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本土復帰 40 周年記念リレー講演会(第2回)
講演録
講演テーマ ここにもあった島の宝物 ~沖縄各地から湧き起こる6次産業化~
6次産業化統括プランナー、NPO法人食の風代表 田﨑 聡 氏
NPO法人食の風、スローフード協会会長の
田崎と申します。よろしくお願いします。
私は、東京の池袋という、全く農業とか6次
産業化と関係のないところで生まれました。沖
縄に移住しまして 27 年目になります。ずっと
那覇に事務所を構えておりましたが、今年から
宜野座村に事務所を移転しまして、より生産者
の方に近く、より生産者の声を聞くには、やは
り那覇の机の上で考えていてもだめだなという
ことで、『もくもくファーム』の吉田専務が言
っていましたが、「土の臭いのしない活動はす
るな」という考え方に賛同しまして、なるべくやんばるの方に行こうということで、今、宜野座村に
住んでおります。これから 40 分ぐらいお話しさせていただきますけれども、おつき合いをいただき
たいと思います。よろしくお願いします。
.....
【がちまやーが高じて、泡盛好きが高じて、遊び好きが高じて】
私が沖縄に来たきっかけですが、基本的にがちまやーが高じて、とにかく食べることが一番好きで、
私の従弟がソムリエの田﨑真也で、彼は世界一のソムリエになったわけですが、私は自称「アムリ
エ」と言いまして泡盛の世界一を目指しています。誰も泡盛のことは世界で認めてくれませんが、泡
盛に関しては私はよく知っていると自負しており、沖縄の泡盛メーカーは全社回りました。私は、全
蔵元を回って泡盛の本を出したり、泡盛を愛する協会とか泡盛のいろいろな啓蒙もやっているのです
が、最近、泡盛の出荷量が少し伸び悩んでいるのが現状です。そういう中で今後どうしたらいいかと
いいますと、やはり食材とのコラボレーションが大切かと。例えばワインであれば、ハム、ソーセー
ジ、チーズというのが必ずワインとセットになっていますが、泡盛であれば「何だろう」と思った時
に、「これだ」というのがないわけです。チャンプルーと泡盛とか、豆腐ようとか。それでは、豆腐
ようがチーズのような多様な種類があるかというとそうでもありません。やはり食とのコラボはすご
く重要だと思います。毎日毎日たくさん泡盛を飲まれる方もいっぱいいると思いますが、どちらかと
いうと私が来たころの 27 年前は、ウイスキーが全盛で、泡盛はあまり評価されていなかった部分が
ありました。やっと最近「古酒」を、国際通りや量販店に行くと買えるようになっています。私が 8
年前に「泡盛王国」という本を出版した時に、泡盛のほぼ全種類を載せました。肝臓がちょっと壊れ
るのではないかというぐらい試飲しましたね。
私はもともと東京のデザイン事務所でグラフィックデザインビジネスに没頭していましたが、沖縄
の自然や文化、食や遊び好きが高じてで沖縄に移住したようなものです。
【ここ沖縄は日本で、初めてファーストフードができた場所】
今、私はスローフード協会も主宰していますが、スローフードとは要するにアンチファストフード、
世界どこでも同じ均一のものを食べることをやめ、味覚教育を勧めようということと、伝統的な食べ
物や調理法を尊重しようということ、それから、生物多様性を評価しようということです。生産者と
消費者を結びつけようという運動がスローフード運動で、スローフードでは消費者を、共生産者とい
います。イタリアのブラという小さな村に国際本部がありまして、世界では 10 万人ぐらい会員がい
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本土復帰 40 周年記念リレー講演会(第2回)
ますが、日本は大体 2000 人で、全国でスローフード協会の支部が 50 あります。今年もイタリア
で FOODEX(国際食品・飲料展)みたいなスローフードの世界フェスタがあります。それは「テッ
ラ・マードレ」世界生産者大会といいまして、例えばアフリカの生産者とか第三世界の生産者のカボ
チャでもいろいろなカボチャを作っている生産者などが、一堂に会するフェスタです。
沖縄の食生活を語ったときに、「全国一位」がいっぱいあります。ケンタッキーフライドチキン消
費量 1 位、ハンバーガー消費量 1 位、ステーキ消費量 1 位、食用油の消費量 1 位、それからポーク
缶詰の消費量 1 位、ツナ缶も 1 位です。そうした缶詰類は圧倒的な量で、スーパーマーケットに積
まれています。コーラの消費量も 1 位です。スナック、バー、クラブの人口比率 1 位、アルコール
による肝臓疾患の死亡率も 1 位です。こうしたことで、肥満率が男女とも全国1位になってしまい
ました。あと、いい部分では、かつおぶしの消費量は全国1位ですね。
「皆さんは週何回、ファストフードで過ごしていますか」というぐらいファストフードで過ごす人
が増え、ファストフード店がこの 27 年間、沖縄にどんどんできました。また、スーパーマーケット
......
やコンビニもいっぱいできました。私が沖縄に来たころは小さなまちやぐぁーしかなかったです。そ
ういう部分で随分沖縄は変わったなと思います。沖縄は日本で初めてファストフードができた所で、
日本本土よりも 10 年早く、ファストフードの A&W ができました。そのぐらいファストフードの
影響はあります。
【ジャンクフードを食べるとうつ病になる】
ファストフードを食べ続けると、どうなるか。英国オックスフォード大学の研究でファストフード
を食べ過ぎると、うつ病になるという論文が発表されました。その他に、メタボリックシンドローム
への影響もでています。私もこの 27 年の間に 10 キロは太ってしまいましたが、メタボの原因がい
っぱいその辺にあるわけです。「ファストフードが何で悪い」いう部分もあるでしょう。「ファスト
フードは沖縄の文化だ」という人もいらっしゃるとは思いますが、ファストフードが完璧に悪いとい
うことではなくて、やはり、「地産地消」という部分をやっていかないとこのままではいけない。だ
から、沖縄の食材、沖縄の食文化を取り戻そうということで、私はスローフード協会を今から 10 年
ぐらい前に始めたのです。
【沖縄の伝統的食文化を取り戻そう】
それで「NPO 法人食の風」という、沖縄の伝統食文化を取り戻そうという運動を続けております。
それで、次に「これを6次産業化にどうつなげていくのか」という話になりますが、「沖縄の地域を
どうデザインするか」ということもずっと突き詰めていまして、私は食文化、飲食店プロデュースを
現在も行っています。
【沖縄・地域をどうデザインするか】
「沖縄の地域をどうデザインするか」という
ことですが、例えば、トラウトサーモンは今、
スーパーに出回っていますね。これは、ニッス
イががわざわざチリに行って養殖事業を始めた
のがきっかけですが、チリの人はサーモンを食
べなかった。でも、ニッスイがサーモンの工場
をチリにつくって、それをアメリカの人が食べ
たことで、回転寿司でサーモンが世界中に広ま
るようになったのです。
一方、最近出たのが「オーロラサーモン」で、
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本土復帰 40 周年記念リレー講演会(第2回)
これは北極海の方で作ったサーモンで、味的にはやはりおいしい。しかも、トラフトサーモンと比べ
て、3倍ぐらいの値段がついています。
「オーロラサーモン」名前がいいでしょう。やはりネーミングとか地域性というのがいかに大事か
というのが分かります。「何かおいしそう」、「何かいい感じ」と思うわけです。しかし、必ずしも
ネーミングだけで勝負していくとこれは、余りよくありません。例えば、最近沖縄では「アグー」の
表示が巷にいっぱいありまして、「アグーってどういうものなのか」本当に知っている人は少ないの
が現状だと思います。アグー自体のネーミングは広がっていると思いますが、地域ブランドとして、
例えばオーロラサーモンのような強いインパクトがない。地域ブランドにはなるが、「イベリコ豚」
のように等級づけをするようにしないと、ブランドイメージはあがりません。。もう少しブランドイ
メージは、大切に扱うべきですね。
そのようなことを、私は飲食店と同時に雑誌の方でずっとやってきました。一番最初に作ったのは
「島唄楽園」です。私は島唄が好きだったので「島唄楽園」という雑誌を創って、その後に「うる
ま」という雑誌を作りました。その後、「沖縄スタイル」などいろいろ創りました。今は「食の風」
というのを創っておりますが、雑誌業界は広告がないと成り立たないので、今は非常に厳しいです。
雑誌業界、飲食業界両方とも下り坂の業界ではありますが、その中でももちろん、勝ち組でやってい
る方もいます。20 年ぐらい前には、沖縄の情報を全国に発信する雑誌がなかったので、何とか沖縄
の文化、食文化を全国に発信したいということで、自前で雑誌を創りました。
【地域ブランドのネーミングキーワード】
私は、先ほども述べましたが、食文化といろ
いろな工芸文化を同時に沖縄から県外に発信し
ていこうということでやってきました。そうし
た取材の中で取り上げた沖縄の素材ですが、
「祭り」、例えばエイサーや豊年祭、ハーリー
などいろいろあります。それから、「人」、
「植物」、「森」、「水」、「暮らし」、
「風」、「海」、「雲」、「太陽」、「月」な
どいろいろな沖縄ならではの自然現象がありま
す。例えば、これを取り込んで「太陽のアグ
ー」とか、「月の何とか」とか、「海の豚」と
か、そういうネーミングも面白いと思います。ですから、そういう全然関係ない自然や地域の名前と
素材の名前をミックスして地域ブランドにしていくということも一つの手段だと思います。
【食の風の事業】
さて、NPO 法人食の風は何をやっている団
体かということですが、私どもは農業体験や特
に、CSA(コミュニティサポーテッドアグリ
カルチャー)という運動を最近やり始めました。
CSA って何かといいますと、農家に先払いで
お金を渡して、リスク、を消費者も一緒になっ
て味わおうというものですが、やり始めるとな
かなか大変です。宜野座村でやっているのです
が、都会的な消費者のいる消費地が那覇ですし、
宜野座村はちょっと離れていますので、なかな
か人数が集まらないので少し苦戦はしています。でも、だんだんこれを広げていけば、台風というリ
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本土復帰 40 周年記念リレー講演会(第2回)
スクを抱える沖縄でも農家のためになるいいシステムだと思います。
基本的に毎週、野菜のセットが送られて来たり、あるいはピッキングポイントに取りに来てもらい
ます。今、CSA が注目されているのはなぜかといいますと、東京、東北から「安心安全な野菜を食
べたい」というような電話が当 NPO に頻繁にあるといった理由からです。それから今、「やんば
る」に大分都会や東北から移住されている方がいるようで、そういう方々は、野菜の安心安全を求め
てやって来る方もいらっしゃいます。
それから、生ごみを保育園とかから集めまして、それをミミズに食べてもらってバクテリアにして
土に還していくという、「生ごみミミズコンポスト」というプロジェクトをやっています。これは後
で紹介しますが、有機農業大国のキューバを少し参考にしました。それから、「クラインガルテン」
は滞在型の市民農園で、週末だけ通って農業をやるのではなく、1年間そこを借りて、シニアの方々
にリタイアメントした後の老後の暮らしを、農的生活の実現をして過ごすということです。これはぜ
ひ、実現したいと思っています。しかし、お金がかかるのでなかなか実現しません。賛同する方、行
政の方がいらっしゃったらぜひ、お願いします。
それからオーガニックマーケットは JAS 有機認定を取っていないとだめですが、基本的には特栽
とかエコファーマーの農家の方も入っていますので、なるべく体に安心安全な野菜を売っていこうと
考えております。
他に、スローフード食文化アカデミーでは、いろいろな農業や食に関する勉強をしていこうという
場を創っていこうと思っています。直売所は沖縄にもたくさんありますが、いろいろ農業のことを知
りたいといっても、基本的に農業大学や大学などに行かなければならないということがありますので、
サラリーマンやOLでももっと気軽に勉強できる場を創っていこうということをやっています。
現在、私たちの畑は無駄な化学肥料を一切入れない無化学肥料と無農薬という形でやっております
が、まだまだ本格的な収穫を得るには3年ぐらいかかると思います。そんな中でも、細々と北谷など
でファーマーズマーケットを行って販売しています。ディスプレーの仕方も工夫しないとなかなか売
れないと思います。それで「食の風」では「おいしく、きれいで、正しいか」という基本理念を決め
ておりまして、「トレーサビリティーを理解しているか」ということや「生産加工労働者にその仕事
に見合う報酬が支払われているか」、「仕入れ商品ではなく、遺伝子組み換えでないものか」などの
規約が守られているか、といったような独自のルールを設けています。今まで、農業で時給をもらえ
るなんて状況は、なかなかあり得ませんでした。この前、大きな台風がありまして、ハウスなどが全
壊したところもありましたけれども、そういう中で、沖縄で農業を行っていくのはなかなか難しいで
すが、やはり今後は農業も法人化して一致団結してどんどん生産性を上げていく必要があるのではな
いかと思います。
それから、「その土地に根差した材料を使っているか」という疑問に対して、例えば、泡盛ですと
原材料は主にタイ米を使用していますすが、これは、必ずしも地産地消ということではありません。
最近では、金武や伊是名島のお米を使ったりして、地産地消でやるようになっていますけれども、必
ずしも地産地消でない場合は伝統的な製法を行っているかということを、価値判断にしています。そ
れから化学肥料、着色料などをなるべく無添加にした食品を扱うこと、加工物が遺伝子組み換えでな
いということが、NPO 法人食の風の理念です。
今、ほとんどの家畜などの配合飼料はアメリカの遺伝子組み換えのトウモロコシだったり大豆粕だ
ったりするので、その辺も今後は、なるべく自給できるようにしていかなければいけないと思ってい
ます。
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本土復帰 40 周年記念リレー講演会(第2回)
【6次産業化とは】
沖縄の 6 次産業化について私が気付いたこ
とは、例えばマグロが年中沖縄で食べられると
いうのは、意外と全国の人は知りませんよね。
「大間のマグロ」といったブランドは有名です
が、沖縄のマグロは年中獲れて食べられるとい
うことが意外と知られていません。この前、本
マグロが一日 300 本上がったということがあ
りましたけれども、そんなことも知られていま
せん。
また、これから沖縄の食文化を担っていくに
はシェフの存在が欠かせませないと思います。
あるいはシェフが農業を変えていく、みたいなこともあっていいと思います。今までは、生産物は生
産者から農協や漁協に行って加工して、問屋に行き、その間にもう一つ問屋を通すという従来の流通
経路がありましたが、これからは生産者が自ら加工、流通させることで消費者に直接届けようという
動きが加速しています。最近この一番いい例として、AP カンパニーという会社があります。AP カ
ンパニーは、宮崎の地頭鶏(じどっこ)を塚田農場という自社農場から全部自社の飲食店に提供して
おり、自ら 6 次産業化をやっており、2 部上
場企業まで成長しました。沖縄では 6 次産業
の認定を受けられた石垣島の「うるずんファー
ム」のスモークチキンなどがあります。石垣黒
鶏はフランスのプレノワール種で、プレノワー
ル種は、羽は黒いのですが、肌は白いのが特徴
です。石垣黒鶏は、大体普通の鶏より少し大き
く、成体で 2、3 キロになります。今、加工生
産・販売までやろうと頑張っています。
また、申請をしておりませんが、恩納村にあ
るオーベルジュ・ラ・ウーは、昔からあったリ
ュウキュウガネブという沖縄の山ぶどうを使ってワインを作るということを実践しています。今は、
醸造用免許がなく自分ではできないので、加工を県外の勝沼ワインにお願いしており、今年は 10 リ
ットルぐらいできるかなというところで、一生懸命ワインにしようと研究中です。
それから、今年東京ビッグサイトで「アグリフード expo2012」が開催され、国頭村の農業生産
法人アンビシャスが出展しました。国頭村の辺土名でイノブタを飼育し 6 次産業化を目指していま
.........
.....
す。イノブタの命名を「くんじゃんぬちぶた」とオーナーが名付けましたが、「くんじゃん」の意味
を説明するのは本土の方では大変かもしれませんが、皆さんご存知の国頭村のことです。そこでハム
やソーセージ、スモークハムなどに加工しようと 6 次産業化を目指しています。そこに至るまでい
ろいろマークのデザインを考えながら、わずか1週間でパンフレットを作りましたが、この前、「ア
グリフード expo2012」に出展しまして、大盛況で評判もよかったようです。加工の部分はこれか
.........
らですが、「くんじゃんぬちぶた」の出荷販売までのこれからの発展が楽しみです。
昨年、八重瀬町のプロジェクトである「カラフルベジタブル」は、八重瀬町商工会から私どもが委
託を受けまして CI によるマークを作りました。八つの種をいろいろ発展させようというイメージで
蝶のデザインにしました。この形を八重瀬商工会はカラフルベジタブルのマークとして、オクラやピ
ーマンなどいろいろな商品化を目指してやっていますが、まだまだ完璧なブランド化にはなっていま
せん。これからのプロジェクトです。このように、商工会とコラボレーションしたりもしています。
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本土復帰 40 周年記念リレー講演会(第2回)
今は使われておりませんが、八重瀬町にヘリオス酒造のレストランがあります。そこで、一日だけ
の農村カフェをやろうということで、八重瀬町はオクラが戦略作物ですから、オクラをコンセプトに
イベントを考えました。オクラは、英語でガンボといいます。ガンボといいいますと、ニューオーリ
ンズで有名なのがガンボスープやジャンバラヤなどのケイジャン料理です。ニューオーリンズは米国
ジャズ発祥の地ですから、ディキシーランド・ジャズを呼んで、大にぎわいのイベントとなり、大盛
況で非常に好評でした。
それから、実現はしませんでしたが、竹富島の水牛でモッツァレラチーズを作ろうというプロジェ
クトがありまして、これもパッケージデザインをいろいろ考えました。竹富島には水牛が 70 頭いる
そうですが、だったらそのお乳を何とかモッツァレラチーズにできないものかと。本当はモッツァレ
ラチーズはもともと水牛から作るものなので、竹富島でもできるんではないいかかということでやっ
たんですが、全然水牛は乳を出してくれませんでした。水牛たちは人を運ぶのに疲れちゃったみたい
ですね。
それと、農林水産省の予算で行った「八重山食文化推進協議会」におけるロゴマークについても考
えました。八重山の特産でピパーツというのがあります。この前、八重山のこのピパーツの商品開発
で 6 次産業化申請を行った方がいましたが、ピパーツと Y を重ねまして、八重山食文化とフードの
F でロゴマークのデザインを考えました。
【Nuchi Yukui ぬちゆくい】
これは「Nuchi Yukui」、「ぬち+ゆく
い」(命と休むの意)ということで、シンメ
ー鍋をデザインしたものです。
このように、私たちは沖縄の食文化を 6
次産業化を通してもう少し盛り上げようと考
えています。観光資源としての「食」として
は、北海道にはかなわないと思いますが、
「沖縄に○○を食べに行こうぜ」という方が
まだまだ少ないと思います。もちろん「ラフ
テー」とか「沖縄そば」とかいろいろ美味し
いものはいっぱいありますが、どうしても沖
縄といえばチャンプルーなどの、家庭料理が
中心になってしまいます。やはり、北海道の
タラバガニとかイクラとか、そのような素材
にはかないません。それからお菓子といった
らやはり北海道は、焼きトウモロコシとか、
「白い恋人たち」とかが有名です。それで、
沖縄では「ぬちゆくい」という言葉を作って、
沖縄の「ミシュラン」を目指そうということ
で飲食店に啓蒙していますが、その基本はや
はり「美味しさ」で、全ての食は美味しくな
ければ始まらないと思います。全てのバイヤ
ーの決定事項は、一番は何かというと「美味しさ」です。これは間違いありません。美味しくなけれ
ば、価格がどんなに安くても買いません。
それから「おもてなし」です。どんなに美味しくてかっこよくていい飲食店でも、「おもてなし」
や「サービス」が最悪でしたら、二度と行きません。それから「食の安全」、これは当然です。
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本土復帰 40 周年記念リレー講演会(第2回)
次に「職場環境」、これは常に実行、清潔に
しなければなりません。生産者も一緒で、バイ
ヤーが行ったときに汚い畜産農家があったとし
たら、これからは通用しなくなります。栄養成
分表示は今後5年間は強制的に表示が義務化さ
れますから、必ず表示しなければなりません。
それから「継承と発展」ということで、伝統的
な食文化を次の世代に継承していただきたいと
いうことです。
それで、沖縄の伝統食材を使ったレシピ集も
作りました。これは、ピンチョス(スペインで
一口つまみ)というのですが、外国の方は箸がなかなか使えないので、手で取って食べますから、ハ
ンバーグなども片手一本でドライブしながら手で食べれるようにしているのです。
【有機農業大国キューバに学ぶ農的沖縄生活】
私は、沖縄キューバ友好協会に関わっておりまして、キューバに行くチャンスが何回かありました。
キューバは有機農業を行っておりますが、これはキューバが積極的に有機農業を行ったのではなくて、
経済封鎖を受けたので有機農業にならざるを得なかったという状況があります。それまで郊外でヘリ
コプターから農薬を撒くような旧ソビエト型の農業をやっていましたが、経済封鎖を受けてからは郊
外で農業を行うのは輸送コストもかかり、大変だということで、カストロ首相は都市農業を推進して
きました。キューバでは畑に農村カフェや直売所が併設しており、オルガノポニコという有機農場を
実施しています。郊外ではなく、都市の屋上とか駐車場などありとあらゆる所で、自分の食べるもの
は自分で作るようにしています。また、キューバはお米と豆が主食で、稲作文化です。コングリと言
う黒小豆ごはんがありますが、これは宮古島の黒小豆に結構似ています。それと、キューバは晩年過
ごした作家へミングウェイで有名ですが、ダイキリとかモヒートなどのラムのカクテルや葉巻き、ス
ペインの植民地であったので、パエリアなどの食文化もあります。有機農場の市場には必ず農業指導
員がいて、農業指導員に脱サラした農家の方が「どうやったらこのオクラが上手につくれるか」など、
いろいろな相談を行うことができます。そういう意味でキューバは今後、世界的に注目されると思い
ます。また、キューバはコーヒー栽培でも結構有名でして、「クビータ」というクリスタルマウンテ
ンという山で栽培される美味しいコーヒーがあります。コーヒーは風に弱いと言われていますが、キ
ューバ、ジャマイカもそうですが、ハリケーンがすごい中でも栽培しているので、そうしたコーヒー
の品種は、沖縄でも十分参考になると思います。沖縄でも、今 20 農家ぐらいのコーヒー農家があり、
大分最近は栽培する農家が増えてきています。昔からコーヒー栽培をやられている方もおり、八重山
地方で栽培をやっている方もいます。ぜひ頑張って、コーヒーも沖縄の農産物として栽培していただ
きたいと思います。キューバと沖縄はほぼ緯度が一緒で、完全に亜熱帯農業ですので、ぜひキューバ
に行ってまた有機農業の視察を行いたいと思っています。
【パリ・テロワールプロジェクト(パリの土地にあった農と食の出会い)】
それと、もう一つ紹介したいのがパリです。パリの場合は、シェフが農園をパリの郊外ではなくて
市内に作っています。市内の土壌は「テロワール」といってもともとぶどうに向いている土壌です。
最近では、シェフが郊外に散っていったワイン農家を、もう一度パリ市内にワイン農家を呼び戻そう
ということで、生活保護者の人たちを使ってぶどう農園をやってもらい、その作物をシェフが買い上
げるというシステムをやっています。こういう方たちが一緒になって、パリの中でいろいろな農作物
を作り、「パリジャンのためのパリの食材を使った料理」を作っています。今、沖縄でも沖縄の食材
を使った沖縄のイタリアンとか、沖縄のフレンチとか、いろいろなものをホテルやレストランが一生
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本土復帰 40 周年記念リレー講演会(第2回)
懸命追求しています。
それから、パリの市内でハチミツを作っていますが、沖縄でも、オーストラリアから女王バチが輸
入禁止になって以降、受粉が大変になるということで、2、3 年前に養蜂家が増えました。養蜂は畜
産ですので、1 匹でも飼っていればきちんと届けが必要です。沖縄の場合はセイヨウミツバチでして、
ニホンミツバチはまだいません。セイヨウミツバチは結構繁殖力旺盛なので、冬場出荷して、本土の
受粉の手助けをしていますから、日本の農業を助けているのは沖縄のミツバチといっても過言ではあ
りません。パリのハチミツ作りのように、沖縄ももちろんハチミツ作りの養蜂家もいますので、受粉
用の沖縄のミツバチが、大分本土で活躍していることも知っておいてください。
【6次産業化は川下(飲食業界・消費者)から川上(生産者)を考える】
私は去年から6次産業化プランナーをやらせていただいて、6次産業化の認定を受けたのが10社
ぐらいあります。一人でやっているところから、きちんと会社でやられているところ、あるいは土建
業から農業に入っているところなど様々です。一人で農業をやられているところは本当に大変で時間
もなく、余り 6 次産業化の事業化を本格的に行うことは勧められませんが、頑張っているのでそれ
は応援しなきゃいけないな、と私は考えています。
それから、事業者はみんな資金的に苦しんでいますから、何とか 6 次産業化で加工、生産、販売
まで行っていただきたいと考えています。事業者の中には本当に事業形態や質・量的に経営基盤が脆
弱なところが多く、そういう意味では、農家や業業の方々は大変苦労しているのが実態です。それか
ら、沖縄の農林水産業は、台風や干ばつなどの自然災害にいつも左右されてしまうという状況で、生
産、加工から販売まで行うというのはとても大変です。「生産で追われているのに何で加工、販売ま
でできるんだ」、「人なんかこれ以上雇えないよ」、「雇うお金を 6 次産業化で出してよ」など、
私たちプランナーはいろいろ言われます。本当に事業者は身をもって真剣に相談されますが、とにか
く事業者は事業計画等をきちんと作って事業を行っていただき、私たちプランナーは、それを経営的
にサポート支援援護できればいいなと思っています。
基本的に生産者は、「自分のものは絶対世界
一だ」という方が多く、私は「世界一って言い
ますが、あなたは世界各地に行ったことがあり
ますか」と聞くと生産者は「一回もない」とい
う人が多いので、生産者に対しては、やはり
「もっと外を見てほしいな」と思います。例え
ば、「フーデックス」に行ったり、本土や世界
のスーパーマーケットを見てみたり、とにかく
生産者に対しては外を見てほしいと思っていま
す。
それから、飲食業界の人たちはヒントをいっ
ぱい持っています。例えば、農業者は何でもかんでも果樹をジャムにしようとしたり、また、畜産の
場合では精肉をハム・ソーセージにしようと、すぐ加工品を作りたいという人が多い中で、これから
は「差別化」していかないといけません。事業者は、全国の市場の中で戦っていかなければなりませ
んが、全国 47 都道府県の中で、沖縄ブランドというは比較的優位に立っています。何故かといいま
すと、先ほども申しましたように、東北の安心安全が少し揺らいでいる中で、西日本の農産物は今、
非常に注目されているということです。そういう部分で既に優位に立っている中で、「もっと差別化
して優位に立たせられることはできないか」「もっといろいろ多様な、沖縄の農産物をもっと県外に
広げていくべきではないか」と私は思います。
それから「消費現場」、「デザイン」、「価格戦略」というのも大切です。これはやはり高ければ
売れるものでもないし、安ければ売れるものでもないということで、市場価格の中で、例えば、東京
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本土復帰 40 周年記念リレー講演会(第2回)
の千疋屋や高野フルーツパーラーに行ったら、桐箱に入ったスイカ 1 個 1 万円で平気で売れている
わけですけども、残念ながら、「今帰仁スイカ」を持って行っても 1 個 1 万円では売れません。と
にかく、価格をどういう戦略でいくか、また、デザイン戦略をどうするかということが大変重要です。
例えば、一升瓶であれば後ろを見たらどれも同じ一升瓶ですが、ところが表に、「泡波」とか、「越
の寒梅」とかラベルを張ったらそれだけで価値がずっと上がります。それだけ人間は「頭で認識して
飲んでいる」ので、デザインというのはどれだけ大事かということを、もう少し見直していただきた
いと思います。
それから、当然でありますが、「高付加価値」を商品にどうつけるかが鍵になります。商品の販売
方法には、直接取引やネットでの直接販売がありますが、自己資金が少なければ、今、インターネッ
トという素晴らしいメディアを使う方法があります。例えば、「オイシックス」「らでぃっしゅぼー
や」「楽天」などいろいろありますので、そういうところと取引したり、テナントで入る場合もあり
ますし、自分でホームページを作る方法もあります。「オイシックス」は年商 120 億ぐらい売って
いるのではないでしょうか。そのぐらい今、ネットで生鮮野菜の販売が行われているということです。
沖縄の場合、流通コストが一番ネックです。沖縄から送ると、野菜より流通コストの方が高くなっ
てしまいます。例えば私たちのCSA事業の場合、野菜 1980 円で、県外への流通コストが 1800
円も取られてしまうので、それを着払いで払うと、お客様からすごいどなり声で「なんでこんなに沖
縄の野菜は高いんだ!」などと言われてしまうわけです。この流通コストを何とかしてもらわないと、
なかなか沖縄の野菜は本土市場で戦えません。「東京ゴーヤー」に「沖縄ゴーヤー」はかなわないの
です。18 年ぐらい前、私は「ゴーヤーの日」というイベントを実施しましたが、そのとき「ゴーヤ
ーは本土では、そんなに売れないよ」とか言われていました。でも、沖縄野菜としての可能性を信じ、
ハーバービューホテルを手弁当で借り切って「ゴーヤー(5 月 8 日)の日」というのを創って以来、
翌年から県が「ゴーヤー」の日を設定してくれました。しかし、「ゴーヤーの日」はよかったのです
が、ゴーヤー自体が広がり過ぎてしまい、有名になり過ぎて、今度は日本全国どこでもゴーヤーを作
るようになってしまい、沖縄のゴーヤーは流通コストがかかるためあまり売れなくなってしまったの
です。そういう事態が起きますから、農家は「豊作貧乏」ということがいつもつきまといます。同じ
く、沖縄の戦略作物で「もずく」や「シークヮーサー」などがありますが、豊作になると本当に価格
が下がってしまい、「カラスも食わない」みたいなことになるおそれがありますから、「適量」、
「適時」、「適品」、「適価」、「適所」については大事にしないといけないコンセプトだと思いま
す。
それから「6W3H」、Who、What、Why、Where、When という 5W に Whom(誰に)を追
加した 6W、3H とは 2Hの How to、How much、に How long、を足した言葉で、「どのよう
に」、「いくらで」「納期はどうなの」という部分をいつも考えながらやっていけば事業は成功する
と言われてます
商品のターゲットがスーパーマーケットなのか、あるいは観光土産品なのか、それとも個人に売買
するのかで、価格は全然変わってきます。例えば、観光土産品は、相当低い卸値で卸さなければなり
ません。そういう商品を作るためには、本当に原価を安くしないとだめで、生産者は少しも儲からず、
売っている方が儲かる仕組みになっています。これが今までの、6 次産業化実施前の生産者の姿で、
一生懸命汗水を垂らして農作物を作っても、仕入れるバイヤーや小売業者ばかりが儲かって、生産者
は全然儲からないという構図でした。これは何とかしなければならない、生産者には「BtoB」なり
「BtoC」のことをもっと知って欲しいと私は思っています。この辺を頭にとめて、生産現場からぜ
ひ 6 次産業化を目指していただきたいと思います。
本日は長い時間御清聴ありがとうございました。
※1 BtoB(business to business): 企業間で行われる電子商取引のこと
※2 BtoC(business to consumer): 企業と消費者との間で行われる電子商取引のこと
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