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734KB - 東京工業大学 統合研究院
第13号 MAR. 2009 第4回「ソリューション研究」国際シンポジウム 第1部 分科会 主要 3プロジェクトが活動状況を報告 ― エネルギー/医療・バイオ/医療情報 ― 統合研究院が進めるソリューション研究プロジェクトを紹 による「持続可能な社会のための先進エネルギーシステム 介する国際シンポジウム第1部では「エネルギー」 「医療・バ (Advanced Energy Systems for Sustainability=略称AES) 」 イオ」「医療情報」の三つの分科会に分かれ、海外講師によ の実証研究に取り組むAESプロジェクトのこれまでの活動と る招待講演のほか、それぞれのプロジェクトについてこれま 今後の展望についてリーダーの柏木孝夫教授が報告した。柏 での成果と活動状況などの報告が行われた。 木教授は低炭素社会実現へのグランドデザインを描く道筋を 示し、その実現のために実施している七つのサブプロジェク ■エネルギー分科会 低炭素社会実現へ AESプロジェクトで7テーマ推進 エネルギー分科会では、司会の高木靭生特任教授が統合研 究院の活動の中でエネルギー分野のソリューション研究プロ ジェクトがどう位置づけられているかを簡単に紹介した後、 トの概要を紹介した。 続いて、これらのサブプロジェクトの具体的な内容につい て報告があった。黒川浩助特任教授は「再生可能エネルギー コミュニティを目指して」と題して報告し、自律度向上型太 陽光発電や再生可能エネルギーを利用した電気自動車向け充 電インフラの開発研究の現状を紹介した。 自律度向上型太陽光発電では、住宅地域などに太陽光発電 海外講師による招待講演とプロジェクトの報告があった。会 の大量導入が進むと想定し、パワールーター機能やコミュニ 場には産業界を中心に学外から約270人が集まり、質疑応答 ティエネルギー貯蔵機能を備えて自律的に電力需給の最適 を含めて熱心に討議した。 化・安定化を図る。東工大と蔵前工業会とで建設中の 招待講演では、米ニューヨークタイムズのJ・モアワッド 「Tokyo Tech Front」にプロトタイプを設置し、実証試験を 記者(Jad Mouawad)が「米国オバマ新政権のエネルギー・ 開始する。電気自動車向け充電インフラは、将来の輸送エネ 環境戦略」について約1時間に ルギー供給の一端を担うため地域で獲得できる再生可能エネ わたって講演した。この中でモ ルギー利用の可能性を探る計画で、三菱自動車工業の電気自 アワッド記者は、大統領選挙戦 動車で研究を進めている。 期間中にオバマ氏が示した省エ 赤木泰文教授は「再生可能エネルギーと電力システムの融 ネと効率向上、クリーン燃料へ 合を目指すスマートパワーネットワーク」についての研究開 の公共支出、CO2の大幅削減を 発状況を説明した。このサブプロジェクトでは、近い将来本 謳った包括的エネルギープログ 格的な実用化が期待される小規模分散負荷(電気自動車、ヒ ラムの概要を説明、選挙戦終了 後の経済危機が新大統領のエネ J・モアワッド記者 ルギー対策案に対する不安要因 となっていると指摘した。経済問題に対する切迫感が加わっ てオバマ政権は優先すべき新たな課題に向き合わざるを得な くなっており、今後の舵取りが注目されている。 一方で、経済危機が老朽化したエネルギーシステムの改修 やクリーンエネルギー研究などへの投資を促す契機となる可 能性もあり、新政権の手腕に期待が集まっているとした。新 政権の動向は、今後の日本のエネルギー・環境政策にも大き な影響を与えるために講演は参加者の強い関心を呼んだ。 この後、低炭素社会の実現に向けて社会・産業界との連携 喫緊の課題に参加者の関心も高い 第13号 MAR. 2009 ートポンプ、蓄熱装置など)の需給調整能力を積極的に活用 (Endomagnetics)で乳がんを対 し、需給双方向の電力潮流を許容するスマートパワーネット 象とした磁気センサーのプロト ワークの実現に向けた課題を抽出・整理する。さらに、直接 タイプを完成し、その性能が確 的な費用対効果や「社会コスト最小化」と「CO2排出最小化」 認されたことや、幹細胞を鉄粒 を基本理念とした研究戦略を構築するため、大学の研究者だ 子で標識して磁場により動脈硬 けでなく電力会社や電力機器メーカー、パワーエレクトロニ 化層をターゲットに誘導する技 クス・システム機器メーカー、バッテリーメーカーなどの幅 術、また抗体で修飾した磁性微 広い技術者を結集、有機的に研究を推進する。 粒子を転移がん細胞に作用させ 最後に玉浦裕教授が「アジア太平洋サンベルト開発プロジ て、温熱療法でがん細胞にアポ ェクト」構想を説明した。昨年7月には地中海連合が発足し、 トーシスを惹起する手法を開発 持続可能型経済圏の近未来エネルギー源として北アフリカの していることなどについても報告した。磁性粒子を用いたが 太陽エネルギー開発が加速している。こうした状況から、玉 ん温熱療法は東工大が開発中の手法でもあり、半田教授は今 浦教授はアジア太平洋地域でも持続可能型連合構想を推進す 後もパンクハースト教授の研究グループと緊密な協力関係を ることが重要と指摘。オーストラリア、中国、モンゴル、イ 継続したいとしている。 Q・パンクハースト所長 ンド北西部などのサンベルトでの「太陽エネルギー開発」に 東工大発のフェライト粒子を加工したナノ磁性ビーズを用 加え、地域内でエネルギー資源の相互融通を可能とするエネ いた「励磁音響効果」を発見した研究チームの阿部正紀・東 ルギー・資源・情報の「ネットワーク開発」、さらにこれら 工大教授は、慶應義塾大学医学部や秋田大学医学部と共同で を社会インフラとして構築する「持続可能型環境安全開発」 同効果を用いたセンチネルリンパ節の同定に関する研究成果 の「三つの開発」の統合を目指して、近く研究会を立ち上げ を発表した。センチネルリンパ節で捕捉されるフェライト粒 ることを明らかにした。構想実現のために国内での産学官協 子を確立したことや、腫瘍部位に残留しているフェライト粒 力や海外の政府・企業とも協働できる基盤作りが急務と指摘 子を磁場により加熱して温熱療法を行うための基礎研究成果 した。 も披露した。 (統合研究院研究参事・平井利弘) 続いて、共同研究者である慶應義塾大学医学部消化器外科 ■医療・バイオ分科会 高機能ナノ磁性粒子を利用した がんの診断・治療に成果 医療・バイオ分科会では、プロジェクトの課題である「セ の上田政和准教授は、センチネルリンパ節を標的とする診断 法と治療法の確立が医療現場にとって意義が大きい点を強調 した。既に市販されている医療用鉄磁性体を利用して磁気共 鳴画像装置(MRI)による検出法の開発と、センチネルリン パ節をターゲットとした抗がん剤タキソール(PTX)を生体 ンチネルリンパ節へのがん転移の同定・診断と治療」に焦点 親和性のある医用ポリマー(MPC)に封印した製剤の開発、 を絞り、これまでの研究成果を報告、招待講演では英国の専 およびその効果が動物実験による生存率改善で証明されたと 門家が磁性ナノ粒子の医療応用研究の現状などを紹介した。 報告した。上田准教授のグループと「医療・バイオ」チーム 研究チームリーダーの半田宏教授は、まずプロジェクトの は科学技術振興機構から研究費を得て、フェライト微粒子を 概要を説明、現在の医療現場での課題と東工大の目指すソリ ューションについて説明、体内への低侵襲な介入によるがん 医療に応用するための共同研究を実施している。 最後に東工大のA・サンドゥー准教授(Adarsh Sandhu) の診断・治療は患者からの期待が大きく、医療現場の医師か は、センチネルリンパ節が同定された後、生検によりがんの らもその高精度化・迅速化が求められていると強調した。そ 転移と進行度合を判定するため、磁気によって標識された生 の上で、その解決策として東工大の発明による高機能ナノ磁 体分子を検出するシステムを開発中であると報告した。この 性粒子を用いたセンチネルリンパ節の同定やがんの迅速診 断、さらに磁気温熱治療法の開発を外部医療機関と連携して 推進していると報告した。 招待講演では、英国王立研究所長のQ・パンクハースト教 授(Quentin Pankhurst)が磁性ナノ粒子の医療分野への応用 として、「センシング、その体内移動、加熱」に関してロン ドン大学での研究成果を基に発表した。パンクハースト教授 は、自ら創業したベンチャー企業エンドマグネティクス社 医療現場からも熱い視線が注がれた