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注意制御と恥・罪悪感及び怒りや攻撃の置き換えとの関連
注意制御と恥・罪悪感及び怒りや攻撃の置き換えとの関連 ○佐伯素子 (聖徳大学 心理・福祉学部) キーワード:恥,注意制御,怒りの置き換え The relationships between attention control, shame, guilt and displaced aggression Motoko SAEKI (Faculty of Psychology and Welfare, Seitoku University) Key Words: shame, attention control, displaced aggression 目 的 恥と罪悪感は同じような状況で喚起されるが,その社会的 機能と喚起された後の反応は異なる(Tangney,2003) 。恥と罪 悪感を経験した際の反応の違いには,注意の焦点化や帰属の 仕方に違いがあると考える。恥は,失敗の原因を自己全体に 求めたときに生じるため,自己否定や他者に対する怒りを呼 び起こし,攻撃行動へと結びつくこともある。一方,罪悪感 は失敗の原因を特定の行動に焦点を当てたときに生じ,その 行動に対して一時的な自己帰属を行うだけで,自己全体は傷 つかない。そのため,失敗に対する補償行動が起こり,他者 への怒りや敵意を減少させることができる(有光,2001) 。 恥感情が破壊的な感情や行動へと駆り立てる動機づけとな るかどうかは,失敗の原因をどのように評価するのか,自己 のどの側面に意識や注意を向けるのか,注意の焦点化が鍵に なると考える。失敗の原因を自己全体に焦点化する全体的帰 属から,特定の行動に焦点化する特殊的帰属へと注意や思考 を切り替える能力が,恥感情を自己破壊的な不適応行動に駆 り立てる動機づけになることを防ぎ,適応的機能を働かせる ようになると考える。そこで,本研究では,恥感情が怒りに まつわる不適切な攻撃行動へと転換することを注意制御によ って抑制することができるかどうか検討するために,注意制 御と恥・罪悪感,怒りや攻撃の置き換えとの関連を検討する。 方 法 被調査者:大学生 274 名 M: 20.28 歳,SD:1.19(男子 133 名 M:20.42 歳,SD:1.29,範囲 18~24 歳,女子 141 名 M:20.14 歳,SD:1.14,範囲 18~23 歳) 。 調査内容:質問紙調査法(1)恥・罪悪感傾向の測定:TOSCA-3 短縮版(菊池,2003)5 件法,恥,罪責感の項目のみ使用 (2)注意制御の測定成人用エフォートフル・コントロール尺 度(山形ら,2005) (3)怒りや攻撃の置き換えの測定 DAQ 尺度(淡野,2008)下位尺度(報復の企図,攻撃の置き換え, 怒りの反すう)5 件法(原版では 7 件法,男女とも原版同様の 因子構造を確認) 結 果 (1)注意制御と性別が恥・罪悪感,置き換えに及ぼす影響 注意制御と性別を独立変数とし,恥,罪悪感と怒りや攻撃 の置き換えを従属変数とした 2 要因分散分析を行った。注意 制御は,平均値を境に高低群に分類した。分散分析の結果, 恥,罪悪感,怒りや攻撃の置き換え三つの下位尺度において, 注意制御の主効果が認められ, 「怒りの反すう」を除くすべて の変数に性の主効果が認められた。すべての変数において有 意な注意制御と性の交互作用はみられず,性別による注意制 御の効果に違いは認められなかった。 (2)注意制御と恥・罪悪感,怒りの置き換えとの関連 恥と罪悪感は同じような状況で同時に喚起されることが 多いため,相互の影響を排除し,解析されることが多い (Tangney et al,1992) 。そこで,性別ごとに,罪悪感を統制 し注意制御と恥及び怒りや攻撃の置き換えとの偏相関係数, 恥を統制し注意と罪悪感及び怒りや攻撃の置き換えとの偏相 関係数を算出した。その結果は,表1の通りである。 表 1 性 別 ご と の 恥 、 罪 悪 感 そ れ ぞ れ を 制 御 変 数 と し た 偏 相 関 係 数 制御変数 罪悪感 注意制御 恥 報復の意図 攻撃の置き換え 怒りの反すう 制御変数 恥 注意制 御 ― -.40 -.22 -.47 -.42 注意制 御 注意制御 罪 報復の意図 攻撃の置き換え 怒りの反すう ***p<.001, **p<.01, 恥 *** * *** *** -.24 ― .33 .27 .40 罪 報復の意図 ** *** *** *** -.17 .22 * ― .34 *** .51 *** 報復の 意図 ― .21 * -.15 .39 *** ― -.12 -.16 -.18 * ― -.42 *** -.12 .29 *** -.27 *** .05 .42 *** p<.05 上段:男子 下段:女子 攻撃の 置き換 え -.27 ** .07 .32 *** ― .44 *** 攻撃の 置き換 え -.28 ** -.13 .32 *** ― .37 *** 怒りの 反すう -.18 .30 *** .63 *** .31 *** ― 怒りの 反すう -.10 .02 .60 *** .29 *** ― 考 察 本研究の結果は,Tangney et al(1996)の研究結果と一致し ており,恥傾向が高いと怒りが他者への攻撃に結びつきやす く,また罪悪感傾向が高いと怒りや攻撃に置き換えられるこ とはなく,かえって抑制する可能性が示された。また,注意 制御が高ければ,恥傾向は低く,罪悪感傾向は高く,怒りや 攻撃の置き換え傾向は低くなる。注意制御が怒りや攻撃への 置き換えを抑制する可能性が示唆された。今後は,恥及び罪 悪感と怒りや攻撃の置き換えとの関連に及ぼす注意制御の影 響を検討する。 引用文献 有光興記(2001)罪悪感,羞恥心と性格特性の関係 性格心理学研究, 9(2),71-86. 菊池章夫(2003)TOSCA-3(短縮版)日本語版の検討 岩手県立大学社会 福祉学部紀要, 5(2),35-40. Tangney,J.P.(2003)Self-relevant emotions. In M.R.Leary, J.P.Tangney(Eds.) Handbook of self and Identity. New York: Guilford Press. pp384-400. 淡野将太(2008)攻撃の置き換え傾向尺度(DAQ)日本語版作成に関す る研究 教育心理学研究,56(2),171-181. 山形伸二・高橋雄介・繁桝算男・大野裕・木島伸彦(2005)成人用エフ ォートフル・コントロール尺度日本語版の作成とその信頼性・妥当 性の検討 パーソナリティー研究, 14(1),30-41