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原子力発電に係る法令等に関する調査

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原子力発電に係る法令等に関する調査
平成 23 年度発電用原子炉等利用環境調査
(原子力発電に係る法令等に関する調査)
結果報告書
2012 年 2 月 29 日
西村あさひ法律事務所
目
次
第1
はじめに ······························································ 4
1.
本調査の目的・背景 ···················································· 4
2.
本調査の方法及び報告 ·················································· 4
第2
本調査の結果 ·························································· 6
1.
原子力損害賠償法の適用における視座 ···································· 6
2.
仮払補償金の法的性格について ·········································· 7
3.
仮払金の税務上の取扱いについて ········································ 8
4.
精神的損害に対する賠償について ········································ 9
5.
避難費用に関する賠償の公平性を検討するための類型分析 ················· 15
6.
原子力損害賠償紛争審査会策定の指針と裁判所の仮処分における判断の関
係について ··························································· 16
7.
第一次指針の今後の検討項目について ··································· 17
8.
雇用調整助成金、雇用保険給付の休業特例について ······················· 36
9.
行政機関による救済と原賠法の取扱いについて ··························· 42
10.
海外からの賠償請求の取扱いについて ··································· 46
11.
CSC について ························································· 54
12.
大規模大量賠償制度について ··········································· 71
13.
プライスアンダーソン法について ······································· 72
14.
各特別措置法等における特例措置等の概要及び特別措置法等が適用された
案件の概要 ··························································· 74
15.
監査意見不表明の場合における会社法関連の問題点 ······················· 75
16.
定款に定められた株主総会の開催日を後倒しすることの可否及び法的問題
点 ··································································· 76
17.
監査意見不表明の場合に想定される事態について ························· 80
別紙 1
原子力損害賠償法の適用における視座
別紙 2
仮払補償金の法的性格について
別紙 3
避難費用に関する賠償の公平性を検討するための類型分析
別紙 4
原子力損害賠償紛争審査会策定の指針と裁判所の仮処分における判断の関係につ
いて
別紙 5
特別措置法等における特例措置等の概要
別紙 6
特別措置法等が適用された案件の概要
別紙 7
参考法令等
- 3 -
平成 24 年 2 月 29 日
資源エネルギー庁長官
殿
西村あさひ法律事務所
平成 23 年度発電用原子炉等利用環境調査
(原子力発電に係る法令等に関する調査)
結果報告書
本平成 23 年度発電用原子炉等利用環境調査(原子力発電に係る法令等に関する調査)結
果報告書(以下、「本報告書」という。)は、資源エネルギー庁(以下、「貴庁」という。)のご
依頼により西村あさひ法律事務所(以下、「当職ら」という。)が実施した原子力発電に係る
法令等に関する調査(以下、「本調査」という。)の結果について、報告するものである。
第1
1.
はじめに
本調査の目的・背景
平成 23 年東北地方太平洋沖地震に端を発した東京電力株式会社(以下、「東京電力」
という。)福島第一原子力発電所の事故(以下、「本事故」という。)により、多くの住
民、農林漁業者、中小・中堅事業者を始め、各方面に極めて大きな影響が生じてい
る。
本事故により生じた損害については、原子力損害の賠償に関する法律(以下、「原賠
法」という。)に基づいて賠償が行われることになるが、本事故に関する東京電力の法
的な賠償責任、国による必要な援助は、今後の原子力政策にも影響を及ぼすことか
ら、過去の事例等を参考にしながら、基礎となる考え方を早急に調査・分析する必要
がある。また、原子力の事故に関する法令は、原子力災害対策特別措置法(以下、「原
災法」という。)、災害対策基本法、災害救助法等複数に跨ることから、これらの法律
と原賠法その他関連する企業法制との関係の整理が必要である。
こうした観点から、本調査においては、原子力損害に係る関連法令等の調査・分析
を行うこととした。
2.
本調査の方法及び報告
本調査は、原子力事故による損害に関する法律実務の調査・分析、原子力災害に関
- 4 -
する諸法令その他関連する企業法制に関する調査・分析、国内での高額賠償案件や風
評被害判例法理等の収集・分析等をその調査範囲とした。
本調査では、これらの関連法令、過去の判例、国内の原子力事故や高額賠償案件等
の事例に基づいて、本事故に関する損害賠償に関する見通し等について、貴庁から随
時なされる個別の依頼に基づいて、事実関係について仮定を置きながら、依頼の際に
報道されていた情報を参照しつつ、極めて短時間の間に整理・分析を行った。そのた
め、貴庁との協議に基づき、本報告書は、貴庁から随時なされた照会に対応する回答
内容を記載する形式とした。
なお、本調査は、その事案の緊急性に鑑み、当該時点において判明している事実関
係や要請等のみに依拠するとの前提において行われたものである上、極めて限られた
時間的制約及び方法的制約のもとで行われたものであり、本報告書は関係する論点を
網羅することを企図又は目的とするものではなく、また、個別の回答後に判明した事
実関係その他の情報によっては異なる結論が導かれるべき場合もあり得るが、回答内
容の再検討や更新等は本調査の対象とされておらず、本報告書として合冊するにあ
たっては、敢えてご照会当時の回答結果をとりまとめて報告することが企図・目的と
されているものであることにご留意頂ければ幸いである。
また、本報告書中、当職らの法的見解を述べた箇所については、究極的には裁判所
によって具体的・客観的な事実に基づき個別具体的になされるべきものであることに
留意されたい。
- 5 -
第2
1.
本調査の結果
原子力損害賠償法の適用における視座
本事故に関してなされるであろう損害賠償につき、いかなる範囲の損害につき賠償
が認められ得るのかに関する法律的な考え方の枠組みや、原賠法と他の法令との関係
等につき、別紙 1 のとおりご報告申し上げます。
- 6 -
2.
仮払補償金の法的性格について
東京電力が仮に福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所(以下、総称して
「福島原子力発電所」という。)周辺の避難者に仮払補償金を支払った場合、当該仮払
補償金の法的性格はどのように解されるのか。これらの考えられ得る解釈について、
それぞれの考え方のメリット・デメリットを整理致しましたので、別紙 2 のとおりご
報告申し上げます。
- 7 -
3.
仮払金の税務上の取扱いについて
福島原子力発電所周辺の住民が東京電力から受け取る仮払金の法的性質を、仮渡金
であると解する場合の税務上の取扱いにつきご報告申し上げます。
(1) 仮渡金として 100 万円を受け取り、そのまま損害額及びその内容が確定しないま
ま年度末を迎えた場合
福島原子力発電所周辺の住民が東京電力から受け取る仮払金の法的性質をいわ
ゆる仮渡金として整理した場合、仮渡金を受け取っただけでは所得が発生したこ
とにはならず、所得税の問題は生じません。
(2) 仮渡金として 100 万円を受け取った後、原子力損害賠償紛争審査会の指針が発出
され、それに基づき自らが受け取るべき損害額(損害ごとの内訳も含む。)が概ね
判明したが、未だ東京電力との間で具体的な和解に達していない場合
原子力損害賠償紛争審査会による損害賠償の方針が明らかになったとしても、
未だ損害賠償金に充当されていない以上、その段階では前記(1)の場合と同じく
所得税の問題は生じません。
もっとも、その後福島原子力発電所周辺の住民と東京電力との間で和解が成立
する等すれば、仮渡金が損害賠償金に充当されることとなりますが、損害賠償金
は原則として非課税であり、所得税の問題は生じません。
確かに、仮渡金の一部が事業の休止等に伴う損害等の営業損害に充当されれ
ば、課税の問題が生じ得ますが、その場合でも、税務上は、営業損害と仮渡金と
でプラスマイナスゼロとなるわけであり、結果的に、課税は生じないことになり
ます。
- 8 -
4.
精神的損害に対する賠償について
1.
はじめに
精神的損害については、既に仮払金の支払い(例えば、まずは 5 月末までの精神的
損害を支払い、その後毎月分を支払う。)が実施されているところですが、この仮払
金については、その法的性質は何か、後に精神的損害の本払いが行われた場合には先
般の仮払金との間で精算が行われるのか、仮に精算が行われるとして、世帯ベースで
支払われている仮払金と個人ベースで支払われるのが一般的な精神的損害の賠償(本
払い)との清算はどのように行われるか等、様々な法的問題が潜在しています。
そこで以下では、かかる諸問題に関して、どのような考え方があり得るかの概要を
ご報告申し上げます。
2.
仮払補償金の法的性質
精神的損害に係る賠償の問題を検討するにあたっては、その前提として、東京電力
が避難等世帯に支払いを開始した「仮払補償金」(以下、「前回仮払補償金」といいま
す。)の法的性質が問題となりますが、この点については、「いわゆる仮渡金」である
とする見解、「損害の一部についての確定払い」であるとする見解、及び「見舞金」であ
るとする見解、という 3 種類の説明があり得ることは既にお伝えしたとおりです。
まず、(当職らの方では報道以上の情報もなく、事実関係を存じ上げておりません
ので確たることは何ら申し上げられませんが)「前回仮払補償金」の法的性質について
は、未だ確定的に(対外的にも、被害者・被災者との関係においても)示されていない
状況にあり、「仮払金」との表現が用いられてはいるものの、その具体的な法的性質は
曖昧にしたままに支払いの手続がとられているものと想像しております(後記 3.以下
の説明においては、これを前提としております。)。
さらに、今回の精神的損害に対する支払い(以下、「今回(精神的損害)支払金」とい
います。)についても、これを確定払いとの法律構成にて支払うべきか(かかる法律構
成であることが明らかになる形で書面化したり、記載文言等を整理することが前提と
なります。)、いわゆる仮払い(ここでいう仮払いとは、当職らが従前「いわゆる仮渡
金」として整理したものであると理解しております。)との法律構成にて支払うべきか
(かかる法律構成であることが明らかになる形で書面化したり、記載文言等を整理す
ることが前提となります。)については、いずれの考え方もあり得るところかと思わ
れますので、以下、いくつかの場合に分けながら回答させて頂きます。
なお、いずれの法律構成であるかが必ずしも明確にはならないが、いずれとも解釈
可能となるような形で支払ってしまい、ある種の解釈の幅(別の言い方をすれば疑義)
を残しておくということも考えられますし、「前回仮払補償金」の取扱いを報道等で拝
- 9 -
見する限り、それが現実に選択されるシナリオなのかもしれないとも推測しておりま
すが、ひとまず前記のように場合分けさせて頂いております。
また、東京電力の財務状態や、賠償金の引当てを積むことについての監査法人の意
向・要請、さらには政府補償金が 1200 億を超えることになるのか否か、賠償機構法
案(又は他の法案)による支援スキームの進行状況等々の要素が絡む中、たとえ損害の
一部についてのものであるとしても、「損害の一部についての確定払い」とすることが
東京電力にとって可能であるのか、あるいは世論(マスコミの論調含む。)や政治問題
といったところをも勘案した場合に「仮払い」との法律構成で支払うことが可能となる
のかといったところが複雑に関連しあうのが現実とも思われます。
3.
精神的損害の支払いと先般の仮払金との関係
(1) 「前回仮払補償金」の法的性質及び「今回(精神的損害)支払金」の法的性質をいずれ
も「いわゆる仮渡金」と位置づけて支払った場合
「前回仮払補償金」の法的性質及び「今回(精神的損害)支払金」の法的性質をいず
れも「いわゆる仮渡金」であると位置づけますと、「今回(精神的損害)支払金」は、
単に従前「今回(精神的損害)支払金」として交付した「いわゆる仮渡金」の額を積み
増ししたに過ぎないこととなります。したがって、今回の精神的損害に係る支払
いも含めて、後に最終的な損害額が確定した場合には、それが事実上可能かどう
かは別として、法的には精神的損害や避難費用等を全て対象として、精算を行う
べきことになります。
なお、「今回(精神的損害)支払金」は、精神的損害に係るものと位置づけられて
いることから、特定の損害項目を示していない「前回仮払補償金」とは異なり、将
来的に確定する精神的損害の額との間でのみ精算が行われるのこととなると思わ
れます。しかし、仮に精神的損害に対する支払いが過払いになったとしても、東
京電力が被災者に対して有することとなる仮払金返還請求権につき、被災者が有
している営業損害等の他の損害賠償請求権を自動債権として相殺することは禁じ
られていません。
(2) 「前回仮払補償金」の法的性質を「いわゆる仮渡金」とし、「今回(精神的損害)支払
金」を「確定払い」として支払うこととした場合
「前回仮払補償金」の法的性質を「いわゆる仮渡金」とし、「今回(精神的損害)支
払金」は「確定払い」と位置づけて支払うこととしますと、「前回仮払補償金」と「今
回(精神的損害)支払金」の関係は前記のように単純なものとはなりません。すな
わち、避難に伴う精神的損害の賠償について、原子力損害賠償紛争審査会の指針
- 10 -
を参照して指針に記された金額(又はこれに基づいて修正等が加えられた金額等)
を確定損害額と扱うことを東京電力が決定した場合(厳密には、真に損害額が確
定するのは、確定判決が個々の被害者・被災者ごとに出されるか、又は、各被害
者/被災者が東京電力との間において損害額について合意することが必要となり
ますので、指針が策定されたり、あるいはそれに基づいて又は従って東京電力が
決定しても、真に損害額が確定するわけではありません。)、東京電力は当該金
額を被害者・被災者に対して支払うこととなるわけであり、既に説明したよう
に、支払い済みの「前回仮払補償金」との精算が問題となり得るからです。
この点、従前支払った「前回仮払補償金」は、その全てが精神的損害に対する賠
償に係る仮払金であると位置づけることができる又は位置づけられるのであれ
ば、理論上は、直ちに精算の可能性が生じることとなります。
もっとも、従前支払った「前回仮払補償金」は、避難に伴う精神的な損害に対す
る賠償金のみをその中身とするわけではなく、避難に伴う移動費用や滞在費用、
その他の損害を全て包含し、それらの損害の一部を仮払金として支払ったもので
あると整理することも十分可能なように見受けられます(ただし、実際に支払い
の際にどのような書類を徴求しているか、どのような書類を交付しているか等々
の事実関係も把握していないままに推測で申し上げてしまっておりますので、ご
注意ください。)。そのように整理できた又はされた場合には、精神的損害に対
する賠償額が確定したからといって、直ちに従前支払った「前回仮払補償金」との
間で精算が必要となることはなく、避難に係る損害賠償責任の全体が確定した段
階で精算を問題とすればよいと思われます。
(3) 「前回仮払補償金」の法的性質を「損害の一部についての確定払い」と位置づけた場
合
この場合でも、理論上は、「今回(精神的損害)支払金」を「仮渡金」と整理するこ
とは可能ですが、既に一部の確定払い(=ここでは「前回仮払補償金」が確定払い
との前提であるため)をしていること(すなわち、その段階で損害額が世帯あたり
100 万円を超えることが確実であるとの見通しが存在したこととなり、損害額に
ついてより具体的なイメージを持っていたことになります。)に鑑みると、「今回
(精神的損害)支払金」についても「確定払い」との位置づけにて支払うと整理する
のが自然な流れであるようには思われます(しかしながら、論理必然でないこと
は前記にても触れたところです。)。
その場合、「前回仮払補償金」と「今回(精神的損害)支払金」の関係ですが、「前
回仮払補償金」が精神的損害を含むものであるとすれば、素直に考えれば、今回
支払うのは、精神的損害全体として最終的に東京電力が負担することを自認する
金額が確定され、既に支払い済みの「前回仮払補償金」の額を踏まえ、それでは足
- 11 -
りない部分を追加で支払うという整理になると思われます。そして、このように
整理する以上は、支払い済みの「前回仮払補償金」のうちいくらが精神的損害に対
応するものであるかが特定されていることが前提として必要になると思われま
す。したがって、反対に、「前回仮払補償金」のうち、避難費用等に充当されるべ
き額がどの程度かというところも確定されなければならないことになろうかと存
じます。
もっとも、想定しにくいところであろうとは存じますが、「精神的損害の全額
は、まだ未確定であるものの、確実に、前回仮払補償金額(100 万円)に今回(精
神的損害)支払金の額を加算したものよりも大きい額であろう」と東京電力が理解
し、かかる前提にて支払うことも理論的には考えられないわけではありません。
この場合には、「前回仮払補償金」の内訳を確定する必要もなければ、「前回仮払
補償金」に精神的損害が対象として含まれているか否かを決することも不要とな
ります。
(4) 「前回仮払補償金」の法的性質を「見舞金」と位置づけた又は位置づけられた場合
この場合には、「前回仮払補償金」は、損害賠償と何らかの論理的関係を有する
ことにはならず、「今回(精神的損害)支払金」との関係を論じる意味はなくなりま
す。
4.
精算を行う場合の考え方
仮に両者を精算する必要があるとの見解(「前回仮払補償金」の法的性質を「いわゆる
仮渡金」とする一方で、「今回(精神的損害)支払金」は「確定払い」として支払われるこ
とになると理解する見解)に立脚した場合、仮払金は世帯ベースであったところ、精
神的損害は個人ベースで発生すべきものであるので、世帯に支払った 100 万円をどう
解釈するかにより個人ベースでの精算方法が異ならないかが問題となります。すなわ
ち、例えば 4 人家族の場合、100 万円は世帯主個人に支払ったもの(残り 3 人はゼロ)
と解釈するのか、各個人に 25 万円ずつ支払ったものと解釈するのか、それは子供の
年齢により異なるのか、という問題です。
この点、仮払金の支払いも東京電力と被害者・被災者の合意で行われているため、
その性質は最終的には当事者の意思に求めるのが原則となります。より具体的には、
東京電力がどのような文書や説明の下で、また、どのような意図をもって、いかなる
形で支払いをしており、受領者側がどのような文書を提出して又は口頭での発言をし
ながら受領してきているか、東京電力側が想定している法律構成に同意した上で受領
しているか否か、といった事実関係によって左右され得るところとなります。
- 12 -
その意味では、世帯ベースで支払われた 100 万円が、世帯主個人に対して支払われ
たものなのか、世帯を構成する各個人に支払われたものなのかについては、当職らに
おいて確定することは困難であると言わざるを得ません。もっとも、「前回仮払補償
金」の中に精神的損害に対する賠償が含まれているとすれば、世帯主に対してのみ 100
万円が支払われたと解することは困難であると思われます(なお、事実関係によって
は、世帯主は世帯を構成する各個人を代理・代表して支払いを受領したものであっ
て、代理受領に過ぎず、法的には各個人が受領したとの整理が可能である可能性もご
ざいます。)。
「前回仮払補償金」が、世帯を構成する各個人に支払われたものと解した場合、「前
回仮払補償金」と確定した損害賠償額との間の精算が問題となる場合には、各世帯を
構成する人数がまちまちであることにかんがみると、厳密には、最終的に個々人が受
け取ったこととなる賠償額に不均衡が生じるようにも思われます。
もっとも、避難に伴う損害の中には、例えば世帯全員が一台の車で移動した場合に
おける、車による移動に要した費用等、個々人ベースで考えるよりは世帯ベースで考
えた方が適当なものもあり、そう考えると、100 万円が世帯を構成する個々人に均等
に分配されたと考える必要はないとも言い得ます。そして、そのように考えた場合に
は、一見各個人が受け取ったこととなる損害賠償額に不均衡が生じたように見えて
も、「前回仮払補償金」が対象とする損害の内容次第では、その実不均衡は生じていな
いと整理することも可能であるかもしれません。
あるいは、今回、本来個別に検討すべき損害賠償額を一律に決定しているのは、最
低限共通して負っていると思われる損害額を賠償するとの趣旨によるものであり、そ
れ以上に損害を負っていることを個別に立証することを妨げるものではないのである
から、個々人が受け取ったことになる損害額にある程度の差異が生じたとしても特段
不合理であるとはいえないと整理することも可能であるかもしれません。いずれにせ
よ、東京電力と被害者・被災者の合理的意思解釈に帰結する問題でもあり、具体的に
どのような文書等が提示され又は徴求されて支払いが行われてきているか等々の事実
関係も存じ上げないままの当職らにおいて結論を提示できる問題ではないことをご理
解ください。
なお、仮に「前回仮払補償金」が過払いとなっているのであれば、実際の損害額と精
算した差額分の仮払金返還請求権を東京電力が有することになります。かかる仮払金
返還請求権はあくまで権利であるため、東京電力がこれを行使しないとすることに、
法律上の制限はありません。
もっとも、かかる権利の不行使が被災者に対する債務免除又は返還請求権の放棄と
評価されれば、少なくとも論理的には、当該差額を取得した被災者には、一時所得が
あったものとして、所得税が課税され得る点には留意が必要です。
- 13 -
5.
支払方法
最後に、支払方法については、請求者である各々の構成員が、世帯ごとに 1 つの振
込先を指定するという方法によることで、法律上は問題がないものと思われます。
具体的には、①家族全員の署名欄、及び②預金口座番号の記入欄(1 つ)が設けられ
た世帯ごとの申請書を作成した上、「後記各人の避難に伴う精神的損害にかかる損害
賠償金の振込口座として」といった内容の文言を記載しておくことが考えられます。
要するところ、(家族)構成員全員を代理して受領する権限が、法定代理権限・(任意
の代理権授与に基づく)任意代理権限のいずれかにより、口座名義人に付与・授権さ
れていれば良いということになろうかと存じます。
(細かくは、弁護士法第 72 条・第 73 条違反の問題が惹起される可能性もあります
が、家族、世帯の問題である限り、検討が必要となる可能性は乏しいと思われます
し、要するところは、支払いを行う際に徴求する書面等に工夫を凝らせば足りるので
はないかと思われます。)
- 14 -
5.
避難費用に関する賠償の公平性を検討するための類型分析
避難指示等に伴う損害の賠償につき議論するにあたり、「賠償の公平性」という観点
が重要であると考えられるため、公平性を留意すべき事例を別紙 3 のとおり列挙・類
型化して整理致しましたのでご報告申し上げます。
- 15 -
6.
原子力損害賠償紛争審査会策定の指針と裁判所の仮処分における判断の関係について
平成 23 年 4 月 15 日に第一回原子力損害賠償紛争審査会が開催され、「原子力損害
の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事
者による自主的な解決に資する一般的な指針(原賠法第 18 条第 2 項第 2 号)」を定める
べく議論を開始したところですが、他方で、福島原子力発電所周辺の被災者が、東京
電力に対して損害賠償の仮払いを求める仮処分を申し立てたとの報道がなされていま
す。
裁判所がかかる仮処分を認める判断をした場合に、かかる裁判所の判断と原子力損
害賠償紛争審査会による議論・指針等には何らかの影響を与えるのか、これらの相互
の関係につき問題となり得る論点につき別紙 4 のとおり検討致しましたので、ご報告
申し上げます。
- 16 -
7.
第一次指針の今後の検討項目について
「東京電力(株)福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等
に関する第一次指針」(以下、「第一次指針」という。)においては、いくつかの損害項
目が今後の検討事項として残されています。
そこで以下では、かかる損害項目について、そこで想定される具体的な問題状況や
解釈の方向性等の検討結果について、ご報告申し上げます。
(1) 第一次指針 2 頁 16 行目以下の記載について
①
放射性被曝損害について
「第一次指針の対象外となった者の避難費用や営業損害(いわゆる風評被害も含
む。)、本件事故の復旧作業等に従事した原子力発電所作業員、自衛官、消防隊
員、警察官又はその他の者が被った放射線被曝等に係る被害」
後記「9.
行政機関による救済と原賠法の関係」に詳細に記載しておりますよう
に、行政機関が法令に基づき住民の避難費用等を負担したような場合、当該支出
のうち、(1)当該行政機関が行政上当然に支出すべき部分及び(2)当該行政機関が
その行政裁量により特別の支出措置を講ずるのを相当とする部分については、原
賠法にいう賠償の対象とはなり得ない可能性が高いと考えられます。すなわち、
一般的に、不法行為に基づく損害賠償請求権が成立するためには、故意又は過失
によって、他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、それによって財産
的損害が発生することが必要であります(民法第 709 条)が、第三者の不法行為が
原因又は発端となって国や地方自治体が財産的支出をしたとしても、かかる財産
的支出が、国や地方自治体が本来の行政サービスを提供する過程で発生したもの
であれば、(確かに財産的なマイナスは発生しているものの)国や地方自治体の権
利利益が侵害されたと評価することは困難だからです。
もっとも、例えば行政機関の庁舎等が損壊したような場合には、これは法令が
予定している財産的な支出(損害)とはいえず、国や地方自治体の固有の権利利益
が侵害されたとして、原賠法による賠償の対象となり得ると考えられます。自衛
官、消防隊員、警察官等の負った放射線被曝等に係る被害についても、同様に公
務員が負った固有の損害として原賠法の賠償の対象となり得ると整理することは
十分に可能と考えられます。なお、当該公務員が労働災害に関する保険契約に基
づき一定の療養の給付等を受けた場合には、損害額の調整がなされる可能性があ
るものと思われます。
- 17 -
②
いわゆる間接損害について
「本件事故により代替性のない部品等の仕入れが不能となった取引先のいわゆる
間接損害」
原賠法上の原子力損害(原賠法第 2 条第 2 項)には、間接損害も含まれると一般
に解されています(竹内昭夫「原子力損害二法の概要」ジュリスト 236 号 31 頁、科
学技術庁原子力局監修『原子力損害賠償制度』46 頁)。もっとも、間接損害のう
ち原子炉の運転等との間に相当因果関係が認められるもののみが原子力事業者に
よる損害賠償の対象となります。この点に関する判例等は不見当ですが、裁判所
で争われた場合には、本事故の当該間接損害に対する寄与度(他の調達先はな
かったのか、自社で作成することは不可能であったのか否か等、真に代替性がな
い商品であったといえるか否か)を判定した上で、賠償の範囲が確定されるもの
と思われます。この点、本事故により生じ得る間接損害の典型例としては、例え
ば部品メーカーが部品を供給できなかった場合の自動車メーカーの損害等が考え
られるところですが、このような場合には、他の部品メーカーから必要な部品を
調達する余地もおそらくあったのではないかと思われますので、相当因果関係が
認められるケースは少ないのではないかと思われます。ただし、代替性のある部
品が調達できたとしても、メーカーが他の部品メーカーに殺到し、調達コストが
上がったような場合には、相当因果関係があり得るという場合もあり得ます。単
純な売買の事例ですが、売主の債務不履行のために、買主が代替品を購入して転
売先に品物を納付した場合に、買主が売主に対し、当初の売買契約価格と代替品
購入価格との差額を損害賠償として請求した事案につき、債務不履行によって通
常生ずべき損害と解した判例があります(大判大正 7 年 11 月 14 日民録 24 輯
2169 頁)。
また、報道によれば、燃費や走行性能を左右する、同じ自動車メーカーでも車
種によって仕様が違う特注品である車載用マイコン等が代替困難な部品である旨
指摘されており、当該部品が調達できないことによる特定の車種の生産台数減少
のような事情が認められる場合には、相当因果関係が認められる余地が存在する
場合もあると考えられます。
ただし、本事故に際しての航行危険区域指定の対象区域内に当該部品の工場が
あったとしても、地震・津波により同工場が操業不能に陥っていた又は当該部品
の製造に必要となる資材や他の部品が地震・津波(又は本事故以外のその他の原
因)により調達不能となっている等の事情があれば、航行危険区域に指定されて
いなくとも製造不能となっていたと考えることができるため、相当因果関係が否
定される可能性もあること等にもご注意頂く必要があろうかと存じます。
なお、間接被害者が問題となる典型例は、企業主が被害を受けた場合に、会社
- 18 -
が加害者に会社固有の損害を請求することができるかどうかという問題です。企
業が会社形態をとっていても、企業主と会社とが同一であり、しかも、企業主が
会社にとりかけがえのない者とみられるような場合には、代替性がないものとし
て、会社固有の損害を認める場合があります(最判昭和 43 年 11 月 15 日民集 22
巻 12 号 2614 頁)。
③
地方公共団体独自の財産的損害について
前記①のとおり、行政機関が負った固有の損害として損害賠償の対象となり得
ると考えられます。
④
政府指示等解除後の原子力損害について
例えば、政府による避難等の指示に関して、避難等の指示の解除時に直ちに本
事故発生以前と同様の事業又は就労を再開することは困難であり、避難等の指示
が解除された後の一定期間の営業損害又は就労不能等に伴う損害は、合理的な範
囲内で原子力損害に該当し得ると考えられます。
また、風評被害が相当因果関係のある損害賠償に該当するかどうか自体が難し
い判断ですが、政府等による出荷制限指示等に関しても、出荷制限指示等が解除
された時点で直ちに当該出荷制限指示等の対象となった商品に対する消費者の信
用が回復していない状態にあるのであれば、その解除後も一定期間は原子力損害
に該当する損害と考え得る余地もあると思われます。
さらに、本事故発生後、長期間が経過した後に、本事故で放出された放射性物
質の影響により甲状腺がんを発症した患者についての身体的損害が考えられま
す。
(2) 第一次指針 2 頁 25 行目以下の記載について
「被害者が被った損害に関しては、原賠法に基づく賠償以外にも、被災者救済のため
の複数の措置等が既に実施され、あるいは、今後実施される予定のもの等が想定され
るが、これらの措置等との関係(損益相殺の可否等)についても、今後検討する。」
この「被災者救済のための複数の措置等」に該当するものとしては。例えば、災害救
助法等が考えられます。これらの法令に基づいて、行政機関は、避難所の提供や食料
等の生活必需品の提供等の援助を行いますが、これらの援助は、これまでにも触れて
参りましたとおり、損害の賠償ではなく、法令に基づく給付であり、原賠法に基づく
損害賠償と直接の関係を有している訳ではありません。
- 19 -
ところで、不法行為によって損害を被った被害者が、不法行為を原因として利益を
受けた場合、当該利益相当額を賠償額から控除するという、いわゆる「損益相殺」は、
損害賠償法理上、「公平」・「損害の公正な配分」の見地から当然のこととして認められ
ています。もっとも、いかなる場合に損益相殺が認められるかについては、個別の検
討が不可欠であり、例えば、判例上、生命保険金については、「払い込んだ保険料の
対価」たる性質を持ち、「不法行為の原因と関係なく支払われるべきもの」であるから
損益相殺の対象とならないとされています(最判昭和 39 年 9 月 25 日等)。他方で、恩
給を受けていたものが生命を侵害され、当該恩給の受給利益を相続した遺族が、この
死亡により扶助料を受ける権利を取得した場合、裁判例においては、損害賠償請求権
は、扶助料の限度で減縮しなければならないとされています(最判昭和 41 年 4 月 7
日)。原災法等に基づく措置が行われた場合、原賠法に基づく賠償との間で損益相殺
を認めるべきか否かについては、それぞれの措置について、被害者が本事故に起因し
て何らかの利益を取得したといえるか否かという観点から個別の検討が必要となるも
のと思われます。
さらには、新法が制定されれば、新法に基づく措置等も当然、対象に含まれ得ると
思われます。なお、新法に基づく措置等が原賠法に基づく事業者の責任とどのように
整理されるかは新法の内容にも左右されますので、一概には申し上げられません。
(3) 第一次指針 3 頁 11 行目以下の記載について
「避難費用、営業損害、就労不能等に伴う損害等、継続的に発生し得る損害について
は、その終期をどう判断するかという困難な問題がある」
これらの損害の終期については、相当因果関係が認められるか否かの問題でありま
すし、そもそも個別事情ごとに事例に則して判断されるべき問題であるため、抽象的
な線引き等が可能なわけではありませんが、その終期を検討するに当たって参考とな
り得そうなものを挙げるよう努めさせて頂きます(当然ながら、完全に当てはまるよ
うな裁判例等はございません。)。なお、念のためですが、終期もさることながら、
損害によっては、始期そのものが判然としない場合もあり(例えば、身体損害につい
ては、どの時点における、いかなる放射能汚染によるものと認定するか、その原因を
どこに認めるか、といった諸要素の判断によっては、始期が必ずしも一点に定まるも
のではありません。)、かかる問題は別途の問題として検討される必要がありますの
でご注意ください。
継続的に発生し得る損害の終期を判示した最高裁判例としては、賃貸人の修繕義務
の不履行に基づき賃借人が損害賠償を請求する場合において、賃借人が損害を回避又
は減少させる措置を執ることができたと解される時期以降の営業利益相当額の全てに
ついてその賠償を請求することは条理上認められないと判示した判例(最判平成 21 年
- 20 -
1 月 19 日民集 63 巻 1 号 97 頁)が存在します。
前記判例は、契約関係にある当事者間の損害賠償に関するものではありますが、不
法行為の被害者であっても、継続的に発生し得る損害について無制限に賠償されるわ
けではなく、損害の発生を軽減する一定の義務を負うものであり、合理的な期間を超
えて発生した損害については相当因果関係が認められないと考えられます。
下級審裁判例においては、事業用店舗の賃貸借契約において賃貸人の責めに帰すべ
き債務不履行があった場合に賠償すべき逸失利益相当額の損害の発生期間につき、賃
借人が他の家屋を賃借して営業を開始するための通常の期間として 6 か月としたもの
(青森地判昭和 31 年 8 月 31 日下民 7 巻 8 号 2359 頁)、賃借人が代替店舗を取得し、
同店舗で従前と同程度の営業上の収益を上げ得るに至る期間として 11 か月半ないし 2
年としたもの(大阪地判昭和 56 年判例タイムズ 443 号 105 号)、いずれにせよ近い将
来営業不振のため閉店することが予想されることを勘案して 2 年としたもの(福岡高
判昭和 58 年 9 月 13 日判例タイムズ 520 号 148 頁)が存在する等、各被害者の個別具
体的な事情に応じて多様な判断がなされているのが実情です。
しかし、本事故のように多数の被害者の個別具体的事情を検証することは実際上困
難であり、かえって被害者の早期の救済を図られなくなるおそれがある場合には、政
府による避難等の指示後の一定期間等、期間については画一的な基準を設定し、営業
損害や就労不能による逸失利益については、裁判手続ほどの厳格さによらない立証で
の賠償金の支払いに応じるという方針も検討に値するものと考えられます(過大な損
害賠償を請求してくる者については、特に、事後的な書類の追完を条件としておき、
請求時の事情が立証されない場合には、東京電力において仮払金返還の裁判手続を行
うという制度設計もあり得るかと思います。)。
なお、事業用店舗の賃貸借契約の場合と異なり、本事故の場合には、故郷、住み慣
れた地における住居の問題でもあるため、損害の発生を軽減する一定の義務を被害者
側が負うとしても、その程度は相当程度小さいものであるとされる(より損害額が多
額になり易い)傾向が認められる可能性もあろうかと思われますので、この点も併せ
てご留意ください。
(4) 第一次指針 8 頁 10 行目以下の記載について
「屋内退避区域が解除された後、何らの規制も及ばなくなった区域については、解
除から相当期間経過後に生じた避難費用等は賠償の対象とならない。この相当期間が
どの程度かは今後検討する。」
前記のとおり、被害者は、継続的に発生し得る損害について無制限に賠償されるわ
けではなく、被害者も損害の発生を軽減する一定の条理上の義務を負うものであるた
め、理論的には、相当期間とは避難先から戻るために必要な合理的期間を指すものと
- 21 -
解されます。しかし、この相当期間を決定するには、避難等対象者の置かれた様々な
事情を総合判断する必要があります。
例えば、避難等対象者の多くが迅速な一時帰宅を望んでいるとされる現時点におい
て屋内待避区域の解除がなされれば、何らの規制も及ばなくなった区域に戻ることに
対する障害は原則として少ないと考えられ、対象区域外に滞在することを余儀なくさ
れたことを要求する第一次指針のⅡの文言からも、この相当期間とは家財道具の移動
等に要する比較的短期間を指すのではないかとも考えられます。しかし、避難期間が
長期化し、本来の住所地以外の場所に住んだ上で、そこで新たな勤務先を見つけて就
労しているような避難等対象者の場合には、屋内待避区域の解除がなされたからと
いって直ちに避難先から戻ることが事実上困難であることもあり得るため、そのよう
な場合には相当期間が前記の場合より長期間に設定されることもあり得るものと思わ
れます(仮に、前記のような避難等対象者が避難先で定住するようになり、また、固
定的な仕事に従事するようになればなるほど、その後に避難区域に戻ったとしても、
その間の避難費用を支払う必要性はないという関係にあると考えられます。)。
さらに、解除されたとしても、それまでの間に放射能がどの程度堆積しているかに
よっては、直ちに居住することができるとは限らないような場合には、居住に適する
ようになるまでの間についても一定限度で考慮され得ると思われます(この点は、放
射線量に関する規制をどのような基準で設定するか、それは本事故前における基準と
の比較においてどのように評価され得るものかといった諸要素にも左右され得ると思
われます。)。
(5) 第一次指針 8 頁 18 行目以下の記載について
「本件において、数万人に及ぶ多数の被害者から逐一領収証等で実費を確認するこ
とが困難で、かえって被害者の早期の救済が図られなくなるおそれがあるので、一定
金額を平均的な損害額と算定した上、対象者全員に一律に支払うことが考えられる。
その際の平均的損害額については、今後早急に検討する。」
民事訴訟法第 248 条は、「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性
質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨
及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」と規定して
おり、損害額の立証が困難な場合には裁判所が裁量でその損害額を認定できます。
民事訴訟法第 248 条を適用して損害額を認定した下級審裁判例としては、火災によ
り動産が焼失した場合の損害額の算定について、焼失した家財道具の購入価格等及び
個々の家財道具の減価の程度をその種別等に応じて正確に算定することは困難である
として、被災者の請求額の 5 割を損害額とした事例(東京地判平成 18 年 11 月 17 日判
例タイムズ 1249 号 145 頁)、火災により焼け残った商品の大半に不良返品票が貼付さ
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れていることから被災者の申告額の 2 割を損害額とした事例(大阪地判平成 15 年 10
月 3 日判例タイムズ 1153 号 254 頁)等が存在します。
本事故の賠償においても、交通費及び家財道具移動費用の損害が生じたことは認め
られるが、個々の被害者にその額を立証させることが極めて困難であるならば、訴訟
になった場合に裁判所が一定の額を相当な損害額として認定することも可能であるた
め、指針において平均的損害額の一律支払いを示すこともあり得るものと考えられま
す。もちろん、かかる平均的損害額を超えた費用を支出し、そのことを合理的に立証
することができる者がいる場合には、本来の損害賠償額を一方的に減額することはで
きないため、和解の中で個別に協議するか、協議が不調に終わった場合には、裁判手
続による判断があり得ることを想定しておくべきことも当然と思われます。
このように多数の被害者を対象として立証の困難を理由に平均的な損害額を認定し
た裁判例は不見当ですが(全く局面は異なりますが、法律では、消費者契約法第 9 条
が「平均的損害」を規定しています。すなわち、消費者と事業者との間で、契約解除に
伴う損害賠償額の約定等をした場合に、当該契約の解除に伴う平均的損害を超える部
分についての約定は消費者にとって不利な約定であることから無効とされていますの
で「平均的損害」を賠償することが実体法上あり得ない発想ではないと思われます。ま
た、この「平均的損害」について、民事訴訟法第 248 条の趣旨に従って、裁判所が相当
額を認定するとする東京地判平成 14 年 3 月 25 日判例タイムズ 1117 号 289 頁、横浜
地判平成 17 年 4 月 28 日判例時報 1903 号 111 頁があります。また、「平均的損害」と
は異なりますが、ライブドア事件で株価が下落し損害を受けたとして、株主約 3300
人らが旧経営陣に約 230 億 7000 万円の損害賠償の支払いを求めた事件で、裁判所が
損害の算定困難を理由に民事訴訟法第 248 条を適用したという事案(東京地判平成 21
年 5 月 21 日判例時報 1306 号 124 頁)もあります。集団的な損害賠償請求と民事訴訟
法第 248 条という観点からは参考になるものと思われます。)、JCO 指針も避難費用に
ついて「その賠償額は合理的・平均的な範囲内のものに限られ」ると規定しています。
当職らの手許資料からは明らかではありませんが、JCO 指針の運用において当該合理
的・平均的な賠償額が具体的にどのように算定されたかを示す資料が存在するのであ
れば、本事故の平均的な損害額の算定の参考になるものと考えられます。
(6) 第一次指針 9 頁 6 行目以下の記載について
「賠償の方法としては、①実際に宿泊費等を負担したか否かにかかわらず、避難生
活を送っている者全員に平均的な宿泊費等を一律に賠償することとするか、あるい
は、②後者の場合には、精神的苦痛がより大きいとして慰謝料の金額を増額するな
ど、一定の調整をする方法が考えられる」
福岡スモン訴訟(第一次)(福岡地判昭和 53 年 11 月 14 日判例タイムズ 376 号 58 頁)
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においては、多項目の損害を個々に立証していくことが非常に煩瑣であり、特にそれ
が長期間に及ぶときは事実上困難でさえもある場合には、「これらの諸損害と精神
的、肉体的苦痛に対する慰謝料とを併せ包括したものとして、一定の損害額を主張し
請求することも、特に将来別訴の提起等によって不都合を生じるおそれ等がない限
り、許される」と判示し、同様に、西淀川公害訴訟第一次訴訟(大阪地判平成 3 年 3 月
29 日判例タイムズ 761 号 46 頁)において、裁判所は、「本件疾病のごとく発症以来長
期間継続する症状の経過は必ずしも一様ではなく、被害は物心各種多方面にわたって
おり、これら全ての被害を個別に細分しないで、固有の意味の精神的損害に対する慰
謝料、休業損害、逸失利益等の財産的損害を含めたものを包括し、これを包括慰謝料
として、その限度に応じ社会観念上妥当な範囲内で損害額をある程度区分定額化して
算出することも充分合理的で、法律上許されるものと解され、このような意味で包括
請求もこれを否定すべき理由はない。特に本件のごとく類似被害の多発している事案
においては、右のごとき請求をなす必要があるのみか、むしろ、このような方法での
損害額の算定には、公平で、実体にも即しており、より合理性が認められるものとい
える」と判示しています。
前記の判例は、個々の費目の立証が困難である損害につき、後日それらの費目につ
き別訴の提起等が許されないことを前提として、財産的損害をも慰謝料に含めて賠償
することを許容しております。そのため、被害者ごとの定額化が困難な営業損害等の
損害の扱いは格別、本事故の賠償において、例えば避難費用及び避難等対象者が受け
た精神的苦痛に対する慰謝料を調整した上で一括して定額の賠償とする方法は一つの
選択肢として検討される可能性があるように思われます。
(7) 第一次指針 10 頁 5 行目以下の記載について
「PTSD(心的外傷後ストレス障害)などがここで言う「身体的損害」に該当し得るか否
かについては、今後検討する。」
PTSD に関する参考判例としては、同級生から集団暴行を受けた結果生じた PTSD の
ため休学を余儀なくなされたことによる損害 619 万 3540 円(医療関係費、就学遅れに
よる逸失利益、慰謝料等)について請求を認容した事例(和歌山地判平成 12 年 9 月 4
日判例時報 1733 号 91 頁)や、交通事故によって重症を負った結果生じた PTSD のため
就労困難となったことによる損害 455 万 1133 円(治療費等、休業損害、慰謝料等)に
ついて請求を認容した事例(大津地彦根支判平成 13 年 12 月 28 日判例時報 1790 号 141
頁)等が存在します。このように、裁判所は、相当因果関係が認められる限り、PTSD
による損害も賠償の範囲に含める傾向にあるといえますが、他方で、PTSD について損
害を否定した裁判例も数多くあります(宮崎地判平成 11 年 9 月 7 日判例タイムズ 1027
号 215 頁、前橋地判平成 12 年 1 月 27 日自保ジャーナル 1392 号 4 頁、大阪地判平成
- 24 -
12 年 2 月 4 日交民集 33 巻 1 号 225 頁等)。
本事故のような重大事故が発生した場合に、数ある精神疾患の中で、PTSD が傷害結
果として採り上げられることが多い理由の一つは、PTSD の診断基準1自体が外傷体験
とその再体験(いわゆるフラッシュバック)を要求しており、PTSD と診断されること
は、すなわち、事故と因果関係を有する精神疾患を患っている旨診断されることに他
ならないからであろうと思われます。
鬱病等を例にとるまでもなく、精神疾患はその原因を特定することが極めて困難な
のが通常ですが、PTSD は、例外的に疾患の原因が明らかであり(逆に言えば、原因と
なる外傷体験が特定されない限りは PTSD という診断が下されることはありません。)
そのために、本事故のような重大事故が発生した場合に生じる精神疾患としてしばし
ば採り上げられることとなるのだろうと思われます。
もっとも、裁判例でも結論が分かれているように、PTSD が発症しているか否かの事
実認定は必ずしも容易ではありません。
すなわち、物理的な外傷と異なり、傷害結果は一目瞭然ではなく、精神科医による
診察と診断を通してしか傷害結果の発生を確認することはできませんし、傷害結果が
目に見えないために、その診断に対しては、多分に異論が成り立ち得るからです。
また、精神科医は、あくまで治療の一環として診察を行い診断をしていることにか
んがみれば、診断書があることをもって直ちに賠償支払いのための証拠資料としてよ
いかどうかについても慎重な検討が必要であると思われます。
さらには、PTSD の原因が本事故であるのか、地震・津波であるのか、あるいはこれ
らの複合であるのかというあたりの認定は現実的には不可能ではないかとすら想像さ
れるほどに難しいものであろうと推察されますので、かかる点にもご留意ください。
ところで、本事故に起因する精神疾患としては、PTSD のみならず、他の精神疾患も
存在すると推測されます。そのような状況下で、PTSD のみを採り上げて賠償の対象と
することが果たして妥当か否かについても慎重な吟味が必要であると思われます。
なお、原発事故と PTSD に関しては、JCO 臨海事故により 6.5 ミリシーベルトの被曝
をした原告が、被曝によって PTSD を発症したと主張して、JCO 等に対し損害賠償を請
求した事案がありますが、裁判所は、WHO(世界保健機構)が定めた ICD-10 の診断基準
に照らして、PTSD 発症の証明が不十分であるとして、原告の請求を棄却しております
(東京高判平成 21 年 5 月 14 日判例時報 2066 号 54 頁)。
1
PTSD の診断基準としては、WHO による ICD-10 や米国精神医学界による DSM-Ⅳが存在しており、そ
の基準は若干異なりますが、いずれの基準においても、外傷体験の存在とその再体験が中核的な要
件とされています。
- 25 -
(8) 第一次指針 10 頁 13 行目以下の記載について
「少なくとも避難等を余儀なくされたことに伴い、正常な日常生活の維持・継続が
長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛の部分については、損害と
認められる余地があり、今後、その判定基準や算定の要素などをできるだけ早急に検
討する。」
避難生活に伴う慰謝料について、いわゆる慰謝料額の相場のようなものは見あたら
ず、むしろ、裁判所は、具体的事案に応じて、柔軟かつ大まかに慰謝料額を算定する
傾向にあります。
例えば、火災事故による避難勧告を受けて原告らが公民館等に避難したことを理由
に県に対して国家賠償請求を行った事案において、裁判所は、実質 2 日の避難期間で
あるにもかかわらず、「突然、大量の煙や異臭に襲われ、体に不調を覚えながら、自
宅を離れて避難せざるを得なかった原告らが受けた精神的、肉体的苦痛は、相当程度
大きかったものということができ」るとして、慰謝料 10 万円を相当額と認定していま
す(那覇地判平成 19 年 3 月 14 日裁判所ウェブサイト。なお、請求額は 10 万円で
す。)。
一方、集中豪雨によって住宅地付近の保安林が崩壊し、家屋が倒壊したことを理由
に県に対して国家賠償請求を行った事案において、裁判所は、「長期間の避難生活を
強いられたうえ結局転居しなければならなかった」こと等に着目して、原告 A に慰謝
料 40 万円、原告 B に慰謝料 30 万円を相当額であると認定しています(高知地判昭和
58 年 7 月 18 日判例時報 1099 号 126 頁。なお、請求額はいずれも 50 万円です。)。
その他、直接に避難等による慰謝料額が問題になった事例ではありませんが、考え
方の参考になるものとして、福岡空港を使用する米軍機及び民間航空機から生ずる騒
音、排気ガス、振動等により生活妨害、健康被害、家屋の損傷等を受けたとして、空
港周辺の住民が国を相手に提訴した事案(福岡地判昭和 63 年 12 月 16 日判例時報 1298
号 32 頁)で、原告らの個別具体的状況によることなく、居住地域と居住期間のみを考
慮して一律に慰謝料を定め、その際、騒音レベルの値によって、居住 1 か月あたり
2500 円、7500 円、1 万 5000 円の 3 種に分け、さらに、危険への接近(騒音を知って居
住し始めたか否か)の事例で 2 割減、国の施した防音工事 1 室ごとに 1 割減という操
作をして、原告らのうち 319 名につき最高 212 万円から最低 2200 円まで総額 1 億
9750 万円の慰謝料を認容した例があります(基地・空港訴訟に関する東京地判平成元
年 3 月 15 日判例タイムズ 705 号 205 頁、金沢地判平成 3 年 3 月 13 日判例時報 1379
号 3 頁、横浜地判平成 4 年 12 月 21 日判例タイムズ 808 号 82 頁、那覇地沖縄支判平
成 6 年 2 月 24 日判例タイムズ 850 号 72 頁、東京高判平成 6 年 3 月 30 日判例タイム
ズ 855 号 24 頁、東京高判平成 7 年 12 月 26 日判例時報 1555 号 9 頁、福岡高那覇支判
平成 10 年 5 月 22 日判例時報 1646 号 3 頁等も基本的に同様の考え方によっていま
- 26 -
す。)。
また、昭和 49 年に開通した大阪市営地下鉄 2 号線の建設工事に関し、沿線住民 40
世帯 158 人が工事に伴う騒音、振動、地盤沈下等により家屋の損傷及び精神的苦痛を
受けたとして、大阪市と建設会社 4 社を被告として損害賠償の支払いを求めた事案に
つき、被害程度につき沿道における居住期間と高度の相関性があることを考慮して、
沿道居住期間中の工事日数をもって算定の基礎とすることとし、工事着工時成人に達
していた原告らについて 1 日あたり 200 円(未成年者 100 円)に被害期間を乗じて算
出、最高 24 万 800 円の損害を認容しました(家屋損害については、1 家屋について 60
万円から 120 万円)(大気汚染に関する大阪高判平成 4 年 2 月 20 日判例時報 1415 号 3
頁、神戸地判平成 12 年 1 月 31 日判例タイムズ 1031 号 91 頁は騒音レベルや公害健康
保険被害補償法の認定等級によって慰謝料額を定額化しています。)。
さらに、主として財産的損害に対する不安と、重大な身体的損害が生じるかもしれ
ないとの不安とで、考慮される程度や要素が異なる部分もあり、どこまで参考になる
か不分明ですが、より抽象的な精神的損害に関する事案として、エステティックサロ
ンが保有管理していた顧客の個人情報が流出した事件において、14 名の顧客から一人
あたり 100 万円の慰謝料及び 15 万円の弁護士費用が請求され、一律に一人あたり慰
謝料として 3 万円及び弁護士費用として 5000 円を認定した裁判例や(東京地判平成 19
年 2 月 8 日判例タイムズ 1262 号 270 頁、東京高判平成 19 年 8 月 28 日判例タイムズ
1264 号 299 頁)、航空会社の労働組合が客室乗務員の職場内外にわたるプライバシー
に係る個人情報を収集してこれをデータ化した電子ファイルを作成、保管、使用して
いたことについて、193 名の客室乗務員がプライバシー権等が侵害されたとして一人
あたり慰謝料 21 万円及び弁護士費用 1 万円の損害賠償請求をした事件において、請
求額全額を認定した裁判例(東京地判平成 22 年 10 月 28 日労働判例 1017 号 14 頁)が
あります。
(9) 第一次指針 11 頁 20 行目以下の記載について
「一般的に言えば、宿泊費等を負担してホテル、旅館等に宿泊する場合と、宿泊費
等は負担しないで体育館、公民館、避難所等に宿泊する場合とでは、後者の方が精神
的苦痛は大であると認められるから、このような差異にかんがみ、宿泊場所にかかわ
らず一定額を算定して、これをもって両者を併せた損害額と認定することにも合理性
があると考えられ、あわせて今後検討する。」
前記(6)及び(8)で挙げた裁判例のとおり、慰謝料額の定型化が行われている裁判例
は数多くあります。
また、金額の大きさは異なりますが、考え方の参考になるものとして、いわゆるハ
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ンセン病訴訟熊本地裁判決(熊本地判平成 13 年 5 月 11 日判例時報 1748 号 30 頁)は、
「ハンセン病に対する誤った社会認識(偏見)により、原告らが社会の人々から様々な
差別的扱いを受けたことそのものを賠償の対象とすべきものではなく、そのような地
位に置かれてきたことによる精神的損害を被害としてとらえるべきであり、これに
も、一定の共通性を見いだすことができる。」「原告間の被害状況に差異があることを
念頭に置いて、控え目に損害額を算定する限り、これを共通損害としてとらえること
が可能である。」とし、さらに、「この 2 つの共通損害を別々に金銭評価するのではな
く、これらを包括して、社会内で平穏に生活することを妨げられた被害としてとらえ
るのが相当である。」とし、慰謝料額を、初回入所時期と入所期間に応じて、1400 万
円、1200 万円、1000 万円、800 万円の 4 段階としています。
(10) 第一次指針 11 頁 28 行目以下の記載について
「生命・身体的損害に伴う精神的損害、避難等による正常な日常生活の著しい阻害
に伴う精神的損害のほかにも、一定以上の放射性物質に曝露したことによる精神的苦
痛など様々なものが考えられる。もちろん、原子力事故や放射性物質の放出に対する
一般的・抽象的不安感や危惧感等は、精神的損害として認められるものではない。こ
のような一般的・抽象的不安感や危惧感にとどまらないものについて、何が、またど
こまで損害と認められるかは、今後検討する。」
差止め請求訴訟についての文脈ではありますが、学説上、一般的・抽象的不安感や
危惧感にとどまらず、「生命、身体に対する侵害の危険が、深刻な危険感や不安感と
なって精神的平穏や平穏な生活を侵害している場合」には、その精神的人格権は、身
体権や健康権に準じるものとして、法的保護の対象になると考えられています(淡路
剛久「人格権・環境権に基づく差止請求権」判例タイムズ 1062 号 152 頁)。
この点に関する参考判例としては、産業廃棄物処理施設による水質汚濁のおそれを
理由として同施設の操業差止めを認めた事例(仙台地決平成 4 年 2 月 28 日判例時報
1429 号 109 頁)や、近隣住民による暴力団事務所の使用禁止の仮処分を認めた事例(静
岡地浜松支決昭和 62 年 10 月 9 日判例時報 1254 号 45 頁)等が存在します。
前記のような精神的損害の有無の判断にあたっては、将来において生命、身体の侵
害が生じる現実的・具体的なおそれがあることを前提に、通常人の感覚を基準とし
て、生命や健康侵害に対する危険感や不安感を生じることが社会通念上相当といえる
か(具体的には、放射線量・被曝時間、被曝者の年齢、性別等)が検討されることにな
るものと思われますが、交通事故に起因する前記(7)の PTSD の裁判例に照らしても、
生命や健康侵害に対する危険感や不安感を損害として認め得るか否かという点がそも
そも問題となり得ます。
- 28 -
(11) 第一次指針 13 頁 18 行目以下の記載について
「事業の廃止や倒産に至った場合の損害額の算定方法等は、困難な問題であるた
め、今後検討する。」
①
第一次指針は 5 頁の「避難等対象者」記載のとおり自然人を対象としていると思
われます。そこで自然人たる個人の事業の廃止や倒産に焦点をあてますと、以下
のような指摘が可能かと存じます。
第 1 に、(法人形態をとることなく)個人事業を行っている者が破産等した場合
には、以後は売上げが生じないことになりますので、第一次指針の「5
営業損
害」記載の原則からすると売上げの減少額、すなわち売上げの全額が損害となる
とも考えられます。しかしながら、事業には必ず経費が必要となりますので、合
理的な額を算定して控除することが相当であると思われます。また、個人事業を
法人成りした上で給料の形式で所得を得る場合との均衡を考えても、売上額全額
を損害とすることは必ずしも合理的とは言えないように思われます。この点参考
になるものとして、歯材店経営者につき、事業再開の可能性がある場合には必要
な経費を加えるのが相当であるが、事業廃止届出を提出する等して事業を廃止す
ることが確定した以降においてはもはやこれらの経費を支出する理由はないとし
て、経費を加えない額を損害算定の基礎とした裁判例があります(大阪地判平成
9 年 7 月 29 日交民 30 巻 4 号 1068 頁)。どのような費用が損害算定の基礎から除
外される経費となるかについては、当該経費が必要とされる理由や額等の個別具
体的な事情に左右されるところが大きいかと存じますが、前記裁判例において
は、租税公課、損害保険料、地代家賃、諸会費、リース料等について損害算定の
基礎から除外される経費とされております。一般論としては、当該事業を行わな
い場合に支出する可能性のない経費については、損害算定の基礎から除外される
ものと思われます。
第 2 に、仮に個人事業主が破産等した場合に、半永久的に損害額が請求できる
のかが問題となり得ます。この点、自然人が死亡した場合には、男性、女性ごと
の平均余命期間分の逸失利益を損害として算定しますが、個人事業主の破産等に
ついては、仮にいったん破産等により営業利益を失ったとしても、生きている限
り(法的には労働能力を喪失していない限りといえるかと思います)、給与所得を
得たり、新規に事業を起こす可能性がありますので、一つの事業の倒産等による
営業利益の損害を長期間認めるのは相当因果関係の点から問題があり得るのでは
ないかと思われます。例えば、後記②で述べるとおり、3 年なり、5 年なり、一
定期間事業が続くという前提をとることが合理的な場合が多いのではないかと思
われます。すなわち、仮に、本事故がなくても、事業の存続自体は景気に左右さ
れ得るもので、自由競争社会で、半永久的に事業を継続して営むことを前提とす
- 29 -
ることは不自然・不合理であるという見方もできるかと思われます。
②
さらに、参考までに、法人の倒産等そのものが損害として争われた事例として
以下のような裁判例が挙げられます。
第 1 に、最終的に原告の請求が棄却された事例ですが、産業廃棄物収集運搬業
を営んでいた原告が、被告である貸金業者において、原因関係上の債権が消滅し
た原告振出しに係る小切手を取立てに回したことにより、原告に銀行取引停止処
分を受けさせて事実上倒産に追い込んだ行為が不法行為を構成するとして、原告
が被告に対し、被告を倒産させたことによる損害賠償の支払いを求めた事案につ
き、原告は、「付加価値とは、企業の生産高からその生産のために他の企業から
買い入れて消費した原材料等の外部購入価格を差し引いて算出されるものであっ
て、ここでは税引前当期利益に人件費を加算した数値をいうが、原告が銀行取引
停止処分を受ける直前の 3 年間の原告の付加価値額の平均は、年間 5023 万 2355
円であった。原告は、本件小切手の支払呈示がなければ、少なくとも 3 年間は正
常な企業活動を維持できたのであるから、銀行取引停止処分を受けた後 3 年間の
原告の付加価値額が損害となる」旨、約 1 億 5000 万円の営業損害の被害を被った
旨主張しています(東京地判平成 13 年 10 月 26 日判例タイムズ 1111 号 158 頁。
この点、裁判所は、原告が本件銀行取引停止処分の前に既に第 1 回目の不渡りを
出していたこと等を指摘し、原告が今後 3 年間にわたって営業を継続できたと推
認することはできないとして、当該主張を排斥しています。)。
また、第 2 に、これも最終的に原告の請求が認容されておりませんが、被告会
社の電気製品等を小売店等に販売する二次卸業を営んでいた原告が、被告らの独
占禁止法違反行為により倒産に至った等と主張して逸失利益等の賠償を求めた事
案において、原告は、「昭和 60 年に設立後、昭和 61 年から被告松下の製品を取
り扱い、約 15 年間にわたり、電気製品の卸業者として確固たる地位を築き、安
定的な経営を行ってきたこと、被告らの取引制限及びリベートの削減等の違法行
為があるまでは原告の財務内容にも問題がなかったこと、いわゆるバブル経済の
処理がほぼ終了し、株価が上向きに転じる等経済全体にも明るい兆しが見えてき
たこと等を勘案すれば、原告は、被告らの不法行為によって倒産しなければ、少
なくとも数年間にわたって安定的な経営を継続できたのであるから、被告らは、
原告に対し、逸失利益として 5 年間分の売上利益 6 億 9000 万円の損害賠償義務
を負う。」等と主張している事例があります(東京地判平成 19 年 3 月 26 日ウエス
ト・ロー・ジャパン。この点、裁判所は、原告が損害算定の基礎とした決算報告
書が不正確なものであったことや従前の原告の財務状況が良くなかったことを指
摘して、当該主張を認めるに足りる証拠はないとしています。)。
以上のとおり、裁判所において、損害額の点が判断されているわけではありま
せんが、倒産した原告らが、3 年ないし 5 年という一定期間分のみの損害賠償を
- 30 -
求めている点は、自ら相当因果関係の範囲を合理的な範囲に制限している例とし
て参考になるのではないかと思われます。
逆に、前記の裁判例からすると、法人の倒産等そのものを損害として捉えるこ
とは、損害自体が個人の事業主の場合と比較して巨額に上ることもあり、現実
的・事実上の問題としては、一般的に認められない傾向が強いであろうとは思わ
れます。もっとも、個別具体的な事情によるところが大きいとは思われますが、
例えば避難区域内で飲用水を採取していた会社が本事故により売上げが減少し債
務超過となり破産したような場合には、本事故と破産との因果関係の接着性に照
らして、東京電力に対する破産管財人からの損害賠償請求が認容される可能性も
否定できないように思われます。
(12) 第一次指針 16 頁 23 行目以下の記載について
「立ち入りができないため、価値の喪失又は減少について現実に確認できないもの
は、蓋然性の高い状況を想定して喪失又は減少した価値を算定することも考えられる
が、このような想定ができない場合の手法については今後検討する。」
前記のとおり、裁判所は、「損害の性質上その額を立証することが極めて困難であ
るとき」には、個別の損害の立証がなくとも、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果
に基づいて相当な損害額を認定することができます(民事訴訟法第 248 条)。
民事訴訟法第 248 条を適用して損害額を認定した下級審裁判例としては、火災によ
り動産が焼失した場合の損害額の算定について、焼失した家財道具の購入価格等及び
個々の家財道具の減価の程度をその種別等に応じて正確に算定することは困難である
として、被災者の請求額の 5 割を損害額とした事例(東京地判平成 18 年 11 月 17 日判
例タイムズ 1249 号 145 頁)、火災により焼け残った商品の大半に不良返品票が貼付さ
れていることから被災者の申告額の 2 割を損害額とした事例(大阪地判平成 15 年 10
月 3 日判例タイムズ 1153 号 254 頁)等が存在します。また、個人が居住する家屋が消
失しその中の家財が失われたような場合には、個々の品目や時価が不明であっても、
所有者の生活程度等から推認して、相当と認められる額の損害が認定されています
(東京地判平成 11 年 8 月 31 日判例時報 1687 号 39 頁参照)。
さらに、財物の事例ではありませんが、考え方の参考になるものとして、幼児の逸
失利益のように、損害額の正確な算定が不可能な事案については、賃金センサス等の
統計的な平均値を基礎としつつ、損害額の算出の蓋然性に疑いがもたれる場合には
「被害者側にとって控えめな算定方法(例えば、収入額につき疑があるときはその額を
少な目に、支出額につき疑があるときはその額を大目に計算し、また遠い将来の収支
の額に懸念があるときは算出の基礎たる期間を短縮する等の方法)」による、というよ
うな損害額の認定も行われています(旧民事訴訟法下の事例ですが、最判昭和 39 年 6
- 31 -
月 24 日民集 18 巻 5 号 874 頁参照)。
このような裁判実務を参考にすれば、財物価値の喪失・減少について、あらかじめ
幾つかの類型ごと(一般家庭、商店、商店以外の会社等)に平均的な損害額の指針を定
めておき、立ち入りができないため価値の喪失又は減少の程度を想定できない場合
(「損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき」)には、指針に沿った
平均的損害額の賠償を認めるという方法があり得るものと考えられます。
(13) 第一次指針 17 頁 8 行目以下の記載について
「喪失又は減少した財物の価値を回復するため、除染等の措置が必要となる場合が
ある。この場合に、価値の喪失又は減少を損害ととらえるか、あるいは、その除染等
の措置費用を損害ととらえるか」
一般に、所有物が違法に毀損された場合には修理費が損害となり、修理不能のとき
には交換価格の減少部分等が損害となると考えられています(加藤一郎編『注釈民法
(19)債権(10)』49 頁参照)。したがって、放射性物質によって汚染された財物につい
ても、除染によって元の財産的価値が回復される限りには、除染等の措置費用を損害
と認めることができそうです。
もっとも、財物の種類によっては、このような除染を行っても財産的価値が完全に
回復できないものもありますので(例えば、一度汚染された食器やおしゃぶり等は、
除染によって完全に放射性物質が除去されたとしても、二度と使用しない人が多いと
思われます。)、このような財物については、修理不能に準じて、当該価値の喪失又
は減少自体を損害と捉えるのが合理的であるとも考えられます。
(14) 第一次指針 17 頁 13 行目以下の記載について
「不動産売買契約の解約、不動産を担保とする融資の拒絶又は売却予定価格の値下
げによる損害、あるいは、賃料の減額を行ったこと又は本件事故後に賃貸借契約を解
約されたことによる損害などについては、これが本件事故と相当因果関係のある損害
と認められるか否か」
この点に関する参考判例としては、不動産の造成・販売業者が、JCO に対し、臨界
事故によって JCO 施設から約 3 キロメートル離れた宅地の販売価格が 1 坪あたり 27
万円から 21 万円に下落したと主張して、原賠法第 3 条第 1 項等に基づく約 18 億円の
損害賠償を求めた事例があります。この事例において、東京高裁は、①当初の設定価
格(1 坪あたり平均 27 万円)を臨界事故がなかった場合の客観的な販売価格と認めるこ
とができないこと、及び②実際の販売時において前記宅地の販売価格は臨界事故の影
- 32 -
響からほぼ回復していること(宅地価格の下落が存在しないこと)を認定し、臨海事故
と相当因果関係のある損害が存在しないとして原告の請求を棄却しています(東京高
判平成 17 年 9 月 21 日判例タイムズ 1195 号 263 頁)。
当初設定価格が土地の客観的価格であること(①)と原発事故による土地価格の下落
があること(②)の立証を原告に要求する前記判断は、不法行為に基づく損害賠償請求
の基本的考え方に則ったものであり、また、不動産の売却予定価格の値下げについて
の JCO 指針と適合するものでもあります。このような損害賠償請求の基本的な考え方
(つまり、原子力損害の存否・損害額を認定し、また原子炉の運転等との因果関係の
有無を認定する)は、本件においても変わることはありません。
もっとも、不動産売買契約の解約等に関する記述は、JCO 指針において詳述されて
いたにもかかわらず、第一次指針では検討課題とされています。その理由の 1 つとし
て、(第一次指針案についてコメントさせて頂いたとおり)原発事故の長期化に伴って
前記解約等を行うケースが無数に考えられることが挙げられると思われます(量的な
差異)。また、JCO 指針では、不動産価格が一時的に下落したとしても、当該不動産が
滅失して利用可能性を喪失するようなことは考えられないことを前提として基準が設
定されていましたが、放射性物質の影響が長期的に残存することが見込まれる本件で
は、そもそも不動産自体の利用可能性に影響を及ぼしているとの論理もあり得るかも
しれません(質的な差異)。このように、本事故と JCO 臨界事故との量的・質的な差異
を踏まえて、本件における不動産価値の喪失・減少の判断基準を設定する必要がある
ものと考えられます。
(15) 第一次指針 19 頁 6 行目以下の記載について
「第一次指針においては、差し当たって、政府による出荷制限指示又は地方公共団
体が本件事故に関し合理的理由に基づき行う出荷又は操業に係る自粛要請等(生産者
団体が政府又は地方公共団体の関与の下で本件事故に関し合理的理由に基づき行う場
合を含む。以下、「政府等による出荷制限指示等」という。)があった区域及びその対
象品目に係る損害を対象とする。
但し、上記区域以外においても、また、上記品目以外についても、政府等による出
荷制限指示等に伴い、返品、出荷停止、価格下落等の被害が生じているから、これら
がどこまで賠償の対象となる損害に該当するかについては、今後検討する。」
返品、出荷停止、価格下落等の被害が政府等による出荷制限指示等に基づいていな
いということは、いわゆる風評被害による損害賠償の問題と理解されます。
風評被害による損害のうち、どこまでが賠償の範囲に含めるのかは困難な問題で
す。
この点に関する参考判例としては、敦賀原発からの放射能漏れによって海が汚染さ
- 33 -
れた事件において、漁業関係者が、前記放射能漏れの報道等により消費者が危険性を
懸念した結果、魚介類の売上げが減少したと主張して、日本原子力発電株式会社に対
し、損害賠償を求めた事例(名古屋高金沢支判平成元年 5 月 17 日判例時報 1322 号 99
頁)が存在します。前記のような原告の主張について、裁判所は、「漏出量が数値的に
は安全でその旨公的発表がなされても、消費者が危険性を懸念し、敦賀産の魚介類を
敬遠したくなる心理は一般に是認でき、したがってそれによる敦賀湾周辺の魚介類の
売上げ減少による関係業者の損害は、一定限度で事故と相当因果関係ある損害という
べきである」として、一般論(傍論)としては風評被害を賠償の範囲に含めることを認
めました。しかし、その上で、原告が取り扱っていたのは金沢産の魚介類だった点を
指摘し、消費者が、放射能漏れによって金沢産の魚まで敬遠するという心理状態は一
般には是認できないとして、結論として原告の請求を棄却しました。
この判決は、
①
原子力発電所周辺の水路・海底土等に関する放射線量の測定結果をもとに、原子
力発電所の付近の海域における魚介類の売上げの減少との相当因果関係は一定の
限度で認められるとしたこと、
②
この事案の鮮魚類の仲介業者等の売上げの減少とは海域が相当に離れており、相
当因果関係は認められないとしたこと、
③
一般的にこの事案の仲介業者等の売上げの減少の予見可能性があったとはいえな
いとしたこと、
④
事故後における連日の報道内容に言及した上、この事案の魚介類の売上げの減少
は、消費者の心理によるが、この心理状態は一般には是認できるものではないと
し、消費者の心理状態が是認できるものであるかどうかが相当因果関係の存否等
の判断の基準であるとしたこと、
に特徴があります。
このように、前記判決は、風評被害に関して、実際に検出された放射線量の多寡
(①)、被害者の操業海域と原発事故が起こった地域との近接性(②)、事故後における
報道内容(④)等の諸要素を考慮して、相当因果関係(予見可能性)を判断していること
がうかがわれます。仮にこの考え方に沿って本事故をみると、前記事案と比較して海
洋汚染の程度が高く、報道の内容が、海流の流れによる科学的・合理的な海水汚染の
可能性という客観的状況に基づくものであったとするならば、報道内容についても客
観的にみてより深刻なものが多いと思われることも考慮して、購買行動に及ばない消
費者の心理状態も合理的なものとして是認されることもあり得ると思われ、前記判決
よりも広い範囲の風評被害について相当因果関係が認められる可能性があるといえる
かもしれません。
また、原子力関連施設における臨界事故による水産物の風評損害を否定した事例と
して水戸地判平成 15 年 6 月 24 日判例時報 1830 号 103 頁があります。加工業者は、
風評損害であっても、因果関係のある損害として認められるべきであるとの主張を
- 34 -
し、他方、事業者は、「原告が主張する損害は、いわゆる風評損害にすぎず、民法第
416 条の類推適用により、特別事情によって生じた損害として、右事情を予定し又は
予見することを得べかりしときに限り、賠償責任を生ずる……が、本件においては予
見可能性はなかったから、被告に賠償責任はない。」と主張しています。
風評損害の概念や機能は必ずしも明確でないため、損害賠償を請求する者、この責
任を否定する者双方にとって、風評概念は都合良く利用しやすいものとなっている傾
向があるといえます。
仮に、「前記区域以外又は前記品目以外の、返品、出荷停止、価格下落等の被害に
ついては、賠償の対象となる損害ではない」との整理をする必要があるとすれば、そ
の場合に根拠として主張し得るところとしては、以下のような主張が挙げられるかと
思われます。もっとも、やはり個別事情等によりますし、放射能汚染状況に係るデー
タや、放射能汚染の海産物への影響の程度又はいわゆる生物濃縮等に関する科学的裏
付等々に照らして判断される必要があるところ、現状、これらのデータや価格的見地
からの分析結果等を何も把握できていない状況にあるため、本来的に、後記主張が果
たして適切なものであるかすら判断できないところであることをご了承ください。
・
原子炉の運転等そのものではなく自治体の対応が不適切であったために無用な風
評被害が発生した場合には、損害発生との間に条件関係が認められるとしても、
相当因果関係までは認められないという主張。
・
扇情的なジャーナリズムによる偏向した報道により、科学的にあり得ないメカニ
ズムで損害が生じるとの風評が流れたことにより、無用な風評被害が生じた場合
には、損害発生との間に条件関係が認められるとしても、相当因果関係までは認
められないという主張。
・
悪意の有無にかかわらず、いわゆるチェイン・メールやツイッター等を介して、
根拠のないうわさ・デマが流れた結果、無用な風評被害が生じた場合には、損害
発生との間に条件関係が認められるとしても、相当因果関係までは認められない
という主張。
・
政府による不適切な情報発信や十分な科学的根拠に基づかない計画的避難区域の
設定や解除の仕方の不適切さにより、風評被害が生じた場合には、損害発生との
間に条件関係は認められるとしても、相当因果関係までは認められないという主
張。
なお、生産者に対する補償だけではなく、放射能により汚染された生産物の流通の
防止を徹底させる観点から、政府等が生産物を合理的な価格で幅広に強制的に買い上
げて廃棄することも考えられますが、これはまた別の枠組みで考えるべき問題と考え
られます。
- 35 -
8.
雇用調整助成金、雇用保険給付の休業特例について
本事故に伴って就労不能の損害が生じた場合、被害者には、雇用保険法に基づく失
業給付、及び雇用調整助成金の支給がなされることがありますが、かかる給付分につ
いては、いわゆる損益相殺がなされるか否かが問題になります。
そこで以下では、関連する裁判例等を紹介した上で、損益相殺の可否についてのい
くつか考え方をご説明申し上げます。
1.
JT 乳業事件判例(名古屋高等裁判所金沢支部平成 17 年 5 月 18 日)の内容
(1) 事案の概要
牛乳製造販売会社(JT 乳業)が、同社製造の牛乳を飲用した多数の児童を被害
者とする食中毒事件後に解散し従業員を解雇したことに関して、同社の従業員で
あった原告らが、かかる食中毒事件は同社の代表取締役の悪意又は重大な過失に
よる任務懈怠により発生し、その結果同社が廃業を余儀なくされ、原告らは解雇
され損害を被ったと主張して、商法第 266 条の 3 に基づき、代表取締役に対し損
害賠償請求した事案。原告の請求が一部認容されたため、被告が控訴(原告も附
帯控訴)した。控訴審では、解雇後 2 年間の賃金相当額等(再就職時までの従前賃
金相当額と、再就職時から口頭弁論終結時までの従前の賃金と再就職後の賃金の
差額)が認容されたが、損害額の算定にあたり、従業員らが解雇後に雇用保険法
に基づく失業給付を受けていたため、当該失業給付を失業期間中の逸失利益から
控除することができるか否かが争われた。
(2) 損益相殺に係る控訴審の判断
「雇用保険法に基づいて支給される基本手当及び再就職手当は、労働者の生活及
び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進すること
等を目的として給付される失業等給付であり(同法第 1 条、第 10 条参照)、ま
た、基本手当及び再就職手当の財源は、国庫負担金の他、労使が折半で負担する
保険料によって賄われるものである(同法第 66 条ないし第 68 条、労働保険の保
険料の徴収に関する法律中の関係条文参照)。他方、被控訴人従業員らの雇用契
約上の権利喪失による損害中の再就職のための求職活動相当期間(すなわち失業
期間)に係る逸失利益は、(代表取締役)の本件任務懈怠により生じた損害であ
り、その賠償義務者は(代表取締役)であって、本件会社でも、国でもないから、
被控訴人従業員らが雇用保険法に基づいて受給した基本手当及び再就職手当の全
部又は一部が、(代表取締役)が損害賠償義務を負担する前記損害の填補となるも
- 36 -
のとは解することはできない。
もっとも、被控訴人従業員らが雇用保険法に基づく基本手当及び再就職手当を
受領したことは、被控訴人従業員らが本件解雇により賃金収入を失ったことで経
済的に困窮した状態を緩和することとなったことは十分に推認されるから、その
点は後記の慰謝料の額の算定にあたって、その減算事情として考慮することとす
る。」
(3) 前記裁判例の考え方
前記裁判例は、①雇用保険法に基づいて支給される基本手当や再就職手当等の
失業等給付は、労働者の生活及び雇用の安定、就職の促進等を目的としており、
その財源も国庫負担金の他労使が負担する保険料によってまかなわれているのに
対し、②本件で問題となっている逸失利益は、任務懈怠に基づく損害であり、そ
の賠償義務を負担するのは JT 乳業の代表取締役であるとし、雇用保険法に基づ
いて受給した基本手当や再就職手当が損害の填補となるものではないとして、控
除を否定している。
損益相殺は、被害者が不法行為に起因して何らかの利益を取得した場合に、損
害額から当該利益を控除することが公平であると考えられることから認められる
原則であり、損益相殺が認められるためには、一般的に、損失と利益との間に
「法的同質性」が認められることが必要であるとされる2。
前記裁判例は、雇用保険の目的及び財源負担者に着目し、任務懈怠に基づく損
害の場合のそれを比較しているところ、これらの要素の比較は、両者の法的性質
を比較することに他ならず、その論理は、損益相殺に関する一般的な考え方と同
様であると考えられる。
なお、前記裁判例と同様の争点について判断をした裁判例としては、雇用保険
法施行前の失業保険法に基づく給付に関する裁判例であるが、神戸地判昭和 45
年 11 月 18 日下民集 11・12 号 1439 頁があり、同判決は、「被告は、原告が昭和
44 年 7 月 17 日から同年 11 月 15 日までの間に受領した失業保険金 17 万 3030 円
につき損益相殺をなすべき旨主張するけれども、失業保険は政府管掌のもとに、
被保険者及び被保険者を雇用する事業主の支払う保険料と国の負担する給付費用
2
損益相殺の可否が問題となる事例として、しばしば紹介されるのが生命保険金であるが、判例は、
生命保険金は払い込んだ保険料の対価たる性質を持ち、もともとは不法行為の原因と関係なく支払
われるべきものであるから、損益相殺の対象とはならないとしている。他方、損害保険金について
は、保険料の対価という側面はあるものの、損害を填補することを目的としており、それが故に、
損害保険金については、既に受領した分については賠償額から控除しなければならないとされてい
る。ただし、先に保険金を受領したからといって不法行為者の責任が縮減されるわけではなく、保
険会社が被害者に代位して不法行為者に請求を行うこととなる。その意味では、厳密には損益相殺
とはいえないが、実質的には損益相殺と同様の機能を果たしている。
- 37 -
により運用されているものであり、かつ失業保険法には失業が第三者の加害行為
に起因する場合において政府が加害者に対して保険給付額の償還を求め得る規定
は存しないから、原告の受領した右の失業保険金を損害賠償の義務者である被告
の利益のために損益相殺することは正当でないと解する。」旨前記裁判例と同様
の判示をしている。
2.
前記裁判例の判断を前提に、原賠法との関係で損益相殺が肯定されるか
(1) 雇用保険法に基づく失業等給付について
この点、①原賠法は、原子力損害が生じた場合の損害填補、さらには被害者保
護を目的としている点で、前記に記載した雇用保険に基づく失業等給付とはその
目的を異にしていること、②失業等給付の財源は、国、被害を受けた企業の労使
が負担しており、原賠法に基づく損害賠償義務を負う東京電力が負担するもので
はないことから、前記裁判例の判断を前提とする限り、雇用保険法に基づく失業
等給付については、原賠法に基づく損害との間で、損益相殺を行うことは認めら
れないという結論になると考えられる。雇用保険法には損益相殺を認める規定は
特に設けられていない。
なお、厳密にいえば、前記裁判例においても、失業給付と慰謝料との間で損益
相殺が認められたわけではない。
前記裁判例が述べているのは、慰謝料の算定にあたっては、種々の要素を考慮
することとなり、それらの考慮要素の中には経済的な困窮の度合いというものも
当然含まれるところ、雇用保険法に基づく手当を受領したことにより経済的困窮
の度合いが軽減されるのであれば、当然慰謝料の額も減算されるべきであるとい
うことである(この点、失業給付のみで争って損益相殺が認められなかった裁判
例は見当たっていない。)。
以上を踏まえると、前記裁判例は、雇用保険法に基づく手当と任務懈怠による
損害との間の法的同質性の有無を検討して損益相殺を否定したものであり、その
ロジック自体は、損益相殺に関する伝統的な考え方に則ったものであると考えら
れる。
裁判官の内心における案件に対する見立てや価値判断までは忖度のしようがな
いものの、日本法においては、法のロジックとして懲罰的賠償といった考え方は
採用していないため、少なくとも、法律論レベルでは、懲罰的に損益相殺を認め
なかったというような事情は存在しないと考えられる。
損益相殺が認められるか否かは、一般的に、損失と利益との間に「法的同質性」
が認められるか否かによって決せられるのであり、例えば、法的同質性が認めら
- 38 -
れないにもかかわらず、原賠法が無過失責任を規定していることや国の援助が規
定されていること等を直接の根拠に損益相殺を認めるというロジックは成り立ち
にくいのではないかと思われる。
(2) 雇用調整助成金について
①雇用調整助成金は、景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由によ
り事業活動の縮小を余儀なくされ、休業等(休業及び教育訓練)又は出向を行った
事業主に対して、休業手当、賃金又は出向労働者に係る賃金負担額相当額の一部
を助成するもので、失業の予防を目的としている。以上の目的からも明らかなよ
うに、雇用調整助成金制度は、雇用保険法を補完する目的を有しているといえ、
損害の填補を目的とする原賠法とは目的が異なる。また、②そもそも雇用調整助
成金を受け取るのは失業者ではなく事業主であり、給付の対象が異なるし、③雇
用調整助成金の財源は雇用保険料であって、原賠法に基づく損害賠償義務を負う
東京電力により支払われているものでもない。これらの点からすると、雇用調整
助成金についても、前記裁判例の判断を前提とする限り、原賠法に基づく損害と
の間で、損益相殺を行うことは認められないという結論となるものと思われる。
3.
損益相殺を肯定する考え方
雇用調整助成金については、その受給主体が事業者であることから、原賠法に基づ
いて就労不能労働者に対して支払われる賠償との損益通算を主張することは極めて困
難であると思われる。もっとも、雇用保険法に基づく失業等手当については、その受
給主体は労働者であり、名目上は損害填補の目的を有していないとしても、現実に
は、失業による雇用喪失(賃金喪失)についての損害を填補する機能を有する旨の考え
方も論理的にはあり得るところである。
この点で、雇用保険法第 16 条は、基本手当の日額を賃金日額を基準として計算す
ることとしており、かかる計算方法を採用していることを、雇用保険法に基づく失業
給付が失業による賃金喪失の損害を填補する趣旨も有することの証左であるとの考え
方もあり得る。
もっとも、雇用保険法に基づく失業給付が不法行為による損害賠償との間で損益相
殺されるものではないとする前記裁判例の論理が、損益相殺に関する一般的な考え方
に沿ったものである点は留意されたい。
<補
足>
この点、雇用調整助成金に関して損益相殺について争われた裁判例は見当たってい
ない。他方で、失業給付に関して損益相殺を認めたと思われる裁判例としては以下の
- 39 -
2 つを紹介する。
なお、いずれの裁判例も、失業給付の損益相殺が争点となっておらず、その意味で
は、先般ご紹介した名古屋高裁金沢支部判決とは先例の価値として異なる評価がされ
うることをご理解いただきたい。
①
京都地判平成 9 年 4 月 17 日判例タイムズ 951 号 214 頁
本件は、上司からのセクハラの結果、退職するに至った原告が、当該上司(2
名)に対して損害賠償を請求した事案である。判決では、遺失利益の算定にあた
り、失業期間中に受け取っていたであろう原告の収入額から失業給付の受給額を
控除している。そのため、結果として、損益相殺を認めた事案といえるかと思わ
れる。
②
東京地判平成 9 年 2 月 10 日判例時報 1623 号 103 頁
本件は、原告がアパートの所有者及び管理者に対して民法第 717 条第 1 項に基
づき休業損害等の損害賠償を請求した事案である。判決では、「原告は、平成七
年三月二四日までの間の休業損害を請求するが、(中略)原告は、平成六年一月三
一日に任意退職した後は、就職することなく、かつ、傷病に対する手当及び失業
に対する給付等の給付を受けていることが認められるから、右以後は休業による
損害はない。」と判示しており、原告が失業給付を受給していたことを理由に休
業損害を認めていないことから、事実上損益相殺を認めた事案といえるかと思わ
れる。
なお、ここで記載したのは、あくまで雇用調整助成金と就労不能労働者に対して支
払われる賠償との間の損益相殺に関する考え方である。雇用者が労働者に給与等を支
払い、当該出捐額が雇用者の損害となる場合、当該損害と雇用調整助成金との間に損
益相殺が認められるか否かについては別論となる。
この点、前記のとおり、損益相殺が認められるか否かは、一般的に、損失と利益と
の間に「法的同質性」が認められるか否かによって決せられる。
そして、雇用調整助成金は、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、その雇用
する労働者を一時的に休業、教育訓練又は出向をさせた場合に、休業、教育訓練又は
出向に係る手当若しくは賃金等の一部を助成するというものであるところ、仮に本件
において事業者が労働者に支払った休業手当等の支出が損害とされた場合、当該損害
と雇用調整助成金との間には法的同質性があるとの立論は十分に可能であると思われ
る。
- 40 -
4.
その他(精神的損害に対する賠償(慰謝料)の減額事情として考慮すべきとの考え方)
前記裁判例も認めているように、損害を被った者が、失業等給付を受領した場合に
は、その者が賃金収入を失ったことで経済的に困窮した状態が緩和されたと考えられ
る。そのため、精神的損害に対する賠償(慰謝料)の額の算定にあたって、失業等給付
を受領したという事実を減算事情として考慮すべきであるという考え方もありうる。
<補
足>
精神的損害に対する慰謝料が減算されるのは、平たく言えば「お金をもらったこと
で、経済的に困窮する度合いが減ったり将来に対する不安が減ることから、それらに
よる精神的損害も減ることとなり、慰謝料額も減額される。」というロジックに基づ
くものである。
したがって、論理的には、精神的損害の中身の如何を問わず、減算の対象となると
いうものではないと思料される。もっとも、「正常な日常生活の維持・継続が長期間
にわたり著しく阻害された」との点に、就労を含む日常生活の阻害、経済的困窮とい
う観点が含まれるのであれば(この点は、指針がさらに深化することを待たなけれ
ば、指針における射程距離も分かりかねる上、そもそも指針がそのまま東京電力を拘
束するわけではないという意味では最終的に東京電力がどのような位置付けで整理す
るかに依って左右されることになるものの)、減算要因として考慮する余地もないわ
けではないと考えられる。
- 41 -
9.
行政機関による救済と原賠法の取扱いについて
国や地方公共団体が、原子力災害に起因して住民の避難の際の輸送手段の確保、避
難住民のための避難場所の確保、食料や生活必需品の調達等の財政支出を行った場
合、当該支出が原子力損害であるとして原子力事業者に損害賠償の請求を行うことが
できるか否かにつき、以下のとおり検討致しましたのでご報告申し上げます。
1.
問題の所在
原子力損害の賠償に関する法律により、原子力事業者は、原子炉の運転等により生
じた原子力損害につき、無過失賠償責任を負うこととされる。他方、原子力災害が発
生した場合には、かかる原子力事業者による賠償とは別に、原災法及び災害対策基本
法に基づき、政府の指示を受けた都道府県や市町村等の地方自治体が住民の避難の際
の輸送手段(トラック、バス等)の確保や避難住民のための避難場所の確保、食料や生
活必需品の調達等を行うこととされている。
そこで、地方自治体が避難の際の輸送手段の確保等のために行った支出が原子力損
害に当たるとして、原賠法に基づき原子力事業者に損害賠償の請求を行うことができ
るかが問題となる(なお、行政機関が行う行政的救済は、原災法に基づくもののみな
らず、災害救助法に基づく仮設住宅の供与等の救済もあるが、原災法の場合と同様の
議論となることから、本検討に際しては、原災法を前提に検討を行う。)。
また、原災法第 28 条により読み替えて適用される災害対策基本法第 94 条により、
前記で地方自治体が行う対策に要する費用については、国がその全部又は一部を負担
したり補助することとされていることから、実際に国が財政支出を行った場合、当該
支出が原子力損害であるとして原子力事業者に損害賠償を求めることができるかも同
様に問題となる。
2.
検
討
まず、国や地方自治体が不法行為に基づく損害賠償を請求する主体たり得ることに
は特段争いはないところであるが、不法行為が存在し、それと因果関係を有する国や
地方自治体の財産的支出が存在するからといって、必ずしも当該支出が不法行為に基
づく損害賠償の対象となるわけではない。このことは、犯罪行為を行った者の身柄を
拘束し、必要な捜査を遂げるために財産的支出をしたとして、都道府県が身柄拘束や
捜査に伴う費用支払いを犯罪者に対して請求することがあり得ない等といった例を挙
げるまでもなく、明らかであろう。
すなわち、不法行為に基づく損害賠償請求権が成立するためには、一般的に、故意
又は過失によって、他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、それによって
- 42 -
財産的損害が発生することが必要である(民法第 709 条)が、第三者の不法行為が原因
又は発端となって国や地方自治体が財産的支出をしたとしても、かかる財産的支出
が、国や地方自治体が本来の行政サービスを提供する過程で発生したものであれば、
(確かに財産的なマイナスは発生しているものの)国や地方自治体の権利利益が侵害さ
れたと評価することは困難であるとも思われる。
この点に関して、国や地方公共団体による財産的支出と民間企業(私人)への損害賠
償請求との関係が争点となったのが、「田子の浦ヘドロ訴訟」といった名称で知られる
最判昭和 57 年 7 月 13 日民集 36 巻 6 号 970 頁である。
この事案における原告は静岡県の住民であり、Y1 等被告 4 社は、紙・パルプの製造
を主たる目的とする株式会社であった。被告 4 社は自然公物である河川に工場廃水を
排出していたところ、当該河川が注いでいる田子の浦港に、当該廃水によるヘドロが
堆積した。静岡県は、県費から 1 億 2000 万円を支出して、田子の浦港の浚渫事業を
行った。原告である X 等は、Y1 等 4 社の廃水によるヘドロの堆積が河川、港、海の汚
染をもたらしたと主張し、県を代位して Y1 等 4 社に対する 1000 万円の損害賠償請求
((当時の)地方自治法第 242 条の 2 第 1 項第 4 号)等3の住民訴訟を提起したという事案
である。
最高裁は、「一般に河川港湾等いわゆる自然公物に対する汚水の排出は、社会通念
上右一定の限度までは許容されているものと解され、右限度を超えない汚水排出の結
果生じた汚染ないしヘドロの堆積等は、当該自然公物の管理権者である地方公共団体
の行政作用により処理されるべきものである。また、右汚水の排出が社会通念上右一
定の限度を超えた結果汚染ないしヘドロ堆積等が生じた場合であっても、そのような
状態に至った原因の中に行政上の対策の不備等があって、汚水排出者に全ての責任を
負わせることが必ずしも適当でない場合もあり得るのであるから、右汚染ないしヘド
ロ堆積等の除去又は予防のために講ずべき浚渫作業又は施設の設置・改善等の措置、
そのために支出すべき費用及びその分担についてはなお公物管理権者の合理的かつ合
目的的な行政裁量に委ねられている部分があるものと言うべく、したがって、汚染な
いしヘドロ堆積等の除去に要する費用の支出中に、本来的には当該地方公共団体の負
担すべきものとされない部分がある場合であっても、公物管理権者において、行政上
の見地から、諸般の具体的事情を検討し、行政裁量により特別の支出措置を講ずるこ
とが許されることもあると解するのが相当である。」とした上で、最高裁は、「このよ
うに見てくると、汚染ないしヘドロ堆積等の除去に要する費用の支出についても、
(1)当該地方公共団体が行政上当然に支出すべき部分、(2)当該地方公共団体がその行
政裁量により特別の支出措置を講ずるのを相当とする部分、(3)汚水排出者の不法行
3
その他、①静岡県知事 Y2 が Y1 等 4 社の汚水の排出及びその汚水の田子の浦港への流入を停止することを怠る事
実の違法確認請求(地方自治法第 242 条の 2 第 1 項第 3 号)、②静岡県知事 Y2 に対する 1000 万円の損害賠償請求
(同法第 242 条の 2 第 1 項第 4 号)及び③Y1 等 4 社に対する汚水を河川・排水路を経由して田子の浦港へ排出する
ことの差止め請求がなされている。
- 43 -
為等による損害の填補に該当し終局的には当該汚水排出者に負担させるのを相当とす
る部分に区分して考えなければならない。そして、住民が当該地方公共団体に代位し
て汚水排出者に対し損害賠償請求権を行使し得るのは、右(3)の部分に限られるもの
というべきである。」と判示した。
前記最高裁が判示するように、一見、第三者の不法行為に起因して地方公共団体が
財産的支出をしているように見える場合であっても、その中には、まず、当該地方公
共団体が行政上当然に支出すべき部分が存在し得、その場合には当該部分は損害賠償
の対象とはなり得ないというべきである。
そして、その余の不法行為等による損害の填補に該当するといえる部分について
は、損害賠償の対象となり得るといえるが、その中でも、地方公共団体がその行政裁
量により特別の支出措置を講ずるのを相当とする部分が存在し、それらの部分につい
ては、地方公共団体において、不法行為を行った第三者に対して支出分について損害
賠償請求を行わないとすることも許容されるというべきである。
以上の理は、原子力事業者の無過失責任を定めた原賠法においても異なるところは
ないというべきであって(確かに原賠法は民法の特別法ではあるが、無過失責任を規
定している点で特別法なのであって、その他の一般原則の適用まで排除されるわけで
はない。)、地方自治体が原災法に基づき支出した避難の際の輸送手段の確保等の費
用は、確かに財産的にはマイナスが発生しているのであるが、国や地方公共団体が原
災法や災害救助法等に基づいて行った財政支出の全てについて、原子力事業者が損害
賠償責任を負うべき地方自治体の権利利益が侵害がなされたものと捉えるのは相当で
はなく、原子力事業者による損害賠償の対象とはなり得ない国や地方公共団体が行政
上当然に支出すべき部分も観念し得るというべきである。
もちろん、原災法や災害救助法は、原子力発電所事故等の原子力災害やその他の災
害が起きたことを前提とした法律であり、当該法律に従ってなす財政支出について
は、どこまでが国や地方公共団体が行政上当然に支出すべき部分であるといえるか、
その分水嶺を定めることは極めて困難であると言わざるを得ない。
もっとも、国や地方自治体が原子力事業者に対して損害賠償請求を行うという観点
からは、最高裁も指摘しているように、国や地方自治体が行う財政支出について本来
原子力事業者が賠償責任を負うべき損害の填補といえるかどうかという観点から、個
別の支出について検討を行う必要があると思料される。
この点で、国や地方公共団体が住民の避難の為に交通費等を負担したり、避難中の
住居を提供したりした場合、これらの費用については、本来原子力事業者がその賠償
責任を負うべき費用であるといえる部分も多いと思われ、国や地方公共団体が当該費
用について原子力事業者に対して損害賠償を求めることも十分に考え得る。
その一方で、国や地方公共団体が負担した費用の中には、同じ避難費用であって
も、本事故に起因する避難ではなく、地震や津波に起因する避難のための費用が含ま
れることも想定される。通常の行政サービスからは逸脱するとも評価し得るものであ
- 44 -
ろうと、司法判断を待つことなく早期の救済が必要とされるような状況下にある以
上、国や地方公共団体がその裁量の範囲内で窮状にある住民らを早急に救済するため
の措置を講じることは寧ろ当然であるし、震災の際にも、本事故による被害者と震災
罹災者とを区別する時間的余裕があったとも想定しにくい。さらに問題を複雑化させ
ることに、震災及び本事故に関しては、その双方が個々の住民の損害・損失の原因と
なっている場合も当然に想定され得る。本事故に起因する避難のための費用と地震や
津波に起因する避難のための費用が混在し、その区別をすることが困難な場合も想定
されるのである。そのような場合には、国や地方公共団体が原子力事業者に対して当
該費用について当然に損害賠償請求を求めることはできないと思われる。
もっとも、以上の議論は、あくまで国や地方自治体が原災法等の法令に基づきその
権限を行使したり給付を行った際の費用について当てはまるものであり、地方自治体
が原災法等の法令以外の原因に基づいて原子力事業者に対して損害賠償を請求できる
か否かはまた別論である。
すなわち、原子炉の運転等が原因で地方自治体の庁舎が破壊されたり、地方自治体
の機能が阻害され、(原災法等の法令に基づかずに)本来支出する必要のない財政支出
を余儀なくされた場合等、地方自治体が原子炉の運転等によって固有の原子力損害を
負うことはあり得、それらの損害については、原子炉の運転等との間に相当因果関係
が認められる限り、原賠法(又は民法上の不法行為責任)に基づく損害賠償の対象とな
るというべきであろう。
- 45 -
10. 海外からの賠償請求の取扱いについて
未だ本事故が収束しておらず、放射性物質の拡散範囲が必ずしも明らかではない現
段階においては、今後、東京電力に対して、日本国内のみならず日本国外からも本事
故に起因する損害の賠償請求がなされ得る可能性が否定できません。
そこで、海外から東京電力に対して本事故に起因する損害の賠償請求がなされた場
合に問題となり得る基本的な法的論点につき、以下のとおりご報告申し上げます。
(1) 国際裁判管轄
日本の裁判所において訴訟が提起された場合、国際裁判管轄の有無は、被告の住所
地や不法行為地が日本に存在するか等によって決まります(日本には国際裁判管轄に
関する法律はありませんが、判例はあります)。外国の裁判所において訴訟が提起さ
れた場合、その外国の裁判所が国際裁判管轄を有するか否かの判断は、当該外国の法
令(批准している条約を含みます。以下同じ。)によります。
(2) 外国判決に基づく強制執行
日本以外の国(A 国)の裁判所の判決に基づき強制執行ができるのは A 国だけではな
く、日本ないし第三国(B 国)に所在する財産についても執行される可能性は否定でき
ません。なお、強制執行の可否にとり、準拠法が直接関係することは必ずしも多くあ
りません。
(3) 準拠法
日本国内で訴訟となった場合においても、準拠法は外国法ということはありえま
す。ただし、日本国内で訴訟となる場合には、法の適用に関する通則法(以下、「通則
法」という。)の規定より、日本法が認める範囲内でしか不法行為の成立や効果が認め
られないこととなっております。
現実に問題が生じる確率の濃淡はありますが、A 国に所在する財産であっても、日
本の裁判所の判決の執行の対象になる可能性があります。また、前記のとおり、A 国
の裁判所で出された判決が、A 国に所在する財産だけではなく、日本ないし B 国に所
在する財産に対して執行される可能性は否定できません。
(①日本の判決→日本所在の財産、②日本の判決→A 国所在の財産、③A 国の判決→日
本所在の財産、④A 国の判決→A 国所在の財産、⑤A 国の判決→B 国所在の財産のいず
れの組み合わせもありえます。)
- 46 -
(4) 外国所在の財産に対する強制執行
A 国に所在する財産に対して執行がされるか否かは、A 国の法令によります。な
お、以下に補足説明をさせて頂きます。
Ⅰ
国際裁判管轄について
主権国家においては、どの事件を裁判所が審理するか(あるいは管轄権がない
として訴えを却下するか)は、各主権国家が決定します。日本の裁判所が扱う事
件については、日本の法令(民事訴訟法等)に従います。他方、A 国の裁判所が扱
う事件については、A 国の法令により決まります。
①
日本の裁判所の国際裁判管轄
日本の裁判所の国際裁判管轄については、現在、立法作業が行われており、民
事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律案が衆議院で審議中です。した
がって、現在はこの論点を明文で規律する法令は存在しませんが、民事訴訟法の
解釈として、概ね同法案に沿った考え方で事件が処理されているとみられます。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DAB6F2.htm
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g17605008.htm
本件において訴訟が提起される場合には、日本国政府・地方自治体・日本の民
間企業等が被告となることが予想されますが、原子力事故が日本において生じた
ことも鑑みると、日本の裁判所は管轄権を有すると考えられます。
なお、日本の裁判所に国際裁判管轄があるとして、どの裁判所に訴訟を提起す
るかは、別途、問題となります(東京地裁か福島地裁か、福島地裁本庁か同地裁
いわき支部か、福島地裁か福島簡裁か等)。
②
外国の裁判所の国際裁判管轄
各国の法令によります。ただし、外国において前記法案第 3 条の 3 第 8 号と同
様の考え方がとられ、原告が、A 国において不法行為があったと主張して、A 国
の裁判所に訴訟が提起される可能性は高いと予想されます。また、米国において
は、最終的に国際裁判管轄が認められるかどうかにかかわらず、本件に関する訴
訟が提起される可能性は非常に高いと懸念されます。
なお、外国の裁判所で日本国政府が被告になった場合には、主権免除を主張
し、訴えの却下を求めることが考えられます(ただし、主権免除を主張すること
により当該外国との関係が悪化しないか等については、別途検討することになる
と思われます。)。
- 47 -
Ⅱ
準拠法
①
日本の裁判所に係属した場合
日本の裁判所が国際管轄権を有する場合、裁判所は通則法に基づいて適用する
法(すなわち準拠法)を決定します。
原子力事故に関する不法行為に基づく請求であれば、通則法第 17 条以下によ
り、加害行為の結果が発生した地の法が適用されるとされています。したがっ
て、多くの場合には準拠法は日本法となり、原賠法等が適用されることになると
考えられます。
外国法が準拠法となる場合
ただし、A 国において損害を被った等として(例えば、放射能で汚染されたマ
グロが、米国カリフォルニアで水揚げされたが、汚染を理由に買い手がつかな
かった場合、結果発生地はカリフォルニアの市場、という考えもあり得るかと思
います。)、A 国法の適用を主張する原告が出てくる可能性はあります。
もっとも、通則法第 22 条は、
・
「不法行為について外国法によるべき場合において、当該外国法を適用すべ
き事実が日本法によれば不法とならないときは、当該外国法に基づく損害賠
償その他の処分の請求は、することができない。」
・
「不法行為について外国法によるべき場合において、当該外国法を適用すべ
き事実が当該外国法及び日本法により不法となるときであっても、被害者
は、日本法により認められる損害賠償その他の処分でなければ請求すること
ができない。」
と定めており、準拠法が外国法である場合であっても、日本法が認める範囲内で
しか不法行為の成立や効果が認められないこととなっております。
この点、日本の原賠法は原子力事業者への責任の集中等を定めているところ、
原告が原賠法の規定に抵触するような主張を行ってきた場合に(例えば、メー
カーへ請求をしてきた場合に)、通則法第 22 条を適用して、原賠法に抵触する主
張を認めないのか否かが、一つの論点になる可能性があります(ただし、実際に
この論点の主張を行うにあたっては、諸外国との関係が悪化しないか等の事実上
の影響についても検討することになると思われます。)。
②
外国の裁判所に係属した場合
この場合における準拠法の選択は、当該外国の国際私法(conflict of laws)に
従うこととなり、したがって、当該外国の国際私法により、どこの国の不法行為
- 48 -
法が適用されるかが決定されます。当該外国で訴訟が提起された段階で確認をす
ることになると思われますが、日本の原賠法等が適用される、当該外国(A 国)の
不法行為法が適用される、あるいは、第三国(B 国)の不法行為法が適用される可
能性があります。
Ⅲ
判決の執行について
①
日本の裁判所の判決
日本の裁判所の判決は、日本において執行できます。
また、日本の裁判所の判決が、外国において執行される可能性もあります。外
国において執行がされるかどうかは、当該外国の法令によります。外国における
強制執行(及び保全処分)の対象としては、預金、債券、株式、不動産、資源に関
する権益や、船舶といったものが考えられます。
②
外国の裁判所の判決
A 国の裁判所の判決が日本において執行できるかは、民事執行法第 24 条、民
事訴訟法第 118 条により決定されます。
米国のいくつかの州、韓国については、日本における承認・執行を認めた日本
の裁判例が存在しますので、相互の保証が認められる可能性は高いと考えられま
す。中国については、相互の保証がないとして承認を否定した日本の裁判例が存
在します。ロシアについては不明です。
この過程においては、外国判決の当否を判断しないこととされていますが(民
事執行法第 24 条第 2 項)、判決の内容及び訴訟手続が日本における公序良俗に反
しないこと(民事訴訟法第 118 条第 3 号)が要件となっています。ここでも、日本
の原賠法等と抵触する内容の判決がされた場合に、公序良俗違反と言えるか否か
が論点になる可能性があります(ただし、実際にこの論点の主張を行うにあたっ
ては、諸外国との関係が悪化しないか等の事実上の影響についても検討すること
になると思われます。)。また、国際的に認知されているウィーン条約やパリ条
約の枠組みも国際的公序として考慮される可能性があります。
なお、A 国の裁判所の判決は、A 国や日本の他、日本以外の第三国(B 国)にお
いて執行される可能性もあります。B 国での判決の執行可能性は、B 国の法令に
よることになります。
したがって、国内企業が有している B 国に所在する在外資産(例えば、権益や
船舶)等が、A 国の判決に基づき差し押えられる可能性は否定できません。
Ⅳ
その他
前記は、不法行為に基づく請求について裁判所に訴訟が提起された場合を想定
- 49 -
しております。
その他に、契約に基づく請求について訴訟が提起される場合や、仲裁の申立て
がなされる可能性があります。また、損害賠償(損失補償)を行う過程で外国人を
不利益に扱った場合には、外国人から、投資協定やエネルギー憲章条約等に基づ
く仲裁等が申し立てられる可能性があります。さらに、環境汚染等に関する国際
法上の問題について国際司法裁判所等に提訴がされる可能性もあります。これら
の点については、必要に応じて、別途、検討する必要があるかと存じます。
(5) 外国における訴訟に応訴しなかった場合の帰結
他国の裁判所で当該他国の国内法に基づき訴え等が提起されたものの、旅費やマン
パワー等の事情から応訴しなかった場合には、おそらく敗訴することになります。こ
の点は、日本の裁判所も同様のシステムをとっています。
ただし、後記のとおり、事件や当事者と十分な関連性がない国に訴訟が提起された
ような場合には、外国裁判所の裁判権がないとして、日本での承認・執行ができませ
ん(民事訴訟法第 118 条第 1 号)。
(6) 間接的国際裁判管轄
民事訴訟法第 118 条第 1 号(間接的国際裁判管轄)の趣旨は、①(日本の裁判所の視
点からすると)事件や当事者と十分な関連性がないにもかかわらず、A 国において管轄
が認められて被告が敗訴した場合の被告の利益を保護すること、②日本に専属管轄が
ある事件等について日本の利益を守ることにあるとされています。また、「法令又は
条約」は、明文の法令や条約である必要はなく、日本の国際裁判管轄の考え方を適用
すると、A 国の裁判所に国際裁判管轄が認められれば足りるとされています。
ある外国国家が民事訴訟法第 118 条第 1 号の要件を具備しているかは、具体的に
は、事件と当事者の関係により決まりますので、一概には言えず、当事者間の公平の
視点から判断される傾向があるようです。
そして、
・
当事者間に管轄の合意(A 国の裁判所を管轄とする旨の合意)がある場合
・
被告が応訴をした場合(日本においても応訴管轄があります(民事訴訟法第 12
条))
・
被告の住所地が A 国にある場合
には、間接的国際裁判管轄が認められる可能性が高いと思われます。
また、A 国在住の個人が原告、日本政府や日本の大企業が被告となったような場合
- 50 -
には、A 国在住の個人に日本で訴訟をさせるのは酷であるとの考え方から、A 国の間
接的国際裁判管轄が肯定される可能性はそれなりに高いのではないかと考えます。
(7) 相互の保証
日本が加盟している外国判決の執行に関する多国間条約はまだ存在しません。ま
た、二国間条約についても、国ごとの調査が必要ですが、当職らの知る限り存在しま
せん。そのため、外国裁判所の確定判決につき「相互の保証(民事訴訟法第 118 条第 4
号)」があるか否かは、国家間の条約により規律されているわけではありません。
民事訴訟法第 118 条第 4 号の相互の保証の有無の判断基準は、日本の裁判所の判決
が、当該外国において同等の条件で承認・執行されるかになります。具体的な先例が
あれば、相互の承認の有無は明確となり、なければ不明ということになります。
日本において原因が発生した国際的に大規模な不法行為の事例は、当職らの知る限
りありませんので、過去の事例は、主として、国際的な取引の事例(及び国際的な家
族紛争の事例)になります。
そして、執行の点を考慮すると、国際的な取引については、多国間条約(NY 条約)が
存在する仲裁を選択することも多いと思われます。また、外国で訴訟となった場合に
おいても、コストや時間のことを考えると、外国判決の執行に至る前に和解すること
が多いと考えられます。こうしたことによるものと推察しますが、事案の集積は多く
ありません。
文献からの孫引きになりますが、相互の保証の有無に関する具体的な国名は次のよ
うになります。
・
相互の保証がある国(認めた日本の裁判例が存在する国)
スイス(チューリッヒ州)、ドイツ、連合王国イングランド・ウェールズ、韓国、
香港(ただし返還前の事例)、オーストラリア(クイーンズランド)、
米国(カリフォルニア州、ワシントン DC、ニューヨーク州、ネバダ州、テキサス
州、ハワイ州、ミネソタ州、イリノイ州)
・
相互の保証がない国(否定した日本の裁判例が存在する国)
ベルギー(ただし昭和 35 年の事例)、中国
(8) 懲罰的損害賠償を認める判決の執行
米国(カリフォルニア州)の懲罰的損害賠償については、日本の公序良俗に反すると
した判例が存在します(最高裁平成 9 年 7 月 11 日判決民集 51 巻 6 号 2573 頁)。
米国で判決を得て、日本で執行をする場合には、執行判決を求める訴え(民事執行
- 51 -
法第 24 条)を提起することとなりますが、その審理の過程で、懲罰的損害賠償部分に
ついては、日本では執行できないとして排除されることになります。
(①米国で訴訟提起・判決→②日本で執行判決を求める訴訟・執行判決[この段階で
審理]→③日本で執行、の流れになります。)
通則法が問題となるのは、最初から日本で訴訟が提起され、準拠法として米国の州
法が主張された場合になります。ここで米国の州法が準拠法とされたとしても、懲罰
的損害賠償の部分は日本の公序良俗に反するとして、懲罰的損害賠償を命じる判決は
出されないと考えられます。
(こちらは、①日本で訴訟提起・判決[この段階で審理]→②日本で執行、の流れに
なります。)
(9) 日本国外で生じた損害に関して相当因果関係が認められる可能性
汚染水の海流での運ばれ先や、汚染魚介類の移動先、放射性物質の空気拡散先等
は、一般的には十分予見可能であるとの議論がなされ易いようにも思われますが、い
ずれにせよ、法律論としては、例えば、一般的な海流・魚介類の移動・大気の移動に
ついて、どの程度の学術的な知見が蓄積されているか、ソ連の原発事故の際に世界中
にどの程度の影響が及んだと認識されているか、等の事実関係によりますので、現時
点では何とも言えません。
当職らには原子力や放射能についての専門的知識はございませんが、いわゆる生物
濃縮についての研究等も進んでいるようですし、海洋生物への影響、ひいては食用生
物における生物濃縮が巡って人間に及ぼす影響等についても勘案され得るところであ
り、また、日本で権威あるとされている学者の方のご見解のみならず、世界的にどの
ような研究が進んでいるか、仮に日本で権威あるとされている学者の方が異なる見解
を示し又は評価をしていたとしても、日本以外で通説的に扱われている学説等があっ
たりするのであれば、裁判になればかかる学説等も加味されて判断される可能性が十
二分にあります。
なお、証明度については、日本の裁判所では、厳密な科学的な意味での因果関係が
立証されなくとも、高度の蓋然性が立証されれば、責任が認められます。(特に海外
における裁判となれば、可能性がより高まるのではないかと思われますが)アメリカ
でのタバコ訴訟に想起されるように、科学的に高度な因果関係の立証がなされている
ことが必ずしも必要とはされていないこと、また、国によっては陪審員による素人的
判断がされる場合もあることにご留意ください。
- 52 -
(10) 外国で不法行為に関する訴訟が提起された場合の準拠法選択
A 国で不法行為に関する訴訟が提起された場合には、一般的には A 国の国際私法(通
則法に相当する A 国の法律)が適用され、日本法である通則法第 17 条が適用されると
いうことは原則としてないと考えられます。
すなわち、A 国の裁判所において、準拠法として日本法を選択するか、あるいは、A
国法(ないし B 国法)を選択するかは、A 国の裁判所の問題であり、その選択の当否に
ついては日本の裁判所に判断権限はなく、予見困難性の点は基本的に無関係と考えら
れます。もっとも、A 国の裁判所である準拠法を適用した結果、結果的に判決の判断
内容(結論)が日本の公序良俗に反することになれば、民事訴訟法第 118 条第 3 号に該
当するとして外国判決の執行を拒否されます。
なお、議論をするとすれば、むしろ、被告にとって予見困難な地に所在する外国の
裁判所には、間接的国際裁判管轄がない等として、民事訴訟法第 118 条第 1 号の議論
に関連付けることも考えられます。ただし、前記のとおり、この点だけで間接的国際
裁判管轄が決まるわけではありません。
(11) 外国法を準拠法とする場合の留意点
日本の裁判所では、どこの国の法律でも準拠法とすることができるのが、法の採用
している建前であって、世界的にも広く認められているところです(もっとも、事件
の種類によっては、未承認国家の扱いはどうするかとの議論はあるかとは思われま
す。)。
また、国際取引においては、外国法を準拠法とすることはよく行われます。
ただし、裁判所に全世界の法律に関する資料があるわけではないので、実務上は、
当事者が当該外国の法令や文献を翻訳して裁判所に提出する、当事者が当該外国の弁
護士にコンタクトして意見書を作成してもらい、翻訳をして、裁判所に提出する、日
本在住の外国法を専門とする大学の先生に意見書を作成して頂く、といったことがし
ばしば行われます。
また、当事者の合意により準拠法を変更することは可能ですので(通則法第 21
条)、裁判所が日本法へ準拠法を変更することを示唆し、当事者が応じるということ
もあります。
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11. CSC について
原子力損害賠償条約のうち、我が国が加盟を検討し得るものとして、原子力損害の
補完的補償に関する条約(Convention on Supplementary Compensation for Nuclear
Damage。以下、「CSC」という。)が存在します。
そこで、CSC について一般的に想起し得る疑問点、法的論点につき、以下のとおり
ご報告申し上げます。
(回答 1)
(1) CSC 加盟国における提訴
仮 に CSC が 発 効 し た と し て 、 CSC 加 盟 国 ( 議 論 の 簡 略 化 の た め に 、 批 准
(ratification)、受諾(acceptance)、承認(approval)、加入(accession)のあっ
た国を加盟国と総称します。)の領域において原子力事故が発生した場合、当該
原子力事故に関する訴訟については、事故発生地国に専属的国際裁判管轄が認め
られます(CSC 第 XIII 条第 1 項)。
したがって、CSC 発効後 CSC 加盟国において提訴された場合、訴えを受けた裁
判所は、CSC を遵守する限りにおいて、当該訴えに関し裁判管轄がないことを理
由に訴えを却下することになります。
(2) CSC 非加盟国における提訴
これに対し、一般に、ある条約の拘束力は、当該条約の加盟国にのみ及び、加
盟国以外の第三国には及びません(ウィーン条約法条約第 26 条、第 34 条)。した
がって、CSC の専属的国際裁判管轄条項の拘束力が及ぶのは、あくまで CSC 加盟
国のみであり、CSC 非加盟国において当該原子力事故に関する訴訟が提起された
場合には、CSC の専属的国際裁判管轄の規定は適用されませんので、その国の裁
判所は、法廷地法であるその国の国際民事訴訟法等に従って、CSC の専属的国際
裁判管轄の規定とは無関係に国際裁判管轄の有無を判断することになります。
このことからすれば、例えば中国や韓国において本事故に関して訴訟が提起さ
れた場合、中国や韓国の国際民事訴訟法によりそれらの国々に裁判管轄が認めら
れるならば(それらの国々における国際民事訴訟法が、損害賠償に関する訴訟に
ついて結果発生地国の裁判管轄を認めており、かつ、それらの国々において損害
の結果が発生した場合等が考えられます。)、当該訴えは却下されずに請求認容
の本案判決が下される可能性があるといえ、このことは仮に日本が CSC を批准
し、CSC が発効している場合であっても影響されないことになります。
- 54 -
(回答 2)
(1) CSC 加盟国における提訴、及び同国裁判所が(CSC に反して)行った請求認容判決
の執行
まず、前記のとおり、CSC 加盟国の領域において原子力事故が発生した場合、
当該原子力事故に関する訴訟については、事故発生地国に専属的国際裁判管轄が
認められます(CSC 第 XIII 条第 1 項)。そのため、事故発生地国以外の CSC 加盟
国において当該訴訟が提起された場合には、CSC が遵守される限りにおいて、当
該訴訟は裁判管轄を有していないことを理由に却下されることになり、請求認容
の本案判決はなされないことになります。
しかし、CSC の専属的国際裁判管轄の規定に違反して、請求認容の判決が CSC
加盟国でなされる可能性がないわけではありません(専属的国際裁判管轄規定は
当該国の国民の裁判を受ける権利(日本でいえば日本国憲法第 32 条参照)を阻害
する側面も否定しきれないことにも鑑みると、こうした事態もあり得ると考えら
れます。)。
この場合の、日本における外国判決の承認・執行について検討しますと、当該
外国の裁判所が管轄権を有することが要件となり(民事訴訟法第 118 条第 1 号)、
通常の場合には、日本の新民事訴訟法第 3 条の 2 以下の規定を参考に当該外国に
間接的裁判管轄が認められるか否かを考慮するのが原則です。しかし、CSC の専
属的国際裁判管轄の規定に違反があったような場合には、日本の裁判所として
は、日本が CSC に加盟していることの意義を失わせかねないため、当該判決がな
された外国の裁判所の裁判権を認めないと判断する可能性が高く、当該外国判決
の承認執行を認めないことになるのではないかと考えられます。
他方、CSC に違反して請求認容の本案判決がなされた場合においても、当該判
決国に財産があれば、当該財産に対し執行される可能性がありますし、また、当
該判決国以外の第三国に財産があれば、当該第三国の外国判決の承認・執行の
ルールに従って当該財産に対し執行される可能性があります。
なお、CSC 第 XIII 条第 5 項・第 6 項は、詐欺により取得された判決でないこ
と等を要件に、管轄権のある国の裁判所でなされた判決の他の加盟国における承
認・執行を規定していますが、管轄権を有しない国の裁判所でなされた判決の承
認・執行については、これらの規定にしたがって承認・執行されることはないと
考えられます。
(2) CSC に加盟していない国における提訴、及び同国裁判所が行った請求認容判決の
- 55 -
執行
CSC に加盟していない国で訴訟が提起された場合には、前記のとおり、CSC と
は無関係に国際裁判管轄の有無の判断がなされるため、場合により、その国の裁
判所に裁判管轄が認められ、本案判決が下される可能性があります。
次に、CSC に加盟していない国の裁判所が行った請求認容判決について、事故
発生地国において承認・執行が可能か否かは、当該事故発生地国における外国判
決の承認執行の要件によって異なってくるものと思われます。例えば日本であれ
ば、当該判決国に管轄がある等の民事訴訟法第 118 条所定の要件を満たす限り、
日本において当該外国判決を債務名義として執行できる可能性があります(民事
訴訟法第 118 条第 1 号、民事執行法第 24 条第 3 項)。
さらに、請求認容の本案判決がなされた場合、当該判決国に財産があれば、当
該財産に対し執行される可能性がありますし、また、当該判決国以外の第三国に
財産があれば、当該第三国の外国判決の承認・執行のルールに従って当該財産に
対し執行される可能性があります。
(回答 3)
(1) CSC 発効前に提訴された訴訟について
CSC は 5 ヵ国以上(原子炉熱出力の合計が 4 億キロワット以上)の国が加盟し、
その加盟書が IAEA 長官に寄託された後 90 日後に発効するところ(CSC 第 XX 条第
1 項)、かかる要件は未だ満たされていませんので、現時点において CSC は発効
しておりません。そして、条約は、遡及規定を明記しない限り発効要件が満たさ
れて初めて効力を生じ、遡及しないのが原則であるところ(ウィーン条約法条約
第 28 条)、CSC には遡及適用を認める規定はありませんので、CSC 加盟国であっ
ても、CSC の発効前に提訴された訴訟には過去に遡って CSC の規定が適用される
ことはなく、CSC の発効を契機に訴えを却下する等の措置がとられる可能性は低
いと考えられます(ただし、この点は明文の規定がありませんので、発効の時点
で訴えを却下するとの解釈がおよそとり得ないわけではありません。)。
なお、当然ながら、CSC を加盟していない国においては、遡及適用を論じるま
でもなく、CSC は適用されません。
(2) CSC 発効後に提訴された訴訟について
CSC 加盟国において、CSC 発効後に訴訟が提起された場合、前記(1)の遡及適用
禁止の原則により CSC の適用が排除される場面ではないことになります。そこで
- 56 -
次に、本事故は CSC の発効前に生じていますので、そのような事故に関する訴訟
にも CSC の規定が遡って適用されるのか否かがさらに問題となります。
この点に関しても、CSC には特に規定が設けられていないため、各国の裁判所
において解釈が分かれる可能性があります。したがって、日本以外の CSC 加盟国
の裁判所で本事故に関する訴訟が提起された場合、当該 CSC 加盟国の裁判所が
CSC の専属的国際裁判管轄規定の適用を否定し、その国の国際裁判管轄が認めら
れ、却下の判決ではなく、請求認容の本案判決が下される可能性があります。
この場合、かかる判決の日本における承認執行の可否については、日本の裁判
所においても解釈が分かれるものと思われますが、裁判所の判断によっては、当
該外国判決の判断を尊重して承認・執行が認められる可能性はあります。
なお、前記と同様に、CSC を加盟していない国においては、遡及適用を論じる
までもなく、CSC は適用されません。
(回答 4)
前記の(回答 3)(1)で申し上げたとおり CSC 加盟国において CSC の遡及適用がなされ
ないとしても、米国等の CSC 加盟国において、実質的に CSC の専属的国際裁判管轄規
定の趣旨が考慮され、CSC 加盟国において提起された訴えが却下される等の措置がと
られる可能性が全くないわけではありません。
しかし、原則論から申し上げますと、CSC が適用されるのは、CSC 加盟国であり、
かつ、CSC の発効後に限られますので、CSC の発効前の提訴や、CSC の加盟国以外の国
における提訴について、CSC の規定が適用されることがない以上、専属的国際管轄規
定は当該国の国民の裁判を受ける権利(日本でいえば日本国憲法第 32 条参照)を阻害
する側面も否定しきれないことにも鑑みると、その国の裁判所が、実質的に CSC の規
定を適用する可能性は必ずしも高くないのではないかと思われます。
もっとも、国際裁判管轄の決定は、通常、当該訴訟について最も適切な訴訟地はど
こかという観点から判断されることが多く、かかる判断の一考慮要素として専属的国
際裁判管轄を定めた CSC の規定が考慮されることもあり得ると考えられます。そして
その結果、外国裁判所においてその国の国際裁判管轄が否定され、提訴が却下される
可能性もあると考えられます。
ただし、かかる可能性は、homeward trend(内国法への志向)の強弱により左右され
るところが大きく、例えば、WTO 関連の紛争にもみられますように、米国は国際条約
が発効している場合ですら条約を遵守しないことがしばしばあるように見受けられま
すので、CSC の発行前に本事故に関する訴訟が米国において提起された場合に、米国
の裁判所が、自国民を救済する等の観点から、CSC の規定を実質的にも考慮しない可
能性は十分あり得ます。
なお、ウィーン条約法条約第 18 条は、条約の効力発生前に条約の趣旨及び目的を
- 57 -
失わせてはならない義務を定めますが、この条文を根拠に、専属的国際裁判管轄の規
定の適用を米国に求めることは、かなり困難ではないかと考えられます。
(回答 5)
海外からの訴訟提起の可能性等
本事故に関連して海外からの訴訟提起の対象となり得るのは必ずしも東京電力のみ
に限られず、様々な人や企業が、様々な人や企業を相手にして訴訟提起する可能性が
あり、それを海外裁判所が受け付ける可能性がございます。およそ損害を被ったとい
う人や企業であれば、(当該外国の法令次第ではありますが)様々な人や企業を相手に
提訴することを認められる可能性があり得るところです。
なお、原賠法自体はあくまでも日本の法律でしかなく、他の国(及びその裁判所)が
これに拘束されることはございませんのでご注意ください。
他国の人や企業が日本政府を訴える際に、原賠法第 3 条第 1 項但書を必要とするか
否かは、当該国の法令の問題であって、そもそも原賠法第 3 条第 1 項但書の適用を前
提とする必要すらない可能性もございます。ただし、日本政府としては、主権の問題
がありますので、immunity を主張することが(少なくとも理論上は)できる場合が大半
ではないかと存じます(もしこの点が重要なのでしたら、もう少し調べさせて頂きま
す。)。
ところで、日本国内でも、原賠法による責任集中が認められるのは、あくまでも
「原子力損害」に限っての話ですので、原子力損害に分類されない損害であれば、原賠
法とは無関係に損害賠償請求が可能です。したがって、原子力損害に分類されない損
害については、メーカー等も賠償責任を追及される可能性があるところです。また、
従前より申し上げておりますとおり、原因が複合している(結果に対して複数の原因
が複合的に寄与している)状況において、原賠法の責任集中がどこまで機能するかに
ついては解釈が分かれる余地のあるところであり、日本国内でも、原子力事業者以外
の者も責任追及対象となる可能性は払拭しきれるものではございません。
(回答 6)
海外判決の日本での執行
海外での(確定)判決を、日本で執行するためには、日本の民事訴訟法第 118 条に定
められる各要件が充足されていることが、日本の裁判所において認められることが必
要となるのが原則です(なお、例外的に、条約により自動的に日本国内での執行力が
認められる場合もありますのでご留意ください。)。
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執行力が及ばない場合に、原告側が採る手段としては、通常は、海外に所在する資
産に対する執行となります。
(回答 7)
外国での裁判を防ぐ方法
諸外国の主権が絡みますので、本事故に関して外国で訴えが提起されることを防ご
うとするのであれば、全ての国と条約を締結する以外にはありません。
(回答 8)
懲罰的損害賠償
懲罰的損害賠償であれば、日本の公序良俗に反するとの最高裁判例がありますの
で、日本では執行されることはないと考えられます。しかしながら、そのような事情
がなければ、執行判決にあたっては外国判決の当否を審査しないのが原則ですので
(民事執行法第 24 条第 2 項)、日本での判例以上の非常に広い範囲の損害賠償を認め
た海外判決であっても、日本で執行できることになります。
(回答 9)
原子力メーカーに対する外国判決
仮に我が国の原子力メーカーに対して損害賠償の支払を命じる外国判決がなされた
場合、かかる外国判決については、民事訴訟法第 118 条の要件のうち、公序良俗に反
するとの議論は考えられますが、原子力事業者への責任集中の制度が日本の公序とま
で言えるかは疑問であり、かなり難しいのではないかと考えられます。なお、原賠法
と公序則についての裁判例があるわけでもありませんし、また、そもそも原賠法の解
釈としても、先だって申し上げましたとおり、責任集中がどこまで認められるかにつ
いては疑問も残っているところであることを考慮しますと、外国において責任集中の
制度をとらなかったとしても、日本における法秩序と異なると評価されるとも限らな
いことにもご留意ください。
(回答 10)
CSC の規定の遡及適用
本事故は CSC の発効前に生じていますので、そのような事故に関する訴訟にまで
CSC の規定が遡って適用されるのかが問題となりますが、従前申し上げましたとお
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り、CSC においてはこの点の明文規定がありません。したがって、日本が CSC に加盟
し発効した場合において、CSC 発効後の訴訟は日本でしかできないとの考え方も、日
本以外においてできるとの考え方も両方ありえ、この点は提訴された国の裁判所がど
のような解釈をとるかによります。
また、やはり従前に申し上げましたとおり、CSC には、CSC 発効前の訴訟であって
も、執行の際に CSC が発効していた場合には執行できないとの規定はありませんし、
判決がなされたにもかかわらず、その後に CSC が発効されたことを以て判決の効果を
否定するまでの積極的な理由を見いだすことは困難かと思われますので、そのような
場合に執行できないと解される可能性は低いと考えられます。
(回答 11)
改正民事訴訟法のスタンスもご紹介しつつ、改めて、CSC 発効前の事故に係る CSC
発効後の提訴について、以下に検討を加えさせて頂きます。
(1) CSC の規定
先日も申し上げましたとおり、CSC 第 XIII 条は、事故国の専属管轄を定めて
おりますが、発効前の事故に係る発効後の提訴についても適用されるかについて
は明文の規定がなく、解釈が分かれ得ると存じます。
そして、少なくとも先ずは外国での訴訟を回避できるかがポイントになると考
えれば、日本の裁判所がどのように解釈するかというところが第一義的に問題に
なっているわけではなく、また、条約そのものが明確に定めていない以上は、例
えば米国裁判所がどのように解釈するかというところの問題が残ることとなり、
日本における問題ではない以上、(日本が批准するに際して)日本国内で何らかの
手当をしたところで意味がないため、結局は、条約の文言を改正するなり、批准
にあたって、他の批准国と解釈について合意するなりといった国際的な手当を要
すると思われます。
この点をおくとして(=外国で提訴されたり執行されたりすること自体は諦め
た上で、外国判決が日本で執行されることだけを回避しようというのであれ
ば)、外国判決の承認・執行という段階において、CSC を根拠に外国裁判所に管
轄があったのかなかったのかを判断することとなりますが、この点に絞ってみて
も、前記のとおり明文がない以上、解釈は日本国内の裁判所でも分かれ得ると思
われます。
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(2) 平成 23 年民事訴訟法改正
次に、平成 23 年民事訴訟法改正後民事訴訟法第 3 条の 12 においては、日本の
裁判所の管轄権は提訴時を基準時として定める旨規定されており、提訴時に CSC
が発効しているか否かで分ける見解と親和的ではあります。しかし、前記①の点
(発効前の事故に係る発効後の提訴についても適用されるか)に関する CSC の解釈
について明文で規定するものではないと考えられます。
また、その他の改正の内容についても、本件に直接関連するとみられる条項は
見当たりませんでした。
したがって、CSC 発効前の事故に関する CSC 発効後の外国における提訴・判決
について、平成 23 年民事訴訟法改正が施行されれば直ちに CSC に基づき日本の
裁判所が当該外国判決に係る裁判所の(間接)管轄を否定し、日本における承認・
執行が否定されることが絶対的な解釈というわけではない(=それ以外の解釈が
困難というわけでは必ずしもない)ように思われます。
(さらには、仮に日本における承認・執行を否定することが出来たとしても、
外国における執行に対して何らかの影響を及ぼせるものではないといったところ
は、前記(1)で既に記したとおりとなります。)
(回答 12)
(1) CSC に基づく基金の使用
CSC 第 XI 条第 1 項は、CSC 第 III 条第 1 項第(b)号に定められる基金を加盟国
における原子力損害の補償に用いることができる旨定めております。もっとも、
日本が CSC に加盟していたとしても、仮に日本国内における損害しか発生しない
場合、すなわち他国への越境損害がない場合は、当該基金の 50%しか使用でき
ない制度となっております。
この点、CSC がこのような制度を設けた背景については、以下の情報がありま
す。
①
IAEA のウェブサイト掲載資料
IAEA のウェブサイトにおいて、ウィーン条約や CSC 等の解説がなされており
ま す (http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1279_web.pdf) 。 こ
れによれば、CSC 第 XI 条の規定が置かれた趣旨は、基金は「国境を越えた原子力
損害」にのみ用いられるべきであるとの見解と、基金は非差別的に利用されるべ
- 61 -
きであるとの見解とが対立していたところ、その妥協として折衷的な規定となっ
たようです(前記掲載資料 80 頁等参照)。
②
文部科学省のウェブサイト
日本においても、文部科学省のウェブサイトの中で、原子力損害賠償制度の在
り方検討会の資料において、「原子力損害賠償制度については、各国の国内法に
加えて、国境を越えた原子力損害の処理等に適切かつ迅速に対応するために、国
際的に共通な原子力損害賠償制度の共通ルールを定めた国際条約が存在する。原
子力損害賠償制度については、各国の国内法に加えて、国境を越えた原子力損害
の処理等に適切かつ迅速に対応するために、国際的に共通な原子力損害賠償制度
の共通ルールを定めた国際条約が存在する。」としております。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/007/shiryo/08081105/0
04.htm
ここにも、「国境を越えた原子力損害の処理」という点が指摘されており、国外
に生じた原子力損害の補償について基金のうち一定の範囲を確保するという趣旨
につながるのではないかと推測致します。
なお、CSC 第 XI 条第 2 項は、例外的に、基金の全額を国内・国外に割り当て
ることができる場合について規定しています。
(2) 基金の補償先
CSC は、原子力損害に係る被害者への補償を手厚くするための条約と解されま
すので、補償を受領するのは被害者であると解されます(例えば、CSC 第 III 条
第 2 項では、補償について国籍等に基づく差別を禁じ、補償の公平な分配を定め
ておりますが、これは被害者に対して補償を行うことを前提しているように思わ
れます。)。したがって、仮に CSC の規定に基づき本事故に関して基金が用いら
れるとしても、その基金を国と東京電力とで分配するということにはならないか
と存じます。もっとも、補償の実現の過程で、国や原子力事業者を介することも
あり得るかとは存じますが、CSC が原子力損害の補償を補完することを目的とす
ることからすれば、CSC に基づく基金から拠出された資金が、国や原子力事業者
に最終的に帰属することは想定しがたいようにも思われます。
なお、念のために過ぎませんが、本事故について国際基金からの拠出がされる
かは極めて疑問です。
- 62 -
(回答 13)
専属管轄に関する CSC の規定の遡及適用の可否
法律が改正されると、施行日から新法が適用されることになりますが、附則におい
て、「~については、なお従前の例による」等といった経過規定が置かれ、新法施行前
の行為に対しては旧法を適用する旨の規定が置かれる場合が多いと理解しておりま
す。このような措置がとられることを前提に、例えば、01 年に事故発生、02 年に実
体法及び手続法の改正があり 02 年中に施行、03 年に訴訟が提起された場合を例に考
えてみます。
実体法については、03 年においては新法が適用されるのが原則になりますが、02
年の改正法の附則により従前の例によるとされる結果、01 年当時の実体法が適用され
ます。他方、手続法については、02 年の新法施行後である 03 年に手続が開始された
のであれば、当然に新法が適用されることになります。
この文脈においては、「訴訟手続については提訴時の法律がベースになる」という考
え方は一般的なものと考えられます。
また、ウィーン条約法条約第 28 条においては、「条約は、別段の意図が条約自体か
ら明らかである場合及びこの意図が他の方法によつて確認される場合を除く他、条約
の効力が当事国について生ずる日前に行われた行為、同日前に生じた事実又は同日前
に消滅した事態に関し、当該当事国を拘束しない。」と規定しています。これを CSC
に置き換えて考えてみると、例えば、01 年に事故発生、01 年に訴訟提起、02 年に条
約が発効した場合においては、01 年に提起された訴訟については条約はおよそ適用さ
れないと考えられます。
他方、02 年に条約が発効、03 年に事故発生、03 年に提起された訴訟については条
約が適用されることになると考えられます。
本件の問題は、01 年に事故発生、02 年に条約発効、03 年に訴訟提起という流れの
中で、CSC の解釈として、01 年の事故に係る 03 年の提訴についても専属管轄の規定
が適用されるかは、明文の規定がないため、両論があり得るところにあります。
第 XIII 条は、原子力損害に関する訴訟の専属管轄を定めているわけですが、原子
力事故が発効前に生じた点を重視すれば同条の適用がないとの解釈に傾き、訴訟提起
が発効後になされた点を重視すれば同条の適用があるという解釈に傾くと考えられま
す。
- 63 -
(回答 14)
条約等の遡及適用に関する取扱い
訴訟提起は法律に基づいてなされる必要があり、訴訟提起時に効力を有する法律に
基づいて訴訟が提起されることとなります。もっとも、訴訟提起が旧手続法に基づい
てなされれば、その後に新法が施行された後も当然に旧手続法の適用があるというわ
けでは必ずしもなく、原則は新法施行時から新手続法の適用があると考えられます
が、経過規定の適用により旧手続法の取扱いを維持することがあります(例えば、い
わゆる裁判員法附則第 4 条は、法律の施行時に係属中の事件については裁判員法を適
用しない旨の経過規定をわざわざ置いております。)。
条約については、既にお送りした回答に記載したとおり、ウィーン条約法条約第 28
条において、「条約は、別段の意図が条約自体から明らかである場合及びこの意図が
他の方法によつて確認される場合を除く他、条約の効力が当事国について生ずる日前
に行われた行為、同日前に生じた事実又は同日前に消滅した事態に関し、当該当事国
を拘束しない。」と規定されております。もっとも、ここでいう「行為」や「事実」とし
て具体的に何を捉えるのかによって、具体的事例における判断は異なり得ます。すな
わち、訴訟法的事実を捉えて「行為」や「事実」であるとするのか、訴訟の対象となる事
実を捉えて「行為」や「事実」とするのかによって結論は異なり得ると思われ、条約ごと
の個別の判断になると思われます。
(回答 15)
(1) 条約の署名
条約の署名とは、交渉当事者による条約正文の確認行為をいいます(山本草二
『国際法(新版)』592 頁参照)。
CSC の署名については、CSC 上(CSC 第 XVII 条)又は条約法条約上、特段の要件
は課されておりませんので、国内法の整備が未了の段階で CSC に署名すること
も、法的には可能と考えられます。
(2) 条約の批准
一方、条約の批准とは、国家の名において条約を確定的に受け入れ誠実に履行
する旨の同意を与える行為をいいます(前掲山本 596 頁)。
そして、批准行為そのものについても、CSC(CSC 第 XVIII 条第 1 項第 1 文参
照)又は条約法条約上、特段の要件は課されておりませんので、国内法の整備が
- 64 -
未了の段階で CSC を批准することも、CSC の文言上は可能と考えられます。
(3) 条約の発効
しかしながら、CSC が発効するためには、最低 5 カ国以上の国が IAEA に批准
書を寄託する必要があるところ(CSC 第 XX 条第 1 項)、仮に CSC を日本が批准し
たとしても、日本において ANNEX に準拠した国内法の整備が未了の段階では、批
准書は受理されず(CSC 第 XVIII 条第 1 項第 2 文)、それ故、批准書が IAEA に寄
託されることもないため、CSC は発効しないと考えられます。
なお、個別の条約である CSC 自体にこのような要件が課されている以上、CSC
の発効に関して、条約解釈の一般法規である条約法条約の問題にはならないと考
えられます(前掲山本 590 頁)。
以上のとおり、国内法の整備が未了の段階で CSC を署名、批准することもその
文言からは可能ですが、批准書が IAEA に受理されない結果、CSC は発効しない
というのが CSC の文言から導かれる結論であると考えられます。
もっとも、批准書が受理されないことを承知の上で条約を批准する等という行
為が、外交実務や国際慣行、諸外国とのリレーションシップその他諸々の実務的
な観点から果たして採り得る選択肢であるかについては、大いに検討の余地があ
る点をご承知おきください。
【CSC の条文抜粋】
http://www.iaea.org/Publications/Documents/Infcircs/1998/infcirc567.pdf
Article XVII
Signature
This
Convention
shall
be
open
for
signature,
by
all
States
at
the
Headquarters of the International Atomic Energy Agency in Vienna from 29
September I997 until its entry into force.
Article XVIII
Ratification, Acceptance, Approval
1. This Convention shall be subject to ratification, acceptance or approval
by the signatory States. An instrument of ratification, acceptance or
approval shall be accepted only from a State which is a Party to either the
Vienna Convention or the Paris Convention, or a State which declares that
its national law complies with the provisions of the Annex to this
Convention, provided that, in the case of a State having on its territory a
- 65 -
nuclear installation as defined in the Convention on Nuclear Safety of 17
June 1994, it is a Contracting State to that Convention.
2.
The
instruments
of
ratification,
acceptance
or
approval
shall
be
deposited with the Director General of the International Atomic Energy
Agency who shall act as the Depositary of this Convention.
Article XX
Entry Into Force
1. This Convention shall come into force on the ninetieth day following the
date on which at least 5 States with a minimum of 400,000 units of installed
nuclear capacity have deposited an instrument referred to in Article XVIII.
2. For each State which subsequently ratifies, accepts, approves or accedes
to this Convention, it shall enter into force on the ninetieth day after
deposit by such State of the appropriate instrument.
(回答 16)
CSC 発効後(日本非加盟時)の CSC 加盟国における訴訟結果の見込み
日本が加盟しないにもかかわらず CSC が発効し、なおかつ相手国において原子力事
故が発生し、当該相手国において訴訟が提起された場合を念頭に置いた上で、原子力
事業者の責任集中に関する例外事由が存在せず、当該相手国が CSC を直接適用の形で
遵守するといった仮定のもとでの結論になりますが、CSC の文言上は(Annex Article
3、特に 9 項)、日本の原子力サプライヤーは原子力損害を問われないことになるかと
存じます。
ただし、日本の原子力サプライヤーについて故意がある場合等には、求償される場
合があることにご留意ください(CSC Annex Article 10(b))。また、当該相手国の裁
判所による CSC の解釈のやり方によっては、相互主義を強調する観点から、CSC 加盟
国の企業に対しては損害賠償請求ができないものの、CSC の加盟国ではない日本の原
子力サプライヤーに対しては損害賠償請求ができるという解釈をとることもあり得、
その場合においては日本は CSC 加盟国ではない以上、CSC 違反であるという主張を当
該相手国に対して主張できないと考えられます。
(回答 17)
CSC 発効後(日本加盟時)の CSC 加盟国における訴訟結果の見込み
日本が CSC に加盟している場合、CSC 加盟国の裁判所が、原子力サプライヤーであ
- 66 -
る日本企業の賠償責任を認めるという判断を下すことは想定し難いと思われます。す
なわち、それは、当該国の裁判所が CSC あるいはその担保法を無視した司法判断をし
たということになるからです(なお、責任集中の例外に当たる場合には、日本企業の
責任を認めることはあり得ますが、ここでは議論の対象とはしていません。)。
したがって、被告となった日本企業としては、当該国の裁判制度に従って、上訴審
等での是正を図ることとなると思われます。
上訴審等でも是正が図られない場合には、日本政府としては、CSC 第 XVI 条に基づ
いて、当該国と交渉等をした後、仲裁や国際司法裁判所の判断による解決を図ること
が考えられます(なお、そもそも、どの段階で CSC 違反であるといえるのか(相手国裁
判所が日本の原子力サプライヤーに対する管轄を認めたときなのか、一審判決を出し
た時なのか、それとも判決が確定した時なのか)は議論の余地があるかもしれませ
ん。)。
なお、相手国が加盟時に仲裁による解決は行わないと宣言していた場合には、仲裁
による解決は図れません(CSC 第 XVI 条第 3 項)。
最終的な強制が可能かという点に対する論理的な答えは NO ですが、実際問題とし
てその点が問題となるかは、相手国がそれほどまでに国際法を無視し続けること(な
らず者国家となること)がどこまで現実的にあり得るかについての評価によるのでは
ないかと考えられます。
(回答 18)
以下の事例における国際裁判管轄、準拠法等に関する考え方を整理すると次のよう
になります。
【事例】
・
日本の原発プラントメーカー(X 社)が輸出した相手国(A 国)で原子力事故が発生
した。
・
A 国はウィーン条約に加盟しており、原子力事業者への責任集中を規定した国内
法も整備している。
・
①
日本はいずれの原子力損害賠償条約にも加盟していない。
原則として、A 国の被害者は、A 国の国内法により、A 国で X 社を訴えること
はできないことになります。
なお、A 国の被害者が A 国の裁判所で X 社を訴えた場合には、請求が棄却され
るのが原則となると考えられます(ただし、A 国が国内法の整備にあたり、原則
に対する例外をどのように定めているか、特に、相互主義の観点に基づき、
- 67 -
ウィーン条約の非加盟国の企業との関係では原子力事業者への責任集中が適用さ
れないといったことを定めていないか、といったところについては注意を要しま
す。)。
A 国の国内法により、原子力事業者への責任集中が定められているためです。
②
原則として、A 国の被害者が X 社を日本で訴えることは可能と考えられます。
日本はいずれの原子力損害賠償条約にも加盟しておりませんので、条約に基づ
く、管轄裁判所を事故が起きた国等の裁判所に一元化する義務や、(事故を起こ
した外国の)原子力事業者への責任集中の義務を負いません。したがって、日本
法の解釈によります。
日本における国際裁判管轄の決定については、従前は、これを直接規定した法
規はなく、確立した国際法上の原則も存在しないため、当事者間の公平、裁判の
適正・迅速を期するという理念により条理に従って決定するのが相当と解される
ところ、日本の民事訴訟法の裁判管轄に関する規定は予め条理を考慮して定めら
れているため、同法の規定する裁判籍が日本国内に認められる場合には、日本の
裁判所に国際裁判管轄も認められると考えられています(最判昭和 56 年 10 月 16
日民集 35 巻 7 号 1224 頁〔マレーシア航空事件〕)。したがって、X 社の「主たる
事務所又は営業所」が日本国内にあることを前提とすれば、X 社を被告とする A
国の被害者の訴えについても、原則として、日本の裁判所に裁判管轄が認められ
ます(民事訴訟法第 4 条第 4 項参照)。
また、平成 24 年 4 月 1 日より施行される改正民事訴訟法第 3 条の 2 によれ
ば、被告の X 社の「主たる事務所又は営業所」が日本国内にあれば、X 社を被告と
する A 国の被害者の訴えについても、原則として、日本の裁判所に裁判管轄が認
められます。
なお、日本の原賠法第 3 条及び第 4 条は原子力事業者への責任集中を定めてお
ります。「日本」における「原子炉の運転等」が存在しない事例においては、原則と
して、その場合には原賠法の対象外と考えられます。したがって、原賠法の規定
が当該事例の結論に影響することはないと考えられます。
③
日本における訴えに関する準拠法決定のルールは、通則法に定められています
(なお、「A 国の被害者」とは、原子力発電所事故による A 国の住民(以下、「被害
者住民」という。)を念頭におかれているものと理解しております。)。
A 国の被害者住民が X 社に対し訴えを提起する場合、その一般的な法的根拠と
しては不法行為が考えられます。この点、通則法によれば、不法行為に関して
は、原則として、加害行為の結果が発生した地(本件では A 国)の法が適用されま
- 68 -
す。
なお、「その地における結果の発生が通常予見することのできないものであっ
た」場合には、例外的に、加害行為が行われた地の法が適用されると定められて
います(通則法第 17 条)。X 社が A 国にプラントを輸出する事例においては、(X
社の製品に瑕疵があったのか否か等の事実関係によって左右されますが)裁判所
において A 国における事故も通常予見が可能であると判断される可能性が高いと
考えられます。
また、その他にも、原子力プラントの購入者が製造物責任を根拠として訴えを
提起した場合には原則として引渡地(通則法第 18 条)が、他の規定により定めら
れる準拠法の属する地よりも「より密接な関係がある地」がある場合にはその地の
法律(通則法第 20 条)が、損害賠償に関する交渉や訴訟手続において被害者と X
社との間で準拠法を変更する合意が成立している場合には合意された準拠法(通
則法第 21 条)の適用が、それぞれ考えられるところです。
原子力プラントの輸出においては、汎用品の輸出とは異なり、A 国の設置場所
の状況に応じて特別に設計されたプラントを輸出することになる場合も十分に考
えられるところ、そうである場合には A 国法が適用される可能性が高いと思われ
ます。もっとも、具体的事情によっては日本法が適用される可能性もないわけで
はなく、最終的にどちらの法が適用されるかは、究極的には裁判所により個別・
具体的に判断される事柄となります。
④
前記のとおり、A 国の国内法により原子力事業者への責任集中が定められてい
るため、原則として、X 社は A 国法に基づく賠償責任を負わないことになるかと
存じます。
もっとも、書面による契約により明示的に定められている場合や、X 社の意図
的な作為又は不作為により原子力損害が生じた場合等には、原子力事業者から X
社に対する求償権が行使され得る点にご留意ください(ウィーン条約第 10 条に対
応する A 国の国内法規定)。また、当該損害が原子力損害ではないと認定されれ
ば、賠償責任を負う可能性はあります。
⑤
仮に準拠法が日本法となれば、X 社は不法行為責任を負うリスクはあるものと
考えられます。
一方、原則として、瑕疵担保責任は契約上の相手方にしか追及できません(民
法第 570 条、第 634 条等)。X 社が被害者住民とは契約関係になければ、瑕疵担
保責任を追及することはできません。この点、瑕疵担保責任が追及し得る主体と
しては、例えば、X 社からプラントを購入した A 国の原子力事業者等が考えられ
ます。
- 69 -
⑥
最終的に X 社が賠償責任を負う可能性は、原子力事故の原因が何であったかに
より異なります。法律上は、原則として、当該事故の原因が X 社にない限り、X
社に賠償責任は認められません。
もっとも、実際の訴訟において、裁判所が賠償責任を認めるか否かを事前に予
測することは一般的に困難ですので、現実には、賠償責任が認められた場合のリ
スク(金銭的リスク、レピュテーション・リスク等)や紛争解決に要する時間・労
力・コストを踏まえて、客観的には X 社に原因がなくとも、X 社が和解に応じる
というケースはままあるところです。また、輸出先である A 国の状況(地震・津
波その他の天災の影響を受けやすい国か、テロや内戦・戦争が起きやすいか、原
子力発電所の運転・管理が規律正しく行われるか)によっては、そもそも原子力
事故の発生の確率も変わってきますので、それによっても X 社が賠償責任を負う
可能性は変動すると考えられます。
⑦
日本の裁判所による確定判決は日本における強制執行をする際の債務名義とな
りますので(民事執行法第 22 条第 1 号)、これに基づいて日本で強制執行を行う
ことに原則として問題はありません。
- 70 -
12. 大規模大量賠償制度について
5 月 25 日付読売新聞朝刊の記事に「大規模大量賠償制度」についての言及がありまし
たので、ご参考までに、後記 URL を当該制度に関する情報としてご提供させて頂きま
す。
http://www.uncc.ch/start.htm
http://www.zenyu.org/zenyudayori/2006/06_2.htm
http://www.nichibenren.or.jp/ja/kokusai/shushokushien/interview1.html
- 71 -
13. プライスアンダーソン法について
米国のプライスアンダーソン法においては、事業者間相互扶助制度として、万一の
原子力事故時に 1 原子炉・1 原子力事故あたり最大 1 億 1190 万ドルの遡及保険料が全
ての原子力事業者から徴収される仕組みとなっています。当職らが調査できるのは基
本的にはインターネット上の情報に限られますが、ご参考までに、この遡及保険料の
額の制定の経緯をご報告申し上げます。
1.
遡及保険料の制定経緯
まず、遡及付加方式については、科学技術庁原子力局監修『原子力損害賠償制度』
14 頁以下に、簡単な解説が載っています。
また、Comptroller General が 1980 年にプライスアンダーソン法に関するレポート
を議会に提出しています(http://archive.gao.gov/f0102/113089.pdf)。
同レポートは、1957 年の立法当初、責任制限額は合計 5 億 6000 万ドル(民間の保険
が 6000 万ドル、政府が 5 億ドル)とされていたところ、その根拠は、民間保険会社は
6000 万ドルならば保険を引き受けるとし、他方で政府は、5 億ドルであれば連邦の予
算に深刻な影響を及ぼさないと考えられたからであるとしています。
その後、連邦政府の負担軽減の目的から、1975 年の法改正により、遡及賦課方式が
採用され、民間の保険の保険金額を超える損害が発生した場合には、その超過額につ
き、原子炉一基あたり 500 万ドルを限度に、大型発電炉の運営者に対して割り当てる
こととしましたが、前記レポートには、一基あたり 500 万ドルの負担であれば、1985
年までに原子炉が 80 基に達することで、民間保険(1 億 6000 万ドル)と発電炉運営者
の負担(500 万ドル×80 基=4 億ドル)で当時の責任制限額(5 億 6000 万ドル)をまかな
える旨の記載があります。
さらに、2005 年の法改正の際の立法資料には、一基あたり年 1500 万ドル、合計
9580 万ドルを負担させることで、その当時原子炉の数が 103 であったことから、民間
の保険の限度であった 3 億ドルと合わせて、合計 102 億ドル(9580 万ドル×103 基+3
億 ド ル ) に な る 旨 の 記 載 が あ り ま す (http://frwebgate.access.gpo.gov/cgibin/getdoc.cgi?dbname=109_cong_reports&docid=f:sr099.pdf)。
なお、その後の 2008 年には、インフレを考慮して一基あたり年 1750 万ドル、合計
1 億 1190 万 ド ル を 限 度 と す る 規 則 が 公 表 さ れ て お り ま す (http://www.oecdnea.org/law/legislation/updates/usa.html)。
- 72 -
2.
保険料の額の算定根拠
なお、1988 年の改正においては、チェルノブイリ事故を踏まえて、遡及賦課方式の
保険料が大幅に増加(原子炉一基あたり 6300 万ドル)したという経緯がありましたの
で、この改正により定められた保険料の算定根拠をインターネット上で調査・検索致
しました。
まず、1988 年にプライスアンダーソン法を改正した際の審議経過については、別添
PDF ファイルのとおりです。具体的な議論の中身に触れた資料は見あたりませんでし
たが、後記ウェブサイトにおいて審議経過がさらに詳しく説明されています。
http://www.pacificeconomicsgroup.com/jad/2025.pdf
もとより、前記ウェブサイトの信頼性については関知するところではなく、同ウェ
ブサイトで紹介されている論文の信憑性についても保証の限りではありませんが、同
論文によれば、そもそもチェルノブイリ原発事故以前から米国上院及び下院において
プライスアンダーソン法の改正が検討されており、賠償額が議論の対象となっていた
ようです。
この他、後記ウェブサイトにおいて紹介されている論文(Harvard Environmental
Law Review)が 1988 年改正の論点に言及していると思料されます。
http://heinonline.org/HOL/LandingPage?collection=journals&handle=hein.journa
ls/helr13&div=6&id=&page=
当職らにおいても、別途契約している法律情報サイトを通じて前記論文の入手を試
みましたが、古い論文であることから入手することはできませんでした。
前記ウェブサイトにおいて購入することは可能なようです。また、米国内の大学図
書館であれば、前記論文を所蔵しているものと思われますし、国内においても一部の
大規模図書館が所蔵している可能性はあります。
取り急ぎではございますが、以上のとおり、当職らにおいてプライスアンダーソン
法に関してインターネット上を調査・検索した結果をご報告致します。当然のことな
がら、当方においても知見を有する分野ではなく、あくまでインターネット上で見聞
した結果をお伝えしていることをご承知ください。
- 73 -
14. 各特別措置法等における特例措置等の概要及び特別措置法等が適用された案件の概要
特別措置法等における特例措置等の概要及び特別措置法等が適用された案件の概要
につき、別紙 5 及び別紙 6 のとおりご回答申し上げます。
- 74 -
15. 監査意見不表明の場合における会社法関連の問題点
監査意見不表明となった場合における会社法関連の問題点につきまして、概要を以
下のとおりご報告申し上げます。
監査意見不表明となった場合には、有価証券報告書が提出できず、その影響が重大
であると金融商品取引所が認めたときは、上場廃止基準に該当することとなります
(例えば、東京証券取引所有価証券上場規程第 601 条第 1 項第 10 号・第 11 号等)。
しかしながら、有価証券報告書の提出期限については、今般の震災の影響による場
合には、本来の提出期限である 6 月末を、9 月末までに伸長する方向での検討が行わ
れているものと認識しております。また、上場廃止基準については、東京証券取引所
より、震災の影響による有価証券報告書の遅延及び意見不表明を受けた場合の上場廃
止基準の適用について、上場廃止にならないよう取り扱う旨が公表されております。
http://www.tse.or.jp/news/07/110318_e.html
また、監査意見不表明の場合には、株主総会の承認を経なければ計算書類を確定す
ることができません。
なお、監査意見不表明となる主たる原因は損害額の見積り等が合理的に行えないこ
とにあるものと思料されますが、この点は税務申告にも影響することも予想されま
す。もっとも、税務申告につきましても今般の震災等により決算が確定しない場合に
おける申告期限の伸長が認められているところです。
以上のとおり、今般の震災の影響による監査意見不表明について、問題となり得る
法規制等について一定の措置が講じられておりますが、対象会社の特殊性に鑑み、対
象会社についてこれらの措置の要件に該当するか(対象会社もこれらの適用対象と認
められるか)否かについては別途ご確認頂いた方が良いように思われます。
- 75 -
16. 定款に定められた株主総会の開催日を後倒しすることの可否及び法的問題点
以下では、株主総会の開催に関して、
①
定款に総会日の定めがある場合に、どの程度までなら、後倒しにしても定款違反
と言えないのか(有価証券報告書の提出を 3 か月後倒しできるので、3 か月ずら
せるのか。)。
②
その場合には、どのような手続が必要か。
③
定款違反ではないと会社側が解釈・判断し、総会日をずらした場合に、それに伴
うリーガルリスクはどのように考えれば良いのか。
という点について、基本的な考え方をご報告申し上げます。
(1) 前提(法務省のリリースについて)
3 月 25 日付の法務省のリリースにおいて、定時株主総会の開催時期について
の考え方(http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/saigai0011.html)が提示されて
おりますが、当該リリースにおいては、
・
会社法第 296 条第 1 項は、株式会社の定時株主総会は、毎事業年度の終了後
一定の時期に招集しなければならないものと規定しているものの、事業年度
の終了後 3 か月以内に必ず定時株主総会を招集しなければならないものとさ
れているわけではないこと
・
今般の震災の影響により、当初予定した時期に定時株主総会を開催すること
ができない状況が生じている場合には、そのような状況が解消され、開催が
可能となった時点で定時株主総会を開催することとすればよいと考えられる
こと
・
定款に定められた基準日から 3 か月を経過した後に定時株主総会が開催され
る場合に、議決権行使の基準日を定めるためには、当該基準日の 2 週間前ま
でに、基準日公告を行う必要があること
・
定款に剰余金の配当の基準日を定めている場合に、その基準日株主に剰余金
の配当をするためには、当該基準日から 3 か月以内の日を効力発生日とする
剰余金の配当に係る決議をする必要があること
といった内容が記載されております。
(2) 上記①の点について
法務省リリースにもあるとおり、会社法上は、事業年度の終了後 3 か月以内に
定時株主総会を招集する義務はありませんが、多くの会社においては、定款にお
いて、事業年度の終了後 3 か月以内に定時株主総会を招集する旨の規定等が置か
- 76 -
れており、対象会社においても、これと同趣旨の「毎年 6 月に定時株主総会を開
く」旨の定めが置かれています(対象会社定款第 14 条)。そこで、今般、対象会社
において定時株主総会を延期し、6 月に開催しないこととすれば、形式的には当
該定款の規定に違反する状態になります。
しかしながら、当該規定に違反して開催した株主総会について決議取消事由が
あると解したところで、定款に定める期限よりもおくれて決議されたものを取り
消し、さらに、その後に開催される総会で改めて同事項について決議され直さな
ければならないという結論は明らかに不合理であると考えられるため、決議取消
事由との関係では当該定款違反の事実を考慮する必要はないものと考えられま
す。
したがいまして、定時総会の期日がいくら延びたとしても、現実的なリスクに
は乏しいものと思料致します。ただし、会計監査人の適正意見が表明されるこ
と、及び、対象会社において期末配当は行わないということ、の 2 点が前提条件
として充足されることが必要になります。
なお、対象会社の取締役の任期は 1 年であること(対象会社定款第 21 条)等か
らすると、あまりに定時総会の期日が延びてしまうことは望ましくないのではな
いかという考えもあろうかとは存じますが、これについては、対象会社の延期
(及びその延期の期間)の判断経緯や理由に合理性があるのであれば、必ずしも大
きな問題にはならないものと考えられます(仮に、任期が切れたとしても、従前
の取締役は、いわゆる「権利義務取締役」として、新たに選任された取締役が就任
するまで、なお取締役としての権利義務を有することになる(会社法第 346 条第
1 項)ため、いずれにせよ現実的なリスクは乏しいものと思料致します。)。
(3) 上記②の点について
本年 7 月以降に定時株主総会を開催する場合には、前記法務省のリリースにも
記載がありますとおり、対象会社において新たに基準日を設定し、当該基準日の
2 週間前までに、基準日公告を行う等の必要があります(新たに基準日を設定す
る場合には、設定から定時総会開催までには 2~3 か月程度は必要になろうかと
存じます。)。
そもそも、招集決定を行うことなく総会の時期を延期するという場合には、単
に招集決定を行わないという消極的な行為で足りるため、本来、法的には意思決
定は必要ない、ということになりますし、仮に、「延期する」旨の意思決定を行っ
たとしても、その意思決定によって総会が延期されるわけではなく、「招集する」
- 77 -
という意思決定を行わないという不作為だけが法的には意味があるということに
なります。
このような「延期する」旨の意思決定を行うことは、前記の不作為を経営陣の共
通認識のもとで行ったことを確認する点に意味があろうかと存じます。対象会社
の定款上、総会の招集権者は社長となっており、社長に事故があるときは予め取
締役会で定められた順序により他の取締役が行うこととなっていますが(対象会
社定款第 15 条)、招集を行わないことがこれらの者単独の行為ではないというこ
とを確認する意味を持つことになります。
なお、会社法上、定時株主総会の招集決定を取締役会で行う必要があることと
の関係上、当該不作為を確認する場合にも、取締役会決議で行うことが妥当であ
ると考えられます(この点、一度発せられた招集通知の撤回や、一度決定された
総会期日の延期を行う場合には、その意思決定は取締役会で行う必要があると解
されております。)。
以上に加え、定時総会期日が延期された場合には、各証券取引所の規定や各証
券取引所が出している方針等に従って、適時開示の要否についても検討する必要
があろうかと存じます。
(4) 上記③の点について
総会開催日をずらした場合、税法上の確定決算主義(法人税法第 74 条)や、金
融商品取引法上の有価証券報告書提出義務との関係が一応問題となりえます。
しかし、上場会社等の会計監査人設置会社である場合には、取締役会決議を
もって決算を確定することができますので、仮に申告期限が伸長されなかったと
しても、株主総会の開催が申告の前提とはなりません。また、有価証券報告書に
添付すべき計算書類及び事業報告については、「有価証券報告書を定時株主総会
前に提出する場合には、定時株主総会に報告しようとするもの」(開示府令第 17
条第 1 項第 1 号ロかっこ書)と規定されており、こちらも総会の開催が必須の前
提とはされていません。
したがって、これらについては、結局は総会開催日の問題ではなく、会計監査
人の無限定適正意見が表明されるか否かの問題に帰着するものと考えられます。
ところで、対象会社は剰余金の配当の基準日を 3 月 31 日に設定している(対象
会社定款第 13 条、第 39 条参照)ところ、前記法務省リリースにもありますとお
り、定款に剰余金の配当の基準日を定めている場合に、その基準日株主に剰余金
- 78 -
の配当をするためには、当該基準日から 3 か月以内の日を効力発生日とする剰余
金の配当に係る決議をする必要があります(会社法第 124 条第 2 項参照)。
前記のとおり、7 月以降に対象会社の定時総会を開催しようとする場合には、
基準日を 4 月以降に改めて設定し直す他ないことになりますが、仮に、対象会社
が無配とせずに配当金を出すことを想定されているのだとしますと、配当との関
係では、例年とおりに定時総会が開催されたとした場合の基準日(3 月 31 日)の
株主の配当に対する期待権の保護をどの程度考慮するかという問題が惹起される
ことになります(なお、前提として、前記のとおり、定時株主総会を延期し、6
月中に開催しないこととすれば、形式的には定款違反を惹起するものの、当該定
款違反の事実が決議取消事由になるか否か、という点との関係ではさほど大きな
問題ではないと考えられます。)。
この株主の「期待権」については、株主総会で可決されるまではあくまで抽象的
なものに過ぎず保護に値しないという考え方も有り得るところかとは存じます
が、一般的に、配当議案については、株主総会が開催されれば可決されるのが通
常であることからすれば、株主総会が延期された場合における従前の基準日株主
に何ら保護すべき期待権がないと考えることは、若干乱暴な整理と捉えられる可
能性も完全には否定できません。
結局、この問題については、当該期待権に優先する程度の、株主総会を延期せ
ざるを得ない合理的な物理的理由(例えば、物理的に総会の準備ができない、等)
又は法的理由(例えば、配当の基礎となるような決算が組めない、等)が存在する
か否かという点に収れんされるものと考えられることから、対象会社が定時株主
総会の延期を決断するに至った経緯、判断過程及び判断内容の合理性が重要にな
るものと考えられます。
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17. 監査意見不表明の場合に想定される事態について
仮に、機構法案が通常国会で成立しない場合、株主総会時の金商法上の監査意見が
「意見不表明」とされるおそれも考えられますが、意見不表明になると、会社法その他
の法令に関して、どのような事態が想定されるのかにつき、以下に検討結果をご報告
申し上げます。
まず、監査意見不表明となった場合には、有価証券報告書が提出できず、その影響
が重大であると金融商品取引所が認めたときは、上場廃止基準に該当することとなり
ます(例えば、東京証券取引所有価証券上場規程第 601 条第 1 項第 10 号・第 11 号
等)。
(なお、有価証券報告書の提出期限については、今般の震災の影響による場合に
は、本来の提出期限である 6 月末を、9 月末までに伸長されること等は以前にご報告
申し上げましたとおりとなります。なお、上場廃止基準についても、東京証券取引所
より、震災の影響による有価証券報告書の遅延及び意見不表明を受けた場合の上場廃
止基準の適用について、上場廃止にならないよう取り扱う旨が公表されております。
http://www.tse.or.jp/news/07/110318_e.html)
また、監査意見不表明の場合には、株主総会の承認を経なければ計算書類を確定す
ることができません。
なお、監査意見不表明となる主たる原因は損害額の見積り等が合理的に行えないこ
とにあるものと思料されますが、この点は税務申告にも影響することも予想されま
す。もっとも、税務申告につきましても今般の震災等により決算が確定しない場合に
おける申告期限の伸長が認められているところです。
以上のとおり、今般の震災の影響による監査意見不表明については、(問題となり
得る法規制等について一定の措置が講じられておりますが)対象会社の特殊性に鑑
み、対象会社についてこれらの措置の要件に該当するか(対象会社もこれらの適用対
象と認められるか)否かについては、別途証券取引所等にご確認頂いた方が良いよう
に思われます。
なお、平成 22 年度決算に伴い、会社法上では意見が表明されたが、その後、法案
が成立しないことが株主総会の直前にわかり、金商法上、不表明としたような場合に
つきましては、東京証券取引所を例にとれば、
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「3. 意見不表明を受けた場合の上場廃止基準の適用について」
との表記の下、「本震災により、上場会社の財務諸表又は四半期財務諸表等に添付さ
れる監査報告書又は四半期レビュー報告書において意見不表明等が記載されることと
なった場合、監理銘柄指定及び上場廃止の対象とはなりません 。またその旨の開示
も必要ありません。」
とされているのみであり、総会で決算決議が通った後で監査報告書が撤回されたよう
な場合について明示的な言及もなければ、解釈のヒントとなるところもございません
(素直に読めば、予定しているのは、総会に決算書類があげられた際にも監査法人の
意見がなかった場合であるとは思われますが、それ以上のことは文言からは読み取り
がたいように思われます。)。
東京証券取引所としても、このような事態はそもそも想定すらしていない事実パ
ターンとなるのではないかとも想像されます。
従いまして、東京証券取引所(及び他の上場先取引所)がどのような判断を下すかに
ついては、各取引所との折衝を経る必要があるかと存じます。
以
- 81 -
上
別紙 1
東日本大震災に際しての
原子力損害賠償法の適用における視座
東日本大震災特有の問題点
• 異なる原因の重複・複合的関係
– 大地震
– 大津波
– 原子力の作用
これらの原因が隣接地に各々生じてい
るだけでなく、時には重なり合っている。
• 場所的時間的な拡大
– 損害が発生中であり、かつ、範囲も拡大中。
• 場所的近接性
– 同一地、または隣接地に、異なる原因による損害が
生じていることから、差異が顕在化しやすい。
異なる原因の重複・複合的関係について
地震・津波による損害と原子力による損害が
存在し、時には両者が重なり合っている。
・土地の流出・変形等又は家屋の倒壊等による使用不能と放射能による使用不能
・土地・機械設備の損壊による営業不能(農作物等を含む)と放射能による問題
・津波による港湾設備等の使用不能と放射能に起因する漁業への影響
・地震・津波等による家屋使用不能と放射能に起因する避難命令
あるべき賠償、補償及び救済の体系はどの
ように整理されるべきか。
場所的時間的拡大について
損害の長期化(避難の長期化等)
被災者の行動に差が出てくる。
自助努力により生活を立て直す。
避難所生活を継続。
自助努力による損害の軽減。
損害の継続的発生。
損害額小
損害額大
あるべき賠償額とは?
原子力損害賠償法と他法令の関係
損害の賠償
※一部、行政機関による救済
原子力損害賠償法 を含む。
原子力損害賠償法の適用
がある場合には、民法709
条や国家賠償法等に基づく
責任追及はできない。
民法上の不法行為責任
(一般不法行為責任、工作物責任等)
国家賠償法に基づく責任
製造物責任法に基づく責任
行政機関による救済
原子力災害対策特別措置法
災害対策基本法
・原子力災害対策特別措置法は、災害対策基本法等を踏ま
え、原子力災害に対する対策強化を図った法律。
・地方自治体が地域防災計画の実施に責任を負う(たとえば、
福島県地域防災計画においては、地方自治体が避難の際の
車両手配、避難所設置を行うこととされている)。
災害救助法
・一定数以上の世帯の住家滅失、災害発生地の多数の住人等
が避難して継続的に救助を必要とする場合等に適用有り。
・都道府県知事が救助を行う。仮設住宅の供与、食品の供与
等。金銭支給もあり得る。
被災者生活再建支援法
・自然災害により住宅が全半壊したり長期間居住不能となるな
どの被害を受けた者が対象(地震・津波は含まれるが、原発事
故自体は含まれない。) 。住宅建築、賃借等の支援金を支給。
なお、労災保険法と原子力損害賠償法との
関係も問題となり得る。
・都道府県が資金を拠出し、被災者生活再建支援法人((財)都
道府県会館)が支給事務を行う。
原子力災害対策特別措置法の概要
原子力災害の特殊性にかんがみ、原子炉等規制法、災害対策基本法
等を補完し、原子力災害に対する対策強化を図った法律。
主な内容
① 迅速な初期動作の確保
原子力災害対策特別本部の設置(16条)等
②
③
国と地方公共団体との有機的な連携の確保
国の緊急時対応体制の強化
原子力災害対策本部長の指示権限(20条3項)、自衛隊派遣の要請権限(20条4項)等
④
原子力事業者の責務の強化
本件では、同法20条3項に基づき、原乳や野菜の一部の出荷制限や
摂取制限、住民の避難指示がなされている。
「損害」による分類と各種法令の適用関係
原子力損害
原子力損害以外の
損害
賠償の法的根拠
行政機関による救済の法的
根拠
原子力損害賠償法
原子力災害対策特別措置法
災害対策基本法
災害救助法
民法、国家賠償法等
災害対策基本法
災害救助法
被災者生活再建支援法
震災に基づく、または関連して生じた「損害」全体の賠償
と救済の整理が必要。
行政機関による救済と損害賠償の関係
被災者生活再生支援法に基づき、家賃等の支援金を受け取った。
損害賠償を受けるに際して、賠償額は減額されるのか?
勤務中、被爆し、労災保険に基づき、保険金を受け取った。
損害賠償を受けるに際して、賠償額は減額されるのか?
賠償の公平性
原子力損害を被った者
原子力損害以外の損害を被った者
原子力損害賠償法による賠償
民法や国家賠償法等によって賠
償を求めることは可能か?
原子力災害対策特別措置法及び災害対
策基本法による地方自治体の措置(避
難用車両の手配、避難所の設置等)。
災害対策基本法による地方自治体の措置
(避難用車両の手配、避難所の設置等)。
災害救助法により仮設住宅の供与、食
品、被服、生活必需品、学用品の供与、
金銭の支給を受ける場合がある。
災害救助法により仮設住宅の供与、食品、
被服、生活必需品、学用品の供与、金銭の
支給を受ける場合がある。
被災者生活再建支援法により、住宅が全半
壊したり、長期間居住不能となるなどの被
害を受けた者は、住宅建築、賃借等の支援
金の支給を受ける場合がある。
賠償の公平性
津波
原発事故
A
避難
Aは原発事故の有無にかか
わらず、避難生活を強いられ
ていた。
避難
B
Aが避難生活を強いられることによる損害は原子力損害ではないとして、原子力損害賠償
法による賠償の対象外とすることは妥当なのか?
避難指示
第1原発
第2原発
放射能漏出有り
放射能漏出なし
避難
避難
原子力損害なので原子力損害賠償法により
賠償を受ける。
原子力損害ではないので民法や国家賠償法
による賠償を求めざるを得ないのか?
同じく政府の避難指示に従って避難したにもかかわらず、結論が異なるのは妥当か?
原子力損害賠償法の基本構造
原子炉の運転等
原子炉の運転、核燃料物質の加工、再処理、核燃料物
質の使用、使用済み燃料の貯蔵、核燃料物質等の廃棄。
事故処理自体も含まれるか?
により
原子力損害が発生
損害を賠償
相当因果関係が必要
①核燃料物質の原子核分裂の過程の作用により生じた損害
②核燃料物質等の放射線の作用により生じた損害
③核燃料物質等の毒性的作用により生じた損害
無過失責任
原子力事業者に限って賠償責任を負う。
責任は無制限であるが、損害賠償措置額を超える部分については、
国が必要な援助を行う。
原賠法により賠償の対象となる損害について
原子炉の運転等と相当因果関係の認められる損害が賠償の対象となる。
相当因果関係とは、条件関係(あれなければこれなし)がある損害のうち、
相当と認められる範囲の損害に限定する考え方。
<不法行為の要件※1>
※2
故意又は過失
権利侵害
因果関係
損害の発生
※1 国家賠償法1条も不法
行為と同じ枠組み
※2 原賠法3条1項では
故意・過失の要件は不要
①条件関係(最低限の要件:広く捉えられやすい)
「あれなければ、これなし」の関係
が認められること
②相当性(これにより「相当因果関係」あるものに限定)
相当と認められる範囲の損害に限
定する機能を有する要件
(a) 因果関係の中断
自然力・第三者・被害者自身の行為が介在し
た場合、相当性が欠けるとされることがある
(b) 予見可能性
予見不可能なものは相当性に欠けるとされる
相当因果関係に関する典型判例
【認められたケース 】〔最判昭49・4・25民集28-3-447〕
交通事故により被害者に重症を負わせたところ、ウィーンに留学していた被
害者の娘が、被害者の看病のために帰国したことにより生じた旅費
被害者が
重症
交通事故
○
留学中の
娘が帰国
○
【認められなかったケース】〔東京地判昭38・10・14判タ154-124〕
交通事故により被害者を負傷させたところ、被害者が、医者の指示もないの
に温泉に療養に出かけたことにより生じた旅費
被害者が
負傷
交通事故
○
温泉療養
×
相当性が疑われる類型
1 因果関係が不明の場合
→津波か原発のどちらかが原因で、畑が使用不可能にな
ったものの、どちらが原因かまでは特定できなかった
→【立証不十分のため原発に因果関係なし?】
2 自然力と競合した場合
※100%で結果発生
→津波(50%)+原発(50%)・・・原発に条件関係あり
津波(100%)+原発
・・・【条件関係なし?】
3 第三者の行為が介在した場合
→原発から避難したところ、避難中の自宅に泥棒が入った
→【原発事故と盗難被害の相当因果関係なし?】
参考判例①
相当因果関係を肯定
相当因果関係を否定
敦賀原発風評被害訴訟 〔名古屋高裁金沢支判平成1・5・17判時1322-99〕
左記事実関係の下、当該海域産ではな
い魚(隣県の金沢産の魚)の売上げが減
少したことについては、事故を境に安全
であっても魚を食べたくなくなったという
心情は、一般性はなく、極めて主観的・個
別的心理であるとして、そのための魚の
買い控えによる魚介類仲買い業者の損
害と事故との因果関係を否定した事例。
被告電力会社が、過失によって放射性物
質を海に漏出させた事故が報道されたこ
とにより、当該海域産の魚の売上げが減
少した場合は、当該海域産の魚介類から
放射能がほぼ検出されず安全上の問題
は全くなかったとの事情があっても、事故
と魚介類仲買い業者の損害との間に一
定限度で相当因果関係を肯定した事例。
医学的知見によっても因果関係が不明な場合
〔最判昭44・2・6民集23-2-195〕
水虫の治療方法たるレントゲン線の照射
部分に発生した皮膚癌につき、癌の発生
原因が現在の医学ではまだ十分に解明
されていないものの、レントゲン線照射と
皮膚癌の間の統計的な因果関係と、癌
が照射部分についてのみ発生したとの事
実から相当因果関係を肯定した事例。
〔札幌高裁平9.10.31訟月44-9-1641〕
坑内作業に従事し、じん肺にり患した労
働者の肺がんによる死亡につき、現時点
でじん肺と肺がんとの間の因果関係を肯
定する医学的知見が確立しているとは認
め難く、坑内作業に従事したことと肺がん
による死亡との相当因果関係を否定した
事例。
参考判例②
相当因果関係を肯定
相当因果関係を否定
被害者の行為との競合①(交通事故後の自殺)
〔最判平5・9・9判時1477-42〕
〔大阪地判昭和47・12・15判タ298-413〕
被害者が交通事故にあって負傷した事案にお
いて、当時、被害者の夫が入院中で生活への
不安が強かったこと等から心労が重なり、抑う
つ状態・躁うつ状態になって自殺を図った点に
つき、本件事故によって通常生ずるべき事態と
はいえないとして、交通事故と自殺との間の相
当因果関係を否定した事例。
交通事故にあって負傷した被害者が、負傷に
よって災害神経症及びうつ病になり自殺した場
合において、事故の態様が加害者の一方的過
失によるものであって、被害者に大きな精神的
衝撃を与えたことや、補償交渉が円滑に進行し
なかったことを考慮し、交通事故と最終的な自
殺との間の相当因果関係を肯定した事例。
被害者の行為との競合②(逃走行為中の死傷)
〔東京地判昭51・7・15判時836-85〕
公道で通行人の飼い犬に吠えられ襲われた10
歳の女児が、逃げようとして道路に飛び出した
ところをトラックに跳ねられて死亡した場合にお
いて、飼い犬に襲いかかられて極度に驚愕した
状態で道路上に飛び降りた者が交通事故に遭
遇することも、犬の飼い主にとって通常予測し
得ないとは言えないとして、女児の死亡の結果
につき相当因果関係を肯定した事例。
〔東京高判昭50・10・27判時819-48 〕
農家に化粧品のセールスに来た者が、牛小屋
から庭へ逃げ出した乳牛を見て、襲われたと思
い込み、牛小屋の裏まで逃げ、さらにその背後
にある幅80センチメートルの石垣の上を走って
逃げようとして転落し重症を負った場合におい
て、周囲の位置関係を考慮すると石垣の上を
走ってまで逃走する合理的理由を見出し難いと
して因果関係を否定した事例。
参考判例③
相当因果関係を肯定
相当因果関係を否定
第三者の行為との競合①(二重の事故)
〔名地判平4・9・7判タ811-42〕
頸椎等の疾患のある女性が2度の交通
事故により脊髄損傷の傷害を負った事案
で、第1事故によって脊髄本体と神経紺
が損傷し、第2事故によって第四脊髄神
経説以下の脊髄が損傷したとして、第1・
第2事故と損害との間の相当因果関係を
肯定した事例。
〔最判昭50・5・30交民集8-3-639 〕
第1事故で9級の後遺障害認定を受けた
被害者が、第2事故で7級に認定された事
案で、第1事故による障害は既に治癒し
ていたと認定して、その労働能力の減少
について第1事故の加害者は責任を負わ
ないとされた事例。
第三者の行為との競合②(医療事件)
〔東京地判昭51・6・21判時843-63〕
交通事故で右足を骨折した被害者が、骨
折した傷口から破傷風に感染し、事故か
ら約3週間経過後に死亡した場合におい
て、破傷風による死亡の結果が医師の
重大な過失に起因する等の加害者に責
任を負担させることを不相当とする特段
の事情が認められないとして、相当因果
関係を肯定した事例。
〔京都地判昭48・1・26判時711-120〕
交通事故で右頭頂骨陥没骨折等の傷害
を負った被害者が、適切な治療が行われ
れば死亡の結果が生じなかったにも関わ
らず、担当医が単なるむち打ち症と誤診
したことにより適切な治療がなされず、そ
の結果、脳出血で死亡したことにつき、相
当因果関係を否定した事例。
参考判例④
相当因果関係を肯定
相当因果関係を否定
直接的被害者と間接的被害者
〔最判昭54・3・30民集33-2-303〕
妻及び未成年の子のある男性が他の女
性と肉体関係を持ち、妻子のもとを去っ
て右女性と同棲するに至った場合、右女
性は、妻に対して損害賠償責任を負う余
地があるとした事例(破棄差戻し)。
〔最判昭54・3・30民集33-2-303〕
左記事実関係の下、「父親がその未青年
の子に対して愛情を注ぎ、看護、教育を
行うことは、他の女性と同棲するかどうか
にかかわりなく、父親自らの意思によって
行うことができる」ことから、特段の事情
のない限り、加害者である女性は未成年
の子に対して損害賠償責任を負わないと
した事例。
交通事故と因果関係の立証
〔東京地判平14・10・8交民集8-1221 〕
交通事故により外傷性頸部症候群等の傷害を
負った被害者が、医師の指示に基づかずに病
院と並行して160日通院した整骨院の施術代に
つき、整骨院での施術も被害者の症状を緩解
させる効果があり、施術料も社会的に妥当な範
囲を逸脱していないことから、相当因果関係を
一部肯定した事例。
〔名古屋判平47・5・31判タ283-306 〕
交通事故で顔面挫創等の軽傷を負い10
日間入院した被害者が、退院から1週間
後に脳卒中で死亡したことにつき、脳卒
中を引き起こした原因が交通事故か被害
者の動脈硬化のどちらかを確定すること
ができないとして、相当因果関係を否定
した事例。
参考判例⑤
相当因果関係を肯定
相当因果関係を否定
(参照)自然力との競合・・・因果関係ではなくもっぱら不可抗力の問題
〔名高判昭48・3・30判時700-3〕
国道上に停車中のバスが、集中豪雨に伴う土
砂崩れに巻き込まれて飛騨川に転落し、乗客
が死亡した場合において、当該集中豪雨及び
土砂崩れの発生の危険が蓋然的に認められる
場合であれば、これを通常予測し得るものとい
って妨げないとして、道路の設置・管理上の瑕
疵と事故との相当因果関係を肯定した事例。
(参照)疫学的因果関係を肯定した事例
〔津地四日市支判昭47・7・24判時672-100〕
特定の地域の大気汚染と、当該地域に
おける閉塞性肺疾患の増加との関係に
ついて、大気汚染の閉塞性肺疾患の疫
学的な因果関係を考慮して相当因果関
係を肯定した事例。
〔名地判昭48・3・30判時700-3〕
左記事実関係の下、事故発生の原因の
うち不可抗力と目すべき原因が寄与して
いる部分は賠償の範囲から除外されると
した事例。
相当因果関係について、東日本大震災における特有の論点がある
例えば・・・
(1)避難費用
JCO基準:屋内避難勧告圏内の居住者の現実の宿泊費等(合理的・平均的な範囲内)
・福島第一原発から30.1kmの地点に居住する者が自主的に退避した場合
→ その費用は賠償されるべきか、賠償されるべきではないのか。
・より不便な無料の避難所生活を送った人と、有料のホテルに滞在した人
→ 避難費用の損害賠償として不均衡が生じないようにするための方策は?
(2)検査費用
JCO基準:茨城県(事故現場と同一の都道府県)に存在し、検査が必要かつ合理的
・西日本の業者が、物品輸出にあたり外国当局から放射能検査を要求された場合
→ 検査費用は損害賠償の対象とすべきか、対象とするべきではないのか
(3)原発事故の終息前である点
JCO基準:臨界状態の終息後、被害が確定した後に示された基準
・現段階で、福島第一原発における事故は終息しておらず、終息も目処もたたない
→ 被害が確定していない段階で損害賠償できるのか、賠償の合理的な範囲は?
(4)畑が、津波に襲われ作付けができなくなったが、かんがい施設も被災し一部損壊
していて、作付け不能の原因が、塩害か、放射能か、地震か分からない。
・原子力損害であるのかも不明、さらに、原子力損害が少なくとも一部にはあるとして、
どの部分が原子力損害か、因果関係も絡み、原子力損害としての賠償の範囲の認
定が問題に。
公権力の指示について
政府による指示等が介在する場合に、「損害」
との間に相当因果関係が認められるとして、
当該指示等に基づく「損害」の賠償、補償又は
救済は、各々いかなる法令に基づくべきか?
その他
• 事実認定の問題として、被災者に対して、ど
の程度の立証を求めるのか?
• 大量の請求を処理することにかんがみると、
ある程度立証を定式化する必要はないか。
• どの程度個別具体的事情に踏み込んだ判断
をするのか。
• ある程度画一的な判断をするとしても、そもそ
も、損害賠償に画一的処理はなじむのか。
別紙 2
東京電力(株)が避難等世帯に支
払う仮払補償金の性格について
注) 「仮払補償金」という用語は平成23年4月15日付の
東京電力(株)のプレスリリースから引用したものである。
問題の所在
東京電力(株)は、平成23年4月15日のプレスリリースにおいて、避難ないし屋内退避が指示された地域等の住民に対して、1世
帯あたり100万円(単身世帯は75万円)の「仮払補償金」を支払う旨明らかにしたが、「仮払補償金」の法的性格が明らかでない。
今後、支払の実施に際して、法的性格を明らかにした上で、当該法的性格に即した説明や(支払対象者に交付する文書等の)文
書等を用意する必要がある。
避難世帯住民に対する損害賠償金
としての性格を有するのか?
No
Yes
①損害額は未だ確定しておらず、あくまで仮に支払うもの(損害
賠償金に充当されるのは後のことになる)なのか、②少なくとも
1世帯あたり100万円以上(単身世帯は75万円以上)の損害が
発生したことは確定していることから、損害賠償金の一部を支
払うもの(支払いの時点で損害賠償金に充当される)なのか。
損害額未確定
いわゆる
仮渡金
いわゆる
見舞金
損害額100万円
以上確定
損害の一部についての
確定払い
注) 「仮渡金」、「確定払い」、「見舞金」
といった用語は、あくまで整理の便宜の
ため用いている言葉であり、法令用語と
して用いているわけではない。
いわゆる仮渡金であるとして、その詳細な法的構成については、金銭消費貸借であると説明したり、自動車損害賠償保障法17条に類
似した仮渡金であると説明する方法などが考えられるが、いずれの法的構成によっても本質的な差異はなく、議論の実益は乏しい。
メリット及びデメリットの比較
いわゆる
仮渡金
損害の一部確定払い
いわゆる
見舞金
メリット
・あくまで仮の支払いであることから、紛争審査会が
賠償方針を決めるに当たって足かせとなりにくい。
・支払いの対象となる損害を直ちに特定する必要がな
い。(支払に際して、具体的な原因事実の解明は勿論、
その類型化も直ちに行う必要がないこととなる。)
・紛争審査会の検討に応じて柔軟な整理が可能。
・放射能漏れ以外の原因(地震・津波)により避難した
人が支払いの対象に含まれている可能性があること
についても、一応は説明可能(とりあえず支払いをす
るものの原子力損害が0であると判明した世帯には
全額の返還を求めることが理論上可能であるため。)。
メリット
・避難等世帯住民の認識と最も整合する。
・避難等世帯の損害額が最低でも100万円(または
75万円)であると宣言(自認)するに等しいため、差
額返還等の問題は理論上生じない。
メリット
・損害賠償金ではないと整理する(=責任の自認も
伴わない)ことから紛争審査会の議論を拘束するも
のとはならない。
・損害賠償額についての議論を先送りにすることが
可能。
・放射能漏れ以外の原因(地震・津波)により避難
した人への支払いも可能。
・金額の根拠について厳密な整理が不要。
デメリット
・理論的には、最終的に100万円に満たない損害しか
認定されなかった場合、差額返還の問題が生じる(避
難等世帯住民の認識とズレがあると思われる。)。
・上記に関連して対外的説明には慎重さが求められ
る。
デメリット
・放射能漏れ以外の原因(地震・津波)により避難
した人が支払いの対象に含まれている可能性にか
んがみると、合理的説明が困難たり得る。
・避難等世帯の損害額が最低でも100万円(または
75万円)であると宣言(自認)するに等しく、紛争審
査会の議論を縛ることになりかねない。世帯単位
であることの説明が困難であることも問題となり易
い。
・避難や屋内退避の程度も様々であることにかん
がみれば、明らかに「もらいすぎ」の事例が発生す
るおそれがある。
・(JCO基準のように解することを前提とするなら
ば)原子力損害を被ったのは避難等世帯住民だけ
でないことにかんがみると不公平感が生じかねな
い。
・支払いの対象となる損害を直ちに整理する必要
がある(もっとも、次スライド記載のとおり、整理に
は困難が伴う。)。
・非課税根拠が確保できない可能性が高まる。
デメリット
・必ずしも原子力損害の発生を論理的前提とする
ものではないが故に、将来、原子力事業者全般が、
軽微な事故でも見舞金の支払いを要求されること
になりかねない。
・東京電力(株)がプレスリリースにおいて「損害へ
の充当を前提に」支払う旨明らかにしていることと
矛盾するほか、これまでの政府関係者の言動とも
矛盾しかねない。
・損害額の縮減につながらず、また、将来的にも損
害賠償額への充当はできない。
・避難等世帯以外には支払わず、避難等世帯だけ
にいわゆる見舞金を支払うことに特段の根拠もなく
不公平感が生じ易い。
・損害の程度に関わりなく、避難ないし屋内退避す
れば1世帯あたり100万円を受け取るとの前例を作
ることとなる。
なお、法的権利があったとしても、返還を求めることは
いずれにせよ事実上不可能であって、(将来における
返還請求の可能性等に)現時点で言及することがで
きないとすれば、損害の一部確定払いとほぼ同様の
デメリットがあることになる。
損害の一部の確定払いとした場合における、損害の中身の整理について
•
精神的損害とした場合
→原子力損害概念等の著しい拡大につながる(特に福島第二原発)。損害が際限なく広がるおそれ有り。
世帯ごとに一律支払いとすることと整合しない。
•
避難費用とした場合
→法的に(原子力ではなく)地震や津波が原因と評価されるべき退避住民に対しても支払うことについて合理的説明が困難。原子力損害概念等の
著しい拡大につながる(特に福島第二原発)。
地方自治体の費用で避難している住民と自費で避難している住民を同等に取り扱うことの合理的説明も困難。
→処理の長期化に伴う避難・移転の長期化による機会損失や避難生活期間に必要となった超過生活費用(身の回りのもの等の購入費等)の概算
払いを含めるか?
•
人的損害とした場合
→放射能の影響が人体に及んでいると評価することには様々な波及、波状効果あり(例えば、明らかな疾病や損傷等がないままに放射能の被爆の
事実のみをもって身体的損害ありとするならば、被害者は際限なく拡大することになる等、原子力損害が認定される範囲の著しい拡大を伴う等)。
•
財物の損害とした場合
→地震や津波による被害について支払うことになりかねず合理的説明が困難。
•
検診・検査費用とした場合
→政府等の費用負担との関係が問題となる上、100万円は高額にすぎる。
•
休業損害とした場合
→世帯ごとに一律支払いとすることと整合しない。
•
営業損害とした場合
→世帯ごとに一律支払いとすることと整合しない。
根拠を明らかにしない場合 (いわゆる包括請求方式の応用によるか? )
→支払いが際限なく拡大するおそれ有り。
また、東京電力(株)は、政府から指示されたので仕方なく支払っているとの印象を与える。
一つの根拠で世帯一律支給を合理的に説明するのは困難?
(いずれの法律構成としても同様であるが、いずれにせよ、
今事例固有・特有の損害との説明の途を模索せざるを得ないか)
別紙 3
「避難費用」に関する賠償の公平性を
検討するための類型分析
注:
実際にどのような事実関係の下で避難している人がいるか、といった具体的事実関係が把握できな
いままに、報道等で一般に知り得るところを踏まえつつ、想像により事実のパターンを想定しているに
過ぎない。現実の個別具体的な事実関係は、更に複雑多様であるはずであり、あくまでも参考として
想定されやすい事実パターンを想起しつつ分析しているに留まることに注意されたい。
注:
避難から派生し又は避難と関連するものであっても、他の損害等についてはここでは分析対象として
いない。
1
避難費用の賠償に関する検討順序
1. 「原子力損害」 ※
原子力の作用によって、被害者の財産状態が悪化したといえるか?
※便宜上、原賠法2条2項に定義されている「核燃料物質の原子核分
裂の過程の作用、核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性作用を
総称して「原子力の作用」と呼ぶ。
2. 「条件関係」
「あれなければこれなし」といえるか?
3. 「相当因果関係の相当性」
① 避難・屋内退避区域内か? → JCO基準では区域内のみ
↓
② 区域外でも、避難するのがもっともといえるような理由はあるか?
ex. 原発からの距離、風向きその他の事実の経緯、放射線量等を考慮
↓
③ 理由があるとして、合理的・平均的な額の支出であったか?
ex. 不必要に高額なホテルに宿泊する等
2
損害
▽ 損害とは、不法行為がなかったときの財産状態と不法行為があったとき
の財産状態との差額をいう(差額説)。
▽ 原発事故の前後で、避難者の財産状態がどのように変化したかにつき、
個別の損害項目を合算することで損害の額が算定される。
▽ もっとも、差額の算定にあたり画一的な処理が禁止されるものではない。
損害の有無が問題となる事例①
原発付近
東京
原発事故
以前より
こちらで生活
住民票が
あるだけ
財産状態に変化なし →損害なし?
cf. 住民票を提示された場合の賠償手続は?
→また、避難指示に従わずに、残っている人については(別途検討される身体損害等を除き、
避難そのものについての)損害はあるのか?ライフラインがないままに不便な生活を強いら
れていることについての損害は別項目として考慮?
→では、一ヶ月の半分は東京に居住、半分は原発付近に居住という人(世帯)については?
3
損害
損害の有無が問題となる事例②
被災地から避難するにあたって・・・
避難場所
被災地
(a) 自治体のバスで避難(無償)
→ 損害なし?
(a) 避難所に滞在(無償)
→ 損害なし? → 避難所に滞在することの精神的
損害を別枠(別項目)として考慮?
(b) マイカーで避難(ガソリン代等)
→ 損害あり? → 友人の車だったら? 損害あり?
(b) ホテルに滞在(宿泊費等)
→ 損害あり? → もともと予定されていた旅行
だったら? 精神的損害は?
カープールは?
たまたま滞在先から帰宅できなくなって・・・
被災地
滞在先
(a) 親戚宅に滞在(無償)
→損害なし? → 友人宅であったら?超過食費は?
(b) ホテルに滞在(宿泊費等)
→損害あり? → もともと予定されていた旅行
だったら? 精神的損害は?
4
条件関係
▽ 条件関係とは、「あれなければこれなし」と評価できるだけの原因・結果
の関係(事実的な繋がり)をいう。
▽ 原因となる行為と損害との間の条件関係が加害者の責任を基礎づける。
▽ 本件では、「原子炉の運転等がなければ、損害は発生しなかった」とい
えるかどうかで条件関係の有無が判断される。
原子炉の運転等
損 害
条件関係が問題となる事例
¾ 津波で自宅が倒壊した被災者が自主避難
→「原発の操業がなくとも、避難したのでは?」 →条件関係なし?
¾ 大震災以前から避難区域外に転居が決定していた
→「原発の操業がなくとも、転居したのでは?」 →条件関係なし?
注:不動産の損害は別問題
¾ (参考)畑の作付けができなくなった原因が、塩害か、放射能か、地震か不明
→「原発の操業がなくとも、塩害又は地震に伴い作付け不能では?」
→条件関係なし?
5
相当性
▽ 相当因果関係の相当性とは、条件関係がある損害のうち、相当と認め
られる範囲の損害に限定する要件である。
▽ 本件では、 「原発の操業がなければ、発生しなかった損害」のうち、
どこまで賠償の範囲に含めるのが相当かという観点から、
相当性の有無が判断される。
相当性が問題となる事例
¾ 避難区域・屋内退避区域内の者が避難
→ 相当性あり?
cf. JCO基準では相当性あり
¾ 避難区域・屋内退避区域外の者が避難
→ 原発からの距離が30.1kmの場合は? cf. JCO基準では相当性なし
→ 区域外だが(風向き等の関係により)放射性物質が特に多く飛散した地域でも、相当性なし?
¾ 水道水の放射線濃度が乳幼児の摂取制限を越えたため、避難区域・屋内退避区域外から母子
ともに避難 → 相当性あり?
¾ 避難指示に従って一度避難したものの、避難区域内に再び戻ってきてしまった者
→ 相当性あり?
¾ 計画停電を避けるため避難区域・屋内退避区域外の入院患者が避難
→ 原子力損害ではなく地震・津波による損害であって相当性なし?
そもそも計画停電そのものは別途の根拠に基づき適法に行われるものであるため、
因果関係が遮断される?
6
相当性について検討する際の留意事項
相当性の判断は、現実問題としては、最終的な結論の妥当性(類似事例との対比を含めた総合的なバラン
スを含む)を見据えた価値判断により多分に左右される要件であり、本件についても様々な判断があり得る。
行政当局の指示の有無を分水嶺にする考え方
本件のような原子力災害が発生した場合、法は行政当局が原子力緊急事態宣言を行い、適宜必要な指示を行うことを予定していることから、これらの指示に
基づいて避難することは通常生じ得る事態であるが、指示されていない者が避難をすることは原則として法は予定していないと整理する。
メリット
・因果関係の有無が明確に線引きできる。
・農漁業への被害についても、同様の発想を適用でき、統一感のある解決が
可能?
デメリット
・形式的・画一的に過ぎるか。
・現実の放射線量は必ずしも距離に正比例しているわけではないこと等に鑑
みると、指示の範囲外でも特段の事情が存在すれば認めざるを得ないか?
もっとも特段の事情についてどのような事情を考慮するかは問題。
身体に対する実際の危険性を分水嶺にする考え方
身体に対する実際の危険性が存在する場合に避難することは合理的行動であり、当然想定されるべきことである整理する。 ←避難区域・屋内退避区域によ
る線引きに合理性は見出すことが困難たり得る。
メリット
・形式的処理に陥るおそれが少ない。
デメリット
・身体に対する実際の危険性が存在する範囲を客観的に特定することは極め
て困難。
・客観的危険性判断が困難であり、長時間経過後に影響等が判明する場合
が多いというのも放射能の特徴であることに鑑みれば、不安感を基準にすべ
きとの批判あり得る。
地域住民の抱く合理的な不安感を分水嶺にする考え方
本件のごとき深刻な原子力事故においては、住民が不安感を抱き避難行動に出ることはやむを得ないと整理。←避難区域・屋内退避区域による線引きに合
理性は見出されがたいことになる。
メリット
・極めて柔軟な救済が可能。
・住民感情には最も合致した解決方法とも思われる。
デメリット
・賠償範囲及び賠償額のいずれも爆発的に拡大し得る。
・風評被害への賠償を検討するに際しても影響を与える。
7
別紙 4
原子力損害賠償紛争審査会策定の指針と裁
判所の仮処分の判断との関係の整理
1
実際の事例
• 東京電力に対して、福島県双葉町の会社社長が、「福島第
一原発の事故で避難指示を受け、事業の休止に追い込まれ
た」などとして、損害賠償金計4440万円の仮払いを求める
仮処分を東京地裁に申し立てたことが報道により明らかに
なっている(以下、報道ベースの情報)。
• 同申立ては、同原発から約2キロの工業団地で年商約4億
円、従業員18人の鋼構造物工事会社を経営していた男性
(34)によるもの
• 同男性は、大震災当日に同原発から半径3キロ圏内の住民
に避難指示が出たため、会社に立ち入れなくなったとして、
原発事故と事業休止には因果関係があり、避難指示が解除
されても事業再開までには最低6カ月かかるとして、この間
の従業員給与を含む事業経費(月700万円)と男性自身の
役員報酬(月40万円)の仮払いを求めている。
2
論 点
• 裁判所が仮処分を認める判断をした場合に、審査会の議
論・指針等にどのような影響があるか?
• 審査会の議論・指針等は、裁判所の仮処分の判断にどのよ
うに影響を与えるか?
• 仮処分と審査会の方針が異なる場合に、支払われた金銭は、
どのように取扱われるか?
• 審査会の指針と裁判の純論理的な関係はどのようなもの
か?
3
仮払い仮処分とは
4
仮処分が発令されるための要件
仮処分が発令される要件(民事保全法13条1項)
① 被保全権利の存在
② 保全の必要性
• 被保全権利、保全の必要性ともに立証のレベルは「証明」で
はなく「疎明」 (民事保全法13条2項)
• 「証明」とは、「一点の疑義も許されない自然科学的証明では
なく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が
特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を
証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まな
い程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、
かつ、それで足りる」(ルンバール事件判決。最高裁平成50
年10月24日第二小法廷判決)。
• 「疎明」とは、一応確からしいという推測を得た状態のこと。
5
金員仮払いの仮処分とは?
• 仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条2項)。
• 本裁判の結論を先取りして、実現してしまう効果を持つことか
ら、「満足的仮処分」ともいわれる。
• この類型の場合には、「保全の必要性」の要件につき、
「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又
は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発すること
ができる」
とされる。
• 金員仮払いの仮処分(仮の地位を定める仮処分)は、債務者
が立ち会うことができる審尋期日を経なければ、これを発する
ことができない(民事保全法23条4項)
6
金員仮払いの仮処分の審理スケジュール(モデル例)
仮処分申立
債務者呼出(民保23条4項)
週1~2回程度
審尋期日
1ヶ月~2ヶ月 決定
一部認容決定
地裁へ保全異議の申立
却下決定
高裁へ即時抗告
(民保19条1項)
決定(認可決定・却下決定)
保全抗告(民保41)
特別抗告・許可抗告
(民保7条、民訴336条・337条)
7
金員仮払いの仮処分の一般的審理スケ
ジュール
• 生活の困窮という切迫した状態での仮払いを理由としている
ため、通常、週に1回程度の審尋が行われ、早ければ1か月、
遅くとも2か月程度で最初の判断が出されるのが通常。
• 冒頭の事例では、5月から6月に仮処分の発令が想定される。
8
金員仮払いの仮処分の不服申立て手段
• 認容(全部/一部)の決定に対しては、債務者側が異議の申
立てを(担当は東京地裁保全部)、異議審の決定に対して不
服がある当事者は高裁に即時抗告することができる。
• 仮処分の申立てが却下された場合には、債権者が即時抗告
をすることができる(管轄は東京高裁)。
• いずれの場合も高裁の決定に不服がある当事者は最高裁
判所に特別抗告・許可抗告をすることができる(特別抗告・
許可抗告には、憲法違反、判例違反などの理由が必要とさ
れるため、実際に最高裁が判断する例は稀である)。
9
金員仮払い仮処分の典型的類型
【類型①】 交通事故に基づく損害賠償金の一部の仮払い
【類型②】 労働事件に関する賃金仮払い
• 担保金の提供
保全処分では、実務上、事後に本案訴訟で判決の結果が異
なることにより債務者が損害を被ることを考慮し、債権者に、
損害賠償金の1割ないし2割程度の担保金を供託させるのが
通常。
しかし、金員仮払いの仮処分では、債権者が生活に困窮して
いることが前提のため、担保を提供させるのは背理と考えら
れ、無担保で発令される(民事保全法14条1項)
金員仮払いの仮処分は、無担保で発令されるため、要求さ
れる疎明の程度が非常に高度になっているという面がある。
10
交通事故に基づく損害賠償金の一部仮払
いの立証事項
交通事故に基づく損害賠償金の一部の仮払いにつき、
①債権者に相当に高度な一部勝訴の見込みがあること
②ほぼ確実に本案で認容されるであろう損害賠償金額
③事故原因、債務者の過失、因果関係、ありうる過失相殺の割
合に対する反論等
の疎明がひととおり的確になされることが必要
11
交通事故の金員仮払いの仮処分の仮払
額の支払方法
①支払方法
仮払額の支払方法を一時金とするか、分割払いとするか?
②将来の給付
将来の給付は一括払いとせず、毎月払いを原則とし、その仮
払期間は原則として6か月とする取扱いが通常。債権者にお
いて必要があれば、あらためて、仮払い仮処分の申立てを行
う。
12
審査会の方針・判断と仮処分決定の関係
13
審査会と仮処分との関係
• 仮処分が認められた場合に、審査会の議論・指針等にどの
ような影響があるか?
• 審査会の議論・指針等は、裁判所における仮処分の判断
にどのように影響を与えるか?
• 指針も裁判所も、民法の損害賠償理論(相当因果関係)を
用いて、賠償請求権の存否と金額を判断する。
• しかし、指針は、一般的・包括的規律である一方、裁判所
は個々の事件を個別的に取り扱うことをその本質としてい
る(詳細は、原子力損害賠償紛争審査会の定める指針(法
18条2項2号)と裁判の関係の項目も参照)
• 相互に、判断が一致する可能性もあれば、乖離する可能性
14
もある。
「原子力損害賠償紛争審査会 」の役割
• 原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行う
こと(原賠法18条2項1号)
• 和解の仲介事務を行うために必要な原子力損害の調査及び
評価を行うこと(原賠法18条2項2号)
• 「原子力損害賠償紛争審査会 の組織等に関する政令」があ
り、審査会の組織のほか、和解の仲介の申立手続が規定さ
れている。
原子力損害賠償紛争審査会の役割は、「和解の仲介」であり、
法律関係の判断権はない。「指針」はあくまで、和解の指針と
解される。
15
原子力損害賠償紛争審査会の定める指
針と裁判の関係
•
公開の裁判を受ける権利(憲法32条、憲法82条)の保障
審判手続においてした前提事項に関する判断には既判力が生じないから、これ
を争う当事者は、別に民事訴訟を提起して前提たる権利関係の確定を求めるこ
とをなんら妨げられない。前提事項の存否を審判手続によって決定しても、その
ことは民事訴訟による通常の裁判を受ける途を閉すことを意味しないから、憲法
32条、82条に違反しない(最高裁大法廷昭和41年3月2日決定・民集20巻3号
360頁)。
•
公害等調整委員会の裁定、中央労働委員会の再審査命令などいわゆる行政型
ADRも当然に司法審査の対象になる
•
原子力損害賠償紛争審査会の定める指針・判断も、裁判所の判断を拘束しない
•
司法判断は審査会の指針等の上位規範である(スライドの最後の裁判例参照)
•
もっとも、裁判所の判断が、審査会の指針に「事実上」の影響を受ける場合もあ
る(その逆もありうる)。
16
審査会と仮処分との判断が異なる場合の
事実上の影響
①仮処分の判断が審査会の議論に先行した場合(仮処分先行パターン)
• 1つの裁判例として審査会で参照される可能性はある
• 事案限りの判断であり、本案でもなく、仮処分決定に必要な限
度で損害額の算定をするにすぎないため、先例性の効力は限
定的と考えるのが論理的には自然(但し、事実上の問題として
は、先例として重視する可能性も)
②審査会の議論が仮処分の判断に先行した場合(審査会先行パターン)
・ 有力な民法学者らによる指針であるため、裁判所が事案を解
決する上での事実上の解釈指針とする可能性はある。
・ 指針が裁判所が取り扱う個別の事件の解決にとって、公平な
解決をもたらさないと判断すれば、指針を無視する可能性もあ
る。
17
審査会と仮処分のスケジュール感
審査会
仮処分
4/15 第1回会議開催
4/22 第2回会議開催
4/28 第3回会議開催
7月ごろ 指針とりまとめ予定
4/7 申立て
4/14 答弁書提出
週に1回のペースで
双方準備書面提出
5月上旬から6月上旬には決定
の可能性
仮処分(原審)の判断の方が早く示される可能性がある。
仮処分先行パターンとなるか?
仮処分での裁判所の判断が、審査会の議論に影響する?
18
仮処分と審査会の方針が異なる場合の支
払済の金銭の取扱い
• 仮処分の判断は、その後の不服申立て、あるいは、本案訴
訟の結果として覆ることがあり得る。
• その場合、仮処分によって債権者に支払われた金銭につき、
債務者は、法律上の原因がなかったとして、不当利得返還
請求権(民法703条)に基づき、債権者に対し、その返還を
求めることができる。
• なお、JCO事件において、指針に基づき支払をした側が、損
害の仮払いを受けた者から事後的に証拠の提出がないとし
て、仮払いの際の約定に従って、損害届出者に仮払金の返
還を求めた事例もある(東京地裁平成20年2月29日判決。ス
ライド24頁の裁判例参照)
19
仮処分で想定される当事者の主張とその影響
1 債権者側(被害者)の主張
(1) 被保全権利の存在
・原賠法に基づく損害賠償請求権
(3条ただし書の不適用)
・相当因果関係のある損害
(2) 保全の必要性
生活の困窮
20
仮処分で想定される当事者の主張とその影響
2 債務者側(東電)の反論
東電の反論
想定される影響
(1)被保全権利
・原賠法3条ただし書の適用による免責
・避難指示により営業ができない場合にも、no work no
payの原則が適用されて、賃金債権は発生しない。
←原賠法3条ただし書の適用を裁判所が認め
た場合の影響を東電自身が勘案するか(勘
案できるか)?
※東電にとってのインセンティブのベクトルにも留意
←社会的反発を受ける?
(2)保全の必要性
・生活に困窮していない
・仮払金の交付を既に受けている。
・偏頗弁済行為であり、このような仮処分を認めると他の債権者
を害する。
・この仮処分が認められると多数の仮処分が提起され、電力供給
に支障を来たす。
← 社会的反発を受ける。生活に困窮している人も中に
はいるはず
←仮払金の交付額の少なさが批判される?
← 支払不能の自認につながる?
← この主張をサポートするため国が意見書の提出をす
ることが可能か?可能であるとして適当か?
(敗訴時の潜在的な連鎖反応に鑑み、例外的に対応?)
・法が、審査会の枠組みによる解決を重視していることは、全被
害者の救済のために有用と考えているのであって、原子力事業
者としてはこの枠組みの中でまずは解決を目指すべきであると
考えている旨を主張。本案であれば格別、仮処分で争訟を解決
することは法も目指していない。
← 審査会の指針取りまとめの遅れを東電が非難してい
ることにつながる?
21
冒頭の事案の検討
• 従業員経費を含む事業経費
→ 営利活動を行っている法人の経営困難を個人の生活保障と同視することはで
きない
→ 従業員個々人が生活費に困っているならば、従業員がそれぞれ金員仮払いの
仮処分を申し立てるのがスジで、会社が申立てをすることはできない
ただし、JCOの指針では、事業活動の休止期間中、従業員らに対して当該休止
期間分の給与等を支払った場合には、当該事業者の出損額が損害になる、との
判断もある
→ 仮処分の段階でこのような判断がされる必要性があるかは疑問の点あり
• 申立人自身の役員報酬
→ 休業損害として、生活をするのに最低限必要な限度で仮払いが認められる可
能性もあり得る。ただし、申立人の生活状態、貯蓄の有無なども考慮に入れら
れるため、仮払いが認められるか否か、認められるとして幾らの金額が、どの
程度の期間分認められるかは不透明
22
裁判例
23
裁判例 東京地裁平成20年2月29日判決
~仮払金の返還を認めた事例~
~事案の概要~
原告JCOの核燃料関連施設において臨界事故が発生した際、原告が、新品種「トマピー」苗を
開発・品種登録及び商標登録をし,ホームセンターや種苗店からトマピーを受注すると、育苗会
社へ発注し,育苗会社から納品を受けたトマピーを注文者に納品するとともに、育苗会社に代
金を支払うことを業としていた被告に対し、後日、被告が提出する実損害に関する資料に基づ
いて精算する旨の約束をして、被告の届出に基づく損害金を仮払した後、原告が被告に対し,
被告から実損害の発生を示す資料が提出されていないことを理由に、当該約束に基づき,当該
損害金の返還を求めた事案
~結論~
被告の主張する風評被害による苗の売上減少の一部を本件事故と相当因果関係のある損害
として認め、その余の仮払金の返還を命じた。
原告JCOは,本件事故と相当因果関係のある損害は,平成11年11月末日までの減収分に
限られる旨主張し,科学技術庁が平成11年10月27日から平成12年3月29日までにかけ
て開催した民事賠償又は損害保険に知見を有する学者及び実務家らを委員とする原子力損
害調査研究会の最終報告書の「営業損害」の項には,これに沿う記載がされているが,同記
載及びこれに基づく原告の主張は,採用しない。
24
その他、指針に基づく支払がなされず、
裁判が提起された事例
① 水戸地判平成20・ 2・27判時2003-67
(控訴審・東京高判平成21・ 5・14判時 2066-54、原審維持)
核燃料加工会社であるY1の東海事業所において臨界事故が発生した際、事業所付近にい
た原告らは放射線に被曝して身体に変調が生じたと主張して、原告らがY1及びその親会社
であるY2に対して主位的に民法709条及び715条1項に基づいて、予備的に原子力損害
の賠償に関する法律3条1項に基づいて損害賠償を請求した事案において、本件事故によ
る損害賠償に民法上の不法行為に関する規定の適用はなく被告らに対する民法709条及
び715条1項に基づく請求は失当であり、また、原賠法上、Y2が賠償責任を負う余地はない
からY2に対する原賠法3条1項に基づく請求も失当であるとした上で、被害と被爆との間に
相当因果関係が認められないとしてY1に対する予備的請求も認めなかった事例
② 東京地判平成20・5・23(上告審・最決平成22・2・23)
原告が、被告電力会社が設置管理する原子力発電所において業務に従事したことにより多
発性骨髄腫に罹患したと主張して、原子力損害の賠償に関する法律に基づく損害賠償を請
求した事案において、現在の証拠関係を前提とする限り、原告の疾患は国際診断基準にい
う多発性骨髄腫であったと認めることはできず、また、臨床及び病理学的検討、疫学的検討
など複数の観点から検討しても、放射線被ばくと多発性骨髄腫との因果関係を認めることは
できないとされた事例
25
③ 東京地判平成18・ 4・19判時1960-64
被告東海事業所の転換試験棟内において発生した臨界事故に伴う屋内退避要請地域内
に工場を有していた原告が、取引先から取引を停止され損害を被ったとして損害賠償を請
求した事案において、原子力損害の賠償に関する法律3条1項の「損害」とは、無過失責任
主義及び無限責任主義を採用していることから、風評損害についても当該事故と相当因果
関係が認められる損害である限り、認められるとし、風評損害が生じた期間については、経
験則上、一般に風評損害は事故直後に最も強く事故の影響を受けるが、その後、徐々に
軽減していくものと考えられることから、当該事故後2年間にわたって営業損害があるとす
る原告の主張を5か月間が相当であるとして、仮払金との相殺で本訴請求を棄却した事例
④ 東京地判平成16・9・27判時1876-34
(控訴審・東京高判平成17・ 9・21判時1914-95、原審維持)
不動産の造成販売等を業とする原告が原子燃料の製造販売等を業とする被告に対して被
告東海事業所で核燃料物質の加工過程で臨界事故を起こしたために当初予定していた価
格で宅地(本件土地)の販売ができなくなったことにより損害を被ったとして賠償請求をした
事案において、原子力損害の賠償に関する法律3条1項の「損害」とは人身損害又は物に
対する損害を伴わない損害(純粋経済損失)をも含むことを前提に、当初設定価格と実際
の売出価格との差額が損害であるとする原告の主張は認められず、本件臨界事故と本件
土地の下落分との相当因果関係も認められないとして請求を棄却した事例
⑤ 水戸地判平成15・6・24判時1830-103
茨城県東海村の臨界事故による風評により水産加工会社が製品の引取を拒否され焼却
処分したことにより損害を被った場合、原子力事業会社に責任がないとして同会社に対す
26
る損害賠償請求が棄却された事例
別紙 5
各特別措置法等における特例措置等の概要について
法律名
水俣病被害者の救済
及び水俣病問題の解
決に関する特別措置
法
適用対象者
特定事業者(2 条 1 項、8
条)
適用を受けるための要件
環境大臣の指定の要件(8 条)
特例措置
事業譲渡及び資本金の額の減少について、株主総会決議
が排除(10 条)
・公的支援を受けていること
・水俣病が生ずる原因と
なったメチル水銀を排出
した事業者のうち、環境
大臣による指定を受けた
もの
・その財産をもって債務を完済することができないこと
・被害者に対する一時金の確実な支給を行うために必要
があると認められること
・水俣病に係る補償を将来にわたり確保するために必要
があると認められること
特例措置を
受けるための要件
・以下の内容を含んだ事業再編計画を作成していること
(9 条 1 項)
①株式会社を設立し、当該株式会社が設立に際して発行
する株式の総数を特定事業者が引き受けること
②個別補償協定に係る債務、水俣病に係る損害賠償債務
及び公的支援に係る借入金債務等を除き、その事業を新
設会社に譲渡すること
③事業譲渡の対価として新設会社が新たに発行する株式
を引き受けること
④その他
・環境大臣が上記の事業再編計画を認可していること。
認可の要件は以下のとおり(9 条 2 項)
①被害者に対する一時金の支給に同意していること
②個別補償協定の将来にわたる履行及び公的支援に係る
借入金債務の返済に支障が生じないと認められること
③新設会社の事業計画が経済の振興等に資するものであ
ること
④事業再編計画が債権者の一般の利益に反するものでな
いこと
⑤その他
産業活力の再生及び
産業活動の革新に関
する特別措置法
預金保険法
資本金の額の減少と同時に行う場合の株式併合につい
て、株主総会決議が排除(21 条)
認定事業者(20 条)
・事業再構築計画、経営
資源再活用計画、経営資
源融合計画又は資源生産
性革新計画の認定を受け
ているもの
金融機関(2 条 1 項、102
条 1 項 1 号)
・第一号措置(金融機関の
自己資本の充実のために
行う機構による株式の引
受等)に係る認定を受けた
金融機関
第一号措置の認定の要件(102 条 1 項柱書)
発行可能株式総数の制限の特例(107 条の 2)
・第一号措置がとられなければ、我が国又は当該金融機
関が業務を行つている地域の信用秩序の維持に極めて重
大な支障が生ずるおそれがあること
・会社法 113 条 3 項の規定にかかわらず、金融機関の発
行済株式の総数、当該発行済株式に係る転換によって増
加すべき株式の数及び既発行の新株予約権の行使による
交付によつて増加すべき株式の数に、第一号措置に係る
株式の数等を加えた数の 4 倍に相当する数まで発行する
株式の総数を増加させることができる。
・金融危機対応会議の議を経ること
- 1 -
・裁判所の代替許可が得られていること(10 条 1 項)
次に掲げる要件のいずれにも該当するものとして主務大
臣の認定を受けること
・当該株式の併合と同時に単元株式数を減少し、又はそ
の数を廃止するものであること
・当該株式の併合後各株主がそれぞれ有する単元の数が
当該株式の併合前において各株主がそれぞれ有する単元
の数を下回るものでないこと
・内閣総理大臣が 105 条 4 項の決定を行うこと。決定の
要件は以下のとおり(105 条)
①経営健全化計画を提出すること
②第一号措置により取得する株式等の処分をすることが
著しく困難であると認められる場合でないこと
③経営健全化計画の確実な履行等を通じて、経営合理化
等の方策の実行が見込まれること
④財務大臣の同意
備考
法律名
預金保険法
適用対象者
被管理金融機関(2 条 12
項)
・74 条 1 項若しくは 2 項
又は 110 条 1 項の規定に
より、金融整理管財人に
よる業務及び財産の管理
を命ずる処分を受けた金
融機関
適用を受けるための要件
(74 条 1 項の要件)
・その財産をもつて債務を完済することができないこと
等
・次に掲げる要件のいずれかに該当すること
①業務の運営が著しく不適切であること
②資金の円滑な需給等に大きな支障が生ずるおそれがあ
ること
(74 条 2 項の要件)
・その財産をもつて債務を完済することができない事態
が生ずるおそれがあると認める旨の申出があったこと
・当該事態が生ずるおそれがあり、かつ、上記①及び②
に掲げる要件のいずれかに該当すること
(110 条 1 項の要件)
・次に掲げる要件のいずれかに該当すること
①金融危機対応会議の議を経ることにより第二号措置
(金融機関の保険事故につき保険金の支払を行うときに
要すると見込まれる費用の額を超えると見込まれる額の
資金援助を行うこと)に係る認定が行われたこと(102 条
1 項)
②第一号措置に係る認定が取り消された場合において、
その財産をもって債務を完済することができない事態が
生ずるおそれがあるときに、第二号措置に係る認定が行
われたこと(104 条 8 項)
特例措置
特例措置を
受けるための要件
株主総会等の特別決議等に関する仮決議(86 条)
・株式の併合、募集株式の発行、資本金の額の減少、定
款の変更等又は組織再編に係る株主総会の決議は、出席
した株主の議決権の三分の二以上に当たる多数をもっ
て、仮にすることができる。
・株式に譲渡制限を付す等の決議、出席した株主の半数
以上であつて出席した株主の議決権の三分の二以上に当
たる多数をもって、仮にすることができる。
・株主ごとに異なる取扱いを行う旨の株主総会の決議
は、出席した株主の半数以上であつて出席した株主の議
決権の四分の三以上に当たる多数をもって、仮にするこ
とができる。
・仮に決議した後、再度株主総会を招集し、同様の多数
をもって決議を承認した場合には決議があったものとみ
なされる。
株主総会等の特別決議等に代わる許可(87 条 1 項)
・被管理金融機関は、裁判所の許可を得て、株主総会決
議を経ずに次に掲げる事項を行うことができる。
①資本金の額の減少
②事業の全部又は重要な一部の譲渡
③解散
役員の選解任(87 条 3 項、4 項)
・その財産をもつて債務を完済することができないこと
(87 条 1 項)
・裁判所の許可(87 条 1 項)
・裁判所の許可(87 条 3 項、4 項)
・金融整理管財人は、裁判所の許可を得て、株主総会決
議を経ずに被管理金融機関の取締役等を解任することが
できる。
預金保険法
特別危機管理銀行(111
条)
第三号措置の認定の要件(102 条 1 項 3 号、3 項、2 条 4
項)
・特別危機管理開始決定
を受けた金融機関。な
お、第三号措置(111 条か
ら 119 条までの規定に定
める措置)に係る認定と同
時に、特別危機管理開始
決定がなされる。
・破綻金融機関(業務若しくは財産の状況に照らし預金
等の払戻しを停止するおそれのある金融機関又は預金等
の払戻しを停止した金融機関)に該当する銀行であっ
て、その財産をもって債務を完済することができないこ
と
・第二号措置によっては、我が国又は当該金融機関が業
務を行っている地域の信用秩序の維持に極めて重大な支
障を生じることを回避することができないこと
・金融整理管財人は、裁判所の許可を得て、株主総会決
議を経ずに被管理金融機関の取締役等を選任することが
できる。
株式の強制取得(112 条)
・特別危機管理開始決定と同時に機構は、特別危機管理
銀行の株式を取得することを決定する。
・特別危機管理銀行の株式は、特別危機管理開始決定に
係る公告があった時、機構が取得する。
・上記の株式取得に際して株券の交付を譲渡の効力要件
とする会社法の規定等は適用されない。
・債務超過を前提とするため、取得株式の対価は 0 円。
なお、債務超過の事実を明確にするため取得株式の対価
の決定に代えて資産及び負債の状況を公表。
役員の選解任(114 条)
・機構は内閣総理大臣の指名に基づき株主総会決議を経
- 2 -
・内閣総理大臣の指名又は承認(114 条)
備考
法律名
適用対象者
適用を受けるための要件
特例措置
特例措置を
受けるための要件
ずに特別危機管理銀行の取締役等を選任することができ
る。
金融機能の再生のた
めの緊急措置に関す
る法律
特別公的管理銀行(2 条 8
項)
・36 条 1 項又は 37 条 1
項の規定により特別公的
管理開始決定を受けた金
融機関。
特別公的管理開始決定の要件(36 条、37 条)
(36 条 1 項の要件)
・その財産をもって債務を完済することができない場合
その他銀行がその業務若しくは財産の状況に照らし預金
等の払戻しを停止するおそれがあると認める場合等で
あって、特別公的管理以外の方法によっては、我が国の
金融の機能に極めて重大な障害が生ずることとなる事態
等を回避することができないこと等
・機構は内閣総理大臣の承認を得て株主総会決議を経ず
に特別危機管理銀行の取締役等を解任することができ
る。
株式の強制取得(39 条)
・特別公的管理開始決定と同時に機構は、特別公的管理
銀行の株式を取得することを決定する。
・特別公的管理銀行の株式は、特別公的管理開始決定に
係る公告があった時に、機構が取得する。
・上記の株式取得に際して株券の交付を譲渡の効力要件
とする商法の規定等は適用されない。
・取得株式の対価については、株価算定委員会が純資産
額を基礎として算定(なお、特別公的管理開始決定の要
件に応じ、異なる算定基準を用いる)。
役員の選解任(45 条)
内閣総理大臣の指名又は承認(45 条)
・機構は内閣総理大臣の指名に基づき株主総会決議を経
ずに特別公的管理銀行の取締役等を選任することができ
る。
金融機能の再生のた
めの緊急措置に関す
る法律
被管理金融機関(2 条 5
項)
・8 条 1 項の規定によ
り、金融整理管財人によ
る業務及び財産の管理を
命ずる処分を受けた金融
機関
(8 条 1 項の要件)
・金融機関がその財産をもって債務を完済することがで
きない場合その他金融機関がその業務若しくは財産の状
況に照らし預金等の払戻しを停止するおそれがあると認
める場合等であって、次に掲げる要件のいずれかに該当
すること。
①業務の運営が著しく不適切であること
②その業務の全部の廃止又は解散が行われる場合には、
資金の円滑な需給及び利用者の利便に大きな支障が生ず
るおそれがあること
・機構は内閣総理大臣の承認を得て株主総会決議を経ず
に特別公的管理銀行の取締役等を解任することができ
る。
株主総会等の特別決議等に関する仮決議(21 条)
・株式の併合、募集株式の発行、資本金の額の減少、定
款の変更等又は組織再編に係る株主総会の決議等は、出
席した株主の議決権の三分の二以上に当たる多数をもっ
て、仮にすることができる。
・株式に譲渡制限を付す等の決議は、出席した株主の過
半数であって出席した株主の議決権の三分の二以上に当
たる多数をもって、仮にすることができる。
・仮に決議した後、再度株主総会を招集し、同様の多数
をもって決議を承認した場合には決議があったものとみ
なされる。
株主総会等の特別決議等に代わる許可(22 条 1 項)
・被管理金融機関は、裁判所の許可を得て、株主総会決
議を経ずに次に掲げる事項を行うことができる。
①営業の全部又は重要な一部の譲渡
②資本の減少
③解散
役員の解任(22 条 3 項)
・金融整理管財人は、裁判所の許可を得て、株主総会決
議を経ずに被管理金融機関の取締役等を解任することが
できる。
- 3 -
・その財産をもって債務を完済することができないこと
(22 条 1 項)
・裁判所の許可(22 条 1 項)
・裁判所の許可(22 条 3 項)
備考
別紙 6
特別措置法等が適用された案件の概要
会社名
日本長期信用銀行
株式会社国民銀行
株式会社りそな銀行
株式会社足利銀行
事案の概要
・ 平成 10 年 10 月 23 日、長銀から内閣総理
大臣に対して、金融再生法 68 条 2 項に基
づく「その業務又は財産の状況に照らし
預金等の払戻しを停止するおそれが生ず
ると認められる」旨の申出。
・ 同日、内閣総理大臣は金融再生法 36 条に
基づく特別公的管理の開始の決定を行
い、併せて、同法 38 条に基づき、預金保
険機構による特別公的管理銀行の株式の
取得の決定を行った。
・ 平成 11 年 4 月 8 日、一連の財務内容等に
係る報道を契機として預金が大量流出
し、予想される預金流出に対応不可能と
判断。
・ 同月 11 日、金融再生法 68 条 1 項に基づ
き、「その業務又は財産の状況に照らし預
金等の払戻しを停止するおそれがある」旨
の申出を行う。
・ 金融再生委員会は、同日、金融再生法 8
条に基づく金融整理管財人による業務及
び財産の管理を命ずる処分をするととも
に、同法 11 条に基づき金融整理管財人を
選任し、併せて金融整理管財人に対し同
法 14 条に基づき同行に係る業務及び財産
の管理に関する計画の作成を命じる。
・ 平成 15 年 3 月期の自己資本比率は、グ
ループ連結で 3.78%、りそな銀行(連結)
については 2.07%と、健全行の国内基準
である 4%を下回った。
・ 平成 15 年 5 月 17 日、内閣総理大臣よ
り、預金保険法 102 条 1 項の第一号措置
として資本増強の措置を講ずる必要があ
る旨の認定を受ける。
・ 同月 30 日、りそな銀行から、預金保険法
105 条 1 項に定める同法 102 条 1 項の第一
号措置(資本増強)の申込み及び同法 105
条 2 項の規定に基づく経営健全化計画の
提出がなされた。
・ 同年 6 月 10 日、預金保険法 105 条 4 項各
号に掲げる要件に該当することから、り
そな銀行に対し資本増強を行うことを決
定。
・ 平成 15 年 9 月期の中間決算において、債
務超過に陥ることとなったことから、足
利銀行から内閣総理大臣に対して、預金
保険法 74 条 5 項に基づく「その財産を
もって債務を完済することができず、そ
の業務若しくは財産の状況に照らし預金
等の払戻しを停止するおそれがある」旨
の申出。
・ 同年 11 月 29 日、内閣総理大臣を議長と
する金融危機対応会議の審議を経て、内
閣総理大臣において、預金保険法 102 条 1
項 3 号の措置を講ずる必要がある旨の認
適用された法律
金融機能の再生
のための緊急措
置に関する法律
(金融再生法)
適用された特例措置
① 預金保険機構によ
る全株式の強制取
得
※株価算定委員会によ
る株式の対価決定後、
預保が旧株主に対価支
払
② 金融再生委員会の
指名に基づく新役
員の選任
金融機能の再生
のための緊急措
置に関する法律
(金融再生法)
③ RCC による不適資
産の買取り
① 特別資金援助(ペ
イオフコストを超
える資金援助)
② RCC による不適資
産の買取り
預金保険法 102
条 1 項 1 号(い
わゆる「第一号
措置(資本の増
強)」)
① 預金保険機構によ
る株式の引受け
預金保険法 102
条 1 項 3 号(い
わゆる「第三号
措置(特別危機
管理)」)
① 預金保険機構によ
る全株式の強制取
得
② 内閣総理大臣(金
融庁長官)の指名
に基づく新経営陣
の選任
③ 預金保険法 129 条
による不適資産の
買取り
スキームの概要
① 内閣総理大臣に対する「その業務又は財産の状況に照らし預金等の払戻しを停止す
るおそれが生ずると認められる」旨の申出(68 条 2 項)。
② 内閣総理大臣による特別公的管理の開始決定(36 条)、及び、預保が長銀の全株式を
取得することの決定(38 条)
③ 特別公的管理の開始決定の公告時に預保が長銀の全株式を取得(39 条)
④ 金融再生委員会の指名に基づく新役員の選任(45 条)
⑤ 長銀が保有することが不適当な資産を RCC が買取り(72 条 5 項、53 条 1 項 2 号)
⑥ ニュー・LTCB・パートナーズ社との間で、預保の強制取得した長銀株式に係る株式
譲渡契約締結
⑦ 特別公的管理の終了決定(52 条 2 号)
⑧ 株式の譲渡実行(⑦の翌日)
⑧ 資本増強の実施
備考
・ 東証・大証上場
・ 平成 10 年 10 月 24 日上場廃止
① 平成 11 年 4 月 11 日、金融再生法 68 条 1 項に基づき、「その業務又は財産の状況に
照らし預金等の払戻しを停止するおそれがある」旨の申出を行う
② 金融再生委員会は、同日、金融再生法 8 条に基づく金融整理管財人による業務及び
財産の管理を命ずる処分をするとともに、同法 11 条に基づき金融整理管財人を選任
③ 八千代銀行との間で、平成 12 年 1 月 11 日に基本合意書を締結、同年 3 月 7 日に営
業譲渡契約を締結
④ 預金保険機構は、同年 6 月 29 日に金融再生委員会により資金援助(八千代銀行に対
する 1837 億円の贈与、国民銀行からの資産の買取(343 億円))についての適格性の
認定がなされたこと、また、同年 7 月 24 日に金融再生委員会及び大蔵大臣により特
別資金援助(ペイオフコスト超の資金援助、預金保険法附則 16 条(当時))の必要性に
ついての認定がなされたことを踏まえ、上記資金援助を決定
⑤ 同年 8 月 14 日に八千代銀行に対し営業譲渡を実行することに伴い、金融整理管財人
による業務及び財産の管理を命ずる処分を取消し
・ 非上場
① 平成 15 年 5 月 17 日、内閣総理大臣より、預金保険法 102 条 1 項の第一号措置とし
て資本増強の措置を講ずる必要がある旨の認定
② 同月 30 日、りそな銀行から、預金保険法 105 条1項に定める同法 102 条 1 項の第一
号措置(資本増強)の申込み及び同法 105 条 3 項の規定に基づく経営健全化計画の提
出
③ 同日、りそな銀行の取締役会において預金保険機構に対して総額 1 兆 9600 億円の普
通株式及び議決権優先株式を発行することを決議
④ 同日、りそなホールディングとりそな銀行においてりそな銀行の上記③新株式とり
そなホールディング発行の株式に係る株式交換契約を締結
⑤ 同年 7 月 1 日、新株式を発行
⑥ りそなホールディング株主総会(同年 6 月 27 日)及びりそな銀行株主総会(同年 7 月
1 日)において株式交換契約を承認の上、同年 8 月 7 日に株式交換を実施。これによ
り、政府はりそなホールディングの議決権の 73%超を取得(従前の公的資金投入に
よるものも含む。)
・ りそな銀行はりそなホールディングの
子会社で非上場。りそなホールディン
グは大証・東証第 1 部上場。
① 内閣総理大臣に対する「その財産をもって債務を完済することができず、その業務若
しくは財産の状況に照らし預金等の払戻しを停止するおそれがある」旨の申出(74 条
5 項)
② 内閣総理大臣による特別危機管理の開始決定、及び、預保が足利銀行の株式を取得
することの決定(102 条 1 項 3 号、3 項、111 条)
③ 特別危機管理開始決定の公告時に預保が足利銀行の全株式を取得(112 条 1 項)
④ 内閣総理大臣(金融庁長官に委任)の指名に基づく新役員の選任(114 条 1 項)
⑤ 足利銀行が保有することが不適当な資産を RCC が買取り(129 条、附則 10 条。な
お、11 条に基づき預保は RCC に対して当該資産買取り等に必要な資金の貸付け等を
実施)
⑥ 預保が強制取得した足利銀行の株式を、株式会社足利ホールディングス(野村フィナ
ンシャル・パートナーズ株式会社及びネクスト・キャピタル・パートナーズ株式会
・ 平成 15 年 3 月に上場廃止(持株会社で
あるあしぎんフィナンシャルグループ
が代わって東証第 1 部に上場。もっと
も、同社は平成 15 年 12 月に更生手続
開始を申立て)
・ 当時の預金保険法では、銀行持株会社
への資金投入ができなかったことか
ら、株式交換という手法を採用した。
チッソ株式会社
定。同時に、預金保険機構が足利銀行の
株式を取得することを決定(特別危機管理
開始決定)。
・ 水俣病損失のために大幅な債務超過と
なっており、公的支援によって、やっと
経営が維持されている状態であるが、事
業自体は年間の連結利益が約 200 億円に
上り、事業に供する純資産も約 500 億円
ある状態。
・ 事業部分を 100%子会社として独立させる
ことで、事業部分の好調さが明らかにな
り、現状に比し、信用が格段に向上し、
取引の活性化や人材確保が計られる。
・ さらに、将来、子会社株式を上場(売却)
し、この際に得られる資金をもって、患
者への補償債務や公的債務の早期返済が
可能になる。
水俣病被害者の
救済及び水俣病
問題の解決に関
する特別措置法
事業譲渡及び資本金
の額の減少につい
て、株主総会決議を
排除
⑦
①
②
③
④
⑤
⑥
社を中心に構成される企業連合により設立された、足利銀行の受皿となる持株会社)
に譲渡
特別危機管理の終了
チッソは、平成 23 年 1 月 12 日、100%子会社(JNC 株式会社)を設立し、同年 3 月 10
日、取締役会にて、患者への補償債務、公的債務及び特措法に基づく一時金の支給
債務以外の事業の全てを新設会社に譲渡することを決議
事業譲渡に係る株主総会決議については、特措法に基づく裁判所の代替許可を得る
ことで排除
事業譲渡の対価は、新設会社が新たに発行する株式
事業譲渡後のチッソ株式会社における債務の返済等に要する資金については、新設
会社からの配当で賄う
新設会社は、事業譲渡により営業権を計上し、営業権の償却による税負担の軽減も
可能となり、これにより得られる利益を、配当に回す
平成 23 年 3 月 31 日、事業譲渡を実行
・ 昭和 53 年に上場廃止
・ 平成 12 年にグリーンシート銘柄に指定
別紙 7
別紙 7-1
原子力損害の賠償に関する法律
原子力損害の賠償に関する法律
(昭和三十六年六月十七日法律第百四十七号)
最終改正:平成二一年四月一七日法律第一九号
第一章 総則(第一条・第二条)
第二章 原子力損害賠償責任(第三条―第五条)
第三章 損害賠償措置
第一節 損害賠償措置(第六条―第七条の二)
第二節 原子力損害賠償責任保険契約(第八条・第九条)
第三節 原子力損害賠償補償契約(第十条・第十一条)
第四節 供託(第十二条―第十五条)
第四章 国の措置(第十六条・第十七条)
第五章 原子力損害賠償紛争審査会(第十八条)
第六章 雑則(第十九条―第二十三条)
第七章 罰則(第二十四条―第二十六条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条
この法律は、原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関
する基本的制度を定め、もつて被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資す
ることを目的とする。
(定義)
第二条
この法律において「原子炉の運転等」とは、次の各号に掲げるもの及びこれらに付随
してする核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物(原子核分裂生成物を含む。第
五号において同じ。)の運搬、貯蔵又は廃棄であつて、政令で定めるものをいう。
一
原子炉の運転
二
加工
三
再処理
四
核燃料物質の使用
四の二
五
使用済燃料の貯蔵
核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物(次項及び次条第二項において「核
燃料物質等」という。)の廃棄
2
この法律において「原子力損害」とは、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃
料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人
体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいう。ただし、次条の規
定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者の受けた損害を除く。
3
この法律において「原子力事業者」とは、次の各号に掲げる者(これらの者であつた者を含
む。)をいう。
一
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六
十六号。以下「規制法」という。)第二十三条第一項の許可(規制法第七十六条の規定によ
り読み替えて適用される同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者(規制法
第三十九条第五項の規定により原子炉設置者とみなされた者を含む。)
二
規制法第二十三条の二第一項の許可を受けた者
三
規制法第十三条第一項の許可(規制法第七十六条の規定により読み替えて適用される
同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
四
規制法第四十三条の四第一項の許可(規制法第七十六条の規定により読み替えて適
用される同項 の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
五
規制法第四十四条第一項の指定(規制法第七十六条の規定により読み替えて適用さ
れる同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
六
規制法第五十一条の二第一項の許可(規制法第七十六条の規定により読み替えて適
用される同項 の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
七
規制法第五十二条第一項の許可(規制法第七十六条の規定により読み替えて適用さ
れる同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
4
この法律において「原子炉」とは、原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)第三条
第四号に規定する原子炉をいい、「核燃料物質」とは、同法同条第二号に規定する核燃料物
質(規制法第二条第八項に規定する使用済燃料を含む。)をいい、「加工」とは、規制法第二
条第七項に規定する加工をいい、「再処理」とは、規制法第二条第八項に規定する再処理を
いい、「使用済燃料の貯蔵」とは、規制法第四十三条の四第一項に規定する使用済燃料の
貯蔵をいい、「核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の廃棄」とは、規制法第五
十一条の二第一項に規定する廃棄物埋設又は廃棄物管理をいい、「放射線」とは、原子力基
本法第三条第五号に規定する放射線をいい、「原子力船」又は「外国原子力船」とは、規制法
第二十三条の二第一項に規定する原子力船又は外国原子力船をいう。
第二章 原子力損害賠償責任
(無過失責任、責任の集中等)
第三条
原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該
原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損
害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでな
い。
2
前項の場合において、その損害が原子力事業者間の核燃料物質等の運搬により生じたも
のであるときは、当該原子力事業者間に特約がない限り、当該核燃料物質等の発送人であ
る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。
第四条
前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事
業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない。
2
前条第一項の場合において、第七条の二第二項に規定する損害賠償措置を講じて本邦の
水域に外国原子力船を立ち入らせる原子力事業者が損害を賠償する責めに任ずべき額は、
同項に規定する額までとする。
3
原子炉の運転等により生じた原子力損害については、商法(明治三十二年法律第四十八
号)第七百九十八条第一項、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律
第九十四号)及び製造物責任法(平成六年法律第八十五号)の規定は、適用しない。
(求償権)
第五条
第三条の場合において、その損害が第三者の故意により生じたものであるときは、同
条の規定により損害を賠償した原子力事業者は、その者に対して求償権を有する。
2
前項の規定は、求償権に関し特約をすることを妨げない。
第三章 損害賠償措置
第一節 損害賠償措置
(損害賠償措置を講ずべき義務)
第六条
原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置(以下「損害賠償措置」という。)
を講じていなければ、原子炉の運転等をしてはならない。
(損害賠償措置の内容)
第七条
損害賠償措置は、次条の規定の適用がある場合を除き、原子力損害賠償責任保険
契約及び原子力損害賠償補償契約の締結若しくは供託であつて、その措置により、一工場
若しくは一事業所当たり若しくは一原子力船当たり千二百億円(政令で定める原子炉の運転
等については、千二百億円以内で政令で定める金額とする。以下「賠償措置額」という。)を
原子力損害の賠償に充てることができるものとして文部科学大臣の承認を受けたもの又はこ
れらに相当する措置であつて文部科学大臣の承認を受けたものとする。
2
文部科学大臣は、原子力事業者が第三条の規定により原子力損害を賠償したことにより原
子力損害の賠償に充てるべき金額が賠償措置額未満となつた場合において、原子力損害の
賠償の履行を確保するため必要があると認めるときは、当該原子力事業者に対し、期限を指
定し、これを賠償措置額にすることを命ずることができる。
3
前項に規定する場合においては、同項の規定による命令がなされるまでの間(同項の規定
による命令がなされた場合においては、当該命令により指定された期限までの間)は、前条
の規定は、適用しない。
第七条の二
原子力船を外国の水域に立ち入らせる場合の損害賠償措置は、原子力損害賠
償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結その他の措置であつて、当該原子力
船に係る原子力事業者が原子力損害を賠償する責めに任ずべきものとして政府が当該外国
政府と合意した額の原子力損害を賠償するに足りる措置として文部科学大臣の承認を受け
たものとする。
2
外国原子力船を本邦の水域に立ち入らせる場合の損害賠償措置は、当該外国原子力船
に係る原子力事業者が原子力損害を賠償する責めに任ずべきものとして政府が当該外国政
府と合意した額(原子力損害の発生の原因となつた事実一について三百六十億円を下らな
いものとする。)の原子力損害を賠償するに足りる措置として文部科学大臣の承認を受けた
ものとする。
第二節 原子力損害賠償責任保険契約
(原子力損害賠償責任保険契約)
第八条
原子力損害賠償責任保険契約(以下「責任保険契約」という。)は、原子力事業者の
原子力損害の賠償の責任が発生した場合において、一定の事由による原子力損害を原子力
事業者が賠償することにより生ずる損失を保険者(保険業法(平成七年法律第百五号)第二
条第四項に規定する損害保険会社又は同条第九項に規定する外国損害保険会社等で、責
任保険の引受けを行う者に限る。以下同じ。)がうめることを約し、保険契約者が保険者に保
険料を支払うことを約する契約とする。
第九条
被害者は、損害賠償請求権に関し、責任保険契約の保険金について、他の債権者に
優先して弁済を受ける権利を有する。
2
被保険者は、被害者に対する損害賠償額について、自己が支払つた限度又は被害者の承
諾があつた限度においてのみ、保険者に対して保険金の支払を請求することができる。
3
責任保険契約の保険金請求権は、これを譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができ
ない。ただし、被害者が損害賠償請求権に関し差し押える場合は、この限りでない。
第三節 原子力損害賠償補償契約
(原子力損害賠償補償契約)
第十条
原子力損害賠償補償契約(以下「補償契約」という。)は、原子力事業者の原子力損
害の賠償の責任が発生した場合において、責任保険契約その他の原子力損害を賠償するた
めの措置によつてはうめることができない原子力損害を原子力事業者が賠償することにより
生ずる損失を政府が補償することを約し、原子力事業者が補償料を納付することを約する契
約とする。
2
補償契約に関する事項は、別に法律で定める。
第十一条
第九条の規定は、補償契約に基づく補償金について準用する。
第四節 供託
(供託)
第十二条
損害賠償措置としての供託は、原子力事業者の主たる事務所のもよりの法務局又
は地方法務局に、金銭又は文部科学省令で定める有価証券(社債、株式等の振替に関する
法律(平成十三年法律第七十五号)第二百七十八条第一項に規定する振替債を含む。以下
この節において同じ。)によりするものとする。
(供託物の還付)
第十三条
被害者は、損害賠償請求権に関し、前条の規定により原子力事業者が供託した金
銭又は有価証券について、その債権の弁済を受ける権利を有する。
(供託物の取りもどし)
第十四条
原子力事業者は、次の各号に掲げる場合においては、文部科学大臣の承認を受
けて、第十二条の規定により供託した金銭又は有価証券を取りもどすことができる。
2
一
原子力損害を賠償したとき。
二
供託に代えて他の損害賠償措置を講じたとき。
三
原子炉の運転等をやめたとき。
文部科学大臣は、前項第二号又は第三号に掲げる場合において承認するときは、原子力
損害の賠償の履行を確保するため必要と認められる限度において、取りもどすことができる
時期及び取りもどすことができる金銭又は有価証券の額を指定して承認することができる。
(文部科学省令・法務省令への委任)
第十五条
この節に定めるもののほか、供託に関する事項は、文部科学省令・法務省令で定
める。
第四章 国の措置
(国の措置)
第十六条
政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者(外国原子力船に係る
原子力事業者を除く。)が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置
額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者
に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。
2
前項の援助は、国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものと
する。
第十七条
政府は、第三条第一項ただし書の場合又は第七条の二第二項の原子力損害で同
項に規定する額をこえると認められるものが生じた場合においては、被災者の救助及び被害
の拡大の防止のため必要な措置を講ずるようにするものとする。
第五章 原子力損害賠償紛争審査会
第十八条
文部科学省に、原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合における和解の仲
介及び当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定に係る事務を
行わせるため、政令の定めるところにより、原子力損害賠償紛争審査会(以下この条におい
て「審査会」という。)を置くことができる。
2
審査会は、次に掲げる事務を処理する。
一
原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと。
二
原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当
該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること。
三
3
前二号に掲げる事務を行うため必要な原子力損害の調査及び評価を行うこと。
前二項に定めるもののほか、審査会の組織及び運営並びに和解の仲介の申立及びその
処理の手続に関し必要な事項は、政令で定める。
第六章 雑則
(国会に対する報告及び意見書の提出)
第十九条
政府は、相当規模の原子力損害が生じた場合には、できる限りすみやかに、その
損害の状況及びこの法律に基づいて政府のとつた措置を国会に報告しなければならない。
2
政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力委員会又は原子力安全委員会が損害
の処理及び損害の防止等に関する意見書を内閣総理大臣に提出したときは、これを国会に
提出しなければならない。
(第十条第一項及び第十六条第一項の規定の適用)
第二十条
第十条第一項及び第十六条第一項の規定は、平成三十一年十二月三十一日まで
に第二条第一項各号に掲げる行為を開始した原子炉の運転等に係る原子力損害について
適用する。
(報告徴収及び立入検査)
第二十一条
文部科学大臣は、第六条の規定の実施を確保するため必要があると認めるとき
は、原子力事業者に対し必要な報告を求め、又はその職員に、原子力事業者の事務所若し
くは工場若しくは事業所若しくは原子力船に立ち入り、その者の帳簿、書類その他必要な物
件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
2
前項の規定により職員が立ち入るときは、その身分を示す証明書を携帯し、かつ、関係者
の請求があるときは、これを提示しなければならない。
3
第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはなら
ない。
(経済産業大臣又は国土交通大臣との協議)
第二十二条
文部科学大臣は、第七条第一項若しくは第七条の二第一項若しくは第二項の規
定による処分又は第七条第二項の規定による命令をする場合においては、あらかじめ、発電
の用に供する原子炉の運転、加工、再処理、使用済燃料の貯蔵又は核燃料物質若しくは核
燃料物質によつて汚染された物の廃棄に係るものについては経済産業大臣、船舶に設置す
る原子炉の運転に係るものについては国土交通大臣に協議しなければならない。
(国に対する適用除外)
第二十三条
第三章、第十六条及び次章の規定は、国に適用しない。
第七章 罰則
第二十四条
第六条の規定に違反した者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に
処し、又はこれを併科する。
第二十五条
次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。
一
第二十一条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
二
第二十一条第一項の規定による立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又
は質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をした者
第二十六条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人その他の従業者が、その法人又は
人の事業に関して前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に
対しても、各本条の罰金刑を科する。
附 則 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から起算して九月をこえない範囲内において政令で定める日
から施行する。
第三条
この法律の施行前にした行為及びこの法律の施行後この法律の規定による改正前
の規制法第二十六条第一項(同法第二十三条第二項第九号に係る部分をいう。)の規定が
その効力を失う前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
(他の法律による給付との調整等)
第四条
第三条の場合において、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事
業者(以下この条において単に「原子力事業者」という。)の従業員が原子力損害を受け、当
該従業員又はその遺族がその損害のてん補に相当する労働者災害補償保険法(昭和二十
二年法律第五十号)の規定による給付その他法令の規定による給付であつて政令で定める
もの(以下この条において「災害補償給付」という。)を受けるべきときは、当該従業員又はそ
の遺族に係る原子力損害の賠償については、当分の間、次に定めるところによるものとする。
一
原子力事業者は、原子力事業者の従業員又はその遺族の災害補償給付を受ける権利
が消滅するまでの間、その損害の発生時から当該災害補償給付を受けるべき時までの法
定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該災害補償給付
の価額となるべき額の限度で、その賠償の履行をしないことができる。
二
前号の場合において、災害補償給付の支給があつたときは、原子力事業者は、その損
害の発生時から当該災害補償給付が支給された時までの法定利率により計算される額を
合算した場合における当該合算した額が当該災害補償給付の価額となるべき額の限度で、
その損害の賠償の責めを免れる。
2
原子力事業者の従業員が原子力損害を受けた場合において、その損害が第三者の故意
により生じたものであるときは、当該従業員又はその遺族に対し災害補償給付を支給した者
は、当該第三者に対して求償権を有する。
附 則 (昭和四二年七月二〇日法律第七三号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から施行する。ただし、附則第八条から第三十一条までの規
定は、公布の日から起算して六月をこえない範囲内において政令で定める日から施行する。
附 則 (昭和四六年五月一日法律第五三号) 抄
(施行期日)
1
この法律は、公布の日から起算して六月をこえない範囲内において政令で定める日から施
行する。
(経過措置)
2
この法律の施行の際現に行なわれている核燃料物質の運搬については、改正後の原子力
損害の賠償に関する法律第三条第二項の規定にかかわらず、なお従前の例による。
附 則 (昭和五〇年一二月二七日法律第九四号) 抄
(施行期日等)
1
この法律は、海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約が日本国について
効力を生ずる日から施行する。
附 則 (昭和五三年七月五日法律第八六号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に掲げる日から施行
する。
一
第二条中原子力委員会設置法第十五条を第十二条とし同条の次に二章及び章名を加
える改正規定のうち第二十二条(同条において準用する第五条第一項の規定中委員の任
命について両議院の同意を得ることに係る部分に限る。)の規定並びに次条第一項及び
第三項の規定 公布の日
二
第一条の規定、第二条の規定(前号に掲げる同条中の規定を除く。)、第三条中核原料
物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第四条第二項の改正規定、同法第十
四条第二項の改正規定、同法第二十三条に一項を加える改正規定及び同法第二十四条
第二項の改正規定(「内閣総理大臣」を主務大臣」に改める部分を除く。)並びに次条第二
項、附則第五条から附則第七条まで及び附則第九条の規定 公布の日から起算して三月
を超えない範囲内において政令で定める日
三
前二号に掲げる規定以外の規定 公布の日から起算して六月を超えない範囲内におい
て政令で定める日
附 則 (昭和五四年六月一二日法律第四四号)
この法律は、公布の日から起算して九月を超えない範囲内において政令で定める日から施
行する。
附 則 (昭和五四年六月二九日法律第五二号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日
から施行する。
附 則 (昭和五八年一二月二日法律第七八号)
1
この法律(第一条を除く。)は、昭和五十九年七月一日から施行する。
2
この法律の施行の日の前日において法律の規定により置かれている機関等で、この法律
の施行の日以後は国家行政組織法又はこの法律による改正後の関係法律の規定に基づく
政令(以下「関係政令」という。)の規定により置かれることとなるものに関し必要となる経過措
置その他この法律の施行に伴う関係政令の制定又は改廃に関し必要となる経過措置は、政
令で定めることができる。
附 則 (昭和六一年五月二七日法律第七三号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日
から施行する。
附 則 (昭和六三年五月二七日法律第六九号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める日から施行
する。
一
第一条の改正規定、第二条の改正規定、第十条第二項中第七号を第十二号とし、第六
号を第十号とし、同号の次に一号を加える改正規定、第二十条第二項中第八号を第十六
号とし、第七号を第十五号とし、第六号を第十四号とし、第五号の三を第十二号とし、同号
の次に一号を加える改正規定、第三十三条第二項中第九号を第十七号とし、第六号から
第八号までを八号ずつ繰り下げ、第五号の三を第十二号とし、同号の次に一号を加える
改正規定、同項中第五号の二を第十一号とする改正規定、同条第三項第一号の改正規
定、第四十六条の七第二項中第十号を第十六号とし、第九号を第十五号とし、第八号を
第十四号とし、第七号を第十二号とし、同号の次に一号を加える改正規定、第五十一条の
十四第二項中第十一号を第十七号とし、第十号を第十六号とし、第九号を第十五号とし、
第八号を第十三号とし、同号の次に一号を加える改正規定、第五十六条中第七号を第十
七号とし、第六号を第十六号とし、第五号を第十五号とし、第四号の四を第十三号とし、同
号の次に一号を加える改正規定、第五十八条の二の改正規定(「第五十九条の二第一
項」の下に「、第五十九条の三第一項及び第六十六条第二項」を加え、「「工場又は事業
所」」を「「工場等」」に改める部分に限る。)、第五十九条の二の改正規定、同条の次に一
条を加える改正規定、第七十一条中第十三項を第十四項とし、第十項から第十二項まで
を一項ずつ繰り下げ、第九項の次に一項を加える改正規定及び第八十二条中第五号を第
十号とし、第四号の二を第八号とし、同号の次に一号を加える改正規定並びに次条、附則
第三条第二項及び附則第四条の規定 核物質の防護に関する条約が日本国について効
力を生ずる日(次号において「条約発効日」という。)又は第三号に規定する政令で定める
日のうちいずれか早い日前の日であつて、公布の日から起算して六月を超えない範囲内
において政令で定める日
附 則 (平成元年三月三一日法律第二一号)
この法律は、平成二年一月一日までの間において政令で定める日から施行する。
附 則 (平成六年七月一日法律第八五号) 抄
(施行期日等)
1
この法律は、公布の日から起算して一年を経過した日から施行し、その法律の施行後にそ
の製造業者等が引き渡した製造物について適用する。
附 則 (平成七年六月七日法律第一〇六号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、保険業法(平成七年法律第百五号)の施行の日から施行する。
(罰則の適用に関する経過措置)
第六条
施行日前にした行為及びこの附則の規定によりなお従前の例によることとされる事項
に係る施行日以後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
(政令への委任)
第七条
附則第二条から前条までに定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措
置は、政令で定める。
附 則 (平成一〇年五月二〇日法律第六二号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日
から施行する。
附 則 (平成一一年五月一〇日法律第三七号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、平成十二年一月一日から施行する。ただし、第二条第一項、第三項及
び第四項並びに第二十二条の改正規定並びに次条の規定は、核原料物質、核燃料物質及
び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律(平成十一年法律第七十五号)附則第
一条第一号に掲げる規定の施行の日から施行する。
附 則 (平成一一年七月一六日法律第一〇二号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、内閣法の一部を改正する法律(平成十一年法律第八十八号)の施行の
日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
二
附則第十条第一項及び第五項、第十四条第三項、第二十三条、第二十八条並びに第
三十条の規定 公布の日
(職員の身分引継ぎ)
第三条
この法律の施行の際現に従前の総理府、法務省、外務省、大蔵省、文部省、厚生省、
農林水産省、通商産業省、運輸省、郵政省、労働省、建設省又は自治省(以下この条におい
て「従前の府省」という。)の職員(国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第八条
の審議会等の会長又は委員長及び委員、中央防災会議の委員、日本工業標準調査会の会
長及び委員並びに これらに類する者として政令で定めるものを除く。)である者は、別に辞
令を発せられない限り、同一の勤務条件をもって、この法律の施行後の内閣府、総務省、法
務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省若
しくは環境省(以下この条において「新府省」という。)又はこれに置かれる部局若しくは機関
のうち、この法律の施行の際現に当該職員が属する従前の府省又はこれに置かれる部局若
しくは機関の相当の新府省又はこれに置かれる部局若しくは機関として政令で定めるものの
相当の職員となるものとする。
(別に定める経過措置)
第三十条
第二条から前条までに規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要となる経
過措置は、別に法律で定める。
附 則 (平成一一年一二月二二日法律第一六〇号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。
附 則 (平成一四年六月一二日法律第六五号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、平成十五年一月六日から施行する。
(罰則の適用に関する経過措置)
第八十四条
この法律(附則第一条各号に掲げる規定にあっては、当該規定。以下この条に
おいて同じ。)の施行前にした行為及びこの附則の規定によりなお従前の例によることとされ
る場合におけるこの法律の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の
例による。
(その他の経過措置の政令への委任)
第八十五条
この附則に規定するもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政
令で定める。
(検討)
第八十六条
政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において新社債等振替法、金融
商品取引法の施行状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、新社債等振替法第二条第十一
項に規定する加入者保護信託、金融商品取引法第二条第二十九項に規定する金融商品取
引清算機関に係る制度について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づい
て所要の措置を講ずるものとする。
附 則 (平成一五年五月三〇日法律第五四号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、平成十六年四月一日から施行する。
(罰則の適用に関する経過措置)
第三十八条
この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例に
よる。
(その他の経過措置の政令への委任)
第三十九条
この法律に規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要な経過措置は、政
令で定める。
(検討)
第四十条
政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後
の規定の実施状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、この法律による改正後の金融諸制度
について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずる
ものとする。
附 則 (平成一六年六月九日法律第八八号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から起算して五年を超えない範囲内において政令で定める日
(以下「施行日」という。)から施行する。
(罰則の適用に関する経過措置)
第百三十五条
この法律の施行前にした行為並びにこの附則の規定によりなお従前の例によ
ることとされる場合及びなおその効力を有することとされる場合におけるこの法律の施行後に
した行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
(その他の経過措置の政令への委任)
第百三十六条
この附則に規定するもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、
政令で定める。
(検討)
第百三十七条
政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改
正後の規定の実施状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、この法律による改正後の株式等
の取引に係る決済制度について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づい
て所要の措置を講ずるものとする。
附 則 (平成一六年一二月三日法律第一五五号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から施行する。ただし、附則第十条から第十二条まで、第十四
条から第十七条まで、第十八条第一項及び第三項並びに第十九条から第三十二条までの
規定は、平成十七年十月一日から施行する。
附 則 (平成一七年七月二六日法律第八七号) 抄
この法律は、会社法の施行の日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各
号に定める日から施行する。
一
第二百四十二条の規定 この法律の公布の日
附 則 (平成二一年四月一七日法律第一九号)
この法律は、平成二十二年一月一日から施行する。
別紙 7-2
原子力損害の賠償に関する法律施行令
原子力損害の賠償に関する法律施行令
(昭和三十七年三月六日政令第四十四号)
最終改正:平成二一年八月七日政令第二〇一号
内閣は、原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)第二条第一
項及び第七条第一項の規定に基づき、この政令を制定する。
(原子炉の運転等)
第一条
原子力損害の賠償に関する法律(以下「法」という。)第二条第一項に規定する政令で
定めるものは、次の行為(第一号から第五号までに掲げる行為については、それぞれ、当該
行為が行われる工場又は事業所(原子炉を船舶に設置する場合にあつては、その船舶。以
下同じ。)において当該行為に付随してする第六号イからハまでに掲げる物の運搬、貯蔵又
は廃棄を含む。)とする。
一
原子炉の運転
二
次に掲げる核燃料物質の加工
イ ウラン二三五及びウラン二三八に対するウラン二三五の比率が天然の比率をこえ百
分の五に達しないウラン及びその化合物並びにこれらの物質の一又は二以上を含む物
質であつてウラン二三五の量が二千グラム以上のもの
ロ ウラン二三五及びウラン二三八に対するウラン二三五の比率が百分の五以上のウラ
ン及びその化合物並びにこれらの物質の一又は二以上を含む物質であつてウラン二三
五の量が八百グラム以上のもの
ハ プルトニウム及びその化合物並びにこれらの物質の一又は二以上を含む物質であつ
てプルトニウムの量が五百グラム以上のもの
三
再処理
四
第二号イからハまでに掲げる核燃料物質の使用
四の二
五
使用済燃料の貯蔵
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六
十六号。次号において「規制法」という。)第五十一条の二第一項第三号に規定する廃棄
物埋設及び廃棄物管理(以下それぞれ「廃棄物埋設」及び「廃棄物管理」という。)
六
前各号に掲げる行為が行われる工場又は事業所の外においてそれぞれ当該行為に付
随してする次に掲げる物の運搬、貯蔵又は廃棄(前各号に掲げる行為が行われる他の原
子力事業者の工場又は事業所において当該他の原子力事業者がそれぞれ当該行為に付
随してするものに該当する場合におけるものを除く。)
イ 第二号イからハまでに掲げる核燃料物質
ロ 規制法第二条第八項に規定する使用済燃料
ハ 核燃料物質によつて汚染された物(原子核分裂生成物を含む。)
(賠償措置額)
第二条
法第七条第一項に規定する政令で定める原子炉の運転等は次の表の各号に規定す
る原子炉の運転等とし、当該原子炉の運転等について同項に規定する政令で定める金額は
当該原子炉の運転等の区分に応じ当該各号に定める金額とする。ただし、同一の工場又は
事業所に係る原子炉の運転等が同表の第一号から第十七号までの各号の二以上の号に該
当するときは、当該原子炉の運転等に係る当該金額は、その最も大きい金額とする。
一 熱出力が一万キロワットを超える原子炉の運転(当該原子炉の運転に
千二百億円
付随してする前条第六号イからハまでに掲げる物(以下「核燃料物質
等」という。)の当該原子炉の運転が行われる工場又は事業所における
運搬、貯蔵又は廃棄(次号又は第三号のいずれかに該当するものを除
く。)を含む。)
二 前号に規定する原子炉の運転に付随してする核燃料物質等の当該原
二百四十億円
子炉の運転が行われる工場又は事業所における運搬、貯蔵又は廃棄
(当該原子炉の運転をやめ、かつ、当該原子炉の炉心から核燃料物質
を取り出した後にするものに限る。次号及び第五号において同じ。)(次
号に該当するものを除く。)
三 第一号に規定する原子炉の運転に付随してする前条第二号イに掲げる 四十億円
核燃料物質又は同条第六号ハに掲げる物の当該原子炉の運転が行わ
れる工場又は事業所における運搬、貯蔵又は廃棄
四 熱出力が百キロワットを超え一万キロワット以下の原子炉の運転(当該
二百四十億円
原子炉の運転に付随してする核燃料物質等の当該原子炉の運転が行
われる工場又は事業所における運搬、貯蔵又は廃棄(次号に該当する
ものを除く。)を含む。)
五 前号に規定する原子炉の運転に付随してする前条第二号イに掲げる核 四十億円
燃料物質又は同条第六号ハに掲げる物の当該原子炉の運転が行われ
る工場又は事業所における運搬、貯蔵又は廃棄
六 熱出力が百キロワット以下の原子炉の運転(当該原子炉の運転に付随 四十億円
してする核燃料物質等の当該原子炉の運転が行われる工場又は事業
所における運搬、貯蔵又は廃棄を含む。)
七 前条第二号イに掲げる核燃料物質の加工(当該加工に付随してする核
四十億円
燃料物質等の当該加工が行われる工場又は事業所における運搬、貯
蔵又は廃棄を含む。)
八 前条第二号ロ又はハに掲げる核燃料物質の加工(当該加工に付随して 二百四十億円
する核燃料物質等の当該加工が行われる工場又は事業所における運
搬、貯蔵又は廃棄を含む。)
九 再処理(当該再処理に付随してする核燃料物質等の当該再処理が行わ 千二百億円
れる工場又は事業所における運搬、貯蔵又は廃棄を含む。)
十 前条第二号イに掲げる核燃料物質の使用(第一号、第四号、第六号、第 四十億円
七号又は前号のいずれかに該当するものを除くものとし、当該核燃料物
質の使用に付随してする核燃料物質等の当該核燃料物質の使用が行
われる工場又は事業所における運搬、貯蔵又は廃棄を含む。)
十 前条第二号ロ又はハに掲げる核燃料物質の使用(第一号、第四号、第
二百四十億円
一 六号、第八号又は第九号のいずれかに該当するものを除く。次号におい
て同じ。)(当該核燃料物質の使用に付随してする核燃料物質等の当該
核燃料物質の使用が行われる工場又は事業所における運搬、貯蔵又
は廃棄(次号に該当するものを除く。)を含む。)
十 前号に規定する核燃料物質の使用に付随してする前条第二号イに掲げ 四十億円
二 る核燃料物質又は同条第六号ハに掲げる物の当該核燃料物質の使用
が行われる工場又は事業所における運搬、貯蔵又は廃棄(当該核燃料
物質の使用をやめた後にするものに限る。)
十 使用済燃料の貯蔵(第一号、第二号、第四号、第六号又は第九号から
二百四十億円
三 第十一号までのいずれかに該当するものを除くものとし、当該使用済燃
料の貯蔵に付随してする核燃料物質等の当該使用済燃料の貯蔵が行
われる事業所における運搬、貯蔵又は廃棄を含む。)
十 廃棄物埋設(前各号又は次号のいずれかに該当するものを除くものと
四十億円
四 し、当該廃棄物埋設に付随してする核燃料物質等の当該廃棄物埋設が
行われる事業所における運搬又は廃棄を含む。)
十 前条第六号ロに掲げる物を溶解した液体から核燃料物質その他の有用 二百四十億円
五 物質を分離した残りの液体をガラスにより固形化した物に係る廃棄物埋
設(第九号に該当するものを除くものとし、当該廃棄物埋設に付随してす
る核燃料物質等の当該廃棄物埋設が行われる事業所における運搬又
は廃棄を含む。)
十 廃棄物管理(前各号又は次号のいずれかに該当するものを除くものと
四十億円
六 し、当該廃棄物管理に付随してする核燃料物質等の当該廃棄物管理が
行われる事業所における運搬又は廃棄を含む。)
十 前条第六号ロに掲げる物を溶解した液体から核燃料物質その他の有用 二百四十億円
七 物質を分離した残りの液体をガラスにより固形化した物に係る廃棄物管
理(第九号又は第十五号のいずれかに該当するものを除くものとし、当
該廃棄物管理に付随してする核燃料物質等の当該廃棄物管理が行わ
れる事業所における運搬又は廃棄を含む。)
十 原子炉の運転、加工、再処理、核燃料物質の使用、使用済燃料の貯蔵 四十億円
八 又は廃棄物埋設若しくは廃棄物管理に付随してする核燃料物質等の運
搬(前各号、次号又は第二十二号のいずれかに該当するものを除く。)
十 原子炉の運転、加工、再処理、核燃料物質の使用、使用済燃料の貯蔵 二百四十億円
九 又は廃棄物埋設若しくは廃棄物管理に付随してする前条第二号ロ若しく
はハに掲げる核燃料物質、同条第六号ロに掲げる物、同号ロに掲げる
物を溶解した液体から核燃料物質その他の有用物質を分離した残りの
液体又は当該液体をガラスにより固形化した物の運搬(第一号、第二
号、第四号、第六号、第八号から第十一号まで、第十三号、第十五号又
は第十七号のいずれかに該当するものを除く。)
二 原子炉の運転、加工、再処理、核燃料物質の使用又は使用済燃料の貯 四十億円
十 蔵に付随してする核燃料物質等の貯蔵(第一号から第十三号まで又は
次号のいずれかに該当するものを除く。)
二 原子炉の運転、加工、再処理、核燃料物質の使用又は使用済燃料の貯 二百四十億円
十 蔵に付随してする前条第二号ロ若しくはハに掲げる核燃料物質、同条第
一 六号ロに掲げる物、同号ロに掲げる物を溶解した液体から核燃料物質
その他の有用物質を分離した残りの液体又は当該液体をガラスにより
固形化した物の貯蔵(第一号、第二号、第四号、第六号、第八号から第
十一号まで又は第十三号のいずれかに該当するものを除く。)
二 原子炉の運転、加工、再処理、核燃料物質の使用、使用済燃料の貯蔵 四十億円
十 又は廃棄物埋設若しくは廃棄物管理に付随してする核燃料物質等の廃
二 棄(第一号から第十七号までのいずれかに該当するものを除くものとし、
当該廃棄に係る核燃料物質等の運搬を含む。)
(災害補償給付)
第三条
法附則第四条第一項に規定する政令で定める災害補償給付は、次に掲げる給付と
する。
一
国家公務員災害補償法(昭和二十六年法律第百九十一号)の規定による給付
二
船員保険法(昭和十四年法律第七十三号)の規定による給付であつて職務上の事由に
よるもの
附 則 抄
1
この政令は、法の施行の日(昭和三十七年三月十五日)から施行する。
附 則 (昭和四〇年一一月一日政令第三四八号)
この政令は、昭和四十年十一月十日から施行する。
附 則 (昭和四六年九月三〇日政令第三二二号)
この政令は、原子力損害の賠償に関する法律及び原子力損害賠償補償契約に関する法律
の一部を改正する法律(昭和四十六年法律第五十三号)の施行の日(昭和四十六年十月一
日)から施行する。
附 則 (昭和五四年一一月一六日政令第二八〇号) 抄
1
この政令は、原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律(昭和五十四年法律
第四十四号)の施行の日(昭和五十五年一月一日)から施行する。
附 則 (昭和六一年三月二八日政令第五三号) 抄
(施行期日)
第一条
この政令は、昭和六十一年四月一日から施行する。
附 則 (昭和六一年一一月二二日政令第三四八号)
この政令は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する
法律(昭和六十一年法律第七十三号)の施行の日(昭和六十一年十一月二十六日)から施
行する。
附 則 (昭和六三年九月二七日政令第二八一号) 抄
(施行期日)
第一条
この政令は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改
正する法律(以下「改正法」という。)附則第一条第一号に掲げる規定の施行の日(昭和六十
三年十一月二十六日)から施行する。
附 則 (平成元年一一月一七日政令第三〇六号)
この政令は、原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律(平成元年法律第二
十一号)の施行の日(平成二年一月一日)から施行する。
附 則 (平成一一年一二月一七日政令第四〇六号)
この政令は、原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律(平成十一年法律第
三十七号)の施行の日(平成十二年一月一日)から施行する。ただし、第一条中原子力損害
の賠償に関する法律施行令第一条の改正規定、同令第二条の表第八号の次に一号を加え
る改正規定、同表第十号の改正規定(「使用済燃料」を「前条第六号ロに掲げる物」に改める
部分に限る。)、同表第十二号の改正規定(「核燃料物質の使用」の下に「、使用済燃料の貯
蔵」を加える部分に限る。)、同表第十三号の改正規定(「核燃料物質の使用」の下に「、使用
済燃料の貯蔵」を加える部分及び「使用済燃料、使用済燃料」を「同条第六号ロに掲げる物、
同号ロに掲げる物」に、「第八号」を「第八号の二」に改める部分に限る。)、同表第十三号の
次に二号を加える改正規定及び同表第十四号の改正規定(「核燃料物質の使用」の下に「、
使用済燃料の貯蔵」を加える部分に限る。)並びに第二条の規定は、核原料物質、核燃料物
質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律(平成十一年法律第七十五号)附
則第一条第一号に掲げる規定の施行の日(平成十二年六月十六日)から施行する。
附 則 (平成一九年一二月一九日政令第三七九号)
この政令は、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律等の一部を改正する法律の施行
の日(平成二十年四月一日)から施行する。
附 則 (平成二一年八月七日政令第二〇一号)
この政令は、平成二十二年一月一日から施行する。
別紙 7-3
原子力損害の賠償に関する法律施行規則
原子力損害の賠償に関する法律施行規則
(昭和三十七年三月十三日総理府令第五号)
最終改正:平成二〇年八月五日文部科学省令第二五号
原子力損害の賠償に関する法律第十二条の規定に基づき、及び同法の規定を実施するた
め、原子力損害の賠償に関する法律施行規則を次のように定める。
(損害賠償措置の承認の申請)
第一条
原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号。以下「法」とい
う。)第七条第一項の承認を受けようとする原子力事業者は、次に掲げる事項を記載した申
請書を文部科学大臣に提出しなければならない。
一
氏名又は名称及び住所並びに法人にあつてはその代表者の氏名
二
原子炉の運転等の種類
三
原子炉の運転等に係る工場又は事業所(原子炉を船舶に設置する場合にあつては、そ
の船舶)の名称及び所在地(船舶にあつては船籍港)
四
原子炉の運転にあつては、原子炉の熱出力
五
加工にあつては、加工する核燃料物質の種類及び数量
六
核燃料物質の使用にあつては、使用する核燃料物質の種類及び数量
七
使用済燃料の貯蔵にあつては、貯蔵する使用済燃料の種類及び数量
八
核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物(原子核分裂生成物を含む。以下同
じ。)の運搬にあつては、運搬する核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の種
類及び数量
九
核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の廃棄にあつては、廃棄する核燃
料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の種類及び数量
十
原子炉の運転等の開始時期及び予定終了時期
十一
責任保険契約及び補償契約の締結を含む損害賠償措置を講じようとする場合におい
ては、保険者の名称、住所及び代表者の氏名、責任保険契約によりうめることができる原
子力損害の範囲及び原子力損害の賠償に充てることができる金額、保険期間、保険料の
額及びその納付の状況、補償契約によりうめることができる原子力損害の範囲及び原子
力損害の賠償に充てることができる金額、補償契約の期間並びに補償料の額及びその納
付の状況
十二
供託を含む損害賠償措置を講じようとする場合においては、法務局又は地方法務局
の名称及び所在地並びに金銭の供託にあつてはその金額、振替国債(社債、株式等の振
替に関する法律(平成十三年法律第七十五号。以下「振替法」という。)第八十八条に規定
する振替国債をいう。以下同じ。)の供託にあつてはその銘柄及び金額、振替債(振替法
第二百七十八条第一項に規定する振替債をいう。以下同じ。)以外の有価証券の供託に
あつてはその名称、総額面、券面額、回記号、番号、枚数及び附属利賦札
十三
責任保険契約及び補償契約の締結又は供託以外の措置を含む損害賠償措置を講じ
ようとする場合においては、当該措置の概要
2
3
前項の申請書には、次に掲げる書類を添付しなければならない。
一
原子炉の運転等に係る工場又は事業所の区域を明示する実測図
二
前項第十一号の場合にあつては、責任保険契約及び補償契約の締結を証する書類
三
前項第十二号の場合にあつては、供託の受理を証する書類
四
前項第十三号の場合にあつては、当該措置の効力を証する書類
第一項の申請書の提出部数は、発電の用に供する原子炉及び船舶に設置する原子炉に
係るものにあつては正本及び副本各一通、その他のものにあつては正本一通とする。
(供託することができる有価証券)
第二条
法第十二条の文部科学省令で定める有価証券は、次のとおりとする。
一
国債証券(振替国債を含む。)
二
地方債証券
三
政府保証債券(その債券に係る債務を政府が保証している債券をいう。)
四
特別の法律により法人の発行する債券(前号に掲げるものを除く。)
五
担保付社債信託法(明治三十八年法律第五十二号)による担保付社債券及び法令によ
り優先弁済を受ける権利を保証されている社債券(前二号に掲げるもの、自己の社債券及
び会社法(平成十七年法律第八十六号)による特別清算開始の命令を受け、特別清算終
結の決定の確定がない会社、破産法(平成十六年法律第七十五号)による破産手続開始
の決定を受け、破産手続終結の決定若しくは破産手続廃止の決定の確定がない会社、民
事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)による再生手続開始の決定を受け、再生手
続終結の決定若しくは再生手続廃止の決定の確定がない会社又は会社更生法(平成十
四年法律第百五十四号)による更生手続開始の決定を受け、更生手続終結の決定若しく
は更生手続廃止の決定の確定がない会社が発行した社債券を除く。)
(供託物の取りもどし)
第三条
法第十四条第一項の承認を受けようとする原子力事業者は、次に掲げる事項を記載
した申請書二通(正本及び副本各一通)を文部科学大臣に提出しなければならない。
一
氏名又は名称及び住所並びに法人にあつてはその代表者の氏名
二
当該原子炉の運転等について現に存する供託物が金銭の場合にあつてはその金額、
振替国債の供託にあつてはその銘柄及び金額、振替債以外の有価証券の場合にあつて
はその名称、総額面、券面額、回記号、番号、枚数及び附属利賦札
三
取りもどそうとする供託物が金銭の場合にあつてはその金額、振替国債の供託にあつ
てはその銘柄及び金額、振替債以外の有価証券の場合にあつてはその名称、総額面、券
面額、回記号、番号、枚数及び附属利賦札
四
2
取りもどそうとする理由
前項の申請書には、原子力損害を賠償したこと、供託に代えて他の損害賠償措置を講じた
こと又は原子炉の運転等をやめたことを証する書類を添付しなければならない。
(身分を示す証明書)
第四条
法第二十一条第二項の身分を示す証明書は、別記様式によるものとする。
附 則 抄
1
この府令は、法の施行の日(昭和三十七年三月十五日)から施行する。
附 則 (昭和四五年九月二四日総理府令第三四号)
この府令は、公布の日から施行する。
附 則 (昭和四六年九月三〇日総理府令第五〇号)
この府令は、原子力損害の賠償に関する法律及び原子力損害賠償補償契約に関する法律
の一部を改正する法律(昭和四十六年法律第五十三号)の施行の日(昭和四十六年十月一
日)から施行する。
附 則 (昭和五三年三月二九日総理府令第四号)
この府令は、昭和五十三年四月一日から施行する。
附 則 (昭和五四年一二月一日総理府令第五一号)
この府令は、原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律(昭和五十四年法律
第四十四号)の施行の日(昭和五十五年一月一日)から施行する。
附 則 (平成一二年六月一六日総理府令第六二号)
この府令は、公布の日から施行する。
附 則 (平成一二年一〇月二〇日総理府令第一一八号)
この府令は、内閣法の一部を改正する法律(平成十一年法律第八十八号)の施行の日(平
成十三年一月六日)から施行する。
附 則 (平成一四年一二月二五日文部科学省令第四五号)
この省令は、平成十五年一月六日から施行する。
附 則 (平成二〇年八月五日文部科学省令第二五号)
この省令は、公布の日から施行する。ただし、第一条第一項第十二号及び第三条第一項の
改正規定は、株式等の取引に係る決済の合理化を図るための社債等の振替に関する法律
等の一部を改正する法律(平成十六年法律第八十八号)の施行の日から施行する。
別記
様式(略)
別紙 7-4
原子力損害賠償紛争審査会の組織等に関する政令
原子力損害賠償紛争審査会の組織等に関する政令
(昭和五十四年十一月十六日政令第二百八十一号)
最終改正:平成二三年一一月二八日政令第三五〇号
内閣は、原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)第十八条第
三項の規定に基づき、この政令を制定する。
(審査会の組織)
第一条
2
原子力損害賠償紛争審査会(以下「審査会」という。)は、委員十人以内で組織する。
委員は、人格が高潔であつて、法律、医療又は原子力工学その他の原子力関連技術に関
する学識経験を有する者のうちから、文部科学大臣が任命する。
3
委員は、原子力損害の賠償に関する法律(以下「法」という。)第十八条第二項の事務の処
理が終了したときは、文部科学大臣が解任する。
4
委員は、非常勤とする。
(会長)
第二条
審査会に、会長を置く。
2
会長は、委員の互選によつて定める。
3
会長は、会務を総理する。
4
会長に事故があるときは、あらかじめその指名する委員が、その職務を代理する。
(会議及び議決)
第三条
2
審査会の会議は、会長が招集する。
審査会は、会長又は前条第四項の規定により会長の職務を代理する者のほか、委員の過
半数が出席しなければ、会議を開き、議決をすることができない。
3
審査会の議事は、出席した委員の過半数で決し、可否同数のときは、会長の決するところ
による。
(特別委員及び専門委員)
第四条
審査会に、原子力損害の賠償に関する紛争についての和解の仲介の手続に参与さ
せるため、特別委員を置くことができる。
2
審査会に、法第十八条第二項第三号に規定する原子力損害の調査及び評価を行わせる
ため、専門委員を置くことができる。
3
特別委員及び専門委員は、学識経験のある者のうちから、文部科学大臣が任命する。
4
第一条第三項及び第四項の規定は、特別委員及び専門委員について準用する。この場合
において、同条第三項中「原子力損害の賠償に関する法律(以下「法」という。)第十八条第
二項の事務」とあるのは、特別委員については「第四条第一項の事務」と、専門委員について
は「第四条第二項の事務」と読み替えるものとする。
(和解の仲介の申立て)
第五条
原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合において、審査会に対し和解の仲介の
申立てをしようとする紛争の当事者は、次の事項を記載した申立書を審査会に提出しなけれ
ばならない。
一
申立人の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人にあつては代表者の氏名
二
当事者の一方から和解の仲介の申立てをしようとするときは、他の当事者の氏名又は
名称及び住所又は居所並びに法人にあつては代表者の氏名
三
和解の仲介を求める事項及び理由
四
紛争の問題点及び交渉経過の概要
五
申立ての年月日
六
その他和解の仲介に関し参考となる事項
(代表者の選定)
第六条
和解の仲介の申立てに係る当事者が多数である場合においては、当該当事者は、そ
のうちから一人若しくは数人の代表者を選定し、又はその選定した代表者を変更することが
できる。
2
代表者は、各自、他の当事者のために、和解の仲介の申立ての取下げ又は和解の締結を
除き、当該和解の仲介の申立てに係る一切の行為をすることができる。
3
代表者が選定されたときは、当事者は、代表者を通じてのみ、前項の行為をすることができ
る。
4
第一項の規定による代表者の選定及びその変更は、書面をもつて証明しなければならな
い。
(和解の仲介の開始)
第七条
審査会は、第五条に規定する申立書の提出があつた場合のほか、原子力損害の賠
償に関する紛争が生じた場合において審査会が和解の仲介を行う必要があると認めるとき
は、和解の仲介を行うものとする。
2
審査会は、第五条の規定により当事者の一方から和解の仲介の申立てがあつたときは申
立書の写しを添えて他の当事者に対し、前項の規定により和解の仲介を行う必要があると認
めたときは当事者の双方に対し、それぞれ、遅滞なく、書面をもつて、その旨を通知しなけれ
ばならない。
(仲介委員)
第七条の二
審査会が行う和解の仲介の手続は、審査会の定めるところにより、事件ごとに一
人又は二人以上の委員又は特別委員によつて実施する。
2
二人以上の仲介委員(前項の規定により和解の仲介の手続を実施する委員又は特別委員
をいう。以下同じ。)が和解の仲介の手続を実施する場合には、当該和解の仲介の手続上の
事項は、仲介委員の過半数で決する。
(申立ての分離又は併合)
第八条
審査会は、適当と認めるときは、和解の仲介の手続を分離し、又は併合することがで
きる。
2
審査会は、前項の規定により和解の仲介の手続を分離し、又は併合したときは、当事者に
対し、遅滞なく、書面をもつて、その旨を通知しなければならない。
(参加)
第九条
原子力損害の賠償に関する紛争につき和解の仲介の手続が係属している場合にお
いて、利害関係を有する第三者は、審査会の許可を得て、当事者として当該和解の仲介の
手続に参加することができる。
2
審査会は、前項の許可をするときは、あらかじめ、当事者の意見を聴かなければならない。
3
第一項の規定により参加の申立てをしようとする者は、次の事項を記載した申立書を審査
会に提出しなければならない。
4
一
申立人の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人にあつては代表者の氏名
二
参加の申立てをする和解の仲介の事案の表示及び和解の仲介を求める理由
三
申立ての年月日
四
その他和解の仲介に関し参考となる事項
審査会は、第一項の規定による参加の申立てがあつたときは参加の申立書の写しを添え
て当事者に対し、参加の許否の決定をしたときは当事者に対し、それぞれ、遅滞なく、書面を
もつて、その旨を通知しなければならない。
(和解の仲介をしない場合)
第十条
審査会は、申立てに係る紛争がその性質上和解の仲介をするのに適当でないと認め
るとき、又は当事者が不当な目的でみだりに和解の仲介の申立てをしたと認めるときは、和
解の仲介をしないことができる。
2
審査会は、前項の規定により和解の仲介をしないものとしたときは、当事者に対し、遅滞な
く、書面をもつて、その旨を通知しなければならない。
(和解の仲介の打切り)
第十一条
審査会は、申立てに係る紛争が解決される見込みがないと認めるときは、和解の
仲介を打ち切ることができる。
2
前条第二項の規定は、前項の場合に準用する。この場合において、「和解の仲介をしない
ものとしたとき」とあるのは、「和解の仲介を打ち切つたとき」と読み替えるものとする。
(庶務)
第十二条
審査会の庶務は、文部科学省研究開発局参事官において処理する。
(雑則)
第十三条
この政令に定めるもののほか、審査会の運営並びに和解の仲介の申立て及びそ
の処理の手続に関し必要な事項は、会長が審査会に諮つて定める。
附 則
この政令は、公布の日から施行する。
附 則 (平成一二年六月七日政令第三〇八号) 抄
(施行期日)
第一条
この政令は、内閣法の一部を改正する法律(平成十一年法律第八十八号)の施行の
日(平成十三年一月六日)から施行する。ただし、次条第一項、附則第三条及び第五条第一
項の規定は、公布の日から施行する。
(原子力損害賠償紛争審査会の組織等に関する政令の一部改正に伴う経過措置)
第四条
この政令の施行の際現に従前の科学技術庁の原子力損害賠償紛争審査会の委員
又は専門委員である者は、この政令の施行の日に、第五十一条の規定による改正後の原子
力損害賠償紛争審査会の組織等に関する政令(以下この条において「新組織等政令」とい
う。)第一条第二項又は第四条第二項の規定により、文部科学省の原子力損害賠償紛争審
査会の委員又は専門委員として任命されたものとみなす。
2
この政令の施行の際現に従前の科学技術庁の原子力損害賠償紛争審査会の会長である
者は、この政令の施行の日に、新組織等政令第二条第二項の規定により、文部科学省の原
子力損害賠償紛争審査会の会長に定められたものとみなす。
附 則 (平成一七年四月一日政令第一一五号) 抄
(施行期日)
第一条
この政令は、公布の日から施行する。
附 則 (平成二一年八月七日政令第二〇一号)
この政令は、平成二十二年一月一日から施行する。
附 則 (平成二二年四月一日政令第八七号) 抄
(施行期日)
1
この政令は、公布の日から施行する。
附 則 (平成二三年七月二七日政令第二二九号)
この政令は、公布の日から施行する。
附 則 (平成二三年一一月二八日政令第三五〇号) 抄
(施行期日)
1
この政令は、公布の日から施行する。
別紙 7-5
原子力損害賠償補償契約に関する法律
原子力損害賠償補償契約に関する法律
(昭和三十六年六月十七日法律第百四十八号)
最終改正:平成二一年四月一七日法律第一九号
(定義)
第一条
この法律において「原子炉の運転等」とは、原子力損害の賠償に関する法律(昭和三
十六年法律第百四十七号。以下「賠償法」という。)第二条第一項に規定する原子炉の運転
等をいい、「原子力損害」とは、賠償法第二条第二項に規定する原子力損害をいい、「原子力
事業者」とは、賠償法第二条第三項に規定する原子力事業者(同項第二号に掲げる者を除
く。)をいい、「原子力船」とは、賠償法第二条第四項に規定する原子力船をいい、「損害賠償
措置」とは、賠償法第六条に規定する損害賠償措置をいい、「賠償措置額」とは、賠償法第七
条第一項に規定する賠償措置額をいい、「責任保険契約」とは、賠償法第八条に規定する責
任保険契約をいう。
(原子力損害賠償補償契約)
第二条
政府は、原子力事業者を相手方として、原子力事業者の原子力損害の賠償の責任
が発生した場合において、責任保険契約その他の原子力損害を賠償するための措置によつ
てはうめることができない原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を政
府が補償することを約し、原子力事業者が補償料を納付することを約する契約を締結するこ
とができる。
(補償損失)
第三条
政府が前条の契約(以下「補償契約」という。)により補償する損失は、次の各号に掲
げる原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失(以下「補償損失」という。)
とする。
一
地震又は噴火によつて生じた原子力損害
二
正常運転(政令で定める状態において行なわれる原子炉の運転等をいう。)によつて生
じた原子力損害
三
その発生の原因となつた事実に関する限り責任保険契約によつてうめることができる原
子力損害であつてその発生の原因となつた事実があつた日から十年を経過する日までの
間に被害者から賠償の請求が行なわれなかつたもの(当該期間内に生じた原子力損害に
ついては、被害者が当該期間内に賠償の請求を行なわなかつたことについてやむをえな
い理由がある場合に限る。)
四
原子力船の外国の水域への立入りに伴い生じた原子力損害であつて、賠償法第七条
第一項に規定する損害賠償措置その他の原子力損害を賠償するための措置(賠償法第
七条の二第一項に規定する損害賠償措置の一部として認められるものに限る。)によつて
はうめることができないもの
五
前各号に掲げるもの以外の原子力損害であつて政令で定めるもの
(補償契約金額)
第四条
前条第一号から第三号まで及び第五号に掲げる原子力損害に係る補償契約に係る
契約金額(以下「補償契約金額」という。)は、当該補償契約の締結が含まれる損害賠償措置
の賠償措置額に相当する金額(損害賠償措置に責任保険契約及び補償契約の締結以外の
措置が含まれる場合においては当該措置により、他の補償契約が締結されている場合にお
いては当該他の補償契約の締結により原子力損害の賠償に充てることができる金額を控除
した金額)とする。
2
前条第四号に掲げる原子力損害に係る補償契約金額は、賠償法第七条の二第一項に規
定する損害賠償措置の金額に相当する金額(賠償法第七条第一項に規定する損害賠償措
置その他の原子力損害を賠償するための措置が賠償法第七条の二第一項に規定する損害
賠償措置の一部として認められる場合においては、当該原子力損害を賠償するための措置
の金額を控除した金額)とする。
(補償契約の期間)
第五条
第三条第一号から第三号まで及び第五号に掲げる原子力損害に係る補償契約の期
間は、その締結の時から当該補償契約に係る原子炉の運転等をやめる時までとする。
2
第三条第四号に掲げる原子力損害に係る補償契約の期間は、原子力船が本邦の水域を
離れる時から本邦の水域に戻る時までの期間内の期間とする。
(補償料)
第六条
補償料の額は、一年当たり、補償契約金額に補償損失の発生の見込み、補償契約に
関する国の事務取扱費等を勘案して政令で定める料率を乗じて得た金額に相当する金額と
する。
(補償金)
第七条
政府が補償契約により補償する金額は、当該補償契約の期間内における原子炉の
運転等により与えた原子力損害に係る補償損失について補償契約金額までとする。
2
政府が第三条第一号から第三号まで及び第五号に掲げる原子力損害に係る補償損失を
補償する場合において、当該補償に係る原子力損害と同一の原因によつて発生した原子力
損害について責任保険契約によつてうめられる金額があるときは、当該補償損失について補
償契約により支払う補償金の額の合計額は、当該補償契約の締結が含まれる損害賠償措
置の賠償措置額に相当する金額(当該損害賠償措置に責任保険契約及び補償契約の締結
以外の措置が含まれる場合においては当該措置により原子力損害の賠償に充てることがで
きる金額を控除した金額)から当該責任保険契約によつてうめられる金額を控除した金額を
こえないものとする。
(補償契約の締結の限度)
第八条
政府は、一会計年度内に締結する補償契約に係る補償契約金額の合計額が会計年
度ごとに国会の議決を経た金額をこえない範囲内で、補償契約を締結するものとする。
(通知)
第九条
原子力事業者は、補償契約の締結に際し、政令で定めるところにより、原子炉の運転
等に関する重要な事実を政府に対し通知しなければならない。通知した事実に変更を生じた
ときも、同様とする。
(政令への委任)
第十条
補償契約の締結並びに補償料の納付の時期、補償金の支払の時期その他補償料の
納付及び補償金の支払に関し必要な事項は、政令で定める。
(時効)
第十一条
補償金の支払を受ける権利は、三年を経過したときは、時効によつて消滅する。
(代位等)
第十二条
政府は、補償契約により補償した場合において、当該補償契約の相手方である原
子力事業者が第三者に対して求償権を有するときは、次に掲げる金額のうちいずれか少な
い金額を限度として当該求償権を取得する。
一
政府が補償した金額
二
当該求償権の金額(前号に掲げる金額が当該補償契約により補償する補償損失の金
額に不足するときは、当該求償権の金額から当該不足金額を控除した金額)
2
補償契約の相手方である原子力事業者が求償権の行使により支払を受けたときは、政府
は、次に掲げる金額のうちいずれか少ない金額の限度で、補償の義務を免れる。
一
当該原子力事業者が当該求償権の行使により支払を受けた金額
二
当該補償契約により補償する補償損失について第七条の規定により政府が補償の義
務を負う金額(前号に掲げる金額が当該補償損失の金額に不足するときは、当該政府が
補償の義務を負う金額から当該不足金額を控除した金額)
(補償金の返還)
第十三条
政府は、次の各号に掲げる原子力損害に係る補償損失について補償金を支払つ
たときは、原子力事業者から、政令で定めるところにより、その返還をさせるものとする。
一
補償契約の相手方である原子力事業者が第九条の規定による通知を怠り、又は虚偽
の通知をした場合において、その通知を怠り、又は虚偽の通知をした事実に基づく原子力
損害
二
政府が第十五条の規定により補償契約を解除した場合において、原子力事業者が、そ
の解除の通知を受けた日から解除の効力が生ずる日の前日までの間における原子炉の
運転等により与えた原子力損害
(補償契約の解除)
第十四条
政府は、補償契約の相手方である原子力事業者が当該補償契約の締結を含む損
害賠償措置以外の損害賠償措置を講じた場合においては、当該補償契約の解除の申込み
に応ずることができ、又は当該補償契約を解除することができる。
2
前項の規定による補償契約の解除は、将来に向つてその効力を生ずる。
第十五条
政府は、補償契約の相手方である原子力事業者が次の各号の一に該当するとき
は、当該補償契約を解除することができる。
一
賠償法第六条の規定に違反したとき。
二
補償料の納付を怠つたとき。
三
第九条の規定による通知を怠り、又は虚偽の通知をしたとき。
四
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六
十六号。第十七条第二項において「規制法」という。)第二十一条の二、第三十五条、第四
十三条の十八、第四十八条、第五十一条の十六、第五十七条第一項若しくは第二項、第
五十七条の四、第五十七条の五、第五十八条第一項又は第五十九条第一項の規定によ
り講ずべき措置を講ずることを怠つたとき。
五
2
補償契約の条項で政令で定める事項に該当するものに違反したとき。
前項の規定による補償契約の解除は、当該補償契約の相手方である原子力事業者が解
除の通知を受けた日から起算して九十日の後に、将来に向つてその効力を生ずる。
(過怠金)
第十六条
政府は、補償契約の相手方である原子力事業者が補償契約の条項で政令で定め
る事項に該当するものに違反したときは、政令で定めるところにより、過怠金を徴収すること
ができる。
(業務の管掌)
第十七条
2
この法律に規定する政府の業務は、文部科学大臣が管掌する。
文部科学大臣は、第十五条の規定による補償契約の解除については、あらかじめ、発電
の用に供する原子炉(原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)第三条第四号に規定
する原子炉をいう。以下同じ。)の運転、加工(規制法第二条第七項に規定する加工をいう。)、
再処理(規制法第二条第八項に規定する再処理をいう。)、使用済燃料の貯蔵(規制法第四
十三条の四第一項に規定する使用済燃料の貯蔵をいう。)又は核燃料物質若しくは核燃料
物質によつて汚染された物の廃棄(規制法第五十一条の二第一項に規定する廃棄物埋設又
は廃棄物管理をいう。)に係るものにあつては経済産業大臣、船舶に設置する原子炉の運転
に係るものにあつては国土交通大臣の意見を聴かなければならない。
(業務の委託)
第十八条
政府は、政令で定めるところにより、補償契約に基づく業務の一部を保険業法(平
成七年法律第百五号)第二条第四項に規定する損害保険会社又は同条第九項に規定する
外国損害保険会社等(これらの者のうち責任保険契約の保険者であるものに限る。)に委託
することができる。
2
文部科学大臣は、前項の規定による委託をしたときは、委託を受けた者の名称その他文部
科学省令で定める事項を告示しなければならない。
附 則
この法律は、原子力損害の賠償に関する法律の施行の日から施行する。
附 則 (昭和四三年五月二〇日法律第五五号) 抄
(施行期日)
1
この法律は、公布の日から起算して三月をこえない範囲内において政令で定める日から施
行する。
附 則 (昭和四六年五月一日法律第五三号) 抄
(施行期日)
1
この法律は、公布の日から起算して六月をこえない範囲内において政令で定める日から施
行する。
附 則 (昭和五三年七月五日法律第八六号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に掲げる日か掲げる
日から施行する。
一
第二条中原子力委員会設置法第十五条を第十二条とし同条の次に二章及び章名を加
える改正規定のうち第二十二条(同条において準用する第五条第一項の規定中委員の任
命について両議院の同意を得ることに係る部分に限る。)の規定並びに次条第一項及び
第三項の規定 公布の日
二
第一条の規定、第二条の規定(前号に掲げる同条中の規定を除く。)、第三条中核原料
物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第四条第二項の改正規定、同法第十
四条第二項の改正規定、同法第二十三条に一項を加える改正規定及び同法第二十四条
第二項の改正規定(「内閣総理大臣」を「主務大臣」に改める部分を除く。)並びに次条第
二項、附則第五条から附則第七条まで及び附則第九条の規定 公布の日から起算して三
月を超えない範囲内において政令で定める日
三
前二号に掲げる規定以外の規定 公布の日から起算して六月を超えない範囲内におい
て政令で定める日
附 則 (昭和六一年五月二七日法律第七三号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日
から施行する。
附 則 (昭和六三年五月二七日法律第六九号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める日から施行
する。
三
前二号に掲げる規定以外の規定 公布の日から起算して一年を超えない範囲内におい
て政令で定める日
附 則 (平成一一年五月一〇日法律第三七号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、平成十二年一月一日から施行する。ただし、第二条第一項、第三項及
び第四項並びに第二十二条の改正規定並びに次条の規定は、核原料物質、核燃料物質及
び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律(平成十一年法律第七十五号)附則第
一条第一号に掲げる規定の施行の日から施行する。
附 則 (平成一一年一二月二二日法律第一六〇号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。
附 則 (平成一六年一二月三日法律第一五五号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から施行する。ただし、附則第十条から第十二条まで、第十四
条から第十七条まで、第十八条第一項及び第三項並びに第十九条から第三十二条までの
規定は、平成十七年十月一日から施行する。
附 則 (平成一七年五月二〇日法律第四四号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から起算して九月を超えない範囲内において政令で定める日
から施行する。
附 則 (平成二〇年六月六日法律第五七号)
この法律は、保険法の施行の日から施行する。
附 則 (平成二一年四月一七日法律第一九号)
この法律は、平成二十二年一月一日から施行する。
別紙 7-6
原子力損害賠償補償契約に関する法律施行令
原子力損害賠償補償契約に関する法律施行令
(昭和三十七年三月六日政令第四十五号)
最終改正:平成二四年一月二五日政令第一二号
内閣は、原子力損害賠償補償契約に関する法律(昭和三十六年法律第百四十八号)の規
定に基づき、この政令を制定する。
(補償損失)
第一条
原子力損害賠償補償契約に関する法律(以下「法」という。)第三条第二号に規定す
る政令で定める状態とは、次の各号に掲げる要件を備える状態をいう。
一
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六
十六号)第二十一条の二、第二十二条第四項、第二十二条の六第二項において準用する
第十二条の二第四項、第三十五条、第三十七条第四項、第四十三条の二第二項におい
て準用する第十二条の二第四項、第四十三条の十八、第四十三条の二十第四項、第四
十三条の二十五第二項において準用する第十二条の二第四項、第四十八条、第五十条
第四項、第五十条の三第二項において準用する第十二条の二第四項、第五十一条の十
六、第五十一条の十八第四項、第五十一条の二十三第二項において準用する第十二条
の二第四項、第五十六条の三第四項、第五十七条第一項若しくは第二項、第五十七条の
二第二項において準用する第十二条の二第四項、第五十七条の四、第五十七条の五、第
五十八条第一項、第五十九条第一項又は第六十条第一項若しくは第二項の規定の違反
で原子力損害の発生の原因となるものがないこと。
二
原子炉の運転等の用に供する施設の損傷で原子力損害の発生の原因となるものがな
いこと。
三
天災地変又は第三者の行為で原子力損害の発生の原因となるものがないこと。
第二条
法第三条第五号に規定する原子力損害であつて政令で定めるものは、津波によつて
生じた原子力損害とする。
(補償料率)
第三条
法第六条に規定する政令で定める料率(以下「補償料率」という。)は万分の三(大学
又は高等専門学校における原子炉の運転等に係る補償契約については、万分の一・五)とす
る。
2
補償料の納付の期日において当該補償契約により原子力損害の賠償に充てることができ
る金額が当該補償契約の補償契約金額に満たない場合においては、当該補償契約の補償
料率は、前項の規定にかかわらず、同項に規定する料率に、当該充てることができる金額を
当該補償契約の補償契約金額で除して得た数を乗じて得た料率とする。
(通知)
第四条
原子力事業者は、法第九条の規定により、次に掲げる事項を政府に対し通知しなけ
ればならない。
一
原子炉の運転に係る補償契約については、次に掲げる事項
イ 原子炉の使用の目的
ロ 原子炉の型式、熱出力及び基数
ハ 原子炉を設置する工場又は事業所(原子炉を船舶に設置する場合にあつては、その
船舶を建造する造船業者の工場又は事業所)の名称及び所在地
ニ 原子炉施設の位置、構造及び設備
ホ 原子炉の運転の開始時期及び予定終了時期
ヘ 原子炉に燃料として使用する核燃料物質の種類及びその年間予定使用量
ト 使用済燃料の処分の方法
チ 責任保険契約に関する事項
二
加工に係る補償契約については、次に掲げる事項
イ 加工施設を設置する工場又は事業所の名称及び所在地
ロ 加工施設の位置、構造及び設備並びに加工の方法
ハ 加工の開始時期及び予定終了時期
ニ 加工する核燃料物質の種類及びその年間予定加工量
ホ 責任保険契約に関する事項
三
再処理に係る補償契約については、次に掲げる事項
イ 再処理施設を設置する工場又は事業所の名称及び所在地
ロ 再処理施設の位置、構造及び設備並びに再処理の方法
ハ 再処理の開始時期及び予定終了時期
ニ 再処理をする使用済燃料の種類及びその年間予定再処理量
ホ 責任保険契約に関する事項
四
核燃料物質の使用に係る補償契約については、次に掲げる事項
イ 使用の目的及び方法
ロ 使用の場所
ハ 使用施設、貯蔵施設又は廃棄施設の位置、構造及び設備
ニ 使用の開始時期及び予定終了時期
ホ 使用する核燃料物質の種類及びその年間予定使用量
ヘ 使用済燃料の処分の方法
ト 責任保険契約に関する事項
五
使用済燃料の貯蔵に係る補償契約については、次に掲げる事項
イ 使用済燃料貯蔵施設を設置する事業所の名称及び所在地
ロ 使用済燃料貯蔵施設の位置、構造及び設備並びに貯蔵の方法
ハ 使用済燃料の貯蔵の開始時期及び予定終了時期
ニ 貯蔵する使用済燃料の種類及び数量
ホ 貯蔵の終了後における使用済燃料の搬出の方法
ヘ 責任保険契約に関する事項
六
廃棄物埋設又は廃棄物管理に係る補償契約については、次に掲げる事項
イ 廃棄物埋設施設又は廃棄物管理施設を設置する事業所の名称及び所在地
ロ 廃棄物埋設施設又は廃棄物管理施設の位置、構造及び設備並びに廃棄の方法
ハ 廃棄物埋設又は廃棄物管理の開始時期及び予定終了時期
ニ 廃棄物埋設又は廃棄物管理により廃棄する核燃料物質又は核燃料物質によつて汚
染された物(原子核分裂生成物を含む。以下この条において同じ。)の種類及び数量
ホ 責任保険契約に関する事項
七
原子力損害の賠償に関する法律施行令(昭和三十七年政令第四十四号)第一条第六
号に規定する運搬に係る補償契約については、次に掲げる事項
イ 運搬の経路及び方法
ロ 運搬の開始時期及び予定終了時期
ハ 運搬する核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の種類及び数量
ニ 責任保険契約に関する事項
八
原子力損害の賠償に関する法律施行令第一条第六号に規定する貯蔵に係る補償契約
については、次に掲げる事項
イ 貯蔵の場所及び方法
ロ 貯蔵の開始時期及び予定終了時期
ハ 貯蔵する核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の種類及び数量
ニ 責任保険契約に関する事項
九
原子力損害の賠償に関する法律施行令第一条第六号に規定する廃棄に係る補償契約
については、次に掲げる事項
イ 廃棄の場所及び方法
ロ 廃棄の開始時期及び予定終了時期
ハ 廃棄に係る核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の運搬の経路及び方
法並びに当該運搬の開始時期及び予定終了時期
ニ 廃棄する核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の種類及び数量
ホ 責任保険契約に関する事項
(補償料の納付)
第五条
原子力事業者は、補償契約の締結の日及びその後毎年その日に応当する日(応当
する日がない場合は、その前日)までに、それぞれの日から始まる一年間(それぞれの日か
らの補償契約の期間が一年間に満たない場合は、その期間)に応ずる補償料を国庫に納付
しなければならない。
(補償金の支払)
第六条
文部科学大臣は、原子力事業者から補償金の支払の請求があつた場合は、当該請
求があつた日から三十日以内に補償金を支払わなければならない。ただし、やむをえない理
由がある場合は、この限りでない。
(補償金の返還)
第七条
文部科学大臣は、法第十三条の規定により、補償金を支払つた日から一年以内に、
当該補償金の額に相当する金額を返還させるものとする。
第八条
削除
(補償契約の解除)
第九条
法第十五条第一項第五号に規定する政令で定める事項は、原子力損害が発生し、
又は発生するおそれがある場合において、原子力損害の防止又は軽減のために必要な措置
を講ずることとする。
(過怠金)
第十条
一
法第十六条に規定する政令で定める事項は、次の各号に掲げるものとする。
原子力損害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、原子力損害の防止又
は軽減のために必要な措置を講ずること。
二
損害賠償の責任の全部又は一部を承認しようとする場合において、あらかじめ、文部科
学大臣の承認を受けること。
三
原子力損害が発生した場合において、直ちにその発生の日時、場所及び損害の状況を
文部科学大臣に通知すること。
四
損害賠償の責任に関する訴訟を提起し、又は提起された場合において、直ちにその旨
を文部科学大臣に通知すること。
第十一条
文部科学大臣は、法第十六条の規定により、原子力事業者が補償金の支払を受
けた日以後において、次の各号に掲げる金額を限度として過怠金を徴収することができる。
一
補償契約の条項で前条第一号又は第二号に掲げるものに該当するものの違反にあつ
ては、補償金の額の十分の一に相当する金額
二
補償契約の条項で前条第三号又は第四号に掲げるものに該当するものの違反にあつ
ては、十万円
(業務の委託)
第十二条
政府が法第十八条第一項の規定により委託することができる業務は、次に掲げる
業務とする。
一
補償金の支払の請求の受付
二
補償損失の金額に関する調査
三
前二号に掲げるもののほか、補償金の支払に関する業務(補償金の額の決定を除く。)
で文部科学省令で定めるもの
2
前項に定めるもののほか、法第十八条第一項の規定による委託に関し必要な事項は、文
部科学省令で定める。
附 則
この政令は、法の施行の日(昭和三十七年三月十五日)から施行する。
附 則 (昭和四六年九月三〇日政令第三二三号)
この政令は、原子力損害の賠償に関する法律及び原子力損害賠償補償契約に関する法律
の一部を改正する法律(昭和四十六年法律第五十三号)の施行の日(昭和四十六年十月一
日)から施行する。
附 則 (昭和五二年六月七日政令第一七八号)
この政令は、公布の日から施行する。
附 則 (昭和五三年一二月二二日政令第三九六号) 抄
(施行期日)
第一条
この政令は、原子力基本法等の一部を改正する法律(昭和五十三年法律第八十六
号。以下「改正法」という。)附則第一条第三号に掲げる規定の施行の日(昭和五十四年一月
四日。以下「改正法の施行の日」という。)から施行する。
附 則 (昭和五四年一一月一六日政令第二八〇号)
1
この政令は、原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律(昭和五十四年法律
第四十四号)の施行の日(昭和五十五年一月一日)から施行する。
附 則 (昭和六一年一一月二二日政令第三四八号)
この政令は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する
法律(昭和六十一年法律第七十三号)の施行の日(昭和六十一年十一月二十六日)から施
行する。
附 則 (昭和六三年九月二七日政令第二八一号) 抄
(施行期日)
第一条
この政令は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改
正する法律(以下「改正法」という。)附則第一条第一号に掲げる規定の施行の日(昭和六十
三年十一月二十六日)から施行する。ただし、第一条中核原料物質、核燃料物質及び原子
炉の規制に関する法律施行令目次の改正規定(「第十三条の十三」を「第十三条の十五」に
改める部分及び「第二十二条」を「第二十一条の三」に定める部分に限る。)、同令第二条の
次に一条を加える改正規定、同令第四条の次に一条を加える改正規定、同令第十一条の次
に一条を加える改正規定、同令第十三条の十三を同令第十三条の十五とし、同条の前に一
条を加える改正規定、同令第十三条の十二を同令第十三条の十三とし、同令第十三条の七
から第十三条の十一までを一条ずつ繰り下げ、同令第十三条の六の次に一条を加える改正
規定、同令第十七条を同令第十六条の二とし、同条の次に一条を加える改正規定、同令第
十八条の前に三条を加える改正規定(第十七条の七に係る部分に限る。)、同令第二十二条
第二項の表の改正規定、同条の前に一条を加える改正規定、同令第二十三条の次に一条
を加える改正規定及び同令第二十四条の改正規定並びに第三条の規定は、改正法附則第
一条第三号に掲げる規定の施行の日(昭和六十四年五月二十六日)から施行する。
附 則 (平成一一年一二月一七日政令第四〇六号)
この政令は、原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律(平成十一年法律第
三十七号)の施行の日(平成十二年一月一日)から施行する。ただし、第一条中原子力損害
の賠償に関する法律施行令第一条の改正規定、同令第二条の表第八号の次に一号を加え
る改正規定、同表第十号の改正規定(「使用済燃料」を「前条第六号ロに掲げる物」に改める
部分に限る。)、同表第十二号の改正規定(「核燃料物質の使用」の下に「、使用済燃料の貯
蔵」を加える部分に限る。)、同表第十三号の改正規定(「核燃料物質の使用」の下に「、使用
済燃料の貯蔵」を加える部分及び「使用済燃料、使用済燃料」を「同条第六号ロに掲げる物、
同号ロに掲げる物」に、「第八号」を「第八号の二」に改める部分に限る。)、同表第十三号の
次に二号を加える改正規定及び同表第十四号の改正規定(「核燃料物質の使用」の下に「、
使用済燃料の貯蔵」を加える部分に限る。)並びに第二条の規定は、核原料物質、核燃料物
質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律(平成十一年法律第七十五号)附
則第一条第一号に掲げる規定の施行の日(平成十二年六月十六日)から施行する。
附 則 (平成一二年六月七日政令第三〇八号) 抄
(施行期日)
第一条
この政令は、内閣法の一部を改正する法律(平成十一年法律第八十八号)の施行の
日(平成十三年一月六日)から施行する。
附 則 (平成一七年一一月二日政令第三三三号) 抄
(施行期日)
第一条
この政令は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改
正する法律の施行の日(平成十七年十二月一日)から施行する。
附 則 (平成一九年一二月一九日政令第三七八号) 抄
この政令は、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律等の一部を改正する法律の施行
の日(平成二十年四月一日)から施行する。
附 則 (平成二一年八月七日政令第二〇一号)
この政令は、平成二十二年一月一日から施行する。
附 則 (平成二四年一月二五日政令第一二号)
この政令は、平成二十四年四月一日から施行する。
(※ なお、第 3 条第 1 項に関連して、「原子力損害の賠償に関する法律施行令(昭和三十七
年政令第四十四号)第二条の表第一号に規定する熱出力が一万キロワットを超える原
子炉の運転に係る補償契約」の補償料率を一万分の二十とする旨の改正が原子力損
害賠償補償契約に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成二十四年一月二十
五日政令第十二号)によりなされており、平成 24 年 4 月 1 日から施行される。)
別紙 7-7
原子力損害賠償補償契約に関する法律施行規則
原子力損害賠償補償契約に関する法律施行規則
(平成二十一年十二月二十四日文部科学省令第三十七号)
原子力損害賠償補償契約に関する法律(昭和三十六年法律第百四十八号)第十八条第二
項及び原子力損害賠償補償契約に関する法律施行令(昭和三十七年政令第四十五号)第
十二条第一項第三号の規定に基づき、原子力損害賠償補償契約に関する法律施行規則を
次のように定める。
(業務の委託の告示)
第一条
原子力損害賠償補償契約に関する法律(昭和三十六年法律第百四十八号)第十八
条第二項に規定する文部科学省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
一
業務の委託を開始する年月日
二
委託した業務の内容
(業務の委託の範囲)
第二条
原子力損害賠償補償契約に関する法律施行令(昭和三十七年政令第四十五号)第
十二条第一項第三号に規定する文部科学省令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一
原子力事業者が原子力損害の賠償の責任の全部又は一部を承認しようとする場合に
あらかじめ文部科学大臣が行う承認(以下この条において「事前承認」という。)に係る申
請の受付
二
事前承認の申請に係る書類の確認及び補正の指示
三
事前承認の申請ごとの被害の状況及び原子力損害の賠償に係る手続の経過の記録
四
事前承認に係る補償金の額の算定
五
原子力事業者に対する事前承認の通知
六
補償金の支払の請求に係る書類の確認及び補正の指示
七
補償金の支払の請求に係る補償金の額の算定
八
前各号に掲げるもののほか、補償金の支払に関し必要な業務のうち軽微なもの
附 則
この省令は、平成二十二年一月一日から施行する。
別紙 7-8
民法(抜粋)
民法 (抜粋)
(明治二十九年四月二十七日法律第八十九号)
第五章 不法行為
(不法行為による損害賠償)
第七百九条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、
これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場
合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の
損害に対しても、その賠償をしなければならない。
(近親者に対する損害の賠償)
第七百十一条
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その
財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
(責任能力)
第七百十二条
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識す
るに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。
第七百十三条
精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に
他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時
的にその状態を招いたときは、この限りでない。
(責任無能力者の監督義務者等の責任)
第七百十四条
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その
責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害
を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を
怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2
監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
(使用者等の責任)
第七百十五条
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について
第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業
の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったと
きは、この限りでない。
2
使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3
前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
(注文者の責任)
第七百十六条
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任
を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでな
い。
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第七百十七条
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じた
ときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占
有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しな
ければならない。
2
前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3
前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者
又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
(動物の占有者等の責任)
第七百十八条
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただ
し、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
2
占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。
(共同不法行為者の責任)
第七百十九条
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯して
その損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知る
ことができないときも、同様とする。
2
行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。
(正当防衛及び緊急避難)
第七百二十条
他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益
を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被
害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
2
前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合につ
いて準用する。
(損害賠償請求権に関する胎児の権利能力)
第七百二十一条
胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。
(損害賠償の方法及び過失相殺)
第七百二十二条
2
第四百十七条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることがで
きる。
(名誉毀損における原状回復)
第七百二十三条
他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損
害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることがで
きる。
(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
第七百二十四条
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害
及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時
から二十年を経過したときも、同様とする。
別紙 7-9
民事訴訟法(抜粋)
民事訴訟法 (抜粋)
(平成八年六月二十六日法律第百九号)
(※ なお、民事訴訟法3条の2~3条の12は、民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する
法律(平成23年5月2日法律第36号)により追加され、その施行期日は平成24年4月1日であ
るが、以下では改正後の条文を記載した。)
第二章 裁判所
第一節 日本の裁判所の管轄権
(被告の住所等による管轄権)
第三条の二
裁判所は、人に対する訴えについて、その住所が日本国内にあるとき、住所が
ない場合又は住所が知れない場合にはその居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又
は居所が知れない場合には訴えの提起前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に
最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)は、管轄権を有する。
2
裁判所は、大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人
に対する訴えについて、前項の規定にかかわらず、管轄権を有する。
3
裁判所は、法人その他の社団又は財団に対する訴えについて、その主たる事務所又は営
業所が日本国内にあるとき、事務所若しくは営業所がない場合又はその所在地が知れない
場合には代表者その他の主たる業務担当者の住所が日本国内にあるときは、管轄権を有す
る。
(契約上の債務に関する訴え等の管轄権)
第三条の三
次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定めるときは、日本の裁判所に
提起することができる。
一
契約上の債務の履行の請求を目的とする訴え又は契約上の債務に関して行われた事
務管理若しくは生じた不当利得に係る請求、契約上の債務の不履行による損害賠償の請
求その他契約上の債務に関する請求を目的とする訴え 契約において定められた当該債
務の履行地が日本国内にあるとき、又は契約において選択された地の法によれば当該債
務の履行地が日本国内にあるとき。
二
手形又は小切手による金銭の支払の請求を目的とする訴え 手形又は小切手の支払
地が日本国内にあるとき。
三
財産権上の訴え 請求の目的が日本国内にあるとき、又は当該訴えが金銭の支払を請
求するものである場合には差し押さえることができる被告の財産が日本国内にあるとき(そ
の財産の価額が著しく低いときを除く。)。
四
事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に
関するもの 当該事務所又は営業所が日本国内にあるとき。
五
日本において事業を行う者(日本において取引を継続してする外国会社(会社法(平成
十七年法律第八十六号)第二条第二号に規定する外国会社をいう。)を含む。)に対する
訴え 当該訴えがその者の日本における業務に関するものであるとき。
六
船舶債権その他船舶を担保とする債権に基づく訴え 船舶が日本国内にあるとき。
七
会社その他の社団又は財団に関する訴えで次に掲げるもの 社団又は財団が法人で
ある場合にはそれが日本の法令により設立されたものであるとき、法人でない場合にはそ
の主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき。
イ 会社その他の社団からの社員若しくは社員であった者に対する訴え、社員からの社員
若しくは社員であった者に対する訴え又は社員であった者からの社員に対する訴えで、
社員としての資格に基づくもの
ロ 社団又は財団からの役員又は役員であった者に対する訴えで役員としての資格に基
づくもの
ハ 会社からの発起人若しくは発起人であった者又は検査役若しくは検査役であった者に
対する訴えで発起人又は検査役としての資格に基づくもの
ニ 会社その他の社団の債権者からの社員又は社員であった者に対する訴えで社員とし
ての資格に基づくもの
八
不法行為に関する訴え 不法行為があった地が日本国内にあるとき(外国で行われた
加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発
生が通常予見することのできないものであったときを除く。)。
九
船舶の衝突その他海上の事故に基づく損害賠償の訴え 損害を受けた船舶が最初に
到達した地が日本国内にあるとき。
十
海難救助に関する訴え 海難救助があった地又は救助された船舶が最初に到達した地
が日本国内にあるとき。
十一
不動産に関する訴え 不動産が日本国内にあるとき。
十二
相続権若しくは遺留分に関する訴え又は遺贈その他死亡によって効力を生ずべき行
為に関する訴え 相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき、住所が
ない場合又は住所が知れない場合には相続開始の時における被相続人の居所が日本国
内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には被相続人が相続開始の前
に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所
を有していたときを除く。)。
十三
相続債権その他相続財産の負担に関する訴えで前号に掲げる訴えに該当しないも
の 同号に定めるとき。
(消費者契約及び労働関係に関する訴えの管轄権)
第三条の四
消費者(個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるも
のを除く。)をいう。以下同じ。)と事業者(法人その他の社団又は財団及び事業として又は事
業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。以下同じ。)との間で締結される契
約(労働契約を除く。以下「消費者契約」という。)に関する消費者からの事業者に対する訴え
は、訴えの提起の時又は消費者契約の締結の時における消費者の住所が日本国内にある
ときは、日本の裁判所に提起することができる。
2
労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間
に生じた民事に関する紛争(以下「個別労働関係民事紛争」という。)に関する労働者からの
事業主に対する訴えは、個別労働関係民事紛争に係る労働契約における労務の提供の地
(その地が定まっていない場合にあっては、労働者を雇い入れた事業所の所在地)が日本国
内にあるときは、日本の裁判所に提起することができる。
3
消費者契約に関する事業者からの消費者に対する訴え及び個別労働関係民事紛争に関
する事業主からの労働者に対する訴えについては、前条の規定は、適用しない。
(管轄権の専属)
第三条の五
会社法第七編第二章に規定する訴え(同章第四節及び第六節に規定するものを
除く。)、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号)第六
章第二節に規定する訴えその他これらの法令以外の日本の法令により設立された社団又は
財団に関する訴えでこれらに準ずるものの管轄権は、日本の裁判所に専属する。
2
登記又は登録に関する訴えの管轄権は、登記又は登録をすべき地が日本国内にあるとき
は、日本の裁判所に専属する。
3
知的財産権(知的財産基本法(平成十四年法律第百二十二号)第二条第二項に規定する
知的財産権をいう。)のうち設定の登録により発生するものの存否又は効力に関する訴えの
管轄権は、その登録が日本においてされたものであるときは、日本の裁判所に専属する。
(併合請求における管轄権)
第三条の六
一の訴えで数個の請求をする場合において、日本の裁判所が一の請求につい
て管轄権を有し、他の請求について管轄権を有しないときは、当該一の請求と他の請求との
間に密接な関連があるときに限り、日本の裁判所にその訴えを提起することができる。ただし、
数人からの又は数人に対する訴えについては、第三十八条前段に定める場合に限る。
(管轄権に関する合意)
第三条の七
当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかに
ついて定めることができる。
2
前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力
を生じない。
3
第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知
覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報
処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によっ
てされたものとみなして、前項の規定を適用する。
4
外国の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意は、その裁判所が法律上又は
事実上裁判権を行うことができないときは、これを援用することができない。
5
将来において生ずる消費者契約に関する紛争を対象とする第一項の合意は、次に掲げる
場合に限り、その効力を有する。
一
消費者契約の締結の時において消費者が住所を有していた国の裁判所に訴えを提起
することができる旨の合意(その国の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意
については、次号に掲げる場合を除き、その国以外の国の裁判所にも訴えを提起すること
を妨げない旨の合意とみなす。)であるとき。
二
消費者が当該合意に基づき合意された国の裁判所に訴えを提起したとき、又は事業者
が日本若しくは外国の裁判所に訴えを提起した場合において、消費者が当該合意を援用
したとき。
6
将来において生ずる個別労働関係民事紛争を対象とする第一項の合意は、次に掲げる場
合に限り、その効力を有する。
一
労働契約の終了の時にされた合意であって、その時における労務の提供の地がある国
の裁判所に訴えを提起することができる旨を定めたもの(その国の裁判所にのみ訴えを提
起することができる旨の合意については、次号に掲げる場合を除き、その国以外の国の裁
判所にも訴えを提起することを妨げない旨の合意とみなす。)であるとき。
二
労働者が当該合意に基づき合意された国の裁判所に訴えを提起したとき、又は事業主
が日本若しくは外国の裁判所に訴えを提起した場合において、労働者が当該合意を援用
したとき。
(応訴による管轄権)
第三条の八
被告が日本の裁判所が管轄権を有しない旨の抗弁を提出しないで本案につい
て弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、裁判所は、管轄権を有する。
(特別の事情による訴えの却下)
第三条の九
裁判所は、訴えについて日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合(日本
の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意に基づき訴えが提起された場合を除
く。)においても、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情
を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正
かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、その訴えの全
部又は一部を却下することができる。
(管轄権が専属する場合の適用除外)
第三条の十
第三条の二から第三条の四まで及び第三条の六から前条までの規定は、訴え
について法令に日本の裁判所の管轄権の専属に関する定めがある場合には、適用しない。
(職権証拠調べ)
第三条の十一
裁判所は、日本の裁判所の管轄権に関する事項について、職権で証拠調べ
をすることができる。
(管轄権の標準時)
第三条の十二
日本の裁判所の管轄権は、訴えの提起の時を標準として定める。
第二節 管轄
(普通裁判籍による管轄)
第四条
2
訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
人の普通裁判籍は、住所により、日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居
所により、日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所により定まる。
3
大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人が前項の規
定により普通裁判籍を有しないときは、その者の普通裁判籍は、最高裁判所規則で定める地
にあるものとする。
4
法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務
所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
5
外国の社団又は財団の普通裁判籍は、前項の規定にかかわらず、日本における主たる事
務所又は営業所により、日本国内に事務所又は営業所がないときは日本における代表者そ
の他の主たる業務担当者の住所により定まる。
6
国の普通裁判籍は、訴訟について国を代表する官庁の所在地により定まる。
(財産権上の訴え等についての管轄)
第五条
次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起
することができる。
一
財産権上の訴え
義務履行地
二
手形又は小切手による金銭の支払の請求を目的とする訴え
手形又は小切手の支払地
三
船員に対する財産権上の訴え
船舶の船籍の所在地
四
日本国内に住所(法人にあっては、事務所又は営業所。以下この号において同じ。)が
ない者又は住所が知れない者に対する財産権上の訴え
請求若しくはその担保の目的又は差し押さえることができる被告の財産の所在地
五
事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に
関するもの
当該事務所又は営業所の所在地
六
船舶所有者その他船舶を利用する者に対する船舶又は航海に関する訴え
船舶の船籍の所在地
七
船舶債権その他船舶を担保とする債権に基づく訴え
船舶の所在地
八
会社その他の社団又は財団に関する訴えで次に掲げるもの
社団又は財団の普通裁判籍の所在地
イ 会社その他の社団からの社員若しくは社員であった者に対する訴え、社員からの社員
若しくは社員であった者に対する訴え又は社員であった者からの社員に対する訴えで、
社員としての資格に基づくもの
ロ 社団又は財団からの役員又は役員であった者に対する訴えで役員としての資格に基
づくもの
ハ 会社からの発起人若しくは発起人であった者又は検査役若しくは検査役であった者に
対する訴えで発起人又は検査役としての資格に基づくもの
ニ 会社その他の社団の債権者からの社員又は社員であった者に対する訴えで社員とし
ての資格に基づくもの
九
不法行為に関する訴え
不法行為があった地
十
船舶の衝突その他海上の事故に基づく損害賠償の訴え
損害を受けた船舶が最初に到達した地
十一
海難救助に関する訴え
海難救助があった地又は救助された船舶が最初に到達した地
十二
不動産に関する訴え
不動産の所在地
十三
登記又は登録に関する訴え
登記又は登録をすべき地
十四
相続権若しくは遺留分に関する訴え又は遺贈その他死亡によって効力を生ずべき行
為に関する訴え
相続開始の時における被相続人の普通裁判籍の所在地
十五
相続債権その他相続財産の負担に関する訴えで前号に掲げる訴えに該当しないも
の(相続財産の全部又は一部が同号に定める地を管轄する裁判所の管轄区域内にあると
きに限る。)
同号に定める地
(特許権等に関する訴え等の管轄)
第六条
特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の
権利に関する訴え(以下「特許権等に関する訴え」という。)について、前二条の規定によれば
次の各号に掲げる裁判所が管轄権を有すべき場合には、その訴えは、それぞれ当該各号に
定める裁判所の管轄に専属する。
一
東京高等裁判所、名古屋高等裁判所、仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区
域内に所在する地方裁判所
東京地方裁判所
二
大阪高等裁判所、広島高等裁判所、福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域
内に所在する地方裁判所
大阪地方裁判所
2
特許権等に関する訴えについて、前二条の規定により前項各号に掲げる裁判所の管轄区
域内に所在する簡易裁判所が管轄権を有する場合には、それぞれ当該各号に定める裁判
所にも、その訴えを提起することができる。
3
第一項第二号に定める裁判所が第一審としてした特許権等に関する訴えについての終局
判決に対する控訴は、東京高等裁判所の管轄に専属する。ただし、第二十条の二第一項の
規定により移送された訴訟に係る訴えについての終局判決に対する控訴については、この
限りでない。
(意匠権等に関する訴えの管轄)
第六条の二
意匠権、商標権、著作者の権利(プログラムの著作物についての著作者の権利
を除く。)、出版権、著作隣接権若しくは育成者権に関する訴え又は不正競争(不正競争防止
法(平成五年法律第四十七号)第二条第一項に規定する不正競争をいう。)による営業上の
利益の侵害に係る訴えについて、第四条又は第五条の規定により次の各号に掲げる裁判所
が管轄権を有する場合には、それぞれ当該各号に定める裁判所にも、その訴えを提起する
ことができる。
一
前条第一項第一号に掲げる裁判所(東京地方裁判所を除く。) 東京地方裁判所
二
前条第一項第二号に掲げる裁判所(大阪地方裁判所を除く。) 大阪地方裁判所
(併合請求における管轄)
第七条
一の訴えで数個の請求をする場合には、第四条から前条まで(第六条第三項を除
く。)の規定により一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができ
る。ただし、数人からの又は数人に対する訴えについては、第三十八条前段に定める場合に
限る。
(訴訟の目的の価額の算定)
第八条
裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)の規定により管轄が訴訟の目的の価額に
より定まるときは、その価額は、訴えで主張する利益によって算定する。
2
前項の価額を算定することができないとき、又は極めて困難であるときは、その価額は百
四十万円を超えるものとみなす。
(併合請求の場合の価額の算定)
第九条
一の訴えで数個の請求をする場合には、その価額を合算したものを訴訟の目的の価
額とする。ただし、その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合におけるその
各請求については、この限りでない。
2
果実、損害賠償、違約金又は費用の請求が訴訟の附帯の目的であるときは、その価額は、
訴訟の目的の価額に算入しない。
(管轄裁判所の指定)
第十条
管轄裁判所が法律上又は事実上裁判権を行うことができないときは、その裁判所の
直近上級の裁判所は、申立てにより、決定で、管轄裁判所を定める。
2
裁判所の管轄区域が明確でないため管轄裁判所が定まらないときは、関係のある裁判所
に共通する直近上級の裁判所は、申立てにより、決定で、管轄裁判所を定める。
3
前二項の決定に対しては、不服を申し立てることができない。
(管轄の合意)
第十一条
2
当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力
を生じない。
3
第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知
覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報
処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によっ
てされたものとみなして、前項の規定を適用する。
(応訴管轄)
第十二条
被告が第一審裁判所において管轄違いの抗弁を提出しないで本案について弁論
をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判所は、管轄権を有する。
(専属管轄の場合の適用除外等)
第十三条
第四条第一項、第五条、第六条第二項、第六条の二、第七条及び前二条の規定
は、訴えについて法令に専属管轄の定めがある場合には、適用しない。
2
特許権等に関する訴えについて、第七条又は前二条の規定によれば第六条第一項各号に
定める裁判所が管轄権を有すべき場合には、前項の規定にかかわらず、第七条又は前二条
の規定により、その裁判所は、管轄権を有する。
(職権証拠調べ)
第十四条
裁判所は、管轄に関する事項について、職権で証拠調べをすることができる。
(管轄の標準時)
第十五条
裁判所の管轄は、訴えの提起の時を標準として定める。
(管轄違いの場合の取扱い)
第十六条
裁判所は、訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てに
より又は職権で、これを管轄裁判所に移送する。
2
地方裁判所は、訴訟がその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する場合においても、相
当と認めるときは、前項の規定にかかわらず、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一
部について自ら審理及び裁判をすることができる。ただし、訴訟がその簡易裁判所の専属管
轄(当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く。)に属する場合は、この限りで
ない。
(遅滞を避ける等のための移送)
第十七条
第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受
けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい
遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は
職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。
(簡易裁判所の裁量移送)
第十八条
簡易裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、申
立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送す
ることができる。
(必要的移送)
第十九条
第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者の申立て及び
相手方の同意があるときは、訴訟の全部又は一部を申立てに係る地方裁判所又は簡易裁判
所に移送しなければならない。ただし、移送により著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき、
又はその申立てが、簡易裁判所からその所在地を管轄する地方裁判所への移送の申立て
以外のものであって、被告が本案について弁論をし、若しくは弁論準備手続において申述を
した後にされたものであるときは、この限りでない。
2
簡易裁判所は、その管轄に属する不動産に関する訴訟につき被告の申立てがあるときは、
訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送しなければならない。ただ
し、その申立ての前に被告が本案について弁論をした場合は、この限りでない。
(専属管轄の場合の移送の制限)
第二十条
前三条の規定は、訴訟がその係属する裁判所の専属管轄(当事者が第十一条の
規定により合意で定めたものを除く。)に属する場合には、適用しない。
2
特許権等に関する訴えに係る訴訟について、第十七条又は前条第一項の規定によれば第
六条第一項各号に定める裁判所に移送すべき場合には、前項の規定にかかわらず、第十七
条又は前条第一項の規定を適用する。
(特許権等に関する訴え等に係る訴訟の移送)
第二十条の二
第六条第一項各号に定める裁判所は、特許権等に関する訴えに係る訴訟が
同項の規定によりその管轄に専属する場合においても、当該訴訟において審理すべき専門
技術的事項を欠くことその他の事情により著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認
めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を第四条、第五条若しくは第十
一条の規定によれば管轄権を有すべき地方裁判所又は第十九条第一項の規定によれば移
送を受けるべき地方裁判所に移送することができる。
2
東京高等裁判所は、第六条第三項の控訴が提起された場合において、その控訴審におい
て審理すべき専門技術的事項を欠くことその他の事情により著しい損害又は遅滞を避けるた
め必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を大阪高等裁
判所に移送することができる。
(即時抗告)
第二十一条
移送の決定及び移送の申立てを却下した決定に対しては、即時抗告をすること
ができる。
(移送の裁判の拘束力等)
第二十二条
確定した移送の裁判は、移送を受けた裁判所を拘束する。
2
移送を受けた裁判所は、更に事件を他の裁判所に移送することができない。
3
移送の裁判が確定したときは、訴訟は、初めから移送を受けた裁判所に係属していたもの
とみなす。
(外国裁判所の確定判決の効力)
第百十八条
外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、そ
の効力を有する。
一
法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
二
敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに
類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
三
判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
四
相互の保証があること。
別紙 7-10
法の適用に関する通則法
法の適用に関する通則法
(平成十八年六月二十一日法律第七十八号)
法例(明治三十一年法律第十号)の全部を改正する。
第一章 総則(第一条)
第二章 法律に関する通則(第二条・第三条)
第三章 準拠法に関する通則
第一節 人(第四条―第六条)
第二節 法律行為(第七条―第十二条)
第三節 物権等(第十三条)
第四節 債権(第十四条―第二十三条)
第五節 親族(第二十四条―第三十五条)
第六節 相続(第三十六条・第三十七条)
第七節 補則(第三十八条―第四十三条)
附則
第一章 総則
(趣旨)
第一条
この法律は、法の適用に関する通則について定めるものとする。
第二章 法律に関する通則
(法律の施行期日)
第二条
法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。ただし、法律でこ
れと異なる施行期日を定めたときは、その定めによる。
(法律と同一の効力を有する慣習)
第三条
公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は
法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する。
第三章 準拠法に関する通則
第一節 人
(人の行為能力)
第四条
人の行為能力は、その本国法によって定める。
2
法律行為をした者がその本国法によれば行為能力の制限を受けた者となるときであっても
行為地法によれば行為能力者となるべきときは、当該法律行為の当時そのすべての当事者
が法を同じくする地に在った場合に限り、当該法律行為をした者は、前項の規定にかかわら
ず、行為能力者とみなす。
3
前項の規定は、親族法又は相続法の規定によるべき法律行為及び行為地と法を異にする
地に在る不動産に関する法律行為については、適用しない。
(後見開始の審判等)
第五条
裁判所は、成年被後見人、被保佐人又は被補助人となるべき者が日本に住所若しく
は居所を有するとき又は日本の国籍を有するときは、日本法により、後見開始、保佐開始又
は補助開始の審判(以下「後見開始の審判等」と総称する。)をすることができる。
(失踪の宣告)
第六条
裁判所は、不在者が生存していたと認められる最後の時点において、不在者が日本
に住所を有していたとき又は日本の国籍を有していたときは、日本法により、失踪の宣告をす
ることができる。
2
前項に規定する場合に該当しないときであっても、裁判所は、不在者の財産が日本に在る
ときはその財産についてのみ、不在者に関する法律関係が日本法によるべきときその他法
律関係の性質、当事者の住所又は国籍その他の事情に照らして日本に関係があるときはそ
の法律関係についてのみ、日本法により、失踪の宣告をすることができる。
第二節 法律行為
(当事者による準拠法の選択)
第七条
法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法によ
る。
(当事者による準拠法の選択がない場合)
第八条
前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の
当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。
2
前項の場合において、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うもので
あるときは、その給付を行う当事者の常居所地法(その当事者が当該法律行為に関係する
事業所を有する場合にあっては当該事業所の所在地の法、その当事者が当該法律行為に
関係する二以上の事業所で法を異にする地に所在するものを有する場合にあってはその主
たる事業所の所在地の法)を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。
3
第一項の場合において、不動産を目的物とする法律行為については、前項の規定にかか
わらず、その不動産の所在地法を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。
(当事者による準拠法の変更)
第九条
当事者は、法律行為の成立及び効力について適用すべき法を変更することができる。
ただし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することがで
きない。
(法律行為の方式)
第十条
法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法(当該法律行為の
後に前条の規定による変更がされた場合にあっては、その変更前の法)による。
2
前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は、有効とする。
3
法を異にする地に在る者に対してされた意思表示については、前項の規定の適用に当たっ
ては、その通知を発した地を行為地とみなす。
4
法を異にする地に在る者の間で締結された契約の方式については、前二項の規定は、適
用しない。この場合においては、第一項の規定にかかわらず、申込みの通知を発した地の法
又は承諾の通知を発した地の法のいずれかに適合する契約の方式は、有効とする。
5
前三項の規定は、動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利を設定し
又は処分する法律行為の方式については、適用しない。
(消費者契約の特例)
第十一条
消費者(個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるもの
を除く。)をいう。以下この条において同じ。)と事業者(法人その他の社団又は財団及び事業
として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。以下この条において
同じ。)との間で締結される契約(労働契約を除く。以下この条において「消費者契約」とい
う。)の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用す
べき法が消費者の常居所地法以外の法である場合であっても、消費者がその常居所地法中
の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を事業者に対し表示したときは、当該消費者契約
の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。
2
消費者契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、第八条の規
定にかかわらず、当該消費者契約の成立及び効力は、消費者の常居所地法による。
3
消費者契約の成立について第七条の規定により消費者の常居所地法以外の法が選択さ
れた場合であっても、当該消費者契約の方式について消費者がその常居所地法中の特定の
強行規定を適用すべき旨の意思を事業者に対し表示したときは、前条第一項、第二項及び
第四項の規定にかかわらず、当該消費者契約の方式に関しその強行規定の定める事項に
ついては、専らその強行規定を適用する。
4
消費者契約の成立について第七条の規定により消費者の常居所地法が選択された場合
において、当該消費者契約の方式について消費者が専らその常居所地法によるべき旨の意
思を事業者に対し表示したときは、前条第二項及び第四項の規定にかかわらず、当該消費
者契約の方式は、専ら消費者の常居所地法による。
5
消費者契約の成立について第七条の規定による選択がないときは、前条第一項、第二項
及び第四項の規定にかかわらず、当該消費者契約の方式は、消費者の常居所地法による。
6
前各項の規定は、次のいずれかに該当する場合には、適用しない。
一
事業者の事業所で消費者契約に関係するものが消費者の常居所地と法を異にする地
に所在した場合であって、消費者が当該事業所の所在地と法を同じくする地に赴いて当該
消費者契約を締結したとき。ただし、消費者が、当該事業者から、当該事業所の所在地と
法を同じくする地において消費者契約を締結することについての勧誘をその常居所地にお
いて受けていたときを除く。
二
事業者の事業所で消費者契約に関係するものが消費者の常居所地と法を異にする地
に所在した場合であって、消費者が当該事業所の所在地と法を同じくする地において当該
消費者契約に基づく債務の全部の履行を受けたとき、又は受けることとされていたとき。た
だし、消費者が、当該事業者から、当該事業所の所在地と法を同じくする地において債務
の全部の履行を受けることについての勧誘をその常居所地において受けていたときを除く。
三
消費者契約の締結の当時、事業者が、消費者の常居所を知らず、かつ、知らなかったこ
とについて相当の理由があるとき。
四
消費者契約の締結の当時、事業者が、その相手方が消費者でないと誤認し、かつ、誤
認したことについて相当の理由があるとき。
(労働契約の特例)
第十二条
労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更
により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合で
あっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適
用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しそ
の強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。
2
前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その
労務を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事
業所の所在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と
推定する。
3
労働契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、当該労働契約
の成立及び効力については、第八条第二項の規定にかかわらず、当該労働契約において労
務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。
第三節 物権等
(物権及びその他の登記をすべき権利)
第十三条
動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利は、その目的物の
所在地法による。
2
前項の規定にかかわらず、同項に規定する権利の得喪は、その原因となる事実が完成し
た当時におけるその目的物の所在地法による。
第四節 債権
(事務管理及び不当利得)
第十四条
事務管理又は不当利得によって生ずる債権の成立及び効力は、その原因となる事
実が発生した地の法による。
(明らかにより密接な関係がある地がある場合の例外)
第十五条
前条の規定にかかわらず、事務管理又は不当利得によって生ずる債権の成立及
び効力は、その原因となる事実が発生した当時において当事者が法を同じくする地に常居所
を有していたこと、当事者間の契約に関連して事務管理が行われ又は不当利得が生じたこと
その他の事情に照らして、明らかに同条の規定により適用すべき法の属する地よりも密接な
関係がある他の地があるときは、当該他の地の法による。
(当事者による準拠法の変更)
第十六条
事務管理又は不当利得の当事者は、その原因となる事実が発生した後において、
事務管理又は不当利得によって生ずる債権の成立及び効力について適用すべき法を変更
することができる。ただし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に
対抗することができない。
(不法行為)
第十七条
不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地
の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであった
ときは、加害行為が行われた地の法による。
(生産物責任の特例)
第十八条
前条の規定にかかわらず、生産物(生産され又は加工された物をいう。以下この条
において同じ。)で引渡しがされたものの瑕疵により他人の生命、身体又は財産を侵害する
不法行為によって生ずる生産業者(生産物を業として生産し、加工し、輸入し、輸出し、流通さ
せ、又は販売した者をいう。以下この条において同じ。)又は生産物にその生産業者と認める
ことができる表示をした者(以下この条において「生産業者等」と総称する。)に対する債権の
成立及び効力は、被害者が生産物の引渡しを受けた地の法による。ただし、その地における
生産物の引渡しが通常予見することのできないものであったときは、生産業者等の主たる事
業所の所在地の法(生産業者等が事業所を有しない場合にあっては、その常居所地法)によ
る。
(名誉又は信用の毀損の特例)
第十九条
第十七条の規定にかかわらず、他人の名誉又は信用を毀損する不法行為によっ
て生ずる債権の成立及び効力は、被害者の常居所地法(被害者が法人その他の社団又は
財団である場合にあっては、その主たる事業所の所在地の法)による。
(明らかにより密接な関係がある地がある場合の例外)
第二十条
前三条の規定にかかわらず、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、不
法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと、当事者間の契
約に基づく義務に違反して不法行為が行われたことその他の事情に照らして、明らかに前三
条の規定により適用すべき法の属する地よりも密接な関係がある他の地があるときは、当該
他の地の法による。
(当事者による準拠法の変更)
第二十一条
不法行為の当事者は、不法行為の後において、不法行為によって生ずる債権の
成立及び効力について適用すべき法を変更することができる。ただし、第三者の権利を害す
ることとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない。
(不法行為についての公序による制限)
第二十二条
不法行為について外国法によるべき場合において、当該外国法を適用すべき事
実が日本法によれば不法とならないときは、当該外国法に基づく損害賠償その他の処分の
請求は、することができない。
2
不法行為について外国法によるべき場合において、当該外国法を適用すべき事実が当該
外国法及び日本法により不法となるときであっても、被害者は、日本法により認められる損害
賠償その他の処分でなければ請求することができない。
(債権の譲渡)
第二十三条
債権の譲渡の債務者その他の第三者に対する効力は、譲渡に係る債権につい
て適用すべき法による。
第五節 親族
(婚姻の成立及び方式)
第二十四条
婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。
2
婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。
3
前項の規定にかかわらず、当事者の一方の本国法に適合する方式は、有効とする。ただし、
日本において婚姻が挙行された場合において、当事者の一方が日本人であるときは、この限
りでない。
(婚姻の効力)
第二十五条
婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない
場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないと
きは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。
(夫婦財産制)
第二十六条
2
前条の規定は、夫婦財産制について準用する。
前項の規定にかかわらず、夫婦が、その署名した書面で日付を記載したものにより、次に
掲げる法のうちいずれの法によるべきかを定めたときは、夫婦財産制は、その法による。この
場合において、その定めは、将来に向かってのみその効力を生ずる。
3
一
夫婦の一方が国籍を有する国の法
二
夫婦の一方の常居所地法
三
不動産に関する夫婦財産制については、その不動産の所在地法
前二項の規定により外国法を適用すべき夫婦財産制は、日本においてされた法律行為及
び日本に在る財産については、善意の第三者に対抗することができない。この場合において、
その第三者との間の関係については、夫婦財産制は、日本法による。
4
前項の規定にかかわらず、第一項又は第二項の規定により適用すべき外国法に基づいて
された夫婦財産契約は、日本においてこれを登記したときは、第三者に対抗することができる。
(離婚)
第二十七条
第二十五条の規定は、離婚について準用する。ただし、夫婦の一方が日本に常
居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。
(嫡出である子の親子関係の成立)
第二十八条
夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべき
ときは、その子は、嫡出である子とする。
2
夫が子の出生前に死亡したときは、その死亡の当時における夫の本国法を前項の夫の本
国法とみなす。
(嫡出でない子の親子関係の成立)
第二十九条
嫡出でない子の親子関係の成立は、父との間の親子関係については子の出生
の当時における父の本国法により、母との間の親子関係についてはその当時における母の
本国法による。この場合において、子の認知による親子関係の成立については、認知の当時
における子の本国法によればその子又は第三者の承諾又は同意があることが認知の要件
であるときは、その要件をも備えなければならない。
2
子の認知は、前項前段の規定により適用すべき法によるほか、認知の当時における認知
する者又は子の本国法による。この場合において、認知する者の本国法によるときは、同項
後段の規定を準用する。
3
父が子の出生前に死亡したときは、その死亡の当時における父の本国法を第一項の父の
本国法とみなす。前項に規定する者が認知前に死亡したときは、その死亡の当時におけるそ
の者の本国法を同項のその者の本国法とみなす。
(準正)
第三十条
子は、準正の要件である事実が完成した当時における父若しくは母又は子の本国
法により準正が成立するときは、嫡出子の身分を取得する。
2
前項に規定する者が準正の要件である事実の完成前に死亡したときは、その死亡の当時
におけるその者の本国法を同項のその者の本国法とみなす。
(養子縁組)
第三十一条
養子縁組は、縁組の当時における養親となるべき者の本国法による。この場合
において、養子となるべき者の本国法によればその者若しくは第三者の承諾若しくは同意又
は公的機関の許可その他の処分があることが養子縁組の成立の要件であるときは、その要
件をも備えなければならない。
2
養子とその実方の血族との親族関係の終了及び離縁は、前項前段の規定により適用すべ
き法による。
(親子間の法律関係)
第三十二条
親子間の法律関係は、子の本国法が父又は母の本国法(父母の一方が死亡し、
又は知れない場合にあっては、他の一方の本国法)と同一である場合には子の本国法により、
その他の場合には子の常居所地法による。
(その他の親族関係等)
第三十三条
第二十四条から前条までに規定するもののほか、親族関係及びこれによって生
ずる権利義務は、当事者の本国法によって定める。
(親族関係についての法律行為の方式)
第三十四条
第二十五条から前条までに規定する親族関係についての法律行為の方式は、
当該法律行為の成立について適用すべき法による。
2
前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は、有効とする。
(後見等)
第三十五条
後見、保佐又は補助(以下「後見等」と総称する。)は、被後見人、被保佐人又は
被補助人(次項において「被後見人等」と総称する。)の本国法による。
2
前項の規定にかかわらず、外国人が被後見人等である場合であって、次に掲げるときは、
後見人、保佐人又は補助人の選任の審判その他の後見等に関する審判については、日本
法による。
一
当該外国人の本国法によればその者について後見等が開始する原因がある場合で
あって、日本における後見等の事務を行う者がないとき。
二
日本において当該外国人について後見開始の審判等があったとき。
第六節 相続
(相続)
第三十六条
相続は、被相続人の本国法による。
(遺言)
第三十七条
2
遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。
遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。
第七節 補則
(本国法)
第三十八条
当事者が二以上の国籍を有する場合には、その国籍を有する国のうちに当事者
が常居所を有する国があるときはその国の法を、その国籍を有する国のうちに当事者が常居
所を有する国がないときは当事者に最も密接な関係がある国の法を当事者の本国法とする。
ただし、その国籍のうちのいずれかが日本の国籍であるときは、日本法を当事者の本国法と
する。
2
当事者の本国法によるべき場合において、当事者が国籍を有しないときは、その常居所地
法による。ただし、第二十五条(第二十六条第一項及び第二十七条において準用する場合を
含む。)及び第三十二条の規定の適用については、この限りでない。
3
当事者が地域により法を異にする国の国籍を有する場合には、その国の規則に従い指定
される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある地域の法)
を当事者の本国法とする。
(常居所地法)
第三十九条
当事者の常居所地法によるべき場合において、その常居所が知れないときは、
その居所地法による。ただし、第二十五条(第二十六条第一項及び第二十七条において準
用する場合を含む。)の規定の適用については、この限りでない。
(人的に法を異にする国又は地の法)
第四十条
当事者が人的に法を異にする国の国籍を有する場合には、その国の規則に従い
指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある法)を
当事者の本国法とする。
2
前項の規定は、当事者の常居所地が人的に法を異にする場合における当事者の常居所
地法で第二十五条(第二十六条第一項及び第二十七条において準用する場合を含む。)、第
二十六条第二項第二号、第三十二条又は第三十八条第二項の規定により適用されるもの及
び夫婦に最も密接な関係がある地が人的に法を異にする場合における夫婦に最も密接な関
係がある地の法について準用する。
(反致)
第四十一条
当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべ
きときは、日本法による。ただし、第二十五条(第二十六条第一項及び第二十七条において
準用する場合を含む。)又は第三十二条の規定により当事者の本国法によるべき場合は、こ
の限りでない。
(公序)
第四十二条
外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗
に反するときは、これを適用しない。
(適用除外)
第四十三条
この章の規定は、夫婦、親子その他の親族関係から生ずる扶養の義務について
は、適用しない。ただし、第三十九条本文の規定の適用については、この限りでない。
2
この章の規定は、遺言の方式については、適用しない。ただし、第三十八条第二項本文、
第三十九条本文及び第四十条の規定の適用については、この限りでない。
附 則 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日
から施行する。
(経過措置)
第二条
改正後の法の適用に関する通則法(以下「新法」という。)の規定は、次条の規定によ
る場合を除き、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前に生じた事項にも適用する。
第三条
施行日前にされた法律行為の当事者の能力については、新法第四条の規定にかか
わらず、なお従前の例による。
2
施行日前にされた申立てに係る後見開始の審判等及び失踪の宣告については、新法第五
条及び第六条の規定にかかわらず、なお従前の例による。
3
施行日前にされた法律行為の成立及び効力並びに方式については、新法第八条から第十
二条までの規定にかかわらず、なお従前の例による。
4
施行日前にその原因となる事実が発生した事務管理及び不当利得並びに施行日前に加害
行為の結果が発生した不法行為によって生ずる債権の成立及び効力については、新法第十
五条から第二十一条までの規定にかかわらず、なお従前の例による。
5
施行日前にされた債権の譲渡の債務者その他の第三者に対する効力については、新法第
二十三条の規定にかかわらず、なお従前の例による。
6
施行日前にされた親族関係(改正前の法例第十四条から第二十一条までに規定する親族
関係を除く。)についての法律行為の方式については、新法第三十四条の規定にかかわらず、
なお従前の例による。
7
施行日前にされた申立てに係る後見人、保佐人又は補助人の選任の審判その他の後見
等に関する審判については、新法第三十五条第二項の規定にかかわらず、なお従前の例に
よる。
別紙 7-11
Convention on Supplementary Compensation for Nuclear Damage
(原子力損害に対する補完的補償に関する条約)
e)
4 he
International Atomic Energy Agency
INFORMATION CIRCULAR
INFCIRC/567
22 July 1998
INF
GENERAL Distr.
Original: ARABIC, CHINESE,
ENGLISH, FRENCH,
RUSSIAN and SPANISH
CONVENTION ON SUPPLEMENTARY COMPENSATION
FOR NUCLEAR DAMAGE
The Convention on Supplementary Compensation for Nuclear Damage was adopted
1.
on 12 September 1997 by a Diplomatic Conference held 8-12 September 1997, and was
opened for signature at Vienna on 29 September 1997 at the 41st General Conference of the
International Atomic Energy Agency. The Convention will remain open for signature until
its entry into force.
2.
Pursuant to Article XX, the Convention will enter into force on the ninetieth day
following the date on which at least five States with a minimum of 400,000 units of installed
nuclear capacity have deposited an instrument referred to in Article XVIII. After its entry
into force, any State which has not signed the Convention may accede to it.
Attention is drawn to Article XVIII.1 and XIX.1 which provide that instruments of
3.
ratification, acceptance, approval or accession will only be accepted from a State which is a
Party to either the Vienna Convention or the Paris Convention, or a State which declares that
its national law complies with the provisions of the Annex to the Convention, provided that,
in the case of a State having on its territory a nuclear installation as defined in the Convention
on Nuclear Safety of 17 June 1994, it is a Contracting State to that Convention.
4.
The text of the Convention, taken from a certified copy, is reproduced in the
Attachment herein for the information of all Members.
For reasons of economy, this document has been printed in a limited number.
98-02451
INFCIRC/567
Attachment
CONVENTION ON SUPPLEMENTARY
COMPENSATION FOR NUCLEAR DAMAGE
CONVENTION ON SUPPLEMENTARY
COMPENSATION FOR NUCLEAR DAMAGE
THE CONTRACTING PARTIES,
RECOGNIZING the importance of the measures provided in the Vienna Convention on Civil
Liability for Nuclear Damage and the Paris Convention on Third Party Liability in the Field
of Nuclear Energy as well as in national legislation on compensation for nuclear damage
consistent with the principles of these Conventions;
DESIROUS of establishing a worldwide liability regime to supplement and enhance these
measures with a view to increasing the amount of compensation for nuclear damage;
RECOGNIZING further that such a worldwide liability regime would encourage regional and
global co-operation to promote a higher level of nuclear safety in accordance with the
principles of international partnership and solidarity;
HAVE AGREED as follows:
2
CHAPTER I
GENERAL PROVISIONS
Article I
Definitions
For the purposes of this Convention:
(a)
"Vienna Convention" means the Vienna Convention on Civil Liability for
Nuclear Damage of 21 May 1963 and any amendment thereto which is in force
for a Contracting Party to this Convention.
(b)
"Paris Convention" means the Paris Convention on Third Party Liability in the
Field of Nuclear Energy of 29 July 1960 and any amendment thereto which is
in force for a Contracting Party to this Convention.
(c)
"Special Drawing Right", hereinafter referred to as SDR, means the unit of
account defined by the International Monetary Fund and used by it for its own
operations and transactions.
(d)
"Nuclear reactor" means any structure containing nuclear fuel in such an
arrangement that a self-sustaining chain process of nuclear fission can occur
therein without an additional source of neutrons.
(e)
"Installation State", in relation to a nuclear installation, means the Contracting
Party within whose territory that installation is situated or, if it is not situated
within the territory of any State, the Contracting Party by which or under the
authority of which the nuclear installation is operated.
3
(f)
"Nuclear Damage" means:
(i)
loss of life or personal injury;
(ii)
loss of or damage to property;
and each of the following to the extent determined by the law of the competent
court:
(iii) economic loss arising from loss or damage referred to in sub-paragraph (i)
or (ii), insofar as not included in those sub-paragraphs, if incurred by a
person entitled to claim in respect of such loss or damage;
(iv) the costs of measures of reinstatement of impaired environment, unless
such impairment is insignificant, if such measures are actually taken or to
be taken, and insofar as not included in sub-paragraph (ii);
(v)
loss of income deriving from an economic interest in any use or enjoyment
of the environment, incurred as a result of a significant impairment of that
environment, and insofar as not included in sub-paragraph (ii);
(vi) the costs of preventive measures, and further loss or damage caused by
such measures;
(vii) any other economic loss, other than any caused by the impairment of the
environment, if permitted by the general law on civil liability of the
competent court,
in the case of sub-paragraphs (i) to (v) and (vii) above, to the extent that the loss
or damage arises out of or results from ionizing radiation emitted by any source
of radiation inside a nuclear installation, or emitted from nuclear fuel or
radioactive products or waste in, or of nuclear material coming from, originating
4
in, or sent to, a nuclear installation, whether so arising from the radioactive
properties of such matter, or from a combination of radioactive properties with
toxic, explosive or other hazardous properties of such matter.
(g)
"Measures of reinstatement" means any reasonable measures which have been
approved by the competent authorities of the State where the measures were
taken, and which aim to reinstate or restore damaged or destroyed components
of the environment, or to introduce, where reasonable, the equivalent of these
components into the environment. The law of the State where the damage is
suffered shall determine who is entitled to take such measures.
(h)
"Preventive measures" means any reasonable measures taken by any person after
a nuclear incident has occurred to prevent or minimize damage referred to in
sub-paragraphs (f)(i) to (v) or (vii), subject to any approval of the competent
authorities required by the law of the State where the measures were taken.
(i)
"Nuclear incident" means any occurrence or series of occurrences having the
same origin which causes nuclear damage or, but only with respect to preventive
measures, creates a grave and imminent threat of causing such damage.
(j)
"Installed nuclear capacity" means for each Contracting Party the total of the
number of units given by the formula set out in Article IV.2; and "thermal
power" means the maximum thermal power authorized by the competent national
authorities.
(k)
"Law of the competent court" means the law of the court having jurisdiction
under this Convention, including any rules of such law relating to conflict of
laws.
5
(1) "Reasonable measures" means measures which are found under the law of the
competent court to be appropriate and proportionate, having regard to all the
circumstances, for example:
(i)
the nature and extent of the damage incurred or, in the case of preventive
measures, the nature and extent of the risk of such damage;
(ii)
the extent to which, at the time they are taken, such measures are likely to
be effective; and
(iii)
relevant scientific and technical expertise.
Article II
Purpose and Application
1.
The purpose of this Convention is to supplement the system of compensation provided
pursuant to national law which:
(a)
implements one of the instruments referred to in Article I (a) and (b); or
(b)
complies with the provisions of the Annex to this Convention.
2. The system of this Convention shall apply to nuclear damage for which an operator of
a nuclear installation used for peaceful purposes situated in the territory of a Contracting Party
is liable under either one of the Conventions referred to in Article I or national law mentioned
in paragraph 1(b) of this Article.
3.
The Annex referred to in paragraph 1(b) shall constitute an integral part of this
Convention.
6
CHAPTER II
COMPENSATION
Article III
Undertaking
1.
Compensation in respect of nuclear damage per nuclear incident shall be ensured by the
following means:
(a)
(i) the Installation State shall ensure the availability of 300 million SDRs or
a greater amount that it may have specified to the Depositary at any time
prior to the nuclear incident, or a transitional amount pursuant to subparagraph (ii);
(ii) a Contracting Party may establish for the maximum of 10 years from the
date of the opening for signature of this Convention, a transitional amount
of at least 150 million SDRs in respect of a nuclear incident occurring
within that period.
(b)
beyond the amount made available under sub-paragraph (a), the Contracting
Parties shall make available public funds according to the formula specified in
Article IV.
2. (a) Compensation for nuclear damage in accordance with paragraph 1(a) shall be
distributed equitably without discrimination on the basis of nationality, domicile
or residence, provided that the law of the Installation State may, subject to
obligations of that State under other conventions on nuclear liability, exclude
nuclear damage suffered in a non-Contracting State.
(b) Compensation for nuclear damage in accordance with paragraph 1(b), shall,
subject to Articles V and XI.1(b), be distributed equitably without discrimination
on the basis of nationality, domicile or residence.
7
3.
If the nuclear damage to be compensated does not require the total amount under
paragraph 1(b), the contributions shall be reduced proportionally.
4.
The interest and costs awarded by a court in actions for compensation of nuclear
damage are payable in addition to the amounts awarded pursuant to paragraphs 1(a) and (b)
and shall be proportionate to the actual contributions made pursuant to paragraphs 1(a) and
(b), respectively, by the operator liable, the Contracting Party in whose territory the nuclear
installation of that operator is situated, and the Contracting Parties together.
Article IV
Calculation of Contributions
1.
The formula for contributions according to which the Contracting Parties shall make
available the public funds referred to in Article III.1(b) shall be determined as follows:
(a)
(i) the amount which shall be the product of the installed nuclear capacity of
that Contracting Party multiplied by 300 SDRs per unit of installed
capacity; and
(ii) the amount determined by applying the ratio between the United Nations
rate of assessment for that Contracting Party as assessed for the year
preceding the year in which the nuclear incident occurs, and the total of
such rates for all Contracting Parties to 10% of the sum of the amounts
calculated for all Contracting Parties under sub-paragraph (i).
(b)
Subject to sub-paragraph (c), the contribution of each Contracting Party shall be
the sum of the amounts referred to in sub-paragraphs (a)(i) and (ii), provided that
States on the minimum United Nations rate of assessment with no
reactors shall not be required to make contributions.
nuclear
8
(c) The maximum contribution which may be charged per nuclear incident to any
Contracting Party, other than the Installation State, pursuant to sub-paragraph (b)
shall not exceed its specified percentage of the total of contributions of all
Contracting Parties determined pursuant to sub-paragraph (b). For a particular
Contracting Party, the specified percentage shall be its UN rate of assessment
expressed as a percentage plus 8 percentage points. If, at the time an incident
occurs, the total installed capacity represented by the Parties to this Convention
is at or above a level of 625,000 units, this percentage shall be increased by one
percentage point. It shall be increased by one additional percentage point for
each increment of 75,000 units by which the capacity exceeds 625,000 units.
2.
The formula is for each nuclear reactor situated in the territory of the Contracting Party,
1 unit for each MW of thermal power. The formula shall be calculated on the basis of the
thermal power of the nuclear reactors shown at the date of the nuclear incident in the list
established and kept up to date in accordance with Article VIII.
3.
For the purpose of calculating the contributions, a nuclear reactor shall be taken into
account from that date when nuclear fuel elements have been first loaded into the nuclear
reactor. A nuclear reactor shall be excluded from the calculation when all fuel elements have
been removed permanently from the reactor core and have been stored safely in accordance
with approved procedures.
Article V
Geographical Scope
1.
The funds provided for under Article III.1(b) shall apply to nuclear damage which is
suffered:
(a)
in the territory of a Contracting Party; or
9
(b) in or above maritime areas beyond the territorial sea of a Contracting Party:
(i)
on board or by a ship flying the flag of a Contracting Party, or on board
or by an aircraft registered in the territory of a Contracting Party, or on or
by an artificial island, installation or structure under the jurisdiction of a
Contracting Party; or
(ii)
by a national of a Contracting Party;
excluding damage suffered in or above the territorial sea of a State not Party to
this Convention; or
(c) in or above the exclusive economic zone of a Contracting Party or on the
continental shelf of a Contracting Party in connection with the exploitation or the
exploration of the natural resources of that exclusive economic zone or
continental shelf;
provided that the courts of a Contracting Party have jurisdiction pursuant to Article XIII.
2.
Any signatory or acceding State may, at the time of signature of or accession to this
Convention or on the deposit of its instrument of ratification, declare that for the purposes of
the application of paragraph 1(b)(ii), individuals or certain categories thereof, considered
under its law as having their habitual residence in its territory, are assimilated to its own
nationals.
3.
In this article, the expression "a national of a Contracting Party" shall include a
Contracting Party or any of its constituent sub-divisions, or a partnership, or any public or
private body whether corporate or not established in the territory of a Contracting Party.
10
CHAPTER III
ORGANIZATION OF SUPPLEMENTARY FUNDING
Article VI
Notification of Nuclear Damage
Without prejudice to obligations which Contracting Parties may have under other international
agreements, the Contracting Party whose courts have jurisdiction shall inform the other
Contracting Parties of a nuclear incident as soon as it appears that the damage caused by such
incident exceeds, or is likely to exceed, the amount available under Article 111.1 (a) and that
contributions under Article 111.1 (b) may be required. The Contracting Parties shall without
delay make all the necessary arrangements to settle the procedure for their relations in this
connection.
Article VII
Call for Funds
1.
Following the notification referred to in Article VI, and subject to Article X.3, the
Contracting Party whose courts have jurisdiction shall request the other Contracting Parties
to make available the public funds required under Article 111.1 (b) to the extent and when they
are actually required and shall have exclusive competence to disburse such funds.
2.
Independently of existing or future regulations concerning currency or transfers,
Contracting Parties shall authorize the transfer and payment of any contribution provided
pursuant to Article III.1(b) without any restriction.
11
Article VIII
List of Nuclear Installations
1.
Each Contracting State shall, at the time when it deposits its instrument of ratification,
acceptance, approval or accession, communicate to the Depositary a complete listing of all
nuclear installations referred to in Article IV.3. The listing shall contain the necessary
particulars for the purpose of the calculation of contributions.
2.
Each Contracting State shall promptly communicate to the Depositary all modifications
to be made to the list. Where such modifications include the addition of a nuclear
installation, the communication must be made at least three months before the expected date
when nuclear material will be introduced into the installation.
3.
If a Contracting Party is of the opinion that the particulars, or any modification to be
made to the list communicated by a Contracting State pursuant to paragraphs 1 and 2, do not
comply with the provisions, it may raise objections thereto by addressing them to the
Depositary within three months from the date on which it has received notice pursuant to
paragraph 5. The Depositary shall forthwith communicate this objection to the State to whose
information the objection has been raised. Any unresolved differences shall be dealt with in
accordance with the dispute settlement procedure laid down in Article XVI.
4.
The Depositary shall maintain, update and annually circulate to all Contracting States
the list of nuclear installations established in accordance with this Article. Such list shall
consist of all the particulars and modifications referred to in this Article, it being understood
that objections submitted under this Article shall have effect retrospective to the date on
which they were raised, if they are sustained.
5.
The Depositary shall give notice as soon as possible to each Contracting Party of the
communications and objections which it has received pursuant to this Article.
12
Article IX
Rights of Recourse
1.
Each Contracting Party shall enact legislation in order to enable both the Contracting
Party in whose territory the nuclear installation of the operator liable is situated and the other
Contracting Parties who have paid contributions referred to in Article III.1(b), to benefit from
the operator's right of recourse to the extent that he has such a right under either one of the
Conventions referred to in Article I or national legislation mentioned in Article II.1(b) and
to the extent that contributions have been made by any of the Contracting Parties.
2.
The legislation of the Contracting Party in whose territory the nuclear installation of the
operator liable is situated may provide for the recovery of public funds made available under
this Convention from such operator if the damage results from fault on his part.
3.
The Contracting Party whose courts have jurisdiction may exercise the rights of
recourse provided for in paragraphs 1 and 2 on behalf of the other Contracting Parties which
have contributed.
Article X
Disbursements, Proceedings
1.
The system of disbursements by which the funds required under Article III.1 are to be
made available and the system of apportionment thereof shall be that of the Contracting Party
whose courts have jurisdiction.
2.
Each Contracting Party shall ensure that persons suffering damage may enforce their
rights to compensation without having to bring separate proceedings according to the origin
of the funds provided for such compensation and that Contracting Parties may intervene in
the proceedings against the operator liable.
13
3. No Contracting Party shall be required to make available the public funds referred to
in Article III.1(b) if claims for compensation can be satisfied out of the funds referred to in
Article III.1(a).
Article XI
Allocation of Funds
The funds provided under Article III. 1(b) shall be distributed as follows:
1.
(a) 50% of the funds shall be available to compensate claims for nuclear damage
suffered in or outside the Installation State;
(b)
50% of the funds shall be available to compensate claims for nuclear damage
suffered outside the territory of the Installation State to the extent that such
claims are uncompensated under sub-paragraph (a).
(c)
In the event the amount provided pursuant to Article III.1(a) is less than 300
million SDRs:
(i)
the amount in paragraph 1(a) shall be reduced by the same percentage as
the percentage by which the amount provided pursuant to Article III.1(a)
is less than 300 million SDRs; and
(ii)
the amount in paragraph 1(b) shall be increased by the amount of the
reduction calculated pursuant to sub-paragraph (i).
2. If a Contracting Party, in accordance with Article III.1(a), has ensured the availability
without discrimination of an amount not less than 600 million SDRs, which has been
specified to the Depositary prior to the nuclear incident, all funds referred to in Article III.1(a)
and (b) shall, notwithstanding paragraph 1, be made available to compensate nuclear damage
suffered in and outside the Installation State.
14
CHAPTER IV
EXERCISE OF OPTIONS
Article XII
1.
Except insofar as this Convention otherwise provides, each Contracting Party may
exercise the powers vested in it by virtue of the Vienna Convention or the Paris Convention,
and any provisions made thereunder may be invoked against the other Contracting Parties in
order that the public funds referred to in Article III.1(b) be made available.
2.
Nothing in this Convention shall prevent any Contracting Party from making provisions
outside the scope of the Vienna or the Paris Convention and of this Convention, provided that
such provision shall not involve any further obligation on the part of the other Contracting
Parties, and provided that damage in a Contracting Party having no nuclear installations
within its territory shall not be excluded from such further compensation on any grounds of
lack of reciprocity.
3.
(a) Nothing in this Convention shall prevent Contracting Parties from entering into
regional or other agreements with the purpose of implementing their obligations
under Article III.1(a) or providing additional funds for the compensation of
nuclear damage, provided that this shall not involve any further obligation under
this Convention for the other Contracting Parties.
(b) A Contracting Party intending to enter into any such agreement shall notify all
other Contracting Parties of its intention. Agreements concluded shall be notified
to the Depositary.
15
CHAPTER V
JURISDICTION AND APPLICABLE LAW
Article XIII
Jurisdiction
1.
Except as otherwise provided in this article, jurisdiction over actions concerning nuclear
damage from a nuclear incident shall lie only with the courts of the Contracting Party within
which the nuclear incident occurs.
2.
Where a nuclear incident occurs within the area of the exclusive economic zone of a
Contracting Party or, if such a zone has not been established, in an area not exceeding the
limits of an exclusive economic zone, were one to be established by that Party, jurisdiction
over actions concerning nuclear damage from that nuclear incident shall, for the purposes of
this Convention, lie only with the courts of that Party. The preceding sentence shall apply if
that Contracting Party has notified the Depositary of such area prior to the nuclear incident.
Nothing in this paragraph shall be interpreted as permitting the exercise of jurisdiction in a
manner which is contrary to the international law of the sea, including the United Nations
Convention on the Law of the Sea. However, if the exercise of such jurisdiction is
inconsistent with the obligations of that Party under Article XI of the Vienna Convention or
Article 13 of the Paris Convention in relation to a State not Party to this Convention
jurisdiction shall be determined according to those provisions.
3.
Where a nuclear incident does not occur within the territory of any Contracting Party
or within an area notified pursuant to paragraph 2, or where the place of a nuclear incident
cannot be determined with certainty, jurisdiction over actions concerning nuclear damage from
the nuclear incident shall lie only with the courts of the Installation State.
4.
Where jurisdiction over actions concerning nuclear damage would lie with the courts
of more than one Contracting Party, these Contracting Parties shall determine by agreement
which Contracting Party's courts shall have jurisdiction.
I6
5.
A judgment that is no longer subject to ordinary forms of review entered by a court of
a Contracting Party having jurisdiction shall be recognized except:
(a)
(b)
where the judgment was obtained by fraud;
where the party against whom the judgment was pronounced was not given a fair
opportunity to present his case; or
(c)
where the judgment is contrary to the public policy of the Contracting Party
within the territory of which recognition is sought, or is not in accord with
fundamental standards of justice.
6. A judgment which is recognized under paragraph 5 shall, upon being presented for
enforcement in accordance with the formalities required by the law of the Contracting Party
where enforcement is sought, be enforceable as if it were a judgment of a court of that
Contracting Party. The merits of a claim on which the judgment has been given shall not be
subject to further proceedings.
7. Settlements effected in respect of the payment of compensation out of the public funds
referred to in Article III.1(b) in accordance with the conditions established by national
legislation shall be recognized by the other Contracting Parties.
Article XIV
Applicable Law
1.
Either the Vienna Convention or the Paris Convention or the Annex to this Convention,
as appropriate, shall apply to a nuclear incident to the exclusion of the others.
2.
Subject to the provisions of this Convention, the Vienna Convention or the Paris
Convention, as appropriate, the applicable law shall be the law of the competent court.
I7
Article XV
Public International Law
This Convention shall not affect the rights and obligations of a Contracting Party under the
general rules of public international law.
CHAPTER VI
DISPUTE SETTLEMENT
Article XVI
1.
In the event of a dispute between Contracting Parties concerning the interpretation or
application of this Convention, the parties to the dispute shall consult with a view to the
settlement of the dispute by negotiation or by any other peaceful means of settling disputes
acceptable to them.
2.
If a dispute of this character referred to in paragraph I cannot be settled within six
months from the request for consultation pursuant to paragraph 1, it shall, at the request of
any party to such dispute, be submitted to arbitration or referred to the International Court of
Justice for decision. Where a dispute is submitted to arbitration, if, within six months from
the date of the request, the parties to the dispute are unable to agree on the organization of
the arbitration, a party may request the President of the International Court of Justice or the
Secretary-General of the United Nations to appoint one or more arbitrators. In cases of
conflicting requests by the parties to the dispute, the request to the Secretary-General of the
United Nations shall have priority.
3.
When ratifying, accepting, approving or acceding to this Convention, a State may
declare that it does not consider itself bound by either or both of the dispute settlement
I8
procedures provided for in paragraph 2. The other Contracting Parties shall not be bound by
a dispute settlement procedure provided for in paragraph 2 with respect to a Contracting Party
for which such a declaration is in force.
4.
A Contracting Party which has made a declaration in accordance with paragraph 3 may
at any time withdraw it by notification to the Depositary.
CHAPTER VII
FINAL CLAUSES
Article XVII
Signature
This Convention shall be open for signature, by all States at the Headquarters of the
International Atomic Energy Agency in Vienna from 29 September I997 until its entry into
force.
Article XVIII
Ratification, Acceptance, Approval
1. This Convention shall be subject to ratification, acceptance or approval by the signatory
States. An instrument of ratification, acceptance or approval shall be accepted only from a
State which is a Party to either the Vienna Convention or the Paris Convention, or a State
which declares that its national law complies with the provisions of the Annex to this
Convention, provided that, in the case of a State having on its territory a nuclear installation
as defined in the Convention on Nuclear Safety of 17 June 1994, it is a Contracting State to
that Convention.
19
2.
The instruments of ratification, acceptance or approval shall be deposited with the
Director General of the International Atomic Energy Agency who shall act as the Depositary
of this Convention.
3.
A Contracting Party shall provide the Depositary with a copy, in one of the official
languages of the United Nations, of the provisions of its national law referred to in Article
II.1 and amendments thereto, including any specification made pursuant to Article III. I(a),
Article XI.2, or a transitional amount pursuant to Article III.1(a)(ii). Copies of such
provisions shall be circulated by the Depositary to all other Contracting Parties.
Article XIX
Accession
1.
After its entry into force, any State which has not signed this Convention may accede
to it. An instrument of accession shall be accepted only from a State which is a Party to
either the Vienna Convention or the Paris Convention, or a State which declares that its
national law complies with the provisions of the Annex to this Convention, provided that,
in the case of a State having on its territory a nuclear installation as defined in the Convention
it is a Contracting State to that Convention.
on Nuclear Safety of 17 June 1994,
2.
The instruments of accession shall be deposited with the Director General of the
International Atomic Energy Agency.
3.
A Contracting Party shall provide the Depositary with a copy, in one of the official
languages of the United Nations, of the provisions of its national law referred to in Article
II.1 and amendments thereto, including any specification made pursuant to Article III.1(a),
Article XI.2, or a transitional amount pursuant to Article III.1(a)(ii). Copies of such
provisions shall be circulated by the Depositary to all other Contracting Parties.
20
Article XX
Entry Into Force
1.
This Convention shall come into force on the ninetieth day following the date on which
at least 5 States with a minimum of 400,000 units of installed nuclear capacity have deposited
an instrument referred to in Article
2.
XVIII.
For each State which subsequently ratifies, accepts, approves or accedes to this
Convention, it shall enter into force on the ninetieth day after deposit by such State of the
appropriate instrument.
Article XXI
Denunciation
1.
Any Contracting Party may denounce this Convention by written notification to the
Depositary.
2.
Denunciation shall take effect one year after the date on which the notification is
received by the Depositary.
Article XXII
Cessation
1. Any Contracting Party which ceases to be a Party to either the Vienna Convention or
the Paris Convention shall notify the Depositary thereof and of the date of such cessation.
On that date such Contracting Party shall have ceased to be a Party to this Convention unless
its national law complies with the provisions of the Annex to this Convention and it has so
notified the Depositary and provided it with a copy of the provisions of its national law in
one of the official languages of the United Nations. Such copy shall be circulated by the
Depositary to all other Contracting Parties.
21
2.
Any Contracting Party whose national law ceases to comply with the provisions of the
Annex to this Convention and which is not a Party to either the Vienna Convention or the
Paris Convention shall notify the Depositary thereof and of the date of such cessation. On
that date such Contracting Party shall have ceased to be a Party to this Convention.
3.
Any Contracting Party having on its territory a nuclear installation as defined in the
Convention on Nuclear Safety which ceases to be Party to that Convention shall notify the
depositary thereof and of the date of such cessation. On that date, such Contracting Party
shall, notwithstanding paragraphs I and 2, have ceased to be a Party to the present
Convention.
Article XXIII
Continuance of Prior Rights and Obligations
Notwithstanding denunciation pursuant to Article XXI or cessation pursuant to Article
XXII, the provisions of this Convention shall continue to apply to any nuclear damage caused
by a nuclear incident which occurs before such denunciation or cessation.
Article XXIV
Revision and Amendments
1.
The Depositary, after consultations with the Contracting Parties, may convene a
conference for the purpose of revising or amending this Convention.
2.
The Depositary shall convene a conference of Contracting Parties for the purpose of
revising or amending this Convention at the request of not less than one-third of all
Contracting Parties.
22
Article XXV
Amendment by Simplified Procedure
1.
A meeting of the Contracting Parties shall be convened by the Depositary to amend the
compensation amounts referred to in Article III.I(a) and (b) or categories of installations
including contributions payable for them, referred to in Article IV.3, if one-third of the
Contracting Parties express a desire to that effect.
2.
Decisions to adopt a proposed amendment shall be taken by vote. Amendments shall
be adopted if no negative vote is cast.
3.
Any amendment adopted in accordance with paragraph 2 shall be notified by the
Depositary to all Contracting Parties. The amendment shall be considered accepted if within
a period of 36 months after it has been notified, all Contracting Parties at the time of the
adoption of the amendment have communicated their acceptance to the Depositary. The
amendment shall enter into force for all Contracting Parties 12 months after its acceptance.
4.
If, within a period of 36 months from the date of notification for acceptance the
amendment has not been accepted in accordance with paragraph 3, the amendment shall be
considered rejected.
5.
When an amendment has been adopted in accordance with paragraph 2 but the 36
months period for its acceptance has not yet expired, a State which becomes a Party to this
Convention during that period shall be bound by the amendment if it comes into force. A
State which becomes a Party to this Convention after that period shall be bound by any
amendment which has been accepted in accordance with paragraph 3. In the cases referred
to in the present paragraph, a Contracting Party shall be bound by an amendment when that
amendment enters into force, or when this Convention enters into force for that Contracting
Party, whichever date is the later.
23
Article XXVI
Functions of the Depositary
In addition to functions in other Articles of this Convention, the Depositary shall
promptly notify Contracting Parties and all other States as well as the Secretary-General of
the Organization for Economic Co-operation and Development of:
(a)
each signature of this Convention;
(b)
each deposit of an instrument of ratification, acceptance, approval or accession
concerning this Convention;
(c)
the entry into force of this Convention;
(d)
declarations received pursuant to Article XVI;
(e)
any denunciation received pursuant to Article XXI, or notification received
pursuant to Article XXII;
(f)
any notification under paragraph 2 of Article XIII;
(g)
other pertinent notifications relating to this Convention.
24
Article XXVII
Authentic Texts
The original of this Convention, of which Arabic, Chinese, English, French,
Russian and Spanish texts are equally authentic, shall be deposited with the Director
General of the International Atomic Energy Agency who shall send certified copies
thereof to all States.
IN WITNESS WHEREOF, THE UNDERSIGNED, BEING DULY AUTHORIZED
THERETO, HAVE SIGNED THIS CONVENTION.
Done at Vienna, this twelfth day of September, one thousand nine hundred ninetyseven.
ANNEX
A Contracting Party which is not a Party to any of the Conventions mentioned in
Article I(a) or (b) of this Convention shall ensure that its national legislation is consistent with
the provisions laid down in this Annex insofar as those provisions are not directly applicable
within that Contracting Party. A Contracting Party having no nuclear installation on its
territory is required to have only that legislation which is necessary to enable such a Party to
give effect to its obligations under this Convention.
Article 1
Definitions
I.
In addition to the definitions in Article I of this Convention, the following definitions
apply for the purposes of this Annex:
(a)
"Nuclear Fuel" means any material which is capable of producing energy by a
self-sustaining chain process of nuclear fission.
(b)
"Nuclear Installation" means:
(i)
any nuclear reactor other than one with which a means of sea or air
transport is equipped for use as a source of power, whether for propulsion
thereof or for any other purpose;
(ii)
any factory using nuclear fuel for the production of nuclear material, or any
factory for the processing of nuclear material, including any factory for the
re-processing of irradiated nuclear fuel; and
(iii) any facility where nuclear material is stored, other than storage incidental
to the carriage of such material;
26
provided that the Installation State may determine that several nuclear
installations of one operator which are located at the same site shall be
considered as a single nuclear installation.
(c)
"Nuclear material" means:
(i)
nuclear fuel, other than natural uranium and depleted uranium, capable of
producing energy by a self-sustaining chain process of nuclear fission
outside a nuclear reactor, either alone or in combination with some other
material; and
(ii)
(d)
radioactive products or waste.
"Operator", in relation to a nuclear installation, means the person designated or
recognized by the Installation State as the operator of that installation.
(e) "Radioactive products or waste" means any radioactive material produced in, or
any material made radioactive by exposure to the radiation incidental to, the
production or utilization of nuclear fuel, but does not include radioisotopes which
have reached the final stage of fabrication so as to be usable for any scientific,
medical, agricultural, commercial or industrial purpose.
2. An Installation State may, if the small extent of the risks involved so warrants, exclude
any nuclear installation or small quantities of nuclear material from the application of this
Convention, provided that:
(a) with respect to nuclear installations, criteria for such exclusion have been
established by the Board of Governors of the International Atomic Energy
Agency and any exclusion by an Installation State satisfies such criteria; and
(b)
with respect to small quantities of nuclear material, maximum limits for the
exclusion of such quantities have been established by the Board of Governors of
27
the International Atomic Energy Agency and any exclusion by an Installation
State is within such established limits.
The criteria for the exclusion of nuclear installations and the maximum limits for the
exclusion of small quantities of nuclear material shall be reviewed periodically by the Board
of Governors.
Article 2
Conformity of Legislation
1. The national law of a Contracting Party is deemed to be in conformity with the
provisions of Articles 3, 4, 5 and 7 if it contained on 1 January I995 and continues to contain
provisions that:
(a)
provide for strict liability in the event of a nuclear incident where there is
substantial nuclear damage off the site of the nuclear installation where the
incident occurs;
(b)
require the indemnification of any person other than the operator liable for
nuclear damage to the extent that person is legally liable to provide
compensation; and
(c)
ensure the availability of at least 1000 million SDRs in respect of a civil nuclear
power plant and at least 300 million SDRs in respect of other civil nuclear
installations for such indemnification.
2.
If in accordance with paragraph 1, the national law of a Contracting Party is deemed
to be in conformity with the provision of Articles 3, 4, 5 and 7, then that Party:
(a) may apply a definition of nuclear damage that covers loss or damage set forth
in Article I(f) of this Convention and any other loss or damage to the extent that
28
the loss or damage arises out of or results from the radioactive properties, or a
combination of radioactive properties with toxic, explosive or other hazardous
properties of nuclear fuel or radioactive products or waste in, or of nuclear
material coming from, originating in, or sent to, a nuclear installation; or other
ionizing radiation emitted by any source of radiation inside a nuclear installation,
provided that such application does not affect the undertaking by that Contracting
Party pursuant to Article III of this Convention; and
(b)
may apply the definition of nuclear installation in paragraph 3 of this Article to
the exclusion of the definition in Article 1.I(b) of this Annex.
3.
For the purpose of paragraph 2 (b) of this Article, "nuclear installation" means:
(a)
any civil nuclear reactor other than one with which a means of sea or air
transport is equipped for use as a source of power, whether for propulsion thereof
or any other purpose; and
(b)
any civil facility for processing, reprocessing or storing:
(i)
irradiated nuclear fuel; or
(ii)
radioactive products or waste that:
(1) result from the reprocessing of irradiated nuclear fuel and contain
significant amounts of fission products; or
(2) contain elements that have an atomic number greater than 92 in
concentrations greater than I0 nano-curies per gram.
(c) any other civil facility for processing, reprocessing or storing nuclear material
unless the Contracting Party determines the small extent of the risks involved
with such an installation warrants the exclusion of such a facility from this
definition.
29
4.
Where that national law of a Contracting Party which is in compliance with paragraph
1 of this Article does not apply to a nuclear incident which occurs outside the territory of that
Contracting Party, but over which the courts of that Contracting Party have jurisdiction
pursuant to Article XIII of this Convention, Articles 3 to II of the Annex shall apply and
prevail over any inconsistent provisions of the applicable national law.
Article 3
Operator Liability
1.
The operator of a nuclear installation shall be liable for nuclear damage upon proof that
such damage has been caused by a nuclear incident:
(a)
in that nuclear installation; or
(b)
involving nuclear material coming from or originating in that nuclear installation,
and occurring:
(i)
before liability with regard to nuclear incidents involving the nuclear
material has been assumed, pursuant to the express terms of a contract in
writing, by the operator of another nuclear installation;
(ii)
in the absence of such express terms, before the operator of another nuclear
installation has taken charge of the nuclear material; or
(iii) where the nuclear material is intended to be used in a nuclear reactor with
which a means of transport is equipped for use as a source of power,
whether for propulsion thereof or for any other purpose, before the person
duly authorized to operate such reactor has taken charge of the nuclear
material; but
30
(iv) where the nuclear material has been sent to a person within the territory of
a non-Contracting State, before it has been unloaded from the means of
transport by which it has arrived in the territory of that non-Contracting
State;
(c)
involving nuclear material sent to that nuclear installation, and occurring:
(i)
after liability with regard to nuclear incidents involving the nuclear material
has been assumed by the operator pursuant to the express terms of a
contract in writing, from the operator of another nuclear installation;
(ii)
in the absence of such express terms, after the operator has taken charge
of the nuclear material; or
(iii) after the operator has taken charge of the nuclear material from a person
operating a nuclear reactor with which a means of transport is equipped for
use as a source of power, whether for propulsion thereof or for any other
purpose; but
(iv)
where the nuclear material has, with the written consent of the operator,
been sent from a person within the territory of a non-Contracting State,
only after it has been loaded on the means of transport by which it is to be
carried from the territory of that State;
provided that, if nuclear damage is caused by a nuclear incident occurring in a nuclear
installation and involving nuclear material stored therein incidentally to the carriage of such
material, the provisions of sub-paragraph (a) shall not apply where another operator or person
is solely liable pursuant to sub-paragraph (b) or (c).
2. The Installation State may provide by legislation that, in accordance with such terms
as may be specified in that legislation, a carrier of nuclear material or a person handling
radioactive waste may, at such carrier or such person's request and with the consent of the
3I
operator concerned, be designated or recognized as operator in the place of that operator in
respect of such nuclear material or radioactive waste respectively. In this case such carrier
or such person shall be considered, for all the purposes of this Convention, as an operator of
a nuclear installation situated within the territory of that State.
3.
The liability of the operator for nuclear damage shall be absolute.
4.
Whenever both nuclear damage and damage other than nuclear damage have been
caused by a nuclear incident or jointly by a nuclear incident and one or more other
occurrences, such other damage shall, to the extent that it is not reasonably separable from
the nuclear damage, be deemed to be nuclear damage caused by that nuclear incident. Where,
however, damage is caused jointly by a nuclear incident covered by the provisions of this
Annex and by an emission of ionizing radiation not covered by it, nothing in this Annex shall
limit or otherwise affect the liability, either as regards any person suffering nuclear damage
or by way of recourse or contribution, of any person who may be held liable in connection
with that emission of ionizing radiation.
5.
(a) No liability shall attach to an operator for nuclear damage caused by a nuclear
incident directly due to an act of armed conflict, hostilities, civil war or
insurrection.
(b)
Except insofar as the law of the Installation State may provide to the contrary,
the operator shall not be liable for nuclear damage caused by a nuclear incident
caused directly due to a grave natural disaster of an exceptional character.
6.
National law may relieve an operator wholly or partly from the obligation to pay
compensation for nuclear damage suffered by a person if the operator proves the nuclear
damage resulted wholly or partly from the gross negligence of that person or an act or
omission of that person done with the intent to cause damage.
32
7.
The operator shall not be liable for nuclear damage:
(a)
to the nuclear installation itself and any other nuclear installation, including a
nuclear installation under construction, on the site where that installation is
located; and
(b)
to any property on that same site which is used or to be used in connection with
any such installation;
(c)
unless otherwise provided by national law, to the means of transport upon which
the nuclear material involved was at the time of the nuclear incident. If national
law provides that the operator is liable for such damage, compensation for that
damage shall not have the effect of reducing the liability of the operator in
respect of other damage to an amount less than either 150 million SDRs, or any
higher amount established by the legislation of a Contracting Party.
8. Nothing in this Convention shall affect the liability outside this Convention of the
operator for nuclear damage for which by virtue of paragraph 7(c) he is not liable under this
Convention.
9. The right to compensation for nuclear damage may be exercised only against the
operator liable, provided that national law may permit a direct right of action against any
supplier of funds that are made available pursuant to provisions in national law to ensure
compensation through the use of funds from sources other than the operator.
I0. The operator shall incur no liability for damage caused by a nuclear incident outside
the provisions of national law in accordance with this Convention.
33
Article 4
Liability Amounts
1.
Subject to Article III.1(a)(ii), the liability of the operator may be limited by the
Installation State for any one nuclear incident, either:
(a)
to not less than 300 million SDRs; or
(b)
to not less then 150 million SDRs provided that in excess of that amount and up
to at least 300 million SDRs public funds shall be made available by that State
to compensate nuclear damage.
2. Notwithstanding paragraph 1, the Installation State, having regard to the nature of the
nuclear installation or the nuclear substances involved and to the likely consequences of an
incident originating therefrom, may establish a lower amount of liability of the operator,
provided that in no event shall any amount so established be less than 5 million SDRs, and
provided that the Installation State ensures that public funds shall be made available up to the
amount established pursuant to paragraph 1.
3. The amounts established by the Installation State of the liable operator in accordance
with paragraphs I and 2, as well as the provisions of any legislation of a Contracting Party
pursuant to Article 3.7(c) shall apply wherever the nuclear incident occurs.
Article 5
Financial Security
1. (a) The operator shall be required to have and maintain insurance or other financial
security covering his liability for nuclear damage in such amount, of such type
and in such terms as the Installation State shall specify. The Installation State
shall ensure the payment of claims for compensation for nuclear damage which
34
have been established against the operator by providing the necessary funds to
the extent that the yield of insurance or other financial security is inadequate to
satisfy such claims, but not in excess of the limit, if any, established pursuant to
Article 4. Where the liability of the operator is unlimited, the Installation State
may establish a limit of the financial security of the operator liable provided that
such limit is not lower than 300 million SDRs. The Installation State shall
ensure the payment of claims for compensation for nuclear damage which have
been established against the operator to the extent that yield of the financial
security is inadequate to satisfy such claims, but not in excess of the amount of
the financial security to be provided under this paragraph.
(b) Notwithstanding sub-paragraph (a), the Installation State, having regard to the
nature of the nuclear installation or the nuclear substances involved and to the
likely consequences of an incident originating therefrom, may establish a lower
amount of financial security of the operator, provided that in no event shall any
amount so established be less than 5 million SDRs, and provided that the
Installation State ensures the payment of claims for compensation for nuclear
damage which have been established against the operator by providing necessary
funds to the extent that the yield of insurance or other financial security is
inadequate to satisfy such claims, and up to the limit provided in sub-paragraph
(a).
2.
Nothing in paragraph I shall require a Contracting Party or any of its constituent sub-
divisions to maintain insurance or other financial security to cover their liability as operators.
3.
The funds provided by insurance, by other financial security or by the Installation State
pursuant to paragraph 1 or Article 4.1(b) shall be exclusively available for compensation due
under this Annex.
4.
No insurer or other financial guarantor shall suspend or cancel the insurance or other
financial security provided pursuant to paragraph 1 without giving notice in writing of at least
two months to the competent public authority or, in so far as such insurance or other financial
35
security relates to the carriage of nuclear material, during the period of the carriage in
question.
Article 6
Carriage
1.
With respect to a nuclear incident during carriage, the maximum amount of liability of
the operator shall be governed by the national law of the Installation State.
2.
A Contracting Party may subject carriage of nuclear material through its territory to the
condition that the amount of liability of the operator be increased to an amount not to exceed
the maximum amount of liability of the operator of a nuclear installation situated in its
territory.
3.
The provisions of paragraph 2 shall not apply to:
(a)
carriage by sea where, under international law, there is a right of entry in cases
of urgent distress into ports of a Contracting Party or a right of innocent passage
through its territory;
(b)
carriage by air where, by agreement or under international law, there is a right
to fly over or land on the territory of a Contracting Party.
Article 7
Liability of More Than One Operator
1. Where nuclear damage engages the liability of more than one operator, the operators
involved shall, in so far as the damage attributable to each operator is not reasonably
separable, be jointly and severally liable. The Installation State may limit the amount of
public funds made available per incident to the difference, if any, between the amounts hereby
established and the amount established pursuant to Article 4.1.
36
2.
Where a nuclear incident occurs in the course of carriage of nuclear material, either in
one and the same means of transport, or, in the case of storage incidental to the carriage, in
one and the same nuclear installation, and causes nuclear damage which engages the liability
of more than one operator, the total liability shall not exceed the highest amount applicable
with respect to any one of them pursuant to Article 4.
3.
In neither of the cases referred to in paragraphs 1 and 2 shall the liability of any one
operator exceed the amount applicable with respect to him pursuant to Article 4.
4.
Subject to the provisions of paragraphs 1 to 3, where several nuclear installations of one
and the same operator are involved in one nuclear incident, such operator shall be liable in
respect of each nuclear installation involved up to the amount applicable with respect to him
pursuant to Article 4. The Installation State may limit the amount of public funds made
available as provided for in paragraph 1.
Article 8
Compensation Under National Law
1.
For purposes of this Convention, the amount of compensation shall be determined
without regard to any interest or costs awarded in a proceeding for compensation of nuclear
damage.
2.
Compensation for damage suffered outside the Installation State shall be provided in
a form freely transferable among Contracting Parties.
3.
Where provisions of national or public health insurance, social insurance, social
security, workmen's compensation or occupational disease compensation systems include
compensation for nuclear damage, rights of beneficiaries of such systems and rights of
recourse by virtue of such systems shall be determined by the national law of the Contracting
Party in which such systems have been established or by the regulations of the
intergovernmental organization which has established such systems.
37
Article 9
Period of Extinction
1.
Rights of compensation under this Convention shall be extinguished if an action is not
brought within ten years from the date of the nuclear incident. If, however, under the law of
the Installation State the liability of the operator is covered by insurance or other financial
security or by State funds for a period longer than ten years, the law of the competent court
may provide that rights of compensation against the operator shall only be extinguished after
a period which may be longer than ten years, but shall not be longer than the period for
which his liability is so covered under the law of the Installation State.
2.
Where nuclear damage is caused by a nuclear incident involving nuclear material which
at the time of the nuclear incident was stolen, lost, jettisoned or abandoned, the period
established pursuant to paragraph 1 shall be computed from the date of that nuclear incident,
but the period shall in no case, subject to legislation pursuant to paragraph 1, exceed a period
of twenty years from the date of the theft, loss, jettison or abandonment.
3.
The law of the competent court may establish a period of extinction or prescription of
not less than three years from the date on which the person suffering nuclear damage had
knowledge or should have had knowledge of the damage and of the operator liable for the
damage, provided that the period established pursuant to paragraphs 1 and 2 shall not be
exceeded.
4.
If the national law of a Contracting Party provides for a period of extinction or
prescription greater than ten years from the date of a nuclear incident, it shall contain
provisions for the equitable and timely satisfaction of claims for loss of life or personal injury
filed within ten years from the date of the nuclear incident.
38
Article 10
Right of Recourse
National law may provide that the operator shall have a right of recourse only:
(a)
if this is expressly provided for by a contract in writing; or
(b)
if the nuclear incident results from an act or omission done with intent to cause
damage, against the individual who has acted or omitted to act with such intent.
Article 11
Applicable Law
Subject to the provisions of this Convention, the nature, form, extent and equitable
distribution of compensation for nuclear damage caused by a nuclear incident shall be
governed by the law of the competent court.
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