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CONTENTS
先駆者からのメッセージ
「人中心」のナレッジマネジメントで、
学習する組織への変革を実践せよ!
SPECIAL INTERVIEW
02
「第三の組織」が企業を勝利へと導く
組織横断型の新たな組織作りで企業のコア・コンピタンスが磨かれる
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授/IMD教授
KNOWLEDGE
NETWORK STUDY
REALCOM
STRATEGY OVERVIEW
一條和生 氏
06
自律的な個人
“知”
の連携で学習する組織を作る
10
ナレッジマネジメントの真価を引き出す
リアルコムのソリューション
CASE FILE
14
15
多対多型の知的コラボレーションがもたらす企業の競争力とは......
慶応義塾大学環境情報学部教授
國領二郎 氏
「KnowledgeMarket」が実現する学習する組織とナレッジの全体最適
先進事例で学ぶナレッジマネジメントによる
経営とビジネス革新の実践手法
リアルコム「KnowledgeMarket」のユーザー企業は今――
ナレッジコミュニティでITソリューションの「協創」
を目指す
NEC(日本電気株式会社)
でソフト開発の生産性を高める
17 “知の連鎖”
NTTソフトウェア株式会社
19
個人“知”の共有/活用で企業改革を推進
21
情報/知識の集約・連携で営業提案力を強化
応用地質株式会社
ダイヤモンドリース株式会社
Francesco Ruggeri / Getty Images
の銀行経営をナレッジマネジメントで加速
23 「顧客志向」
株式会社東京三菱銀行
25
ナレッジ/情報の総動員でビジネス・スピードを加速
27
新薬導入のリードタイム短縮をナレッジコミュニティで実現
29
ナレッジコミュニティで店舗運営の組織力を高める
株式会社PFU
ファイザー株式会社
株式会社ららぽーと
SPECIAL
ኵጢᘍѣᛯŴ
˖ಅ৆ဦƷᄂᆮᎍƴᎥƘ
INTERVIEW
「第三の組織」が
企業を勝利へと導く
組織横断型の新たな組織作りで
企業のコア・コンピタンスが磨かれる
ナレッジマネジメントの正しい実践は、縦割り型の企業組織の垣根を越えた
新たな組織(知的コミュニティ)の形成につながる――こうして作られる新たな組織を「第三の組織」と位置づけ、
その重要性を強く訴えているのが、一橋大学大学院およびIMD※1の教授である一條和生氏だ。
組織行動論と企業戦略の研究者である同氏は、国内外の企業戦略分析や、企業に対する
実際のコンサルティングを通じて、従来組織の弊害と、
「第三の組織」の必要性をつぶさにとらえてきたという。
以下、同氏へのインタビューを通じて、氏の言う「第三の組織」の全容を明らかにするとともに、
ナレッジマネジメントの本質的な価値、さらには、それによる企業改革を成功へ導くための手法に迫る。
※1
IMDは、スイス、ローザンヌにあるビジネススクール。特に経営者教育では世界トップとの評価を受けている。
ナレッジマネジメントは
企業改革の原動力
――「第三の組織」についてのお話を伺う前に、まずは、その前
提となるナレッジマネジメント(以下、KM)の戦略的な意義
について確認させてください。
一條氏:KMが、
「学習する組織」、または「知識の共
有化」を実現する概念として米国で提唱され始めたの
は1990年代のことです。また、その概念が日本で盛ん
に論議されるようになってから、およそ10年の歳月が経
過しています。にもかかわらず、競争優位を確保するた
めのインフラとしてKMをうまく活用している企業は、国
内外を問わず決して多くありません。
一方で、KMによる企業変革と業務改革を実践し、
組織横断型のナレッジ共有・活用を会社の常態として
絶え間なく行っている企業は、いずれも大きな成功を収
めています。言い換えれば、KMをうまく展開している
一條和生氏
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授/IMD教授
企業が、持続的な成長を達成し、高い業績を上げて
REALCOM
02
SPECIAL
ኵጢᘍѣᛯŴ
˖ಅ৆ဦƷᄂᆮᎍƴᎥƘ
INTERVIEW
いるわけです。その意味で、KMの戦略的な意義はき
業部間の壁を打ち破ることはできません。そこで求めら
わめて大きいと言えるでしょう。
れるのは、
「知識を共有することが美徳である」という
価値観を社内の全員に持たせることです。また、そうし
――KMを自社の成功に結び付けている企業とは、例えばどの
ようなところですか。
たうえで、業務プロセス自体を、KMを前提にした形態
に変化させなければなりません。旧態依然とした組織
一條氏:その典型例として、私がよく挙げるのは、ノキ
構造や業務プロセス、企業文化をそのまま踏襲しなが
アとゼネラル・エレクトリック
(GE)、そして、ネスレの3社
らKMを指向したとしても、
うまくいくわけがないのです。
です。
ノキアは、1998年ごろまで、モトローラやエリクソンに
対して圧倒的な競争優位を得るまでには至っていませ
――そこまでの大きな変革には、経営トップの決断が不可欠だと
思いますが。
んでした。しかし現在、ノキアはこの2社を大きく上回る
一條氏:その意味で、知識の共有・活用という文化が
市場シェアを獲得しています。その成功の背景には、
企業に定着するかどうかは、経営トップのリーダーシップ
もちろん、同社の携帯端末が、GSM規格と併せて世
によるところが大きいと言えるでしょう。要するに、企業
界市場で広く受け入れられたことがありますが、欧州、
の経営トップが「KMの実践を通じて、自社の価値観
米国、アジアの各地域に分散した開発拠点において、
や組織、業務を改革する」という強い決意と信念を持
携帯電話開発に関するコアの知識が共有されていた
ち、自らが陣頭に立って、KMの導入・展開を指揮して
ことが、彼らのスピーディな成長の原動力となったので
いくことが大切なのです。実際、先に触れたGEやネス
す。
レ、ノキアでのKMの成功は、それぞれの経営トップが、
また、ネスレにしても、以前は欧州における有力フー
KMによる企業改革を強力に推し進めた結果なので
ド・メーカーの1社にすぎませんでした。しかしながら、
す。ここで重要なのは、そうした経営トップが、KMを
彼らは今日、米国や日本におけるダイナミックな事業展
「特別な施策」ではなく、高い業績を上げるためには
開を成功させています。その要因も、ブランド・マネジメ
「当たり前のこと」として見なし、実行していることです。
ントに関するグローバルなナレッジ共有・活用に求めら
れます。さらに、GEは、シックスシグマ※2に基づく業務
改革の知識・ノウハウを、事業部間の垣根や国境を越
――日本の企業風土において、そうしたトップダウンによる変革
は可能なのでしょうか。
えてグローバルに共有しています。これにより、同社は、
一條氏:その質問には、企業変革のプロセスについ
飛躍的な成長を継続しているのです。
ての誤解があるようです。実のところ、カリスマ的な経
これらの企業に共通しているのは、いずれも、グロー
営トップにしても、企業変革を独力で進めているわけで
バルなナレッジ共有を素早く、不断に実行していること
はありません。
トップダウンとリーダーシップとは異なるもの
です。それに対して、各国の拠点や事業部ごとのパフ
なのです。例えば、日産自動車のカルロス・ゴーン氏が
ォーマンス(業績)にバラツキがある企業は、大抵の場
企業改革を成功させたのも、その改革を支えるクロ
合、KMのインフラを効果的に活用できていません。つ
ス・ファンクショナル・チーム(CFT)の存在があったから
まり、それらの企業は、社内的な知識・ノウハウの共
です。確かに、経営トップのビジョンとリーダーシップは、
有・活用を組織の常態として実施できておらず、
ゆえに、
企業変革には不可欠です。しかしながら、その変革を
各ビジネス・ユニットのパフォーマンスの最大化をサポー
スピーディに実現するには、経営トップと、それを支える
トできていないのです。
人々とを密接に連携させる仕組みも大切なのです。
問われるトップのリーダーシップ
――ならば、従業員の資質はどうでしょうか。それは、KMの定着
や改革の成功にどのように影響するとお考えですか。
※2
シックスシグマとは、1980年代に
米国モトローラ社が考案した品質
管理の手法。現在は、顧客に対す
る製品/サービスの提供プロセ
スを改革する経営手法として、製
造業にとどまらず、さまざまな企業
で実践されている。
03
REALCOM
――とはいえ、企業の規模が大きくなれば、その分、事業部間の
一條氏:経営トップのリーダーシップと同じく、社員の資
壁は厚く、高くなります。その構造をKMによって変革するの
質も、KMによる企業改革の成否を分ける重要なポイ
は、やはり相応の経営努力が必要になると思われますが。
ントです。というのも、KMの実践にしろ、結果としての
一條氏:確かにそうです。
「知識の共有」を声高に訴
企業改革にせよ、それらを成功へと導くには、企業内
えるのは簡単ですが、それだけで各国の拠点間や事
の各個人が一定の問題解決能力を備えていることが
前提となるからです。例えば、私はある
企業で社内教育のお手伝いをしてい
ますが、その会社では、社員が、A3サ
イズの用紙に「業務上の問題」と
「その
所在」
「 原因」
「 解決策」
「 解決の手順」
などを書き込み、それを上司が徹底的
にチェックするという問題解決型のトレ
ーニングを繰り返し行っています。そう
した基礎教育の厚みがあって、初めて
KMも企業変革もうまく回っていくと私
は考えます。KMは、業務革新を行うと
いう明確な目的の下で行わなければ
意味はありません。ゆえに、解決すべ
き業務上の課題と、その解決策を発
見するという社員の「問題解決能力」
がKMの基礎を成すのです。
コア・コンピタンスの強化
――では、話のテーマを第三の組織に移させ
てください。まずは、この組織と従来組織
との違いについて、お聞かせ願いたいの
ですが。
一條氏:第三の組織とは、KMの手
法に則ったかたちで形成される新たな
「勝ち組の企業は、いずれもグローバルな知識共有・活用を軸とした社内改革に高い意識
を持って取り組んでいる」と語る一條氏
組織です。それは、職能に基づく縦割
り型の組織でもなければ、組織を横断
する格好で一時的に編成される組織でもありません。
滅したりしてしまいます。
このうち、職能に基づく縦割り型の組織は「第一の
そして、第三の組織は、こうした第二の組織を、企
組織」と呼べます。この組織は、企業の分業体制を支
業の中に常設したものだと言えます。その目的は、縦
える基本的な仕組みですが、
あくまでも縦割りですから、
割り組織(個々の職能組織)の垣根を越えたタスク・フ
横連携は得意ではありません。
ォースの活動(知的生産)を常態化し、企業のコア・コ
ゆえに、企業間の競争が激しさと速度を増してくる
と、競争力強化のためにも、その構造の中に横串を通
ンピタンスや競争力を高める源泉として用意し、蓄えて
おくことにあります。
す必要が生じてきます。
そこで生まれたのが、異なる職能を持つスタッフによ
――第三の組織の具体的な例は、何かありますか。
って作られる「第二の組織」です。先に述べた日産の
一條氏:例えば、GEはシックスシグマの推進者を各事
CFTやタスク・フォースと呼ばれる組織は、その典型だ
業部の中に分散して配置し、業務改革のノウハウや知
と言えるでしょう。
識を相互に共有させることで(シックスシグマに基づく)
ただし、この組織は、特定のタスクを処理するため
業務改善の手法を全社的に根づかせています。つま
に、一時的に編成されるチームにすぎません。つまり、
り、GEはシックスシグマとKMを融合させたかたちで、
新製品の完成などで役目を終えてしまうと解散(消滅)
第三の組織を形成しているわけです。
してしまうわけです。よって、その活動を通じて生み出
また、
トヨタ自動車にも、
トヨタ生産方式(TPS)とい
されたナレッジも、組織の解散と同時に分散したり、消
う自社のコア・コンピタンス(製品の高信頼性/高品質
REALCOM
04
SPECIAL
ኵጢᘍѣᛯŴ
˖ಅ৆ဦƷᄂᆮᎍƴᎥƘ
INTERVIEW
をもたらす源泉)を次代のリーダーに継承していくため
三井不動産は最近、
「六本木部」という複合開発担当
のトヨタ・インスティテュートが存在します。さらに、日産
のプロジェクトを組織化しています。これは、第三の組
自動車も、CFTでの成功体験やナレッジを全社に横展
織の好例だと言えるでしょう。
開するためのバリュー・アップ・チームを設置しています。
とはいえ、複合開発も、各事業本部がそれぞれの強
これらの組織は、いずれも企業のコア・コンピタンスを強
みを発揮しなければ、高い価値は提供できません。ま
化するための第三の組織なのです。
た一方で、複合開発を行うという観点の下、各事業本
部における従来の仕事のやり方も変えていかなければ
従来組織との相乗効果
なりません。このように、第一から第三までの3つの組
織間のインタラクションを通じて、従来の組織における
――第三の組織をデザインするに際して、経営トップが心がける
業務革新を推進していくことが重要なのです。
点とは何なのでしょうか。
一條氏:まず必要なことは、自社のコア・コンピタンス
――要するに、第三の組織は既存の組織に大きなメリットをもた
がどこにあるかを正しく把握しておくことです。というの
らし、また、既存の組織も第三の組織の活動を背後から支
も、
(すでに述べたとおり)第三の組織が扱うのは、企
えうるというわけですね。
業における情報や知識全般ではなく、競争優位の源
一條氏:そうです。例えば、シャープのコア・コンピタン
泉となるコア・コンピタンスにほかならないからです。また
スの1つは液晶パネルですが、同社の場合、その液晶
その意味で、経営トップは、会社の中に自社のコア・コ
パネルを用いたPDA、またはデジタル・ビデオ・カメラとい
ンピタンスを磨き上げる仕組みが備わっているかどうか
った全社的な重要商品の開発を「緊プロ」
(緊急プロ
を慎重に吟味する必要があるでしょう。
ジェクト)と称されるプロジェクト・チームに担当させてい
加えて、第三の組織は、必ずしも実在の組織として
ます。ご存じのように、シャープには液晶、半導体など
設ける必要はありません。ITのネットワークを通じて、
の事業本部があります。よって、
「緊プロ」は、第二の組
成功事例やナレッジを関係者間で共有するための場
織と言えます。また「緊プロ」は、経営トップ直属の組織
を用意し、必要に応じて各担当者が集まれるようにし
であるため、扱われる案件は他の開発プロジェクトより
ておくだけでも十分な場合があります。
優先して処理されます。つまり、シャープは、自社のコ
ア・コンピタンスを生かした商品開発に、社内のリソー
――第三の組織の創設によって、従来組織の存在価値が薄れ
る可能性はないのですか。
REALCOM
るわけです。
一條氏:第三の組織は、決して、第一、第二の組織
とはいえ、
「緊プロ」も期間限定の組織です。そのた
の存在を否定するものではありません。むしろ、第三の
め、個々の活動を通じて得られたナレッジを、全社的
組織は、第一、第二の組織を一層強化し、洗練させる
に共有する仕組みが不可欠となります。そこでシャー
ものと考えたほうが適切です。
プでは、そうした仕組み作りを「シャープ・リーダーシッ
例えば、三井不動産は、急増する都市再開発プロ
プ・プログラム」と呼ばれる活動を通じて実践していま
ジェクトに対応するために、長期経営計画「チャレン
す。一般的な見地から言えば、このプログラムは「リー
ジ・プラン2008」を策定し、第二の組織であるプロジェ
ダー研修」の制度にすぎません。ただし、特徴的なの
クト・チームを、常設の「第三の組織」へと発展させま
は、その1つの目的が「緊プロのチームが培い、洗練
した。
させたコア・コンピタンスを社内に広めていくこと」に置
三井不動産は、
「ビル開発」
「マンション開発」
「商業
かれている点です。つまり、この点において、シャープ・
施設」など、建築物の用途別の事業本部制をとってい
リーダーシップ・プログラムは、
「第三の組織」の役割を
ます。しかし、ここ数年来、汐留や六本木の開発を見
果たしているわけです。
ればわかるように、1つの地域にオフィス・ビルや商業施
05
スを集中的に投下し、スピーディな商品開発を促してい
このように、第一の組織の弱み(横連携の欠如とい
設、そして住宅(マンション)を集中させ、相互に融合
うネック)を第二の組織でカバーし、その組織で得られ
させるという複合開発のニーズが高まっています。そう
たナレッジやコア・コンピタンスを第三の組織を経由し
なると、開発用途ごとにプロジェクト・チームを設けてい
て、第一の組織にフィードバックしていく――こうしたサ
てはスピーディな対応が難しくなり、かつ、複合開発に
イクルが、企業の競争力をさらに磨き上げていくことに
関するナレッジを蓄積するのも困難になります。そこで
つながるのです。
KNOWLEDGE NETWORK STUDY
自律的な個人
“知”
の連携で
学習する組織を作る
多 対 多 型の知 的コラボレーションが もたらす
企 業の競 争 力とは. . . . . .
ここに、
『ネットワーク社会の知識経営』
(稿末参考文献を参照)と題された一冊の書籍がある。
同書は、慶応義塾大学環境情報学部教授、國領二郎氏を含む3人の有識者が著したものだ。
その中で、國領氏は、ネットワークを介した多対多の知的コミュニケーション/コラボレーションによって、
企業・組織の学習能力、および情報処理能力を向上させることができると説いている。
ここでは、そうした國領氏の言葉を借りながら、企業における知識・情報共有のあり方、および、
知的コミュニケーション/コラボレーションの重要性について改めて考察する。
インターネットの真価
ではここで、A氏が、氏と同じカメラを所持する不特
定多数の、しかも、未知の「誰か」に、彼が習得した知
人は学習する能力を持つ。その能力を簡単に言い
識を伝えようとしたとしよう。
以前であれば、
その手段は、
表せば、
「ある場面で得た情報を知識として蓄積し、
TVやラジオを通じた同報通信に限られていた。だが、
次の行動に生かす能力」となるだろう。
TV/ラジオは、それを使用する権利を持つ限定的な
例えば、
「A」という人物が、自分のカメラで室内の
人・組織だけしか用いることができない。また、このメデ
風景を夜の蛍光灯の下で撮影したとする。ところが、
ィアを通じて配信される情報も、一部の人・組織によっ
そのカメラのフラッシュが強すぎたせいか、写した写真
て加工され、コントロールされる。よって、A氏が得た個
が白く飛んで失敗してしまった。このときの経験から、
人的な知識は、たとえそれが同じカメラを有する他者に
A氏は1つの知識を得る。それは、
「(自分のカメラを用
とって有効なものであっても、家族や知人といった極め
い)蛍光灯の下で、室内の風景を撮影する“場面”に
て小さなコミュニティの中に閉ざされ、埋没していくこと
おいては、フラッシュをたかないほうがよい」というもの
になる。
だ。この知識を習得することで、A氏は再度同じミスを
犯さないようになる。また、A氏に家族がいれば、彼は
このような個人間の情報共有のあり方を大きく変容
させたのが、インターネットである。
その知識を家族全員に伝えるだろう。これにより、A氏
このネットワークは、不特定多数の個人と個人を、国
の家族という
「コミュニティ」の中では、A氏の体験と知
や地域を越えて、相互に、そして低コストで結び付ける
識が共有され、A氏が犯したミスを繰り返さないように
手段を提供した。その発展によって、個人は、ある場
なるのだ。
面で得た情報・知識を不特定多数の他者に低コストで
REALCOM
06
KNOWLEDGE NETWORK STUDY
國領二郎氏
慶応義塾大学環境情報学部教授
1959年生まれ。日本電信電話公社、慶応義塾大学
大学院経営管理研究所教授などを経て、現職に至
る。米国ハーバード大学で経営学博士(DBA)
も取
得。
『ネットワーク社会の知識経営』をはじめ、
『オープ
ン・アーキテクチャ戦略――ネットワーク時代の協働モ
デル』
(ダイヤモンド社)など著書多数。
発信することが可能になった。例えば、A氏は自らの
「市場ニーズやビジネス環境の変化が激しさを増す
ホームページを開設・公開するだけで、同じカメラを所
なか、企業は、ビジネス現場での意思決定の能力や情
有する不特定多数の「誰か」に向けて、自分の知識を
報処理の能力を高める必要に迫られている。その意味
発信することができる。
で、今日の企業競争力の源泉は、組織全体の学習能
また、そのような個人の活動をきっかけに、同じカメ
力にあると言ってよい。つまり、組織全体をどの程度ま
ラを所有し、同じ興味や関心を持つ人同士が、各自
で“賢くできるのか”が、企業の浮沈のカギを握ってい
の情報・知識を交換し、共有し合う場がネット上に形成
るわけだ。例えば、よく、人は、
“一度犯したミスを二度
されるかもしれない。そうなれば、A氏が新たに得た知
と繰り返すな”と言われるが、それは、企業も同様であ
識・情報を含め、さまざまな個人の情報・知識・ノウハウ
り、組織内の誰かが犯したミスを他の誰かが行うこと
が、
「多対多」のコミュニケーションの中でやり取りされ、
はやはり許されない。たとえ、その過ちが各個人にとっ
処理され、吸収(学習)されていくことになろう。事実、
て初めてのミスであったとしても、企業内の各所・各自
今日のインターネット上では、同じ関心事を共有するグ
がそれを繰り返していては、企業は信頼の失墜という
ループや個人によって、無数のコミュニティが自律分散
致命傷を負いかねないのだ。ゆえに、企業は、自社内
的に形成され、膨大な情報・知識が連携・処理され、
の個人が犯したミスを組織全体が即座に把握し、次
無数の知的生産が日々行われているのだ。
の行動に生かせるような学習能力を獲得しなければな
らない。そのためには、ネットワークを通じて、現場で働
組織の学習能力を高める
く個人の情報・知識を広く吸い上げ、組織構造の枠組
みを超えて、リアルタイムに連携・共有する場が必要と
このような自律分散型の知的コミュニケーション/コ
なる」
ラボレーションの場を企業の中に形成すれば、組織全
体の学習能力、または情報処理の能力を向上させる
中央集権型の限界
ことができる――これが、國領二郎氏の基本的な考え
方であり、主張でもある。氏は語る。
07
REALCOM
もちろん、企業は、過去にもさまざまな情報化の施策
を展開してきた。だが、その多くは、組織全体の学習
ャブラリー)」
「文法
、 (グラマー)」
「コ
、 ンテキスト
(文脈)」、
能力を高めるには不十分なものであったと、國領氏は
そして「規範」の共有化の4つを挙げる。
指摘する。
このうち、語彙・文法に対する共通認識が、コミュニ
「インターネットが登場する以前は、現場の情報を広
ケーションの円滑化にとっていかに重要かは、とりたて
く収集したり、交換したりするコストは非常に高かった。
て説明するまでもないだろう。周知のとおり、人の発す
そのため、階層組織の中央に優秀な人材と情報を集
る言葉は、実世界の事象を他者に伝えるための道具
中させ、処理するのが、企業にとって最も効果的な手
である。それを有効に機能させるには、特定の語彙、
法だったのだ。そうした中で、多くの企業システムは、
および文法に対する人の共通理解、共通認識が不可
TVと同様の中央集権的な構造を成し、中央が加工
欠なのだ。
した情報を中央が制御し、一対多の方式で社内に流
また、國領氏は、
「このような言葉の意味を一層伝わ
布していた。ところが、いかに優秀な人材を中央に集
りやすくするのがコンテキストである」と指摘する。さら
めたとしても、組織が大きくなれば、中央とビジネス現
に、
「それがない状態で、いかに大量の情報をやり取り
場との距離は、自ずと遠く離れてしまう。そして、現場
したところで意味はない」とも語り、コンテキストの重要
にとって本当に必要なノウハウ・情報が企業システムか
性についてこう説明を続ける。
ら提供されなくなり、有益な知識・情報は特定の個人、
グループ、拠点の中に閉ざされたままとなるのだ」
「例えば、ネットワーク対戦型の囲碁のゲームを思い
浮かべていただきたい。ここでやり取りされる情報は、
確かに、これでは、組織全体の学習能力や情報の
碁石を碁盤のどこに配置するかを表すだけの小さな
処理能力、または、現場での問題解決・意思決定の能
データだ。そのため、以前は、封書を介して遠隔地間
力を上げるのは困難だと言わざるをえない。しかし、今
での対戦を行う
“郵便碁”というスタイルも、比較的一
日、デジタル・ネットワークの発達によって、
「現場の問題
般に定着していたのだ。このような限定的で、シンプル
を一番理解している個人や問題解決の手法を知る個
な情報の交換だけで、囲碁という知的コラボレーショ
人に、自分の得た情報を発信させたり、相互に交換さ
ンがスムーズに展開されるのは、その背後に“ 定石”
せたりすることが、実に低コストで行えるようになった」
というコンテキストがあり、それを対局者が共有してい
(國領氏)。
るからにほかならない。しかも、このコンテキストの存
すなわち、企業の目前には、そうしたネットワークの
在によって、言葉の通じない他国の相手とも対局でき
メリットを最大限に生かし、
組織全体の情報処理能力、
る。要するに、コンテキストを共有する人と人との間で
学習能力を上げていける可能性が大きく広がっている
は、双方の知恵・知識が有機的・効率的に結び付き、
のである。
大量の情報が処理されていくわけだ。知的コミュニケ
ーション/コラボレーションの場を設計するに際して
場の設計とコンテキストの意義
は、このようなかたちで、各個人の知恵が結び付きや
すい構造にすることが重要であり、その点で、コンテ
ならば、今日のネットワークの威力をフルに発揮させ
るには、具体的にどうすればよいのだろうか。つまり、社
キストの共有化という要素は、大きな意味を持つと言
える」
内における多対多のコミュニケーションを活性化し、学
なお、先にも触れたとおり、一対多型の情報システム
習する組織を作り上げるには、いかなる手段が必要と
(中央集権型の企業システム)では、情報が組織の中
されるのだろうか。この点について、國領氏は、
「単純
央で加工され、全社員に向けて発信される。例えば、
に個人と個人を多対多で結び付けたところで、情報共
組織の中央で自社ビジネスの成功事例を作成し、全
有・活用の効率化や知的生産性の向上が実現される
社的な共有化を図るケースはよくあることだ。
わけではない」とし、こう続ける。
「多対多のコミュニケーションを活性化させるには、
ただし、こうした事例には、多くの場合、現場の担当
者にとって有益なノウハウや知識が含まれていない。つ
ある種の縛り
(作法)が必要であり、それに沿ったかた
まり、特定のコンテキストを共有する現場にとって重要
ちで、知的コミュニケーション/コラボレーションの場(プ
な情報が、そうではない他者(中央)が作成する文献
ラットフォーム)を適切に設計することが重要だ」
の中では、ささいな情報と見なされ、省かれてしまうの
この設計の重要な要素として、同氏は、
「語彙(ボキ
である。むろん、このような情報を共有化したところで、
REALCOM
08
KNOWLEDGE NETWORK STUDY
現場において効果を上げることは期待できない。その
意味でも、コンテキストを共有する現場の個人同士に、
ITの価値は
ビジネス・モデルで測る
知識とノウハウを効率的にやり取りさせることが重要と
なるのだ。
ところで、上述したような知的コミュニケーション/コ
ラボレーションの場を形成するには、組織横断型の知
ルールによるノウハウの洗練化
識共有・活用、つまり、ナレッジマネジメントを実現する
IT基盤が必要とされる。
一方、上のコンテキストと同じく、
「規範(ルール)」も
今日の企業にとって、ITの投資効果を見定める
知的コミュニケーション/コラボレーションの活性化には
ことは、必須の要件でもある。よって、ナレッジマネジ
重要だと、國領氏は説く。
メントを実現するITについても、その投資対効果を
「インターネットが普及し始めてまだ間もないころ、私
測定しなければならない。
は、タミヤ模型の『ミニ四駆』について研究を進めてお
だが、ナレッジマネジメントによる知的コミュニケーショ
り、ネット上の検索エンジンを使って、それに関する情
ン/コラボレーションの実質的な効果を測定したり、数
報ページを表示させたことがある。その際、ヒットした
値化したりするのは簡単なことではない。また、知的コ
情報ページの件数は、
実に4,000件にも及んだ。
これは、
ミュニケーション/コラボレーションによって、いつの時
当時(1996年当時)としては驚異的な数字だ。しかも、
点で新たな価値創造や知的生産がなされるのかも予
その中で、タミヤ模型のオフィシャル・サイトは1つだけで、
測できないことなのだ。そのため、國領氏も、
「実を言
そこには、
ミニ四駆の競技会に関する規則が載ってい
えば、ナレッジマネジメントのインフラについては、その
るにすぎなかった。つまり、残りの大多数の情報ページ
投資対効果を測定するのはかなり難しい」と指摘す
は、タミヤ模型が定めた競技会規則に沿って、どのよう
る。だが、そうしながらも、同氏は、以下の論を展開す
なパーツをどう組み合わせれば競争に勝てるのか、と
る。
いったノウハウを記述したものであったわけだ。これは
「ナレッジマネジメントのシステムに限らず、あらゆるIT
つまり、一定のルールと、それに対するインセンティブ
は、その仕組みだけで、良否や価値を判断すべきもの
(この例では、競技での勝利)が明確であれば、さまざ
ではない。重要なのは、企業が、そのITによって、いか
まなノウハウが結晶のように寄り集まり、洗練されていく
なるビジネス・モデルを実現しようとしているかだ。例え
ことを意味している」
ば、3次元CADの仕組みにしても、それによって、企業
こうしたルール作り、すなわち、情報の提供者に対す
が、コンカレント・エンジアリングという新しいビジネス・モ
るインセンティブのあり方を含めたルール作りは、コンテ
デルを目指していなければ、それは単なる3次元グラフ
キストの共通化につながるものだ。そして、これらの要
ィックスの描画ツールとして終わってしまう」
素を知的コミュニケーション/コラボレーションの場にう
さらに、同氏は、以下のように語り、話を締めくくる。
まく組み込めば、企業内の各個人のノウハウや知識が
「その意味で、知的コミュニケーション/コラボレーシ
効率的に結び付き、より多くの情報がすみやかに処理
ョンを実現するナレッジマネジメントの仕組みは、あらゆ
されることになる。言い換えれば、ネットワーク・コミュニ
る企業、そしてすべての形態のビジネス・モデルにとって
ケーションにおける語彙や文法、コンテキスト、そしてル
有効なものだろう。というのも、それが目指すのは、組
ールの共有化は、人の知恵とITという、ともすれば、相
織の学習能力を向上させることにほかならないから
反すると見なされがちな2つを融合させる可能性を秘
だ。人も組織も、そして企業も、学習能力は高いに越し
めているのである。
たことはない。そう考えれば、企業の学習能力を高め
さらに、こうした場の設計、または、統制を行う際に
るITが必要とされるのは、当然の帰結なのだ」
は、企業のビジョン、価値観を場に投影することも重要
であると、國領氏は言う。なぜならば、全社にビジョン、
価値観が浸透することで、企業のネットワーク上で自
律分散的に発生する知的な協調作業に整合性が与
えられ、業務現場で行われる分散的な意思決定にも
統一された秩序が保たれることになるからである。
09
REALCOM
[参考文献]
『ネットワーク社会の知識経営』
発行/発売:NTT出版
著者:國領二郎氏、野中郁次郎氏(一橋大学大学院 国
際企業戦略研究所 教授)、片岡雅憲氏(日本アイ
・エヌ・エ
スソフトウェア株式会社 専務取締役)
REALCOM STRATEGY OVERVIEW
ナレッジマネジメントの
真価を引き出す
リアルコムのソリューション
「KnowledgeMarket」が実現する
学習する組織とナレッジの全体最適
リアルコムの「KnowledgeMarket」は、2000年に発表されたナレッジマネジメント
(以下、KM)ソフトウェアである。
さまざまなKM関連製品が市場に氾濫する中で、同製品はすでに40社近い企業に採用され、
統合ナレッジマネジメント・ソリューションとしてはNo.1製品へと成長している。
その成功要因を解き明かすために、KnowledgeMarketのコンセプトと機能、およびソリューションの全容に迫る。
ワークスタイルを変革する
新たなソリューションを求めて
中にも作れないかと常々考えていた」と、同
氏は振り返る。
「KnowledgeMarket」の開発へとつながっ
ていったのである。
同氏はまた、コンサルタントとしての業務を
2000年4月、
「ライフスタイル/ワークスタイル
こなす中で「最も価値のある重要な情報は
を変革するこれまでにないITソリューション」
人にひもづいている」ことを痛切に感じてい
を開発すべく、あるベンチャー企業が東京
たという。
革新ソリューションを実現した
コンセプトと機能
自分にとって利用価値の高い情報は大半
KnowledgeMarketの設計・開発に際し
創業者は谷本肇氏(同社代表取締役)だ。
が個人に帰属している。また、そうした情報の
て、谷本氏は以下の5つの基本コンセプトを
リアルコムを創業する前の5年間、谷本氏
保持者が運良く見つかり、知識が得られると
固めた。
はハイテクベンチャーの事業拡大を支援する
業務効率は一気に上がるが、逆の場合には、
①インタラクティブなコミュニケーションを実現
コンサルタントとして、米国シリコンバレーに身
仕事が遅々として進まないものだ。
「そこで、
する基本機能を統合的に備えていること
②さまざまな情報共有の「場」を自由に設計
代々木に設立された。現社名はリアルコム。
を置いていた。シリコンバレーは言うまでもな
自分の求める知恵者やブレーンを効率的に
く世界のハイテク産業の中心地である。そこ
探し出し、それらの人々と
『コミュニティ』を通
では日々新たな技術、ベンチャー企業が生
じて協働しながら新たな付加価値を創造し
③常に「人」 を中心に据えること
まれ、消えて行く。谷本氏は、そうしたベンチ
ていける仕組みがあれば、これほど便利なも
④ナレッジの投稿、閲覧、評価といった人の
ャーやベンチャーを取り巻くさまざまな人々で
のはないと考えた」と、谷本氏は述懐する。
構成される「コミュニティ」に大きな刺激を受
けたという。
同氏は、このようなニーズを満たしてくれる
ソフトウェアをくまなく探し続けた。しかし結
し、立ち上げられること
活動履歴を蓄積し、活用できること
⑤「小さく始めて大きく育てる」ことができる
スケーラブルなツールであること
「シリコンバレーのコミュニティでは、会社や
局、満足できるソリューションを見つけること
ここでは、これら5つのコンセプトに沿った
組織の垣根を越えた個人間の情報共有、コ
はできなかった。
「ならば、いっそのこと自分
かたちでKnowledgeMarketの機能を詳し
ラボレーションが実にダイナミックに行われて
で作ってしまえばよい」―― 氏の胸中には、
く見ていくことにしよう。
いた。それを目の当たりにしていた私は、こ
こうした想いが芽生え、膨らんでいった。そ
まず、KnowledgeMarketは、ユーザーに
のようなコミュニティを日本のビジネス社会の
れがリアルコムの創 業とK Mソリューション
よるスムーズな情報共有を実現する3つの
REALCOM
10
REALCOM STRATEGY OVERVIEW
「コミュニケーション・モジュール」を備えている
「ファイル・ボックス」を通じて日々の情報交
のテーマ別グループでの情報共有」といった
(コンセプト①)。具体的には「Q&A」
「ライブ
換が行われ、会議の議事録や提案書、レポ
種々の目的ごとに「(情報共有の)場」を設
ートといったプロジェクト遂行に必要なファイ
計・設定できる。そして、企業内のスタッフは、
ラリ」、および「プロジェクト」の3つである。
Q&Aモジュールは、
「コミュニティのメンバ
ルが蓄積・共有される。また、プロジェクトの
それぞれの場を自由に行き来しながら種々
ーが投じた質問にエキスパートが答え、それ
メンバーに対しては、情報の更新通知が電
の情報を発信したり、活用したりできるので
をメンバー全員で共有する」という自然なか
子メールを経由して発信されるため、各メン
ある。
たちで個人の中に眠っている暗黙知を引き
バーは、プロジェクト・ルームに訪問すること
出し、
「組織の知恵」
(つまり、組織共有のナ
なく常に最新の情報を入手できる。
KnowledgeMarketは、上記3つのモジュ
レッジ)へと変化させる。
「人」を中心に据えるという思想(コンセプ
ト③)は、KnowledgeMarketの核となる設
計思想である。なかでも、同製品の「KnowWhoデータベース」
( 以下、Know-Who DB)
また、ライブラリ・モジュールは、いわゆる文
ールを「スイート」として統合的に提供し、そ
書管理の機能を提供するものだ。ただし、
れぞれのモジュールを電子メールと連携させ
機能は、
「人中心」のコンセプトをそのままか
KnowledgeMarketのライブラリには、他の
ている。この仕組みにより、自然でインタラク
たちにした仕組みだ。
文書管理ツールにはない大きな特徴がある。
ティブなコミュニケーションを実現しているので
それは、文書を単独で管理するのではなく、
ある。
Know-Who DBは、KnowledgeMarket
上に構築されたあらゆるコミュニティの、さま
「そのコンテンツが誰によって作成されたの
また、KnowledgeMarketでは、上述の3
ざまな情報共有活動をすべて「人」に整理
か」
「それを誰が閲覧し、どのように評価して
つのコミュニケーション・モジュールを組み合わ
統合する機能を提供する(図1)。具体的に
いるのか」といった「人」にかかわる情報まで
せながら、個々の目的に応じた「情報共有
は、Q&Aやライブラリ、およびプロジェクト内
を網羅・包含して管理を行っていることだ。
の場=コミュニティ」をいくつでも自由に設計
で交わされた情報とその発信者とを結び付
3つ目のプロジェクト・モジュールは、コミュ
し、立ち上げることができる(コンセプト②)。
けて自動的に蓄積し、
「誰が、いかなるナレ
ニティ内の特定メンバーが集まり、さまざまな
例えば、KnowledgeMarketを活用する
ッジを保持しているのか」を効率的に「あぶ
コラボレーションを行うためのバーチャルな
企業のユーザーは、
「個々人が所属する公
「プロジェクト空間」である。ここでは、プロジ
式組織内での情報共有」
「プロジェクト型の
また、KnowledgeMarketには、
トラッキン
横串活動における情報共有」
「組織横断型
グ・分析機能が備わっている(コンセプト④)。
ェクトのメンバーだけが共有できる「掲示板」
り出していく」のである。
この機能によって、コミュニティに供出された
ナレッジの閲覧履歴や評価履歴が記録・分
図1:KnowledgeMarketのコミュニケーション・モジュールとKnow-Who DB
析され、重要情報の抽出、部門間の情報流
Q&Aモジュール
ライブラリ(文書管理)
日々のQ&Aから、社内エキスパートの知恵をあぶり出す
提案書や「気づき情報」を共有する
通の可視化が実現される。こうした可視化
を通じて初めて情報共有活動の改善が可
能となるのである。
最後に、KnowledgeMarketは、段階的
な利用規模拡大が容易であり、システムを
「小さく始めて大きく育てる」ことができる(コ
ンセプト⑤)。
例えば、KnowledgeMarketのユーザ
提案書を登録したのはどんな人か
誰がどのような
専門知識を持っているのか
閲覧、
コメントしたのはどんな人か
ー・システムの運用開始当初からQ&Aやラ
イブラリ、およびプロジェクトといったすべての
モジュールを大規模に使用する必要はない。
運用の初期段階においては、とりあえず特定
の部門が必要とするモジュールだけを使用
し、限定的なユーザーに対するサービスをス
プロジェクトの
キーマンは誰か
タートさせればよい。のちに利用価値が明確
になり、活用のイメージが固まった段階で、モ
プロジェクト・モジュール
Know-Who DB
プロジェクト・ルームを自由に立ち上げ、
メンバー間で
議論、
ファイル共有を行う
社員それぞれがホームページを持ち、個人プロフィー
ル、情報共有の活動履歴を一覧できる
11
REALCOM
ジュールの利用者や利用するモジュールを簡
単に増やせる作りになっているのである。
KMに対する誤解を解く
KnowledgeMarketは、すでに約40社
(2004年4月現在)の日本企業に導入されて
おり、国内No.1のKMソリューションの地位を
固めつつある。もちろん、表面的な「導入企
業数」だけを見れば、KnowledgeMarket
以上の実績を持つKM製品はある。
それでもリアルコムのKMソリューションが
No.1に位置づけられるのは、
「 世界を代表
する一流企業の多くが、自社の経営課題を
解決する重要施策の核としてKnowledge
MarketによるKMを推進し、かつ、実際に
目に見える導入効果を上げつつあるからだ」
と、谷本氏は語り、こう力説する。
「KMはこれまで、どちらかといえば学術的
で実際のビジネスには役に立たない概念と
揶揄されてきた。こうした懸念に対して、KM
リアルコム 代表取締役
谷本肇氏
をビジネスに生かすための答えを説得力を
持って提示できているのは唯一リアルコムだ
けだ。それが決して誇張ではないことは、当
行ってきたのは、システム・コンサルティングの
ついて、谷本氏は改めてこう指摘する。
社ソリューションの導入事例をご覧になれば
手法をそのままKMの世界に持ち込み、既存
「KnowledgeMarketは、私がユーザー
理解いただけると思う」
の業務フローを洗い出して『ワークスタイルの
の立場から(KMの目的である)理想とする
変革』
を伴わない無意味なIT化
(システム化)
新しいワークスタイルを追求し、それを実現
に立たない」と見なされるようになったのだろ
を推し進めたり、その逆に、KMの理論をい
するために開発したものだ。言い換えれば、
うか。その問いに谷本氏は、
「結論から先に
きなり哲学やアートもしくは精神論の世界に
われわれは『ユーザーにどのようなメリットを
言えば、製品(IT製品)ベンダーの限界とコ
引き上げて、KMの本来目的の達成から逃
提供するか』の最終ゴールを明確に定めて、
ンサルティング会社の怠慢がユーザー企業を
避することだった」
その達成に必要な技術を選択していくとい
ならば、そもそもなぜKMは「ビジネスに役
迷走させたことにある」と答え、こう続ける。
そして氏は、こう結論づける。
う、ユーザーの視点で開発を行ったわけだ。
「まず、製品ベンダーはこれまで情報共有
「結果として、ユーザー企業は、あるべき
結果としてKnowledgeMarketは『差別化
を可能にする要素技術、例えば、検索エン
KMの姿を描ききれないまま、要素技術であ
された要素技術』と
『新しいワークスタイルを
ジンや文書管理ツールを導入しさえすれば
るKMツールをどのように使いこなすかの試
実現するためのノウハウ』がバランスよくミック
行錯誤を繰り返してしまった。そして結局は、
スされたパッケージに仕上がった。それが、
『KMが実現できる』と喧伝する一方で、そ
れらの要素技術を用いて『いかに成功する
『KMの目的が達成できない』または『ツール
KMを実現するか』についてはすべて顧客
は導 入したものの効 果が 一 向に上がらな
任せにしてきた。
つまり、
製品ベンダー各社は、
『KMの推進』を『ツールの導入』にすり替え
てしまったのだ」
かたやコンサルティング会社も、
「KMの理
KnowledgeMarketの強みであり、他社ツー
ルとの決定的な違いでもある」
い』といった状況に陥り、KMプロジェクト自
体を打ち切らざるをえなくなったのだ」
リアルコムのKnowledgeMarketは、こう
KnowledgeMarket導入を
「成果」につなげる
した状況を見事に打破した。つまり、同製品
論を翻訳・整備し、実務家が実際に応用で
は「ユーザー企 業が K Mの目 的を達 成 す
もっとも、KnowledgeMarketがいかに優
きるサイエンスとして提供するという本来の使
る」、ないし「KMを通じてビジネス上の成果
れたソフトウェアであろうとも、ITだけでユー
命を果たそうとしてこなかった」
と同氏は言う。
を上げる」という、他社ツールが成しえなか
ザーの意識改革、企業変革を実現できるわ
氏の説は続く。
ったことを 実 現した の である。そうした
けではない。谷本氏は言う。
「本来果たすべき使命の代わりに彼らが
KnowledgeMarketと他社ツールとの違いに
「KMはビジネスの目的ではなく手段であ
REALCOM
12
REALCOM STRATEGY OVERVIEW
り、ITツールの導入はその手段を実行する
この段階に至れば、残るステップ、つまり、
周知のとおり、企業の基幹業務の領域で
「 効果拡大( 成功事例の横展開)」は比較
は、ERPパッケージが業務システムの統合化
ならば、KnowledgeMarketを「企業変
的容易な作業となる。このようにしてリアルコ
と業務データの標準化を実現した。また、統
革を実現するITツール」とならしめているの
ムは、顧客企業のKnowledgeMarket導入
合型のERPパッケージを全社的に導入する
は何なのか。それは、リアルコムのコンサルテ
を「KMの成功」へと確実に結び付けていく
ことで、会計情報、在庫情報、販売実績/
ィング・サービス「 K n o w l e d g e B a s e d
のである。
販売予測情報などを一元的に把握・分析す
ための1つのステップにすぎない」
Transformation」である。
さらに、リアルコムはユーザー・コミュニティ
ることも可能になった。しかしながら、企業に
Knowledge Based Transformation
をサービスの一環として運営している。同社
とって最も重要なのは、そうして取得された
は、米国APQC(生産性品質センター)が提
のユーザー・コミュニティは、対面でのユーザ
情報や分析結果を「どう読むか」または「実
唱するKMロードマップをベースに、リアルコム
ー・カンファレンスとオンライン・コミュニティの双
際のビジネス活動にどう生かしていくか」の
の実地経験を融合させたオリジナル・メソッド
方の形態で運営されており、ユーザー各社
「ナレッジ」を組織の知恵(ナレッジ)として蓄
である(図2)。基本コンセプトは、KM推進に
は、お互いの成功体験や失敗体験を共有す
おいて「DMAIC」のサイクルを回すことだ。
ることで、メソッドではカバーしきれない泥臭
谷本氏は、そうした企業内ナレッジの全体
DMAICサイクルとは、①Define(課題定
いノウハウを獲得できる。リアルコムは、同コ
最 適 を 実 現 す る 標 準 ツール とし て 、
積・共有していくことであろう。
義)、②Measure(現状測定)、③Analyze
ミュニティの活動を「KMのKM」として重視
KnowledgeMarketを普及させたいと考え
(解決策検討)、④Improve(課題解決)、
しており、それを通じて収集したナレッジを
ているのである。
⑤Control( 成果拡大)の各ステップから成
KnowledgeMarketやKnowledge Based
るサイクルである。リアルコムは現在、上記①
Transformationの拡張や強化に積極的に
から③のステップをカバーする「 情 報 共 有
反映させていくという。
び④をカバーする
「KMパイロット・プログラム」
合情報共有ソリューション」の実現に向けた
(KnowledgeMarket拡張の)第1弾として、
IBMのグループウェア「ロータス ノーツ」の既
ROIコンサルティング」サービスと、②をカバー
する「情報資産活用度診断」サービス、およ
リアルコムはすでに、谷本氏が目指す「統
「統合情報共有ソリューション」
の提供に向けて
存 資 産を 生 かしな がら 、K n o w l e d g e
Marketとの融合を実現する「Knowledge
Market HAKONE( Human Activity
サービスをそれぞれ提供している。
based Knowledge OrgaNizing Engine)
リアルコムの「 情 報 資 産 活 用 度 診 断 」、
リアルコムとKnowledgeMarketの今後に
「 情報共有ROIコンサルティング」を通じて、
ついて谷本氏は、
「情報共有ソリューション市
for Notes」を発表した。また、EIP(企業情
ユーザー企業はKMの成功イメージを明確
場におけるKnowledgeMarketの適用範囲
報ポータル)ソリューションの提供も始動させ
につかむことができる。また、KMパイロット・
をさらに広げ、究極的には、企業におけるあ
ている。リアルコムのKMソリューションは、あ
プログラムでは、KnowledgeMarketの活用
らゆる情報共有活動の統合化・全体最適化
らゆる企業にとっての情報共有の価値を最
とコンサルティングが同時並行で進められ「社
を実現するツールとして位置づけたい」として
大化し「学習する組織」への変革を実現す
内の成功事例」が確実に作り上げられる。
いる。
る最適解と言えるだろう。
図2:KMロードマップとKnowledge Based Transformation
①Define:課題定義
②Measure:現状測定
③Analyze:解決策検討
STEP2
●業務面、情報面での
現状把握(AS IS)
●業務面、情報面での
あるべき姿を検討
(TO BE)
情報資産活用度診断
13
REALCOM
⑤Control:成果拡大
KMパイロット・プログラム
情報共有ROIコンサルティング
STEP1
●体制整備
●目的、対象の定義
●課題の洗い出し
●初期仮説構築
④Improve:課題解決
STEP3
●解決策の検討
●KPI/ROIの設定
STEP4
●パイロット・プロジェ
クトの準備、実施
●立ち上げ、
教育、
啓蒙、
活性化
●パイロット評価
STEP5
●プロジェクトの水平
展開
●人事組織制度の
改革
CASE FILE
先進事例で学ぶ
ナレッジマネジメントによる
経営とビジネス革新の実践手法
リアルコム「KnowledgeMarket」のユーザー企業は今――
組織や職能の垣根を越えたナレッジコミュニティを形成し、経営やビジネスを革新する原動力として活用していく―
―リアルコム「KnowledgeMarket」のユーザー企業は、まさにその試みを実践し、大きな成果をつかみつつある。
7
ここでは、そうした先進企業の中から8社の事例を紹介する。
今日、企業が抱える経営課題を解決するうえで、ナレ
ッジマネジメントが果たす役割の重要性とその戦略上の意義を、より具体的かつ鮮明にしたい。
ナレッジコミュニティでITソリューションの「協創」
を目指す
NEC(日本電気株式会社)
“知の連鎖”でソフト開発の生産性を高める
NTTソフトウェア株式会社
個人“知”の共有/活用で企業改革を推進
応用地質株式会社
情報/知識の集約・連携で営業提案力を強化
ダイヤモンドリース株式会社
「顧客志向」の銀行経営をナレッジマネジメントで加速
株式会社東京三菱銀行
ナレッジ/情報の総動員でビジネス・スピードを加速
株式会社PFU
新薬導入のリードタイム短縮をナレッジコミュニティで実現
ファイザー株式会社
ナレッジコミュニティで店舗運営の組織力を高める
株式会社ららぽーと
REALCOM
14
CASE FILE
ョンの提案力や、ビジネス・スピードを上げて
NEC CORPORATION
いくには、形式知のみならず、個々人の中に
ナレッジコミュニティで
ITソリューションの「協創」を
目指す
蓄積された暗黙知の共有化や連携を図る必
NEC(日本電気株式会社)
いはサービス、また場合によっては、新しいビ
NEC(日本電気株式会社)については、ことさら詳しい説明は不要だろう。同社はITと情報通信の
コミュニケーションを活性化させ、社内のナレ
領域でグローバルに事業を展開している企業だ。現在、ITソリューションとネットワーク・ソリューショ
ッジを融合させることで、そうした新しい何か
ンを融合した統合ソリューション事業を積極的に展開している。そうした事業展開のさらなる強化に
を創造していくことが当社にとっての重要課
向けて、同社が選択した施策の1つ――それは、リアルコムの「KnowledgeMarket」を活用した
題だと考えている」
要がある」
さらに同氏は、こうも続ける。
「当社を含めて今日の企業には、これま
でにない新しいものを創造することが求めら
れている。それは新種のソリューション、ある
ジネス・モデルかもしれない。組織横断型の
個人間のナレッジ共有と連携、および知的創造の活性化である。
このような知的創造の世界を、NECは「協
創」と呼んでいる。そして、この「協創」を実
現するKMのインフラとして、同社はリアルコ
「協創」のインフラとして
ナレッジマネジメントを導入
はきわめて多岐にわたるため、それぞれの製
ムの「KnowledgeMarket」を選定したので
品に関する正確な知識/ノウハウを各現場
ある。
で働くすべての担当者に習得させるのは現
顧客の戦略課題を解決するITを提供し、
実的ではない。
それによって顧客満足度を最大化する――
そこで同社は、社内の各個人が有する知
これはITソリューション・ビジネスが目指す共
識や経験を全社的に共有し、有効活用する
グローバルなKMの展開
NECがKnowledgeMarketを選んだ理
通のゴールだ。そうしたビジネスを展開し、自
ための仕組みをナレッジマネジメント(以下、
由には、
「国内大手企業における豊富な利
社の製品、技術、ノウハウの中から、顧客に
KM)に求めたのである。同社のIT戦略関
用実績や、詳細な操作説明を聞かなくても
とって最適な組み合わせを即座に選び出す
係を担当する支配人、岡田裕行氏は言う。
使い始めることができる操作性の高さなどが
「ナレッジを形式知と暗黙知の2つに分類
ためには、顧客の置かれた状況やその課題
あった」
(NEC IT戦略部 統括マネージャー
を把握する一方で、自社製品やそれに関連
したとき、当社の場合、形式知としての文書
した知識・ノウハウの適切な把握が必要とさ
や情報の(電子的な)共有化は、かなりのレ
また同時に、NECがKMシステムの条件と
れる。しかしながら、NECが扱う製品の種類
ベルまで実現できていた。しかし、ソリューシ
して重要視したのが英語への対応であっ
横井秀志氏)という。
た。グローバルに事業を展開しているNEC
では、非日本語圏にも多くのスタッフがいる。
CASE STUDY OVERVIEW
そうした海外拠点のスタッフが、Knowledge
KM導入の目的
Marketのコミュニティに参加し、情報共有を
■ソリューション・ビジネスの強化、およびソリューション開発の効率化に向けた、社員間のナ
行えるよう、リアルコムに英語への対応を求め
レッジ共有・活用の推進
■顧客へのスピーディな対応と顧客満足度の向上
■部門・組織の壁を越えた知的創造(「協創」)による新たなソリューション、サービスの創出
■グローバルなKMの展開
KM導入の効果
■社員間でのコミュニケーション/知的コラボレーションの活性化
た の だ 。現 在( 2 0 0 4 年 3 月 )、N E C は
KnowledgeMarket英語版を先行導入し、
活用を始めている。
自然に広がる
ナレッジのコミュニティ
■新たなKMソリューションの創出と提供(KnowledgeMarketを利用したKMソリューション
の提供)
NECにおけるKnowledgeMarketの導
入と活用には、
もう1つ、KnowledgeMarket
15
KM対象ユーザー数
の利用判断と運用をユーザー側に一任して
■約6万5,000人(全社員、および海外のグループ会社社員を含める)
いるという特徴がある。
REALCOM
もちろん、NEC IT戦略部ではKnowledge
情報や知識はほとんどすべてポータル画面
Marketの導入に際して、現場に対する使い
を通じて即座に入手することができる。
ただしNECのポータルは、すでに存在す
方の講習会を催すなどの後方支援は行って
る情報の中から必要なものを検索し、収集
いる。
「ただし、実際に使うかどうかはユーザー
するための場であった。つまり、ポータルは各
の判断に任せており、使い方に関しても逐一
担当者間の双方向のコミュニケーションやナ
細かく指示はしていない」と、横井氏は言う。
レッジ共有・連携を実現する場ではなかっ
それでも、NECの社内ではすでに部門横
た、というわけだ。
そ こ で N E C は 、ポ ー タル・サイトに
断のナレッジコミュニティが80以上も成立して
いる。個々のコミュニティの活動レベルにはま
KnowledgeMarketを組み合わせることで、
だバラツキはあるものの、半数以上のコミュニ
ポータルに足りない双方向のコミュニケーショ
ティでは活動が本格化している。この背景に
ン機能をナレッジコミュニティで実現しようと考
はNEC社員のITリテラシーが一般の企業に
えているのである。
比べて高いことがある。ただし、そればかり
リアルコムとの「協創」を推進
でなくKnowledgeMarketの操作性の高さ
NEC プロセス改革推進本部 支配人
岡田裕行氏
もNECにおける活用の活性化につながって
いる。言い換えれば、NECのITリテラシーと
NECは現在、リアルコムのビジネス・パート
KMのシステムとしてのKnowledgeMarket
ナーとしてKnowledgeMarketの販売にも
て、この製品なら当社ソリューションを構成す
の優れた設計、そして個人ナレッジの共有・
乗り出している。またそれと併せて、NECの
るソフトウェアの1つとして十分に有効である
活用に対するNECのニーズが三身一体を
技術とKnowledgeMarketを融合させた新
との確信を得た。今後は、当社が有するモ
成し、ナレッジコミュニティの自律分散的な形
たなソリューションを提供することも視野に入
バイル通信やマルチメディア通信、TV会議シ
成を加速させているのである。
れているという。
ステムなどのいわゆるブロードバンド技術と
KnowledgeMarketによるKMが全社的
この点について、岡田氏は、以下のように
な広がりを見せるなか、NECは次なるステッ
NECならではのKMソリューションのリファレン
説明する。
プを検討し始めている。それは、ポータル・サ
KnowledgeMarketとを組み合わせながら、
「KnowledgeMarketを導入した当初は、
ス作りを目指していきたい」
イトとKnowledgeMarketとの融合である。
純粋にユーザーとしての利用しか想定して
実利用の経験を踏まえたKMソリューショ
NECの社員は、会社での業務上必要な
いなかった。しかし、自社内での活用を通じ
ンは、おそらく、多くの企業にとって実践的で
有効なものとなるに違いない。さらにNECの
場合、KnowledgeMarketの利用経験/ノ
図:KMシステムのイメージ
ウハウを現場から吸い上げ、リアルコムにフィ
認証ディレクトリ
情報提供/
紹介、意見、
回答、外部情
報紹介など
ナレッジ・ポータル
質問、相談、
問い合わせ、
提案など
シングル・サインオン、パーソナライズ
情報提供者
エキスパート
インターネット
情報検索
評判や評価などに配慮した
適切な情報検索
全文横断検索
技術資料
るのかもしれない。
報告書
文書DB
Tips
公開サイト
ノウハウ
■
製品サイト
社内に点在する
公開サイト
情報Webサイト
知識DB
FAQ
く。こうしたサイクルが回り出せば、それ自体
も、NECの言う
「協創」による成果だと言え
文書管理
提案書
高めていくことができる。また、それはNEC
のKMソリューションの強化へとつながってい
ナレッジコミュニティ
コミュニティ・
メンバー
質問者
ードバックすることで、同製品の魅力を一層
他関連業務システム
USER'S PROFILE
会 社 名:日本電気株式会社
資 本 金:3,300億円(2003年12月末現在)
公開情報/
知識DBの充実
コミュニティ
ML
掲示板
文書共有
従業員数:2万3,965人(2003年12月末現在)
事業内容:ITソリューション事業/ネットワーク・ソリューシ
ョン事業
事 業 所:本社および東京田町地区拠点(23拠点)、事
ノウハウ保持者
登録メンバーへの定期的な情報配信
・各自のスキル、興味領域、関連技術情報などに応じた
適切な情報を提供
コミュニケーションを通した
協創の場としてコミュニティを随意設置
製品主管
先端技術者
業所(5拠点)、研究所(5拠点)、支社(全国
11拠点+東京支社)
・支店(全国59拠点)
売 上 高:2兆7,814億円(2002年度単体実績)
U R L:http://www.nec.co.jp/
REALCOM
16
CASE FILE
「そもそもソフトウェア開発のプロセスは、
NTT SOFTWARE CORPORATION
顧客が持つ業務上の知識や課題という暗黙
“知の連鎖”で
ソフト開発の生産性を高める
知を吸い上げ、概念化し、ソフトウェアという
形式知に変換していくプロセスだ。そこでま
ずは、開発プロセスで必要となる知識やノウ
ハウをシステム上に残して、後から見た社員
NTTソフトウェア株式会社
が活用できるようにするという試みを始める
ソフトウェアは技術者の知識・ノウハウの結晶であり、その開発プロセスは、利用者のニーズという
取り、現場における判断のスピードを高めて
「暗黙知」をコンピュータ言語で表現された「形式知」に転換することだと言える。NTTソフトウェア
いくことも欠かせないと私は考えた。つまり、
株式会社(以下、NTTソフトウェア)は現在、リアルコムの「KnowledgeMarket」を用いた個人間
KMはソフトウェア開発という知的生産のス
のナレッジ共有・連携を軸に、ソフトウェア開発プロセスの高度化を推進している。
パイラルを効率的に回すための手法であると
必要があった。また、そこから個々人が学び
同時に、当社の経営課題を解決する重要な
施策でもあったのだ」
「知力企業」になる
さまざまな顧客の要求に即応しうる提案力と
一方、こうした鶴保氏の戦略判断とはまた
生産性向上が強く求められるようになった。
別に、現場レベルでも個々人が持つ知識の
NTTソフトウェアは、NTTの先端技術研
2000年4月、このような経営課題を解決す
共有の必要性・重要性が認識され始めてい
究・開発の成果を事業展開するために1985
べく、当時の社長であり現取締役相談役の
たという。
「知力企業」への道を模索し始め
年に設立された。現在、
「モバイル&セキュリ
鶴保征城氏は「知力企業になる」というビジ
た現場有志の集まりが自然に出来上がり、
ティ」
「ネットワーク・サービス」
「エンタープライ
ョンを打ち出した。NTTソフトウェアにおける
後のKM推進チームへと成長していったの
ズ」といったビジネス分野におけるソリューシ
ナレッジマネジメント(以下、KM)の全社導
である。
ョンの提供を軸に、システム導入コンサルティ
入の背景には、この「知力企業になる」との
ングからSI、保守・運用、維持管理に至るま
ビジョンがある。
で、システムの全ライフサイクルを包括的にカ
鶴保氏は語る。
バーしたサービスを提供するソリューション・
「『知力企業』は組織全体の知的生産性
プロバイダーとしてビジネスを展開している。
を上げることを目指して掲げたビジョンだが、
コミュニティ型のアプローチが
採用の決め手
NTTソフトウェア(のKM推進チーム)が
これまでの同社の事業においては、NTT
当社のようなソフトウェア会社が組織全体の
KM導入の検討を本格化した2000年後半
グループ内の開発案件が大きな部分を占め
生産性を高めるには、個々の技術者が蓄積
には、すでにさまざまなKMツールが市場に
ていた。だが近年では、グループ外からの受
してきたノウハウを開発チームや会社全体で
投入されていた。
注案件も増えており、顧客の業種や抱えるニ
共有・活用する仕組みが不可欠だった」
ーズが細分化している。
その結果、
同社には、
さらに氏は、こう続ける。
それらを調査・分析した結果、最終的にリ
アルコムの「KnowledgeMarket」を選択し
た。KM推進チームのメンバーであり、生産
性革新センター 企画担当 課長代理を務め
CASE STUDY OVERVIEW
る堺寛氏は、選定に至った経緯を以下のよ
KM導入の目的
うに振り返る。
■個人ノウハウの全社的な共有化と有効活用を通じたソフトウェア開発の効率化、生産性の
向上
■衆知の集約を通じた顧客サービスのスピードアップと高度化
■開発力向上のためのプラクティス構築
「さまざまなソフトウェアの調査を進める中
で、私はKnowledgeMarketの製品コンセ
プトである、人と人を相互に結ぶコミュニティ
型 のアプローチに 大きな魅 力を感じた 。
KM導入の効果
KnowledgeMarketなら、個人のノウハウを
■Q&Aの仕組みによる社員の専門知識入手のスピードアップとスキルの高度化
うまくつなぎ合わせ、流通させることができる
■顧客の課題を解決するためのヒント・ノウハウの収集・活用の効率化
と判断した」
■エキスパートの知識を活用した組織全体の知的生産性の向上(コスト削減)
この堺氏の判断に経営トップの鶴保氏も
同意し、KnowledgeMarketの導入が正式
17
KM対象ユーザー数
に決まった。そして、KM導入プロジェクト始
■約1,500人(全社員)
動 からわ ずか 3カ月 後 の 2 0 0 1 年 2 月 に
REALCOM
KnowledgeMarketの運用がスタートした
のである。
「コツ」の共有から
ナレッジ/プラクティスの創造へ
運用が開始されたKnowledgeMarketに
は「知恵DAS(ちえだす)」という愛称が付
このような努力が実り、知恵DASはサービ
けられ、まずは数十名のシステムエンジニア
ス開始後1年半で社員の70%が閲覧するま
をコア・ユーザーとして3カ月間のパイロットが
でに成長した。評価ポイントである助かり時
スタートした。その際、知恵DASのコミュニテ
間も累計9,000時間を数え、
「社員の重複作
ィ上には3つのコーナーが設けられた。公開
業を削減する」という観点からのコスト削減
でQ&Aを行う
「知恵広場」、エキスパート検
だけで投資に見合う効果が上がったのだ。
索のための個人プロフィールを公開した「知
コスト削減以外にも、Q&Aに投稿した質
恵人に聞く」、そして、社員各自が自らの知
問に最短5分で回答が得られ、顧客への素
識やノウハウを発信・公開する「知恵袋」だ。
早いレスポンスが実現できたという例や、顧客
知恵DASコミュニティへの参加は、社員の
提案に役立つアイデアを全社から募ることが
自由意志にゆだねられた。過去、ナレッジ供
できたという声が現場から上がるなど、顧客
出を強制するやり方でKMを進め、失敗した
サービスのスピードアップ、高 度 化に 知 恵
経験があったからだ。
DASが貢献するようになった。また、Q&Aの
NTTソフトウェア 取締役相談役
鶴保征城氏
そこで、KM推進チームは、強制力を働か
75%以上が部署・事業所を横断するかたち
せる代わりに、メールマガジンや社内報など
で行われ、さらに部長の質問に主任が答え
ソフトウェアのKMは、技術者間におけるノウ
の社内メディアを活用して、知恵DASの活用
たり、新人の質問にベテラン社員が答えたり
ハウ共 有の 定 着というフェーズを経て、営
メリットを伝える啓蒙活動や、投稿された質
といった役職や年次にとらわれない知識の
業・SEへの知識の伝播を促進し、組織全体
問が無回答のまま放置されないよう常時フォ
やり取りも活発化した。つまり、技術者個々
で開発力を向上するためのベスト・プラクティ
ローを行った。また、KnowledgeMarketに
人が 持 つノウハウ=コツの共 有という知 恵
スを作り上げていくステージにさしかかってい
備わっている、情報の有用度を「ノウハウ共
DASのスタート時のねらいは、一定の成果を
るのである。
有により削減された個人の作業時間」
(助か
もって実現されたのだ。
鶴保氏は、最後にこう付け加える。
り時間)でフィードバックする機能や、他者を
そして2003年3月には、それまでの技術・
助けた時間総計で個人の知的貢献度をラン
開発系のやり取りが「設計開発コミュニティ」
トウェア開発はKMそのものといっても過言
キングする機能を活用して表彰制度を設け、
に集約され、新たに「ビジネス提案」、
「業務
ではない。KnowledgeMarketによる『人中
エキスパートへのインセンティブとした。
「ソフトウェア産業は知識産業であり、ソフ
サポート」、
「知的好奇心」の3つのコミュニテ
心』のKMによって、当社は内外の知識を総
さらに、経営陣が自らエキスパートとして
ィが立ち上がった。この施策によって、営業
動員し、タイムリーなノウハウ共有を実現しな
社員の質問に答えることでトップのコミットメン
担当者やSEが、顧客から受けた要望を社内
がら生産性の高い開発を行うという原点に
立ち返ることができたのだ」
トをアピールするなど、あらゆる手段によって
に持ち帰り、KnowledgeMarketのコミュニ
コミュニティの意義やノウハウ共有の戦略的
ティ上で対処方法を論議・導出していくとい
重要性を伝えていったのである。
ったプロセスが形成され始めたという。NTT
■
USER'S PROFILE
会 社 名:NTTソフトウェア株式会社
図:NTTソフトウェアにおけるKnowledgeMarket活用のイメージ
④知的好奇心コミュニティ
設計開発コミュニティ/知的好奇心コミュニティ
①設計開発コミュニティ
技術的なテーマでのQ&A、
気づき情報の発信
経営企画部
総務部
資 本 金:5億円
従業員数:約1,500人
事業内容:●ソフトウェアの設計・開発・販売・運用・保守
オフ・ビジネス系
②ビジネス提案コミュニティ
③業務サポートコミュニティ
新規ビジネスのネタを探し、
企画・提案を創造する
スタッフ部門(人事、契約管理、
購買、広報など)
とのQ&A
経理部
人事部
および品質管理●ネットワーク・システムの設
計・開発・建設・管理・運用・保守およびシステ
ム評価●ネットワーク上での各種情報提供・情
報処理・決済(代理徴収を含む)
・通信販売サ
・・・
ービス・通信教育サービス●ハードウェアの開
業務サポートコミュニティ
発・製造・販売・設置● 新技術調査・応用開
発・コンサルティング・教育・研修
事 業 所:本社(本館・新館)、東京本部、事業拠点(名
ビジネス提案コミュニティ
古屋、大阪、武蔵野事業所、横浜事業所、横
営業戦略本部
モバイル&
セキュリティ・
ソリューション事業G
ネットワーク・
サービス・
ソリューション事業G
エンタープライズ・
ソリューション事業G
生産性
革新センター
須賀事業所など)
売 上 高:398億5,885万9,000円(2002年度実績)
U R L:http://www.ntts.co.jp/
REALCOM
18
CASE FILE
告書を電子化し、データベース化することで
OYO CORPORATION
解決を図ることも可能だ。しかし、応用地質
個人“知”の共有/活用で
企業改革を推進
は文書管理からさらに一歩進んだKMの手
法を選択した。同社ITセンター 企画部 課
長の和田弘氏は言う。
「例えば、地質調査の現場で働く担当者
応用地質株式会社
にとって本当に役立つナレッジは、報告書で
地盤に関する調査・コンサルティング業界の最大手が応用地質株式会社(以下、応用地質)
である。
にある。実際、調査担当者は、案件ごとに各
同社は現在、リアルコムの「KnowledgeMarket」をベースにしたナレッジマネジメントを、企業構
自なりの工夫(職人芸)を凝らし作業を進め
造改革の原動力として活用している。
る。このような『職人』のノウハウは、当然地
はなくそれを作成した担当者各自の頭の中
質調査の報告書や教科書には載っていな
い。それは、ある場面に遭遇し、実際にそれ
顧客満足の最大化に向けて
を「知的資産」として大量に蓄えてきた。
「そ
を経験した人でしか習得しえないものなの
れらの報告書はすでに10万冊を超えており、
だ。われわれは、そうした属人的な知をいか
1990年代末からの公共事業の縮減や建
積み上げれば富士山よりも高くなる」と、同
にして引き出し、共有し、活用するかが重要
設業界の構造不況、さらには多様化する顧
社取締役常務執行役員 社長室長、鈴木楯
だと考えた」
客の要求――経営環境と市場ニーズが激変
夫氏は言う。だが、同社は従来、そうした知
つまり、応用地質は、情報共有・活用の施
する中で、地盤に関する調査・コンサルティン
的 資 産を有 効に活 用し切れてはいなかっ
策を単なる文書管理の強化や既存データベ
グで建設プロジェクトの一翼を担うリーティン
た。例えば、同社はすでに全国各拠点の調
ースへのアクセス改善にとどめることをよしと
グ・カンパニーである応用地質も、収益構造
査報告書を集積したライブラリを新潟県内に
せず、
「人中心」のKMを導入して「職人」の
の悪化という一種の“業界現象”に見舞わ
開設し、各拠点の担当者が必要な報告書
暗黙知を組織全体で共有することで全社の
れていた。
を宅配便を使って取り寄せられる仕組みを
問題解決能力を高め、構造改革の最大の
その状況を打開すべく同社は社内の構
構築していた。しかし、報告書検索用のイン
目的である顧客満足の最大化を達成する
造改革に乗り出した。改革の主題は、
「顧客
デックスには、各報告書の表題しか記載され
基礎を築こうと考えたのだ。また、そうした知
満足の最大化」だ。このテーマの下、同社
ていなかったため、どの報告書の中にいか
的資産の有効活用をさらに進展させ、新た
は2000年4月に構造改革推進本部を立ち上
なる知識・情報が記載されているかを正確に
な知、情報、企業価値の創出へとつなげて
げ、さまざまな施策を打ち出した。その中で、
判断するのは困難だったのである。
いくことが、業務プロセスや組織改変といっ
た全社にわたる構造改革を強力に後押しす
改革を支える重要な施策の1つとされたの
が、ナレッジマネジメント(以下、KM)の実践
であった。
文書管理を越えた
「人中心」のKMの導入
このようなKM推進の方向性を決める過
程では、K Mに関 する国 内 外の事 例の調
1957年に設立された同社は、およそ半世
紀にわたって、案件ごとの成果である報告書
ると判断したのである。
単に報告書を共有するだけならば、全報
査・分析が行われ、
「 自社にとって、真に有
効なKMのあり方とは何か」を巡り、さまざま
な議論・検討が繰り返された。この検討は
CASE STUDY OVERVIEW
KM導入の目的
■社内の知識・情報の共有とその活用の推進による、各社員の問題解決能力の向上
■顧客サービスのスピードアップ、高品質化
2002年10月から翌年3月にかけて実施さ
れ、同社は、自社の特殊性を考慮に入れな
がらKMをうまく業務に取り込む方法を徹底
的に洗い出し、要件定義を行った。その結
果として同社は、
「日々の業務で発生する情
KM導入の効果
報や、個人が得た知識の共有化・活用を可
■専門技術者と社員とを結ぶナレッジコミュニティによる、顧客対応のスピードアップ
能にする機能」や「組織横断型のナレッジコ
■業務シーンでの具体的な活用事例や効率化効果の現出
ミュニティの実現」などに加えて、システム運
用を支援する「使いやすさ
(情報登録のしや
KM対象ユーザー数
■約1,200名(全社員)
19
REALCOM
すさ)」
「自然文による情報検索」
「外部シス
テムとの連携」
「(KMの)活用履歴の収集・
分析」といったユーザーの活用を促進する
MarketによるKMの可能性をきちんと理解
機能も、KMシステムに求めたという。
し、そのうえで、
『これは役に立ちそうだ』とい
そして同社は、自社の要件に最も合致し
う前向きな意見を数多く寄せてきている」
た ソリュ ー ションとして 、リアルコム の
「KnowledgeMarket」
を選定したのである。
また、実際の導入効果もすでに上がり始
めている。試験運用中の2003年5月に宮城
KnowledgeMarketの採用を決めた応
県沖、同9月に十勝沖でそれぞれマグニチュ
用地質は、リアルコムの協力の下、KMに対
ード7を超える規模の地震が発生した。その
する社内の理解を深め、活用を促すための
際、地震後の被害・地盤調査をすでに経験
教 育・啓 蒙 活 動 を 行 っ た 。並 行 して
した東北支社とこれから調査に着手する札
KnowledgeMarketの試験運用をスタート
幌支社との間で、これまでにないスピードと密
し、本番運用前の最終評価を行った。その
度で調 査 要 件やノウハウの共 有が 行われ
結果、やはりリアルコムのナレッジコミュニティ
た。つまり、かつては他者との情報共有にあ
の仕組みならば社員の暗黙知をうまく引き出
まり積極的ではなかった「職人」たちが、支社
せるとの確信を得たという。
間の垣根を越えた情報共有を積極的に図
り、作業の品質向上とスピードアップを実現し
KMによる問題解決と
ベスト・プラクティスの共有
応用地質 取締役常務執行役員 社長室長
鈴木楯夫氏
たのだ。
これはまさしく応用地質がKMに期待した
とおりの効果だと言える。
て、鈴木氏はこう話す。
こうして2 0 0 3 年 1 0 月に、K n o w l e d g e
現 在 、同 社におけるK Mの適 用 領 域は
「われわれには、KnowledgeMarketの
Marketの本格運用がスタートした。同社の
「ベスト・プラクティスの共有」と「専門家の知
利用状況の調査と分析を行い、新たな施策
執行役員でITセンターの所長を務める殿内
を利用した問題解決型コミュニティの創出」
を行うことで、利用度をより高めていく必要
啓司氏は、運用開始後の社内の評価を以
という2つに絞られており、その(ナレッジコミ
がある。加えて、現在、知識体系のカテゴリ
下のように説明する。
ュニティの)運用を行うために、担当役員を
ーごとにエキスパートを配置し、彼らの目を
CKOに据えた全社的運営体制の構築が検
通して情報を登録してもらうという体制を敷
討されている(下図参照)。
いているが、情報の品質を一層高めるため
「コミュニティを軸にしたKMを、社員は楽
しみながら活用してくれている。社員にアン
ケートを取ると、その 多くが K n o w l e d g e
この仕組みを巡る今後の方向性につい
には、エキスパート自体の専門性をより高度
化していかねばならない」
応用地質の構造改革を実現するための
図:応用地質におけるKM運用体制のイメージ
重要な柱として、今後もKnowledgeMarket
経営者
KM推進担当役員(CKO)
に寄せられる期待は大きい。
運営委員会
・KM運営方針の策定
・KM活用度の評価
USER'S PROFILE
KMセンター
ナレッジマネジャー
・KM運営を統括的に担当
KMスタッフ
・ナレッジマネジャーの補佐
・コンテンツ・オペレーション
・委員会事務局
・広報/教育
・ヘルプデスク
・運用ルール策定
・運用モニタリング
・情報品質維持/向上
・情報整備施策の検討/策定
■
会 社 名:応用地質株式会社
エキスパート
(各分野の専門家)
資 本 金:161億7,460万円
・情報(回答)品質の監視
・ナレッジ収集/選別/登録
従業員数:1,162名(2003年10月現在)
事業内容:●土木構造物・建築構造物などの建設に伴う
地盤の調査/設計・施工の管理●地すべり、
システム運用/サポート
情報システム部
・システム/ハードウェア運用管理
がけ崩れ、地震災害、風水害などの調査/解
ベンダー
析/予測/診断/評価/対策工●振動、騒
音、水質などの環境保全・環境リスクの調査/
解析/予測/診断/評価、および対策工●
地盤・環境・災害情報など、地球に関する情報
事業所KMリーダー ・各拠点におけるKM活用推進/連絡窓口
ナレッジ・リーダー(情報/ナレッジ共有を図る部門ごとに設置)
・情報/知識の登録推進 ・KM活用推進 ・情報/知識の妥当性チェック
(査読)/属性付加
登録/利用者
・知識の再生産と創造 ・情報のブラッシュアップ ・知識/情報の登録
の収集/加工/販売●各種の測定機器/ソ
フトウェア、システムの開発/製造/販売/リ
ース/レンタル
事 業 所:本社、支社(札幌支社から九州支社まで全国7
支社)、支店/営業所/事業部(計48拠点)、
技術本部、研究所(4拠点)
売 上 高:256億円(2003年度個別実績)
U R L:http://www.oyo.co.jp/
REALCOM
20
CASE FILE
DIAMOND LEASE COMPANY LIMITED
こうした理由から、ナレッジプラザへの投
稿は自ずと減少し、結果的に同社における
情報/知識の集約・連携で
営業提案力を強化
“Q&A”のスタイルは個人の“つて”を頼りに
した電話やメールでのやり取りに立ち戻って
いったという。
「そこで、KMに特化したソリューションを
ダイヤモンドリース株式会社
導入し、真に“使える”KMのシステムを構築
リース会社の武器は、営業担当者の問題解決能力と提案力にある。それを高めるためには、商品、
開発室課長、八木原朗氏は言う。
しようという機運が高まった」と、同社の商品
リースに関する最新、最良の情報・専門知識を第一線の営業担当者に伝達していかなければなら
ない。ダイヤモンドリース株式会社(以下、ダイヤモンドリース)は、この課題を解決するための基盤
としてリアルコムの「KnowledgeMarket」を活用している。
KMを日常業務として
浸透させる
新システムの導入機運が高まる中で、同
専門知と営業の連携を求めて
その1つが同社のイントラネット
「DL(ダイヤ
社 が 導 入 を 決 め た の が リアル コ ム の
モンドリース)ネット」を通じた、各種商品情
KnowledgeMarketである。選定の理由を、
八木原氏はこう説明する。
ダイヤモンドリースがナレッジマネジメント
報・提案書の提供だ。DLネットには、営業担
(以下、KM)に積極的に取り組む理由とは
当者の質問に対して、各部署の専門家が回
「KnowledgeMarketは、他のKM製品
何なのか――この問いかけに同社の企画部
答を提示するための共有フォルダ(ナレッジプ
や仕組みに比べてシンプルであり、利便性も
長、森安直人氏は以下のように切り出した。
ラザ)が設けられていた。
圧倒的に高かった。われわれは、KMのシス
「われわれのビジネスでは、税制や会計制
しかしながら、ナレッジプラザは十分な成
テムに社員全員が抵抗なく日常的に使える
度といったさまざまな要素を考慮しながら、最
功を収めることができなかった。要因の1つ
親しみやすさを求めた。その要件に合致し
適なリース商品をどう顧客に提案するかに成
は、情報の投稿が全社共有フォルダに対して
たソリューションはKnowledgeMarketだけ
否の鍵がある。つまり、KMを通じてリース商
しか行えず、羞恥心などから基礎的な質問
だったのだ」
品に関する専門的な知識を各営業担当者
を投稿しづらかったことだ。
また、ナレッジプラザに寄せられた質問へ
定から実際の運用開始までに十分な準備期
の回答は、同プラザの管理者が社内の各専
間を設けた。その理由は、KMシステムで扱
に共有させ、最大限に活用させることが、当
社のビジネス拡大に直結するのだ」
同社では、KnowledgeMarketの導入決
こうした背景から、ダイヤモンドリースはこ
門家から一括して聴取し作成していた。そ
う情報の鮮度を保ちつつ品質を最大限に高
れまでにもさまざまな社内の情報共有、ナレ
のため、プラザ運用における管理者の負担
める仕組みを周到に検討する必要があった
ッジ共有の施策を実行してきた。
もかなり大きかった。
からだ。
「例えば、当社のKMシステムには投
稿されるナレッジの正確性を専門家が事前
にチェックする承認フローの仕組みが不可欠
CASE STUDY OVERVIEW
だった。なぜならば、誤った知識が顧客への
KM導入の目的
提案というかたちで外に出てしまうことは絶
■社内に点在する専門家のバーチャルな組織化と専門知識センターの構築による、営業効
対に許されないからだ」と、八木原氏は言う。
率・成約率の向上
■営業現場で必要とされる情報/ナレッジの共有と活用の容易化
KM導入の効果
■専門知識を有する担当者(専門家)の業務負荷の軽減(これは、専門情報/ナレッジに関
するFAQの整備による)
ダイヤモンドリースとリアルコムの両社スタッ
フは、およそ半年にわたってミーティングを重
ね、このようなニーズを効果的に取り込んだ
KMの仕組みを完成させた。
こうして構 築されたダイヤモンドリースの
■営業担当者間の情報/ナレッジ、提案書の共有化による、営業担当者の業務効率の向上
K Mシステムは 、
「 専 門 家 F A Q 」、
「営業
■個人の情報/ナレッジのデータベース化による専門性の可視化
Q&A」、
「提案書ライブラリ」という3つの仕組
■知識・ノウハウの提供/活用という文化の育成
みを柱としている。
「 営業Q&A」は、営業担当者が日々の
21
KM対象ユーザー数
業務の中で蓄積したノウハウを交換する場
■約700人(全社員)
だ。例えば、担当者の元には顧客からさまざ
REALCOM
まな要求が寄せられる。その際、過去にお
を促す環境を整えたのである。
いて同様の要求に対処した担当者がいれ
ば、その知識を活用することで顧客への対
応がスムーズになる。そうしたナレッジ連携を
営業担当者の能力アップを
サポート
実現するための場が、
「営業Q&A」である。
対する「専門家FAQ」は、社員が業務上
ダイヤモンドリースにおいてKnowledge
の質問を投稿して、社内の専門家から回答
Marketの本格運用がスタートしたのは2002
を得るための場だ。社員から寄せられた質
年6月である。それに向けて同社は、3つの
問は、専門家が吟味し、その頻度や重要度
営業部署と100人の専門家による試験運用
が高いと判断した場合に「よく尋ねられる質
を行い、それと並行して、数多くのFAQをリ
問(FAQ)」として編集され、全社員に対し
ストアップする作業も専門家の協力の下で進
て公開される。つまり、
「 専門家FAQ」は、
めた。これにより、
「専門家FAQ」には、シス
Q&Aの内容を定型化し、洗練させたナレッ
テムの本格始動時点で、すでに900件にも
ジ・データベースを提示する場と位置づける
及ぶ質問と回答が蓄積されることになった。
ことができる。
こうした努力もあり、同社のKnowledge
ダイヤモンドリース 企画部長
森安直人氏
また、
「専門家FAQ」では質問のすべて
Market導入は目覚しい成果を上げている。
が自動的に公開されるわけではないため、
スタートして半年で延べ7,000人以上が活用
社員は気軽に専門家に質問できる。
し、半年間の業務の時短効果は約700時間
一目置かれる存在になった社員が数名出
3つ目の「提案書ライブラリ」は営業用の
に達した(実態としてはその2∼3倍の効果
現したことも特筆すべきであろう。
提案書を共有する場である。一般に、営業
があると八木原氏は考えている)。また、
「提
さらに八木原氏は付け加える。
担当者が自らの提案書を積極的に公開す
案書ライブラリ」における提案書と気づき情
「専門家FAQの仕組みが出来上がる以
ることはまれだ。しかし、ダイヤモンドリースは、
報の投稿もすでに250件に上っている。加え
前は、専門家の元に同じ内容の質問が連
同ライブラリと
「専門家FAQ」
や
「営業Q&A」
て、重要なことは、個人が所有している情報
日寄せられていた。しかし、現在は状況が
を組み合わせることで営業担当者から見た
や提案書が全社共有のナレッジとなり、営業
大きく改善され、専門家の負担が軽減され
K M サイトの 利 便 性 を 高 め 、さら に 、
担当者同士が自作の提案書を共有したり、
た。これにより、彼らも自分たちの本来業務
KnowledgeMarketのフィードバック機能や
持ち寄って合作したりということが現場で日
により多くの時間を割けるようになった」
ランキング機能を利用して投稿へのインセン
常化しつつあることだ。また、再利用価値の
ティブを与えることで提案書の積極的な投稿
高い提案書を作成・投稿したことで、社内で
また森安氏は、こうした状況を加味しなが
ら、KMの導入効果をこうまとめる。
「 営 業 業 務 の 効 率 化 という意 味 で
KnowledgeMarketの効果は絶大だ。しか
図:ダイヤモンドリースのKMシステムの仕組み
ユーザー
も、その導入によって、営業部全員のパフォ
●質問の検索、投稿 ●質問の回答 ●提案書の検索、投稿
ーマンスを高いレベルで均一化し、そのうえで
各自が専門的なノウハウ/知識を吸収・蓄
積し、より高いレベルを目指していける土壌
が形成できた。その意義は決して小さくな
①専門家FAQ
専門営業場所/動産保険/法定耐用年数/レンタル・・・
システム
い」
■
②営業Q&A
社員同士のボトムアップの知識・情報共有/営業ノウハウ/接待・・・
③提案書ライブラリ
USER'S PROFILE
提案書の共有
会 社 名:ダイヤモンドリース株式会社
資 本 金:164億4,029万5,000円
管 理 者
従業員数:約700人
ナレッジシステム運営管理者
●質問の精査 ●回答の精査 ●モニタリング ●議題の設定 ●回答者振り分け ●サポート
事業内容:各種動産のリース/各種動産の割賦販売/金
融業務/不動産業務/投資商品販売/国際
業務
事 業 所:本社、新川分室、新宿営業部、支店(全国17
専 門 家
管理部門
●質問の回答
●議題の提供
●専門分野動向
●事例紹介
●質問の回答
専門営業部 ●営業テクニック
●意見交換
●事例紹介
質問の事例に
●質問の回答
似たことを取り
●意見交換
扱ったことがある人 ●事例紹介
拠点)
売 上 高:4,225億2,700万円(2003年度単体実績)
U R L:http://www.dia-lease.co.jp/
REALCOM
22
CASE FILE
THE BANK OF TOKYO-MITSUBISHI,LTD
ンに共有する――このような「オープンな組
織」を支えるITプラットフォームを構築し、行
「顧客志向」の銀行経営を
ナレッジマネジメントで加速
員の生産性と創造性の向上を図るのがプロ
ジ ェクト「 O P E N 」だ 。リアル コ ム の
「KnowledgeMarket」は、このプロジェクト
の中でナレッジマネジメント
(以下、KM)を担
株式会社東京三菱銀行
うインフラとして採用されたのである。
株式会社東京三菱銀行(以下、東京三菱銀行)は現在、現場主導のタイムリーかつ的確な意思
東正行氏は言う。
東京三菱銀行 総合企画室 副室長、伊
決定による、顧客ニーズへの迅速な対応を実現するため、プロジェクト「OPEN」という業務プロセ
「不良債権処理をひと段落させた今、わ
ス改革に取り組んでいる。リアルコムの「KnowledgeMarket」は、東京三菱銀行の「顧客志向へ
れわれの次なる目標は『顧客志向のビジネ
の変革」を支える知的コミュニケーションの基盤として活用されている。
ス』を加速させることだ。そのためには、顧客
から最も近い位置にいる各現場や個人のベ
スト・プラクティス、そしてノウハウをオープンに
業務改革を支える
ナレッジマネジメント
るのが、
「旧来からの中央集権的な意思決
共有し、能力を互いに高めていかなければ
定/ 業務プロセスを自律分散型に転換す
ならない。つまり、組織全体のKMが徹底し
る」という業務改革だ。ねらいは、あらゆる顧
た顧客志向を実現する原動力となるべきな
1990年代後半以降、日本の大手金融機
客ニーズへの迅速な対応を実現することに
のだ」
関はバブル経済の「 負の遺産」である不良
ある。そして、この改革の根幹を担って2003
債権の処理に追われ、守りの統廃合を続け
年よりスタートしたのが、
「OPEN」と呼ばれる
てきた。
プロジェクトだ。
情報共有の基盤を改革
その中にあって、東京三菱銀行はいち早
上意下達の官僚的な組織とされてきた銀
もっとも、東京三菱銀行におけるナレッジ
く不良債権処理に目処をつけ、グループ再
行があえて掲げる「OPEN」というキーワード
共 有 の 取り組 み は 、何もK n o w l e d g e
編による経営の効率化を進めるなど、唯一
――ここに東京三菱銀行の将来のあるべき
Marketの導入に端を発したものではない。
攻めの姿勢を貫くメガバンクといえる。2004
姿を見据えた改革への強い意志が現れてい
同行ではかねてからIBMのグループウェア
年2月には「向こう3年以内に金融機関の株
る。全行員が失敗を恐れずオープンにものが
「ロータス ノーツ」を用いて、業務遂行に必
式時価総額で世界トップ10入りを果たす」と
言え、
トップのビジョンがオープンに伝わり、そ
いうグループ目標を高々と掲げている。
のフィードバックもオープンに行える。本部と営
しかしながら、ノーツ上で扱われていた情
業店との壁を取り払い、必要な情報をオープ
報の多くは、各支店ないし部門・部署ごとに
そうした同行が今、強力に推し進めてい
要な情報の共有化を図ってきた。
管理されるため、結果として各所のノーツDB
に分散して配置されていた。そのため、必要
CASE STUDY OVERVIEW
な情報の在処や特定のノウハウ保持者を組
KM導入の目的
織横断的に探し当てるのはなかなか難しか
■各支店、部門に散在していた情報(ベスト・プラクティスなど)の整理・統合
った。しかも、ノーツのシステムでは組織横断
■組織の中央(本部)と現業分野(各支店・営業拠点)間のインタラクティブな情報交換
型のインタラクティブなコミュニケーションはほ
■新商品、サービスの創造につながる知的コラボレーションの場の構築
とんど行われていなかった。
■現業分野での生産性、問題解決力、意思決定力の向上
■個人に帰属する知識、知恵の発掘と共有
KM導入の効果
■利用価値の高い情報の統合化・体系化による現場業務の効率化
このような仕組みを改変しなければ、結局
のところ行員一人一人のナレッジは、各個人
ないし個々の拠点の中に閉ざされたままとな
る。
「それは組織全体の業務効率を上げるう
■組織横断型のナレッジコミュニティによる情報流通の効率化と活性化
えで大きな障害になる」と伊東氏は指摘し、
■本店、支店、部門間のインタラクションの発生
こう続ける。
■データ・トラッキングによる情報流通の可視化を通じた情報発信活動の効率化
「例えば、多くの銀行では、顧客との取り
引きを成立させる前のプロセスは明文化され
23
KM対象ユーザー数
ていない。要するに、顧客にどう接して、どう
■国内全行員(約1万6,000人)
いった情報を収集し、どのような提案を行え
REALCOM
ば取り引きの成立に結び付くのか、という情
に、
「情報流通をトラッキングし、可視化する」
報は形式知化されてこなかったのだ。言うま
機能がある。これは、投稿された情報や通
でもなく、これらのナレッジは現場の業務担
知が、いつ、誰に読まれたのかをリアルタイム
当者にとって最も利用価値の高いものなの
で表示する機能であり、表示の内容には情
で、可能な限り形式知化し、拠点や組織の
報に対する評価を付与することも可能だ。伊
垣根を越えて共有する仕組みがプロジェクト
東氏によれば、このトラッキング機能は情報
作成・発信という業務のプロセス改善に大き
『OPEN』ではどうしても必要だった」
く貢献しているという。
そこで同行は、行員が扱い慣れているノー
ツのメール機能やスケジュール管理機能と併
「例えば、以前の本店のスタッフは資料を
存させるかたちで、KnowledgeMarketによ
作成し、ノーツに投稿するだけで業務を遂行
るKMを展開しようと考えたのである。
したという感覚に陥りがちだった。だが、本
店スタッフの本来の任務は支店や支社営業
情報共有プロセスの改善
をサポートすることであり、その観点からする
と、発信した情報がきちんと相手に伝わり、
東 京 三 菱 銀 行におけるK n o w l e d g e
理解され、かつ評価されて初めて業務を遂
Marketの導入プロセスは、ノーツ上で展開
行したことになる。KnowledgeMarketのト
東京三菱銀行 総合企画室 副室長
伊東正行氏
されてきた情報共有の仕組みをKnowledge
ラッキング機能は、そのことを改めて本店の
Market上のコミュニティに移行する作業か
スタッフに認識させ、資料作成という日常業
ち上がり、個人間でのナレッジのやり取りが
ら始まった。同行はまず、各支店・部門の担
務の再評価と業務改革を促すきっかけを作
活発に行われている。また、2004年2月、東
当者に協力をあおぎ、ノーツDB上に蓄積さ
ってくれたのだ」
(同氏)
京三菱銀行と三菱信託銀行、および三菱証
東京三菱銀行は現在、全行員を対象に
券の融合店舗「MTFGプラザ」
(1号店)が
り込んだ。次に、商品カテゴリーを縦軸に、
KMの活用・運用を推進している。すでに同
埼玉県所沢に開設されたが、同プラザのス
業務プロセスの各フェーズを横軸にしたマト
行の全行員は、KnowledgeMarket上に構
タッフと本部スタッフとを結ぶ、既存組織の枠
れていた約9万件の情報を6,000件にまで絞
組みを大きく超越したコミュニティもすでに開
リックスを作成し、そこに絞り込んだ6,000件
成された「個人顧客向け業務コミュニティ」や
の情報をマッピングしていった。これにより、ノ
「法人顧客向け業務コミュニティ」に登録・参
ーツDB上で無秩序に散在していた貴重な
加している。また、KnowledgeMarket上で
全行ナレッジのKnowledgeMarketへの
情報が、KnowledgeMarket上で体系的、
は、部署単位のコミュニティや特定業務系の
移行、行員への定着は1つの結果を見た。
コミュニティ、および、商品開発といったプロジ
また、伊東氏の言う
「取り引きを成立させる
ェクトごとの組織横断型コミュニティなども立
までのプロセス」に関する成功体験やノウハ
かつ統合的に管理されることになった。
また、KnowledgeMarketの特徴の1つ
設されている。
ウ、疑問を現場間で共有するコミュニティもオ
ープンした。
図:東京三菱銀行におけるKMシステムのイメージ
KnowledgeMarketによるKMを足がか
Q&A
Q&Aコミュニティ
管理業務コミュニティ
全
社
ポ
ー
タ
ル
法人顧客向け業務コミュニティ
個人顧客向け業務コミュニティ
プロジェクト
Q&A
掲示板
Know-Who
ライブラリ
各種営業情報
内部管理情報
部門内情報
を加速させ、他の追随を許さない総合金融
機関としての地位を築きつつある。
■
専門家
リスト
ノーツ
既存
情報資産
リンク
りに、東京三菱銀行は顧客志向への変革
電子文書データベース
標準手続
マニュアル
USER'S PROFILE
会 社 名:株式会社東京三菱銀行
資 本 金:7,859億円(2002年3月31日現在)
従業員数:1万8,258人(2002年3月31日現在)
事業内容:各種金融サービス事業(リテール/法人/資
産運用/投資バンク/グローバル・サービスな
検索対象リンク
ど)
報知・連絡
事 業 所:本支店(全国267店)、出張所(26拠点)、代
理店(2店)●海外75拠点(支店44店舗、出
検索対象
その他
社内システム
張所14拠点、駐在員事務所17拠点)
売 上 高:80兆7,183億円(2002年3月31日現在)
U R L:http://www.btm.co.jp/
REALCOM
24
CASE FILE
実は、このProDeSのスタートが「PFUに
PFU LIMITED
おける“スピード”に対する意識を大きく変容
ナレッジ/情報の総動員で
ビジネス・スピードを加速
させ、それと同時に、個人のノウハウ/知識
の共有化、活用のニーズを高める転機にな
った」と輪島氏は指摘する。同氏はさらに続
ける。
「例えば、製品の開発期間を圧縮すると
株式会社PFU
いうのは、われわれのようなIT企業が以前
顧客の要求、ニーズの変化に迅速に対応する――これは、今日のあらゆる企業に課せられた大命
から抱える経営課題であった。だが、この課
題の1つだ。とりわけ、市場トレンドの変化と技術革新のペースが速いIT産業に身を置く企業にとっ
題に対する従来の解は、自社の従来スピー
て、ビジネス・スピードの向上は急務の課題であろう。株式会社PFU(以下、PFU)は現在、そうした
ドをどの程度向上させるかといったものにす
課題の解決に向けて、リアルコムの「KnowledgeMarket」による社内ノウハウの融合、共有化を
ぎなかった。しかし、ProDeSのようなビジネ
推し進めている。
スの場合、顧客の厳しい納期要求に対応す
るのはもちろんのこと、ときには、顧客要求を
もしのぐスピードを実現しなければ、圧倒的
スピードの追求
し、新たなサービス「 P r o D e S( P r o d u c t
な競争優位は獲得しえない。そうしたスピー
Design Services)」を始動させている。
ドを実現し、かつ、ProDeSのようなサービス
「ビジネス・スピードをさらに上げること。わ
この種の受託サービスは、一般に「EMS
の品質を高めるためには、社員一人一人の
れわれがナレッジマネジメント
(以下、KM)の
(Electronics Manufacturing Servi
ノウハウや専門知識、情報を総動員して、顧
導入に踏み切った理由は、この一点に集約
ces)」と呼ばれるが、PFUのProDeSは、従
客よりも一歩先に最新テクノロジーを吸収し、
することができる」――PFUの専務取締役、
来型のEMSの枠組みをさらに発展させたも
活用していくことが重要なのだ」
輪島藤夫氏は、KM導入の目的をこう言い
のだ。ITの領域で長年培ってきた同社のノ
ちなみに、PFUは現在、
「知識創造企業」
切る。
ウハウ/技術力を土台にし、顧客の要求仕
への転換を全社ビジョンとして掲げており、
PFUは、ユーザック電子工業とパナファコ
様(つまり、顧 客 仕 様 )に基 づく製 品の企
「スペシャリティ」
「シナジー」
「スピード」という3
ムの合併により1987年に創設された(正確
画/設計/開発のコンサルティングから、実
つの「S」を柱に企業革新を進めている。こ
には、現社名の下で新たなスタートを切った)
際の開発、設計、評価、出荷、保守、さらに
の全社ビジョン、つまり
「自社の技術力/ノウ
企業だ。各種ITソリューションの提供やコン
は修理に至るまで、実に広範なサービスを提
ハウ(スペシャリティ)を、各人の連携・協力
ピュータ関連機器の研究開発・設計・製造な
供している。これにより、顧客は自社の製品
(シナジー)によって高め、ビジネスのスピード
どを幅広く手がけるほか、2001年には、電子
を短期間で市場に投入することが可能にな
を上げていく」というビジョンを体現するのが
機器の設計・開発の受託ビジネスにも参入
るという。
ProDeSのコンセプトである。そして、KMは、
ProDeSのコンセプト、ひいては、PFUの全社
ビジョンを具現化する重要なソリューションと
CASE STUDY OVERVIEW
して位置づけられている。
KM導入の目的
■経営ビジョン「知識創造企業」の具現化
スムーズにKMをスタートさせる
■製品企画、設計、開発スピードのさらなる向上
■顧客ニーズへの対応力と顧客満足度のさらなる向上
■企業文化としてのKMの定着と、組織横断型のナレッジコミュニティによる新たな事業展開
KM導入の効果
■組織横断型のナレッジコミュニティでの多様な知識、ノウハウの共有を通じたサービス品質
向上
以上のような背景の下、PFUは2002年4
月、専任者2名から成るKM推進室を立ち上
げ、KMの本格導入に向けた調査・検討を
始動させた。
その結果、KM導入の最初のターゲットで
■個人の知識、ノウハウのデータベース化による貢献度の可視化
あるプロダクト本部(人員約700人)では、部
■開発プロジェクト・メンバーの柔軟な構成を通じた問題解決のスピードアップ
署単位ではある程度の情報共有が実現さ
れてはいるものの、部門横断的な情報共有
KM対象ユーザー数
■約700人(プロダクト本部/今後は他事業部、海外関連会社への展開も計画)
25
REALCOM
は行われていないことが判明した。
こうした課題を解決するために、PFUは
KMの構想を練り上げ、採用するシステムの
要望や不満、さらにその対応策(アクション)
要件を定義した。その中で同社が特に重視
や対応結果などが投稿され、共有される。そ
したのは、従来からある情報共有の仕組み
の最終目的は、もちろん、個々の担当者の
を生かせることと、PFU独自の要件に合わ
顧客対応力やサービス品質の向上にある。
せたカスタマイズが可能なことだ。つまり、同
PFUは、こうした「知空間」の利用率、効
社は、KMのフレームワークを従来システムの
果を高めるために、さまざまな運用上の工夫
拡張機能として導入することで、同フレーム
を凝らしている。
ワークに対する現場の抵抗感を最小化した
例えば、KnowledgeMarketは、コミュニ
ティに投稿された情報によって他者が節約で
いと考えたのだ。
この要件に従ってKM製品の調査・検討
きた時間(「助かり時間」)などを記録・集計
を進めたすえに選定されたのが、リアルコム
する機能を備えている。PFUは、そうした機
の「KnowledgeMarket」だ。2002年12月
能を用いて、KMを通じた知的貢献度の高
には、同製品を利用したKMのシステムが
い個人・部門を表彰する制度を敷いている
「知空間」と命名され、始動したのである。
のだ。この制度は、各コミュニティの活性化に
つながったという。
知的貢献への評価
PFU 専務取締役
輪島藤夫氏
また同社は、若手中心のメンバーで構成
された開発プロジェクトに、部外のベテラン
「知空間」では、部門単位のナレッジコミュ
技術者40人を“助っ人”として指名し、
(KM
行中であり、延べ1,400人が登録メンバーと
ニティのほかに、プロダクト本部共通の「プロ
のインフラを通じてバーチャルに)参加させた
して参加している。また、
「知空間」では、部
本共通の広場」、
「技術の広場」、
「顧客に
こともある。これにより、正式なメンバーだけ
門単位のコミュニティよりも、むしろ、部門横
聞く広場」などの部門横断のコミュニティが
であれば2∼3週間はかかったであろう問題
断型コミュニティの利用率のほうが高くなって
築かれている。
解決がわずか1日で行われたという成功例も
きている。これは、同社におけるKM導入の
出てきている。
大きな目的の1つ、すなわち、部門間での知
このうち、
「プロ本共通の広場」は、本部
全体に共通する情報を扱うコミュニティであ
り、対する「技術の広場」は、より専門性の
識、ノウハウの共有・活用が達成されつつあ
海外へのKM展開も視野に
PFUは現在、海外の関係会社との間で、
高い技術的な知識をやり取りするコミュニテ
ィだ。
また、
「 顧客に聞く広場」は「顧客の声、
ることを意味するものだ。
現在、
「知空間」には約800件のコンテン
「知空間」によるナレッジ共有を図ることも計
ニーズを最重視する」というPFUの企業理
ツが蓄積され、それらによる社員の「助かり
画している。そうしたKnowledgeMarket活
念に基づくコミュニティとして開設されたもの
時間」の合計は1,700時間に達している。ま
用のこれからについて輪島氏は、
「今後は、
であり、ここでは担当者が顧客から収集した
た、システム上では120件のプロジェクトが進
KMを企業文化として定着させ、個々人、各
グループが自律的にナレッジコミュニティを構
成し、それを起点にした知識創造、事業展
図:「知空間」の活用展開計画
開が図れるところまで持っていきたい」との意
競争力の源となる個人や組織を活性化
自律型コミュニテイの形成
自ら成長する強い個人、組織の実現
●ベースライン人材の育成
●エキスパート人材の育成
●プロフェッショナル人材の育成
欲を示している。
ステージ3(2004年10月∼)
新しいコミュニテイによる事業展開
■
USER'S PROFILE
会 社 名:株式会社PFU
ステージ2(2003年10月∼)
「強い個人と学習する企業風土」づくり
資 本 金:49億8,000万円
従業員数:2,299名(2003年3月現在)
事業内容:●各種ITソリューションの提供(ハードウェア、
ステージ1(2002年12月∼)
開発効率化とスピードアップ
ソフトウェア、サービス)●ProDeS(開発製造
サービス)の提供●サーバ・システム/ディスク
アレイ/周辺/応用機器、および関連ソフトウ
組織を超えた知識交換の推進と定着
「知空間」の活用と利用定着
●Q&Aやプロジェクト機能を利用し、実業務にすぐに役立つ
生きた知識の表出化と活用
●「人」を介したナレッジの交換(思い、気づき、学びの共有)による
人脈拡大と個人の成長
●各部門に分散しているナレッジDBの統合検索を可能にさせ、
既存知識の再利用を推進
ェアの研究開発・製造
事 業 所:本社、東京本社、東京開発センター、営業拠点
(本社営業部を含め全国9拠点)、サービス拠
点(120拠点の全国サービス網)
売 上 高:898億円(2002年度実績)
U R L:http://www.pfu.fujitsu.com/
REALCOM
26
CASE FILE
tion)」が日米欧で合意されたのに伴い、臨
PFIZER JAPAN INC.
床試験の実施基準「GCP(Good Clinical
新薬導入のリードタイム短縮を
ナレッジコミュニティで実現
Practice)」が1997年に改定され、翌年から
施行されている。この改正で、製薬各社はよ
り厳格化されたGCPガイドラインへの対応を
迫られることになったのである。
「そもそもJ-clinは、そうした変化の中で、
ファイザー株式会社
質の高い臨床治験を実施し、数多くの新薬
大手製薬会社、ファイザー株式会社(以下、ファイザー)は現在、新薬導入のリードタイムの短縮を目
候補を適切、かつタイムリーに市場に導入す
指し、臨床開発プロセスのさらなるスピードアップと生産性の向上を図っている。ファイザーにおいて、
ることを目的に設立された。ただし、われわ
製薬各社に共通するこの課題解決の責務を一手に担っているのが、新薬臨床開発部門「J-clin」だ。
れは、こうした業務の質・スピードの向上と拡
J-clinでは今、臨床開発の合理化を実現するソリューションとして、リアルコムの「 Knowledge
大する組織を1つにまとめるという、ともすれ
Market」をフルに活用している。
ば相反しかねない2つの課題を同時に抱え
ることになった。となれば、その双方を解決し
うる仕組みを組織の中に持たなければなら
相反する2つの課題の
同時解決を目指して
ファイザーのJ-clin(新薬臨床開発部門)
は国内だけでも約6,000人に達し、J-clinの
ない。つまり、J-clinの全スタッフが可能な限
陣容も以前の3倍の約420人体制へと拡大
り短時間に多くの情報やノウハウを共有し、
した。
知識の習得とトレーニングができ、かつ、互い
「こうした組織の急拡大によって、われわ
に円滑なコミュニケーションを取ることができ
が、ナレッジマネジメント(以下、KM)の実践
れは、いかにして組織を1つにまとめ上げる
る仕組みを作らなければならなかったのだ」
に乗り出した背景には、2つの大きな要因が
かという課題を抱えることになった」と、ファイ
と、島谷氏は語る。
ある。1つは、ファイザーがここ数年、他社との
ザーの常務取締役であり、臨床開発部門統
合併/統合を推し進め、組織と事業の急成
括担当の島谷克義氏は言う。
フランクで日常的な
知識習得/共有の場を作る
長を成し遂げてきたことだ。同社は2000年6
もう1つの要因は、新薬開発を巡る環境の
月、ワーナー・ランバート社と合併し、2003年
変化だ。ここ数年来、人々の健康に対する
4月にはファルマシア社との統合を果たした。
意識の高まりとともに、医薬品に対する考え
こうした課題を解決すべく、J-clinが導入
これにより同社は、
( 医薬品事業だけでも)
方が変わってきた。加えて、医薬品の臨床試
を決めたのがリアルコムの「 K n o w l e d g e
きわめて幅広い疾患領域をカバーする巨大
験についても、国際的な基準「ICH(Inter
Market」であり、KnowledgeMarketを基
製薬メーカーとなった。それに伴い、社員数
national Conference on Harmonisa
盤とするナレッジコミュニティである。
ナレッジコミュニティを用いて同社がまず目
指したのは、新薬臨床開発における成功/
CASE STUDY OVERVIEW
失敗事例をスタッフ間で共有し、再活用する
KM導入の目的
プロセスの改善だ。当然のことながら、この
■臨床開発のスピード、生産性の向上
種のナレッジを各新薬の臨床開発プロジェク
■臨床開発プロセスにおける成功例/失敗例の共有化
ト間で共有しなければ、個々のプロジェクト
■経験者個人の暗黙知の抽出と、開発部員全員での共有化
がそれぞれ同じ落とし穴にはまってしまい、
■新薬承認までの時間の短縮と、リワーク(手戻り)の排除
同じ失敗を繰り返すという非効率が生じる。
■臨床開発の質の向上と、コア・バリューの実践
KM導入の効果
■必要とされるナレッジや最先端の情報をリアルタイムに交換し、作業効率化を実現
■新薬開発のベスト・プラクティスを組織内でオープンに共有することでプロジェクト・マネジメ
ントの質を向上
■テーマ別コミュニティを通じた情報交換の活性化を通じた、各スタッフのスキルアップ
その解消のためにJ-clinはこれまでも、各プ
ロジェクトのメンバーが参加する「Lessons
Learned」
というミーティングを定期的に催し、
ノウハウ(ナレッジ)の共有・資産化を図って
きた。つまり、そこで互いのノウハウや意見を
交換させ、それによって収集した情報をドキ
ュメント化してきたわけだ。だが、実務が佳境
27
KM対象ユーザー数
に突入したプロジェクトのメンバーは時間的
■約420名(臨床開発部門であるJ-clinの全スタッフ)
な余裕がなくなるため、
「治験届出後や申請
REALCOM
情報共有が活発化する
コミュニティをデザイン
後などの区切りのよい時期に会議を催すの
が精一杯」という状態であったという。
「そこで、Lessons Learnedで行われてき
たやり取りを、より日常的でフランクなかたち
上記目標の達成に向け、J-clinが部門内
に落とし込み、個々の開発プロジェクトを担
の全スタッフを対象にしたKMの運用を開始
当するすべての人員が学んだ最先端のナレ
したのは2002年10月のことだ。
ッジをリアルタイムに交換したり、吸収したりで
しかし、スタート後に予想外の展開に見
きるようにしたいと考えた」と、J-clinでKMの
舞われたという。それは、全スタッフが参加す
推進役を務める宮脇敏子氏( 開発事業統
るナレッジコミュニティ
(J-clinコミュニティ)で
括部 プロセス・マネジメント担当部長)は話
は、
「 部員全員に見られている」という意識
す。さらに同氏は、こうも続ける。
があるせいか、情報の投稿者が自身の文章
「J-clinの各部署内には、それぞれの領域
の推こうに必要以上の神経を使い多大な時
の熟練者がおり、初心者も熟練者に聞けば
間を費やしたり、質問そのものが出にくくなっ
適切な回答を得ることができる。ただし、熟
たりしたことだ。それでもいったん質問が投
練者にすれば、実際に質問を受けるまで初
稿されると、それに対する回答が寄せられる
心者が何に困っているのかがわからない。
スピードは速く、場合によっては、質問の投稿
KM導入の背後には、こうしたスタッフの知識
後わずか数分で回答が書き込まれるケースも
習得を巡る問題を解決するというねらいもあ
あるという。
前出の島谷氏は、こうした状況を踏まえな
そこで、J-clinは、部門内の全メンバーを
り、これらを実現する方法としてKnowledge
MarketのQ&A機能を活用した」
対象としたコミュニティから、より小規模なコミ
なお、同氏によれば、J-clinにおけるKMの
ファイザー 臨床開発部門統括担当常務取締役
島谷克義氏
ュニティへと分化する施策を展開した。
がら、KMに対する評価と今後の方向性を
以下のように総括する。
「今のところ、KnowledgeMarketによる
導入では、前述した新薬臨床開発プロセス
具体的には、薬事部のコミュニティや、治
情報共有のシステムは非常に有効に活用さ
での成功例/失敗例の共有のほかに、
「経
験データの品質保証にかかわるメンバーの
れていると言ってよい。これからの課題は、こ
験者の暗黙知の抽出と開発部員全員での
みで構成されたコミュニティなどを立ち上げて
のシステムをどこまで広げられるかという点
共有」、
「新薬承認までの時間の短縮」、
「新
いったのだ。
だ。その意味でも、効果的なコミュニティの切
薬 承 認までのリワーク( 手 戻り)の排 除 」、
テーマと参加者を絞ることでより投稿しや
「臨床開発の質の向上」、
「コア・バリュー(フ
すい状況を作ろうとするこの施策は大きな成
ァイザーが提唱する企業としての行動規範)
功を収め、コミュニティでの活発な発言が行
の実践」といった目標が設定されたという。
われるようになったという。
り分けや運用の方法について日々検討し、
改善していきたい」
J-clinは現在、KnowledgeMarketによる
ナレッジコミュニティを海外の臨床開発部門
にも広げる構想を練っている。これは、米国
企業のファイザーにおいて、日本発の新しい
図:ファイザー J-clinにおけるナレッジコミュニティのイメージ
①J-clinコミュニティ
プロジェクト・
マネジメント
開発
企画
●新薬Aプロジェクト・メンバーが参加
●チーム全体の回覧物、会議議事録などの
共有
●意見募集や病院ごとの成功例、
ドクターの
意見などの情報を共有
●J-clinの部門全員が参加
●主に臨床プロセスにおける
ゼネラルな話題やQ&Aがメイン
開発
オペレーション
開発薬事
開発
管理
人事
IT
仕組みがグローバルに展開されうる稀少な
例であるという。
新薬導入のリードタイムの短縮という究極
の目標に向けて、J-clinによるKMの取り組
みは、進化と拡大を続けている。
■
③新薬Aプロジェクト・コミュニティ
USER'S PROFILE
●各薬剤での
知識・経験を共有
会 社 名:ファイザー株式会社
(米国ファイザー社の日本法人)
資 本 金:648億円
従業員数:6,024名
事業内容:医療用医薬品、
一般用医薬品、
動物用医薬品、
⑤モニター・サポート・
コミュニティ
④治験関連資料品質管理
グループ・コミュニティ
②薬事部
コミュニティ
●モニターが困っている
問題を解決
●薬事部のメンバー全員が参加
●各薬剤での知識・経験を共有
農薬の製造/販売/輸出入
事 業 所:本社、工場・研究施設など4拠点、研修所(3拠
点)
売 上 高:3,081億1,600万円(2003年度実績)
U R L:http://www.pfizer.co.jp/
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