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基調講演(高木聡一郎) - 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
基調講演 ブロックチェーン概要と可能性 2016年9月8日 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 研究部長/准教授/主幹研究員 高木聡一郎 1 自己紹介 • • • 国際大学GLOCOM 研究部長/主幹研 究員/准教授 GLOCOM ブロックチェーン経済研究ラボ 代表 専門は情報経済学 – 研究ドメインは「情報技術×経済学」 – オフショア開発と雇用・生産性 – クラウドコンピューティングのマクロ経済への影 響 – ITと組織形態(オープンデータ、マスコラボレショ ンなど) • 情報経済学から見たブロックチェーン 2 構成 1. GLOCOMにおけるブロックチェーン研究 2. ブロックチェーン入門 3. ブロックチェーンを深く考えるための5つのキーワード 3 国際大学GLOCOMにおける ブロックチェーン研究 国際大学GLOCOMでは、2016年3月に「ブロックチェーン経済研究ラボ」を立ち上げ、各種セミ ナー、研究サロン、シンポジウムの開催、実証実験等に取り組んでいます。 ラボ設立(2016年3月) 実証研究開始(2016年6月〜) シンポジウム(本日) 研究の観点 • ブロックチェーン“経済研究”ラボ • ブロックチェーンにより生じる社会・経済システムの変化 – – – – 通貨/金融システム/金融政策 企業組織/インセンティブ/戦略 創造性/人材 「効率的な資源配分」 • 客観的、中立的、学術研究 • イノベーションのサポート 5 ブロックチェーン入門 6 ブロックチェーンの3大要素 データの連結 改ざん困難 + 情報資産と エンティティの紐 付け 情報の所有、流通、 用途の管理 + P2Pでの データ管理 信頼性向上 中央管理者不要 7 ブロックチェーンの全体像:2段階処理 ブロックチェーン 10分 ブロック1 ヘッダー ( ブ第 ロ二 ッ段 ク階 の 連 結 ) 前のブロックヘッ ダーのハッシュ値 10分 ブロック2 ヘッダー 前のブロックヘッ ダーのハッシュ値 H H ブロック3 ヘッダー 前のブロックヘッ ダーのハッシュ値 ハッシュ木の ルート ハッシュ木の ルート ハッシュ木の ルート TX1-1 TX2-1 TX3-1 TX1-2 TX2-2 TX3-2 TX1-n TX2-n TX3-n ハッシュの ルート ( 取第 引一 の段 集階 約 ) H ハッシュ 値 ハッシュ 値 H H ハッシュ 値 ハッシュ 値 ハッシュ 値 H ハッシュ処理 ハッシュ 値 H Coinbase T TX2-1 TX2-2 ・・・ TX2-n 一つ一つの取引 8 (トランザクション) P2Pネットワークにおけるデータの流れ 新規ブロック作成 新規TX確認 新規TX確認 確認! 新規TX作成 P2Pネットワーク Miner 新規TX確認 確認! 新規TX確認 新規TX作成 確認! 9 どの台帳を正しいとするか? バージョンA Block Header Block Header TX1 Block Header TX1 TX1 TX2 TX2 TX2 ・・・ ・・・ ・・・ Block Header Block Header TX1 Block Header TX1 TX1 TX2 TX2 TX2 ・・・ ・・・ ・・・ バージョンB コンセンサスが大事 バージョンA Block Header Block Header TX1 Block Header TX1 TX1 TX2 TX2 TX2 ・・・ ・・・ ・・・ Block Header Block Header TX1 Block Header TX1 TX1 TX2 TX2 TX2 ・・・ ・・・ ・・・ バージョンC 10 コンセンサスの方法 最も長いブロックチェーンを正しいものとする ブロック ブロック ブロック ブロック ブロック ブロック ブロック 偽造 ブロック 偽造 ブロック 偽造 ブロック ブロック ブロック • ずっと追いつかない(はず) • 正当なブロック作成に貢献した方が得 11 Proof of Work • ブロックができるまであえて時間(労力)がかかるように設定 • 新ブロックを作成した人には新規のビットコイン(現在は12.5BTC)が発行される ブロックヘッダーの詳細 バージョン情報 前のブロッ クヘッダー 難易度に指定された 閾値と比較 前のブロックのハッシュ値 ハッシュ木のルート タイムスタンプ H 小さい 新しいブロックとして ネットワークに提供 大きい 難易度 ナンス(ランダムな値) ナンスを変更 12 取引データの構造(概要) • 「受け取ったものを使う」ことで連結 • 送り先・持ち主は公開鍵暗号方式で管理 取引 Input Output 公開鍵/秘密鍵 取引 Input Output 取引 Input Output 取引 Input Output 取引 Input Input Output Output Input Output 13 ブロックチェーンの基本的な長所と課題 ○ △ 公開されているデータでも偽造しにくい 情報の共有に有効 主体と情報資産の関係を論理的にリンク可能 情報資産の管理に有効 分散型ネットワークでデータを管理 単一ポイントの脆弱性回避、インセンティブ 取引の認証に時間がかかる ブロック間隔、10分など スケーラビリティの問題 7tps / 単調増加 / 修正不可能 情報の秘匿性・セキュリティ 秘匿性、鍵の管理、異常時の処理 14 通貨以外の資産管理から契約の自動実行、 そして汎用コンピューティング基盤へ 汎用コンピューティング環境 スマート・コントラクト スマート・プロパティ • 通貨だけでなく幅 広い資産を登録・ 管理 • 資産にかかわる限 られた処理を自動 的に実行可能 • 汎用的なプログラ ムをブロックチェー ン上で動作可能 • イーサリアム、ハイ パーレッジャー等 15 スマート・プロパティ • 様々なプロパティ(資産)や取引をブロックチェーン上で登録、確認、移転できる可能性 ブロックチェーンで管理できる可能性があるプロパティの例 種別 例 一般 エスクロー取引、担保付取引、第三者裁定、複数者取引 金融取引 株、未公開株、クラウドファンディング、債券、投資信託、デリバティブ、 年金保険、年金 公的情報 不動産登記、自動車登録、事業者登録、結婚証明、死亡証明 ID 運転免許、IDカード、パスポート、有権者登録 民間 借用証書、ローン、契約、賭け、署名、遺言、信託、エスクロー 各種証明 保険証明、所有証明、公証 有形資産の鍵 家、ホテルの部屋、レンタカー、自動車へのアクセス 無形資産 特許、商標、著作権、予約、ドメイン名 出典:Swan, 2015 16 事例: Everledger ダイアモンドの特徴をデータ化し、ブロックチェーン上で持ち主を登録 http://www.everledger.io/ 17 法人登記×ブロックチェーン • 米国の100万以上 の法人がデラウェ ア州で登記、株式 公開企業の半数、 Fortune500企業の 65%。 • 企業の登記、株主 の登録・変更など の処理をスマート コントラクトを用い て迅速に処理 https://bitcoinmagazine.com/articles/delaware-blockchain-initiative-to-streamline-recordkeeping-for-private-companies-1462812187 http://www.coindesk.com/delaware-government-blockchain-shares/ • Symbiont社と提携 18 土地登記×ブロックチェーン • 制度やシステムが不完全な地域における導入には有効? グルジア(ジョージア) ⇒そもそも土地登記自体が不備 http://www.forbes.com/sites/laurashin/2016/04/21/republic-of-georgia-to-pilot-land-titling-onblockchain-with-economist-hernando-de-soto-bitfury/#4feff1d16550 ホンジュラス ⇒政治的理由でストップ http://www.coindesk.com/debate-factom-landtitle-honduras/ 19 スマート・コントラクトのイメージ 支払台帳の取引データ 債権処理BC TXID Output Index Signature Script (利用者の公開鍵、電子署 名) Amount (金額) Pubkey Script (宛先:債権者の公開鍵ハッシュ) 完済した! 債権台帳の取引データ TXID Output Index Signature Script (債権者の公開鍵、電子署 名) 債権内 容 Pubkey Script (宛先:利用者の公開鍵ハッ シュ) 契約プロ グラム 状態を「完済」に変更 ブロックチェーン間の連携 不動産登録BC 家の抵当権を抹消 TXID Output Index Signature Script (債権者の公開鍵、電子署 名) 抵当権 Pubkey Script (利用者の公開鍵ハッシュ) スマート・コントラクト=契約に定められた処理を自動的に実行 より汎用性を高めたものがイーサリアム ※但し、外部システムとの連携は課題 20 事例:電力のP2P取引 • ニューヨークのブルックリンで は、個人間で電力の取引がで きるような仕組みをEthereum で構築し、実証実験を行って いる。 • Ethereumのスマートコントラク トを活用。電力の余剰と不足 をトークン化して取引。 • 発電設備を持つ人が余った電 力を、電気を必要とする人が 直接購入する仕組み http://microgridmedia.com/its-like-the-early-days-of-the-internet-blockchain-basedmicrogrid-tests-p2p-energy-trading-in-brooklyn/ 21 オープン型 vs クローズ型 オープン (Unpermissioned) クローズ (Permissioned) 長所 • 秘匿性 • 強烈なネットワーク効果 • 高速処理 • コスト削減効果 • 自由にカスタマイズ 問題点 • データが丸見え • 合意形成・認証に時間 がかかる • 改変の自由度 • 従来方式とのコスト・性能 比較 • BCならではのユースケース それぞれに課題はあるが、解決策もあり得る 22 ブロックチェーンからビジネスモデル をどう発想するか? 着想のヒント 3大要素 • データの連携による改ざん不可 エンティティと情報資産の紐付け P2Pによる管理者不要・信頼性向上 秘匿性はあまり求められないが、偽造されては 困るもの • 第三者を含めて確認・検証できることが望ましい もの 例:各種登記、事業所登録、偽装防止(建築、自動 車、決算)、オープンデータ • 資産の所有者・利用者が転々と変更 • 情報資産の状態が変化 例:デジタルコンテンツの流通・課金、企業間の交換、 電子書籍の中古販売、シェアリング、貸会議室等 • • 耐障害性 分散型組織(DAO)の側面を活かした新しい サービス 例: 航空発券 (但し、超高速処理には向かない) Arcade City(ライドシェア)、Open Bazaar(商取引)、 23 Colony(仕事の受発注)、電力のP2P取引 ブロックチェーンをさらに深く考える ための5つのキーワード 24 ブロックチェーンをさらに深く考えるた めの5つのキーワード ① 自律分散型組織(DAO) ② 仲介者の役割 ③ マイクロ・トランザクション ④ 機能のリバンドリング ⑤ コイン・エコノミクス 25 ①自律分散組織(DAO: Distributed Autonomous Organizations) • ビットコイン・ブロックチェーンをデジタル資産の登録企業と考える 社員 社員 社員 完璧にコード 化された業務 社員 上司なし、雇用契約なし 社員 社員 コードに基づく仕 事の評価 社員 社員 コードに基づく 報酬支払 26 事例:Arcade City • Uberのようなライドシェアリングのサービスを提供 • Ethereumの仕組みを活用した「ドライバーが所有するライドシェアリング 企業」(1) • ドライバーが料金を自由に設定、配達や乗客のサポートなど付加サー ビスも自由に行うなどの自律性 • DAO(Distributed Autonomous Organization)の一例 組織としての付加価値を高めるために、 ドライバーが働くことで、自分のエクイティ の持ち分が増える、あるいはエクイティの 価値が上がるような仕組みが内在化され ているか? (1) http://www.prnewswire.com/news-releases/ridesharing-startup-arcade-city-launches-in27-states-300235186.html 27 事例:Colony 一見するとクラウドソーシングの ようだが、フリーランスで働く人々 が、特定のクラウドソーシング企 業に依存することなく、プロジェク トごとに協働することができるプ ラットフォーム https://colony.io/ 28 “The DAO事件” • 1.5億ドル相当の投資を集めた投資ファンドプラットフォームだったが、コードの 脆弱性により約5000万ドル相当のEtherが盗難される • その後、Ethereumがハードフォークにより盗難されたEtherを取り戻す • ハードフォークに反対する人々がEthereum Classicを立ち上げ、二つのバー ジョンが競合 • DAOに関する様々な課題が浮き彫りに(アプリとインフラの切り分け/適法性 /責任の所在/異常時の意思決定) 投資家 投資家 投資家 投資家 上司なし、雇用契約なし ブロックチェーンベースの投票で投資先を決定 起業家 投資家 投資家 投資家 投資家 29 ② 仲介者の役割 • 情報の非対称性下で資源の最適配分を実現するためには必要だった仲介者の役割 が変わる可能性 従来 売り手の情報/資源 情報の 非対称 性 取りまとめ/ 仲介 買い手の情報/資源 ブロックチェーン 売り手の情報/資源 信頼できる データ 買い手の情報/資源 30 ③ マイクロ・トランザクション • スマートコントラクトは契約にまつわる取引コスト(業務内容・結果の確認、請求、 支払)の多くを削減 • これまで取引コストにより成立しなかった経済活動が実現する可能性 金額 個別契約 (個別委託契約) 包括契約+電子的処 理 (金融取引等) 明示的な契約なし (口頭・現金払い) デジタル通貨+ スマート・コントラクト で実現する取引 頻度 31 事例:The 21 Marketplace (21.co) ビットコインによるマイクロペイメントを実装したAPIを実現。事前の契約・手続不要で API連携と支払を実現。 32 https://21.co/mkt/ Ping 21 (21.co) ウェブサーバーのモニタリングをP2Pで行い、行った分だけビットコインを得ることができる。 マシンの空き時間を有効に活用。 33 IoT×マイクロトランザクション • デバイス間のマイクロ契約により、IoTのタテ割りを解消 • 自分のためにデバイスが稼いでくれる? 管理者AのIoT 管理者CのIoT 管理者BのIoT 34 ④ 機能のリバンドリング • • • データが組織の外に存在 タテ割りの克服、データ中心の相互運用性 従来のAPとDBは分離される一方、コントラクト+決済・通貨+DBはバンドル A企業 AP ブロックチェーン B企業 コントラクト Middleware AP Middleware OS 決済・通貨 OS ローカル DB ブロックチェーン DB ローカル DB 35 ⑤ コイン・エコノミクス • ブロックチェーンは「アルゴリズムへの信頼」が鍵であり、オープンソースとの親和性 • それでは、どこで収益を出し、投資を回収するか? オープン・ソースのプラットフォーム+AP コインがブロックチェーンを動かすエンジン 36 取引が増えれば投資回収は可能 • 取引量が増えてくれば、コインの価値も上がる • 強力なネットワーク効果→先行者利益 • スイッチングコストの増大→イノベーションの阻害となるリスク Transactions/day Price($) 300000 1400 1200 250000 1000 200000 800 Transactions 150000 600 Price 100000 400 50000 0 2009/1/3 200 0 2010/1/3 2011/1/3 2012/1/3 2013/1/3 2014/1/3 2015/1/3 2016/1/3 37 さいごに • ブロックチェーンは生まれたての技術 • 分散型で業務を遂行できる革新性 • 課題は多いが、ビジネスチャンスでもある • どう使えるか、改善できるかのアイデア勝負 • 現在の業務要件に照らした経済性、比較優位性に ついては冷静な判断も必要 38