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減少した中南米の対内投資 - 国際貿易投資研究所(ITI)
研 究 ノ ート 減少した中南米の対内投資 内多 允 Makoto Uchida 名古屋文理大学情報文化学部 教授 (財)国際貿易投資研究所 客員研究員 ケイマン諸島はタックスヘイブン(租税回避地) 海外から中南米への直接投資(以下、対内投 資)は 1990 年代の好調な伸びから一転して、 として、海外から資金が流入する。しかし、現 2000 年に減少を記録した。01 年も引き続き減 地には直接投資の対象となる企業や産業分野は 少することが予想されている。本稿では近年に 限られている。タックスヘイブンの主な機能は、 おける中南米の対内投資の特徴的な動向と問題 第三国への投資拠点として海外から集まった資 点を取り上げる。 金を再び海外投資に活用して運用収益を得るこ とである。 減少した 2000 年の実績 特定国に集中する投資 中南米の 2000 年における対内投資は約 862 億ドルで、前年の約 1,103 億ドルに比べて 22% 中南米の対内投資額の上位 3 カ国はブラジル 減少した。これは 1999 年のような大規模な とメキシコ、アルゼンチンである(表 1)。こ M&A (本稿の M&A はすべてクロスボーダー れら 3 カ国の対内投資額合計は 2000 年におい M&A で、その金額は買収国ベース)がなかっ ては 578 億ドルで、中南米総額 862 億ドルの たことが影響している。開発途上国における 67% を占めた。M&A についてもこれら 3 カ国 M&A は 99 年には 577 億ドルに上り、中南米が で 54 億ドルを計上して、前記中南米合計 その 78 %(448 億ドル)を占めた。翌 2000 年 (186 億ドル)の 29 %を占めた。全般的に中南 には、中南米の M&A は前年比 56 %も減少し 米企業を対象とする M&A は 99 年に比べて、 た。同年における開発途上国全体の M&A は 2000 年は大型の案件が減少した。 421 億ドルで、前年より 27 %減少した。その その中で、メキシコでの M&A は 43 億ドル うち、中南米における M&A は 186 億ドルで、 開発途上国全体のシェアも 27% に低下した。 表1 中南米の対内直接投資 開発途上国の対内投資額の 76.7 %を、10 カ (単位: 10 億ドル) 国で占めている(98 年から 2000 年の年平均 1999 年 2000 年 110.3 86.2 額: UNCTAD による)が、このうち、中南米 中南米合計 6 カ国で 34.4 %を占めた。中南米各国のシェア ブラジル 31.4 33.5 はブラジル 14.4 %、アルゼンチン 6.5 %、メキ メキシコ 11.9 13.2 シコ 5.6 %、バミューダ 2.8 %、チリ 2.7 %、ケ アルゼンチン 24.1 11.1 (出所)UNCTAD、文末引用文献、Annex table B.1 より作成 イマン諸島 2.4 %となっている。バミューダと 14 ■ ITI 季報 Winter 2001 / No.46 URL:http://www.iti.or.jp/ で 99 年(22 億ドル)からほぼ倍増した。メキ 南米で銀行や電力、航空輸送などの大規模な買 シコでは海外資本の銀行所有についての規制が 収に成功したことが、影響している。スペイン 99 年に解除されたことを反映して、2000 年に の投資分野は、米国のような広がりはない。し はスペインの銀行が民営化対象の銀行を買収、 かし、従来は見るべき投資の成果を出していな さらに民間銀行2行をも買収した。メキシコ政 かった石油分野で、Repsol が本格的な進出を実 府は BANESPA の経営権をスペインの BSCH 銀 現した。 行に 36 億ドルで売却した。 BSCH はまた、大 表2 手民間銀行 Serfin を 16 億ドルで買収した。一 中南米 3 カ国への投資国構成比率 (単位: %) 方、スペインの銀行 BBVA は大手銀行 Banomer アルゼンチン ブラジル メキシコ に 19 億ドル出資して合併した。2001 年には最 米国 23.2 24.2 60.0 大手の Banamex が米国の Citicorp に 125 億ドル EU 53.4 45.0 22.0 で買収された。 スペイン 25.6 11.2 2.0 このように、メキシコの主要銀行は最近 2 年 (注)3 カ国への投資額は次の期間の累計額による: アルゼ ンチン(2000 年まで)、ブラジル(1995 ∼ 2000 年)、 メキシコ(1994 ∼ 98 年)。スペインの比率は EU の 内数。 (出所)SELA、文末引用文献、表 6 より抜粋。 間でスペインと米国の銀行の支配下に組み込ま れた。スペインの銀行は、言葉が共通である中 南米各国で進出基盤を強化してきた。米国と密 接な関係を持つメキシコで大手銀行を支配下に アルゼンチンでは Repsol が 1999 年に旧国営 置くことは、米州地域全体の金融ネットワーク 石油会社 YPF を約 152 億ドルで買収( Repsol の立場を強化する。また、米国内でヒスパニッ YPF に改称)した。この買収でスペイン企業は クの存在が大きくなっていることも無視できな 南米での石油資源開発の拠点を築いた。メキシ い。メキシコの銀行にとって、メキシコ系が多 コの対内投資ではスペインのシェアはまだ低い い在米ヒスパニックも魅力のある市場を形成し が、既に買収した大手銀行の融資活動によって ている。メキシコ中央銀行の年報(今年 4 月発 今後、その存在感を高めるだろう。 表)によれば、同国への海外からの個人送金額 高まる外資の地位 は 1996 年の約 42 億ドルから 2000 年には約 63 億ドルに上っている。そのほとんどは、米国在 中南米各国は 1980 年代以降、経済自由化と 住メキシコ系からの家族への送金である。 外資導入に取り組んだ結果、外資と民間資本へ 中南米への主要な投資国は米国と EU (欧州 の依存度が高くなっている。開発途上地域への 連合)に集中している。これは中南米の3大対 外資の進出規模では、東アジアが中南米を超え 内投資国についても、同じ傾向を示している る実績を上げている。しかし、外資への依存度 (表2)。米国はメキシコで対内投資額の 60 % 。 については、逆転している(表 3) を占めて、EU をしのいでいる。アルゼンチン 同表によれば、民間固定資本形成投資や民間 とブラジルではこれが逆転して EU が米国を上 資本フローに対する民間部門のシェアは、いず 回るシェアを維持している。EU 諸国の中でス れも中南米が東アジアよりも高い数値を示して ペインの比率が高いのは、1990 年代に入って いる。99 年の GDP に対する総外国直接投資も 15 ■ ITI 季報 Winter 2001 / No.46 は外資系企業が増加してきたことによって内資 表3 中南米と東アジアの比較 (単位: %) 系企業と同数に追いついた。そして、売上額シ 中南米 東アジア ェアでは、外資系企業が内資系企業を超えてい 79.8 (74.3) 50.2 (63.3) る。一方、国営企業は民営化の推進によって b 総民間資本フロー比 7.3 (2.2) 3.8 (1.3) c 総外国直接投資 3.0 (0.4) 1.1 (0.4) a 民間固定資本形成投資比 年々減少傾向をたどっていることを反映して、 企業の 3 形態の中では最小の勢力にとどまって いる。 (注)東アジアには大洋州も含む。 a は総固定資本形成額に 対する 1998 年の比率で( ) 内は 90 年。 bは国際収支に計上される資本の流出入合計額に対す る民間資本の 99 年の比率で( )内は 89 年。 cは 99 年の対内・対外直接投資合計額の対 GDP 比率 で( )内は 89 年。 (出所)世界銀行、文末引用文献 輸出についても、外資系企業のシェアが高く なっている。中南米の 200 大輸出企業順位表に よれば(表 5)、99 年には外資系が企業数と輸 出シェアの両方で首位の座を占めた。外資系企 業の主要な輸出部門は自動車や化学(特に石油 化学)、エレクトロニクス等の製造業部門で、 強味を発揮している。 中南米では 3.0 %であるが、東アジアでは 1.1% である。中南米のほとんどの国では対内投資額 輸出力では外資系にリードされている内資系 が対外投資額を上回る ECLAC の中南米経済報 からも海外市場を拡大する企業が現れている。 告(2000 年 12 月発表)による各国の投資収支 UNCTAD の World Investment Report 2001(以 (国際収支ベース)では、チリだけが 11 億 下 WIR)によれば、世界の多国籍企業上位 100 3,000 万ドルのマイナス(対外投資が対内投資 社(資産額順位)にはベネズエラの国営石油会 を超過)を計上した。 社( PDVSA )とメキシコのセメントメーカー 外資への依存度上昇は、形態別企業数の変化 CEMEX (セメックス)が、それぞれ 84 位と からもうかがえる。中南米 500 大企業の企業数 100 位に計上された。 PDVSA は米国で石油精 と売上額シェアによれば(表 4)、98 ∼ 99 年に 製所やガソリンスタンドの系列企業を経営し、 表4 中南米 500 大企業の形態別分布と 年間売上額シェア 表5 中南米 200 大輸出企業の形態別の 企業数と輸出額シェア (単位: %) 90 ∼ 92 年 98 ∼ 99 年 外資系企業 149 (27.4) 230 (43.0) 内資系企業 264 (39.4) 国営企業 合計 95 年 99 年 外資系 74 (28.9) 97 (41.2) 230 (38.2) 内資系 115 (37.1) 94 (32.8) 87 (33.2) 40 (18.8) 国営 11 (34.1) 9 (26.0) 500 (100.0) 500 (100.0) 合計 200 (100.0) 200 (100.0) (注)企業数は中南米 500 大企業の 3 形態の内訳の推移。 ( ) は平均年間売上額のシェアで、単位はパーセント (出所)ECLAC、文末引用文献、表 1.8 より抜粋 16 (注)輸出額シェアは( )内は輸出額シェアで、単位はパ ーセント。 (出所)ECLAC、文末引用文献、表 1.10 より抜粋 ■ ITI 季報 Winter 2001 / No.46 欧州では石油精製所を操業している。さらにア 技術開発能力が中南米で不足していること ルゼンチンやブラジルでもガソリンスタンド経 は、 SELA も指摘している。 SELA によると、 営を計画している。 中南米の基礎的な研究開発能力を有していた国 また、ベネズエラ国内では石油輸出に加え、 営企業が、民営化によって姿を消した。国内の 系列の石油化学部門では外資との合弁投資を拡 民間企業は基礎研究の資金も関心も持っていな 大して、石油産業の下流部門の輸出拡大にも、 い。外資系企業は本社で研究開発を行っている。 積極的に取り組んでいる。セメックスは世界各 このような状況で、中南米での新技術の開発が 地でセメントメーカーを買収して、多国籍企業 困難であると指摘している。 としての基盤を強化している。アジアでも各国 SELA は外資系企業進出に関して技術開発と の代表的な同業メーカーの系列化に成功してお 並んで、輸入と利益送金の問題も指摘している。 り、既に日本にも進出している。 多国籍企業は現地で生産可能な機械や完成品、 WIR では開発途上国の多国籍企業上位 50 社 部品の輸入を拡大する傾向があると指摘してい (海外資産額順位)も発表しているが、これに る。中南米からの利益送金額は 91 年の 71 億 は PDVSA が 2 位、セメックスが 3 位に入って 4,800 万ドルから 2000 年には 200 億ドルに膨張 いる。中南米からは 11 社が同順位表に入って しているという。 WIR による前記の指摘は、多国籍企業の企 いる。 業立地選別の基準が厳しくなっていることを反 外資政策の課題 映している。また、中南米の外資政策も総花的 WIR では、世界の直接投資の担い手である な自由化政策だけでは、外資誘致の目的達成が 多国籍企業は進出地域の立地条件の評価を重視 困難であることを示唆している。 することを指摘している。要求される技術レベ ルが高度になればなるほど、投資地域は特定地 [引用文献] データは主に、次の国際機関が発表した報告より引用 域に集中する。他の分野でもインフラや技術の した。 相互補完性、関連制度などがいかに評価されて 国連貿易開発会議( UNCTAD )、 World Investment いるかも、企業進出の決定に影響する。また、 WIR では開発途上国にとって外資系企業と国 Report, 2001 年 9 月 中南米経済機構(SELA)、Foreign Direct Investments in Latin America and the Caribbean, 2001 年 10 月 内企業とのリンケージ(linkage)が重要である 国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会( ECLAC )、 と指摘している。 Foreign Investment in Latin America and the 国際競争力に耐え得る技術力を持つ多国籍企 Caribbean 2000 Report, 2001 年 4 月 業とのリンケージを維持するためには、国内企 世界銀行、World Development Indicators 2001, 2001 年 4月 業にも技術水準の向上が必要である。 17 ■ ITI 季報 Winter 2001 / No.46