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第3部第4章(PDF:520.8KB)

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第3部第4章(PDF:520.8KB)
 147
4章 何をどのように売るのか I
ファッション商品と売場(マーチャンダイジングの基本認識)
1 ファッション・マーチャンダイジングとは何か
1 ファッション・マーチャンダイジングの意味と特性
●ファッション・マーチャンダイジングの意味
マーチャンダイジング
merchardising 一 般 的 に
「商品化計画」と訳され
ることが多いが、本来は
リテールにおける品揃え
計画や品揃えの中味その
ものを指して言う
アパレルリテールのマーチャンダイジングとは、マーケティング戦
略に対応して、特定した商圏顧客のニーズやウオンツを満足させる
ファッション商品とサービスを準備し、アソート(品揃え)して提供
するための諸活動のことである。
それは、諸々の情報活動から商品開発を伴うケースも含めた商品準
備、品揃え、売場づくり、陳列、販売サービスやプロモーションとも
関わる幅広い領域を包含し、その活動を通して経営政策に定められた
生産性と効率を確保する目的を持っている。
マーチャンダイジングが顧客にとって現実に目に見える形で存在す
るのは、売場における商品陳列においてである。マーチャンダイジン
グはもともと商品政策的意味が強いが、商品の運営、
管理だけではマー
チャンダイジングとはいえないだろう。商品と売場は一体のものとし
て企画、計画され、作られなければならない。商品の位置づけや意味
づけを明確にすることによって始めて、顧客の購買意欲を引き出すこ
とができるからである。
●売場の在り方と商品を同時に捉える視点
商品の位置づけや意味づけは、商品を置く場=売場の在り方によっ
て違ってくる。売場の在り方次第で商品が違って見えるのである。顧
客は、商品を意味づけて見る、またはある価値観で見るともいえるの
で、リテーラーは商品を意味づけ、価値づける「仕掛け」として売場
を捉える必要がある。マーチャンダイジングには、売場の在り方(仕
掛け)と商品を同時に捉える視点が重要だ。顧客ニーズに応える売場
の在り方を追求していくことが商品開発を生み出すこともよくあるこ
となのである。
① 顧客ニーズから → 売場を考え → 商品を考える
② 顧客ニーズから → 商品を考え → 売場を考える
マーチャンダイジング活動を推進するに当たっては、以上の2つの
視点から考えるのがよいだろう。
●ファッション・マーチャンダイジングの特性
社会経済の激動の中で、現在ファッション・マーチャンダイジング
のおかれている状況は極めて困難なものだが、いつの時代であっても、
148
マーチャンダイジングの基本的な姿勢は変わらないはずである。生活
者ニーズを探り、個々の立場で、その立場に最もふさわしい形で、こ
れに応えることである。
ファッション・マーチャンダイジングの置かれている背景を考える
とき、いくつかの代表的な特性がはっきりしてくる。
① 情報性が強い
今日の市場形成は情報消費型の側面が強く、情報優位の者が勝者
となることが多い。溢れるばかりの大量情報の処理と情報発掘・開
発的努力が不可欠になっている
② 時間的変化率が高い
ファッション商品は、他の商品に比べて変化のスピードが早く、
消費のサイクルが短く、たえず鮮度が要求される商品である。
シーズン性も強く、天候にも左右される。企画、生産、販売、在
庫処分などに加えて、直接売場づくりに伴う作業、陳列機具、レイ
アウト変更、プロモーションに至るまで短い時間サイクルの中で消
化しなければならない
③ 市場の細分化と顧客の個性化傾向
個性を表現しようとする人々によって形成される多様な市場は、
多領域・多品種の商品構成を必要とし、商品テイスト、価格、色、
サイズなどに対する要求も細分化している。個々のパーソナルな需
要に対応して、多品種少量の仕入・販売方法を取り入れたきめ細か
い計画が必要になっている。マーチャンダイジングの工程は複雑で、
その作業領域も幅広くならざるを得ないが、それだけに合理的思考
による高度な管理技術が必要である
④ 市場研究とユニークでクリエイティブな研究・開発
情報のスピード時代にトレンドだけを売物にするのは、他店との
同質化を招くだけだ。ユニーク(独創的)でクリエイティブ(創造
的)な店づくりが、競合の激流をのりきる最良の方法である。
市場や顧客の研究など研究・開発業務の企業貢献度は高く、マー
チャンダイジングの最も重要な特性の一つといえるものだ
⑤ グローバルな視点とインターナショナルな活動
顧客の生活文化そのものがグローバルでインターナショナルなも
のに成熟してきたので、このことをよく理解し、その中味を追求す
る姿勢が欠かせない。
情報収集や諸現象の解釈、戦略策定も、既成概念や過去のデータ
にとらわれないグローバルな視点で行われなければならないし、顧
客の満足を充たし、生産性と効率を確保するためには、商品調達等
も従来の枠を越えた、国際的な活動の中で実現していかなければな
149
らない
以上のことから、
「情報に左右されやすく、
鮮度が要求されるファッション商品売場を、
個々の顧客が満足するレベルで実現するために、
不確実で予測が難しく、複雑で幅広い領域の作業を、
グローバルでクリエイティブな視点に立って、高水準の技術力で管
理し、
戦略的で創造的なものに創り上げる」マーチャンダイジングの特性
が理解されるであろう。
図表6 ファッション・マーチャンダイジング活動の特性
150
2 マーチャンダイジングの基本要素と「なぜ?」の姿勢
●マーチャンダイジングの基本要素
マーケティングの重要要素に対応する、マーチャンダイジングの基
本要素を挙げると以下のようになる。これは、マーケティング・レベ
ルを商品と売場よりに具体化するための基本要素である。
① 誰のために (ターゲット)
② 何を (商品、プライス含む)
③ どこで (売場)
④ どのような方法で (売場づくり、MD展開の方法、商品レイ
アウト演出方法など)
⑤ いつ (時期)
⑥ どれだけ (予算、売り上げ見込み、販売量)
顧客ニーズに応える目的をもって、これらの基本要素をより効果的
に組み立てるのがマーチャンダイジングであるが、各々の要素がどこ
まで必然性をもって組み立てられるかが問題である。
●「なぜ?」の姿勢を貫くマーチャンダイジング
その必然性を作りだすものは、たえず「なぜ」と言う問いかけをし
ながら結論していくことであろう。
「なぜ、そうするのか」
「なぜ、そ
うしたいか」、という根拠を明確にする姿勢を貫くことが仕事の質を
高めるのである。マーチャンダイジング基本計画の多くは言葉によっ
て表現されるが、とかく曖昧な表現になりやすく、習慣的、模倣的に
結論だけが出てくることになりやすいので「なぜ」の姿勢を貫く必要
がある。
「顧客は誰か、だれのための店か」というレベルは、すでにマーケ
ティングで明確になっているが、個々の商品と売場と顧客の関係を明
確にするのはマーチャンダイジングの仕事である。
以上のことを加味して、基本要素を多少表現を変えて言うと次のよ
うになる。
① 「この人(顧客)のための、この商品は」─『それはなぜか』
(顧客と商品の適性)
② 「このような売場で」 ───『それはなぜか』
(顧客と商品と売場の適性)
③ 「このような売り方で売る」 ───『それはなぜか』
(顧客と商品と売場と売り方の適性)
また、売場を主体にすると、①「この人のための、この売場は」②
「このような商品を」③「このような売り方で売る」なら、好まれる
売場であるということになる。
以上の3要素は、何よりも顧客に満足して貰える商品準備、売場づ
151
くりを考える基本であり、その結果として得られる生産性や効率は、
この要素の組み合わせの質次第で決まることを認識しておきたい。
そして、この組み合わせの質を高める高度なマーチャンダイジング
技術の導入が、ショップ経営の大前提であることを知るべきであろう。
3 マーチャンダイジングを科学する
マーチャンダイジングを創造する
●不確かで抽象的なコトを、具体的なモノ(商品・売場)にする
マーチャンダイジングは情報収集から始まるが、その中にも「な
ぜ?」そうなるのかを差し込む姿勢が大切だ。
「なぜ」の問いかけは、取りも直さず科学的な態度なのである。マー
チャンダイジング活動は情報、感性、潜在ニーズ、近未来的な予測と
いった不確かで抽象的なことがらから具体的な商品と売場を準備し、
顧客に提供する仕事だが、その不確かで抽象的なコトのどこにリアリ
ティを見出だし、信念の持てるモノ(商品、売場)を創るかが問題で
ある。
信念の持てるモノづくりをするためには、科学的な態度は欠かせな
いものだ。それは見えないものを見えるようにし、誰にでも理解でき
る表現に変えることができる。
●観察、体験、データ収集・分析一因果関係を大切にする
科学的態度の最も直接的なものは「観察(ウォッチング)
」である。
ウォッチングとは、観察現場のリアリティをつかみ取ることだ。そこ
には、数値だけでは解らない多くの発見があるはずである。現実を眼
の前にして得た実感が、コト・モノの本質を理解し、信念を持って行
動させる。ファッション・マーチャンダイジングには「体験すること」
が重要なのである。
しかし、自己体験の巾には限界がある。できるだけ多くの情報を合
理的に収集し、分類・整理し、これによって状況を判断するのも科学
的態度である。数値化・図表化、言葉化し、分析して、ヒト←─→モ
ノ(商品)
、モノ←─→売場・売り方、ヒト←─→売場・売り方の「関
係」を探ることの中から見えてくるものがある。できれば感覚さえも
数値化して表現することが望ましい。
また、物事や仕事の「因果律」を追求することも重要である。「こ
のようなデータの分析から」
(分析)→「このように考えて」
(計画)
→「このようにしたのでこのような結果が出た」(実績)←─→「次
にはこのようにしたら改善できる」
(開発・改良)
。
この仕事を科学的(実証的)に進めることは、マーチャンダイジン
グ活動推進の原則である。多様な作業のために、この原則がおろそか
にされてはならないだろう。
152
●“科学しつつ創造する”マーチャンダイジング
これらの「マーチャンダイジングを科学する」態度は、たえず仕事
を明確にするが、データや経験を越えて推論しなければならないこと
も多く、やって見なければ解らないという実験的な性格を内包してい
る。創造的な直感は実験を通して開花することも多い。
「科学しつつ創造する」「創造しつつ科学する」マーチャンダイジ
ング活動を実践することが、ファッション・ビジネスを豊かなものに
するだろう。
図表7 科学する・創造するマーチャンダイジングのフローチャート
必然性をもった
情状収集・ 自由な解釈
→ → (根拠を明確にした) → 実 践 → 結果・実績
分析・観察 豊かな発想
確信のある結論
↑
│
「このような 「このように 「このように 「このように 「この結果が
データ分析 考 え て」 計画して」 したので」 出た」
から」
↑
└「次はこのように改善できる」
マーチャンダイジングの
基本技術と基本要素
企業としてMDの基本技
術を確立し、スタッフの
熟練化を計ることは一日
にしてできることではな
い。現状はバイヤーや営
4 マーチャンダイジングの基本技術と基本要素
①情報管理技術、②分類技術、③編集技術、④システム構築技術は、科
学しつつ創造するマーチャンダイジング構築のための重要な基本技術であ
る。
図表8 MDの基本技術と基本要素
MDの基本技術 MDの基本要素
①ターゲット (誰のために)
Ⅰ情 報
②商 品 (何 を)
Ⅱ分 類
③売 場 (ど こ で)
Ⅲ編 集 ④売場MD展開の方法(どのような方法で)
⑤時 期 (い つ)
Ⅳシステム
⑥予 算 (どれだけ)
153
業マンに全てまかせてそ
の個人プレーに頼ってい
ることが多いが、ビジネ
スの中核を支えるこれら
の技術にこそ企業として
力を入れるべきだ。MD
の質は1にも2にもこの
ことにかかっているのだ
から
マーチャンダイジングの基本要素ごとに、マーチャンダイジングの基本
技術を考えてみると、そこからマーチャンダイジング技術の体系的なもの
がイメージできないだろうか。
MD構築には、この基本技術が大きく寄与するので、「マーチャンダイ
ジングは、情報管理であり、分類であり、編集であり、システムである」
ともいえるのである。
5 マーチャンダイジングは分類である
マーチャンダイジングの一連の活動は、情報収集から商品調達、売場づ
くり、販売サービスまで「分類」と関連しないものはないといっていいほ
ど、「分類」で成立している。膨大な情報を分類・整理するだけでもなか
なか手間のかかることだが、
「分類」は、単に整理のための手段ではない。
「分類」の真の目的は、ある目標に向かってより良い効果を得るための「分
類を創る」ことにある。分類の仕方によって、違った効果が生まれるから
である。
マーチャンダイジングの基本要素に沿って考えれば、準備しなければな
らない分類項目はいろいろある。次に主なものを挙げる。
① トレンド情報の分類
② 顧
客
の
分
類
③ 顧 客 ニ ー ズ の 分 類
④ 生 活 領 域 の 分 類 (性別、年令別、職業別)
⑤ 商
品
分
類 (アイテム別、ブランド別、感覚別、グレー
ド別など)
⑥ 売
場
分
類 (分類MD、売場MD展開、売場形態別など)
⑦ 店 頭 展 開 の 時 期
⑧ サ ー ビ ス 分 類
⑨ M D 作 業 分 類 (MDシステム、MDプログラム)
⑩ 仕 入 れ 先 分 類
各々の分類項目は、先ず分類基準を作り、それに準じて分類し、解りや
すく、使いやすいものにしなければならない。
売場分類は、店頭における売場を構成するための分類で、その時代の生
活者を写す鏡ともいえるものだ。顧客が直接出会う売場をどのように分
類・構成するか、各々の売場をどのような商品配列によって成立させるか、
を計画するのがマーチャンダイジングの主な仕事である。
以上、顧客ニーズの分類も商品分類も、全て最も効果的な売場分類を案
出するための準備であるといえるだろう。売場と売り方の質を左右するの
が売場分類なのだ。
分類項目は、各々分類された要素を組み合わせて使うことが多いので、
関係性を充分考慮して統一性のある分類体系を設けるよう心がけたい。
154
顧客に支持される売場分類を開発するためには、ショップ・ポジション
に相応しい独自の分類軸を開発する必要がある。分類軸は商品アソートの
基準でもあり、その独自性がショップの個性化につながるのである。
図表9 効果的売場分類案出のためのフローチャート
各々の分類要素
各分類項目ごと を効果的に生か 顧客に支持され
の相関関係を考 した分類分類軸、 る創造的で独自
→ →
えた分類基準づ 顧客ニーズを表 の売場分類の開
くり 現できる分類軸 発
の設定
6 マーチャンダイジングはシステムである
●全体を統合する高度なMDシステム
マーチャンダイジングの特性である情報性が強く、スピードのある
時間的変化の中で、複雑で幅広い領域をカバーし、しかも創造性を要
求される仕事には、全体を統合する高度のシステムが欠かせない。
一定の時間の流れにしたがって、
「いつ」
、
「誰が」
(セクション、ス
タッフ)
、
「何を」
(作業項目)
、
「どの様な方法で」
(マニュアル)やる
のか一つ一つ明確にし、全体が一つの目標に向かって、ムダなく、双
方向的なコミュニケーションを取りながら、作業を進めていかなくて
はならない。
店づくりのマーチャンダイジング計画もさることながら、オープン
後にシーズンごとに繰り返されるシーズン・マーチャンダイジング計
画においても、時間と作業の質の管理は、システムが整備されていな
くてはとても期待される効果は望めない。
大勢のスタッフの共同作業によって進められるその活動は、作業ご
とに決断を下し、その前提の上に次の作業を重ねていく積み上げ方式
によって成り立っている。自己完結型の作業はほとんどない。それだ
けに、各作業の前後関係や別のスタッフとのコミュニケーションの取
り方が問題だ。一人一人の能力開発と同時に、システムを高度化する
ことがマーチャンダイジングの質を高める、という認識をもってシス
テム開発に取り組む必要がある。
また、マーチャンダイジングを支援する周辺のシステム開発(商品
管理システムや顧客管理システムなど)も重要であることはいうまで
もない。
155
●特定の売場のためのシステム開発
「売場のシステムづくり」「新しいシステムによって運営される新
しい売場」という視点が重要である。どのような売場にも、その売場
を成立させるシステムは存在するが、システムそれ自体が顧客を魅き
つける売場を作り出すという視点である。商品調達から店頭展開、
サー
ビスや情報管理まで、特定の売場のためのシステム開発という点では
VMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)もシステム開発の一つ
である。その他SPA(製造小売業)などの新業態も、この視点が取
り込まれたものと考えてよいだろう。
ショップや売場を顧客ニーズに応える「システム」として捉え、あ
らゆる点で高度なシステム開発を進めることが新たな可能性を創りだ
すだろう。マーチャンダイジングはシステムそのものなのである。
7 マーチャンダイジングは編集である
編集とは、「資料をある方針・目的の下に集め、書籍、新聞、雑誌など
の形に整えること」
(広辞苑)
。ファッションリテールのマーチャンダイジ
ングは、「ある方針・目的をもって情報を収集し、その中から有効な情報
を選択し、分析、研究して、テーマを設定し、コンセプトを創り、戦略を
考えて、商品・サービス・売場などの形に整える」ことである。
ある方針・目的とは、基本方針であり、顧客ニーズに応えることだ。そ
の意味で「ファッション・マーチャンダイジングは編集である」といえる
のである。
編集で要求されることは、先ず何よりも正確な市場状況の把握であり、
あらゆる情報が氾濫している状況の中から、自店にとって有効な情報を選
別する鋭い感受性である。また、顧客の自己表現欲求を満足させる、魅力
ある売場を作り出す創造力と構成力である。
テーマが明確で魅力があり、絶えず新鮮で変化に飛んだ豊かな内容のプ
ログラムが組まれていて、人をひきつける人気の高い雑誌をイメージすれ
ば理解しやすいだろう。雑誌の編集は、読者の心理を深く探って、その時
代の気分を強く反映させたテーマを採用し、読者の知性と感性に訴える最
も効果的な編集スタイルで表現する。
ファッション・マーチャンダイジングは雑誌とは編集の素材こそ異なる
が、本質は同じであろう。各作業段階で見れば、情報を編集し、商品を編
集し、売場とサービスを編集することでもある。見方を広げれば、ヒト、
モノ、コト、カネの編集がマーチャンダイジングであるともいえるのであ
る。
156
マーチャンダイジングの
構造
ここで言う「構造」は、
マーチャンダイジングの
本質を、それに関わる商
品、売場、顧客などの諸
要素とそれらの諸関係の
総体から成る構造とみ
る、という意味で使って
いる。各々の要素は記号
的意味作用を持っている
ので、MDを構造的に促
える見方がMDの精度
アップにつながる
2 ファッション商品と売場(マーチャンダイジングの構造)
1 ファッション商品と売場の構造性
●顧客の満足は基本的に商品によって充たされる
顧客の価値観は絶えず流動している。市場は生物にも似て、生成変
化する複雑・巨大で重層的構造を持った生きもののようなものだ。そ
の流れを塞止めて対応することはできない。
社会環境、生活者意識、ファッション商品、アパレル業界、流通業
界などは、各々複雑な相関関係の中で変化・流動している。しかしそ
の流れを方向づけるのは、基本的に消費者である。ファッション・ビ
ジネスが大部分、計画的生産に頼らなければならない以上、商品と売
場はその条件の中で、スピード感あるこれらの変化にキメ細かく対応
するよう宿命的に役割づけられているといえる。
時代は変わっても、この変化の激しい舞台の主役は顧客であること
に変わりはない。そして、顧客の満足は基本的に商品によって充たさ
れるのである。このことの重大性をまず深く認識する必要がある。し
かし、必ずしも商品だけで満足するとは限らない。顧客の商品購入の
意思決定は、商品を取り巻く周辺的要素に強く影響されるからである。
●商品機能の第1レベル(商品自体の構造性)
商品は、デザイン、品質(素材、フィッティング技術、縫製技術)
、
価格などの商品を決定している要素から成る構造体である。この物質
的要素から成る商品自体の構造性は、商品機能の第1レベル(商品の
基本機能)といえるものだ。まず第一に、「商品自体の構造性」が顧
客を満足させるものであるかどうかが問われるべきである。
今日的顧客ニーズから見て、商品自体の構造に欠陥があるとすれば、
どのような売場を準備しても意味はない。この商品の最も基本的な機
能(商品機能の第1レベル)そのものが、顧客の信頼を獲得する最高
の条件であるべきである。
しかし、商品はこれらの基本機能だけででき上がっているわけでは
ない。商品に付加されるブランドネーム、タグ、パッケージなどの二
次的加工要素も重要な役割をもっている。商品は顧客の感性に訴え、
ブランド名の識別を通して、その商品の位置づけや信頼性を判断させ
るからだ。
●商品機能の第2レベル(商品の周辺的要素)
商品の構造的要素は目に見える物質的要素ばかりではない。商品を
直接形成していないが、ある意味で商品を決定している目に見えない
周辺的要素も、商品の持つ構造性として捉えるべきである。
商品の持つ生活の中の役割(生活価値)、使用される生活シーン、
157
ライフスタイル、着用度などは商品を意味づける重要な要素だ。商品
を意味づけ、価値づける商品の周辺的要素が商品機能の第2レベルで
ある。
顧客は、商品機能の第2レベルによって、自分のニーズ・ウォンツ
を満たすものがどの商品であるかを選択する。しかし、顧客が商品を
購入する条件は他にもある。
図表10 商品機能と売場機能の構造性
第3レベル
売場づくり
第2レベル
生活価値 提案技術
第1レベル (生活シーン
デザイン、 の中の役割)
品質、価格
ブランドネーム 着用度 品揃え
パ ケ ー ジ
季 節 性
接客技術
商品テスト
サービス
広 告 顧客の商品購入の意思
決定
●商品機能の第3レベルと売場機能
商品は、それが設置される売場の性格や配列の仕方によっても意味
が違ってくる。1枚のセーターをショップがどのように意味づけ、価
値づけ、どのように売場で展開するかによって、顧客の商品の選択は
違ってくる場合が多いのである。
売場づくりの技術、提案技術、マーチャンダイジングの構成内容(品
揃え)、さら接客技術、各種サービス、広告なども商品に付加される
機能と考えるべきである。これが商品機能の第3レベルである。アパ
レルリテールは、商品と顧客の媒介者として、顧客が商品購入を決定
158
する条件のすべてを商品の持つ機能として認識する必要がある。
第3レベルは第1レベルを包含した売場の機能そのものでもあり、
第2レベルに依存して成立しているのはいうまでもない。第1レベル
の商品自体は、第2レベルを反映し、第3レベルを選択する(または
選択される)ことになる。
このことから、商品機能も売場機能も基は一つであり、最終的には
生活者の生活機能と結びついていることが分かる。このことを商品と
売場の構造として捉え、生活者の消費の仕方全体に着目するグローバ
ルな視点の中で、構造要素の一つ一つと相互の関係を究明することに
よって、マーチャンダイジングを精度の高いものにすることができる。
2 商品開発・売場編集技術と品態・業態
マーチャンダイジングは、商品調達と売場づくり・品揃えの段階を絶え
ず往復しながら完成へと向う活動である。アパレルリテールにとって、商
品はよく鉄砲のタマにたとえられる。消費者を射止めるタマである。商売
はタマ次第というわけだ。
しかし、前項で述べたように、商品の機能には3つのレベルがあり、商
品自体(タマ)がすべてではない。商品自体ですら第2、第3レベルによっ
て決定されるのである。したがって、商品開発技術(本来の商品開発も商
品調達も含めて、商品を新たに準備することを指す)を高めることは、売
場編集技術(売場づくり、品揃え)を高めることであり、売場編集技術を
高めるには商品開発技術を必要とするのである。
今後の小売店は、業種分類では顧客ニーズに対応できないといわれてい
る。業態的基準で捉える必要があるのである。「業種」は取扱い商品のう
ち主要なものを基準(代表的なものが服種、アイテム分類)に小売店を分
類したものであり、「品種」は、それをさらに要素に細分化(商品分類)
したものである。つまり業種も品種も商品機能の第1レベルを基準に設定
品態
品態分類が常に有効だと
ういわけではなく、状況
によって違ってくる。シ
ングルライナ(ex.ニッ
トショップ)などでは品
種分類の方が解かりやす
い。又分類MDの視点で
見るならば、どちらをよ
り上位の分類方法にする
かの差となってあらわれ
る。中分類で品態分類で
も小分類は品種分類とい
う例は多い
されている。また、
「品態」とは、商品における使用価値や購買パターン、
つまり商品機能の第2レベルによって商品を分類するのである。「業態」
は商品を基準にするのではなく、消費ニーズや購買行動に対応した販売方
法や提供の仕方、つまり商品機能の第3レベルによって小売店を分類する
のである。
業種・品種は、商品自体に即した分類だが、ケースにもよるがこの方法
では顧客ニーズを表現しにくい。顧客の生活価値観、購入・使用する立場
にたった業態・品態分類の側から商品開発と売場編集技術を高めていく必
要がある。
3 マーチャンダイジングの基本計画とシーズン・マーチャンダイジング
計画
ショップづくりやリニューアルに際して、マーチャンダイジングの基礎
159
マーチャンダイジングの
基本計画
MD基本計画は、一般的
に本部機能で計画され、
実際にショップの運営・
管理に当たるスタッフと
は別の場合がよくある。
ショップ経営の中枢メン
バーを中心にショップ開
発プロジェクトチームを
つくり、そのスタッフが
基本計画のモデルをつく
ることが多いようだ
から構築するマーチャンダイジングの基本計画と、すでに店はできていて、
季節ごとの運営・管理のためのマーチャンダイジング活動(シーズン・マー
チャンダイジング計画)とは区別される。
基本計画はショップのオープンを目標にして、ショップの基本思想やポ
ジショニングを検討し、ターゲットを明確にしてマーケティング戦略、
マー
チャンダイジング戦略を策定して、売場分類、MD展開方法を明確にする。
最終的に、導入ブランドを決め、オープン時のシーズンに合わせて品揃え
計画を具体化するのである。
シーズン・マーチャンダイジングは、オープン時の品揃え計画以後、シー
ズンごとに連続して繰り返されるマーチャンダイジング活動である。基本
計画で構築された諸々の戦略・戦術・コンセプトに従って、シーズンごと
のMDコンセプトを考え、商品計画を立て、バイイングし、そのシーズン
に相応しい品揃えをするのである。したがって、そのシーズンのトレンド
情報や前シーズン実績との関係の中で組み立てる商品を中心とした計画で
ある。
基本計画がショップオープン後、短期間の間に変更されることは比較的
少ない。基本計画で策定された戦略やコンセプトは基本路線であるから、
通常3年位は継続・踏襲することが多い。基本計画が実現するには、その
程度の時間がかかると判断したほうがよいだろう。
しかし、シーズンMDはシーズンごとの実績を見ながら、基本計画を検
証しつつ計画される必要がある。シーズンごとに基本計画の主旨を確認し
ながら活動を進めることを怠ってはならない。とかくシーズン・トレンド
に目を奪われて、基本計画がおろそかになりやすいものだが、それでは蓄
積が生まれない。シーズンMDは基本計画を肉づけして、りっぱに成長さ
せる役割を担っていると捉えるべきだろう。
4 ファッション商品のライフサイクルと顧客ニーズ
●ファッション商品のライフサククル
顧客の価値観は絶えず変化し、求める商品も変化する。ファッショ
商品のライフサイクル
商品のライフサイクル
は、同一商品であっても、
商圏が違えば異なってく
る。一般市場動向と自店
動向の差を注意深く見て
いく必要がある。特に
ショップのポジショニン
グとの関係を深く読み取
ることが大切である
ン商品は、各々のライフサイクルを生きていく。商品のライフサイク
ルを把握することは、商品流通の時間と空間と量を読むことであり、
ファッション・マーチャンダイジングの基本技術の一つである。流行
の市場への浸透度合い、地域への伝播性を知ることにより、マーチャ
ンダイジング操作はより適確なものになる。
ライフサイクルは、ヨコ軸を①台頭期→②成長期→③成熟期→④衰
退期→⑤消滅期の5段階に分類して時系列的に捉えられ、1つの山を
描くように曲線で表される。タテ軸は量を表し、S、M、Lの3段階
に分類しておくと便利である。商品によっては、市場に幅広く浸透し
て巨大なマーケットを形成し、長い時間をかけて消滅していくものも
160
あれば、線香花火のようにぱっと流行して、すぐに消えてしまうもの
もある。また、衰退期に入ってから消滅しないで横ばい状態で継続し
ていくものもある。横ばい傾向は、定番商品のような存在で、時がく
るとまた成長していく例もある。一般にライフサイクルは、スーツや
コートなどの重衣料のほうが長く、シャツやニットなどの軽衣料のほ
うが短い場合が多い。
まず、初めにしなければならないことは、個々の商品が現在、図の
どこに位置するかを明確にすることである。様々なデータを基に総合
的に判断して、具体的な商品名をイップットしていく。
図表11 ファッション商品のライフサイクル図
●顧客ニーズや抽象的事柄のライフサイクル
ライフサイクル図にインプットできるのは商品名だけではない。商
品と売場の構造を構成する要素の多くは、ライフサイクル曲線として
捉えることができる。色・柄、素材、価格、ブランド名などの具体的
で物質的な要素ばかりでなく、顧客ニーズやウォンツといった抽象的
な事柄が曲線上のどこに位置しているのかを知ることは、マーチャン
ダイジングの重要な足がかりとなる。
物質的な要素から抽象的な事柄を引き出し、抽象的な事柄から具体
的な商品を生みだす能力は、マーチャンダイジングを担当するものに
とって重要なものである。抽象的事柄はキーワードとして表現し、操
作の対象にすることができる。
たとえば、伝統志向というキーワードが曲線上のどこに位置するか
161
を知ることで、伝統志向に対応する商品のマーチャンダイジング操作
が可能になる。また、企業内実績をライフサイクル曲線に位置づける
ことは有効なことだ。商品レベルだけでなく、売場単位やコーナー単
位のライフサイクル上のポジションが明確になると、売場対策の手が
かりになる。
●ファッション商品のライフサイクルから見た顧客分類
商品のライフサイクルを消費者、顧客との関係の中で捉えると、市
場形成の段階ごとに、それを担う顧客層を見ることができる。
E・ロジャースの新商品伝播の理論は、ある商品が社会に伝播して
いく過程の中で、段階的に採用され、そこに一定の顧客層が成立する
ことを表している。
① 台頭期 ─────・イノベーター(革新者)
② 台頭期∼成長期──・アーリー・アダプター(初期採用者)
③ 成長期 ─────・アーリー・マジョリティ(初期追随者)
④ 成熟期 ─────・レイト・マジョリティ(後期追随者)
⑤ 衰退期 ─────・ラガーズ(遅延者)
新商品やトレンドは、台頭期には一部の革新的な人々によって採用
されるが、情報やコミュニケーションの広がりによって他の人々に伝
播し、さらに追随者を増やしていく。そのメカニズムは、流行を取り
入れる人々の価値観やライフスタイルの違いによって段階的に働くこ
とで、5つの階層を設定することができるのである。
この階層分類は、通常よく使われるファッション意識(または、
ファッション態度=アティテュード)の3段階(別称テイスト=・ア
ドバンスト・コンテンポラリー・コンサバティブ)と同様の分類と見
てよいだろう。
●ファッション商品のライフサイクルとマーチャンダイジング計画
情報伝幡のスピードが速く、情報の地域差がなくなってきて、同時
情報化時代といわれる今日的情況の中では、「商品のライフサイク
ル」の有効性は相対的に低くなっていると言われる。開拓者に追随し
た品揃えで効果を上げた時代は終わり、信頼やサービス、個性が顧客
を獲得する時代だからである。
しかし、「商品のライフサイクル」を拡大解釈し、状況を深く読む
1つの方法として捉えて研究するならば、マーチャンダイジングの質
的向上に貢献するに違いない。
いつの時代でも、すべてのモノ・コトはライフサイクルをもって動
いている。一つ一つの要素・項目をこの基準で捉え、グローバルで複
眼的な視点をもってこれを研究し、前後・相互の関係から未来予測の
ポイントを引き出すように努めたい。
162
マーチャンダイジング上のポイントは、「なにが成長するか」「な
にが衰退するか」であり、商品のライフサイクルの各段階に応じた
マーチャンダイジングの管理・運営をすることである。各段階で
「マーチャンダイジングの基本要素」(前述)の捉え方は異なって
くる。
成熟期の商品にいつまでも依存しているわけにはいかない。衰退期
の商品を効率的に処理することを考えなければならない。成長期の商
品はあっても、次期成長期(現在台頭期)の商品開発を手掛けておき
たい。など、マーチャンダイジングの日常的な活動・計画の中で「商
品のライフサイクル」の役割は多いのである。
5 商品分類と売場分類
●商品分類と売場分類の違い
MDは分類である。分類はMD管理の基本技術であり、最終技術と
もいえるだろう。MDとは、商品と売場を分類して記号として管理す
ることである。商品分類と売場分類の質が、MDの質を決定する重要
な役割を担っているのである。
商品分類と売場分類は極めて密接な関係にあるが、両者を混同して
はいけない。両者の意味をよく理解して分類し、相互関係を注意深く
読む必要がある。
ではなぜ商品分類と売場分類を明確にしておく必要があるのだろう
商品分類
商品分類は商品機能の第
1レベルで分類されるこ
とが多く、商品本位で開
発運営されるアパレル
メーカーとの取引きの基
準として品種、品番管理
の対象となる
か。商品分類は文字通り、MDの基本要素の「何を」にあたる商品(売
買の対象)そのものを分類することであり、売場分類は、MD基本要
素の「どのように」「どこで」に相当する。売場(顧客と商取引を行
う場、空間)の展開方法を分類することである。両者の本質的な違い
は明確である。
ところが、売場はその中に納まる商品を含めて売場であるから、売
場分類即ち商品分類である(商品分類=売場分類)と捉えてしまう危
険性がある。ジャケットはかならずジャケット売場だけにあるとは限
らない。カジュアル売場やライフスタイル売場、ヤング売場にも必要
である。各々の売場にふさわしいジャケットがあっていいのだ。
●商品分類を取り込んだ売場分類
売場分類
売場分類は、顧客優先の
売場づくりが第1に考え
られ、商品管理は売場分
類に沿って考えられるの
が順序だが、管理しやす
い売場は顧客にとってわ
かりやすい売場という場
合もある。つまり商品機
能の第2、第3レベルを
主にしつつも第1レベル
からの見方も無視できな
い
ファッションの成熟化の中で、ますます多様化・複雑化する商品分
類を明確にすることは、つまり「何」を売るのかを明確にすることで
あり、顧客の多様な欲求にあわせた売場づくりの根拠を明確にするこ
とにつながる。
売場分類は、時代とともに変わる顧客の欲求を捉えて、売場という
装置をより効果的に編成するための分類であるが、その最小単位は商
品である。したがって、商品分類が売場分類の中に取り込まれている
163
ことになるので、リテーラーとしては、売場分類を主にしつつ商品分
類もおろそかにできないのである。商品分類は、
商品開発から仕入れ・
販売、商品情報のフィードバック活動の流れを管理する視点が強く反
映する分類で、売ることの最大可能性を追求する売場分類とは使い分
けるのがよい。小型専門店などでは商品分類イコール売場分類で充分
機能しているケースも多い。
両者の役割、性格の違いが仕事を複雑にすると捉えずに、両者を巧
みに操作することで、MD活動の質を確保する方を選択すべきであろ
う。
●分類基準をつくる
商品分類と売場分類をする前に、予め分類基準を作っておくことで
混乱を回避できる。分類基準は、当面の目的である売場づくり(売場
分類)を進める際に、クリアーしなければならない諸々の条件と、あ
るべき売場分類との関係を明確にしながら作業を進めるのに役立つ。
同時に、ショップ・オープン後の日常的なMD管理・運営に当たって、
この基準がスタッフの共通語となってコミュニケーションをスムーズ
にする役目をする。分類基準をMD構築の基本技術の一つとして、参
加スタッフのコンセンサスを取っておく必要がある。
分類基準は多数の要素から組み立てられることになるが、その一つ
一つは商品や売場を分析する視点である。一つの基準(例えばアイテ
ム別分類)だけで分類することもあるが、複数の分類軸が適用される
ことが多い。
百貨店のように多様な客層を対象にし、多様な売場構成をとる
ショップほど、分類基準は多様性を持つことになる。ある部分は用途
別分類軸、他の部分では対象別分類軸に沿って売場分類が行われる。
重要なことは、ショップ戦略が実現するようにそれらが整合性を持っ
て組み立てられることだ。
より基本的な全体構造を決定する分類軸と、細部を決定する分類軸
を目的に応じて使い分け、体系づける必要がある。
あるショップにとっ
ては全体構造を決める重要な分類軸が、別のショップにとっては、細
部を決定する優先順位の低い分類軸である場合もある。
分類基準は、生活者の欲求基準とシンクロナイズするよう組み立て
られる必要があり、その売場に相応しい分類軸を特定することが、
ショップづくりMDの基本なのである。
3 マーチャンダイジング計画構築のプログラムづくり
ショップづくりにおいて、マーチャンダイジングは中・長期的展望をもっ
164
て構築され、基礎工事的要素ほど大事にされなければならない。
ショップ・
オープンまでの準備期間の活動は、そのままそのショップMD構築の方
法・技術としてオープン後のMD運営に適用されることになる。その意味
で、どのようなプロセスでMD計画が進められたかということが、MD計
画の質を決定するばかりでなく、オープン後のMD運営の水準を左右する
重要なことなのである。とかく目的意識が先行して、活動のプロセスを大
切にする意識が希薄になりやすいので、事前にMD計画構築の精密なプロ
グラムを作っておく必要がある。
MD構築は、情報収集・分析やMD技術に対する基本認識を充分に深め、
参加するスタッフ同志や組織を横断するコミュニケーション活動を行う中
で形成されるものである。役割分担を明確にし、作業相互の連動性を大切
にして時間や人の管理がスムースに行われなければならない。各作業段階
で必要な決済を取りつけなければ活動は中断されることになりかねない。
緻密なプログラムを持っていても、ベースキャンプと、頂上アタックのた
めの最終キャンプの間を繰り返し行き来しながら頂上を目指す登山に似て、
2度3度計画を練り直すこともよくあることである。
MDプログラム
MDプログラムの内容は
ショップづくりの運営・
管理の質を決定する。単
なるスケジュール表のレ
ベルを越えて、ショップ
づくりのプロジェクト運
営に必要な全ての作業的
要素を、ヒエラルキーを
持たせてインプットし
て、作業の全体系として
構築するべきだろう
だからなおのこと精密なMDプログラムを作成し、
「いつ、誰が、何を、
しなければないか」を明確にし、事前に「どのような方法で準備し、決定
するか」をプログラム化しておかないと、地図を持たずに登山するのと同
じことになる。チームワークの効果を上げるためにも質の高いプログラム
が欠かせない。以下にMD計画構築のプログラムづくりの留意点を上げて
みよう。
① 目標を絶えず明確にする。全体目標、特にMD計画においてはマー
チャンダイジング戦略に対応する目標設定を明確にし、部分的な目標
もその都度はっきりさせる。
② 思想と現実のギャップを埋める努力をする。自己能力の限界を知り、
目標達成のための手段を広い視野で探す。
③ 計画書の表現方法を工夫し、数値化、図表化、またはフォーマット
づくりで、シンプルで理解しやすいものにする。プログラムのどこで、
どのような方法を取るのか予め研究する。(計画の主旨がトップから
現場の末端まで理解できる内容にするのが理想)
④ ショップづくりの経験者は少なく、スタッフの中にいないケースも
よくあることだ。MD計画構築に参加するスタッフは、ショップオー
プン後もショップ運営のキーマンになることも多い。それだけに人材
育成やMD技術・システム確立のよい機会として捉えて、MDプログ
ラムとそれに関連した方法をこの機会に開発する。
⑤ 従来の企業体質・既成事実からの脱皮を計り、時代の新しい価値認
識を徹底し、質的転換を計ることのできるプロジェクト推進のための
165
プログラムづくりという視点をもって取り組む。ショップづくりの運
営プロセス自体が、ショップづくりの理想的姿勢を反映したものにし
たい。
⑥ 限られた時間、限られたフタッフでやる仕事だから、エネルギーの
配分を充分考えたプログラムにすべきだ。充分時間をかけるべきとこ
ろはかけ、準備期間を大切にする。つまり、作業のヒエラルキーを明
確にし、最も大切にする部分、次に大切にする部分、切り捨てる部分
を明確にする。プログラムの管理者(普通はリーダー)は実際の運営
に当たって調整する。
⑦ 計画作成の期間中にも市場の状況は変化している。計画のスタート
時にオープン時の市場動向、取引先状況などの変化を、中間的または
最終的段階で調節する余裕を持つことだ。
4 商品分類
1 商品分類と商品分類基準
商品分類は商品をある基準で分類することだが、その基準となるものは
商品の機能(第4章2節 ファッション商品と売場参照)である。商品の
基本的機能(デザイン、品質、価格など)だけでなく、周辺的要素(商品
の生まれてくる背景、消費される時の価値基準、流通背景など)も商品分
類の基準となる。
実戦的な商品管理のための分類として必要な商品分類も、立場や状況に
よっていろいろな選択肢が考えられる。生活領域(生活シーン)、ライフ
スタイル、ライフシーン、マインド、テイスト(トレンド性)
、グレード、
記号性、サービス性、実用性、機能性、装飾性、流通形態、消費量、ストッ
ク度、ライフサイクル、実績度、ギフト性、気候性、ターゲット、アイテ
ム、デザイン、クォリティ、サイズ、素材、色、柄、など商品選別の基準
になる要素はすべて商品分類の基準になり得ると言ってよい。
しかし現実的で実用的な商品分類を考えると、「商品分類と売場分類」
で記したように、売場分類との違いをふまえながらも連動性を持たせる必
要上からある程度集約されてくる。その主たるものは、
■アイテム分類
■マインド(ターゲット)別分類
■テイスト(ファッション度)別分類
■グレード別分類
■感覚別分類
2 基本的商品分類(アイテム別分類)
アイテム分類は商品分類の最も基本的なもので、通常商品名はアイテム
166
(服種)名に沿って名づけられることが多い。
■ドレス
■スーツ
■コート
■セットアップ(メンズ・ジャケット&スラックス)
■スラックス(メンズ)
■ブラウス(メンズ・ドレスシャツ)
■カジュアル・ジャケット
■ブルゾン
■パンツ
■スカート
■カジュアルシャツ
■ニットコーディネート
■セーター
■ホームウェア
■ナイトウェア
■アンダーウェア
■レッグウェア(ソックス・ストッキング)
■スカーフ、マフラー、ショール
■ハット、キャップ
3 単品MD分類基準
単品MDはアイテム分類に従って配列されることが多い。次にあげるも
のは、アイテム分類をさらに細分化していく時にどのような分類基準が考
えられるかを、単品MD計画に即して構成したものである。ここには様々
な基準が出てくるが、その一つ一つは商品分類基準ともなるものである。
また1アイテムを分類する際、分類基準の各々を線で継いだ商品が考えら
れるということであり、1商品の位置づけや性格を捉えようとすると、こ
れだけの要素(これがすべてではない)があるということでもある。単品
MDの展開には、アイテム分類を基準にした商品分類の方法が典型的に表
れるのである。
167∼168
図表12 単品MD分類基準
分類基準 対 象 ファッション グ レ ー ド
1
2
3
4オケージョン 5ル ッ ク ス 6テ
アイテム
(マインド) 意識(テイスト) (価 格)
・ティーンズ
・アドバンスト ・プレステージ ・フォーマル
・ヤング
・コンテンポラ ・ベター
・ヤング・アダ
ルト
・アダルト
・マチュア
・シニア
リー
・コンサバティ
ブ
・オフィシャル ・トラッド
・ミディアムベ ・アフター5
ター
・モデレート
・バジェット
・ベーシック
・カントリー
・タウンカジュ ・エレガンス
アル
・イタリアン
・シティカジュ ・スポーツ
アル
・アト・ホーム
仕 入 ・ 開 発
マ 7ブ ラ ン ド 8
9ス タ イ ル 10 色
形態
・リゾート
・エスニック
・スポーツ
①東洋調
13サ
イ
ズ
・レギュラー・
・デザイナーズ ・自主開発
各アイテムごと ・白
・布帛
・無地
・シーズン性
・キャラクター ・共同開発
に特徴づけられ ・ パ ス テ ル ・
・綿
・無地柄
たデザイン名称
(薄手←→厚手) ・杢(含ミック ・フリーサイズ
・ライフシーン
ズ
・モチバーショ ・インポート
ン
・その他
応して創造さ
ブ
11素 材 12 柄
・トレンド
・ライセンス
・NB(国産)
・ニューウェイ ・市場状況に対 ・PB
れるテーマ
・自主編集
トーン
・FC型
・モノ・トーン ・シルク
・直営テナント
・ナチュラル・ ・ウール
ス)
・ストライプ
(薄手←→厚手) ・チェック
トーン
・ビビッド・
トーン
・麻
(大←→小)
・獣毛(混)
・モチーフ
・ダーク・トー ・ヨコ
・カットソー
ン
(大←→小)
サイズ
・イレギュラー
・サイズ
・キング・サイ
ズ
・トール・サイ
ズ
・スモール・サ
イズ
②アジア調
・ブルー系
③北欧調
・ブラウン系
④トロピカル
・グレー系
ズ基準による
調
・トラッド基本
細分化
⑤アフリカ調
⑥南米調
etc.
ー
色
etc.
・その他のサイ
169
4 マインド・テイスト別商品分類
マインド
意識年令のこと。顧客分
類を年令的要素を基準に
分類する場合、実際の年
令(実年令)で分類する
だけでは、同一年令でも
若い気分を大切にする
人々と成熟した大人の気
分を大切にする人とでは
志向するファッションが
違うというニュアンスを
表現できない。そこで意
識年令を採用することが
多くなっている
テイスト
本来は商品のテイスト(味
わい、感性)を表わす言
葉だが、同一マインドの
顧客の中にもトレンドや
時代に対する感性によっ
て階層ができることか
ら、3∼4段階に区分し
て市場や商品の細分化の
基準にしている
まずマインド別のグルーピングを行う。通常マインドとはその年令層別
の共通した、あるいは代表的な気分を表すものとし、ここでは5つの区分
けとする。ティーンズ、文字どおり10代であるが、主に中、高生のマーケッ
トを意味し、14∼17才と想定することができる。同じように、18∼24才を
ヤング、25∼34才をヤングアダルト、35∼40才をアダルト、50才以上をシ
ニアと想定する。そして、この区分けを百貨店の各フロアー別構成と考え
ると分かりやすい。
次に、各マインド(各フロアー)の商品(ブランド)を近いテイストご
とにグルーピングし、基本的な集積を図る。テイストとはそのブランドの
商品群が内包する代表的性格、あるいはイメージと考える。先に述べたよ
うにブランドにはおのおの2つと同じではないテイストが存在するといえ
るが、ここでは大きく3つに区分けする。クリエーターの先鋭的な感覚を
前面に押し出したトレンディーなブランド群をアドバンスト、トラッド等
に代表されるようなオーソドックスで比較的変化が少ない保守的なものを
コンサバティブ、それぞれをほどよく取り込んで、今日的時代感覚とした
ものをコンテンポラリーと想定する。
以上に、横軸にティーンズ、ヤング、ヤングアダルト、アダルト、シニ
アのマインドをおき、縦軸にアドバンスト、コンテンポラリー、コンサバ
ティブのテイストをおいたマトリックスが完成する。百貨店を想定した場
合、マインドをフロアー、テイストをゾーンと置き換えるとおおざっぱな
ゾーニングが設定出来よう。
それでは実際どのようにしてブランドを落とし込んでいくのか、いくつ
かの例を上げて説明してみよう。
婦人服のヤングアダルトフロアーを設定したとして、若々しい感性と質
感を兼ね備えたブランド群がピックアップされよう。しかしながら、それ
らをただ羅列しても全く整理のつかない売場となってしまう。そこでテイ
スト分類を行う。アドバンスト−パリコレ等で常に革新的話題をふりまく
クリエイティブなブランド、コムデ・ギャルソンやジャンポールゴルチェ
…コンテンポラリー−トレンド性をほどよく取込み、あらゆる面で今日的
バランス感覚を持ったブランド、J&R、マックスマーラ…そして、コン
サバティブ−比較的オーソドックスで奇をてらわないブランド、アンクラ
インⅡやミスクロエ…があげられよう。以上は分かりやすい一部の例であ
る。
実際はその他いろいろな要素がからみ、より複雑であるが、大体このよ
うな考え方でマインド・テイストによる分類を行うことが出来る。
170
図表13 マインド・テイスト別商品分類
マインド
テイスト
ティーンズ
・ビバユー
・アツギ・オ
アドバンスト
オニシ
・ハニーハウ
ス
ヤ ン グ
・コムデギャ
ルソントリ
コ
・モスキーノ
リー
アダルト
シ ニ ア
・マダムジョ
・ジバンシー
アダルト
・コムデギャ
ルソン
・J・Pゴル
チエ
・ケンショー・ ・ロメオ・ジ
アベ
コンテンポラ
ヤ ン グ
リ
・スクープ
・アニエスb
・J&R
・アトリエ・
・エヴー
・ア ル フ ァ
サブ
・ロペ
・ジュンコシ
キュービッ
コンダ
・ソ ニ ア リ
ク
マダパート
・マ ッ ク ス
Ⅱ
マーラ
・ミラショー
ン
キュエル
・レリアン
・C・オジャー
ル
・イースト
ボーイ
・マカフィー
・キャビン
コンサバティブ
・シップス
・ミスクロエ
・バーバリー
・マーサ
・ニューヨー
・アンクライ
・森 英恵
・トーキョー
カー
・トウモロー
ランド
ンⅡ
・ディオール
サン
・ユナイテッ
ドアローズ
・オ ッ ク ス
フォード
・ラルフロー
レン
5 マインド・グレード別商品分類
グレード
生活レベルや価格を基準
にした分類軸
グレードとは質のレベルのことである。また端的にあらわれるのはその
ブランドの持つ価格帯ということもできる。
グレードは憧れ性の強いプレステージから、ベター、モデレートそして
比較的低い価格帯のバジェットまで大きく4つに分ける。マインドと考え
合わせると、全体に若いゾーンほど低いグレードよりとなり、高年令ゾー
ンに向かうほどグレードアップがなされるということができる。
171
図表14 マインド・グレード別商品分類
マインド
グレード
ティーンズ
ヤ ン グ
アダルト
・エンポリオ
・アルファー
アルマーニ
キュービッ
・インスクリ
プションリ
プレステージ
ヤ ン グ
キエル
ク
アダルト
シ ニ ア
・C・ラクロ
・ミラショー
ワ
ン
・シャネル
・ジバンシー
・ソニアリキ
・マーサ
・コムデギャ
ルソン
・ダナキャラ
ン
G・アル
マーニ
・ビバユー
・ジュンコシ
ベ
タ
ー
・ラルフロー
レン
マダパート
・アニエスb
Ⅱ
・ビームス
・J&R
・アンクライ
ンⅡ
・ミスクロエ
・アトリエ・
エル
・コルディア
・レリアン
・マダムジョ
コンダ
サブ
・C・オジャー
ル
モ デ レ ー ト
・ベネトン
・シップス
・ノーリーズ
・サンジョア
・ゲルラン
・クリークス
・ノーマカマ
・グランヤマ
リ
・キャビン
バ ジ ェ ッ ト
・オクトパス
アーミー
サン
キ
VIVAT
メロウ
・ポピニレー
・ジ ェ ラ ー
ル
・トーキョウ
ル・ダレル
・パートネル
・リメーヌ
172
図表15 テイスト・グレード別商品分類(紳士服の場合)
173
6 感覚別商品分類
昨今はマーケットの空白を狙い撃ちした様々なブランドが出現してきて
おり、それに伴い感覚分類も複雑化する必要が出てきた。とくにカジュア
ル分野においては非常な細分化がなされてきている。ここに上げた分類図
の軸の取り方はモダン←→クラシック、エレガント←→スポーティだが、
トレンド傾向やショップの位置づけまたはアイデンティティ表現の都合に
よっても変えることができる。
感覚別商品分類は、対象とする商品やブランドの感覚上のポジションを
明確にすることで、市場ニーズを把握し、自店のMD戦略に的確に位置づ
けることができる。
図表16 感覚別商品分類
モダーン&アドバンス
ヨーロピアンアドバンス クリエーターズ
G・ベルサーチ C・ギャルソン
C・モンタナ JP・ゴクチエ
フレンチカジュアル トランスカジュアル
エブー ジルボー
アニエスb モスキーノ
エ レ ガ ン ス & フ ェ ミ ニ ン
ヨーロピアンPOP
& フ リ ー
ス ポ ー テ ィ
ベネトン
セクシーエレガンス A・マヌキャン
J・シマダ ナフナフ
ピンキー&ダイアン
ミラノシック ミッシーカジュアル
G・アルマーニ ノーマカマリ
キャリアエレガンス
マックスマーラ バレンザポー
J&R ジーンズカジュアル
F・ジョイナー
A・キュービック GAP
C・オジャール ニューヨークキャリア リミテッド
ダナキャラン
オーセンティックトラッド
クラシカルエレガンス アンクライン
ラルフローレン
シャネル
J・プレス
マダムジョコンダ
ジャパニーズトラッド
シップス
ビームス
クラッシック&ベーシック
174
7 その他の商品分類基準
その他の商品分類基準には以下のものがある。
■色・素材・スタイル・柄、サイズを基準とするもの
■ルックス(またはライフスタイル)を基準とするもの
■モチベーションを基準とするもの
■MD戦略上の位置を基準とするもの
■商品のライフサイクルを基準とするもの
■仕入形態別の基準
これらの商品分類基準は、売場分類基準にもなるものであるが、必要に
応じて商品分類に利用すればMD計画やバイイングに便利である。
単品MD分類基準に倣って一覧表をつくり、ショップの共通言語にする
とよいだろう。市場動向は分類基準に反映するので、相互関係を見続ける
ことが大切である。
5 売場分類
1 売場分類の意味
●解りやすく、買いやすく、魅力のある売場分類
顧客のために、どのような商品で充たされた、どの様な売場を作る
かということは、アパレルリテールにとって最も重要な中心課題であ
る。
顧客の価値観が激しく変化し、競合関係も流動する中で、その時
代々々に即応した売場創りによる新たな対応が迫られるが、中でも、
いかに売場を構成(売場分類)するかという点が重視される。
売場分類は、ショップの基本思想やマーケティング戦略、MD戦略、
MDコンセプトに沿って、どの様な売場を構築するかを考え、そのた
めに必要で充分な構成要素を案出して、当初の目標に相応しい分類を
つくる作業である。
具体的なプランニング作業については、後述の「マーチャンダイジ
ングの基本計画」にゆずるとして、この項では、事前に認識しておく
べき事項や準備しておかなければならないことについて記したい。
一口に売場分類といっても、実に複雑で多様な要素を持っている。
その代表的な実例は百貨店である。売場構成は、できるだけ単純明快
にして、顧客が解りやすく、買いやすい分類にすべきだが、いざ分類
作業に取りかかると、単純では魅力に欠けやすいことに気がつくであ
ろうし、多様な要素を一つの基準だけで分類しきれない場合があるこ
とも解ってくるだろう。スケールが小さく、ターゲットを絞り込んだ
専門店なら別だが、大型店になるほど、分類は一元的で単純なもので
175
はなく、階層的で、入れ子細工のように入り組んだ構造になることも
多いのである。
●顧客第一主義の売場分類
しかし、どんなに複雑で多様な要素で構成されようと、その根本は、
「顧客第一主義」が貫かれていることが何よりも重要である。顧客が
来店し、商品を選別・購入する現実の買い物行動を想定し、顧客ニー
ズやウォンツに合わせた解りやすく、買いやすく、魅力のある構成(分
類)を考えたい。
ショップ側の管理・運営上の都合も無視できないが、先ず顧客優先
の姿勢が大切だ。また、多様な顧客ニーズに対応する理由で細分化が
行き過ぎて、繁雑で解りにくく、パワーに欠ける売場を作り出さぬよ
う注意しよう。
売場分類は、分類のための前提条件(基本思想∼MDコンセプトな
ど)を、どれだけ反映できたかによってその質が決まってくる。分類
のための分類、根拠のない分類にならないためにも、前提条件との相
関性を絶えず問題にしながら、作業を進めるのがよい。
2 分類マーチャンダイジング
●売場を秩序ある体系に分類する方法
「マーチャンダイジングは分類である」ことを最も端的に表すのが、
分類MD
分類MDの方法は、ショッ
プづくり計画の方法であ
るばかりでなく、競合店
調査においても利用でき
る。調査対象のショップ
を分類MDに従って配列
し、そのMD構成を自店
のものと比較検討してみ
るとよい
「分類マーチャンダイジング(分類MD)
」である。
「分類MD」は、
売場を段階的な分類方式を用いて、秩序ある体系に分類する方法であ
る。売場分類を進めるに当たって、前もって一定の分類方式を定めて
おく必要がある。多様で複雑な売場構成要素が、秩序だって配列され
ることによってはじめて、全体戦略に対応した設計になっているかど
うかを検討できる。
専門店の中でも、アイテム・ショップやシングルライナーなどの売
場分類は、単純で一面的だが、百貨店などのように、大小の価値の違
う構成要素が互いに関係しながら、重層的、構造的なものになる場合
は、特に予め分類方式を決めておかないと混乱する。そこで、全体構
造を決定するような大きな構成要素から、細部の構成要素まで、秩序
ある分類方式で体系づけてMD計画を進める分類MDを採用するので
ある。これは単に売場を分類するということにとどまらず、売場に配
列される商品の分類まで含めた、売場の全MD体系を作ることであり、
ショップのMD運営の基礎になる方法である。
●分類ポジションによって意味づけが違う売場
分類MDにおける分類作業の目的は、何よりも、顧客の満足度を高
める分類をどうしたら確保できるかという点にある。相互関係を計り
ながら、顧客の満足度を高めることに貢献する構成要素に、より上位
176
の分類ポジションを与えることが大事であり、各構成要素は、そのポ
ジションによって各々意味づけられる。そして、後日、生活者ニーズ
の変化、トレンドや実績評価によって検証され、MD戦略を修正する
必要が起こってくる場合にも、この分類MDの方法によって作業が進
められるのである。
分類MDは、売場全体を大分類、中分類、小分類、細分類と順を追っ
て分類してゆく方法をとる。大分類は、いくつかの中分類から、中分
類はいくつか小分類から、小分類はいくつかの細分類から成るピラ
ミッド型の体系をつくるのである。
■ 大分類
売場全体を、まずはじめにいくつかの最も基本的な要素に分類す
るのが大分類である。
その分類は、対象顧客別、生活領域(生活シーン)別、ライフス
タイル別、アイテム別、商品テイスト別などの基準で分類されるが、
業態や店のスケール、ショップ・アイデンティティ、競合戦略によっ
ても異なったものになる。必ずしも一つの基準で分類されるとは限
らない。生活領域別と対象年齢別、グレード別とアイテム別など複
数の基準が使われることも多い。百貨店など大型店の場合には、街
区発想(大分類を1つの街として捉える)やワールド発想(1つの世
界の表現)をすることもあり、売場を5∼7の街区に分けることで、
顧客が全体の構造を解りやすく、変化に富んだ分類にするのである。
この方法は、大分類間の差異を環境表現で明確にすることになり、
効果的だ。大型専門店では、フロアまたはそれに準ずるエリア別分
類がこれに相当する。大分類は最も端的に、そのショップがどのよ
うなショップであるか、どのような領域の商品を売ろうとしている
のか、が解る分類である。多くの場合は、その業態の売場分類のパ
ターン(これもいろいろだが)をベースにして分類することが多い
が、大分類レベルで差別化が行われると、そのショップの個性はか
なり明確に表現されることになる。また、大分類ごとに販売やMD
の役割り分担を決めて管理・運営することも多い。
■ 中分類
中分類は大分類を構成し、MD操作の基本単位になることが多い。
売場の基本単位とは、売場の中で、他とは異なる区別された売場を
形成し、そのMDの中味は共通する要素で編集されていて、MDの
管理・運用上基本的な単位として取り扱うことのできるものを示す。
たとえば、百貨店におけるワイシャツ売場は、独立した売場を形
成し、MDの基本単位である中分類として分類されているケースが
多く、その中味は、ベーシック・タイプ、クォリティ・タイプ、ト
177
ラッド・タイプなど、ワイシャツという共通要素(小分類)で構成
されている。他の中分類と同調しながらも、独自のコンセプトと商
品戦略を持って管理・運営されている。(大分類がアイテム区分に
なっている小型専門店では、ワイシャツ売場は大分類で、これが基
本単位である)
MDの戦略策定は、中分類単位を中心として行うことが専門的な
運営を促し、より多くの効果を上げることになるだろう
■ 小分類
中分類を一つのショップとすれば、小分類は各コーナーに当る。
中分類のコンセプトにしたがって、それに相応しい必要充分な小分
類を抽出する。小分類の構成力が中分類の質を決定することになる。
小分類は、顧客ニーズ、ファッション・トレンドがストレートに反
映するところでもあり、シーズンごとにアレンジする必要も出てく
る。
図表17 分野マーチャンダイジングの分類方法
ショップフロア
大分類(第1分類)
中分類(第2分類)
小分類(第3分類)
小分類 I−1−①
中分類 Ⅰ−1
小分類 I−1−②
小分類 I−1−③
小分類 I−1−④
小分類 I−2−①
大分類 Ⅰ
中分類 Ⅰ−2
小分類 I−2−②
小分類 I−2−③
小分類 I−3−①
小分類 I−3−②
中分類 Ⅰ−3
小分類 I−3−③
小分類 I−3−④
売場全体
小分類 I−3−⑤
小分類 Ⅱ−1−①
中分類 Ⅱ−1
小分類 Ⅱ−1−②
小分類 Ⅱ−1−③
小分類 Ⅱ−2−①
大分類 Ⅱ
中分類 Ⅱ−2
小分類 Ⅱ−2−②
小分類 Ⅱ−2−③
小分類 Ⅱ−2−④
小分類 Ⅱ−3−①
中分類 Ⅱ−3
小分類 Ⅱ−3−②
小分類 Ⅱ−3−③
178
図表18 分類マーチャンダイジング・単品売場実例
大 分 類 中 分 類 小 分 類 細 分 類
イ ン ポ ー ト ・ ニ ッ ト
ターゲットを明確にし
ニット・ブティック ミ セ ス ・ ベ ター・ニット たニット・トータル展
開
ミッシー・ベター・ニット
キャクラター別
エレガンス・タイプ
セーター&ブラウス セ
ー
タ
ー ベーシック・タイプ
スポーツ・タイプ
その他テーマ
キャラクター
ブ
ラ
ウ
ス エレガンス
ベーシック
婦 人 服 ク オ リ テ ィ ・セーター・ 素材別・デザイン別
単品売場 ブラウス (カシミヤ・シルクなど)
・価格別
シ ャ ツ シ ャ ツ ・ バ ラ エ テ ィ
・デザイン別
・デザイン別
ベ タ ー ボ ト ム ス
・素材別
ボ
ト
ム
ス
モ デ レ ー ト ・ ボ ト ム ス
ミ セ ス ・ コ ーディネート ・コーディネート・
パターン別
ニ ッ ト & ブ ラ ウ ス
ミッシー・コーディネート ・コーディネート・
コ ー デ ィ ネ ー ト
パターン別
プ
ラ
イ
ス
M
D ・デザイン別・素材別
■ 細分類
小分類がコーナーだとすれば、細分類はそれを構成するさらに細
かい品揃え単位であり、色、柄、素材、サイズなど、より商品に即
した基準が考えられるが、細分類においても、顧客の欲求を抽出し、
ニーズに応える緻密に工夫された分類が必要であり、これによって
顧客の反応は違ったものになる。
3 売場分類基準づくり
 分類基準によって変わる売場分類
分類MDの方法に基づいて、売場を案出・構成する際に、顧客の満
179
足を勝ち取る、より効果的な売場分類の基準を探しだし、これを当て
はめて売場を構成していく。
「何を基準にして売場を分類するか」によって売場は大きく変化す
る。商品の配列もそれによって大きく変わる。売場づくりの意思は、
その売場を分類する基準の選択に明確に現れる。分類MDの実質を決
めるのは売場分類基準である。
分類基準
ショップは謂わず分類の
網の目で被われていると
言えるだろう。どのよう
なショップでも複数の分
類基準によって構成され
ている。魅力あるショッ
プは、そのショップの持
ち味を生かした巧みな分
類基準を採用して売場づ
くりと商品配列を行って
いる
分類基準を用意せずに、またその認識が浅いまま分類作業に取りか
かると、従来の価値観による習慣的分類に陥りやすく、また、他の分
類基準を利用することによる可能性に気づかずに、作業を進めてしま
うことになりかねない。店づくりは終始共同作業で進められるのが通
常である。コミュニケーションを正確にするために、多数の専門用語
の概念を明確にし、方法を考え、基準を設けておかなければならない
が、この点からも分類基準作りは欠かせない作業である。
売場分類基準は、基本的には対象顧客(マインド、テイスト、グレー
ド)とそのライフスタイル、及び商品特性(アイテム、用途、デザイ
ン、ブランド)に直接関わるものになるが、これ以外にも多岐に渡る
分類基準が考えられるので、分類基準そのものを分類整理して、どの
様な使い方をするか、予め検討しておいたほうがよい。
分類基準の使い方は、売場によって千差万別であり、一定のパター
ンを抽出するのは不可能であろう。その店の思想やコンセプトに最も
相応しい、独自の分類基準を開発することが、ユニークなショップ・
スタイルを創り上げることに通ずる。
 売場分類規準と分類マーチャンダイジング
売場分類の基準(分類軸)には様々なレベルや切り口が考えられる
が、分類マーチャンダイジングの方法に適用される分類軸であるから、
分類上のヒエラルキー(大−中−小分類)を考えることが重要になっ
てくる。
このことは、店のスケールや戦略、MDコンセプトによって大きく
変わるので一概に言えないが、少なくとも、顧客第一主義を貫く大型
店を中心に考えるならば、
・対象別分類(ヤング、ヤングアダルト、アダルト、シニア)
、
・用途別分類(ビジネス、カジュアル、リゾート&スポーツ、ギフト)
は、より上位に考えられる分類である。まず「誰に売るのか」を明
確にし、次に「どのような生活領域の商品を扱う店なのか」を考える
のが順序だからである。
・アイテム別分類(スーツ、コート、ジャケットetc)
、
・ライフスタイル分類(トラディショナル、ヨーロピアンetc)
、
も大、中位に位置づけられることが多い。
180
・テイスト別(ファッション度別)分類(アドバンスト、コンテンボ
ラリー、コンバティブ)
・価格別分類(プレステージ、ベター、ボリューム)
も重要で、第一分類のための分類軸として、
高感度ファッションゾー
ンやプレステージゾーン形成に当てはめることがよくある。
そ の 他 、・ ブ ラ ン ド ・ キ ャ ラ ク タ ー 別 分 類
・商品の属性的要素である色・柄別、素材別、デザイン別、
サイズ別
などの分類軸が考えられるが、分類基準としては、二次的要素が強
く、小分類、細分類で使われることが多い。
対象顧客が一本に絞り込まれた店なら、対象別分類軸を設ける必要
はなくなる。カジュアルショップであれば、用途別分類は一段下りた
ところで把えて、カジュアルのシーン別の分類軸を設定することにな
るだろう。しかし、現実には、様々なケースが考えられる。どの分類
を優先するかはあくまでケース・バイ・ケースで違ってくる。
図表19 スーツ専門店の場合
大分類(アイテム別分類)中分類(対象別分類)
ヤング
ス ー ツ 売 場
アダルト
ヤング
ジャケット売場
アダルト
ヤング
A の 場 合 スラックス売場
アダルト
ヤング
ワイシャツ売場
アダルト
雑
貨
売
場 ヤング
(ネクタイなど) アダルト
大分類(対象別分類)中分類(アイテム別分類)
スーツ
ジャケット
ヤング
スラックス
ワイシャツ
B の 場 合
雑貨(ネクタイetc)
スーツ
ジャケット
アダルト
スラックス
ワイシャツ
雑貨(ネクタイetc)
181
たとえば、仮にスーツ・重衣料専門店であっても、スーツだけで構
成されることはほとんどない。現実にコートもあれば、ジャケット、
スラックス、ワイシャツ、ネクタイも導入される。そこで、アイテム
分類はどこかで必要になるのだが、アイテム分類で売場を分ける
(図・
Aの場合)のではなく、まず、ヤングとアダルトの売場を分けたいと
いう戦略なら、対象別分類は第一分類(大分類)に適用され、アイテ
ム分類は第二分類(中分類)になる。ヤング売場の中のアイテム分類
+アダルト売場の中のアイテム分類として適用される(図・Bの場合)
ことになる。
百貨店などの大型総合店で適用される中・小分類軸が、専門店では、
大、中分類軸となるといったケースはよくあることで、小規模店であ
れば、大規模店で使われる小分類軸が大分類軸になる可能性は高くな
るだろう。
4 生活者のライフスタイルをフォローする、生活領域を基準にした分類
●生活領域別分類は最も基本的な分類軸
顧客を特定するファッション・ビジネスの原則(たとえば、顧客を
特定しないオール・ターゲットが店の戦略であっても)からして、対
象別分類軸は、まず第一に考えられなければならないが、対象顧客の
生活意識や生活行動が重要なので、生活領域別分類軸は最も基本的な
分類軸と考えてよいのではなかろうか。
人々の価値観が仕事中心から移行して、生活の幅が広がり、生活領
域ごとの成熟度が問われる時代であるがアパレルリテールも生活領域
別の充実したモノ、コト、サービスを提供する姿勢を強くする必要が
ある。
人々の個性化欲求は強く、これに対応したアパレルリテーラーの市
場細分化戦略による多様な対応も限界にきている状況だが、この様な
時代にも生活領域を基準にした分類軸を設定すると便利である。世代
や性別、ライフスタイルは違っても共通して使用できるからだ。生活
領域別分類は、用途分類とも重なり、更に細分化すれば、生活シーン
別分類となり、モチベーション別分類とも重なるので、構成の仕方に
よってはかなり厚みのある内容のものができるだろう。
●生活領域別分類の方法
生活領域を、公的、社会的、ビジネス的方向性とプライベートで、
よりアクチュアルなDOスポーツ的な方向性の両極の中で、生活シー
ンやモチベーションを加えて細分化していく。さらに実用的なものに
するためには、生活領域別分類を基本軸とし、これにマインド(対象
別)
、テイスト(ファッション度)
、グレード(生活レベル、商品価格別)
、
アイテムなどの他の分類軸を交叉させて立体的なものに構成するのが
182
よいだろう。
この生活領域別分類によるマトリックスは、生活者の全生活領域を
カバーする百貨店から、限られたある領域を対象とする専門店にとっ
ても利用できるはずだ。たとえこれが直接売場分類に結びつかなくと
も、ファッション・ビジネスは、「顧客がどのような生活のために、
どのような売場で、何を買いたいと望んでいるか」を考えることが基
本であり、それを具体的な図で表現し、各種の顧客情報をインプット
することによってマーチャンダイジングの拠り所にすることができる
だろう。
図表20 生活領域別分類表
off time
生活領域
スポーツ
分類基準
生活シーン&モ
チベーション
①
対象別ター
ゲット別
②
③
テ イ ス ト 別
アドバンス
ト
アップトウ
ディテッド
コンサバ
ティブ
グ レ ー ド 別
ベ
タ
ー
ミディアム
ベター
モデレート
メインアイテム
リゾート
ア ト ・
ホ ー ム
on time
シティ・
カジュア
ル
アフター
オ フ ィ フォーマ
5
シ ャ ル
ル
183
5 百貨店にみる基本的な売場分類と今日的売場分類
日本のアパレルリテールにおける売場分類の進展を見るには、百貨店を
例にとるのが解りやすいだろう。
百貨店の売場分類の歴史は、市場の変化と、それに対応してきた売場分
類技術史ともいうべき流れを形成している。各々の時代の売場分類は、試
行錯誤しながら、その時代の生活者のニーズを売場という形に還元して実
績を上げてきたマーチャンダイジングの方法論の表現になっている。
売場分類の何が基本的で、何が今日的であるかを考えるとき、当然その
歴史的背景を無視するわけにはいかない。過去と現在というタームで捉え
ることにならざるを得ないようだ。この項は、基本を踏まえて今日を理解
し、未来にどのように対応するかを考える手がかりを得るためのものとし
て設けている。
現実には、今から10年前の売場分類で営業していると思われる百貨店も
あれば、5年先にも通用すると思われる売場分類を採用している百貨店も
あるかもしれない。つまり、
80年代に入って盛んになった百貨店のリニュー
アル競争を経た今日、売場分類は地域や店舗の規模、店のポジショニング
によって異なり、現在の中に、過去も未来も混在しているともいえるので
ある。ここでは、今日的時代対応意識で作られた売場分類と、比較検討し
やすい過去(ほぼ70年代までを考えればよい)の基本的売場分類というス
タンスで捉えることにしたい。
●基本的売場分類と今日的売場分類の違い
基本的売場分類と、今日的売場分類の仕方の違いの主なものを上げ
ると、以下のようになる。
① 成長・巨大化(絶対面積の拡大)の中の売場分類の多様化
売場を増やすためには、大勢の顧客動員を図らなければならない
が、旧来型の売場分類で面積を拡張し、商品量を増やしただけでは、
目的を達成できない。
そこで、市場の細分化傾向を反映させて、売場分類を多様化して
きた。このことは、大分類の数を比較すると明らかである。
② 業種・品種・品番管理発想の分類(モノ分類の一元的発想)から、
ヒト
顧客中心の発想(顧客+コト+モノによる多元的発想)分類へ
基本的売場分類の大分類は、紳士服、洋品、カジュアル、雑貨と
いった品種、品番を基準にした分類であり、中分類も当然これに準
じている。これは、ファッション市場が成熟化する以前の分類方法
で、服(モノ)そのものの物性で売場を分類しているのである。そ
こには顧客分類の発想がみられない。
80年代に入って、顧客中心の発想が浸透し、顧客の購買意識や生
活ニーズを研究するようになって、顧客から見た商品の意味づけを
184
基準にする業態・品態的発想が重視されるようになり、分類基準は、
個性化、専門化、多様化している。
③ 生活領域・生活シーンの視点を明確にした分類の方向へ
アイテム中心から、トータル・コーディネーションを提案する売
場づくりに価値が置かれ、今日では、生活者のライフスタイルやラ
イフステージを前提とした売場づくりの時代に入っている。顧客の
生活への高い関心に対応するために、生活領域や生活シーンを基軸
にした売場分類を重視するようになった。
④ ターゲット・セグメンテーションによる顧客の顔の見える分類
顧客中心の店づくりは、「だれのための売場か」を絶えず明確に
する売場分類を要求する。顧客の顔の見えない売場分類は、存在理
由なしと見られるようになってきた。
紳士フロアのターゲットを例にとると、過去のヤングとアダルト
という未分化の時代から細分化し、ティーンズ−ヤング−アダル
ト−ヤングアダルト−シニアというのが常識になっている。さらに、
このマインドにファッション意識(テイスト)やグレード軸を掛け
合わせて、より細分化が計られている。今日では1つの売場を作る
ために、ターゲットの職業や生活感性まで問題にされている。
⑤ ライフスタイルやファッション・テイスト、キャラクター性、テー
マ性を明確する方向へ
顧客中心の売場分類は、顧客の個性を大切にし、これに応えるこ
とである。しかし、個性は一人一人異なり、すべての顧客に対応す
るのは不可能なので、売る側としては、個性の類型化を考えること
になる。
どの様な個性を持つ人に買ってもらえるかを考えて、対象顧客の
ライフスタイル、テイスト、キャラクター性、テーマを明確に打ち
出すようになってきた。百貨店の紳士服売場におけるトラッドの売
場や、DCブランドショップの成長・発展がこのことをよく物語っ
ている。単品売場においても、テーマ性を明確にすることが要求さ
れる。
⑥ マーチャンダイジングの展開方法の多様化・専門化
以上のことからも解るように、今日的売場分類の方法は基本的売
場分類と比較すると、長足の進歩を遂げている。
売場は多数の分類基準によって分類、体系づけられ、各々の売場
は多様で専門化されたマーチャンダイジングの展開方法によって展
開されている。
●紳士服売場分類の変化
服種分類の一つに重衣料、中衣料、軽衣料という分類がある。衣料
185
を重さで分類した原始的な分類方法だが、使い勝手のよいというとこ
ろもあり、今も使われることがある。
・重衣料売場(=紳 士 服 売 場−これは狭い意味でスーツ、コート、
ジャケット、スラックス売場を指す)
・中衣料売場(=カジュアル洋品売場−ブルゾン)
・軽衣料売場(洋品売場−セーター、シャツ)
これらの売場名は会話の中で使われても、正式な売場分類の名称と
して使われることは少ないが、かつてはこの分類が一般に使われてい
た。
紳士服の基本的な売場分類と今日的な売場分類を比較すると、まず
次の点に気がつく。洋品のセーター売場は、
今日的分類の中ではオフ・
タイム(カジュアル)の中のセーター売場として組み込まれ、アダル
ト、シニアにターゲットを絞り込んで展開されるケースが増えて
いる。
ヤングアダルトを中心とした新感覚のセーターは、ヤングアダルト
のための新単品売場の中のセーターラインとして配置されている。も
ちろん、ヤング売場にも多様なセーターがある。つまり、セーターや
シャツ、雑貨等は服種という分類だけでなく、生活領域やターゲット
などによっても分類され、売場に分散されているのである。これは今
日な的売場分類基準を適用している結果である。
紳士服売場における大分類の“基本”と“今日”を比較して、構成
内容の主な変化部分を上げると以下のようになる。
① DCブーム以降、ヤング・キャラクター売場が充実
② 男のオフタイムの過し方が重視され、カジュアル売場が細分化し、
特に、団塊の世代以降の顧客のための分類が重視される
③ DCブランド、ヤングアダルト対象のインポート・ブランドの
ショップが重視され、ヤング・キャラクターとは区別されている
④ トラッド売場が拡大し、百貨店紳士MDの核として大分類化した
⑤ プレステージ(特選)が、インポートブーム以降新設・拡大・充
実し、国際的な著名デザイナース・ブランドも新特選として新しい
プレステージ・ゾーンを形成。90年代に入ってブームは終り、見直
しが始まった
⑥ 平場、単品売場は基本的分類では、中心的存在だったが、今日的
な分類では、極端に縮小され、その分ブランド・ショップにスペー
スを譲っている。しかし、90年代に入って見直しがはじめられている
●婦人服売場分類の変化
通常、大型百貨店におけるファッション関連商品はフロアごとに紳
士、婦人、子供、雑貨といった区分で分けられることが多い(婦人服
186
はボリューム的に2∼3層に及ぶことが多い)。この区分は分かりや
すさという点において、今後しばらく変わらないと考えられる。各フ
ロアを大きくテイスト別に分け、壁面に比較的、感度、グレードの高
いブランドを配置し、中側にアイテムや価格を切口としたブランドを
置くというのが基本的ゾーニングの方法論といえよう。
しかしながら、ボーダレスの激しい競争となった市場環境の中で、
成熟した消費者の支持を得続けるためには、このゾーニングにかなり
の変化が必要となってきている。このことは、主役となった消費者に
図表21−1 紳士服の基本的売場分類
大
分
類 中
キ
ヤ
ン
ャ
分
グ キ
ク
ャ
類
ラ
ト
ン
タ
ラ
パ
ー
ス
ッ
ド
カ ジ ュ ア ル ア ダ ル ト ・ カ ジ ュ ア ル
ワ
イ
セ
洋 品
シ
ー
肌
着
ナ
ャ
ツ
タ
、
ー
イ
靴
下
テ
ィ
ネ ク タ イ ・ 服 飾 雑 貨
雑 貨 カ バ ン
靴
ジ ャ ケ ッ ト & ス ラ ッ ク ス
紳
士 服
ス ー ツ ( コ ー ト )
(主として重
衣料) プ レ タ
オーダー&イージーオーダー
特
特 選
選
ブ
テ
ィ
ッ
ク
特
選
洋
品
・
雑
貨
187
図表21−2 紳士服の今日的売場分類
大 分 類 中 分 類
ヤング・キャラクターズ ヤング・キャラクターショップ群
キ ャ ン パ ス
ヤ ン グ ・ ベ ー シ ッ ク
ジ ー ン ズ
アダルト・キャラクターズ アダルト・キャラクターズショップ群
ヤング・アダルト・カジュアル・ミック
ス(カジュアル新単品売場)
アダルト・コーディネート・カジュアル
オ
フ
タ
イ
ム
ア ダ ル ト ・ ニ ッ ト
ア ダ ル ト ・ カ ジ ュ ア ル シ ャ ツ
ネ
ク
タ
イ
フ ァ ッ シ ョ ン ・ グ ッ ズ メ ン ズ ・ ア ク セ サ リ ー
キャクラターズ・ファッショングッズ
パ
イ
ン
ナ
ジ
ャ
マ
ー 肌 着
靴 下
ト ラ ッ ド ・ キ ャ ク ラ タ ー
ト
ラ
ッ
ド ト ラ ッ ド ・ コ ー デ ィ ネ ー ト
ト ラ ッ ド ・ フ ァ ッ シ ョ ン グ ッ ズ
オ ー セ ン テ ィ ク ・ プ レ ス テ ー ジ
プ レ ス テ ー ジ(特選) プレステージ洋品
プレステージ雑貨
イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル
インターナショナル
デザイナーズ
デザイナーズ・ブティック
(新特選)
ジ ャ ケ ッ ト & ス ラ ッ ク ス
ベ ー シ ッ ク ・ ス ー ツ
ニ
オ
ン
タ
イ
ュ
ー
ス
ー
ツ
ム フ ォ ー マ ル & パ ー テ ィ
ワ
プ
イ
シ
レ
ャ
ツ
タ
オーダー&イージーオーダー
188
一番近い小売業、百貨店自身が売場の主導権を卸しから再び奪い返す
必要性を意味する。つまり理想的な売場の実現のためには当然リスク
が伴うということの再認識である。
具体的変化としては、ある大きなテーマの下に、まず自主MDやP
Bによる差別化が必要となり、規模を生かした単品集積的売場展開が
増えよう。そして快適空間重視の考え方をともなって、一つ一つの売
場のスペースは大きくなっていく。当然、衣料だけでなく関連雑貨も
当然そこに組み込まれていく。一方、
価格やサイズといった現実的ファ
クターもより意識されていく。しかし、これも現在起こっているやみ
くもなものではなく、百貨店本来のポジショニング内におけるリーズ
ナブルな価格の追求であり、サイズの設定である。
図表22−1 婦人服の基本的売場分類
大 分 類 大 分 類
テ ィ ー ン ズ
キ ャ ク ラ タ ー
ヤ
ン
グ ジ ー ン ズ カ ジ ュ ア ル
ト
ラ
ッ
ド
ブ
ラ
ウ
ス
セ
ー
タ
ー
単 品 ス カ ー ト & パ ン ツ
ジャケット&ブルゾン
ナイティー&ランジェリー
ス ー ツ & ワ ン ピ ー ス
重
衣
料 ニ
ッ
ト
コ
ー
ト
小 物 & ア ク セ サ リ ー
雑 貨
靴 & バ ッ ク
特 選
イージーオーダー
S
サ
イ
ズ
L
189
図表22−2 婦人服の今日的売場分類
キ ャ ラ ク タ ー ズ
ト
ラ
ッ
ド
テ ィ ー ン ズ
雑 貨
ア イ テ ム + サ イ ズ
キ ャ ク ラ タ ー ズ
インターナショナルカジュアル
ヤ
ン
グ ト
ラ
ッ
ド
パーツコンポーネント
ア イ テ ム + サ イ ズ
コンテンポラリーコーディネイト
キ
ャ
リ
ア インターナショナルデザイナーズ
ビ ジ ネ ス 雑 貨
イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル ブ ラ ン ド
インターナショナルソフィスティケーション
リッチカジュアルコンプレックス
ミ
ッ
シ
ー ニ ッ ト プ レ タ
& ア
ミ
セ
イ
テ
ム
ス フ ァ ー & レ ザ ー
雑 貨
エ
自
レ
ガ
主
ン
平
ス
場
L
サ
イ
ズ
S
デ ザ イ ナ ー ズ
フ ォ ー マ ル
フ ォ ー マ ル コ ン プ レ ッ ク ス
ランジェリー&ファンデーション
イ
ン
ナ
ー ナ
イ
テ
ィ
キャクラターナイティ
ニットコーディネイト
シ ル バ ー
エ レ ガ ン ス コ ン プ レ ッ ク ス
190
6 専門店の売場分類
本来、専門店は百貨店、量販店に劣る売場面積のハンディキャップを、
そのキラリと光るファッションセンスと、ある特定のファクターを切口と
した専門的MDによって、個性的な商品をキメ細かいサービスで顧客に提
供することで支持を受けて来た。
しかし、現在はそのような差別化要因においても、完全に百貨店に肩を
並べられた。什器開発、ディスプレイ等においても同様であり、その本質
的な見直しが叫ばれている。したがって、売場分類は、百貨店の縮小版と
なりがちであり、商品内容はそれ以上にマイナーである場合が多い。
このことは、日本独特の情報化(やみくもなコピー)と大資本崇拝主義
にも起因する。
しかし、そのような構造的な問題はともかく、少なくとも地域顧客密着
のキメ細かさを武器として健闘している店も少なくない。一口に婦人服専
門店といっても、そのタイプは千差万別であるが、好調といわれる店は、
総じて自店ターゲット客にむけて思い切ったルックス・コーディネイト提
案を行い、それをVMDにより表現することによって、総花的な売場分類
を排除しファッション性の高い隙間アイテムの導入を図り成功していると
いえよう。
また、近年は特に大型チェーンを中心にSPA(オリジナル)商品を売
場のメインに展開し主張を明確にしようとする動き、同じテイストの異業
種導入によるライフスタイル提案、無名ながら将来性のあるクリエー
ター・ブランドの起用、さらにはビンテージ品などのマニアックな商品の
展開など、様々な試みが行われている。
7 量販店の売場分類
通常、量販店は衣料品において、その広い売場面積を生かし紳士、子供
そして婦人さらにはスポーツ等と総合的に展開する場合が多い。そして、
味付けとしてジーンズやトラッド・スタイル等の専門店をテナントとして
導入する手法が多い。
量販店の最大のセールスポイントはやはりその圧倒的な低価格である。
低価格はいつの世にも大きな魅力である。しかし、こと婦人服においては
そのファッション性、つまり細かい変化が前提となる為、展開しづらい場
合が多い。
基本的に統計的資料に基づき、大量生産品(EX:海外生産)を早期に
セントラルバイイングするというシステムは実衣料向きであり、シーズン
性、細かいディテール、中間アイテム等を問われる婦人服には少なくとも
向かない。であるから、フルラインとはいうものの非常に基本的なアイテ
ムの羅列か、逆にあらゆるテイストがゴチャマゼになった「価格切り」の
みの分類不在の売場となるケースも多い。
191
図表23 専門店の売場分類
ブラウス・シャツ
カ
ッ
ト
ー
単 品 スカート・パンツ
セットアップ・ワンピース
ラ イ ト コ ー ト
ス
ー
ツ
ド
重 衣 料
レ
ス
ニ
ッ
ト
コ
ー
ト
ブ
キ ャ ラ ク タ ー
テ
ラ
ン
ド
ー
マ
靴 、 バ ッ ク
小 物 ・ 雑 貨 ア ク セ サ リ ー
そ
の
他
フ ォ ー マ ル
ス
ポ
ー
ツ
シ
ー
ズ
ン リ ゾ ー ト 、 防 寒
そ
の
他 パジャマ、下着、値頃品 etc
宝 飾
そ
の
他 エ ス テ 、 痩 身
価格は今後ますます重要なファクターとなる。したがって、婦人服とい
えども量販店がイニシィアチブをとることは十分可能である。そのために
は、バイヤーのファッションに対する習熟、セルフ販売を想定したVMD
のレベルアップ、そして時代の新定番の開発が重要である。
商品計画に基づき、高感度リーズナブルプライス品をパーツ分類し、客
が編集するといったスタイルが主流となろう。
192
図表24 量販店の売場分類
ブ ラ ウ ス 、 シ ャ ツ
カットソー(Tシャツ、トレーナー)
単 品
ス カ ー ト 、 パ ン ツ
ジ
ャ
ケ
ッ
ト
ス ー ツ 、 ワ ン ピ ー ス
重
料 ニ
ッ
ト
コ
ー
ト
小
衣
物
・
雑
貨
専 門 店
スポーツ・シーズン
そ の 他
6 マーチャンダイジングの展開方法
1 マーチャンダイジングの展開方法
●MDの展開方法は一定のスタイルを持つ
「何を基準にして、どのようなMDで売場展開するか」という問題
は、アパレルリテーラーにとって切実な問題である。MDの切り口や
展開方法がショップや売場の性格を決定するからだ。
MDとは顧客のために、そのニーズ、ウォンツに相応しい商品を取
り揃えて、購買意欲を高めるように編集・陳列する仕事であるが、店
頭におけるその具体的な展開方法は、色々と工夫・開発されている。
現実にショップづくりのプランを進める段階で、
「誰のために」
「ど
のような意図によって」「どのような商品を」「どのように編集し」
「どのような展開方法で売るのか」、と言うことは本来、各々切り離
MD展開方法
例えば単品MDは、単品
を平場で品揃えする展開
方法として一般化してい
るもので、そこには売場
の商品陳列の姿がある程
度イメージできる。つま
りMDがどのような形で
展開されるかを含んだ方
法にもなっている
すことができない問題である。これらの要素のすべてがMD展開方法
の中で明確にされることになるので、MDの展開方法は一定のスタイ
ルを持つことになる。
ショップづくりの過程には、多数の人々が参加し、その都度多様な
次元の話によってコミュニケートされ、課題がつめられてゆく。複雑
多様な要素からなる問題解決には専門化された共通語が必要不可欠で
193
ある。MDの展開方法もその一つであり、事前に基本知識としてコン
センサスをとっておくと、より高度なコミュニケーションが可能にな
り、最も適応する展開方法を選択または、新たに開発することができ
る。
ここに出てくるMD展開方法は、アパレルリテール・ビジネスの、
ここ10年来の成長・成熟化の中で、その時代々々の問題意識の中から
生まれたものが多く、呼称も一定したものではない。時代ごとに注目
される展開方法は変化し、その技術開発がその時代の顧客を捉えてき
たともいえるのである。マーケティングからマーチャンダイジング、
そしてプロモーションまで幅広い領域に関係する方法論として捉える
こともできる。その意味では、アパレルリテール・ビジネスのソフト
技術が集約される部分であり、今後も、新しい展開方法が開発される
可能性はあるだろう。
●MD展開方法によるMDミックスは売場のダイナミズムをつくる
変化に富んだ魅力ある売場づくりのために、MDはどのように構成
したらよいだろうか。単一のMD展開方法の中で、MD基本要素の組
み立てをしっかりして、顧客ニーズに合致した内容の豊かなMDを展
開することもできるが、大型店になるほど、MD展開方法の複合的組
み合わせによる多様なMD展開も可能になる。
MD展開方法として次にあげるものはMDの切り口を示すものだが、
現実に売場を構成する際には、複数の切り口を必要とすることが多い。
分類MDのどの部分で、どのMD展開方法を採用するかを考え、全体
構成の質−バランス、連動性、変化−を検討する。
売場に顧客の興味をひき止めるためには、できるだけダイナミック
な変化を取り込みたい。顧客を飽きさせず、楽しませる売場づくりの
ために、複数のMD展開を組み合わせて効果を上げるのである。
売場単位ごとのMDの切り口は鮮明でなければならないが、複数の
売場単位で構成される売場では、複数のMD展開方法が相互補関的関
係を強化してよい効果を上げるよう、全体として内容の豊かさを確保
したいものだ。
このようなマーチャンダイジング・ミックスの方法は、業態や店舗
の性格、目的、顧客ニーズの特性などを考慮して内容を充分検討しな
ければならない。
●MD展開方法のタイプ
MD展開方法は、商品分類と売場分類の分類基準と共通する要素が
多いが、あくまでもMD展開のための方法として考え、次のタイプに
分類することができる。
・モチベーションに基づくタイプ ・ギフトMD
194
・フレッシャーズMD
・リクルートMDなど
・ライフスタイルを表現するタイプ・トラッドMD・クラブMD
・リゾートMD
・キャリアライフMD
・客層を絞るタイプ ・ターゲットMD
・価格訴求のタイプ ・価格MD、マートMD
・スタンダードMD
・高感度低価格MDなど
・ステイタスを訴求するタイプ ・プレステージMD
・世界の一流MD
・老舗MD
・インターナショナルMD
・ブランドの知名度、パワー、 ・ブランドMD
キャラクターを訴求するタイプ ・キャラクターMD
・商品の属性によるタイプ ・こだわりMD
・カラーMD
・素材MD
・サイズMD
・開発の方法によるタイプ ・自主開発MD
・自主編集MD
・着こなしや買い方のパターン ・単品(品揃え)MD
によるタイプ ・コーディネートMD
・単品コーディネートMD
・業態分類によるタイプ ・シングルライナーMD
・カテゴリーキラーMD
・SPA型MD
●MD展開方法の内容
 単品MD
単品MDとは、コーディネート販売(セット販売)ではなく、服
種ごとの単品による「パーツを売る」MDをいう。売場形態からい
えば、日常的な生活必欲品を集積した平場の品揃えMDであり、品
揃えの豊富さと値ごろ感に重点が置かれる。高度なコーディネート
能力を身につけた顧客が増加し、単品MDの重要性は高まっている
が、他店との差別化戦略が課題であり、自主開発力や自主編集力(以
下を参照)による提案型の商品集積も必要になる。
売場展開には、単一のアイテムを集積した売場(シャツ、スーツ、
ジャケット&スラックス、セーターなど)と、複数の単品を集積し
195
た複合単品売場(生活領域別の品揃えを基本にしたドレス売場、カ
ジュアル売場、ヤング・テイストの高感度単品売場など)とがある。
いずれの場合も、顧客の求める商品が見つけやすく買いやすい売場
づくりを前提とする。したがって、①生活領域別(ドレス、カジュ
アルなど)
、②マインド別(感覚年齢別)
、③商品テイスト別(トラッ
ド、ベーシック、コンテンポラリーなど)
、グレード別(価格帯別)
などの品揃え基準を明確にしながら、分かりやすさと独自性を追求
する品揃えが大切である。
売場設計は、移動可能なコストメリットのある什器や、シーズン
ごとの商品ニーズに合わせた可変性のあるオープンスペースが適切
で、販売形態も側面販売、或いはセルフ販売を基本とする。
 自主開発MD
自主開発MDとは、店自らの需要予測、商品開発計画に基づくリ
スクを持って生産・販売する売場づくりを指す。したがって、生産
機能、流通機能、販売機能を一貫して行うMD運営力・管理力が必
要になる。
この場合、①店が独自に生産装置を持つSPA型(製造小売業)
、
②企画商品をアパレルメーカー、或いは縫製工場に発注し生産する
ケース、③商品開発力のあるアパレルメーカーとの共同企画のケー
ス、がある。いずれも、完全買取りが原則で、リスク負担は店側に
あることを前提とする。ただし、共同企画の場合は、アパレルメー
カーとのリスク分担というメリットもある。
PB(デザイナーとの提携によるプライベート・ブランド)開発、
自社ブランド開発などでトータルな企画もあるが、単品提案型商品
という要素も強い。小売店の差別化戦略の要として重要な位置を占
めてきている。
自主開発MDとは区別される、商品を自店の顧客欲求に合わせて
セレクトして売場づくりをする自主編集MDがあるが、この場合に
は委託販売になることも多い。
 テーマMD
シーズン性、話題性など訴求力の高いテーマを設定した、売場活
性化を目的とするMD手法をいう。小規模店では、売場全体を包含
したテーマ開発も効果的だが、大型店では、生活領域別、あるいは
売場単位別にきめ細かなテーマを開発する必要がある。特に単品売
場においては、品揃えの他店との同質化や無性格性からの脱皮が課
題となるが、テーマを明確にすることで売場の統一性と独自性を実
現することができる。
テーマ開発には、素材やカラーなどによるシーズン性を打ち出す
196
商品テーマ、生活シーンの設定などの生活提案型のテーマ、シーズ
ン・トレンド・テーマなどがある。いずれの場合も、顧客の欲求に
対応したテーマ設定と、テーマに沿った商品編集力が必要であり、
テーマに基づいて自主編集MDをするという視点が大切になる。そ
の意味では、ビジュアルMD(VMD)ともクロスするMDと捉え
たい。
 コンセプトMD
自店の一貫した主張を売場に具体化するのがコンセプトMDであ
る。したがって、ターゲットごと、生活領域ごとに時代性や顧客の
欲求をコンセプト純化させ、それにふさわしい商品と提案型のアプ
ローチ売場スタイルの開発、が必要である。自主MD的要素が極め
て強い。
コンセプトMDの売場展開としては、ヤングカジュアル・ゾーン
の「ザ・マーケット」発想的な商品集積による大型コンセプト・ショッ
プ。ブランド・ショップ群の中にブランド・ミックス型発想の単品・
中型コンセプト・ショップ(例えば「インポート雑貨」
)
。生活領域
ごとに、たとえば文具や生活雑貨などをポイント的に配置した一坪
ショップなどがあり、ゆとりやエコロジカルな環境を提案するレス
トスペースなども、コンセプト・ショップになりうる。
ここで重要になるのは、モノとコトを一体化させた自店の主張を
純粋に売場に具体化することであり、大型店の場合は、フロアごと、
売場ごとにきめ細かくポイントとなるコンセプト・ショップを配置
することが売場活性化の手段として重視されることも多い。
 キャラクターMD
デザイナーやブランドのキャラクター性、メッセージ性を前面に
打ちだし、その魅力を訴えるMD展開である。したがって、キャラ
クター性やテイストにふさわしい環境と売場スタイル、販売の在り
方が追求されなければならない。売場形態はブティック、あるいは
サロンなどの箱型ショップ・スタイルが多いが、コーナーなどの小
規模展開もある。販売形態も、スペシャリストによる対面販売やコ
ンサルティング販売を必要とするケースが多い。
キャラクターMDには、インポートデザイナーズ・キャラクター、
感性的な時代のテイストを持つヤング、あるいはヤングアダルト・
クリエイターズ、大人のエレガンス・キャラクターなどがある。単
一のデザイナーズブランド・ショップの他に、複数のブランドによ
る複合ブランドショップ形態もある。
 シーンMD
絶えず顧客の生活欲求を反映した、魅力的な生活シーンをいかに
197
具体化するかがMD戦略の重点目標であり、シーンMDは、ひと、
その生活の場面、商品の選別の3者を連携しつつ展開されるモノと
コトが一体化したMDである。
ある生活シーンを設定し、その生活にふさわしい売場スタイルと
商品を提案する売場展開の手法で、文字通り、生活場面やその状況
をMDすることをいう。モノ(商品)を使いこなす生活シーンを背
景におくことで、
「どのようなひと(ターゲット)
」の「どのような
生活の場」に対して、「どのような商品を売るか」という顧客の購
買目的を明確にした生活提案発想の売場づくりである。
最もベーシックなシーンMDには、パーティライフ・シーン、ビ
ジネスライフ・シーン、プライベートライフ・シーンなどがある。
最近注目されているプライベートライフやリゾートライフは、時代
の生活欲求から生まれた新しい生活シーンである。
30代男女(男ではヤング・アダルト、女ではキャリア)を対象に
カジュアルライフ・シーンを提案する、伊勢丹の自主編集MD(S
OL(スライス・オブ・ライフ)」はシーンMDの典型であり、成
功例であるといえる。
 ライフスタイルMD
ライフスタイルとは生活様式を意味し、ライフスタイルMDとは、
生活の志向性によって顧客をセグメントし、その異なった志向を
はっきりしたファッション・スタイルに結びつけた売場を実現する
ことである。
この方法には、①クラスター分類──顧客の価値観、趣味や嗜好、
ファッション観などを分析してライフスタイル志向を明らかにする
ためのもの。たとえばコンサバティブ(保守的)志向、コンテンポ
ラリー(今日的)志向、アドバスト(進んでいるトレンド型)志向、
現代的なライフスタイル志向(キャリア志向)など。
②民族特有のライフスタイルがファッション・スタイルになった
もの──これには、トラディショナル(英国調)、ヨーロピアン・
エレガンス(フランス調)
、イタリアン・モダン(イリリア調)
、ス
カンジナビアン・フォークロア(北欧調)、ウエスタン(アメリカ
調)などがある。
この①と②を重ね合わせる手法が、ライフスタイルMDとして利
用されている。「ラルフローレン=ポロ」はその典型で、アメリカ
ン・カントリー・ライフスタイルを一環して提案して、トラッド愛
好者に対応する「ライフスタイル・ブランド」である。
 ターゲットMD
どのような顧客を対象にするのかを明確にして、その購買意識を
198
掘り下げながらふさわしい商品を売場展開することをいう。年齢
(マ
インド)
、生活領域、テイスト(ファッション感性)
、グレード(価
格帯)
、ライフスタイル、生活シーンなど切り口は多様である。
典型的な「ヤング高感度カジュアル売場」を例にとれば、対象は、
流行に敏感なヤング顧客のカジュアル・ライフスタイル。この顧客
の求めるすべての商品(服から小物、生活雑貨まで)を集積した売
場が浮かぶ。このように、ターゲットMDは、ブランドショップか
ら単品売場にいたる売場MDの最も基本的な切り口の一つといえる。
 価格MD
戦略的に価格を訴求するMDの総称を言う。ここで言う価格は一
般に値ごろ感の強いもの、低価格といった印象が強く、高価格を指
すことはまずない。流通短縮などにより割安感の強い商品調達によ
り、平場(単品売場)で商品ボリュームを持たせて販売されること
が多い。中にはヤングを対象に高感度値ごろのトータルルックを展
開する価格MDもある。紳士服のロードサイド・ショップはショッ
プ・コンセプトが価格戦略を中心に据えているので、これも価格M
Dと言えるが、百貨店や専門店などが特別仕立の価格戦略を打ち出
し、売場づくりから準備するケースをさすことが多い。'90代に入っ
てバブル経済崩壊により価格戦略は特に重視され、価格MDの質も
変化している。
 カラーMD
顧客の着こなしの個性化・多様化要求にカラーで応えるMD展開
方法。セーターのような単品売場では、多彩なカラー提案が、自分
なりの着こなしを求める顧客に魅力的に迎えられる。そこでは、
コー
ディネートを前提としたベーシックからトレンドまでのカラー集積
が重視される。
カラーMDは、セーター売場のほかに、Tシャツやソックスなど
の単品売場も必要とされる古くて新しいMD手法である。
 サイズMD
既製服の限界はサイズに現れる。事実、サイズ満足の問題はこれ
までそれほど重要視さてこなかったMD欠落部分でもある。しかし、
きちんと体にあった服を着ることへの要求が高まっている中で、改
めてサイズMDの必要性が生まれてきた。
サイズの基であるJIS規格は、販売率の高い顧客を基準に構成
されているため、従来サイズMDはそこからはみ出した顧客のため
に用いられてきた。トール(背の高い)サイズ売場、キング(より
体格のいい)サイズ売場、クローバー(背の低い)サイズ売場など
がこれである。しかし、一般売場におけるそれぞれのアイテムの中
199
でも多サイズ展開が求められ、改めて小売店のMD課題の一つと
なってきている。伊勢丹百貨店はこの分野で一歩先行しているが、
サイズMDをこのレベルまで引き上げることが、差別化マーケティ
ング戦略としても重要視されてきている。
2 VMDプラン
VMD
visual merchandising ア
ルバート・ブリス(ディ
スプレイ業者)が1844年
に使いはじめた言葉。当
時一般的にはディスプレ
イという言葉が使われて
いた。ビジュアル・プレ
ゼンテーションとマー
チャンダイジング及び広
告などを統合して店頭の
販売効果を上げる方法と
して考えられた
 VMDとは企業戦略でありCI(SI)の具体化である
ビジュアルマーチャンダイジング(VMD=視覚的商品化計画)と
いう言葉が日本に登場し始めたのは、今から12∼3年前である。1960
年代後半から70年代は、商品の品質機能を中心にもの選びをし、新商
品をどの店よりも早く豊富に揃え、ただ並べて置くだけで売れる時代
であった。しかし、現在では、多様化した消費者のライフスタイルや、
好みに合わせて商品タイプはますます細分化し増える一方、商品自体
の善し悪しには、ほとんど差のない時代になっている。しかも、同一
商圏では、洗練され個性化した各店舗間の競争が一層激化し、店(売
場)作りは単純な戦略では、対応できない状況にある。
こうした中で、いかに売れる店を作るのかは、まず、市場動向(ニー
ズ)を把握し、商圏における自店のポジショニングやターゲットを把
握した独自のMDの打ち出しによる、他店との差異化を視覚的に図る
ことから始まる。これがVMD戦略である。つまり、消費者が目で見
て納得できるように、SI(ショップアイデンティティ=我が店の主
張)を具現化した売場(店)を作るということである。
 VMDオペレーション機能
効果的なVMD遂行のためには、まず、店ごとに、VMD計画を立
案、実行するための綿密なシステムと、VMD基本マニュアルを作り
上げておくことである。これができていないと、遂行する人が変わっ
た時にオペレーション組織の各部所で担当範疇の不明確さからトラブ
ルが生じ、一貫性のある実施が不可能になる。
また、自分がどの部所でどのように考えてVMDに関わるのかを知
らなければ、顧客に対して店全体レベルでのVMDコンセプトをふま
えた提案は出来ない。VMDは店の経営戦略でもあるわけで、絶えず
店全体としての考え方、動き方をしなければその効果はない。本来、
VMD推進に当たっては、関わる全員がCI(SI)を理解し、マー
チャンダイジングとコーディネーション、両方の専門知識を備えてい
るのが理想である。
 VMDによる売れる店(売場)作り
よく売れる店(売場)とは、まず顧客が
① 来やすい
■絶えず新鮮な情報提示がある
200
■買い物することを楽しむことができる
■店からのメッセージが分かりやすく足を運びやすい
② 見やすい
■色彩、客動線、案内表示、什器、売場ゾーニング、商品グルーピ
ング、ディスプレイ、照明等の各計画化が総合的に考えられてい
る
■商品テイスト&フェイシングが明確なので買いたい売場や商品が
すぐ見つけられる
③ 選びやすい
■カラー、サイズ、種類、価格等が分かりやすく、また数量が豊富
なので商品を比較検討したり、商品に触れたり、取り出したりが
しやすい
といった基本的な機能性を備えた売場のことである。しかも、それ
には必然的に、効率のよいゾーニングプラン、什器のレイアウト
プラン、今日的なプロダクトプラン、顧客を分析熟知したMDプ
ラン、商品そのもののよさを十分に表現できる充実した什器プラン、
商品の付加価値を効果的に演出した、優れたディスプレイプラン、
またそれらすべてをうまくコントロールする組織のオペレーション
プラン等がなくてはならない。
VMDは、このように売場を広範囲に捕らえ、しかも、すべての要
素が一体となって展開して初めてその効果があらわれる。
 VMDの効果
VMDは、従来の売場作りの考え方にさらに、①顧客の拡大②関連
商品の販売促進③衝動買いの促進、などの使命を担っているともいえ
る。特に②と③に関しては、視覚に訴求するという点からも、その効
果が大きく、最も大きな特徴であろう。
たとえば、MD展開(MDP=マーチャンダイジングプレゼンテー
ション)の仕方によっては、同じ商品を全く印象の違った商品として
顧客に訴求できる。つまり各店舗間のVMD戦略が異なれば、商品自
体から発するメッセージもそれぞれ違ってくるため、顧客は新たな印
象によって、購買意欲をそそられるということでる。
また、前述の∼の違いによっても、それぞれのストアアイデン
ティティ(ストアイメージ)にふさわしい商品展開が可能であり、そ
の効果は、正に売場(ハード)と品揃え(ソフト)のコーディネーショ
ンの妙味といえる。
また、人件費、その他の経費アップなどに伴う販売員の削減や、週
休2日制が普及し始めた昨今、セールストーク無しでも顧客にアピー
ルすることができるVMD導入によって、販売職離れなど売場の問題
201
を緩和することができる。
 VMD実施のステップ
VMDを実施するに当たって、その計画立案のためのプロセスは次
のようになる。
 企業(店)イメージ(CI・SI)の確立
マーケティング戦略の一環として消費者層に対してだけでなく、
図表25 VMD実施のステップ
C I ・ S I の 確 立
環境・市場・消費者分析
V
コ ン セ プ ト 設 定
M
色
D
デザンイン
商 品
スタイル
素 材
戦
品 揃 え
略
陳
列
演
出
お 客 様
デ
ー
タ
分
析
広く社会に対して、企業(店)の存在の意味を知らしめるCI(S
I)を明確に打ち出す。最近では、特に環境問題や、健康、文化、
福祉的なことに対しての積極的な姿勢を主張しているCI(SI)
が多い。(たとえば、簡易包装推進、身体に優しい商品開発、美術
展開催等)
 環境、市場、消費者(ターゲット)分析
環境とは、店の立地、目指す業界、競合店を含む、我が店を取り
巻くすべての環境のことであり、それらに対しての情報を得、分析
202
調査する。その得られた内容に基づき、自店の歩むべき方向を定め
る。つまり、同一商圏内での、競合店との差異化を図るのである。
また、自店の対象顧客のライフスタイル(生活行動=消費行動)
を年齢層、男女比、居住地域、経済力、趣味志向、価値観などの情
報を得、分析することによって、何が最も重要な購買決定の要因に
なっているかを知ることができる。これは、自店の在り方を考え、
新しい顧客開拓と、顧客保持のための基本的な販売戦略に有効であ
る。
 コンセプト・店舗ポリシーの決定
自店の販売に関する基本方針・姿勢等は、売場におけるMD計画
や視覚訴求の方法がそれぞれ違うので明確にする必要がある。
① 顧客優先で、多様性のある品揃え、個々のニーズに合わせたタ
イプの店は、品数の豊富さや、
納得のいく価格帯等を売場でビジュ
アル訴求することがポイントである。
② 独自の自主編集MDによる提案型タイプ店、他店との違いを、
独自のこだわり感でまとめ、絞り込んだMDは計画、オリジナリ
ティあふれる提案のビジュアル化等がポイントである。
 MD計画のチェックポイント
MD計画における顧客対応のポイントは、次のような点である。
顧客の①欲しい商品を②適正な売場で③欲しい次期に④欲しい数量
と⑤適正価格で⑥ふさわしい販売方法により提供することができる
か、ということである。
ここでも店舗コンセプトによって、品揃えバランスは違い、売場
でのゾーニングが変わって来る。また、このMDコンセプトが明確
であれば、販売現場の全員が売場の方針を知り、売るためのいろい
ろな工夫も考えることができる。
 セールスプロモーション(SP)計画
年間MD計画に基づいたシーズンテーマ展開を軸として様々な意
図によるSP計画を練り、組み込む。VMDは、消費者にいかに有
効な購買決定をさせることができるかを考えたMD計画であるから、
意図(狙い)を明確にした、SPプランでなければならない。例え
ば、
① 春夏秋冬のシーズンの立ち上がりでのライフスタイルや、コー
ディネート提案の展開。シーズンの先取り提案によるアピール。
ストアメッセージの発信。
② 店全体を一つのイメージに統一して、店内環境作りから仕掛け
ていく展開。催事イベントなどの話題性を中心にした関連商品の
展開。スペインフェアなど。
203
③ カレンダー行事にのっとって、我が店の独自性を出していく展
開。他店との競合テーマの中でいかに特徴を出すかがポイントで
ある。バレンタイン・中元・歳暮・クリスマスなど。
 VMDの具体的展開方法
〔店舗機能とVMD〕
店舗(売場)機能におけるVMDの訴求ポイントを大きく分類する
と次のようになる。
図表26 店舗機能とVMD
什器群単位 什 器
商 品 構 成 商品特性
訴 求 訴 求
階・部
売場単位売場コンセプト訴求 フロアイメージ
訴 求
階・部
フロアイメージ
訴 求
階・部
フロアイメージ
訴 求
全 店
ストアイメージ
訴 求
① 店 舗(売場)─────────── ストアイメージ訴求
② 各 階 ────────────── フロアイメージ訴求
③ 各売場 ────────────── 売場コンセプト訴求
④ 什器群 ────────────── 商 品 構 成 訴 求
⑤ 什 器 ────────────── 商 品 特 性 訴 求
こうした訴求ポイントを考えてハード(器)とソフト(商品)との
関わり合いを強め、実施効果を上げるようにする。
〔展開の場とその役割について〕
次にMDを具体的に展開していく、つまりMDP(マーチャンダイ
ジングプレゼンテーション)をするためには、それぞれの意図と役割
に合った店内におけるふさわしい場がある。
204
VP
visual presentation 「売
場は劇場である」と考え、
顧客に訴求するために、
ドラマにも似た統一テー
マを設け、これに見合っ
た売場演出を行うこと
① VP(ビジュアルプレゼンテーション)エリア
対象顧客に合ったライフスタイル提案とともに、シーズンテーマ
によるストアメッセージを視覚的に訴求するMD展開の場。主に
ショーウインドウ、店内に入ってすぐのメインステージ、各フロア
のエスカレーター前ステージ、また各売場のステージなど。ストア
イメージを表現する場でもある。いわば店の顔作りの場といえよう。
② PP(ポイントオブセールス・プレゼンテーション)エリア
顧客に商品情報(例えば新商品、VMDカレンダー行事による打
ち出し商品など)を視覚的に演出し、魅力的なコーディネイトによ
図表27 展開の場とその役割
205
り関連販売を促進する場。主にテーブル什器上、柱回り、棚上、壁
面などでの展開。
③ IP(アイテムプレゼンテーション)エリア
PPで展開された商品をはじめ、関連商品などが、分かりやすく、
選びやすく、買いやすく分類整理され、十分なサイズ、カラー、数
量なども揃っていることを視覚的に表現する場。主に、棚などのス
トック陳列、ハンガーラック、Gケース内陳列などでの展開。ター
ゲット層の欲求を満たす充実した品揃えの状況が、見てすぐ分かる
表現になっているかがポイントとなる。
 MDP実施のための必須要素
効果的なVP&PPを行うために、次の要素が組み込まれていなけ
ればならない。
図表28 MDP実施のための必須要素〔5W2H〕
要 素
5 H
WHEN
展開時期
カレンダー行事・販促プロモーション・シーズン催事などを考
何 時
展開期間
えて展開時期・期間を決める。
展開商品
展開テーマに合った商品&最も打ち出したい商品を選ぶ
WHAT
何 を
WHO
だれに
WHERE
何処で
WHY
何 故
2 H
HOW MANY
どのくらい
HOW TO
どのように
年令・ライフスタイル・趣味・嗜好・購買動機などを分析した
対象顧客
上での対象顧客を設定
店舗(売場)内の何処で展開するか…ステージ・柱回り・棚上・
展開場所
テーブルetc
何故いまこの展開テーマなのかをアピールする…テーマのビ
展開意図
ジュアル化・POPなども含む
展開商品量
展開方法
展開場所・商品グレード・商品イメージにふさわしい商品数量
商品特性・商品の付加価値をうまく引き立てる表現技法・演出
小道具などによってディスプレイする
 VMD推進の組織と人材
VMD実施に当たっては、関わる全員が担当部所と、その責任範疇
ならびに内容を理解しておくことである。まず、経営者を中心にVM
D総括責任のチームを作る。ここで、SIの明確化と、自店のターゲッ
ト設定、目標設定を行う。次にこの下にVMD担当部所を設置し、M
DとVPについての専門知識と実務経験のあるVMDディレクターが、
具体的なVMD実施のための中心となる。
206
VMDを売場で直接実施するのは、売場担当責任者と、販売員、デ
コレーター(VP・PP・IP)、コーディネーターが当たる。これ
ら実施スタッフは、商品知識をはじめ、ディスプレイ、什器&演出ツー
ル、色彩、照明などの基礎知識と技術力を身に着けていなければなら
ない。
また、営業政策に基づいた売場構成、VP展開プランの把握と、情
報としてファッショントレンド、社会情勢なども知識として知ってい
る必要がある。現場(売場)は絶えず息衝いているわけであるから、
商品や、人が変化しても、このオペレーションシステムがしっかりし
ていれば、VMDはうまく遂行できる。そのためにも、前述の知識習
得の人材教育が欠かせないものとなっている。
7 売場形態分類
個々の売場には、各々に相応しい売場形態を持たせる必要がある。売場
形態は、MDの中味と不可分な関係を持ち、MDを一層効果的に顧客に理
解してもらうための最上の手段となる売場の形態を選ぶことである。
MDの質が、純粋に商品だけの質で決まると考えるのは間違っている。
商品配列の仕方、商品の置かれる環境、販売サービスによっても、MDの
質は違ってくると考えるべきだ。顧客を商品購入へと導く条件が異なれば、
ショップMDの質も異なると考える方が自然ではないだろうか。
MD展開方法によって、売場の展開スタイルはほぼ決まってくるものだ
が、店の特徴を出すために、より効果的に売場形態を組み合わて使うよう
にしたい。
図表29は、基本的な形態分類を4つに分け、各々の展開スタイルとMD
展開方法の使用例を挙げたものである。これはあくまで基本的に考えた場
合であり、全てがこの枠内に納まるものではない。
売場形態を単純に大箱、箱、半箱、平場の4つの分類(普通は大箱は含
まない)するのは、解りやすさを第一とするからで、形態を大づかみに捉
えることが、その売場のポジショニングやMDの質が一層理解しやすくな
るばかりでなく、売場レイアウト作業との連携をスムーズにするのである。
展開スタイルの名称は使う側の感覚や思い入れもあって、必ずしも一定し
た表現にはならない。
207
図表29 売場形態分類
売場
展 開
形態
スタイル
目 的
MD展開方法
使用例
百貨店などの大型店で使われることが
ワールド型ス
大箱
タイル
プラザ・スタ
イル
ある、スケールの大きい特化されたM
ビジネス・ワー
D領域を展開する場合の売場形態。
ルド
1つのテーマで統一されたショップ複
生活シーン別
トラッド・ワー
合型や、単品の一大集積など他店との
ライフスタイル
ルド
差別化の目玉として、戦略的に展開さ
別
ハイキャラク
れることが多く、形態的には大きな
タ ー ズ ・ ブ
ゾーン形成が計られ、他とは区分され
ティック
る。対面販売か側面販売が多い。
ブティック
箱
サ
ロ
ン
ハ
ウ
ス
コレクション
ギャラリー
ス タ ジ オ
コレクション
半箱
ステーション
コ ー ナ ー
工
房
ファクトリー
マ
平場
ー
ト
マーケット
パ
ー
ツ
ショップ・イン・ショップとして、独
ライフスタイル
自の個性を打ち出すスタイル。ショッ
MD
プ・マスター制なども導入したショッ
キャラクターM
プ運営をすることも多く、形態も他の
D
空間とは切り離された空間設計になっ
世界の一流MD
ている。ショップとしての記号性を強
ブランドMD
化して、固定客による経営安定が計ら
コンセプトMD
れる。対面販売中心。
クラブMD
デザイナーズ・
ブティック
フォーマルサロ
ン
ブレザーショッ
プ
ドラッドハウス
ショップとして完全に独立した形態で
インポート・コ
はないが、1つのまとまりとして認識
レクション
される空間を持ち、他空間と自由に出
ニュースーツ・
入りできる半オープン設計になってい
テーマMD
コレクション
ることが多い。
個々のブランド・イメー
シーンMD
カシミア・コレ
ジを保ちながら、1つの共通するテー 自主MD
クション
マで複数のブランドをくくる時に適用
シューズ・ファ
される。側面から店員がフォローす
クトリー
る。側面販売中心
プリント工房
単品品揃え型の売場形態が主で、移動
パーツMD
可能な什器によるオープンスペースに
カラーMD
ザ・マーケット
品揃えするのが普通である。ブランド
サイズMD
ニット・マー
の組み替えやシーズンごとの什器の編
プライスMD
ケット
成を自由に変えて、フレキシブルな顧
マーケットMD
パーツ・コレク
客対応ができる。小経費で運営ができ
シーンMD
ション
るのがメリット。セルフ販売中心
自主開発MD
シャツマート
自主編集MD
208
[参考資料]
時代とともに変わる売場分類
1 ファッショントレンド・生活者ニーズと共に変わる売場分類
 プレタ元年がアパレル売場の原点
ファッション商品が、時代とともに変化することは周知のとおりで
あるが、それとともに売場も変化する。一般的に売場が変わるのはリ
ニューアル(改装)の時だが、それだけでなく、リニューアル以外に
変化することがある。そのことは時代を遡ってみると鮮明になる。
1960年というから、いまから30年以上も前に、日本では初めて「プ
レタポルテ元年」が叫ばれた。つまり、この時期にアパレル業界が本
格的な既製服時代に突入したということで、東京婦人子供服工業組合
がまとめた「東京プレタポルテ50年史」によれば、1957年における婦
人服の既製服化率はわずか30%程度であった。
それが63年になると70%
に跳ねあがるのである。
この状況を具体的にいえば、1960年までの婦人服はオーダーメード
が中心であり、そのことは「57∼58年ごろのわが国では、婦人服の分
野ではイージーオーダーが全盛期を迎えていた」という『伊勢丹100年
史』が証明している。さらに興味深いのはこの100年史に記された次の
くだりである。
《こうした状況のもとで、当社では海外のファッション情報などを
研究した結果、やがて日本にも「新しい既製服時代」全盛の時代がやっ
てくる、との確信を抱くが、当時の婦人服業界では、こうした考え方
をもっているところは少なく、当社は素材開発を含め、独自に“新し
い既製服”への道をひらいていく以外に方法がなかった》
 海外提携がもたらした“第2期の売場”
最近の状況をみれば、
当時の婦人服業界が既製服に対して懐疑的だっ
た、というのも意外だが、これが現実の姿である。つまり、わが国の
アパレル業界にとっては、1960年前後が既製服化の勃興期だったとい
え、それからの進展は、まさに超スピードで時代を駆け抜けた。そし
て、この60年代を婦人服市場の第1期だとすれば、この時期にはイー
ジーオーダーと特選商品、それに単品商品が婦人服売場の3大要素に
なっていた。
このように、高度成長とともに女性のファッションは革命的に変化
した。そのことはメンズとレディスの消費傾向をみれば明らかである。
それまで“男性上位”だった消費が1972年を境に逆転、その差は年追
うごとに広がっていった。そして、婦人服市場は第2期に突入する。
209
いわゆる、これが量から質への移行である。
団塊の世代を対象にしたミセスファッションとして
「ミッシーカジュ
アル」が登場したのもこの頃である。そして、それまで買い揃えるこ
とに血眼になっていた女性に、このミッシーカジュアルは海外提携ブ
ランドをひっさげ、
“高級化”を訴えた。そこに誕生したのが“ベター
ゾーン”というカテゴリーである。
そのことは海外提携ブランドの発売時期が立証しており、1985年ま
でに発売された婦人服のライセンスブランド109を時系列でみると、
90%以上が70年代以降にデビューしており、このうち70年代に発売さ
れたブランドが半数以上にのぼる。
 DCブランドが塗り変えた概念
婦人服市場にとって第3期といえるのが、80年代になって一大ブー
ムを巻き起こしたDCブランドで、ここで売場は“質から感性”に比
重を移し始めた。DCブランドの台頭とは、かつての特選商品が大衆
化した、とみることもできる。かつて既製服が産声をあげた頃の特選
売場といえば、内外のオートクチュールデザイナーのブランドが主流
を占めた。その“デザイナーブランド”がわずか20年で大衆化してし
まったわけで、一連のインポートブランドにしても事情は似ている。
この結果、かつてベターゾーンを支えていたライセンスブランドが
ボリューム化し、ただ単に海外ブランドというだけではグレードが維
持できなくなってしまった。換言すれば、特選商品が大衆領域にまで
押し寄せ、これがベターゾーンを限りなく不透明にしてしまった、と
いうことなる。
そして、ベターゾーンの位置づけが不鮮明になる中で突出したのが
ボリュームゾーンの価格帯、つまり平場の価格である。たとえば、ジャ
ケットひとつをとっても、下は2万円台から6万円台までが平場で売
られている。有名デザイナーブランドが高嶺の花だった時代ならいざ
しらず、いまや“ベストゾーン”が大衆商品になりうる時代である。
現実に最近の平場では、
「もっとも手強い相手はDCブランドだ」と
いう指摘がある。DCブランドが単品を強化し始め、これがブラウス
やセーターの平場を脅かしている、というのである。もし、そうであ
るならば、バリュー・フォー・ザ・プライスが中途半端なベター商品
が駆逐されたとしても不思議ではない。
DCブームが沈静し、インポートブームも一段落した今は、いって
みれば婦人服市場が第4期に突入した状況だともいえる。そこでは、
本当に価値ある商品だけが生き残る。もちろん、ここでの“価値ある
商品”を判定するのは購入者であり、そこでは価格の高低だけでもっ
て価値を判断することは、はなはだ危険である。
210
ブランドバリューだけでなく、商品の感性と品質、価格のバランス
が問われる時代を迎えたということは、それだけファッションが成熟
したことを物語っている。そして、第4期を迎えた婦人服市場は、ま
さに“平場元年”といえるのかもしれない。
 ボーダーレス時代を迎えたアパレル売場
それにしてもファッションビジネスは、実に目まぐるしい。この10
年間を振り返ってみれば、10年前の1981年にアパレル業界は未曾有の
売れゆき不振に陥った。60年代から続いたアパレル消費の拡大に終止
符が打たれ、この年初めて婦人服市場は“減収”の憂き目にあうので
ある。
このため、アパレル企業の多くはマスマーチャンダイジングに歯止
めをかけ、小型ブランドの開発に力を注いだ。そして“大衆から分衆”
という言葉が流行し、アパレル業界は多品種・少量・短納期に雪崩れ
込んだ。
そうした一方で、これまた未曾有の景気が浮上した。それがDCブー
ムであり、感性を武器にしたDCブランドは破竹の勢いで市場を広げ
ていった。いってみれば不況と好況が同時進行したようなもので、マ
スマーチャンダイジングが否定されたようにみえながら、DCブラン
ドだけは年追うごとに肥大化し、ナショナルブランドにひけをとらな
い“大型ブランド”がいくつも誕生した。
ファッションビジネスにとって、1980年代はまさに“動乱の時代”
だった。業界始まって以来の販売不振に陥ったかと思えば、それを尻
目に空前のブームがわきあがる。さらにDCブームは、それまで立ち
はだかっていた高級と大衆という“国境”を崩壊し、高級消費現象に
口火をつける役回りを演じた。
DCブランドは、総じて価格が高い。それがブームになるというこ
とは、これはまちがいなく“高級品の大衆化”である。そして、こう
した高級消費が一連のインポートブームにつながっていくわけだが、
これも“バブル景気”の一つだった。
2 メンズ・レディスにみる売場の時系列的変化
 メンズにみる売場の時系列的変化
そこで、もういちどアパレル売場が社会変化に、どう対応してきた
かを考察してみよう。まず、メンズ売場からいえば、こちらも“プレ
タ化”によって、売場はガラリと変わった。かつてオーダーメードが
全盛の時には、背広やコートなどを“誂える”テーラー(洋服店)が
主流を占め、これにシャツやネクタイなどを販売する洋品店が加わり、
この洋服店と洋品店によってメンズ市場は構成された。
こうした二大勢力が崩れたのも、
じつは既製服化の進展が原因となっ
211
ており、既製服化がもたらしたトータルコーディネーションという概
念が、洋服店と洋品店の境界を、かぎりなく不透明にしてしまった。
つまり、一つのブランドで背広からシャツ、ネクタイまでを扱う、い
わばトータルコーディネート・ブランドが登場したのも60年代からで、
この代表的なブランドが「VAN」や「JUN」などであった。
当初はヤング向けのブランドから進展した“トータル化”は、当然
のことながら百貨店などの売場に、多大な変化を及ぼした。それまで
アイテム別に区分された売場に、ブランドごとのコーナーが生まれ、
これが“ハコ” と呼ばれるショップ・イン・ショップの原形になった。
そして、この“ハコ”と呼ばれるブランドコーナーが多様化し、これ
が平場に影響を与える、という循環を繰り返し、今日に至っている。
その一例をあげれば、かつて「VAN」や「JUN」が台頭してき
た時のハコは、トラッド(当時のアイビー)ファッションが中心で、
ここにヨーロピアンファッションが加わり、しばらくの間は、このト
ラッドとヨーロピアンがメンズ売場の両翼を担った。
一方、アダル向けにはどんなハコがあったかといえば、こちらはテ
イスト(感覚)というよりは、むしろグレードが優先された。その一
つが「特選売場」であり、これが増えるにしたがい、高級輸入品を主
体にしたブランドコーナーが生まれた。そして、この普及版として急
増したのがライセンスブランドのコーナーで、言い方を換えれば、こ
れら高級ゾーンの大衆版が平場ということになる。
 レディスにみる売場の時系列的変化
洋服店と洋品店が二極分化していたメンズ売場とちがい、レディス
のそれはオーダーメード(洋装店)が既製服に移行し、それが一気に
拡大した。また、メンズ売場がトータルコーディネーションを中心に
したコーナー(ハコ)が相次ぎ登場したのとは違い、レディス売場で
は単品平場の多様化が先行した。
もちろん、
レディスでも海外の高級ブランドなどは早くからコーナー
が設けられていたが、国産ブランドがコーナー展開するようになった
のは70年代を迎えてからである。それまでは、むしろテイスト別に平
場が分類され、こうした平場の多様化がファッションの多様化を促進
した。
同じアパレル商品でありながら、メンズとレディスが異なるのはテ
イストの幅である。ともすれば、ビジネスウェアに集中しがちなメン
ズは、テイストよりグレードが優先されがちで、このためテイストの
幅が狭い。トラッドやDC、イタリアン……などといったテイスト別
分類もあるが、売場をグレード別分類で展開するケースが少なくない。
これに対してレディスのテイストは、じつに幅広い。エレガンス、
212
スポーティ、マニッシュ、フェミニン、クラシック、フォークロア…
こうしたテイストの広がりが先行したレディスは、これに年齢別のセ
グメンテーションが加わり、メンズとは比べ物にならないぐらい売場
が多彩になった。
つまり、ターゲットを広くとったアイテム別の売場(単品平場)と、
これをテイスト別にまとめた単品平場、さらには年齢別の単品平場…
といったぐあいに、平場が多重構造になっているのもレディス売場の
特徴である。
3 ケーススタデー 伊勢丹の婦人服売場
1957年、ちょうど婦人服のイージーオーダーが全盛期を迎えた頃、伊勢
丹の社内では新戦略が検討されていた。欧米で台頭しつつある既製服を、
今後どのように扱っていくか、についての検討で、取引先などへの反応を
まとめた同社は、既製服化への第一歩を踏み出す方針を固めた。
その年の3月「服飾研究所」を新設し、同年春には「カジュアルショッ
プ」をオープンした。その狙いは、それまでアイテム別に販売されていた
スカートやブラウス、セーターなどの洋品を、ブレザーを中心に、色と素
材でトータルコーディネートしようという提案であった。同社は、これを
「マッチメイト」と呼び、その後、こうしたコンセプトにもとづく売場を
増やしていった。
また、これと前後して1956年には婦人肌着の総合売場を「ランジェリー
コーナー」に変え、さらに「婦人雑貨サロン」を新設した。この雑貨に関
していえば、まだ多くの百貨店がメンズとレディスをひとまとめにしてい
た頃であり、婦人雑貨だけを独立させる、というのは新しい試みであった。
一方、1958年になるとライフスタイルを意識した売場が、いくつか誕生
した。例えば「ジュニアミスショップ」や「ミセスショップ」がそれで、
最盛期を迎えつつあったイージーオーダー売場に新設され、これとともに
子供服やベビーショップも開設されるなど、女性のライフスタイルに対応
したショップの増設は、まさに新時代の到来を物語っていた。
●日本で初めて「ミッシー」を導入
1960年代に伊勢丹は、オーダーメードから既製服への転換に力を注
ぎ、プレタ時代への対応を急いだ。ちょうど日本経済が高度成長に突
入した60年代は、わが国のファッション産業にとっても揺籃期であり、
この新しい時代にそなえて同社は、あらゆる角度から売場の見直しを
行い、暫時、売場の変更を打ち出した。
そして、プレタ元年からプレタ最盛期を経て、70年代を迎えるのだ
が、ここで同社は思い切った売場改革を断行する。それが1971年に行
われた新宿本店の“リニューアル”である。すでにメンズだけを扱っ
た「男の新館」
(68年オープン)を新設していた同社は、メンズが抜け
213
た本店全館の活性化を計画していた。そして、これを具体化したのが
リニューアルである。
このリニューアルにあたって伊勢丹は、次の方針を打ち出した。
① ミッシーとヤングをはっきり分け、さらに双方を充実する
② 各フロアの性格を明確にし、用途の面からもトータル販売を積
極的に進める
③ 本店全体のグレードアップをはかり、マザーストアとしての質
を高める
これによって同社は、新たに“ミッシー”と呼ばれるゾーンを導入
し、ジュニアショップを3階から2階に移し、本館2階をヤング対象
に、3階をミッシー対象に整備し、婦人服各フロアの性格を明確にし
た。このほか2階にあった肌着売場も、主力となる客がミセス層だっ
たことから3階に移行した。
ここでいう「ミッシー」とは、新しい生活感覚をもったミセスをさ
している。当時、団塊の世代がミセス年齢に達し、それまでのミセス
とは異なるファッション感覚を持っているこの世代のミセス層が、ア
メリカで「ミッシー」と呼ばれていた。これに着目した伊勢丹が日本
で初めて使った名称で、ジュニア(16∼23歳)の次の世代として拡充
したジャンルである。
また、こうしたフロア展開と並んでコーナーやインショップの見直
しも計られた。
ファッション全体の流れが定型的な組合わせからアソー
トメントに移行する中で、こうした動きに対応できないインショップ
が生じ、この打開策として既設のインショップを整理し、売場全体、
フロア全体を客が自由に歩き、自由にコーディネートできる売場づく
りを目指した。
●量から質、そして感性へ
プレタ元年が叫ばれた60年代は、じつに目まぐるしい変化が続いた
時代で、既製服の浸透一つをとっても、1958年には38%程度に過ぎな
かった婦人服の既製服化率が62年には70%に跳ね上がった。これが婦
人服の消費を活気づけた。そして、プレタポルテの全盛期を迎えると、
こんどは海外ブランドが、まるで洪水のように押し寄せ、一方では百
貨店のPB(プライベートブランド)が相次ぎ発表された。
そんな時代に伊勢丹は大々的なリニューアルを打ち出したわけだ
が、そのリニューアルで同社は画期的なスペースをつくりあげた。そ
れが本店1階にお目見えした「サンジェルマン」である。これからの
商品は、それが使われる環境を意識して販売しなければならない、と
の考えに基づき開発されたもので、コミュニティスポットというネー
ミングがつけられた。
214
この「サンジェルマン」は、最新ファッションを提案する「ブティッ
クサンジェルマン」と休憩の場をファッショナブルにコミュニティス
ペースにした「カフェサンジェルマン」
、それにパーソナルギフトを集
約した「ギフトサンジェルマン」の3つのブロックで構成された。
このうち「ブティックサンジェルマン」は、最新ファッションを提
案するため、当時としては画期的な、1ヵ月半で商品を回転させる、
とうい短いサイクル展開を導入した。売場のビジュアルも斬新で、天
井の配管を剥きだしにし、まるで舞台照明のようなライティングで商
品を照らす、という手法を20年以上も前に実践していた。さらに注目
されるのは、ここで扱われたブランドで、山本寛斎をはじめ菊池武夫、
鳥居ユキ、さらに翌年からは三宅一生が加わるなど、70年代初頭にD
Cブランドを集約したのである。
このように、プレタ元年からわずか10年で、伊勢丹の売場は大きく
様がわりした。オーダーメードから既製服化に転換し、さらにアイテ
ム別のゾーニングにマーチャンダイジング・クラシフィケーションを
とり入れ、売場を細分化。たった10年で、量から質、そして質から感
性への提案を売場づくりに反映させた。
(参照資料=「伊勢丹100年史」
)
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