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16年目に入るイギリスの景気拡大

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16年目に入るイギリスの景気拡大
経 済トピック
16年目に入るイギリスの景気拡大
イギリスの景気拡大が16年目に入った。
この間に「産業のサービス化」が進んだことが大きな特徴である。サービス化が景気
の波を受けにくい体質をもたらし、長期の景気拡大持続につながった。
しかし死角もある。今回の景気は、実のところ不動産や
株式といった資産市場の盛り上がりに少なからず支えられている。米国サブプライム問題に端を発する国際金融市場の動揺
がどう波及するかは予断を許さない。
イギリスの
業種別生産の推移
前期比年率
(3期移動平均)
10%
資料:Datastream より作成
GDP
5%
0%
ビジネスサービス・金融
-5%
サービス計
製造業
-10%
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
(年)
アメリカのサブプライム問題や政局
不安など、日本の景気を取り巻く環境は
イギリス経済の再生
不透明さを増しているが、とにもかくに
26
も日本の景気は戦後最長の「いざなぎ景
イギリス経済は 1992 年半ばから景気
気」の長さを超え、最長記録を更新中で
拡大を続けており、その期間はとうとう
ある。5 年を超えてさらにどこまで続く
16 年目に入った。この間に「産業のサー
かが注目されているが、海外に目を向け
ビス化」が進んでいることが、近年のイ
ると 5 年というのは驚くほどの長さでは
ギリス経済の大きな特徴である。サービ
ない。戦後のアメリカは 10 年近い景気
ス化が景気の波を受けにくい体質をもた
を 2 度も経験している。イギリスに至っ
らし、長期の景気拡大持続につながって
ては、現在 16 年目に入る景気拡大が続
いると考えられる。付加価値の産業別内
いている。
訳をみると、サービス業のウエイトが大
200710 経済トピック
きく高まる一方、製造業のウエイトは低
いる。ユーロを導入している国々は、欧
下している。2 ∼ 3 年おきにサイクルを
州中央銀行(ECB)という単一の中央銀
示す製造業に対し、サービス部門は一貫
行の金融政策に従わざるを得ない。通貨
して好調な伸びを示しており、安定的な
の同じ国で異なる金利を設定すると、高
伸びを示すサービス部門のウエイト上昇
い金利の国に資金が集中するからであ
が、長期の景気につながっている。
る。しかし、広大な欧州を一つの金融政
サービス業の中でも、とりわけ金融業の
策でコントロールするというのは至難の
盛り上がりが特筆される。1980 年代を
業である。イギリスは自らの金融政策を
中心に、当時のサッチャー政権は「サッ
確保しているので、こうした束縛を受け
チャリズム」という自由化路線の政策を
ることなく、経済情勢に応じた臨機応変
推し進めた。目玉は、金融市場の抜本的
な対応ができるのである。
な規制緩和である「金融ビッグバン」で
あった。今や金融業はイギリス経済を支
資産市場依存の脆弱性
える産業に育ち、就業者数は全体の約 2
割に達している。イギリスで活動してい
長期にわたる景気拡大を謳歌している
る金融機関は、イギリスからみた海外勢
イギリス経済だが、死角もある。金融を
がほとんどなので、
「ウィンブルドン現
梃子とした繁栄は、やはり金融面に脆弱
象」と揶揄する声も強いが、回り回って
性を抱えている。今回の景気は、実のと
イギリス経済を活性化した効果はやはり
ころ不動産や株式といった資産市場の活
大きかった。従来の議論では、サービス
況に少なからず支えられている。わが国
業や金融業は、製造業に比べ、生産性向
のバブル時もそうであったが、リアルタ
上や効率性アップの余地が小さいので、
イムでバブルを判別することは難しい。
サービス化は国の成長力を低下させると
現在のイギリスの資産市場にバブル的要
いう声が強かったが、こうしたイギリス
素が含まれているか即断はできないが、
などの例をながめ、最近では世界的に論
そのおそれは十分にある。
調も変わってきているようである。
こうしたなか、消費者物価(コアベース)
イギリスの状況に触発された面もあ
をみると、これまでは前年比 2%以下に
り、
「日本を国際金融センターにしよう」
抑えられていたが、サービス部門の賃金
という議論が、このところ急速に活発化
上昇を主因にインフレ圧力は根強い。そ
している。一朝一夕に実現できるもので
うなると、中央銀行であるイングランド
はなく、腰をすえて取り組む覚悟が必要
銀行としても金融引き締めスタンスを示
ではあるが、わが国にとって大いに参考
さざるを得ない。
しかし引き締め策は資産
になる事例である。
市場に冷や水を浴びせ、ひいては景気を
イギリス経済の強みとして、あえて「ユ
悪化させるリスクが高い。本来は実体経
ーロ」を導入しなかった点を挙げる意見
済を反映する鏡であるはずの金融が、本
もある。ドイツやフランスなどと一線を
体(実体経済)を振り回しかねない状況
画して、いまだに自国通貨ポンドを使っ
はいまや世界共通となっている。アメリ
ているイギリスは、欧州諸国との結びつ
カのサブプライムローン問題に端を発す
きが弱まるという大きな代償を払いつ
る世界の金融市場の動揺が、イギリス経
主席研究員
つ、自らの金融政策の独自性を維持して
済にどう波及するかは予断を許さない。
後藤康雄
経済トピック
政策・経済研究センター
200710 27
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