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絞り加工の基礎

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絞り加工の基礎
パンのような浅い絞り製品から、なべ、ボール、シンク(流し台)やガスボンベ、
えば、なべのような円筒形状の底付き容器を作ってほしいと頼まれたとき、実
バスタブのような深い絞り製品までいろいろあります。その他にも、自動車のパ
際にはどのような工程で最終的な絞り容器に仕上げられるのかを図 1.2 のフロー
ネルやデジカメの筺体、
燃料電池ケースなどもすべて絞り加工で作られています。
チャートに示します。
これらの例からもわかるとおり、絞り加工とは、図 1.1 に示すように一枚の金
本書の第 2 章以降の各章においては、このフローチャートに沿って絞り加工の
属の薄板から円筒、角筒、円錐などのさまざまな形状の底付き容器を作る加工法
各工程を詳細に説明してゆく構成となっています。第 1 章では、絞り加工の入門
であるとともに、つなぎ目のない底付き容器であることを特徴としています。な
編として、まず、絞り加工を勉強するために必要となる基礎知識のキーポイント
お、絞り加工は他の多くのプレス加工と同様に基本的にはプレス機械に取り付け
を簡潔に説明します。つぎに、実際に板から円筒形状の絞り容器がつくられるま
た金型を用いて加工がおこなわれます。金型によって材料に所定の形状、および
での工程を、このフローチャートに沿って要約的に説明しておきます。絞り加工
寸法を与える加工法のことを成形法とも呼びます。したがって、絞り加工は金属
の基礎知識のキーポイントと、絞り製品のできるまでのあらすじをあらかじめ大
板成形法の中の1つということもできます。
まかに理解しておくことによって、第 2 章から始まる各工程の詳細な説明内容が
より理解しやすくなるはずです。
図 1.1 絞り加工の定義の図解
1.1
工程
1
工程
2
工程
3
工程
4
工程
5
工程
6
実加工
絞り加工の基礎
(1)絞り加工の種類
板
つなぎ目なし底付容器
図 1.2 絞り容器製作までのフローチャート
フライパン、なべなどの円筒形状をした底付き容器を絞り加工で成形する場合
を、一般的には「円筒絞り加工」と呼びます。台所のステンレス製シンクや浴室
のバスタブのような四角形状の容器であれば「角筒絞り加工」と呼び、その他の
第6工程
第5工程
第4工程
第3工程
第2工程
第1工程
形状の絞り加工は一般的には「異形絞り加工」と呼びます。また、容器の側面が
テーパー状になっているものの加工は、
「円錐あるいは角錐絞り加工」
、容器の底
実加工
潤滑油の選定
絞り材料の選定
プレス機械の選定
金型設計
絞り工程数の決定
ブランク形状・寸法の決定
が平らではなく半球状となっている容器は「球頭絞り加工」と呼びます。
さらに、大まかな表現ですが、灰皿やフライパンのような浅い容器を作る絞り
加工を「浅絞り加工」、深さが円筒の直径より深いもの、あるいは角筒容器の口
辺の大きさに比べて深さが深くなるような絞り加工は「深絞り加工」と呼びます。
各種絞り加工法の名称を整理してまとめると図 1.3、および図 1.4 のようになり
ます。
2
3
1
章 絞り加工入門のための予備知識
さて、取引先から絞り容器の図面が渡されてその製作を依頼されたとき、たと
第
身の回りには絞り加工で作られた金属製品がたくさんあります。灰皿やフライ
図 1.3 絞り加工の形状による分類
部品をプレス機械に取り付けるこ
図 1.5 絞り加工の金型構成
とによって加工が行われます。な
お、絞り加工において絞られる金
属材料板、すなわち被加工材はブ
ランクと呼びます。ブランクは、
パンチ
パンチ肩半径
rp
また、素材板、素板とも呼ばれま
(a)円筒絞り加工
(b)角筒絞り加工
(c)異形絞り加工
しわ抑え板
(ブランクホルダー)
す。
ブランク
(d)円錐絞り加工
(f)球頭絞り加工
(e)角錐絞り加工
ダイス肩半径 rd
①加工初期
ダイス
円筒絞り加工が行われる過程に
おいて、最初平面形状だったブラ
図 1.4 絞り深さによる分類
ダイス穴
ンクがどのようにして立体形状の
フライパン
深絞り加工: d≦h
d
絞り容器に変形するのかを説明し
ておくことにします。絞ろうとするブランクは図 1.6(a)に示すように、まず、
ダイス平面上に置かれます。つぎに、ダイス平面とブランクホルダー面でブラン
クをはさみ込み、所定のしわ抑え力を加えます。この状態でプレス機械の駆動部
灰皿
h
(スライド)に取り付けられたパンチが降下すると、まず、パンチ先端部に接触
したブランクはダイス穴の中へと押し込まれてゆきます。このとき、パンチ先端
(a)浅絞り加工
(b)深絞り加工
部付近のブランクは、図 1.6(b)に示すようにパンチ肩半径にならって変形し、
最終的にはそのまま絞り容器底部の丸み部を形成することになります。
②加工中期
(2)金型の構成
絞り加工の基本的な金型の構成は図 1.5 に示すようにパンチとダイスのほかに
しわ抑え板が必要となります。
しわ抑え板のことをブランクホルダーと呼びます。
パンチ先端のコーナー部には半径 rp の丸みがつけられていて、この丸み半径の
ことをパンチ肩半径と呼びます。また、ダイスにはパンチが被加工材となる金属
板を引き込みながら絞り込むために必要となる十分な大きさの穴があけられてい
ます。この穴をダイス穴と呼びます。ダイス穴の入り口のコーナー部にはやはり
この状態からさらに加工が進行してゆくと、ダイス穴に絞り込まれないでダイ
図 1.6 ブランクの変形過程
プレス機械により圧下
しわ抑え力
半径 rd の丸みがつけられていますが、この丸み半径のことをダイス肩半径と呼
ダイス
びます。
絞り加工では、パンチ、ダイス、ブランクホルダーの3つの基本的な金型構成
4
しわ抑え力
ブランク
ホルダー
パンチ
ブランク
(a)絞り加工のスタート時の状況
(b)絞り加工中の状況
5
1
章 絞り加工入門のための予備知識
の変形過程
第
(3)絞り加工におけるブランク
ス穴より外側に残っている材料は、パンチがダイス穴に押し込まれるのに連動し
(4)絞り容器の仕上げ
ブランクにはダイス穴方向へ引き寄せられる力によって、2次的に板幅方向に圧
ランジ部を残さないですべて絞り込んだ容器の口辺部は、実際には不揃いになっ
縮応力が作用します。この圧縮応力によってブランクは板幅方向に縮められなが
たり、波打ったりしてしまいます。これは、
加工のはじめにブランクを金型へセッ
らダイス穴へと絞り込まれます。このとき、
薄い板が板幅方向に縮められるので、
トするときの位置ずれや、図 1.8 に示すような耳が発生することによって起こり
そこで座屈を起こしてしわを発生する危険があります。このしわの発生を防ぐた
ます。耳の発生の原因は、
絞り加工に使用する材料は圧延によって作られるので、
めに、上からブランクを抑えつける役目をしているのがブランクホルダーです。
材料の圧延方向と圧延方向と直角方向との材料特性の違いによるものです。圧延
③加工後期
方向の違いによる材料特性の変化を材料の異方性と呼びますが、異方性の大きな
絞り加工途中のブランクを、
プレス機械を止めて金型から取り出すと、
図1.7(a)
材料ではその方向よって変形の形態が大きく異なるので、その結果として耳が発
のような形状となっています。ブランクの周辺部がダイス穴にまだ絞り込まれな
生します。
いで、帽子のツバのような形状として残っている部分を一般に「フランジ部」と
このような口辺部の不揃いの成形品を実際の製品とするためには、口辺部をき
呼びます。絞り加工の途中でプレス機械を止めないで最後までパンチをダイス穴
れいにカットしたりあるいはその後に丸めたりする必要があります。図 1.9(a)、
に押し込むと、ブランクはすべてダイス穴内に引き込まれて図 1.7(b)のよう
にフランジ部がまったく残っていないような絞り容器となります。
(b)に示すように前者をトリミング、後者をカーリングと呼び、絞り製品の口
辺部の最終仕上げ加工法として用いられます。
図 1.7(b)の絞り容器において、底の部分は単に容器底と呼び、側壁および口
辺部もそれぞれ単に側壁部、口辺部と呼びます。底部と側壁部のつなぎ目は、一
(5)絞り加工と張出し加工
般的な容器では丸みが付けられていますが、この丸みのことを「底アール(R)」
ブランクから継ぎ目のない底付き容器を成形する加工法としては、これまで説
と呼びます。
明してきた絞り加工が代表的な加工法ですが、このほかに張出し加工法があり、
図 1.6、図 1.7 に示した例では、プレス機械の駆動部に取り付けられたパンチが
両者はよく混同されます。張出し加工にはパンチ、ダイス、およびブランクホル
上から下へ移動することによって絞り加工が行われる状態を示していますが、実
ダーのいわゆる金型を用いた張出し加工法と、パンチを用いずに液圧とかゴムを
際には、パンチが逆に下から上へ移動するような方法で加工する場合もたくさん
用いて張出し加工をする方法があります。後者は液圧、あるいはゴム圧バルジ加
あります。
工法と呼ばれています。
パンチとして金型を用いた場合の張出し加工法と絞り加工法との違いを図1.10
図 1.7 絞り成形中の容器(a)と絞り成形後の容器(b)
口辺部
フランジ
図 1.8 容器口辺およびフランジ部にできる耳
耳
フランジ部の耳
側壁部
側壁部
フランジ口辺
に示します。絞り加工(a)では、ダイス平面とブランクホルダー平面との間で
底アール
容器底
底アール
(a)
(b)
6
容器底
7
1
章 絞り加工入門のための予備知識
フランジ部を残したままで終了した絞り容器のフランジ外周部、あるいは、フ
第
てダイスの穴方向へと順次引き寄せられてゆきます。この一連の過程において、
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