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Title マイクロティーチングの教育効果に関する一考察 : 教職大学院

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Title マイクロティーチングの教育効果に関する一考察 : 教職大学院
Title
マイクロティーチングの教育効果に関する一考察 : 教職大学院における
協同学習の事例より
Author(s)
藤川, 聡; 水上, 丈実; ナッタナン, ムルサラドゥ; サンチラット, ナ
ンサアング
Citation
北海道教育大学紀要. 教育科学編, 65(2): 201-211
Issue Date
2015-02
URL
http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7682
Rights
Hokkaido University of Education
北海道教育大学紀要(教育科学編)第 6
5巻 第 2号
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平成 2
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マイクロティーチングの教育効果に関する一考察
教職大学院における協同学習の事例より
藤川
聡・水上丈実・ナッタナン
ムルサラドゥ*・サンチラット
ナンサアング*
北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践(教職大学院)
キキングモンクット工科大学トンブリ
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概要
本稿では,教職大学院で実施したマイクロティーチングを報告するとともに,その教育効果
を検討する。実践は 5名の院生による協同学習の形式で実施した。検証は,
2名のストレート
マスターに焦点を当て,それぞれに教師役として 2度のマイクロティーチングを実践させた後,
アンケートとビデオ分析により行った。アンケート結果から,「声の聞き取り易さ J,,-丁度良
いスピード」といった発話に関わるパフォーマンスの獲得感が示された。さらに,
1名のスト
レートマスターに焦点を当て,録画記録から談話分析を行った結果,現職院生からの助言を通
じて授業力向上への意欲や教職に対する使命感を獲得していく様子が観察された。本実践によ
り,マイクロティーチングは教職大学院において有益な手法であることが示唆された。
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が,それほど頻繁には実施できないと考えられる。
1.はじめに
そこで本研究では,短時間で数多くの模擬授業
日本の教員養成制度では, 4年制の学部で教科
が行えるマイクロティーチングに着目した。現職
専門や教育学の基礎等を中心に学び,教育実習を
教員の院生(以下,現職院生)と学部を卒業後そ
経て採用試験を受ける。そして,合格後は即戦力
のまま進学した院生(以下,ストレートマスター)
として教壇に立つ。しかし,教職に就く前に行わ
が共に学ぶ利点を生かし,現職院生とストレート
れる「指導力」を培う場としての教育実習の期間
マスターの協同的な学びによるマイクロティーチ
は,わずか 2週間から 5週間であり,日本の教育
ングを試みた。実践は北海道教育大学教職大学院
実習の期間は諸外国に比べて極端に少ない(たと
旭川キャンパス授業開発コースの院生 5名で実施
えば,イギリスは 18~32 週,フィンランドは 312
した。検証は,実践後のアンケートとビデオによ
時間以上)1
)。実践的指導力という点では,特別
る録画記録の談話分析にて行う。
なトレーニングを課す大学でもない限り,ほほ「素
人」に近い状態で新卒者を教壇に立たせていると
考えてよい。かつては,新卒者の教育は現場に任
されていたが,問題が山積する多忙な学校現場に
おいて,現在ではその機能が十分に果たせている
2
. 研究の背景と意義
2
.
1 先行研究より
マイクロティーチングは,スタンフォード大学
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n& Ryan4)によって開発された。マイク
とは言い難い。
日本では, 2
0
0
8年に教職大学院がスタートした。
ロティーチングは,授業法を学ぶための実践練習
教職大学院は現職教員スクールリーダー養成の役
である。受講する学生が他の学生を生徒役に見立
割を担うとともに,「学部段階での資質能力を修
て
,
「 5分から 1
0分の短い模擬授業を小さなグルー
得した者の中から,さらにより実践的な指導力・
プの中で順番に行わせ,ビデオ録画による授業解
展開力を備え,新しい学校づくりの有力な一員と
析,仲間や担当教授からの評価を通じて授業力を
なり得る新人教員の養成})の役割を担っている。
高めようとするもの」のである。
つまり,教職大学院を修了した院生は学部卒に比
マイクロティーチングは,日本でも教育技術を
べ,当然のことながら相当な実践的指導力が備
身に付けさせる方法として様々に解釈され実践さ
わっていると期待される。そのため教職大学院に
)はマイクロ化の視点を,「時
れている。有吉ら 6
は,「実践的指導力の育成に特化した教育内容,
間は 5分から 1
5分 j, i人数は 5名から 8名 j, i対
事例研究や模擬授業など効果的な教育方法,これ
象は特定の場面,特定の指導技術」の 3点に集約
らの指導を行うにふさわしい指導体制 j3)が求め
している。また,波多野 7)はマイクロティーチン
られている。しかし「模擬授業」といっても,
1
グにおける先行研究を精査しその手順を「①ビデ
回に 5
0
分,デイスカッションや検証,改善案の検
オや実演による模範的な授業場面の観察,②指導
討などを行うと最低でも 90分 ~120分は要する。
過程 (Worm-up・復習・導入・展開・整理のい
ビデオ分析を含めると半日仕事になる。数多く実
ずれか)及び観察,③学習指導案の作成,④授業
施すれば学生にとっても教員にとっても大きな負
実践と録画,⑤授業者個人や指導教員あるいは履
担である。学生の人数や教員の指導体制にもよる
修者全員による授業評価及び討議,⑥学習指導案
2
0
2
マイクロティーチングの教育効果に関する一考察
の再検討ならびに修正,⑦再授業」とまとめてい
学教職大学院の 2校を紹介する。
1
18)はマイクロティーチングを導入
る。また,餅 )
キングモンクット工科大学トンブリ(以下,
する際の視点を,「①関係技術:生徒の学習習慣
KMUTT) は教員養成大学ではないため,通常課
や意欲などの特性を想定する J,1"②内容技術:教
程は 4年制である。しかし,タイの教員養成は 2004
科内容の本質と教材の構造を理解・把握する J,
年から 5年制となったため 17),教員志望者は 5年
「③指導技術:授業展開の過程を想定し指導スタ
制の教員養成課程を選択する。 4年間で工学の専
イルを確認する J,1"④観察技術:関係・内容・指
門科目と教職教養を履修し,
導の三つの技術を客観的に観察する」の 4点に規
校現場と連携して,実際の生徒を教えながら実践
定している。そして,岩田ら 9)による保育者の教
的指導力を学ぶカリキュラムを履修している 18)。
員養成,瀬ノ上ら 10)による幼稚園・小学校の教
KMUTTには,マイクロティーチングの研究
員養成,金子 11)による中学校・高等学校の教員
者がおり,マイクロティーチングの授業が 3回生
養成など,各校種において,教員養成の効果的な
及び 4回生向けに開設されている。授業はマイク
手法として実践や検証が数多く行われている。ま
ロティーチング専用ルームで行われている。 1回
た,教科教育だけでなく,特別活動 12)やキャリ
のマイクロレッスンは 7分間。 1
0人程度のグルー
ア教育の指導力向上 13)など,幅広く応用されて
プ編成で行われていた。 KMUTTのマイクロ
いる。
ティーチングの様子を図 1に示す。教師役による
海外でも,発祥地のアメリカだけでなく,王 14)
5年目の 1年間は学
マイクロレッスンの様子は,教室後方に設置され
による中国の報告や,藤川ら 15)によるやタイの
た遠隔操作のビデオカメラにより録画され,パソ
報告など,アジア諸国にも普及している。
コンに取り込まれる(図 2)。記録は後の指導に
教職大学院での研究では,三尾 16)による早稲
用いられる。
田大学の実践報告が見られる。そこでは,教職大
マイクロレッスン後は,授業に対する良い点や
学院の正規の授業で、マイクロティーチングを実施
問題点について学生同士で話し合う。また,教室
し,アンケート結果から学部生と院生の自己評価
の傾向を分析する有用な知見が見られる。
筆者らの調査の範囲では,マイクロティーチン
グの実践や研究は,学部の学生を対象としたもの
が大半を占めており,教職大学院におけるマイク
ロティーチングの研究報告は文献上ではあまり見
られない。マイクロティーチングは,現職院生と
ストレートマスターが協同的に学ぶことができる
教職大学院での実施が効果的であると考えてい
図 1KUMTTのマイクロティーチング
る
。
2
.
2 マイクロティーチングの視察より
筆者らは,マイクロティーチングの見識を深め
るために,各大学を巡りマイクロティーチングや
模擬授業に関する視察を行った。ここでは,視察
した大学の中から,タイのキングモンクット工科
大学トンブリ
(KingMongkut
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TechnologyThonburi:KMUTT),愛知教育大
図 2 マイクロレッスンの録画
203
藤川
聡・水上丈実・ナッタナン
ムルサラドゥ・サンチラット
ナンサアング
の後部にはマジックミラーが設置されており,大
く,教育理論や方法学を実践することで観念的な
学教員によってモニタリングされている。マイク
知識から実感をともなった理解へと深めようとす
ロレッスン後には,大学教員から専門的な指導が
るものである。
)
行われる(図 3。
図 4に示す授業以外でも,同様の手法が用いら
マイクロティーチングは前期 4回,後期 4回の
れているため,院生は数多くの授業体験を積むこ
計 8回が開講されている。 5年次の実地研修に向
とになり,結果的には同大学院が求める能力だけ
けた効果的なトレーニングに位置付けられてい
でなく,人前で話す度胸や,内容を分かりやすく
る
。
伝える能力,周りを見渡す視野など,教員に求め
次に,愛知教育大学教職大学院における,マイ
クロティーチングの視察結果を報告する。同大学
られる資質を高めるトレーニングの役割も同時に
果たしていると考えられる。
院ではマイクロティーチングというネーミングは
以上,報告した 2大学のマイクロティーチング
ないが,大学の正規の授業内で短時間の模擬授業
は,目的や方法は異なるが,マイクロティーチン
を行わせている。同大学院ではストレートマス
グの特徴である「短時間」という利点を生かして,
ターを対象とした複数の授業で,短時間の模擬授
効果的な教員養成を実現していた。
業を取り入れようとしている。図 4は,グループ
学習についての有効性を学ぶ授業である。図 4で
2
.
3 本研究の意義
は 3名の院生が教師役である。教師役の院生にグ
マイクロティーチングに関わる先行研究を概観
ループ学習の手法を用いた授業を実施させ,その
した結果,マイクロ化の視点やマイクロティーチ
後,参加者全員でグループ学習の有効性や効果的
ングの手順,指導の観点など有益な知見が得られ
なグルーピングについて議論するものである。こ
た。そして,マイクロティーチングは多くの教科
こで行われているマイクロティーチングは,院生
や校種で実施されていることがわかった。
に授業力を身に付けさせることが第 1目的ではな
また,視察を通じてマイクロティーチングが授
業力向上にむけた効果的なトレーニングとして機
能している様子,教育理論や方法学を生きた知識
として深める様子など,それぞれ有益な実践を見
ることカ王できた。
しかし,いずれも教職大学院で現職院生とスト
レートマスターの協同的な学びによる授業力向上
について分析した先行研究や授業実践は,筆者ら
の調査の範囲では確認できなかった。
図 3 大学教員による指導
筆者らは,マイクロティーティーチングを教員
経験のない学部生同士で行わせても,得られる教
育効果には限界があると考えている。そこで,本
稿では教職大学院における現職院生とストレート
マスターの協同によるマイクロティーチングを実
施する。そして,その実践からどのような教育効
果が得られるのかについて,アンケートや談話分
析による質的検証にて実態を浮き彫りにしたい。
図 4 模擬授業を取り入れた学習
204
マイクロティーチングの教育効果に関する一考察
3
. マイク口ディーチングの実践
3
.
1 実践内容
実践は,北海道教育大学教職大学院旭川キャン
) 5名のグルー
パス授業開発コースの院生 (M1
図 7 参加者全員でビデオを視聴する様子
フ。で、行った。 5名の内訳は,ストレートマスター
2名,現職院生 3名である。ここでは,ストレー
トマスター 2名(以下,院生 A,院生 Bと呼ぶ)
が教師役として行った実践内容を示す。
実施するマイクロティーチングは,「マイクロ
レッスン(模擬授業)j,i質疑応答j,iビデオ視聴 j,
マイクロレッスンでは,教師役以外の院生及び
指導教員は生徒役に徹した。院生 A,院生 Bのマ
イクロレッスンの様子を図 5,図 6にそれぞれ示
す。また,質疑応答では,指導教員は発言せず,
「デイスカッション」と 4つのカテゴリーで構成
院生同士でのやりとりを基本とした。ビデオ視聴
する。マイクロクラス(生徒役の人数)は,教師
では,質疑応答で指摘された部分を中心に参加者
役を除いた院生 4名に授業開発コースの指導教官
全員で確認した(図 7)。その後のデイスカッショ
2名を加え,計 6名で編成する。それぞれの時間
ンでは,質疑応答やビデオ視聴で焦点化された問
配分を表 1に示す。
題点について,院生同士で議論を深めさせた。指
導教員は議論後にマイクロティーチング全体を総
表 1 カテゴリーと時間配分
カテゴリー
括して指導助言を行った。
時間
教師役の院生には,事前に単元計画と本時の指
1 マイクロレッスン
1
0
分
導案を作成させた。マイクロレッスンは,本時の
2 質疑応答
1
0
分程度
展開の中から教師役の院生が希望する 10分間を切
3 ビデオ視聴
1
0
分
り取らせ行わせた。
4 デイスカッション
1
0
分程度
3
.
2 検証方法
検証は教師役の院生 2名に実施したアンケート
調査により行う。また,録画したビデオから質疑
応答の内容を文字に起こし,談話分析を行う。そ
れぞれの分析にはマイクロティーチング後に実施
した院生の感想文やインタビュー内容を併用す
る
。
アンケートは,三尾らが作成した質問紙「自己・
図 5 院生 Aによるマイクロレッスン
3項目(①声
観察者評価 }9)を用いる。質問紙は 1
の聞き取り易さ,②話す速さ,③言葉使いのやさ
しさ,④黒板の宇の見やすさ,⑤板書内容が適切,
⑥生徒観察,⑦意図の明瞭さ,⑧板書・発問・指
名等のタイミング,⑨丁寧さ,⑩わかりやすさ,
⑪やる気,⑫落ち着き,⑬計画性)の調査項目か
らなり,それぞれの項目を 5段階で回答させるも
のである。院生 A,院生 Bに
,
図 6 院生 Bによるマイクロレッスン
2回のマイクロ
ティーチング後にアンケートを行い,前後の変容
205
藤川
聡・水上丈実・ナッタナン
を見る。著者らで協議の上,
目の調査で,
ムルサラドゥ・サンチラット
ナンサアング
1回目の調査と 2回
ルの上で授業をしている」と記していた。ビデオ
2段階以上変化した項目のみ議論に
を見て,自分のイメージとかけ離れていたようで
値する変容と捉えその要因を考察する。
あり,他の院生からの指摘を痛感した様子であっ
ビデオによる談話分析では,院生 Aに焦点をあ
た。話すスピードは自覚すれば比較的改善が容易
て,院生 A と現職院生との質疑応答の録画記録を
である。そのため,質問項目の 1, 2が 2回日に
文章に起こし,その談話内容を分析する。そこで
上昇したと考えられる。
は,院生 Aが現職院生とのやりとりの中で,どの
また,院生 Aは 1回目の後の感想、で「自信のな
ような能力を身に付けていくのかについて,具体
さが表情に表れている J, i表情が暗い J i落ち着
的な授業スキルの獲得から意識の変容まで読み取
きがない」と述べている。そして,次回の改善策
り考察する。
として,「落ち着いて授業をするために教材研究
を突き詰める J i切り返しの言葉を用意する J i想
定問答の作成が必要」と記述していた。その結果,
4
. 結果と考察
質問項目の 1
2,1
3が 2回目に上昇したと考える。
4
.
1 アンケー卜の結果と考察
院生 Aは 1回目終了後に様々な問題点や次回への
院生 A及び院生 Bのアンケート結果を図 8,図
9にそれぞれ示す。図 8から,院生 Aにおける質
問項目 1, 2,1
2,1
3において 1回日と比べ 2回
対策を述べていたが,アンケート上では,上記で
取り上げた項目以外に顕著な変化は見られない。
図 9から,院生 Bにおける質問項目 1,2,1
1,
目の結果が 2段階以上上昇している。院生 Aは 1
において 1回目と比べ 2回目の結果が 2段階以上
回目のマイクロレッスン後の質疑応答で,他の院
上昇している。院生 Bは 1回目のマイクロティー
生から「話すスピードが速い」と指摘された。院
チング後の反省点に「声が小さい J,i滑舌が悪い」
生 A はその指摘に対して,「参考にして改善した
と記述していた。院生 A と同様に,話し方につい
い」と述べながらも,「英語はリズムが大切 J iナ
ては自覚すれば改善が容易であるため,質問項目
チュラルスピードに慣れさせたい」との発言もあ
の 1, 2が上昇したものと考える。
り複雑な心境を見せていた。しかし,ビデオで自
また,院生 Bは 1回目のマイクロレッスンの導
身の授業を見た後の感想では,「話すときの聞を
入教材に,部屋の写真を生徒に見せて気付くこと
意識せず早口になっている J, i自分の敷いたレー
を英語で答えさせる活動を行わせていた。それに
ム 1回目終了後
ム 1回目終了後
T:2回目終了後
T:2回目終了後
l 芦が聞き取りにくい
聞き取り易い
l 芦が聞き取りにくい
2 訴しノ仔が甲い
丁度良い
2 話し方が早い
聞き取り易い
了度以い
3 言葉使いが難しい
ベコさしし、
3 言葉使いが難しい
やさしい
4 黒板の乍が見にくい
見やすい
4 黒板のすでが見にくい
見やすい
5 板書の内容が不適切
適切
5 板書の内容が不適切
適切
6 生徒を見ていない
見ていた
6 生徒を見ていない
見ていた
明瞭
7 意同が不明確
明瞭
7 意同が不明確
8 板書・発問・指名右手の
タイミングが悪い
良い
8 板書・発問・指名等の
タイミングが悪い
良い
白あらい
てし、ねし、
9 あらい
ていねい
1
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コカミりにくし、
わかりやすい
1
0 わかりにくい
わかりやすい
1
1 やる気が起きない
やる気が起きる
1
1 やる気が起きない
やる気が起きる
1
2せわしない
落ち着いた
1
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落ち着いた
計画的な
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1
3 無計画な
図 8 院生 Aのアンケート結果
206
図 9 院生 Bのアンケート結果
マイクロティーチングの教育効果に関する一考察
"
導
ついて他の院生から,「活動の目的が不明確J,1
入なのか展開なのかわからない J,1"生徒が不安に
なる」との指摘があった。本人は導入のつもりで
表 2 院生 C との質疑応答:導入場面について
参加者
発言内容
あったらしいが,導入にしてはやや重苦しいい時
院生 C 復習だ、ったんですよね,一つ目は。(最初に配
(現職) 布した資料は。)
間であったと指摘された。院生 Aは 2回日のマイ
院生 A はい。
クロレッスンでは,導入教材にフィギュアスケー
当てクイズを行った。他の院生からは,「話題性
院生 C 配布した資料(新聞のテレビ欄)を使って,
(現職) 何をしたかったのか,いまいちよく伝わって
こなかった。あっさり最冬わっちゃったよね。
がある人物を用いて(オリンピック期間中),な
院生 A はい。
おかつ,シンプルな英語表現でやりとりできたの
院生 C この資料を使う必要は,果たしてあったのか
(現職) な。これに(見たい番組に)マルを付けて考
えさせる時聞が,復習なのに必要なのかな。
トのオリンピック選手数名の画像を用いて,年齢
で楽しい雰囲気であった」と評価された。この結
果,質問項目の 1
1が上昇したと考える。
院生 A と同様,
1回目終了後に様々な問題点や
次回への対策を述べていたが,アンケート上では,
上記で取り上げた項目以外に顕著な変化はない。
院生 A,院生 Bに共通して上昇したのは,質問
院生 A 総合して(考えてみると),テレビ欄と遠足の
場面(本時の授業場面)との関連性がハテナ
だっと思います。(指導案には)前時の復習と
書いていたんですが,やっぱり,ウォームアッ
プのところにもっていくべきだったのかなと。
項目 1, 2である。質問項目 1, 2は,「声の聞
き取り易さ」や「話す速さ」の発話におけるパ
ような力を身に付けていくかを検討していく。
フォーマンスであるため,自覚さえすれば改善は
表 2に院生 A と院生 Cとの質疑応答の様子を示
容易であり,僅か 2回の実践でも獲得感を示すこ
す。表 2は院生 Aが行った導入場面について議論
とができたと考える。発話におけるパフォーマン
する様子である。院生 Aは,ウォームアップ(英
スではマイクロティーチングの却効性が示された
語での挨拶や日頃の様子ついて英語でコミュニ
と考えている。しかし,その他の質問項目では,
ケーションをはかる時間)の後,授業の導入へと
院生 A,院生 Bに共通する顕著な変化は見られな
移った。導入では, "
I
begoingt
O
J の復習のため
い。協同的な学びや自己省察により,他の要素に
に,資料としてテレビ欄のコピーを配布し,見た
おいても多少なりとも成長しているはずだが,本
いテレビ、番組にマルを付けさせた。そして,生徒
人たちの獲得感は得られていない。特に,「板書
owatch~ (番組名 )
J の発表
役にl"I'm goingt
内容が適切 J,I"生徒観察 J,I"意図の明瞭さ I板書・
を募った。生徒役の院生は,各自見たい番組を発
発問・指名等のタイミング」などの授業技術に関
表した。
する項目は,現職の教員でも苦労する部分である。
表 2より,院生 Cが「配布した資料(新聞のテ
またこれらは奥が深く,知れば知るほど課題意識
レビ欄)を使って,何をしたかったのか伝わって
が高まる可能性もある。ストレートマスターが僅
こない」と指摘している。院生 Cの指摘を受けて,
か 2回のマイクロティーチングでこれらの獲得感
院生 Aは「総合して(考えてみると),テレビ欄
を得ることは簡単ではないと推察される。
と遠足の場面(本時の授業場面)との関連性がハ
テナだ、った」と述べている。一般的に,導入はそ
4
.
2 談話分析の結果と考察
の時間の授業内容に関心を持たせるためのもので
4
.
2
.
1 導入場面に関する議論
あり,復習とは位置付けが異なる。また復習なの
ここでは,マイクロティーチング後の質疑応答
か展開の部分なのか,生徒にとってもわかりにく
の談話分析を行う。院生 Aが 2名の現職院生(以
く,位置付けが不明な時間であった。院生 Cから
下,院生 C,院生 D) との質疑応答の中で,どの
の指摘により,そのことに気付いた様子が見られ
207
藤川
聡・水上丈実・ナッタナン
表 3 院生 Dとの質疑応答:導入場面について
発言内容
参加者
さっき, (Aさんから)あったように,これは
(現職)
(テレビ欄の資料は),ウォームアップのとこ
ろで使えばいいのかなっていう風に思いまし
た
。
院生 D
ムルサラドゥ・サンチラット
ナンサアング
味がわかりにくいため,マイクロティーチング終
了 後 に 院 生 A に確認したところ,「ペアワークを
日常的に取り入れ,ペアワークに馴染ませて,学
習のイメージを持てるようにさせたい」また,「正
直,自分もイメージが持てていないので,自分も
そ の 手 法 を 実 践 し て 慣 れ て い き た い J iス キ ル を
院生 A はい。
身にf
寸けたい」とのことであった。
院生 D
(資料を)最初に配っておいて,で,はじめ
(現職) の挨拶があって,で,すぐに「手元にあるこ
れ(資料)を見て」って言って,可 'mgoing
t
owatch~って,隣の人とやってみて J ,と
いうことで 5分ぐらい(時間を)取ったら,
かなりのぺアワークができると思うのよね。
導入場面に関する談話分析の結果,現職院生の
助言により,導入の位置付けを理解していく様子
が見られた。また,ベアワークに関わる指導力を
身に付けたいとする意欲が感じられた。
4
.
2
.
2
院生 A はい。
i困っている生徒への対応」に関する議論
次に,「困っている生徒への対応」について,
院生 D やっぱり,先生対 30人40人つてなったら,何
(現職) も喋らなくて終わる生徒も出てくるって。そ
れならもう,子ども同士で 5分間とか時間を
取れば, (中略),すごく盛り上がるのかなっ
て,そんなふうに思いました。
院生 A ありがとうございます。ウォームアップに導
入したらいいんじゃないかっていう点に関し
でも,日常的に継続的にやるんだったら,あ
らかじめ子ども達に「こういうものだよ」っ
ていうように与えて(授業形態を定着させて),
予定のイメージを立てやすいようにして,子
ども達は「今日,これをやるんだよね」って思っ
てくれるぐらい,日常的なものにしたいなっ
て思いました。
院 生 A と現職院生(院生 C, 院 生 D) との議論す
る 様 子 を 分 析 す る 。 表 4に院生 A と院生 C との質
疑応答の様子を示す。
表 4より,院生 Cは「生徒が考えている時や,
表 4 院生 Cとの質疑応答:困っている生徒への対応
発言内容
参加者
院生 C 生徒が考えている時に,マルをつけている時
(現職) に
, Aさんからの追加(の説明)が多い。
院生 A はい。
院生 C たぶん不安なんだろうけとミね。子どもたちが
(現職) iちゃんと出来るかな」とか i言い忘れたこ
と
ヵτないかな」とか。
た
。
次 に , 同 じ 導 入 場 面 に 関 す る 院 生 A と院生 Dの
質 疑 応 答 の 様 子 を 表 3に示す。院生 Dは,院生 A
と院生 Cとの間で行われた議論に追加して, i(
資
料を)最初に配っておいて, 5分ぐらい(時間を)
取ったら,かなりのベアワークができると思う」
と述べ,資料の具体的な使用例を提示している。
そして,「先生対 30人 40人 つ て な っ た ら , 何 も 喋
ら な く て 終 わ る 生 徒 も 出 て く る J i子 ど も 同 士 で
5分間とか時間を取れば,すごく盛り上がる」と
補足し,経験から得られたオーセンティックな助
言 を 行 っ て い る 。 そ れ を 聞 い た 院 生 Aは「あらか
じめ子どもたちに,
(中略), 予 定 の イ メ ー ジ を 立
てやすいようにして,
(中略),日常的なものにし
たいなって思いました」と述べている。発言の意
2
0
8
院生 A えーっと,あっ,はい。
院生 c
ところでLね」とか「手を動かしながら聞い
(現職) てもいいよ」とか,どんどん,どんどん,情
報を与えていくと中学生でもやっぱり厳しい
のかなと思う。
院生 A 追加発言(追加説明)が多いというのは,本
当にその通りなんですけど,あの,自分の中で,
「不安が」と言う気持ちが正直あります。情
報を与えて,やるべき事を説明した後に,作
業中に困ったことがあったりする生徒が出て
くるのかなと。そうすると,つい自分も子ど
もに合わせようとして,追加発言をして,書
けなくなった場合に備えて。
A先生のご指摘を聞いて,最初のうちは,当
該生徒に(個別に)発信する程度にとどめて
おいて,子どもたちが作業に集中できる場所
をしっかりと提供してあげなければいけない
なと思いました。
マイクロティーチングの教育効果に関する一考察
表 5 院生 D との質疑応答:I
通っている生徒への対応
を向かせてから説明すべきである。院生 Cは,そ
発言内容
参加者
め,本当に必要な説明なら書く手を止めさせ,前
院生 D 作業中に「困ってる子がいないかな」って,
気になって,追加発問(追加説明)が多くなっ
たって言う発言があったんですけど。
の 2点について指摘している。院生 Aはその指摘
を受けて,「追加説明が多いのは,その通り」と
目頭に前置きをし,文末にも「子どもたちが作業
し
、
。
院生 A は
に集中できる場所をしっかりと提供してあげなけ
院生 D 作業中に困ってる子が出ないように,どうす
(現職) るかつて言うと。
ればいけない」と述べているため,院生 Cの指摘
院生 A はい。
を受け入れている。しかし,中段の発言を見ると,
「作業中に困ったことがあったりする生徒が出て
くる J ,-追加発言をして,書けなくなった場合に
院生 D まず,活動を投げかけたら,先生は全体を見
(現職) る必要があるのよね。
備える」と述べている。追加の説明は,作業に困っ
院生 A はい。
ている生徒への支援であるとの主張が見られる。
院生 D でも Aさんは,すぐに回れ右をして黒板に絵
(現職) を描くのに一生懸命になってしまって
O
院生 A あーっ,はい。
院生 D そうではなくて,最初は概観して。「マルを付
(現職) けるのは一つでいいのかなっ」って思ったら,
多分その子は顔が上がると思うのよね。
院生 A あーっ。
目が合ったら iん?J って(側に)行って,
(現職) あるいは,手が挙がったりとか,こうつやっ
て(わからない素振りを)するかもしれない。
院生 D
先生は, (生徒が)作業に困るか困らないかは,
言葉じゃなくて,見てたら,それでもう分か
ると思うのよね。
院生 Cの指摘を理解しつつも,自分の考えも捨て
きれず迷っている様子が推察される。
次に,同じ場面に関する院生 A と院生 Dの質疑
応答の様子を表 5に示す。院生 Dは,院生 Aが蹄
に落ちていない様子を察知し,困っている生徒へ
の対応について,院生 Aの一つ一つの行動を取り
上げながら的確な助言を行っている。表 5より,
院生 Dは,「活動を投げかけたら,先生は全体を
で
も A さんは,すぐに回れ右
見る必要がある J, ,
をして黒板に絵を描くのに一生懸命になってし
まって」と院生 A の問題点を指摘し,「そうでは
なくて,最初は概観して J ,-作業に困るか困らな
いかは,言葉じゃなくて,見てたら,それでもう
「見取る」と言うことが,これからの課題
じゃないかなって思いました。
院生 A 最初に全体を概観するっていう点は,あの,
自分自身行動していく中で,このマイクロ
ティーチンクゃの最大の意義だったって言うか,
やっぱり,自分はちょっと,こう,いっぱいいっ
ぱいのところが正直あるので, (
中
略
)
。
分かる J ,-見取ることがこれからの課題」と述べ,
行動観察の必要性を示唆している。現場経験を通
じて体得した児童・生徒の行動特性を示しながら
丁寧に助言する様子が見られる。
院生 Dの助言を受け,院生 A は表 5の最後に示
すセリフを長々と語った。マイクロティーチング
基本なのかも知れませんけど,僕はまだ基本
がほんと出来てないので,それがまず知れた
のが大きいなって感じました。
終了後に院生 A にインタビューを行い,本意を確
認したところ「現職の先生からアドバイスが貰え
て本当によかった J, ,-自分は本当に未熟である J,
手
を
マルをつけている時に追加の説明が多い J, ,
「現職の先生は子どものために真剣に考えてい
動かしながら聞くことは中学生でも厳しい」など
るJ, ,-自分も頑張っていい先生になりたい」と述
を指摘している。作業中に次々と指示を追加する
べていた。
ことは,作業に集中できないため,一般的には「良
困っている生徒への支援に関する談話分析の結
くない例」として認知されている。また,考えな
果,院生 A は現職院生の助言により,適切な支援
がらや書きながら説明を聞くことは困難であるた
の方法を理解していく様子が見られた。また,現
2
0
9
藤川
聡・水上丈実・ナッタナン
ムルサラドゥ・サンチラット
ナンサアング
職院生の児童・生徒に対する深い理解を感じ,教
践における 2名の傾向であり,一般性を示すまで
職に対する使命感を身に付ける様子が見られた。
には至らない。今後更に調査対象を増やし,より
厳密な分析を行いたい。また,本研究では,現職
4
.
3 その他
院生とストレートマスターの協同的な学びによる
質疑応答後のビデオ視聴では,教師役の院生が
マイクロティーチングが,ストレートマスターに
自分の授業の様子を見て,質疑応答で指摘された
とって効果的な手法であることを示した。しかし,
部分を確認し実感している様子が確認できた。そ
現職院生にとってどのようなメリットがあるかに
の後のデイスカッションでは,行われたマイクロ
ついての分析は行っていない。ストレートマス
レッスンだけでなく指導案や展開の工夫など,
ターとの協同学習は,現職院生にとっても,これ
様々な視点で白熱した議論が展開されていた。そ
までの実践を理論化したり体系化したりするため
こでは,ストレートマスターが現職院生に質問や
に役立つと考えられるため,今後更なる検証を進
素朴な疑問を投げかける場面,現職院生がスト
めたい。
レートマスターに経験から得られた知見を教示し
たりする場面,時には現職院生が考えさせられる
謝辞
場面などが見られた。現職院生にとっても,これ
までの実践を理論化したり体系化したりするため
に役立つように感じられた。
本研究を行うにあたり,早稲田大学の三尾忠男
先生には,マイクロティーチングについて有益な
知見をご教示いただきたました。また,愛知教育
大学の中妻雅彦先生には教員養成における効果的
5
. まとめ
な指導法について有益な知見をご教示いただきま
本稿では,文献研究や視察,ストレートマスター
した。ここに感謝の意を表します。その他,本研
2名の教育実践を通じて得られたアンケート結果
究に関わり視察を受け入れて頂きました各大学の
や談話分析の結果をもとに,教職大学院における
先生方,スタッフの方々,実践に協力していただ
マイクロティーチングの教育効果について検討し
いた院生の皆様に,この場を借りて御礼申し上げ
た。アンケート結果から,「声の聞き取り易さ J,i丁
ます。
度良いスピード」といった発話に関わる項目にお
いては,少ない実施回数でも獲得感が得られるこ
付記
とが示唆された。一方,その他の授業技術に関す
る項目では顕著な変化は見られず,繰り返しト
レーニングを積ませることが必要であると推察さ
本研究の要旨は,日本カリキュラム学会第 2
5
回大会 (
2
0
1
4年 6月)にて発表している。
れた。また,談話分析を行った結果,現職院生か
らの助言を通じて授業力向上への意欲や教職に対
参考文献
する使命感を獲得していく様子が観察された。
以上の結果,現職院生とストレートマスターが
共に学ぶ教職大学院において,マイクロティーチ
ングは有益な手法であることが示唆された。
次に,本研究における課題と展望を以下に述べ
る。本研究では,
2名のアンケート結果から,発
話に関するパフォーマンスについては獲得感が得
られやすいと考察した。しかし,あくまでも本実
2
1
0
1) 栗 田 慎 司 ・ 秋 山 麻 美 ・ 高 橋 英 児 . フ ィ ン ラ ン ド 共 和
国・スウェーデン王国における教員養成制度と附属学
2年度文音防:十学省先
校の役割に関する調査研究,平成 2
導的大学改革推進委託事業「国立大学附属学校におけ
る新たな活用方策に関する調査研究 J,山梨大学人間科
学部,
p
.5
6(
2
0
0
9
)
2)文部科学省.専門職大学院/教職大学院, R
e
t
r
i
e
v
e
d
March 1
3
. 2014,from http://www.mext.go.jp/
a_menu/koutou/kyoushoku/kyoushoku.htm
マイクロティーチングの教育効果に関する一考察
3)前掲,
5
), p
p
.2
5
2
2
5
3(
2
0
1
3
)
1
8
) 前掲, 1
2), R
e
t
r
i
e
v
e
dMarch1
3,2014
:M
i
c
r
o
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g
:A D
e
s
c
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i
o
n,Stan
4) Allen,D.W.,
6
), pp.
1
5
9
1
6
7(
2
0
1
0
)
1
9
) 前掲, 1
f
o
r
dTeacherEducationProgram,S
t
a
n
f
o
r
dU
n
i
v
e
r
s
i
3,2014,fromh
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p
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y,1967,RetrievedMarch1
e
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E
D
0
1
9
2
2
4
.
p
d
f
e
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r
i
e
v
e
dMarch1
3,
2014
5)前掲 4), R
(藤川
6)有吉英樹・長沢憲保:教育実習の新たな展開,ミネ
(水上丈実
pp.1-210 (
2
0
01
)
ルヴァ書房,
(ナッタナン
7 ) 波 多 野 五 三 : 英 語 教 員 養 成 に お け る Reflective
Teaching一模擬授業に関する省察の質的分析,英語英
米文学研究,第 1
6号
,
聡
8) 餅川正雄:高等学校における教育実習に関する研究
旭川校教授)
ムルサラドゥ
キングモンクット工科大学トンブリ講師)
(サンチラット
pp.125-157 (
2
0
0
8
)
旭川校准教授)
ナンサアング
キングモンクット工科大学トンブリ准教授)
(I),広島経済大学研究論集(広島経済大学経済学会),
第3
2巻,第 1
号
,
p
p
.5
3
7
2(
2
0
0
9
)
9)岩田美穂子・松隈玲子:保育科学生の保育評価の育
ちについて一教育実習事後指導としてのマイクロ
ティーチングを通して
,日本保育学会大会研究論文
集,第 5
1号
, p
p.666-667 (
1
9
9
8
)
1
0
) 瀬ノ上裕・松本香奈・新垣さき・ほか 4名:幼稚
園・小学校教員志望のための実践的体験活動に基づく
総合的計画 (2)~ 身近な材料を用いた実践活動の模擬授
業、記録、評価について~日本教育情報学会第 28 回
年会論文集,
p
.8
2(
2
0
1
2
)
1
1
) 金子智栄子:中学・高等学校教員養成課程における
マイクロティーチングの研究 E
マイクロティーチン
グの有効性と実習評価などとの関連性
,日本教育心
0号
, p
.3
5
2(
1
9
9
8
)
理学会総会発表論文集,第 4
1
2
) 生野金三:特別活動の研究(その 5)
ティーチング導入による特別活動の改善
2巻,第 2号
,
論集,第 2
マイクロ
,白鴎大学
pp.
1
2
0(
2
0
0
8
)
1
3
) 小川勤:教員養成課程におけるキャリア指導力向上
を目指した学生参加型授業法「マイクロ・ティーチン
5回年会論文集,
グ」の展開,日本教育情報学会第 2
pp.356-357 (
2
0
0
9
)
1
4
) 王暁玲・中国の音楽科教員養成課程におけるマイク
ロティーチングの導入と発展,広島大学大学院教育学
研究科紀要第二部文化教育開発関連領域, 5
7号
,
pp.399-408 (
2
0
0
8
)
1
5
) 藤川聡・ナッタナンムルサラドゥ・サンチラット
ナンサアング・水上丈実:タイ国の工科大学における
教員養成に関する一考察
チングに焦点をあてて
論文集,
KMUTTのマイクロティー
,日本教科教育学会全国大会
p
p
.2
5
2
2
5
3(
2
0
1
3
)
1
6
) 三尾忠男・牧野智知:私立総合大学教員養成課程に
おけるマイクロティーチングの導入,早稲田教育評論,
4
巻,第 1号
,
第2
pp.159-167 (
2
0
1
0
)
1
7
) 堀内孜:タイ国における 5年課程教員養成制度
制定経緯・概要・課題,京都教育大学紀要,第 114号
,
pp.133-148 (
2
0
0
9
)
211
Fly UP