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無線LAN関連国際標準化の動向
5-3 ネットワーク 1 無線 LAN 関連国際標準化の動向 2 3 4 5 6 山田 曉 ● NTT ドコモ ユーザーやエリアごとのスループット向上を目指す IEEE802.11ax の 標準化が開始。60GHz の高速化、次世代測位方式、携帯電話コア網への 収容の高度化も議論。 スマートフォンやタブレット端末、リッチコンテ て検討がなされている。 ンツ等の普及に伴い、無線 LAN 利用時にユーザー Wi-Fi Alliance では、無線 LAN 機器間の相互接 が体感する品質の向上が求められている。また、 続に関わる認定プログラムの策定や、携帯電話シ 国内外にて携帯電話システムのトラフィックは急 ステムとの連携に関して議論している。 増しており、モバイルオペレータは無線 LAN シス Wireless Broadband Alliance では、特にオペ テムへのトラフィックのオフロードを進めている。 レータにより運用される無線 LAN サービスを中心 こうした状況を鑑み、各標準化団体では、携帯電 とした、相互認証手段の標準化やホワイトペーパー 話と無線 LAN のシステム間連携機能の向上や、通 を策定している。 信速度の高速化に向けた議論を活発化させている。 3GPP では携帯電話-無線 LAN システム間の IP 本稿では、IEEE802.11 Working Group での最 アドレスの共通化や、シームレスハンドオーバー 新状況を中心に、無線 LAN に関わる標準化動向に を実現する技術、無線 LAN 用周波数帯域を LTE に ついて解説する。 て活用する技術の標準化がなされている。 ■無線 LAN システムに関する標準化 ■ IEEE802.11 標準規格 無線 LAN システムおよびその他システムとの連 ●概要 携に関する技術は、IEEE802.11、Wi-Fi Alliance IEEE802.11 標 準 化 は 1991 年 か ら 開 始 さ れ 、 (WFA) 、Wireless Broadband Alliance(WBA) 、 以降多くの高度化技術が標準化されてい 3GPP において、それぞれ標準化が行われている。 る( 資 料 5-3-4)。現 在 、6 個 の Task Group IEEE802.11 では、無線通信を高度化するため (IEEE802.11ah、ai、aj、ak、aq、ax)にて標準 の無線伝送方式の標準化や、アクセスポイントへ 化が進められると共に、新たな標準の策定を目指 の接続方法や認証方法、送信タイミング等を定め す2個の Study Group(NG60、NGP)が立ち上 る MAC 層での標準化、他システムとの連携に関し げられた。 250 第 5 部 製品・技術動向 資料 5-3-4 IEEE802.11 標準規格およびグループ一覧 1 2 3 4 1 出典:「OFFICIAL IEEE 802.11 WORKING GROUP PROJECT TIMELINES」 5 をもとに筆者作成 ●無線伝送速度の変遷 1997 年に標準化された最初の IEEE802.11 規格で 無線 LAN に関連するメーカーにとって、無線 は最大 2Mbps までに限定されていたが、最新の 伝送速度の高速化はユーザーへデバイスの買い IEEE802.11ac 規格では、仕様書上の最大伝送速 替えを促すことができる大きなビジネスチャンス 度は約 6.9Gbps を達成した。これまでの標準化仕 であり、これまで無線 LAN 標準化における中心 様における無線伝送速度の変遷と、代表的な変調 的な位置づけとして技術検討が進められてきた。 方式や採用された技術を資料 5-3-5 に示す。 第 5 部 製品・技術動向 251 6 1 資料 5-3-5 無線伝送速度の変遷 2 3 4 5 6 出典:筆者作成 ・IEEE802.11:2.4GHz 帯 、DSSS 最 大 速 度 な周波数チャネル配置を示す。 2Mbps 2.4GHz 帯における中心周波数は 1ch から 14ch ・IEEE802.11a:5GHz 帯、OFDM 最大速度 の間が規定されている。20MHz 帯域幅にて利用 54Mbps する場合は、全てのチャネルを中心周波数として ・IEEE802.11b:2.4GHz 帯、DSSS/CCK 最大 利用可能である。 速度 11Mbps 一方、5GHz 帯では、中心周波数として利用 ・IEEE802.11g:2.4GHz 帯、OFDM、最大速 可能な周波数チャネルは、資料 5-3-7 に記載し 度 54Mbps た値 の み と な っ て い る 。ま た 、5180MHz から ・IEEE802.11n:2.4/5GHz 帯、OFDM、最大 5320MHz を中心周波数とする周波数帯(W52 およ 速度 600Mbps(40MHz 帯域幅、4x4 MIMO) び W53)では、屋外での利用が禁止されている。そ ・IEEE802.11ac:5GHz 帯、OFDM、最大速度 の他、5260MHz から 5320MHz および 5500MHz 6.9Gbps(160MHz 帯域幅、8x8 MIMO) から 5700MHz を中心周波数とする場合は、利用す る周波数チャネルを環境に応じて動的に変更する ●無線 LAN で利用可能な周波数帯 機能である Dynamic Frequency Selection(DFS) 無線 LAN で利用可能な周波数帯は、2.4GHz 帯 と、通信に必要最小限な出力電力に抑えて他シス と 5GHz 帯に大別される。資料 5-3-6 および資料 テムへの影響を最小限にする機能である Transmit 5-3-7 に、日本国内において無線 LAN で利用可能 Power Control(TPC)等の機能が必要となる。 252 第 5 部 製品・技術動向 資料 5-3-6 2.4GHz 帯における無線 LAN チャネル配置の一例 1 2 3 4 5 出典:筆者作成 資料 5-3-7 5GHz 帯における無線 LAN チャネル配置 6 出典:筆者作成 ■ IEEE802.11ax 標準化の状況 LAN 通信の可能な端末が、急速に普及している。 ●概要 それに伴い、市街地や住宅地、オフィス等におい 昨今、廉価なアクセスポイントや光回線、無線 て無線 LAN アクセスポイントが乱立している。そ 第 5 部 製品・技術動向 253 1 2 3 の結果、無線システムのスループット低下の問題 のアクセスポイントが設置される状況を想定 が顕在化している。 (2)Enterprise:オフィスにおいて、10∼20m その課題解決のため、これまでの規格がフォーカ 間隔でアクセスポイントが設置される状況を想定 スしていたアクセスポイントあたりのスループッ (3)Indoor Small BSS Hotspot:屋内にお トのみではなく、ユーザーごとあるいはエリアご いて、100 台程度のアクセスポイントが設置され とのスループットの向上を目指した新たな技術が る状況を想定 求められてきた。 (4)Outdoor Large BSS Hotspot:屋外 2013 年 5 月から IEEE802.11 Working Group において、100∼200m 間隔でアクセスポイントが において、High Efficiency Wireless LAN Study 設置される状況を想定 Group(HEW-SG)の活動が開始された。HEW-SG 4 5 6 で は 、新 た な 規 格 に て 求 め ら れ る 機 能 に つ い ■ IEEE802.11ax の要素技術 て明確化し、2014 年 5 月に IEEE802.11ax Task IEEE802.11ax では高効率な無線 LAN システム Group(TG)へ昇格し、標準化が開始された。 実現に向け、以下の技術を候補とした議論が進め IEEE802.11ax では、IEEE802.11ac にてスコープ られている。 外とされた 2.4GHz 帯を含め、ユーザースループッ トの4倍以上の向上を目標としている。また、ユー ● OFDM シンボルの延長 スケースとして、従来のデータ通信のみならず、 IEEE802.11ax では、OFDM シンボルを延長す 音声通話やビデオ通話時のユーザー体感品質向上、 ることでフレーム効率を高めることが議論されて クラウドへのアクセスや携帯電話システムのトラ いる。それに加え、Cyclic Prefix 長を長くするこ フィックオフロード等、幅広い利用が想定されて とで、屋外利用時の遅延波に対する耐干渉性を高 いる。 めることが議論されている。具体的には、現在の 2014 年 11 月会合以降、技術仕様の詳細策定に向 OFDM シンボル長(3.2us)を2倍から8倍程度 けた Specification Framework Document(SFD) とし、Cyclic Prefix 長(0.4us または 0.8us)を の作成が開始された。また、IEEE802.11ax は参 4倍(1.6us または 3.2us)とすることが議論され 加者数が数百名に上ることから、議論の効率化の ている。 ために4個のアドホックグループ(PHY、OFDM、 MAC、Spacial-Reuse)に分離した上での議論が予 ● OFDMA の適用 定されている。現在、2016 年 7 月に Draft1.0 を、 周波数軸方向でのユーザー多重による高効率化を 2017 年 3 月に Draft2.0 を、2019 年に標準化完了 目指し、LTE や WiMAX で採用されている DL(下 を目指し、議論が進められている。 りリンク)および UL(上りリンク)での OFDMA の無線 LAN への適用について各社から提案がなさ ● IEEE802.11ax の利用シナリオ れている。 以下の4種類のシナリオを元に、利用シーンと ともに議論が進められている。 ●上りリンク MU-MIMO の適用 下りリンクの DL-MU-MIMO は IEEE802.11ac (1)Residential:アパートにおいて、数十個 254 第 5 部 製品・技術動向 で規定されていたが、UL(上りリンク)への適用 も議論されている。 ●次世代測位方式 1 2015 年 1 月から、次世代測位方式の標準化を策定 ● DSC(Dynamic Sensitivity Control)の適用 するグループである Next Generation Positioning 無線 LAN にて使用されているユーザー多重方式 Study Group(NGP-SG)が立ち上がる予定であ である CSMA/CA は、周辺の端末が送信していな る。NGP では誤差 0.1m 以下の屋内向け測位の実 いことを確認した上で、自端末の送信を開始する 現を目指す予定である。 2 方式である。従来、周辺端末からの受信電力が一 定のしきい値以上の場合、自端末の送信を抑止し ■関連標準規格の動向 ていた。 携帯電話-無線 LAN 間のシステム間のハンドオー それに対して IEEE802.11ax では、そのしきい バーや、携帯電話システムからのトラフィックの 値を動的に制御(DSC)することにより、他端末 オフロードなど、異なるシステムを効率よく連携 が送信中であっても自端末の送信を許容する予定 させるための技術が各標準化団体にて議論されて である。DSC により、一定の SINR が担保できる いる。 3 4 エリアでの通信を許容することで、エリアスルー プットの向上が期待される。 ●携帯電話コア網へのデータトラフィック収容 5 スマートフォンの普及に伴い、携帯電話向け ■その他 IEEE802.11 の状況 サービスを無線 LAN でも利用可能にする要望が高 ● 60GHz 帯無線 LAN の高速化 まっている。そのため 3GPP では、無線 LAN トラ 60GHz 帯無線 LAN(IEEE802.11ad)の後継規 フィックの Evolved Packet Core(EPC)への収 格の策定を目指すグループである Next Generation 容を実現する技術(SaMOG)をもとに、さらに 60GHz Study Group(NG60-SG)が立ち上がり、 高度化した Enhanced S2a Mobility Over trusted 2014 年 9 月から活動を開始している。2014 年 12 WLAN access to EPC(eSaMOG)の標準化を進 月現在、MIMO 等を適用した高速化により、MAC めている。 層で 20Gbps の通信速度実現を目指し、2015 年 7 eSaMOG では、LTE から無線 LAN へのシーム 月から標準化を開始する予定である。 レスハンドオーバーが実現可能となる。eSaMOG におけるネットワーク構成を資料 5-3-8 に示す。 第 5 部 製品・技術動向 255 6 1 資料 5-3-8 eSaMOG におけるネットワーク構成 2 3 4 5 6 出典:「3GPP TS 36.300 v12.3.0」をもとに筆者作成 ●無線 LAN ホットスポットでの利便性向上 LTE(LAA)と呼ばれる議論が進められている。 スマートフォンの普及に伴い、無線 LAN ホット これは、LTE を無線 LAN システムで利用されてい スポット利用時の利便性を向上させるための標準 る 5GHz 帯にて運用可能にするものである。2014 化が推進されている。 年 9 月の 3GPP RAN Plenary で、Study Item とし Wireless Broadband Alliance では、通信キャ て活動が承認された。現在、要素技術や実現方法 リアによるホットスポットの高度化を目的とした についての議論が開始されており、2015 年 6 月に 議論が進められている。 Technical Report が完成する予定である。 Next Generation Hotspot(NGH)Program で LAA の 利 用 シ ナ リ オ と し て 、Carrier は、無線 LAN 利用時のユーザーの利便性を携帯電 Aggregation での Secondary Cell とし ての 利 用 話と同等レベルまで高めることを目的とした認定プ を中心に議論が進められている(資料 5-3-9) 。ま ログラムを策定している。具体的には、Hotspot2.0 た、既存の無線 LAN システムとの干渉を回避す やオンラインサインアップの適用によるアクセス るための仕組みである Listen Before Talk(LBT) ポイントへの接続を容易にすることや、無線 LAN についても、検討が進められている。 トラフィックの携帯電話コア網(EPC)への収容に 一方、既に 5GHz 帯にて既にデバイスが広く よるシステム間ハンドオーバーの実現が求められ 普及している IEEE802.11 や Wireless Broadband ている。また、認定プログラムの策定にあたり、多 Alliance、Wi-Fi Alliance でも、LAA との同一周波 数のオペレータにより相互接続試験を行う“NGH 数帯における共存方式に関する議論がなされてい Trial”が1∼2年ごとに実施されている。 る。例えば、IEEE802 は 3GPP 側へ Liaison Letter を送付し、システム間の同一周波数帯における Fair ●アンライセンスバンドでの LTE 利用 3GPP では、Licensed Assisted Access using 256 第 5 部 製品・技術動向 Sharing メカニズムの確立を呼びかけている。 資料 5-3-9 LAA の利用シナリオ(例) 1 2 3 4 5 出典:「3GPP R1144469」をもとに筆者作成 6 1.http://www.ieee802.org/11/Reports/802.11_Timelines.htm 第 5 部 製品・技術動向 257