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スズメノハコベの新産地とその生育立地
人と自然 Humans and Nature, No. 10,61-64, 資 December 1999 料 スズメノハコベの新産地とその生育立地 田 村 A New 和 也1)・武 田 義 明2)・赤 松 弘 治1)・服 部 保3)* Locality of Microcarpaea minima (Koenig) Merrilland itsHabitat Kazuya Tamura 1Yoshiaki Takeda 21,Hiroji Akamatsu 1', Tamotsu Hattori 3)* は じ め の生育 立 地 の環 境条 件や 種 組成 を 把握 す るた め に行 っ に スズ メノ ハコ ベMicrocarpaea minima た 調 査 の 結 果 を と り ま と め た も の で あ る. (Koenig) Merrillはゴ マ ノハグサ 桙スズ メノハコ ベ属 の1 年草で, 調 査 方 法 全体 は小さく, 茎は匍 匐し てよ く分枝 する. 日 本で は本 州, 四国, 九州, 沖縄 の湿地 に生える( 大井, 1975) と スズメ ノハコベ生育地お よびそ の周辺 の種組成 を把握 す る た め, 植 物 社 会 学 的 方 法(Braun-Blanauet,l され ており, 稲刈 り後 の水田な どにも みられる. 964) 近年, 農薬 の多 用 や 圃 場 整備 事業 によ り 水田 の 環境 に 基 づ く 調 査 を 行 っ た. ス ズ メ ノハ コ ベ が 生 育 し て い る が 大き く 変 化し, か つ て は水 田 雑 草とし て 普通 であ っ 植 分 で!, 調 査 区, 隣 接 す る 植 分 に お い て2 調 査 区 の 合 計 た 種も 危機 的な 状 況で あ るこ とが 指摘 さ れて いる 3 調 査 区 を 設 定 し, そ の 中 に 生 育 す る す べ て の 種 に つ い ( レ ッ ド デ ー タ ブ ッ ク 近 畿 研 究 会, 19 9 5 ; 角 野, て, 階 層 毎 に 調 査 面 積 に 占 め る 被 度 を 百 分 率 で 測 定 す る 水田 をお も な 生 育 環境 と する ス ズ メ ノハ コベ と と も に, 植 生 高, 立地 環 境 な ど を 記 録し た. な お 厂 調 も そ のよ うな 危 機 的 な種 の 一つ で あ り, 植物 版 レ ッド 査 面 積 は, 調 査 区 毎 に 植 分 の 発 達 状 態 や 相 観 的 な 立 地 環 リ スト( 環境 庁 自然 保 護 局野 生 生 物 課, 1997) 境 が 均 質 とな る よ う に 配 慮し, 0.3 ×0.3 1999). 絶 滅 危惧IB には, 類 の 種 とし て 掲載 さ れ てい る. 近 畿 地方 0.5 ×0.5 m と し た. に お け る 現 状 は, レ ッ ド デ ー タ ブ ッ ク 近 畿 研 究 会 (1995) によ る と, 和 歌山 県, 三重 県 で は現 在 も 生育 調 査 結 果 し て いる が, 大 阪府 で は既 に 絶滅 し, 兵 庫県 に つ いて は 分布 情 報 はあ る が, 標 本な ど の 裏 付け がな い と 報告 生育 立地 ス ズ メ ノ ハ コ ベ を 確 認し た のは, 1998 さ れて い る. 兵 庫県 植 生 誌研 究 会は, 兵庫県 立人 と 自 然 の博 物館 年10 月23 日, 兵 庫 県 北 部 に 位 置 す る 朝 来 郡 和 田 山 町 枚 田( 北 緯35 東 経134 ° 29 へ 標 高100 m) ° の 委 託を 受 けて, 地 域 の 植 生を 把 握す る こ とを 目的 と 20y の 休 耕 後1 年 程 度 と 考 し た 地 域環 境 調 査と, 兵 庫県 の貴 重な 自 然 一兵 庫県 版 え ら れ る 水 田 で あ っ た( 図1, レ ッド デ ー タフ ッ タ ー(兵 庫県, 1995 厂記 載種お よび 休 耕 田 の 中 央 付 近 に 数 箇 所 の小 群 を 形 成 し, 以 下 に 示 し 比 較的 分 布 量が 少な い と 考え ら れる 種 の生 育 立地 に関 た 種 と 共 に 生 育 し て い た. 本 種 は 地 面 を 這 う よ う に 生 育 す る 情報 を 得る こ とを 目的 とし た植 物 調査 を 継続 的 に し, 高 さ は1cm 行 っ てい る. 著 者 らは, 但馬 地 域 にお け る 地域 環 境 ・ 体 と 考 え ら れ る. 生 育 立 地 は 水 田 土 壌 の た め 粘 土 質 で あ 植 物 調 査にお いて, 朝 来 郡 和田 山 町枚 田 で スズ メ ノ ハ り, や や 湿 っ た 条 件 下 に あ る. 写 真2). 本 種 は,1 枚の に も 満 た な い が, 結 実 し て お り, 成 熟 個 コ ベ を確 認し た( 写 真1). 本 報 告は, ス ズ メ ノハ コベ 1)株 式 会社 里 と 水 辺研 究 所 Institute of Rural & Urban Ecology Co 亠TD, Higashinakajima 4-1卜32-602, Higashiyodogawa-ku, Osaka, 553-0033 Japan 2)神戸 大学 発 達 科 学 部 生物 学 研 究 室 Biological Laboratory, Faculty of Human Development, Kobe University, Tsurukabuto 3- 11, Nada-ku, Kobe, 657-00 1 1 Japan 3)兵 庫県 立 人 と 自然 の 博 物 館 Yayoigaoka 6, 生 物 資源 研 究 部 Division of Biological Resources, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo, Sanda, 669-1 546 Japan * 兼任: 姫 路 工業 大 学 自 然・ 環 境 科 学研 究 所 Himeji Institute of Technology 種類 組成 スズ メノハコベ の生育する 植分およびそ れに隣接す る 植分は, コナギ, タ マガ ヤツリ, ヒ デリコ, ト キンソ ウ など の水田や 湿地に生育 する種群 で構成さ れており, イ ネ クラスある いはアゼ ナ群団( クラス 未決定) に位置づ け ら れる も の と考 え ら れる( 表1). 0.25m と極め て低く, 植 被率も35 植 生 高は0.1 70% と立地を 密に 被う ほどで はな い. また, 出現 種の生 活形( 宮 脇 ほか, 1994) を調 べた結果, Th (1 年 生植物) が80% 以 上を 占めて いた. 今 後の 課 題 本種は 水田という 継続的に人 為的攪乱を受け る立地 を 主要な 生育環境 とし ており, 共存す る種の大 部分が水田 耕作に 適応し た 小型の1 年生 植物であ る. こ のような 立 地は, 耕作 を停正し 放 置する と短 期間で 遷移 が進行し, 多 年生 草本群落 へと移行す る. そ うな れば, 地面を這う よ うにし か生育でき ない 本種は, より 大型とな る多 年 生 図1. ス ズ メ ノ ハコ ベ 確 認位 置. 植物に被 圧され, 消滅す る可能 性が高い. 今 回はスズメ 今 回 の 確 認位 置 を ● で 示 し た. 表1. ス ズメ ノ ハコ ベ 生 育 地お よ びそ の 周辺 の 種類 組 成 ノハコ ベの分布 量が 少なく, 十 分な調 査資料 が得ら れな 文 かった が, 今後, 自生 地の水田 の管理 状況や 立地条件 に ついて 詳細に調 査するとと もに,他地域 の資料を 収集し, 比較を 行うこ とで, スズ メノハコ ベ の生育条 件を明ら か 献 Braun-Blanauet,J.(1964)Pflanzensoziologie,3 兵庫 県 保 健 環 境部 環 境 局 環 境管 理 課(1995) にし て いきたい. 本種 は個体 サイズが 小さく, あまり 目立たな い植物で あ るた め, 今 まで見 過ごさ れてき た可能 性もある. 今 回 本種を確 認した 休耕田 は, 圃場整 備もさ れており, 特 殊 な 環境で はなかっ たこ とから, 稲刈り後 や休耕 後間もな い 水田な どの調 査が必 要であろ う. 角野 康 郎(1999) 絶 滅 危惧 種 の 現 状 一水 辺 の 植物 を 中 心 に ー.自 然 史 研 究2(15):219-224. 環 境 庁 自 然 保護 局野 生 生物 課(1997) 植 物版 レ ッド リ スト の 作 成 に つ い て, 80p. 宮 脇 昭 ・奥 田 重 俊・ 藤 原 陸夫(1994) 文 堂, 東 京, 91 辞 兵 庫 の 貴重 な 自 然 一兵 庫県 版レ ッド デ ー タフ ッ タ ー.兵 庫県, 神 戸, 286p. 大 井 次 三 郎(1975) 謝 Aufl. Springer- Verlag, Berlin, 865p. 改 訂 新 版 日本 植 生 便覧. 至 Op. 改 訂 増 補新 版 日本 植 物 誌 顕 花 筵. 至文 堂, 東 京, 1582p. レ ッ ド デ ー タブ ッ ク 近 畿研 究 会(1995) 近畿 地 方 の 保 護上 重 要 な 植 本報告 をまと めるにあ たり, 標本を確 認し て 下さい ま し た元大 阪自然史 博物館 社 梅原 瀬戸 物-レ ッド デ ー タブ ッ ク近 畿-.関 西 自 然保 護 機 構, 大 阪, 121p. 剛氏, 環境設 計株式 会 (1999 年6 月17 日 受 付) 徹氏, スズメ ノハコ ベに関す る情報 を提供し (1999 年9 月14 日 受 理) て いただき ました 小林禧 樹氏 に, 感 謝いたし ます. 写真1. スズメノハコベ(1998 年10 月23 日撮影) 写真2. スズメノハコベ生育地周辺の初夏景観(1999 年7 月2 日撮影)