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第2章 モバイル WiMAX ベンダーの動向
モバイル WiMAX の商用化を控えて、主要メーカーの動きも活発になっている。最近の WiMAX ベンダー
の SWOT を分析するためにベンダーグループを 2 つに分けた。まず、モバイル WiMAX に主力としているメ
ジャーインフラベンダーを Tier1 グループとし、固定型 WiMAX 市場をベースにモバイル WiMAX 市場を攻
略している中小ベンダーを Tier2 グループとする。Tier1 グループはモトローラ、サムスン、ノーテル、アルカ
テル、ノキアなど 5 つのベンダーが、Tier2 グループは韓国のポスデータを含めて Alvarion、Navini、Redline、
Aperto、Proxim、Airspan などがある。
(1)Tier1 ベンダーの動向と戦略分析(主要戦略と製品ポートフォリオ、SWOT、海外進出)
①モトローラ
米モトローラは現在、ノキア、サムスンとともに 30 億ドル規模のスプリント・ネクステルのモバイル WiMAX
インフラの供給メーカーに選定され、無線ブロードバンドサービスの米 Clearwire と連携を結んだ。つまり、モ
バイル WiMAX 商用化が本格的に始まる前に事業の土台を固めたわけである。モバイル WiMAX 市場の開
花で実質的な恩恵を受けるベンダーとしてモトローラが挙げられるのはこのためである。
モトローラは、モバイル WiMAX 市場におけるエンド・ツー・エンド・ソリューションの提供を主な戦略として
おり、「MOTO Wi4」と名づけられたモバイル WiMAXのポートフォリオを取り揃えている。最近はモバイル WiMAX
のチップセットを開発、2008 年からスプリント・ネクステルに提供するという計画を明らかにした。チップとイン
フラ、端末につながる統合ソリューションとスプリント・ネクステルのようなメジャー移動通信キャリアとの契約締
結を基に今後のモバイル WiMAX 市場で優位に立つ可能性は高いと言える。
●図4 モトローラのモバイルWiMAX ソリューション「MOTO Wi4」ポートフォリオ
出典:Motorola, Global WiMAX Summit(2006.10)
第2章 モバイル WiMAX ベンダーの動向
23
モトローラの強みはチップセットから対応アプリケーションまで全分野をカバーするプラットホームラインナッ
プを取り揃えることができるという点にある。ルータから端末まで多様な WiMAX 設備を生産する能力を備え
たベンダーはごく一部に過ぎない。スプリントネクステルにおけるモバイル WiMAX ベンダーの選定過程に
おいても、世界 2 位の端末メーカーであることは非常に有利であった。
しかし弱点がないわけではない。伝統的な通信系インフラ市場にベースがなければ、IMS のような IPベー
スの有無線統合インフラ構築の経験はノーテルやノキアシーメンスに比べて劣る。これだけではない。ネット
ワーク部門の規模やインフラ生産経験などが端末部門に比べて弱く、モバイル WiMAX 以外の他の部門で
の経験が薄い。
●表3 モトローラのモバイルWiMAX 市場におけるSWOT 分析
Strength
エンド・ツー・エンドソリューションの
提供能力
内部環境 世界第2位の端末生産/販売能力
Weakness
交換機生産および運用経験不足で
固定と無線ネットワークでの統合能力不足
価格競争力に劣る
リッチなグローバル事業経験と総合提案力
Opportunity
スプリント・ネクステル契約受注
外部環境
Intel先行のモバイルWiMAX Ecosystemに参入
Threat
モバイルWiMAX事業を主力とする戦略→市場の活性化
をリードしなければならなく、それだけに失敗のリスクが
高い
出典:ATLAS Research Group
現在 モトローラが開発した WiMAX ソリューション「wi4」は固定系(fixed)、ポータブル(portable)、移動型
(nomadic)、モバイルアプリケーションに対応し、AP(Access Point)、CPE、チップセットなどモバイル WiMAX
ソリューションに搭載される設備と製品も含まれている。モトローラは 2006 年 8 月、モバイル WiMAX チップ
セットを開発して 2008 年から生産する自社のモバイル WiMAX 設備に搭載する計画を明らかにした。2008
年には同社初のモバイル WiMAX 端末を発売する予定で、CDMA/WiMAX、WiMAX/Wi-Fi デュアルモー
ド端末とモバイル WiMAX シングルモード端末など多様な種類の端末を発売する計画である。
モトローラはインテルのチップセットを利用しているが、独自のモバイル WiMAX チップセット開発を推進
している。同社のモバイル WiMAX チップセット開発は WiMAX 開発と普及に力を注ぐための戦略の一環で
ある。モバイル WiMAX チップセットは端末とモジュールの音声、データ、動画機能の改善に焦点を当てる
計画であり、2008 年からスプリント・ネクステルを始め、北米や日本など世界通信キャリアに供給されるモバ
イル WiMAX インフラに搭載される予定だ。
WB マーケティングレポート Vol.2 モバイル WiMAX ベンダーの国際戦略と無線ブロードバンド市場拡大のシナリオ
24
インフラ設備と端末だけではなくチップセット開発を通じてエンドトエンド(end-to-end)方式のモバイル WiMAX
ソリューション分野のリーダーになるという戦略を本格化しているわけだ。1 月には米国の半導体企業の Texas
Instruments とモバイル WiMAX チップセット開発のために提携した。
●図5 モトローラのWiMAX AP設備及び端末開発現状及び日程
出典:Motorola's Wireless Wi4 Solutions, 2006.10
モトローラは 2006 年、米スプリント・ネクステルと Clearwire、パキスタンの Wateen Telecom およびバング
ラデシュの Agni Systems と WiMAX 提携を締結した。なお、世界の 20 ヶ所以上で 802.16e モバイル WiMAX
試験サービスを実施した。Clearwire とスプリント・ネクステルはアメリカ内の 1・2 位の 2.5GHz 帯域の保有事
業者である。パキスタンの Wateen Telecom とはもっとも具体的なモバイル WiMAX 事業の推進経過を見せ
ている。Wateen Telecom の 3.5GHz 帯無線ブロードバンドの音声やデータ事業とパキスタンの都心向けの
Warid Telecom International の第 1 段階の事業推進及び完成段階に入り、最近は Wateen Telecom の
WiMAX/IMS ネットワークを通じたエンド・ツー・エンドの音声およびデータの試験サービスに成功した。2007
年 1 月にはマレーシアの通信事業者の Maxis と協力し、マレーシア最初のモバイル WiMAX 実証実験を実
施した。
②サムスン
携帯電話市場における存在感に比べ、ネットワーク設備市場では相対的に存在感がなかったサムスンは、
モバイル WiMAX をきっかけに世界インフラ市場に晴れやかなデビューをしている。米国という巨大市場で
スプリント・ネクステルとの契約に成功したのが決定的と言える。
第2章 モバイル WiMAX ベンダーの動向
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世界 3 位の携帯電話端末メーカーでありながら、韓国での WiBro 商用化の経験がスプリント・ネクステル
との契約に導いたと思われる。この他、すでにテレコム・イタリアを始め日本の KDDI、イギリスの BT、ブラジ
ルの TVA、ベネズエラのオムニビジョン、そしてサウジアラビアと南アフリカ共和国などと、モバイル WiMAX
への供給契約を締結したことで現在レファレンス部門で先頭を走っている。
サムスンは、2003 年から韓国のモバイルブロードバンドサービスである WiBro の開発に着手している。韓
国電子通信研究院(ETRI)やインテルなどと協力して、2005 年には WiBro 基地局システムとモデムチップ開
発を終え、2006 年上半期にすでに商用化端末を発売している。また同社は、世界初の商用サービスを始め
た韓国の KT と SKT にインフラを供給していることから、実際のフィールド運用面で他のベンダーに先駆け
ているベンダーである。
しかしノキア、エリクソン、アルカテル、ノーテル、モトローラなどメジャーベンダーに比べ 、世界の通信イ
ンフラ市場における海外事業経験と顧客ベースの弱さが、サムスンにとっての最大の弱点といえよう。
●表4 サムスンのモバイルWiMAX市場に於けるSWOT分析
Strength
Weakness
WiBroを通じてモバイルWiMAX 商用化を先導した 世界ベースの通信インフラ市場におけるポジション未確
リッチな経験
立不足
チップ、端末、装備を含めるend-to-endソリューショ
グローバルなエコシステム構築に欠ける
内部環境
ン提供可能
Sprint Nextelとの契約など、実績部門で機先を制 端末と家電事業を主力とする営業網と、
する。
ネットワーク並みの総合提案力不足
Opportunity
外部環境
Threat
モバイルWiMAXへの搭載領域が家電にまで拡大 モトローラやアルカテル、ノーテルなどのブランドや
すると、家電部門の競争力活用も可能
マーケティングと中国を含め後発中小企業の価格攻勢
出典:ATLAS Research Group
サムスンは韓国市場での大規模の商用ネットワーク構築と運用サポート経験を基にモバイル WiMAX の
CPE 生産部門ではモトローラより優れていると評価されている。さらに、半導体や TV、キャムコーダ、MP3 な
ど、家電部門では世界的レベルであるだけにモバイル WiMAXが多様なポータブル機器で「personal broadband」
として確実な位置を取ることになれば最大のベネフィットを享受すると予想される。
最近は同社が公開した WiBro ノート PC はこのような戦略ロードマップの始まりと見られる。つまり、サムス
ンにとってモバイル WiMAX はグローバル通信インフラ市場に参入できる戦略的な武器としてチップ-端末
-インフラにつながるトータルソリューション提供を目指している。なお、サムスンはモバイル WiMAX に関す
WB マーケティングレポート Vol.2 モバイル WiMAX ベンダーの国際戦略と無線ブロードバンド市場拡大のシナリオ
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る特許件数において約 30%を占めている。
サムスンのモバイル WiMAX インフラは大きく RAS(Radio Access Network)と ACR(Access Control Router)
2 つに分けられる。都心向けから郊外向け、高容量から低容量まで多様な製品を提供し、大型ビル向けの
インビルディング(in-building)ソリューション、マクロ地域、ホットゾーン(hot-zone)、キャンパス、企業ネットワー
クなど多様な環境に対応できるソリューションを提供している。技術的には MIMO(Multiple Input Multiple
Output)/Beamforming 技術に対応し、All-IP ベースの無線アクセスネットワーク構造や IPv4、IPv6 にも対応
する。
●図6 サムスンのモバイルWiMAXネットワークのアーキテクチャ
出典:サムスン(2005.09)
RAS は端末機と制御局(ACR)の間に存在し無線経路を通じて端末機から配信されたデータを収集して
制御局に配信して制御局からのデータを各端末機に配信する役割をする。RASの主要機能としてはモバイ
ル WiMAX 無線網の接続処理機能、無線資源の管理機能、移動中でもシームレスなサービス提供をサポー
トするためのモビリティ支援機能および安定したサービス提供に向けた QoS 管理機能などがある。
ACR は RAS とインターネット、またはサーバーにつながる IWF 機能を提供する。また RAS とインターネッ
ト間のデータを配信するルーター機能およびモバイル WiMAX の加入者やサービスおよびモビリティを制御
する機能を提供する。
第2章 モバイル WiMAX ベンダーの動向
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●図7 サムスンのWiMAXソリューションロードマップ
出典:サムスン(2005.09)
●表5 サムスンの基地局(RAS)製品群
Parameter
Standard
Compliance
RF multiple acess
scheme
Duplex Mode
Number of
Carriers/RAS
Number of
Sectors/Carriers
サイズ(HWD)
RAS Standard
U-RAS Mini
U-RAS HS
IEEE 802.16e
OFDMA
TDD
1~3 carriers
1 carrier
3 carrier
Up to 3 sectors
3 sectors
Omni
965 x 550 x 292mm
Primary Unit : 19” rack mountable,
4U height
1,800 x 700 x 600mm
Secondary Unit : 590x460x190mm
周波数 (GHz)
2.3, 2.5, 3.5
チャンネル Bandwidth
(MHz)
8.75/10 (to be 5/7/20)
MIMO
Smart アンテナ
(Beam Forming)
Network I/F
Tx Power
電源
○
2.3, 2.5, 3.5
8.75/10
(to be 5/7)
○
2.3, 2.5, 3.5
8.75/10
(to be 5/7)
n/a
○
○
n/a
FE, GE
(optional E1/T1)
20W / Sector
27/-48VDC
FE, GE
(optional E1/T1)
10W
27 / -48VDC
FE, GE
(optional E1/T1)
27 / -48VDC
* FE: Fast Ethernet/GE: Gigabit Ethernet
出典:サムスン(2007.01)
WB マーケティングレポート Vol.2 モバイル WiMAX ベンダーの国際戦略と無線ブロードバンド市場拡大のシナリオ
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RAS はさらに細分化される。まず U-RAS Mini は郊外地域や高速道路に相応しく、最初の網設計のため
の費用最適化ソリューションで Indoor/outdoor の同一プラットホームを活用する。U-RAS HS は大型ビル、
キャンパス、企業ネットワークに相応しいソリューションである。
●表6 サムスンのACR製品群
Parameter
ACR Standard
ACR Mini
Throughput
Over 3.6Gbps
Over 1.8Gbps
ACR-RAS : GE/FE
ACR-RAS : GE/FE
ACR-ACR : GE
ACR-ACR : GE
Number of supported
RAS*)
150 RAS (1FA/3S) 以上
75 RAS (1FA/3S) 以上
サイズ(HWD)
2,000 x 600 x 600mm
1,200 x 600 x 600mm
Interface
出典:サムスン(2007.01)
●表7 初期モバイルWiMAX端末の「SPH-M8000」詳細
端末のイメージ
主なスペック
周波数: WiBro 2.3GHz
LCD: 2.8" TFT 26万 QVGA
カメラ: デュアル130万 + 30万画素
クワーティ(QWERTY)キーボード
OS: ウィンドウ2003 Second Edition (ポケットPC)
IMS対応: VoIP / Push-To-All / Video Telephony
衛星DMB対応、Bluetooth 、TV-OUT端子対応
出典:セティズン(www.cetizen.com)
サムスンは携帯電話端末市場での強みを生かして世界に先駆けてモバイル WiMAX 端末市場でも確固
たる位置を占めている。同社は、2006 年の 1 月に開かれた CES で世界初で開発した WiBro システムととも
に世界初の PDA 型のモバイル WiMAX 端末「SPH-M8000」と一般携帯電話式のモバイル WiMAX 端末
「H1000」を展示し、多者間のテレビ会議、VOD、ウェブサーフィンなどのサービスを披露した。
スペインのバルセロナで開かれた「3GSM World Congress 2007」では、モバイル WiMAX 「Wave2」バー
ジョンのシステムを公開し下り最大 34Mbps、上り最大 8Mbpsのデータ配信デモに成功した。Wave2 は MIMO
(Multiple Input Multiple Output)、スマートアンテナなど 4G 技術を組み合わせている。今回のデモでは同
社の PDA 型の WiBro 端末「M8100」USB ドングルなど多様な端末が展示され、多者間 TV 会議や VOD、イ
ンターネット検索などのサービスが披露された。
第2章 モバイル WiMAX ベンダーの動向
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●表8 最新モバイルWiMAX 端末の「SPH-M8100」詳細
端末のイメージ
主なスペック
モバイルWiMAX MITs
周波数: モバイルWiMAX 1.8/2.3/2.5/3.5GHz
OS: ウィンドウズモバイル 5.0 (ポケットPC)
LCD: 2.8" TFT 6万5千(240x320)
IMS対応: VoIP、画像電話、PTT
カメラ: デューアル端末2百万 + 30万画素
地上波DMB対応、 TV-OUT端子対応
出典:ATLAS Research Group
●表9 サムスンのモバイルWiMAX新規端末3種類
端末のイメージ
主なスペック
モデル名: SPH-M8100
周波数: モバイルWiMAX 1.8/2.3/2.5/3.5GHz
OS: Windows Mobile 5.0 (ポケットPC)
LCD: 2.8" TFT 6万5千(240x320)
IMS対応: VoIP、テレビ電話、PTT
カメラ: デューアル2百万 + 30万画素
地上波DMB対応、 TV-OUT端子対応
モデル名: SPH-H1200
コンセプト: モバイル WiMAX/HSDPA統合モデム端末
USB端子搭載ノートPC、PMP、デジカメなど多様な端末
でWiBroサービスに対応
モデル名: SPH-P9000
サイズ/重量: 143 x 94.3 x 29.75mm, 560g
OS: Windows XP Home Edition
LCD: 6万5,000カラーTFT-LCD
技術: モバイルWiMAX/1x EV-DO複合端末
カメラ: 130万画素
キーボード: フォルダ型 full keyboard
30GB HDD
出典:ATLAS Research Group
一方サムスンは、CDMA インフラと端末事業でクアルコムに支払わなければならなかった莫大なロイヤル
ティの二の舞を演じないよう、最初からモバイル WiMAX 事業のコアであるチップセットを独自生産する計画
を進めてきた。しかし、同社は 2006 年 6 月に商用化された WiBro インフラに独自的なチップではない Beceem
のチップを搭載した。当初、Runcom のチップを搭載する方針を示していたが、電力消耗問題など技術的イ
WB マーケティングレポート Vol.2 モバイル WiMAX ベンダーの国際戦略と無線ブロードバンド市場拡大のシナリオ
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シューや投資戦略のため、Beceem にパートナーを替えたものと知られている。
独自のチップを開発しながらも一応迅速なシステム商用化に向けて外部の専門企業にアウトソーシング
をする方向を選択した。これは Beceem チップを通じて時間を儲けて完成度の高いモバイル WiMAX チップ
セットを開発することに力を入れる戦略であると見られる。2006 年 9 月、同社の社長である李奇態氏は「モバ
イル WiMAX チップを直接設計する予定だ。また生産は競争力のある企業を通じて進んでいきたい」と語っ
た。業界では、2007 年にはサムスンのチップセット事業が本格的な軌道に乗り、目に見える成果を達成でき
ると見ている。サムスンが独自のモバイル WiMAX チップセットの開発に成功する場合、ネットワーク設備と
端末までを独自に調達できる有利なポジションを確保するようになる。
③ノーテル
W-CDMA 部門を売却して IP 系インフラ設備部門に全力を注ぐと宣言したノーテルの戦略は、価格と MIMO
部門に焦点を当てている。同社はここ 7 年間、OFDM と MIMO 開発部門への R & D 投資を断行し、これを
通じてその他のベンダーに比べて bit 当り約 3 倍安い価格で WiMAX インフラ設備生産が可能だと主張し
ている。
●図8 ノーテルのモバイルWiMAX戦略の概念図
出典:Nortel, Global WiMAX Summit(2006.10)
ノーテルは MIMO インフラ、MIMO チップセット、MIMO ベースの端末などがより効率的な WiMAX サービ
スを実現すると主張している。専門家は、ノーテルがその他のベンダーに比べてインフラ生産と設計のきち
んとした目標とコンセプトを持っているのは良いが、MIMO は WiMAX 技術の全てではなく、特定部門に過
剰集中することは危険の確率が高いと指摘している。また、R & D 部門に昔から投資している上、技術的な
完成度が高いと言うもののこれをインフラ設備契約にまで結ばせていないと評価している。スプリント・ネクス
第2章 モバイル WiMAX ベンダーの動向
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テルの競争入札に参加したが、モトローラとサムスンに敗れ、Airspan が OEM 方式に生産した固定型 WiMAX
インフラでドイツや台湾などで小規模のプロジェクトを受注するのに止まった。
スプリント・ネクステルがモバイル WiMAX システムに MIMO を追加すると宣言する場合、受注の可能性は
ある。ノーテルはスプリント・ネクステルに CDMA インフラを供給した経験がある。スプリント・ネクステルがサ
ムスンやモトローラより協力が容易なベンダーを希望する場合は、ノーテルがインフラ供給メーカーに選定さ
れる可能性もある。とにかく、ノーテルが本拠である北米市場でスプリント・ネクステルを含めてレファレンスを
確保するのに失敗する場合、結局は WiMAX というレースで生き残りにくいだろう。
●表10 ノーテルのモバイルWiMAX 市場におけるSWOT分析
Strength
Weakness
MIMO中心の確かなモバイルWiMAXの詳細戦略
MIMOだけに集中する戦略はリスクが高い
の確保
内部環境
Sprint Nextelとの契約締結失敗
長期間のR&D投資による相当のIPRと特許保有
→特に重要な契約なし
Opportunity
外部環境
GSM装備を供給された開発途上国の
既存通信事業者と契約締結の可能性あり
Threat
モトローラ、サムスンに契約受注部門で
シェアを奪われる可能性あり
出典:ATLAS Research Group
ノ-テルはコア(Core)ネットワークを始め、基地局、NMS(Network Management System)、端末までを総
括するエンドトエンド(end-to-end)ソリューションを提供している。コアネットワークソリューションは、ASN(Access
Service Network)ゲートウェイと CSN(Connectivity Service Network)アーキテクチャで構成されて基地局の
設備としては MIMO 技術を適用した WiMAX BTS5000 製品群を提供している。端末は CPE 程度のソリュー
ションのみを提供する。
ノーテルは 2006 年 12 月、台湾の Chunghwa Telecom とモバイル WiMAX ネットワークの設備供給契約を
締結した。これは、ノーテルが IP 系インフラ設備市場に力を注ぐと宣言した以来、初めての具体的な成果で
ある。これによって、同社は Chunghwa Telecom に MIMO 技術が搭載された 802.16e Wave2 基地局と Access
Service Network Gateways、顧客宅内装置、ネットワーク管理プログラム、ネットワーク統合及び最適化サー
ビスを提供することになる。
この他にも日本の「National Broadband Connectivity 2010」の試験サービス事業に参入して Toshiba と提
携を締結し、WiMAX 基地局及びターミナル、エンジニアリングサービスを提供する計画だ。現在、ノーテル
WB マーケティングレポート Vol.2 モバイル WiMAX ベンダーの国際戦略と無線ブロードバンド市場拡大のシナリオ
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のモバイル WiMAX ソリューションは、ドイツ、カナダ、ギリシア、ロシア、メキシコの試験サービスで活用され
ている。
●図9 ノーテルのモバイルWiMAXソリューション
出典:ノーテル ホームページ(2007.01)
●図10 ノーテルのモバイルWiMAX基地局設備 「WiMAX BTS 5000」
出典:ノーテル ホームページ(2007.01)
④アルカテル
スウェーデンのエリクソンに次いで世界 2 位のインフラベンダーであり、ルーセントを買収したアルカテル
は、固定系とモバイル WiMAX をデュアルスタックに搭載した統合型インフラ生産に重点を置いている。また、
ソフトウェアグレードアップを通じて複数標準と周波数に対応できる「SDR」(Software Define Radio)基地局の
生産に焦点を当てている。
第2章 モバイル WiMAX ベンダーの動向
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●図11 アルカテルの統合型モバイルWiMAX戦略イメージ
出典:アルカテル, Global WiMAX Summit(2006.10)
同社の WiMAX 戦略は、SDR 方式の Evolium 基地局に集約されている。この基地局はモジュール方式の
アーキテクチャを採用して、固定系とモバイルとに関係なく多様な WiMAX 周波数に対応できるのが特徴だ。
これは、モバイル WiMAX だけに焦点を当てる大手ベンダーとは異なり、既存技術を単一プラットホームに
統合して提供するのがアルカテルの最大競争力だと言える。
アルカテルは GSM インフラを供給した発展途上国市場を注目している。インド、アフリカ、ロシアなど turn
-key 方式のインフラを供給した国々の固定・移動通信キャリアが、DSL の拡大や DSL の劣悪な地域を対象
に、地域網あるいは全国網を構築するのに自社の統合型 WiMAX ソリューションに越したことはないと期待
している。
しかしながらアルカテルの弱点は、多様な機能をサポートする統合ソリューションであることから、高価であ
る可能性が高く、これまで固定系でもモバイルでも、実際に商用サービス契約を締結した事例がなかったと
いう点だ。したがって、モトローラとサムスンなどに比べて、コストパフォーマンスという側面で遅れていると評
価されている。
アルカテルは 2006 年初めにモバイル WiMAX 基地局を導入し、モバイル WiMAX 市場のイニシアチブを
獲得するための素早い行動に出ている。同社は 2006 年の半ばからモバイル WiMAX の商用ネットワーク構
築が可能だと明らかにした。
WB マーケティングレポート Vol.2 モバイル WiMAX ベンダーの国際戦略と無線ブロードバンド市場拡大のシナリオ
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●表11 アルカテルのモバイルWiMAX市場に於けるSWOT分析
Strength
内部環境
Weakness
世界2位の装備ベンダーとして 既存の顧客ベー
高価の装備で価格競争力に欠けている
スが広い
SDRベースの統合型WiMAX装備の生産能力 実際にモバイルWiMAXの商用装備の契約締結経験なし
Opportunity
外部環境
Threat
GSM装備を供給した開発途上国市場の既存の モバイルWiMAXに特化し、
通信事業者と契約締結する可能性あり
全てをかけるベンダーとの競争に不利である
出典:ATLAS Research Group
●図12 アルカテル統合WiMAXソリューション
出典:アルカテル ホームページ, 2006.10
アルカテルの Evolium WiMAX ソリューションは、モジュール方式のアーキテクチャを採用して固定系とモ
バイル WiMAX、両方に対応できるエンド・ツー・エンド統合ソリューションを提供する。「Evolium9116WiMAX」
基地局設備を基に、アクセスコントロールおよび加入者認証を処理する「Evolium 9160 WiMAX」アクセスコ
ントローラー、ネットワークマネージメントを担当する「Evolium 1353 WiMAX Radio Operation & Maintenance
Center」システムで構成されている。2.3GHz、2.5GHz、3.5GHz の周波数帯域に対応し、モバイル WiMAX
の場合は無線インターネットに加えてモバイル VoIP や PTT、モバイル IPTV などのアプリケーションにも対
応している。
一方、アルカテルはここ 1 年間、WiMAX フォーラムに積極的に参加し、インテル、KT、サムスンなど主要
パートナーとともにインフラの互換性確保とモバイル WiMAX 市場での影響力を確保するために努力してき
た。特に、インテルとの提携関係を通じて 802.16eの標準承認と両社製品の互換性の確保、モバイル WiMAX
のマーケティング部門で協力している。
第2章 モバイル WiMAX ベンダーの動向
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