財政の崖」を実現させ
てしまうことで米国景気をより後退させることは回避、そのための代替案を模索したいと
いう思惑で一致している。年内に議会で具体的な合意が得られない場合は、一旦、現
行の減税や支出水準を維持し、崖を3ヶ月~半年程度先送りするだろう。その場合でも、
新大統領就任後の来年1月末から遅くとも3月までには、議会が崖の回避策で合意に
達するとみる。崖問題に起因した先行き不透明感で後退懸念が強まる米国景気に対し
て、議会がいつまでも無策のままであり続けるわけにはいかない。もし議会が崖回避を
先送りし続ければ、景気の先行き不透明感を強めるだけだ。議会の無策も、選挙が終
わり、景気減速感がより一層強まれば、変化せざるを得ないとみる。当方では、最終的
6
2012 年 10 月 26 日
には2月上旬~中旬と予想される新大統領による予算教書の内容に沿って、2013年3
月までに崖解消に向けた議会の合意が得られると予想する。
12月FOMCで国債の追加
購入決定へ
上述したとおり、当方は2012年末から2013年初にかけて景気の踊り場が続くと予想し
ており、9月のFOMCで将来の金融政策について強力にコミットし、景気下支えを図っ
たFRBの判断は極めて賢明とみる。(事実上無制限の)MBS購入を含む追加金融緩和
は、株高や住宅市場の改善を通じた家計の支出余力拡大を意図したもので、政策金
利を操作できない現況における比較的即効性のある景気刺激策だ。当方では、次回
12月11-12日のFOMCは年末のツイストオペ終了を見据え、長期国債買い入れの増額
に踏み切ると予想する。現在、ツイストオペで毎月450億ドルの長期国債を買い入れて
(同額の短期債を売却して)いることから、毎月同額の長期国債を追加で買い増すとみ
る(表2)。ツイストオペ終了で短期国債の売却をやめるため、長期国債の買い入れ増
額は事実上の追加緩和だ。現状の長期の債券の買い入れ金額(850億ドル)を維持す
ることで、金融緩和が後退したとの懸念をマーケットに抱かせないよう配慮すると同時に、
(低下余地は小さいながらも)さらなる長期金利の押し下げ、株価の押し上げ効果を期
待するとみる。(現時点でメインシナリオとはしないものの)単純な国債買い増しでは政
策的なインパクトに欠けることから、9月同様、(ポジティブ)サプライズを伴う政策変更が
実施される可能性もあるとみる。
他方、政策金利について、今回、FRBが2014年に実施すると予想する金利水準の正
常化に向けた当方の見通しを変更した。従来、2014年後半に25bpずつ、2度にわたりフ
ェデラルファンドレート(以下、FF金利)を引き上げ、2014年末までに政策金利を0.75%
に設定すると見込んでいた。正常化開始のタイミングの予想に変更はないが、FOMC
はFF金利を引き上げるのではなく、2014年10-12月期に購入債券の再投資を停止し、
ターム物預金等を利用して短期資金を吸収することでバランスシートの圧縮を開始する
と予想を変更する。議論の詳細については、後掲のトッピックス「14年後半に始まる金
利水準正常化の第一歩は流動性吸収措置」をご参照いただきたい。
表2:FOMCの量的緩和策
QE1
08 年 11 月
09 年 3 月
MBS を 5000 億ドル
GSE 債を 1000 億ドル
MBS1.25 兆ドル GSE 債 2000 億ドル 国債 3000 億ドルに拡大
QE2
10 年 11 月
国債 6000 億ドル
QE3
12 年 9 月
MBS を毎月 400 億ドル
QE3 拡張
12 年 12 月? 毎月 450 億ドルの長期国債買い入れを追加
出所:Bloombergから三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
長期金利は緩やかな上昇
を予想
9月FOMCを受けて一旦は1.89%まで上昇した米10年債金利は、追加金融緩和が米
国景気の順調な回復につながらないとの見方から、1週間ほどでFOMC前の1.7%台前
半へ戻ってしまった。その後、利回りはさらに低下し1.6%台をつけると、10月前半は目
新しい材料がなく小動きに終始した。10月後半に入ると9 月の小売売上高や、予想以
上に増加した住宅着工など、堅調な個人消費を示唆する結果に素直に反応し利回りが
上昇、再び1.8%台をつけた。
7
2012 年 10 月 26 日
当方では、2012年末から2013年初にかけて「財政の崖」解消をめぐる不透明感から
安全資産需要が強まると予想する一方、12月のFOMCで米国債の追加購入が決定さ
れるため景気回復期待(と同時にインフレ懸念)が高まり、10年債利回りは12月末まで
に1.9%台へ上昇すると予想する。ただし、追加緩和実施後、一気に景気が持ち直す
わけではないため、崖解消の不透明感が続く2013年1Qは2%程度で小動きを見込む。
そして、崖解消の目処がつき、企業の景況感が回復する2013年2Qから長期金利は緩
やかに上昇を始めると予想する。
上述したとおり、今回、当方の政策金利見通しを変更したが、長期金利見通しに変
更はない(図5)。FRBが政策変更(金利正常化)に向けた方針を事前にマーケットに
対してアナウンスするため、2015年1Qの利上げが(従来利上げ開始を見込んでいた)
2014年後半の債券相場に織り込まれると考えるからだ。2013年末の長期金利が2.4%、
2014年末は2.9%とした従来の見通しに変更はない(図5)。
図5:米10年債利回りの推移
(%)
5.5
5.0
4.5
長期金利
4.0
予想レンジ
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
政策金利
0.5
0.0
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
(年)
注: 細線は政策金利であるFF目標金利
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成(予想は弊社)
(10 月 26 日 9:00)
8
2012 年 10 月 26 日
ユーロ圏経済・金融見通し
債務危機の不安を抱えながら対策の効果が徐々に浸透
シニア債券ストラテジスト 中沢 剛
債務危機の対策進展で来
ユーロ圏(EMU)の実質GDPは第2Qまで3期連続の前期比マイナス(→テクニカルな
年の景気は回復へ。下振
リセッション)を続けているが(表1)、第3Qも特に景況感サーベイが低調で、マイナス成
れリスクは根強く残る
長を続けた公算が高い。欧州債務危機の影響で債務国を中心に信用のタイト化やコン
フィデンスの悪化が続いており、緊縮政策が強化されている。さらに、新興国を中心とし
た世界経済の減速で、輸出主導のEMU景気は下押し圧力がなおさら掛かりやすくなっ
ている。
ただ、第3Qの見通しは前期比▲0.1%に上方修正。8月を中心とした輸出や製造業
生産等のハードデータが予想外に強かったのは(図1:鉱工業生産)、バカンス・シーズ
ン故の季節調整難も一因であろうが、コア・周辺を問わず輸出が健闘していることは素
直に評価していいだろう。また、イタリアの大幅な緊縮政策効果は取りあえず一巡しつ
つある。もっとも、スペインでは9月初のVAT増税を前にした駆け込み需要の効果が第
3Qは勝った模様だが1、第4Q以降に大きな反動が出そうだ。
第4Qは逆に同▲0.2%に下方修正した。10月の景況感サーベイは、先行性の強い
ZEW景況感指数が前月に続いて改善し、ドイツIFO企業景況感指数の先行き感も6月
ぶりで悪化が止まった。ECBの国債購入計画(OMT)など債務危機の対策進展が好感
されたためであろう。ただ、IFO指数の現況やPMI等は悪化しており、足元でリセッション
が続いていることが強く示唆された。ドイツがマイナス成長に陥る公算も否定できない。
表1:ユーロ圏経済・金融見通し
予想
実質GDP(前期比年率)
(前期比)
個人消費
総固定資本形成
政府消費
在庫投資*
純輸出*
消費者物価(前年比)
レポ金利 (リファイナンス金利)
2年ドイツ国債利回り
5年ドイツ国債利回り
10年ドイツ国債利回り
2011年
7-9
10-12
+0.3
▲1.4
+0.1
▲0.3
+0.7
▲2.1
▲1.5
▲2.0
▲0.9
+0.0
▲1.4
▲1.8
+1.8
+2.1
+2.7
+2.9
1.50
1.00
0.52
0.14
1.13
0.76
1.84
1.83
1-3
▲0.1
▲0.0
▲0.7
▲5.2
+0.7
▲0.4
+1.6
+2.7
1.00
0.21
0.80
1.79
2012年
4-6
7-9
10-12
▲0.7
▲0.3
▲0.8
▲0.2
▲0.1
▲0.2
▲0.8
▲0.2
+0.0
▲3.3
▲3.9
▲6.2
+0.5
▲0.4
+0.0
▲0.6
+0.6
+0.1
+1.0
+0.0
+0.3
+2.5
+2.6
+2.3
1.00
0.75
0.75
0.12
0.02
0.10
0.61
0.51
0.60
1.58
1.44
1.80
1-3
+0.4
+0.1
+0.2
+0.4
▲0.8
+0.2
+0.1
+2.0
0.75
0.20
0.75
2.00
予想
[単位:%]
2013年
2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
4-6
7-9
10-12
(予想) (予想) (予想)
+0.8
+1.4
+1.7
+2.0
+1.5
▲0.4
+0.3
+1.6
+0.2
+0.3
+0.4
+2.3
+0.6
▲0.5
+1.1
+1.7
+0.5
+0.6
+0.8
+1.0
+0.1
▲0.8
+0.2
+0.8
+1.0
+2.8
+2.0
▲0.3
+1.6
▲3.4
▲1.2
+3.3
▲0.4
▲0.2
+0.0
+0.8
▲0.1
+0.1
▲0.3
+0.1
+0.1
+0.1
▲0.0
+0.6
+0.2
▲0.6
+0.2
+0.1
+0.3
+0.5
+0.9
+0.7
+1.0
+1.2
+0.3
+0.5
+2.0
+2.4
+2.3
+1.7
+2.8
+2.6
+2.2
+2.0
0.75
0.75
0.75
1.00
1.00
0.75
0.75
1.00
0.30
0.45
0.60
0.86
0.14
0.10
0.60
1.00
0.90
1.05
1.15
1.84
0.76
0.60
1.15
1.35
2.10
2.20
2.30
2.96
1.83
1.80
2.30
2.50
注: 実質GDPの需要項目は前期比年率、*は成長率寄与度、年間成長率は上段が年間対比、下段が第4四半期対比。金利は期末値。
ドイツ国債利回りはユーロ圏の指標とみなされる。
出所:三菱UFJモルガン・スタンレー証券(最終変更日:10月23日:予想は弊社)
来年初からEMU全体でプラス成長を回復するとの見通しは維持する。債務問題につ
いて、当局の対策進展によってテール・リスクが後退し、コンフィデンスが徐々に戻って
くると期待できる。それでも、年間の成長率は+0.3%(瞬間風速でも+1.1%2)に留まる見
1
2
スペイン中銀による推計で第 3Q の成長率は前期比▲0.4%と発表された。大方の予想より落ち込みが小さい。
瞬間風速とはここでは当該年第 4Q の前年同期比の意味。年間値に付き物の「ゲタ」の効果は現れない。
9
2012 年 10 月 26 日
通し。ドイツは比較的底堅さを維持しようが、多くの債務国でマイナス成長が持続する
見込みであるほか、コア国でもフランス等で緊縮政策の効果から景気回復力がかなり
鈍いものにとどまると予想される(表2)。
以前よりは後退したが、リスクは引き続き下振れ方向。政治的な対立や国民の抵抗な
どから改革が思ったように進まない可能性のほか、逆に緊縮政策や不良債権処理等の
改革進行が景気を予想以上に悪化させるリスクもある。構造改革による成長力の増強
がますます求められる状況で、各国はその方面でも対策を加速させているが、仮に順
調に成果が現れるとしてもそれが表面化するにはある程度の時間が必要だ。
外需依存の状況が続くため、新興国など世界経済が予想以上に減速するならEMU
経済の回復はさらに覚束なくなる。ドイツ経済の好調は中国を中心とした新興国経済を
うまく取り込んだ成果でもあるが、それ故に中国依存色を強めているのは逆にリスク要
因とも言える。
図1:EMUと4大国の鉱工業生産指数
125
表2:EMUと各国の実質GDP成長率(見通し:%)
(04年初=100)
120
見通し
ドイツ
115
110
EMU
105
100
フランス
95
90
イタリア
85
80
(全て建設を除くベース)
スペイン
75
04
05
06
07
08
09
10
11
12
出所:Eurostatと各国統計局等から三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
インフレ率は低下方向だ
が、一定の下支え効果も
(前年比)
GDPシェア
2007
EMU
100.0
3.0
ドイツ
27.3
3.4
フランス
21.2
2.2
イタリア
16.8
1.5
スペイン
11.4
3.5
オランダ
6.4
3.9
ベルギー
3.9
2.9
オーストリア
3.2
3.7
フィンランド
2.0
5.3
ギリシャ
1.9
3.0
ポルトガル
1.8
2.4
アイルランド
1.7
5.4
スロバキア
0.7
10.5
2008
0.3
0.8
-0.2
-1.2
0.9
1.8
1.0
1.1
0.3
-0.2
0.0
-2.1
5.8
2009
-4.4
-5.1
-3.1
-5.5
-3.7
-3.7
-2.7
-3.6
-8.5
-3.3
-2.9
-5.5
-4.9
2010
2.0
4.0
1.6
1.8
-0.3
1.6
2.4
2.3
3.3
-3.5
1.4
-0.8
4.2
2011
1.5
3.1
1.7
0.6
0.4
1.1
1.8
2.7
2.7
-6.9
-1.7
1.4
3.3
2012
-0.4
1.0
0.0
-2.2
-1.4
-0.2
-0.2
1.0
0.5
-6.4
-2.8
-0.2
2.7
2013
0.3
1.2
0.5
-0.7
-1.3
1.1
0.4
1.0
1.5
-4.6
-1.0
0.9
2.5
注:GDP シェアは、2011 年の EMU の名目 GDP に対する各国のシェア
(年)
出所:各国統計局等から三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成(見通しは弊社)
EMUの消費者物価上昇率(前年比)は昨年9~11月に+3.0%でピークを付けた後、
低下局面に入ったが、本年5~7月に+2.4%まで低下した後、8~9月は+2.6%まで上振
れ、低下は一服している。これはまず、今春に急落した原油価格がその後盛り返し、末
端のエネルギー価格にも影響を与えたことがある。また、スペインで9月初にVAT増税
が実施されるなど、周辺債務国を中心に財政再建のため間接税増税や公共料金引き
上げ、価格補助金削減が実施されているためでもある。
コア価格(エネルギー・食品・酒・煙草除く)は昨年春以降、バーゲン期等を除けば概
ね同+1.5~1.6%で安定している。景気の低迷で需給ギャップ(特に労働市場)が拡大
していることから、コア・インフレ率には今後低下圧力が一層働こう。原油価格の反騰は
既に一服しており、全体のインフレ率は来年初にも+2%前後まで低下しそうだ。
ただ、当方ではそれ以上の目立った低下は見込んでいない。まず、先進国(+新興
国)の大幅な金融緩和は一次産品価格や新興国の財価格(典型的には中国の衣料品
価格など)の上昇を通じ、EMUの物価上昇にも結び付く。また、景気が比較的底堅いド
イツでは雇用と賃金の両面で労働者への還元が進んでおり、労働コストが増大している。
一方、スペインなど債務国では上記の通り「債務国型」のインフレ圧力が今後も働くとみ
られる。イタリアでも来年6月にVATの増税を実施予定。
10
2012 年 10 月 26 日
債務危機の対策が前進。
EMUの体制強化策も
ECBの国債購入計画(OMT:後述)発表で、欧州の債務危機対策は新たなモメンタ
ムが与えられた。当面の支援対象に想定されているスペインは依然として支援申請を
行っていないが、支援計画に後押し(半強制?)される形で自身の改革を加速させた。
イタリアやポルトガルなど他の債務国でも財政再建や構造改革の追加策が策定されて
おり、当該国国債相場回復の形で市場は一定の評価を与えている。
さらに、EMUの深化加速による体制強化策も進展している。ユーロ維持にかける欧
州当局の政治的コミットは過小評価すべきでない。まず、恒久的な支援基金であるESM
が10月8日に発足した。さらに「銀行同盟」の取りあえずの中心として、ECBを軸とした共
通銀行監督機構の法的枠組みを年内に合意することで、10月18・19日のEUサミットは
まとまった。当初は監督対象を被支援行などに限定しながら段階的に拡大し、2014年
初に対象をEMUの全銀行に広げる計画だ。ただ、この共通監督機構への権限委譲に
ついては、迅速な移行を目指すフランスなど南欧勢と慎重なドイツなど北欧勢の間で
温度差がある。さらに、ESMによる銀行への直接的な資本注入もこの共通機構が「確
立」されてからということで、その解釈でもやはり同様の見解の相違がある。実際に直接
資本注入が可能になるのは2014年以降と考えるのが無難かもしれない。
財政同盟の強化策を含めた統合強化計画を12月のEUサミットで合意の方向だ。
図2:EMUの周辺債務国の政府部門総債務残高 (対GDP比)
180
(%)
ギリシャ
160
140
120
100
ポルトガル
80
60
イタリア
アイルランド
40
スペイン
20
0
00
01
02
03
04
05
06
出所:Eurostatより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
07
08
09
10
11
12
各国ベースでも様々な改
スペインはESM(→ECB)への支援申請を依然として行っていないが、9月末には
革が加速。リスクはそれで
(大幅な緊縮政策を含む)2013年度予算案と構造改革計画、銀行ストレステスト結果
も残る
を一挙発表した。スペイン政府は既に1000億ユーロの銀行支援計画でEMUと合意し
ているが、今回のストレス・テストでの必要資本増強額は593億ユーロで(表3)、実際の
支援必要額は400億ユーロ程度とされた。スペイン国債相場の好転は、このようなスペ
イン政府自身の行動をも好感したものである。懸念されたジャンク級への国債格下げ
は取りあえず回避された。銀行業界の改革はこのテスト結果を受け、既に策定されて
いるロードマップに基づいて進められる。バッド・バンク計画は、11月16日に運用に関
する勅令が合意され、同月末までに設立される段取り。それでも、スペイン政府は年
内にも(ESMの予防的信用ラインへの)財政支援申請を行うとみる。州政府の財政難
から中央政府の基金による支援が開始されたことも、中央政府の負担を一層重くする
11
2012 年 10 月 26 日
要因。中でも、11月25日に議会選挙を予定しているカタルーニャ州はスペインからの
独立気運を強めており、状況次第で不透明感が一層強まるリスクがある。
表3:スペインの銀行ストレス・テスト結果 (2012年9月28日:100万ユーロ)
基本シナリオ
サンタンデール・グループ
+ 19,181
BBVA
+ 10,945
カイシャバンク+シビカ
+ 9,421
クトクサバンク
+ 3,132
サバデル+CAM
+ 3,321
バンキンテル
+ 393
ウニカハ+CEISS
+ 1,300
イベルカハ+カハ3+リベルバンク
+ 492
BMN
▲ 368
ポプラール
+ 677
バレンシア銀行
▲ 1,846
NCG銀行
▲ 3,966
カタルーニャバンク
▲ 6,488
バンキア-BFA
▲ 13,230
総計(必要資本増強額)
▲ 25,898
総計(合併と繰延税金資産の効果を考慮する前)
最悪シナリオ
+ 25,297
+ 11,183
+ 5,720
+ 2,188
+ 915
+ 399
+ 128
▲ 2,108
▲ 2,208
▲ 3,223
▲ 3,462
▲ 7,176
▲ 10,825
▲ 24,743
▲ 53,745
▲ 59,300
出所:スペイン中銀/オリバー・ワイマンより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
イタリア政府は10月10日に2013年度予算案を承認。歳出を35億ユーロ追加で削減し、
金融取引税を導入するなど、全体とすれば追加の赤字削減策となった。ただ、来年6月
に予定していたVAT増税の幅を1%ポイントに半減し(→22%)、さらに低所得者向けの
所得税減税を盛り込んだ。これまでの財政再建策の成果を幾らか還元し、経済成長や
社会的公正にも配慮する内容となった。また、来年4月までに実施しなければならない
総選挙を控え、ベルルスコーニ前首相が不出馬を宣言、モンティ首相が続投する方向
が強まっており、心配された政治リスクも後退した。10月半ばに実施されたリテール国
債発行は180億ユーロを販売する大成功を収めており、市場は当面安定を続けそうだ。
ギリシャは、第二次支援策の中での次回トランシュ135億ユーロの供与を目指し、ギリ
シャとトロイカ(EU、IMF、ECB)との間で財政赤字削減と構造改革の計画策定で合意に
近づいている模様だ。11月半ばまでには完全合意し、追加融資が実施される見込み。
ただ、国民はゼネストを連発するなど不満を強めており、極左・極右政党の人気が再び
高まっている。経済活動の縮小で財政がさらに悪化する悪循環から抜け出し得ておら
ず、第二の債務再編は不可避とみるべきであろう。EMU政府の第一支援融資のヘアカ
ットや、民間投資家保有のギリシャ国債の割引価格での買い戻し(資金はESMが支援)
などの計画が今後さらに具体化していこう。
ポルトガル政府も10月15日に2013年度予算案を発表した。トロイカとの間で従来計画
よりもペースを落とした財政赤字削減目標を9月に策定しており、それに沿った内容。来
年の赤字削減の中心はIMFの勧告通り43億ユーロの増収策となり、歳出削減は27億ユ
ーロとやや少ない。財政赤字削減(GDP比)は2012年2.4%ポイント→13年1.7%ポイン
トとなる3。ポルトガルは財政再建や構造改革の計画を順調に消化し、トロイカから高い
評価を受けている。過去の歴史をみても、特に社民党政権の改革遂行能力は非常に
高い。来年9月に(長期)債券市場へ復帰する計画だが、トロイカ側の「心証」がいいた
め、債券発行に多少の困難が生じる程度ならESMやOMTなどによる側面支援が得られ
そう。リスクはまだ残るが、当面の市場は安定推移が見込まれる。
3
予算文書で示された構造的プライマリー収支(対 GDP 比)の変化幅を財政政策効果とみなす。
12
2012 年 10 月 26 日
アイルランドは、銀行システムの崩壊で救済を仰いだものの、計640億ユーロの銀行
救済計画を策定するなど、抜本的で迅速な危機対策を進めたことで、トロイカや市場で
は優等生扱いを受けてい。ただ、旧アングロ・アイリッシュ銀行等の整理機関である
IBRCへの資本注入で利用された「約束手形(promissory notes)」300億ユーロの再編が、
現在の大きな課題となっている。現状はアイルランド中銀の特別オペ(ELA)でファイナ
ンスされているが、政府はこれを国債に交換し、さらに一部をESMによる直接支援に振
り替えたい考え。ECBやドイツ政府等が慎重姿勢をとっているため、10月末とされた交
渉期限内の決着は困難だが、アイルランド政府の着実な改革進展を評価し、近い将来
に交渉がまとまる公算は十分にあろう。
フランスのオランド社会党政権は9月28日に2013年度予算案を発表(表4)。今春の大
統領・議会選挙時には「緊縮よりも成長」と述べていたが、来年にGDP比3%まで財政赤
字を削減する計画の遵守を最優先している。この予算は財政赤字を追加で300億ユー
ロ削減し、緊縮効果はGDP比2.0%ポイントに及ぶ計画4。不況時の財政出動がお家芸
であったこの国が他国と同様の緊縮路線に走ることは、景気の下押し効果を一段と大き
くする。また、赤字削減は増税2対歳出削減1と増税偏重で、しかもその対象が高額所
得者や大企業、さらに(キャピタルゲイン増税を通じ)中小企業経営者が中心となったこ
とで、産業界から強い批判を浴びている5 。競争力向上を目指した構造改革で成長力
や雇用の増進を図ることがますます急務になっており、政府は労使の対話促進による
労働市場改革計画策定や、中小企業向け融資専門の国営銀行設立に動いている。
表4:フランスの2013年度予算案 (2012年9月28日:%)
2012
2013
2014
2015
2016
2017
歳出
対GDP
56.3
56.3
55.6
54.9
54.2
53.6
税収
対GDP
44.9
46.3
46.5
46.7
46.6
46.3
財政収支
対GDP
-4.5
-3.0
-2.2
-1.3
-0.6
-0.3
構造的収支
対潜在GDP
-3.6
-1.6
-1.1
-0.5
0.0
0.0
公的債務
対GDP
89.9
91.3
90.5
88.5
85.8
82.9
公的債務(EMU
対GDP
支援除く)
87.4
88.4
87.3
85.4
82.9
80.1
0.3
0.8
2.0
2.0
2.0
2.0
実質GDP
前年比
出所:フランス財務相より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
ドイツは一方、経済の堅調で財政赤字が計画を上回るスピードで削減されている。財
政均衡化を目指す修正憲法条項の規定もあってメルケル政権は財政再建を優先して
きたが、 欧州全域に緊縮政策が広がる中、ドイツに機関車役を求める声は強い。来年
秋の総選挙を控え、連立与党の自民党は減税を主張、野党の社民党も景気重視政策
の転換を求めており、メルケル政権は2013年で150億ユーロ以上の景気刺激策策定に
動いている。11月4日に最終決定の予定。ただ、減税や社会保障負担軽減を重視する
自民党と歳出拡大を望む社民党との路線対立など、まだ波乱要因が多い。
4
5
フランス財務省の予算案文書によれば、構造的財政収支(景気変動の影響を除去した収支)は GDP 比で 2012 年の▲3.6%
から 13 年は▲1.6%まで削減される。その差の 2.0%ポイントが緊縮財政効果と想定できる。
キャピタルゲイン増税の計画についてはモスコヴィシ財務相がその後、見直しの意向を表明している。
13
2012 年 10 月 26 日
ECBは国債購入など流動
ECBは債務危機の深刻化と景気の後退を受け、7月の政策委員会会合で25bpの追
性対策を強化。追加利下
加利下げを決定し(→リファイナンス金利0.75%)、9月には新たな国債購入計画
げの公算は低い
(OMT)の詳細を発表。10月4日の会合では政策を全て据え置き、ドラギ総裁会見はこ
のOMTが条件次第でいつでも利用可能であることを再確認した。OMTでECBが債務
国の国債を購入するためには、当該国がESMに支援申請した上で、EU等との間で財
政再建策や構造改革計画等の条件(コンディショナリティ)で合意し、覚書を交わさなけ
ればならない。ECBがユーロ存続と債務危機克服のため不退転の姿勢を示すと共に、
当事者全般を改革断行に追い込む策と言え、市場のテール・リスク感後退に大きく貢
献したと評価できる。スペイン政府は年内にも支援申請に行う見込み。イタリアも場合に
よってはそれに続く公算があり、さらに、ポルトガルやアイルランドが来年に債券市場に
復帰する際、やはりOMTによる側面支援が行われる可能性があろう。このOMTは債務
国の国債利回り高騰を抑え、金融政策浸透メカニズムを回復するための流動性対策で
あり、「量的緩和」ではないため、全額が不胎化される。
12月のスタッフ経済見通し発表時の追加利下げを予想する声も市場にはあるが、当
方はその可能性は非常に低いとみる。利下げをする場合は預金ファシリティ金利をマイ
ナスにするなどかなり無理な金利設定を行う必要があり、副作用が大きい割には、債務
国の市中金利を下げるなど現実的な効果があまり期待できないためだ6。むしろ、これま
でと同様、流動性対策(非標準的手段)を必要に応じて維持ないし強化する政策が採
られよう。オペ担保の拡大や新たな長期オペ(LTRO)の実施などが考えられる。
ドイツ金利は大底から回
10月までのドイツ長期金利(10年物指標銘柄国債利回り:以下同じ)は、6月初と7月
復したが、ここにきて上昇
末にダブル・ボトムを付ける形で(史上最低値は6月1日の1.127%)その後は上昇トレン
一服の様相。不透明感の
ドにある。ただ、9月17日に1.734%を記録して以降は上昇に一服感が広がっており、最
根強さで
近は200日線を巡る保ち合い気味の膠着状態にある。ユーロ相場もやはり、現在は200
日線の攻防。株価(ここではユーロStoxx50指数)は6月から上昇局面に入り、8月初に
は200日線を回復したが、それだけに最近は調整局面入りの様相が一層強い。金利や
株価などの上昇は、市場でリスク・オフのムードが後退し、リスク・オンの気運が恐る恐る
出てきたため。まず、ECBの国債購入計画(OMT)発表と、それに触発された様々な改
革の進展(特にスペイン)によって、欧州債務危機に関わる(少なくともテール)リスクが
大きく後退した効果だ。イタリアやポルトガル、ギリシャ、アイルランド等でもそれぞれ改
革が進み、各国で長期金利が顕著に低下した。スペインの支援申請は依然として実現
していないが、全般的な改革進展を市場は取りあえず評価している。フランスやオラン
ダなど準コア諸国の金利は安定し(→対独スプレッドは縮小)、準コアの中で周辺に近
いベルギーの金利は低下した。また、米国の追加緩和策を中心とした世界的な金融緩
和に(ECBも含む)、一時悪化していた米国の景気指標が再び盛り返してきたことで、米
国を中心に世界的な株高を招いた影響も大きい(ドル安→ユーロ高の効果も)。ただ、
金融緩和(期待)の効果から、株価に比べて長期金利は下押し圧力も一方で掛かりや
すくなっている。もう一つは、中国など新興国で景気刺激策発動の期待が出た影響で
ある。もっとも、債務問題にせよ世界経済にせよまだ不透明感が大きく、市場では疑心
6
10 月の政策委員会会合における政策金利据え置きは、ドラギ総裁によれば全会一致で、利下げの議論すらなかったと
のことだ。
14
2012 年 10 月 26 日
暗鬼が根強く残っているため、200日線などの相場の節目まで戻したところで取りあえ
ず上昇一服・一巡感が広がったのが足元と位置付けられよう。
債務危機対策の進展から
11月以降のドイツ長期金利は、下押し圧力を根強く残しながらも、今夏以降の上昇
ドイツ金利は上昇継続
傾向を来年にかけて続けていく展開を引き続き予想する。欧州債務危機や世界経済減
へ。ただ、見通しは若干下
速観測など不透明感が根強く残る中、ドイツ国債のような安全資産に対する需要は簡
方修正
単には減じないとみられる。世界的な金融緩和の長期化観測が強まることで、短期ゾー
ンの金利の低迷が中期からさらに長期ゾーンに広がるメカニズムもやはり軽視できない。
ただ、欧州債務危機打開に向けた当局の対策や、新興国での景気浮揚策などが進む
とみられる中、市場における過度のリスク回避は今後弱まり、株式を含むリスク性資産へ
の資金シフトが徐々に進んでいこう。EMUの国債の場合、過度に売られた周辺債務国
国債へドイツ国債等から資金が回帰していくと期待できる。これは、ドイツが債務国のリ
スクを被ることによって債務危機の打開が進むとみられるためでもある。現在の異常に
拡大したコア・周辺間の利回りスプレッドが長期定着すると考えるのはやはり不自然だ。
ただ、世界的に金融緩和策の長期化(コミットやガイダンス)が一段と強まっているのも
事実であるため、今後数年間の長期金利予想をこのたび幾らか下方修正した。来年末
の見通しは先月の2.6%から今月は2.3%まで下げた。また、このようなドイツ金利上昇・
債務国金利低下見通しは、実際に楽観論・悲観論の交錯による激しいアップダウンを
伴うものとなる可能性が高いとの見方もこれまでと同じである。
(10 月 26 日 14:10)
15
2012 年 10 月 26 日
トピックス
14 年後半に始まる金利水準正常化の第一歩は流動性吸収措置
債券ストラテジスト 井上 健太
FRBは14年後半にバラン
今回、2014年にFRBが実施すると予想する金利水準の正常化1(利上げ)について、
スシートの圧縮に向けた
当方の見通しを変更した。従来、2014年後半に25bpずつ、2度にわたりフェデラルファ
措置を開始と予想を変更
ンドレート(以下、FF金利)誘導目標を引き上げ、2014年末までに政策金利を0.75%に
設定すると見込んでいた。正常化開始のタイミングの予想に変更はないが、FOMCは
FF金利を引き上げるのではなく、2014年10-12月期に購入債券の再投資を停止し、タ
ーム物預金等を利用して短期資金を吸収することでバランスシートの圧縮を開始すると
予想を変更する。この場合、政策変更は例年8月に行われるバーナンキ議長のジャクソ
ンホール講演や、2014年9月のFOMCを通じて実施が示唆されるとみる。そして、ある
程度、流動性が吸収できた2015年1-3月期になって、FRBはFF金利の誘導目標を25bp
引き上げ、金利正常化に向けた利上げを開始するとみる。他方、(当方のメインシナリ
オではないが)景気拡大がFRBの想定以上に早く進み、インフレ懸念等、経済環境が
必要とすれば、2014年10-12月期の段階で流動性吸収が不十分なまま準備預金金利
を引き上げる可能性がある。この場合、FF金利の誘導目標を(明示はしないかもしれな
いが事実上)一旦放棄することになるだろう。具体的には、例えば、0.75%の公定歩合
(Primary credit rate)と準備預金金利(25bp引き上げ0.50%に設定)の間のスプレッドの
範囲内で、FF金利を(なるべく低位に)誘導するよう、政策手段を変更するとみる。流動
性を十分に吸収しきれずバランスシートが膨張したままの状況でも、FRBには金利正常
化を開始する手段がある。
利上げ開始の準備には時
間が必要
今回、2013年後半から景気拡大局面入りという当方の米国経済見通しに変更はない。
それにも関わらず金融政策見通しを変更する理由は以下の2点:
①
9月のFOMCで「景気回復が強まったあとでも相当な期間にわたって低金利を
続ける」意向を明示した(表1)
②
バーナンキ議長が10月2日の講演で、異例の金融緩和からの出口政策につい
て、「必要ならば、FRBはバランスシートが依然として大きいままでも、準備預金
の付利を引き上げることで金融引き締めが可能。銀行はFRBに預ければ得られ
た利回りよりも低い利率では貸し付けを行わないので、金利が上昇し信用状態
を引き締めることができる」と述べた
当方では、ツイストオペが年内に終了することを見据え、2012年12月のFOMCで長
期国債の追加購入(450億ドル/月)が決定されると予想する(表2)。事実上無制限の資
産購入が大規模に、ある程度長い期間にわたって続くため、FOMCが意図するターゲ
ットへFF金利を誘導するには、事前にある程度(後述する方法で)流動性を吸収し、市
場機能を回復させる必要がある。さらに、議長は利上げを急がないと明言しており、金
1
FOMC 議事録には、出口政策を議論した際に「normalization」という単語が使われている。
16
2012 年 10 月 26 日
利水準の正常化を開始するには十分なマーケットへの周知と準備期間が必要だ。コミ
ュニケーションを通じて混乱を回避する手段として、FOMCは2014年末までに利上げ開
始や大量資産購入の圧縮へ向けた工程表を事前に提示する可能性もある。
表1:9月12-13日 FOMCにおける政策変更
①労働市場の改善が確認できるまで、毎月400億ドルのMBS買い取りを
(事実上のオープンエンドで)行うことを宣言
②もし雇用が改善しなければ追加資産購入や他の政策手段を実施する
用意があると宣言
③景気回復が強まったあとでも相当な期間にわたって低金利を続ける
意向を明示
④異例の金融緩和を続ける時間軸を2015年半ばまで延長
出所:FOMC声明文より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
表2:FOMCの量的緩和策
QE1
08年11月
MBSを5000億ドル
GSE債を1000億ドル
09年3月
MBS1.25兆ドル GSE債2000億ドル 国債3000億ドルに拡大
QE2
10年11月
国債6000億ドル
QE3
12年9月
MBSを毎月400億ドル
QE3拡大?
12年12月? 国債を毎月450億ドル追加購入
(ツイストオペ終了も長期債購入継続)
出所:Bloombergから三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
大量資産購入を続けなが
これらの事情を考慮し、当方の見通しを(冒頭に述べた)金利水準の正常化開始に
ら金利水準を正常化する
向けた準備措置を含む出口戦略へ変更した。その際、毎月のFRBによる長期資産購
ロードマップ
入については、当面、850億ドル/月ペースを維持すると予想する。金利正常化が本
格的な金融引き締めと受け取られないよう、景気拡大後も当面は緩和環境を維持す
ることを、行動を伴って示すためだ。利上げ当初は新規の資産購入が保有証券の再
投資停止に伴う資産減少を上回り、バランスシートは拡張を続ける。そのため、マーケ
ットが抱きかねない強い金融引き締め懸念は回避できるだろう。利上げ開始後、しば
らく時間をおいてから、(事前にアナウンスした上で)資産購入額を徐々に減らすと予
想するも、市場へのインパクトが大きい保有資産の売却計画は(当面)示さないとみる。
資産を売却せず、再投資の停止によるバランスシートの自然圧縮を当初は選択すると
みられるからだ。
FOMCによる出口戦略の
議論
この出口政策見通しの変更に際して、2011年6月21-22日のFOMCにおける参加者
の議論を参考にした。「FOMCが金融政策正常化の開始が適切になった際に従うだ
ろう戦略の主要な構成要素について、1人を除く参加者が以下のとおりで合意した」と
の記載がある:
①
デュアルマンデートを促進する金融政策正常化のタイミングとペースを決定
②
金融政策正常化プロセスを開始するために、FOMCはまず保有証券の元本
の再投資を停止する
17
2012 年 10 月 26 日
③
それと同時、あるいはその後、どこかのタイミングで、政策金利の先行きガイダ
ンスを修正し、適切なタイミングでFF金利引き上げを実施するために準備預
金を減少させる措置を開始する
④
経済環境が許せば、次のステップはFF金利のターゲット引き上げ開始。この
時点で、FF金利のターゲットあるいはレンジの変更が主要な金融政策手段と
なる。正常化の過程において、準備預金の付利や銀行システムにおける準備
水準の調整がFF金利をターゲットに誘導するために使われる
⑤
政府機関債の売却は、FF金利のターゲットを最初に引き上げたあと、どこかの
時点で開始される見込み。売却のタイミングとペースは事前に市場に向けて
周知されるだろう。そして、そのペースは緩やかなものであるが、経済見通し
や金融市場環境の変化に応じて調整され得る
⑥
一度、売却が始まれば、そのペースは3~5年で政府機関債の保有をなくすこ
とを目標に設定され、市場への影響は最小限にとどまる見込み
⑦
必要に応じて出口戦略の調整を実施する用意がある
ここでの③で言う「準備預金を減少させるための措置」としてはリバース・レポや、す
でにFRBが試験的に実施済みの「ターム物預金ファシリティー」が利用可能だ。後者
は入札方式(あるいは非競争入札)で利率が決定される(過去の例では)期間28日の
(引き出し不可能な)預金を通じた資金吸収手法であり、すでに5回の入札が実施され
ている。ターム物預金等で短期資金を供給しつつ保有証券の再投資を停止すること
で、マーケットの期待を管理しながら徐々にバランスシートの圧縮を図るとみる。
また、利上げ開始時点ではFRBのバランスシートは膨張したままであり、FF金利は
当面、準備預金金利の近辺で推移するだろう。2011年4月26-27日分の議事録によれ
ば、FOMCはFF金利が準備預金金利の下限に張り付いた状況を「floor-type system」
と呼んでいる。他方、より長期的には「corridor-type system」へ移行することに多くの
参加者が同意している、とされる。「corridor-type system」とは、準備預金につく金利
を事実上FF金利のフロアーに、公定歩合をキャップとして利用し、このレンジの間で
FF金利の変動を許容する方式だ。この指摘は上記ポイント④の後半部分の記述に該
当する。もし、インフレ懸念等、経済環境の変化が早期の金利正常化を正当化した場
合には、FRBがFF金利の操作可能性を確保できない状況でも、2014年10-12月期の
段階で「corridor-type system」を採用することが可能なはずだ。景気拡大に伴いカウ
ンターパーティーリスクが軽減するという条件付だが、金融機関はFF金利が準備預金
金利を上回れば、超過準備の保有ではなく、銀行間市場に資金を供給するほうを選
びやすくなる。他方、市場のボラティリティーが大きくなればFRBが十分に資金を供給
するし、金融機関が(ペナルティーなしで)公定歩合で借り入れることも許容すればよ
い。FF金利を十分にコントロールできなくても、FRBは準備預金金利と公定歩合の組
み合わせ(スプレッド)を適宜選択することで、経済主体の資金調達コストに影響を及
ぼすことが可能だ。想定外に景気回復が進んだならば、FRBよりもマーケットに資金調
達コストを決定させたほうが、効率的な資源配分の実現を期待でき、資産価格の歪み
防止につながる。ある程度、流動性が吸収できた段階で、FRBはFF金利の誘導目標
を復活すればよい。
18
2012 年 10 月 26 日
出口の条件として失業率
コミュニケーションを重視する今のFOMCにとって、出口戦略実施における課題とな
等の数値を提示するのも
りそうなのが、「政策金利の先行きガイダンス」だ。現時点では、「(1)景気回復が強ま
有効
ったあとでも相当な期間にわたって低金利を維持する」と同時に、「(2)異例の低金利
を15年半ばまで続ける」と宣言している(表1)。バランスシートの圧縮や利上げ初期の
段階では、(1)のガイダンスはそのまま残しても問題ないだろう。FRBが2015年前半に
1~2度利上げを実施したからと言って、異例の低金利であることに変わりはない。この
ガイダンスの意図は、バーナンキ議長が9月FOMC後の記者会見で述べた「労働市場
や景気が回復しても米国経済はFRB の金融面からの支援が必要」であり、FOMCは
「金融引き締めを急がない」というマーケットへのメッセージだからだ。
問題はFOMCが準備預金を吸収しバランスシート圧縮を開始してから、実際にFF
金利を引き上げるまでのガイダンスを如何に示すかだ。急激な金融引き締めにつなが
らないことはガイダンス(1)で明確に述べているから良いだろう。それと整合性をとりつ
つ、(数回に及ぶだろう)FF金利の小幅引き上げが許容される条件を、明示的に声明
文で提示することが必要だ。それは上記議事録のポイント④にある「経済環境が許せ
ば」ということなのだが、透明性を求める最近のFOMCメンバーとしては、許容しにくい
曖昧さを持った言葉に違いない。そこで、具体的な「経済環境」として、例えば、2012
年9月のFOMCにおいて示された「雇用環境の改善」を数値で明確化することが考え
られる(その時点でまだ実施されていなければの話だが)。今年9月FOMCで多くの参
加者が「より効率的な先行きガイダンスは、異例の低金利を維持するのと整合的な労
働市場やインフレ指標の数値を特定することで提示できる」と考えているものの、その
ような数値で合意を形成するのは困難であり、「さらなる議論が必要だ」として見送られ
た経緯がある。バランスシートの圧縮が可能になる2014年後半には、雇用は明確に改
善しているだろう。景気拡大が進み、雇用の改善トレンドがみえた状況ならば、6%台
半ば付近の失業率を利上げ開始の数値的な目処として声明文で明示することに強い
異論は出ないはずだ。実際、失業率が7%台を割り込んだ2015年には、金融引き締め
開始が適当とFOMCメンバーは判断している(表3)。失業率の数値を明示するならば、
ガイダンス(2)の2015年半ばまでという時間軸は声明文から削除すべきだろう。金利
正常化を無用な混乱なく実行するため、FOMCは出口戦略においても市場とのコミュ
ニケーション、透明性を志向し、予見可能な形で実施に踏み切ると予想する。
表3:FOMCメンバーの経済見通し(中心レンジ)
2012年
実質GDP
1.7 ~ 2.0
1.9 ~ 2.4
(6月時点)
失業率
8.0
~ 8.2
8.0 ~ 8.2
(6月時点)
PCE
1.7 ~ 1.8
1.2 ~ 1.7
(6月時点)
PCEコア
1.7 ~ 1.9
(6月時点)
1.7 ~ 2.0
引き締め開始 2012年
1
3
(6月時点)
2.5
2013年
~ 3.0
2.2 ~ 2.8
7.6
~
7.9
7.5 ~ 8.0
1.6
~
2.0
1.5 ~ 2.0
1.7
~
2.0
1.6 ~ 2.0
2013年
3
3.0
2014年
~ 3.8
3.0
2015年
~ 3.8
3.0 ~ 3.5
6.7
~
7.3
1.6
~
6.8
~
2.0
2.0
5.2
1.8
~
2.0
1.9
~
2.0
2.0
2
3
7
注:1.単位%、PCEは個人消費価格指数、PCEコア=食料・エネルギーを除く。
2.実質GDP、PCE、PCEコアは当該年第4Qの前年同期比
3.失業率は当該年第4Qの平均
4.中心レンジは最も高い(低い)参加者の予想値を除いたレンジ
5.(適切な)金融引き締めのタイミングはFOMC参加者の人数
出所:FRB資料より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
6.0
~
2.0
2.0 ~ 2.0
na
1.6 ~ 2.0
2014年
~
5.2 ~ 6.0
1.5 ~ 2.0
~
長期
~ 2.5
2.3 ~ 2.5
6.0
7.0 ~ 7.7
1.8
2.3
na
2015年
12
6
2016年
1
0
(10 月 26 日 9:00)
19
2012 年 10 月 26 日
トピックス
11 月のドル円相場:米大統領選挙の結果次第で振られ易い展開へ
シニア為替・債券ストラテジスト 植野 大作
10月のドル円相場~上旬
10月に入り、ドル円相場はやや円安含みの展開となっている。月初来の動きを振り
は、米景気回復期待で強
返ると、上旬は強含んだのち小緩む展開。78円00銭前後で取引開始後、東京初日に
含んだが、スペイン情勢を
一時77円79銭まで差し込む場面もあったが、同日夜の米9月ISM製造業指数が良好
巡る不透明感から79円00
な結果を示すと78円台を回復した。3日の米9月ADP全米雇用報告、ISM非製造業指
銭手前の上値が重い
数などが軒並み市場予想を上回ると米国景気回復期待から断続的に水準を切り上げ、
5日の米9月雇用統計で失業率が7.8%と3年9ヶ月ぶりの水準に改善した直後には一
時78円87銭まで上昇した。ただこの水準では伸び悩み、8日発足した欧州安定メカニ
ズム(ESM)に対するスペイン政府の金融支援要請の遅滞懸念が意識されると米国株
が年初来高値から軟化、米国債利回りの上昇幅圧縮に呼応する形で10日には一時
78円10銭台まで押し戻された。
図1:最近のドル円相場(日足)の推移
83円
83円
82円
82円
20日移動平均線
81円
81円
ボリンジャーバンド
2σ上限
80円
80円
79円
79円
78円
78円
77円
200日移動平均線
77円
ボリンジャーバンド
2σ下限
76円
2012年5月
76円
2012年6月
2012年7月
2012年8月
2012年9月
2012年10月
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
10月のドル円相場~中旬
中旬のドル円相場は下値を固めて大幅上昇。11日に米系格付け会社がスペイン
は、①日本企業の海外企
国債を格下げするとユーロ円の下落につられ、一時77円95銭まで下落した。ただこの
業買収、②米国景気回復
水準では政府要人の円高牽制発言などから下値が固く、「日本のソフトバンクが米携
期待、③日銀追加緩和観
帯電話3位のスプリント社買収を検討」との報道が伝わると78円40銭前後に急騰、15
測、の「3点セット」で一時
日に正式発表されると巨額買収資金のドル転需要が意識され78円60銭台まで続伸し
79円47銭界隈まで上昇
た。その後、米9月小売売上(15日)、鉱工業生産(16日)、住宅着工(17日)などが軒
並み市場予想を上回って米国債利回りが上昇したほか、17日深夜に日経が「月末会
20
2012 年 10 月 26 日
合で日銀が追加緩和を検討」と報じると円売り・ドル買いが加速、米10月フィラデルフ
ィア連銀指数の改善が伝えられた18日には一時79円47銭まで上昇した。19日は週末
を意識した持ち高調整で小緩み、79円10-40銭台で一進一退。
10月のドル円相場~下旬
下旬のドル円相場は続伸。22日に日銀が地域経済報告で東北を除く8地域の景気
に入り、日銀による追加金
判断を下方修正すると月末会合での追加緩和期待が強化されたほか、豊田自動織
融緩和観測の台頭から1ド
機が米フォークリフト用部品大手カスケード社買収を発表したことが一部で材料視さ
ル=80円台に乗せる展開
れると79円96銭まで円売りが加速した。23日付けの産経新聞が「政府が20兆円規模
の追加緩和を日銀に要求」と報じると80円01銭まで円売りが進んだが、城島財務相が
この報道を否定すると一旦80円割れ水準に押し戻された。24日の米連邦公開市場委
員会(FOMC)は「金融政策据え置き」で無風通過となったが、25日に日経が「日銀が
月末金融政策決定会合で10兆円規模の資産買入等基金の増額を検討」と伝えると
再び80円00銭を突破、米9月耐久財受注などの底堅い結果なども好感されてストッ
プ・ロスを巻き込むと、80円34銭まで続伸した。その後、「米英系格付け会社が米国債
を格下げする」という出所不明の噂が広がると79円96銭付近に失速する場面もあった
が、売り一巡後は買い戻され、26日早朝には一時80円38銭まで反騰した。
11月のドル円相場~過去
26日10:30現在、ドル円相場は80円10銭台で取引されており、月末の日銀金融政
約半年間も続く77円台か
策決定会合の結果を睨んだ「様子見モード」の趣を強めている。これまでのところ、10
ら80円台までのレンジ取
月のドル円相場は円安気味の展開だが、80円台に乗せると上値が重く、5月以降続
引を打破できるか?
いている1ドル=77円台から80円台までの取引レンジを突破できるかどうかは微妙な
雰囲気だ。延々半年近くも明確な方向感を見出せない商状が続く中、ドル円市場参
加者の間では抑圧された潜在的動意の蓄積が進んでおり、霜月相場に膠着打破の
転機を期待している向きは決して少なくない。果たして今後、ドル円相場はどちらにレ
ンジ・ブレークを果たすのだろうか。
図2:米国の住宅価格と名目GDPの推移
(97年1-3月期=100)
(97年1-3月期=100)
300
250
300
S&P/ケースシラー住宅価格指数
(コンポジット10)
250
200
200
150
150
100
100
米国名目国内総生産(GDP)指数
50
50
0
0
1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
21
2012 年 10 月 26 日
11月のドル円相場~米国
11月のドル円相場は、米国の経済指標と大統領・議会選挙の結果を睨んで上下ど
の経済指標と大統領選挙
ちらにも振れ易い展開か。最近の米経済指標をみると、依然として強弱混在している
の結果を睨んで上下どち
ものの、米9月雇用統計で失業率が3年9ヶ月ぶりの低水準まで改善したのを筆頭に、
らにも振れやすい展開か
秋口以降は消費、生産、住宅、およびマインド関連指標など幅広い部門で市場予想
を上回るものが増えてきた印象がある。特に最近の住宅関連指標では、①米ケース・
シラー住宅価格指数が5月以降4ヶ月連続で前月比プラスとなって長期底打ちの可能
性が意識されつつある(図2)ほか、②米9月住宅着工および建設許可件数がいずれ
も約4年ぶりの水準に回復する、③米10月NAHB(全米ホームビルダー協会)住宅市
場指数も6年ぶりの水準に上昇する、など比較的明るい兆候が散見され始めている。
2008年秋のリーマン・ショック以降、住宅市場の長期低迷懸念が米国景気回復力の
強化を妨げる足枷となっていただけに、これら一連の住宅関連指標の改善は、米国
景気楽観派の論拠としての存在感を増し始めている。近年のドル円相場は米国の景
況感の強弱に比較的素直に反応して上下する傾向が強く、11月に発表される一連の
米国経済指標で良好な結果が相次ぐようだと、米国景気の回復期待が一段と強化さ
れてドル円相場の上振れに寄与することになりそうだ。
米国景気回復期待が一段
ただし、米国景気の自律回復力に対する市場の「体感温度」が最近徐々に上がり
と強まればドル円相場は
始めてきているだけに、その期待が「贋物」だったと判明した場合には、マーケットの
上振れするが、期待が裏
失望が逆に大きくなるリスクもある。現在、米連邦準備制度(FED)は毎月400億ドルの
切られた場合は、失望に
住宅ローン担保債券(MBS)をオープン・エンドで購入する量的緩和第三弾(QE3)を
よる反動も大きい
実施中だが、同時並行で行っているツイスト・オペによる保有国債満期の長期化政策
は今年年末に終了期限を迎える予定だ。このため、11月に発表される米経済指標で
意外に冴えない結果が相次いだ場合には、「早ければ12月11-12日の米連邦公開市
場委員会(FOMC)で長期国債の買入れ強化を軸としたQE3の拡充が決定される」と
の観測が強まり、ドル円相場の思わぬ下振れを誘発する可能性も否定できない。これ
まで同様、11月のドル円相場は「米国景気回復期待の証左が積み上がればドル高・
円安」、「期待外れの肩透かしを喰った場合はドル安・円高」という分かり易いリアクショ
ンを反復しそうだが、2009年6月の米国景気底打ちから約3年半が経過し、米国経済
の循環回復力の強弱を巡る論争も次第に煮詰まってきた感がある。今後発表される
米国経済指標が強弱どちらに振れるにしろ、これまでの外国為替市場でみられたドル
円相場の是々非々の反応が、従来以上に大きくなる可能性には留意しておくべきだ
ろう。
米国大統領選挙および連
加えて、11月6日には米国大統領選挙及び連邦議会選挙の投開票が予定されて
邦議会選挙の結果次第
おり、結果次第でその後の市場の対米景況感が大きく振れる可能性がある。現在棚
で、「財政の崖」問題解消
上げにされている米国の「財政の崖」問題を巡る議論の進捗速度が、選挙結果の組
の成否が決まる
み合わせに依存して変わるとみられるからだ。これまでのところ、米国の「財政の崖」問
題に関しては、「現行法で規定されている一連の緊縮財政措置が放置されたら米国
景気の後退を招く」という「負の側面」のみが喧伝されているが、いわゆる「テール・リス
ク」の強い事案であるだけに、選挙後もしも「財政の崖が解消される」との期待が高まる
場合には、抑圧されていた市場のリスク許容度が一気に開花する可能性もある。よっ
て、米国の「財政の崖」問題を為替予測に取り込む際には、選挙後に始まる議会と大
統領府の交渉次第で市場を「リスク・オフの円高」にも「リスク・オンの円安」にも導き得
22
2012 年 10 月 26 日
る「両刃の剣」だと見做すのが妥当だろう。現時点で米国の大統領選、上下両院議会
選の結果を正確に予見するのは困難だが、以下では「頭の体操」の意味合いも込め、
「ドル円相場への影響」という観点から両極端に振れるケースを考察しておきたい。
米大統領府と連邦議会の
まずドル円相場が最も上振れし易いのは、米国の大統領府と上下両院の「ねじれ
「ねじれ」が完全に解消さ
現象」が完全に解消されるケースだ。米国の予算関連法案は、連邦議会上下両院
れる場合は、ドル円相場
各々の可決に加え、大統領の署名による承認、という3つのプロセスを経て成立、立法
上振れの可能性が高まる
化される仕組みになっている。このため、ホワイト・ハウスの支配政党と上下両院の多
数派政党のどれか一つにでも「ねじれ」が存在する場合には、程度の差こそあれ、予
算関連法案の審議は往々にして難航し、時には暗礁に乗り上げ易い。しかし、民主
党のクリントン(当時)アーカンソー州知事が大統領に初当選した1992年選挙、共和
党のブッシュ大統領が再選を果たした2004年選挙、民主党のオバマ(当時)上院議員
が大統領に初当選した2008年選挙のように、大統領府と連邦議会多数派政党の「ね
じれ」が完全に解消されるケース(表1)では、その後の予算審議及び大統領による署
名が比較的円滑に進み易くなる。
表1:米国大統領選挙および連邦議会選挙の結果
選挙
実施年
1956
1958
1960
1962
1964
1966
1968
1970
1972
1974
1976
1978
1980
1982
1984
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
議席数
96
98
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
共和
47
34
36
33
32
36
42
44
42
37
38
41
53
54
53
45
45
44
43
52
55
55
50
51
55
49
41
47
上院選挙
民主
その他
49
0
64
0
64
0
67
0
68
0
64
0
58
0
54
2
56
2
61
2
61
1
58
1
46
1
46
0
47
0
55
0
55
0
56
0
57
0
48
0
45
0
45
0
50
0
48
1
44
1
49
2
55
2
51
2
空席
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2
0
議席数
435
436
437
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
435
共和
201
153
175
176
140
187
192
180
192
144
143
158
192
166
182
177
175
167
176
230
226
223
221
229
232
202
178
242
下院選挙
民主
その他
234
0
283
0
262
0
258
0
295
0
248
0
243
0
255
0
242
1
291
0
292
0
277
0
242
1
269
0
253
0
258
0
260
0
267
1
258
1
204
1
207
2
211
1
212
2
204
1
202
1
233
0
256
0
193
0
空席
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
1
0
大統領選挙
共和
民主
アイゼンハワー
スティーブンソン
ニクソン
ケネディー
ゴールドウォーター
ジョンソン
ニクソン
ハンフリー
ニクソン
マクガバン
フォード
カーター
レーガン
カーター
レーガン
モンデール
ブッシュ(父)
デュカキス
ブッシュ(父)
クリントン
クリントン
ドール
ブッシュ(子)
ゴア
ブッシュ(子)
ケリー
マケイン
オバマ
ロムニー
オバマ
注:議会獲得議席は選挙直後の数。網掛けは与党獲得/大統領当選を示すが、その後の当選者の死亡、辞任、転籍等による変更事例もある
出所:米国議会資料より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
23
2012 年 10 月 26 日
民主党と共和党は「財政
現在、民主党と共和党の財政交渉は難航しているが、「財政の崖を回避すべきか
の崖」回避の是非ではな
否か」を巡る対立が激化している訳ではなく、「財政の崖を回避すべき具体的方策の
く、方法で揉めているた
違い」で揉めているのが実情だ。よって、民主党現職のオバマ大統領、共和党のロム
め、政府と議会の「ねじ
ニー前マサチューセッツ州知事のいずれが大統領選挙に勝利した場合でも、連邦議
れ」さえ解消すれば、超緊
会の「ねじれ現象」が同時に解消されれば、具体的施策の中味こそ違え、「崖」と呼ば
縮財政懸念は大きく後退
れるほどの超緊縮財政は回避される可能性が高くなる。すなわち、①オバマ勝利で民
主党が議会の多数派を独占した場合には、いわゆる「ブッシュ減税」のうち富裕層向
けは打ち切られるが中間層向けは延長され、公共投資の水準も維持するような立法
措置が採られるとの期待が高まるだろう。②ロムニー勝利で共和党が議会を独占した
場合には、「ブッシュ減税」は富裕層も含めて丸ごと恒久化され、国防費の大幅削減
は回避する立法措置が採られるとの期待が強まるはずだ。
米国景気が財政の崖から
いずれのケースでも超緊縮財政の「崖」は来年年明け後の比較的早い時期までに
転落するリスクが後退す
解消されるという期待が強まり、米国経済が「財政無策の陥穽」に嵌まり込んで人為的
れば、ドル円相場は上値
な景気後退局面入りを余儀なくされるリスクは著しく後退するだろう。もちろん、その場
の軽い状態へ
合でも「米国景気が自然体で回復軌道を維持できるか否か」という問題は残るが、「財
政の崖」懸念から開放された市場参加者は、現在オープン・エンドで実施されている
FEDの金融緩和による景気刺激効果に対する期待を膨らませる可能性が高く、当面
のドル円相場は「下値が堅くて上値が軽い」という心理状態に傾き易くなるのではなか
ろうか。先述のように、足下の米国経済指標は比較的良好なものが増えてきている印
象もあり、米国政府と議会の「ねじれ解消」という報道に対するイニシャル・リアクション
はやはりドル高・円安になるだろう。この場合のドル円相場は比較的あっさり80円台の
壁を突破、良好な米経済指標の追い風を受けて勢いがつけば、断続的なストップ・ロ
スなども巻き込んで、年初来高値から安値までの76.4%戻しに相当する82円26銭付
近の攻防が意識されるようになるかもしれない。
米国政府と連邦議会の
他方、ドル円相場が最も下振れしそうなのは、この真逆であり、当選した大統領候
「ねじれ」が今より酷くなる
補の所属政党と上下両院議会選挙で過半数を得た政党が完全に食い違い、米大統
場合、ドル円相場は再び
領府と連邦議会の「ねじれ」が今より一層酷くなるケースだ。共和党の(父)ブッシュ
介入打診の「肝試し相場」
(当時)副大統領が次期大統領への昇格を決めた1988年や、クリントン大統領が再選
となる可能性も
を果たした1996年などがこのケースにあたる(表1)。この場合、次期合衆国大統領、
上下両院の議会指導部がともに「選挙民の付託を得たのは自分達の陣営だ」との自
負を強めて財政交渉に臨む可能性が高く、「財政の崖」解消に向けた議会審議は円
滑に進むものの、大統領拒否権の発動警告や実際の発動によって法案成立の見込
みがなかなか立たない状況が続くだろう。結果的に、来年年明け後も「財政の崖」解
消の見通しが全く立たない状況が放置されると、最近ようやく伸び始めた米国景気回
復期待の萌芽が一時完全に摘み取られることにもなりかねない。この場合のドル円相
場は、再び77円台の定着を試す展開となり、選挙後に発表される米国経済指標の結
果次第では、年初来安値の76円03銭の突破をも睨んで「本邦通貨当局による為替介
入が一体どこで出てくるのか」を打診するような緊迫感満点の「肝試し相場」の様相を
強めそうだ。
24
2012 年 10 月 26 日
米国で「財政の崖」放置懸
10月10日に発行した外貨投資の視点(No.39)「日銀による外債購入の可能性と為
念が一段と強まるような環
替相場への影響」で指摘したとおり、我々は1ドル=76円台以下のレベルではドル円
境下では、ドル円相場は
相場の水準にほぼ反比例する形で本邦財務省による大規模な円売り介入発動の可
歴史的円高圏での推移を
能性が高まるとの見方を維持している。このため、日本政府による為替円売り介入が
余儀なくされる
出てきた時点でドル円相場の下ヒゲはいったん短く刈り込まれて下値は堅まりそうだ
が、米国で「財政の崖」が放置されるとの懸念が強まっているような状況下では、為替
介入の神通力だけでドル円相場の上値が目立って軽くなるとは思い難い。その後し
ばらくの間は、米国で良好な経済指標が発表されてもドル円相場の上値がなかなか
伸びず、冴えない米経済指標の結果に撃墜されたり、財政交渉の決裂報道が伝えら
れるたびに下値試しの気運が強まるだろう。よほど思い切った金融緩和を日銀が実施
して財務省の為替介入政策との協働姿勢を示さない限り、ドル円相場は歴史的安値
圏(=円の高値圏)での往来を余儀なくされるとみられる。
ロムニー勝利の場合はド
ただし、より現実的に考えると、全く同じ日に実施される米大統領選挙と連邦議会
ル高・円安だが、オバマ再
選挙の結果がこれほど極端な股裂き状態になる可能性はかなり低そうだ。よって、上
選をメイン・シナリオに据
記の「頭の体操」シナリオで想起したドル円相場の急落リスクが喫緊のテーマとして霜
えた場合、11月のドル円
月相場を支配する可能性は比較的小さいとみられる。もしも共和党のロムニー候補が
相場が極端に振れる可能
大統領選挙で勝った場合は、現在の議席数の差などからみて下院の多数派は共和
性は小さくなりそう
党が維持したまま上院多数派も同党に独占される可能性が高く、共和党的な手法で
「財政の崖」が解消されるとの期待が強まって、ドル円相場は先述のような水準に急騰
する可能性もあるが、我々の外債市場分析チームのメイン・シナリオは「オバマ再選」
だ。この場合、上院は引き続き民主党が多数派を維持する可能性が高いが、下院の
民主党勢力が相当躍進しない限り、「ねじれ」の程度が多少薄まったとしても多数派を
奪回出来るまで議席を伸ばせるかどうかは微妙だろう。
オバマ勝利で議会の一部
現職のオバマ大統領が再選を果たした場合、「財政の崖」回避に向けた議会との交
に「ねじれ」が残る場合、
渉がロムニー新大統領誕生のケースに比べて早く始められる利点はあるが、共和党
当面のドル円相場は、米
が下院の多数派を握っている「ねじれ」の状態が完全に解消されない限り、民主党側
国政治の「良識」に期待し
も何らかの譲歩は必要だ。交渉には時間がかかり、選挙結果の判明直後から市場が
つつ、ファンダメンタルズ
リスク・オン一色の楽観ムードに染まる可能性は低いだろう。ただ、このケースでも「財
睨みの往来へ回帰
政の崖」回避に向けた議論自体は動き始めるため、「財政無策による人為的景気後
退だけは恐らくどこかで回避される」という茫漠とした米国政治の「良識」に対する市場
の期待はこれまで同様残るとみられる。このため、FEDを含めた市場参加者のコンセ
ンサス見通しに「財政の崖」炸裂という酷な前提がすぐに採用されることはなさそうだ。
この場合、当面のドル円相場は米国の「財政の崖」の部分的な解消措置や暫定的な
回避措置がどこかで採られる可能性を視野に入れつつ、「米経済指標の結果を睨ん
で日々上下する」という「ファンダメンタルズ回帰」の色彩を強めるのではなかろうか。
11月に発表される米経済指標がよほど一方に偏った結果にならない限り、既存の取
引レンジからの多少の「はみ出し」はあっても、ドル円相場の上値は米財政交渉睨み
で押えられる一方、下値は日本政府の介入懸念(あるいは期待)で堅い状況が続くだ
ろう。
25
2012 年 10 月 26 日
日本側では円高抑止材料
日本側の材料に目を転じると、10月以降はドル円相場の下値を支持する要因がや
がやや目立ってきたが、
や目立ってきた感はある。しかし、強烈な円安動意を促すまでには至っておらず、ドル
強烈な円安動意を促すに
円相場のトレンドを変えるほどの神通力には欠ける状況が続きそうだ。以下2点を指摘
は至らない状況が続く
しておきたい。第1は、日本企業の海外進出に絡んだドル転の時期や水準に対する
思惑だ。10月中旬に日本のソフトバンクが発表した超巨額の米企業買収が心理的な
「呼び水」となり、その後は日本企業の海外進出に絡んだ「需給トーク」に対する市場
の感応度が微妙に上がった印象がある。ソフトバンクがプレスリリースで発表した米携
帯電話大手の戦略的買収総額が「201億米ドル」と巨額だったことに加え、その円換
算値に用いられた試算レートが「1米ドル=78円」だったことなどが話題になっている。
偶然の一致だろうが、この水準は昨年11月初旬に本邦通貨当局が覆面型でドル買
い・円売り介入を実施していたレベルにほぼ一致しており、市場の一部では今後この
水準が「ソフトバンク&財務省フロア」のような形で意識されるのではないかとの声もあ
るようだ(図3)。その後も豊田自動織機が22日に発表した米フォークリフト用部品大手
のカスケード社買収が一部で材料視され、ドル円相場が一時円安に振れる際のモメ
ンタム作りに利用されるなどの事例が散見されている。
図3:近年実施された為替介入とドル円相場
98円
98円
2010/9/15(10:30過ぎ)
円売りドル買い介入(2兆1249億円)
日本政府単独・当日告知型
82円87銭→85円77銭(△2円90銭)
効力持続期間:15営業日
96円
94円
92円
90円
86円
82円
94円
92円
2011/11/1-4(時刻不明)
円売りドル買い介入(累計1兆195億円)
日本政府単独・後日公表覆面型
推定介入水準(77円89銭-78円02銭)
88円
84円
96円
2011/8/4(10:00過ぎ)
円売りドル買い介入(4兆5129億円)
日本政府単独・当日告知型
77円12銭→80円24銭(△3円12銭)
効力持続期間:3営業日
90円
88円
86円
84円
ドル円相場
( 週間変動実績)
82円
80円
80円
78円
78円
76円
74円
72円
76円
2011/3/18(9:00過ぎ)
円売りドル買い介入(6925億円)
主要7カ国協調・当日告知型
79円20銭→81円98銭(△2円78銭)
効力持続期間:83営業日
70円
10/01
2011/10/31(10:25過ぎ)
円売りドル買い介入(8兆722億円)
日本政府単独・当日告知型
75円62銭→79円53銭(△3円91銭)
効力持続期間:11ヶ月超(継続中)
74円
72円
70円
10/07
11/01
11/07
12/01
12/07
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
日本企業の海外進出に絡
日本の国際収支統計に示される直接投資収支の赤字が足下で過去最大規模に膨
ん だ 円 売 り の思 惑 が 、 し
張していることもあり(図4)、「歴史的円高水準で喚起される本邦企業の海外進出」と
ばらくの間は意識され易
いう分かり易いテーマが、最近の外為市場で「旬」の話題になりつつあるようだ。通常、
い局面に
この手の企業買収案件は公表直前まで秘密裏に進められるため、報道は「日時不
定」となる。このため、発表日時が予め分かっているマクロ経済指標などと違い、事前
に心の準備をして相場変動に備えるのが非常に難しい厄介な材料だ。「第二、第三
26
2012 年 10 月 26 日
のソフトバンク」が現れる可能性も含め、ドル円市場関係者にとっては、「注意しにくい
要注意材料」が増えてしまったと言えるだろう。このため、当面のドル円相場では、ある
程度円高が進むと大手邦銀筋によって持ち込まれた「まとまった規模のドル買い・円
売り注文」の噂などが広がり、本邦通貨当局の覆面為替介入かと誤認されたり、真贋
不明の海外企業買収玉のドル転騒動などが勃発し易い心理状態が続くかもしれない。
しばらくの間はドル円相場の下値支持に寄与する可能性はあるだろう。
図4:日本の直接投資収支とドル円相場
(円)
60
直接投資収支
(12ヶ月移動平均、右軸)
(年率、兆円)
0
直接投資収支
-1
(除く再投資収益)
-2
80
-3
-4
100
-5
-6
-7
120
-8
-9
140
-10
ドル円相場(逆目盛、左軸)
-11
160
-12
1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
ただ、その円高抑止効果
ただし、10月17日に発行した外貨投資の視点(No.41)「日本企業の海外進出とドル
は、あくまでも一過性で趨
円相場への影響」で詳述したとおり、実際のドル円相場の市場規模は個別企業の海
勢的な為替相場のトレンド
外企業買収案件で発生する為替需給を容易に希薄化できるほど大きい。2010年4月
には影響しない
に国際決済銀行が実施した調査に基づく「世界為替市場活動報告(Report on global
foreign exchange market activity in 2010)」によれば、1日平均の「ドル円通貨ペア」の
売買高は5680億ドルだった。日々莫大な金額が取引されている外国為替市場の実態
に想いを致すと、個別の事例として如何に巨額の国際企業買収が話題になったとして
も、その心理的インパクトはあくまでも一過性であり、趨勢的なトレンドを左右するような
材料にはならないと考えるのが妥当だろう。今回のソフトバンクの事例もその例外では
なく、当面はドル円相場の下値支持要因として意識はされそうだが、時の経過とともに
その影響は徐々に希薄化していくのではなかろうか。
日銀に対する「際限の無
第2は、日本銀行による金融緩和期待の高まりだ。17日深夜に配信された日経報
い」追加金融緩和期待が
道などを皮切りに「今月30日の金融政策決定会合で日銀が追加緩和を検討」という主
またも台頭
旨の報道に加え、その規模や内容を巡る観測報道が各所で氾濫、次回会合での日
27
2012 年 10 月 26 日
銀緩和はほとんど「既定路線」であるかのような取り扱いを受けている。10月下旬の外
国為替市場でドル円相場は断続的に80円台に乗せる場面も散見されているが、日銀
の追加緩和に対する期待がその一因となっていることは間違いない。10月23-24日の
FOMCでFEDの金融緩和が「1回パス」となったタイミングでもあり、その間隙を縫うよう
な形で日銀がかなり思い切った金融緩和に踏み切れば、霜月相場を相応の円安色
に染めることは可能かもしれない。
ただし、追加5兆円~10兆
ただし、今回の金融政策決定会合における追加緩和は、既にかなり織り込まれてし
円程度の資産買い取り増
まった感がある。我々の円債市場分析チームでは、30日会合での追加金融緩和の規
加は、既に市場に織り込
模を「長期国債5兆円、短期国債およびリスク性資産5兆円以上」で総額10兆円超と予
まれている可能性も
想しているが、市場の一部では「政府が日銀に20兆円規模の追加緩和を要求」との
観測報道が意識されて円売りが進む場面もあった。その後この報道は城島財務相に
否定されたが、「火の無いところに煙は立たない」という市場心理まで揉み消すのは不
可能であり、月末会合での日銀の追加緩和に対する市場の期待値は相当引き上げら
れたのではなかろうか。よって、もしも当日の金融政策決定会合で日銀が「ゼロ回答」
や「小額回答」を示した場合は、為替相場が円高に振れる可能性が高く、我々を含め
た大方の市場参加者が見込んでいる10兆円程度の追加緩和「だけ」ならば、既に織り
込み済みの可能性もあるだろう。次回会合で日銀が市場の予想の枠外に及ぶ追加緩
和策を提示しない限り、ドル円相場の円安反応はあったとしても一時的なものに留まり
そうな雰囲気が濃厚だ。
日銀の金融緩和による円
「量的金融緩和の先駆者」を自認する日銀にとっては忸怩たる想いもあるだろうが、
高抑止の守備力は向上し
為替相場の反応はあくまでも国内外の金融政策の比較「感」によって決まる面があり、
た感があるが、円安・ドル
日米の中央銀行の総資産規模の膨張率に一瞥して著しい格差がある状態が続いて
高圧力を米国に押し付け
いる間は、日銀の金融緩和が主役に大抜擢されてドル円相場を趨勢的な円安に誘う
る攻撃力はまだ備わらず
可能性は低そうだ(図5)。現在、米国連邦準備制度(FED)はオープン・エンド型の量
的金融緩和第三弾に踏み切っており、これに対抗するには日銀も相当思い切った金
融緩和を打ち出す必要があるだろう。過去十数年以上も日本ではデフレが続き、「物
価の安定確保」という本来業務で全く結果が出せていない日銀に対しては「世界的に
みて類例の無い長期デフレに陥って『病膏肓』となってもなお副作用を恐れて地味な
金融緩和薬の投与に固執している」というイメージが定着してしまった感がある。為替
相場は多分に「心理戦」の要素を備えており、「実際の物価上昇率がマイナスに落ち
込む手前の『未病』の段階で金融緩和薬の無制限投与に踏み切っているFED」との
印象格差が埋まらない限り、ドル円相場を舞台にした日米金融緩和合戦の戦況が日
本有利に傾く可能性は低いのではなかろうか。最近は日銀も金融緩和に前向きなオ
ーラを身にまとい始めた印象もあるため、円高抑止の「守備力」はかなり向上した感が
あるが、次回10月30日の会合で我々が予想している追加10兆円程度の緩和では、円
安(ドル高)圧力を米国に押し付けるだけの「攻撃力」は、まだ備わらないとみておきた
い。なお、11月の日銀金融政策決定会合の結果は20日に発表される予定だ。我々の
円債市場分析チームでは、10月30日会合で約10兆円規模の追加緩和が実施される
ことを前提に、3ヶ月連続の金融緩和は見送られる可能性が高いとみている。
28
2012 年 10 月 26 日
図5:日米中央銀行の総資産指数とドル円相場
(2008年9月=100)
(円)
300
275
FEDの総資産膨張
ドル安・円高
250
300
70
275
80
250
225
ドル円相場
(右軸、逆目盛)
(円)
150
日銀の総資産膨張
円安・ドル高
140
130
225
90
200
(2008年9月=100)
60
ドル円相場
(右軸、順目盛)
120
200
100
110
175
175
110
100
150
150
120
90
125
125
130
100
80
100
75
米連邦準備制度(FED)総資産指数
(左軸)
50
140
日本銀行総資産指数
(左軸)
75
150
70
50
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
60
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
注:左図の網掛け部分は米国の量的緩和第一弾、第二弾の実施時期。右図の網掛け部分は、日本の量的緩和実施時期及び資産買入基金創設以降
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
11月のドル円相場の予想
以上の要因を総合的に勘案し、11月のドル円相場の予想レンジは、1ドル=77円75
レンジはやや広めに設
銭~81円75銭程度としておきたい。先述の極端な「頭の体操」シナリオの可能性を両
定、選挙結果等を見極め
方とも反映させるなら、1ドル=75円75銭~82円75銭とかなり広めに設定しておく方が
た上で中長期シナリオの
無難な気もするが、①米国の大統領選挙はオバマ再選、②連邦議会上院は民主党
妥当性を検討へ
が多数派維持、③下院は民主党が議席を伸ばしても過半数奪回には至らない、とい
う我々の外債市場分析チームのメイン・シナリオを前提にした場合、予測レンジはもう
少し縮めておいた方が良さそうだ。もちろん、米国の選挙結果はフタを開けてみるま
で分からないし、それを踏まえた上で日米の金融政策運営に対する市場の期待も
日々変化することが予想される。今後実際に判明する米国の大統領・議会選挙の結
果を踏まえて米国の財政・金融政策運営への影響を再考し、日本の政策対応なども
見極めた上で、我々が従来提示してきたドル円相場の「中長期底入れシナリオ」の妥
当性を検討したいと考えている。
Большое Спасибо.
29
(10 月 26 日 10:30)
2012 年 10 月 26 日
米国金融市場動向
大統領選挙を控え来週の債券市場は方向感なしと予想
債券ストラテジスト 井上 健太
FRBは14年後半にバラン
今週の米債市場はイベン
今週の米国長期金利(10年物指標国債利回り:以下同じ:図1)は大統領選挙を2週
ト待ちで方向感無く小動き
スシートの圧縮に向けた
間後に控え、上下に方向感のない展開。主要な経済指標もなく、決算シーズンを迎え
措置を開始と予想を変更
動きが活発な株価につられる展開が目立った。1週間を通じてイールドカーブはベアス
ティープ化が進んだ。25日の終値は10年債が1.82%、2年債が0.31%。
図1: 米国10年国債利回り(日次)
2.4
(%)
2.3
2.2
2.1
2.0
1.9
1.8
1.7
1.6
1.5
1.4
1.3
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
出所:Bloombergから三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
FOMC は予想通りの無風
通過
先週10月19日(金曜日)の米債券市場は、EU首脳会談でスペインの救済申請につ
いて具体的な進展がなかったことを失望し、安全資産需要から利回りが低下した。10年
債利回りは前日比7bp低下の1.77%。スペインのラホイ首相は救済要請について「人々
が私に圧力を加えたとしても私はそれを考慮に入れないが、率直に言って誰も圧力を
かけてはいない」と述べた。また、この日発表された経済指標では、9月の中古住宅販
売は475万戸で市場予想(Bloombergによる、以下同じ)と一致、販売は前月から低下
(▲1.7%)も在庫が減少(同▲3.3%)し、価格は前年同月比11.3%上昇した。住宅市場
の改善が続いているとの当方の見方をサポートする内容だ。また、GEやマイクロソフト
等、米主要企業の決算が低調だったことから、株価が大きく値を下げたことも、債券の
需要増につながった。
週明け22日の米債券市場では、特段材料はなかったものの利回りが上昇、先週末
の利回り低下をほぼ帳消しにした。大統領選挙を2週間後に控え、NBCニュースとウォ
ール・ストリート・ジャーナルが実施した調査で、オバマ候補とロムニー候補の支持率が
ともに47%で並んだ。また、この日、フロリダ州・ボカラトンで(最後となる)第3回目のテ
レビ討論会が行われた。今回は聴衆が討論中の反応(拍手等)を控える中、両候補が
30
2012 年 10 月 26 日
机の前で席につく通常の討論形式で行われた。今回は大部分の時間を外交政策に充
てたことから、経済問題は外交・軍事に関わる議論の中で触れられる程度にとどまった。
討論を聞くと、外交面でロムニー候補独自の主張は特段みられなかった。オバマ候補
はこれまでの実績を交えて議論できた分、討論を優位に進めた感がある。他方、ロムニ
ー候補は「世界における強いアメリカ」の必要性を説き失点無く切り抜けたようにみえた
が、Bloombergが報じたCNNの世論調査によれば、今回の討論は「オバマ氏勝利48%、
ロムニー氏は40%」との結果だった。外交分野で成果を強調し支持拡大につなげたか
ったオバマ候補だが、第1回討論におけるロムニー候補のパフォーマンスがゲームチェ
ンジャーの役割を果たしたほどのインパクトは、討論を通じて感じられなかった。22日の
第3回討論が両者の支持率に顕著な差をもたらすとは思えず、ほぼ互角のまま投票を
迎えることになりそうだ。
翌23日は利回りが低下。この日発表された企業決算が失望を誘い株価が大きく値
を下げ、景気後退懸念から債券が買われた。また、2年債入札も好調だった。24日の
債券相場は小動き。10月23-24日の2日間の日程で行われたFOMCは、事前予想通り
政策変更はなし。次回12月FOMCにおける政策変更へ向けたサインも出なかった。9
月に実施を宣言したQE3を含む一連の景気刺激策の効果見極めを意図したとみる。
具体的には、ツイストオペレーション、9月に決定したQE3、元本の再投資継続を決定
した。また、小売統計等を受けて個人消費が「幾分加速」し、エネルギー価格の上昇
でインフレ率が若干高まったことを声明文に明記した以外は、FOMCの景気認識に変
更はない。声明文からは読み取れないが、今回の焦点はFOMC内部における議論に
ある。10月FOMCの議事録は11月15日(日本時間早朝)に発表されるが、そのポイント
は以下の2点:
①
ツイストオペ終了に伴うQE3拡充に関する議論の有無
②
時間軸の議論に進展はあるか?
当方は12月11-12日のFOMCで年末のツイストオペ終了を見据え、長期国債買い入
れの増額(毎月450億ドル)に踏み切ると予想する。また、次回の政策変更の有無に関
連して、現状は2015年半ばとしている時間軸について議論が行われたはずだ。財務省
証券の追加購入を決定すると同時に、異例の低金利を維持するのと整合的な労働市
場やインフレ指標の数値で参加者の合意が得られ、12月FOMCで実行に移されれば
ポジティブサプライズになるだろう。また、この日発表の経済指標では9月の新築住宅
販売が38.9万戸となり10年4月以来2年ぶりの高水準、市場予想(38.5万戸)も上回っ
た。
25日は利回りが上昇。株価の上昇や、この日行われた7年債入札の不調が影響した
模様。経済指標では9月の製造業受注が前月比+9.9%増と市場予想(+7.5%)を上回
った。しかし、8月の大幅減を取り戻すには至らず、7-9月期は前期比年率で▲5.1%と
なった。また、設備投資の先行指標となる非国防資本財受注(除く航空機)は前月比横
ばい、7-9月期でみると前期比年率▲23.5%の大幅減となり、設備投資の弱さは当面
継続することが示唆された。そして本日26日発表のGDP統計で設備投資の基礎統計と
なる非国防資本財出荷(除く航空機)は前月比▲0.3%、3ヶ月連続の減少となり7-9月
31
2012 年 10 月 26 日
期は前期比年率▲4.9%となった(図2)。当方は7-9月期の設備投資がGDPにマイナス
で寄与すると予想している。また、先週の新規失業保険申請件数は2.3万人減少の36.9
万人に改善した(図3)。ただし、四半期の初めに失業保険を申請すると最終的な給付
額が増えるため、期初の申請件数は上振れしやすいとみられ、季節調整の歪みが出や
すい。4週移動平均でみると過去3ヶ月は36万件台半ばから37万件台で下げ止まって
おり、雇用環境の改善は足踏み状態が続いていると判断すべきだ。
図2:コア資本財出荷と設備投資の推移
(%)
図3:新規失業保険申請件数の推移
(前期比年率)
30
(千人)
500
名目設備投資
(GDPベース)
20
400
10
0
-10
非国防
資本財出荷
(航空機を除く)
-30
(万件)
30
35
100
40
0
45
-100
50
-200
55
-500
新規失業保険
申請件数
(右逆メモリ)
-600
60
65
70
75
-700
80
88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
出所:米労働省『Employment Situation』より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
出所:米商務省統計より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
来週のプレビュー:
25
200
-400
-40
20
300
-300
-20
非農業部門
雇用者増減数
(左メモリ)
来週の債券市場は大混戦の大統領選挙を控え、明確な方向感が出にくいだろう。株
株価、経済指標、欧州危
価、経済指標、欧州債務危機の新たなニュースに対して、利回りが大きく上下に反応し
機に関するニュースに対
やすい展開を予想する。本日(金曜)は7-9月期GDP、来週に入るとISM製造業景況指
し、利回りは上下に反応し
数(10月)、雇用統計(10月)等、主要経済指標の発表が続く。7-9月期GDPについて、
やすい展開を予想する
当方は設備投資や外需を中心に下振れリスクが強いとみる。また、米大統領・議会選
挙直前の雇用統計がもたらすインパクトは、政治的にも経済的にも大きいはずだ。(後
述するが)当方は失業率が8%に乗せ、雇用者数は+8.5万人増と弱めの結果を予想す
る。弱い雇用統計はオバマ候補の選挙戦に向かい風となるだろう。その接戦の大統領
選挙だが、当方はオバマ大統領再選も下院の共和党支配継続をメインシナリオとして
いる。上院は何とか民主党が過半数を維持するも、議会のねじれは解消しないと予想
する。
雇用統計は弱めの結果を
予想
来週発表される経済指標は、10月29日に個人消費・所得統計(9月)、30日にケース
シラー住宅価格指数(8月)、消費者信頼感指数(10月)が発表される。すでに発表され
た小売売上高が好調だったことから、当方は9月の個人消費は市場予想と同じ前月比
+0.6%増の高い伸びを予想する。株高や住宅価格の下げ止まりを受けて、個人消費は
堅調を維持する見込み。他方、個人所得も健闘し同+0.6%増と高めの伸びを予想する。
翌10月31日は雇用コスト指数(3Q)とシカゴ購買部協会景況指数(10月)、11月1日は雇
用統計を占う上で注目のADP雇用(10月)、労働生産性(3Q)、新規失業保険申請件数、
ISM製造業景況指数(10月)、自動車販売(10月)の発表が予定されている。そして2日
32
2012 年 10 月 26 日
は注目の雇用統計(10月)、製造業受注(9月)が発表される。雇用統計について、先月
の失業率低下はサプライズだったが、マーケットは失業率の小幅悪化(7.9%)、雇用者
数も前月並みの+12.1万人増と予想している。当方は先行き不透明感から企業の採用
抑制が続き、雇用者数は市場予想の下限に近い+8.5万人増にとどまると予想する。労
働参加率は上昇し、失業率は前月から0.2%ポイント悪化の8%を見込む。
<予想レンジ:米国 10 年国債利回り
1.65~1.95%>
(10 月 26 日
33
8:30)
2012 年 10 月 26 日
ユーロ圏金融市場動向
不透明感が残ることでドイツ金利の上昇は一服
シニア債券ストラテジスト 中沢 剛
今週のレビュー:ドイツ金
今週のドイツ長期金利(10年物指標国債利回り:以下同じ:図1)は先週末の反落を
利は200日線を巡る攻防
受けて小幅続落。200日線水準を巡る攻防で保ち合いの様相を強めている。スペイン
に終始
の支援申請が遅れるなど債務問題を巡る不透明な情勢持続や、足元の景気後退持続
を示す指標の発表等から、ドイツ金利の一本調子での上昇は難しくなっている。スペイ
ンやイタリア、ギリシャ、アイルランド等の金利はやや上昇した(図2・3)。仏>独や蘭>
独など準コアの対独スプレッドは小幅拡大。
株価(ここではユーロStoxx50指数)はドイツ金利より早く6月初から上昇局面に入って
いた分、上昇一巡をより強く感じさせる下落となった。米国を中心とした企業収益の不
調で世界的に株価の調整色が強まっている模様(+株高を主導したアップル株は特に
大幅な下落)。ユーロ相場の場合、米国の金融緩和によってもう少し堅調だが、最近は
やはり200日線を巡る攻防で膠着しており、今週は下落した。
それでも、債務危機の克服に向けた対策の進展に対する期待も一方では強く、また、
中国などで景気減速一巡を示す指標が出てきた影響もあり、ドイツ金利にはそれなりの
下支えも出ているようだ。25日のドイツ金利終値は10年物1.583%、2年物0.083%。イー
ルドカーブはブル・スティープ化傾向となった。
図1: ドイツ10年国債利回り(日次)
1.9
(%)
1.8
1.7
1.6
1.5
1.4
1.3
1.2
1.1
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
出所:Bloombergから三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
スペインの支援申請の遅
先週19日は、前日から続くEUサミットでスペインの支援申請の動きがなかったこと(ラ
れや景気指標の悪化が金
ホイ首相は完全に否定する発言)や、米国の企業決算不調による株価下落によって、
利上昇の重石に
欧州株は下落した。共通銀行監督機構についても意見の不一致が相変わらず残って
34
2012 年 10 月 26 日
いる。スペインやイタリアの金利は上昇し、ドイツ金利は低下。ユーロも下落した。それ
でも、ギリシャやポルトガルの金利は低下している。
週末21日のスペインのガリシア州議会選挙で、ラホイ政権与党の人民党が過半数議
席を確保して勝利。ラホイ首相にとっては一安心となった1。
図2:スペインの10年国債利回り
図3:イタリアの10年国債利回り
6.8
7.8
(%)
7.6
7.4
7.2
7.0
6.8
6.6
6.4
6.2
6.0
5.8
5.6
5.4
5.2
Jun-12
Jul-12
Aug-12
Sep-12
Oct-12
出所:ブルームバーグから三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
(%)
6.6
6.4
6.2
6.0
5.8
5.6
5.4
5.2
5.0
4.8
4.6
Jun-12
Jul-12
Aug-12
Sep-12
Oct-12
出所:ブルームバーグから三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
今週の週明け22日は、アジア時間からユーロが上昇。ただ、選挙勝利によるリスク後
退でラホイ政権は支援申請にさらに時間をかけるとの思惑も出て、スペイン金利は一段
と上昇した。それでも、ドイツ金利は200日線から反発する形で上昇。イタリアは、先週
の個人向け国債発行が大成功に終わったことで2、今年の短期国債発行を減額すると
の発表もあり、金利が低下。株価は一時上昇したが、世界経済の不透明感から途中で
失速し、前日比下落して引けた。
23日は、相次ぐ企業決算不振で米国と共に株価の下落が加速した。また、スペイン
の支援申請が遅れていることに加え、(1)米系格付け機関がスペインの5つの州を格下
げ、(2)スペインが短期国債を入札、(3)スペインの第3QのGDPがマイナス成長3、(4)スペ
イン政府が今年の財政赤字が目標を超過する見込みと欧州委員会に通告したとの報
道4、などからスペイン金利が大幅上昇。イタリアやポルトガル、ギリシャの金利も上昇し、
ドイツの金利は反落した。ユーロは大幅下落。
24日は、PMIやドイツIFO景況感指数が予想外に悪化したことで(後述)、ドイツ金利
は株価やユーロ相場と共に下落。ドイツ金利は、ドイツ10年物国債の入札好調もあり、
低下したままで引けた。一方で株価はSAPなどハイテク企業の決算好調で盛り返し、前
日比上昇で終了。スペインやイタリアの金利は反落した5。
25日は、ギリシャ向けにEMU諸国から追加160~200億ユーロの追加支援が行われ
る見込みとの独紙報道でユーロが大幅上昇。IMFによるポルトガル向けトランシュ供与
1
2
3
4
5
ただし、同日のバスク州議会選挙では地域政党のバスク国民党が勝利し、分離独立派のビルドゥが躍進した。
リテールの個人投資家を主なターゲットして先週入札した 4 年物インフレ連動国債が 180 億ユーロもの発行を達成。単
一銘柄としては欧州で過去最高の規模とされる。外国人投資家も 9%が応札した。
スペイン中銀の独自推計で前期比▲0.4%。ただ、大方が考えていたよりはマイナス幅が小さかったとも言える。
従来目標の GDP 比 6.3%に対し、7.3%になりそうと通告。ただ、EU との目標策定中は考慮に入れていなかった銀行救
済費用を加えたためで、それを除けば目標は達成されたとの見解である。
この日のイタリアでは、ベルルスコーニ前首相が次回総選挙に出馬しないと正式に宣言。来春までに開かれる総選挙後
でもモンティ首相が続投するか、民主党主導の左派政権の中でモンティ氏が財務相を務めるなど、現在の経済改革路線
の継続が保証されるとの安心感が強まっており、一時高まっていた政治リスクの懸念は市場でも大きく後退した。
35
2012 年 10 月 26 日
が前日に承認されたことも好感し、ギリシャやポルトガル、スペインなどの金利は当初低
下、ドイツ金利は上昇した。BASFなど企業決算の好調もあって株価も上昇。しかし、ス
ペイン政府が州の支援基金を来年まで延長すると述べたこと等で不安が再燃し、スペ
インなど債務国の金利は一転して一斉上昇。株価とドイツ金利も反落し、株価は前日比
下落、ドイツ金利は僅かな上昇で終了した。ユーロ相場も反落。
10月の景況感サーベイは
予想以上の悪化
10月の景況感サーベイは大方の予想外となる(大幅)悪化が目立った。PMI(購買担
当者指数)のEMUの速報値は(図4)、製造業が前月から0.8ポイント悪化の45.3。中国
等と同様、最悪期は脱しつつあるようにもみえるが、水準的にはまだ低い。前月に大幅
改善したドイツで再び大きく悪化している。サービス業は0.1ポイント改善したが、それで
も46.2とやはり低い。総合では0.4ポイント悪化の45.8であった。
ドイツのIFO企業景況感指数も悪化(図5)。総合は前月から1.4ポイント悪化。現況感
が3.0ポイント悪化しており、足元の景気の落ち込み加速を示した。先行き感が前月から
横ばいで、6ヶ月ぶりに悪化が止まったのは救い。製造業に限れば、先行き感は僅かな
がら改善している。IFO指数の先行き感は欧州景気全般の先行指標として信頼性が高
い。OMT(ECBの国債購入計画)など債務危機対策の進展で過度の悲観論が後退し
始めたためであろう。ただ、ZEW指数の先行き感が連続で改善していたため、やや期
待外れでもあった。ZEWの回答者である金融市場関係者がこのような債務問題の動向
や株価の上昇を評価したのに対し、IFOの回答者である企業関係者は世界経済の減
速や債務国の緊縮政策など現場の景況感悪化により敏感であったと思われる。
フランスやベルギー、オランダの企業景況感もやはり悪化した。特にフランスは、政
府の緊縮政策の強化や構造改革の遅れもあってか、悪化傾向がこのところ目立つ。
図4:EMUのPMI(購買担当者指数)
62
60
58
56
54
52
50
48
46
44
42
40
38
36
34
32
図5:ドイツのIFO企業景況感指数
124
サービス業
120
現況
116
112
108
総
合
104
100
96
92
先行き
88
84
製造業
80
76
02
03
04
05
06
07
08
09
出所:Markitから三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
10
11
12
(年)
04
05
06
07
08
09
10
出所:IFOから三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
11
12
(年)
EMUの9月のマネーサプライは、M3が前年比+2.7%で、8月の+2.9%から二ヶ月連
続で鈍化。さらに、民間向け貸出しは同▲1.3%で、マイナス幅が一段と加速した。景気
後退と信用タイト化、不良債権処理によって貸し出しの伸び率は昨年末から低下傾向
を続けている。M3はECBの流動性対策効果や市場の流動性選好によって伸びを高め
ていたが、最近はさすがに頭打ちとなっており、今回はM1の伸び率も低下した。
来週 の プレ ビ ュー :1.6%
前後の神経質な取引か
来週のドイツ長期金利は1.6%前後の神経質な取引に終始しそう。最近の保ち合い
気味な200日線(+一目均衡表の雲の上限)を巡る攻防が暫く持続しそうだ。注目のスペ
36
2012 年 10 月 26 日
イン政府による支援申請にはもう少し時間を要そう。再来週のECB政策委員会会合は
無風に終わりそうだ。週末の米国雇用統計や再来週の大統領・議会選挙を控え、米国
市場も動き難い状況。
株価の調整がもう少し本格化する公算は十分あるが、ギリシャの支援策について合
意が近づくなど、長期金利や株価を下支えする要因も一方で多い。インド中銀(RBI)
が30日に利下げや準備比率引き下げに動く公算など(政府の構造改革進展による通
貨安定化で中銀も動きやすくなっている)、新興国の政策対応が新たなリスク・オンのム
ードを生み出す期待もある。8日開幕の共産党大会を控えた中国の情勢にも注目。
スペイン政府の支援申請
はもう暫く遅れそう
スペインのラホイ政権による支援申請は時間の問題とみられるものの、来週はまだ早
そう。ガリシア州議会選挙に勝利したことで市場の不安材料の一つが後退し、ラホイ政
権は支援申請までさらに時間をかけられることとなったようだ。独立問題を抱えるカタル
ーニャ州の議会選挙を11月25日に控えているため、支援申請が追加の緊縮政策の必
要性を高め、同州を刺激することは避けたいはず6。
ECBのOMT計画発表とスペイン政府の様々な改革計画進展によってスペインの国
債利回りが大幅低下したため、全般的に切迫感が薄れている。ECBとESMがバックス
トップとして控えていることで支援なしで逃げ切れる可能性も否定できなくなった。ただ、
現在の国債相場好調は支援実施期待込みとみるのがやはり自然であろう。ESMによる
銀行の直接的資本注入の早期実現が困難になっている折でもあり7、恐らく年内には支
援申請に踏み切ると考える。ドイツ政府が支援を基本的に支持していることもあり、「支
援申請がなくてスペイン危機が再燃」とのシナリオはさすがに排除できそうだ。
ギリシャへの追加資金供
給交渉は決着に近づく
ギリシャの次回トランシュ315億ユーロ供与を巡るトロイカ(EU、IMF、ECB)との交渉
はほぼ合意に達した模様だ。ギリシャの財務相が「合意した」と述べながら、EUやIMFな
どが「まだ」と反論するなど、発言や報道が依然錯綜しているが、公務員の給与や年金
の削減、公務員削減計画の始動を含む追加の財政赤字削減策でほぼ合意した模様。
支援期限(財政赤字目標達成期限)を2016年まで2年間延長するギリシャの要求につ
いてもほぼ認められたようだ。その上で、EMUが追加で160~200億ユーロの追加資金
を供与することになったとハンデルスブラットが報じている。
最後の係争点は労働市場改革で、連立3党の中の左派系2党が最後まで抵抗し、25
日現在でも合意に到っていない模様。結局、来週の議会採決で連立与党の左翼民主
党が反対票に回りながらも、他の二大政党の賛成で辛うじて通過する形となろう。11月
12日のEMU財務相会議までにトロイカとの間で最終決着となりそう8。
ドイツ政府は景気刺激策
に動く
ドイツの連立政権が11月4日、景気刺激計画について最終合意の予定。欧州全域で
(フランスやオランダ等のコア諸国を含め)緊縮政策が強化される中、計画を上回るスピ
ードで財政再建が進むドイツは機関車役を求められていることもあり、メルケル首相が
景気刺激策に前向きな発言を最近繰り返している。来年秋の総選挙を控え、連立与党
の一角で苦境にある自民党の要求もあり、政府は所得税のインフレ調整や労使の年金
6
7
8
カタルーニャ州はスペイン随一の富裕州で、同州の GDP の 8%分の税収が他州に移転されているため、それがなければ
同州の財政危機はなかったはずとの不満がカタルーニャの民族主義を一層刺激している。
ショイブレ独財務相は早くて 2014 年初からとの見解を示している。
サマラス首相によれば、11 月 16 日にはギリシャの財政資金が底を付く。
37
2012 年 10 月 26 日
負担削減策などを既に決定。さらに、医療保険負担の削減などを含め、来年度で150
億ユーロ以上(直近GDPの0.6%程度)の景気刺激包括計画について協議が進んでい
るという(FT報道)。
野党の社民党や緑の党はそれ以上の景気対策を求めているが、与党の減税・負担
軽減重視には批判的で、歳出拡大を重視している。野党優位の上院では一部の施策
がブロックされる懸念もあり、協議の行方が注目される。
図6:EMUとドイツの失業率
12
(%)
EMU
11
10
9
8
ドイツ
7
6
5
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
出所:Eurostatより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
足元の景気はまだ厳しい
経済指標は、10月のサーベイが30日に欧州委員会サーベイ、11月2日に製造業PMI
確報。先述の通り、PMIの速報を含め、既発表のものは全体的に悪化傾向が続いてい
る。欧州委員会サーベイは、消費者信頼感速報が僅かながらも改善したものの、企業
関連は悪化傾向が続いた公算が強まった。景気一致指標の代表格である欧州委員会
の総合景況感指数はEMUで前月比1.2ポイント程度の悪化となろう(9月は1.1ポイント悪
化)。その場合、8ヶ月連続の悪化となる。
9月の個人消費関連は、29日にスペイン小売売上、30日~11月5日の間にドイツ小売
売上、31日にフランス財消費。スペインでは9月初にVAT増税が実施され、8月は駆け
込み購入がみられたため、9月はその反動もあって大幅減が見込まれる。ドイツやフラ
ンスでも雇用環境の悪化など情勢の不透明感から、小幅ながらも減少となりそう。
雇用関係は、31日にドイツ雇用統計(失業者数10月等)とEMU失業者数(9月)。ドイ
ツの雇用は比較的堅調だが、それでもこのところは失業者数がジリジリ増大している
(失業率は横ばいだが)。EMU全体では周辺債務国を中心に失業者が一層増大した
公算が高い(図6:失業率)。
第3QのGDP速報が30日にスペイン、31日にベルギー。スペインは既に中銀が前期
比▲0.4%と発表している9。当方(事前予想▲0.7%)を含む多くが考えていたほどには
弱くない数値。9月初のVAT増税により直前に駆け込み需要が発生しており、これが9
9
スペインの GDP 統計はスペイン統計局(INE)が発表するが、その数日前に中銀が独自推計を発表し、これは概ね INE
の公式値と一致する。
38
2012 年 10 月 26 日
月の反動より大きく出たようだ。ただ、第4Qは従来予想よりも反動が大きく出ると予想を
修正。第3QのEMU全体(11月15日発表)は同▲0.1%(年率▲0.3%)と、従来予想(同
▲0.2%:▲0.9%)から上方修正したが、それでも4四半期連続のマイナス成長となる。
第4Qは逆に、従来予想の同▲0.1%を同▲0.2%に下方修正する。
10月の消費者物価は29日にドイツ速報、30日にスペイン速報とベルギー、31日にイ
タリア速報とEMU速報。EMUは8~9月の前年比+2.6%から、10月は同+2.5%に再び低
下したと予想。エネルギー価格の伸び率低下が主因。ただ、9月初のスペインに続き10
月初はオランダがVAT増税を実施しており、全体を下支えしたとみられる。
国債入札
注目されそうな国債入札は、29日にイタリア6ヶ月債とドイツ1年債、30日にイタリア長
期債等、31日にドイツ30年債(20億ユーロ)とフランス長期債。
<予想レンジ:ドイツ 10 年国債利回り
1.50~1.70%>
(10 月 26 日 10:30)
39
2012 年 10 月 26 日
英国金融市場動向
BOE による 11 月の追加緩和はほぼ消滅
シニア債券ストラテジスト 中沢 剛
今週のレビュー:長期金利
はドイツと同様に反落
今週の英国長期金利(10年物指標国債利回り:以下同じ:図1)は先週末の反落を受
け継いで続落。世界経済の不安による株価の下落に連動した。欧州債務危機の不安
によるドイツ金利反落の動きとも軌を一にしている。ドイツや米国と同様、最近は200日
線を巡る攻防で、保ち合い傾向を強めている。
ただ、25日に発表された第3QのGDP速報が大方の予想を上回る好調で(後述)、11
月の追加金融緩和観測が大きく後退したことで、同日の長期金利は若干反発した。ポ
ンド相場はさらに大きく反発。
25日の長期金利の終値は10年物1.914%、2年物0.258%。10-2年スプレッドは最終
的に先週末から僅かに拡大。
図1: 英国10年国債利回り(日次)
2.3
(%)
2.2
2.1
2.0
1.9
1.8
1.7
1.6
1.5
1.4
May-12
Jun-12
Jul-12
Aug-12
Sep-12
Oct-12
(月/年)
出所:Bloombergから三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
第3Qは特殊要因を除いて
もプラス成長回復
第3QのGDP速報(生産ベースのみ)は大方の予想を上回る前期比+1.0%(当方の事
前予想は+0.7%)。第2Qの女王在位60周年による休日増効果(▲0.5%ポイント程度)
の反動とロンドン五輪効果という特殊要因を割り引いても若干のプラス成長を記録した
とみなせる。インフレ抑制→実質所得増効果もあり、同期の小売売上高は前期比
+1.0%を記録した(図2)。
当方は、今年のGDP成長率見通しを従来の▲0.2%から横ばいに上方修正した。
BOEの11月の追加緩和は
ほぼ消滅
イングランド銀行(BOE)による現在の国債購入計画(量的緩和政策)が今月末頃に
終了し、来月にはインフレーション・レポートが公表されるため、来月7・8日の金融政策
委員会(MPC)会合で追加の国債購入を決定すると考える市場参加者が依然多かった。
しかし、今回のGDP統計によって、その見通しを撤回する者が急増した。
40
2012 年 10 月 26 日
そもそもその前から、MPC内では緩和見送り論が拡大していた。MPCの参加者9名
中で少なくとも6名が、最近の発言からみて見送りに傾いている模様だ1。主な論点は、
(1)インフレ率の高止まりを無視できないこと、(2)その一因である労働生産性の悪化は
構造的な部分が大きい可能性があること、(3)中銀マネーの追加供給よりも銀行貸出の
増加が重要であり、最近開始した融資促進策(特にFLS)の成果が予想以上に現れて
いるため、その一層の効果に期待したい、などである。
まだハト派色が強いキング総裁の場合、23日の講演で欧州債務危機から来るリスク
等を引き続き警戒しながら、「最近の景気回復の兆候が今後も続くのか現在では判断
が難しい。それが続かないなら、MPCは追加の資金を経済に供給する用意がある」と述
べた。2月はともかく、11月の段階で同総裁が追加緩和を主張する可能性は今回の
GDP統計発表でほぼ消えたとみていい。
図2: 英国の小売売上高指数(実質)
104
102
100
98
96
94
92
90
88
86
84
82
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
(年)
出所:ONSから三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
来週のプレビュー:相場は
暫く膠着か
来週の英国長期金利は引き続き、200日線を巡る1.8%前後の神経質な動きに終始
しよう。11月の追加金融緩和見送りがほぼ固まったことで、市場は方向感を出しにくい
状況となっている。ドイツや米国でやはり相場の膠着が続きそうな事情もある。
景気は底入れ感をみせな
がらも脆弱
経済指標は、10月のサーベイが30日にCBI小売業サーベイと欧州委員会サーベイ、
31日にGfK消費者信頼感、11月1日に製造業PMI。ユーロ圏の企業サーベイは軒並み
悪化が目立っている。英国の場合、インフレ圧力の後退による個人消費関連の復調な
どが期待できるが、輸出関連等では弱い数字が続きそうだ。
29日に9月のマネーサプライ(住宅ローン承認件数等含む)。米国と同様、住宅市場
では底入れ感が強まっている。構造的な供給不足やロンドン高級市場の人気などは米
国にもない強みだ。
<予想レンジ:英国 10 年国債利回り
1.80~2.00%>
(10 月 26 日 11:10)
1
ブロードベント委員とデール委員の据え置き票はほぼ確実。さらに、フィッシャー委員やウィール委員、タッカー副総
裁、ビーン副総裁も据え置き票を投じる公算が強まった。一方、マイルズ委員が追加緩和を主張する可能性は高い。
41
2012 年 10 月 26 日
経済指標予測
発表日・時刻
経済指標等
予想値と実績値
市場予想
コメント
10/29 日本 8:50 商業販売統計(9月分 速報値)
21:30 米個人所得
(月)
海
外
10/30
8:30
(火)
8:30
日
本
8:30
8:50
9:00
15:00
15:30
19:00
海
外
22:00
23:00
10/31
10:30
(水)
日
本
14:00
9月est.
前月比
+0.6%
+0.4% 小売売上高が好調だったことから、9月
8月
同
+0.1%
の個人消費は市場予想と同じ前月比
+0.6%増の高い伸びを予想。株高や住
7月
同
+0.1%
宅価格の下げ止まりを受けて、個人消
米個人消費
9月est.
前月比
+0.6%
+0.6% 費は堅調を維持する見込み。他方、雇
用環境が伸び悩む中、個人所得も健
8月
同
+0.5%
闘し同+0.6%増と高めの伸びを予想
7月
同
+0.4%
完全失業率
9月est.
季調値
4.3%
4.2%
8月
同
4.2%
最近の失業率低下は非労働力人口増
加による面もあり、就業者数は必ずし
7月
同
4.3%
も伸びていない。有効求人倍率は横ば
有効求人倍率
9月est.
季調値
0.83倍
0.82倍 いを予想するが、製造業の一部に弱い
動きも
8月
同
0.83倍
7月
同
0.83倍
家計調査
9月est.
前年比
0.0%
+0.9% 新車販売の落ち込み(適切に現われな
<全世帯実質消費支出>
い可能性もあるが)と8月猛暑効果の
8月
同
+1.8%
反動が押し下げる
7月
同
+1.7%
鉱工業生産
9月est.
前月比
▲3.3%
▲3.4% 補助金終了に伴う自動車減産を反映。
9月輸出の不振も下押し要因となり予
<速報値>
8月
同
▲1.6%
測指数(▲2.9%)を上回る低下へ
7月
同
▲1.0%
日銀政策委員会・金融政策決定会合
「経済・物価情勢の展望」
白川日銀総裁会見
欧州委員会サーベイ
10月est.
83.8
84.5 10月の諸サーベイは概して悪化してい
る。一致指標的性質の強い同指数も
総合景況感指数
9月
85.0
悪化が持続した公算が高い
8月
86.1
米S&Pケースシラー住宅価格指数(8月分 市場予想 前年比+1.9%、 7月分 同+1.2%)
米消費者信頼感指数(コンファレンス・ボード 10月分 市場予想 72.0、 9月分 70.3)
毎月勤労統計
9月est.
前年比
▲0.5%
n.a 生産の低下傾向を反映し所定外給与
<現金給与総額>
(残業代)が減少、賃金全体も再び前
8月
同
0.0%
年割れを予想
7月
同
▲1.6%
新設住宅着工戸数
9月est.
前年比
+17.5%
+16.6% 昨年のエコポイント終了に絡む着工件
数の急変動の裏が出る。基調は横ば
8月
同
▲5.5%
い圏
7月
同
▲9.6%
19:00 ユーロ圏HICP(速報)
21:30
11/1
(木)
日
本
10:20
10:30
14:00
10:00
海
外
10月est. 前年比
+2.5%
エネルギー価格の伸び率低下を主因
に、インフレ率は低下へ。オランダの
9月
同
+2.6%
VAT増税が若干の下支え
8月
同
+2.6%
米雇用コスト指数(12/3Q分 市場予想 前期比+0.5%、12/2Q分 同+0.5%)
3ヵ月国庫短期証券入札(発行予定額 5兆7,000億円程度) <12:35 結果発表>
10年利付国債入札(発行予定額 2兆3,000億円程度) <12:45 結果発表>
新車登録台数(10月分)
中国製造業PMI(10月分)
米ADP雇用統計(10月分 市場予想 前月比 +13.5万人、9月分 同 +16.2万人)
米労働生産性(7-9月期分速報値 市場予想 前期比年率+1.3%、4-6月期分 同+2.2%)
米ISM製造業指数(10月分 市場予想 51.0、9月分 51.5)
米自動車販売台数(10月分 市場予想 年率1,500万台、9月分 同1,488万台)
(EU統一基準CPI)
海
外
21:15
21:30
23:00
6:00
42
2012 年 10 月 26 日
11/2
(金)
日
本
8:50 日銀政策委員会・金融政策決定会合議事要旨(10/4、5日開催分)
8:50 マネタリーベース(10月分)
18:00 ユーロ圏製造業PMI
海
外
11/4
(日)
海
外
10月est.
45.3
45.3
(確報)
9月
46.1
(PMI:購買担当者指数) 8月
45.1
21:30 米雇用統計
10月est. 前月比
+8.5万人 +12.1万人
<非農業部門就業者数>
9月
同
+11.4万人
8月
同
+14.2万人
米雇用統計
10月est. 前月比
+0.2%
+0.2%
<時間当り賃金>
9月
同
+0.3%
8月
同
0.0%
米雇用統計
10月est.
+8.0%
+7.9%
<失業率>
9月
+7.8%
8月
+8.1%
23:00 米製造業受注(9月分 市場予想 前月比+4.5%、8月分 同▲5.2%)
n.a G20財務相・中央銀行総裁会議(メキシコシティ、5日まで)
注:
1.*は未定。est.は予想値。市場予想(中央値)は各種サーベイより集計
2.シャドーは海外経済指標・イベント
3.発表時刻は日本時間
出所:
各種報道より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
43
速報は45.3に再び大幅悪化。ドイツが
大幅反落した。最悪期は脱しつつある
が、水準はまだ低い
先行き不透明感から企業の採用抑制
が続き、雇用者数は市場予想の下限
に近い+8.5万人増にとどまると予想。
労働参加率も上昇し、失業率は前月
から0.2%ポイント悪化の8%を見込む
2012 年 10 月 26 日
見通しマトリックス
(1)
米国経済・金利
予想
実質GDP(前期比年率)
個人消費(PCE)
設備投資
民間住宅投資
政府支出
民間在庫投資*
純輸出*
PCEコア価格指数(前年比)
生産者物価(前年比)
消費者物価(前年比)
消費者物価コア(前年比)
FFレート(誘導目標)
2年国債利回り
5年国債利回り
10年国債利回り
30年国債利回り
2011年
7-9
10-12
+1.3
+4.1
2012年
1-3
+2.0
4-6
+1.3
7-9
+1.2
10-12
+1.6
1-3
+2.0
2013年
4-6
7-9
+2.7
+3.0
10-12
+2.9
2014年
1-3
+2.8
2011 年
+1.7
+19.0
+1.4
▲2.9
▲1.0
+0.1
+2.0
+9.5
+12.0
▲2.2
+2.3
▲0.6
+2.4
+7.5
+20.6
▲3.0
▲0.4
+0.1
+1.5
+3.6
+8.4
▲0.7
▲0.5
+0.2
+2.3
▲4.1
+14.0
+0.4
▲0.1
▲0.4
+1.9
+2.7
+14.2
+0.9
▲0.1
▲0.4
+2.6
+4.8
+10.2
▲1.0
▲0.0
▲0.4
+2.9
+6.5
+12.1
+0.9
▲0.0
▲0.5
+2.9
+6.4
+12.3
+1.8
+0.1
▲0.6
+3.1
+7.6
+11.0
+1.2
+0.0
▲0.6
+3.0
+7.6
+10.0
+0.5
+0.1
▲0.6
+1.6
+7.1
+3.8
+1.9
+1.7
+5.4
+3.3
+2.2
+1.9
+3.4
+2.8
+2.2
+1.8
+1.1
+1.9
+2.3
+1.7
+1.5
+1.7
+2.0
+1.7
+1.2
+1.4
+1.8
+1.6
+1.2
+1.2
+1.7
+1.6
+1.7
+1.5
+1.4
+1.6
+1.9
+1.6
+1.5
+1.7
+1.8
+2.3
+1.7
+1.7
+1.8
+2.3
+1.7
+1.8
+2.0
+2.5
+8.6
▲1.4
▲3.1
▲0.2
+0.1
+1.4
+0.0
+3.2
+1.7
0.25
0.24
0.95
1.92
2.91
0.25
0.24
0.83
1.88
2.89
0.25
0.33
1.04
2.21
3.34
0.25
0.30
0.72
1.64
2.75
0.25
0.23
0.63
1.63
2.82
0-0.25
0.40
0.80
1.90
3.00
0-0.25
0.50
0.80
2.00
3.10
0-0.25
0.60
1.10
2.30
3.40
0-0.25
0.80
1.30
2.50
3.60
0-0.25
0.70
1.30
2.40
3.60
0-0.25
0.90
1.40
2.60
3.70
0.25
0.20
0.80
1.90
2.90
2012 年
(予想)
+2.2
2013 年
(予想)
+2.2
[単位:%]
2014 年
(予想)
+2.9
+1.7
+1.9
+7.6
+12.3
▲1.6
+0.1
▲0.0
+1.8
+1.8
+2.0
+2.1
+2.7
+2.5
+4.5
+12.3
+0.4
▲0.1
▲0.4
+1.6
+1.7
+1.7
+1.6
+3.0
+3.1
+7.4
+9.7
+1.1
+0.1
▲0.6
+1.7
+1.7
+2.1
+1.7
0-0.25
0.40
0.80
1.90
3.00
0-0.25
0.70
1.30
2.40
3.60
0-0.25
1.30
1.80
2.90
4.00
注: 年間成長率は上段が年間対比、下段が第4四半期対比。実質GDPの需要項目は前期比年率、年間対比、*は成長率寄与度。金利は期末値。予想は弊社
出所:米商務省統計等より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成(最終変更日:10月26日)
(2)
ユーロ圏経済・金利
予想
実質GDP(前期比年率)
(前期比)
個人消費
総固定資本形成
政府消費
在庫投資*
純輸出*
消費者物価(前年比)
レポ金利 (リファイナンス金利)
2年ドイツ国債利回り
5年ドイツ国債利回り
10年ドイツ国債利回り
2011年
7-9
10-12
+0.3
▲1.4
+0.1
▲0.3
+0.7
▲2.1
▲1.5
▲2.0
▲0.9
+0.0
▲1.4
▲1.8
+1.8
+2.1
+2.7
+2.9
1.50
1.00
0.52
0.14
1.13
0.76
1.84
1.83
1-3
▲0.1
▲0.0
▲0.7
▲5.2
+0.7
▲0.4
+1.6
+2.7
1.00
0.21
0.80
1.79
2012年
4-6
7-9
10-12
▲0.7
▲0.3
▲0.8
▲0.2
▲0.1
▲0.2
▲0.8
▲0.2
+0.0
▲3.3
▲3.9
▲6.2
+0.5
▲0.4
+0.0
▲0.6
+0.6
+0.1
+1.0
+0.0
+0.3
+2.5
+2.6
+2.3
1.00
0.75
0.75
0.12
0.02
0.10
0.61
0.51
0.60
1.58
1.44
1.80
1-3
+0.4
+0.1
+0.2
+0.4
▲0.8
+0.2
+0.1
+2.0
0.75
0.20
0.75
2.00
予想
[単位:%]
2013年
2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
4-6
7-9
10-12
(予想) (予想) (予想)
+0.8
+1.4
+1.7
+2.0
+1.5
▲0.4
+0.3
+1.6
+0.2
+0.3
+0.4
+2.3
+0.6
▲0.5
+1.1
+1.7
+0.5
+0.6
+0.8
+1.0
+0.1
▲0.8
+0.2
+0.8
+1.0
+2.8
+2.0
▲0.3
+1.6
▲3.4
▲1.2
+3.3
▲0.4
▲0.2
+0.0
+0.8
▲0.1
+0.1
▲0.3
+0.1
+0.1
+0.1
▲0.0
+0.6
+0.2
▲0.6
+0.2
+0.1
+0.3
+0.5
+0.9
+0.7
+1.0
+1.2
+0.3
+0.5
+2.0
+2.4
+2.3
+1.7
+2.8
+2.6
+2.2
+2.0
0.75
0.75
0.75
1.00
1.00
0.75
0.75
1.00
0.30
0.45
0.60
0.86
0.14
0.10
0.60
1.00
0.90
1.05
1.15
1.84
0.76
0.60
1.15
1.35
2.10
2.20
2.30
2.96
1.83
1.80
2.30
2.50
注: 実質GDPの需要項目は前期比年率、*は成長率寄与度、年間成長率は上段が年間対比、下段が第4四半期対比。金利は期末値
ドイツ国債利回りはユーロ圏の指標とみなされる
出所:Eurostat、ブルームバーグ等から三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成(予想は弊社:最終変更日は10月23日)
44
2012 年 10 月 26 日
(3)
英国経済・金利
実質GDP(前期比年率)
(前期比)
個人消費
総固定資本形成
政府消費
在庫投資*
純輸出*
消費者物価(前年比)
政策金利
2年国債利回り
10年国債利回り
2011年
7-9
10-12
+2.1 ▲1.4
+0.5 ▲0.4
▲0.1
+0.6
+2.1 ▲2.7
+0.3
+1.2
+2.1 ▲3.3
▲0.3
+1.6
+4.7
+4.6
0.50
0.50
0.58
0.33
2.43
1.98
1-3
▲1.2
▲0.3
+1.4
+13.6
+13.1
▲4.8
▲1.9
+3.5
0.50
0.42
2.20
予想
2012年
4-6
7-9
10-12
▲1.5
+4.1
+0.4
▲0.4
+1.0
+0.1
▲1.0
+2.4
+0.2
▲10.5 +10.5
+2.1
▲6.1
+0.6 ▲0.4
+5.3
+0.1 ▲0.4
▲3.1
+1.3
+0.4
+2.8
+2.4
+2.3
0.50
0.50
0.50
0.28
0.19
0.30
1.73
1.73
1.90
1-3
+1.3
+0.3
+1.2
+5.1
▲0.4
+0.4
▲0.6
+2.0
0.50
0.40
2.15
予想 [単位:%]
2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
2013年
4-6
7-9
10-12
(予想) (予想) (予想)
+1.5
+1.1
+1.1
+1.8
+0.9 ▲0.0
+1.3
+1.7
+0.4
+0.3
+0.4
+1.5
+0.7
+0.4
+1.4
+2.0
+1.2
+1.0
+1.2
+1.3 ▲1.1
+0.5
+1.0
+1.1
+6.5
+4.9
+3.1
+3.5 ▲2.4
+2.3
+4.2
+5.2
+0.0
+0.0
+0.0
+0.4
+0.2
+2.3 ▲0.5
+0.3
+0.0 ▲0.2 ▲0.1
+0.9
+0.3 ▲0.5
+0.3
+0.0
▲0.4 ▲0.2
+0.4 ▲0.6
+1.2 ▲0.7 ▲0.2 ▲0.0
+2.1
+2.2
+2.1
+3.3
+4.5
+2.7
+2.1
+2.1
0.50
0.50
0.50
0.50
0.50
0.50
0.50
1.00
0.55
0.70
0.80
1.10
0.33
0.30
0.80
1.05
2.30
2.40
2.50
3.40
1.98
1.90
2.50
2.65
注:実質GDPの需要項目は前期比年率、*は成長率寄与度。年間成長率は上段が年間対比、下段が第4四半期対比。金利は期末値
出所:ONS、ブルームバーグ等から三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成(予想は弊社:最終変更日は10月25日)
(4)
為替相場
予想
2012年
ドル・円
[円/ドル]
ユーロ・円
[円/ユーロ]
レンジ
2013年
2014年
2011 年
4-6
7-9
10-12
1-3
4-6
7-9
10-12
1-3
4-6
77.66-83.30
77.13-80.10
75.50-83.50
76.0-85.0
77.0-87.0
78.0-88.0
79.0-89.0
80.0-91.0
82.0-93.0
75.35-85.53
2012 年
2013 年
(予想)
(予想)
2014 年
(予想)
75.5-84.18
76.0-89.0
80.0-96.0
期末値
79.79
77.96
79.5
81.0
82.0
83.0
84.0
85.0
87.0
76.91
79.5
84.0
90.0
レンジ
95.60-111.14
94.12-103.86
95.4-107.4
93.8-107.3
93.4-108.4
92.9-107.9
93.3-108.3
94.5-111.0
97.8-114.3
99.51-123.33
94.12-111.44
92.9-108.4
94.5-119.7
期末値
ユーロ・ド レンジ
ル
[ドル/ユーロ] 期末値
101.04
100.21
101.4
101.3
100.9
100.4
100.8
102.0
105.3
99.66
101.4
100.8
110.7
1.229-1.338
1.204-1.317
1.205-1.345
1.180-1.320
1.160-1.300
1.140-1.270
1.130-1.270
1.130-1.270
1.140-1.280
1.286-1.494
1.204-1.349
1.130-1.320
1.130-1.300
1.267
1.286
1.275
1.250
1.230
1.210
1.200
1.200
1.210
1.296
1.275
1.200
1.230
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