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である。 - 日本貿易振興機構
要約 注:要約部分における図・表の出典は「調査結果による調査団の取り纏め」である。 1. プロジェクトの背景・必要性 カザフスタンは石油、天然ガスなどのエネルギー資源、鉱物資源に恵まれた資源大国 であるものの、カザフスタンの産業構造が石油ガス分野に大きく偏っており、長期的安定 成長のためにはバランスのとれた産業・経済発展が重要課題である。 2. プロジェクト実施・内容に対する基本方針 カザフスタン政府は«カザフスタンにおける石油化学産業発展のためのマスタープラ ン»を初めとして当該産業育成のための政令を公布している。以上の政令に従い、カズムナ イガス(KAZMUNAYGAS:KMG)はいくつかのプロジェクトを実行し、国家の戦略的利益が符合 するような基本的な石油化学プロジェクトを作り出そうとしている。このような状況を背 景にして KMG は本プロジェクトについて以下のような方針を採っている。 (1) CCR Project(本件プロジェクトの対象外) :Aromatics Project にてパラキシレン(PX) とベンゼン(BZ)を製造するためのリフォメートを原料として提供する。 (2) Aromatics Project(本件プロジェクトの対象) ・ CCR プロジェクトから生産される 889,000 MT/Y (889 KMTA)のリフォメートを原料と する。 ・ リフォメートからポリエチレンテレフタレート(PET)の原料である PX と、ポリス チレン(PS)の原料である BZ を製造する。 (以下は本調査団による報告を受けて KMG が方針を検討中) ・ 下流における PS 製造原料である BZ:133 KMTA のプラント完成を急ぐものとする。 ・ PX 製造設備は第2フェーズにて着手する。 (3) Petrochemical Complex(本件プロジェクトの対象) ・ Aromatics Project の製品である PX と BZ を PET・高純度テレフタル酸(PTA)及び エチルベンゼン(EB)の原料として利用する。 ・ 当該 Complex に隣接する KPI Project からのエチレンを利用する (以下は本調査団による報告を受けて KMG が方針を検討中) ・ 原料 BZ から PS への中間原料 EB を製造する設備の完成を優先する。 1 ・ PTA の輸出は行わない。 ・ PET の製造容量は 100 KMTA とする。 ・ ポリ塩化ビニル(PVC)製造については経済性が劣ることから、建設計画を再検討す る。 2008 年 1 月 28 日現在における Aromatics Project と Petrochemical Complex の構成 図・マテリアルバランスをそれぞれ図 S-1 から S-3 に示す(図内において 1KMTA= 1,000MT/Y) 。 2 Product Stream FG Fuel Gas Stream H2 Hydrogen Stream LPG RAFFINATE BENZENE C7336 Liquid Extraction BTX 286 Benzen & Toluene Column 889 1,000 Deheptanizer C5+ Reformer C8A PX PX Recovery 2,288 T 421 T T 7 428 C8A 1,785 C8+ 1,153 Xylene Splitter C8A 1,719 C9+ 584 H2 3 BT 32 H2 19 C9 541 HEAVIES H2 図 S-1: Aromatics Project のプロジェクトフロー( 95 FG 19 PX Isomerization BT 81 496 Xylene Rerun 3 FG C8+ 553 133 Toluene Transalkylation FG 71 FG 4 149 C6+ 885 C8+ 599 HDT NAPHTHA 33 は KMG が優先的に建設着手したいとしている設備。単位:KMTA) 43 51 Atyrau Refinery Site CCR Project ナフサ 1,000 リフォメート CCR ラフィネート 149 Aromatics Project PXプラント 重質成分 889 496 PX輸出分 437 43 PX 59 BZ 133 Karabatan Site Petrochemical Complex Project KPI Project 4 オレフィンプラン ト エチレン 20 48 酸素 20 EO/EGプラント PTAプラント 87 PTA 87 PTA 輸出分 EB EG 34 PETプラント 100 179 EB 0 179 Aktau Project SMプラント PSプラント PET 100 図 S-2: PTA の輸出をとりやめ PET100KMTA を製造するケース (Case 5)、単位:KMTA(1,000MT/Y) PS 300 Petrochemical Complex (@Karabatan) 岩塩 電解プラント 85 カセイソーダ 63 エチレン 47 塩素 58 EDCの製造 KPI Project EDC: 268* オレフィンプラント 酸素 14 VCMプラント VCM 101 PVCプラント 100 PVC 図 S-3:PVC を 100 KMTA 製造するフロー(Case 6)、単位:KMTA(1,000MT/Y) 3. プロジェクトの概要 3.1 事業総額 本案件におけるプロジェクトコストを以下のように見積もっている。 (単位:MM$) Aromatics Project Complex Project Case 1 (All) Case 2 (PET + EB) Case 3 (PVC) EPC コスト 960 1,630 960 690 その他のプロジェク トコスト* 40 60 40 30 プロジェクトコスト* 1,000 1,690 1,000 720 PX: 496 BZ: 133 PET: 200 EB:179 PTA: 188 PVC: 200 PET: 200 EB: 179 PTA: 188 PVC:200 NaOH: 125 主な製品 (KMTA) 注:プロジェクトコスト*には建中金利を含んでいない。 5 Petrochemical Complex については検討を行ない、以下のケースを推奨している。 Case 5 (PET + EB) 図 S-2 Case 6 (PVC) 図 S-3 EPC コスト(MM$) 450 420 その他のプロジェクトコスト*(MM$) 70 60 プロジェクトコスト*(MM$) 920 480 PET: 100 EB: 179 PTA: 0 PVC:100 NaOH: 63 主な製品 (KMTA) 3.2 財務・経済分析の結果概要(Case 5 と Case 6 を導入する背景) Petrochemical Complex の原料 PX・BZ の価格を国際取引価格と設定して製品販売収 入・原料購入費用のバランスを計算したが、小さく、事業を進めるには利益率の面で難し い。 (MM$) Aromatics Project Complex Project Case 1 (All) Case 2 (PET + EB) Case 3 (PVC) 製品販売収入 (A) 646 717 493 224 原料購入費用 (B) 304 533 441 92 バランス (A) – (B) 342 584 52 132 3.3 代替案との比較結果及び最適案選定理由(Case 5 と Case 6 の導入) プロジェクトのスキームを決定する以下のパラメーターを変えて経済計算を行った。 結果として Petrochemical Complex の経済性を改善するために以下の提言を行った。 (1) Petrochemical Complex の原料である PX 及び BZ の購入価格を下げる必要がある。 Aromatics Project 及び Petrochemical Complex を統合することにより、購入価格を合 理的に下げることができる。 (2) PX を原料として製造した PTA を輸出することは現在の市場においては有利ではない。 PTA ではなく PX のまま輸出すべきである。 (3) PET の製造容量は小さいほうが、 経済性が高い (本調査では 100 KMTA とした:Case 5) 。 (4) PVC の製造容量は小さいほうが、 経済性が高い (本調査では 100 KMTA とした:Case 6) 。 感度分析を行ったところ、PET+EB 製造ケース(Case 5)では税前で IRR が 10%以上とな 6 ることもある(図 S-4) 。一方、PVC 製造ケース(Case 6)の IRR は低く、プロジェクトの実 IRR(%) 施には再検討を要する(図 S-5) 。 18% 16% 14% 12% 10% 8% 6% 4% 2% 0% 製品価格 原料価格(エチレ ン・酢酸) EPCコスト 70% 80% 90% 100% 110% 120% 130% パラメータの割合 図 S-4 PET+EB 製造ケース(Case 5)における感度分析結果(IRR:税前内部利益率) 6% IRR(%) 5% 製品価格 4% 原料価格(エチレ ン) EPCコスト 3% 2% 1% 0% 70% 80% 90% 100% 110% 120% 130% パラメータの割合 図 S-5 PVC 製造ケース(Case6)における感度分析結果(IRR:税前内部利益率) 3.4 環境的・社会的影響 当該プロジェクトの基礎原料は、改質ナフサから得られる芳香族と随伴ガス中のエタ ンを分解して得られるエチレンであり、塩素を副原料として用いる PVC 製造を除けば、基 本的に環境に優しいプロジェクトである。 ‐大気環境 Atyrau 製油所は石油の深度精製を進めているが、当該プロジェクトの上流プロセスで ある CCR 計画もその一環である。石油の深度精製プロセスは製油所の燃料となる軽質ガス を副生する結果、硫黄分を含む燃料油の使用量が減少して製油所からの大気汚染物質排出 量は減少する。現に、近年、大規模の近代化プロジェクトを実施してきた Atyrau 製油所で 消費する燃料は重油主体からガス主体に転換されている。ガス燃料主体の燃料構成が進め 7 ば、効率の高いガス・タービン・コージェネレーションの採用が可能になるので、当該プロ ジェクトは Atyrau 地域の大気環境を悪化するのではなく、 改善する可能性を秘めたプロジ ェクトであるということができる。 Karabatan サイトの燃料は、主として PVC プラントで必要な電力を賄う発電のために 消費される。高い発電効率を達成するためには、天然ガスを燃料とするガス・タービン・ コージェネレーションの採用が不可欠である。燃料として天然ガスを使うことになれば大 気環境の問題は軽微ということになる。当該プロジェクトには PVC の製造工程で塩素を取 扱うが、塩素の漏洩防止技術と無害化プロセスは全世界的に確立されており、これらを踏 襲すれば、環境保全上、深刻な問題を引起こす可能性は極めて低くなる。 ‐水域環境 Atyrau 地域の工業用水の水源は Ural River(ウラル川)であるが、ウラル川と Caspian Sea(カスピ海)の水質保全のために、これらへ工場排水を放流することは禁止されている。 Atyrau 製油所では、工場排水を蒸発池で蒸発処理する方法を採っている。国土が広く、雨 量が少ないカザフスタンでは、工場排水を蒸発池で蒸発させ、蒸発残渣を無人の土漠へ埋 立て処分する方法は一般に行われている方法である。Atyrau 製油所だけでなく、Karabatan サイトでも同様の排水処理方式以外の選択肢はあり得ないので、当該プロジェクトによる 水域環境へ負の影響は及ばないと考えられる。 ‐産業廃棄物 当該プロジェクトから排出される産業廃棄物の主なものは廃触媒、 廃ポリマーである。 前者は製造者に返送して再生処理する方式が全世界的に定着しており、環境問題を懸念す る必要はない。廃ポリマーは安定した物質であるため、そのままの状態で放置しても環境 に悪影響が及ぶことがないが、規格外製品として利用する方法あるいは塩素を含む PVC 以 外の廃ポリマーは焼却処分する方法が採られることが多い。当該プロジェクトの主原料は 改質ナフサとエチレンであり、重金属等の有害物質を含まないので重大な環境問題を招く 可能性がある廃棄物は発生しない。 ‐騒音 Atyrau 製油所工業専用地域に立地しており、一般居住区とは距離を隔てているので当 該プロジェクトの実施によって一般居住民に騒音による影響を与える可能性は少ない。 Karabatan サイトは無人の土漠地帯であり、直近の村落とは約3km の距離を隔てているの でコンプレックスの操業に伴う騒音が問題になることはない。 8 ‐景観 Atyrau 製油所及びアクタウのポリスチレン工場は、いずれも工業占有地域に立地して おり、当該プロジェクトの実施によって景観を損なうということはない。不毛に近い土漠 地帯の Karabatan サイトでも、当該プロジェクトが景観を損ねることはない。 ‐社会的影響 当該プロジェクトのサイトは Atyrau 製油所と新規工業開発される Karabatan であるが、 前者は既設工場敷地内であり、後者は居住者が存在しない土漠地帯である。従って、プロ ジェクトの実施に伴う住民の移住は発生せず、社会への負の影響は極小である。 当該プロジェクトでの物流量は Atyrau 製油所で年間 70 万トン、Karabatan の Petrochemical Complex で 120 万トン程度である。Atyrau 製油所の物流量は現状と大きく 変わることはない。現在、無人に近い Karabatan での入出荷量はそのまま増加することに なり、鉄道輸送への影響は極めて大きいが、Karabatan は現状無人に近い状況にあるので 鉄道輸送量の増加による社会面の影響はないと考えられる。 当該プロジェクトによる雇用の増加は3年間の建設段階において平均 2,000 人程度の 建設要因の雇用創出があるものと推定される。又、商業運転開始後は Atyrau 製油所と Karabatan サイトの従業員約 300 人と常駐協力会社従業員約 100 人の雇用創出が予想され る。従って、当該プロジェクトの社会面の正の影響は負の影響を大きく上回るということ になる。 4. 実施スケジュール カザフスタンにおける標準的なプロジェクトスケジュール手順は以下のとおり。 ・ カザフスタンでは本プロジェクトを実現するための要件を定めている。 ・ KMG においては標準的なプロジェクト遂行スケジュールを定めている。 ・ スケジュールは基礎設計を行う Pre-project Stage と詳細設計・建設を行う Design Stage に分かれている。各ステージにおける関連官庁による認可手順は設定されている。 2008 年1月時点におけるプロジェクトに関するスケジュールについては以下のとお り。 ・ 着手すべき Aromatics Project の Scheme について、KMG は本年3月を目処に決定し、 投資委員会の認可を得た上で、本年末までに設備設計の最終化を図りたいとしている。 ・ 設備の建設期間については、EPC Contractor の過受注状況が続く場合には 48 ヶ月も あり得るが、標準工期として以下のように見積もっている。 9 - Aromatics Project:36 ヶ月 - Petrochemical Complex:42 ヶ月 5. 資金調達に関するフィジビリティ (1) Aromatics Project ・ カザフスタンの最近の経済が好調なことと、資源国としての評価が高まっているこ とから商業銀行が当該案件向けに KMG 与信で資金供給する可能性はある。 ・ 円借款を利用するためにはカザフスタン政府から日本政府に対し強い要請があるこ とが必要となる。 (2) Petrochemical Complex 1) 資金調達方法としてプロジェクトファイナンスを利用するには以下の点に留意しリ スクを削減する必要がある。 ・ プラント建設請負業者から Turn key 方式による完工保証が取れるか? ・ 製造プロセス、重要機器に Proven Technology が採用されているか? ・ 運転協定においてプラントの運営を行える専門能力を持った Operator が要求さ れているか? ・ 原料フィードについては、競争力のある価格での長期供給契約が締結されてい るか? ・ 長期間の製品の引き取り保証がなされているか? ・ 外貨転換リスクがある場合で、製品の販売先が海外の場合は、販売代金を入金 する海外でのエスクロー勘定を設けているか? ・ 外貨転換についてはカザフスタンまたは、国際機関の政治リスク保険を付保ま たは保証を契約しているか? ・ カザフスタン政府による政策変更リスクが小さいか? 2) 以下の資金調達の代替案を検討する必要がある。 ・ 国際協力銀行(JBIC) 投資金融 ・ JBIC の輸出金融 ・ 各国 ECA(Export Credit Agency) の輸出金融 10 6. 我が国企業の技術面等での優位性 (1) 我が国企業、特に調査団を構成する企業は以下のサービスに経験が深いため、十分な 国際競争力を有している。 1) 資金調達:本プロジェクトのような巨大石油化学プロジェクトの資金調達 2) 資機材調達:当該石油化学品製造設備に対して ・ コンサルティング:設備の高稼働率及び製品の高品質の維持を目的とするオー ナーズコンサルタントとしての機能 ・ 基本設計 ・ Engineering-procurement and Construction (EPC) 3) 石油化学製品の製造設備の運営管理 (2) 我が国企業の受注を促進する施策例としては以下のとおり。 1) カザフスタン政府からの要請による、 設備建設に対する JBIC 等我が国公的金融機関 による円借款の供与 2) 大量の化学品輸送のための列車輸送力増強 ・ 列車のスケジュール運行を可能にするための調査の実施 ・ 中国との国境における石油化学品のタンク貨車移し変えあるいは貯槽設備の増 強に対する調査・円借款の供与 3) プラスチック産業育成を目的とする以下の活動に対する調査・円借款の供与 ・ カザフスタンにおける PET・PVC の需要拡大のための活動 ・ プラスチック加工業経営・基盤強化のための活動 ・ プラスチックに関し社会の理解を深めるための啓蒙活動 ・ 他の中央アジアの国々における PET・PVC 需要確保のための活動 ・ プラスチック利用に関してカザフスタンがリーダーシップを取るための活動 7. 案件実現までの具体的スケジュール及び実現を阻むリスク (1) 本件プロジェクトをカザフスタン側は着実に具体化しつつある。 1) 本件調査開始時点において KMG は PET に加えて PVC とプラスチックスのラインアッ プを考えていたが、ガソリン溜分中の BZ を抽出する設備の建設着手を優先する意向 である。 11 2) カザフスタン政府は Aromatics Project 及び Petrochemical Complex を Free Trade Zone として認定し、税制面での支援を行おうとしている。 3) KMG は、この 2・3 月には Aromatics Project の Scheme を決定し、投資委員会の認 可を得ようとしている。 4) Petrochemical Complex の Scheme については経済性の悪い PVC の製造は再検討され るものと理解している。 5) Petrochemical Complex の原料であるエチレンを供給する KPI Project については、 ユーティリティ・オフサイト設備も含めその仕様が決められつつある。 (2) プロジェクトを実現させるために必要な日本側による措置・支援 1) 投資保護に関する二国間協定、二重課税防止条約の締結。 2) プロジェクトに対する JBIC による投資金融・輸出金融の適用。 3) プロジェクトを推進するための専門家の派遣。 (3) プロジェクトを具体化するために必要な検討・分析 KMG が優先し考えている BZ の利用については以下の検討・分析が必要である。 1) PS の市場分析、市場までの輸送・輸送コスト 2) Aktau の既存 PS プラントのプラント診断 3) BZ から PS を製造する Scheme、プラント立地の検討 4) 設備容量・マテリアルバランスの検討 12 8. カザフスタンでの事業実施地点がわかる地図 Aromatic Project の建設計画 場所:Atyrau 製油所内 製品:PX, BZ 等 既設 P/S プラント 場所:Aktau 製品 EB の納入先 KMG 本社の所在 場所:Astana Petrochemical Complex の建設計画 場所:Karabatan 製品:PET, PVC, EB 等 13 本報告書の著作権は、すべて本調査事業委託元である経済産業省資源 エネルギー庁に帰属するものであり、経済産業省資源エネルギー庁の 許可なく無断で転載・引用することを固くお断りします。 お問い合わせ 日本貿易振興機構(ジェトロ)産業技術部産業技術課 住所:東京都港区赤坂1-12-32アーク森ビル6階 電話:03-3582-5542 FAX :03-3582-7508