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( 全記事 ) - NOVEMBER 2011/JANUARY 2012
ISSUE 202 May/July 2011 和訳 ISSUE 204 November 2011/January 2012 和訳 厳しい環境 A challenging climate 資金運用マーケットのボラティリティにも影響 を受けました。夏場までは、米国債の価格上昇 を背景に、堅調な投資収益率を維持していたも のの、運用実績は計画値を下回る結果となりま した。経済・金融の不安定な状態が続く中、保 険ポートフォリオの運用においては、より慎重 なスタンスが求められます。 組合員の皆様のニーズに対応 当グループを取り巻くリスクの形態にはさまざ まなものがあります。このことは、組合員とク ライアントの皆様にも当てはまります。海運市 況は、船腹過剰が大きな重しとなっています。 Claes Isacson 特に、タンカーとドライバルク市場を中心に供 CEO 給過剰感が強く、運賃にも反映されています。 加えて、世界景気の二番底懸念が高まっている 好調に推移した 2010 年度に比べて、今保険年 ことも、海運市況の見通しに明るさが戻らない 度は厳しい環境に見舞われています。今上半期 一因となっています。このような厳しい事業環 には、特殊要因を含めて、例年以上にさまざま 境の中、船主や運航業者の皆様は事業経費の抑 な課題が持ち上がりました。 制に取り組まれる一方で、リスクの保有と移転 に関して競争力のある真のパートナーをますま す必要とされるものと思われます。 第 2 四半期には大規模な事故は発生しなかった ものの、第 1 四半期に高額なクレームが多数発 生したことから、上期全体では、クレーム実績 私たちの仕事は、環境を整備し、最も効果的な が予想値を上回る結果となりました。このよう リスクソリューションをご提供することです。 に、事業の性質上、クレームの発生時期がある それには、優れた代案をご提供できるように、 期間に集中することは避けられないものの、当 現在私たちが保有している仕組みとツールを質 グループは、このような状況を効率的かつ効果 と量の両面から評価する必要があります。さら 的に管理するプロセスと、強固な財務基盤を備 に、商品ポートフォリオの見直しを慎重に行い、 えています。 組合員とクライアントの皆様のニーズに則した オーダーメイドのパッケージ商品を徐々に増や 2011 年度上半期の正味合算率(コンバインドレ していきたいと考えています。こうした商品開 シオ)は 102%となりました。過去 2 年間にわ 発力の強化にはさらに多くのリソースが必要と たって一律の保険料増額を要請していない P&I なるため、現在、商品開発チームの陣容の強化 相互保険を除くすべての分野で計画以上の総収 に取り組んでいます。 入保険料を計上することができました。同期間 の税引後剰余金が 600 万米ドルとなった結果、 このほか、グループ全体のさらなる陣容の充実 フリーリザーブは 7 億 9800 万米ドル、総資産 化を図っております。例えば、日本市場では大 は 27 億米ドルにまで増加いたしました。 きな変化が進行中で、より多様な商品とサービ A challenging climate 2 Gard News 204 November 2011/January 2012 スが求められるようになりつつあります。この ようなニーズを十分に満たせるように、現地ス タッフの増員のための採用活動を行っています。 また、規制当局への報告事務と手続き業務の増 加に対応するため、バミューダ島の Lingard の スタッフの倍増を計画しています。 組合員とクライアントの皆様のニーズを十分に 理解するため、グローバルネットワークへの投 資や、成長途上のマーケットに積極的に訪問を 行うなどして、既存のご契約者や、将来的に組 合員・クライアントになっていただける見込み のある方々と直接対話する機会を増やしたいと 考えております。例年どおり、今秋も出張やイ ベントが多く、ドイツ、ノルウェー、香港、ヘ ルシンキ、スウェーデン、シンガポール、日本、 ブラジル、イギリスを訪れる機会があります。 年末を迎える時期ではありますが、皆様にお会 いしてお話を伺える機会があることをとても楽 しみにしています。 A challenging climate Gard News 204 November 2011/January 2012 Gard News November 2011/January 2012 2 Message from the Chief Executive Officer – 厳しい環境 4 船上貨物の薫蒸: 見えざる殺人者 10 TRIALITY は実現するか – 原油タンカーの革新的なコンセプト 12 船体および機関の事故 14 重量物の事故 – クレーム処理の問題 17 燃料油に関する契約 18 ブラジルにおける用船者の汚染責任 20 まるでジグソーパズル – ディープウォーター・ホライズン訴訟の 最近の判決 22 Gard の研修生プログラム 23 海賊 – ベストマネジメントプラクティス(ハージョン 4) 24 中国における新しい汚染規制 26 米国において船荷証券が無許可で発行された場合、 誰が COGSA 上の運送人とみなされるのか? 28 禁煙にご協力を – 米国とカナダが船舶からの大気汚染物質の排 出の監視を強化 29 排煙法、船舶は適用外 – 米国の裁判所が判示 30 米国での医療費 – 十分注意すれば相当有利に 31 米国法 – 「近因(proximate cause)」とジョーンズ法 32 損害防止回報・P&I メンバー回報 - 2011 年夏 32 人事ニュース – 自動タンクゲージシステムの故障 – FAQ 第 2 弾 3 Gard News 204 November 2011/January 2012 船上貨物の薫蒸: 見えざる殺人者 Fumigation of cargo on board ships: the invisible killer 薫蒸処理した貨物を積載した船舶において、船員 1 名が船室内で死亡するという惨事が発生しまし た。今回の Gard News では、類似のケースについて分析を行います。 輸送中の貨物を薫蒸処理することの危険性につ たはリン化アルミニウムという固形形状で生産 いて認識を高めることが、極めて重要です。リ されるため、薫蒸処理の実施者にとって扱いや ン化水素ガスによる貨物の薫蒸は殺虫作用に優 すいものです。この固形剤(通常はタブレット れていますが、正しく取り扱わないと、乗組員 型)は、水に接触するか、水分を含んだ大気に 1 と陸上作業員の生命を脅かすことになります 。 触れると反応し、分解が進み、ばら荷貨物(穀 類など)の中にいる虫の殺傷に有効な気体(リ 薫蒸について ン化水素)を放出します。タブレット剤からホ 薫蒸剤は、特定の環境下で気体状態となり、十 スフィンが放出される環境としては、熱帯また 分な濃度に達すると害虫を殺傷せしめる化学薬 は亜熱帯気候が最も適しており、その場合、4 品です。薫蒸剤の重要かつ有益な特性の一つは、 ~5 日で放出が完了します。気温が 15 度以下の 気化状態では分離した微粒子として拡散するこ 環境や、大気が非常に乾燥している場合は、こ とです。この特性によって、薫蒸対象物に浸透 れよりも大幅に時間がかかります。タブレット した後に拡散します。植物などに噴霧するエア 剤を貨物の上部だけに撒いた場合も、発生する ロゾルや殺虫剤は薫蒸剤ではありません。 ガスは空気より重いものの、貨物の底まで完全 に拡がるには相当な時間がかかります。その場 かつては、船舶の貨物の中に潜む害虫を駆除す 合には、貨物の底部に通した管の中にタブレッ る薫蒸剤としては、シアン化水素酸と、二塩化 ト剤を入れて、ガスを送風扇で拡散するか、プ エチレンと四塩化炭素の混合物が一般的でした ローブで貨物の中に押し込んで、ガスの拡散を が、1960 年代~1970 年代以降に、臭化メチル 早める方法を採ることもできます。 とリン化水素に置き換わりました。いずれも、 人間が吸いこむと極めて危険なものです。臭化 メチルは、オゾン層の激減をもたらすことから、 2005 年以降西欧諸国ではその使用が禁止されて います。リン化水素(PH3)は、一般に「ホス フィン」と呼ばれているもので、現在ではばら 荷で積載された乾燥植物製品の害虫駆除に最も よく利用される薫蒸剤です。ホスフィンを効果 的に使用するには、臭化メチルの場合よりも長 時間(4、5 日から 2 週間以上)暴露させる必要 がありますが、元来長距離輸送が中心の海上輸 送では、長時間かかることは特に問題ではあり 貨物倉から積荷を荷揚げ後、タブレット型のリ ません。ホスフィンは、リン化マグネシウムま ン化アルミニウムを入れるプラスチック管を取 り出したところ。 1 Gard News173 号の記事「In-transit fumigation of bulk cargoes」には、船主に対して輸送中の薫蒸に関するリスクを喚 起し、リスクを最小限に抑える方法と、リスクが顕在化した場合 の法的立場を保護する方法に関して、実務的な助言が掲載され ています。同記事には、用船者との交渉のたたき台となる覚書 のテンプレートも掲載されています。このテンプレートは、適切に 修正すれば、用船契約において用船者に対して輸送中の薫蒸 を要請する権限を付与するケースと、用船契約では触れずに船 主がその要請に同意するケースのいずれでも利用可能です。 Fumigation of cargo on board ships: the invisible killer 純粋なホスフィンガスは無臭です。不純物が混 ざると、ニンニクや、炭化物、腐食寸前の魚と よく似た臭気が発生するものの、その臭気はガ スが発生していることを周囲に知らしめるとい う役割も果たします。ただし、臭気がなくても、 4 Gard News 204 November 2011/January 2012 危険なガスが発生している可能性があることを 不良か肝疾患の可能性が疑われたため、その船 理解しておくことが重要です。臭気はどのよう 員は船室のベッドに戻って、水でチャコールタ な環境でも感知できるとは限らないうえ、ガス ブレットを服用するよう指示されたようです。 の発生時間は臭気の発生時間よりも長い場合が 顔色が非常に悪く、微熱と嘔吐の症状もあった あることに注意が必要です。 ものの、翌日には快方に向かったため、医者は 呼ばれませんでした。しかし、その翌日、つま Gard が扱った直近の事例 り、その船員が船室に戻ってから 48 時間後に、 Gard が直近で扱った事例は、船齢 30 年の普通 ベッドの中で死亡しているのが発見されました。 貨物船(4,000GT)内で、薫蒸が原因で船員が その 2 日後には、別の船員 1 名も体調の悪化を 死亡したというものです。同船舶は、2010 年 訴えましたが、大事には至らず快復しました。 の暮れ、ラトビアのリエパヤで小麦を 3 つの船 居住区域ではガス臭はしなかったものの、検査 艙に満載し、アントワープに向かっていました。 を実施した結果、高濃度のホスフィンガスが検 貨物の薫蒸を実施するため、直径 10mm のプラ 出されました。 スチック管をハッチコーミングから各船艙のタ ンクトップまで吊した後、船積み作業が開始さ 死亡した船員の船室は、主甲板と同じ階層の、 れました。ここで使用された管は、複数の小さ 居住区域の前の船長室の隣に位置していました。 な穴が開いた農業湿地の排水用のものでした。 船長室内の裏張りされた箇所を下ろしてみると、 貨物の船積み作業が終わると、リン化アルミニ 前端隔壁に腐食した小さな穴が一つ見つかりま ウムのタブレット剤が貨物の上部に撒かれ、管 した。隔壁の鋼板は、船尾部換気孔と船尾部貨 の中にも投下されました。貨物倉に続くハッチ 物倉を隔てる境界としても使用されていました。 カバーと換気孔が閉じられ、コーミングのドレ 換気孔内部で長年にわたって腐食が進んで小さ ンの周りにはビニール袋が取り付けられました。 な穴が開き、貨物倉内のガスが居住区域の隔壁 船舶の居住区域のメインの換気システムは停止 に流れるようになっていたのです。トイレの換 されたものの、浴室とトイレの換気扇の使用は 気扇を使用した際に気圧がわずかに下がり、穴 許可されていました。外部ドアが閉鎖され、航 から流れ出たガスを室内に呼び込んでしまった 行上の必要性がない限り、甲板に出ることが禁 のです。船室ではなく、新鮮な空気に触れられ 止されました。フィルター8 個付きのガスマス る場所で休むように助言されていたならば、そ ク 2 つと、50 本の検出チューブ付きのガス検出 の船員は命を落とさずに済んだものと思われま キット 1 セットが、薫蒸作業員によって船舶に す。 持ち込まれていました。船舶側には、作業員か ら、5 日経過したら船艙を開けてもよいと伝え その船員の死亡事故を受けて、調査が実施され られていました。 ました。また、貨物倉のガス量が定期的(毎 日)に計測されるようにもなりました。5 日間 キール運河を通過中に、作業のため甲板長がガ でガスの発生が止む予定であったのが、実際に スマスクを付けて船首楼に向かったところ、異 は丸 1 か月かかりました。その原因としては、 臭に気づいたため、船長はその周辺を換気し、 乾燥した気候であったことと、船積み作業時の 薫蒸作業員が持ち込んだ検出キットを使ってホ 気温がマイナス 10 度であったことが挙げられ スフィンガスを検査するように命じました。キ ます。また、貨物の湿気が少なかったことが、 ール運河を通過したところで、陰性との検査結 リン化アルミニウムのタブレット剤の反応を遅 果が出ました。しかし、乗組員らが検出キット らせる原因となったものと思われます。貨物倉 の使い方にあまり慣れていなかったうえに、検 内に配置された管の穴が小さ過ぎ、タブレット 出チューブの使用期限も過ぎていました。 剤が貨物に十分接触できなかったことも、貨物 薫蒸を開始してから 4 日後の朝、停泊位置が空 へのガスの拡散速度を遅らせる原因となった可 くまで投錨している際に、夜間の当直明けの船 能性があります。管を引き抜いた際、リン化ア 員の 1 人が体の不調を訴えました。当初、消化 ルミニウムのタブレット剤数錠が元の形状のま Fumigation of cargo on board ships: the invisible killer Gard News 204 November 2011/January 2012 まで見つかっています。アラームの役割を果た その船舶は、ツーホールドで船員 9 名が乗り組 すリン化水素ガスの独特の臭気が、3~4 日後に む一般貨物船で、Gard の保険には加入していま はすでに消えていたことも注目すべき点です。 せんでした。船室の前面が後方貨物倉の船尾側 荷揚港に到着後、貨物は内陸水路用のはしけに 隔壁より 0.5 メートル突き出た構造で、鋼甲板 積み替えられました。作業員たちは、貨物の積 が貨物倉と(甲板と同じ階層にある)前方の船 み替えの際にもリン化アルミニウムのタブレッ 室との間の境界になっていました。港に到着後、 ト剤の反応が続いていることは珍しいことでは 検査が実施されたところ、死亡した船員の船室 ないと証言しています。 及び隣接する医務室から高濃度のホスフィンが 検出されました。当初、煙試験では漏洩ルート もう一つの事例 は見つからなかったものの、甲板下の鋼板から 上記の事故が発生する以前にも、腐食によって さびの小片がはがれ落ちた際に、船室にガスが できた穴を通って、貨物倉から船室に漏れ出た 流れ出すルートになったであろう小さな穴が鋼 ホスフィンガスが原因で船員が死亡した事故が 板に開いているのが見つかりました。穴は極め ありました。2008 年 1 月に、英国海難調査局 て小さく、到着港での煙試験では再現されなか (MAIB)は、その事例の詳細をまとめた ったものの、悪天候の折り、船舶が激しく揺さ Accident Flyer 1/2008(アクシデントフライヤー ぶられて密閉されていた貨物倉内の気圧が上昇 2008 年 1 月号)を発行し、海運業界に警鐘を鳴 した結果、ガスが気圧の低い船室側に押し出さ 2 らしました 。 れたものと推定されました。船室の浴室等の換 気扇が使用されていたかどうかは不明ですが、 問題の事故を起こした船舶は、スコットランド 使用されていたのなら、それも事故の一つの要 のモントローズを仕向地として、ロシアのカリ 因となったのではないかと思われます。 ーニンガラードにおいて 2500 立方メートルの 飼料用小麦の船積みを行いました。船積み作業 薫蒸作業員は、船積みの開始前の検査に 10 分 の終了後、薫蒸作業員がリン化アルミニウムの しか時間をかけておらず、十分な検査を実施す タブレット剤をプローブで小麦の中に押し込み、 るには時間が不足していたと考えられます(も ハッチを閉じました。その作業員は、一等航海 っとも、腐食した鋼甲板の表面の検査を実施し 士にホスフィンガスの危険性を手短に説明し、 ていても、危険性が判明する可能性は低かった ニンニクのような独特の臭気がした場合には注 と思われます)。また、乗組員らはホスフィン 意するよう船員に周知して欲しい旨を伝えまし ガスの検査装置を使った経験がなく、ガス漏れ た。作業員はガスマスク 2 個、ガス検出ポンプ を疑うこともなかったようで、船酔いでめまい 1 式、検出管 5 本を手渡しました。同船舶は、4 と嘔吐がしているだけだと思い込んでいたよう 日間かけてバルト海運河とキール運河を通過し です。 た後、北極海で荒天に遭遇しました。そこで、 貨物を保護するため、ハッチカバーを膨張泡で 警戒感の不足 密閉する処置が施されました。その後に、何名 1997 年、パラナグアにおいて、一隻のクレーン かの乗組員が船酔い症状を訴えました。その中 付きばら積み貨物船がブラジル農務省職員から の 1 人が、食欲が湧かずに昼食を取るのを諦め 船艙の検査を受けました。無積載での検査には て船室に戻りましたが、翌朝、死亡しているの 合格したものの、貨物の大豆ミール(大豆粕) が発見されました。隣の船室の船員は、死亡し から虫が見つかったため、ホスフィンを使った た船員の船室から悪臭が出ていたことに気づい 薫蒸を行うよう、当局から命令を受けました。 ていたものの、船酔いによる吐瀉物の臭いだと すでに船積みが完了していたため、リン化アル 思ったということです。 ミニウムのタブレット剤を全貨物の上部に置く 2 同小冊子は、MAIB のウェブサイト(www.maib.gov.uk)から 入手できます。 Fumigation of cargo on board ships: the invisible killer という方法が採用されました。薫蒸作業員は、 ハッチは 10 日間閉めておくように船長に伝え ました。薫蒸の開始から 2 日後、アイルランド Gard News 204 November 2011/January 2012 に向けて航行中に、甲板上で作業していた整備 ガス気圧が生じて、ガス漏れが起こった可能性 工 1 名が体調を崩し、痙攣と手足の感覚の喪失 があると指摘されています。 に見舞われました。続けて、ほかの 4 人の乗組 員にも同様の症状が現れたことから、無線で医 療支援を要請した後、リオデジャネイロに寄港 し、保健当局の職員が同船に乗り込み、5 名の 乗組員が病院に搬送されるという事態となりま した。当局の職員は、これ以上乗組員がリスク にさらされないことが証明されるまで、同船の 出港を禁止しました。薫蒸の最中に貨物倉を換 気したことが原因で、害虫を殺傷する効果が弱 まり、かつ貨物が汚染されてしまうリスクがも たらされました。 貨物倉から穀物の荷下ろしを行っているところ。 すべての乗組員の健康が快復した後、航路から 縦に3本のプラスチック管が並んでいるのが見 の逸脱と遅延による損害を誰が賠償するのかと える。船積み作業後に、この管の中にリン化ア いう点が議論の焦点となりました。船舶関係者 ルミニウムのタブレット剤が投入されていた。 らは、薫蒸実施会社が薫蒸時の対策を船舶に施 管には小さい穴が開けられていたが、タブレッ す義務(つまり、貨物倉からのガスの出口を無 ト剤が貨物に十分に接触できずに薫蒸の完了ま くすこと)を十分に履行しなかったと主張しま でに1か月を要した。 した。一方、薫蒸実施作業員側は船舶側が貨物 倉の換気孔を密閉していなかったことを問題に 木材貨物 しました。薫蒸作業員側がガス検出装置を船内 薫蒸は、穀類だけでなく、木材貨物の害虫の殺 に持ち込まなかったため、船舶側で検査を実施 傷にも使用されます。2006 年、ある 25,000GT することはなかったものの、乗組員が強いガス の船舶(Gard 加入)が、ペルーで用材を船積み の臭気に気づいて、ガスが漏れているハッチカ しました。同船舶は、パナマ運河を通過する前 バーをテープで密閉するという処置を施しまし にバルボアで錨泊し、燃料を積み込み、リン化 た。薫蒸作業員側からは何の説明も指示もなか アルミニウム(水分に触れるとホスフィンガス ったようです。両当事者とも IMO を発生するタブレット剤)を使用して薫蒸を実 Recommendations on the Safe Use of Pesticides at 施しました。貨物倉は 72 時間薫蒸した後、24 Sea(国際海事機関の海上における殺虫剤の安 時間かけて換気が行われました。その後、プエ 全使用についての勧告)を引用したうえで、一 ルトリコのポンスに係留中に、薫蒸作業員が貨 方の当事者は、輸送中の薫蒸は「専ら船長の裁 物倉から余分なタブレット剤を回収した際、船 量によって実施されるべき」という箇所を引用 長とその処理方法について口論となりました。 し、船舶の安全性については船長に責任がある タブレット剤を濡れた甲板上に一時的に置いた と主張しました。結果論としては、双方に過失 ときに発火が起こったようです。雨が降ってい があり、どちらもより用心深く注意しておくべ たため、タブレット剤はビニール袋に入れて回 きでした。この事例は、貨物が船積みされた後 収されましたが、船長は、薫蒸作業員が希望す で、当局によって害虫に汚染されていることが る、船内の焼却炉での処分を認めませんでした。 発見された場合、船長や用船者は薫蒸を回避す その代わり、タブレット剤は水と溶剤で満たし るのがいかに困難であるかを示しています。ホ た容器に保管されました。その結果、沸騰が起 スフィンは、空気より重く、貨物の上部から底 こり、ガスが発生し、中身が船外に流出すると 部まで浸透します。このケースでは、タブレッ いう事故が発生しました。このような「湿式 ト剤をすべて貨物の上部に置いたことによって、 法」も、余分な物質を非活性化するための一つ 薫蒸の早い段階で、各船艙の上部空間に相当な の手法です。しかし、この方法で処理する場合 Fumigation of cargo on board ships: the invisible killer Gard News 204 November 2011/January 2012 には、適切に呼吸保護を行うことが必要で、い たことが間違いであったと指摘しています。航 くつかの注意事項を遵守する必要もあります。 行前の薫蒸手順では、薫蒸の実施中、船舶の乗 薫蒸作業員 2 名が体調を崩して病院に搬送され 組員が安全に過ごせるように船舶が適切に設計 たものの、無事快復しました。作業員らが、船 されていること、かつ正常な状態であることの 内でガスマスクとガス検出装置を使用していな 宣言を受けることが求められていました。それ かったことが確認されています。Gard が選任し ができない本事例のようなケースでは、全乗組 たサーベヤーは、この事故の報告書の中で、は 員が船舶から退去するまで、船舶側では薫蒸処 るかに深刻な結果がもたらされていた可能性が 理は受けるべきではありませんでした。薫蒸作 あると指摘しています。 業員側は、貨物倉へのアクセス箇所のすべてに ついてより詳細な検査を実施すべきでした。一 乗組員全員の危機 方、船主も、ハッチの蓋、シール、回し金の不 2000 年、US Coast Guard News(米国沿岸警備隊 具合を放置していたことについて責を負うべき の発行するニュース)で、オーストラリアに向 でしょう。 かうばら積み貨物船の乗組員全員が、6 番貨物 倉から放出されたガスにより健康被害を受け、 幸運だった乗組員 オレゴン州クーズベイに避難せざるを得なくな 2010 年のクリスマスの数日前、エリー湖で、ば ったことが報じられました。問題の貨物倉は、 ら積み貨物船の居住区域にホスフィンガスが漏 ワシントン州ポートエンジェルスにおいて害虫 洩し、乗組員が全員があわや死亡するという事 駆除のための薫蒸処理を受けており、大豆ミー 故が発生しました。この船舶は、船齢が 1 年と ルが積み込まれていました。 新しく、腐食による穴はなかったものの、換気 システムを経由してガスが漏れ出たものです。 出航して 2 日目に、19 人の乗組員のうち 12 名 同船舶は Gard の加入船ではなかったものの、 が、頭痛、めまい、吐き気、呼吸困難、嘔吐、 この事故はニュースで大きく取り上げられまし 下痢のいずれかの症状を訴え始め、船長は薫蒸 た。 処理を受けた船艙からのガス漏れを疑いました。 検査の結果、船舶内の事務所で 0.5ppm のホス 問題の船舶がミルウォーキーで穀類貨物を積み フィンが検出されました。空調を止め、すべて 込み、モントリオールに向けて航行中に、乗組 のドアと舷窓を開けて自然換気が行われました。 員の大半が体調の悪化を訴えました。船長は、 乗組員全員が室外に退避し、無事快復に向かっ 貨物の薫蒸によって発生したホスフィンか食中 たということです。 毒が原因であると疑い、救助を要請しました。 セントローレンス海路の職員が沖合で同船舶を 同船に乗船した医者と薫蒸処理の専門家により、 停船させ、ポートコルボーンの消防局の救助隊 貨物倉からホスフィンガスが漏れていたことが が同船に乗り込みました。救助隊は船員の居住 判明しました。甲板の換気装置が停止され、テ 区に 1.5ppmのホスフィンガスが充満しているこ ープ、シリコン、プラスチックを使って、ハッ と、乗組員が休んでいた船室の舷窓が寒波のた チコーミングのドレンパイプを含め、貨物倉の めにすべて閉めきられていて、換気システムか すき間がすべてがふさがれました。特に、甲板 ら漏れ出た汚染された空気が蔓延していること 下の通路から貨物倉へのアクセスハッチの蓋が に気づきました。調査員は、ガスが貨物倉から 注目されました。この通路は居住区域に通じて 導管を経由して抜け出て、水密ドアと気密ドア おり、アクセスハッチの蓋が密閉されていなか を通って換気室に入り、そこから換気システム ったことが乗組員が被害に遭ったことの主因で によって居住区へと循環されたのであろうと結 ある可能性があります。ハッチの蓋の回し金の 論付けました。乗組員たちは、嘔吐、下痢、頭 一部が不具合を起こしていました。選任された 痛、めまいの症状を患い、何人かは自分で立ち サーベヤーは、薫蒸の実施会社が、すべての貨 上がることもできない状態でした。換気システ 物倉が薫蒸の実施に適した状態にあると判断し ムを停止させ、すべての窓が開け放たれました。 Fumigation of cargo on board ships: the invisible killer Gard News 204 November 2011/January 2012 船外に退避させた 16 名の乗組員(総乗組員数 2009 年、ナイジェリアのラゴスを出航した船舶 は 21 名)は病院に搬送され、無事快復しまし 内で、6 人の密航者が発見されました。最初の た。救助隊の助けがなければ、数名の犠牲者が 1 人は、鋼鉄をたたく音を聞きつけた乗組員に 出ていたものと思われます。環境有害物質・特 よって、貨物ハッチの内側で発見されました。 定疾病対策庁(ATSDR)の指針では、呼吸器を 続けて、別の船艙から 2 人、大型ゴミ容器から 平均濃度 0.3ppmを上回るホスフィンガスに 8 時 2 人が発見されました。貨物倉に隠れていた者 間以上、短時間でも 1ppmを超えて暴露させて は衰弱し意識が朦朧としていましたが、空気の 3 はならないと規定されています 。 新鮮な場所で休ませると快復に向かったようで す。6 人目は、貨物倉の入口のハッチのはしご ホスフィン中毒に対する解毒剤はありません。 上部の踊り場で発見されたときには、蘇生処置 中毒症状にかかった際の処置は、呼吸機能と循 の甲斐なくすでに死亡していました。アビジャ 環機能の働きをサポートすることです。緊急時 ンで下船した 5 名は、病院で手当てを受けて無 には、被害者を空気の新鮮な場所に移すことが 事快復しました。同船舶には、リン化アルミニ 4 重要です 。 ウムで薫蒸した船艙に、薫蒸した袋詰めのカカ オ豆が積み込まれていました。カカオは、通常、 ホスフィンで処理されます。 このほかにも、貨物の薫蒸が原因で密航者が死 亡した事例は数多くあります。 3 番貨物倉の船尾隔壁に換気孔が開いている。 鋼製の隔壁は、居住区域と穀物倉との境界とし ても使用されている。 密航者の死 必死の思いで国からの脱出を図る密航者も、薫 蒸処理中の貨物倉に隠れているときに、危険に さらされているとは思ってもいないでしょう。 3 国立労働安全衛生研究所(NIOSH)や労働安全衛生局 (OSHA)などの米国当局が発行するガイドラインでは、作業員 のホスフィンへの暴露は 8 時間の時間加重平均値(TWA)で 0.3ppm を上回ってはならないと規定されています。時間加重平 均値(TWA)は、職業暴露限度(OEL)の規定において用いられ ている用語です。ガス濃度が 0.1ppm を上回っている船室で船 員を休ませるような場合、24 時間連続してホスフィンガスに暴露 させてはなりません。欧州諸国では、さらに厳しい、欧州委員会 の職業暴露限度に関する科学評議会(SCOEL)の数値(ホスフ ィンの場合の 8 時間 TWA は 0.1ppm)を採用しています。 4 ホスフィン中毒の医学面に興味のある方は、1980 年に発生し た、薫蒸中の穀類の輸送中に、子供 2 人と、総数 31 人のうち 29 人の乗組員が体調を崩し、子供 1 人が死亡した事故につい て、関心をお持ちかしれません。この事故は、貨物倉から、居住 室の換気装置近くのケーブルボックスを経由してガス漏れが発 生していたことが原因です。「The Journal of the American Medical Association(JAMA)」の第 244 号(1980 年)の 148 ページ~150 ページ参照。 3 番貨物倉の船尾隔壁。はしごの上部の隅に換 気孔がある。甲板下の配管類の裏側にあるため、 近付くのが難しい。 引火性 リン化アルミニウムは、それ自体可燃性ではな いものの、水に触れるとリン化水素ガスが生成 されます。このリン化水素ガスは空気中で自然 発火する可能性があります。高濃度のリン化水 Fumigation of cargo on board ships: the invisible killer Gard News 204 November 2011/January 2012 素が発火すると非常に激しい反応を示すことが これまでに発生した事例データから、次の知見 あります。また、爆発によって人体に重傷をも を導き出すことができます。 たらす危険性があります。消火する際は、水を – 薫蒸実施会社が IMO の勧告を遵守しないケー 使用せずに、砂や、炭酸ガス、粉末消化剤を使 スがある。 用してください。 – 薫蒸作業員から提供される情報が不十分であ ったり、不正確な場合がある(例: 薫蒸処理の 2008 年、オーストラリア交通安全局(ATSB) 所要日数など)。気温と湿度を考慮に入れなけ は、貨物の薫蒸の実施中に発火が起こったある 5 船舶の事例をまとめた報告書を発行しました 。 ればならない。 – 船舶が薫蒸の実施に適した状態にあるか否か を判定するための検査が、極めて表面的に行わ 船内における殺虫剤の安全使用に関する IMO れていて、乗組員の安全を確保するのに不十分 の勧告 なケースがある。 リン化物は毒性が高く、水に触れたり、大気中 – 船の老朽化や貨物倉と居住区間の鋼板の維持 の湿気にさらされると自然に発火するという特 管理が不十分なことにより、薫蒸の実施に適し 性を持つため、薫蒸を実施する際は、必ず、詳 ていない船舶がある。 細かつ厳格な手順を確立し、それを遵守するこ – 船長が、IMO の勧告を十分に理解していない とが重要です。 場合や、勧告を遵守しない場合がある。船長が、 IMO の勧告によって船長に付託されている権限 船内における殺虫剤の安全使用に関する勧告は、 と責任を十分理解せず、貨物の薫蒸は荷主と薫 初版が 1971 年に IMO から発行された後、海上 蒸作業員の仕事であると考えているようなケー 安全委員会によって数度の改訂が行われていま スがある。 す。最新の改訂版は 2010 年版国際海上危険物 – 適切な検査機器が船内に持ち込まれていない 規則(IMDG コード)の補足資料として掲載さ ケースや、乗組員が検査機器の使い方を十分に れています。貨物倉と貨物輸送設備の薫蒸の両 理解していないケース、航行中の薫蒸実施の際 方に関するガイドラインが定められています。 に検査機器が使用されていないケースがある。 IMO は、各国政府に対して、同勧告を所轄官庁、 (タンカー船ではよく使用されているガラス管 船舶関係者、薫蒸作業員、薫蒸剤・殺虫剤メー 付きのベロー式検査機器も、ばら積み貨物船の カー等の関係者に周知することを求めています。 乗組員には馴染みがない場合があります。想定 されるガス濃度に合ったチューブを使用し、フ このIMOの勧告は、船舶の薫蒸に関する最も重 イゴのポンピングは正確な回数実施することが 要なガイドラインであり、船員は薫蒸を実施す 重要です。説明書は必ず読んでください。テス る前に、十分に読み込んで遵守する必要があり トチューブには、使用期限があることにも注意 ます。これ以外に、薫蒸剤の使用に関する旗国 してください(特に、熱や日光にさらされてい の規則や外国船舶に対する規制、メーカーの指 る場合)。昨今では、ホスフィンをはじめとす 示事項がある場合があります。IMOの勧告には、 る多様なガスに対応した、アラーム付きの電子 ホスフィン吸入時の中毒の症状として、「吐き 式測定機器が利用される場合があります。ベロ 気、嘔吐、頭痛、衰弱、失神、胸痛、せき、胸 ー式の測定器がある時点の空気を検査するため 部絞扼感、呼吸困難」が取り上げられています。 のものであるのに対して、電子式の測定器は、 ただし、ホスフィンガスの濃度と暴露時間によ 空気中のガス濃度を常に一定に制御することを 6 っては、死亡する可能があります 。 目的に使用するものです。個人用の小型の機器 も利用できます。船舶には、ベロー式の検査機 事故からの知見 5 器しか準備されていないことが多く、陸上の検 査官は、電子式の測定器を装備していることが ATSB「Marine occurrence investigation」第 250 号 6 多い傾向にあります。) 米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、ホスフィンの「即 時に生命または健康水準に危険が迫る水準(IDHL)」を 50ppm と規定しています。 Fumigation of cargo on board ships: the invisible killer Gard News 204 November 2011/January 2012 – IMO の勧告では、船内に持ち込まれたガス検 貨物に使用されたもので、作業員らは薫蒸に使 出機器と呼吸保護具を正常動作させる責任は薫 用されたものだとは知らなかったということで 蒸作業員側にある。 す。このケースでは、作業員 3 名は病院に搬送 され後に無事快復しています。 通常、ガス検出機器と呼吸保護具は薫蒸実施会 社から提供されます。「呼吸保護具」は、1~2 以下の 2008 年に発生した事例は、薫蒸に使用 個のガスマスクとフィルターで構成されている した材料の残滓の除去と処理の必要性を説明す ものが大半です。ガスの充満している部屋には、 る際によく引用されるものです。ある船舶 そのような環境での作業に慣れている船員以外 (Gard に加入)が、ロングビーチで、20 台の はなるべく立ち入らないようにし、立ち入る場 パレットに載せた観葉植物を積み込んだ 40 フ 合には、ガスマスクに漏れ口がないか十分に注 ィートの冷蔵コンテナの荷揚げを行いました。 意する必要があります。フィルターは適切なタ そのコンテナは、中身が搬出された後、荷受人 イプのもの使用し、適宜交換する必要がありま の構内で 1 か月間保管されていました。次の貨 す。また、マスクの密着性は、各人の頭のサイ 物用にコンテナ内の清掃を行っていた作業員が、 ズや形、ひげの有無などによって異なることに シガーチューブのような形の薄いアルミ製のシ 注意が必要です。ガスマスクを装着して立ち入 リンダーを発見しました。そのシリンダーは、 ろうとする場所の空気中に十分な酸素が含まれ 一方の端が開封されていて、「リン化アルミニ ているか確認することも重要です。ホスフィン ウム剤 30 錠。有毒!」と表示されていました。 ガスの危険性を理解している人は、ガスが充満 その作業員が開封されている方を嗅いだところ、 した場所に立ち入る場合、空気供給の過圧によ 灰色の粉末状の物質があることに気づきました。 ってガスがマスク内部に侵入しにくい、酸素ボ 2 人目の作業員もそのチューブを見つけて、開 ンベ付きのタイプを好む傾向があります。 封されている方を嗅いだということです。その – ホスフィン中毒の症状が出ていても、船酔い 後、その 2 名の作業員は暴露による潜在的危害 か食中毒にかかったと判断されてしまうケース があったとして、ターミナルの管理会社に対し がある。船長と乗組員が、薫蒸中の貨物の輸送 て賠償を求める訴訟を提起しました。チューブ に伴うリスクを十分に理解することなく、危険 からホスフィンガスが出ていなかったため、被 な兆候にも無頓着なことが一因となっているよ 害者は出ませんでしたが、このクレームには、 うです。 サーベヤー、弁護士、医師、危険物質取扱業者 – 甲板や隔壁を貨物倉と乗組員の居住区の境界 1 社が関係することとなりました。 としても使用する構造の船舶の建造を禁止する 規制がない。これについては、国際船級協会が 2009 年、Gard では、ペルーのカヤオからバル 検討すべき領域です。薫蒸中の貨物を輸送する パライソに向かうコンテナ船内で起こった事例 可能性がある船舶については、貨物スペースの を扱いました。同船舶のオープンデッキで、28 換気装置と居住室の空気取り入れ口の場所も考 個のコンテナの薫蒸処理が実施されていました。 慮に入れる必要があります。隔壁は気密構造で 出航から 12 時間後に、甲板長が強い臭気に気 ない限り、電気ケーブルを通す小さい穴などか づいたものの、当初は放置していました。しば ら、ガスが侵入する可能性があります。 らくすると、甲板長は発汗と嘔吐の症状に加え、 頭痛の症状も訴え始めました。他の 2 人の乗組 コンテナの薫蒸 員も臭気を感じたものの、体に異常は起こらな コンテナ内の貨物も薫蒸を実施する場合があり かったということです。その後、その区域への ます。2008 年に、ロッテルダムにおいて、極東 立ち入りが制限されるとともに、居住区域の換 から輸送されたコンテナの扉を開けた陸上作業 気装置が完全に停止されました。載荷図と危険 員 3 名が失神するという事故がありました。片 物図面から、薫蒸を実施しているコンテナの場 側の扉の内側に吊り下げられた袋からホスフィ 所が割り出されました。すべてのコンテナに、 ンガスが発生していたのです。その袋は、前の リン化アルミニウムを使った薫蒸中であること Fumigation of cargo on board ships: the invisible killer Gard News 204 November 2011/January 2012 から立ち入りを禁止する旨のラベルが掲示され ました。荷揚港で保健当局が同船舶の検査を行 ったものの、すでにガスの発生は収束しており、 その他の異常も発見されなかったため、荷揚げ が許可されました。甲板長は病院で検査を受け た結果、新鮮な空気だけで快復したと報告され ています。 コンテナ船の乗船者にも、薫蒸処理中のコンテ ナがあることを通知し、ガスの臭気とホスフィ ン中毒の症状に注意を向けさせることが重要で す。一番リスクにさらされるのは、薫蒸処理済 みのコンテナの開封と荷揚げを行う陸上作業者 です。コンテナ内の有毒ガスへの対処方法と安 全上の注意がまとめられた新しいハンドブック 「Don’t get caught by surprise」が発行されてい ます7。 7 www.tgav.info Fumigation of cargo on board ships: the invisible killer Gard News 204 November 2011/January 2012 TRIALITY は実現するか – 原油タンカーの革新的なコンセプト Will TRIALITY become a reality? – An innovative crude oil tanker concept 大気汚染物質の排出とバラスト水処理に関する環境規制の強化が目前に迫っていることから、船舶 業界は、今後 10 年間、技術面、運航面、経済面において厳しい課題に直面することになりそうです。 船舶の新しいコンセプトを開発することが、これらの課題に対処するうえでの魅力的な方法である かもしれません。 Det Norske Veritas(DNV)が推進する ステムを設置・運転する必要がなくなれば、大 TRIALITY と呼ばれる注目すべきプロジェクト 型プラントが必要な一般的な VLCC には、とり は、今後想定される環境規制の強化に対処する わけ大幅なコスト削減がもたらされます。バラ ため、船舶の設計および運航に新しく興味深い スト水タンクを新造する際には、高いコーティ コンセプトを組み込もうとするものです。 ング基準(PSPC)を満たす必要があります。 コーティングを保ち、船舶の経年に伴う腐食に 試案では、VLCC タンカーに関する 4 つの革新 よってバラスト水タンク内の鋼製部分を改修す 的なアイデアが導入されています。 る必要がある場合には、さらに多額のコストが – 船体と貨物タンクの配置により、バラスト水 かかります。TRIALITY の二重船体構造内部の 不要の船舶を実現する。 ボイドスペースのコーティング基準は、分離式 – 船舶の主燃料として LNG を使用する。 海水バラスト水タンクに比べて少し緩和される – 低温 LNG を使用して、航海中に排出される揮 可能性があり、表面下地、コーティング厚、保 発性有機化合物(VOC)による汚染をなくす。 守費用についても大幅な節減が見込まれます。 – 低温 LNG を使用して、排気を冷却して主機の このように、バラスト水不要の設計は非常に魅 効率を改善する。 力的なのです。 図 1 は TRIALITY VLCC を側面から見たところ TRIALITY は、図 2 に示すように、船体中央部 です。 がほぼ V 型になるように設計されています。こ れは、無積載時にプロペラ深度を保ち、スラミ ングを抑えるために、十分な喫水を確保するた めのものです。 TRIALITY には、縦方向の強度の低下を補うた め、縦に 5 つの貨物セクションが並べられてい ます。つまり、標準的な設計より 2 つ多く縦方 図 1: VLCC の側面 向の隔壁があり、貨物を最大 3 つに分割積載で きるようになっています。それぞれの貨物タン バラスト水不要の船体設計 クは全長方向に沿って積み下ろしされるため、 TRIALITY の船体と貨物タンクは、バラスト水 バラスト水で船体の曲げモーメントを制御する なしで運航できるように設計・配置されていま 必要がありません。 す。標準的な VLCC は、通常、帰路に 8~10 万 トンのバラスト水を運搬します。この 10 万ト バラスト水不要の設計では、バランス調整のた ンを分かりやすく表現すると、エッフェル塔 2 めにバラスト水を使うことはありませんが、 棟分です。これほど大量であるため、推進力の TRIALITY では約 3000 トンの真水を積み込みま 獲得とバラスト水のポンプ処理に、多くの燃料 す。これは、クローズドシステム内で、必要に を消費することになります。バラスト水処理シ Will TRIALITY become a reality? – An innovative crude oil tanker concept 10 Gard News 204 November 2011/January 2012 応じて船首と船尾のタンク間を移動させるため ることから、一般的な VLCC よりも冗長性が高 のものです。 くなっています。Wartsila 社も、同じ出力性能 を持つ 2 ストロークエンジンの開発に取り組ん でいます。 TRIALITY は、試験的に舶用ディーゼル燃料 (MDO)を使用しています。石油燃料で 10 日 分に相当する舶用ディーゼル油予備燃料が積載 可能なように設計されています。1 万 3500 ㎥ (約 6000 トン)の燃料容量は、世界一周に相 当する 2 万 5000 海里を航行するにも十分な量 です。TRIALITY は商業用途が限られているた め、燃料補給は、サウジアラビアのラスタヌラ、 カタールのラスラファンなど、ペルシャ湾での 図 2: 船体中央部 船積みの際に、1 か所でしか行うことができま せん。 LNG 燃料 LNG 船は、すでに何年も運航されています。ボ TRIALITY の主機と二元燃料補機により、大気 イルオフガスを推進燃料に使う LNG タンカー 汚染物質の排出は大幅に減少します。EGR シス は、30 年以上の運行実績があります。現在、 テムにより、CO2 排出量で約 22%、SOx と特定 LNG 運航業者以外が運航管理している LNG 船 物質排出量で約 94%、NOx 排出量で約 84%が削 は 22 隻のみです。これらは比較的新しい船で、 減されます。 すべて過去 10 年以内に建造されたものです。 いずれも小型で、ノルウェー沿岸海域で運航さ 低温 LNG の利用 – 主機の燃焼用エアの冷却と れています。これ以外には、発注済みの船舶が 揮発性有機化合物(VOC)の回収 20 隻あります。推進燃料に関するルールは、10 LNG は、主機と補機に投入する前に温めておく 年前から存在します。ノルウェー海事局の主導 必要があります。この一部は熱交換機が担いま の下、IMO によって暫定版(2009 年)が導入 す。ほとんど追加コストをかけずに、船内で冷 されましたが、その技術的内容は DNV 規則か 却機能を循環させるグリコール回路が組み込ま らの経験に照らして、同一のものとなっていま れています。このグリコール回路は、安全に多 す。 用途の冷却に利用できます。主機掃気用エアま たは燃焼用エアの冷却には、通常、海水が用い LNG 燃料は、短距離海上輸送の際の代替に過ぎ られます。しかし、海水の温度が 30°C 近い海 ないという見方があります。しかし、 域もあり、その点で制約があります。MAN は、 TRIALITY プロジェクトは、LNG が外航船にと 排気用エアを 10°C まで冷却することで効率が 2 っても有効な選択肢であることを実証していま ~3%向上する可能性があるとしています。同 す。 様に、航海中の VOC の回収にも低温グリコー ルが使用されています。標準的な VLCC の設計 TRIALITY モデルでは、2 基の 2 ストローク低 では、貨物の蒸発ガス(VOC)は大気中に排出 速二元燃料 MAN 社製内燃機関である ME-GI エ されます。調査によれば、1 回の往復で 500~ ンジンが採用されています。MAN 社の ME-GI 600 トンの VOC が大気中に排出される可能性が エンジンは、発電所で使用されてきたもので、 あります。TRIALITY には、北海のシャトルタ 船舶への試験導入を経て大型船舶にも適用可能 ンカーで VOC 回収に使用されている方法より なことが実証されています。エンジンが 2 基あ も、はるかに単純で経済的な方法が組み込まれ Will TRIALITY become a reality? – An innovative crude oil tanker concept Gard News 204 November 2011/January 2012 ています。VOC は貨物に再循環させるか、 コストだけで比較が行われました。LNG 価格を TRIALITY のコンセプトが示すように、別のタ 百万 BTU 当たり 12 米ドルと控えめに見積もり、 ンクに回収して、カーゴポンプやカーゴヒーテ 設備投資コストと 20 年間の節減分を考慮した ィング用の補助ボイラーの燃料として供給する 場合、約 2000~2400 万米ドルの削減効果が得 ことができます。 られます。その他の航行に関する変動コストに ついては、TRIALITY と標準的な VLCC の間に 上記のとおり、LNG の冷却能力の適用に加えて、 大きな差はないと思われます。米国エネルギー 空調装置、冷凍装置、冷蔵装置などの冷却能力 情報局(EIA)は、LNG と重質燃料油の価格変 も利用できる可能性があります。現在、漁船用 動は相対的であると予測しています。これによ として、このようなコンセプトに基づいて開発 れば、LNG 価格の上昇は原油価格や、重質燃料 されています。 油、舶用ディーゼル油の価格の上昇より穏やか であることが予想されています。 大幅な環境改善 – 要約 TRIALITY VLCC の環境面への効果は、標準的 各コストの試算には大きな不確定要素が残って な VLCC と比較した場合、以下のように見積も いるものの、船舶の耐用年数全体で見た場合に ることができます。 は、TRIALITY の方が標準的な VLCC より経済 – バラスト水不要 的に優れている可能性があります。 2 – CO 排出量: 34%減 – SOx 排出量: 94%減 果たして、LNG 燃料は入手できるのか – 特定物質排出量: 94%減 今のところ、船舶用燃料として LNG を入手で – NOx 排出量: 82%減 きる場所はわずかしかありません。しかし、こ 航行中の VOC 排出量: 100%減 こ数年の間で、ノルウェーでは船舶用に LNG を供給するためのインフラが整備されつつあり さらに、TRIALITY の燃料消費量は標準的な ます。LNG は、重質燃料油や舶用ディーゼル油 VLCC を 11%下回ると見積もられています。主 よりも低コストであり、排出ガスもよりクリー 機に VOC を使用した場合、燃料効率は 25%向 ンであるため、世界中の LNG ターミナルの所 上します。 有者、LNG 補給船の所有者や供給業者は、LNG 船舶用燃料の供給を事業機会として捉え、LNG TRIALITY は経済的に魅力的な選択肢になりう 補給のインフラが世界中で速やかに整備されて るか いくものと予想されます。海上補給と流通の将 DNV は、従来の VLCC と比較するにあたり、 来性を見込んで LNG ハブの建設を行っている TRIALITY の設備投資コストとランニングコス シンガポール電力がその好例です。TRIALITY トの数値化を試みました。船体、LNG タンク、 プロジェクトでは、ラスタヌラを船積みターミ システムの製造コスト、エンジンとボイラーの ナルとして使用しており、船舶はペルシャ湾で コスト、VOC システム、タンク、冷却システム のみ補給を行い、1 回の補給で 1 往復分の LNG のコストを合わせて、約 3000 万米ドルの追加 を供給することが想定されています。ペルシャ 資本支出が必要です。ボイドスペースのコーテ 湾では大量の LNG の産出・輸出が行われてい ィング費用の削減と、標準的な VLCC が環境基 ます。ラスタヌラは世界最大の LNG 産出国で 準を満たすために装備しなければならない SOx あり、かつ輸出ターミナルであるカタールの近 洗浄システムとバラスト水処理システムのコス くに位置します。船積みは、米国メキシコ湾の ト削減による設備投資コストの節減効果は約 LOOP でも可能です。北米では大量のシェール 1000 万米ドルです。 ガスが発見され、輸入ターミナルのいくつかを 輸出用に転換する計画が進められています。 ランニングコストについては、最も重要な燃料 Will TRIALITY become a reality? – An innovative crude oil tanker concept Gard News 204 November 2011/January 2012 まとめ DNV が開発した TRIALITY コンセプト原油タ ンカーは、採算面のメリットを得ながら、2020 年以降の環境規制に対応できる革新的な原油タ ンカーモデルです。TRIALITY コンセプト VLCC は、他の VLCC と同様の運航能力を持ち 合わせています。十分に実証された既存の技術 をベースにしながら、バラスト水不要の船舶を 実現し、SOx や、NOx、特定物質の排出量を来 るべくマルポール条約附属書 VI による強化基 準以下に削減し、航行中の VOC 排出量を削減 することができるのです。この設計によってバ ラスト水の問題をすべて回避できれば、船舶運 航業者は、事業運営の上でも多くの価値とメリ ットを得られることになります。TRIALITY は まだコンセプトの段階ですが、そこに盛り込ま れている技術はすべて既存の実証済みのものが 採用されています。 Will TRIALITY become a reality? – An innovative crude oil tanker concept Gard News 204 November 2011/January 2012 船体および機関の事故 – 自動タンクゲージシステムの故障 Hull and machinery incident – Faulty automatic tank gauging system 数年前に起きた以下の事故は、メンテナンス不足がいかに時間と費用の損失につながるかを示す典 型例です。 1977 年建造の一隻の中型ケミカルタンカーが、 いて貨物の荷役作業を禁止することを告げまし 積荷を積載して、南米のある港から米国メキシ た。 コ湾沿岸地域の複数の港に向けて航行中でした。 同船の合計 38 基のタンクには、4 基を除いて、 それぞれ異なる種類の化学物質が満載されてい ました。 最初の荷揚港で、通関手続きと積荷のサンプル 検査を終えると、乗組員はすぐに荷揚げの準備 を始めました。 船には自動タンクゲージシステムが装備されて タンカーのカーゴマニホールド いたものの、乗組員はこの装置に信頼を置いて いなかったため、船積みと荷揚げ作業時には手 動測深も並行して行っていました。同船の保守 手順によれば、緊急アラームをはじめとする、 自動タンクゲージシステムの各機能を定期的に 検査・点検しなければならないことになってい ました。 同船は、翌朝には出航することが予定されてい ました。荷揚げを開始してから 2 時間後に、米 国沿岸警備隊(USCG)の 2 名の担当者が定例 ケミカルタンカーの甲板の様子 のポートステートコントロール検査のため乗船 しました。検査を受けた法定証明書と書類につ ゲージシステムの修理は、タンクを空にしたう いては、すべて適法であると判断されました。 えで、洗浄とガスフリー作業を行ってからでな その後、2 人は一等航海士とともに船舶の実地 いとできないため、その知らせを受けた同船の 検査を始めました。荷役制御室で、一等航海士 代理人と船主は、USCG から荷揚げの許可を得 がいくつかの自動システムを稼働させながら説 ようと手を尽くしました。 明を行ったところ、いずれも正常に動作してい るようでした。最後の検査項目が自動タンクゲ USCG との交渉が不首尾に終わったため、公海 ージシステムでした。1 番タンクのシステムを まで出て、貨物を一旦空のタンクに移し、4 基 稼働させたところ、動作不良が見つかりました。 ずつ洗浄、ガスフリー作業、修理という工程を そこですべてのタンクを検査したところ、28 基 繰り返して、28 基全部のタンクを修理するしか のタンクの自動タンクゲージシステムに不具合 方法は残されていませんでした。 があることが判明しました。USCG の担当者は、 船長にただちに荷揚げを中止するよう要請し、 しかし、もう 1 つの問題は、28 基のタンクに不 ゲージシステムが修理されるまで米国領海にお 具合が生じているのに対して、同船では 4 つの Hull and machinery incident – Faulty automatic tank gauging system 12 Gard News 204 November 2011/January 2012 測深システム分しかスペア部品を用意していな かったことです。その他にも、タンク内に入っ てみないと、どのスペア部品が必要か分からな いことや、スペア部品を公海上の同船まで運ぶ 手間が生じるという問題がありました。在庫状 況が分からないため、スペア部品の納入時期も 不明な状態でした。この方法では膨大な時間が かかることはすぐに明白になりました。 結局、船主が何とか必要なスペア部品を入手し てボートでタンカーまで運び、乗組員の手で修 理が実施されました。すべの修理が終わるまで 16 日かかりました。ゲージシステムの不具合の 原因はメンテナンス不足であることが判明した ため、保険で損失が填補されることはありませ んでした。 同船は、修理の完了後、荷揚港に戻って、再度 USCG によるタンクゲージシステムの検査を受 けて、漸く荷揚作業の開始許可を取得すること ができました。今回の事態は、すべての関係者 の時間とコストを無駄にするものでした。 教訓 検査を通じて、ゲージシステムの点検が長期間 にわたり実施されていなかったことが判明して います。点検を実施していれば、ゲージシステ ムの問題をより早い段階(船積み前)で見つけ ることができたはずです。 この事故の結果、同船の船主と乗組員は、メン テナンス手順全般を改善し、船積みと荷揚げ前 の点検を含めて、自動タンクゲージシステムの 点検を行い、その結果をすべて航海日誌に記録 するようになりました。 Hull and machinery incident – Faulty automatic tank gauging system Gard News 204 November 2011/January 2012 重量物の事故 – クレーム処理の問題 Heavy lift incidents – Claims handling issues 前号の Gard News の記事1では、重量物に関する契約上の課題とリスク配分について考察しました。 今回は、数百万ドル規模のクレームにつながりやすい重量物の事故に関連して、そのクレーム処理 の問題点を取り上げます。 転覆し、2 名の乗組員が死亡し、荷主側の船積 現場の監督者が重傷を負うという事故がありま した。P&I により、死亡した乗組員の未亡人に 対する組合員の契約上の死亡補償責任額と、米 国の裁判所で申し立てられたクレームの応訴に かかる費用がてん補されました。重傷を負った 米国人監督者の和解金は高額に上ったものの、 こちらも P&I でてん補されました。さらに、こ 事故の性質 の事故では、船体保険者が推定全損とその後の これまでの経験では、事故が最も発生しやすい 委付を認定したことを受けて、船舶の燃料タン 吊り上げ作業時以外でも、船積み後や、航海中、 クからの油濁の除去と船骸撤去にかかるコスト 荷揚げ前に、重量物ユニットの固縛の問題が原 も P&I でカバーされました。一部のケースでは、 因で事故が発生することがあります。ロス・プ Gard 約款の「追加取り扱い費用」4または「財 リベンション・サーキュラー2の最近の号で、積 物の滅失または損傷」5の条項が関係してきます。 荷を固縛する際の高熱作業の危険性を取り上げ 前者は、損傷した貨物または荷受人が受け取り ました。Gard では、これまでに、高熱作業が原 を拒否した貨物を取り扱ったことで組合員に生 因で、重量物が火事に見舞われたケースを多数 じるコストをてん補するものであり、後者は、 扱ってきました。中には、船舶に設置された炭 財物(係留場所、バージ・ローダー船など)が 酸ガス消火装置では鎮火できずに、700m/t の海 貨物によって被った損傷に関する責任をてん補 水を船倉に投入してようやく鎮火できる程の大 するものです。重量物自体の損傷・滅失に関す 規模な火災が発生したケースもありました。最 るクレーム(同じく、P&I でてん補)は、共同 近では、大西洋を航行中に荒天に遭い、貨物の 海損の宣言によってさらに複雑化することがあ 固縛が不十分であったことから、貨物のジャッ ります。これも、専ら海上運送契約の違反を理 キアップリグをすべて喪失してしまうというケ 由として補償されない共同海損の荷主側の負担 ースもありました。 分について、P&I によりてん補される場合があ ります6。共同海損には、当該船舶のシェア分の 多数のクレームと保険担保 船体保険契約も含まれる場合があり、この保険 以前の Gard News の記事3で、多数のクレームを 契約が、高額になることが多い船舶自体の損傷 招いた重量物の事故を取り上げたことがありま に対応します。 す。その中の一つに、吊り上げ作業時に船舶が 1 Gard News203 号の記事「Heavy lift cargoes – Contractual issues and risk allocation」 2 ロス・プリベンション・サーキュラー No. 06-10「The dangers of hot work on cargo securings」 3 Gard News188 号の記事「US Law – Forum non conveniens explained」および Gard News196 号の記事「The bigger they are, the harder they fall」 Heavy lift incidents – Claims handling issues 4 5 6 14 約款第 35 条 約款第 39 条 約款第 41 条 Gard News 204 November 2011/January 2012 複雑なクレーム処理 最初に現場に随行することの多い現地のサーベ 多数のクレームが頻発することが、実態の複雑 ヤーは、訴訟手続きに提出するための証拠の保 さをよく表していますが、クレーム処理担当者 全のような複雑な業務を十分にこなせる能力を にとっては大変です。 備えていない場合があるので、そのサポート役 として専門家を指名する必要が出てくるケース 初期対応 もあるでしょう。動作不良を起こした吊り上げ 財物に対してだけではなく、人や環境にも損害 装置などの物的証拠も保全する必要があります。 が生じた場合に、組合員の初期対応を支援する 動作不良を起こした装置が特定されたら、その クレーム処理チームが必要な場合がよくありま 原因を特定するための試験が必要な場合があり す。P&I コレスポンデントは、クラブと組合員 ます。その場合は、金属の専門家などの力を借 に代わって、クレーム対応サービス事業者を紹 りる必要があるでしょう。損害の程度と範囲を 介するだけでなく、その事業者の活動とコスト 判断するには、損傷した貨物自体の専門家も必 を監視する適任者の紹介も行います。必要に応 要になるかもしれません。外部損傷ではなく、 じて、クラブから経験豊かな処理担当者を現場 変圧器などの貨物ユニットの内部損傷が原因と に派遣して組合員とコレスポンデントを支援す なるケースもかなりあります。専門家に、荷主 る場合もあります。また死傷者を伴う事故では、 の提案する損害軽減措置の工程を監視させるこ マスコミからの注目度が高くなるため、メディ とも必要かもしれません。 ア対応コンサルタントの助言が必要な場合もあ ります。 貨物の利害関係者は、本来その貨物を必要とし ていたプロジェクトへの影響を最小限に抑える 調査 ため、何らかの処置を講じることが多くありま 事実を固めて証拠を保全するという観点から、 す。しかし、その処置に伴って生じる追加費用 調査が特に重要です。吊り上げ作業中の事故の は、必ずしも運送人によって補償されるとは限 場合、考えられる原因が複数あるのが通常です。 りません。このような損害軽減措置は、貨物ユ 例えば、貨物ユニットや船舶の安定性の喪失、 ニットの事故後の処理と同時に開始すると同時 吊り上げ装置や吊り上げポイントの不具合、貨 に、さらなる損害の拡大を防止するため、専門 物ユニットやクレーン自体の破損、昇降装置自 家のアドバイスを求めることも必要です。 体の動作の不具合などが原因として考えられま す。また、根本原因も調査する必要があります。 目撃者の証言を十分に引き出す力のある弁護士 例えば、吊り上げポイントの不具合が原因であ を選任することも大切です。重量物の事故では、 った場合、ポイント自体に欠陥や強度不足があ 作業中に誰が指示を出し、誰が作業したかがい ったのか否か、その場合は、荷主から提供され つも争点となります。負傷者が出た場合には、 た貨物ユニットの重量が正確であったか否か等 関係当局の調査が入る可能性があるので、その を調査する必要があります。一方、安定性を失 対応も求められます。 って貨物ユニットが損傷した場合には、船舶側 に問題(例えば、バラストの移動)があったの 法的な問題 か、貨物ユニットに問題(例えば、重心)があ 重量物の事故では、以下のような法的な問題が ったのか調査する必要があります。迅速に対応 持ち上がることが多いため、適切なアドバイス しないと、重要な証拠を確保できなくなる可能 が得られる弁護士が必要です。 性があります。場合によっては、事故の直後に、 昇降機装置などを移動させて安全を確保するこ 契約上の取り決め、抗弁、および償還請求 とが必要です。逆にいえば、それ以外は、事故 前号の Gard News の記事では、現在使用されて 時の配置状況が証拠として保全されるまで、装 いる各種の標準契約様式を取り上げました。し 置等の位置を移動させない方がよいでしょう。 かし、大勢の当事者が関係するようなケースで Heavy lift incidents – Claims handling issues Gard News 204 November 2011/January 2012 は、それだけで対応できるとは限りません。事 故が、船荷証券の発行前に発生する場合もあり ます。どのような状況において、どのクレーム が当てはまるかを判断するには、ノック・フォ ー・ノック協定を考慮に入れる必要があるでし ょう。あるいは、事故原因となった作業につい て、どの当事者に責任があるかを特定する必要 があります。また、適用可能な抗弁について考 慮する必要もあります。例えば、ヘーグ・ルー ルまたはヘーグ・ヴィスビー・ルールの下では、 「固有の瑕疵」、「管理の瑕疵」、または「荷 送人の作為または不作為」を主張できることが あります。組合員の有する資格にもよりますが、 用船主または船主に対して償還請求するという 方法もありえます。また、荷送人または動作不 良を起こした機材のメーカーに対して償還請求 できる可能性もあります。 責任制限と準拠法 この 2 つは相互に関連したものであり、当事者 による「フォーラム・ショッピング(管轄地漁 り)」の要素が関連する場合もあります。運航 業者と船主の責任制限が、最も重要な問題の一 つとなる可能性があります。海上物品運送のル ールでは、梱包数または貨物ユニットの重量の いずれかを基準として「梱包制限」が規定され ています。海事クレームの責任制限を定めた協 定においては、船舶のトン数を基準として「グ ローバル制限」が規定されています。責任制限 の水準は国ごとに異なります。また責任制限に かかるテストや責任制限が適用されるクレーム についても国ごとに異なります。したがって、 責任制限の問題がもたらす潜在的な影響は大き くなる可能性があります。特に、重量物運搬船 のトン数は、一般的に貨物船に比べて小さく、 「グローバル制限」が適用されることの影響は 小さくありません。例えば、数百万ドル規模の クレームを招いた最近の事例では、船舶の登録 総トン数は 2,368MT でした。この場合のトン数 を基準とした財産請求権の上限は、1976 年制限 重量物の事故は数百万ドル規模のクレームを招 きやすい この法的問題の重要性を示す例として、最近 Gard が扱った 2 つの対照的な事例を紹介します。 最初の事例は、ガスタービンが荷積み中に船舶 のクレーンのワイヤーがほどけて落下したケー スです。フランスの裁判所は、運航業者がワイ ヤーの保守管理と、損害発生の可能性について 注意を怠っていたことは重過失にあたると判示 し、同運航業者については 33 万 US ドルの梱包 (重量)制限の適用を除外し、300 万 US ドル のクレームの法的責任を負わせました。このケ ースでの救いは、Gard が、デンマークにおいて、 同運航業者のグローバル制限を 220 万 US ドル に限定する手続きを行っていたことです。もう 一つは、重量物 2 個が甚大な損害(合計で推定 2,000 万 US ドル相当)を受けたとして米国の裁 判所に提訴されたケースです。貨物の利害関係 者らは、本来の高額な金額を申告する機会が与 えられなかったと主張し、米国の国際海上物品 運送法(COGSA)が定める 500US ドルの梱包 制限については、当該運航業者には適用されな いと抗議しました7。裁判所は、荷送人用に、高 額な金額を追加申告するためのスペースを船荷 証券に設ける必要はなく、US COGSA の 500US ドルの梱包制限が運送契約に適用されることが 船荷証券に記載されていれば十分であると判示 しました。その結果、運航業者の責任は、 1,000US ドルに制限されました。 条約の下で 77 万 US ドル、1976 年制限条約の 1996 年附随書の下では 180 万 US ドルになりま す。 7 Gard News184 号の記事「The fair opportunity doctrine」参 照。 Heavy lift incidents – Claims handling issues Gard News 204 November 2011/January 2012 保証状 たように、多くの問題への対処の巧拙によって、 高額化する可能性のあるクレームに対応するた 経済的な結果が大きく異なってきます。それと めの保証状を要求することは特別なことではあ 同時に、組合員の皆様のビジネスと評判を守る りません。こうすることで、上記の法的問題の には、初期対応も重要な鍵となるのです。 観点からだけでなく、差し押さえたれた船舶 (あるいは差し押さえのおそれのある船舶)の 価値が、要求された保証状の金額より低い場合 は、事態が複雑になる可能性があります。将来 の償還請求に対抗する保証状を要求することで、 さらに複雑化する可能性があります。 クレームにさらされないようにするには クレームにさらされないようする一番の方法は、 言うまでもなく、事故を回避することです。慎 重な計画を立てることが肝要であり、適切なリ スクアセスメントを実施すれば、それに見合っ たメリットが得られます。問題が生じた場合は、 直ちにその事実をクラブに通知してください。 そうすることで、クラブ側は初期対応の支援を 提供できるだけでなく、調査と法的問題への対 応が迅速に行えるようになります。証拠として、 吊り上げ作業の様子を撮った写真かビデオがあ れば役立つでしょう。法的問題の観点でみると、 契約上の取り決め内容が鍵となります。契約上 の取り決めを行う前に慎重にチェックしてくだ さい。疑義が生じた場合には Gard にご相談い ただくことも可能です。標準の契約条件を適用 している場合でも、リスクを抑えるための修正 条件案を Gard からアドバイスすることが可能 です。高額なクレームにさらされる可能性を想 定して、契約相手(およびその保険者)の財務 状態を注視しておくことも必要です。契約相手 に償還請求に対応できる財務体質や資産がなく、 頼れる保険にも加入していない場合、請求する 意味がなくなってしまうからです。 まとめ 重量物の事故に伴って生じる様々なクレームに 対応するには、クレーム処理に関する一定水準 の専門知識が必要です。Gard には、サービス提 供者と協力して、数多くの事例を取り扱ってき た豊富な実績があります。この記事でご紹介し Heavy lift incidents – Claims handling issues Gard News 204 November 2011/January 2012 燃料油に関する契約 Bunkers contracts 今回の Gard News では、燃料油の供給に係る契約に関する問題のうち、船主および用船者に影響を 及ぼす可能性のあるものを取り上げます。 船舶用燃料油の供給に係る契約は、船主、用船 期限 者、燃料油の売主に多くの問題をもたらすこと 燃料油の引き渡しに関するクレームの申立て期 があります。しかし、契約内容をつぶさに見る 限は、通常は非常に短く、多くの場合、数量や と、買主にはやっかいな責任が課せられている 品質に関するクレームとは異なる期限が設けら ことが判明するでしょう。それは、買主が用船 れています。標準的な契約では、不足渡しに関 者であっても船主であっても同じです。 するクレームの申立て期限は、通常、引き渡し 後 15 日とされています。品質に関するクレー 燃料油の販売に関する契約には、当事者間のす ムの申立て期限は 30 日であることが一般的で、 べての取引に適用される一般的な内容の条項が この場合、買主は極めて厳格な手順に従わなけ 含まれることが多く、他の契約よりも高い優先 ればなりません。 順位が与えられることがあります。例えば、買 主が燃料油の販売会社が売主の関連会社である 責任の制限 ことを知らなかったとしても、その関連会社は 通常、契約には責任制限条項が盛り込まれてお その一般条項の影響を受けることがあります。 り、売主の責任は、契約に基づいて請求された 金額または該当する燃料油の撤去費用に限定さ 品質と数量 れます。 品質とは、引き渡し時および引き渡し場所にお いて顧客に提供される売主の商用品質であると 驚くことではありませんが、大抵、派生的損失 定義できるでしょう。しかし、契約には、多く と人身傷害に対する責任は除外されています。 の場合、「売主は、引き渡し時および引き渡し また、銀行から売主に対して費用の担保が提供 場所における売主の商用品質であることを除き、 されていない場合には、売主に対する請求権は 品質については一切保証しない」、「売主は、 放棄されたものとみなす旨を定めた契約もあり 提供された製品の品質の満足度、適合性または ます。 適正については一切保証しない」といった条項 が盛り込まれています。品質に対してクレーム 給油作業中の流出 を申立てる際に、このような条項が問題になる 契約には、流出を規制する条項が盛り込まれて おそれがあります。 いることがあります。この場合、売主には、通 常、損害を最小限に抑えるために必要であると 契約には、引き渡される燃料油の量は売主の任 判断したあらゆる措置を講じる権限が与えられ 意の計量方法で決定されること、買主には売主 ています。費用は、流出を発生させた当事者が の計量結果に従って代金が請求されることが定 支払うか、両当事者に責任があれば、両当事者 められる場合があります。そのため、買主は、 がその責任に応じて分担します。 計量時に独立したサーベヤーを立ち会わせるよ うに推奨されることがよくあるでしょう。しか 担保権(Lien) し、契約に、「数量の決定は、売主が単独で行 燃料油供給契約の中には、買主が船舶の船主で う」といった条項が含まれている場合がありま あるか用船者であるかにかかわらず、売主は す。 「引き渡された燃料を搭載する船舶に対して、 担保権を主張する権利を有する」と定めたもの Bunkers contracts 17 Gard News 204 November 2011/January 2012 があります。この条項を承諾すれば、用船者は、 自らが所有していない財産に対して、担保権を 第三者に与えてしまうことになります。このよ うな条項が及ぼす法的な影響ははっきりしてい ません。 補償条項 契約によっては、「専ら売主の過失による場合 を除き」、買主が「あらゆる費用、請求、要求 または責任、財物の損傷または人身傷害」につ いて売主を免責することを定めた補償条項が盛 り込まれているものがあります。この場合、売 主の過失に起因する場合以外でも、買主に補償 責任が発生します。契約には、売主の責任は売 主の重過失または故意の不法行為によって生じ た損害および費用に限定されると定められてい ることもあります。 保険 大抵の保険契約には、被保険者が第三者への損 害賠償請求権を放棄した場合には担保に影響が 及ぶ可能性がある旨が定められています。しか し、この規定は、取引上「一般的」または「慣 例的」な取引とみなされる契約には通常は適用 されません。したがって、締結した契約が「一 般的」な取引とみなされる限り、保険担保は影 響を受けないでしょう。 まとめ 用船者および船主は、燃料油供給契約に署名す る前に、すべての条項を慎重に検討する必要が あります。そうすれば、驚くような事態に遭遇 しなくて済むかもしれません。 Bunkers contracts Gard News 204 November 2011/January 2012 ブラジルにおける用船者の汚染責任 Charterers’ pollution liability in Brazil 今回の Gard News は、ブラジルの政府機関による汚染に関するクレームに対して定期用船者および 航海用船者が負う厳格責任を取り上げます。 者負担」原則に合致するものです。 注目すべき例外は米国であり、米国では、連邦 法と一定の州法については、汚染に関する罰金 や損害賠償に関して裸用船者に厳格責任を直接 負わせることを認めたものと解釈することがで きます。これは、現在有効な各種の法規では、 船舶の「運航業者」または賃借用船者のいずれ かが定義されており、どちらも裸用船者を含む 汚染責任に対して政府機関が課す罰金および汚 染損害の賠償については、責任の擁護が難しく、 船主の費用的な負担が大きくなる場合がよくあ ります。これは、そのほとんどが「厳格」責任、 つまり被告に過失があることを証明する必要が ないためです。船主は、汚染事故に対する責任 を問われた場合でも、用船契約に基づき定期用 船者または航海用船者へ請求することにより、 後々損失を回収できることが往々にしてありま す。しかし、ほとんどの法制度は汚染事故に対 して第一次的な責任を負う者として船主を位置 付けていることから、用船者が罰金や処罰など の処分に対して直接責任を負うようなことはほ とんど聞いたことがありません。ブラジルは、 この原則に関する注目すべき例外のようです。 と解釈されているからです。しかし、定期用船 者と航海用船者については、船舶の日常の運航 管理を行う者、またはかかる運航について責任 を負う者として明確に定義されていないため、 米国でも、定期用船者と航海用船者には直接責 任を問うことはできないとされています。 しかしブラジルは、汚染事故の際、定期用船者 と航海用船者が、船主や裸用船者と同様に直接 厳格責任を問われる可能性があるという点で、 一般に認められた国際的な見解とは異なる法律 を有する唯一の法域といえます。 汚染責任に対するブラジルの法的枠組 ブラジルの法律は、法典化された法体系であり、 行政法、民法、刑法の 3 つの法分野において責 任が発生する可能性があります。それぞれの執 用船者の責任-国際的な基準 大半の国が加入している国際的な補償制度(民 事責任条約、基金条約、有害危険物質条約)1で は第一次的責任を船主と保険者のみに課してい るので、ほとんどの法域では、用船から生じた 汚染事故において、船舶の用船者(裸用船者、 定期用船者、航海用船者を含む)が政府機関に よる罰金や賠償請求に対して直接責任を負うこ とはありません。これは、海洋汚染事故に対す る責任の基礎をなす一般的に認められた「汚染 行権限は、別個の国家機関に与えられています。 実際にブラジルで汚染事故に対する刑事責任が 海運業者に課されることはあまりないため、本 稿では刑法分野は取り上げません。 行政法 行政法上の責任は、1998 年連邦法第 9.605 条と 2000 年連邦法第 9.966 条で定められています。 この分野の法律は、ブラジル海軍に執行権限が あり、船舶、プラットフォーム、海洋サポート 施設に適用され、1 事故当たり 5,000 万ブラジ 1 1969 年および 1992 年の民事責任条約、1992 年基金条約、 1996 年有害危険物質条約 Charterers’ pollution liability in Brazil 18 ルレアルの罰金に加え、汚染の原因となった船 Gard News 204 November 2011/January 2012 舶の活動の停止や禁止等、より厳しい処罰を規 定しています。これは厳格責任によるものです Gard は、最近、ブラジル港を運航中の用船船舶 が、責任を負わせるには、汚染と関係当事者の が起こした燃料油の流出事故について、用船者 作為または不作為との間に因果関係があったこ である組合員に対して賠償請求が行われたとの とが証明されなければなりません。行政処罰を 通知を受けました。上記の検証の適用を争い、 定期用船者または航海用船者に課そうとしても 用船船舶が汚染源であったと主張する以外、こ 処分の成立する見込みが薄いのは、この因果関 の種の請求に対する抗弁として用船者が主張で 係の立証要件が主な理由です。したがって、行 きることはほとんどありません。 政法は、定期用船者または航海用船者にとって 大きな問題とはなりません。 外国用船者に対する求償およびリスク ブラジルの現状は、船舶の日常の運航に関して 民法 管理権は有さないのに、汚染損害に対する賠償 民事責任は、1981 年連邦法第 6.938 条で定めら 責任を負わされるばかりの用船者にとって、以 れています。民法上の法的措置は、連邦と州の 下の理由からそれほど悲観的なものではありま 公設弁護士が行います。これは、定期用船者と せん。 航海用船者が直接責任を問われる、より厳格な 措置です。 一点目は、用船者の責任は、船主との連帯責任 であることです。通常、船主が、積極的に請求 処罰は、懲罰主義に基づくものではなく、環境 に対応することが期待できます。なぜなら、船 に与えた損害を州に対して賠償する義務、汚染 舶が強制執行を受けた場合、船主の受ける損害 事故に起因して第三者の財産に与えた損害、第 が最も大きいからです。 三者の活動に与えた悪影響および経済的損失に ついて、当該第三者への賠償義務を認め、これ 二点目は、法律が、他の当事者に対する求償を を強制することを目的としたものです。 禁止していないことです。用船者と船主間の契 約に基づいて請求する場合もあれば、汚染の原 行政法上の責任の場合と同様、民法上の責任は、 因となった疑いのある行為(例えば、曳船に運 過失を条件とするものではありません。しかし、 航上の過失がある場合や、港湾当局が責任を負 行政法と異なり、当事者の行為と汚染損害との っている港湾内で海図に記載されていない(ま 間に因果関係は求められません。特定の当事者 たは標識のない)障害物に接近した場合)を行 が環境損害に対する賠償義務を負うかどうかを った第三者に対して訴訟する場合もあるでしょ 判断するには、その当事者が汚染の原因である う。ただし、求償を行うには、用船者が自らに 経済活動に関与し、その経済活動から利益を受 課された処罰を果たしていることが必要です。 2 けていたか否かの検証が必要です 。これは、非 用船者は、船舶に対して、ブラジル内の港への 常に広範囲にわたる検証です。 寄港指示を出す前に、用船契約の汚染責任に対 するリスク分担に関する条項を確認すべきでし この検証を適用すると、定期用船者と航海用船 ょう。 者(おそらくは貨物関係者も含めて)が、ブラ ジル海域で航行する用船による汚染によって生 三点目は、用船者がブラジル企業か、ブラジル じた環境損害に対して、賠償義務を負わされる に登記されている場合、その他の用船者よりも、 可能性があることがすぐに分かります。用船者 民事上の賠償請求を受ける可能性が高いといえ は、船主と他の多数の当事者と連帯して責任を ます。その理由は、単に、外国企業よりもブラ 負うことになります。 ジルの現地企業に対しての方が行使し易いから です。また、被告である用船者がブラジル企業 2 ではなく、ブラジルに財産も有していない場合、 第 14 条セクション 10 Charterers’ pollution liability in Brazil Gard News 204 November 2011/January 2012 被告の用船者が用船した船が、その後ブラジル の管轄域に立ち入っても、措置を講じることは 法律上認められていないということは注目に値 します。当然、被告の所有船がブラジルの管轄 域内に立ち入った場合にはこの限りではないた め、事案ごとにリスクを評価する必要がありま す。 まとめ ブラジル法の下では、ブラジルの管轄域内で用 船船舶による汚染事故が発生した場合には、定 期用船者と航海用船者のいずれも、当局による 罰金や賠償金の請求を受ける可能性があります。 行政法上、用船者は、船舶の日常の運航を管理 しておらず、汚染事故の原因ではないことを裁 判所に証明すれば責任を免れると思われます。 しかし、民法上は、環境損害の賠償義務を成立 させるために行われる検証の範囲が、用船者を 包含してしまうほど広範なものであることから、 用船者は、船主と、ブラジル内での船舶の活動 に参加しそこから利益を享受している他の当事 者と連帯で責任を負うことになります。 しかし、ブラジルの用船者は、外国の用船者よ りも民法上の賠償請求を受け易いのが現状です。 また、他の用船をこうした請求の執行訴訟の対 象とすることはできません。さらに、用船者は 船主と共に召喚されることが多いものの、船主 が、船舶の抑留を回避しようと積極的な措置を 講じるため、用船者は直接の賠償責任を免れる ケースがほとんどです。また、用船者が、汚染 に対して責任を有する当事者に対して求償を求 めることや、かかる責任について契約でリスク を分担することは禁じられていません。 リオデジャネイロの Carbone Law Office には、 本稿の作成にあたり極めて貴重なお力添えをい ただいたことに感謝いたします。 Charterers’ pollution liability in Brazil Gard News 204 November 2011/January 2012 まるでジグソーパズル – ディープウォーター・ホライズン訴訟の最近の判決 Pieces of a jigsaw puzzle – A recent ruling in the DEEPWATER HORIZON litigation 2010 年 4 月のディープウォーター・ホライズン事故に対する訴訟は、現在も複数の連邦裁判所にお いて進行中です。これらのうち広域係属訴訟に関して、ニューオーリンズ連邦地方裁判所の担当判 事であるカール・バルビエ判事は、この訴訟の主柱を成す多数の争点のうちのいくつかについて、 39 ページにわたる判決書を提示しました。この判決は、少なくとも今後控訴審判決が出るまでの間 は、米国の海上での油濁事故にも適用され、影響を及ぼすものと思われます。 ディープウォーター・ホライズン事故は、非常 米国では包括的で広範囲に及ぶ法律が制定され に規模が大きく、訴訟上の請求は「束」と呼ば ると、その法の規定が「ジグソーパズル」に例 れるいくつかの下位グループに分割されます。 えられる巨大な法律の枠となり、裁判所は判断 バルビエ判事は、「B1」という束に関連するい や判決という形でパズルのピースを埋めてきた くつかの申立てについて判決を下しました。こ のです。1990 年油濁法(OPA90)については、 の束には、経済的損失および物的損害に対する 20 年以上にわたってこのような状況が続いてい 非政府当事者の請求のほか、ディープウォータ ます。しかし、幸いにも重大な油濁事故は頻発 ー・ホライズンが関わる石油流出により生じた しないため、このパズルを埋めるプロセスは、 金銭的損失の賠償を請求した漁師、水産物加工 通常よりもゆっくりと進行しているのです。 業者、娯楽企業や商業施設、工場やドックの作 業者、その他のあらゆる個人や事業体が含まれ 争点 ています。この「束」の請求者だけで、10 万人 バルビエ判事は、この判決の際、同じ B1 に属 を超えます。 してはいるものの法的立場が少しずつ異なる原 告から出された様々な争点に直面しました。争 過去に重大な流出事故が発生したときと同様に、 点を要約すると、 バルビエ判事は、今まで取り上げられることの – 原告は、OPA90 に基づき、物的損害を伴わな なかった新たな争点に直面しました。21 年以上 い経済的損失の賠償を請求できるか。 前の 1990 年に油濁法が制定されたものの、こ – 当該原告について、経済的損失と物的損失に れまで同法を解釈した訴訟はほとんどなく、そ 対する一般海事法上の訴訟原因は存在するか、 の結果も異なることが多かったのです。 それとも、連邦法である OPA90 の存在がそれ らを排除するか。 – 本件では、これらの原告は連邦法だけでなく、 州法に基づいても賠償請求できるか。 – 本件では、原告は懲罰的損害賠償を請求でき るか、できるとすればその根拠は何か。 – 本件では、原告は弁護士費用を回収できるか。 – 被告である BP 社は、BP 流出補償基金との間 で和解した後にすべての訴権の放棄書に署名す るよう原告に要求することを妨げられるか。 – 提訴前に、OPA90 に基づいて責任主体者に正 ディープウォーター・ホライズン: 裁判所は、 式に請求を提起する必要があるか、また、同様 今まで取り上げられることのなかった新たな争 に責任主体者でない者に提起する必要があるか。 点に直面 Pieces of a jigsaw puzzle – A recent ruling in the DEEPWATER HORIZON litigation 20 Gard News 204 November 2011/January 2012 回答 えられるところによると、補償請求を行ったほ 8 月 26 日、バルビエ判事は、OPA90 というパ とんどの原告にとって、これは完全な棄却を意 ズルのピースを埋めるべく、その他の争点と合 味するものではなかったようです。というのも、 わせて、それぞれ立場の異なる当事者から出さ 彼らは、自らの訴状を「包括訴状」とし、同訴 れた複雑な質問に対する回答を出しました。 状にはなお持続可能な申立てが含まれていたか 流出関連の請求に応じることを目的として事故 らです)。 後に設立された BP 流出補償基金と和解した後 に、原告がすべての請求を完全かつ最終的に放 懲罰的損害賠償については、バルビエ判事は、 棄するという点について、バルビエ判事は、そ OPA90 には規定が一切なく、容認も禁止もして のような放棄は妨げられないことを確認しまし いないと指摘しましたが、同時に一般海事法が た。同判事は、「OPA の目的の 1 つは、石油流 これらの請求に適用されるため、一般海事法を 出の被害者が迅速かつ効率的に補償を受けられ 根拠として懲罰的損害賠償を請求できると判示 るようにすること」であり、こうした放棄はそ しました。 の目的に合致するものであると述べて、その便 宜性と最終性を支持したものと思われます。 弁護士費用については、同判事は、一般海事法、 OPA90、または悪意の例外(同判事は、これは さらにバルビエ判事は、この訴訟では原告によ 本件では適用されないと述べました)の下では る請求には州法は適用されないと判断しました。 規定がないことから回収できないと述べ、各当 同判事は、「この事故により海事法が発動され 事者が自己の弁護士費用を負担するという通常 た…したがって B1 原告の請求には一般海事法 の「アメリカルール」に従いました。もっとも、 が適用される」と述べるとともに、OPA90 の本 同判事は、特定の制定法またはルールに弁護士 来の目的に沿って、同法も適用されることを付 費用に関する規定があることが証明できれば、 け加えました。これらのことから、大陸棚法の 回収は可能であろうと注釈を付け加えています。 ように、他の法律が存在しない場合、連邦法の 「代わり」として州法を適用することは認めら バルビエ判事は、OPA90 に基づく請求の提起は、 れません。また、バルビエ判事は、公海とみな 責任主体者に対して賠償請求を行う前の必須条 される地域、つまり排他的な連邦政府の管轄権 件であって、OPA90 の「責任主体者 が及ぶ地域である大陸棚で事故が発生したもの (responsible party)」の定義に該当しない者を と位置づけ、「したがって、州法は州水域外の 提訴するための条件ではないことを確認しまし 行為に適用しうる場合があるとはいえ、本件で た。 は、統一連邦海事法の必要性が優先すると言わ なければならない。」としました。したがって、 まとめ 同判事は、州法による請求を棄却しました。 バルビエ判事は、本判決において、かなり複雑 ないくつかの法的問題の分類を試み、未完成の 経済的損失の補償を受けるには、損傷を受けた OPA90 ジグソーパズルに埋めるためのいくつか 財物に所有権限がなければならない – この要件 のピースを作成したのです。今後、バルビエ判 は、ロビンス・ドライドックルールとして知ら 事によって、将来追加されるであろう中間判決 れています。裁判所は、その妥当性を改めて確 や、最終的には 3 段階で行われることが予定さ 認したものの、漁師たちは長年この原則の例外 れている本案審理(第 1 段階は 2012 年 2 月 27 として扱われてきたうえに、影響を受けた財物 日に開始)から得られる判決を通じて、より多 に所有権限を有している漁師が多いことを指摘 くのピースが作成されることになるでしょう。 し、したがってこのルールは適用されないとし ました。しかし、漁師以外の所有権限を有さな しかし、海上汚染事例におけるこの種の判決は、 い者の補償請求は棄却されました(しかし、伝 特定の事実パターンに限られたかなり狭いもの Pieces of a jigsaw puzzle – A recent ruling in the DEEPWATER HORIZON litigation Gard News 204 November 2011/January 2012 であるために、将来の事案に適用することは困 難な場合があります。なぜなら、まるで大きな ジグソーパズルのピースのように、1 箇所にし か埋めることができない、特殊なものだからで す。 Pieces of a jigsaw puzzle – A recent ruling in the DEEPWATER HORIZON litigation Gard News 204 November 2011/January 2012 Gard の研修生プログラム The Gard trainee programme 2011 年 8 月に、12 か月間にわたる Gard の研修生プログラムが無事に終了しました。今回が第 4 回 目のプログラムでした。 概要 「私たちは専攻も違うので、プログラムが始ま Gard の人材採用活動の一環として、2005 年に、 ってすぐに、同じ海上保険でもそれぞれが関心 第 1 回の Gard の研修生プログラムが実施され のある分野が違うことが分かりました。クレー 好評を博しました。以降、毎回選ばれた 2 名の ム処理や応訴に強い関心を持つ人もいれば、引 新卒者がプログラムに参加する形式で、2 年ご 受に特化する人もいました。関心のある分野や とに実施されてきました。そして、2010 年には、 持っている知識が違うことは、さまざまな課題 参加者数が 4 名に増員されました。 に取り組んだり、多岐にわたるテーマについて 議論するうえで非常に重要なポイントでした。 このプログラムは、業務経験の少ない(あるい そのことで、知識や物の見方を共有しやすい環 は、全くない)新卒者を、社内のさまざまな部 境が生まれたのです。 署や、ノルウェー内外のオフィスに配属して、 海上保険業界を理解するためのまたとない機会 研修期間中、スキルや専攻に関係なく、Gard の を提供しようとするものです。 主力であるクレーム部門と保険引受部門を中心 に、社内のさまざまな部署に配属されました。 Gard にとっては、業務を通じて参加者を教育し、 これは、私たちが「スペシャリスト」になる前 研修期間の終了時点で、その参加者に対して採 に、事業全体を理解できるようにと配慮された 用を働きかけることができるというメリットも ものです。また、プログラムの最初からメンタ あります(採用の義務はありません)。研修を ーが付き、1 年を通してフォローアップとコー 終えた参加者の中には、Gard とお取引のある海 チングを行ってくれました。 運業界の企業に就職された方も多数いらっしゃ います。 プログラムには、講義、実際のプロジェクト、 課題が組み込まれていました。また、個人単位 2011 年度の研修生プログラム とチーム単位の両方でプロジェクトに参加する 2011 年度のプログラムの採用活動は 2010 年 2 機会が与えられました。 月にスタートし、オスロ、ベルゲン、アーレン ダルにおいて面接試験が実施されました。4 人 クレーム部門では、事例研究を行い、適用され の採用枠に対し、大学の専攻も国籍も多様な る規則や法令に関する研修を受けました。その 200 名以上の方にご応募いただきました。 間には、船舶の見学や船級協会への訪問などを 行う機会にも恵まれました。 選ばれた 4 名の研修生は、ベルゲン、スタヴァ ンゲル、ハウゲスン、イェーテボリの各大学の 引受部門では各種業務を経験するとともに、引 出身者で、経営、海事法、国際商事などの学位 受業務の担当者とスイス、イギリス、キプロス、 を取得しています。2010 年 8 月に、プログラム ギリシャに出張し、クライアントや組合員の が正式にスタートしました。 方々を訪問するなど、実際の海上保険の世界を 体験する貴重な機会となりました。 2011 年度の研修生は、Gard News に対し、Gard での経験を次のように語ってくれました。 例えば、アーレンダルで年 2 回開催される、 Gard の社員以外でも参加可能な「海上保険入 The Gard trainee programme 22 Gard News 204 November 2011/January 2012 門」など、講義やセミナーの日程も組み込まれ 進化させ、将来の研修生によりよい体験を提供 ていました。この講義は、Gard の学習センター できるようにしたいと考えています。 であり、知識の創出と共有を促進する役割を担 う Gard Academy 主催のものです。社内研修に 加えて、社外講習会にも参加することができま した。 言語と国籍のるつぼであるアーレンダルの本社 以外でも、オスロ、ベルゲン、ロンドン、イェ ーテボリ、ピレウスなど、ノルウェー内外の Gard のオフィスで働く機会を頂きました。ロン ドンでは、高等法院の審問へ参加したり、 Lloyd's ビルを訪問しました。 Gard では、さまざまなオフィス、部署を経験し、 さまざまな人と知り合う機会を得ることができ ました。オフィスごとに雰囲気が違っても、ど のオフィスでも共通して友好的で親切に接して いただいたことは申し上げておかなければなり ません。Gard の社員の皆さんからは、知識と経 験を共有してくださる姿勢が感じられました。 私たち 4 人の Gard 研修生にとって、冒険的で 取り組みがいのある 1 年でした」 2011 年度の研修生:(左から)Ronny Waage さん、Thorbjörn Emanuelsson さん、Kine Merete Kronquist Haaland さん、May Kristin Lillebø さん 2013 年度のプログラムは、2012 年秋にスター トします。ただし、採用活動は 2011 年からす でに開始されています。Gard では、国籍や専攻 の異なるできるだけ多くの候補者にご応募いた だきたいと考えています。プログラムをさらに The Gard trainee programme Gard News 204 November 2011/January 2012 海賊 – ベストマネジメントプラクティス(バージョン 4) Piracy – Best Management Practices, version 4 「海賊を防止するためのガイドライン」が改訂されました。 海賊問題は、特にアフリカ東海岸沖およびイン ド洋において、今後当面は続くことが確実視さ れる中、時宜よく、8 月半ばに「Best Management Practices for Protection against Somalia Based Piracy(ソマリアを拠点とする海 賊行為を防止するためのベストマネジメントプ ラクティス)」のバージョン 4(BMP4)が発 行されました。旧バージョン1と同様に、バー ジョン 4 も事実上すべての業界団体と、 UKMTO、EU NAVFORの推薦を受けています。 BMP4 では、バージョン 3 以降に得られた新た な経験と知識を反映する形で、船主と運航業者 向けの実践的な知識とガイドラインが改訂され ています。このバージョン 4 では、BMPの基本 的な要件として、以下の 3 項目が挙げられてい ますが、以前からBMPをフォローしてきた船主 にとってはどれも意外なものではないはずです。 1. MSCHOAへの登録 2. UKMTOへの報告 3. BMPに記載されたShip Protection Measures (船舶防御方策)の実施 すべてのクライアントと組合員におかれては、 BMP4 の勧告に全面的に準拠することが強く推 奨されます。BMP4 の電子版コピーの入手先は、 www.shipping.nato.int/SiteCollectionDocuments/B MP4_web.pdfです。 さらに詳細な情報については、www.gard.noの Gard Alert「Piracy – Best Management Practices Version 4 (BMP4)」から入手してください 1 以下の各掲載記事を参照してください。Gard News 196 号 「Piracy – Best Management Practices for shipowners and operators are revised」、Gard News 200 号「Piracy – Best Management Practices, version 3」 Piracy – Best Management Practices, version 4 23 Gard News 204 November 2011/January 2012 中国における新しい汚染規制 – FAQ 第 2 弾 New Pollution Regulations in China – FAQs II 今回の Gard News では、海洋汚染の防止と管理に関する中国の新しい規制に関してよくあるご質問 にお答えします。 以前の Gard News197 号の記事「New Pollution 汚染責任 Regulations in China – FAQs」の中で、2010 年 3 月 1 日に施行された中華人民共和国の「船舶に 誰が汚染損害に対する責任を負うのですか。 よる海洋汚染防止及び管理規則」(本規則)に 前回の FAQ では、誰が汚染責任を負うか、本 関するよくある質問(FAQ)への回答を掲載い 規則に定められた責任の抗弁と制限について論 たしました。それ以降、本規則の実施目的に加 じました。汚染責任については、最高裁判所の えて、汚染事故での紛争の処理に関連して、さ 解釈(第 3 条)により、油濁の原因が 2 隻以上 らに新しい施行法や規則、解釈が公布されてい の船舶からの油流出である場合および請求者が ます。本稿では、Gard News の読者にこれらの 油流出を起こしている船舶に賠償を請求した場 最新情報をお伝えするため、最新のよくある質 合には、各船主の船舶に合理的に割り当てられ 問を取り上げます。 る損害賠償額を各船主が個別に負担するという さらなる指針が示されました。損害賠償額を合 最新情報 理的に割り当てることができない場合には、船 主は、適用される抗弁と免責に従い、共同で責 Gard News に第 1 弾の FAQ が掲載されて以降、 任を負うことになります。 新たな法律の制定、あるいは何らかの進捗はあ るでしょうか。 当クラブの LOU(Letter of Undertaking)は、 はい。あれから、さまざまな施行法や規則、解 汚染事故の場合の担保として認められますか。 釈が公布され、本規則を実施し、補足するため 新法では、従前の立場に変更はありません。今 の追加説明や詳細な規則が示されています。下 でも、MSA(海事安全局)および海事裁判所は、 記の表は、主な法律、規則、解釈を一覧形式に ごくわずかの例外はあるものの、現地で認知さ まとめたものです。 れている金融機関/保険会社からの保証状/念 「本規則」 船舶による海洋汚染防止及び管理に関する中華人民共和国規則 施行日: 2010年3月1日 中国国務院令第561号により2009年9月9日に公布 「MOT緊急時対応規則」 船舶による海洋汚染の緊急予防及び措 置に関する中華人民共和国規則 (船舶汚染除去業者の緊急時防止能力 要件-第18条) 施行日: 2011年6月1日 「MSA細則」 船舶による汚染への対応に関する契約の 管理制度の実施に関する中華人民共和 国のMSA細則 施行日: 2011年6月1日 「MOT保険規則」 船舶による海洋汚染に対する民 事責任保険に関する中華人民共 和国規則 「MOT作業/スラッジ規則」 船舶による海洋汚染防止及び管 理並びに関連作業に関する中華 人民共和国規則 「最高人民法院解釈」 船舶による海洋汚染の補償を巡る紛争の裁判 に関する各種質問についての最高人民法院の 規則 施行日: 2010年10月10日 施行日: 2011年2月1日 施行日: 2011年7月1日 「サンプル契約書」 船舶による汚染への対応に 関する契約書 海上輸送中に汚染を引き起こしやす い貨物一覧(第23条及び第33条) MSA補充通知 船舶による汚染への対応に関する契 約の制度の実施についての関連問題 に関する補充通知 上記の表は、主な法律、規則および解釈を一目でわかるよう記載したものです。 New Pollution Regulations in China – FAQs II 24 Gard News 204 November 2011/January 2012 書だけを汚染責任の担保として認めるというの MSA がステータス 1、2、3 または 4 に分類しま が現状です。しかし、請求者と交渉して、請求 す。 者が同意すればクラブの LOU やその他の形式 の担保を提供することができます。 運航者は、MOT(交通運輸部)の緊急時対応規 則(Emergency Response Regulations)と MSA 細 汚染防除契約 則に定めるとおり、船舶の規模、種類、運航目 的に応じて、認可防除業者と契約を締結する必 防除契約には、いつ署名する必要がありますか。 要があります1。すべての認可業者は 2011 年 10 本規則の下では(a)汚染危険貨物をばら積み 月に所定の MSA のウェブサイト で輸送する船舶または(b)その他 10,000GT 以 (www.osp.cn)に掲載されると理解されていま 上の船舶は、船舶の運航または中国の港への入 す。上記のように、認可防除業者との契約を要 港/出港前に認可された汚染対策業者と汚染防 するという要件は、2012 年 1 月 1 日からすべて 除契約を締結する必要があり、読者の中には、 の中国の港で施行されます。したがって、運航 前回の FAQ でもその点を取り上げていたのを 者は比較的短期間で認可防除業者と契約するこ 覚えている方もいらっしゃるでしょう。この規 とになります。 則の施行日は、2012 年 1 月 1 日まで延期されて います。 防除契約はどのような内容ですか。 2011 年 5 月 20 日に、MSA は、契約の手引書と 定期的に中国と貿易をされる方は、2012 年 1 月 ともに、英語と中国語のサンプル契約を公表し 1 日より前に汚染防除契約に署名することが推 ました。手引書には、契約内容のうち権利と義 奨されます。さもなければ、行政処罰その他の 務に関する条項は必須であり当事者はこれを修 措置を受ける可能性があります。 正できないが、記載のない事項については、当 事者は補足契約を締結できる旨が記載されてい 防除契約には誰が署名しなければなりませんか。 ます。組合員は、認可防除業者一覧が発行され、 本規則の下では、船舶の「運航者」が汚染防除 その契約を検討してそれらが船舶対応契約に関 契約に署名する必要があります。「運航者」と する IG のガイドラインに合致しているかどう は、MSA 細則(MSA Detailed Rules)で、船舶 かを確認するまでは、いかなる防除契約にも署 の「船主、管理者または実際の運航者」をいう 名しないことが推奨されます。IG は現在、サン と定義されています。中国に居住していない運 プル契約を確認中であり、確認後、さらなるガ 航者については、中国本土(香港、マカオを除 イドラインを出す予定です。IG は、サンプル契 く)に所在する船舶代理店、クラブのコレスポ 約に含める補足条項の作成も行う予定です。 ンデンツ、現地の法律事務所その他の法的主体 が、運航者の許可を得たうえで運航者に代わっ スラッジ処理契約 て契約に署名することができます。例えば、緊 急を要する場合等、一定の状況下では必要に応 油防除契約要件は、スラッジ処理契約要件と同 じて、船長も契約に署名できると理解されてい じですか。 ます。もっとも、船長が運航者に代わって契約 いいえ、同じではありません。船舶のごみ、残 に署名するには許可が必要であると思われます。 留廃水、廃油、スラッジの処分と排出に関する このために、P&I クラブの国際グループ(IG) 要件は、2011 年 2 月 1 日に施行された MOT の では、海外の運航者のために標準様式の許可書 作業/スラッジ規則(Operational/Sludge を作成することを検討しています。 Regulations)に定められています。すべての船 舶の船主/運航者は、中国の港ですべての廃棄 どの業者が認可防除業者ですか。 認可防除業者は、その資格と対応能力に応じて、 New Pollution Regulations in China – FAQs II 1 詳細は、Gard サーキュラーNo. 4/2011 を参照してください。 Gard News 204 November 2011/January 2012 物残渣(主にスラッジ)を最低一回は排出する こと、かかるサービスを行う登録サービス提供 業者と契約を締結することが求められています。 船主/運航者は、現地の代理人に問い合わせた り、現地の MSA のウェブサイトを確認したり して、中国の各港についてそのような登録サー ビス業者の最新の一覧表を確認してください。 MSA 本部: www.msa.gov.cn 上海 MSA: www.shmsa.gov.cn 遼寧 MSA: www.lnmsa.gov.cn 河北 MSA: www.hebeimsa.gov.cn 山東 MSA: www.sdmsa.gov.cn 江蘇 MSA: www.jsmsa.gov.cn 浙江 MSA: www.zjmsa.gov.cn 福建 MSA: www.fjmsa.gov.cn 広東 MSA: www.gdmsa.gov.cn 広西 MSA: www.gxmsa.gov.cn 海南 MSA: www.hnmsa.gov.cn 深圳 MSA: www.szmsa.gov.cn 長江 MSA: www.cjmsa.gov.cn 黒龍江 MSA: www.hljmsa.gov.cn 船舶油濁補償基金 船舶油濁補償基金の詳細はわかりますか。 基金の徴収と運営についての詳細な規則は公表 されていませんが、その草案はあります。 その他の質問 ほかに質問があるときはどこに連絡すればよい ですか。 その他の質問については、[email protected] または [email protected] にお問い合わせ ください。 New Pollution Regulations in China – FAQs II Gard News 204 November 2011/January 2012 米国において船荷証券が無許可で発行された場合、 誰が COGSA 上の運送人とみなされるのか? Unauthorised issuance of bills of lading in the US – Who is deemed a COGSA carrier? 第 5 巡回区連邦控訴裁判所は、適用される用船契約に定められた権限に違反して、船荷証券が再用 船者によって発行された場合には、船舶関係者は COGSA 上の責任を免れることを認めました。 に合致している限り、船長は当該船荷証券に署 名する義務を負う、という旨が定められており、 これには、大宇は「[大宇]および/またはそ の代理人がメイツレシートまたは検数人受領書 の内容と齟齬のある船荷証券に署名した場合、 そこから生じるすべての結果を受け入れる」と いうただし書きが付記されていました。 問題の船が船積港に到着し、独立貨物鑑定人が 鋼管の船積前検査を行ったところ、貨物の相当 部分が損傷していることが判明しました。この 事実は、船長に対して発行される「船積前貨物 第 5 巡回区連邦控訴裁判所の最近の判決1では、 事故報告書」に記載されました。船長は、大宇 用船者が船主または管理船主を船荷証券の条件 の代理人がメイツレシートに完全準拠した船荷 に法的に拘束させることができる条件を明示的 証券を発行することを認めました。メイツレシ に限定し、船主または管理船主が米国国際海上 ートには、束物が「無故障船積(clean on 物品運送法(COGSA)の条件に該当する「運 board)」である旨の記述がありましたが、貨物 送人」であることを認定するよう命じました 2 。 事故報告書がその一部を構成することが明示さ どの船舶関係者がCOGSA上の運送人であるか れていました。予想されたとおり、メイツレシ 認定されない限り、船荷証券保持者が貨物の損 ートあるいは貨物事故報告書に関して何ら記載 害に関する自身の賠償責任を証明することは極 されず、「無故障」であるとする船荷証券が発 めて難しいでしょう。 行され、そこに大宇の代理人が「運送人大宇ロ ジスティクス社の代理人」として署名を行った 事実 のです。 2008 年 3 月、QTトレーディングL.P.(QT)は、 当時、中国の大連からテキサス州ヒューストン ヒューストンでの荷揚げ後、QTは、貨物を損 までの輸送契約を大宇ロジスティクス社(大 傷させたとして、本船、サガ、アティック、お 宇)と締結していた第三者から、鋼管 800 束を よび本船の船舶管理会社を提訴しました。その 購入しました。大宇は、サガ・フォレスト・キ 後破産宣告を受けた大宇は、訴訟に出廷するこ ャリアーズ・インターナショナルAS(サガ)か とも、何ら応答することもしませんでした。 らM/V SAGA MORUS号を定期用船し、サガは、 QTは、船荷証券を証拠としてCOGSAに基づく さらに、本船筆頭船主であるアティック・フォ 請求権と、被告に寄託義務の違反の疑いがある レストAS(アティック)から定期用船していま とする訴訟原因を主張しました(本船に対する した。大宇/サガの用船契約には、大宇の提示 対物訴訟は、その後、有効な法廷地選択条項が した船荷証券がメイツレシートと検数人受領書 あることを理由に棄却されましたが、第 5 巡回 区裁判所ではその理由が詳細に論じられること 1 QT トレーディング L.P.対 M/V SAGA MORUS 号事件(QT Trading, L.P. v. M/V SAGA MORUS)(641 F.3d 105(2011 年第 5 巡回区控訴裁判所)) 2 46 U.S.C. § 30701. Unauthorised issuance of bills of lading in the US – Who is deemed a COGSA carrier? はありませんでした)。被告の申立てを受けて、 地方裁判所は、様々な理由からいずれの被告も 26 Gard News 204 November 2011/January 2012 COGSA上の運送人には該当しないとして、 証券について、QTはサガがCOGSA上の運送人 COGSAに基づく請求を棄却しました。また、 であることを証明しなかったと判示しました。 寄託の義務違反についても、QTは賠償責任を 求めるための要件を満たしていないとして、請 裁判所はまず、大宇の代理人にはサガを代理し 求を認めませんでした。そこで、QTは、テキ て船荷証券に署名する権限があったにもかかわ サス州、ルイジアナ州、ミズーリ州の連邦地方 らず、そうしなかったことを指摘しました。大 裁判所からの控訴を管轄する第 5 巡回区連邦控 宇の代理人は、サガや船長の代理人としてでは 訴裁判所に控訴したのです。 なく、「運送人大宇ロジスティクス社の代理人 として」船荷証券に署名していたのです。裁判 判決 所はさらに、「署名の文言が決定的なものでは 第 5 巡回区裁判所は、COGSAの規定、あるい ないとはいえ、大宇の代理人が船長から付与さ は寄託法に関して確立された基準のいずれによ れた権限を逸脱して、メイツレシートどおりに っても、QTはいずれかの被告に賠償責任を求 船荷証券に署名しなかったことから、サガは めるための基準を満たしていないとする下級審 COGSA上の運送人ではない」との判断を下し の判決を支持しました。 ました。大宇は、船荷証券がメイツレシートの 一部を構成し、貨物事故報告書がメイツレシー 裁判所は、まず、COGSAに基づく訴訟原因に トの一部を構成することを記載しなかったため、 触れ、荷主は、COGSAの下では、「運送人」 COGSA上の運送人としてサガを船荷証券に法 つまり、「荷送人と運送契約を締結する船主ま 的に拘束させることができなかったのです。 たは用船者」のみから損害賠償を受けることが できるのであって、「…船主をCOGSAに法的 最後に、裁判所は、寄託理論(これについては、 に拘束させ、COGSA上の運送人としての地位 「明示または黙示の契約に基づく物品または動 を与えるには、用船者は、『船長』に代わって 産の受託者への寄託であって、受託者が信託を 船荷証券に署名する権限を有していなければな 実施するとともに、信託の目的に従って物品を らず、船長は船主に代わって船荷証券に署名す 再度引き渡すことまたはその他処分することが る権限を有していなければならない」という確 必要である」との説明がなされた。)に基づい 立された原則をあらためて引用しました。裁判 て、サガ(QTは、他の被告については控訴し 所は次に、この原則を採用して、アティックと なかった。)の法的責任をQTが証明できたか 船舶管理会社に対するCOGSA上の請求につい 否かという問題を取り上げました。裁判所は、 て簡単に結論を出しました。裁判所は、QTと QTはそのような訴訟原因を維持することはで 筆頭船主または船舶管理会社との間には契約の きないという下級審の判断を追認し、その理由 当事者間関係はなく、つまり、両当事者間には として、寄託という訴訟原因の要素により、請 運送契約は存在せず、QTは、船長がアティッ 求者は、(1)受託者とされる者に「完全」に クまたは船舶管理会社の代理人であることを証 引き渡されたこと、(2)受託者とされる者が 明していないことを理由に、その両者に責任は 財産の所有者を含む他の全員の財物に対して占 生じ得ないと述べ、COGSA上の請求をあっさ 有権を行使していることを、証明する必要があ りと棄却しました。 る点を挙げました。QTは、この 2 つ目の要件を 証明できませんでした。なぜなら、本事案では、 一方、サガについては少し状況が異なります。 大宇が用船者から、貨物の積載、積付、固定、 裁判所はまず、大宇の代理人が船長に代わって 荷揚げを実施する許可を得ていたからです。こ 船荷証券に署名することを認められていたこと のように、QTは、サガが財物を占有していた に加えて、サガは船荷証券に署名する権限を船 ことを証明できなかったため、寄託という訴訟 長にも認めていたことをQTが証明したと指摘 原因は成立し得ません。このような理由から、 しました。そのうえで、裁判所は、問題の船荷 裁判所は、地方裁判所の判決をすべての点で支 Unauthorised issuance of bills of lading in the US – Who is deemed a COGSA carrier? Gard News 204 November 2011/January 2012 持したのです。 コメント SAGA MORUS号事件について下された今回の 判決によって、米国の海事法において解釈が曖 昧であった部分が明確になるでしょう。 COGSA上の責任を求めるための根拠となる契 約(船荷証券)が、本来発行権限を持たない再 用船者によって発行された場合、船舶関係者に COGSA上の責任がないことを認めることは、 公正、公平であるだけでなく、当然のことです。 今回の判決は他の裁判所を拘束するものではな いものの、説得力のある先例として扱われるこ とになるでしょう。他の裁判所においても、第 5 巡回区裁判所と同様に、常識と公平なアプロ ーチに基づいた判断がなされることが望まれま す。 Unauthorised issuance of bills of lading in the US – Who is deemed a COGSA carrier? Gard News 204 November 2011/January 2012 禁煙にご協力を – 米国とカナダが船舶からの 大気汚染物質の排出の監視を強化 Thank you for not smoking – The US and Canada to watch ship air emissions more closely 米国とカナダの動向により、マルポール条約の大気汚染物質の排出基準がより厳しく執行される可 能性があります。 法を策定することになります。ただし、パート ナーシップであるため、例えば、大気汚染物質 のサンプリングや測定など、USCG では対応が 難しい技術面については、EPA に対して積極的 な関与を求め、専門知識を生かした調査の実行 を要請していくことになるでしょう。USCG で は、すでに十分に確立されている船舶査察の項 目の新たなセクションとして、附属書 VI の基 準と要求事項に対する違反を発見するための方 法論と手続きを追加するものと思われます。 2 年以上前から、米国に寄港する船舶は、船舶 からの大気汚染物質の排出に関して規定するマ ルポール条約附属書 VI の規制を遵守すること したがって、米国においては、船舶に対する通 が求められています。これは、船舶の大気汚染 常の船舶査察に、違反を判断する要素が 1 つ加 物質の排出への取り組みを強化しようとする各 わることになり、船舶規制違反が続出する可能 州政府の一連の動きに沿ったものです(特に米 性があります。一方で、乗組員は通常の査察に 国の特定の地域においてはこの動きが顕著で は慣れていても、USCG による大気汚染物質の す)。 排出調査が行われる場合には、慣れない対応が 求められることになるでしょう。現在のところ、 連邦レベルでは、船舶の大気汚染物質の排出規 大気汚染物質の排出違反の査察だけを目的とし 制の主管官庁は米国環境保護庁(EPA)です。 て、USCG が船舶に乗り込んで来ることはない EPA は、大気汚染の測定について経験が豊富な ようです。しかし、大気汚染物質の排出に関す 反面、船舶用ディーゼル機関の運転と出力に係 る問題が外から確認された場合には、その査察 る特定の問題については経験が不足しています。 のみが実施される可能性もあります。一方カナ そのため、EPA の一部には、米国の授権法であ ダでは、船舶の大気汚染物質の排出に関して訴 る船舶汚染防止法によってマルポール条約の排 訟を提起されるケースが増えることが予想され 出基準を執行するプログラムに加わることに躊 ます。最近の報道によると、カナダではそのよ 躇する声があったようです。 うな訴訟の基盤が確立されつつあります。ハリ ファックスでは、連邦政府からの委託を受けた しかし、EPA は、2011 年 6 月 27 日、海事に精 ダルハウジー大学が、地域内の最大 55 か所で 通した米国沿岸警備隊(USCG)と連携するこ 大気質の測定を実施する計画をしています。政 とで、この弱点に対処することを決定しました。 府は、この調査を経て、各地域の大気質を把握 両庁間で覚書を締結し、執行、文書の審査、船 し、それを基準として船舶の大気汚染物質の排 舶の検査と査察のための手順を策定していくう 出量を測定する準備を行おうとしています。 えでの道筋をつけました。 カナダと米国は、2015 年 1 月 1 日から、船舶用 主務省庁は USCG が務め、船舶の運航と設備に 燃料の硫黄分の上限を 0.1%とする規制を施行 関する知識と経験を生かして、効果的な執行手 する予定です。両国がそれまでに、大気中と船 Thank you for not smoking – The US and Canada to watch ship air emissions more closely 28 Gard News 204 November 2011/January 2012 舶の煙突から排出される硫黄分の測定を行い、 測定値データを蓄積することから考えて、規制 の施行が早まる可能性もあります。そのため、 船舶の運航業者は乗組員に来るべき査察に備え させる必要があります。 Thank you for not smoking – The US and Canada to watch ship air emissions more closely Gard News 204 November 2011/January 2012 排煙法、船舶は適用外 – 米国の裁判所が判示 US court holds smoke abatement laws inapplicable to ships Frances L. Keeler(Keesal, Young & Logan、ロングビーチ) 判決は、アメリカ全土での船舶に対する排ガス規制の執行に影響を及ぼす可能性があります。 カリフォルニア州が環境法を積極的に執行して のエンジンからの排出を規制する「基準その他 いることを示すもう一つの例として、ロサンゼ の要件」の採用と執行については、州および地 ルスの市弁護士が、カリフォルニア州および地 方の管轄外であると定めています。カリフォル 域の法律が定める制限を超える煙を排出したと ニア州は、かかる規制について許可を得る権利 して冷凍貨物船の船主と運航業者を刑事告発す を持つものの、実際には許可を得られませんで るという事件がありました。裁判所は、連邦法 した。大気浄化法によると、カリフォルニア州 である大気浄化法が優位することから、これら が規制についての許可を得た場合には、他の州 の法律は船舶のディーゼルエンジンには適用さ や地方も同一の規制を採用できることになって れないと判断して、訴えを却下しました。この います。 2011 年 6 月の判決は、米国全土での船舶に対す る可視放出規制の執行に重大な影響を及ぼす可 上級裁判所のヘンリー・ホール判事は、公道用 能性があります。 以外のエンジンについては、可視放出を制限す る州と地方の規則(一般的な排煙法等)よりも 問題となったのは、カリフォルニア州健康安全 連邦法が優位する点ついて、被告に同意しまし 法第 41701 条と南海部大気管理局(SCAQMD) た。訴えを却下するにあたり、ホール判事は、 の規則 401 です。これらの法律はいずれも、汚 バースの船舶は移動汚染源ではなく、可視放出 染源からの可視放出と煙の量を制限するもので 法は「基準その他の要件」には当てはまらない す。前者は、排出を任意の 1 時間のうち、3 分 との市弁護士の主張を認めませんでした。同判 間当たり 2 リンゲルマンに制限するもので、後 事は、18 ページにわたる意見書の中で、「本事 者は、さらに厳しく、1 リンゲルマンを基準と 案で問題となった法律は、米国の憲法の連邦法 するものです。これらの法律は、訓練を受けた 規優越条項に基づいて連邦法が明らかに優位し、 可視放出の測定者、ここでは大気汚染管理事務 被告に対して執行することはできない」と主張 局の検査官が執行します。SCAQMD の検査官 しました。 の主張によると、問題の船は出力を喪失した主 機に代えて、補機を稼働させて動力を得ていま 歴史的に見ると、カリフォルニア州やその他の した。補機も損傷していた可能性があったもの 州において船舶が排煙規制に違反した場合は、 の、それでも、検査官は「過剰排煙」に対する 適度な行政処罰か民事処罰の対象となっていま 警告を出しました。 した。本件は、1990 年に大気浄化法が改正され、 専占条項が追加されて以来、今回が刑事的に訴 訴えの全面的な却下に対する異議申立てにおい 追しようとした最初のケースです。本件は、民 て、被告の代理人弁護士は、これらの法律より 事的または行政的に解決すれば、通常は、2,000 も連邦法である大気浄化法(CAA)の方が優位 米ドルから 5,000 米ドルの罰金刑に相当する程 すると主張しました。大気浄化法の下では、州 度であったものが、刑事上の有罪判決が出れば、 政府は、固定汚染源からの排出の規制に一次的 数十万米ドルの罰金に加え、市弁護士によれば、 な責任を負い、連邦政府は、移動汚染源に対し 裁判所が監視する遵守計画の下で 3 年を上限と て一次的管轄権を有しています。大気浄化法は、 する保護観察処分となる可能性があったという 船舶、機関車、農場・建設設備等の公道用以外 ことです。 US court holds smoke abatement laws inapplicable to ships 29 Gard News 204 November 2011/January 2012 下級裁判所のレベルでは先例がないので、この 判決の影響は重大なものとなるでしょう。大気 浄化法の規定はさまざまな移動汚染源のエンジ ンに関する州や地方の規制に優位することから、 他の州や地方の同様の規則についても同じこと がいえます。 US court holds smoke abatement laws inapplicable to ships Gard News 204 November 2011/January 2012 米国での医療費 – 十分注意すれば相当有利に Keeping a close eye on medical costs in the US can be beneficial on more than one level カリフォルニア州最高裁判所の最近の判決により、米国医療機関から請求額の減額を受けることで 利益を享受できる事例が明らかになりました。 用はその医療保険会社からの保険金で賄われま した。手術に先立ち、原告は、費用の全額を全 面的に負担するとの契約を当該医療機関との間 で締結しました。最終的に、医療保険会社は、 減額された支払額を全費用の全面的かつ最終な 支払いと認めるとする同保険会社と医療機関と の間の既存の契約に基づいて、減額された医療 費を支払いました。 事実審理では、陪審員は、保険会社が支払った 過去 4 年間にわたり弁護側と原告関係者が注目 減額された金額ではなく、医療機関が請求した してきた重要な案件の判決が 2011 年 8 月 16 日、 金額に基づいて、原告への損害賠償を認めまし カリフォルニア州最高裁判所によって 6 対 1 の た。原告が提出した請求書の総額が 19 万米ド 多数意見で言い渡されました。ハウウェル対ハ ルであったのに対し、保険会社が支払ったのは ミルトン・ミーツ&プロビジョンズ・インク事 6 万米ドルでした。陪審評決の見直しを求める 件1(Howell v. Hamilton Meats & Provisions, 申立ての後、事実審裁判所は、賠償金は請求さ Inc.)において、控訴裁判所は、不法行為者を れた金額と支払われた金額の差額である 13 万 訴えた事故の被害者が現実的損害賠償金として 米ドルが減額されると判示しました。控訴裁判 てん補を受けられるのは、実際の医療費ではな 所は、控訴の根拠として副次的給付非控除ルー く、被害者の保険会社が医療を提供する医師や ルを引用して、全額の支払いを命じるよう再度 病院と交渉した割引額に限られるとしました。 主張しましたが、カリフォルニア州最高裁判所 は、控訴審判決を覆し、事実審裁判所が示した 米国法の下では、ほとんどの法域において、被 減額された損害賠償額を賠償額とする判決を復 告が支払いを命じられた損害賠償金以外の「二 活させました。 次的な資源」から被害者の損害が補償されたと いう事実、または将来的に補償される可能性の ハウウェル事件が示すように、医療機関による 実証を禁じる証拠原則として、「副次的給付非 請求額の減額により、米国での訴訟で認められ 控除ルール」または「副次的給付非控除原則」 る損害賠償額に大きな差異が生じることがあり というものがあります。したがって、原告の医 ます。Gard News の読者の中には、米国の医療 療費が医療保険を含む何らかの給付源から支払 機関の請求費用を減額してもらえる可能性につ われたという証拠は、一般的には許容されず、 いて取り上げた、過去の記事を思い出された方 裁判官と陪審員が判断する現実の損害または文 がいらっしゃるかもしれません2。Gard の被保 書・記録等からわかる損害の一要素であるとみ なされます。ハウウェル事件では、原告は、自 2 分の車と被告の所有するトラックとの事故で重 以下の各掲載記事を参照してください。Gard News158 号 「Must the cost of medical care for seamen in the US be a bitter pill?」、Gard News170 号「Medical costs – Medical audits in the United States 」、Gard News197 号「United States – High medical costs can be reduced 」、Gard News198 号「Vetting of medical expenses yields major savings 」 傷を負いました。原告は、民間の健康保険に加 入しており、手術を二度受けましたが、その費 1 2011 Cal. LEXIS 8119. Keeping a close eye on medical costs in the US can be beneficial on more than one level 30 Gard News 204 November 2011/January 2012 険者に認められる最大限の利益を得るには、米 国での医療を必要とする事故が発生した後でき る限り速やかに Gard に通知していただくこと が重要です。米国内での医療および関連費用に 関するご質問は、Gard のニューヨークオフィス にお問い合わせください。 Keeping a close eye on medical costs in the US can be beneficial on more than one level Gard News 204 November 2011/January 2012 米国法 – 「近因(proximate cause)」とジョーンズ法 US law – “Proximate cause” and the Jones Act 「哲学的な意味では、いかなる行為もその結果 ので、この事件では、FELA に含まれる「あら 1 は永遠に向かう」 。米国では制定法に基づか ゆる鉄道会社は、雇用期間中に傷害を負った被 ないコモンロー上の過失に関して「近因」の基 用者に対し、その傷害または死亡の全体または 準が発展してきましたが、連邦最高裁判所は、 一部が当該会社の役員、代理人または被用者の これはジョーンズ法事案には適用されないと判 過失による場合、これを補償する責任を負う」6 示しました。 という文言が解釈されました。 連邦裁判所は、CSX トランスポーテーション対 ロジャース事件の裁判所は、「[FELA]の下 マックブライド事件(CSX Transportation v. では、陪審裁判の基準は、単に、損害賠償請求 2 の対象である傷害または死亡に、ごくわずかで 3 (FELA) に関わる事件について、損害賠償の も雇用主に過失があるということが正当な理由 対象となる傷害にごくわずかでも雇用主の過失 および証拠をもって正当化されるか否か」7であ がある場合には、その過失行為と従業員の受け ると提言しました。 McBride) の裁判において、連邦雇用者責任法 た傷害との間に法的な因果関係が成立すること を、5 対 4 の多数意見で再確認しました(尚、 直近の最高裁判所の事案で争点となったのは、 FELA は、鉄道会社の従業員に適用される法令 前述の事件の結論のとおり、「ごくわずかでも であり、船員に適用される連邦法、「ジョーン 関わって」という文言が、この事案に適用され 4 ズ法」 には参照により組み込まれる法令でもあ たコモンロー上の近因の基準に取って代わるも ります)。裁判所は、制定法に基づかないコモ のとして使われたかどうかという点でした。も ンロー上の過失に係る訴訟で発展してきた「近 っと正確に言えば、寄与過失は損害賠償の障害 因」の基準は、FELA(および拡張によりジョ となるというコモンロー上の原則が FELA によ ーンズ法)事案には適用されないと判示したの り排除されたことを受けて、ロジャース事件の です。 裁判所は、4 名の裁判官が唱えた反対意見のよ うに、「雇用主と被用者の両者が傷害の近因と 船員の事案に適用されるジョーンズ法において、 なることがあり、[また]近因が成立するには、 その因果関係の基準は世間では「羽のように軽 鉄道会社の過失が唯一または最後の原因である い」とまで言われています。米国の海事関係の 必要はない」8ことを明確にしようとしたに過ぎ 法曹たちは、この基準に長らく馴染んできまし ないか否かということです。その結論を支持す た。この基準は、1957 年の最高裁の判例である るために、しばしば引用されるロジャース判決 ロジャース対ミズーリ・パシフィック事件 の「ごくわずかでも」という文言の後の文章に 5 (Rogers v. Missouri Pacific R. Co.) に基づくも 目を向け、「『陪審員が、証拠や蓋然性を根拠 として、無理なくほかのことがら(雇用主の寄 与過失を含む)に原因を置くこともできるとい 1 CSX トランスポーテーション対マックブライド事件(CSX Transportation v. McBride)(131 S. Ct. 2630; 180 L. Ed. 2d 637; 2011 US LEXIS 4795, at 39(2011))で引用されたホーム ズ対セキュリティズ・インベスター・プロテクション・コーポレーショ ン事件(Holmes v. Securities Investor Protection Corporation)(503 US 258 (1957))で引用された W. Keeton, D. Dobbs, R. Keeton & D. Owen, Prosser and Keeton on Law of Torts, s. 41, p. 264 (5th ed. 1984) 2 131 S. Ct. 2630; 180 L. Ed. 2d 637; 2011 US LEXIS 4795 (2011). 3 45 USC. s. 51. 4 46 USC s. 688. 5 352 US 500 (1957). US law – “Proximate cause” and the Jones Act うことは…重要ではない』」9としました。 法律を学ぶ学生は皆、過失行為と損害賠償請求 の対象である傷害との間には因果関係がなけれ 6 7 45 USC s. 51 (emphasis added). 352 US 500 at 506. 8 CSX トランスポーテーション対マックブライド事件(CSX Transportation v. McBride)(2011 US LEXIS 4795)at 49-50 9 Id., 2011 US LEXIS 4795 at 49-50(強調表示付加). 31 Gard News 204 November 2011/January 2012 ばならないと教えられています。少なくとも、 訴訟に適用される因果関係の基準を著しく緩和 過失行為がなければ傷害は発生したかという事 したと考えられてきたからです。しかし、この 実的因果関係が存在しなければならず、これは 判決により、ジョーンズ法事案では「近因」を 「なかりせば」テスト(“but for” test)とも呼ば 検討すべきではないという意見が強化され、陪 れます。しかし、コモンローは、これに加えて、 審員にとってはこうした事案をうまく防御する 傷害が過失行為による直接的または予見可能な ことがこれからも重大な挑戦となるでしょう。 結果であるという要件、いわゆる「近因」を求 めています。これは、「哲学的な意味では、い かなる行為もその結果は永遠に向かう[、]」 とはいえ、「…法律…とは哲学ではなく、近因 という概念は、事実関係を認める原因(”but for” cause)と、法律上賠償責任の根拠となり得 る傷害のより直接的な原因とを区別する必要性 が生じたことに対応して、コモンロー上発展し たものである」10からです。 FELA/ジョーンズ法事案における多数意見で は、ある行為が過失行為であったことを証明す る要件として、危害の予見可能性が今なお必要 であることを強調しています。しかし、これに は反対者は納得せず、「裁判所が過失の一面と して予見可能性を陪審員に指示しなければなら ないのであれば、なぜそれを因果関係の一面と して指示しないのか。因果関係の法的な連鎖に は限度もあるはず、つまり「なかりせば」では 不十分だと陪審員が直観すると考えられるなら、 なぜボールを隠すのか。なぜそのまま陪審員に 話さないのか」11と述べています。 まとめ CSX トランスポーテーション対マックブライド 事件(CSX Transportation v. McBride)の判決は、 ジョーンズ法事案の処理方法に大きな影響を与 えることにはならないはずです。というのも、 裁判所は支持者は一様に、「ごくわずかでも」 という文言が船員によるジョーンズ法に関する 10 Id., 2011 US LEXIS 4795 at 39。これは、反対意見に書か れた以下の例で説明できる。「私がピアノを落とした。歩道にひ びが入った。数週間後、歩道の修理中に、自転車に乗って歩道 を猛スピードで走っていた男が、作業現場の周囲に修理作業員 が置いたコーンにぶつかって怪我をした。… 私の過失は、怪我 と条件関係が認められる原因(”but-for” cause)である。つまり、 私がピアノを落としていなければ、自転車に乗っていた人がぶ つかることはなかったであろう。だが、これは法的原因であろう か。いや、違う」同上 at 57. 11 Id., 2011 US LEXIS 4795 at 57-58. US law – “Proximate cause” and the Jones Act Gard News 204 November 2011/January 2012 ロス・プリベンション・サーキュラー・P&I メンバー・サーキュラー - 2011 年夏 Loss Prevention and P&I Member Circulars, summer 2011 以下のロス・プリベンション・サーキュラーと P&I メンバー・サーキュラーは、2011 年夏に Gard が発行したものです。 ロス・プリベンション・サーキュラー – ロス・プリベンション・サーキュラー No. 0911、2011 年 6 月: アップデート– 米国の港での DDGS の荷積みについて – ロス・プリベンション・サーキュラー No. 1011、2011 年 7 月: エジプトの港での喫水検査の 状況 – ロス・プリベンション・サーキュラー No. 1111、2011 年 9 月: 乾ドック – 責任と契約上の問 題 P&I メンバー・サーキュラー – P&I メンバー・サーキュラーNo. 06-11、2011 年 8 月: 船舶による海洋汚染の防止と管理に関 する中国の規則 – P&I メンバー・サーキュラーNo. 07-11、2011 年 8 月: インタークラブ・ニューヨーク・プロ デュース・エクスチェンジ・アグリーメント 1996(2011 年 9 月改訂) – P&I メンバー・サーキュラーNo. 08-11、2011 年 8 月: 米国の公害 – NRC と MSRC – 噴霧器の 使用に関する MSRC の補遺 ロス・プリベンション・サーキュラーと P&I メ ンバー・サーキュラーは、すべて www.gard.no から入手できます。Gard のロス・プリベンショ ン・サーキュラーの電子メールによる受け取り をご希望の方は、[email protected] までご連 絡ください。 Loss Prevention and P&I Member Circulars, summer 2011 32 Gard News 204 November 2011/January 2012 人事ニュース Staff news Anne Boye は、ドライカーゴ・クレーム・チー ム・エグゼクティブとして Gard に入社しまし ム(アーレンダル)のシニア・マネージャーに た。同氏は、オーストラリアのカーティン工科 任命されました。 大学とデンマークのシェラン大学で理学療法の 学位を取得しています。 Andres Duran は、ドライカーゴ・クレーム・ チーム(アーレンダル)のシニア・マネージャ Misty Sung は、クレーム・エグゼクティブとし ーに任命されました。 て Gard (UK) Limited に入社しました。同氏は、 台北(台湾)で金融・経済法の法学士号を、ロ Jahn Otto Gullestad は、損失防止・リスク評価 ンドン大学で国際商事法の法学修士号を取得し 部門(ベルゲン)のマリン・サーベヤーとして ています。以前はロンドンの C Solutions で、船 Gard に入社しました。同氏は NTNU(ノルウェ 主エージェント、P&I クラブに対する海上保険 ー科学技術大学)で理学修士号を、BI ノルウェ のクレーム処理を担当していました。 ー・ビジネススクールで経営学修士号を取得し た造船技師/船舶機関士です。以前は Odfjell 災害・環境・損害保険クレーム・チーム(アー Drilling で技術コーディネーターを務めていま レンダル)の上級クレーム・アドバイザーを務 した。 めた Jan Kr. Jacobsen は、勤続 28 年を経て定 年を迎えました。退職後のご健康とご多幸を祈 Kine Haaland は、P&I およびディフェンス・ク 念いたします。 レーム・チーム(オスロ)・エグゼクティブと して Gard に入社しました。以前は研修生とし クレーム部門の特別アドバイザー兼弁護士を務 て Gard に勤務していました。同氏はサウサン めた Bjarne Printz は、勤続 31 年を経て定年を プトン大学で海事法の修士号を取得しています。 迎えました。退職後のご健康とご多幸を祈念い たします。 Thorbjörn Emanuelsson は、商品開発チームの 商品アドバイザーとして Gard に入社しました。 ドライカーゴ・クレーム・チーム(アーレンダ 以前は研修生として Gard に勤務していました。 ル)・エグゼクティブを務めた Peter Leijs は、 同氏はオスロ大学で海事法の修士号を取得して 勤続 27 年を経て定年を迎えました。退職後の います。 ご健康とご多幸を祈念いたします。 May Kristin Lillebø は、保険引受部門の事業ア ナリストとして Gard に入社しました。以前は 研修生として Gard に勤務していました。同氏 は、ドイツの EBS ビジネススクールで経営学の 理学修士号を取得しています。 Vincent Gustavi は、ドライカーゴ・クレーム・ チーム・エグゼクティブとして Gard に入社し ました。同氏は、ルンド大学で海事法の修士号 を取得しています。 Thomas Ravnevand は、人身クレーム・チー Staff news 32 Gard News 204 November 2011/January 2012