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Title Author(s) Citation Issue Date Type 公的金融と民間金融が併存する金融市場における競争と 経済厚生 吉野, 直行; 藤田, 康範 経済研究, 47(4): 313-323 1996-10-15 Journal Article Text Version publisher URL http://hdl.handle.net/10086/20190 Right Hitotsubashi University Repository 経済研究 Vo1.47, No.4,0ct.1996 公的金融と民間金融が併存する 金融市場における競争と経済厚生 吉野直行・藤田康範 1.序論 わが国には,民間金融機関と,公的金融機関 事業と郵便事業の3事業を一つの店舗(局舎)で 営むことができ,「範囲の経済」が存在するのに 対して,民間銀行は保険事業や宅配事業を営む を通じる資金の流れが併存している.ここでは, ことは制度的に禁止されている.さらに,郵便 貝塚啓明(1982年,1983年)の定義に従い,.「公 貯金は,(i)預金準備を積む必要がない,・(ii)預 的金融」を郵便貯金と政府系金融機関を合わせ 金保険への支払が不要,(iii)種々の税金の支払 たものととらえる.すなわち,郵便貯金を原資 が不要などの特典が与られている.以下の議論 とし,大蔵省の資金運用部を経由して政府系金 では,これら(i),(ii),(iii)と「範囲の経済性」 融機関(日本輸出入銀行・日本開発銀行・中小 を合わせて,公的金融に対する特典と呼ぶこと 企業金融公庫などの2銀行9公庫)などから民 にする. 間経済主体に貸付け・出資・債券引き受けの形 で資金を供給する政府の金融活動を指すものと 公的金融に関する先行研究では,第一に,金 する. 融に関する諸規制を前提に議論を進めている. しかし,1994年10月の流動性預金金利の自由 個人貯…蓄残高をみると,1996年3月末で968 化をもってすべての預金金利自由化が完了し, 兆円に上っておg,GDPの約2倍となってい 店舗規制も廃止され,預金金利・貸出金利がと る.そのうち郵便貯金残高は21%,全国銀行預 もに市場で決定されるモデルを構築する必要が 金残高は24%となっている.また,郵便貯金 ある. 吸収量は1991−1992年度に大きな純増を示した のに対して,全国銀行の預金増加額は少ない. 第二に,公的金融に関する既存の理論的研究 さらに,融資面に占める公的金融の資金フロー では.公的金融と民間金融との行動原理の違い シェアを資金循環勘定でみると,景気対策によ を明示的に考慮して分析していない.現実には って,1991年に47.8%,1992年には55.6%と 民間銀行が利潤極大化の行動原理1)のもとに活 極端に大きな数字となった. 動しているのに対して,公的金融は収支相償を 高度経済成長期には,公的金融の融資は民間 原則として利潤がゼロとなるように行動してい 金融の融資の「呼び水」となっていた(堀内昭 るのである(開銀法第19条1項等参照)。以下 義・大瀧雅之(1990年),福田慎一・照山博司 の分析では,このような行動原理の相違を理論 (1995年),堀内昭義・随民国(1994)).しかし モデルに明示的に反映させて分析する. 今日では,公的金融の融資が民間金融機関の融 資をクラウドアウトさせ,競合関係にあって, 第三に,公的金融に対する補助金が社会的総 従来の「呼び水効果」は存在せず,公的金融の 余剰に与える影響については,さらなる分析が 役割は終わったのではないかという議論もある. 必要と思われる.松浦・三浦・北川・井村論文 また,公的金融は,郵便貯金事業・簡易保険 (1990年)では,公的金融への補助金がつねに社 314 経 済 研 究 会的にみて望ましいという結論を導いているが, 資金需要者(消費者)余剰は減少するものの,預 基盤となっているモデルがやや単純である.公 金者(生産者)余剰が資金需要者(消費者)余剰の 的金融と民間金融機関との相互連関を考慮した 減少分を補うほど増大するからである.この結 寡占的金融市場を想定して,特典(補助金)の効 論は,松浦・三浦・北川・井村論文(1990)とは 果を分析する方がより望ましいと思われる. 逆の結論である. 第四に,これまでの諸研究では公的金融の存 (3)公的金融機関による財投融資の貸出金利が, 在が民間銀行間の競争を促進するか否かについ 民間銀行の貸出金利を下回る場合にはゴ(1)と て,分析がほとんどなされていない.この点に (2)の結論は緩和されることが補論で示される. ついて研究することも本論文の目的である. 2.寡占的金融市場モデル この論文では,収支相償を行動原則とする公 的金融と,免許制のもとで参入制限のある民間 2−1.モデルの説明 銀行が併存する金融市場において,公的金融の (i)一つの公的金融機関,および,各々が同一の 存在意義があるかどうかについて,社会的総余 費用関数をもつ複数の民間銀行が存在する寡占 剰を価値基準として分析する. 的な金融市場を考える.両者は寡占的な預金市 場と貸出市場において預金吸収量と貸出量を戦 本論文で得られる主な結論をまとめると,以 略変数としてクールノー競争に従事していると 下のようになる. 仮定する2)3). (1)(規模最:大化を目標として収支相償行動をと (ii)公的金融は,前述のように規模の最大化を る)公的金融と(利潤極大化行動をとる)民間金 目標として利潤がゼロとなるところで貸出量と 融機関が併存する寡占的金融市場において,公 預金吸収量を決定するものとする. 的金融の限界費用が民間銀行の限界費用よりも (iii)民間銀行は,それぞれが利潤極大化行動を 低い場合には,社会的総:余剰を最大化するよう とって,貸出量と預金吸収量を決めていると仮 に政府によって決定される民間銀行数が,銀行 定する.また,貸出利子率および預金利子率に 業への参入が自由な場合の民間銀行数よりも大 対しては規制がなく,それぞれの市場の需給均 きくなる.しかし,社会的総余剰を最大にする 衡点で利子率が決定されるものとする. 民間銀行数においては,民間銀行の利潤は負と (iv)民間銀行と公的金融の費用は,預金吸収と なってしまい,民間銀行業への参入を促進する 貸出審査などに伴う人件費と物件費(コンピュ ことは困難である,また仮に,民間銀行業へ参 ータのオンライン費用・建物の費用など)の合 入させることが出来たとしても,民間銀行の利 計であって,預貯金金利の利子支払は除いたも 潤が負となって,銀行を倒産に追い込んでしま のとする. うことになる.以上の観点から,公的金融の規 (v)前述のように,公的金融に対しては,①法 模最大化行動は,社会的厚生最大化行動からみ 人税の負担が課され’ない,②預金保険の保険料 ると,本モデルにおいては,好ましくないと言 支払いがない,③準備預金を積む必要もない, える. ④郵便貯金事業・簡易保険事業・郵便事業の三 つを同時に行える等の特典がある.これに対し (2)公的金融が規模最大化を目標として収支相 て民間銀行には,①一③の負担や④に対する規 償行動を行っている場合には,公的金融への特 制が課せられている.そこで本モデルでは,公 典(補助)を減少させることによって,社会的総 的金融に対するこれらの特典を,中央政府から 余剰全体が増加する.その理由は,公的金融へ の補助金と見なし,この補助金は国民の税金に の特典の減少によって公的金融規模が縮小し, よって集められると仮定する. 公的金融と民間金融が併存する金融市場における競争と経済厚生 315 (vi)民間銀行についても公的金融についても, 物件費 U字型の平均費用曲線を仮定する. Cρ(Dρ):公的金融の費用関数……人件費+物 (vii)民間・公的どちらの金融機関も右下がり 件費 の共通の借入需要曲線に直面しており,貸出量 W(Dゴ,Dρ,π, s):社会的総余剰 を増やそうとすれば,貸出利子率を下げなけれ’ 、4Cρ:公的金融の平均費用 ぱならないと仮定する. (viii)民間・公的どちらの金融機関も右上がり 2−2.民間銀行の均衡預金吸収量と公的金融の の共通の預貯金供給曲線に直面しており,預貯 金を多く獲得するためには預金利子率を引き上 均衡貯金吸収量 民間銀行数ηと公的金融への特典額sを所 げなければならないと仮定する. 与とした場合に,民間銀行が利潤極大化行動に (ix)民間銀行は法定支払い準備を越えて現金を よって決定する預金吸収量(これを民間銀行の 保有する(超過準備を保有する)ことはなく,法 均衡預金吸収量と呼ぶ)をD∼(72,∫),公的金融 定準備以外はすべてを貸出に回すと仮定する. が規模最大化行動によって決定する貯金吸収量 (x)公的金融は,民間銀行とは異なり,集めた (これを公的金融の均衡貯金吸収量と呼ぶ)を 貯金すべてを貸出に回すものとし,郵便貯金は Dρ*(η,∫)とする. 国債の買い入れなどには使われないと仮定する. (xi)民間銀行の行動については対称的なクール 民間銀行の利潤π‘は,貸出金利収入から預 ノー均衡を仮定し,すべての民間銀行が同一の 金への利子支払と人件費・物件費を差し引いた 行動をとるものとする. ものである.すなわち, ●乃(1)ゴ;D一ご,Dρ,∫) 本稿で使われる記号を整理すると次めように なる. η:民間銀行の総数 =γL[(1一ρ)(D汁ΣD,)+1)ρ]×(1一ρ)Dピ ゴキゴ ー7D[(1)∫+ΣDゴ)+Dρ]×1)ドCb(Z)ピ)…(1) ゴ ゴ (1)式の第1項は,各民間銀行が集めた預金 Dが第が民間銀行の預金吸収量 Dfのうち,ρDゴを必要準備として日本銀行に Dρ:公的金融の預金吸収量(郵便貯金量) 預け入れ,残りの(1一ρ)1)ごを貸出に回し,そこ ム:第ゴ民間銀行の貸出匹 から得られる金利収入を示している.第2項は, 田ρ:公的金融の貸出量 預金総量に依存する預金金利に第ゴ銀行の預金 ρ:民間銀行に課される法定支払準備率 (0<ρ<1) 量を掛けた預金利子支払,第3項は預金吸収・ 貸出などのための人件費・物件費などの費用を ム≦(1一ρ)Ofと仮定する. 表す. ∫:郵便局に対する従:量的な補助金 乃(Df;D一ゴ, Dρ, s):第’民間銀行の利潤 他方,公的金融の利潤勘も,貸出金利収入か 乃(1)ρ;Dl,…,D。,∫):公的金融の利潤 ら貯金利子支払と人件費・物件費を差し引いた 五:;Σム+五ρ総貸出量(=民間銀行貸出の ゴコユ ものであるから,つぎのように表される. 合計+公的金融貸出) ●乃(Dρ;D、,…,1)。,s) 7乙(L):貸出に対する逆需要関数 7L’(L)〈0 =η[(1一ρ)ΣDご+Dρ]×五)ρ と仮定する. カ D:;ΣD汁Dρ総預貯金吸収量(=民間銀行・ ぱニ ヵ ごコユ ー{7D[ΣD汁1)ρ]十s}×Dρ一Cρ(Dρ)……(2) ガコ (2)式は,公的金融が集められ,た貯金0ρをす 預金の合計+郵便貯金) べて貸出に回すと仮定しているので第1項に民 7D(D):預貯金の逆供給関数 7ガ(D)>0と仮 翻する. 間銀行との違いがある.第1項は公的金融の貸 出金利収入,第2項は貯金利子支払,第3項は Cδ(D∂:各民間銀行の費用関数……人件費+ 人件費・物件費などの費用を表している. 316 経 済 研 究 ●乃(Dガ;D一ご,Dρ, s) 民間銀行の利潤最:大化の一階の条件,および 公的金融の収支相償の条件は,それぞれ ∂塀∂1)f=0,πヵ=0であるから, ={アL[(1一ρ){Df+ΣD,}+1)ρ]×(1一ρ) ゴキゴ ー7ρ[(D汁ΣDゴ)+Dρ]}×Dr Cb(1)ご)…(1) ゴ ゴ と表現される.ここで,民聞銀行業への参入制 ●(1一ρ)×7L[(1一ρ){D汁ΣD5}+Dρ] 限がない場合には,(1)式が非負である限り利 ’幸ご 一7D[D汁ΣDゴ+Dρ]一Cb’ 潤が得られるので,民間銀行業への参入が続く. ゴキご +{γ乙’[(1一ρ){1)汁Σ1)ノ}+1)ρ]×(1一ρ)2 ゴキど 一7ガ[D汁ΣDゴ+1)ρ]}×1)ご=0 ゴまゴ 民間銀行の利潤極大化の一階の条件…(3) ●{7L[(1一ρ)ΣD‘+Dρ] れ ゴコ 一7P[Σ1)汁Dρ]+s}×Dρ一Cρ(1)ρ)=0 ガヨ よって,民間銀行の参入数(均衡数)η。は,(1) 式をゼロとする値として内生的に決定される. すなわち%。(民間銀行の利潤がぜロとなるよう な民間銀行参入数)は, 須(Dご*(η。,s),1)ρ*@。, s))=0, 公的金融の収支相償条件………………(4) を満たすから,(1)式をぜロとおいて, が得られる. ●{γL[(1一ρ)πθ1)f*(ηe,s)十Dρ*(πθ,ε)]×(1 一ρ)一γDレzθ1)ピ*(%9,s)十1)ρ*(ηε, s)]}×1)ピ (3)式と(4)式の両者を同時に満足する対称的 ーCb(1)f) =0・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 。一(7) なクールノー・ナッシュ均衡における各民間銀 を満足する値として決定される. 行の預金吸収量をDご*(η,s),公的金融の郵便 貯金吸収量をDρ*@,s)とおけば, Df*(η, s)とDρ*(η, s)とが満たすべき条件は, 3.社会的総余剰と3段階ゲーム ●(1一ρ)×γL[(1一ρ)η1)ゴ(η,s)十1)ρ*(η, s)] 民間銀行業務に参入するためには大蔵省の免 許が必要であり,民間銀行の数は大蔵省によっ 以下の二つの式で表される. 一γP[ηD∼(π,s)+Dρ*(η,ε)]一Cb’+ て決められている.その一方で公的金融への特 {7ガ[(1一ρ)ηDゴ*(η,s)十〇ρ*(η, s)]×(1一ρ)2 典額の水準(s)は制度的に決められている.本 −7P’ mη1)f*(%,∫)+Dρ*(%, s)]}×Dゴ*(%, s) 節では,まず厚生基準として社会的総余剰を定 =0 ・・。… 。。… 。。・。。・・… 。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… (5) 義し,次に,大蔵省,民間銀行および公的金融 ●{7L[(1一ρ)π1)ゴ*(η, s)十1)ρ*(η,∫)] 機関の間のゲームのあらましについて述べる. 一7P[πD∼(η, s)+Dρ*(π, s)]+s}×Dρ*(η, s) そして,公的金融への特典が所与のもとで社会 一Cρ(1)ρ*(η,s)) =0 ・。・… 一・・・・・… 。・・… 。。(6) 的総余剃を最大化する民間銀行数はどのような ものであるかを導出する. 2−3.民間銀行業への参入規制がない場合の民 間銀行の参入数 3−1.社会的総余剰の定義』 次章との対比のために,まず参入規制がない まず,大蔵省が最大化するべき社会的総余剰 場合に,民間銀行の参入数(均衡数)がどのよう をつぎのように定義する. になるかを求める.すなわち,民間銀行に対す 各民間銀行の預金吸収量がDゴ,公的金融(郵便 る参入規制がなく,民間銀行の参入・退出が自 局)の貯金吸収量:がDρ,民間銀行数がπ,公的 由であるとし,民間銀行の利潤がゼロとなるま 金融への補助金(特典額)の水準がsである時, で民間銀行業への参入が続く場合に,民間銀行 社会的総余剰,W(Df, Dρ,π,∫)を の参入数(均衡数)がどのようになるかを導出す ●w(Dご,1)ρ,π,∫) る. =∫(1一ρ)ηD‘+Dρ7L(X)4X一{(1一ρ)ηD汁1)ρ}× 公的金融の郵便貯金吸収量(1)ρ)を与えられ 7L[(1一ρ)ηDf十1)ρ]十(9¢1)ご十1)ρ)×γo[721)ゼ たものとして民間銀行が行動する場合,民間銀 十Dρ]一∫πρ‘+P’7D(x)認十膿(Df, Dρ, s) 行の利潤は,(1)式によって, +乃(1)f,1)ρ,ε)一s1)ρ …………∴……・…(8) 公的金融と民間金融が併存する金融市場における競争と経済厚生 と定義する. 317 段階で求められる. 大蔵省は第3段階で決められる民間銀行預金 (8)式は,総額しの貸出{=民間銀行の貸出 だ と公的金融の貸出の総和=Σム+Lρ=(1一ρ) げコ ηD汁Dρ}を行っている貸出市場における余剰 の吸収量Dε(多2,s)と郵便貯金の資金吸収量Dρ @,s)の関数を織り込み,公的金融への補助金 (s)を所与として,社会的総余剰を最大化する と総額Dの預金(=民間銀行預金と郵便貯金の ように民間銀行数(免許を与える民間銀行の数) 総和=πD汁Dp)を吸収している預金市場にお を決定する. ける余剰と民間銀行の利潤(ηπ∂,および公的 このようにして求められる民間銀行数をηノ 金融の利潤(乃)の総和から公的金融への補助 と表記すると,吻は 金額(特典額=sOB)を差し引いたものである. ηノ=arg max W(1)f*(π, S),Dρ*(π, S),%,3) ロ を満足する.すなわち,社会的総余剰を最大化 3−2.大蔵省,民間銀行,公的金融機関の間の する民間銀行数ηノは ゲーム ●∂w(1)ガ*(π,s),Dρ*(η, s),π, s)/∂η 公的金融への補助金(特典額)の水準s(=さ ;γL[(1一ρ)72メZ)げ*(72/,ε)十1)ρ*(72ノ,ε)]×{(1 まざまな税金の免税・預金保険への支払不要・ 一ρ)五若*(πノ,∫)十(1一ρ)ηノ∂][)f*/∂η十∂Dρ*/∂72} 預金準備の必要なし・3事業の兼営による範囲 一7D[%メDゴ*(ηノ, s)+1)ρ*@∫, s)]×{Dど*@∫,∫) の経済性)が制度的に決められているので,以 +ηノ∂Df*/∂η+∂Dρ*/∂π}一Cδ(D∫*(ηノ, s)) 下ではこの特典は外生的に与えられたものと解 一ηノCδ’×∂Df*/∂η一Cρ’×∂1)ρ*/∂η=0…(9) 釈する.他方,民間銀行に関しては,大蔵省が を満たす. 免許を与えてその(参入)数を制限している.そ このようなηノはsの関数として求められ, こで,次のような3段階のゲームを考える. 外生的に与えられた公的金融への補助金(s)の. 第1段階;(公的金融への特典額) もとで社会的総余剰を最大化する民間銀行数を 公的金融機関への補助金(特典)の水準sが 表している. 制度的(外生的)に与えられる. 以下では,記号を簡単化するために,民間銀 第2段階;(民間銀行数の決定) 行数がηノ(s)のときの社会的総余剰を 公的金融に制度的に与えられた補助金(特典) 略 の水準sのもとで,大蔵省は免許を与える民間 =π(D‘*@ノ(∫),s),Dρ*(η∫(s),s),〃∫(s),s) 銀行の数(参入する民間銀行数)ηを決定する. と書くことにする. 第3段階;(民間銀行の預金吸収量と郵便貯金 の資金吸収量の均衡値の決定) 4.銀行業の免許制(参入規制)と補助金 公的金融への補助金(特典)の水準∫および が社会的総余剰に与える影響 民間銀行参入数ηと,郵便貯金の資金吸収量 Dρを所与として,民間銀行が利潤最大化原理 4−1.公的金融が存在する場合の民間銀行業の の下で預金吸収量Dごを決定する. 免許制が社会的総余剰に及ぼす効果 同時に公的金融機関は,sおよびηと,民間 公的金融機関の規模最大化行動が民間銀行間 銀行の預金吸収量Dfを所与として,収支相償 の競争にどのような影響を及ぼすかについて調 原則(利潤ゼロ)に基づき,規模最大化を目標と べる.とくに,規模最大化行動をとる公的金融 して郵便貯金の資金吸収量1)ρを決定する. が存在する場合には,社会的厚生を最大化する 民間銀行数において,民間銀行の利潤が負とな 以上の3段階ゲームにおいて,ηとsが与え ってしまうことを示し,公的金融の存在が好ま られると,それに応じて民間銀行の預金吸収量 しくないことを述べる. D∫と郵便貯金の資金吸収量Dρの均衡値が第3 民間銀行数が(9)式で定まる晦(s)のときの 318 経 済 研 究 民間銀行の利潤を砺とすると, から, ●πザ CρLCδ’<0であれば(公的金融の限界費用が ={7L[(1一ρ)ηノ(∫)1)ご*(η∫(s))十1)ρ*(72ア(s))] 民間銀行の限界費用よりも低ければ),(11)式 ×(1一ρ)一7P[η/(ε)Dゴ*(ηノ(s)) より, +Dρ*(ηノ(s))]}×Df*(ηノ(s))一Cb(1)ゴ*@ノ πザ<πぽε (∫))・・……………・…・…………・…・・……・・(1’) つまり,(社会的総余剰を最大にする時の民 が得られる. 間銀行の利潤)<(自由参入の時の民間銀行の利 潤)が成立する. また,公的金融は収支相償原則の下で,利潤 他方,∂乃(Dゴ*@))/∂π<0(民間銀行数が増え がゼロとなるように行動しているので,民間銀 れば増えるほど,民間銀行一行当たりの利潤は 行数が吻である場合に公的金融が満たすべき 減少する)が成り立っているので,公的金融の 条件は, 限界費用が民間銀行の限界費用よりも低い場合 ●γL[(1一ρ)πノ(s)1)ご*(η∫(s))十1)ρ*(ηノ(s))] には,社会的総余剰を最大化する民間銀行数 一γD[%ノ(∫)Df*(π∫(s))+1)ρ*@ノ(s))] (多¢ノ)の方が,(民間銀行の利潤がゼロとなる)自 一∠4、Cp(1)ρ*(ηノ(8))) ==(} … 。。・。。。。。。・・・… (2’) 由参入の結果として得られる民間銀行数(ηe). である. よりも大きくなる.言い方をかえると,参入を (1ノ),(2’)式を(9)式に代入すると,民間銀行 自由にした場合の民間銀行数は,社会的総余剰 数が晦であるときの民間銀行の利潤侮が満 を最大にする民間銀行数よりも過少になると言 たす条件は以下のように求められる. える. ●πヒァ+(CρLCδノ)η×∂Dゴ*/∂η+(.4Cp−C〆) ×@∂Df*/∂η+∂Dρ*/∂η)=0………・……(10) 以上をまとめると次の命題が得られる. 民間銀行への参入が自由である場合の民間銀 行数編は(7)式で与えられ,そのときの利潤は 命題1: ゼロであるから,その場合の民間銀行の利潤を 公的金融が規模最大化を目標として収支相償 砲≡0と表す. 行動をとっているときに,公的金融の限界費用 (10)式に勧≡0を代入して書き直すと, 会的総余剰を最大化する民間銀行数(η/)は,民 が民間銀行の限界費用よりも低い場合には,社 ●πが+(CρLCう’)×η∂D、*/∂η+G4Cp−Cρ’) 間銀行の利潤がゼロとなる民間銀行数(自由参 ×@∂Dガ*/∂η+∂Dρ*/∂π)=乃ε…………(11) 入の結果として得られる民間銀行数)(ηε)より が得られる.一方,このモデルでは, も大きくなる. ∂Dρ*/∂π<0(民間銀行の数が増加すると,郵便 貯金の貯金吸収量が減少する),∂Dゴツ∂η<0(民 この命題より,規模最大化を目標として収支 間銀行の数が増えることによって,民間銀行一 相償を原則とする公的金融が寡占的金融市場に 行当たりの預金吸収量が減少する.)となるの 併存し,しかもその費用が民間銀行よりも低い で, 場合には,過剰参入定理が成立しないことがわ %∂1)ご*/∂η+∂1)ρ*/∂η<0 かる.すなわち,そのような状況においては, が成立する. 社会的総余剰最大化の観点からは参入規制は意 また,公的金融が規模最大化行動をとってい 味を持たず,むしろ大蔵省は参入を促進するこ る場合には,利潤極大点を越えて利潤ぜロまで とによって社会的厚生を高めることができると 貯金吸収量を増やしているので,公的金融の平 言える. 均費用の方が公的金融の限界費用よりも低くな 言い換えると,規模最大化行動をとる公的金 る.すなわち,ACp−C〆≦0が成立している 融が存在する金融市場で,社会的厚生を最大化 公的金融と民間金融が併存する金融市場における競争と経済厚生 319 させるように民間銀行に免許を与えると,最適 =7L[(1一ρ)πプ量[)ゴ*(η/(s),s)十Dρ*(ηノ(s),s)] な民間銀行数(ηノ)は,(民間銀行の利潤がぜロ ×[(1一ρ){ηノ(4D f*/ol∫十(41)f*/ol難) となる)自由参入の場合の民間銀行数(ηθ)より (伽ノ/漉))十(伽∫傭)1)f*} も大きくなる. 十(4Dρ*伽)(4塀廊)十認)ρ*傭] しかし,図1に示されるように,ηノでは,民 一7D[雇)ご*(η∫(s),s)+Dρ*@■(8),s)】 間銀行の利潤は負となってしまい,民間銀行業 ×[η∫(認)f*/4s十(4Dげ*/伽)(吻!/4s)) への参入を促進することは困難である.また仮 十(伽ノ傭)D∼ に,民間銀行業へ参入させることが出来たとし 十(認)ρ*/伽)(伽ノ廊)十〇のρ*傭] ても,民間銀行の利潤が負となって,銀行を倒 一ηノCδ〆×((認)ε*/伽)(げη//4s)十4Df*/4s) 産に追い込んでしまうことになる. 一(伽∫傭)Cδ(Dピ*(ηア,s))一Cρ’×((認)ρ*/伽) 以上の観点から,公的金融の規模最大化行動 (伽■傭)十認)ρ*傭) は,社会的厚生最大化行動からみると,本モデ =7L[(1一ρ)η∫Dゴ*@ノ(s),s)+Dρ*(〃ノ(s),∫)] ルにおいては,好ましくないと言える. ×[(1一ρ)ηノ∂Z)∼/爵十4Z:)ρ*/4s]一7D[ηノZ)ご* 4−2.公的金融への補助金(特典額)が社会的総 +班)ρ*/副 (ηノ(s),s)十Dρ*@ノ(∫),s)]×[ηノ。のご*/4s 余剰に与える影響 一ηノC♂oのご*廊一C〆認)ρ*/ぬ 最後に,公的金融への補助金水準(s)が増加 =.(η(1一ρ)一7b−Cガ)%ノdZ)ゴ*傭 した場合に,社会的総余剰がどのように変化す 十(η一7D−Cρ’)認)ρ*傾 るかを調べる.すなわち,社会的総余剰(陽) = (η(1一ρ)一7D−Cb〆)ηノ。猛)f*/廊 を補助金(s)で微分すると, +(!LCρ一5−Cρり認)ρ*/廊 げ陽傭 が得られる.ここで, 図1 w ノ π 0 π π‘ πθ π ’ 0 320 経 済 研 究 最大化行動からみると,本理論モデルにおいて oのゴ*/爵<0(公的金融への補助金が増加する は,好ましくないと言える. と,民間銀行一行当たりの預金吸収額が減少す る)が成立し,かつ, (3)公的金融が収支相償行動を行っている場合 oのρ*/ぬ>0(公的金融への特典額を増やすと, には,公的金融トの特典(補助)を減少させるこ 郵便貯金の預貯金吸収量が増大する)が成立し とによって,社会的総余剰全体が増加する.公 ている. 的金融への特典の減少によって公的金融の規模 さらに,公的金融が規模最大化を目標として が縮小して資金需要者(消費者)余i剰は減少する 収支相償行動を行っている場合には,平均費用 ものの,預金者(生産者)余剰が資金需要者(消 が限界費用を下回るので, 費者)余剰の減少分を補うほど増大するので, 且Cρ一∫一Cρ’<0が成立するから4略巻く0 この結論が得られる. が得られる. (4)公的金融機関が財投融資を行っていて,そ このことより,以下の命題2が成立する. の融資金利が民間銀行の貸出金利を下回る場合 には,(1),(2),(3)の結論は緩和されることが 仁平で示される. 命題2: 公的金融が規模最大化を目標として収支相償 行動を行っている場合には,たとえ公的金融の 費用が民間銀行の費用よりも低くても,公的金 山盛.公的金融が財投運用と自主運用を行って 融への補助を減少させることによって社会的総 いる場合の参入規制と補助金の影響 余剰が増加する.この結論は,松浦・三浦・北 川・井村(1990)論文とは逆の結論である. 本論では,公的金融も民間銀行も同一の預金 市場から資金を調達し,同一の貸出市場で競合 5.結び しながら業務を運営していると仮定した.しか し現実には,郵便局が吸収した資金は,郵政省 (1)規模最大化のもとに収支相償行動をとる公 による自由化対策資金運用(いわゆる自主運用) 的金融と,利潤極大化行動をとる民間金融銀行 と資金運用部経由の財投運用との二種類に向け が併存する寡占的金融市場において,公的金融 られる. の限界費用が民間銀行の限界費用よりも低い場 ここでは,公的金融による財投運用と自主運 合には,社会的総余剰を最大化するように政府 用を明示的にモデル化した場合に,4節で得ら によって決定される民間銀行数が,銀行業への れた結論がどのように変化するかについて分析 参入が自由な場合の民間銀行数よりも大きくな する. ることが示された. 各民間銀行の資金運用量がム,郵政省の市場 運用量(自由化対策資金運用量)がしρ,郵便貯 (2)社会的総余剰を最大にする民間銀行数にお 金が資金運用部を通じて融資される財投運用水 いては,民間銀行の利潤は負となり,民間銀行 準が五ρG,財投融資利子率がγLσ,民間銀行数 業への参入を促進することは困難である.また 仮に,民間銀行業へ参入させることが出来たと がη,公的金融への特典の水準がsである場合 しても,社会的総余剰を最大化する民間銀行数 では民間銀行の利潤が負となって,銀行を倒産 に追い込んでしまうことになる.以上の観点か ら,公的金融の規模最大化行動は,社会的厚生 の社会的総余剰を ●w(ム,Lρ,η, s,γLG,五pG) ≡∫酬㌦(x)躍一∫劇碓㌦(x)認 +ηCわ(ム)+Cρ(五ρ+LρG)+砺G(γLG,乙ρG) 公的金融と民間金融が併存する金融市場における競争と経済厚生 と定義する.ここで,砺G(7LG, LρG)は財投運 321 ●7L(・)一γd(・)一ノ1Cρ(・)+(γLG−7L(・))乙ρG 用による余剰を表す関数であり,7LG,五ρGはと =0 もに制度的に与えられた外生変数であるものと と表現される.ただしACρ(・)は公的金融の する.ここではこの関数の詳細を論じることは 平均費用を表す.この関係を(12)式に代入する 本質的でないので,∂砺G/∂7LG<0,∂四G/∂五ρG ことにより, <0 を仮定するにとどめる. ●πげ+{γL一(γ。一C♂)/(1一ρ)}〃!∂ム*/∂η +(一(7LG−7L)LρG一(Lρ*+五ρG)Acρ’) このように財投運用と自主運用を明示的にモ ∂Lρ*/∂η=0≡π∼ε・……,…………・……(13) デル化した場合の民間銀行および公的金融の利 が得られる. 潤は,それぞれ, ●乃(ム;Lピ,五ρ,s) れ れ ={7L[ム+Σ五5+Lρト7d[、乙ご+ΣL,)/(1一ρ) 命題1で示されたように,民間銀行に比べて 公的金融の方が低い費用で行動している時に, ごコユ ゴヨ 十Z,ρ十」Lρ(;]/(1一ρ)}×」しご一Cb(Lノ(1一ρ)) ●乃(五ρ;五1,…,・L。,s) だ れ =γL[Σム+Lρ]Lρ+7LGLρG一{γd[Σム/(1 自由参入の場合の民間銀行参入数は社会的厚生 を最大化する民間銀行数と比べると小さく(過 少と)なる.しかし,(13)式において,γLG(財投 ガヨユ ゴヨ 一ρ)十五ρ十」LρG】一s}×(五ρ十LρG)一Cρ(Lρ 融資金利)がγL(民間銀行貸出金利)を下回る場 +LρG) 合には,LρG(財投運用)の水準が上昇するにつ となる.郵政省による自由化対策資金(Lρ)は, れて,(13)式の第3項の{一(γLσ一7L)LρG}が 民間銀行と同じ市場で運用されると仮定し,そ プラスとなるが,第3項の{一(Lρ*十LρG) の運用利子率は民間銀行の貸出金利と同一(7L) AC〆}はマイナスであるから,(13)式の第3項 であると仮定する.他方,財投運用(五ρG)の融 全体(公的金融の費用条件の優位性)は小さくな 資金利はγLGで,民間銀行融資とは別の市場に る.これに対して(13)式の第2項はプラスの値 なされるとする. であるから,(13)式=0を満たす民間銀行の参 入数@ノ)は大きな値をとることになり,民間銀 公的金融機関が規模最大化行動をとる状況で, 行の参入が過少となる可能性が弱まる.逆に, 上記の社会的総余剰を最大化する民間銀行数を γ乙G 街と表記すると,吻は 郵貯自主運用金利)を上回る場合には,乙ρGの i財投融資金利)が7L(民間銀行貸出金利= ●∂i7(ム*@,s,γ、G,Lρσ),五ρ*@,s,γ、Gゴ五ρG), 水準が上昇するにつれて公的金融の費用条件の η,s,7LG C LpG)/∂η=0 優位性が高まるので,民間銀行の参入が過少と を満足する. なる可能性が強まる. 民間銀行数がηノであるときの民間銀行の利 潤をπザと表記すると,・ このことは次の命題3としてまとめられる. 上記の ∂卿∂η=0 の関係は 命題3: ●πげ十{7L一(7d−Cわ’)/(1一ρ)}ηノ(∂Lゴ*/∂π) 7Lσ(財投融資金利)がγL(民間銀行貸出金利 十(7ムー7d−Cρ’)∂五ρ*/∂η=0…………(12) =郵貯自主運用金利)を下回る場合には,五ρG と書き換えられる. (財投運用)の水準が大きけれ,ぱ大きいほど,民 間銀行の参入が過少となる可能性が弱まる.逆 ここで,公的金融の利潤は もまた漏りである. カ れ ●勘(・);γL[Σ五f+五ρ]五ρ+γLGLρG一{7d[Σ ごコ ごヨユ Lノ(1一ρ)十Lρ一}一LρG]一∫}×(五ρ十L♪G)一Cρ 次に,財投運用を行う公的金融への補助金が (Lρ十五ρG) 厚生に及ぼす影響について分析する.社会的厚 であるので,公的金融の収支相償条件は 生を最大化する民間銀行数@ノ)のもとでの社 322 経 済 研 究 会的厚生を, (一橋大学)両先生からの貴重なコメントも論文修正に 略≡πz(ム*(ηノ,s),」Lρ*(πノ, s),η∫, s)と 役立ちました.また,別の機会にコメントをいただい た井堀利宏(東京大学),堀内昭義(東京大学),池尾和 定義すると, 41脅傭 =(γL−7d/(1一ρ)一Cb7(1一ρ))ηノ4Z∫*/4s 人(慶応義塾大学)」神谷義気(慶応義塾大学),岩田一 政(東京大学),鴨池治(東北大学),中北徹(東洋大学) 福田慎一(東京大学)の私傷生方にも感謝申し上げます. 1) これまでの民間銀行の行動に関する実証分析 +(η一Zd−C〆)砒ρ*/爵 (野間敏克1986)では,規模最大化を指示するが,BIS =(γL一フrd/(1一ρ)一。♂/(1一ρ))η∫{名乙f*傭 規制と1980年代のバブル崩壊により,民間銀行行動 +(一(γLG−7L)LρG−s一(五ρ*+五ρG).4Cρ’) 砒ρ*/廊 が成立する. 公的金融の費用条件が良い場合に公的金融へ の補助金が厚生に及ぼす不利益が大きくなるこ とが本文命題2で示されている.ηGが7Lを 下回る場合には,五ρ0の水準が上昇するにつれ て公的金融の費用条件の優位性が低くなるので, 公的金融への補助金が厚生に及ぼす不利益が減 少する.逆に,ηGがηを上回る場合には, LρGの水準が上昇するにつれて公的金融の費用 条件の優位性が高まるので,公的金融への補助 は規模拡大行動から利潤確保行動へと変化していると も言われている.簡単なデータ分析(Yoshino(1995)) では,ユーロ市場への運用の減少,ノンバンク向け融 資の変化など,明らかに規模最大化行動が変化し,利 潤追求型となっていることが窺える. 2) この論文では,預貯金市場でも貸出市場でも, 公的金融と民間金融とが全く競合しながら資金吸収と 運用を行っている場合に,公的金融の存在が社会的厚 生を高めるかどうかに着目する.民間銀行と公的金融 の資金吸収市場では,都市部では特に競合していると 言われており,預金吸収に関して同一市場で競争しな がら預金吸収を行っていると仮定できる.貸出市場に おいても,公的金融と民間金融とが完全に競合した市 場で貸出競争を行っているという本論の仮定は,住宅 金融市場,大企業融資,優良中小企業などでみられる. 3)本論文のi基礎となる理論モデルは,藤田康範 (1994),吉野直行(1994)に基づいている.しかし,藤 金が厚生に及ぼす不利益が増大する. 田康範(1994),吉野直行(1994)では,(i)店舗規制が存 よって次の命題4が成立する. 在する場合を分析し,大蔵省が民間銀行の預金吸収量 を決められると仮定したが,今日では店舗規制が廃止 命題4: 本稿では店舗規制はないものと仮定している.また, され,無人店舗(機械化店舗)を自由に設置できるため, ηG(財投融資金利)がγL(民間銀行貸出金利 =郵貯自主運用金利)を下回る場合には,・LρG (財投運用)の水準が大きければ大きい程,公的 金融への補助金が厚生に与える不利益が弱まる. 逆もまた然り. 藤田康範(1994),吉野直行(1994)では,(ii)公的金融 が規模最大化行動をとった場合と利潤極大化行動をと った場合の比較がなされ,モデルのフレームは説明さ れているが,本稿で展開される厳密な数式展開は説明 されていない.さらに,本稿では(iii)公的金融の意志 決定と大蔵省の意志決定とが独立であることを示すた めに,両者の意志決定の段階を明確に区別している. 参 考 文 献 また,財投運用が情報生産として外部効果を もつ場合には,財投運用の増加によって公的金 融の費用の優位性が弱まるので,公的金融への 補助金が厚生に与える不利益が弱まると言える. 伊藤五重・清野一治・奥野正寛・鈴村興太郎,『産業 政策の経済分析』東京大学出版会,1988年. 井手一郎・林敏彦,「金融仲介における公的部門の役 割」堀内昭義・吉野直行編,『現代日本の金融分 (論文受付日1994年11月28日・採用決定日 析』,東京大学出版会,1992年, 岩田規久男「公的金融と金融自由化」,岩田規久男・石 1995年5,月17日,慶応義塾大学経済学部・ 川経夫編r日本経済研究』東京大学出版会,1988 慶応義塾大学経済学部) 年. 貝塚啓明「公的金融について」『経済学論集』,47巻3 号,1981年. 貝塚啓明「金融における官業と民業」『季刊現代経 ことに感謝いたします.1994年度理論計量経済学会 済』,45号,1981年. 貝塚啓明「財政投融資」,金本良嗣・宮島洋編『公共セ クターの効率化』東京大学出版会,1991年. 鈴村玉太郎「銀行業における競争・規制・経済厚生」 『金融研究』(日本銀行)第9巻第3号,1990年. のコメンテーター筒井義郎(大阪大学),座長寺西重郎 筒井義郎『金融市場と銀行業』東洋経済新報社,1986 注 本稿に対するレフェリーからの詳細なコメントは, 論文の修正ならびに今後の研究に大変に役立ちました 公的金融と民間金融が併存する金融市場における競争と経済厚生 年. 寺西重郎・三重野文晴「日本における政策金融の機能 と効果について」,r金融経済研究』,第8号,1995年 323 119号,1990年. 蝋山昌一『日本の金融システム』東洋経済新報社, 1982年. 1月号. 龍昇吉『現代日本の財政投融資』東洋経済新報社, 野口悠紀雄「財政投融資と日本経済」,宇沢弘文編, 『日本経済:蓄積と成長の軌跡』東京大学出版会, 1988年. 1989年. 済学』,VoL 37, No.4,1986年. 郎・奥野正寛・鈴村興太郎編『日本の産業政策』,東 京大学出版会,1984年. 吉野直行「寡占的金融市場における公的金融の役割」, 野間敏克「わが国銀行の規模最大化行動」『季刊理論経 小椋正立・吉野直行「税制と財政投融資」小宮隆太 福田慎一・照山博司・神谷明広・計総「製造業におけ 貝塚啓明・植田和男編,r変革期の金融システム』 る政策金融の誘導効果」,『経済分析』,経済企画庁経 (東京大学出版会)1994年. 済研究所,第140号,1995年. 藤田康範「金融自由化における公的金融の役割」慶応 義塾大学経済学部修士論文,1994年. 堀内昭義・大瀧雅之「金融:政府介入と銀行貸出の重 要性」浜田宏一・黒田昌裕。堀内昭義編『日本経済 のマクロ分析』東京大学出版会,1987年. 堀内昭義・随清遠「情報生産者としての開発銀行」,貝 塚啓明・植田和男編,『変革期の金融システム』東京 J.Lahiri and Y. Ono(1988)“Helping Minor Firms 大学出版会,1994年. Japan,”躍ηoη磁J S励’1吻ゴηαC肋η8ゴπg翫拡 松浦克己・三井清・北川浩・井村浩之「貸出市場と公 的金融」,『経済分析』,経済企画庁経済研究所,第 塑〃物π,Edited by Sawamoto K., Nakajima Z. Reduces Welfare,”η昭E60ηo痂。加辮α」,98: 1199−1202. K.Suzumura and K. K:iyono(1987)“Entry Barriers and耳conomic Welfare,”1吻渤げEooηo痂。 S’%4‘θs,54:157−67. N.Yoshino(1995)“Changing Behavior of Private Banks and Corporations and Monetary Policy of and H. Taguchi, Macmillan Press.