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読書によって培う子どもの未来 ―児童図書館の力 part 2

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読書によって培う子どもの未来 ―児童図書館の力 part 2
第8分科会 児童サービス
読書によって培う子どもの未来
―児童図書館の力 part 2―
報 告 福井市図書館の児童サービスについて
農中仁美(福井市立桜木図書館)
報 告 浦安市立図書館の児童サービス
大宮祐子(浦安市立中央図書館)
報 告 千葉県立中央図書館の児童サービスについて~研修事業を中心に~
佐々木はるみ(千葉県立中央図書館)
研究討議
事例報告者+コーディネーター:島 弘(元福生市立図書館職員)
分科会概要
報告要旨
福井市図書館の児童サービスについて
子どもは本の中の世界で様々な経験を重ね,想像力を
農中仁美(福井市立桜木図書館)
培い,自らの未来を切り開く力を築くことができます。
児童図書館は子どもと本との出会いを作ることで,子ど
もの成長を助ける力を持っています。
福井市の図書館は,旧福井市内で同一規模の運営をす
その力の源は児童図書館員です。ところが,多くの自
る 3 館と市町村合併によって福井市となった旧町立 2 館
治体で司書職制度が確立していない現状に加え,非常勤
の合計 5 館で成り立っている。合併後の福井市は,海岸
嘱託職員の増加や図書館運営形態の見直しにより,経験
から山林地帯まで面積も広く,地域的条件は著しく違い,
を積んだ児童図書館員が育ちにくくなっています。これ
難しい面もあるが,それぞれの館の立地条件や特徴を活
では,児童図書館は本来の力を発揮できません。
かして,すべての子どもたちに図書館サービスが行き渡
昨年の 100 回大会では,資料を選ぶことを基本にした
るよう計画している。そのためには,どの館にも児童サー
調布市立図書館の活動をはじめとして,児童サービスが
ビスに長けた司書がいることが重要と考えている。
着実に進んできていることを確認しました。今回はさら
に,児童サービスの専門性を確立し,そのノウハウを専
門職集団としてどう継承し,発展させていくのかを,福
報告要旨
井市,浦安市,千葉県の事例から考えます。
浦安市立図書館の児童サービス
(坂部豪:日本図書館協会児童青少年委員会)
大宮祐子(浦安市立中央図書館)
浦安市立図書館では,開館以来多くの利用がある。利
用者の期待に応えるために,職員の専門性向上とすぐれ
た児童書の棚揃えに留意してきた。これらを元に,学校
や園との連携や,職員が講師を務める事業の実施などを
― 1 ―
行ってきた。東日本大震災の被害による予算の削減の時
に,この体制が活きた。基本的なサービスを着実に行う
ための,業務の積み重ねが,どのような時にも有効であ
ると思う。
報告要旨
千葉県立中央図書館の児童サービスについて
~研修事業を中心に~
佐々木はるみ(千葉県立中央図書館)
千葉県立図書館では,市町村図書館等への支援として
研修の運営に力を入れている。児童サービスの研修は,
初任者向けには県立中央図書館主催の「児童サービス基
礎研修会」
,経験者向けには千葉県公共図書館協会が主
催し,
県立職員が事務局を務める「スキルアップ研修会」
がある。県内市町村図書館の児童サービス担当が講師を
務めることにより,自治体を越えて児童サービスの知識
やスキルを継承・共有する場ともなっている。
― 2 ―
り,長時間の開館と月 1 回の休館日で運営しているため,
報 告
福井市で唯一カウンター業務の一部を委託している。同
福井市図書館の児童サービスについて
一ビルの 6 階調理室,工作室,研修室などがあり,市の
農中仁美(福井市立桜木図書館)
施設であるので,図書館が行事を企画した場合利用する
ことができる。1 階から 3 階には民間の店舗が入ってい
1.それぞれの館の特徴と主な児童サービス
る。
複合ビルの特徴を活かして,これまで図書館では考え
「福井市立図書館」1976 年開館
られなかった行事を行っている。
「図書館電車」は地元
5 館の中で最も古く近隣には大学や高校,美術館,博
のローカル線であるえちぜん鉄道との共催企画で,電車
物館などがある文教地区にある。
「越國文庫」という江
の車両を一日図書館にして読み聞かせなどを行い,車庫
戸時代の旧藩校の資料やその他の郷土資料,参考資料を
の見学をするもの。
「おしえて!マイスター」は県の職
多く所蔵している。移動図書館車「あじさい号」があり,
業能力開発協会との共催企画で,和菓子職人や日本料理
図書館から遠方(8 km以上)の地域に巡回している。
の料理人の方に講師として実際に教えてもらい,図書館
「あじさい号」が巡回している地域は,山間部や海岸
員はその場でブックトークや読み聞かせを行い,ブック
沿いなどで,人口が少なく,福井市内でも非常にアクセ
リストを配布する。再開発ビルということもあり,市や
スが悪い場所が多い。商店もほとんど無い状態の地域で
県,企業など様々な機関と共催した企画を行い,図書館
の子どもたちの読書には,学校の図書室と共に「あじさ
の認知度を高めることや,市街地の活性化を目指してい
い号」が重要な役割を果たしている。主な訪問先には運
る。
転手 1 名と司書 1 名で行くが,利用者が多いステーショ
「美山図書館」「清水図書館」2006 年合併
ンの場合にはアルバイトの職員を補充して運行してい
旧美山町,旧清水町それぞれの町立図書館をそのまま
る。本当なら通常の貸出期間である 2 週間に 1 度の運行
合併により福井市図書館とした。規模は小さいものの,
が望ましいが,現在の状況では月に 1 回の訪問となって
地元の学校などと連携して地域の事情に合わせたサービ
いる。
スを目指している。
その他に市内全域の学校からのブックトーク等の訪問
依頼をとりまとめている。学校訪問には各図書館から日
程的に対応できる司書が向かうため,事務処理を担当し
2.福井市図書館の職員と児童サービス
ている。また,学校図書館との連携のため小学校の図書
福井市図書館の司書職員は現在正規職員 20 名再任用
館部会の研修会なども行う。
職員 2 名の合計 22 名である。
「美山図書館」
「清水図書館」
「福井市立みどり図書館」1992 年開館
については再任用司書 1 名ずつと事務職で運営され,そ
福井市南西部の住宅と緑地に囲まれた地域に立ち,広
の他の 3 館についてはそれぞれが 6 ~ 7 名の司書と 6 ~
い建物と駐車場がある。近くに大きな公園があることも
7 名の事務職員で構成され,館の事情に合わせてカウン
あり,家族連れの利用が多く,開館当初から貸出冊数が
ターに委託業者が入っているところと,直営でアルバイ
多い。福井市ではこの館のみAV資料を所蔵している。
トを雇っているところがある。
ブックスタートの事務処理を担当していて,フォロー
児童サービス専任司書の体制ではないが,過去に業務
アップ事業として「わらべうたと絵本を楽しむてんてん
時間中に定期的に研修会を開いていたこともあり,ほと
くらぶ」など乳幼児サービスに重点を置いている。福井
んどの司書が一定の児童サービスの知識を持ち,おはな
市は自家用車の保有台数が多く,子どもを連れての移動
し(ストーリーテリング)も語ることができる。現在は
は自家用車が一般的である。みどり図書館は,駐車場が
その研修の時間がとれないのが非常に残念であるが,そ
広くとられているので,子育て支援的な事業が行いやす
の基礎を元にそれぞれが様々な研修会に参加するなどし
い。
「パパママ講座」など父親も参加しやすい企画や,
ている。県立図書館が主催する研修にも必ず数名参加す
市の保育専門員(公立保育園の園長経験者などで,保育
るようにしている。また,20 名の内 11 名が日本図書館
士の指導的立場にある)の協力で保育相談会も行われて
協会の児童図書館員養成専門講座を受講している。児童
いる。
図書館員養成専門講座を修了した職員を中心として,年
「福井市立桜木図書館」2007 年開館
に数回児童担当者会議を行い,児童サービスの計画を立
福井駅東に隣接する再開発ビルアオッサの 4 階にあ
て,方針を確認し,各館の計画を報告し合う。その上で,
― 3 ―
夏休み,冬休み,春休みの前には合同で「図書館へ行こ
予定を知らされた。昨今の社会情勢や市の財政事情を考
う」というそれぞれの館の行事の案内や本の紹介を載せ
えると厳しいと思うが,引き続き司書の採用を要望して,
たA 3 版両面刷りのリーフレットを作り,市内の全児童
新しい人材を得たならばしっかり研修していき,これか
に学校を通じて配布している。
ら先の福井市の子どもたちへのサービスをやっていきた
選書についてもそれぞれの館にいるそれらの職員が中
い。
心となっている。新刊の購入は見計らい時にできうるか
ぎり読んで選書している。昨年の福井市の児童書の購入
額はおよそ 1500 万円であるが,新刊見計らいで購入し
報 告
ているのは 300 万円程度なので,リスト選書もあるとは
浦安市立図書館の児童サービス
いえ,かなりの予算が基本図書の買い替えや補充に使わ
大宮 祐子(浦安市立中央図書館)
れている。
どの館にも「読みつがれてきた絵本」のコーナーを設
置して,手に取りやすい場所に定番の絵本の複本を多く
今年,平成 27 年 6 月。浦安市立図書館の累計貸出冊
揃えることにしている。このコーナーを設置してからは
数は,中央図書館が開館した昭和 58 年 3 月 1 日以来 5,000
『ぐりとぐら』『三びきのやぎのがらがらどん』
『もこも
万冊を超えた。貸出冊数はサービスの一つの指標に過ぎ
こもこ』など定番のものがベストリーダーとして集計さ
ないが,
「すべて」の子どもたちに読書の楽しみを届け
れるようになってきた。
るためには,図書館をたくさん利用してもらいたいし,
すべての館で定例行事として「えほんとかみしばいの
さらにまだ来館したことのない子どもの利用も喚起した
読み聞かせ会」を毎週,
「みみでたのしむおはなしのせ
い。そのためには,子どもたちに長く読み継がれてきた
かい」(ストーリーテリング)を毎月行っている。市立
本を核として,読書力を育てる本をそろえ,その魅力を
図書館のみ 30 年来継続してボランティアをしていただ
伝えるための働きかけを地道に行っていくことが重要だ
いている方がいて,月 1 回読み聞かせをお願いしている
と考えている。
が,その他はすべて司書職員で行っている。
浦安市立図書館では,0 歳の赤ちゃんとその保護者に
それぞれの館で特徴のある児童行事を行っているがそ
対し,ブックスタート絵本講座を開催することで読書の
れらもすべて自館の司書で行っている。他機関の協力で
働きかけを始め,その後も保育園,幼稚園,認定こども
行われている行事についても必ず司書が一緒に企画し,
園,小学校と連携したアウトリーチサービスをすること
行うことにしている。人員的に厳しい面もあるが,10
により,図書館に来館したことのない子どもへの働きか
年から 20 年以上のキャリアを持つ司書で構成されてい
けを行っている。また,中学校との連携も,職業体験を
ることもあり,順調に運営されている。
契機に近年増加している。開館以来 32 年間,途切れる
ことなく図書館の内外で継続的に働きかけを続けてきた
ことが,浦安の子どもたちに対し「本はおもしろい」
「図
3.福井市の児童サービスの課題
書館の人は本のことを知っている」というメッセージと
現在の司書職員のほとんどが 1990 年代の採用であり,
して,少しでも届いてくれているとしたらうれしく思う。
40 代の職員が多い。20 代の職員は 1 人しかいない。年
齢バランスが悪く,一斉に退職者が出ることは必至であ
る。児童図書館員は経験によって育っていく。もちろん
専門家を育てるための館内研修
個人の努力も必要であるが,毎日の仕事の中で先輩職員
図書館員が,さまざまな働きかけを行うためには,そ
から後輩に継承されていくものも多い。子どもの本の知
れを実行するためのスキルがなければいけない。浦安市
識は常に積み重ねが必要であるし,実際の子どもたちに
立図書館は,中央図書館の開館当初から館内研修制度が
接することによって得る知識やノウハウもある。その地
あり,内容を見直しながら現在に至っている。
域や学校の特徴も知らなければならない。一朝一夕に職
開館当初からあった研修は「ストリーテリング研修」
員は育たない。これらを考えると,早急に司書の採用が
で,現在は,これに「よみきかせ研修」
「ブックトーク
必要である。
研修」
「わらべうた研修」が加わっている。さらに外部
近年,8 年の間に 1 人しか採用がなかったため,危機
の研修も活用しながら職員の養成をはかっている。
感をつのらせていたところ,今年 4 年ぶりに 1 人の採用
新しく児童担当になった職員は「よみきかせ研修」か
― 4 ―
らスタートし,半年~ 1 年後には「ストリーテリング研
修」に移行する。この研修は館内での「えほんのじかん」
危機に直面した時に
「おはなし会」
「フロアワーク」に直結し,館内での実践
忙しい中で研修を行うというのは,困難を伴う。浦安
を経て保育園の 3 歳以上児や幼稚園,小学校へのアウト
でも開館当初は,分館は水曜日を 12 時開館にしており,
リーチサービスの業務につながっている。
この時間を使い全体の打ち合わせや研修を行っていた
児童担当は,子どもの本のことを知らなければならな
が,徐々に開館時間は伸び,この 7 月からは,月曜開館
いが,ブックリストの作成が,子どもの本を知るための
や分館の開館時間延長も始まった。研修時間を確保する
自主研修として機能している。
「4・5 歳児(絵本)」「小
ことは徐々に困難になってきている。また,現在浦安市
学校低学年」
「小学校高学年」
「中学生」を対象としたリ
立図書館の最大の悩みは新しい職員がなかなか採用され
スト作りを毎年,ほぼ 1 年がかりで進め,この過程で相
ず,職員の高齢化が進んでいることで(平成 20 年に 12
当数の本に目を通す。また,浦安市立図書館では,蔵書
年ぶりに 2 名の職員が採用されたが,以降はまた採用な
構成検討委員会という,分野ごとに選書から廃棄までの
し)
,私たちが積み上げたものは,これからどのように
管理を行うグループがあるが,このグループで図書の
継続されるのか,という不安を感じる時もある。
テーマ展示を行っている。これも,一定のテーマに基づ
こうした中で,東日本大震災が発生した。浦安は,液
いて,資料紹介や関連資料目録まで作成しているが,児
状化のため,市内全域で大きな被害を蒙った。とりわけ
童のグループも年に 1 回は取り組んでいる。こうした本
上下水道の被害は深刻で,中央図書館が再開できたのは
の知識の蓄積や,ストリーテリング等の技術の上に,5
4 月 25 日。分館開館は 5 月 1 日だった。復旧復興に予
年目くらいから「ブックトーク研修」を行っている。ま
算を回すため,新規事業費は全額カット。全ての予算が
た,小さい子どもたちへの読書導入に役立つ「わらべう
無条件で 2 割削減。もちろん資料費も削られた。だが,
たの研修」も,並行して行っている。
児童の集会事業のほとんどは,職員が講師を務めていた
ため,中止としたのは 2 事業のみで,中止した事業の代
わりに,これまで少なかった中学生を対象とした事業
「図
講師を招いての研修と外部の研修
書館クラブ」
(職業体験や図書館の利用講座の要素を取
より広い知識を学ぶため,職員研修費を予算計上し,
り入れた高学年~中高生対象事業)
,
「スタンプラリー」
外部講師を招いた研修を実施したことも業務には大きな
を実施した。
プラスとなった。少し変わった例としては,人事課から
資料費の削減は深刻ではあったが,もともと浦安市立
の予算で実施した自主研修(複数の課の職員が,市の業
図書館の児童図書の選書は,核になるロングセラーの図
務に役立つ内容の研修をするための研修補助金制度)を
書を大切にしてきたため,買い替え資料の抑制は行った
活用し,幼稚園・保育園・図書館の有志で「浦安市幼児
が,書庫の図書を活用し,棚の維持をすることができた。
の情操教育について わらべうたと子どもの心」という
長く読み継がれた本をきちんと揃えて,手渡すサービス
タイトルで講師を招いた研修を行ったこともある。
は効率がいい。買い替えの適正さを検証するため,その
また外部研修では,千葉県立図書館が行っている「児
年出版されて購入した新刊絵本と,買い替えをしたロン
童サービス基礎研修会」
「児童奉仕スキルアップ研修会」,
グセラー絵本の貸出状況を比べているが,ロングセラー
国立国会図書館国際子ども図書館「児童文学連続講座」,
の方が実際によく利用されている。これまでの蔵書の積
「わらべうた研修」
,そして日本図書館協会の「児童図書
み上げが資料費の削減の時も活きた。
館員養成専門講座」への参加を継続している。とりわけ
震災という危機を通じて感じたのは,ライフラインが
最後の講座は重要で,当館では「養成講座に行くと妖精
壊れた現代の街では普通の生活自体が困難になるという
の羽が生える」が合言葉で,
ここまで終了した職員には,
現実だった。市民生活を正常に戻すことが,全市職員の
図書館内で行う講座や,外部からの講師派遣要請があっ
共通目標となり,やっと下水道の復旧が完了したときは,
たときの講師役になってもらっている。研修に終わりは
本当に安堵した。震災後の図書館は,それ以前からの課
ないといえ,教えてもらう立場から教える立場への分岐
題であった人事に加え,予算など図書館内では解決でき
点としてとらえている。
ない問題も深刻化しているといえる。
だが逆に言えば,図書館内で,特に職員の資質向上に
よって解決できる余地が少しでもあるならば,そこから
始めることの重要性が,ますます増加しているのではな
― 5 ―
いだろうか。現在「子ども読書推進計画」を実施する中
た「千葉県子どもの読書活動推進計画(第三次)」の策
で,市役所の他課との情報交換が進んでいる(他の自治
定を受け,館内職員のプロジェクトチームによる「子ど
体でも同様であろう)
。その中で図書館業務の専門性が,
もの読書活動推進センター」を開設し,市町村図書館,
市民だけでなく,同じ自治体職員にもまだまだ知られて
学校図書館や子どもの読書の関係機関・団体等との連携
いないことを感じることも多い。図書館員自身も,行政
の充実を図っている。
の中でどのような情報が求められているか,他部署にど
また、県立図書館の運営方針には市町村立図書館等の
んなすばらしい専門家がいるかを知らないこともある。
支援を掲げており,県内公共図書館職員の資質向上のた
日常業務の積み重ねの中で,こうした情報交換を活かし
めの研修の充実の一環として,児童サービスにおいても
ていけば,特別なことを始めなくても業務の改善につな
研修事業に力を入れている。
がるのではないだろうか。子どもたちが,より豊かな読
現在,児童サービスの研修には,県立が主催する初任
書体験を得られるように,図書館は,家庭や学校,園,
者向けの「児童サービス基礎研修会」と,県内全自治体
行政の他部署など,さまざまなところと連携しつつ,図
の公共図書館や公民館図書室等読書施設 90 館が加盟す
書館としての役割を果たすことが重要でないかと思う。
る千葉県公共図書館協会(以下,千公図)が主催する経
験者向けの「スキルアップ研修会(児童サービス)」の
2 つがある。会場は主に県立中央図書館である。これら
報 告
の研修は,昭和 46 年に県内児童サービス担当数名の自
千葉県立中央図書館の児童サービスに
ついて
~研修事業を中心に~
発性に基づき実施されたのを始まりとしており,その後,
千公図の研修となってからは経験者のスキルアップの場
として行われ,新設館が増えて県内の図書館員が増えた
時代に初任者向けと経験者向けの研修へと分かれ,平成
佐々木はるみ(千葉県立中央図書館)
13 年度から現在の体制となった。
1.
千葉県立中央図書館の児童サービス
2.
「児童サービス基礎研修会」について
千葉県立図書館は中央,西部及び東部の 3 館が一体と
県立中央図書館が主催する,児童サービスの基礎を習
なって県民サービスを実施しつつ、県域を 3 つに分け直
得することを目的とした研修である。研修の企画・運営
接のサービスを行っている。児童サービスは中央図書館
は児童担当 2 名で行っている。参加対象は,県内公共図
のみで行い,専任の司書2名が担当している。
書館及び公民館図書室等読書施設に勤務する職員で,児
中央図書館は県庁等がある官庁街にあり,周辺はそれ
童サービス経験 0 ~ 3 年程度の者である。6 月から 7 月
ほど住民の多い地域ではないが,近隣の子どもやその保
上旬の間に 3 日間,10 月に1日間の計4日開催し,参
護者を中心に来館利用されている。サービス内容は,資
加者には4日通して参加してもらっている。
料の貸出,読書案内やレファレンスサービスのほか,毎
大枠となる,毎年実施しているテーマは「児童奉仕概
週土曜日に 5 歳から小学生を対象としたおはなし会,2
論」「絵本・物語の選書について」「ノンフィクションの
ケ月に1度 3 ~ 4 歳と保護者を対象とした「親子で楽し
選書について」
「おはなし会の運営について」の4つで
むえほんの会」
,
12 月に「冬のおはなし会」を行っている。
ある。「おはなし会の運営について」は県立職員が講師
また,小中学生を対象とした図書館見学会「アドベン
を担当しており,子どもへの直接サービスの経験が役
チャーライブラリー」や一般県民を対象とした「読み聞
立っている。他の3テーマの講師は県内市町村図書館の
かせボランティア入門講座」等を開催している。このほ
児童サービス担当者に依頼している。このほか,児童文
か,高校からの要望に応えて,保育士等の進路を希望し
学や児童サービスに関連する講演を外部講師に依頼する
ている生徒向けに出張講座という形で絵本の読み聞かせ
回がある。講演の回のみ,経験年数を問わず参加できる。
講習会を行っている。児童資料は市町村支援や県民の調
すべての講義の概要は「研修会だより」として記録して
査研究のため,網羅的収集を行っており,約 10 万冊所
いる。
蔵している。そのうち開架には,基本書を中心に来館者
これまでに講師を務めた市町村職員は,児童サービス
にすすめる本を選書して,約 18,000 冊を備えている。
経験がおおむね7,8年以上のベテラン・中堅の方であ
子どもの読書推進に関しては,今年度からスタートし
る。多くの館で児童サービス関係の行事等が増えていて
― 6 ―
業務が忙しくなっているところ,講師を引き受けてくだ
結するよう内容を変更した。講師は,県内市町村図書館
さり,本当にありがたく思っている。ベテラン職員が管
の児童サービス担当や外部講師に依頼している。
理職になり児童サービスの現場を離れたり,定年退職し
研修の内容は,「研修会だより」としてまとめ,記録
たりして講師ができなくなると,
「初任の頃に県内の児
している。また,千公図の別委員会である児童奉仕研究
童サービス担当の先輩にお世話になったので,今度は自
委員会が,この研修の成果を元に児童サービスに関する
分の番だ」と中堅の方が引き受けてくださっている。
マニュアル類やブックリスト等を発行し,県内の児童
研修の受講条件として職種や雇用形態による制限は設
サービス担当者が共通で利用できるようにしている。
けていないため,参加者には非常勤職員や委託先・指定
スキルアップ研修会は県内の児童サービス担当者同士
管理会社の職員もいる。4年程前から,それまで 10 名
の情報共有の場になっており,他館のサービス事例を知
程度だった非正規職員の参加者が 20 名程度に増え,定
る機会ともなっている。
員 40 名の募集に 50 名近く申込みがあるようになった。
また,非正規職員で業務として選書をすることがないた
め,
「おはなし会の運営」のみ参加したいという要望も
4.終わりに
出ているが,基本書を知り選書のポイントを知ることは
県内においても,非正規職員が児童サービスに携わる
すべての児童サービスの基礎であると考え,全日程へ参
ことが増え,毎年多くの担当が入れ替わる状況にある。
加してもらっている。
どの職員も基本的なサービスを行えるようにするため,
この研修は,県内のベテラン・中堅の児童サービス担
初任者の研修の必要性は増している。今後は,県立職員
当者が講師を務めることで,自治体を越えて県全体とし
の研修講師としての力量形成とともに,講師の継続確保
て児童サービスの継承を行う機会にもなっている。
が課題である。また,千公図の研修は県内の児童サービ
ス担当のつながりを作る貴重な場であり,県立職員が中
3.千葉県公共図書館協会の「スキルアップ
研修会(児童サービス)
」について
心となって今後も運営の充実を図っていくことが求めら
れている。
千公図では様々な研修が行われており,児童サービス
については児童サービス研修委員会が研修の企画・運営
研究討議
を行っている。委員会のメンバーは,委員長及び副委員
農中仁美(福井市立桜木図書館)
長(協会理事の中から選出)と県内6ブロックから1名
ずつ選出された市町村図書館の児童サービス担当者の計
10 名からなり,県立の児童サービス担当が事務局を担
大宮 祐子(浦安市立中央図書館)
佐々木はるみ(千葉県立中央図書館)
コーディネーター:島 弘(元福生市立図書館職員)
当している。研修内容は,スキルアップ研修会という名
のとおり児童サービス経験者向きとなっており,受講対
象者は,県内公共図書館及び公民館図書室等読書施設に
勤務する職員で,児童サービス担当の経験年数が3年以
上の者か,それに準ずる者としている。今年度の参加者
は 49 名で,経験年数の平均は 7.3 年である。
資料研究と運営研究の2コースにわかれ,それぞれ別
のテーマで年3回,演習を取り入れた研修を実施してい
る。資料研究コースは,科学絵本・科学読み物,小学校
での読み聞かせに向く絵本等のテーマで,グループに分
かれて討議するかたちで行っている。
運営研究コースは,
わらべうた,ブックトーク等,その時々に児童サービス
の現場で需要の高いテーマをとりあげている。
平成 19 年度までは2年継続で参加し,演習等を重ね,
知識を深める方法をとっていたが,継続参加が困難との
意見が多くあったため,平成 20 年度からは1年間で完
― 7 ―
第 101 回 全国図書館大会 東京大会
ホームページ掲載原稿
2015 年 9 月 30 日現在 
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