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「歴史的建築物における付帯要素の位置付け」 ―北陸・金沢の事例

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「歴史的建築物における付帯要素の位置付け」 ―北陸・金沢の事例
「歴史的建築物における付帯要素の位置付け」
―北陸・金沢の事例を通して―
わしだ
せいじ
建設工学専攻(修士課程)
503117 鷲田 誠史
環境計画研究
指導教員 赤堀
忍
はじめに
北陸有数の都市である金沢は全国的に文化都市として知ら
れており、藩政期からの伝統文化を育んできた都市である。
都市・建築においては、戦災や大きな災害を回避したことか
ら、歴史的建築物が広域的かつ多数現存している。このこと
(調査 2004・8)
は下の調査結果からも明らかである。
《張りぼて》
《看板》
2、付帯要素の発生原因
1、付加的屋外空間
《歴史的建築物=29.0%》
《戦前までの建物=38.1%》
都市は時代と共に変化し、建築はそこに住む生活者と共に
ある。過去のものを多く残しその存在そのものがアイデンテ
ィティである金沢では、過去と現在とが繰り広げる連続的か
つ有機的変化そのものが重要な課題となる。
そこで本研究ではその変化によって発生する付帯要素に着
目し、その機能と発生要因、付帯性の重要性を示すことで、
変化する都市における付帯要素の位置付けを明らかにする。
2、付加的緑
1、付帯要素の機能活動
1-1、住居的機能活動からの付帯要素
日常的に人の活動と関わっている点から、これらが立体的機
能活動といえる。
①
洗濯物干場としての機能活動がほとんどである付加的屋外
空間は、一年通しての降水量が高く、雪が降る金沢では特に
必要となってくるものである。都市住宅である町家のナカニ
ワは貴重な屋外空間だが、そのナカニワは金沢では雪が降る
と雪を下ろされ、洗濯物が干せる空間ではない。付加的屋外
空間のほとんどが接地性がないのはこの理由からだと考えら
れる。
また、藩政期が終わり明治に入っ
た頃の写真を見ると既に付加的屋外
空間は設置されていた。藩政期に発
生しなかった理由は、商人や職人が
身分の上である武家を見下ろすこと
をその当時の社会制度が許さなかっ
たから、と考えられる。低町家から
高町家と、正面二階壁が高くなる発 《市電開通前の写真》①
展が、武家没落によって引き起こされたことからも理解でき
る。つまり、町家建築の形態はもともと、この付加的屋外空
間の発生を孕んでいたと考えられる。
付加的屋外空間
→洗濯物干場
森の都としても有名な金沢は、武家屋敷が都市部に緑を豊
富に提供することで、緑が生活と密着していた。しかし、武
家没落と共にその武家屋敷は細分化され緑が失われた。
また、前記したナカニワの状況より金沢の町家建築は緑に
関して特に武家屋敷に依存していたと考えられる。付加的緑
は都市に貴重な緑を取り戻し、都市生活を豊かにするために
発生したと考えられる。
3、付加的駐車場
②
付加的緑
全国的に見られる都市部の駐車場問題は、金沢でも歴史的
建築物を大きく破壊している。雪が降る金沢では車のない生
活は考えられない。公共交通の未発達が主な原因と考えられ
る。
→緑化
③
付加的駐車場
《付加的屋外空間》
→駐車
4、象徴的付帯要素
1-1に比べて日常的な人の活動との関わりが小さく、これ
らが二次元的機能活動といえる。
張りぼて、看板の付帯要素
は目的とする機能活動が一致
することから、ここでは同じ
ものと考える。
近代化による交通網の発達
や生活スタイルの変化により、
藩政期までの地域完結社会が
崩壊した。都市の人の流れが 《顧客を相手にする町家商人》②
流動的なったことで、販売側は客の捉え方を顧客から不特定
多数へと変えた。そのことが商業活動において象徴性を求め
る原因となった。商業建築の内部変遷からもこのことが読み
取れる。
①
張りぼて
→ 象徴
3、歴史的意匠における付帯要素の可能性
②
看板
→
1、板葺き石置き屋根から瓦葺き屋根の変化から
《付加的駐車場空間》
《付加的緑》
1-2、商業的機能活動からの付帯要素
象徴(広告)
明治 37 年(1904)の石川県家屋制限令によって、板葺き石
置き屋根が禁止され、瓦葺きに改めるようにされた。現在で
はこの瓦屋根の景観は、金沢の和風を表現するものとして捉
えられている。
板葺き石置き屋根は板を定期的に取り替えることでその状
態を保っていた。その互換性の高さから島村昇氏(「金沢の町
家」の著者)は板葺き石置き屋根を装置類として扱っている。
この装置類は町家の意匠を決定付ける互換性の高いもので、
格子やウダツ、サガリなどもそれにあたる。この装置類はこ
こでの付帯要素と類似なものとして考えられ、装置類である
板葺き石置き屋根が近代的欲求によって変化したにも関わら
ず、和風を表現するものとしてある。このことは付帯要素で
も歴史意匠を表現できた事例として考えられる。
5、都市景観における各付帯要素の検討
1、付加的屋外空間
右の写真に見られるように付加
的屋外空間を街路に対して避ける
ことも一つの方法である。
しかし、それ自身が担う機能活
動は重要であるので、より意識的
にデザインする必要がある。その
開放的空間特性を生かすことで、
閉鎖化していく都市住宅と街路と
を接続させる可能性も考えられる。
《裏にまわり込む》
2、付加的緑
《板葺き石置き屋根》③
《瓦葺き屋根》
4、付帯性そのものについての可能性
《格子と緑のデザイン》
3、付加的駐車場
1、画一化する都市空間
用途地域指定により都市空間は画
一的になっている。調査の結果、用
途と建築形態は関わりが見えた。上
が住居機能の有無、下が主な屋根構
えである。住居機能を有さない建物
は陸屋根の傾向があり、配置では大
まかに、南西部とその他に分かれる。
この傾向は屋根構えだけでなく、主
要構造/屋根仕上げ/階数、でも見
られた。
また、用途による都市空間の均一
化と同時に、自動車による街路空間
の均一化も進行している。自動車が
なかった頃、縁日や町家の商い、井
戸端会議などが街路を昼間でも賑わ
かせていた。日本の都市の賑わいは
昔から、広場ではなく街路で起こっ
ており、これらの均一化は都市生活
の魅力を損なうものである。
街路に対して表現力がある付帯要
素に着目し、都市環境に彩りを与え
ることが出来れば、前記した均一化
の問題に対しての一つの解決案とな
る可能性がある。
金沢市のコンセプトである歴史
と自然から「格子」と「緑」が導
き出される。この二つのコンビネ
ーションによって表現された右の
デザインは、新しいが都市と関係
した良質なものといえる。
このデザインは金沢という都市
でもっと積極的に用いられるべき
手法といえるだろう。
駐車場問題はインフラと密接に
関わる問題なので、その解決は車
を都市部から締め出すというヘビ
ーな方法が一つあげられる。
しかし、その方法は土地所有権
の問題が複雑な金沢では現実性が
ない。付帯的要素に着目すること
で景観問題に対してヘビーではな
くライトに取り組むことが出来る。 《伝統を意識した意匠の車庫》
4、象徴的付帯要素
《住居機能の有無》
この付帯要素の発生要因は、不特定多数の客が商売の対象
であることが大きい。鎌倉などに見られる看板デザインその
ものに規制をかける方法があるが、それでは象徴物はなくな
らない。この付帯要素は象徴性そのものが主な機能となるの
で、存在の有無が都市景観にとって大きな影響になる。不特
定手数ではなく「特定の顧客」をターゲットとする商売を歴
史的建築物に誘致することで、象徴的付帯要素の発生を防ぐ
ことが出来るのではないだろうか。
結論
《主な屋根構え》
2、自発性の高い建築活動
共同建築の定義を「二、三の知識人や専門家によってでは
なく、伝統を共有し経験の共同性に基づいて働く、全住民の
自発的継続的な作業によって生み出された共同芸術である。」
とピエトロ・ベルキスは言う。この、全住民の自発的継続的
な作業、が付帯要素に当てはまるのではないだろうか。
金沢では自治体の積極的な活
動によってまちづくり関連の条
例だけでも17もある。しかし
良質な町家が空家として放置さ
れたり、人手に渡り壊されてい
る。土地私有が強い日本では特
に、トップダウン的システムだ
けでは歴史的建築物の保全は難
《良質な町家が空家に》
しい。
既存する建築物を活用していくためにはやはり付帯要素に
着目する必要がある。都市活動の視点から考えると、残され
たものではなく、付帯要素が主役になることが考えられる。
現在金沢に見られる歴史的建築物における付帯要素の機能、
発生要因、その付帯性の可能性を明らかにしてきた。付帯要
素の発生では、時間では「過去/現在」
、場所では「建築/都
市」、主体として「専門家/生活者」、活動として「形態/機
能」、といったそれぞれの葛藤が大きなエネルギーとなってい
た。
現在の金沢ではそれぞれの二元論における変化が、都市に
おけるダイナミズムになっている。区画的で合理主義が先行
した今までの都市計画では視点が静的で、歴史の連続性を有
する金沢では上手く機能しない。このままだと観光客のため
だけのものになってしまい、金沢の都市景観は張りぼてにな
ってしまう。多様で有機的な回答が求められている。
この様な問題から、付帯要素をそれぞれの二元論における
「グレイゾーン」として位置づけることは、都市を動的に捉
えることになるのではないだろうか。歴史的建築物をここま
で有した都市は全国的にも珍しい。凍結的保存だけでは歴史
的建築物は現在の足かせになってしまう。蓄積のある金沢が
新しい因子である付帯要素を積極的に取り込むことで、都市
はアーカイブとしての新しい可能性を見出すことが出来るの
ではないだろうか。
<参考文献>
「金沢の町家」 島村昇 鹿島出版会 (③を参照)
「繁華街の近代」 初田亨 東京大学出版会 (②を参照)
「金沢市史」 金沢市史編さん委員会 金沢市
「目で見る 金沢の 100 年」 吉本至など 郷土出版会(①を参照)
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