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乳幼児期・学童期の気になるくせ 子どもにみられる習癖
講義② 乳幼児期・学童期の気になるくせ 平成27年度 「子どもの心の診療医」養成研修会 乳幼児期・学童期の気になるくせ 習癖異常~なくて七癖~ 駒木野病院 児童精神科 笠原麻里 子どもにみられる習癖 • 体をいじる習癖 • • • • 指しゃぶり、爪かみ、舌なめずり、鼻・耳ほじり、目こすり、 咬む、引っかく、皮をむく、性器いじり、抜毛癖 体の動きを伴う習癖 頭打ち、首振り、身体ゆすり、常同的な自傷行為、チック 日常生活習慣に関する習癖 食事:異食、偏食、拒食、過食、反芻 睡眠:夜驚、悪夢、夢中遊行 排泄:遺尿、夜尿、遺糞 言語:吃音、緘黙 体質的要素の強い習癖 反復性の腹痛、便秘、下痢、嘔吐、乗り物酔い、頭痛、立ちくらみ、 咳そう、憤怒痙攣(泣き入りひきつけ) その他の習癖 虚言、盗み、金銭持ち出し、徘徊、嗜癖 − 20 − 症状をなくすことが治療目標? 甘え 爪噛み 不安 見た目がよく ない 爪が傷つく 自分慰め 歯が傷つく 真似 衝動性 子ども自身の内的 傷つきはどうなの か? 爪噛み、指しゃぶり • 指しゃぶり;吸いたい欲求の満足。胎児期から始まり、乳児期に ピーク、徐々に消退していく。幼児期以降も就寝前やリラックス した時間帯に残っていることがあるが、仲間関係の発展など の中で解消していく。スキンシップをはかったり、ぬいぐるみな どの移行対象を与えると解消しやすいことがある。あそびや 仲間へのかかわりへ向けるなど、発達促進的な関わりも有効。 • 爪かみ;かみたい欲求の満足。指しゃぶりより遅れて、5歳~10 歳前後に好発。不安場面や緊張場面でみられやすく、自虐性 や攻撃性の表出であると解釈されている。注目したり叱責せ ず、絵を描く、運動する、おしゃべりするなど健康的な発散へ とつなげていくとよい。 − 21 − 性器いじり • 乳幼児期に、性器を引っ張る、性器をこすりつける などの行為がみられることがある。幼児でも性器刺 激には快感を伴うので、ひとたび体験すると習慣 化しやすい。一般的には自然に消退していくが、発 達障害のある子どもでは自己刺激行動と考えて、 他の好ましい行動に置きかえることが必要となる 場合がある。 • 自慰行為を唐突に表してくる時や、収められない欲 求のように示す時など、性的虐待の可能性も考慮 する。 児童虐待の相談種別対応件数の年次推移 厚生労働省 平成年度 − 22 − 性的虐待とは • まだ大人の庇護下にあり、未熟な発達段階にある児童青年 期の子どもが、子どもには十分に理解できず、十分に説明さ れて同意することもあり得ない、家族の役割に関する社会 的禁忌に抵触するような性的活動に関与させられること。 R.グッドマン、S.スコット著;氏家武、原田譲、吉田敬子監訳: 必携児童精神医学 第23章子どものマルトリートメント.2005(2010訳) 疫学的情報 • 露出症の成人に遭遇するなど身体的接触を伴わない性的 虐待は、女性の約半数が小児期に経験しているという報告。 • 不適切な身体接触を伴う性的虐待は15~20%の女性が小児 期に経験している。 • 性器や肛門に挿入されたり、口を使う性行為は、約2%の女 性が被害に遭っている。 • 女子:男子比)地域調査2~3:1、臨床4~5:1 R.グッドマン、S.スコット著;氏家武、原田譲、吉田敬子監訳: 必携児童精神医学 第23章子どものマルトリートメント.2005(2010訳) − 23 − 子どもの性被害 • 大人の身勝手な行動としての結果 例)性的暴行 幼い子どもに性交やポルノを見せるなど 性的搾取・・・幼児ポルノの被写体など Pedophilia(小児性愛)の対象 近親姦 • 子どもの側の愛情希求と性的行動の混乱 例)ネグレクトされた子どもの近親姦 不適切養育の結果としての売春 身近な年長者や大人との誤った“同一化” • 子どもの集団内における性を介在させた仲間の力関係の試し、いじめ、再演 例)学校の仲間集団で生じる性的遊びのエスカレート 施設内で生じる性的虐待の再演 遺尿 Enuresis 遺糞 Encopresis • 明らかな器質的背景を持たない排泄行動の異常。通常 • • • • • は3~4歳に自律的排泄行動がほぼ可能となる。 夜尿症:夜間睡眠中に無意識的に排尿する 昼間遺尿症:昼間のおもらし 乳幼児期早期にみられる夜尿は生理的なもので、5歳以 降にみられる場合は病的とみなすのが妥当。 5歳男児で7%、女児3%でみられるが、年齢を追うごと に寛解し、18歳で男子1%、女子1%未満であるという。 遺糞症:自律排便機能が確立すべき年齢以降に、不随意 に便を漏らす状態。5歳以降昼間遺糞は1%程度で、夜尿 との相関がある。身体的要因、心因的要因、遺伝要因な どがからみあっている。成人まで持続することはまれ。 − 24 − 便もらしの種類 必携児童精神医学 第18章.2005 Constipation with overflow:体質的便秘や、トイレットトレー ニングでの意地の張り合いなどで便秘が始まり、大きな便 が詰まると排泄困難→子どもは排泄に伴う痛みを恐れあ きらめてしまい、更なる便の停留→直腸膨張→直腸無力 症が生じる。直腸の閉塞を取り除き、通常の排便習慣を取 り戻す。まず、子どもと家族の不安や怒りを和らげること が必要。前向きの期待をもった、穏やかな家族の雰囲気が、 回復には一番良い。ポイント表などを用いた行動療法的ア プローチは有効。可能な限り早期に高繊維食を用いる。必 要なら緩下剤。 2. トイレットトレーニングの失敗:原発性遺糞症。神経学的問題、 発達障害、知的障害との関連がある場合あり。様々な社会 的・家庭的逆境と関連し、無秩序、無頓着なトイレットトレー ニングを反映することが多い。 1. 便もらしの種類 必携児童精神医学 第18章.2005 3. トイレ恐怖:トイレに住んでいるおばけ、手が伸びてきてつ かまれるのではないかなどの恐怖や、学校のトイレを使う ことを嫌がる、授業中にトイレにいく許可をもらうのを嫌 がるなど。いじめられている子がいじめっ子にトイレで遭 遇することを恐れるかもしれない。 4. ストレス性の排便障害:排便自立後、心的外傷的入院体験、 著しい家族不和や崩壊、性的虐待のエピソードなどの顕著 なストレスの後に排便障害を発症することがある。ストレス を低減させ、子どもを安心させれば回復する。 5. 挑発性の便もらし:周りの人を苛立たせるように目論んで 行う遺糞。故意に風呂の中、家具の上に排便したり、壁に便 を塗り、自分の責任を否定する。子どもと周りの人との関 係性は機能不全に陥っており、子どものニーズに合ってい ない。専門家による支援が必要。 − 25 − チック Tics *DSM-5では、神経発達障害群に分類。 • 定義:チックとは、突発的、急速、反復性、非律動性の運動また は発声。 • 症状:運動チックと音声チックがあり、それぞれが単純チック • • • • • と複雑チックにわけられる。 単純性運動チック…まばたき、肩すくめ、顔しかめ 単純性音声チック…咳払い、鼻をくんくんさせる、鼻をならす、 ほえる 複雑性運動チック…顔の表情を変える、身繕いをする、跳ね る、地団太をふむ、物の匂いをかぐ、卑猥な身振り(汚行) 複雑性音声チック…状況に合わない語句の繰り返し、汚言 coprolalia、反復言語palilala 分類:一過性チック;12ヶ月以上続かないチック 慢性運動性あるいは音声チック障害;1年以上運動性あ るいは音声チックがあるが、両方ではない。 トゥレット障害 Tourette’s disorder DSM-5の診断基準 • 多彩な運動チック、および1つまたはそれ以上の音声チック の両方が、同時に存在するとは限らないが、疾患のある時期 に存在したことがある。 • チックの頻度は増減したことがあるが、最初にチックが始ま ってから1年以上は持続している。 • 発症は18歳以前である。 • この障害は、物質(例:コカイン)の生理学的作用または他の 医学的疾患(例:ハンチントン病、ウィルス性脳炎)によるもの ではない。 TSの経過:2歳から13歳の間に単純性チックとして発症、まず 運動チックから始まり、多様な音声チックがみられる。10歳過 ぎると汚言が出現してくることがある。 − 26 − チックの発症・経過・疫学 • チックの平均発症年齢は4~6歳、10代においてはチック症群 を新規に発症する率は減少する。成人においてチック症状の 新規発症は非常にまれ。 • 重症度のピークは10歳~12歳。青年期の間に重症度は減弱 する。 • 通常は、ストレス下もしくはリラックスしているときに悪化する。 • 有病率:たいていは一過性。TSは学童期の1000人に3~8人。 • 男:女=2~4 : 1 チックの併存症 • 強迫症状はTSの1/3~2/3に併存し、特に年長になる程多い。 • 不注意や多動(時々ADHDとみなされる)は25~50%に併存 し、典型的にはチックそのものが出現する前から症状を有し ている。 • ADHDの併存例では、併存のない場合よりも学習や行動の障 害を併存することが多い。 • その他、自傷行為、衝動性、睡眠の問題、不安障害、統合失調 症型人格、自閉スペクトラム症が併存すると指摘されている。 − 27 − チックの治療 • チックは子どもがわざと行っているものではなく、 素因も含め多要因で起こってくるものであり、親へ のガイダンスや環境調整を行う。 • 単純性チックであれば薬物療法は行わない場合が 多い。 • TSは、子どもが自分でコントロールできない症状で あり、医療的な関わりが必要。本人の社会的適応に も支障を生じる場合もしばしばあり、薬物療法が最 も確立された治療法。 チックの薬物療法 ①有効性が高い薬剤:ハロペリドール(副作用:錐体外路症状、 遅発性ジスキネジアなど)、ピモジド(副作用:致命的不整脈) ②やや効果が劣るが、①より副作用が少ない薬剤:リスペリド ン(副作用:錐体外路症状)、スルピリド(副作用:高プロラクチン 血症) ③副作用少ない薬剤:クロニジン(適応外使用) 随伴症状への治療 強迫症状に対してSSRIs 不注意や多動に対して中枢刺激薬(メチルフェニデート、アト モキセチン)を一般に用いるが、チックを悪化させる恐れ チックがPANDASの部分症状であれば血漿交換 − 28 − 抜毛症 Trichotillomania • 繰り返し自分自身の体毛を引き抜き、その結果体毛 を喪失するもの。抜毛症のある人は、体毛を抜くこ とを減らす、またはやめようと繰り返し試みている。 • 皮膚の疾患ではなく、抜かなくなれば毛髪ははえ てくる。青年と成人では、男:女=1:10であるが、小児 では男女同率に認める。 • 小児期では一過性であることが多いが、「退屈」 「手持ち無沙汰」などを解消すべくペットを飼う、母 親と2人だけの時間を持つなどで改善をみること がある。 皮膚むしり症 Excoriation disorder • 自身の皮膚を繰り返しむしる。顔、上肢、手をむしることが多 いが、多数の部位でむしる人が多い。むしるのは、健康な皮 膚、ささくれ、吹き出物や硬くなった角質、以前むしったあと の痂皮など。自分の指でむしることが多いが、ピンセット、針 など道具を用いることもある。 • むしる行為を何度もやめようとしている。 • 皮膚むしり行為によって、臨床的に意味のある苦痛(自己制 御不能の感覚、当惑、恥ずかしい思いを含む)や重要な領域 の機能障害を起こしている。 • 皮膚むしり行為は、思春期の始まりと同時かそれに続いて発 症する。にきびのような皮膚疾患とともに始まることが多い。 − 29 − 異食症 Pica • 少なくとも1カ月の間、1つあるいはそれ以上の非栄 養物質を持続的に摂取する。 • 幼児では絵の具、石鹸、紐、毛、布などで、年長児に なると動物の糞、砂、昆虫、葉、小石など。青年や大 人で粘土や土を食べることもある。 • 発達水準に不適切で(生後18~24カ月までは、非栄 養物質を口に運んだり食べたりすることは比較的 よくある)、文化的に認められる習慣でもない。 • 広汎性発達障害や精神遅滞の随伴症状である場合 がある。 反芻性障害 Rumination disorder • 少なくとも1ヶ月の間、食物の吐き戻しおよび噛み直しを 繰り返す。 • この行動は、消化器系または他の身体疾患(例:食堂逆 流)によるものや、神経性無食欲症、神経性大食症の経 過中におこるものとは区別する。 • 精神遅滞や広汎性発達障害の者に見られる場合、その症 状は臨床的関与を要するほど重症であるものをいう。 − 30 − 常同性運動障害 • 随意的、反復的、常同的、非機能的な運動であるが、神経疾 患の症状ではない。 • 非自傷行為:身体ゆすり、頭ゆすり、指をはじく、手叩きなど • 常同的な自傷行為:反復する頭叩き、顔叩き、目を突く、手・唇 や体の他の部分を噛むなど • 精神遅滞に伴うことが最も多い 参考図書 • 必携 児童精神医学 初めて学ぶ子どものこころの診療ハン ドブック Rグッドマン、Sスコット著、 氏家武、原田謙、吉田 敬子監訳 岩崎学術出版社 2010 • DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル 日本語版用語 監修 日本精神神経学会、高橋三郎、大野裕監訳 医学書院 2014 − 31 −