...

米国の対イラン姿勢 東京財団 渡部恒雄

by user

on
Category: Documents
17

views

Report

Comments

Transcript

米国の対イラン姿勢 東京財団 渡部恒雄
米国の対イラン姿勢
東京財団
渡部恒雄
これまでの経過
―2012 年 1 月 8 日、イラン原子力庁は首都テヘラン近郊のファルドの核施設を稼動し、最
高 20%の濃縮ウラン製造を開始すると発表。これを受け、米欧は制裁強化の検討を開始し
た。
―同日、イランの保守系新聞が、イラン革命防衛隊の高官の話として、原油輸出に制裁が
科された場合、イラン指導部はペルシャ湾からの原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の
封鎖を命じる決定をしたという記事を掲載。
―EU は、1 月 23 日にイラン産の原油の禁輸措置を決定した。イラン国会の国家安全保障・
外交委員会のコーサリ氏が「イランは新たな顧客を探すが原油輸出先を奪われることにな
れば、ホルムズ海峡を封鎖する」と発言。
―IAEA(国際原子力機関)は 2 月 24 日に報告書を発表し、1 月 29 日と 2 月 20 日にイラン
に派遣した調査団が核関連施設の視察を拒否され、イラン政府との協議でも大きな溝を埋
めることはできなかったと指摘。イランは、中部のナタンツやフォルドゥの地下施設で、
ウラン濃縮活動を加速させているとして「深刻な懸念」を表明。
―米海軍第5艦隊はペルシャ湾周辺に空母ジョン・ステニスとカール・ビンソンの2つの
空母打撃群を展開しているが、1 月 22 日になって、米海軍はジョン・ステニスと交代した
空母エーブラハム・リンカーンがホルムズ海峡を通過したことを公表し、イランの動きを
けん制。
―2 月 29 日、イスラエルを訪問したデンプシー米統合参謀本部議長が、下院公聴会でイス
ラエル政府がイラン攻撃の計画を真剣に進めていることを証言した。
―3 月 4 日にオバマ大統領が米国屈指のロビー団体「アメリカ・イスラエル公共政策委員
会」(AIPAC)で演説。
「絶対に明確にすべきことがある。我々はイランが核兵器を取得する
ことを防ぎ続けなければいけない。
」
―3 月 5 日、オバマ大統領がイスラエルのネタニエフ首相と会談。外交手段の解決が残っ
ているとして、イスラエルの軍事行動に自制を求める。
―3 月 10 日、ネタニエフ首相が AIPAC で演説。
「核を持ったイランがなぜ危険なのかを説
明したい」「イランはレバノンのヒズボラとガザのハマスというテロリストを支援してい
る」「イランの核兵器はテロリストに核の傘を与える」「核化したイランはホルムズ海峡の
閉鎖を真に脅かし、世界の石油の供給を止める」
「1944 年の世界ユダヤ人会議が米国陸軍
1
省へアウシュビツ爆撃を依頼する書簡がかなえられなかったこと」
「イスラエルは米国との
同盟関係に深く感謝している。しかしイスラエルの生存がかかれば、われわれは自分たち
で運命を決めなくてはならない」
―3 月 22 日、イスラエルのバラク国防相は、米国との間で効果的なイラン攻撃の時期で合
意できなかったと発表。
米国の立場をどうみるか?
―共和党候補は、徹底した孤立主義者のロン・ポール以外は、イランの核開発を阻止する
ためには、武力行使も辞さずという立場をとり、オバマ政権の姿勢を批判している。例え
ば、ロムニー候補は 2 月 22 日の討論会で、
「オバマ候補は明らかに軍事行動に反対してい
るが、米国が軍事的な準備があることを明確にした上で、イランと交渉すべきだった」と
発言している。
―大統領選挙を控えるオバマ政権にとっては、イランをめぐる軍事衝突は避けたいシナリ
オ。原油価格の高騰は、世界の景気回復に冷水を浴びせ、自動車に依存する米国の市民生
活を直撃する。
―同時にイランへの弱腰は、同盟国のイスラエルの不満を高めて単独軍事行動を引き起こ
しかねず、選挙のライバルの共和党からの批判も招く。AIPAC では、ほとんどの共和党候
補と両党の議会リーダー、オバマ大統領、パネッタ国防長官が講演している。選挙におけ
る AIPAC およびユダヤ系の支持は大きい。クリントン国務長官、オバマ政権は、イランの
軍事的暴発を防ぐと同時にイスラエルの単独軍事行動も封じ込めるという両睨みの立場。
―パネッタ国防長官はイラン政府のホルムズ海峡封鎖の警告について、
「イランによる脅威
や行動に関し、必要ならば軍事的に対抗措置を取る準備をすることになる」と語るととも
に、
「外交による事態の打開を求めるのは常に選択肢だ。イラン政府との交渉チャンネルを
今後も使い続ける」とも強調。イランを過度に刺激しないように今春予定されていたイス
ラエルとの合同軍事演習も延期。
―イスラエルにしても米国にしても軍事行動は空爆であり、ブーツ・オン・ザ・グラウン
ド(地上軍派遣)ではない。イスラエルの空爆は時間を稼ぐことにある。過去のイラクと
シリアへの空爆もそうであった。イランとの全面戦争を考えているわけではない。
―米国の専門家の間では、イランの報復行為を過小評価する見方もある。イランのホルム
ズ海峡の封鎖能力もそれほど長くは継続できないとみている。
2
Fly UP