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科学史1:デカルトとニュートンの自然学
科学史1:デカルトとニュートンの自然学 5月15日 金曜5限 担当:隠岐さや香 早稲田大学 前回: 16 世紀後半∼17 世紀前半 ガリレオの自然学…数学と自然学の融合をめざす 反スコラ学的自然学 反神秘主義的 学的表現 フランシス・ベーコン…「知は力」「ソロモンの家」 技術の重要性 1. はじめに 【時代】17 世紀 「科学革命」の時代 ルネサンス思想の影響:神秘主義的な自然哲学 懐疑主義 反スコラ哲学 【社会的背景】宗教改革・反宗教改革 異端裁判 宮廷文化の発展 の哲学・科学的対話 各種アカデミー、科学・文芸協会の誕生 cf.ロンドンの王立協会(1660-) パリ王立科学アカデミー(1666-1793) 2. 幾何 人文主義 文芸サロン・サークルで デカルトと代数学・自然学 ルネ・デカルト(René Descartes, 1596-1650) 【経歴】ラ・フレシュの町のイエズス会で学ぶ 三十年戦争に参戦の後、諸 国遍歴 『宇宙論』を 1633 年に完成、ガリレオ裁判を聞いて諦める 自然学三部作(1637)…『屈折光学』 (Dioptrique), 『気象学』 (Météores), 『幾何学』(Géométrie) 同三部作の「序論」…『方法序説』(Discours de la méthode, 1637) 批判への回答『省察』(Méditations, 1641) 『哲学の原理』(Principia philosophiae, 1644) 【デカルト自然学とガリレオ批判:『哲学の原理』】 目的:宇宙全体から地球、人間を含め地球上の生物全て、神の被造物の世界を論じ尽くす。そ のためのプログラムを提示。ガリレオに対する実質上の回答でもある。 Cogito ergo sum 「我思うゆえに我在り。」 神の存在→思惟(精神)と「延長」(物体)の存在 「世界の多様性」(色、味、匂い、手触り、音など)→「物体」の配位関係と運動 第一原因としての「神」 部分的状況としての「自然法則」 「慣性原理」…(1)静止している物体は他に原因が加わらない限り静止し続け、動いている 物体はその動きを続けようとする (2)あらゆる物体は直線的に動き続けようとする傾向を 持つ ガリレオに残るアリストテレス自然学的残滓を批判 cf.円慣性 【デカルトと代数学】 『幾何学』第二部より 幾何学を代数学で扱う可能性を本格的に提示 今日で言う「座標系」の基礎概念を発展 代数幾何学 解析幾何学 「曲線」を代数式で表現(y 2-= cy - -c/b y + ay - ac, など) 代数解析の表記法 未知数…x, y 既知数…a, b, c ライプニッツ(G.Leibniz, 1646-1716)による改良 3. ニュートンの自然哲学 アイザック・ニュートン(I.Newton, 1642-1727) 【経歴】ケンブリッジのトリニティ・カレッジに学ぶ 数学 光学 ペストで大学が一時閉校(1655)→故郷に りんごの木の伝説 1669 年からリューカス教授職 反射望遠鏡の作成 ロンドン王立協会(Royal Society of London)入会 錬金術と聖書研究 力学 【R.フックとの競争と万有引力】 王立協会事務総長ロバート・フック(R. Hooke, 1635-1703)との確執 フックの仮説: 1676 年「天体の惑星運動は接線方向への直線運動と中心物体へむかって引き付けられる運動と の合成である」 ニュートンに見解を訊ねる 1680 年「天体の持つ引力の作用は距離の逆二乗に比例するのであり、ケプラーの惑星運動の法 則もそこから説明できるはず」 ニュートンに書簡、返事無し 【参考】ケプラーの三法則 第 1 法則 : 惑星は太陽をひとつの焦点とする楕円軌道上を動く。 第 2 法則 : 惑星と太陽とを結ぶ線分が単位時間に描く面積は、一定である(面積速度一定)。 第 3 法則 : 惑星の公転周期の 2 乗は軌道の半長径の 3 乗に比例する。 ニュートン『自然哲学の数学的原理』(Principia mathematica philosophiae naturalis, 1687) →万有引力の法則と運動の三法則 1.慣性法則 2.運動法則 [現代表記:f=ma(a=dv/dt) f:力 m:質量 a:加速度 v:速度 t:時間] 3.作用・反作用の法則を定式化 「流率法」(今日の微分積分に等しい)の考案 幾何学的処理へのこだわり(代数、特に微分積分を避けた) 4. 宇宙観の対立:遍在する神と時計細工師の神 【ニュートンと神の遍在】 「万有引力」への疑問と批判 本性は?太陽と地球の間は真空であるとすれば、何がその力を伝えるのか? 批判派:「隠れた性質」(occult quality)を想定する万有引力への批判 ニュートンの反論:神は宇宙に「遍在」(ominipresent)し普段に介入 宇宙は神の感覚体(sensorium)である。 錬金術・白魔術の隠れた影響「最後の錬金術師」→粒子間の「引力」 【デカルト派の主張】 神の「全智性」(omniscient)、「全能性」(omnipotent)性 宇宙は第一原因である神が物質と運動を与えた。 時計仕掛けの宇宙と時計細工師としての神 機械論的自然観 神の不介入 粒子の「渦動説」 遠隔作用ではなく近接作用 ライプニッツやスピノザ(B.Spinoza, 1632-1677)の支持 共に書簡を通じ激しく論争 互いに互いを「不敬虔」と捉える 大陸と英国の相違(神学、数学、宇宙論…) 参考文献 赤木昭三・赤木富美子『サロンの思想史』名古屋大学出版会、2003 年 リチャード・ウォーストフォール『アイザック・ニュートン』平凡社、1993 年 ルネ・デカルト「哲学原理」『世界の名著』27、中央公論社、1978 年初版、1993 年第八版 所収 M.ハンター『イギリス科学革命』大野誠訳、南蛮社、1999 年 山本義隆『古典力学の形成』日本評論社、1997 年 Robert Mandrou, Histoire de la pensée européenne. 3. Des humanistes aux hommes de sciences, Paris: Seuil, 1973. Descartes, Principia philosophiae, 1644.「渦動」の説明図 【資料】 『自然哲学の数学的原理』 (1687)より ■ デカルトによる『省察』とコギト(『省察』三木清訳、岩波文庫、1933 年) 昨日の省察によって私は懐疑のうちに投げ込まれた。それは私のもはや忘れ得ないほど大き なものであり、しかも私はそれがいかなる仕方で解決すべきものであるかを知らないのである。 かえって、あたかも渦巻く深淵の中へ不意に落ち込んだように、私は狼狽して、足を底に着け ることもできなければ、泳いで水面へ脱出することもできないというさまであった。しかしな おも私は努力し、昨日進んだと同じ道を、もちろん、極めてわずかであれ疑いを容れるものは すべて、あたかもそれが全く偽であることを私がはっきり知っているのと同じように、払い除 けつつ、改めて辿ろう。そして何か確実なものに、あるいは、余のことが何もできねば、少く ともまさにこのこと、すなわち、確実なものは何もないということを確実なこととして認識す るに至るまで、さらに先へ歩み続けよう。〔中略〕 そこで私は、私が見るすべてのものは偽であると仮定する。また、私はひとを欺く記憶が表 現するものはいかなるものにせよかつて存在しなかったと信じることにする。私はまったく何 らの感官も有しないとする。物体、形体、延長、運動及び場所は幻想であるとする。しからば 真であるのは何であろうか。たぶんこの一つのこと、すなわち、確実なものは何もないという ことであろう。 しかしながらどこから私は、いましがた数え上げたすべてのものとは別で、少しの疑うべき 余地もない或るものが存しないことを、知っているのであるか。何か神というもの、あるいは それをどのような名前で呼ぶにせよ、何か、まさにこのような思想を私に注ぎ込むものが存す るのではあるまいか。しかし何故に私はこのようなことを考えるのであるか、たぶん私自身が かの思想の作者であり得るのであるのに。それゆえに少くとも私は或るものであるのではある まいか。しかしながら既に私は、私が何らかの感官、または何らかの身体を有することを否定 したのであった。とはいえ私は立ち止まらされる、というのは、このことから何が帰結するの であるか。いったい私は身体や感官に、これなしには存し得ないほど、結いつけられているの であろうか。しかしながら私は、世界のうちに全く何物も、何らの天も、何らの地も、何らの 精神も、何らの身体も、存しないと私を説得したのであった。従ってまた私は存しないと説得 したのではなかろうか。否、実に、私が或ることについて私を説得したのならば、確かに私は 存したのである。しかしながら何か知らぬが或る、計画的に私をつねに欺く、この上なく有力 な、この上なく老獪な欺瞞者が存している。しからば、彼が私を欺くのならば、疑いなく私は また存するのである。そして、できる限り多く彼は私を欺くがよい、しかし、私は或るもので あると私の考えるであろう間は、彼は決して私が何ものでもないようにすることはできないで あろう。かようにして、一切のことを十分に考量した結果、最後にこの命題、すなわち、私は 有る、私は存在する、という命題は、私がこれを言表するたびごとに、あるいはこれを精神に よって把握するたびごとに、必然的に真である、として立てられねばならぬ。 ■ニュートンによる運動法則の表現 法則Ⅰ.すべて物体は、その静止の状態を、あるいは直線上の一様な運動の状態を、外力によ ってその状態を変えられない限り、そのまま続ける.[慣性の法則] 法則Ⅱ.運動の変化はこめられた起動力に比例し、その力がこめられた直線に従って生じるこ と. 法則Ⅲ.作用に対し反作用は常に逆向きで相等しいこと.あるいは、二物体の相互の作用は常 に相等しく逆向きであること.[作用・反作用の法則]