...

防災と持続可能な開発 - 政策研究大学院大学

by user

on
Category: Documents
21

views

Report

Comments

Transcript

防災と持続可能な開発 - 政策研究大学院大学
災害リスク マネジメント概論
(2013 政策研究大学院大学)
防災と持続可能な開発
2013年4月
政策研究大学院大学教授
安藤尚一
各講義のテーマ
第1回:災害と持続可能な開発
2013年
第2回:世界の災害 -被害概要
(以下予定)
第3回:災害リスク軽減政策の基礎
第4回:阪神・淡路大震災の教訓
第5回:東日本大震災・津波の被害
第6回:津波防災・復興の取り組み
第7回:日本の災害対策概論Ⅰ(減災)
第8回:日本の災害対策概論Ⅱ(復興)
第9回:都市防災の仕組みと現状
第10回:建築防災の仕組みと現状
第11回:政策事例 -住宅・学校耐震化
第12回:政策事例 -コミュニティ防災
第13回: 国際社会における防災の取り組み
第14回:今後の防災 -自治体・市民の視点
第15回:特別講義
4月10日
4月17日
4月24日
5月 1日
5月 8日
5月15日
5月22日
5月29日
6月 5日
6月12日
6月19日
6月26日
7月 3日
7月10日
7月17日
2
1. アジアの都市 1
1
3
2
4
アジアの都市 2
5
7
6
8
2.サステナブル(持続可能)とは
(基本概念の整理1)
・ 1992年 環境と開発に関する国連会議(リオ・地球環境サミット)
・ 「サステナブル」は元来、生物学用語で「個体は死んでも群として
存続し続ける」意味。それをブルントラント委員会で経済用語の開発
と結び付けたことから様々な分野で1990年以降使われ始めている。
・ サステナブルには、(1)「Strong Sustainability:強い持続可能性」
と「Weak Sustainability:弱い持続可能性」の二つの目標、
(2)「経済的」、「社会的」、「環境的」の三つの側面を同時に考慮、
(3)「世代間」、「地域間」、「同一の社会内」での持続可能性などの
一般概念がある。(環境倫理学・環境経済学)
・ 国連内では、経済社会局のDSD(Division for Sustainable
Development)がサステナブル政策の中心。
・ 2012年にリオサミット20年を迎え、Rio+20を(リオで)開催。
概念整理1 「強い持続可能性」と「弱い持続可能性」
・ 「弱い持続可能性(Weak Sustainability)」とは、生態系、水系、
化石燃料等の地下資源、大気等自然に存在する価値(自然資
産)と人工的な植林、汚染防止、水質改善、生態系回復等(人工
資産)の両者の合計が減少しなければ、環境は持続可能であると
する立場。 つまり、自然資産の減少を認める考え方。
・ 「強い持続可能性(Strong Sustainability)」は、自然資産を減少
させずに、持続可能であること。これは、多くの場合、現在の経済
活動、生活水準を維持しようとすると達成不可能である。背景に
は、ある種の自然資産は人工資産で代替不可能であるという考
え方があり、ある量の自然資産は必ず必要であるという立場。
(強い可能性のほうが論理的に正しいとされるが、まずは短・中
期的に弱い持続可能性からスタートし、次第に長期的展望に基づ
く強い持続可能性の立場に移行していくのが、現実的。(2000年
地球環境・建築憲章:建築学会、村上周三))
概念整理2 持続可能性の「経済」、「社会」、「環境」側面
・ 持続可能な開発とは、 ブルントラント委員会が1987年に公表し
た報告書「Our Common Future」の中心的な考え方として取り上げ
た概念で、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求
も満足させるような開発」のことを言う。この概念は、環境と開発を
互いに反するものではなく共存し得るものとしてとらえている。
・ 開発には、経済
開発と(人間開発や
人間の安全保障の
概念を含む)社会開
発がもともとあり、そ
こに、環境(保全)の
視点が加わったもの。
排水汚染防止
騒音対策
オゾン層保護対策
有機浮遊物対策
廃棄物対策
リサイクル
水資源有効利用
エネルギー有効利用
燃料転換
再生可能エネルギー
環境政策目標
サステイナブル
建築の政策目標
経済政策目標
自然環境との調和
緑化対策
室内空気質汚染対策
持続可能な共同体
社会環境との調和
社会政策目標
歴史的環境の保全
都市計画・交通
計画との連携
環境管理システム
耐久・耐用性
(ENV/PC , Mar.1999)
概念整理3 「世代間」「地域間」「社会内」の持続可能性
・ 「世代間の持続可能性」とは、文化的価値や伝統が世代を超
えて受け継がれることを含め、(自然・人工)資産が将来の世代に
持続可能な形で引き継げること。例えば、巨額の借入金や美しい
自然環境の破壊は、世代間の公平上も、持続可能でない。
・ 「地域間の持続可能性」は、国際的にみた場合の南北問題や
同じ国の中でも農村部から都市部への急激な人口移動などで、
同じ世代であっても地域間で持続可能な状態であるかが問われ
る。多くの「地域開発」の課題は、地域間の不均衡から生じる。
・ 「社会内の持続可能性」は、同じ世代で、同じ地域であっても
一つの社会内で階層間、民族間やジェンダー上の摩擦があれば、
持続可能な状態でなくなる。それらの場合も、経済、社会、環境上
の配慮が総合的に行われることが、持続可能性上必要である。
3.開発とは (基本概念の整理2)
・ 国連開発の10年(1960年代)における「開発」の定義
「低開発国(undeveloped countries)の問題は、単なる成長で
はなく、まさに開発である。・・・開発とは、成長に変革を加え
たものであり、変革とは経済から社会文化にわたる変革で、
量的かつ質的な変革を意味する。主要概念は、人々の生活
の質(quality of life)の改善である。」 (1962 UN)
・ 開発の指標(例)
1)
2)
3)
4)
GDP (Gross Domestic Products) 経済開発
HDI (Human Development Index) 社会・経済開発
GDI ジェンダー関係開発指数 社会開発
MDG (Millennium Development Goals) 8目標、18ターゲット、
48指標(ターゲット1:一日一ドル以下の人を半減。ターゲット11:スラム人口1億人の改善など)
(例) HDI (Human Development Index)
人間開発指数
国連開発計画の資料より
4.地域開発とは (基本概念の整理3)
国連による定義
(1971年5月21日国連社会経済理事会(ECOSOC)決議1582(L))
地域開発とは以下のような社会的・経済的開発努力を推進するための優れた政策
手段であり、その効果的な実施が国際連合に要請されている。
(a) 不遇な大衆(less privileged groups) にも開発の成果を平等に分
配するために社会構造の変化と社会変革を促進すること。
(b) 開発目標の決定や開発促進に関わる行政的、政治的な過程
への住民の参加を促進すること。
(c) 開発計画の具体的な実施を促進するために制度的、行政的諸
手段を強化すること。
(d) 都市地域と農村地域の発展を有機的に結びつけることにより
人口と諸サービスの配置を改善すること。
(e) 開発事業の策定にあたり、環境保全の配慮を徹底すること。
地域開発の背景
(1)新興独立国の誕生 (その開発支援が国際連合の使命)
OECD
UN
国連・OECD加盟国数の推移 Number of UN / OECD Members
250
200
150
100
50
0
1945
1950
1955
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
国連・統計局の資料より作成
(2) 国連・国際機関の創設
(主な機関は1960年代までに設立)
2007年現在
国連地域開発センター(UNCRD)1971
国連の資料より
5.(自然)災害とは (基本概念の整理4)
世界の自然災害
災害は世界的に増加している。
自然災害の世界地図
災害数
被災者数
経済的損失
最近の大災害
死者1万5千人以上の地震津波災害
(1960-2010)建築研究所IISEE大地震カタログ[i]及び国連資料[ii]より作成
年
M
死者
1 中国: 唐山地震
1976
7.8
242800
2 インド洋大津波
2004
9
226408
3 ハイチ地震
2010
7
4 パキスタン地震
2005
7.6
5 中国: 四川地震
2008
8.1
69195
6 ペルー: チンボテ・ワラス
1970
7.8
66794
7 イラン: マンジール
1990
7.7
35000
8 イラン: バム地震
2003
6.7
31830
9 アルメニア: スピタク
1988
6.8
25000
10 グアテマラ
1976
7.5
22870
11 インド: ブジ (グジャラート)
2001
8
20023
12 イラン: タバス地震
1978
7.4
18220
13 トルコ: コジャエリ
1999
7.8
17118
14 中国: 雲南地震
1970
7.8
15621
15 イラン: ビヤズ
1968
7.3
15000
国名 地震名
注:緑は最近11年間の
222576 (1999-2010)地震被害
73328
[i] 宇津カタログ
http://iisee.kenken.go.jp/utsu/ind
ex_eng.html
[ii] 国連地域開発センター
http://www.hyogo.uncrd.or.jp/pub
lication/report.html
開発と災害の関係
開発(都市化)前
開発(都市化)後
2000年名古屋水害
データ:
国土交通省
6.日本の都市・地域開発の変遷
1) 災害復興 (1920年代迄)
江戸大火や関東大震災の教訓を踏まえた大都市整備
2) 戦災・経済復興 (1950年代)
日本各地の破壊された都市の復興と産業構造の変革
3) 全国総合開発計画 (1960年代)
4大工業地帯での後追い整備と工業の地方への分散
4) 都市の過密化と過疎化 (1970年代)
不均衡な人口配置・公害・商業の変革、地方の過疎化
5) 国際化、バブル、景気、環境 (1980年代)
首都圏一極集中、バブルの崩壊・経済対策、環境問題
6) 少子・高齢化、雇用、都市再生、分権 (1990以降)
社会構造の変革、政治・行政の変革、開発から管理へ
1) 災害復興 (1920年代まで+2011年3月11日以降)
日本の都市に
求められる条件
・利便(交通)
・安全
・防火
・衛生
(交安防衛)
(1923年)
関東大震災
東京の被害
銀座周辺
・ 日本では(ロンドンやフランスのように)木造建築を禁止しなかった
・ ハード(街路・校舎など)とソフト(消防・避難など)の災害文化の構築
2) 戦災・経済復興 (1950年代)
戦後の木造賃貸住宅地帯(木賃ベルト)が現在も東京の防災上の最大課題
3) 全国総合開発計画 (1960年代)
国土交通省国土計画局 HPより
4) 都市の過密化と過疎化 (1970年代)
上:
震災直後の
山古志村
下:
文京区役所
から見た東大
5) 国際化、バブル、景気、環境 (1980年代)
6) 少子・高齢化、雇用、都市再生、分権 (1990以降)
・挑戦:上記の課題に都市計画・開発でどのように対応するか
都市計画規制の仕組み(日本)
Category of Land Use Zone
Max. floor area ratios (%)
Max. building coverage
ratios (%)
1 Category I exclusively low-story residential Zone
50,60,80,100,150,200
30,40,50,60
2 Category II exclusively low-story residential Zone
50,60,80,100,150,200
30,40,50,60
3 Category I medium-high oriented residential Zone 100,150,200,300,400,500
30,40,50,60
4 Category II medium-high oriented residential Zone
100,150,200,300,400,500
30,40,50,60
5 Category I residential Zone
100,150,200,300,400,500
50,60,80
6 Category I residential Zone
100,150,200,300,400,500
50,60,80
7 Quasi-residential Zone
100,150,200,300,400,500
50,60,80
8 Neighborhood commercial Zone
100,150,200,300,400,500
60,80
9 Commercial Zone
200,300,400・・・・・1300
80
10 Quasi-industrial Zone
100,150,200,300,400,500
50,60,80
11 Industrial Zone
100,150,200,300,400
50,60
12 Exclusively Industrial Zone
100,150,200,300,400
30,40,50,60
7.これまでとこれからの地域開発 (概要)
これまで:日本の地域・都市開発の潮流
年代
1950
計画
全総
事業
拠点 大規模プロジェクト 定住 ネットワーク 連携
規制
工業・大学立地 住宅団地立地 商業立地 地球環境
法律
1960
1970
1980
1990以降
地方計画 都市計画 地区計画 景観計画
国土総合開発法’50 新産工特 国計法’74 土地基本法’88
エコまち法’12
公庫’50・公団法’55
大型店立地法’00
災対法’61 新幹線’70 沿道整備法’80
電源開発促進法’51 宅造法’61 農振法’69 集落整備法’87
津波防災地域法’11
港湾’50・道路法’52
密集法’97,景観法’04
新住法’63 廃掃法’70 国鉄民営法’86
土地区画整理法’54 急傾斜’69 空港特’78 住都公団法’81
被災市街地復興法’95
公園’56・下水法’58
再開発’69 ビル管’70 自転車推進’80
耐震改修促進法’95
建築基準法’50など
都計法’68・省エネ’79 浄化槽法’83など環境基本法’93など
これまでの評価と今後への展開 (まちづくりでの例)
•なぜ(建築基準法上の)道路は幅員4m以上なのか?
1.消防活動(安全)、2.延焼防止、3.交通上、(4.衛生上)
•なぜ建築物の最高高さは31m(百尺)迄だったのか?
1.当時の既存建築、2.他国の条例、3.交通上、4.安全上
•なぜ容積率の最高値(商業地域)は1300%なのか?
1.都市再生で引上、2.発生交通量の減少、3.他の割増制度
•なぜ高級住宅地でも電線が地中化されていないのか?
1.費用(初期・維持)、2.地価反映少、3.住民要望、4.制度
・なぜ災害危険区域は津波用に活用されなかったのか?
1.建築基準法の単体規定、2.国に建築規制の基準がない等
8.災害が露呈する過去の地域・都市開発の問題点
1:
2:
3:
4:
5:
6:
7:
8:
9:
1995
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
阪神・淡路大震災
スマトラ地震大津波
パキスタン北部地震
インドネシア・ジャワ地震
ペルー南部(ピスコ)地震
中国・四川(ブン川)大地震
バングラデッシュ水害・洪水
ハイチ地震
東日本大震災・津波
スマトラ沖地震・インド洋大津波の被害
2004年12月26日
写真: UNCRD
2005年8月
場所: インドネシア、バンダアチェ
パキスタン北部地震による都市被害及び斜面崩壊(2005年10月)
ジャワ島中部地震
2006年5月27日
3ヶ月後のジャワ島中部地震被災地
写真: UNCRD 2006年9月
2007年8月15日
ペルー地震
ピスコ市中心部のエンバシーホテル、2007年8月19日、他の写真も同日にCISMID撮影
CISMID
(ペルー日本地震防災センター)
四川大地震
住宅の被害
2008年5月12日
四川地震直接経済損失内訳
(2008年7月7日時点で国家ブン川地震専門家委員会)
四川地震被害額の4-5割が住宅の損失である。 これは阪神・淡路大震災でも同様。
項 目
合 計
四川省
甘粛省
陝西省
直接経済損失 合計
8,943.2
8,286.6
457.8
198.9
1.農村住宅損失
1,682.0
1,447.0
197.7
37.3
2.都市住宅損失(非住宅含)
2,149.6
2,045.3
70.0
34.3
3.農業損失
323.1
317.6
4.5
1.1
4.工業損失(軍需工業含)
928.3
888.2
22.3
17.8
5.サービス業損失
603.9
586.2
12.5
5.2
1,943.1
1,781.6
98.8
62.7
561.9
514.9
20.6
26.3
(278.7)
(249.6)
(8.9)
(20.2)
8.住民財産損失
335.5
307.0
17.3
11.4
9.土地資源損失
239.9
231.6
7.3
0.9
10.自然保護区損失
46.9
45.7
1.2
0.2
11.文化遺産損失
79.2
74.9
3.6
0.7
12.鉱山資源損失
49.8
46.8
2.1
1.0
6.インフラ損失
7.社会施設損失
(うち教育施設)
(単位:億元、なおこの合計は2008年9月4日の国務院報告の8,451億元とは一致しない。)
2007・2009 バングラデシュ水害
写真: BDPC
2007年8月
避難施設(バングラデシュ)
「サイクロン・シェルター」
JICAによる上のものは普段は学校として
使用 (バングラデシュ:上の写真)
右は初期のもの
ハイチ地震
2010年1月12日
写真:大統領官邸
CODE提供
東日本大震災
2011年3月11日
東日本大震災の被害状況
宮古市田老
宮古市田老
大槌町
女川町
女川町
仙台市荒浜
Fly UP