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社会フィールド実習報告書 身体障害者の二次障害への対策と予防

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社会フィールド実習報告書 身体障害者の二次障害への対策と予防
班員
社会フィールド実習報告書
身体障害者の二次障害への対策と予防
~実態調査と作業負担改善事例~
青木健 中川徹也 中村琢弥 丹羽有紗 藤城直宣 藤原郁子
【背景と目的】
身体障害者は、原疾患が固定すると、医学的には身体状態が改善しなくなると言われているが、訓
練やリハビリの仕方により、生活の質を向上することや、社会参加が可能である。逆に、二次障害の
発症などによって、身体能力が低下することもある。
私たちは、急性期を脱した身体障害者が、どのような健康状態や生活、労働の状況にあるのかを知
ることを目的に調査を行い、事例的に二次障害の軽減のための介入を行った。
【対象と方法】
対象は、むれやま荘から紹介を受け、作業所で就労している身体障害者のうち、了解を得られた 12
名であった。
調査方法は、紹介された作業所を訪問し、用意した質問紙票にそって、1 対 1 で聞き取りを行った。
調査期間は 2004 年 11 月 24 日から 12 月 2 日であった。
調査内容は以下の通りである。
・ 対象者の基本情報(年齢、住所、障害の種類、障害者手帳の有無、等級)
・ 現在の生活状況(移動状況、健康状態、住居)
・ 現在の就労環境(職種、作業姿勢、作業時間、休憩時間、通勤手段、トイレ)
・ 障害発症後の職歴
・ 二次障害の有無(身体的不都合の有無)とそれに対する対策、工夫
・ 現在の通院の状況
【調査結果と考察】
表1
対象者の基本データ
対象となった 12 名の就労先は以下の通りであった。
原疾患
年齢
人数 構音障害
・草津野村の作業所
5名
60 代
3
3
・大津市内の作業所
4名
脳血管障害
無回答
1
1
・多賀町の作業所
2名
20 代
1
0
・アイコラボレーション草津事業所
1名
脳性麻痺
30 代
2
1
①対象者の基本情報(表1)
20
代
1
0
なお、筋ジストロフィーは、進行の緩徐な
頸髄損傷
30 代
1
0
Becker 型、外傷の内容は交通事故で、四肢麻痺と
骨形成不全
40 代
1
0
左拇指の欠損がある。
構音障害をもつ人は半数の 6 名で、脳血管障害
筋ジストロフィー 40 代
1
0
に多かった。聞き取り困難であったり、言葉がな
外傷
20 代
1
1
かなか出てこないなど、就労する際に障害になる
計
12
6
と思われる点が見られた。実際、電話が困難、簡
単な言葉でないと言いにくいなどの訴えがあった。
②障害を負った後の職歴
障害を負った後、現在の職場までに、他の職場で働いた経験のある人は、6 名、そのうち、一般
企業で働いていた人は 3 名、他の作業所で働いていた人は 3 名であった。
表 2 に 6 人の職歴を示した。
表 2 転職歴のある対象者のデータ
A さん
B さん
C さん
D さん
E さん
F さん
年齢
27
47
40
27
30
39
原疾患
脳性麻痺
骨形成不全
筋ジストロフィー
頸髄損傷
頸髄損傷
脳性麻痺
就職先
一般企業
個人商店
作業所
作業所
作業所
一般企業
退職理由
腰ヘルニアと腱鞘炎
同僚の障害者の退職と他の同僚の異動
一身上の都合
家の近くに作業所ができた
給与の問題
倒産
この中で、一般企業で働いていた A さんと B さんの退職理由は、障害者の就労環境を考える上
で、非常に重要な観点を含んでいると考えた。両者の退職の背景について、詳しく聞き取りできた
ので、検討した。
■A さんは過去 2 回一般企業で就労し、1 度目は立位での作業、2 度目は座位での VDT 作業に従
事していたが、腰部の椎間板ヘルニアおよび腱鞘炎を発症したことにより辞職した。どちらの
時も、机が低すぎるなど、作業姿勢、環境に明らかに不適切なところがあったが、人より仕事
ができないという劣等感から、上司に要望を言いづらく、結局言わないまま辞めてしまった。
■B さんは、個人商店で事務をしていたが、同僚の障害者が退職して障害者が自分ひとりになっ
てしまったため、居づらくなった。さらに、健常者の親しい同僚も人事異動のため離れてしま
い、ますます居にくくなった。結局 8 年続けた商店を辞めてしまった。
この 2 つの事例から浮かび上がる問題点として、次の 2 点を挙げた。
■ 健常者の中で働くことの精神的な壁
■ 身体的不都合の発生
③現在の職場環境
「現在の作業環境をどう思うか」という質問について、現在の職場が始めての職場である 6 人
も含め、12 人全員が「満足している」と答えた。さらに詳しく聞いてみると、
■ 障害者が多く、理解が得られる
■ 自分の体調に合わせて働ける
■ 給与がほかの作業所よりよい
といった意見があった。
ここから考えると、障害者が職場で持つ精神的なストレスは障害者への配慮が行き届いた環境
の職場であれば解消されると考えられる。現在の各職場は、精神的サポートが十分行われていると
いうことがいえる。
④身体的不都合の有無
表 3 は現在の職場での職種と作業姿勢である。全員が座位での作業を行っている。
現在感じている身体的不都合を自覚している範囲で、複数回答可で答えて頂いた。(図 1)
肩こり
表3
お尻の痛み
作業内容
軽作業
VDT 作業
派遣講師
人数
5
7
1
作業姿勢
座位(普通椅子)
座位(普通車椅子)
座位(電動車椅子)
人数
5
4
3
訴え
腰痛
目の疲れ
腕の痛み
褥瘡
姿勢不安定
その他
0
2
4
6
図1 対象者の身体的訴え
8
人数
肩こりが最も多く、お尻の痛みは車椅子の人に多かった。その他の内容としては、手指のしびれ感、
低身長のため物に手が届かない、足のむくみ、があった。二次障害と疑われる人も 4 人認められた。
具体的には以下のようになった。
頸肩腕障害…頸髄損傷。1 日 7 時間から 9 時間、週 5 日の VDT 作業を行っている。肩甲骨以下
の感覚がないため、体幹の保持も困難であり、姿勢はいつも前かがみである。また、
右手指がうまく動かないため、マウス操作を左手に頼ってしまい、姿勢が不自然で
肩で上半身を支えている感じがある。右肩に特に硬結圧痛が見られ、頭痛もある。
頸肩腕障害…脳性麻痺。1 日 9 時間、週 5 日の VDT 作業を行っている。左手で主に作業を行っ
ている。1 年前より左肩の痛みと、左中指、環指のしびれ感を訴えている。しびれ
感は、土日休養をとっても治ることがない。一度整形外科で診察を受けたが、異常
はないと言われ、もう行く気にはならない。
慢性の褥瘡…筋ジストロフィー。ずっと車椅子で、1 日 6 時間、週 5 日の軽作業を行っている。
慢性的に褥瘡があり、皮膚科にはかかっているが、できたり治ったりを繰り返して
いる。仕事の途中で疲労感が強い時は、畳に横になったりするが、普段は我慢する。
フラットになる車椅子があることは知っているが、まだ購入はしていない。
腰のヘルニアと腰痛…脳性麻痺。1日 6 時間週 5 日 VDT 作業を行っている。ほぼ右手のみで作
業しており、姿勢が不自然に傾いている。普通椅子で作業していたが、疲れるので、
背もたれの高いリクライニングする椅子に変えたら少しは楽になった。が、腰痛は
相変わらず続く。痛くなると、席を立つようにはしている。
また、二次障害とは言えないものの、要素を持つ人も見られた。
脳梗塞で右手が麻痺している女性は、毎日左手だけで、鉄板にパッキンを貼り付ける作業をしている。
左手は同じ動きをひたすら繰り返すので、左腕の痛みを訴えている。今のところは、休日休めれば回
復する程度のようであるが、今のままの姿勢で作業を繰り返すと、不可逆的な筋疲労をきたす可能性
があると考えられた。
聞き取り前の予想では、もっと多くの人が二次障害を生じていると思っていたが、実際は楽に作
業をするために工夫をして、体のコントロールをしている方が多かった。クッションをおく、体操す
る、遠くを見て、目の疲れを軽減する、姿勢が不安定なので、転倒しないようバランスに注意して座
るなど、自分の体調や特徴をよく知っているなと思うことが多かったことも事実である。
しかしながら、二次障害を生じる可能性のある方がいるのもまた事実であり、それを予防すること
は非常に重要であると考えられる。
二次障害を生じる要素となる加齢、新たな疾患、労働条件・環境の中で、私達が考慮することで改
善されると考えられるのは、3 つ目の労働条件・環境の不整備である。この要素を改善する方法には、
2 つあると考えた。
1 つ目は障害者の意識の向上である。
まず、二次障害というものが作業で起こりうるということ、それは少しの休息や運動、工夫で防ぐこ
とができるのだという意識を障害者の方に持って頂くことがまず大切であると思われる。
2 つ目は、環境、人、物の面から障害をカバーすることである。
周りの環境を障害者に合わせていく人間工学的配慮が大切である。具体的には、机や椅子を各自が使
いやすい形に変える、棚の位置を考える、など物に関する配慮、無理な姿勢になる作業は手伝う、な
ど人に関する配慮、そして、しんどいときは気兼ねなく休め、改善してほしい点は遠慮なく言える、
といった環境の面での配慮が揃うことが必要であると考える。
次に、前述の 4 人のうち、1 人を選んで、実際に二次障害を改善するための介入策を考えることに
した。
【介入事例】
対象:今回対象としたのは T さん(30 歳男性)。19 歳の時、バイクの事故により頸髄損傷(C6-7)を
負い、肩甲骨以下の麻痺と前腕尺側の知覚麻痺がある。指はあまり自由に動かないが、上肢の挙上は可
能である。職場であるアイコラボレーションでは VDT 作業に従事、主にホームページ作成を行ってい
る。医師の触診によると、T さんは左右の僧帽筋に硬結・圧痛があり、特に右肩がより重度で、VDT
作業が主原因である頸肩腕障害が疑われた。このまま進行すると、日常生活にも支障をきたす恐れがあ
る。
<介入1>
まず T さんの現在の作業姿勢の検討し、そこから問題点を抽出した。
介入前の作業姿勢:作業には通常の机と普段移動用の車椅子を使用している。T さんは、左指の方が比
較的機能が残っている。そこで、マウスをパソコンの左側に置いて左手でマウスを操作しているが、左
手だけでは、クリックするとき、マウスが安定しないため、パソコンの左側に右手を持っていき、マウ
スに添えている(図 2)。脊髄損傷者であるTさんは、体幹保持が困難なため、右前腕に体重をかけ体幹
を保持しながら、仕事をしていることが多く、右肩に大きい負担がかかった状態になっている(図 3)。
このことが T さんの、右のひどい肩こりを誘発していると考えられる。
改善策:私たちが考えた改善策は以下の 3 つである。
(1)ストレッチ運動 …僧帽筋の筋緊張の軽減(図 4)
(2) マウスを中央に移動 …左に体を捻転した姿勢を正し、不自然な姿勢による肩の負荷を軽減
(図 5)
(3) 肘置き使用 …腕全体を支えることによる肩の負荷を軽減(図 6)
これらの改善策を施して、T さんには実際の作業をしていただいた。そして、私たちの介入前後で、
①主観的に疲労が少なくなったと感じたか、そして②筋負担は小さくなったか(筋電図測定)を調べた。
~ 筋電図測定について ~
表面筋電図は肩こりの起きる筋肉である僧帽筋(左右)について測定。
該当部位に電極を貼付し、通常の VDT 作業を行ってもらい、それぞれの対策を行ったもののうち比
較的電位の安定した箇所(6~8分間)を抽出して、平均を求め、改善率を出した。
*改善率=(介入前筋電位 - 介入後筋電位)/ 介入前筋電位 × 100
結果:
①T さんの主観
私たちが考えた3つの改善策すべてにおいて、肩が楽になったと評価された。
②筋電位評価(表 4)
表4
平均筋電位(μV)
介
入
後
改善率(%)
上部僧帽筋
右
左
右
左
介入前(503s)
28.9
14.2
―
―
体操後姿勢(487s)
24.1
15.2
16.5
-7.0
マウス中央に(339s)
23.0
11.3
20.3
20.4
肘置き使用(300s)
21.0
16.2
27.3
-14.1
(右)介入前と比較して、ストレッチ運動、マウスを中央移動した場合、肘置き使用のそれぞれで、筋
電位は減少した。また、改善率は介入前と比較して大きくなった。
(左)介入前の左僧帽筋の筋電位は右と比べ低く、介入前後の比較でも筋電位の低下は見られなかった。
改善率も介入前と比べ、上昇したり、逆に低下したりした。
考察:T さんの主観では楽になったとの評価を得ることができ、改善策がプラスに働いている可能性を
示唆していた。
右僧帽筋では改善策を重ねるごとに改善率の上昇がみられ、数値的に見ても改善がなされていたと思
われる。この結果から、3 つの案を実施することで、右肩の負担は減少したものと考えられる。左僧帽
筋では右とは違って、改善率が増減している。右の筋電位は著明に減少していることを合わせて考えて
みると、その筋電位の左右差は介入前と比べ、減少しているということがわかる。
このことから、介入前は主として右肩にかかっていた負担(逆に言えば、介入前には左肩には大きな
負担がかかっていなかった)が、介入後は姿勢が改善されたことで左右肩に分散したものと考えられ、
身体全体で見れば同一作業における負担は軽減したのではないかと考えられる。
<介入2>
一度目の介入では姿勢はなお捻転前傾姿勢であったため、より姿勢の改善を図る策を考えた。
二回目の介入は以下のものである。
(4) 二つのマウスで操作
(左右に一つずつマウスを置き、左手でポインター移動、右手でクリック)
(5) (4)に加え、改良肘置き(車椅子設置型)を使用
※
前肘置きはサイズが合わず、T さんの車椅子に設置することができなかったため、設置できる形に作り直した。
結果:
① T さんの主観
よい姿勢で仕事ができると感じた。
とくに、改良肘置きを使用したほうがより姿勢よく仕事ができるとコメントいただけた。
② 姿勢変化
以下のように姿勢が改善された。
介入前
二つのマウスで操作
+ 改良肘置き
上体の前傾の解消
上体の前傾の解消
両肩の水平化
両肩の水平化
<介入のまとめ>
今回の介入によって、Tさんの肩への負担の軽減を行うことが出来たが、それ以上に私たちの一番の
成果は、T さんに、少しの工夫で、肩こりなどの二次障害を軽減できると、気づいてもらえたことにあ
ると思う。
【まとめ】
私達は将来、医師になろうとしているが、障害を負った患者に対し、急性期の治療に目を向けるばか
りでなく、急性期を脱し、社会復帰する段階で起こりうる身体的問題や精神的な葛藤まで、十分理解す
る必要があるのではなかろうか。たしかに障害は固定されてしまうものであるが、少しの工夫や努力で、
より質の高い社会生活を送れるということを、医師は念頭においておくことが大切であると思う。
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