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ポルトガル経済の現状と展望 ~ギリシャ問題の波及は

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ポルトガル経済の現状と展望 ~ギリシャ問題の波及は
2015.07.29 (No.25, 2015)
ポルトガル経済の現状と展望
~ギリシャ問題の波及は避けられるか?~
公益財団法人 国際通貨研究所
経済調査部 上席研究員
山口 綾子
[email protected]
<要旨>

ポルトガルはアイルランド、スペインに次ぎ、2014 年 5 月にトロイカ金融支援1か
ら卒業した。その後もおおむね順調な回復を続けてきた。

ポルトガルの成長率は、ユーロ導入以来ほぼユーロ圏平均を下回ってきた。特にユ
ーロ・ソブリン危機が深刻化した 2011-2012 年には厳しい落ち込みを示した。競争
力を回復すべく構造改革を進行中。欧州委員会による 2015、2016 年の成長率見込
みは、ユーロ圏平均並み。しかし、中期的に成長を維持するにはさらなる改革が必
要であろう。

2014 年 10 月に公表された欧州中央銀行(ECB)の包括査定の結果、ポルトガルの
銀行で不合格となったのは 1 行のみ。

今秋に議会選挙が予定されている。現在は中道右派の社会民主党と民衆党の連立政
権が治めている。世論調査では最大野党で中道左派の社会党が与党連合を一歩リー
ドしており、接戦が予想される。政権交代があっても、構造改革路線が大きく変更
されるリスクは小さい。

仮にギリシャがユーロ離脱(Grexit)に至った場合、ユーロ金融市場が動揺する可
能性は否定できない。その場合、ポルトガルはもっとも影響を受けやすい国の一つ
である。しかし、ユーロ危機を通じて、さまざまな制度上のセーフティネットも拡
充されてきており、金融市場を通じたポルトガルへの影響は限定的とみられる。
1
欧州連合(EU)
、欧州中央銀行(ECB)
、国際通貨基金(IMF)の三者による協調支援。
1
<本文>
1.
ポルトガル経済の現状
トロイカ支援からの卒業
ポルトガルは 2011 年にトロイカ支援を受けたポルトガルは、2014 年 5 月に支援から
卒業した。アイルランド、スペインに続く、支援プログラムの卒業成功例第 3 号となっ
た。卒業に際し、事前に検討されていた欧州安定メカニズム(ESM:European Stability
Mechanism)の予防的信用枠の設定要請も行われなかった。
ソブリン・リスクの代表的指標であるドイツ国債とのスプレッドも順調に縮小してき
た(図表 1)。
図表 1:ドイツ国債との利回りスプレッド(10 年物国債)
% 20
40 %
ポルトガル
18
35
ギリシャ
16
30
14
12
25
10
20
8
15
6
10
4
(注)ギリシャは右目盛。
2015/06
2015/03
2014/12
2014/09
2014/06
2014/03
2013/12
2013/09
2013/06
2013/03
2012/12
2012/09
2012/06
2012/03
0
2011/12
5
0
2011/09
2
(資料) Datastreamデータより作成
2014 年 2 月からは 10 年物国債の入札が再開され、
金融市場への復帰を果たした。2015
年 7 月 23 日に行われた国債入札(満期 2020 年、2037 年、目標発行額 10-12.5 億ユーロ)
では、ギリシャ問題で市場が不安定化するなかでも、応札額が目標額を上回り、15 億
ユーロの発行に成功した。
ようやく回復に転じた GDP
2015 年第 1 四半期の GDP 成長率は季節調整済前期比 0.4%と、ほぼユーロ圏の平均
並みの数値であった。ユーロ導入後のポルトガルの実質成長率はこれまでおおむねユー
ロ圏平均を下回ってきた。特に 2010 年以降のユーロ・ソブリン危機で大きく下押しさ
2
れ、厳しい財政緊縮・構造改革を余儀なくされたことも加わり、2011-2012 年にかけて
成長率は大きく落ち込んだ。2013 年後半以降は回復に転じ、2014 年には 4 年ぶりのプ
ラス成長を記録した。欧州委員会の見通しによれば、2015、2016 年にはユーロ圏平均
並みの成長を維持する見込みとなっている(図表 2)
。
部門別寄与度でみると、2011、2012 年には EU からの支援の条件でもあった厳しい緊
縮政策を受けて、個人消費、固定資本形成、政府消費といった内需が大きくマイナスと
なったが、輸出の堅調、輸入の大幅減少により、外需が経済を下支えしていたことがわ
かる。2014 年には雇用情勢の改善、年後半からの原油安などを受けて、消費者心理が
改善し、個人消費がようやく回復に転じ、投資もわずかながらプラスとなった(図表 3)
。
図表 3:実質 GDP 成長の部門別寄与度
図表 2:ポルトガルの実質 GDP 成長率
5%
6.0%
ユーロ圏平均
4%
ポルトガル
3%
見通し
2%
4.0%
在庫増減
2.0%
固定資本形成
1%
0.0%
0%
-2.0%
-1%
家計最終消費
政府消費
-4.0%
-2%
純輸出
-6.0%
-3%
実質GDP
-8.0%
-4%
-10.0%
(注)見通しは欧州委員会2015春季。(資料)Eurostatデータより作成。
(資料)ポルトガル国
家統計局より作成
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
マクロ経済不均衡には改善がみられるが、ストック・ベースの不均衡は残る
図表 4 はポルトガルの主要なマクロ経済指標の推移を、ユーロ圏の問題国とされてい
る GIIPS(ギリシャ、アイルランド、イタリア、スペイン)各国と比較してみたもので
ある。
GIIPS 各国が構造改革を進め、厳しい緊縮政策を強いられた結果、財政収支、民間債
務の増減など、フローの指標でみた不均衡は、順調に改善していることがわかる(図表
4-4,4-6)。
対外面では、ポルトガルは、他の GIIPS 諸国と比較すると、ユニット・レーバー・コ
ストの上昇は抑えられていたため、調整は小幅なものにとどまった(図表 4-8)。競争力
の改善を受けて、経常収支赤字も黒字に転じた(図表 4-2)。しかし、ポルトガルは十分
な競争力を持つ輸出産業に乏しいため、経常収支赤字の縮小は主として輸入の減少によ
るものであった。
3
図表 4:GIIPS 各国の主要マクロ経済指標
1.対外投資ポジション(GDP比、%)
2.経常収支赤字(GDP比、%)
0
10
Italy
-20
Italy
5
Spain
-40
Spain
Ireland
Ireland
-60
Portugal
-80
Greece
0
Portugal
Greece
-5
-100
-10
-120
-140
-15
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
3.国内民間債務(GDP比、%)
4.民間債務(フロー、GDP比、%)
50
300
250
200
Italy
40
Spain
30
Italy
Spain
Ireland
Ireland
Portugal
150
Greece
20
Portugal
10
Greece
100
0
50
-10
-20
0
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
5.政府債務残高(GDP比、%)
6.財政収支(GDP比、%)
5
200
180
160
140
Italy
0
Italy
Spain
-5
Spain
Ireland
120
Portugal
Portugal
100
-15
Greece
80
Ireland
-10
Greece
-20
60
-25
40
-30
20
-35
0
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
7.住宅価格(2005=100)
8.ユニット・レーバー・コスト(2005=100)
120
130
Italy
120
Italy
115
Spain
Spain
110
110
Ireland
100
Portugal
90
Greece
Ireland
Portugal
105
Greece
100
80
95
70
90
60
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(資料)ユーロスタットより作成
4
以上のように、フロー面では大きく改善がみられたものの、これまで積みあがったス
トック面での不均衡を改善するのは容易なことではない。対外投資ポジション、民間部
門債務残高、政府債務残高などの指標はいずれもピークを打ったものの、依然として高
水準にある(図表 4-1,2,3)
。他の GIIPS 諸国も同様であるが、国別にみると、ポルトガ
ルはおおむねギリシャに次いで高い。
一方、ポルトガルの住宅価格は、アイルランドやスペインなどのような高騰がみられ
なかったため、他と比較すると小幅調整に終わり、すでに下げ止まり、緩やかながら回
復に向かっている(図表 4-7)。
失業率は 2013 年には 17.5%にも達したが、景気回復に伴い順調に低下してきた。2015
年 6 月には 12.4%に下がっている(図表 5)
。
図表 5:ユーロ圏各国の失業率
30 %
ギリシャ
25
スペイン
20
イタリア
15
ポルトガル
ユーロ圏平均
10
アイルランド
5
(資料)ユーロスタットより作成
ドイツ
0
’08
’09
’10
’11
’12
’13
’14
’15
格付けは上方修正
こうした成長回復、財政改善を背景に、ムーディーズ(Moody’s)は 2014 年に 2 回に
亘ってポルトガルの格付けを上方修正した(図表 6)。スタンダード・アンド・プアー
ズ(S&P)、フィッチ・レーティングスなど他の国際的な格付け会社も同様の対応をし
ている。
格付け修正、低金利環境を背景に、2015 年 3 月ポルトガル政府は、IMF からの支援
につき、66 億ユーロ(残高の 22%)を前倒しで返済した。今後も 18 億ユーロの前倒し
返済を実行する予定としている。
5
図表 6:各国のソブリン格付け
Aaa
Aa1
Aa2
Aa3
A1
A2
A3
Baa1
Baa2
Baa3
Ba1
Ba2
Ba3
B1
B2
B3
Caa1
Caa2
Caa3
Ca
C
(Moody’s 社)
アイルランド
スペイン
イタリア
ポルトガル
ギリシャ
投機的
(投資不適格)
Dec-08
Dec-09
Dec-10
Dec-11
Dec-12
Dec-13
Dec-14
(資料)Moody's より作成
金融セクターの動向
ポルトガルの銀行のうち、2014 年 10 月に結果が公表された ECB 包括査定で資本不
足が指摘されたのは、調査対象 3 行のうち Banco Comercial Portugues, S.A.1 行のみであ
った。同行について、アドバースシナリオでの必要資本額は 11 億ユーロとされた。同
行は 2015 年 6 月に市場からの調達による資本増強を行った。
ECB のストレステスト結果で見る限り、Banco BPI, S.A.と Caixa Geral de Depositos, S.A.
はアドバースシナリオの下でも 5.5%以上の自己資本比率を維持している。
図表 7:ECB による包括査定結果
総資産
(百万
ユーロ)
2013末
自己資本比率
Asset Quality
アドバース
ベースライン
Review
シナリオ
必要資本額
(百万
ユーロ)
不良債権
比率
〇Banco Comercial
Português, SA
82,006
12.2%
10.3%
8.8%
3.0%
1,137
15.5%
Banco BPI, SA
40,025
15.3%
15.2%
14.9%
11.6%
0
6.3%
〇Caixa Geral de
Depósitos, SA
101,506
10.8%
10.4%
9.4%
6.1%
0
16.5%
(注)〇印は2014年1月以前にリストラ計画が欧州委員会に承認済み (資料)欧州中央銀行資料より作成
図表 8 は銀行預金残高(金融機関・中央政府を除く)の推移をみたものである。ポル
トガルの銀行部門は 2011 年に預金流出がみられたが、2013 年初あたりをボトムに下げ
止まりがみられる(直近データは 2015 年 5 月)。図表 9 はユーロの決済システムである
6
TARGETⅡに対する国別の資産・負債残高をみたものである。預金流出にみまわれたポ
ルトガルの銀行部門が、流動性を確保するため、中央銀行を通じてユーロ決済システム
に対して債務を負ってきた姿が窺える。TARGETⅡに対する債務も 2012 年半ば以降は
ほぼ横ばいとなっている。
図表 8:銀行預金残高
図表 9:TARGETⅡシステムの残高
10億ユーロ
300 10億ユーロ
0
ポルトガル
ポルトガル
-20
250
ギリシャ
ギリシャ
-40
200
-60
150
-80
100
-100
50
(資料)ECBデータより作成
Jan-98
Jan-99
Jan-00
Jan-01
Jan-02
Jan-03
Jan-04
Jan-05
Jan-06
Jan-07
Jan-08
Jan-09
Jan-10
Jan-11
Jan-12
Jan-13
Jan-14
Jan-15
0
2.
-120
(資料)Institute of Empirical Economic Research - Osnabrück University データより作成
今後の見通し・残るリスク
ユーロ圏のデフレ懸念
ポルトガルの消費者物価は 2014 年 2 月から 8 月まで半年以上にも亘って前年割れが
続いた後、前年比プラスとなったが、2014 年末から 2015 年初にかけて再び前年比マイ
ナスを記録した。2015 年 3 月以降はプラスに転じ、6 月には前年比 0.8%となった(図
表 10)
。
ユーロ圏平均でみても、消費者物価は、2014 年末から 2015 年初めにかけて前年割れ
を記録した。景気についてもドイツを中心に弱めの指標が続いていたこともあって、ユ
ーロ圏がデフレに陥るのではないかとの懸念が一時高まった。
7
図表 10:ユーロ圏各国の消費者物価(前年比変化率)
6.0%
5.0%
ポルトガル
4.0%
ユーロ圏
3.0%
ドイツ
ギリシャ
2.0%
1.0%
0.0%
-1.0%
-2.0%
(資料)ユーロスタットより
作成
-3.0%
’08
’09
’10
’11
’12
’13
’14
’15
こうした状況に対し、ECB は 2015 年 1 月、拡大債券買い取りプログラム(欧州版量
的緩和:QE)の開始を発表した2。同プログラムは 3 月から開始され、7 月 24 日現在、
証券購入残高は、第 3 次カバードボンド購入プログラム 1,016 億ユーロ、資産担保証券
購入プログラム 95 億ユーロ、公的部門購入プログラム 2,379 億ユーロとなっている。
この結果、ECB のバランスシートも 2.5 兆ユーロを超える水準まで回復してきた(図表
11)
。
ECB の対応や、原油・食品価格の下げ止まりもあって、ユーロ圏の消費者物価はプ
ラスに転じ、2015 年 7 月には前年比+0.2%となった。各国の経済動向は依然厳しいなが
らも改善に向かいつつあることもあって、消費者心理にも改善がみられ、ユーロ圏全体
がデフレに陥るのではないかといった懸念は薄らいできている。
2
欧州版量的緩和については、2015/2/14IIMA ニューズレター「ユーロ圏経済の動向~ギリシャ不安再燃に
揺れるユーロ圏経済」http://www.iima.or.jp/Docs/newsletter/2015/NL2015No_6_j.pdf 参照
8
図表 11:欧米中央銀行の総資産
兆ドル
5.0
兆ユーロ
3.5
欧州中央銀行
3.0
米国FRB(右目盛)
4.0
2.5
2.0
3.0
1.5
2.0
1.0
1.0
0.5
0.0
0.0
2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
(資料)Datastreamより作成
ポルトガル議会選挙
ポルトガルでは 2015 年 10 月 4 日に議会選挙が予定されている。ポルトガルは一院制
議会で、総議席数は 230、任期 4 年、全国 21 の選挙区での名簿による比例代表制の選
挙となる。2011 年の総選挙以来現在まで、第 1 党の中道右派の社会民主党(PSD、現議
席数 108)が第 3 党の民衆党(CDS-PP、同 24)と連立を組んで政権を取っている。
世論調査では、
連立与党は厳しい緊縮政策が嫌気され、第 2 党で最大野党の社会党(PS、
同 74)に大きく水をあけられてきたが、7 月半ばに行われた直近の調査では、PS 38%
に対し、連立与党 37.8%と肉薄してきている。
1970 年代のカーネーション革命以来 40 年間の民主主義体制のなかで、この主要 3 党
のいずれかが政権に関わってきた。直近の世論調査でもこの 3 党以外の党が躍進する姿
は確認できない。ギリシャの Syriza(与党第 1 党)やスペインの Podemos のような反緊
縮、反 EU を前面に打ち出した政党がプレゼンスを高め、構造改革路線が大きく変更さ
れるリスクは小さいといえよう。
ギリシャのユーロ離脱(Grexit)の場合のポルトガルへの影響
ギリシャの EU との支援交渉を巡る混乱がユーロ金融市場に影響を与えている3。7 月
最近のギリシャ情勢については、2015/7/14 付け IIMA の目「ギリシャ金融支援交渉を巡る混乱が示すユ
ーロの欠陥」http://www.iima.or.jp/Docs/column/2015/0714_1_j.pdf 参照。
3
9
13 日ユーロ圏首脳会議は徹夜の会議の後、一定の条件のもとで支援交渉を再開するこ
とでようやく合意に達した。7 月 28 日よりギリシャと EU との支援交渉が再開された。
まだ課題は山積みであり、ギリシャのチプラス政権は国内をまとめることができるのか、
構造改革の実行に責任を持てるのか、不透明要因は多く、交渉の行方に楽観はできない。
Grexit のリスクは高くはないとみられるが、仮にギリシャと EU の今後の交渉が頓挫
し Grexit に至った場合、ユーロ金融市場が再び動揺するリスクは否定できない。その場
合、ポルトガルはもっとも影響を受けやすい国の一つである。しかし、ユーロ債務国危
機を通じて、さまざまな制度上のセーフティネット(EU 共通のセーフティネットとし
ての ESM、ECB による国債購入プログラム:OMT など)も拡充されてきており、金融
市場を通じたポルトガルへの影響は限定的とみられる。特に先ごろ欧州司法裁判所が
ECB の OMT は合法との判決を出し、ECB による国債買い取りが正当化された4。この
ため ECB の危機対応能力に対する懸念が薄らいだ。
また、これまでの金融市場の動きをみる限り、他の債務問題国への影響も限定的であ
る(図表 12)。足下では、ユーロ圏の政府債務問題国の 10 年物国債利回りは、ギリシ
ャを除くと、市場参加者が財政の持続可能な水準の目安とみなす 7%を大きく下回って
いる。なお、ギリシャについては 2014 年夏場以降、政局不安から債務問題を巡る懸念
が再燃し、国債利回りは上昇(国債価格は下落)している。
4 2015 年 6 月 16 日、欧州司法裁判所(ECJ:Court of Justice of the European Union)は、ECB の国債買い取
りプログラム(OMT:Outright Market Transaction)について、EU 法に違反していないとの判断を公表した。
OMT は 2 次市場で満期まで 1-3 年の国債を買い取るというプログラムで、金融支援を受けて、構造改革
プログラムを履行している国が対象。2012 年 9 月の ECB 政策理事会で導入が決定されて以来、これまで一
度も実行されたことはない。しかし、当時のドラギ総裁の、
「ユーロを守るために ECB の権限内で何でも
する」との発言とあいまって、ユーロ崩壊を懸念して混乱していた市場に安心感を与えるものであった。
ドイツ連邦準備銀行はそもそも当初から OMT 導入に反対の立場を明らかにしていた。こうしたなか、ド
イツの憲法裁判所に複数のドイツ人学者・議員などのグループにより「OMT は違憲」との訴訟がなされ、
2014 年 2 月ドイツ憲法裁判所は、
「OMT は ECB の権限を逸脱していると思われる」と指摘しつつ、
「EU
法に違反しているかどうかの判断は欧州司法裁判所に付託する」との判決を出した。今回の ECJ の判決は
このドイツ憲法裁からの付託を受けて行ったもの。今回の判決を受けて、これまであいまいであった ECB
の「最後の貸し手としての役割」が改めて確認されたとみられている、
10
図表 12:ユーロ圏各国国債利回り(10 年債)
20
%
%
%40
6
%
20
ポルトガル
イタリア
15
スペイン
30
アイルランド
25
ドイツ
10
35
ギリシャ
5
20
15
10
5
15
4
直
近
の
み
拡
大
3
10
2
5
1
5
0
2010/01
0
0
2011/01
2012/01
(注) ギリシャのみ右目盛
2013/01
2014/01
0
2015/01
(注)ギリシャのみ右目盛(資料)Da tastreamデータより作成
(資料)Da tastreamデータより作成
以上のように、Grexit の場合でもユーロ圏の他国への波及は限定的なものにとどまる
とみられる。ただし、Grexit が起こった場合、ユーロからの脱落の初めてのケースとな
り、ユーロ・システムには脱落がありうることを示す結果となる。短期的には ECB や
EU の対応によりポルトガルを始めとした他国への波及を避けられても、中長期的に同
様な問題が起こるリスクの芽を生むことになる。その意味からも欧州のリーダー達の
Grexit 回避にむけての努力が望まれる。
【参考文献】
IMF, “World Economic Outlook”, Apr. 2015
European Commission, “Alert Mechanism Report 2015”, Nov. 2014
OECD, “Economic Outlook”, May 2015
OECD, “Economic Survey Portugal” Oct. 2014
IMF, “Portugal 2015 article Ⅳconsultation”, May 2015
IMF, “Portugal: Selected Issues”, May 2015
Banco de Portugal, “Financial Stability Report”, May 2015
Banco de Portugal, “Projections for the Portuguese economy”, June 2015
11
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12
Fly UP