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英国レールトラック社破綻にみる― 民間化組織のガバナンス問題(2)

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英国レールトラック社破綻にみる― 民間化組織のガバナンス問題(2)
前回に見たように、2000 年 10 月 17 日にハットフ
1.レールトラック社の財務状況
ィールド郊外で脱線事故が発生、事故原因はレー
以下では、公開されている財務諸表等をもとに
ル管理の不備に起因すると認められたことから、
レールトラック社の資産管理について財務面から
レールトラック社には TOC・FOC に対して契約
分析を加える。なお、ここで「資産」とは、同社
上の義務違反に伴う補償金の支払い義務が生じた。
が鉄道インフラを保有・管理していることから、
同社の会計上、補償金の支出は旅客フランチャイ
線路や駅舎等の有形固定資産を意味する。
ズ収入(営業収入の一項目)の減少という形で処
理されている。同社の営業収入について見てみる
(1)損益計算書
と、その内訳は表2のとおりである。
まず、2000 年度におけるレールトラック社の経
この表から二つのことが分かる。第一に、2000
営状況を概観する。損益計算書(表1)によると、
年度の収入は期末修正前の予想段階でもすでに前
予想段階での損益は営業・経常・税引後の各段階
年度を下回っていたことである。これは、レール
とも黒字であったが、期末修正によって各段階と
トラック社がその事実を決算よりも前の時点で把
も赤字決算となっている。期末修正後の最終赤字
握し得る状況にあったことを示している。第二に、
は 452 百万ポンドであり、これには列車運行会社
事故補償金の支払いは同社の収支に大きな影響を
(TOC)・貨物運行会社(FOC)に対して支払わ
与えたことである。事故補償金の 566 百万ポンド
れる補償金が 586 百万ポンド増加したことが大き
は旅客フランチャイズ収入の 27%に相当し、営業
く影響している。補償金額が増加した原因は何か。
収入全体でも 23%を占める。
(表1)レールトラック社損益計算書(要旨、2000
(表1)レールトラック社損益計算書(要旨、2000 年度)
年度)
科
金
目
修 正 前
修 正 分
額
(単位:百万ポンド)
修 正 後
前 年 度
営業収益
2,468
(586)
1,882
2,544
営業費用
(2,200)
(144)
(2,344)
(2,179)
(730)
(462)
365
営業利益
268
営業外収益(財産売却益)
営業外費用(借入金利)
税引前経常利益
20
-
20
57
(105)
-
(105)
(76)
183
(730)
(547)
346
59
174
233
(60)
242
(556)
(314)
286
株式配当
(138)
(479)
当期最終損益
(452)
(193)
租税還付
税引後経常利益
出典:HMRI ホームページ資料等による
「PHP 政策研究レポート」(Vol.6
3
No.69)2003 年 3 月
(表2)レールトラック社 2000 年度営業収入
科
目
金
修 正 前
額
修 正 分
(単位:百万ポンド)
修 正 後
前 年 度
2,089
(566)
1,523
2,175
貨物収入
162
(20)
142
158
不動産賃貸収入
146
-
146
135
その他収入
55
-
商業開発向け不動産売却収入
16
旅客フランチャイズ収入
合
計
2,468
(586)
55
59
16
17
1,882
2,544
出典:HMRI ホームページ資料より作成(http://www.rse.gov.uk/railway/rihome.htm)
(表3)レールトラック社貸借対照表(要旨、2000
(表3)レールトラック社貸借対照表(要旨、2000 年度)
(単位:百万ポンド)
資 産 の 部
科 目
負 債 の 部
金
固定資産
有形固定資産
額
科
目
金
額
7,984 貸方勘定(期限一年以内)
2,801
7,984
2,260
流動資産
うち、純流動負債
541 貸方勘定(同一年超)
株式、債券
転換社債
40
借方勘定(期限一年以内)
392
その他貸方勘定
404
借方勘定(同一年超)
46 負債性引当金
投資
51
3,163
2,771
311
負 債 合 計
6,275
資 本 の 部
払込請求株主資本
再評価積立金
61
その他積立金
1,211
損益勘定
資 産 合 計
8,525
160
818
資 本 合 計
2,250
負 債 ・ 資 本 合 計
8,525
出典:HMRI ホームページ資料等より作成
(2)貸借対照表
ラ資産を保有する企業であることから、総資産に
次に、2000 年度のレールトラック社の財政状態
占める固定資産の割合は 93.7%と高い。有形固定
を概観する。貸借対照表(表3)によると、資産
資産は減価償却累計額を控除した価額で記載され
の部は 8,525 百万ポンド、負債の部は 6,275 百万
ており、累計額は注記されている。
ポンド、資本の部は 2,250 百万ポンドとなってい
負債の部ではレールトラック社の資金調達方法
る。資産の部では、同社が駅舎や軌道等のインフ
を知ることができる。期限一年以内の短期債務は
「PHP 政策研究レポート」(Vol.6
4
No.69)2003 年 3 月
2,801 百万ポンドあり、銀行借入・当座借越やコマ
減価償却がどのように行われていたかの検証が必
ーシャルペーパー残高がその 39.8%を占める。期
要となる。この作業を行う理由は、資産価値を会
限一年超の長期債務は、転換社債(利率 3.5%、支
計面から把握することにあるが、減価償却費の内
払期限 2009 年)が計 392 百万ポンド、銀行借入
部留保的性格を考慮すると、同社が費用の名目で
(金利 5.57∼6.42%、支払期限 2007∼2015 年)
企業内部に蓄積した資金を明確にすることに、よ
が計 1,050 百万ポンド、ユーロボンド(ユーロ建
り意義があると思われる。仮に、内部留保に相当
て社債、金利 5.875∼9.125%、期限 2006∼2028
あるいは近い金額がレールの補修等に充てられて
年)が計 1,122 百万ポンドある。負債全体に占め
いたならば、ハットフィールド郊外での事故など
る銀行借入の割合(=間接金融の割合)は 16.7%、
は起きなかったと言えるだろう。しかし、同社の
同じく社債(転換社債とユーロボンド)の占める
資産管理の不備に起因する事故が発生した事実を
割合(=直接金融の割合)は 16.3%となっており、
踏まえると、資産の保守・更新に実際には減価償
レールトラック社の資金調達手法では直接金融と
却費による内部留保額よりも少ない金額しか充て
間接金融のバランスがとれている。
られていなかった可能性が指摘できる。
最後に資本の部であるが、レールトラック社は
2000 年度に 160 百万ポンドの増資を行っている。
同社は増資分の他に 500 百万ポンドの資本金を有
2.減価償却の態様
している。なお、同社の資本の部は半分以上が積
立金によるものである。
ハットフィールド郊外における脱線事故の原因
は、レールの金属疲労から生じた破損であり、レ
以上のように、特別損失とも言える支出の増加
によって単年度損益が赤字になったことを除けば、
ールトラック社による資産管理の不備に起因する。
レールトラック社の財務状況は比較的良好であっ
同社には資産状況を記録した書類が存在しないと
たと評価することができる。そこで問題となるの
の指摘が以前からなされていたが、その指摘を踏
は、財務状況も一見良好と判断され、過去の利益
まえ、以下では同社の資産管理について財務会計
を積立金として蓄積してきた企業が、なぜ経営破
の観点から考察を加えていく。
綻という事態を迎えるに至ったのかである。レー
(1)主要有形固定資産の耐用年数
ルトラック社の経営破綻は、英国政府による財政
支援の停止と管財人の派遣要請がその直接の引き
レールトラック社が保有・管理する主要有形固
金となっている。同社の経営が苦しくなったのは、
定資産の耐用年数は表4のとおりである。
鉄道インフラの保守・更新作業の不備によって列
ここに掲げられている資産はレールトラック社
車事故が多発し、TOC 等に対する事故補償金の支
が保有・管理している資産の中でも主要なもので
払いによって損失が拡大したことによる。
ある。これら主要資産は表中の期間にまたがって
会計面では、レールや駅舎等の有形固定資産に
減価償却が行われる。しかし、この表には軌道や
ついては減価償却を行うことで資産価値を正しく
レール(track・rail)という項目が見当たらない。
把握し、次の更新投資に備えることがルールとな
もちろん、軌道・レールは別の基準で減価償却が
っている。そこで、レールトラック社において、
行われる可能性もあるが、この表からその所在を
「PHP 政策研究レポート」(Vol.6
5
No.69)2003 年 3 月
判断することは難しい。
の部に記載されている。レールトラック社の会計
減価償却費については、損益計算書の営業費用
報告書から抜粋したものを表5に示す。
(表4)主要有形固定資産の耐用年数
・Other land and buildings(その他〔=投資関係以外〕土地建物)・・・・・
50 年
・Signalling systems(信号設備)
Mechanical(機械)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
50 年
Power box(パワーボックス)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
35 年
Integrated electronic control centres(統合電気制御センター)・・・・
15 年
・Electrification(電化関係)
Overhead line equipment(電化済架線関係設備)・・・・・・・・・・・・
40 年
Third rail equipment(第三レール関係設備)・・・・・・・・・・・・・
50 年
・Telecommunications(通信設備)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5-20 年
・Plant and machinery(機械装置)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3-20 年
・Information systems - software and hardware(情報システム)・・・・・
3- 5 年
出典:SRA 資料による
(表5)レールトラック社 2000 年度営業費用
(単位:百万ポンド)
Operating Costs(営業費用)
・Other operating income(その他営業収入)
(73)
・Staff costs(人件費)
360
(172)
・Own work capitalised(自己資本化)
(11)
・Capital grants amortised(資本補助償却)
・Other external charges(その他外部費用)
-Normal activities(通常活動)
1,376
(70)
-Exceptional item(通常外、期末修正事項)
1,306
・Depreciation and other amounts(有形固定資産
Written off tangible fixed assets
減価償却)
-Normal activities(通常活動)
720
-Exceptional item(通常外、期末修正事項)
214
934
合
2,344
計
出典:SRA 資料による
表5から、レールトラック社が 2000 年度に計上
高い(93.7%)ことに起因するものではない。な
した減価償却費は 934 百万ポンドであり、営業費
ぜならば、減価償却費は現金支出を伴わない支出
用 全 体 の 39.8 % を 占 め て い る こ と が 分 か る 。
であり、支出額相当分が企業内部に留保されるた
39.8%という数値は一見高いように思われるが、
め、内部留保資金の使途がどうなっているかの検
必ずしも同社の総資産に占める固定資産の割合が
討が必要だからである。
「PHP 政策研究レポート」(Vol.6
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No.69)2003 年 3 月
グ(GCC)対策の追加見積もりが 30 百万ポンド
期末修正事項として計上された減価償却費が通
常活動での額のほぼ3割に上るが、これには 2000
となっている。
年 10 月にハットフィールド郊外で起きた脱線事
レールトラック社の貸借対照表上では、有形固
故が影響していることは言うまでもない。修正事
定資産は減価償却累計額を控除した価額で記載さ
項 214 百万ポンドの内訳は、98 年度に策定した資
れている。それでは、控除前の価額と減価償却費・
産維持計画の修正増加分が 157 百万ポンド(これ
同累計額はいかなる関係にあるか。この点を以下
は西海岸本線にあてられる)、緊急レール交換費
で検討する。
用が 27 百万ポンド、ゲージコーナー・クラッキン
(表6)有形固定資産の取得価額・減価償却累計額・純帳簿価額
(単位:百万ポンド)
取得価額
当年追加分
投資財産
減価償却累計額
期末残高
当年追加分
純帳簿価額
期末残高
期末残高
-
74
-
-
74
27
357
8
73
284
1,205
9,171
764
5,219
3,952
信号設備
543
2,485
75
537
1,948
電化設備
183
1,096
19
264
832
通信設備
67
539
16
228
311
機械装置
219
744
52
161
583
2,244
14,466
934
6,482
7,984
その他土地建物
軌道、路線構造物、駅舎
合
計
出典:SRA 資料による
表6は、レールトラック社が保有する有形固定
同社は鉄道インフラを保有する主体であることが
資産の取得価額・減価償却累計額・純帳簿価額を
財務面からも裏付けられる。注目すべきは、同社
まとめたものである。減価償却累計額を見ると、
が同年度末の段階でその保有する有形固定資産に
その中で最大の割合を占めるのが「軌道、路線構
つき、取得価額の約 45%相当分の価値を(会計上)
造物、駅舎」であり、その額は 2000 年度末で 5,219
喪失している点である。
レールトラック社は 1996 年 5 月 20 日にロンド
百万ポンド、累計額合計(6,482 百万ポンド)に占
ン証券取引所に上場した。同社は 94 年に英国国鉄
める割合は 80.5%となっている。
レールトラック社の 2000 年度の貸借対照表に
の一部門として設立され、上場までは政府が株式
計上された有形固定資産は 7,984 百万ポンドであ
を保有する特殊会社の形態をとっていたが、上場
るが、これは減価償却累計額を控除した数字であ
以前の段階で 15 億ポンド弱の負債を抱えていた。
る。同年度末における減価償却累計額は 6,482 百
同社に資金を貸し付けていたナショナル・ロー
万ポンドであり、これは取得価額(14,466 百万ポ
ン・ファンド(公的部門向けの貸付機関)は民間
ンド)の 44.8%にあたる。これらの事実により、
企業に対して資金供給を行うことができないため、
「PHP 政策研究レポート」(Vol.6
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No.69)2003 年 3 月
政府は 869 百万ポンドの負債を取り除き、586 百
却費がインフラの維持・更新に正しく充てられて
万ポンドの負債を新たに設定した。
いたならば、ハットフィールド郊外で起きたよう
上場時におけるレールトラック社の総資産は
な事故は起こらなかったと考えられる。しかし、
内訳は負債が 586 百万ポンド、
2,490 百万ポンド、
現実に同社の資産管理の不備に起因する事故が発
株主資本が 1,904 百万ポンドであった。株価は 390
生した以上、資産の維持・更新には減価償却費に
ペンス(=3.9 ポンド)の値をつけた。上場時のデ
よる内部留保額よりも少ない金額しか充てられて
ータによると、レールトラック社は 2,000 百万ポ
いなかったのではないかとの疑問が生じる。
ンド程度の資産(有形固定資産)を保有していた。
同社の損益計算書では、2000 年度には税引後の
2000 年度では 2,244 百万ポンドの有形固定資産が
経常利益が 314 百万ポンドの赤字となっている。
新規計上され、同年度現在、同社は償却後の実質
これに 138 百万ポンドの株式配当を加えて、最終
価値にして 8,000 百万ポンドの有形固定資産を保
的な損失額は 452 百万ポンドに拡大している。そ
有している。これらの事実を勘案すると、同社は
れでは、株式配当の原資はどうなっているのか。
年平均 2,000 百万ポンドのペースで実質的な有形
貸借対照表に眼を移すと、2001 年度の当期損失
固定資産を増加させてきたことになる。上場時の
452 百万ポンドを資本の部で調整している。レー
水準と比較しても、同社の資産残高は確実に増加
ルトラック社は自己資本を取り崩して損失を処理
している。にもかかわらず列車事故が多発してい
し、併せて株式配当を行ったということができる。
たことは、何を意味するのだろうか。
同社は 2000 年度に 160 百万ポンドの増資を行っ
たが、結局は増資分も損失処理や配当の元手とな
(2)減価償却費の計上と実際の資産管理
ったと言えるだろう(表7、表8参照)。
レールトラック社が財務諸表に計上した減価償
(表7)資本の部詳細
(単位:百万ポンド)
準備金再評価
その他準備金
損益勘定
合 計
以前迄報告分
65
1,211
前期調整分
23
-
小計
88
1,211
再評価
5
-
-
5
投資財産売却税
-
-
(3)
(3)
(32)
-
28
(4)
-
-
(452)
61
1,211
実現収益譲渡
累積損失
期末値
1,708
(463)
1,245
818
出典:SRA & ORR 資料による
「PHP 政策研究レポート」(Vol.6
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No.69)2003 年 3 月
2,984
(440)
2,544
(452)
2,090
(表8)株主資本増減の再調整
(単位:百万ポンド)
当期損失
(314)
株式配当
(138)
小計
(452)
投資財産再評価
5
増資分
160
投資財産売却税
(3)
同実現収益法人税
(4)
株主資本減少分
(294)
期首値
2,544
期末値
2,250
出典:DETR 資料による
レールトラック社では、損失処理や株式配当に
配当にどのような資金が充てられたかについては
引当勘定である減価償却費の自己金融機能が利用
検討の余地がある。候補としては借入金等の外部
されていたと推測される。キャッシュフローベー
調達資金と、内部留保等によって賄う自己金融資
スで考えると、減価償却費相当分の現金預金等を
金の二つが考えられる。前者については、本年度
一旦企業内部に留保し、留保した資金を元手にし
にどれほど外部から資金調達したか会計報告書で
て配当金を支払うことになる。2000 年度において
読み取ることは難しい。レールトラック社では支
損失処理と配当による資本の減少分が約 500 百万
払期限が5年以内の比較的短期の資金調達が多く
ポンド(増資分除く)であるのに対して、減価償
なっているが、この種の資金は運転資金か短期で
却費は 934 百万ポンドと約2倍である。減価償却
終わる日常的なメンテナンス作業等にその大部分
費は固定資産の減価分を更新するための元手とな
が充てられていたとみるのが妥当であろう。それ
るものであるが、これだけの留保資金があれば、
でも、配当に回している可能性を否定できるもの
その本来の使途に充てる分を一時的に差し置いて
ではない。後者については、これも本来ならば資
資本の穴埋めに利用することも可能と思われる。
産の保守・更新作業に充てられるものであるが、
加えて、レールトラック社は、なぜ株式配当を
調達源泉が企業内部にあるため外部からの調達に
重視するのかが問題となる。損益計算書を見れば
比べてコストや時間はかからない。企業が必要と
明らかだが、2000 年度に税引後経常損益が赤字で
考えるものに優先的に割り振ることのできる資金
あるにもかかわらず、同社は配当を行って最終損
である。レールトラック社の配当の原資となる資
失を拡大させた。その前年度には税引後経常利益
金は、この両者から拠出されたものと言えよう。
が黒字であったにもかかわらず、黒字額以上の配
もちろん内部留保資金を配当に回すという点は、
当を行ったために最終損益は赤字となっている。
推論の域を出ない。しかし、事故の発生、財務諸
表の数字など客観的な事象を総合すると、このよ
配当の元手として自己資本を取り崩しているこ
うに考えることも十分可能と思われる。
とは既に述べたが、キャッシュフローのレベルで
「PHP 政策研究レポート」(Vol.6
9
No.69)2003 年 3 月
を有していた。同社は大規模プロジェクトを優先
3.資産管理の評価
して、レール交換等の日常的な作業を後回しにし
これまでの検討を踏まえて、レールトラック社
たのではないか。その結果が、1990 年代後半に毎
の資産管理をめぐる問題点について整理しておく。
年のように発生した列車事故と言えるのではない
第一に、レールトラック社が利益を計上し配当
か。ハットフィールド郊外における事故の原因が
を行っていることである。同社は民間企業である
レールのメンテナンス不備にあったことを踏まえ
が、英国一円の鉄道インフラを保有する立場にあ
れば、第二の点とともに分析する必要がある。
り、独占の弊害を取り除くために鉄道規制官事務
第四に、レールトラック社が株式配当を重視す
所(ORR)の規制下に置かれている。ORR はレー
る理由である。同社は上場している民間企業であ
ルトラック社と列車運行会社(TOC)とのアクセ
り、配当によって株主の利益に寄与することは企
ス契約を認可し、TOC が同社に支払う軌道等使用
業として当然のことである。ただ、損失を拡大さ
料を決定する権限をもつ。表2のとおり、同社の
せてまで配当を行うのは些か度が過ぎている。同
営業収入は8割以上が TOC からの使用料である
社の経営陣がいかなる意図をもってこのような行
ことから、ORR がいかなる考え方に基づいて使用
動を選択したか深く掘り下げる必要がある。
料を決定したか詳しく分析する必要がある。
第二に、軌道・レールに関する減価償却の手法
である。有形固定資産はその耐用年数にわたって
4.レールトラック社のガバナンス
使用し、合理的手法によって償却を行うのが一般
的である。日本では、「資産の取得価額は、資産
こうした財務面での問題等を踏まえながら、レ
の種類に応じた費用配分の原則によって、各事業
ールトラック社のガバナンスについて検証してい
年度に配分しなければならない」という会計学の
くことにする。レールトラック社の経営破綻は、
考え方が減価償却の基になっている。減価償却の
NPM 理論や「官から民へ」の考え方に基づく民間
具体的手法としては定額法や定率法があるが、
化・民営化政策の一つの帰結であり、この政策を
「同種の物品が多数集まって一つの全体を構成し、
推し進めようとする日本にとっても見逃すことの
老朽品の部分的取替を繰り返すことにより全体が
できない事例である。そこで、同社の経営破綻と
維持されるような固定資産」については、取替法
いう事例が広く民間化政策一般に与える影響や教
を採用することが認められている。日本の大手私
訓を抽出し、本稿のまとめとしたい。
鉄や 19 世紀英国の鉄道会社がこの手法を採用し
ており、レールトラック社でも同様の手法を採用
(1)軌道等使用料との関係
していたと考えることができる。
レールトラック社のガバナンス能力は、ハット
第三に、実質資産残高の増加と事故の多発との
フィールド郊外の脱線事故によって浮上した重大
関係である。レールトラック社における資金配分
な問題である。事故調査委員会は調査報告書にお
がその原因と考えられる。2001 年の段階で、同社
いて、事故は同社によるレールの管理不備に起因
には継続中の大規模プロジェクトが複数あり、し
するとしたが、それに加えて「事故が起きる複合
かもそれらは終了までに平均して3年程度の期間
的な要素」を指摘している。レールトラック社は
「PHP 政策研究レポート」(Vol.6
10
No.69)2003 年 3 月
英国全土にまたがる鉄道網のインフラを保有して
ク社の財務を安定させる性格を持つものと見て取
いる点において独占企業であるが、鉄道網に対す
れる。そこに、同社の財務面を安定させ保守・更
る公正なアクセスを確保するため、同社は ORR に
新作業をしっかり行わせることにより、鉄道のイ
よる規制下にある。X‐効率理論によると、独占
ンフラ面を確固たるものにするという意図が窺え
はX‐非効率を生じさせる要因の一つであり、独
る。ただし、このような意図が実践に移されるた
占状態にある同社ではその行動様式を左右する
めには、同社の財務をフローのレベルではもとよ
ORR の規制手法の検証が必要となる。レールトラ
りストックのレベルでも安定させる必要がある。
ック社の財務面におけるガバナンスとの関連では、
なお、ストックについては、第二の点で触れるこ
ORR による軌道等使用料(Access Charge)の設
とにする。
上記のような性格を持った軌道等使用料が設定
定の仕方がその対象となる。
X‐効率理論を用いると、レールトラック社の
されているのであれば、レールトラック社の財務
経営破綻を以下のように整理することができる。
は安定するはずである。しかし、使用料設定の手
すなわち、①レールトラック社はインフラ保有に
続面において注視すべき点がある。第一期の軌道
おいて独占企業 → ②独占はX‐非効率の源泉の
等使用料設定の際には、ORR・レールトラック社・
一要因 → ③インフラの維持更新投資に対する全
TOC・資金提供者(OPRAF 等)の4者によるデ
社的管理体制が希薄化 → ④インフラに起因する
ィスカッションが使用料設定の前提とされていた。
事故の多発と補償金支払の増加 → ⑤結果的に財
さらに、使用料の中にはこれら関係者の交渉等に
務が悪化して経営破綻、という流れである。本稿
よってケースバイケースで決まる部分もあり、使
での検証結果を踏まえると、このような流れを経
用料設定の手続全体が不透明との懸念も存在した。
る理由を大きく二つにまとめることができる。
第一期の使用料設定の際、ORR はレールトラック
第一の点は、レールトラック社の収入である軌
社に対してコストを毎年3%削減するように要請
道等使用料には柔軟性がないということである。
した。また、ORR は 95 年度の使用料を対前年度
同社設立当初から第一期開始までの期間(1994∼
比で8%削減することに加え、レールトラック社
1996 年)の使用料は、運輸省の関与もあって、軌
のコスト削減を促すために 96 年度には使用料を
道使用費用(軌道の短期的な保守・更新作業に充
さらに2%削減することを決定した。
てるもので、列車の種類や走行距離に応じて変化)、
こうした第一期の使用料設定の手続を通して、
電気機関車費用(電化線の保守・更新をカバーす
使用料の持つ性格にも少なからず変化が生じる。
るもので、距離や車輌の種類に応じて変化)、固
使用料には TOC や資金提供者の立場も併せて考
定費用の三つに分けられていた。前二者の可変費
慮されるため、金額は高くなる傾向にある。そし
用が使用料全体に占める割合は 9%であり、残りの
て、使用料を通じてディスカッション参加者の利
91%を固定費用が占めた。この期間における使用
害を一度に満たそうとするため、使用料の持つ性
料は同社の営業費用をカバーするように設定され
格が曖昧になる。なお、英国会計検査院(National
ており、第一期における使用料設定の際もこの考
Audit Office、NAO)による第一期の使用料設定
え方が踏襲された。このことから、軌道等使用料
手続についての指摘がある。それは、第一期の使
は単年度収支(フロー)のレベルでレールトラッ
用料設定の際には、将来における使用料の必要額
「PHP 政策研究レポート」(Vol.6
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について限定的な情報しかなかったということで
ていなかったし、把握できるような資料を提出さ
ある。このため、レールトラック社がなすべき保
せる措置もとっていなかった。また、第一の点で
守・更新について特定の内容を含んだ合意を ORR
述べた同社設立当時における利害調整手法も
はレールトラック社との間で交わしていなかった。
ORR のモニタリング欠如に通じる。そこで、ORR
ORR には同社の活動資金を確保するように配慮
はこれらの点を踏まえて、第二期(2001∼2006
する法的義務があるが、同社に対して投資を命じ
年)の軌道等使用料設定の際には、レールトラッ
る権限はない。よって、レールトラック社が資金
ク社に対して同社の資産状況を記した書類の提出
を確保した後、その使途の決定は同社に委ねられ
をライセンス更新の条件とする決定を下した。
レールトラック社が自社で保有する資産の状況
ることになる。
第二の点は、インフラの状態をレールトラック
を把握できない原因は何か。一つには、同社には
社自身が把握していないということである。同社
技術面の能力が不足していたことである。英国国
は上場・民営化以降、コンサルタントを雇いその
鉄の機能分割・民営化によって同社はインフラの
アドバイスに従いながら業務を遂行するようにな
保守・管理業務に特化したが、国鉄の技術陣は同
った。ORR からのコスト削減要請もあり、コンサ
社には残らなかった。同社は自前で判断できる組
ルタントはコスト削減につながるアドバイスを行
織や人材を確保することができず、外部のコンサ
った。具体的には、コンサルタントはインフラの
ルタントに頼ることとなった。もう一つには、レ
保守・更新作業に関して、年数よりも資産の状況
ールトラック社が設立時から政治的思惑に左右さ
で作業をする「Just in Time」方式を提案し、同
れていたことである。同社の上場は 1996 年 5 月で
社はこれを採用した。会計報告書にレールの減価
あるが、その1年後には英国で総選挙が行われて
償却に関する耐用年数等の記述がない点にも、
いる。民営化政策の実績を選挙に向けてアピール
「Just in Time」方式を採用することで耐用年数
したい保守党の戦略としては、鉄道の中核的な存
分の償却費を記載しなくても良いとの同社の判断
在であるレールトラック社の売却・上場は譲れな
が窺われる。しかし、現職の鉄道規制官も認めて
いものであった。ハットフィールド郊外での事故
いるように、レールトラック社には資産の状況を
により鉄道が長年にわたって投資不足の状態にあ
記した書類がない。「Just in Time」方式は、現
ると判明したことを踏まえると、仮に資産状況を
在の資産状況と最初の時点とを理解している限り
記した書類が存在したならば、そもそも同社を売
において有益であるが、同社はこの前提を欠いて
却すること自体、不可能であったと思われる。
いたことになる。フローレベルの財務が安定して
(2)配当との関係
も、その前提となるストックレベル、すなわち、
過去からの積み重ねである資産状況への理解が不
レールトラック社のガバナンス能力を考える上
十分であれば、同社の財務面を安定させることで
で、同社が配当を重視する点は避けて通れない。
インフラ面の適切さを担保するとの思惑は的外れ
同社は赤字決算にもかかわらず配当を行うことで
に終わる。
損失を拡大させているからである。それでは、レ
ールトラック社が配当を重視する理由は何か。そ
加えて、ORR はレールトラック社の資産状況を
れは利潤追求という属性が他の属性よりも優先さ
モニターしていなかった。ORR は同社を把握でき
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れているためと考えられる。前項で見たように、
えて、レールトラック社が独占的地位に置かれて
同社は ORR による規制によってコスト削減圧力
いることは、これらの問題を解決する手がかりを
を受ける一方、収入である軌道等使用料がほぼ一
奪うことになる。
定の水準で推移する。そして、同社はその保有す
る資産の状況を把握しないまま「Just in Time」
付言すると、民営化後の鉄道産業は取引費用が
方式を採用しているため、作業実施へのインセン
高くなる傾向にあった。一例として、TOC は他の
ティブが薄れる。さらに、保守作業は定額制、更
主体と次のような法的契約を結ぶ必要がある。①
新作業は出来高制の下で、それぞれ別の請負業者
旅客鉄道フランチャイズ交付官事務局
に任されている。これでは、保守会社は利益増に
(OPRAF)・戦略的鉄道委員会(SRA)とのフラ
向けて作業量を減らそうとし、更新会社は同様に
ンチャイズ協定、②車輌リース会社(ROSCO)と
作業量を増やそうとするため、X‐非効率が拡大
の車輌リース契約、③レールトラック社との軌道
してしまう。
アクセス契約、④レールトラック社との駅舎リー
問題は、このような下請制度となっている原因
ス契約、⑤他の列車運行会社(TOC)との駅舎リ
であるが、レールトラック社の売却を確実に行い
ース契約、⑥駅舎に関連するレールトラック社と
たいとのメージャー政権の政治的意図が背後にあ
の副次的契約、⑦他の TOC との乗車券販売に関連
ると考えられる。同社に無制限に保守・更新作業
する契約、などである。各企業がそれぞれの立場
を行う義務が課されると、誰も同社を購入しよう
で自己利益を最大化しようとするため、企業あた
とは思わなくなる。つまり、支出額を削減できな
りの利潤が契約で支払われる費用に上乗せされる
い企業は収益を上げない企業と判断されるため、
ことになる。鉄道産業は硬直的高コスト体質とレ
投資対象と見なされなくなるのである。
ールトラック社の独占的状態により、構造的にX
‐非効率が生じる状況となっていたのである。
他方で、レールトラック社は増資や銀行借入と
いう資金調達手段を確保していなければ業務に支
レールトラック社の営業費用をカバーする水準
障をきたす。同社はこれを防ぐために、業績向上
に軌道等使用料を設定することで同社の経営を安
と配当増加によって市場の信任を得ることが必要
定させ、それによってインフラ面でのサービス提
と考えたのであろう。同社はインフラの保守・更
供を確固たるものにする狙いは、同社が保有する
新作業へのインセンティブが薄れていることもあ
インフラ資産の情報不足によって雲散してしまっ
り、それだけ配当のインセンティブが強まったと
た。その結果、同社からはインフラの保守・更新
判断できる。
というインセンティブが失われ、逆に配当という
インセンティブが生じた。インフラを後回しにし
これまで検討してきたところを整理すると、レ
たことで保守・更新作業の不備に起因する事故が
ールトラック社の資産管理面や財務面のガバナン
多発し、同社は経営破綻という結末を迎えた。破
ス能力は不十分であったと言える。英国国鉄を数
綻に至る原因を手短に表現すると、このようなも
十社に分割・民営化することは、鉄道産業全体に
のになる。
おける階層制の増加と専門分業化を同時にもたら
し、X‐非効率と使用人問題を深刻化させる。加
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固定費用は TOC によるインフラへの「アクセス
5.民間化政策の要諦
権」の対価という性格を有していた。そこには運
(1)上下分離方式と公共サービス
行権保有者を重視する姿勢が窺われる一方、鉄道
こうしたレールトラック社の事例を通じて、今
利用者の立場に配慮する姿勢を感じ取ることは困
後の民間化政策の課題を考えてみたい。まず、上
難である。
下分離方式について確認しておく。この方式は、
政府の政策面では、メージャー政権の選挙を意
EU の域内統合を契機として交通市場に競争原理
識した政治的意向による上下分離方式の修正、そ
を導入し、他の交通機関と比較して鉄道を効率
してブレア政権の財政面重視による公的部門への
的・競争的にすることを目的としている。英国国
不適切な関与手法とが、経営破綻に関連している。
鉄の民営化に上下分離方式を持ち込んだデビッ
ある役務提供行為を公共サービスとして捉えるの
ド・スターキー氏の考えは、当初はインフラ所有
であれば、税金を投入してでもそれを維持する政
と列車運行の双方を国営企業の状態で分離するこ
策をとるのが一般的である。民間化政策はその根
とにあった。これらの公企業の経営が安定し、上
底に財政問題が存在しているが、限りある財源の
物会社の業務がコンスタブルとなった後に民間企
配分は極めて政治的な問題であり、国民世論に密
業を参入させ、上物会社と競争させる、というも
接に関連する重要な問題でもある。
のであった。
英国国鉄の民営化手法が氏の考えと結果的に異
(2)統括管理者の存在
なるものとなった理由や経緯は定かではないが、
レールトラック社の経営破綻とそのガバナンス
大切なことは鉄道を公共サービスと位置付けてい
を考える上で見逃すことができない点は、同社を
るかどうかである。スウェーデンの国鉄改革のよ
含む英国の鉄道産業全体を見渡す「統括管理者」
うに、上下分離方式による成功例も存在している。
と呼ぶべき存在がないことである。国鉄時代は、
鉄道を公共サービスとして捉えるのであれば、サ
総裁を組織の長として、その下にインフラ・運行
ービスの受け手である鉄道利用者の立場を考慮す
管理・メンテナンス等の各部門が置かれていたた
ることに加え、公的機関によって然るべき関与が
め、「列車を走らせる」ことは単一組織内部で完
なされる必要がある。
結していた。また、国鉄という単一組織であるた
英国国鉄の民営化において、利用者の立場がど
め、不測事態の際にはトップダウンの迅速な対応
の程度考慮されていたかは不明である。ORR は、
によって、列車運休等による利用者への不利益を
独占企業たるレールトラック社が保有する鉄道網
できるだけ少なくすることが可能であった。民営
への公正なアクセスを確保するため(鉄道法4条
化以前の国鉄は、組織の長である総裁のガバナン
1項d号)、使用料設定にあたって TOC や資金提
スで運営されてきており、総裁が統括管理者の役
供者を交えたディスカッションを行っていた。同
割を担っていた。その反面、国鉄は公的部門の一
時に ORR は、鉄道利用者の利益を守ることも求め
部であるため、政治的圧力に左右されたり、単年
られるが(同項a号)、ORR の利用者に対する配
度主義予算の制約を常に受けたりしていた。
慮を証明することは難しい。軌道等使用料はその
民営化は英国国鉄を公的部門のくびきから開放
90%以上が固定費用という状態が続いていたが、
する一方、統括管理者を廃止して契約関係に依拠
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する鉄道産業を創り出した。これは、公的部門か
ら市場原理にガバナンスの主体が移動したと表現
することができる。しかし、市場原理に基づく以
上、利潤追求が組織の第一義的目的に据え置かれ
るリスクを常に抱え込むことになる。これを防ぐ
には適切なインセンティブを与えることが必要で
あるが、それが不十分・不適切である場合には、
X‐非効率の発生要因となる。英国のように列車
を1本走らせることに数十社の民間企業が関係す
るような場合には、各企業が適切なインセンティ
ブを持つためにも、「鉄道は公共サービスであ
る」という判断基準を持ったガバナンス主体が必
要となる。
6.おわりに
2002 年 3 月に、レールトラック社の後継組織と
して「ネットワーク・レール(Network Rail)社」
が発足し、同年 10 月には管財人によるレールトラ
ック社の財産管理が終了した。レールトラック社
が過大な株式配当を行っていたことに鑑み、ネッ
トワーク・レール社は株式資本を有しない保証制
限会社の形式で設立された。ネットワーク・レー
ル社がレールトラック社と同様の結果に陥ること
を防ぐためにも、「鉄道は公共サービスである」
という意識を鉄道に関連するすべての企業が共有
するとともに、その意識を実効的にするガバナン
ス制度の構築が求められる。
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No.69)2003 年 3 月
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