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10-bit、100MS/s電流モードA/D変換器の 実現に関する回路技術の研究
修士論文要旨 (2006 年度) 10-bit、100MS/s 電流モード A/D 変換器の 実現に関する回路技術の研究 A research of circuit techniques that realize a 10-bit,100MS/s current-mode ADC 電気電子情報通信工学専攻 田中 滋人 Shigeto Tanaka 1 㔚㔚ᵹᄌ឵ はじめに Iin STAGE 1 ディジタル信号がアナログ信号と比較してノイズの影 Vin 1-bit 響を受けにくく、圧縮、伸張など信号処理が容易である STAGE 2 STAGE N 1-bit 1-bit DIGITAL CORRECTION ため、多くの回路ブロックはディジタル化されている。 しかし、現実世界において我々が認識できる映像、音声 Stage1 などの情報はアナログ信号であるため、アナログ信号を 㧝 ฦࠬ࠹ࠫ ߩേ ディジタル信号に変換する A/D 変換器は必要不可欠で Stage2 Stage3 StageN 㧞 㧞 IREF 㨯㨯㨯 㧞 㧜 ある。 そこで、今日の A/D 変換器において何が必要となる ࠺ࠖࠫ࠲࡞ࠦ࠼ 㧝 㧜 㧝 㨯㨯㨯 㧝 かについて説明する。システム LSI では高集積化、低 消費電力化の目的で電源電圧が年々低下してきている。 図 1: パイプライン型 A/D 変換器 アナログ回路に要求されることは、今後さらに低電源電 圧化が進んだ状況で、いかに機能を実現するかであり、 する。その後1ビット変換時の誤差分を2倍に増幅し、 新たに低電源電圧に適した回路設計手法を考える必要 次のステージへ値を渡す。これを各ステージ繰り返す事 がある。そこで、電流モード回路の適用を提案する。電 で、ステージ数 N 段であった場合、N ビットの A/D 変 流モード回路は少ない電圧振幅で信号を伝達できるた 換器が実現できる。 め、低電源電圧に適した回路技術で、各端子のインピー ダンスが低いため、高速動作が期待できる。[1] 3 しかし、電流モード回路は電流を信号として扱うため 電圧-電流変換の非線形性 電圧-電流変換回路が必要となるが、信号変換時に起こ る非線形性誤差、電流の伝達に使われる電流ミラー回路 iin Ǎv Id でのトランジスタの製造ばらつきによる誤差が問題と vin なる。そこで、以上の2つの精度低減の原因となる問題 を解決し、低電源電圧に対応できる、より高精度な電流 Vgs モード A/D 変換器の設計を目指す。 2 R iin Vgs 電流モードパイプライン型 A/D 変換器 図 2: 電圧-電流変換回路における非線形誤差 図 1 は、電流モード1ビットビットブロックパイプラ 抵抗により電圧-電流変換を行い、トランジスタに信 イン型 A/D 変換器の構成と、各ビットブロックの動作 号電流を流す場合について考える。図 2 に示すように、 を示している。 電流モード回路は電流を信号として扱うため、電圧 抵抗 R を使って、電圧 vin を電流 iin に変換し、トラン 信号を抵抗を用いて電流信号に変換している。各ビット ジスタに電流信号を流す。トランジスタの電流の増加に ブロックでは、1ビットのディジタル値を出力する。比 伴い、ゲート電圧 Vgs は非線形に変化する。すると入力 較電流 IREF と比較し、入力電流が大きければディジタ 電流 iin は iin = ル値1を、入力電流が小さければディジタル値0を出力 1 ∆v vin − R R (1) 5 Ǎv / A vin iin Vb A R M1 トランジスタの素子ばらつきによる誤差 Ǎv + / / Ǫ 8VJ 図 3: 従来型電圧-電流変換回路 + Ǫ 8VJ と表され、第2項の ∆v が非線形に変化するために電 圧-電流変換において非線形誤差が発生してしまう。 図 5: 理想的なカレントミラー回路 そこで、従来は高利得のオペアンプを使用し、非線形 性の改善を行う手法の検討が行われていた。[2] iin = vin 1 ∆v − R R A (2) 図 3 に示されるように、オペアンプの電圧利得を A と すると、オペアンプを使用することで ∆v は 1 A + / 倍に減 少する。これにより、∆v の電圧変動は抑制されるため、 / Ǫ 8VJ 線形性の改善が見込める。しかし、低電圧動作環境では オペアンプの利得を十分に大きく確保することは難し +Ǎ+ ǪǍǪ 8VJǍ8VJ CǍ+ߩ⺋Ꮕ く、これは低電圧化向きの回路手法とはいい難い。 4 電圧-電流変換の非線形性の改善 + A Gm R iG / ǪǍǪ 8VJǍ8VJ Ǎv / A vin iin / +Ǎ+ Ǫ 8VJ DǍ+ߩ⺋Ꮕ Vb 図 6: カレントミラー回路の誤差 iM1 M1 Ǎv トランジスタは、製造時に伝達コンダクタンスパラ メータ β 、スレッショルド電圧 Vth がばらつく。これは 図 4: 提案した電圧-電流変換回路 電流ミラー回路において、電流ミラー比がばらつく原因 となるため、電流が正しく伝達されないという問題が起 そこで、高利得オペアンプを使用することなく非線形 こる。 性の改善を行う回路を提案する。図 4 は、提案した電 圧-電流変換回路である。低電圧環境でのオペアンプに 図 5 のように、もし電流ミラー回路を構成する2つ よる電圧変動の抑制には限界があるため、新たに電圧制 のトランジスタについて、素子ばらつきが理想的に全 御電流源 Gm を用いて電流を追加し、誤差電流を補う くない場合、トランジスタ M1 に流れる電流 I は、そ 回路が使われている。これにより、トランジスタに流れ のままトランジスタ M2 にコピーされる。ところが実 る電流 iM 1 は 際にはそのようにはならず、図 6(a) に示すように伝達 iM 1 = µ ¶ vin 1 ∆v + Gm − R R A コンダクタンスパラメータ β 、スレッショルド電圧 Vth (3) がばらつく。トランジスタ M1 に対して M2 の伝達コン ダクタンスパラメータが β + ∆β 、スレッショルド電圧 となり、 が Vth + ∆Vth とばらついた場合、トランジスタ M2 に 1 (4) R と設定すれば ∆v の影響を受けないことがわかる。 Gm = 流れる電流は I とはならず、+∆I の誤差を含んだ電流 が流れてしまう。 2 6 0.35µmCMOS プロセス、アナログ電源電圧 2.0V、ディ ジタル電源電圧 2.5V で動作する。 素子ばらつきの打消し 素子ばらつきによる電流誤差の打ち消し方法を提案 した。 図 6(a) と図 6(b) では、電流ミラー回路を構成する2 つのトランジスタが交替されている。図 6(a) では、ト ランジスタ M1 に流れる電流をトランジスタ M2 へコ ピーする構成となっており、出力電流は +∆I の誤差を 含んだ電流が流れてしまう。一方図 6(b) は、トランジ スタ M2 に流れる電流を M1 にコピーする構成となって おり、この場合出力電流は −∆I の誤差を含んだ電流が 流れる。このように、電流ミラー回路を構成する2つの 図 8: 試作チップ写真 トランジスタの交替を行うことで、正負等量逆極性の誤 差が発生する。したがって、お互いの電流誤差を平均化 することで、誤差はキャンセルされる。 㧙Ǎ +Ǎ Ǫ 8VJ C D ೨⟎ 5*࿁〝 / / 5(&4 F$ + + Ǫ Ǫ 8VJ 8VJ +ߩ⺋Ꮕ STAGE 1 STAGE 2 STAGE N ާ ജ + ࡄࠗࡊࠗࡦဳ#&ᄌ឵ེ ࡈࠚ࠭C ࡈࠚ࠭D + / / Ǫ Ǫ 8VJ 8VJ Vb A Cancel M1 + + Ǫ 8VJ +ߩ⺋Ꮕ 図 9: 従来型回路の S/H 回路周波数スペクトラム 図 7: 素子ばらつきによる誤差の低減手法 図 7 を使って具体的な平均化方法について説明する。電 SFDR 67dB て電流ミラー回路でトランジスタを交替し、等量逆極性 の誤差を発生させる時、トランジスタの交替前と交替 iG A- + 流誤差の誤差量は入力電流によって変動する。したがっ 後で入力電流が一致していなければならない。そのた め、前置サンプル・ホールド (S/H) 回路により、入力電 Gm 流が一定の期間を設けている。図 7 のフェーズ a の期 M1 間では、パイプライン型 A/D 変換器のカレントミラー 回路は (a) の構成となっており、+∆I の誤差を含んだ 図 10: 提案した回路の S/H 回路周波数スペクトラム 電流が流れる。したがって、A/D 変換後のディジタル データも +∆ の誤差をもったディジタルデータが出力 される。一方フェーズ b の期間では、パイプライン型 図 9 は、オペアンプのみを使用した従来型の電圧-電流 A/D 変換器のカレントミラー回路は (b) の構成となって 変換回路を用いた S/H 回路の出力周波数スペクトラム おり、−∆I の誤差を含んだ電流が流れる。したがって、 である。入力周波数 fin = 1MHz、入力振幅 0dBFS 、サ A/D 変換後のディジタルデータも −∆ の誤差をもった ンプリング周波数 fs = 30MHz において、SFDR=55dB ディジタルデータが出力される。出力されたディジタル を確認できた。 図 10 は、オペアンプに加えて電圧制御電流源により データについて、フェーズ a とフェーズ b の誤差を平均 誤差電流を補った提案回路の測定結果である。入力周波 化することで、電流誤差はキャンセルする事ができる。 数 fin = 1MHz、入力振幅 0dBFS 、サンプリング周波数 7 fs = 100MHz において、SFDR=67dB を確認できた。 測定結果 これより、提案回路により 12dB の改善が確認できた。 前置 S/H 回路について、電圧-電流変換回路の高 図は、オペアンプのみを使用した従来型の電圧-電流 精 度 化 の 効 果 を 検 証 す る た め に 、IC を 試 作 し た 。 変換回路を用いた S/H 回路の入力周波数対 S/N 特性の 3 Vb 参考文献 A [1] J. B. Hughes and K. W. Moulding, “ Switchedcurrent signal processing for video frequencies and beyond, ” IEEE J. Solid-State Circuits, vol. 28, pp. 314.322, Mar. 1993. Vb M1 [2] Y.Sugimoto, ”A Realization of a Below-1-V Operational and 30-MS/s Sample-and-Hold IC With a 56-dB Signal-to-Noise Ratio by Applying the Current-Based Circuit Approach ”, IEEE Transactions on CAS-1, Vol. 51, No. 1, pp. 110-117, January 2004. 図 11: 従来型回路の入力信号周波数対 S/N 比 70 fs= 20MHz fs= 50MHz fs=100MHz [3] B.S.Song, P.L.Rakerson, and S.F.Gillig, ”A 1-V 6-b 50- Msample/s current-interporating CMOS ADC ”, IEEE JSSC, Vol.35, pp.647-651, Apr. 2000. iG 60 A S/N [dB] 65 Vb 55 50 1M Gm 10M 20M Frequency [Hz] M1 50M [4] M.Yotsuyanagi, 図 12: 提案した回路の入力信号周波数対 S/N 比 測定結果である。入力周波数 f in = 1MHz、サンプリン M.Yamaguchi, [5] K.Poulton, R.Neff, A.Muto, W.Liu, A.Burstein, and M.Heshaml, ”A 4GSample/s 8b ADC in 0.351m CMOS ”, Digest of Technical Papers, グ周波数 f s = 30MHz において、S/N=56dB であった。 図 12 は、提案回路の入力周波数対 S/N 特性の測定結 果である。入力周波数 f in = 1MHz、サンプリング周波 ISSCC 2002, Paper No. 10.1, pp. 166-167, February 2002. 数 f s = 20MHz において S/N=64dB、f s = 50MHz に おいて S/N=63dB、f s = 100MHz において S/N=60dB [6] 杉本 泰博, ”よくわかるアナログ電子回路 ”, オー ム社. を確認できた。これより、5dB の改善が確認できた。 8 H.hasegawa, M.Ishida and K.Sone, ”A 2 V, 10 b, 20 Msample/s, Mixed-Mode Subranging CMOS A/D Converter ”, IEEE JSSC, Vol. 30, No. 12, pp. 1533-1537, December 1995. [7] Behzad Razavi, ”Design of Analog CMOS Integrated Circuits ”,The McGraw-Hill Companies. 結論 電圧ー電流変換時の非線形誤差を改善する回路を提 案した。提案回路を用いた S/H 回路について、試作 IC を評価した結果、入力周波数 1MHz、サンプリング周波 数 100MHz で SFDR=67dB、S/N=60dB を確認した。 これより、高利得オペアンプを使用することなく高精度 電圧ー電流変換が実現できたことが証明された。 高精度電流モード S/H 回路が実現できた事から、こ の S/H 回路を適用した電流モードパイプライン型 A/D 変換器の実現を今後の課題とする。 謝辞 本研究を行うにあたり、多大なる御指導を賜った杉本 泰博教授に心より感謝の意を表します。 4