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明治学院大学機関リポジトリ
http://repository.meijigakuin.ac.jp/
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所有権留保と破産 〔東京地判平成27・3・4判時2268号
61頁〕
今尾, 真
明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report
of Institute for Legal Research, 32: 145-152
2016-07-31
http://hdl.handle.net/10723/2807
Rights
Meiji Gakuin University Institutional Repository
http://repository.meijigakuin.ac.jp/
所有権留保と破産
所有権留保と破産
〔東京地判平成27・3・4判時2268号61頁〕
今 尾 真
【事実の概要】
X(大手建設機械メーカー〔小松製作所〕のグループ会社として建設機械等の割賦販売等を営
む会社)は、A(土木・建築工事請負業、砂利採取および採石生産販売業、産業廃棄物収集、運
搬および処理業等を営む会社)との間で、平成24年9月20日、その所有にかかるブルドーザーを
所有権留保特約付で割賦販売する契約*1を締結し、同月29日Aにこれを引き渡した。また、X
は、平成25年5月30日にAとの間で、自走式破砕機(以下、上記ブルドーザーと併せて「本件各
機械」という)につき、上記ブルドーザーと同様の契約*2を締結し(以下、上記契約*1と併
せて「本件各契約」という)
、同月31日Aにこれを引き渡した。
ところがその後、Xは、Aが不渡りを出したとの情報を受け、平成25年9月4日に本件各機械
を引き上げ(以下、
「本件引上げ」という)
、同年12月27日、B(コマツ道東株式会社)に本件各
機械を合計3360万円で売却して換価処分(以下、「本件換価処分」という)を行い、処分代金か
ら振込手数料を控除した3359万円余りを受領した。
他方、Aは、平成25年9月20日、破産手続開始決定を受け、Yが破産管財人に選任された。な
お、本件各契約におけるAの残債務は、契約*1につき2033万円余り、契約*2につき3090万円
余りの合計5123万円余りであった。
そして、YがXに対し、本件換価処分にかかる3359万円余りは破産財団に組み入れられるべき
と主張したため、XがYに対し、Yが本件換価処分にかかる代金につき支払請求権を有しないこ
との確認を求めたのが本件である。
契約*1の具体的内容
①割賦代金支払期間:本件ブルドーザーの引渡完了日の属する月の翌々月より60か月。
②割賦代金:月額41万5千円、総額2490万円(消費税込み)。
③所有権留保:Xは本件ブルドーザーをAに引渡し後も、売買代金完済までそれの所有権
を留保する。
④使用貸借:Xは代金の頭金の支払いと引換えに本件ブルドーザーをAに無償で貸し渡す。
⑤期限の利益喪失:Aが手形を不渡りとしたときまたは破産の申立てをしたときは、本件
使用貸借は当然終了し、未払代金額につき期限の利益を失い、代金全額を支払う。
⑥機械の返還:使用貸借が解除されたまたは終了したときは、Aは本件ブルドーザーを直
ちにXに返還する。
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共同研究:債権法改正を考える
契約*2の具体的内容
①割賦代金支払期間:本件破砕機の引渡完了日の属する月の翌々月より48か月。
②割賦代金:月額68万6千7百円、総額3296万千6百円(消費税込み)。
③~⑥については、契約*1と同旨。
【判旨】
「留保所有権による担保権の実行には、目的物の所有権を売主に帰属させ代物弁済的に債権の
満足を得る帰属清算の方法と目的物を売却しその代金から弁済を受ける処分清算の方法があると
ころ、債務者保護の見地から、⑴帰属清算の方法において、①目的物の評価額が債務の額を上回
る場合は、債権者が債務者に清算金の支払又はその提供をした時に、②目的物の評価額が債務の
額を上回らない場合は、債権者が債務者にその旨を通知した時に、⑵処分清算の方法においては、
その処分時に、担保権の実行が完了したと評価すべきである。」
「本件において、原告が破産者に対し、本件引上げの際に、清算義務の不存在を通知した事実が
あったことは認められない以上、本件破産手続の開始前に、担保権実行が完了したとはいえない。
」
「所有権留保特約は、代金債権の担保に目的があり、担保権の設定という物権変動を観念し得
るところであり、また、その目的から破産手続との関係においても別除権(破産法六五条)とし
て扱われるべきところ、別除権を行使するためには、個別の権利行使が禁止される一般債権者と
の衡平を図る趣旨から、破産手続開始の時点で、当該担保権につき、対抗要件を具備しているこ
とを要するというべきである。
」
「本件各機械は登録制度のない動産であるから、その対抗要件は、引渡しとなり(民法一七八条)、
引渡しには、占有改定も含まれるところ、……このような、本件各契約の規定、建設機械の割賦
販売における取扱いの実情、破産者の占有下における本件各機械の管理態様等からすれば、破産
者は、本件各機械を、使用貸借に基づき直接占有するに至り、その際、以後代金完済までの間は、
原告のために本件各機械を占有する意思を表示したものといえる。」
【研究】
1 問題の所在
⑴ 争点
本判決においては、Ⅰ:Xによる本件引上げは、担保権実行を完了したと評価できるか、Ⅱ:
破産手続において、Xの留保所有権は別除権といえるか、そして、Ⅲ:いえるとして別除権行使
に際して破産手続開始の時点で対抗要件を具備していることを要するか(さらに、本件において
Xはその時点で対抗要件を具備していたといえるか)、のおおよそ3つの争点が問題となる。
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所有権留保と破産
⑵ 前提としての問題
これらの争点の前提として、所有権留保の法的構成(所有権的構成 VS 担保的構成)をどう考
えるか、また、所有権留保の果たす機能をどう捉えるか、すなわち、本件におけるような売主と
買主の二当事者間取引で 売主が所有権を留保する類型(「売主所有権留保」=「単純型」)は、目
的物として動産を対象とする場合にあっては、被担保債権と目的物の牽連性が濃厚なため動産売
買先取特権の機能を果たしているともいえるので、先取特権との関係を意識して問題解決を図る
必要があるように思われる。さらに、所有権留保は、学説の傾向として、譲渡担保と類似した担
保権と理解する見解が多く、譲渡担保の破産手続における取扱いとの対比も忘れてはならないで
あろう。
⑶ 本研究の視角
本研究においては、特に、上記争点ⅡとⅢを中心に、従来の判例・学説における判断枠組の正
当性を検証するとともに、所有権留保の法的構成やその果たす機能といった点を重視して、あら
ためて所有権留保の破産手続における従来の判例・学説の取扱いに対して、問題提起をしたいと
考える。
2 先例・学説
⑴ 所有権留保の法的構成
ア.判例
①従来の判例……所有権的構成に基本的に立脚して具体的紛争を処理
a)最判昭和49・7・18民集28巻5号743頁
→買主の一般債権者による目的物差押えに対して留保売主は第三者異議の訴えによりこ
れを排除しうる。
b)最判昭和42・4・27判時492号55頁
→買主から目的物を買い受けた第三者は即時取得の要件を充足しない限りそれの所有権
を取得しない。
c)最判昭和50・2・28民集29巻2号193頁
→自動車の留保売主たるディーラーからユーザーへの自動車引渡請求を権利の濫用とし
て排斥した。
d)最決昭和55・7・15判時972号129頁
→買主が留保売主に目的物代金の支払見込みのないままこれを転売したときは横領罪が
成立するとした。
②近時の判例……直接の言及はないものの担保的構成を窺わせると見えなくもない。
所有権留保の目的物(自動車)が他人の土地に放置されている場合、土地所有者に対し
て留保売主(信販会社)がその収去義務等を負うかにつき、買主の残債務弁済期到来の前
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共同研究:債権法改正を考える
後を基準に、それ以前は留保売主は目的物の交換価値把握権を有するにとどまるが、それ
以後は占有処分権能(換価処分権能)を有するに至ることを根拠に撤去義務を負うとした
(最判平成21・3・10民集63巻3号385頁)
。
イ.学説
①所有権的構成:所有権留保特約を文字通りに理解し、売買物件の所有者は売主のままであ
り、買主は代金完済という停止条件が成就したときはじめて所有権を取得
できる。
〈批判〉
所有権留保の実質が代金債権担保にあることに鑑みれば、売主の権利を担保目的に
制限すべきで、他方で、買主にも何らかの物権が帰属していると構成するのが事態に
適合的。
②担保的構成:所有権留保を個別動産譲渡担保の法的構成(担保的構成)とパラレルに捉え
る見解。
a)動産譲渡担保の法的構成……担保的構成
i)制限物権説:譲渡担保権者に所有権が移転することはなく、ただ目的物に制限物権
類似の担保権を取得するにとどまる(高木・334頁)。
ii)設定者留保権説:目的物の所有権が譲渡担保権者に移転することを一応認めた上で、
ただそれは債権担保の目的に応じた部分に限られ、残りは設定者
に留保されている
(この残り部分を設定者留保権という)
(道垣内・
299~300頁)
。
b)所有権留保の法的構成……担保的構成
iii)制限物権説:目的物の所有権は買主に移転し、留保売主には制限物権類似の担保権
が帰属する(高木・379~380頁、近江・324頁、米倉・378頁〔動産抵
抗権説〕
)
。
iv)物権的期待権説:売主に目的物の所有権が帰属するが、それは担保目的に制限され、
他方で、買主には物権的な権利(これを物権的期待権という)が
帰属する(道垣内・361~362頁、高橋・316頁)。
⑵ 所有権留保の実行
ア.判例……この問題を正面から取り上げた判例はない。
Cf.譲渡担保に関する判例が参考になる。
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所有権留保と破産
→帰属清算の場合、清算金があるときは留保売主から買主に対しその支払いあるいは
その提供があれば、
また清算金がないときには清算金の生じない旨通知した時点で、
さらに、処分清算の場合には、留保売主が目的物を第三者に処分した時点で、実行
が完了したと評価される(最判昭和62・2・12民集41巻1号67頁参照)。
イ.学説……譲渡担保と同様に考えてよいとする見解が多数。
⑶ 破産手続における所有権留保の取扱い
ア.別除権か取戻権か
①判例…所有権留保が別除権として扱われることを前提としている(最判平成22・6・4民集
64巻4号1107頁*)
。
*この判決の概要→留保売主が倒産手続(再生手続)開始決定までに対抗要件を備えて
いないときは、当該留保売主は、留保した所有権を別除権として行
使することはできないとした。
Cf.所有権留保を別除権ないし更生担保権とした下級審裁判例
a)別除権→札幌高決昭和61・3・26判タ601号74頁。
b)更 生担保権→諏訪簡判昭和50・9・22判時822号93頁、大阪地判昭和54・10・30判時
957号103頁。
②通説……すでに買主が条件付所有権という物的支配権を目的物について取得している以
上、留保所有権は本来の意味での所有権ではありえず、代金債権を担保する目的
の担保権の一種であるとする点でほぼ一致(伊藤・346頁)⇒所有権留保=別除権。
③有力説……所有権留保を取戻権とした上で民事再生・会社更生にあっては場合に応じて権
利行使に制限をかける(中止命令〔民再31条・会更24条1項〕でコントロール
とする見解(道垣内・367頁)
⇒所有権留保=取戻権。
イ.破産手続開始時点での対抗要件具備の要否
①判例……留保売主が倒産手続(再生手続)開始決定までに対抗要件を備えていないときは、
当該留保売主は、留保した所有権を別除権として行使することはできない(前掲
平成22年最判*)
。
→この判決の射程は、本件(破産手続にも及ぶ)。
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共同研究:債権法改正を考える
*〈判旨〉
「再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者の別除
権の行使が認められるためには、個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらな
いで別除権を行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣旨から、原則として再生手
続開始の時点で当該特定の担保権につき登記、登録等を具備している必要があるのであって(民
事再生法45条参照)、本件自動車につき、再生手続開始の時点で被上告人を所有者とする登録が
されていない限り、販売会社を所有者とする登録がされていても、被上告人が、本件立替金等
債権を担保するために本件三者契約に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許
されない。」
②学説
a)対抗要件必要説……別除権者がその権利を第三者に主張するために実体法上対抗要件
の具備が求められている場合には、手続開始時点で対抗要件を備
えなければならない(伊藤・431頁)。
〈根拠〉
i)破産債務者・再生債務者の第三者性から別除権者に対抗要件具備を求める見解(野村・
山本(和)
)
ii)他の一般債権者に優先するための権利行使(保護)要件としてこれを求める見解(甲
斐・河上)
。
b)対抗要件不要説……所有権留保については物権変動が生じないため対抗要件を不要と
する(道垣内・362頁、印藤85頁)。
3 本判決の意義・位置付け
⑴ 意義……本判決は、争点Ⅰにつき、担保権実行の完了については、目的物の引上げのみでは
足りず、破産手続開始の時点では担保権の実行は完了していないとした上で、争点
Ⅱ・Ⅲについて、破産手続における留保所有権は別除権であると解し、その行使に
際しては、破産手続開始の時点で対抗要件を具備していることを要するとした。
そして、登録制度のない本件各機械の対抗要件は「引渡し」(民178条)であると
ころ、本件各契約においては、破産者Aが使用貸借契約に基づき本件各機械を占有
して善管注意義務を負う条項が存在していたこと、登録制度に代わる譲渡証明書が
Aの代金完済後に発行が予定されていたこと、本件各機械に所有権留保のステッ
カーが貼られてAのもとに存する他の物件と混同することのないように管理されて
いいたこと等から、本判決は、Xが占有改定により本件各機械の引渡しを受けたも
の(対抗要件具備)と認定し、Xの別除権行使を認めた。
⑵ 位置付け……本判決は、所有権留保の実行の意味つき多数学説の考え方に立脚した上で、破
産手続における留保所有権を別除権と解して、判例・通説の立場を踏襲すると
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所有権留保と破産
ともに、別除権行使に際しても、破産手続開始時点で留保所有権が対抗要件を
具備していなければならないとして、これまた判例・多数学説の考え方に依拠
した⇒オール判例・通説。
4 若干の検討
⑴ 所有権留保の法的構成
所有権留保の形式(所有権の不移転=物権変動不存在)に着目すると、買主に目的物の所有
権が移転し、留保売主には制限物権類似の担保権が帰属するという構成は採り難く、留保売主
に目的物の所有権が依然帰属しているが、それは担保目的に制限されたもので、他方、買主に
は物権的期待権が帰属すると構成するのが素直な理解とも思われる(道垣内説)。
〈補足〉
所有権留保特約付売買に関して、倒産手続における未履行双務契約該当性(破産53
条、民再49条、会更61条)を否定することができる。すなわち、売主が尽くすべき所
有権移転義務を未だ尽くしていない売買契約(履行未完了の契約)と考えれば(制限
物権構成を前提とすれば)
、破産法53条等の既定の適用可能性が出てくるが、物権的
期待権構成を採るならば、
売主としてはもはや積極的になすべき義務を負っておらず、
同条等の適用はないといえるメリット(管財人等の契約解除により留保売主が受領し
た代金の返還義務を負う一方で、中古品として価値が下落した目的物を押しつけられ
るなどの留保売主の不利益を回避できる)がある。
⇔しかし、所有権留保の実質は、売買代金担保の機能(≒動産売買先取特権)を営むこと
から、制限物権構成が妥当であると考える。もう一歩踏み込めば、米倉先生の抵当権説
に類比して、動産売買先取特権説(先取特権構成)とでもいうべきか?
⑵ 破産手続における所有権留保の取扱い
ア.別除権か取戻権か
→所有権留保の形式に着目すれば、倒産処理手続においては、留保所有権を取戻権(破産
62条・民再52条・会更64条)として、必要に応じてその権利行使に制限をかければよい(Ex.
民事再生・会社更生にあっては中止命令〔民再31条・会更24条1項〕でコントロール)
と解することもできよう(道垣内説)
。
⇔しかし、道垣内説の所有権不移転⇒取戻権という理解は、いかにも形式的。やはり所有
権留保の実質を重視すれば、それは売買代金担保権といえるので、別除権と解すべき。
イ.対抗要件具備の要否
→破産手続開始時点で留保所有権は対抗要件を具備している必要はない。
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共同研究:債権法改正を考える
〈根拠〉……そもそも所有権留保には対抗要件(=公示手段)がないと端的に理解すべき。
Cf.なお、道垣内説によれば、所有権留保においては基本的に物権変動がないから、留
保所有権は対抗要件具備の必要がないとでもいうことになろうか?
⇒したがって、留保売主は、破産手続において対抗要件なくして別除権を破産者に行使す
ることができる。
つまり、動産売買先取特権の破産手続における別除権行使と同様に理解する。
⑶ 総括
ア.本判決の評価……留保所有権を破産手続においては別除権と解する点および本判決の結論
に対しては賛成するが、別除権行使に際して対抗要件を具備する必要が
あるとした判示については、賛成しえない。
イ.私見……所有権留保の果たす機能という観点から破産手続において留保所有権を別除権と
解した上で、動産売買先取特権の行使と同様に、対抗要件なくして、これを行使
4
4
4
することができると解すべき⇒対抗要件不存在説。
〈根拠〉
所有権留保が果たす売買代金担保という機能を重視し、実体法上動産売買先取特権
類似の担保権と解し、これに対して付与される破産手続における処遇を基本的に所有
権留保にも及ぼすとするのが事態に適合的だから。
ウ.今後の課題
①具体的実行方法如何……引上げ(≒取戻権)か動産競売か?
②物上代位の可否
③第三者所有権留保類型の取扱い如何……本研究は、あくまでも「売主所有権留保類型」(単
純型)を念頭においての考察であったが、そこで
の検討結果を「第三者所有権留保類型」にも推し
及ぼすことができるか?
以上
【付記】本報告をもとに、
『明治学院大学法学部創設50周年記念論文集』法学研究101号(2016年)
に、同名のタイトルで論文を発表する予定である。詳細は、同論文を参照されたい。
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