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エアライン市場の競争と参入 - 経済学部研究会WWWサーバ

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エアライン市場の競争と参入 - 経済学部研究会WWWサーバ
エアライン市場の競争と参入
産業組織パート
阿部 奈月
安部 遼馬
高井良 昂貴
丹澤 隆一
本田 将隆
1
はしがき
本ゼミでは年間を通して産業組織論を勉強している。産業組織論では、企業の
行動やその市場の構造、政府の政策の影響などが企業の成果や市場にどのように
影響するかを分析する。その中で各企業の行動や構造がダイレクトに市場に影響
を及ぼしている寡占市場は大きなトピックであり、さまざまな特徴がある。産業
組織論の寡占市場に関する勉強のなかでよく例に取り上げられるのが航空産業で
ある。機体の生産コストが非常に大きいことや、空港での発着枠の 確保または空
港数自体の制約、各国で行われてきた産業育成のための規制の数々など、航空産
業では新規参入は高いハードルを越えることが必要であり、典型的寡占市場とな
る条件がそろっているのである。特に日本では航空の黎明期から日本航空と全日
本空輸の 2 社が台頭、産業をけん引しており、現在もこの 2 社の寡占であるとい
って差し支えない。一般にも航空会社といえばこの JAL と ANA が真っ先に思い
浮かぶはずである。
三田祭論文でのテーマを決める際、最初に寡占市場の動きを見ることを決めた。
そしてどの寡占市場をみるかを考える段階でいくつか候補があげられたが、航空
産業はもっとも典型的な寡占市場であること、価格・路線数・供給量などの統計
データが年報にまとめられていること、B to C の私たちになじみ深い産業である
ことから、航空産業をテーマにするにいたった。本論文では日本航空、全日本空
輸の 2 社に絞って 1980 年頃から 2008 年までの範囲で考察をしている。第 1 章で
は現状分析として航空産業の特徴を、規模の推移や競争の視点から規制緩和の歴
史も踏まえながら記述している。第 2 章、第 3 章ではそれぞれ費用関数、需要関
数を推定・考察している。需要関数の推定で は各路線ごとに需要関数を出せるよ
うにした。第 4 章においては第 2 章、第 3 章の結果を踏まえながら各路線の競争
の度合い、どの程度競争的な市場になっているかを推定・考察した。また、第 5
章では各路線ごとに路線の特徴を踏まえて参入の可能性を測っている。
最後にこの論文にさまざまなアドバイスをしていただいた先生、先輩方に謝意
を表する。
2012 年 11 月
2
産業組織パート一同
目次
はしがき・・・4
序章・・・7
第1章
現状分析(文責:丹澤隆一)・・・9
1.1
日本の民間航空の規模の推移
1.2
生産費用の特徴
1.3
規制緩和
1.4
競争の度合い
1.5
参入
第2章
費用関数推定と考察(文責:本田将隆)・・・17
2.1
モデル
2.2
データ
2.3
実証結果および考察
第3章
需要関数推定と考察(文責:高井良昂貴)・・・23
3.1
モデル
3.2
データ
3.3
実証
3-4
まとめ
第4章
推測的変動の計測(文責:阿部奈月)・・・29
4.1 目的
4.2 先行研究紹介
4.3 推測的変動の計測
4.4 考察
第5章
路線市場への JAL と ANA の参入条件(文責:安部遼馬)・・・39
5.1 本章の概要
5.2 理論
3
5.3 実証
参考文献・・・48
あとがき・・・50
4
序章
寡占市場のもっとも代表的な市場のひとつに航空産業がある。航空産業は第 2
次世界大戦後、政府の規制の対象となり、統合や参入規制が行われた。その規制
の影響で現在にいたるまで国内航空では、日本航空、全日本空輸の大手 2 社がシ
ェアのほとんどを占めている。ごく最近の動きとしては、日本航 空が 2010 年に会
社更生法の申請、2012 年に再上場を果たしていることや、LCC と呼ばれる格安航
空会社が 2012 年、国内線にも就航することなどがあげられる。特に後者の事態は
航空産業の寡占市場に少なからず影響を与えているであろう。本論文でも取り上
げることが検討されたが、現時点では統計的な推定をするにはデータが少ない の
で今回の論文では主に 80 年代、90 年代、2000 年代に絞り、大手 2 社に関しての
考察を中心としていく。
航空産業における規制は厳しく、政府の管理のもとで産業育成が図られた。し
かし近年の国際的な自由化の流れを受けて、航空産業も規制緩和が進められるこ
とになる。日本においては 1985 年の運輸政策審議会答申を発端に、それまでの厳
しい規制主義から政策を転換し自由化を徐々に進めてきた。日本航空の完全民営
化、国際線の複数社化、国内線の競争促進が図られ、実施されている。その後も
漸進的に自由化は進められ価格の自由化などが盛り込まれたが、空港の発着枠を
大手が占めている状態のためもあり、完全な自由化がなされたとは言えない。現
在もいくつかの新規航空会社の参入があったものの 2 社に対抗できるような企業
はいまだ現れない。航空産業はいまだ寡占市場であり、日本航空、全日本空輸の 2
社が大きな市場支配力を持っているのである。しかし規制緩和により、路線参入
や価格設定が原則自由となったことでこの 2 社の行動も当然変化している。運賃
の変動や競争路線の増加などの特徴が見受けられており、特に競争路線について
は参入についての章、第 5 章でくわしく考察する。
また典型的な寡占市場という構造において、各路線の競争の度合いがど のよう
になっているのかを考察する。競争の度合いを求めるにあたって、まず各航空会
社(日本航空と全日本空輸)の費用関数と、需要関数を推定する。費用関数につ
いてはトランスログ型で推定を行う。第 1 章、現状分析において、航空産業にお
ける費用と生産の特徴をかいつまんで説明した。需要関数についての章では、 6
5
つの路線をピックアップして推定を行う。それらの推定結果を踏まえ、第 4 章に
おいて推測的変動を考察する。この推測的変動から各路線の競争がどの程度強い
かを考える。
6
第1章
現状分析
文責:丹澤隆一
1.1
日本の民間航空の規模の推移
第 2 次世界大戦後、日本は航空活動を禁止されたが、1952 年にサンフランシス
コ平和条約が発効すると、1953 年には政府も出資した日本航空(JAL)が誕生し
た。つづいて 5 年後には全日本空輸(ANA)が合併により成立し、大手 2 社体制
となる。1960 年にはジェット化が始まり国際線は充実していった。日本経済の顕
著な発展、成長を背景にして日本航空は急速に発展し、1980 年には日本は世界有
数の航空国になった。法により空港整備も進められ、シビルミニマムの観点から
地方空港は充実していった。1965 年には 46 空港であったものが、2012 年時点で
98 空港となり、倍増した。人口が集中するほとんどの地域で最寄りの空港まで 2
時間以内で到達できるような交通環境が実現している。拠点空港を中心として、
質的な向上が望まれる空港もあるが、数の上では整備は概成したと言える。この
ように規模が拡大するにつれて旅客数も急速に増加した。
表 1-1 旅客数の推移
旅客数
国内線
国際線
1960 年
112
10
1970 年
1468
163
1980 年
4090
483
出所:村上・加藤・高橋・榊原(2006)
本論文では 1980 年以降の航空産業を見ていくが、図 1-1 が示す通り、生産量は
増加中である。ここでは有償の旅客数とフライト距離を掛け合わせた有償旅客(ト
ン)キロで考え JAL と ANA2 社の推移を見た。
7
図 1-1 有償旅客キロの推移
120000000
100000000
80000000
60000000
40000000
20000000
0
ANA有償旅客キロ(千人km)国内線+国際線
JAL有償旅客キロ(千人km)国内線+国際線
出所:航空輸送統計年報
2001 年 2003 年はそれぞれアメリカ同時多発テロ、SARS 流行の影響を受け国際
線の生産量が減少しているとみることができるが、全体的に上昇傾向にある。国
土交通省によれば、アジアの経済発展・国際観光交流の増大とともに、今後も国
際航空旅客需要は増加の見込みがある。また、速く、快適に移動できる航空輸送
の特性と航空サービスの低廉化により、国内航空旅客も、順調に増加しおり今後
も増加が見込まれると発表している。
次に路線数を図 1-2 に示す。日本政府は航空の保護育成のために様々な規制を
設けてきており、1972 年の閣議了解、運輸大臣示達は JAL、ANA2 社と東亜国内
航空の 3 社で棲み分けをきめた。
( 東亜国内航空はのちに日本エアシステムとなり、
現在は JAL と合併した。)JAL は国際線と国内幹線、ANA は国内幹線とローカル
線、東亜国内航空はローカル線と数本の幹線を担当した。45・47 体制と呼ばれる
この体制は 1980 年代半ばまで続いた。しかし 1985 年に政策の転換で航空の自由
化を進めるため、JAL の完全民営化、国際線の複数社化、国内線の競争促進が実
施された。
8
図 1-2 国内路線数の推移
250
200
150
100
50
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
0
ANA国内線路線数
JAL国内線路線数
(注)1994 年に関西空港が、2005 年に中部空港が開港した。
出所:航空輸送統計年報
1.2
生産費用の特徴
通常航空輸送の生産量は、航空会社が提供した座席数やフライト距離ではなく、
旅客が金銭を支出することで利用した数量 、つまり有償旅客数、または有償旅客
トンキロが用いられる。本論文では後者の有償旅客キロを用いて論ずることにす
る。
航空産業では、一般に密度の経済性があるとされる。密度の経済性とは他の産
業における規模の経済性の概念と等しく、輸送量を多くしていくとき、平均費用
が逓減していくと考えるものである。また、航空産業での規模の経済とは密度の
経済性にネットワークサイズの概念を加えて考える ものである。たとえば輸送量
の拡大に伴い路線数が拡大する場合に、規模が拡大したとする。以前の航空産業
の研究では規模の経済性は働かないとされてきたが、最近の研究での試算では働
くという結果もみられている。
1.3
規制緩和
航空輸送は国家と産業の発展の要と考えられ、ほとんどの国において政府規制
の対象となった。規制の根拠は国家と産業の互恵発展、サービスの安定供給、運
賃の安定、サービスの公共的性格、安全性の維持、供給調整、過当競争の防止な
どである。しかし 1960 年ごろから規制が効率性を損ねているということが指摘さ
9
れ始め、1978 年にはアメリカ国内で航空規制緩和が行われた。日本では、この欧
米の自由化、航空事業の基盤が安定してきたこと、また航空を特別な産業とする
見方が少なくなったことを受けて、1985 年から自由化が進められた。規制緩和は
徐々に進み、1997 年に需給調整規制が、2000 年に価格規制が撤廃された。この
規制緩和政策は航空産業の市場はコンテスタブルな市場であるということが根拠
となった。これは潜在的な参入者が競争相手となり、寡占状態における市場支配
力が低下し社会的に効率的な価格設定がなされるという理論であるが、高い参入
費用のため、実際にはコンテスタブル市場理論の適用は難しい。規制緩和後、企
業レベルの集中度は高く、正規運賃は上昇してしまった。しかし個別市場から見
ると競争路線は増え、割引運賃により実質運賃は下落しており、輸送量は増加し
た。総余剰は増加し、規制緩和は評価されている。ただし、予約システムやマイ
レージサービスなどで各航空会社は消費者の囲い込みを行っており、各企業は市
場支配力を強めている。旅客はマイレージ加入から利用を 1 社に絞ったほうが効
率がよく、典型的なスイッチングコストが発生しているのである。
1.4
競争の度合い
市場を見る際に、そこでの競争がクールノー競争に近いか、ベルトラン競争に
近いかということは、市場の競争の度合いを表していると言える。年単位の長い
スパンで考えれば、航空会社は輸送量をベースにクールノー競争をする。一方短
い競争期間では運賃を戦略的に変えるベルトラン競争が起きている可能性がある。
ベルトラン競争においては 2 企業の寡占市場で考えるとP1 = P2 − εそれぞれの企業
が他企業よりわずかに低い価格をつけて需要を総取りしようとする。これが繰り
返され、P1 = P2 = c(限界費用)となり寡占市場であるにも関わらずマージンがな
くなってしまうことをベルトラン・パラドックスという。また、各企業が協調行
動をとっている場合も考えられる。価格が他企業に合わせて変動しているとき、
ベルトラン競争の可能性と、協調行動の可能性両方が考 えられるので注意が必要
である。競争の度合いとしてはベルトラン競争、クールノー競争、協調の順に競
争度が高いと言える。
1.5
参入
近年エアドゥ、スカイマークエアラインズが参入を表明し、新たな競争が始ま
った。永田洋介・河野通子・杉本崇 (2005) は、新規参入について次のように論
10
じている。
東京-札幌を結ぶエアドゥ、東京-福岡を結ぶスカイマークエアラインズ
が参入を表明し、国内航空市場で新たなる競争が始まった。しかしながら、
新規航空会社の経営は決して順調には進まなかった。新規航空会社は既存
の航空会社に比べ比較的低価格の航空券を提供したのに対し、大手航空会
社も価格競争に応じ運賃の低廉化競争がはじまったためである。経営基盤
が貧弱であった新規航空会社は価格競争に敗れ、安定した顧客基盤を確保
することができなかった。結果的に、いくつかの新規航空会社は路線の退
出を余儀なくされ、エアドゥに関しては民事再生法の手続きを経て全日本
空輸とのコードシェアを実施するようになった。また、スカイマークエア
ラインズは、当初の価格競争を主眼においた戦略から脱し、現在は大手航
空会社と類似した価格を設定し、収益を確保している。運賃の低価格化と
いう新規航空会社が掲げていた目標は一部の成功に留まり、国内航空市場
における欧米並みの低価格化は実現されなかった。
ここからわかる通り、これらの新規参入した企業は日本航空市場において、大き
な存在とはなりえなかった。事実上 JAL と ANA の2企業が市場で依然大きな力
を持っている。表 1-2 に主要航空会社の一覧をまとめた。やはり JAL、ANA に比
べて 2 社以外の旅客航空会社は路線数も資本金もかなり少なく、対抗するのは難
しそうである。
また、2012 年には国内線において新たに LCC(Low-Cost Carrier)とも呼ばれ
る格安航空会社 3 社が就航した。Peach Aviation、ジェットスター・ジャパン、
エアアジア・ジャパンの 3 社である。この参入によって市場が変わっていくこと
が見込まれるが、その効果を推定するには長い期間にわたったデータが必要なの
で本論文では考察しない。
本論文では JAL と ANA2 社のみに注目し、考察していく。以下表 1-3 に 2 社が
就航している路線と 1 社が就航している路線を示した。のちの章で 2 社とも就航
していない路線も含め、考察する。
11
表 1-2
日本航空イン
主要航空会社の概要
資本金(億円)
路線数
機数
従業員数
1,000
国内 79
236
17,908
181
13,798
国際 82
ターナショナ
ル
全日本空輸
1,600
国内 74
国際 53
日本貨物空港
306
国際 23
11
879
スカイマーク
42
国内 4
10
1,038
23
国内 4
5
605
19
国内 4
8
522
55
国内 2
4
385
50
国内 4
2
122
エアラインズ
北海道国際航
空
(エアドゥ)
スカイネット
アジア航空
スターフライ
ヤー
ギャラクシー
エアラインズ
(注) 1.資本金については、平成 19 年 3 月末のもの。
2.路線数については、平成 19 年 12 月のもの。
3.機数及び従業員数については、平成 19 年 1 月のもの。
出所:国土交通省ホームページ
12
表 1-3
2 社が就航している路
就航社数別一覧
距離
1 社が就航している路線
距離
線
羽田
旭川
930
福岡
鹿児島
199
関西
羽田
404
松山
福岡
210
釧路
羽田
914
関西
高知
213
新千歳
羽田
819
関西
出雲
242
中部
羽田
281
新千歳
青森
242
函館
羽田
697
函館
旭川
250
関西
宮崎
490
関西
松山
272
羽田
宮崎
871
羽田
新潟
274
福岡
宮崎
211
松山
鹿児島
292
新千歳
釧路
206
高知
福岡
298
関西
熊本
475
福岡
出雲
303
中部
熊本
593
仙台
羽田
304
羽田
熊本
874
新千歳
秋田
372
新千歳
広島
1199
新千歳
花巻
375
羽田
広島
637
中部
松山
393
羽田
高知
602
仙台
小松
443
関西
鹿児島
549
中部
大分
490
羽田
鹿児島
936
中部
仙台
517
関西
秋田
684
羽田
青森
581
羽田
秋田
454
中部
宮崎
597
新千歳
女満別
235
中部
秋田
609
羽田
女満別
998
羽田
出雲
624
羽田
小松
318
福岡
小松
625
関西
新潟
482
中部
花巻
636
新千歳
新潟
578
中部
鹿児島
659
中部
新潟
401
中部
長崎
671
関西
新千歳
1040
鹿児島
那覇
690
中部
新千歳
976
関西
花巻
722
13
新千歳
静岡
937
福岡
静岡
724
関西
仙台
615
宮崎
那覇
731
新千歳
仙台
520
中部
青森
736
関西
大分
370
長崎
那覇
777
羽田
大分
772
熊本
那覇
800
関西
長崎
550
関西
青森
806
羽田
長崎
952
仙台
広島
826
関西
那覇
1209
新千歳
小松
841
中部
那覇
1300
中部
函館
843
羽田
那覇
1553
関西
函館
907
福岡
那覇
863
広島
那覇
1045
新千歳
函館
133
中部
旭川
1092
関西
福岡
477
福岡
花巻
1153
新千歳
福岡
1415
中部
女満別
1184
仙台
福岡
1069
関西
釧路
1188
中部
福岡
601
関西
女満別
1258
新潟
福岡
920
那覇
静岡
1387
羽田
福岡
881
新潟
那覇
1692
仙台
那覇
1817
(注)1.沖縄以外の離島にある空港、2 路線以下しか就航していない空港を除く。
2.同じ都市の空港はひとまとめとしている(伊丹・関空・神戸など)
出所:各航空会社・空港のホームページ
14
第2章
費用関数推定と考察
文責:本田将隆
2.1
モデル
遠藤 (2000) のモデルを参考として、日本航空 (JAL) と全日本空輸 (ANA) のそ
れぞれの費用関数を推定し、密度の経済性と規模の経済性に関して考察する。
C : 費用
Q : 産出量
N : ネットワーク(路線数)
𝑃𝐿 : 労働の投入要素の価格
𝑃𝐾 : 資本の投入要素の価格
𝑃𝐹 : 燃料の投入要素の価格
以下のような費用関数を考える。
(2.1)
C = C(𝑃𝐿 , 𝑃𝐾 , 𝑃𝐹 , 𝑄; 𝑁)
この(2.1)式を標準的なトランスログ型で特定化する。
1
ln 𝐶 = 𝑎0 + ∑ 𝑎𝑖 ln 𝑃𝑖 + 𝑎𝑄 ln 𝑄 + 𝑎𝑁 ln 𝑁 + ( ) ∑ ∑ 𝑏𝑖𝑗 ln 𝑃𝑖 ln 𝑃𝑗
2
𝑖
𝑖
𝑗
1
+ ∑ 𝑏𝑖𝑄 ln 𝑃𝑖 ln 𝑄 + ∑ 𝑏𝑖𝑁 ln 𝑃𝑖 ln 𝑁 + ( ) 𝑏𝑄𝑄 (ln 𝑄)2
2
𝑖
𝑖
1
+ 𝑏𝑄𝑁 ln 𝑄 ln 𝑁 + ( ) 𝑏𝑁𝑁 (ln 𝑁)2
2
(𝑖, 𝑗 = 𝐾, 𝐿, 𝐹; 𝑏𝑖𝑗 = 𝑏𝑗𝑖 , 𝑏𝑖𝑄 = 𝑏𝑄𝑖 , 𝑏𝑖𝑁 = 𝑏𝑁𝑖 )
(2.2)
ここで(2.2)式が各投入要素価格に関して 1 次同次性が成立するために、係数は以
下のように制約される。
15
∑ 𝑎𝑖 = 1, ∑ 𝑏𝑖𝑗 = ∑ 𝑏𝑖𝑗 = 0, ∑ 𝑏𝑖𝑄 = 0, ∑ 𝑏𝑖𝑁 = 0
𝑖
𝑖
𝑗
𝑖
𝑖
各航空会社の特性を考慮するため、航空会社ごとにそれぞれトランスログ型費用
関数を推定する。また、規制緩和が行われた 1986 年を境にした年ダミー(𝐷𝑌 )およ
び、日本初のハブ空港である関西国際空港の開港を考慮する 1994 年を境にした関
西空港ダミー(𝐷𝐾 )を定数項ダミーとしていれる。
ネットワーク(路線数)一定のもとで便数の増加などを通じ輸送量が増大すると
き平均費用が減少する場合を密度の経済が存在するという。 Caves, Cristensen,
Tretheway and Windle (1985) より、密度の経済性の尺度(RTED)を
RTED =
1
(𝜕 ln 𝐶 ⁄𝜕 ln 𝑄 )
と定義すると、RTED>1 のとき密度の経済が存在し、RTED<1 のとき密度の不経
済が存在する。
一方、輸送量の変化がネットワーク(路線数)の変化を伴う場合を規模の経済が存
在するという。規模の経済性の尺度(RTES)を
RTES =
1
(𝜕 ln 𝐶 ⁄𝜕 ln 𝑄 ) + (𝜕 ln 𝐶 ⁄𝜕 ln 𝑁)
と定義すると、SCED>1 のとき規模の経済が存在し、SCED<1 のとき規模の不経
済が存在するといえる。
以上のことより、密度の経済性および規模の経済性の有無を検証するためには、
各航空会社のトランスログ型費用関数をそれぞれ推定し、その式より RTED およ
び RTES を算出すればよい。
2.2
データ
推定に使用した標本は、日本航空 (JAL) と全日本空輸 (ANA) それぞれ 1983
年から 2008 年であり、標本数は 26 である。
トランスログ型費用関数の推定にあたり必要となる変数は、費用(C)、産出量(Q)、
16
ネットワーク(N)、労働の投入要素の価格(𝑃𝐿 )、資本の投入要素の価格(𝑃𝐾 )、そして
燃料の投入要素の価格(𝑃𝐹 )である。
まず費用(C)は、労働費用、資本費用、そして燃料費用で構成されていて、 その
和で表した。労働費用と燃料費用は『航空統計要覧』の人件費および燃料 費から
それぞれ抽出した。資本費用は『有価証券報告書』の支払利息、社債利息、 そし
て各減価償却費の合計をとった。
産出量(Q)は、有償旅客キロであり『航空輸送統計年報』より抽出した。
ネットワーク(N)は、この論文では路線数を採択し、『航空輸送統計年報』より
抽出した。
労働の投入要素の価格(𝑃𝐿 )は、人件費を従業員数で割った値である。人件費、従
業員数はともに『航空輸送統計年報』からそれぞれ抽出した。
資本の投入要素の価格(𝑃𝐾 )は、利子率に減価償却率を足して、資本財輸送用機器
物価指数をかけて求めた。利子率は支払利息と社債利息を社債および借入金で割
って求め、減価償却率は減価償却費を有形固定資産で割って求めた。資本 財輸送
用機器物価指数は、『日本銀行物価指数年報』より抽出した。
燃料の投入要素の価格(𝑃𝐾 )は、燃料費を有償旅客キロで割った値である。
2.3
実証結果および考察
各変数のデータを標本平均で割って基準化したデータを用いて、SUR 法によっ
てトランスログ型費用関数を推定した。
1
ln 𝐶 = 𝑎0 + ∑ 𝑎𝑖 ln 𝑃𝑖 + 𝑎𝑄 ln 𝑄 + 𝑎𝑁 ln 𝑁 + ( ) ∑ ∑ 𝑏𝑖𝑗 ln 𝑃𝑖 ln 𝑃𝑗
2
𝑖
𝑖
𝑗
1
+ ∑ 𝑏𝑖𝑄 ln 𝑃𝑖 ln 𝑄 + ∑ 𝑏𝑖𝑁 ln 𝑃𝑖 ln 𝑁 + ( ) 𝑏𝑄𝑄 (ln 𝑄)2
2
𝑖
𝑖
1
+ 𝑏𝑄𝑁 ln 𝑄 ln 𝑁 + ( ) 𝑏𝑁𝑁 (ln 𝑁)2
2
(𝑖, 𝑗 = 𝐾, 𝐿, 𝐹; 𝑏𝑖𝑗 = 𝑏𝑗𝑖 , 𝑏𝑖𝑄 = 𝑏𝑄𝑖 , 𝑏𝑖𝑁 = 𝑏𝑁𝑖 )
(2.2)
日本航空(JAL)の推定結果と全日本空輸(ANA)の推定結果はそれぞれ、表 2-1、表
2-2 のようになる。決定係数はそれぞれ 0.9978、 0.9992 と両航空会社とも高い値
を示しており、各パラメータの推定値の有意性もおおむね高いといえる。
17
年ダミー変数(𝐷𝑌 )については、日本航空(JAL)では正の値だが一方で全日本空輸
(ANA)は有意と認められなかった。つまり、日本航空(JAL)では規制緩和が行われ
た 1986 年以降、費用水準が上昇傾向にあるといえる。規制緩和が行われたことに
より、航空会社間の競争が促進され、利用者獲得のために各航空会社が独自の戦
略をとった。このような背景によって、結果として日本航空(JAL)の費用水準は上
昇したと考えられる。
関西空港ダミー(𝐷𝐾 )は、両社ともにわずかながら負の値となった。つまり、関西国
際空港が開港した 1994 年以降、両航空会社の費用水準は低下傾向にあるといえる。
関西国際空港は日本初のハブ空港である。ハブ空港とは航空ネットワークの中核
となる空港であり,空港どうしをばらばらに結んでいる場合よりも限られた航空
機を効率的に使うことができる。このことから、両航空会社の費用水準は低下し
たと考えられる。
続いて、密度の経済性と規模の経済性についてみていく。表 2-3 のような結果
が得られた。
まず密度の経済性では、日本航空(JAL)は 1986 年から 2006 年と長い期間で密
度の経済が存在する。一方全日本空輸(ANA)では、1986 年から 1998 年で密度の
経済が存在している。両航空会社とも 1986 年、つまり規制緩和が行われた年から
密度の経済が存在していて、この期間ではネットワーク(路線数)を拡大しなくとも
便数の増 大な どによ り 平均費用 を下 げるこ と が可能で ある といえ る 。日本空輸
(ANA)では 1999 年以降、密度の不経済が存在している。実際,日本空輸(ANA)で
は、1999 年にスターアライアンスに加盟してネットワークを増大しようとしてい
る。スターアライアンスとは、地球規模のネットワークを世界で初めて実現した
航空連合であり、1 つの航空会社では実現できないネットワークを複数の航空会社
と提携することにより可能とするものである。
規模の経済性に関しては、日本航空(JAL)が 1983 年から 1998 年および 2001 年
から 2003 年で規模の経済が存在する。一方全日本空輸(ANA)では、1992 年から
1995 年および 1999 年から 2005 年に規模の経済が存在している。つまり、この
期間では、両航空会社がネットワーク(路線数)の増大を通じて輸送量を増加すると
規模の経済を享受できる可能性を意味している。
18
表 2-1
表 2-2
日本航空(JAL)のトランスロ
グ型費用関数の推定結果
パラメー
全日本空輸(ANA)のトラン
スログ型費用関数の推定結果
推定値
z値
𝑎0
0.181
5.12***
4.65***
𝑎𝐾
0.380
7.54***
-0.232
-6.77***
𝑎𝐿
0.306
2.89***
𝑎𝐹
0.452
34.38***
𝑎𝐹
0.337
8.37***
𝑎𝑄
0.326
3.59***
𝑎𝑄
0.274
4.73***
𝑎𝑁
0.193
9.02***
𝑎𝑁
0.525
5.98***
𝑏𝐾𝐿
-1.993
-4.68***
𝑏𝐾𝐿
-3.451
-4.41***
𝑏𝐾𝐹
2.601
8.33***
𝑏𝐾𝐹
1.451
4.81***
𝑏𝐿𝐹
-4.898
-9.56***
𝑏𝐿𝐹
-1.951
-2.05**
𝑏𝐾𝑄
2.784
10.29***
𝑏𝐾𝑄
0.872
4.96***
𝑏𝐿𝑄
-4.310
-9.66***
𝑏𝐿𝑄
-4.415
-3.63***
𝑏𝐹𝑄
1.444
11.29***
𝑏𝐹𝑄
-0.937
-5.52***
𝑏𝐾𝑁
-2.357
-12.10***
𝑏𝐾𝑁
0.169
0.64
𝑏𝐿𝑁
3.023
7.07***
𝑏𝐿𝑁
1.486
1.91**
𝑏𝐹𝑁
0.145
1.57*
𝑏𝐹𝑁
2.371
8.45***
𝑏𝑄𝑄
5.265
11.95***
𝑏𝑄𝑄
0.206
0.29
𝑏𝑄𝑁
-3.415
-10.56***
𝑏𝑄𝑁
1.055
1.67**
𝑏𝑁𝑁
0.644
1.99**
𝑏𝑁𝑁
-0.626
-0.67
𝐷𝑌
0.238
13.54***
𝐷𝑌
-0.015
-0.42
𝐷𝐾
-0.062
-4.15***
𝐷𝑁
-0.067
-4.86***
推定値
z値
𝑎0
-0.030
-1.36*
𝑎𝐾
0.222
𝑎𝐿
タ
パラメー
タ
𝑅 2 = 0.9992
𝑅 2 = 0.9978
(***1%有意,**5%有意,*10%有意)
(***1%有意,**5%有意,*10%有意)
19
表 2-3
日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)の規模の経済性および密度の経済性
JAL
ANA
規模の経済
密度の経済
規模の経済
密度の経済
性
性
性
性
83
2.690
-1.480
0.469
0.851
84
2.070
-2.142
0.485
0.954
85
3.731
-2.336
0.550
0.925
86
1.495
7.310
0.722
1.103
87
1.225
3.330
0.845
1.078
88
1.121
2.253
0.819
1.177
89
1.377
2.380
0.846
1.116
90
1.242
3.384
0.809
1.132
91
1.455
2.403
0.958
1.039
92
1.402
2.666
1.008
1.034
93
1.286
2.157
1.085
1.060
94
1.533
1.777
1.152
1.049
95
1.124
1.405
1.088
1.120
96
1.285
1.604
0.945
1.166
97
1.043
1.344
0.928
1.241
98
1.142
1.373
0.910
1.356
99
0.911
1.195
1.269
0.998
00
0.716
1.107
1.147
0.924
01
1.031
1.381
1.399
0.836
02
1.246
1.285
2.087
0.709
03
1.305
1.455
1.626
0.777
04
-1.049
2.113
1.421
0.887
05
-1.077
2.107
1.251
0.853
06
-1.297
5.234
0.889
0.864
07
-0.509
-14.995
0.735
0.865
08
-0.497
-2.311
0.558
0.886
20
第3章
需要関数推定と考察
文責:高井良昂貴
3.1
モデル
遠藤 (2004) では、各企業の需要関数を以下のような線形対数モデルで推定し
ている。
lnQ=a1 + a2 lnP + a3 lnY + u
今回は、各企業ではなく路線ごとに需要関数を推定したいため、日本航空(JAL)
と全日本空輸(ANA)を同質財とみなし、路線ごとの需要関数を推定することを
試みる。路線ごとの需要関数は、以下のようなモデルで推定を行うこととする。
lnQ=a1 + a2 lnP + a3 lnY + 𝑎4 dy + u
ここで dy は 1999 年までなら 0、2000 年以降なら 1 となるダミー変数とする。な
ぜなら、2000 年に航空法の改正により認可制から事前届制航空運賃の自由化が行
われ、本論文ではその前後での需要の変化を検証するためである。
また、東京‐大阪に関しては、新幹線との競合を無視できないため、また、大
阪‐福岡に関しては、大阪‐福岡の距離が東京‐大阪の距離に近いという点から、
東京‐新大阪と東京‐博多の新幹線を利用した場合は最短所要時間を t とする変
数を入れ、以下のような式で推定する。
lnQ = 𝑎1 + 𝑎2 ln 𝑃 + 𝑎3 ln 𝑌 + 𝑎4 𝑑𝑦 + 𝑎5 ln 𝑡 + 𝑢
3.2
データ
P は運賃自由化以前は各社の有価証券報告書から、自由化後は国土交通省のデ
ータを用いた。Y は県民所得であり、総務省の『県民経済計算』から取得した。
ただし羽田空港の利用者に関しては東京・埼玉・千葉・神奈川の県民所得を合計
し、伊丹空港の利用者に関しては兵庫・京都・大阪・奈良の県民所得を合計した
ものである。Q は『航空輸送統計年報』から路線ごとの有償旅客キロをとったも
のである。
21
対象とした路線は、JAL と ANA の両企業が 1983 年から今日に至るまで就航し
ているという点から、羽田‐大阪、大阪‐福岡、羽田‐札幌、羽田‐那覇、福岡
‐那覇、羽田‐福岡の 6 路線とした。それぞれで 1983 年から 2008 年までの各年
の値、26 をサンプルとしている。
3.3
実証
表 3-1
羽田‐大阪の需要の推定結果
パラメータ
推定値
t値
𝑎1
-2.857
-0.15
𝑎2
-0.369
-0.63
𝑎3
0.808
1.23
𝑎4
1.104
5.06
𝑎5
2.704
2.82
𝑅 2 =0.8929
この結果より、𝑎4 と𝑎5 が有意であることが分かる。𝑎4 が需要に正の相関をもつ理
由は、2000 年の航空運賃自由化によって企業間の価格競争が激しくなった結果、
運賃が安くなり、2000 年以降は旅客数が増加したためと考えられる。
また、東京‐大阪では鉄道と航空の競合が強く見られるため、新幹線の乗車時
間が長ければ飛行機が選択されやすくなることによって 、表 3-1 の結果に見られ
るように、𝑎5 は需要に正の相関をもち、鉄道での所要時間が需要に大きく影響し
ていることが分かる。
ここでは、有意にならなかったため、関西国際空港の開港が需要に影響してい
るのかどうかのダミー変数は組み入れてないが、実際には関西国際空港の開港は
需要に影響していると考えられる。
国土交通省「旅客地域流動調査」より、1994 年~2003 年の旅客数の推移を図
にすると、次のようになる。
22
図 3-1
東京‐大阪における新幹線と飛行機の利用者数の推移
30000000
25000000
20000000
人 15000000
数
10000000
新幹線
飛行機
5000000
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
0
年度
出所:旅客地域流動調査
この図を見ると、1994 年以降、関西国際空港の開港による利用者の増加が見て取
れる。具体的には大阪側に 2 つの空港があり広い地域からアクセスしやすくなっ
たこと、シャトル便が設定されたこと、一部の便では値下げが図られたこと、 空
港内カウンターの共有化などにより旅客の利便性が上昇したことなど が影響して
いる。
シャトル便とは、日本航空と全日空、日本エアシステムの 3 社が協力して羽田
空港-伊丹空港線、羽田空港-関西国際空港で便数を増やし、30 分~1 時間待て
ばいずれかの便で東京-大阪間を移動できるようにした航空 3 社の対新幹線戦略
である。
関西国際が開港や航空運賃自由化がどう影響したのかを見るため、 1992 年と
2005 年の鉄道と航空のシェアを見ると次のようになる。
23
図 3-2
東京‐大阪における新幹線と航空のシェア
1992年
その他
1%
その他
4%
航空
19%
2005年
航空
28%
鉄道
68%
鉄道
80%
出所:旅客地域流動調査
この結果を見ても分かるように、関西国際空港の開港や航空運賃自由化により
航空のシェアが著しく増加している。
以下は東京‐大阪の他の 5 路線の推定結果である。
表 3-2
羽田‐福岡の需要の推定結果
パラメータ
推定値
t値
𝑎1
1.002
0.16
𝑎2
-0.090
-0.26
𝑎3
1.335
7.60
𝑎4
0.427
5.56
決定係数:𝑅 2=0.9800
羽田‐福岡においても、もちろん新幹線のシェアもあるが、2005 年時点では 7%(旅
客地域流動調査より)と小さく、有意にならなかったために鉄道所要時間の変数は
除外した。
24
表 3-3
羽田‐札幌の需要の推定結果
パラメータ
推定値
t値
𝑎1
8.959
1.33
𝑎2
-0.301
-0.82
𝑎3
0.994
5.26
𝑎4
0.280
3.88
決定係数:𝑅 2=0.9707
表 3-4
羽田‐那覇の需要の推定結果
パラメータ
推定値
t値
𝑎1
24.865
4.15
𝑎2
-1.104
-3.86
𝑎3
0.522
2.74
𝑎4
0.832
19.94
決定係数:𝑅 2=0.9848
表 3-5 福岡‐那覇の需要の推定結果
パラメータ
推定値
t値
𝑎1
10.024
2.52
𝑎2
-0.404
-2.14
𝑎3
0.951
6.61
𝑎4
0.423
0.034
決定係数:𝑅 2=0.984
表 3-6
大阪‐福岡の需要の推定結果
パラメータ
推定値
t値
𝑎1
54.822
3.61
𝑎2
-2.030
-3.29
𝑎3
-1.063
-1.99
𝑎4
0.500
2.68
𝑎5
0.470
0.93
決定係数:𝑅 2=0.6801
25
ここで、東京‐大阪の需要の推定結果(表 3-1)では𝑎5 は有意であったのに対して、
大阪‐福岡の需要の推定結果(表 3-6)では𝑎5 の t 値が 0.93 と、有意になっていな
い点から、東京‐大阪に比べ大阪‐福岡では航空と鉄道の競合が薄い、もしくは
新幹線利用者は所要時間の変化に影響を受けていない、などが考えられる。これ
に関しては第 4 章で再検討する。
3-4
まとめ
表 3-2 から表 3-6 までの推定結果より、全体的に決定係数は高く出ており、ほ
とんどの推定結果で𝑎3 と𝑎4 が有意と出ている。どちらとも需要に正の相関がある
となっている。つまり、発着地の県民所得が増加すれば航空需要も増加し、航空
運賃の自由化により航空需要が増加したことを意味している。航空運賃の変数 𝑎2
に関しては有意にならなかった推定結果もあったが、有意になったものを見ると、
当然だが負の相関をもつという推定結果になった。また鉄道での所要時間の変数
𝑎5 に関しては、東京‐大阪では有意となり、正の相関が見られたが、大阪‐福岡
では有意にはならなかった。このことから、東京‐大阪の方が航空と鉄道で競合
しているようにも考えられる。
また、東京‐大阪に関しては、1994 年に関西国際空港が開港したことで航空需
要が高まっていることが分かる。
26
第4章
推測的変動の計測
文責:阿部奈月
4.1 目的
この章の目的は、推測的変動の概念を用いて、国内路線における日本航空(JAL)
と全日本空輸(ANA)の競争の度合いを測定することである。2 企業の複占状態
にある国内路線において、企業間の競争の形態が、ベルトラン競争・クールノー
競争・カルテルのどれに近いかを推察していく。
4.2 先行研究紹介
本節では、先行研究となる Brander and Zhang (1990) を紹介する。まず、こ
の章での鍵となる推測的変動という概念について、この論文にしたがって説明し
ていく。
4.2.1 推測的変動とは
n企業が同質財を生産しているとする。各企業の利潤関数は、
𝜋 𝑖 = 𝑥𝑖 𝑝(𝑋) − 𝐶 𝑖 (𝑥𝑖 )
𝑖 = 1 , 2, … , 𝑛
𝑋 = ∑ 𝑥𝑖
(4.1)
と表せる。(4.1) 式を𝑥𝑖 で微分し、限界費用を𝑐𝑖 とすると、以下の式が導き出せる。
𝜕𝜋 𝑖
𝑑𝑋
= 𝑝(𝑋) + 𝑥𝑖 𝑝′ (𝑋)
− 𝑐𝑖
𝜕𝑥𝑖
𝑑𝑥𝑖
= 𝑝(𝑋) + 𝑥𝑖 𝑝′ (𝑋) (1 +
𝑑𝑥−𝑖
) − 𝑐𝑖
𝑑𝑥𝑖
(4.2)
=0
(4.2) 式において、𝑣𝑖 ≡ 𝑑𝑥−𝑖 ⁄𝑑𝑥𝑖 と定義すると、この𝑣𝑖 が推測的変動に相当するも
のである。推測的変動とはすなわち、自社が生産量を 1 単位増やしたとき、他企
業がそれに応じてどのくらい生産量を変化させるかを示す値であるといえる。そ
してこの推測的変動の値により、企業の競争形態は以下のように分類される。
① 𝑣 𝑖 = −1 のとき:ベルトラン競争
27
② 𝑣 𝑖 = 0 のとき:クールノー競争
③ 𝑣 𝑖 = 𝑛 − 1 のとき:カルテル
なぜこのようになるのかについて、簡単に言及しておく。まず①の場合、(4.2) 式
は𝑝(𝑋) = 𝑐 𝑖 となるため、ベルトラン競争の下で完全競争に近い形態の競争をして
いるといえる。次に②の場合、(4.2) 式は𝑝(𝑋) + 𝑥𝑖 𝑝′ (𝑋) − 𝑐 𝑖 = 0となり、これは同
質財のクールノー競争の一階条件に相当するためである。村上 (2012) では、ク
ールノー競争はつまり、他企業の供給行動の如何に関わらず自らの輸 送量を決定
する状況であると述べられている。最後に③の場合であるが、完全な共謀が達成
されているならば、自社が生産量を変化させたとき、自分以外のn − 1社もまた、
同じ方向に同じ割合で変動することになる。つまり自社が 1 単位生産量を増やし
た際、𝑥−𝑖 は(n − 1)単位増加するのである。また、今回は JAL と ANA の 2 企業
の複占市場を対象にするため、カルテルが生じている場合の推測的変動は
𝑣 𝑖 = 𝑛 − 1 = 1 となる。
推測的変動の値を計算で求められる形にするため、(4.2) 式を変形していく。需
要の価格弾力性 𝜂(𝑋) = −(𝑑𝑋⁄𝑑𝑝)(𝑝⁄𝑋) を用いると、𝑣𝑖 は
𝑣𝑖 =
(𝑝−𝑐 𝑖 )𝜂(𝑋)
𝑝𝑠𝑖
(4.3)
−1
と書き換えられる。ここで、𝑠𝑖 はマーケットシェアである。(4.3) 式から、推測的
変動の算定に必要なのは以下の 4 つの情報であるといえる。
① 運賃情報
② 限界費用
③ 需要の価格弾力性
④ マーケットシェア
4.2.2 データ
Brander and Zhang (1990) で用いられたデータについてまとめておく。まず、
この論文での対象路線は、1985 年第 3 四半期の時点でシカゴを拠点として運行し
ていた路線のうち、American Airline と United Airlines の 2 社がマーケットシェ
アの 75%以上を占める 33 路線である。彼らは、アメリカ運輸省のデータバンク
から、運賃と旅客数のデータを取得している。需要の価格弾力性については先行
研究の推定値を利用し、路線に関わらず一定と仮定している。そして限界費用を
28
路線ごとに推定し、推測的変動の値を路線ごとに算出している。
4.2.3 実証結果
彼らの実証結果を表 4-1 にまとめた。この表から見てとれるように、主に推測
的変動は 0 に近い路線が多いことが分かる。1985 年における標本平均で評価する
と、推測的変動は、American Airlines で 0.06、United Airlines で 0.12 になるこ
とから、彼らはシカゴを拠点とした路線において、2 社の競争形態はクールノー競
争に近いと結論付けている。
4.3 推測的変動の計測
この節では、Brander and Zhang (1990) を参考に、日本国内における JAL と
ANA の推測的変動を路線ごとに計測することを試みる。
4.3.1 データ
日本の航空市場において推測的変動の計測を行った論文には遠藤 (2004) があ
る。この論文では、日本ではアメリカほど航空関連のデータが十分整っていない
ため、路線別の推測的変動は計測しないとし、1980 年から 2002 年の日本国内線
における大手3社の推測的変動の値を時系列で分析している。今回は、
『航空輸送
統計年報』や各社の有価証券報告書、国土交通省の開示している運賃データや丹
生 (2010) などを用いて可能な限りのデータを集め、路線別の推測的変動の計測
に挑戦した。データ収集の年度は 1983 年から 2008 年までとした。対象とする路
線についてであるが、推測的変動の計測には需要の価格弾力性のデータが必要で
あるため、第 3 章の需要関数推定で取り上げた 6 路線とし、それぞれの需要関数
を価格で偏微分することにより求めた。限界費用を路線ごとに算出するのは困難
であったため、路線ごとに限界費用は一定であると仮定し、第 2 章で求めた費用
関数から企業ごとの限界費用を算定した。マーケットシェアは、路線ごとにおけ
る各社の旅客人数を『航空輸送統計年報』より取得し、計算した。
29
表 4-1 アメリカの各路線における各社の推測的変動
路線
AA
UA
AA
UA
Grand Rapids
0.82
1.02
Providence
-0.14
0.28
Indianapolis
-0.11
1.95
Austin
-0.72
-1.43
Columbus
1.46
0.41
San Antonio
-0.13
-0.20
Des Moines
1.50
0.34
Albuquerque
-0.78
-0.31
Omaha
1.74
0.02
Phoenix
-0.08
-0.70
Buffalo
0.39
0.35
Tucson
-0.79
-0.17
Rochester
0.39
0.81
Las Vegas
-0.75
-1.15
Tulsa
-0.00
1.08
Reno
-0.80
-0.77
Wichita
0.25
0.90
Ontario, CA
-0.28
-0.49
Syracuse
0.19
0.59
San Diego
-0.28
-0.58
Baltimore
0.62
0.16
Seattle
-0.11
-0.32
Oklahoma
0.17
0.82
Los Angeles
-0.16
0.02
Albany
-0.10
0.82
Portland
-0.84
-0.35
New York
0.20
0.48
Sacramento
-0.08
-0.31
Charleston
-0.50
-0.62
San Jose
0.33
0.04
Hartford
0.79
0.01
San Francisco
0.26
-0.20
Dallas
-0.39
1.33
路線
出所:Brander and Zhang
(1990)
30
4.3.2 実証結果
各路線の 1983 年から 2008 年の平均的な推測的変動の値は、以下の通りである。
表 4-2 日本の各路線における各社の推測的変動
路線
JAL
ANA
羽田―福岡
-0.776496389
-0.79150323
羽田―札幌
-0.292476822
-0.300099354
羽田―大阪
-0.233055674
-0.143717096
福岡―那覇
-0.117816967
-0.186460923
羽田―那覇
1.024368419
1.777831628
大阪―福岡
3.864205226
3.714748782
この結果から推察するに、各路線での 2 社の競争形態は以下のようになってい
ると考えられる。
・ベルトラン競争:羽田―福岡
・クールノー競争:羽田―札幌・羽田―大阪・福岡―那覇
・カルテル
:羽田―那覇・大阪―福岡
また、時系列推移での推測的変動をグラフ化すると、次のようになる。
図 4-1 ANA の推測的変動
5
推
測
的
変
動
4
羽田━札幌
3
羽田━那覇
2
福岡━那覇
1
羽田━福岡
0
-1 1983 1985 1987 1990 1992 1994 1996 1998 2005
大阪━福岡
-2
羽田━大阪
年度
31
図 4-2 JAL の推測的変動
羽田━札幌
羽田━那覇
福岡━那覇
羽田━福岡
1983
1984
1985
1986
1987
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
2003
2005
推
測
的
変
動
6
5
4
3
2
1
0
-1
-2
大阪━福岡
羽田━大阪
年度
4.4 考察
この節では、得られた結果に関して自分なりに考察していく。まず、推測的変動
の値が飛びぬけて大きいという結果が出た大阪―福岡についてであるが、これは
大阪―福岡の需要の価格弾力性が他路線に比べかなり大きいことが影響している
と考えられる。各路線の需要の価格弾力性の値を、表 4-3 にまとめた。大阪―福
岡の価格弾力性が高いのは、この路線においては新幹線という競合手段の存在が、
航空需要を価格に敏感なものにしているためではないかと考えられる。
表 4-3 各路線の需要の価格弾力性
路線
𝜂(𝑋)
路線
𝜂(𝑋)
羽田―札幌
0.3013953
羽田―福岡
0.0897848
羽田―那覇
1.103991
大阪―福岡
2.030151
福岡―那覇
0.4043889
羽田―大阪
0.3687129
次に、羽田―福岡について、推測的変動の値が−1付近であり、ベルトラン競争
という結果になった理由を考察する。これはマーケットシェアの影響が大きいの
ではないかと考え、以下に各路線のマーケットシェアを図示した。
32
図 4-3 羽田―福岡のマーケットシェア
2007
2001
年 1995
度
1989
ANAシェア
JALシェア
その他
1983
0%
20%
40%
60%
80%
100%
マーケットシェア
出所:『航空輸送統計年報』
図 4-4 羽田―札幌のマーケットシェア
2007
2003
1999
年 1995
度
1991
1987
1983
ANAシェア
JALシェア
その他
0%
20%
40%
60%
80%
100%
マーケットシェア
出所:『航空輸送統計年報』
図 4-5 羽田―大阪のマーケットシェア
2007
2001
年 1995
度
1989
ANAシェア
JALシェア
その他
1983
0%
20%
40%
60%
80%
100%
マーケットシェア
出所:『航空輸送統計年報』
33
図 4-6 福岡―那覇のマーケットシェア
2007
2001
年 1995
度
1989
ANAシェア
JALシェア
その他
1983
0%
20%
40%
60%
80%
100%
マーケットシェア
出所:『航空輸送統計年報』
図 4-7 羽田―那覇のマーケットシェア
2007
2001
年 1995
度
1989
ANAシェア
JALシェア
その他
1983
0%
20%
40%
60%
80%
100%
マーケットシェア
出所:『航空輸送統計年報』
図 4-8 大阪―福岡のマーケットシェア
2007
2003
1999
年 1995
度
1991
1987
1983
ANAシェア
JALシェア
その他
0%
20%
40%
60%
80%
100%
マーケットシェア
出所:『航空輸送統計年報』
34
図 4-3 から図 4-8 を見て分かることは、羽田―札幌と羽田―福岡は、JAL と ANA
以外のシェアが比較的大きいということである。羽田―札幌においては AIR DO
など、羽田―福岡においてはスカイマークなどが、他路線に比べ大きなシェアを
占めている。このことから、今回抽出した 6 路線のうち、この 2 つの路線は JAL、
ANA、そして他社が互いに競合姿勢である可能性があると推測される。そのため、
競争の形態は完全競争に近いのではないかと考えられる。ここから、羽田―福岡
がベルトラン競争になったことと、羽田―札幌がクールノー競争ではあるが推測
的変動の値はやや−1よりであることが説明される。
最後に羽田―那覇についてであるが、推測的変動の値が安定して 1 付近であり、
この路線において 2 社は競争状態というより共謀状態に近いといえる。実際に JAL
と ANA の旅客数推移を図示してみると、図 4-9 から、羽田―那覇では 2 社が基本
的に同じ動きをしていることが見てとれる。比較対象として、完全競争に近いと
いう結果になった羽田―福岡の旅客数推移を図 4-10 で示した。羽田―福岡では特
に近年、どちらかの企業の旅客数が減ると、もう一方の企業の旅客数が増えてい
るのが分かる。このことから、推測的変動𝑣𝑖 ≡ 𝑑𝑥−𝑖 ⁄𝑑𝑥𝑖 の値が、羽田―那覇で 1
に、羽田―福岡で−1に近い結果になったのも納得といえる。
図 4-9 羽田―那覇の旅客数推移
3000000
2500000
2000000
旅
客 1500000
数 1000000
JAL
ANA
500000
1983
1985
1987
1989
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
2007
0
年度
出所:『航空輸送統計年報』
35
図 4-10 羽田―福岡の旅客数推移
4500000
4000000
3500000
3000000
旅 2500000
客 2000000
数
1500000
1000000
500000
0
JAL
1983
1985
1987
1989
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
2007
ANA
年度
出所:『航空輸送統計年報』
36
第5章
路線市場への JAL と ANA の参入条件
文責:安部遼馬
5.1 本章の概要
我が国には全国で大小あわせて 98 の空港が存在している。そのため単純に計算
すれば、空港の組み合わせの数だけ、すなわち 5000 近い数の路線が設定されうる。
無論そのうち実際に定期航空便が就航している路線はごく一部であり、また路線
が就航している場合も JAL と ANA のどちらか 1 社が参入している場合と、両社
ともに参入している場合とがある。本章では各路線をひとつの市場としたうえで、
我が国の航空旅客産業を複占する 2 社がどのような条件で市場に参入するのかを、
実際の参入行動と市場に関するデータから誘導形の利潤関数を推計することで検
証したい。
本章の構成だが、まず 2 節で理論の説明を行い、3 節において実証の結果を示す。
さらに 4 節で実証の結果を用いて現在建設中の北陸新幹線が開通した場合の関連
航空市場の変化を予測する。
5.2 理論
まずは本論文で用いた理論について解説をするが、この節の前半では、西脇雅
人 (2012) にしたがって理論の前提となる Bresnahan and Reiss (1991a) の参入
モデルを紹介し、後半ではそのモデルで実証を行う際に生じる問題を回避する手
法として Berry (1992) を紹介する。
5.2.1 Bresnahan and Reiss (1991a)
はじめに本研究において用いた参入の理論の基本的な部分である、 Bresnahan
and Reiss (1991a)のモデルを紹介したい。ある市場 m に対し、参入を考えている
企業(潜在的参入企業)が複数存在する。今回の場合では、市場とは伊丹空港-
羽田空港、那覇空港-鹿児島空港といった路線を指し、参入を考える企業は JAL
と ANA の 2 社である。企業 i はある市場 m に参入した場合に得られる利潤𝛱𝑚𝑖 が
0 を上回れば参入し、下回れば参入しないと考える。すなわち企業 i の参入行動は
𝑎𝑚𝑖 = {
1 𝑖𝑓 𝛱𝑚𝑖 > 0
0 𝑖𝑓 𝛱𝑚𝑖 ≤ 0
(5.1)
37
(5.2)
𝛱𝑚𝑖 = 𝑉𝑚𝑖 − 𝐹𝑚𝑖
と表せる。𝑎𝑚𝑖 が 1 であれば参入を、0 であれば参入しないことを意味する。また𝑉𝑚𝑖
とは企業 i が市場 m から得られる可変利潤を、𝐹𝑚𝑖 は参入に必要な固定費用を表す。
この𝑉𝑚𝑖 は路線の距離、路線が結ぶ都市の人口などといった市場の条件に左右され
るほか、今回扱うような寡占市場においては他社の行動によっても影響を受ける。
例えば ANA が就航している路線に JAL も就航した場合、ANA は客の一部を JAL
に奪われ利潤が減少するだろう。このような状況を式で示すと
𝛱𝑚𝑖 = 𝛱(𝑥𝑚𝑖 , 𝑧𝑚𝑖 , 𝜖𝑚𝑖 , 𝑎𝑚−𝑖 ) = 𝑉(𝑥𝑚𝑖 , 𝜖𝑚𝑖 , 𝑎𝑚−𝑖 ) − 𝐹(𝑧𝑚𝑖 )
(5.3)
式中の𝑎𝑚−𝑖 は、i 以外の企業の参入行動を表し、𝑥𝑚𝑖 は可変利潤に影響を与えるそ
の他の諸条件のうち外部の観測者が観測可能なもの、𝑒𝑚𝑖 は外部の観測者には分か
らないものであり、𝑧𝑚𝑖 は参入費用に影響を与える諸要素である。具体的には𝑥𝑚𝑖 は
先に述べたように空港を結ぶ大圏距離や人口、𝑧𝑚𝑖 は空港に就航する際に必要な設
備の費用などである。𝜖𝑚𝑖 は企業のブランドイメージやサービスの質などといった
数値で捉えられない諸要素が考えられるが、このとき重要なのは、このモデルで
は完備情報ゲームを仮定するため、観測不可能なのは外部の観測者にとってであ
り、企業は自社のものも他社のものも把握しているという点である。
次に各企業の利潤関数を示すが、今回扱う市場は複占市場であるため、以下潜
在的参入企業は 2 社という設定で話を進める。
𝛱𝑚1 = 𝑥𝑚1 𝛼1 − 𝛿2 𝑎𝑚2 − 𝑧𝑚1 γ1 + 𝜖𝑚1
(5.4)
𝛱𝑚2 = 𝑥𝑚2 𝛼2 − 𝛿1 𝑎𝑚1 − 𝑧𝑚2 γ2 + 𝜖𝑚2
(5.5)
(3.4)式は企業 1 の、(3.5)式は企業 2 の利潤関数である。αi , δi , γi はそれぞれ係数を
表す。特にδi はライバルの参入によって失われる利潤を意味している。この 2 社の
参入ゲームのペイオフマトリックスを示すと以下のようになる。
38
表 5-1
1
2
参入
参入ゲームにおける 2 社のペイオフマトリックス
参入
不参入
(𝑥𝑚1 𝛼1 − 𝛿2 − 𝑧𝑚1 γ1 + 𝜖𝑚1 ,
(𝑥𝑚1 𝛼1 − 𝑧𝑚1 γ1 + 𝜖𝑚1 ,0)
𝑥𝑚2 𝛼2 − 𝛿1 − 𝑧𝑚2 γ2 + 𝜖𝑚2 )
不参入
(0,𝑥𝑚2 𝛼2 − 𝑧𝑚2 γ2 + 𝜖𝑚2)
(0,0)
表 3-1 の左上は 2 社がともに参入しているため、互いにライバルの存在によって δ
だけ利潤を損なっている。一方、右上や左下ではライバルが存在せず独占状態に
あるため利潤を損なうことはない。また参入をしない企業は当然ながら利潤を得
ることは ない 。これ ら 表の中の 利潤 関数が 具 体的にど のよ うな値 を とるかは、
𝑥𝑚𝑖 , 𝑧𝑚𝑖 , 𝜖𝑚𝑖 といった市場の諸条件と、パラメータθ = (αi , δi , γi )によって決まる。そ
の値の結果によって、ゲームの結果(𝑎𝑚1 , 𝑎𝑚2 )が導き出される。この均衡は、(1,1)、
(1,0)、(0,1)、(0,0)、(1,0)または(0,1)、の 5 種類があり得る。最初の 4 つの均衡に
関しては一意に定まるが、最後の、(1,0)または(0,1)の場合は複数均衡が存在して
おり一意に定まらない。これらの均衡の状況を具体的に考えると、まず (1,1)は、
お互いにライバルの参入により利潤を減らされたとしても正の利潤が得られるた
め両社が参入し複占という状況である。次に(1,0)は、企業 1 は企業 2 が参入して
も正の利潤が得られるが、企業 2 の側は複占では利潤が負となるため参入できな
いため、企業 1 の独占となる。(0,1)はこれの企業 1 と 2 を逆にしたものである。(0,0)
は、両社ともに、ライバルのいない独占状況であっても正の 利潤が得られないた
め、いずれの企業も参入しないという状況である。最後に、(1,0)または(0,1)は、
両社とも独占であれば正の利潤が得られるが、複占になると負の利潤となってし
まう、という場合の均衡である。
5.2.2 Berry (1992)
以上で本章において用いる理論の前提部分の説明は終わった。しかしながら、
このモデルを実際に実証分析に用いるには問題がある。まずはその理由を解説す
る。先に述べたように利潤関数は観測不可能な𝜖𝑚𝑖 に依存している。今回はこの𝜖𝑚𝑖
は正規分布に従うとするが、ある市場において複占状態、企業 1 の独占、企業 2
の独占、どちらも参入しない、という 4 種の状況が発生する確率は、𝜖𝑚𝑖 以外の観
測可能な条件のもとで、それぞれの状況が発生するような 𝜖𝑚𝑖 の値の範囲という形
で表される。だが、どちらか 1 社が参入する状況の背後にある参入ゲームの均衡
39
には、(1,0)、(0,1)のほかに、(1,0)または(0,1)という複数均衡のパターンがあり得
る。すなわち、企業 1 の独占となる𝜖𝑚𝑖 の範囲と、企業 2 の独占となる𝜖𝑚𝑖 の範囲に
は重複が生じているのである。このため実際に市場で観測される 4 種の状況の生
起確率の和が 1 を上回ってしまうのである。
こうした問題を回避するために、今回は Berry (1992)で用いられた方法を採用
する。以下がその手法の解説である。まず、両社の利潤関数を以下のように設定
する。
𝛱𝑚1 = 𝑥𝑚 𝛼 − 𝛿𝑎𝑚2 − 𝑧𝑚1 γ + 𝜖𝑚1
(5.6)
𝛱𝑚2 = 𝑥𝑚 𝛼 − 𝛿𝑎𝑚1 − 𝑧𝑚2 γ + 𝜖𝑚2
(5.7)
今回の式が(3.4)、(3.5)と違う点は、パラメータα, δ, γと可変利潤に影響する条件𝑥𝑚
が両社に共通である点である。また、参入の意思決定については先と同じで
𝑎𝑚𝑖 = {
1 𝑖𝑓 𝛱𝑚𝑖 > 0
0 𝑖𝑓 𝛱𝑚𝑖 ≤ 0
(5.8)
である。この条件のもとで、両社は以下のようなペイオフマトリックスの参入ゲ
ームを行う。
表 5-2 Berry (1992) のモデルにおける 2 社のペイオフマトリックス
1
2
参入
参入
不参入
(𝑥𝑚 𝛼 − 𝛿𝑎𝑚2 − 𝑧𝑚1 γ + 𝜖𝑚1 ,
(𝑥𝑚 𝛼 − 𝑧𝑚1 γ + 𝜖𝑚1 ,0)
𝑥𝑚 𝛼 − 𝛿𝑎𝑚1 − 𝑧𝑚2 γ + 𝜖𝑚2 )
不参入
(0, 𝑥𝑚 𝛼 − 𝑧𝑚2 γ + 𝜖𝑚2)
(0,0)
Berry(1992)はこの参入ゲームの結果において、参入する企業数のみに注目する手
法を採った。つまり、参入するのが企業 1 であるか企業 2 であるかは問題とせず、
どちらにせよ 1 社が参入という結果として処理するのである。ある𝑥𝑚 とθの条件下
で参入企業が 1 となる確率は次のように示すことができる。
P[N ∗ = 1|x, θ] = 1 − P[N ∗ = 0|x, θ] − P[N ∗ = 2|x, θ]
40
(5.9)
この式より明らかに、参入企業数が 0、1、2 となる確率の和は 1 である。Berry(1992)
は以上のような方法によって、実証において生じる問題を回避した。
5.3 実証
ここからは実際に行った実証に関して説明したい。まずは採用した統計的手法
と用いたデータについての説明、その次に実証の結果を示し、最後はその実証結
果を用いて北陸新幹線が開業した場合の関連航空市場の変化をみる。
5.3.1 実証の手法とデータ
今回は Berry (1992) のモデルをもととした実証を行ったが、我々は説明変数か
ら参入費用に関わる要素を除いた利潤変数を用いた 1。また、観察不可能な要因も
市場ごとに決まっており、各企業に対して一定であると仮定した。そのため企業
の利潤関数は以下の通りである。
(5.10)
𝑥𝑚 𝛼 − 𝛿𝑎𝑚−𝑖 + 𝜖𝑚
この利潤関数のもとで、独占か複占かを問わず参入が行われる条件は
(5.11)
𝑥𝑚 𝛼 + 𝜖𝑚 > 0
である。また、複占であるとしても参入が行われる条件は
(5.12)
𝑥𝑚 𝛼 − 𝛿 + 𝜖𝑚 > 0
である。つまり、参入企業数𝑁 ∗は以下のようにまとめることができる。
0 𝑖𝑓 𝑥𝑚 𝛼 + 𝜖𝑚 < 0
1
𝑖𝑓
0 < 𝑥𝑚 𝛼 + 𝜖𝑚 < δ
N ={
2 𝑖𝑓 𝛿 < 𝑥𝑚 𝛼 + 𝜖𝑚
∗
(5.13)
Berry(1992)は費用に関する変数として空港での営業規模を用いることでハブアンドスポークと
利潤の関係を研究したが、今回の研究においてハブアンドスポークは重要な研究テーマでないこと
が主な理由である。
1
41
このような形であれば、順序プロビットを行うことで各パラメータ の値を推測す
ることができる。つまり、企業の参入行動の裏にある利潤関数が 0 やδといった一
定の閾値を超えることによって、参入企業数が増加していくということである。
次に用いたデータと、実証における細かな設定ついて説明したい。今回、企業
の可変利潤の説明変数として用いたデータは、空港間の大圏距離と空港周辺の 地
域の人口である。この空港周辺の地域であるが、国土交通省の『全国幹線旅客純
流動調査』において調査対象となっている「通勤・通学等の日常生活圏内の流動
をのぞいた都道府県をまたぐ長距離流動」を定義するエリア区分を用いることと
した。すなわち、基本は 47 都道府県をそのままエリアとして用いるが、一部例外
として面積が広大な北海道は道南・道央・道北・道東の 4 エリアに分割し、また
日常生活圏として一体化している大都市部は、いくつかの都府県をひとまとめに
して首都圏・中京圏・近畿圏とする 2。人口に関しては、基本は内閣府の県民経済
計算平成 21 年度データを使用したが、地域別の人口が必要となった北海道のみ総
務省統計局の国勢調査の 22 年度データを用い、分析の際は Berry (1992) になら
って両エリアの人口の積を 10 兆で割った値を用いた。
また、今回研究対象とした空港であるが、離島をはじめとして規模の小さな空港
は、利潤というよりも、地域の住民の交通手段確保のために就航している面が強
いと考え、対象から外した。すなわち、北海道、本州、四国、九州、沖縄本島以
外の離島の空港及び、JAL か ANA が運航する通年の直通路線が 2 本以下しかな
いものは対象から除外した 3。また、成田と羽田のように同エリア内に複数の空港
が存在する場合は無差別とする。例えば福岡-羽田、福岡-成田の 2 路線は同じ
都市間の路線として同一の市場とみなすということである。この場合、空港間の
大圏距離に関しては、国内路線での利用者が最も多い空港のものを用いることと
する 4。この結果、31 空港が研究対象となり、無差別扱いでまとめらたものを差し
引くと 26 地点で、計 325 路線に関して実証を行うこととなった。また大圏距離に
2
具体的には道南を渡島総合振興局、檜山振興局、道央を後志総合振興局、石狩振興局、空知総合
振興局、胆振総合振興局、日高振興局、道北を宗谷総合振興局、留萌振興局、上川総合振興局、オ
ホーツク総合振興局、道東を十勝総合振興局、釧路総合振興局、根室振興局の範囲とし、また東京
都、神奈川県、埼玉県、千葉県を首都圏、愛知県、岐阜県、三重県を中京圏、大阪府、京都府、奈
良県、兵庫県を近畿圏と定める。
3 この手法は Sugawara and Omori (2010) を参考とした。
4 首都圏の羽田空港、成田空港は羽田を、中京圏の中部国際空港、名古屋空港は中部国際空港を、
近畿圏の関西国際空港、伊丹空港、神戸空港に関しては関空と伊丹の利用者数が拮抗しているが、
2011 年度は関空が上回ったため関西国際空港を、道央の新千歳空港、札幌空港は新千歳空港のも
のを用いた。
42
関しては各空港の座標から、国土地理院の提供しているプログラムを用いて計算
した。
さらに、JAL と ANA についてであるが、JAL グループ、ANA グループに所属
する企業に加えて、資本や業務において提携関係を結んでいる企業も系列として
JAL、ANA に振り分けた。具体的にはフジドリームエアラインズ、北海道エアシ
ステム、天草エアラインを JAL 系、AIRDO、スカイネットアジア航空、スターフ
ライヤー、アイベックスエアラインズ、オリエンタルエアブリッジを ANA 系とし
た。
5.3.2 結果
以上で説明したようなデータや設定のもとで順序プロビットを行った結果が以
下の通りである。
表 5-3
Log likelihood = -227.46812
プロビット回帰の結果
Prob > chi2 = 0.0000
Pseudo R2 = 0.1218
参入数
Coef.
Std. Err.
z
P>|z|
人口
.2194861
.031531
6.96
0.000
距離
-.0756573
.1585502
-0.48
0.633
閾値 0
.7883011
.1527549
閾値δ
1.398257
.1648846
各係数の値を見ると、符号こそ理論と合致してはいるものの、距離の有意性が低
すぎることが分か る。 アメリカの国内路 線市 場において同研究 を行 った Berry
(1992) の実証では有意な値が得られたにも関わらず、今回の研究ではこのような
結果になった理由を考察すると、Berry (1992) ではアメリカの 50 の空港が対象
であったが、我々の研究はアメリカより狭く細長い国土の日本において 26 空港を
対象としたために、空港間の距離が近いものも含まれたことが原因と考えられる。
すなわち、大圏距離が長くなることで燃料費が増加し利潤を減らす効果もあるが、
逆に近すぎることによって電車などの代替交通機関が用いられ、航空路線の需要
が低下する効果が強く出てしまったのである。この結果を受けて、新たに各路線
43
を飛行機を用いず電車や高速バスなどで移動する場合の所要時間を調べ 5、説明変
数に加えることとした。具体的には、国土交通省、国土技術政策総合研究所の大
脇・奥・花輪・三上・原田・上坂 (2010) 、『交流可能圏域に着目した評価指標の
開発に関する研究』の「全国市町村アンケートの結果による日帰り圏域が全国平
均で 2 時間 40 分である」を参考として、飛行機を用いない交通手段で 2 時間 40
分以内に移動可能な路線にダミー変数をかけた。その結果は以下のようなもので
ある。
表 5-4
日帰り圏内ダミーを加えたプロビット回帰の結果
Log likelihood = -205.34327
Prob > chi2 = 0.0000
Pseudo R2 = 0.2072
参入数
Coef.
Std. Err.
z
P>|z|
人口
.3670352
.0457744
8.02
0.000
距離
-.4008063
.1774035
-2.26
0.024
2:40 以内
-2.951899
.5660544
-5.21
0.000
閾値 0
.5258959
.1679139
閾値δ
1.224792
.1804578
見ての通り、距離の有意性と疑似決定係数はともに改善された。符号に関しても
理論と合致している。
5.3.3 市場の変化が参入に与える影響
では、以上の結果を用いて、市場の状況の変化が JAL と ANA の参入行動に与
える影響について考察したい。我々は今回の実証において、Berry (1992) のもの
とは異なり代替交通機関による所要時間の要素を用いた。こ の実証で求めた数値
を用いて、今回は北陸新幹線が全線開通した場合に 関連航空路線に与える影響を
考えてみたい。
北陸新幹線とは政府が 1973 年に整備計画を決定した新幹線の路線のひとつで、
現在は東京-長野間が部分開業しており、さらに新潟県を経由して富山、金沢へ
と繋がる路線の開業が 2014 年に予定されている 6。この路線が開業すれば、東京
ジョルダン http://www.jorudan.co.jp/を用いて、平日の午前 5:00 出発という設定のもと調べた。
整備新幹線及び北陸新幹線についての記述は 、国土交通省ホームページ 新幹線鉄道の整備
http://www.mlit.go.jp/tetudo/shinkansen.html による。
5
6
44
-金沢間が現在の 3 時間 45 分前後から 2 時間 38 分へと短縮され 7、飛行機を使う
ことなく日帰り圏内となる。このような変化が東京-小松空港の路線にどのよう
な影響を及ぼすのかを検証したい。
現在の東京-小松路線の状況は以下の通りである
表 5-5
東京-小松路線の現状
大圏距離
首都圏人口
石川県人口
利潤
参入企業数
318 ㎞
35080337
1164889
1.372421882
2
この大圏距離と人口の条件をもとに、表 5-4 で示した値を代入し、利潤の値を計
算すると上記のように 1.372421882 という値が得られた。この値は表 5-4 の閾値δ、
すなわち 2 社参入の条件となる利潤関数の値 1.224792 を上回っており、実態と合
致する。しかし、ここから日帰り圏内のダミーの値、-2.951899 を差し引くと、閾
値 0、つまり 1 社参入の条件も満たさなくなってしまう。また、2014 年に開業す
る範囲では小松までは至らないが、小松、福井を経て敦賀へと至る区間の建設が
今年認可されており 8、実際に両社がこの路線から撤退するかは別としても、北陸
新幹線の開業が東京-小松や東京-富山のような関連路線の採算性に大きな影響
を与えることは間違いないだろう。
7
北陸新幹線の所用時間についての記述は、新潟県上越市ホームページ 北陸新幹線の概要
http://www.city.joetsu.niigata.jp/soshiki/kotsu/shinkansen -gaiyou1.html による。
8 新区間建設認可の記述は、福井県ホームページ 北陸新幹線
http://info.pref.fukui.jp/sokou/s-hinkansen/2-2.html による。
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参考文献
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http://www.jorudan.co.jp/
全日本空輸ホームページ
http://www.ana.co.jp/
新潟県上越市ホームページ
http://www.city.joetsu.niigata.jp/
日本航空ホームページ
http://www.jal.co.jp/
福井県ホームページ
http://www.pref.fukui.jp/
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あとがき
今回の論文を執筆するにあたって村上英樹・加藤一誠・高橋望・榊原胖夫(2006),
『航空の経済学』ミネルヴァ書房
を基礎文献とした。航空産業を産業組織的な
アプローチから詳しく解説した良書で、論文を書く際に必要となる知識を得るこ
とができた。おもしろく、かつ分かりやすくまとめられていて非常に役に立った。
また、先生に紹介していただいた論文やアドバイス、先輩方のご助言があっては
じめてこの論文を完成させることができたのだと思う。ここに感謝の意を表した
い。
春学期からパートゼミや授業での産業組織論に関する勉強の中で、さまざまな
実証や理論がテキストや講義で紹介されてきたが、実際に自分たちが使ったり、
実行してみると、かなり難しい内容であった。航空産業は寡占市場の典型という
こともあって当初は簡単だと思われたが文献探しから苦労してしまった。データ
の収集や打ち込みはパート員全員で協力し、各章の執筆は分担した。毎日三田キ
ャンパスの PC 室に集まるのは大変だったが、この経験を生かして来年の卒業論文
の執筆をよいものにしたいと思う。
2012 年 11 月
産業組織パート一同
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